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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/362 20210101AFI20230309BHJP
   B22F 12/90 20210101ALI20230309BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20230309BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20230309BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230309BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20230309BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20230309BHJP
【FI】
B22F10/362
B22F12/90
B29C64/153
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2019152043
(22)【出願日】2019-08-22
(65)【公開番号】P2021031719
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】西名 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 慎二
(72)【発明者】
【氏名】山田 章夫
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/120847(WO,A1)
【文献】特表2021-507121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/16
B22F 3/105
B22F 10/00-10/85
B22F 12/00-12/90
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1粉末層における、製造対象の3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する断面形成部と、
前記断面を形成した前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する粉末積層部と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、層途中の前記第2粉末層の一部ビームで加熱する予熱処理部と
を備える製造装置。
【請求項2】
第1粉末層における、製造対象の3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する断面形成部と、
前記断面を形成した前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する粉末積層部と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方をビームで加熱する予熱処理部と、
前記予熱処理部が加熱した前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方の温度分布を測定する測定部と、
前記温度分布に基づいて、前記第2粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合するビームのエリア毎の照射条件を決定する照射条件決定部と
を備え、
前記照射条件決定部は、前記測定部が測定した前記温度分布に基づいて、前記第2粉末層の温度分布を推定する第1推定部を有し、
前記照射条件決定部は、推定した前記第2粉末層の温度分布にさらに基づいて、前記溶融結合する前記ビームのエリア毎の照射条件を決定する
製造装置。
【請求項3】
第1粉末層における、製造対象の3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する断面形成部と、
前記断面を形成した前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する粉末積層部と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方をビームで加熱する予熱処理部と、
前記予熱処理部が加熱した前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方の温度分布を測定する測定部と、
前記温度分布に基づいて、前記第2粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合するビームのエリア毎の照射条件を決定する照射条件決定部と
を備え
前記照射条件決定部は、前記断面を形成した後の前記第1粉末層の温度変化を推定する第2推定部を有し、
前記照射条件決定部は、推定した前記第1粉末層の温度変化にさらに基づいて、前記溶融結合する前記ビームのエリア毎の照射条件を決定する
製造装置。
【請求項4】
第1粉末層における、製造対象の3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する断面形成部と、
前記断面を形成した前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する粉末積層部と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方をビームで加熱する予熱処理部と、
前記予熱処理部が加熱した前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方の温度分布を測定する測定部と、
前記温度分布に基づいて、前記第2粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合するビームのエリア毎の照射条件を決定する照射条件決定部と
を備え、
前記照射条件決定部は、前記予熱処理部が加熱した後の、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方の温度変化を推定する第3推定部を有し、
前記照射条件決定部は、推定した前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方の温度変化にさらに基づいて、前記溶融結合する前記ビームのエリア毎の照射条件を決定する
製造装置。
【請求項5】
第1粉末層における、製造対象の3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する断面形成部と、
前記断面を形成した前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する粉末積層部と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方をビームで加熱する予熱処理部と
