IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エーオー テクノロジー アーゲーの特許一覧

特許7241065弾性表面波(SAW)3Dプリンティング法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】弾性表面波(SAW)3Dプリンティング法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20230309BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20230309BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20230309BHJP
【FI】
C12N5/00
C12M1/00 Z
C12M3/00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020511296
(86)(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2018073028
(87)【国際公開番号】W WO2019038453
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】01058/17
(32)【優先日】2017-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】510279125
【氏名又は名称】エーオー テクノロジー アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティツィアーノ セッラ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィッド オリビエ エグリン
(72)【発明者】
【氏名】マウロ アリーニ
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/030964(WO,A2)
【文献】特表2007-508058(JP,A)
【文献】特開平08-182754(JP,A)
【文献】SHAHID M NASEER; ET AL,SURFACE ACOUSTIC WAVES INDUCED MICROPATTERNING OF CELLS IN GELATIN METHACRYLOYL (GELMA) HYDROGELS,BIOFABRICATION,英国,INSTITUTE OF PHYSICS PUBLISHING LTD,2017年03月,VOL:9, NR:1,PAGE(S):15020/1-11
【文献】JASON W NICHOL; ET AL,MODULAR TISSUE ENGINEERING: ENGINEERING BIOLOGICAL TISSUES FROM THE BOTTOM UP,SOFT MATTER,THE ROYAL SOCIETY OF CHEMISTRY,2009年,VOL:5, NR:7,PAGE(S):1312 - 1319,https://pdfs.semanticscholar.org/13d5/57a0851062a78152008be37409ecc771ca28.pdf?_ga=2.66275822.1969287892.1610944019-1286216826.1522720477
【文献】KLOTZ BARBARA J; ET AL,GELATIN-METHACRYLOYL HYDROGELS: TOWARDS BIOFABRICATION-BASED TISSUE REPAIR,TRENDS IN BIOTECHNOLOGY,英国,ELSEVIER PUBLICATIONS,2016年02月09日,VOL:34, NR:5,PAGE(S):394 - 407,http://dx.doi.org/10.1016/j.tibtech.2016.01.002
【文献】ACS Appl. Mater. Interfaces,2015年,Vol.7,pp.10386-10394
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12M 1/00- 3/10
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程a.、b.及びc.を含む、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
a. 次のi~iiiによって、微粒子サブ構造もしくは微粒子構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程:
i. 1以上の振動発生器に振動的に連結された1以上の内面部分を有する容器内に、ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液を提供し;
ii. 前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の前記微粒子の懸濁液を、前記振動発生器に振動的に連結された前記容器の1以上の内面部分から発する振動にさらして、前記ヒドロゲルマトリクス前駆体内に定在音波を引き起こし、それにより、ヒドロゲル前駆体の前記層内で前記微粒子を空間的に分配して微粒子サブ構造もしくは微粒子構造とし、ここで、前記微粒子サブ構造または前記微粒子構造は、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液を、10Hz~800Hzの周波数にさらすことにより形成され
iii. 前記ヒドロゲル前駆体を、固化し、微粒子サブ構造もしくは微粒子構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成し、ここで、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体は、該ヒドロゲルマトリックス前駆体を部分的に架橋することによって固化される、
