IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アバゴ・テクノロジーズ・インターナショナル・セールス・プライベート・リミテッドの特許一覧

特許7241021ATR分光計及びサンプルの化学組成を分析する方法
<>
  • 特許-ATR分光計及びサンプルの化学組成を分析する方法 図1
  • 特許-ATR分光計及びサンプルの化学組成を分析する方法 図2
  • 特許-ATR分光計及びサンプルの化学組成を分析する方法 図3
  • 特許-ATR分光計及びサンプルの化学組成を分析する方法 図4
  • 特許-ATR分光計及びサンプルの化学組成を分析する方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】ATR分光計及びサンプルの化学組成を分析する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/55 20140101AFI20230309BHJP
   G01N 21/35 20140101ALI20230309BHJP
【FI】
G01N21/55
G01N21/35
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019548903
(86)(22)【出願日】2018-03-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-07
(86)【国際出願番号】 EP2018055319
(87)【国際公開番号】W WO2018162398
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】102017104872.3
(32)【優先日】2017-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】318015161
【氏名又は名称】アバゴ・テクノロジーズ・インターナショナル・セールス・プライベート・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Avago Technologies International Sales Pte.Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Yishun Avenue 7,Singapore 768923,Singapore
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】レアード ロン
(72)【発明者】
【氏名】ウォーレス アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】マリー ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーガス ラナス ヒューゴ
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-513725(JP,A)
【文献】特表2012-507017(JP,A)
【文献】特開昭59-171837(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02530098(GB,A)
【文献】特開2005-156243(JP,A)
【文献】特開2008-197043(JP,A)
【文献】米国特許第5460973(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01J 3/00 - G01J 3/51
G01J 1/02 - G01J 1/04
G01J 1/42 - G01J 1/46
G01D 3/00 - G01D 3/036
H01L 27/14 - H01L 27/148
H04N 5/30 - H04N 5/33
H04N 23/11
H04N 23/20 - H04N 23/30
H04N 25/00
H04N 25/20 - H04N 25/61
H04N 25/615- H04N 25/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルの化学組成を分析するためのATR分光計であって、