を備え、
前記粉末積層部は、前記断面を形成した前記第1粉末層上に前記第2粉末層の前記一部を積層した後、前記第2粉末層の残りを積層し、
前記予熱処理部は、前記粉末積層部が前記第2粉末層の前記残りを積層する前に、積層された前記第2粉末層の前記一部を加熱する
製造装置。
【請求項6】
第1粉末層における、製造対象の3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する断面形成部と、
前記断面を形成した前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する粉末積層部と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方をビームで加熱する予熱処理部と
を備え、
前記予熱処理部は、前記第1粉末層に形成された前記断面の領域と、前記予熱処理部により加熱する領域との境界の一部を加熱せず、該境界の残りを加熱する
製造装置。
【請求項7】
第1粉末層における、製造対象の3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する断面形成部と、
前記断面を形成した前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する粉末積層部と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方をビームで加熱する予熱処理部と
を備え、
前記予熱処理部は、前記第2粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域に囲まれた溶融結合させない領域が閾値範囲以下である場合、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方における前記溶融結合させない領域に対応する領域の少なくとも一部を加熱しない
製造装置。
【請求項8】
第1粉末層における、製造対象の3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する断面形成部と、
前記断面を形成した前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する粉末積層部と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方をビームで加熱する予熱処理部と
を備え、
前記断面形成部は、前記第1粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域を、該領域のコーナー部、エッジ部、および面部の順に溶融結合させる
製造装置。
【請求項9】
第1粉末層における、製造対象の3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する断面形成部と、
前記断面を形成した前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する粉末積層部と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方をビームで加熱する予熱処理部と
を備え、
前記断面形成部は、前記第1粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域を、複数のエリアについて、前記領域よりも下に形成された前記3次元造形物の断面の厚さに基づいた順番で、溶融結合させる
製造装置。
【請求項10】
前記照射条件決定部は、前記粉末積層部が前記第2粉末層を積層している間に、前記溶融結合する前記ビームのエリア毎の照射条件を決定する
請求項2からのいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項11】
前記予熱処理部は、前記第1粉末層の表面を直接加熱する
請求項1から10のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項12】
前記予熱処理部は、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方をビームで前記加熱する第1段階目の予熱処理と、積層が完了した前記第2粉末層を加熱する第2段階目の予熱処理とを行う
請求項1から11のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項13】
前記予熱処理部は、前記断面形成部が前記第1粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させている間に、前記第1粉末層を加熱する
請求項1から12のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項14】
3次元造形物を製造する方法であって、
第1粉末層における、前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する段階と、
前記断面が形成された前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する段階と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、層途中の前記第2粉末層の一部加熱する段階と
を備える製造方法。
【請求項15】
3次元造形物を製造する方法であって、
第1粉末層における、前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する段階と、
前記断面が形成された前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する段階と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階と、
前記加熱した前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方の温度分布を測定する段階と、
前記温度分布に基づいて、前記第2粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合するビームのエリア毎の照射条件を決定する段階と
を備え、
前記照射条件を決定する段階は、
前記測定した前記温度分布に基づいて、前記第2粉末層の温度分布を推定する段階と、
推定した前記第2粉末層の温度分布にさらに基づいて、前記溶融結合する前記ビームのエリア毎の照射条件を決定する段階とを有する
製造方法。
【請求項16】
3次元造形物を製造する方法であって、
第1粉末層における、前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する段階と、
前記断面が形成された前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する段階と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階と、