b. 前記工程a.を実施することによって微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスのさらなる層を形成し、前記さらなる層を、微粒子サブ構造が中に包埋された、先に形成されたヒドロゲルマトリックスの層の上に堆積させて、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成する工程;及び、
c. 前記工程b.を少なくとも1回、2回、3回又はそれより多い回数繰り返して、最終的に、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成する工程。
【請求項2】
前記工程a.のiii.において、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体は、架橋剤用いて、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体を部分的に架橋することによって固化される、請求項1に記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
【請求項3】
前記ヒドロゲルマトリックスは、ゼラチンメタクリレート又はヒアルロン酸メタクリレート、コラーゲン、フィブリン/トロンビン、マトリゲル、アガロース、ヒアルロン酸チラミン、ゼラチンチラミン、アルギン酸を含む、請求項1又は2に記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
【請求項4】
前記微粒子は無機微粒子であり、及び/又は、前記微粒子は有機微粒子であり、及び/又は、前記微粒子は細胞、細胞の凝集体、又は、細胞スフェロイドであり、及び/又は、前記微粒子は2以上の異なる種類の有機微粒子である、請求項1~のいずれかに記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
【請求項5】
前記無機微粒子は、インプラントでのバイオミネラリゼーションをサポートすることができ及び/又は、前記有機微粒子は、医療用インプラントでの足場を形成することができ、請求項に記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
【請求項6】
1つの層の前記微粒子サブ構造もしくは微粒子構造は、別の層の微粒子サブ構造もしくは微粒子構造と、同一の粒子分布、類似の粒子分布、又は、れとは異なる粒子分布を有するように形成される、請求項1~のいずれかに記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
【請求項7】
前記微粒子の懸濁液は2以上の異なる種類の微粒子の懸濁液であり、前記層の微粒子サブ構造もしくは微粒子構造が、前記2以上の異なる種類の微粒子で形成され、前記2以上の異なる種類の微粒子は前記層内に同一の、類似の、又はなる粒子分布を有する、請求項1~のいずれかに記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
【請求項8】
前記層の微粒子サブ構造もしくは微粒子構造は、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液を単一振動パルスにさらすことによって形成される、請求項1~のいずれかに記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
【請求項9】
前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層内で前記微粒子を空間的に分配して微粒子サブ構造とするために、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体内に引き起こされる定在音波を、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程の間で変更する、請求項1~のいずれかに記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
【請求項10】
微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する前記工程のうち少なくとも1つで、前記微粒子の濃度を、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程間で変更する、即ち、増減する、請求項1~のいずれかに記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
【請求項11】
微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する前記工程のうち少なくとも1つで、前記微粒子の濃度の種類を、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程間で変更する、即ち、増減する、請求項1~10のいずれかに記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
【請求項12】
微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する前記工程のうち少なくとも1つで、前記ヒドロゲルマトリックスの種類を、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程間で変更する、即ち、増減する、請求項1~11のいずれかに記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法。
【請求項13】
以下の工程d.をさらに含む、請求項1~12のいずれかに記載のヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法:
d. 微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの堆積させた層を架橋させて、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成す工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を得るための付加製造法(additive manufacturing)に関連する。
【背景技術】
【0002】
生細胞を含む三次元構築物のための最先端の製造技術は、非常に特殊なバイオインクの開発を必要とするか、又は、足場上での単一細胞の操作/堆積に基づいているが、これは、大きな構築物又は多数の構築物の製造が必要な場合、非常に長いプロセスとなる。
【0003】
音波は、架橋され得る液体培地内での細胞の位置決めに有用であることが知られており、これにより生細胞及び/又は生物活性粒子を含む概ね二次元の構築物を非常に速く得ることができる。音波にさらされた液体培地内での細胞の位置決めはほぼ瞬時であるため、架橋可能な培地内で生細胞及び/又は生物活性粒子を固定するために必要な時間は、主に架橋可能な培地が固化するのに必要な時間によって決まる。しかしながら、定在音波を用いる場合、細胞の分配は液体層の表面上の節と腹の位置によって左右されるため、細胞を凡そ二次元的に方向づけることしかできない。一例として、例えば球体又は円錐体など、z方向、すなわち液体培地の表面に垂直な方向に沿って変化する構造を形成することは不可能である。そのような構造は、例えば3Dプリンティング技術によって形成することもできるが、これらの技術には、比較的時間がかかり、特別なバイオインクと3Dプリンティング装置を必要とするという欠点がある。さらに、プリンティング装置のノズルを通してバイオインクを押し出す際に細胞が受けるせん断力は、細胞の生存率を低下させる。
【0004】
特許文献1は、多層パターン化セルアセンブリを作成する方法に関し、細胞を含む細胞懸濁液溶液が液体キャリアチャンバに装填される。細胞懸濁液溶液中の細胞が重力でチャンバの底に沈むと、いわゆるファラデー波の形の流体力学的抗力が振動発生器によって加えられ、その結果、沈下した細胞が特定の方向へと方向づけられる。
【0005】
特許文献2は、足場を用いずに組織再生を提供するシステム及び方法を提供する。このシステムは、組織再生プロセスを増進させるのに適した流体を入れた容器と、容器の一端の音響トランスデューサと、容器の反対端のリフレクタとを含む。このトランスデューサは、容器内に定在音響場を作り出して流体内の細胞を複数の構造物に閉じ込める音響信号を提供する。
【0006】
特許文献3は、液体を含むチャネル内に、細胞等の対象物の多層凝集体を形成する方法に関し、この凝集体は、各領域内において前記対象物に定在波等の音響波を印加することによって形成される。
【0007】
特許文献4は、対象物のロボット操作のためのシステム及び方法を提供し、ここでは、例えば振動などによりエネルギーを伝えて攪拌した液体中に定在波を形成して、定在波の節に沿って対象物を整列させる。定在波の位置は、容器の大きさや形状を変えてエネルギー入力を制御することにより決定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO 2016/069493 A2
【文献】WO 2015/112343 A1
【文献】WO 2013/118053 A1
【文献】US 2004/0137163 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、体積の大きい構築物を時間効率良く且つ十分な複雑さで得ることができ、細胞生存率が維持される付加製造法が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、本発明において、それほど複雑でない装置を用いて複雑な三次元構造を作製することができ、同時にそのような複雑な三次元構造を提供するのに必要な時間を短縮することのできる方法を提供することにより解決された。
【0011】
本発明の目的は、以下の工程a.を含む、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法を提供することである:
a.次のi)~iii)によって、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程:
i)1以上の振動発生器に振動的に連結された1以上の内面部分を有する容器内に、ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液を提供し;
ii)前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の前記微粒子の懸濁液を、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体内に定在音波を引き起こすように前記振動発生器に振動的に連結された容器の少なくとも内面部分から発する振動にさらし、それにより、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層内で微粒子を空間的に分配して微粒子サブ構造もしくは微粒子構造とし;
iii)前記ヒドロゲルマトリックス前駆体を、微粒子サブ構造もしくは微粒子構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成するように固化させる。
このようにして、本発明は、定在音波を用いて、ヒドロゲルマトリックスの単一層内に、2つ以上の異なる種類の微粒子を異なるように分配させ得る方法を提供する。
【0012】
好ましい実施形態において、本発明による方法は、以下の工程b、及び/又は最後に工程c.をさらに含む:
b.工程a.を別個の容器内で実施することにより、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスのさらなる層を形成し、該さらなる層を、特に、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成するように、微粒子サブ構造が中に包埋された、先に形成されたヒドロゲルマトリックスの層の上に堆積させる工程。
