(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】酸化珪素膜形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/316 20060101AFI20230309BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
H01L21/316 X
C23C16/42
(21)【出願番号】P 2019085520
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-02-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人応用物理学会 2018年第79回応用物理学会秋季学術講演会 開催日:2018年9月18日~21日 発表日:2018年9月21日 開催場所:名古屋国際会議場(愛知県名古屋市熱田区熱田西町1番1号) SiBr▲4▼を用いた低温ALDによるSiO▲2▼成膜
(73)【特許権者】
【識別番号】591006003
【氏名又は名称】株式会社トリケミカル研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100201341
【氏名又は名称】畠山 順一
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【氏名又は名称】宇高 克己
(74)【代理人】
【識別番号】230116296
【氏名又は名称】薄葉 健司
(72)【発明者】
【氏名】今瀬 章公
(72)【発明者】
【氏名】松本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】徐 永華
(72)【発明者】
【氏名】柴田 雅仁
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-219500(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193538(WO,A1)
【文献】特開2016-076621(JP,A)
【文献】特開2008-141191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
C23C 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に酸化珪素膜を形成する方法であって、
成膜装置内にSiBr
4
とC
5H
5N
とが供給され
る工程Aと、
成膜装置内にH
2
OとC
5
H
5
Nとが供給される工程B
とを有し、
前記工程Aと前記工程Bとが交互に繰り返される
酸化珪素膜形成方法。
【請求項2】
成膜装置内が脱気される工程Cを有し、
前記工程Aと前記工程Bとの間に前記工程Cが有る
請求項1の酸化珪素膜形成方法。
【請求項3】
前記SiBr
4による暴露量が0.3~100torr・sec、前記SiBr
4と共に供給される前記C
5H
5Nによる暴露量が0.3~100torr・secであり、
前記H
2Oによる暴露量が0.3~50torr・sec、前記H
2Oと共に供給される前記C
5H
5Nによる暴露量が0.3~50torr・secである
請求項1又は請求項2の酸化珪素膜形成方法。
【請求項4】
前記基体は80~200℃に保持される
請求項1~請求項3いずれかの酸化珪素膜形成方法。
【請求項5】
酸化珪素膜形成はALD法が用いられる
請求項1~請求項4いずれかの酸化珪素膜形成方法。
【請求項6】
形成された酸化珪素膜の絶縁耐力が4MV/cm以上である
請求項1~請求項5いずれかの酸化珪素膜形成方法。
【請求項7】
形成された酸化珪素膜の密度が2g/cm
3以上である
請求項1~請求項6いずれかの酸化珪素膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化珪素膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子における絶縁膜として酸化珪素膜が知られている。酸化珪素膜は薄膜形成技術(例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)やALD(Atomic Layer Deposition))によって形成されている。
【0003】