前記加熱した前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方の温度分布を測定する段階と、
前記温度分布に基づいて、前記第2粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合するビームのエリア毎の照射条件を決定する段階と
を備え、
前記照射条件を決定する段階は、
前記断面を形成した後の前記第1粉末層の温度変化を推定する段階と、
推定した前記第1粉末層の温度変化にさらに基づいて、前記溶融結合する前記ビームのエリア毎の照射条件を決定する段階とを有する
製造方法。
【請求項17】
3次元造形物を製造する方法であって、
第1粉末層における、前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する段階と、
前記断面が形成された前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する段階と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階と、
前記加熱した前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方の温度分布を測定する段階と、
前記温度分布に基づいて、前記第2粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合するビームのエリア毎の照射条件を決定する段階と
を備え、
前記照射条件を決定する段階は、
前記加熱した後の、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方の温度変化を推定する段階と、
推定した前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方の温度変化にさらに基づいて、前記溶融結合する前記ビームのエリア毎の照射条件を決定する段階とを有する
製造方法。
【請求項18】
3次元造形物を製造する方法であって、
第1粉末層における、前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する段階と、
前記断面が形成された前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する段階と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階と
を備え、
前記第2粉末層を積層する段階は、前記断面を形成した前記第1粉末層上に前記第2粉末層の前記一部を積層した後、前記第2粉末層の残りを積層する段階を有し、
前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階は、前記第2粉末層の前記残りを積層する前に、積層された前記第2粉末層の前記一部を加熱する段階を有する
製造方法。
【請求項19】
3次元造形物を製造する方法であって、
第1粉末層における、前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する段階と、
前記断面が形成された前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する段階と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階と
を備え、
前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階は、前記第1粉末層に形成された前記断面の領域と、前記加熱する領域との境界の一部を加熱せず、該境界の残りを加熱する
製造方法。
【請求項20】
3次元造形物を製造する方法であって、
第1粉末層における、前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する段階と、
前記断面が形成された前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する段階と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階と
を備え、
前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階は、前記第2粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域に囲まれた溶融結合させない領域が閾値範囲以下である場合、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の前記少なくとも一方における前記溶融結合させない領域に対応する領域の少なくとも一部を加熱しない段階を有する
製造方法。
【請求項21】
3次元造形物を製造する方法であって、
第1粉末層における、前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する段階と、
前記断面が形成された前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する段階と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階と
を備え、
前記断面を形成する段階は、前記第1粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域を、該領域のコーナー部、エッジ部、および面部の順に溶融結合させる段階を有する
製造方法。
【請求項22】
3次元造形物を製造する方法であって、
第1粉末層における、前記3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する段階と、
前記断面が形成された前記第1粉末層上に、第2粉末層を積層する段階と、
前記第2粉末層の積層が完了する前に、前記第1粉末層および積層途中の前記第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階と
を備え、
前記断面を形成する段階は、前記第1粉末層における前記3次元造形物の断面となるべき領域を、複数のエリアについて、前記領域よりも下に形成された前記3次元造形物の断面の厚さに基づいた順番で、溶融結合させる段階を有する
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料などからなる粉末層に対して電子ビームを照射して溶融凝固させる3次元積層造形装置において、粉末層の一部を溶融凝固させて断面層を形成し、その断面層を積み重ねることで3次元構造物を造形する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献2には、粉末層を溶融凝固させる工程の前に、当該粉末層に電子ビームを照射して温度を上げる予熱工程を行う装置が記載されている。
特許文献1 米国特許第7454262号
