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▶ ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ・アメリカズ・エルエルシーの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】硬化性エポキシ系
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/30 20060101AFI20230309BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20230309BHJP
   C08L 63/02 20060101ALI20230309BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
C08G59/30
C08G59/50
C08L63/02
C08J5/24 CFC
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020534592
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 US2018066077
(87)【国際公開番号】W WO2019126073
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】62/609,173
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509282365
【氏名又は名称】ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ・アメリカズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キンケイド,デレク
(72)【発明者】
【氏名】ル,ドン
(72)【発明者】
【氏名】ガジザデ,マディ
(72)【発明者】
【氏名】タオ,タオ
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-511503(JP,A)
【文献】特開平08-225714(JP,A)
【文献】特表平09-501714(JP,A)
【文献】特開2008-285664(JP,A)
【文献】特表2011-521075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08J 5/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールCジグリシジル エーテル、ビスフェノールCジグリシジル エーテルの1もしくは複数の誘導体、およびそれらの組み合わせから選択されるエポキシ成分;および9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレンを含んでなる硬化性エポキシ系。
【請求項2】
さらに少なくとも1つの樹脂成分、およびアミン、無水物、ポリオールおよびそれらの組み合わせから選択される硬化剤を含んでなる請求項1に記載の硬化性エポキシ系。
【請求項3】
硬化剤が、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニル スルホン、4-アミノフェニル スルホン、3,3’-ジアミノジフェニル スルホン、4,4’-メチレンビス(3-クロロ-2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)およびそれらの組み合わせから選択される芳香族アミンである請求項2に記載の硬化性エポキシ系。
【請求項4】
さらに熱可塑性粒子、軟化剤、強化剤、促進剤、コアシェルゴム、湿潤剤、難燃剤、顔料または染料、可塑剤、UV吸収剤、粘性調整剤、およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの添加剤を含んでなる請求項1に記載の硬化性エポキシ系。
【請求項5】
エポキシ成分と9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレンの合わせた量が、硬化性エポキシ系の重量に基づき40重量%より多い請求項1に記載の硬化性エポキシ系。
【請求項6】
硬化性エポキシ系が、300J/g未満の硬化エンタルピー、および190℃より高いガラス転移温度を有する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の硬化性エポキシ系。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の硬化性エポキシ系を、100℃から220℃の範囲の設定硬化温度で、少なくとも部分的に硬化した複合材を生成するために十分な時間加熱することを含んでなる複合材の生成法。