例えば、BTBAS(ビスターシャリーブチルアミノシラン:SiH2[NH(C4H9)]2)とO3(酸化剤)とを用いたALD法によって二酸化珪素膜が形成されている。BDEAS(ビス(ジエチルアミノ)シラン:SiH2(NEt2)2)とO3(酸化剤)とを用いたALD法によって二酸化珪素膜が形成されている。3DMAS(トリスジメチルアミノシラン:SiH[N(CH3)2]3)とO3(酸化剤)とを用いたALD法によって二酸化珪素膜が形成されている。
【0004】
JP2015-12131Aは、SiCl4とO3又はO2プラズマとを用いたCVD法によって二酸化珪素膜を形成する技術を提案している。JP2015-12131Aには、SiCl4の代わりにSiBr4,SiI4を利用し、O3又はO2プラズマでCVD法により二酸化珪素膜を形成するのも良い旨の一般記載が有る。しかし、SiBr4,SiI4を用いた実施例の記載はない。
【0005】
U.S.Patent 6,818,250は、SiCl4とH2OとNH3とを用いたCVD法によって二酸化珪素膜を形成する技術を提案している。
【0006】
U.S.Patent 6,992,019は、Si2Cl6とH2OとC5H5Nとを用いたALD法によって二酸化珪素膜を形成する技術を提案している。
【0007】
U.S.Patent 7,749,574は、シリコン前駆体(Si2Cl6,SiCl4等)とH2OとC5H5Nとを用いたALD法によって二酸化珪素膜を形成する技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】JP2015-12131A
【文献】U.S.Patent 6,818,250
【文献】U.S.Patent 6,992,019
【文献】U.S.Patent 7,749,574
【非特許文献】
【0009】
【文献】J. W. Klaus and S. M. George, J. Electrochem.Soc. 147 (7), 2658-2664 (2000)
【文献】Y. Du, X. Du, S. M. George, J. Phys. Chem. C 111, 219-226(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記O3(O2)を用いた二酸化珪素膜形成技術では、目的とする二酸化珪素膜を形成する際に、同一基板上に存在する素子を構成する材料(例えば、金属膜、Si,Ge等のIV族半導体膜、GaAsなどのIII―V族半導体膜、窒化物膜、カルコゲナイト膜、SiとCとを含む膜、HfOxなどの意図的に酸化数を制御した非量論組成の酸化物膜、有機物からなる膜など)が、酸化剤やプラズマに暴露される事で、ダメージを受ける問題がある。従来の技術では、保護すべき個所に予め保護膜を形成することで、酸化剤やプラズマの暴露によるダメージを防止することが一般的であった。しかし、近年の3次元立体的構造の半導体製品の製造工程においては、保護膜の形成によって、酸化剤やプラズマによるダメージを防止するという従来の方法を用いることが困難となる場合が現れた。
【0011】
そのような場合においても、材料(基板上に形成された素子の種々の構成材料)の酸化剤やプラズマの暴露によるダメージの低減が求められている。
【0012】
上記課題を解決する為には、O3又はO2プラズマ等の比較的酸化力が強い酸化剤を用いず、酸化力の比較的弱いH2OをO源として用い、一般的な半導体用成膜装置で実施される温度範囲(例えば500℃以下)での二酸化珪素膜成膜技術が求められる。
【0013】
不純物を含まず、高品質な膜を効率良く形成する為には、不純物の除外を促進する為に、ある温度以上での二酸化珪素膜成膜技術が求められる。
【0014】
膜厚の均一性や凹凸面に対する良好な被覆性を得る為にはALD法が求められる
成膜技術が求められ。二酸化珪素膜成膜技術として、O源としてH2Oを用いるALD法として、Lwis塩基を触媒として利用する方法がある。(非特許文献1,2)
【0015】
例えば、SiCl4(Si原料)、H2O(O源)、NH3(Lwis塩基(触媒))を用いる場合、ALDの各工程は次のように説明される。
【0016】
第1に、基体表面にSi-OH*(*は表面種を表す)が存在し、SiCl4とNH3とを暴露することで、以下の(式1)の様な反応が進む。
(式1)
Si-OH*+SiCl4+NH3→Si-O-Si-Cl3
*+HCl+NH3
【0017】
第2に、基体表面および成膜装置内から、SiCl4、Lwis塩基、及び生成したHClを、除外(パージ)する工程がある。
【0018】
第3に、基体表面上のSi-O-Si-Cl3
*に、H2OとNH3とを暴露することで、以下の(式2)の様な反応が進む。
(式2)
Si-O-Si-Cl3
*+H2O+NH3→Si-O-Si-OH*+HCl+NH3
【0019】