特許文献2 特許第5108884号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献2に記載の予熱工程を行った場合でも、予熱工程後の粉末層の温度分布が不均一な場合があり、電子ビームを照射して断面を形成する際、当該断面を形成する領域が不均一な温度条件となるため、製造される3次元構造物の品質が低下することがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、製造装置が提供される。製造装置は、第1粉末層における、製造対象の3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する断面形成部を備えてよい。製造装置は、断面を形成した第1粉末層上に、第2粉末層を積層する粉末積層部を備えてよい。製造装置は、第2粉末層の積層が完了する前に、第1粉末層および積層途中の第2粉末層の一部の少なくとも一方をビームで加熱する予熱処理部を備えてよい。
【0005】
製造装置は、予熱処理部が加熱した第1粉末層および積層途中の第2粉末層の一部の少なくとも一方の温度分布を測定する測定部を備えてよい。製造装置は、温度分布に基づいて、第2粉末層における3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合するビームのエリア毎の照射条件を決定する照射条件決定部を備えてよい。
【0006】
照射条件決定部は、測定部が測定した温度分布に基づいて、第2粉末層の温度分布を推定する第1推定部を有してよい。照射条件決定部は、推定した第2粉末層の温度分布にさらに基づいて、溶融結合するビームのエリア毎の照射条件を決定してよい。
【0007】
照射条件決定部は、断面を形成した後の第1粉末層の温度変化を推定する第2推定部を有してよい。照射条件決定部は、推定した第1粉末層の温度変化にさらに基づいて、溶融結合するビームのエリア毎の照射条件を決定してよい。
【0008】
照射条件決定部は、予熱処理部が加熱した後の、第1粉末層および積層途中の第2粉末層の一部の少なくとも一方の温度変化を推定する第3推定部を有してよい。照射条件決定部は、推定した第1粉末層および積層途中の第2粉末層の一部の少なくとも一方の温度変化にさらに基づいて、溶融結合するビームのエリア毎の照射条件を決定してよい。
【0009】
照射条件決定部は、粉末積層部が第2粉末層を積層している間に、溶融結合するビームのエリア毎の照射条件を決定してよい。
【0010】
予熱処理部は、第1粉末層の表面を直接加熱してよい。
【0011】
粉末積層部は、断面を形成した第1粉末層上に第2粉末層の一部を積層した後、第2粉末層の残りを積層してよい。予熱処理部は、粉末積層部が第2粉末層の残りを積層する前に、積層された第2粉末層の一部を加熱してよい。
【0012】
予熱処理部は、第1粉末層に形成された断面以外の領域を加熱してよい。
【0013】
予熱処理部は、第1粉末層に形成された断面の領域と、予熱処理部により加熱する領域との境界の一部を加熱せず、該境界の残りを加熱してよい。
【0014】
予熱処理部は、第2粉末層における3次元造形物の断面となるべき領域に囲まれた溶融結合させない領域が閾値範囲以下である場合、第1粉末層および積層途中の第2粉末層の一部の少なくとも一方における溶融結合させない領域に対応する領域の少なくとも一部を加熱しなくてよい。
【0015】
予熱処理部は、積層が完了した第2粉末層を加熱してよい。
【0016】
予熱処理部は、断面形成部が第1粉末層における3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させている間に、第1粉末層を加熱してよい。
【0017】
断面形成部は、第1粉末層における3次元造形物の断面となるべき領域を、該領域のコーナー部、エッジ部、および面部の順に溶融結合させてよい。
【0018】
断面形成部は、第1粉末層における3次元造形物の断面となるべき領域を、複数のエリアについて、領域よりも下に形成された3次元造形物の断面の厚さに基づいた順番で、溶融結合させてよい。
【0019】
本発明の第2の態様においては、3次元造形物を製造する方法が提供される。製造方法は、第1粉末層における、3次元造形物の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する段階を備えてよい。製造方法は、断面が形成された第1粉末層上に、第2粉末層を積層する段階を備えてよい。製造方法は、第2粉末層の積層が完了する前に、第1粉末層および積層途中の第2粉末層の一部の少なくとも一方を加熱する段階を備えてよい。
【0020】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態による製造装置10の模式図である。
図2】本実施形態の製造装置10の制御部50を詳細に示すブロック図である。
図3】測定部40により測定した、予熱処理の加熱後の粉末層の表面の温度分布を示す。
図4】粉末層の温度と電子ビームEBの照射時間の関係を示す。
図5】電子ビームEBの照射位置と照射時間との間の関係を示す。
図6】本実施形態の製造装置10において3次元造形物110を製造する方法を示す説明図である。
図7】本実施形態の製造装置10において3次元造形物110を製造する方法の他の例を示す説明図である。
図8】粉末層における3次元造形物110の断面となるべき領域の上面図である。
図9】粉末層における3次元造形物110の断面の概略斜視図である。
図10】粉末層における予熱処理のための加熱エリアを説明するための説明図である。
図11】粉末層における予熱処理のための加熱エリアの他の例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0023】
図1は、本実施形態による製造装置10の模式図である。図1では、左右方向のX軸と、上下方向のZ軸と、奥行き方向のY軸とが、互いに直交するように示されている。以降では、これらの3軸を用いて説明する場合がある。
【0024】
本実施形態による製造装置10は、粉末100を堆積して粉末層を積層し、粉末層に対して電子ビームEBを照射することによって粉末100を溶融結合させ、粉末層の積層および粉末100の溶融を交互に繰り返すことにより3次元造形物を製造する。製造装置10は、粉末層の積層完了前に、予熱処理を行う。ここで、粉末100は、例えば、チタン系、クロム系、ニッケル系の合金や、SUSなどの金属材料からなる、導体の粉末材料である。粉末100は、磁性体または非磁性体であってよい。
【0025】
なお、溶融結合は、加熱により粉末100が溶融され、その後互いに結合して凝固して断面構造になることをいう。また、予熱処理は、溶融結合させるための温度よりも低い温度に粉末層を加熱することをいう。製造装置10は、予熱処理により、粉末100同士をゆるい結合状態にすることで粉末層の電気抵抗を下げ、溶融結合の際に高強度の電子ビームEBを照射された粉末100がチャージアップにより飛散してしまうことを抑止する。
【0026】