【請求項8】
設定硬化温度が、硬化性エポキシ系を環境温度から0.5℃/分から25℃/分の範囲の硬化ランプ速度で加熱することにより達成される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
設定硬化温度と硬化性エポキシ系の中心で到達する最大温度との間の差が、20℃未満である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の硬化性エポキシ系と接触した繊維材料を含んでなるプリプレグ。
【請求項11】
繊維強化型複合材構造を生成する方法であって、繊維材料を請求項1ないし5のいずれか1項に記載の硬化性エポキシ系と接触させて硬化性繊維強化型エポキシ系を形成し;そして繊維強化型エポキシ系を硬化して繊維強化型複合材構造を形成することを含んでなる前記方法。
【請求項12】
繊維強化型エポキシ系を硬化する工程が、繊維強化型エポキシ系を100℃から220℃の範囲の設定硬化温度で、少なくとも部分的に硬化した繊維強化型複合材構造を生成するために十分な時間加熱することを含んでなる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
設定硬化温度が、硬化性エポキシ系を環境温度から0.5℃/分から25℃/分の範囲の硬化ランプ速度で加熱することにより達成される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
設定硬化温度と硬化性繊維強化型エポキシ系の中心で到達する最大温度との間の差が、20℃未満である請求項12に記載の方法。
【請求項15】
繊維強化型エポキシ系が、最大60mmの厚さを有する請求項11に記載の方法。
【請求項16】
請求項11の方法により得られる繊維強化型複合材構造。
【請求項17】
請求項16に記載の繊維強化型複合材構造を含んでなる航空宇宙用構成要素。
【発明の詳細な説明】
【関連出願との関係】
【0001】
本出願は、2017年12月21日に出願された米国特許仮出願第62/609173号明細書の利益を主張し、その開示容は引用により全部、明白に本明細書に編入する。
【0002】
研究開発に関する連邦政府支援の表明
適用なし
【技術分野】
【0003】
分野
本開示は一般に、航空宇宙産業を含む様々な産業で使用されることができる複合材の生産に有用な硬化性エポキシ系(curable epoxy system)に関する。特に本開示は、(i)ビスフェノールCジグリシジル エーテル、ビスフェノールCジグリシジル エーテルの1もしくは複数の誘導体、およびそれらの組み合わせから選択されるエポキシ成分;および(ii)9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレンを含んでなる硬化性エポキシ系に関する。また本開示は、硬化性繊維強化型エポキシ系、およびそれらから生成される複合材に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
硬化性エポキシ化合物は、種々の成分と混合されて硬化性エポキシ系を形成することができ、これは硬化した時にグリーンエネルギー、スポーツ用品、電子部品、建設、自動車、および航空宇宙のような無数の産業で使用できる複合材を形成する。そのような硬化性エポキシ系は、多くの応用に有用なコーティングまたは強化型発泡体を形成するためにも使用することができる。
【0005】
コーティングまたは複合材を形成するために硬化性エポキシ系を使用するならば、それを硬化するために硬化性エポキシ系を加熱することが必要である。しかし硬化は一般に発熱反応であり、これは追加の熱を生じ、硬化性エポキシ系の過熱を防ぐために制御される必要が生じる。硬化性エポキシ系を過熱すると、系ならびにそれらから生成される被覆基材または複合材を損傷する恐れがある。このように当該技術分野では硬化性エポキシ系を反応(すなわち硬化)させる時に存在する熱のより良い制御が必要である。そのようにする1つの手段は、硬化性エポキシ系の硬化エンタルピーを下げることによるもので、これは硬化中に生じる熱量を下げる。硬化エンタルピーを下げることは、硬化サイクルを減らすことを導く追加の利点を有し、これは改善された製造効率、そして最終的に製造コストの低減を可能にする。
【0006】
したがって、より低い硬化エンタルピーを有するが、それでも例えば航空宇宙産業を含む工業的応用での用途に求められる物理的特性を有する硬化性エポキシ系を提供することが有利である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