c.工程b.を、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成するように、少なくとも1回、2回、3回又はそれより多い回数繰り返す工程。
【0013】
本発明の別の目的は、以下の工程a.、b.及びc.を含む、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法を提供することである:
a.次のi)~iii)によって、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程:
i)1以上の振動発生器に振動的に連結された1以上の内面部分を有する容器内に、ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液を提供し;
ii)ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の前記微粒子の懸濁液を、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体内に定在音波を引き起こすように振動発生器に振動的に連結される容器の少なくとも内面部分から発する振動にさらし、それにより、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層内で微粒子を空間的に分配して微粒子サブ構造とすること。
iii)前記ヒドロゲルマトリックス前駆体を、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成するように固化させる。
b.工程a.を別個の容器内で実施することにより、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスのさらなる層を形成し、該さらなる層を、微粒子サブ構造が中に包埋された、先に形成されたヒドロゲルマトリックスの層の上に堆積させる工程。
c.工程b.を、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成するように、少なくとも1回、2回、3回又はそれより多い回数繰り返す工程。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して以下に説明するが、これらは本発明の好ましい実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定するためのものではない。
【0015】
図1図1は、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される微粒子構造の写真(a、b、c)を示し、これは微粒子の分配のシミュレーション予測を裏付ける。対応するシミュレーション予測の斜視図(d、e、f)と上からの図(g、h、i)を示す。
図2図2は、定在音波を生成する装置とその各種部分(a、b、c)を示す。図2d~2iに、周波数158Hz、振幅約6Vを用いて得られたパターン形成hMSCの蛍光顕微鏡画像を示す。図2dから分かるように、得られたパターンは同心円を形成する。図2e~2iは、より高倍率の蛍光顕微鏡画像を示し、これらの図では、核がDAPIで染色され、アクチン細胞骨格がファロイジンで染色されている。
図3図3は、GelMAにTCP微粒子が丸みを帯びた碁盤目状に包埋されたGelMA/TCP微粒子懸濁液(a、b)、GelMAに酸化鉄ナノ粒子が包埋された連続で均質な層を示すGelMA/酸化鉄ナノ粒子懸濁液(c)、GelMAに同心円状にTCP微粒子が包埋されたGelMA/TCP微粒子懸濁液(f,h)、並びに、各層の重ね合わせ(d、i)を示す。
図4図4は、三層のGelMAヒドロゲルの重ね合わせを説明する概略図を示す。
図5図5は、得られた3つの試料の画像を示し、直径が32~75μmのTCP粒子(白色粒子)と直径が37~74μmの樹脂粒子(灰色)が異なるように分配されている。円形のカラの空間が黒く現れている。
図6図6は、得られた試料の蛍光画像を示し、直径が250~500μmのTCP粒子(黒色粒子)は疑似円形を形成し、疑似円形のhMSCsスフェロイドは凝集している(灰色粒子)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の目的は、以下の工程a.を含む、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法を提供することである:
a.次のi)~iii)によって、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程:
i)1以上の振動発生器に振動的に連結された1以上の内面部分を有する容器内に、ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液、好ましくは、2以上の異なる種類の微粒子の懸濁液を、提供し;
ii)前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液、好ましくは2以上の異なる種類の微粒子の懸濁液を、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体内に定在音波を引き起こすように前記振動発生器に振動的に連結された容器の少なくとも内面部分から発する振動にさらして、それにより、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層内で、微粒子を空間的に分配して微粒子サブ構造もしくは微粒子構造とする、好ましくは、2以上の異なる種類の微粒子を空間的に異なるように分配して微粒子サブ構造もしくは微粒子構造とし;
iii)前記ヒドロゲルマトリックス前駆体を、微粒子サブ構造もしくは微粒子構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成するように固化させる。
【0017】
好ましい実施形態では、本発明による方法は、以下の工程b、及び/又は最後に工程cをさらに含む:
b.工程a.を別個の容器内で実施することにより、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスのさらなる層を形成し、該さらなる層を、特に、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成するように、微粒子サブ構造が中に包埋された、先に形成されたヒドロゲルマトリックスの層の上に堆積させる工程。
c.工程b.を、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成するように、少なくとも1回、2回、3回又はそれより多い回数繰り返す工程。
【0018】
本発明の別の目的は、以下の工程a.、b.及びc.を含む、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造のための交互積層法(layer-by-layer process)を提供することである:
a.次のi)~iii)によって、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程:
i)1以上の振動発生器に振動的に連結された1以上の内面部分を有する容器内に、ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液を提供し;
ii)前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の前記微粒子の懸濁液を、ヒドロゲルマトリックス前駆体内に定在音波を引き起こすように前記振動発生器に振動的に連結された前記容器の少なくとも内面部分から発する振動にさらして、それにより、ヒドロゲルマトリックス前駆体の層内で微粒子を空間的に分配して微粒子サブ構造とし;
iii)前記ヒドロゲルマトリックス前駆体を、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成するように固化させる。
b.工程a.を別個の容器内で実施することにより、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスのさらなる層を形成し、該さらなる層を、微粒子サブ構造が中に包埋された、先に形成されたヒドロゲルマトリックスの層の上に堆積させる工程。
c.工程b.を、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成するように、少なくとも1回、2回、3回又はそれより多い回数繰り返す工程。
【0019】
本発明による、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法において、前記三次元微粒子構造は、該方法がz方向、即ち、ヒドロゲル前駆体の表面に垂直な方向における該構造の分解能を除いて(これは、もちろん、ヒドロゲルマトリックス前駆体の個々の層の厚さに依存する)、三次元微粒子構造に関して制限がないので、任意の形状を有することができる。層の厚さは通常マイクロメートル範囲、例えば50~500マイクロメートルであるが、本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法においては、最大で10又は15mmでさえあり得、これにより、体積の大きいヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される複雑な三次元微粒子構造の高速生産が可能となる。ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の例としては、球体、閉じた円筒、円錐などを挙げることができる。本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法に適する容器は、容器内のヒドロゲルマトリックス前駆体に振動発生器からの振動を効果的に伝達できる限り、いかなる形状であってもよいし、いかなる材料からなっていてもよい。容器の例としては、例えば、ポリマー又はガラスのペトリ皿が挙げられる。
【0020】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法において、該微粒子構造は、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される。微粒子構造は、その全体が1種類の微粒子から形成されてもよいし、又は異なる種類の微粒子から形成されてもよいと理解される。さらに、ヒドロゲルマトリックスの各層における微粒子の濃度や微粒子の種類をそれぞれ選択して、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される所望の全体的な三次元微粒子構造に至ることは、当業者が想到する範囲内であるだろうと理解される。さらに、これらの考慮事項は、各層のヒドロゲルマトリックスの種類にも同様に適用され、本方法の各層形成の繰り返しにおいて変えることができると理解される。
【0021】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法において、該三次元微粒子構造は、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスを複数層形成し、これらを、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成するように重ね合わせることによって得られる。
【0022】
ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成する層は、以下によって形成される:
1以上の振動発生器に振動的に連結された1以上の内面部分を有する容器内に、ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液を提供すること;
前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液を、ヒドロゲルマトリックス前駆体内に定在音波を引き起こすように振動発生器に振動的に連結された容器の少なくとも内面部分から発される振動にさらして、それにより、前記ヒドロゲルマトリックス前駆体の層内で微粒子を空間的に分配して微粒子サブ構造もしくは微粒子構造とすること;及び