第4に、基体表面および成膜装置内から、H2O、Lwis塩基、HClを、除外(パージ)する工程がある。前記第1~第4の工程を順に繰り返すことで酸化珪素膜が基体上に形成される。
【0020】
前記特許文献2,3,4は、O3,O2プラズマ等(酸化力が強い酸化剤)を用いない成膜技術を提案している。前記特許文献2,3,4はH2O(酸化力が弱い酸化剤)を用いた成膜技術を提案している。
【0021】
しかしながら、前記特許文献2,3,4に記載の二酸化珪素膜成膜方法は本発明の解決すべき課題を解決できるものではなかった。
【0022】
例えば、SiCl4(Si源)とH2O(O源:酸化剤)とNH3(触媒)とを用いたALD法は、低温での成膜を可能とした。しかしながら、成膜温度が十分な成膜速度を得る為には、基体の温度を75℃以下とする必要が有った。このような低い温度では、膜中に塩などの不純物が残留し易く、膜の品質が低下した。
【0023】
Si原料としてSiCl4の代わりにヘキサクロロジシラン(Si2Cl6)が用いられた例(U.S.Patent 6,992,019)では、ALDによる成膜直後での二酸化珪素膜の緻密性と絶縁性とが十分でなかった。この為、後処理として、O2存在化での高温(300℃~700℃)での熱アニーリング、若しくはO2プラズマ処理、又はO3トリートメントが必要であった。この為、本発明の課題の解決には適用出来なかった。
【0024】
触媒としてNH3の代わりにピリジン(C5H5N)が用いられた例(U.S.Patent 7,749,574)においても、膜の品質が十分ではなかった。
【0025】
要するに、Si源として塩化珪素が、酸化剤(O源)としてH2Oのみが用いられた何れの従来技術も、膜品質、ダメージ低減、及び生産性の全ての要件を満足する事は出来なかった。
【0026】
本発明が解決しようとする課題は、前記問題点を解決することである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、O3、O2プラズマを用いない(実質上、用いない)で、比較的低温な条件下で酸化珪素膜を形成できる技術を提供することである。強力な酸化剤(O3,O2プラズマ等)を実質上用いず、成膜時の温度が比較的低温である要件は、二酸化珪素膜成膜時に、基板上に形成されている素子を構成する材料のダメージ(酸化や熱によって受けるダメージ)が小さい事を理解できるであろう。
【0027】
本発明が解決しようとする課題は、高品質(高密度・高絶縁耐性)の酸化珪素膜を形成できる技術を提供することである。高密度・高絶縁耐性の酸化珪素膜は、半導体素子においては、非常に重要な要件である。
【0028】
本発明は斯かる高絶縁耐性の要望を満足する。本発明が解決しようとする課題は、高品質の酸化珪素膜を効率良く形成できる技術を提供することである。高品質の酸化珪素膜が効率良く形成できると言う事は生産性が高い事を意味する。低コストで高品質の酸化珪素膜が得られると言う事である。酸化珪素膜の形成段階において、基板上に形成されている素子を構成する材料に与えるダメージを低減し得る事は、一連の半導体製品の製造工程の中で、ダメージ(酸化や高熱によるダメージ)を受け易い素子材料や、保護膜の形成が困難な立体構造の場合など、従来の酸化珪素膜の形成技術を用いることが困難で有った場合においても、本発明を適用することが出来る事を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
前記課題を解決する為の研究が、本発明者によって、鋭意、推し進められて行った。その結果、酸化珪素のO源としてはH2Oを用いることが最適な事が判って来た。H2Oは従来でも酸化剤として用いられて来た。H2Oは強力な酸化剤ではない。従って、H2Oが用いられても、H2Oは半導体製品の各素子を構成する各種材料に対して与えるダメージが少ない。
【0030】
ところで、残留不純物が少なく緻密性の高い酸化珪素膜を得る為には、基体の温度を約80℃以上とする事が重要である事が判って来た。
【0031】
本発明者は、酸化珪素のO源としてはH2Oを採用した場合、酸化珪素のSi源としては何が好適かを検討して行った。従来では、主に、塩化珪素系の化合物が提案されて来た。U.S.Patent 6,818,250はSiX4(Xはハロゲン)を提案している。しかし、前記U.S.Patent 6,818,250が具体的に例示しているハロゲンはClのみである。Brは具体的には開示されていない。前記U.S.Patent 6,818,250が触媒として例示しているのはアンモニア(NH3)に過ぎない。Lwis塩基(触媒)の他の具体的な開示は無い。前記JP2015-12131AにはSiBr4の一般記載がある。しかし、JP2015-12131AはH2Oを用いない。JP2015-12131AはO2(又はO3)を用いる手法に過ぎない。従って、JP2015-12131AにSiBr4の一般記載が有るにしても、その前提が異なる故に、即ち、O2(又はO3)を用いない場合、かつ、H2Oを用いる場合に、SiBr4が好適か否かは判らない。本発明者は、様々な実験を繰り返して行く中に、酸化珪素のO源としてH2Oを用いた場合に、酸化珪素のSi源としてはSiBr4が好適な事を見出すに至った。