製造装置10は、カラム部20と、造形部30と、測定部40と、制御部50とを備える。造形部30は、粉末100からなる粉末層を積層する粉末積層部の一例である。また、カラム部20は、粉末層における、製造対象の3次元造形物110の断面となるべき領域を溶融結合させることにより断面を形成する断面形成部の一例であり、予熱処理を行う予熱処理部の一例でもある。従って、本実施形態におけるカラム部20は、断面形成部と予熱処理部との両方の機能を有し、粉末層を溶融結合させて断面を形成する加熱と、予熱処理を行う加熱は、カラム部20からの電子ビームEBを用いて行われる。
【0027】
カラム部20は、造形部30の内部に向けて電子ビームEBを出力する。カラム部20は、製造対象の3次元造形物110の断面となるべき領域を電子ビームEBで加熱して溶融結合させることにより断面を形成する。さらに、カラム部20は、断面が形成された粉末層および当該粉末層上に積層途中の次の粉末層の少なくとも一方を、当該次の粉末層の積層が完了する前に電子ビームEBで加熱することにより、予熱処理をする。当該加熱により、カラム部は、加熱された層上に形成される次の粉末層を間接的に予熱処理することができる。カラム部20は、電子源21と、電子レンズ22と、偏向器23とを有する。
【0028】
電子源21は、熱または電界の作用によって電子を発生させる。電子源21は、発生させた電子を、予め定められた加速電圧、例えば-60KVで、下方に向かって加速させ、電子ビームEBとして出力する。
【0029】
電子レンズ22は、電子源21から出力された電子ビームEBを、造形部30の内部に積層された粉末層の表面で収束させる。電子レンズ22は、例えば磁界レンズであって、レンズ軸周りに配されたコイルと、コイルを取り囲んでレンズ軸に関して軸対称な間隙を有するヨークとを含む。
【0030】
偏向器23は、電子源21から出力されて電子レンズ22を通過した電子ビームEBを偏向して、粉末層の表面のX軸方向およびY軸方向における照射位置を調整する。偏向器23は、例えば、上記した電子レンズ22のレンズ軸を挟んで、X軸方向およびY軸方向に対向する2組の偏向コイルを含む。偏向器23は、粉末層の表面の対象領域全体に電子ビームEBを走査させてもよく、また、対象領域内のエリア毎に電子ビームEBを照射させてもよい。
【0031】
造形部30は、3次元造形物110を造形する。造形部30は、カラム部20の下部に接続され、造形部30の内部空間はカラム部20の内部空間と連通する。造形部30は、粉末供給部31と、ステージ32と、側壁部33と、駆動棒34と、駆動部35と、排気ユニット36と、ヒータ37とを有する。
【0032】
粉末供給部31は、ステージ32上の、ステージ32および側壁部33によって囲まれる空間内に、粉末100を供給して堆積させ、堆積させた粉末100の表面を擦り切ることで、表面が平坦化された粉末層を形成する。形成された粉末層は、ステージ32および側壁部33によって形状を保持される。なお、粉末供給部31によって形成される粉末層のうち、電子ビームEBを照射された箇所は溶融して3次元造形物110の断面部分の構造を成し、その他の部分は3次元造形物110の周囲において粉末100の状態で堆積される。なお、電子ビームEBを照射されて溶融した粉末層は、既に積層されている3次元造形物110が下方に隣接して存在する場合、既に積層されている3次元造形物110の上端面と結合して、3次元造形物110を上方に増大させる。
【0033】
ステージ32は、XY平面方向に広がる面を有する。ステージ32は、粉末供給部31により供給された粉末100がその上面上に積載され、粉末100が堆積した状態である粉末層を保持する。側壁部33は、ステージ32の周囲に配され、ステージ32上の粉末層の側面を保持する。
【0034】
駆動棒34は、ステージ32の下面に連結され、ステージ32を支持する。駆動部35は、駆動棒34を支持し、駆動棒34がZ軸方向に上下するように駆動棒34を駆動する。駆動部35は、駆動棒34を駆動することによって、ステージ32がZ軸方向に上下するようにステージ32を駆動する。駆動部35は、粉末供給部31によってステージ32上に形成された粉末層に電子ビームEBが照射されて断面構造が形成されると、Z軸方向における次の断面の厚みの分、ステージ32を下方に降下させる。
【0035】
排気ユニット36は、電子ビームEBが通過する製造装置10の内部空間を排気して、当該内部空間が予め定められた真空度となるように調整する。これにより、排気ユニット36は、電子ビームEBが大気中の気体粒子と衝突することによりエネルギーを損失することを抑止する。
【0036】
ヒータ37は、ステージ32の下面および側壁部33の外周に配され、ステージ32上に形成された粉末層を加熱する。なお、ヒータ37による粉末層の加熱温度は、電子ビームEBによる加熱温度よりも低くてよい。
【0037】
測定部40は、例えば、サーモグラフィカメラまたはパイロメータである。測定部40は、ステージ32上に積層された最上層の粉末層の温度分布を測定する。測定部40は、例えば、最上層の粉末層について、予熱処理の加熱後の温度分布を測定する。測定部40は、予熱処理の加熱後、断面が形成された粉末層および積層途中の粉末層の一部の少なくとも一方の温度分布を測定する。
【0038】
制御部50は、製造装置10の他の各構成に有線または無線で接続され、各構成を制御する。制御部50は、カラム部20の電子源21、電子レンズ22、および偏向器23を制御することにより、電子ビームEBの照射時間、照射速度、および照射位置を制御する。制御部50は更に、造形部30の粉末供給部31、駆動部35、およびヒータ37を制御することにより、ステージ32上での3次元造形物110の造形を制御する。制御部50は更に、測定部40を制御することにより、測定部40から測定結果を受信し、当該測定結果に応じて、カラム部20からの電子ビームEBの照射条件を決定してよい。
【0039】
図2は、本実施形態の製造装置10の制御部50を詳細に示すブロック図である。制御部50は、断面形状作成部200および照射条件決定部210を有する。
【0040】
断面形状作成部200は、照射条件決定部210に接続される。断面形状作成部200は、製造装置10に入力されたまたは格納された3次元造形物110のデータから、当該3次元造形物110のXY平面における断面領域を示すデータを生成して、照射条件決定部210に出力してよい。断面形状作成部200は、Z方向における複数の断面を電子ビームEBの照射前に出力してよく、または、現在の断面を形成するための電子ビームEBの照射の間に次に形成する断面を出力してもよい。
【0041】
照射条件決定部210は、測定部40から受信した粉末層の温度分布に基づいて、粉末層における3次元造形物110の断面となるべき領域を溶融結合する電子ビームEBのエリア毎の照射条件を決定する。さらに、照射条件決定部210は、予熱処理のための加熱を行う電子ビームEBの照射条件を決定してよい。照射条件決定部210は、照射位置決定部220、推定部230、処理部240、および出力部250を有する。
【0042】