前記ATR分光計(1)は、
ATR結晶(2)の入口端の直近に配置される入射面(3)と、前記入口端の反対側に配置され、ATR結晶(2)の出口端の直近に配置される出射面(4)とを有するATR結晶(2)と、
前記入射面(3)に配置される少なくとも一つの赤外線光源(5)と、
前記出射面(4)に配置される赤外線検出器ラインアレイ(6)と、
前記出射面(4)に配置され、前記ラインアレイ(6)から分離した少なくとも一つの追加の赤外線検出器(7)とを備え、
前記少なくとも一つの赤外線光源(5)は、前記入射面(3)を通じて前記ATR結晶(2)に入射し、前記ATR結晶(2)の表面に接触して配置される前記サンプルとの相互作用及び内部全反射の下で前記ラインアレイ(6)の前記赤外検出器及び前記少なくとも一つの追加の赤外線検出器(7)に導かれる赤外線を放射するように構成され、
前記ATR分光計(1)は、前記ラインアレイ(6)が前記赤外線のスペクトルを測定するために適合するように、前記出射面(4)から前記ラインアレイ(6)への前記赤外線の経路に配置された波長分散素子(8)
前記出射面(4)から前記少なくとも一つの追加の赤外検出器(7)への前記赤外線の経路に配置された波長フィルタ(9)とを更に含み
前記ラインアレイ(6)の前記赤外検出器及び前記少なくとも一つの追加の赤外線検出器(7)それぞれ、それぞれの前記赤外検出器に入射する前記赤外の量を示す電気信号を出力するように構成され、
前記ラインアレイ(6)の前記赤外線検出器及び前記少なくとも一つの追加の赤外線検出器(7)からなる赤外線検出器のグループにおける少なくとも一つの赤検出器は、信号の修正用に選択された赤外検出器であるように選択され、前記ATR分光計(1)は、少なくとも一つの選択された赤外線検出器の前記電気信号を使用して、前記赤外線検出器のグループにおける他の全ての前記赤外線検出器の前記電気信号を修正するように構成されるATR分光計。
【請求項2】
請求項1に記載のATR分光計であって、
前記サンプルは前記ATR結晶の表面に接触して配置され、
択された赤外線検出器のそれぞれは、前記サンプルが吸収を有さない波長領域になるように、その対応する検出可能な波長範囲が選択されるATR分光計。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のATR分光計であって、
前記追加の赤外検出器(7)のそれぞれが、前記ラインアレイ(6)の赤外検出器のそれぞれより大きな光活性表面を有するATR分光計。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のATR分光計であって、
前記波長フィルタ(9)は帯域通過フィルタであるATR分光計。
【請求項5】
請求項4に記載のATR分光計であって、
前記少なくとも一つの追加の赤外線検出器(7)の少なくとも一つに関するスペクトル分解能は、前記ラインアレイ(6)の全ての赤外線検出器のスペクトル分解能より高いATR分光計。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載のATR分光計であって、
択された赤外光検出器のそれぞれは、前記ATR分光計(1)の動作中に、前記赤外線検出器のグループにおける他の全ての前記赤外線検出器によって出力される前記電気信号から選択された赤外線検出器のそれぞれによって出力される前記電気信号が減算されるように、前記赤外線検出器のグループの他の全ての前記赤外線検出器と接続されるATR分光計。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一つに記載のATR分光計であって、
前記赤外線検出器のグループにおける複数の赤外線検出器が、信号の修正用に選択された赤外線検出器であるように選択され、
前記ATR分光計(1)は、
前記複数の選択された赤外線検出器の前記電気信号を使用して波長依存関数(16)を生成し、前記波長依存関数(16)を使用して、前記赤外線検出器のグループの他の全ての前記赤外線検出器の前記電気信号を修正するように構成されるATR分光計。
【請求項8】
請求項7に記載のATR分光計であって、
記選択された赤外線検出器の少なくとも一つは、前記ラインアレイ(6)の前記赤外線検出器の一つであり、且つ
記選択された赤外線検出器の少なくとも一つは、前記少なくとも一つの追加の赤外線検出器(7)の一つであり、