前記ヒドロゲルマトリックス前駆体を、微粒子サブ構造もしくは微粒子構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成するように固化させること。
【0023】
容器内のヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液は、予め、ヒドロゲルマトリックス前駆体中の微粒子の懸濁液を調製して、そのうちの所定量を容器に投与することによって提供することができる。ヒドロゲルマトリックス前駆体中の微粒子の懸濁液は、微粒子とヒドロゲルマトリックス前駆体の混合物を、好ましくはヒドロゲルマトリックス前駆体内に微粒子の等方性の空間分布が得られるように、攪拌することによって調製してもよい。微粒子が細胞の場合、加えて、細胞を分配するのに定在音波を用いることによって生じる生存能力の保存性を存分に生かすように、細胞の生存能力が減少しない方法で、混合物を攪拌することが好ましい。定在音波を生み出すために、ヒドロゲルマトリックス前駆体中の微粒子の懸濁液を入れる容器は、1以上の振動発生器に振動的に連結された1以上の内面部分を有する。これにより、定在音波の発生をもたらす振動を、ヒドロゲルマトリックス前駆体中の微粒子の懸濁液に伝えることができ、ヒドロゲルマトリックス前駆体内で微粒子を分配することができる。一旦定在音波が形成されると、微粒子は、定在音波の節領域下に集まり、腹領域に微粒子がないように空間的に分離する。一旦微粒子が空間的に分離してしまうと、ヒドロゲルマトリックス前駆体は、微粒子サブ構造もしくは微粒子構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成するように固化される。ヒドロゲルマトリックス前駆体の層を固化することによって、微粒子は空間的に固定されて、ヒドロゲルマトリックスの連続相に包埋される。そして、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの次の層を形成するプロセスを、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される最終的な三次元微粒子構造が得られるまで、複数回繰り返すことができる。従って、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される最終的な三次元微粒子構造は、基本的には、予め形成されたヒドロゲルマトリックスの層に包埋された微粒子サブ構造の層を積み重ねることによって形成される。
【0024】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態では、ヒドロゲル前駆体を部分的に架橋することにより、ヒドロゲル前駆体を固化させる。「ヒドロゲル前駆体を部分的に架橋する」とは、実質的には、各層中のヒドロゲル前駆体を、微粒子を包埋する固化したヒドロゲル前駆体の連続した一層をもたらすように、層の大部分にわたって、部分的且つ均一に架橋させることと理解される。ヒドロゲルマトリックス前駆体を部分的にのみ架橋することにより、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの固化層は、その架橋能力の一部を保持する。従って、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの後の層が、部分的に架橋された先の層の上に堆積されると、先の層と後の層はそれらの間で架橋することができる。このようにして、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造が形成され、これは、物体を構成する層が互いに結合され、互いに対して横方向に滑ることができないため、機械的特性が向上する。本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、このように、ヒドロゲル前駆体は、架橋剤を放射線によって活性化できる場合には、ヒドロゲル前駆体を完全に架橋するのに必要な放射線量の60%、70%、又は80%、あるいは60%~80%にさらすことにより、ヒドロゲル前駆体を部分的に架橋することによって固化させる。本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法のより好ましい実施形態では、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を形成する、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの部分的に架橋された層は、追加の工程において完全に架橋され、より良好な機械的特性を有し、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの個々の層が互いと接着している、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造を産出する。本発明の文脈において、「固化する」とは、物質が自らを支えられることを意味する。
【0025】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、ヒドロゲル前駆体は、ヒドロゲル前駆体を部分的に架橋することによって固化させられ、前記部分的な架橋は、活性化されると即座に架橋しない架橋剤を用いることによって達成される。微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの先の層の架橋が完了する前に、この先の層の上に、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスのさらなる層が堆積されると、層の結合が高まり、機械的耐性のある、ヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造をもたらす。