【0032】
しかし、H2OとSiBr4とが用いられたならば、高性能な酸化珪素膜が効率良く得られるかと言うと、そうでもなかった。
【0033】
更なる研究開発が進められて行った結果、触媒(成膜の為の触媒)としてアンモニアを用いた場合、アンモニアは、SiBr4と反応する為、不適当な事が判って来た。更なる検討が進められて行った結果、ピリジンが有効である事が判って来た。
【0034】
すなわち、成膜時に材料(基体となる基板上に在る素子の種々の構成材料)のダメージが防止され、高密度・高絶縁耐性で高品質な酸化珪素膜を、生産性良く形成する為には、SiBr4とH2OとC5H5N(ピリジン)とを用いる事が必須である旨の知見を得るに至った。
【0035】
本発明は前記知見を基にして達成された。
【0036】
本発明は、
基体上に酸化珪素膜を形成する方法であって、
成膜装置内にSiBrnX4-n(nは1~4の整数、XはBr以外のハロゲン),H2O,C5H5Nが供給され、
成膜装置内の基体上に酸化珪素膜が形成される酸化珪素膜形成方法を提案する。
【0037】
本発明は、上記酸化珪素膜形成方法であって、好ましくは、成膜装置内に前記SiBrnX4-nとC5H5Nとが供給される工程Aと、成膜装置内にH2OとC5H5Nとが供給される工程Bとを有する酸化珪素膜形成方法を提案する。
【0038】
本発明は、上記酸化珪素膜形成方法であって、好ましくは、成膜装置内に前記SiBrnX4-nとC5H5Nとが供給される工程Aと、成膜装置内にH2OとC5H5Nとが供給される工程Bとを有し、前記工程Aと前記工程Bとが交互に繰り返される酸化珪素膜形成方法を提案する。
【0039】
本発明は、上記酸化珪素膜形成方法であって、好ましくは、成膜装置内が脱気される工程Cを有し、前記工程Aと前記工程Bとが交互に繰り返され、前記工程Aと前記工程Bとの間に前記工程Cが有る酸化珪素膜形成方法を提案する。
【0040】
本発明は、上記酸化珪素膜形成方法であって、好ましくは、成膜装置内に供給される前記SiBrnX4-nにより基体が暴露される暴露量が0.3~100torr・sec、成膜装置内に供給されるH2Oによる暴露量は0.3~50torr・sec、前記SiBrnX4-nと同時に成膜装置内に供給されるC5H5Nは0.3~100torr・sec、H2Oと同時に成膜装置内に供給されるC5H5Nは0.3~50torr・secである酸化珪素膜形成方法を提案する。
【0041】
本発明は、上記酸化珪素膜形成方法であって、好ましくは、酸化珪素膜形成時における基体は80℃以上に保持される酸化珪素膜形成方法を提案する。
【0042】
本発明は、上記酸化珪素膜形成方法であって、好ましくは、酸化珪素膜形成時における基体は200℃以下に保持される酸化珪素膜形成方法を提案する。
【0043】
本発明は、上記酸化珪素膜形成方法であって、好ましくは、ALD法が用いられる酸化珪素膜形成方法を提案する。
【0044】
本発明は、上記酸化珪素膜形成方法であって、好ましくは、形成された酸化珪素膜の絶縁耐力が4MV/cm以上である酸化珪素膜形成方法を提案する。
【0045】
本発明は、上記酸化珪素膜形成方法であって、好ましくは、形成された酸化珪素膜の密度が2g/cm3以上である酸化珪素膜形成方法を提案する。
【発明の効果】
【0046】
高品質(高密度・高絶縁耐性)の酸化珪素膜が効率良く得られた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】SiBr
4暴露量と成膜速度との関係を示すグラフ
【
図2】H
2O暴露量と成膜速度との関係を示すグラフ
【
図4】基体温度と二酸化珪素膜密度との関係を示すグラフ
【
図5】二酸化珪素膜の赤外線吸収スペクトルを示すグラフ
【
図8】基体温度と絶縁破壊電界との関係を示すグラフ
【
図9】NH
3を用いて形成された膜の赤外線吸収スペクトルを示すグラフ
【
図10】SiCl
4を用いた場合の基体温度と成膜速度との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態が説明される。