前記少なくとも一つの追加の赤外線検出器(7)における前記選択された赤外線検出器に対応する前記波長フィルタ(9)は、前記ラインアレイ(6)で測定できるスペクトル外の波長領域の透過性を有するATR分光計。
【請求項9】
ンプルの化学組成を分析する方法であって、
a)請求項1から7のいずれか一つに記載のATR分光計(1)を準備するステップと
b)前記ラインアレイ(6)の前記赤外線検出器及び前記少なくとも一つの追加の赤外線検出器(7)からなる赤外線検出器のグループにおける少なくとも一つの赤外光検出器を選択された赤外光検出器として選択するステップであって、選択された赤外線検出器のそれぞれの対応する検出可能な波長範囲は、前記サンプルが吸収がない波長領域になるようにする、ステップと
c)前記ATR結晶(2)の表面に接触して前記サンプルを配置するステップと
d)前記少なくとも一つの赤外線光源(5)によって前記赤外線を放射するステップと
e)前記赤外線検出器のグループにおける前記赤外検出器のそれぞれによって、電気信号を出力するステップであって、電気信号のそれぞれは、前記赤外線検出器のそれぞれに入射する前記赤外の量を示す、ステップと
)選択された赤外線検出器のそれぞれの前記電気信号で、前記赤外線検出器のグループの他の全ての前記赤外線検出器の前記電気信号を修正するステップとを含む方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
ステップb)において、一つの赤外線検出器のみが選択される方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、
複数の前記赤外線光源(5)が設けられ、前記選択された赤外光検出器には、全ての前記赤外線光源(5)の前記赤外線が入射する、方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法であって、
ステップb)において、二つ以上の赤外線検出器が選択され、
el)二つ以上の選択された複数の赤外線検出器の前記電気信号を使用して波長依存関数(16)を生成するステップを更に含み
ステップf)において、前記波長依存関数(16)を使用して、前記赤外線検出器のグループの他の全ての前記赤外線検出器の前記電気信号を修正する方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、
記選択された赤外光検出器の少なくとも一つは、前記ラインアレイ(6)の前記赤外検出器の一つであり、且つ前記選択された赤外光検出器の少なくとも一つは、前記少なくとも一つの追加の赤外検出器(7)の一つであり、
記選択された赤外光検出器に対応する前記波長フィルタ(9)は、前記ラインアレイ(6)で測定できるスペクトル外の波長領域で透過性を有する方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか一つに記載の方法であって、
ステップb)において、FTIR分光計を使用して、異なる濃度の前記サンプル又は前記サンプルに類似する参照サンプルの吸光度スペクトルを測定し、
前記サンプルが吸収を有さない前記波長領域は、隣接する部分より濃度依存性が小さい前記吸光度スペクトルの一部として識別される方法。
【請求項15】
請求項9から14のいずれか一つに記載の方法であって、
前記少なくとも一つの追加の赤外線検出器(7)のそれぞれが、前記ラインアレイ(6)の赤外線検出器のそれぞれより大きな光活性表面を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルの化学組成を分析するためのATR分光計、及びATR分光計によってサンプルの化学組成を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サンプルの化学組成は、赤外分光法によって分析できる。赤外分光法は、赤外線光源から放射される広帯域赤外光をサンプルに照射し、赤外光がサンプルを通過した後にサンプルの吸光度スペクトルを測定する吸光分光計によって行われる。又は、ATR分光計を使用して赤外線分光法を行うことができる。該赤外線分光法では、ATR分光計のATR結晶と接触するサンプルで生成された赤外線のエバネッセント波が該サンプルと相互作用し、相互作用後のATRスペクトルが測定される。