本開示の少なくとも1つの態様を詳細に説明する前に、本開示はその応用を以下の記載で説明する構成要素または工程または方法論の構成および配置の詳細に限定されないと理解されるべきである。本開示は他の態様、または様々な方法で実施または実行することが可能である。また本明細書で採用する表現法および用語法は、説明を目的とするものであり、限定と見なすべきではないと理解される。
【0008】
本明細書で別段の定めがない限り、本開示と関連して使用される技術用語は、当業者により通常理解されている意味を有するものである。さらに文脈から別の解釈が必要とされない限り、単数形は複数を含み、そして複数形は単数を含むものとする。
【0009】
本明細書で言及する全ての特許、公開された特許出願、および非特許刊行物は、本開示が関係する技術分野の当業者の技術水準を示す。本出願の任意の部分で引用される全ての特許、公開された特許出願、および非特許刊行物は、各個別の特許または刊行物が個別具体的に引用により編入されているように、そしてそれらが本開示と矛盾しない程度と同じ程度までそれら全部を引用により明白に本明細書に編入する。
【0010】
本明細書に開示するすべての組成物および/または方法は、本開示に照らして必要以上の実験を行わずに作成でき、そして実施できる。本開示の組成物および方法は態様および好適な態様という用語で記載したが、当業者には本開示の概念、精神、および範囲から逸脱せずに本明細書に記載する組成物および/または方法に、そして方法の工程または工程の順序に変更を適用できることが明白である。そのような当業者には明白なすべての類似する置き換えおよび修飾は、本開示の精神、範囲および概念の中にあると見なされる。
【0011】
本開示に従い使用されるように、以下の用語は別段の定めがない限り、以下の意味を有すると理解すべきである。
【0012】
用語“a”または“an”の使用は、用語「含んでなる(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」または「含む(containing)」(またはそのような用語の派生形)と関連して使用する場合、「1つ」を意味するものだが、これはまた「1もしくは複数」、「少なくとも1つ」および「1または1より多く」という意味とも合致する。
【0013】
用語「または」の使用は、もっぱら代替物を明らかに示し、そして代替物が相互に排他的である場合のみを除き、「および/または」を意味するために使用する。
【0014】
本開示を通して用語「約」は、値が定量する装置、メカニズムまたは方法の誤差の固有変動性、あるいは測定される対象(1もしくは複数)間に存在する固有変動性を含むことを示す。例えば限定するわけではないが、用語「約」を使用する場合、それが指す表示した値は、プラスマイナス10パーセント、または9パーセント、または8パーセント、または7パーセント、または6パーセント、または5パーセント、または4パーセント、または3パーセント、または2パーセントまたは1パーセントまで、あるいはそれらの間の1もしくは複数の画分で変動してよい。
【0015】
「少なくとも1つ」の使用は、1ならびに限定するわけではないが1,2,3,4,5,10,15,20,30,40,50,100等を含む1より多くの任意の量を含むと理解されるものである。用語「少なくとも1つ」は、それが指す用語に依存して最高100または1000またはそれより多くに拡張することができる。さらに100/1000の量は、より低い、またはより高い限界も満足な結果を生じる可能性があるので、限定と考えるものではない。
【0016】
さらに「X、YおよびZの少なくとも1つ」という句は、X単独、Y単独およびZ単独、ならびにX,Y,およびZの任意の組み合わせを含むものと理解される。同様に「XおよびYの少なくとも1つ」という句は、X単独、Y単独、ならびにXおよびYの任意の組み合わせを含むものと理解される。さらに「少なくとも1つ」という句は、任意の数の構成要素と共に使用でき、そして上記に説明した意味に類似する意味を有すると理解される
【0017】
序数の用語(すなわち「第1」、「第2」、「第3」、「第4」等)の使用は、2以上の項目(items)間を差別化する目的のみであり、別段の定めがない限り、他の項目に対していかなる1つの項目の順序または序列または重要性、あるいは添加の順番も意味するものではない。
【0018】
本明細書で使用する場合、用語「含んでなる(comprising)」(およびその任意の形、例えば“comprise”および“comprises”)、「有する(having)」(およびその任意の形、例えば“have”および“has”)、「含む(including)」(およびその任意の形、例えば“includes”および“include”)または「含む(containing)」(およびその任意の形、例えば“contains”および“contain”)は、包括的、すなわち制限がなく(open-ended)、そして追加の非言及要素または方法工程を排除しない。