照射位置決定部220は、処理部240および推定部230に接続され、断面形状作成部200から、3次元造形物110のXY平面における断面を示すデータを受け取る。照射位置決定部220は、受け取ったデータから、粉末層における電子ビームEBの照射位置、例えば座標(Xi,Yi)を決定し、照射位置を示すデータを処理部240および推定部230に出力する。照射位置決定部220は、溶融結合する断面領域の照射位置および予熱処理の加熱を行う照射位置の少なくとも一方を決定してよい。ここで、iは正の整数であり、3次元造形物110の複数の断面のZ軸方向のインデックスであってよい。
【0043】
推定部230は、測定部40および処理部240に接続される。推定部230は、測定部40から測定結果を受信し、当該測定結果に基づいて推定した結果を処理部240に出力する。推定部230は、測定部40により温度測定された粉末層上に形成される次の粉末層の温度を推定してよい。また、推定部230は、温度測定された粉末層および当該粉末層上に形成される次の粉末層の少なくとも一方について、測定部40による温度測定時からの温度変化を推定してよい。本実施形態において、推定部230は、第1推定部、第2推定部、および第3推定部の一例である。
【0044】
処理部240は、出力部250に接続され、電子ビームEBの照射条件を決定するための各種処理を行う。処理部240は、推定部230から受け取った次の粉末層の推定温度等に応じて、当該次の粉末層おけるエリア毎(例えば座標毎)に、溶融結合させる電子ビームEBの照射時間および照射強度の少なくとも1つを決定して、出力部250に出力してよい。処理部240は、さらに、予熱処理の加熱を行う電子ビームEBのエリア毎(例えば座標毎)の照射時間および照射強度の少なくとも1つを決定して、出力部250に出力してよい。
【0045】
出力部250は、カラム部20に接続され、処理部240からの信号に応じた信号を出力して、電子ビームEBの照射位置および照射時間等を制御してよい。出力部250は、処理部240から受け取った信号に対して、デジタルアナログ変換および増幅して出力してよい。出力部250は、電子源21に信号を出力して、電子ビームEBの照射強度を制御し、また、偏向器23に信号を出力して、電子ビームEBの照射位置を制御してよい。
【0046】
図3は、測定部40により測定した、予熱処理の加熱後の粉末層の表面の温度分布を示す。図3に示すように、加熱後の粉末層は、溶融結合された断面形成部の温度等の影響で温度分布にばらつき生じている。本実施形態では、断面を形成して予熱処理の加熱を行った粉末層上に次の粉末層を形成するため、加熱した粉末層から次の粉末層に熱が伝わり、間接的に当該次の粉末層を予熱する。従って、次の粉末層に熱が広がりながら伝わる間に温度分布が平滑化され、当該次の粉末層に対する溶融結合のための電子ビームEBの照射条件の設定が容易になる。
【0047】
図4は、粉末層の温度と電子ビームEBの照射時間の関係を示す。図4のグラフにおいて、縦軸は、溶融結合させる最上層の粉末層表面の温度を示し、横軸は、電子ビームEBの照射時間を示す。図4に示すように、粉末層における1つのエリアの温度がT1である場合、電子ビームEBを当該エリアに時間τで照射すると粉末100の溶融温度を超える温度T0まで上げることができる。照射条件決定部210は、溶融結合のための電子ビームEBの照射時間を図4に示すような関係を用いて決定できる。具体的には、照射条件決定部210は、最上層の粉末層の温度(例えば推定温度)と電子ビームの照射時間との間の関係を予め取得する。照射条件決定部210は、粉末層における所定のエリアについて、温度T1であれば、確実に溶融するようにマージンをとって、溶融温度を超える温度T0となるような照射時間τを予め求めた関係から決定することができる。
【0048】
図5は、電子ビームEBの照射位置と照射時間との間の関係を示す。図5のグラフにおいて、縦軸は、電子ビームEBの照射位置を示し、横軸は、電子ビームEBの照射時間を示す。本実施形態における照射条件決定部210は、一例として、推定部230で推定された粉末層のエリア(Xn,Yn)の推定温度がT1である場合、当該エリアを溶融するための照射時間τnを、図4の関係を用いて算出する。出力部250は、当該照射時間τnの間、エリア(Xn,Yn)に電子ビームEBが照射されるように偏向器23に信号を出力してよい。照射条件決定部210は、1つの断面について複数のエリアの座標および照射時間を出力してよい。
【0049】
図6は、本実施形態の製造装置10において3次元造形物110を製造する方法を示す説明図である。ステップS600において、粉末供給部31は、粉末100をステージ32上に供給し、擦り切りにより平坦化することで、ステージ32上に粉末層600aを形成する。ヒータ37は、粉末層600aをプリヒーティングする。
【0050】
ステップS610において、カラム部20は、電子源21から出力した電子ビームEBを粉末層600aの表面に照射する。粉末供給部31によって形成される粉末層600aのうち、電子ビームEBを照射された箇所は溶融結合して断面610aを成し、その他の部分は断面610aの周囲において粉末100の状態で残る。
【0051】
ステップS620において、予熱処理のために、電子ビームEBで粉末層600aの表面を直接加熱する。カラム部20は、電子源21から出力した電子ビームEBを、断面610aを形成した粉末層600aの表面に照射することで、表面近傍の粉末100aを加熱する。カラム部20は、断面610aが形成された領域を含む範囲(例えば、断面610aが形成された領域より広い領域)または断面610aが形成された領域を囲む範囲(例えば、断面610aが形成された領域に沿った周辺領域)に電子ビームEBを照射して加熱してよい。カラム部20は、予熱処理として、ステップS610における溶融結合させる温度より低い温度(例えば、100~600℃)になるように粉末層600aを加熱してよい。照射条件決定部210は、このような電子ビームEBの照射条件(電子ビームEBの照射する範囲、エリア毎の照射順番、照射時間、および照射強度等の少なくとも1つ)を、予めまたは照射毎に決定してよい。また、照射条件決定部210は、予熱処理の加熱毎に、例えば照射範囲以外は同じ条件で電子ビームEBを照射するように決定してよい。
【0052】
測定部40は、予熱処理の加熱後の粉末層600aの温度分布を測定する。測定部40は、予熱処理の加熱を施した領域を含む粉末層600aの一部の範囲または粉末層600a全体の温度分布を測定してよい。照射条件決定部210は、予熱処理の加熱に続く工程(ステップS630)において粉末供給部31が粉末層600bを積層している間に、溶融結合する電子ビームEBのエリア毎の照射条件を決定してよい。照射条件を決定する処理において、推定部230は、測定部40の測定結果を受け取り、測定部40が測定した温度分布に基づいて、次に積層する粉末層600bの温度分布を推定する。推定部230は、製造前に、予熱処理の加熱後の粉末層600aの温度と、当該粉末層600a上に積層される粉末層600bの温度との関係を示す関数またはテーブルを予め求めてよい。推定部230は、製造中には、測定部40からの温度分布から、当該関数又はテーブルを用いて、溶融結合の加熱直前の粉末層600bの温度分布を推定してよい。
【0053】