本発明は酸化珪素(SiOx(xは、例えば1から2の数値))膜形成方法である。例えば、二酸化珪素(SiO2)膜形成方法である。前記方法は基体上に前記酸化珪素膜を形成する方法である。前記方法は、好ましくは、ALD法を用いた方法である。薄膜形成技術にはCVD法も知られている。しかしながら、本発明にあっては、好ましくは、ALD法を用いた成膜方法である。その理由は次の通りである。CVD法が用いられた場合、副生成物であるピリジニウム塩類や、物理吸着したH2Oが十分に除外されないまま成膜が進行する。この為、酸化珪素膜の緻密性や均質性が低下する恐れが有った。
【0049】
前記方法は成膜装置内にSiBrnX4-n(nは1~4の整数、XはBr以外のハロゲン:Si源)を供給する。前記方法は成膜装置内にH2Oを供給する。前記方法は成膜装置内にC5H5N(ピリジン)を供給する。前記SiBrnX4-n,H2O,C5H5Nの供給は、好ましくは、次のように行われる。成膜装置内に前記SiBrnX4-nとC5H5Nとが供給される工程Aと、成膜装置内にH2OとC5H5Nとが供給される工程Bとを有する。好ましくは、成膜装置内に前記SiBrnX4-nとC5H5Nとが供給される工程Aと、成膜装置内にH2OとC5H5Nとが供給される工程Bとを有し、前記工程Aと前記工程Bとが交互に繰り返される。前記工程Aと前記工程Bとは、どちらが先でも良い。例えば、前記工程Aの後に前記工程Bが有っても良く、前記工程Bの後に前記工程Aが有っても良い。更に好ましくは、成膜装置内が脱気される工程Cを有し、前記工程Aと前記工程Bとが交互に繰り返され、前記工程Aと前記工程Bとの間に前記工程Cを有する方法である。具体的には、前記工程A→前記工程C→前記工程B→前記工程C→前記工程A→前記工程C→前記工程B→…である。或いは、前記工程B→前記工程C→前記工程A→前記工程C→前記工程B→前記工程C→前記工程A→…である。斯かる方法を採用した理由は次の理由に基づく。例えば、同時(一度)に全ての成分(前記SiBrnX4-n,H2O,C5H5N)が供給されて成膜が行われた場合、成膜装置内の気相中において、前記SiBrnX4-nとH2Oが反応する恐れが有る。CVDとなる恐れが有る。前記SiBrnX4-nの中でも、最も、好ましい酸化珪素膜が得られたのは、SiBr4であった。従って、SiBr4が用いられるのが好ましかった。
【0050】
成膜装置内に供給される前記SiBrnX4-nの基体に対する暴露量[torr・sec]、前記C5H5Nの暴露量は、好ましくは、0.3torr・sec以上であった。更に好ましくは1torr・sec以上であった。もっと好ましくは10torr・sec以上であった。好ましくは100torr・sec以下であった。更に好ましくは50torr・sec以下であった。もっと好ましくは20torr・sec以下であった。前記SiBrnX4-nやC5H5Nの暴露量が前記値を大きく越えると、前記SiBrnX4-nや前記C5H5Nの使用量が過剰となり、無駄が発生し、処理時間が長くなる。生産性が低下する。前記SiBrnX4-nやC5H5Nの暴露量が前記値より小さ過ぎると、前記SiBrnX4-nやC5H5Nの基体に対する吸着量不足により、成膜速度が著しく低下する。生産性が悪く、又、必要とされる膜が得られ難くなる。
【0051】
成膜装置内に供給されるH2Oの基体に対する暴露量[torr・sec]、C5H5Nの暴露量は、好ましくは、0.3torr・sec以上であった。更に好ましくは1torr・sec以上であった。もっと好ましくは2torr・sec以上であった。好ましくは100torr・sec以下であった。更に好ましくは50torr・sec以下であった。もっと好ましくは10torr・sec以下であった。前記H2OとC5H5Nの暴露量が前記値を越えて大きくなり過ぎると、H2OやC5H5Nの使用量が過剰となり、無駄が発生し、処理時間が長くなる。生産性が低下する。H2OやC5H5Nの暴露量が前記値より小さ過ぎると、H2OやC5H5Nの基体に対する吸着量不足により、成膜速度が著しく低下する。生産性が悪く、又、必要とされる質の膜が得られ難くなる。
【0052】
酸化珪素膜形成時における基体は、好ましくは、80℃以上に保持される。
より好ましくは90℃以上であった。更に好ましくは100℃以上であった。もっと好ましくは110℃以上であった。好ましくは200℃以下であった。更に好ましくは180℃以下であった。もっと好ましくは160℃以下であった。前記温度が高くなり過ぎると、成膜速度が著しく低下する。前記温度が低くなり過ぎると、不純物が酸化珪素膜に残留し、膜質が悪化する。
【0053】