【0019】
本明細書で使用する句「またはそれらの組み合わせ」および「およびそれらの組み合わせ」は、用語に先行する列挙した項目の全ての並べ替えおよび組み合わせを指す。例えば「A,B,Cまたはそれらの組み合わせ」は:A,B,C,AB,AC,BC,またはABCの少なくとも1つを含むことを意図し、そして特定の文脈で順序が重要ならばBA,CA,CB,CBA,BCA,ACB,BACまたはCABの少なくとも1つを含むことを意図する。この例に続いて明確に含まれるのは、1もしくは複数の項目または用語の反復を含む組み合わせ、例えばBB,AAA,CC,AABB,AACC,ABCCCC,CBBAAA,CABBB等である。当業者は文脈から明らかにそうでない場合を除き、一般に任意の組み合わせの中の項目および用語の数に制限はないと理解するだろう。同じ考え方で、用語「またはそれらの組み合わせ」および「およびそれらの組み合わせ」は、句「から選択される」または「からなる群から選択される」と一緒に使用される場合、その句に先行する列挙した項目の全ての並び替えおよび組み合わせを指す。
【0020】
「1つの態様において」、「態様では」、「1つの態様によれば」等の句は、一般にその句に続く特定の機能、構造または特徴が本開示の少なくとも1つの態様に含まれることを意味し、そして本開示の1より多くの態様に含まれ得ることを意味する。重要なことは、そのような句は非限定的であり、そして同じ態様を必ずしも指していないが、もちろん1もしくは複数の先行する、および/または後述する態様を指すことができる。例えば添付の請求の範囲では、任意の請求する態様を任意の組み合わせで使用することができる。
【0021】
本明細書で使用する用語「重量による%」、「重量%」、「重量パーセント」または「重量によるパーセント」は、互換的に使用される。
【0022】
本明細書で使用する句「実質的に含まない」は、引用される組成物の総重量に基づき1重量パーセント未満、または0.1重量パーセント未満、または0.01重量パーセント未満、あるいは0.001重量パーセント未満の量で存在することを意味する。
【0023】
本明細書で使用する用語「環境温度」は、作業環境の周辺温度(例えば、硬化性組成物が使用される領域、建物または部屋の温度)を指し、硬化を促進するために硬化性組成物に直接かける熱の結果として生じる任意の温度変化を排除する。環境温度は一般に約10℃から約30℃の間、より具体的には約15℃から約25℃の間である。用語「環境温度」は、本明細書では「室温」と互換的に使用される。
【0024】
本明細書で使用する用語「硬化エンタルピー」および「反応エンタルピー」とは、硬化工程中に硬化性エポキシ系により放出されるエネルギーを指す。硬化エンタルピーは、例
えば示差走査熱量測定法(DSC)を使用して測定され、そしてグラム当たりジュールの単位(J/g)で表される。当該技術分野では、硬化エンタルピーは硬化性組成物が硬化中に経験する、特に硬化サイクルが短縮化されるような温度発熱の可能性に直接的に相関し得ることが知られている。硬化性エポキシ系の最大硬化温度を越える温度発熱は、硬化性エポキシ系、生じる複合材、および恐らくは硬化した時に存在する基材および型を損傷する恐れがある。
【0025】
本明細書で使用する用語「硬化サイクル」は、硬化性エポキシ系が加熱される期間を意味し、ここでかける熱は(i)環境温度から設定硬化温度まで上げる、(ii) 設定硬化温度に一定時間維持する、そして(iii)環境温度に冷却し戻される。
【0026】
本明細書で使用する用語「硬化ランプ速度(cure ramp rate)」、略号RCRは、硬化サイクル中に温度を加熱する速度が環境温度から設定硬化温度に上げられる速度を意味する。硬化ランプ速度の単位は、例えば℃/分、BTUs、またはジュール/分で表すことができる。
【0027】
本明細書で使用する句「最大オーバーシュート温度(max overshoot temperature)」は、本明細書では硬化されている組成物の中心で、または例えばプリプレグまたは液体樹脂加工(liquid resin processing)法を含む当業者に知られた複合材形成法を使用して調製される部品の中心で到達する最大温度を意味する。
【0028】
本明細書で使用する句「ガラス転移温度」(Tgと略される)は、材料(例えば硬化した樹脂)の機械的特性が、材料を形成するポリマー鎖の内部移動により根本的に変化する温度を意味する。
【0029】