【0026】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、ヒドロゲル前駆体は、架橋剤、好ましくは、放射線又は温度変化等の物理的刺激や、酵素、pH変化又はイオン濃度変化等の化学的刺激によって活性化することのできる架橋剤を用いて、ヒドロゲル前駆体を部分的に架橋することにより固化される。放射線又は温度変化等の物理的刺激によって活性化することのできる架橋剤を用いる場合は、ヒドロゲル層の温度を制御する加熱/冷却システムや、ヒドロゲル層を照射できるHg真空ランプ又はLEDランプを用いることができる。化学的刺激によって活性化することのできる架橋剤を用いる場合は、この化学的刺激を、ヒドロゲル層にスプレーガンで与えることができる。
【0027】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、ヒドロゲルマトリックスは、ゼラチンメタクリレート又はヒアルロン酸メタクリレートを含む。あるいは、ヒドロゲルマトリックスは、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン/トロンビン、マトリゲル、アガロース、ヒアルロン酸チラミン(hyaluronan tyramine)、ゼラチンチラミン、アルギン酸、又は生物医学的応用に使用するのに好適である当技術分野で公知の他のヒドロゲルをさらに含んでもよい。
【0028】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、微粒子は無機微粒子であり、詳細には、インプラントでのバイオミネラリゼーションをサポートすることのできる無機微粒子であって、例えば、ハイドロキシアパタイト微粒子やリン酸カルシウムである。
【0029】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、微粒子は有機微粒子、詳細には、医療用インプラントでの足場を形成することのできる有機微粒子、例えばポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸である。
【0030】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、微粒子は細胞、又は細胞の凝集体、又は細胞スフェロイドである。詳細には、該細胞は、骨芽細胞、線維芽細胞、角化細胞、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)、軟骨細胞、又はヒト臍帯静脈内皮細胞(hUVEC)等の動物細胞であってよい。
【0031】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、微粒子は2つ以上の異なる種類の有機微粒子である。本発明の文脈において、異なる種類の微粒子とは、概して、同じ定在音波にさらされたときに空間的に異なるように分配される微粒子の種類であると理解される。微粒子の種類の違いとしては、例えば、密度、形状(geometries)、化学組成、粒子径、細胞種、及びこれらを組み合わせたものに関する違いであってもよい。
【0032】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、無機微粒子は、インプラントでのバイオミネラリゼーションをサポートすることができ、例えば、ハイドロキシアパタイト微粒子やリン酸カルシウム微粒子等であり、及び/又は、有機微粒子は、医療用インプラントでの足場を形成することができ、例えばポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸等である。
【0033】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、1つの層の微粒子サブ構造もしくは微粒子構造は、別の層の微粒子サブ構造もしくは微粒子構造と同一の粒子分布、類似の粒子分布、又は、好ましくはこれとは異なる粒子分布を有するように形成される。
【0034】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、微粒子の懸濁液は、2以上の異なる種類の微粒子の懸濁液であり、層の微粒子サブ構造もしくは微粒子構造は、これら2以上の異なる種類の微粒子によって形成され、これら2以上の異なる種類の微粒子は、その層内に同一の、類似の、又は好ましくは異なる粒子分布を有する。
【0035】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、1つの層の微粒子サブ構造もしくは微粒子構造は、ヒドロゲルマトリックス前駆体の層中の微粒子の懸濁液を単一振動パルスにさらすことにより形成される。一般に、本発明の文脈においては、パルスの持続時間は、5~60秒、より好ましくは5~30秒の範囲であってよい。本発明の文脈において有益な好適な周波数範囲は、約10Hz~800Hzの周波数である。
【0036】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態では、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程のうち少なくとも1つにおいて、先の工程のいずれか1つに関して微粒子の濃度を増減させる。
【0037】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態では、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程のうち少なくとも1つにおいて、先の工程のいずれか1つに関して微粒子の種類を増減させる。
【0038】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態では、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程のうち少なくとも1つにおいて、先の工程のいずれか1つに関して細胞の種類を変える。例えば、皮膚インプラントを製造しようとする場合には、皮膚インプラントの下部層では、真皮に対応する細胞が使用でき、角化細胞が利用でき、皮膚インプラントの下部層では、表皮に対応する細胞が使用でき、線維芽細胞が利用できる。例えば、骨軟骨インプラントを製造しようとする場合には、骨軟骨インプラントの下部層では、骨領域に対応する細胞が使用でき、骨芽細胞が利用でき、骨軟骨インプラントの上部層では、軟骨領域に対応する細胞が使用でき、軟骨細胞が利用できる。