上記のようにして得られた酸化珪素膜(例えば、二酸化珪素膜)は、高品質(高密度・高絶縁耐性)であった。密度は、例えば2.0~2.2g/cm3であった。絶縁耐力は、例えば4~12MV/cmであった。成膜速度は、例えば0.02~0.5nm/cycleであった。
【0054】
以下、具体的な実施例が挙げられる。但し、本発明は以下の実施例にのみ限定されない。本発明の特長が大きく損なわれない限り、各種の変形例や応用例も本発明に含まれる。本発明は、二酸化珪素膜が形成される際の化学反応に関与する物質として、基本的に、前記SiBrnX4-n,H2O,C5H5N以外の化合物を用いない。しかし、基体上の種々の素子構成材料に与えるダメージが許容できる範囲であれば、少々の塩化珪素やO3,O2が用いられても差し支えない。触媒として、ピリジン以外にも、塩基性の複素環式芳香族化合物(Nを環構造中に含む。N-H結合が無い。)が用いられても良い。各物質を輸送・排出する際に用いる不活性ガスとして、実施例では窒素ガスが用いられているが、Ar,Heなどの希ガス類も選択可能である。以下の実施例では、二酸化珪素膜が形成される基体として、単結晶Siウエハが用いられている。しかし、二酸化珪素膜が形成される際の反応式を鑑みるに、基体表面にヒドロキシル基(-OH)が有る、又はこれを付加した物質に対して、広く実施が可能であると考えられる。
【実施例1】
【0055】
本実施例では、二酸化珪素膜を形成する為、Si元素供給原料としてSiBr4が選択され、O元素供給原料(酸化剤)としてH2Oが選択され、反応促進剤(触媒)としてピリジン(C5H5N)が選択された。
【0056】
成膜室を具備する成膜装置が用いられた。前記成膜室は室内と室外とが隔絶された気密構造である。前記装置は酸化珪素膜が形成される基体を保持する台を具備する。前記基体を所望の温度に加熱保持するヒーターと温度計とを具備する。原料ガスや不活性ガスを前記成膜室内に導入する為のガス配管を具備する。ガス流量を制御する制御装置を具備する。前記配管(流路)を解放・封止する弁を具備する。成膜室内のガスを排気する管路を具備する。真空ポンプを具備する。排気されるガス中の活性種を捕集する捕集装置を具備する。前記管路を解放・封止する為の弁を具備する。成膜室内のガスの圧力を測定する圧力計を具備する。成膜室の壁面の温度を所望の温度に加熱保持するヒーターと温度計とを具備する。
【0057】
前記成膜室内に保持された基体が110℃に加熱保持された。前記成膜室内の気体が真空ポンプにより排気流路経由で排出された。前記成膜室内が真空状態になった。
【0058】
成膜室内の基体をSiBr4及びC5H5Nに暴露する工程(工程A)として、排気流路を弁により閉塞すると共に、気化したSiBr4と気化したC5H5Nと窒素(N2)ガスとを成膜室内に導入した。前記基体はSiBr4とC5H5Nとに曝された。SiBr4及びC5H5Nの暴露量は、各々、0.3~100torr・secであった。暴露は0.1秒以上で100秒未満であった。
【0059】
次に、前記成膜室内に残留するガス種を除外する工程(工程C)として、成膜室内を窒素でパージした。この後、真空ポンプにより、成膜室内が0.1Torr以下の真空状態に保持された。
【0060】
この後、成膜室内の基体をH2O及びC5H5Nに暴露する工程(工程B)として、排気流路を弁により閉塞すると共に、気化した水(H2O)と気化したC5H5Nと窒素(N2)ガスとを成膜室内に導入した。前記基体がH2OとC5H5Nとに曝された。H2O及びC5H5Nの暴露量は、各々、2~10torr・secであった。暴露は0.1秒以上で100秒未満であった。
【0061】
この後、成膜室内に残留するガス種を除外する工程(工程C)が行われた。
【0062】
前記工程A、前記工程C、前記工程B、前記工程Cの四つの工程で一つのサイクルとし、前記サイクルが10~300回繰り返された。
【0063】
前記方法により基体上に形成された二酸化珪素膜の膜厚をサイクル数で除した値は成膜速度[nm/cycle]である。工程AにおけるSiBr
4の成膜室内の暴露量[torr・sec]と成膜速度との関係が
図1に示される。
【0064】
SiBr4の暴露量が0.4torr・secの場合は、成膜速度が0.16nm/cycleであった。SiBr4の暴露量が6torr・secの場合は、成膜速度が0.25nm/cycleであった。SiBr4の暴露量が10torr・secの場合は、成膜速度が0.32nm/cycleであった。SiBr4の暴露量15~100torr・secの範囲において、成膜速度が0.32~0.42nm/cycleであった。前記暴露条件の何れにおいても、均一で高品質な二酸化珪素膜が得られた。