吸光度スペクトルとATRスペクトルの両方は、サンプルの吸光の波長依存測定、つまりサンプルとの相互作用後の光の減衰の測定を含む。吸光は、吸収成分と散乱成分で構成される。つまり、波長をλ、吸光度スペクトルをextinction(λ)、吸光度スペクトルの吸収成分をabsorption(λ)、吸光度スペクトルの散乱成分をscattering(λ)として、extinction(λ)=absorption(λ)+scattering(λ)となる。サンプルの化学組成を分析するために、通常、吸収のみが考慮される。サンプルに水が含まれている場合、水に関するピークはATRスペクトル中では吸光度スペクトルより目立たないため、ATR分光計は吸光分光計より有利である。これにより、水に関するピークは、吸光度スペクトル中よりATRスペクトル中の他のピークをカバーしない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、赤外線光源から放射される赤外光の強度が時間的に変動すれば、ATRスペクトルの強度も変動して、品質が低下する。さらに、ATR結晶と、消光スペクトルを測定するための赤外光の異なる部分を通過する線形可変フィルタは、ATR分光計の検出器を配置するためのスペースが限られるため、限られた寸法となっている。検出器のスペースが限られているので、ATRスペクトルのスペクトル分解能が低下し、又はATRスペクトルの測定可能範囲が狭くなる。このため、ATRスペクトルの品質が低下する。
【0004】
従って、本発明の目的は、ATRスペクトルを高品質で測定できるATR分光計及びATR分光計の動作方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による、サンプルの化学組成を分析するためのATR分光計は、ATR結晶の入口端の直近に配置される入射面と、入口端の反対側に配置され、ATR結晶の出口端の直近に配置される出射面とを有するATR結晶と、入射面に配置される少なくとも一つの赤外線光源と、出射面に配置され、赤外光検出器が線状に並べられたラインアレイと、出射面に配置され、少なくとも一つの単一の赤外光検出器とを備える。少なくとも一つの赤外光源は、入射面を介してATR結晶に入射し、ATR結晶にすぐ隣りに配置されるサンプルとの相互作用及び内部全反射の下で赤外光検出器に導かれる赤外光を放射するように構成される。波長分散素子は、出射面からラインアレイまでの赤外光の経路に配置されており、ラインアレイは、赤外光のスペクトルを測定するように構成され、波長フィルタは、出射面から単一の赤外光検出器までの赤外光の経路に配置される。赤外光検出器は、それぞれの赤外光検出器に入射する赤外光の量を示す電気信号を出力するように構成される。少なくとも一つの赤外光検出器は、信号修正用に選択された赤外光検出器として選択される。ATR分光計は、前記選択された赤外線検出器の電気信号を使用して、他の全ての前記赤外線検出器の電気信号を修正するように構成される。
【0006】
選択された赤外線検出器による他の全ての赤外線検出器の修正により、少なくとも一つの赤外線光源の変動を修正でき、そのためATRスペクトルの高品質な測定が有利に達成される。ラインアレイと少なくとも一つの赤外線検出器を使用するため、波長分散素子、ラインアレイの赤外光検出器、及び/又は少なくとも一つの単一の赤外光検出器の波長フィルタの波長特性の選択により、ATRスペクトルを測定する波長領域の選択と選択された赤外線検出器の波長領域の選択が極めて柔軟になる。赤外線検出器を配置するための利用可能なスペースが限られているにもかかわらず、この大きな柔軟性が得られる。この波長領域の選択による大きな柔軟性によって、これらの波長領域をサンプルの光学特性に適合させ、ATRスペクトルの品質をさらに高めることができる。
【0007】
好ましくは、赤外光は、赤外光検出器へ進行方向を変えることなく出射面から導かれる。これにより、ATR分光計のシンプルな設計が可能となる。
【0008】
好ましくは、サンプルはATR結晶のすぐ隣に配置され、選択された赤外線検出器は、サンプルが実質的に吸収を有さない波長領域になるように、対応する検出可能な波長範囲が選択される。このようにして、少なくとも一つの赤外線光源の強度の時間的変動を特に十分に補償でき、それにより、ATRスペクトルの品質をさらに高めることができる。