【0039】
本発明によるヒドロゲルマトリックスで形成された物体に包埋される三次元微粒子構造の製造方法の好ましい実施形態において、微粒子サブ構造が中に包埋されたヒドロゲルマトリックスの層を形成する工程のうち少なくとも1つにおいて、先の工程のいずれか1つに関してヒドロゲルマトリックスの種類を変える。例えば、皮膚インプラントを製造しようとする場合には、皮膚インプラントの下部層では、真皮に対応するヒドロゲルマトリックスが使用でき、コラーゲンを含むヒドロゲルマトリックスが利用でき、皮膚インプラントの下部層では、表皮に対応するヒドロゲルマトリックスが使用でき、コラーゲン及びケラチンを含むヒドロゲルマトリックスが利用できる。例えば、骨軟骨インプラントを製造しようとする場合には、骨軟骨インプラントの下部層では骨領域に対応するヒドロゲルマトリックスが使用でき、ゼラチンメタクリレート、ゼラチンチラミンで構成されるヒドロゲルマトリックスが利用でき、骨軟骨インプラントの上部層では、軟骨領域に対応するヒドロゲルマトリックスが使用でき、ヒアルロン酸チラミンヒドロゲルが利用できる。
【0040】
本発明は、医療用インプラントを得るための、並びに、疾病及び/又は薬物反応のインビトロ研究に用いることのできる構築物、特に比較的体積の大きいこういった構築物を得るための迅速で便利な方法を提供することができる。
【実施例
【0041】
実施例1
ブタ皮膚由来のA型ゼラチン(シグマアルドリッチ社)10gを、60℃でダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)に溶かして10wt%均一溶液を作製した。この溶液に、無水メタクリル酸(MA)1.4mlを攪拌しながら滴下した。こうして得た混合物を50℃で3時間反応させた。結果として生じた混合物を、追加の温めたDPBSで5倍に希釈し、12-14kDaカットオフ透析チューブ(VWR サイエンティフィック社)を用いて50℃にて6日間脱イオン化水に対して透析し、未反応の無水メタクリル酸と付加的な副産物を取り除いた。透析後、GelMA溶液をろ過し、-80℃で凍結させ、これに続けて凍結乾燥させて、更なる使用まで-20℃で保存した。ゼラチンのメタクリル化パーセントをNMRで評価し、約50%であることが分かった。
【0042】
GelMA溶液中の細胞及び/又は無機微粒子の懸濁液を得るために、10%w/v溶液となるようにGelMAをDMEM(又はPBS)に溶かし、これにIRGACURE00.3%w/vを添加した。懸濁液の所望の組成に応じて、細胞及び/又は無機微粒子をゆっくりと添加し静かに混合して、細胞及び/又は無機微粒子の懸濁液を生成した。
【0043】
例示の実施例として、三層構築物を、微粒子パターン及び/又は中に懸濁させる微粒子が異なる以下の三つの層を用いて製造した:
層1(図3a,b)
周波数54Hz、振幅4Vの振動運動を、角型ペトリ皿(寸法:30mm×30mm×5mm)に入れたGelMA/TCP微粒子懸濁液2mlに約10~15秒間与えることによって、GelMAに包埋された丸形の格子状TCP微粒子(図3a,b)を得た。GelMA/TCP微粒子懸濁液は、TCP微粒子350mgを36℃でGelMA2mlと静かに混ぜることによって得た。GelMAの約80%を部分的に架橋するために、この層をUV光源で照射した(5mW/cm 40秒間)。
層2(図3c)
角型ペトリ皿(寸法:30mm×30mm×5mm)に入れたGelMA/鉄酸化物ナノ粒子懸濁液2mlに振動運動を与えずに、GelMAに包埋された鉄酸化物ナノ粒子の連続且つ均質な層(図3c)を得た。GelMA/鉄酸化物ナノ粒子懸濁液は、鉄酸化物ナノ粒子5mlを36℃でGelMA2mlと静かに混ぜることによって得た。GelMAの約80%を部分的に架橋するために、この層をUV光源で照射した(5mW/cm 40秒間)。
層3(図3f,h)
周波数77Hz、振幅6Vの振動運動を、円型ペトリ皿(径:40mm、厚み:5mm)に入れたGelMA/TCP微粒子懸濁液2mlに約10~15秒間与えることによって、GelMAに包埋された同心環状のTCP微粒子(図3f,h)を得た。GelMA/TCP微粒子懸濁液は、TCP微粒子350mgを36℃でGelMA2mlと静かに混ぜることによって得た。GelMAの約80%を部分的に架橋するために、この層をUV光源で照射した(5mW/cm 40秒間)。
【0044】
これら三層のそれぞれを部分的に架橋した後、これらの層を互いの上に積層させ(下部:層1;中間部:層2;上部:層3)、これらの層を完全に架橋させて互いに接着させるために、UV光源を用いて、積層した層を照射するUV光源から発するさらなる架橋放射に曝した(5mW/cm 20秒間)。堆積物の概略を図3に示す。
【0045】
実施例2
GelMA5%中のTCP及び樹脂
2つの異なる種類の粒子を異なるサブ構造に分配した。径が32~75μmの範囲であるTCP粒子20mgと、径が37~74μmの範囲である樹脂粒子20g(Dowex 50W X8、シグマアルドリッチ社)をGelMA5%溶液1mlに懸濁させ、角型皿に装填し、その後60Hzの振動にさらして固化させた。この実験を三度行った。図5に結果として生じた試料を示す。
【0046】
実施例3
2つの異なる種類の粒子を異なるサブ構造に分配した。フィブリンゲル2mlに懸濁させたhMSCスフェロイドを調製して、径が250~500μmの範囲のTCP粒子70mgを装填した角型皿に添加した。スフェロイドとTCP粒子を一緒に約10~15秒間パターン形成し、フィブリンゲルを架橋させた。生じた物体を培養した。図6に、hMSCスフェロイドとTPC粒子の二元的な分布を見ることができる。
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図1g
図1h
図1i
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図2g
図2h
図2i
図3
図4
図5
図6