【実施例2】
【0065】
前記成膜装置が用いられた。前記基体の温度は110℃に保持された。前記実施例1の前記工程Aにおける前記SiBr4及びピリジンの暴露量を10~20torr・secとした。前記工程BにおけるH2O及びピリジンの暴露量を0.3~50torr・secとした。工程Cは前記工程Cと内容が同じである。前記実施例1と同様なサイクル(工程A→工程C→工程B→工程C)が10~300回繰り返された。基体上に二酸化珪素膜が形成された。
【0066】
前記方法により基体上に形成された二酸化珪素膜の膜厚をサイクル数で除した値は成膜速度[nm/cycle]である。工程BにおけるH
2Oの暴露量と成膜速度との関係が
図2に示される。
【0067】
H2Oの暴露量が0.3torr・secの場合は、成膜速度が0.2nm/cycleであった。H2Oの暴露量が2torr・secの場合は、成膜速度が0.3nm/cycleであった。H2Oの暴露量が4torr・secの場合は、成膜速度が0.33nm/cycleであった。H2Oの暴露量が7torr・secの場合は、成膜速度が0.41nm/cycleであった。H2Oの暴露量が25~50torr・secの範囲において、成膜速度が0.42~0.48nm/cycleであった。前記暴露条件の何れにおいても、均一で高品質な二酸化珪素膜が得られた。
【実施例3】
【0068】
前記成膜装置が用いられた。前記基体の温度は70℃,90℃,110℃,130℃,150℃,170℃,200℃に保持された。前記実施例1の前記工程Aにおける前記SiBr
4及びピリジンの暴露量を10~20torr・secとした。前記工程BにおけるH
2O及びピリジンの暴露量を2~10torr・secとした。工程Cは前記工程Cと内容が同じである。前記実施例1と同様なサイクル(工程A→工程C→工程B→工程C)が10~300回繰り返された。基体上に二酸化珪素膜が形成された。前記方法により基体上に形成された二酸化珪素膜の膜厚をサイクル数で除した値は成膜速度[nm/cycle]である。基体温度と成膜速度との関係が
図3に示される。
【0069】
基体の温度が70℃の場合は、成膜速度が0.68nm/cycleであった。二酸化珪素膜の密度は1.8g/cm
3であった。基体の温度が90℃の場合は、成膜速度が0.49nm/cycleであった。二酸化珪素膜の密度は2.0g/cm
3であった。基体の温度が110℃の場合は、成膜速度が0.34nm/cycleであった。二酸化珪素膜の密度は2.1g/cm
3であった。基体の温度が130℃の場合は、成膜速度が0.25nm/cycleであった。二酸化珪素膜の密度は2.2g/cm
3であった。基体の温度が150℃の場合は、成膜速度が0.15nm/cycleであった。二酸化珪素膜の密度は2.1g/cm
3であった。基体の温度が170℃の場合は、成膜速度が0.08nm/cycleであった。二酸化珪素膜の密度は2.1g/cm
3であった。基体の温度が200℃の場合は、成膜速度が0.02nm/cycleであった。二酸化珪素膜の密度は2.1g/cm
3であった。基体温度と二酸化珪素膜の密度との関係が
図4に示される。
【0070】
種々の基体温度で形成された二酸化珪素膜の赤外線吸収スペクトルを測定したところ、SiO
2に由来する吸収ピークが見られた。130℃で成膜された二酸化珪素膜の赤外線吸収スペクトルを
図5に示す。
【実施例4】
【0071】
図6(模式図)に示されるSi基板1、二酸化珪素膜2、金属電極3,5の試料が、以下の手順で、作製された。
【0072】
前記成膜装置が用いられた。前記基体としてp型Si基板1が用いられた。前記Si基板1の表面に、実施例3に記載の成膜方法により、20~100nm厚の二酸化珪素膜2が形成された。前記Si基板1上の二酸化珪素膜2の表面に、電子ビーム真空蒸着法により、Al蒸着膜製の円形電極3が形成された。二酸化珪素膜2とは反対側のSi基板1の裏面に、電子ビーム真空蒸着法により、Ti膜4が形成された。前記Ti膜4の表面に、電子ビーム真空蒸着法により、Au電極5が形成された。
【0073】
汎用パラメータアナライザに接続され2本のプローブ電極が、前記Al電極3とAu電極5に接続された。Au電極5に接続されたプローブの電位を0Vとし、Al電極3に接続されたプローブの電位を0Vから1V/秒の変化率で連続的に変化させた。その際に印加された電位と、2本の電極間に流れた電流値とが測定された。
【0074】
前記Al電極3の面積で前記電流値(絶対値)を除した値は電流密度[A/cm
2]である。2本のプローブ電極間の電位差を前記二酸化珪素膜2の膜厚で除した値は電界強度[MV/cm]である。I-V曲線が得られた。成膜時のSi基板1の温度が70℃,90℃,110℃,130℃で成膜されたSiO膜で測定されたI-V曲線が