【0009】
好ましくは、単一の赤外線検出器のそれぞれが、ラインアレイの赤外線検出器のそれぞれより大きな光活性表面を有する。従って、単一の赤外線検出器は、ラインアレイの赤外線検出器より高い信号対雑音比を有する。単一の赤外線検出器の一つを使用してATRスペクトルの一部を測定する場合、この部分は高い信号対雑音比で有利に測定できる。また、ATRスペクトルの特定の成分を定量的に測定できる。単一の赤外線検出器の一つが信号修正用に選択された赤外線検出器の一つである場合、高い信号対雑音比のために高精度で信号を修正できる。どちらの場合も、単一の赤外線検出器の大きな光活性表面によって、ATRスペクトルの品質が向上する。
【0010】
好ましくは、出射面から単一の赤外光検出器までの赤外光の経路に配置される波長フィルタは帯域通過フィルタである。好ましくは、少なくとも一つの単一の赤外線検出器のスペクトル分解能は、ラインアレイの全ての赤外線検出器のスペクトル分解能より高い。この単一の赤外線検出器がATRスペクトルの一部の測定に使用される場合、ATRスペクトルのピークが解消する可能性があるが、ラインアレイのスペクトル分解能が低いために、ATRスペクトルのピークをラインアレイで検出できない。この単一の赤外線検出器が信号修正のために選択された赤外線検出器の一つである場合、信号の修正は、スペクトル分解能が低いため、ラインアレイの赤外線検出器の一つを使用した場合よりも高い精度で実行できる。どちらの場合も、単一の赤外線検出器の非常に高いスペクトル分解能により、ATRスペクトルの品質が向上する。
【0011】
好ましくは、ATR分光計の動作中に、他の全ての赤外線検出器によって出力される電気信号から選択された赤外線検出器によって出力される電気信号が減算されるように、選択された赤外線検出器は他の全ての赤外線検出器と接続される。このようにして、ATR分光計は、電気信号が増幅及び/又はデジタル化される前に電気信号を修正するように構成される。また、電気信号の修正は、ソフトウェアではなく、データ処理を高速化するハードウェアによって実行される。データ処理の高速化により、ATRスペクトルをより高い繰り返し数で測定できる。繰り返し数が高いほど、ATRスペクトルを平均化でき、ATRスペクトルの品質が向上する。
【0012】
修正は、例えば、選択された赤外線検出器によって出力された信号値を、他の全ての赤外線検出器の信号値から減算する。あるいは、修正は、選択された赤外線検出器によって出力される信号値の逆数を、他の全ての赤外線検出器の信号値の逆数から減算する。好ましくは、両方の選択肢について、ATR分光計は、複数の選択された赤外線光検出器の電気信号を使用して波長依存関数を生成し、波長依存関数を使用して他の全ての赤外線光検出器の電気信号を修正するように構成される。信号値が減算される場合、波長依存関数は、選択された赤外線検出器によって出力される信号値に波長依存関数を適合させることによって生成され、波長依存関数は他の全ての赤外光検出器によって出力される信号値から減算される。信号値の逆数が減算される場合、波長依存関数は、選択された赤外線検出器によって出力される信号値の逆数に波長依存関数を適合させることにより生成され、波長依存関数は、他のすべての赤外線検出器によって出力される信号値の逆数から減算される。これにより、赤外線光源の強度の変動だけでなく、赤外線光源のスペクトルドリフトも修正できる。これにより、ATRスペクトルの品質がさらに向上する。
【0013】
好ましくは、少なくとも一つの選択された赤外線検出器はラインアレイの赤外線検出器の一つであり、少なくとも一つの選択された赤外線検出器は単一の赤外線検出器の一つである。少なくとも一つの選択された赤外線検出器に対応する波長フィルタは、ラインアレイで測定できるスペクトル外の波長領域の透過性を有する。このようにして、選択された赤外線検出器で広いスペクトル範囲がカバーされるため、ほとんど波長に依存せずにスペクトルシフトを特に高精度で修正できる。選択された赤外線検出器に対応する検出可能な波長範囲が、サンプルが実質的に吸収しない波長領域にある場合、散乱の波長依存性が小さいため、サンプルの散乱の影響を特によく修正できる。
【0014】
本発明によるサンプルの化学組成を分析するための方法は、以下のステップを含む。