推定部230は、予熱処理部240が加熱した後の、粉末層600aの温度変化を推定してよい。推定部230は、製造前に、予熱処理の加熱後の粉末層600aの温度変化(例えばエリア毎の冷却速度等)を示す関数またはテーブルを予め求めてよい。推定部230は、製造中には、測定部40からの温度分布から、次の粉末層600bの溶融結合までの時間に応じた温度変化を、関数またはテーブルを用いて推定し、次の粉末層600bの温度の推定に用いてよい。
【0054】
また、推定部230は、予熱処理の加熱前、断面を形成した後の粉末層600aのエリア毎の温度変化を推定してよい。推定部230は、断面610aを形成した後の粉末層600aについて、溶融結合させた電子ビームEBの照射条件、粉末100の溶融温度、既に形成されている断面610aの構造、および/または予熱処理の加熱前の粉末層600aの測定部40による測定結果等を用いて温度変化を推定してよい。推定部230は、推定した温度変化を、次の粉末層600bの温度の推定に用いてよい。
【0055】
照射条件決定部210は、推定部230からの推定結果を受け取り、推定した温度分布および温度変化の少なくとも1つに基づいて、溶融結合する電子ビームEBのエリア毎の照射条件を決定する。照射条件決定部210は、推定された温度が粉末100が溶融温度以上の温度になるような電子ビームEBの照射条件を決定する。また、照射条件決定部210は、推定された温度変化を、次の粉末層600bに対する照射条件を決定するために用いてもよい。
【0056】
照射条件決定部210は、溶融結合させる領域全体が平滑化された温度分布および冷却速度となるように、エリア毎の照射条件を決定してよい。照射条件決定部210は、例えば複数のエリアの照射する順番、照射強度、および照射時間のうちの少なくとも1つを決定してよい。
【0057】
ここで、一例として、照射条件決定部210は、断面層形成終了時の粉末層600aの温度分布u(x、y、z)と、投入熱量の時間および空間分布であるQ(x、y、t)から、以下の熱方程式を用いる。ここで、α(x、y、z)は、熱伝導率/熱容量の分布を示す。
【数1】
【0058】
照射条件決定部210は、粉末100の金属凝固温度t以下の冷却速度および空間温度勾配を示す以下の式を用いる。
【数2】
【0059】
照射条件決定部210は、エリア毎の冷却速度および空間温度勾配がより均一で小さくになるように、さらに、温度変化の速度が小さくなるように、Q(x、y、t)を決定し、照射条件を決定してよい。
【0060】
ステップS630において、粉末供給部31は、粉末100を断面形成された粉末層600a上に供給し、擦り切りにより平坦化することで、次の粉末層600bを形成する。この際、ステップS620における予熱処理において加熱した粉末層600aから次の粉末層600bまで熱が伝わり、当該粉末層600bが予熱される。
【0061】
ステップS640において、制御部50は、照射条件決定部210で決定された照射条件に従ってカラム部20を制御し、電子源21から出力した電子ビームEBを粉末層600bの表面に照射する。粉末供給部31によって形成された粉末層600bのうち、電子ビームEBを照射された箇所は、溶融結合して断面610bを成す。
【0062】
ステップS640の断面610bの形成後には、ステップS620からステップS640までの工程を順に繰り返すことで、複数の断面を形成して、最終的な3次元造形物110を製造することができる。
【0063】
本実施形態により、既に断面610aが形成された粉末層600aの表面に予熱処理のための加熱を行い、その上に次の断面形成を行う対象の粉末層600bを形成する。これにより、対象の粉末層600bは、下の層から熱が広がりながら伝わって予熱され、温度分布が平滑化され、効率的に断面610bを形成することができる。また、予熱処理により、溶融結合のための電子ビームEBによる粉末層600bのチャージアップおよび粉末の飛散を抑制できる。また、次の断面形成を行う対象の粉末層600bを形成する前に加熱し、温度測定を行うことで、当該対象の粉末層600bを形成する間に、温度測定結果から電子ビームEBの照射条件を決定する処理を並行に行うことができ、待機時間を減らせ、スループットを向上できる。
【0064】
図7は、本実施形態の製造装置10において3次元造形物110を製造する方法の他の例を示す説明図である。図7に示す製造方法は、図6の製造方法と同様の工程を有してよく、ただし、1つの粉末層を2段階で積層し、予熱処理のための加熱を粉末層の1段階目に対して行う。
【0065】
ステップS700およびS710は、図6に示すステップS600およびS610と同様であってよい。
【0066】
ステップS720において、粉末供給部31は、断面610aを形成した粉末層600a上に粉末100を供給し、擦り切りにより平坦化することで、粉末層600bの一部を積層する。粉末供給部31は、最終的に積層される粉末層600bより薄い厚さの層、例えば、最終的に積層される粉末層600bの全体の厚さの1/3~2/3の厚さの層となるように、粉末層600bの一部を積層してよい。
【0067】
ステップS730において、カラム部20は、粉末供給部31が粉末層600bの残りを積層する前に、積層された粉末層600bの一部を加熱する。カラム部20は、図6に示すステップS620と同様に、電子ビームEBを、粉末層600bの一部の表面に照射することにより、粉末100aを加熱してよい。
【0068】
測定部40は、図6に示すステップS620と同様に、予熱処理の加熱後の粉末層600bの一部の温度分布を測定してよい。照射条件決定部210は、図6に示すステップS620と同様に、予熱処理の加熱に続く粉末層の残りの積層工程(ステップS740)と並行に、溶融結合させる電子ビームEBのエリア毎の照射条件を決定する処理を行ってよい。照射条件を決定する処理において、推定部230は、測定部40の測定結果を受け取り、図6に示すステップS620と同様に、粉末層の温度分布、温度変化等を推定してよい。
【0069】
推定部230は、予熱処理部240が加熱した後の、積層途中の粉末層600bの一部の温度変化を推定してよい。推定部230は、測定部40の測定結果から、予熱処理の加熱後の粉末層600bの一部の表面における温度変化、および残りの積層の間に生じる最上層の表面における温度変化の少なくとも一方を推定してよい。推定部230は、製造前に、予熱処理の加熱後の積層途中の粉末層600bの表面の温度変化を測定して、当該温度変化を示す関数またはテーブルを予め取得してよい。推定部230は、製造中には、温度測定結果から、関数またはテーブルを用いて温度変化を推定してよい。
【0070】
ステップS740において、粉末供給部31は、既に積層されている粉末層600bの一部上に粉末100を供給し、擦り切りにより平坦化することで、粉末層600bの残りを積層する。
【0071】
ステップS750において、図6に示すステップS640と同様に、制御部50は、照射条件決定部210で決定された照射条件に従ってカラム部20を制御し、電子ビームEBを粉末層600bの表面に照射する。粉末層600bのうち、電子ビームEBを照射された箇所は、溶融結合して断面610bを成す。
【0072】