図7に示される。
図7において、電流密度が1mA/cm
2未満から1mA/cm
2以上になる瞬間における電界強度が二酸化珪素膜の絶縁破壊電界[MV/cm]である。70℃で成膜された二酸化珪素膜の絶縁破壊電界は最大0.4MV/cmであった。90℃で成膜された二酸化珪素膜の絶縁破壊電界は最大4.4MV/cmであった。110℃で成膜された二酸化珪素膜の絶縁破壊電界は最大8MV/cmであった。130℃で成膜された二酸化珪素膜の絶縁破壊電界は最大11.8MV/cmであった。150℃で成膜された二酸化珪素膜の絶縁破壊電界は最大11MV/cmであった。170℃で成膜された二酸化珪素膜の絶縁破壊電界は最大12.1MV/cmであった。200℃で成膜された二酸化珪素膜の絶縁破壊電界は最大12MV/cmであった。(
図8参照)
【比較例1】
【0075】
前記成膜装置が用いられた。
前記成膜室に保持された基体は110℃に保持された。
成膜室内は真空状態に保持された。
【0076】
成膜室内の基体をSiBr4及びアンモニア(NH3:触媒)に暴露する工程(工程A’)として、気化したSiBr4とNH3と窒素(N2)ガスを成膜室内に導入した。SiBr4の暴露量及びNH3の暴露量は10~20torr・secであった。
【0077】
成膜室内に残留するガス種を除外する工程(工程C)として、成膜室内排気流路の弁を開き、除外装置と真空ポンプにより、成膜室内のガスを排出し、成膜室内を0.1Torr以下の真空状態にした。その後、窒素ガスを1~10秒の時間で導入し、その後再び成膜室内を0.1Torr以下の真空状態にした。
【0078】
次に、成膜室内の基体をH2O及びNH3に暴露する工程(工程B’)として、気化した水(H2O)とNH3と窒素(N2)ガスとを成膜室内に導入した。これにより、基体に対してH2OとNH3との暴露を行った。H2Oの暴露量及びNH3の暴露量は2~10torr・secであった。
【0079】
この後、成膜室内に残留するガス種を除外する工程(工程C)を行った。
【0080】
前記実施例1と同様なサイクル(工程A’→工程C→工程B’→工程C)が60回繰り返された。SiBr4とNH3とが反応し、CVDによる膜形成がなされた。
【0081】
本比較例で得られた膜の赤外線吸光スペクトルを測定したところ、SiO
2膜による1060cm
-1の吸収ピークが見られた他、1400cm
-1と2800~3200cm
-1に大きな吸収ピークが見られた。これらのピークはNH
4Br等の不純物によるものであり、本比較例で作製された薄膜中にはNH
4Br等の不純物が多く含まれていると考えられる。(
図9参照)
【比較例2】
【0082】
前記成膜装置が用いられた。
前記成膜室に保持された基体は70℃,90℃,110℃,130℃,150℃に保持された。
前記成膜室内は真空状態に保持された。
【0083】
成膜室内の基体をSiCl4及びピリジン(C5H5N:触媒)に暴露する工程(工程A”)として、気化したSiCl4とピリジンと窒素(N2)ガスを成膜室内に導入した。SiCl4の暴露量及びピリジンの暴露量は10~20torr・secであった。
【0084】
成膜室内に残留するガス種を除外する工程(工程C)として、成膜室内排気流路の弁を開き、除外装置と真空ポンプにより、成膜室内のガスを排出し、成膜室内を0.1Torr以下の真空状態にした。その後、窒素ガスを1~10秒の時間で導入し、その後再び成膜室内を0.1Torr以下の真空状態にした。
【0085】
次に、成膜室内の基体をH2O及びピリジンに暴露する工程(工程B)として、気化した水(H2O)とピリジンと窒素(N2)ガスとを成膜室内に導入した。これにより、基体に対してH2Oとピリジンとの暴露を行った。H2Oの暴露量及びピリジンの暴露量は2~10torr・secであった。
【0086】
この後、成膜室内に残留するガス種を除外する工程(工程C)を行った。
前記実施例1と同様なサイクル(工程A”→工程C→工程B→工程C)が60回繰り返された。基体上には二酸化珪素膜が形成された。
【0087】
基体の温度が70℃の場合は、成膜速度が0.48nm/cycleであった。基体の温度が90℃の場合は、成膜速度が0.30nm/cycleであった。基体の温度が110℃の場合は、成膜速度が0.20nm/cycleであった。基体の温度が130℃の場合は、成膜速度が0.17nm/cycleであった。基体の温度が150℃の場合は、成膜速度が0.10nm/cycleであった。基体温度と二酸化珪素膜の成膜速度との関係が
図10に示される。