a)ATR結晶の入口端の直近に配置される入射面と、ATR結晶の入口端の反対側に配置される出口端の直近に配置される出射面とを有するATR結晶と、入射面に配置される少なくとも一つの赤外線光源と、出射面に配置され、赤外光検出器が線状に並べられたラインアレイと、出射面に配置され、少なくとも一つの赤外線検出器とを有し、少なくとも一つの赤外線光源は、入射面を通じてATR結晶に入射し、全反射及びATR結晶のすぐ隣に配置されるサンプルとの相互作用及び内部全反射の下で赤外光検出器に導かれる赤外光を放射するように構成され、出射面からラインアレイへの赤外光の経路に波長分散素子が配置され、ラインアレイが赤外光のスペクトルを測定するように構成されており、出射面から単一の赤外光検出器への赤外光の経路に波長フィルタが配置されるATR分光計を提供する。b)少なくとも一つの赤外光検出器を選択された赤外光検出器として選択し、該選択された赤外線検出器に対応する検出可能な波長範囲は、サンプルが実質的に吸収がない波長領域になるようにする。c)ATR結晶のすぐ隣にサンプルを配置する。つまり、サンプルをATR結晶の表面に接触させる。d)少なくとも一つの赤外線光源によって赤外線を放射する。e)赤外光検出器のそれぞれに入射する赤外光の量を示す電気信号を赤外光検出器のそれぞれから出力する。f)選択された赤外線検出器の電気信号で、他の全ての赤外線検出器の電気信号を修正する。
【0015】
ステップf)で、選択された赤外線検出器から出力される信号値を、他の全ての赤外線検出器の信号値から減算できる。あるいは、選択された赤外線検出器によって出力される信号値の逆数を、他の全ての赤外線検出器の信号値の逆数から減算できる。ステップb)で、好ましくは、赤外光検出器の一つのみが選択される。このようにして、好ましくは、少なくとも一つの赤外線光源によって放射される赤外光の強度の変動を効果的に補償できる。これにより、好ましくは、複数の赤外線光源が設けられ、選択された赤外光検出器が全ての赤外線光源の赤外光による影響を受ける。このようにして、選択された赤外線検出器の一つだけで、多数の赤外線光源から放射される赤外線の強度の変動を補償できる。
【0016】
両方の選択肢、すなわち信号値の減算又は信号値の逆数の減算の場合、好ましくは、ステップb)で複数の赤外線検出器が選択され、方法は以下のステップを含む。el)選択された複数の赤外線検出器の電気信号を使用して波長依存関数を生成する。ステップf)で、波長依存関数を使用して、他の全ての赤外線検出器の電気信号が修正される。信号値が減算される場合、波長依存関数は、選択された赤外線検出器によって出力される信号値に波長依存関数を適合させることによって生成され、波長依存関数は他の全ての赤外線光検出器によって出力される信号値から減算される。信号値の逆数が減算される場合、波長依存関数は、選択された赤外線検出器によって出力された信号値の逆数に波長依存関数を適合させることにより生成され、波長依存関数は他の全ての赤外線検出器によって出力される信号値の逆数から減算される。従って、有利なことに、赤外線光源によって放射される赤外光のスペクトルシフトの補償を達成できる。
【0017】
これにより、好ましくは、少なくとも一つの選択された赤外線検出器がラインアレイの赤外線検出器の一つであり、少なくとも一つの選択された赤外線検出器が単一の赤外線検出器の一つである。少なくとも一つの選択された赤外光検出器に対応する波長フィルタは、ラインアレイで測定できるスペクトル外の波長領域で透過性を有する。それにより、散乱の影響を特に高精度で修正できる。
【0018】
ステップb)で、特にFTIR分光計を使用して、異なる濃度のサンプル又はサンプルに類似する参照サンプルの吸光度スペクトルを測定し、サンプルが実質的に吸収を有さない波長領域は、隣接する部分より濃度依存性が小さい吸光度スペクトルの一部として識別される。例えば、サンプルがエタノールと水を含み、サンプル内のエタノール濃度を決定しようとする場合、エタノールと水を含む参照サンプルを測定するだけで十分である。なぜなら、エタノール濃度が異なると、吸光度スペクトルの絶対強度は異なるが、スペクトルは変化しないからである。
【0019】
濃度依存度が隣接部分より小さい吸光度スペクトルの部分を識別するために、例えば、濃度に関して吸光度スペクトルの導関数を形成し、このように形成されたスペクトルの局所的最小値を識別することが考えられる。
【0020】