ステップS750の断面610b形成後には、ステップS720からステップS750までの工程を順に繰り返すことで、複数の断面を形成して、最終的な3次元造形物110を製造することができる。
【0073】
金属である粉末100は、粉末状態ではかさ密度がバルクの0.5~0.65程度であるため、図7のステップS710(またはステップS750)に示すように、溶融結合後の断面610の形成部分の表面高さは、粉末層600の他の領域よりも低くなり、段差が生じる。本実施形態では、粉末層600bの一部を積層して段差の無い状態で予熱処理の加熱を行うため、積層完了した粉末層600bの温度分布が平滑化されやすい。
【0074】
図8は、粉末層における3次元造形物110の断面となるべき領域の上面図である。照射条件決定部210は、粉末層における3次元造形物110の断面となるべき領域のエリアに応じて電子ビームEBの照射順番を決定してよい。例えば、カラム部20は、照射条件にしたがって、粉末層における3次元造形物110の断面となるべき領域を、該領域のコーナー部、エッジ部、および面部の順に溶融結合させてよい。なお、コーナー部は、領域の180度未満の角の予め定められた範囲であってよく、エッジ部は、コーナー部を除く、領域の辺に沿った予め定められた範囲であってよく、面部は、領域において、コーナー部とエッジ部とを除く範囲であってよい。
【0075】
バルク金属は溶融前の粉末の状態よりも熱伝導性が高いので、面部は四方八方に熱が逃げるのに対し、エッジ部は4象限中2象限によく熱が逃げ、コーナー部(例えば角が90度以下のコーナー部)は1象限によく熱が逃げる。従って、熱が逃げにくい部分を先に電子ビームEBで照射して加熱することで温度分布を容易に平滑化できる。
【0076】
図9は、粉末層における3次元造形物110の断面の概略斜視図である。カラム部20は、粉末層における3次元造形物110の断面となるべき領域を、複数のエリアについて、溶融結合する領域よりも下に形成された3次元造形物110の断面の厚さに基づいた順番で、溶融結合させてよい。例えば、カラム部20は、溶融結合する領域よりも下に形成された3次元造形物110の断面の厚さが小さいほど、照射順番がより先になるように、電子ビームEBを照射してよい。カラム部20は、図9に示すように、溶融結合する領域よりも下に形成された3次元造形物110の断面の厚さが厚いエリアと薄いエリアとで分けて、各エリアで、コーナー部、エッジ部、面部の順に電子ビームEBを照射してよい。照射条件決定部210は、3次元造形物110の形状に応じて、これらのような照射順番を決定してよい。
【0077】
図10は、粉末層における予熱処理のための加熱エリアを説明するための説明図である。図10は、例えば、ステップS620またはステップS730における上面図を示す。図10に示すように、予熱処理のための加熱のエリアは、粉末層における3次元造形物110の断面となるべき領域(または既に形成された断面の領域)を囲む幅Dの周辺領域である。カラム部20は、粉末層における3次元造形物110の断面となるべき領域に囲まれた溶融結合させない領域が閾値範囲以下(例えば、予め定められた半径Rの円の範囲内)である場合、当該囲まれた溶融結合させない領域に対応する領域の少なくとも一部を加熱しなくてよい。図10では、カラム部20は、半径Rの円の範囲内である当該断面に囲まれた溶融結合させない領域は、全て予熱処理の加熱を行わない。
【0078】
カラム部20は、粉末層に形成される断面以外の領域を加熱してよく、粉末層における3次元造形物110の断面となるべき領域または溶融結合されて断面が既に形成されている領域を加熱しなくてよい。このような領域は、溶融結合された断面による温度で高温となっており、加熱が不要な場合がある。なお、照射条件決定部210は、これらの予熱処理の加熱エリアを決定し、照射条件に含めてよい。
【0079】
図11は、粉末層における予熱処理のための加熱エリアの他の例を説明するための説明図である。図11は、例えば、ステップS620またはステップS730における上面図を示す。カラム部20は、粉末層に形成された断面の領域と、予熱処理により加熱する領域との境界の一部を加熱せず、該境界の残りを加熱してよい。図11において、カラム部20は、境界部分のうち、複数箇所の接続エリアのみを加熱する。境界部分を加熱しないことで、粉体からの3次元造形物110の分離が良好となる。また、境界の一部を加熱することで、予熱処理による加熱エリアと既に形成された3次元造形物110との間の導電性を確保して、電子ビームEBで溜まった電子を逃すことができる。なお、これらの予熱処理の加熱エリアは、照射条件決定部210により決定され、照射条件に含まれてよい。
【0080】
なお、図6または7に示す実施形態におけるステップS640またはS750の断面形成前に、カラム部20は、2段階目の予熱処理として、電子ビームEBで、積層が完了した粉末層600bを加熱してよい。カラム部20は、2段階目の予熱処理を、ステップS620またはS730の1段階目の予熱処理の加熱と同様の方法で行ってよい。2段階の予熱処理によって、粉末層をより均一な温度分布とすることができる。
【0081】
また、カラム部20は、図6または7に示す実施形態におけるステップS610またはS710において粉末層600aにおける3次元造形物110の断面610aとなるべき領域を溶融結合させている間に、予熱処理として粉末層600aを加熱してよい。すなわち、カラム部20は、溶融結合のための加熱と、予熱処理のための加熱を並行に行ってよい。この場合、図7に示す実施形態では、カラム部20は、粉末層600bの一部を積層した後にもステップS730において予熱処理の加熱を行い、2段階の予熱処理を行うこととなる。カラム部20は、断面610aの領域をより高温で粉末100を溶融させるように加熱しながら、当該断面610aの領域の周辺領域(予熱処理の加熱エリア)をより低温で予熱処理の加熱を行ってよい。
【0082】
また、本実施形態の製造装置10は、2つのカラム部20を有してよく、予熱処理の加熱と、溶融結合させるための加熱とを、それぞれ、異なるカラム部20からの電子ビームEBで行ってよい。
【0083】
また、図6または7に示す実施形態におけるステップS630またはS740の粉末層形成後に、ステップS640またはS750の断面形成を行わずに、粉末層を形成して、予熱処理、および断面形成等のステップを行ってよい。
【0084】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0085】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0086】
10 製造装置
20 カラム部
21 電子源
22 電子レンズ
23 偏向器
30 造形部
31 粉末供給部
32 ステージ
33 側壁部
34 駆動棒
35 駆動部
36 排気ユニット
37 ヒータ
40 、測定部
50 制御部
100 粉末
110 3次元造形物
200 断面形状作成部
210 照射条件決定部
220 照射位置決定部
230 推定部
240 処理部
250 出力部
600 粉末層
610 断面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
図11