あるいは、計量化学法(ケモメトリックス法)を使用することも考えられる。計量化学法では、ガウス型のウィンドウなどの吸光度スペクトルのウィンドウが、吸光度スペクトルの一方の端から吸光度スペクトルの他方の端まで選択され、これらのウィンドウは濃度の反復で減じられる。これらの修正されたスペクトルは、部分最小二乗(PLS)回帰を介して、標準誤差の二乗平均平方根(RMSE)と測定濃度と予測濃度のRが取得される。最良のR、つまり最も1に近いもの及び対応するウィンドウは、サンプルが実質的に吸収を有さない波長領域に対して選択される。
【0021】
好ましくは、FTIR分光計は、少なくとも5cm-1、特に少なくとも1cm-1のスペクトル分解能を有する。この高いスペクトル分解能によって、サンプルが実質的に吸収を有さない消光スペクトルの波長領域を簡単に特定できる。さらに、好ましくは、消光スペクトルは2μmから20μmのスペクトル範囲をカバーする。FTIR分光計は、赤外光がサンプル又は参照サンプルを確実に透過する強力な赤外線光源を有しているため、さらに有利である。
【0022】
好ましくは、ステップa)において、本発明又は好ましいATR分光計の一つが提供される。
【0023】
以下において、本発明は概略図に基づいて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のATR分光計の第1の実施形態の上面図を示す。
図2】本発明のATR分光計の第2の実施形態の上面図を示す。
図3】本発明のATR分光計の両方の実施形態の側面図を示す。
図4】修正前のATRスペクトルを示す。
図5】修正後のATRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1から図3に示すように、サンプルの化学組成を分析するためのATR分光計1は、ATR結晶2、少なくとも一つの赤外光源5、赤外光検出器が線状に並べられたラインアレイ6、及び少なくとも一つの単一の赤外光検出器7を含む。図1及び図2は、少なくとも一つの単一の赤外線検出器7及びラインアレイ6が互いに離れて配置され、ラインアレイ6と単一の赤外線検出器7との間に空間が配置されることを示す。複数の単一の赤外光検出器7が設けられる場合、隣接する単一の赤外光検出器7の間にさらなる空間を設けることができる。ATR結晶2は、ATR結晶2の入口端の直近に配置される入射面3を有する。出射面4は、ATR結晶2の出口端の直近に配置され、出口端は入口端の反対側に配置される。少なくとも一つの赤外線光源5は、入射面3に配置される。赤外光検出器のラインアレイ6及び単一の赤外光検出器7は、出射面4に配置される。
【0026】
サンプルの化学組成を分析するために、サンプルはATR結晶2のすぐ近くに配置され、このため、サンプルがATR結晶2の表面に接触し、入射面3及び出射面4に面していないが、入射面3及び出射面4に平行に配置される(図3参照)。
【0027】
少なくとも一つの赤外線光源5は、入射面3を通じてATR結晶2に入り、出射面4を通じてATR結晶2を出て、赤外光検出器、すなわち全反射及びサンプルとの相互作用下で、ラインアレイ6及び少なくとも一つの単一の赤外線検出器7に導かれる赤外光を発するように構成される。赤外光は、方向転換することなく、すなわち、赤外光が進行方向を変えることなく、出口表面4から赤外光検出器に導かれる。図3は、波長分散素子8が出射面4からラインアレイ6への赤外光の経路に配置され、ラインアレイ6が赤外光のスペクトルを測定するようになっていることを示している。波長分散素子は、例えば、プリズム、格子、及び/又は線形可変フィルタでよい。波長フィルタ9は、出射面4から単一の赤外光検出器7までの赤外光の経路に配置される。複数の単一赤外光検出器7が設けられる場合、それぞれの波長フィルタ9がそれぞれの単一の赤外光検出器7に設けられる。波長フィルタ9のそれぞれは、異なる波長依存透過性を有する。
【0028】
赤外光検出器は、それぞれの赤外光検出器に当たる赤外光の量を示す電気信号を出力するように構成される。電気信号は、例えば、電流又は電圧でよい。電気信号は、通常、それぞれの赤外光検出器に当たる光の量が増えると高くなる。少なくとも一つの赤外線検出器が、信号修正用に選択された赤外線検出器として選択される。ATR分光計1は、選択された赤外線検出器の電気信号を使用して、他の全ての赤外線検出器の電気信号を修正するように構成されている。
【0029】
図1は、ATR分光計1の第1の実施形態を示す。第1の実施形態では、ラインアレイ6の全体を照明し、単一の赤外光検出器7の全体を照明するために十分に大きい指向角を有する唯一の赤外線光源5が設けられる。図2は、ATR分光計1の第2の実施形態を示す。第2の実施形態では、二つの赤外線光源5が設けられ、各赤外光検出器は二つの赤外線光源5の少なくとも一つによって照射される。一つだけの選択された赤外線検出器が提供される場合、この選択された赤外線検出器は、両方の赤外線光源5によって照射される場所に配置される。
【0030】
図4及び図5は、選択した赤外線光検出器の電気信号を使用して、他の全ての赤外線光検出器の電気信号を修正する方法を示す。図4は修正前のATRスペクトル10を示し、図5は修正後のATRスペクトル11を示す。修正前のATRスペクトル10を決定するために、全ての電気信号の逆数が使用され、図4の場合、周波数vに対してプロットされる。図4及び図5は、ラインアレイ6によって測定可能なスペクトルの波長範囲12も示す。
【0031】
ATR分光計1は、選択された複数の赤外線検出器の電気信号を使用して波長依存関数16を生成し、波長依存関数16を使用して他の全ての赤外線検出器の電気信号を修正するように構成される。
【0032】
少なくとも一つの選択された赤外線検出器は、ラインアレイ6の赤外線検出器の一つである。図4及び図5の場合、二つの選択された赤外線検出器がラインアレイ6から選択される。選択された赤外線検出器の少なくとも一つは、一つの単一の赤外線検出器7である。図4及び図5の場合、単一の赤外線検出器の一つだけが、選択された赤外線検出器の一つである。その結果、図4及び図5によれば、ATR分光計1は、三つの選択された赤外線検出器を備える。一つの選択された赤外光検出器、つまり単一の赤外光検出器7に対応する波長フィルタ9は、バンドパスフィルタであり、ラインアレイ6で測定できるスペクトル外の波長領域に透過性を有する(図4及び図5参照)。
【0033】
選択された赤外光検出器は、それらの対応する検出可能な波長範囲が、サンプルが実質的に吸収を有さない波長領域にあるように選択される。ATR分光計1は三つの選択された赤外光検出器を有するため、ATR分光計1は実質的に吸収がないATRスペクトルの三つの異なる波長領域を測定するように構成されている。図4及び図5から分かるように、第1の波長領域13はラインアレイ6の二つの選択された赤外線検出器の一つに対応し、第2の波長領域14はラインアレイ6の二つの選択された赤外線検出器の他の一つに対応し、第3の波長領域15は単一の赤外光検出器7に対応する。
【0034】
波長領域を選択するために、FTIR分光計を使用して、サンプル又はサンプルに類似する参照サンプルの吸光度スペクトルを測定することが考えられる。実質的に吸収がない波長領域は、吸光度スペクトルから決定できる。
【0035】
ATR分光計1は、選択された赤外光検出器によって出力される信号値の逆数に波長依存関数16を適合させるように構成される。図3による波長依存関数16は、y(v)=a+b×exp(c×v)という形式を有し、a、b、及びcは波長依存関数16のパラメータである。波長依存関数16の三つの点は、三つの選択された赤外線検出器によって決定されるため、関数yは明確に決定される。しかし、波長依存関数16の他の形態も考えられる。波長依存関数16が導出された後、波長依存関数が図4のATRスペクトル10から減じられる。減算の結果、図5のATRスペクトル11が得られる。このようにして、少なくとも一つの赤外光源5のスペクトルドリフトを補償でき、同時に散乱の寄与をATRスペクトル10から除去できる。
【0036】
サンプルの化学組成は、修正後のスペクトル11の少なくとも一部へのランベルト・ベールの法則の適用によって、及び/又は修正後のスペクトル11への計量化学法の適用によって分析できる。
【符号の説明】
【0037】
1 ATR分光計
2 ATR結晶
3 入射面
4 出射面
5 赤外線光源
6 ラインアレイ
7 単一赤外線検出器
8 波長分散素子
9 波長フィルタ
10 修正前のATRスペクトル
11 修正後のATRスペクトル
12 ラインアレイの波長範囲
13 第1の波長領域
14 第2の波長領域
15 第3の波長領域
16 波長依存関数
図1
図2
図3
図4
図5