本明細書で使用する用語「ビスフェノールCジグリシジル エーテル」は、以下の式(I)で具体的に説明するようにトリクロロアセタールとフェノールの縮合生成物を称する:
【化1】
【0030】
用語「ビスフェノールCグリシジル エーテル」、「BCDGE」、「ビスCグリシジル エーテル」、「ジグリシジル エーテル、ビスフェノールC」、「DGEBC」および「ビスフェノールC」は、本明細書では互換的に使用され、そしてすべて式(I)で説明するようなトリクロロアセタールとフェノールとの縮合生成物を称する。
【0031】
本明細書で使用する用語「CAF」は、以下の式(II)で説明する化合物9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレンを称する:
【化2】
【0032】
本開示に戻り、(i)ビスフェノールCジグリシジル エーテル、ビスフェノールCジグリシジル エーテルの1もしくは複数の誘導体、およびそれらの組み合わせから選択されるエポキシ成分;および(ii)9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレンを含んでなる硬化性エポキシ系は、300J/g未満の、そして場合によっては200J/g未満の硬化エンタルピーを有することが予期せずに見い出された。さらにそのような硬化性エポキシ系が190℃より高いガラス転移温度(Tg)を有することも予期されなかった。300J/g未満の硬化エンタルピー、および190℃より高いTgの組み合わせは、現在請求する硬化性エポキシ系を、航空宇宙産業のための複合材を含む工業用複合材の形成に使用するために有利なものとする。
【0033】
1つの観点によれば、本開示は(i)ビスフェノールCジグリシジル エーテル、ビスフェノールCジグリシジル エーテルの1もしくは複数の誘導体、およびそれらの組み合わせから選択されるエポキシ成分;および(ii)9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン(CAF)を含んでなる硬化性エポキシ系を対象とする。
【0034】
ビスフェノールCジグリシジル エーテルの1もしくは複数の誘導体は、式(III)により表される:
【化3】
式中、環は独立して環式脂肪族または芳香族であるが、ただし環が芳香族の場合は、
9-R20は存在せず、そしてR1-R4の1もしくは複数が水素ではなく、そして式中、R1-R20はそれぞれ水素、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、直鎖脂肪族、分岐脂肪族、環式脂肪族、置換脂肪族、非置換脂肪族、飽和脂肪族,不飽和脂肪族、芳香族、多芳香族、置換脂肪族、ヘテロ芳香族、アミン、一級アミン、二級アミン、三級アミン、脂肪族アミン、カルボニル、カルボキシル、アミド、エステル、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、およびそれらの組み合わせから独立して選択される。
【0035】
明確にするために、式(III)中の破線が結合ならば環は芳香族であり、そして式(III)中の破線が結合でなければ、環は環式脂肪族である。
【0036】
エポキシ成分およびCAFは硬化性エポキシ系中に、1:1から1.4:1、または1:1から1.3:1または1:1から1.2:1の範囲の化学量論的重量比のエポキシ成分対CAFで存在する。1つの特定の態様では、エポキシ成分およびCAFは硬化性エポキシ系中に、約1.2:1の化学量論的重量比のエポキシ成分対CAFで存在する。
【0037】
硬化性エポキシ系はさらに、樹脂成分およびCAFに加えて少なくとも1つの硬化剤を含んでなることができる。
【0038】
樹脂成分は、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、シアネート エステル樹脂、ベンゾキサジン樹脂、またはそれらの組み合わせの1もしくは複数を含む。1つの態様では、樹脂成分は1もしくは複数エポキシ樹脂である。
【0039】
適切なエポキシ樹脂は、グリシジル エポキシおよび/または非グリシジル エポキシ樹脂に基づくものを含むことができる。グリシジル エポキシ類は適切なジヒドロキシ化合物、二塩基性酸またはジアミンおよびエピクロロヒドリンの縮合反応を介して調製されるものであると理解されている。非グリシジル エポキシ類は一般に、オレフィン二重結合の過酸化により形成される。
【0040】
適切な硬化剤は、エポキシ官能基の硬化を促進し、そして特にそのようなエポキシ官能基の開環重合を促進するものを含む。適切な硬化剤の例には、シアノグアニジン;芳香族、脂肪族および脂環式アミンを含むアミン;グアニジン誘導体;無水物;ポリオール;ルイス酸;置換ウレア;イミダゾール;ヒドラジンおよびシリコーンを含む。
【0041】
1つの特定の態様では、少なくとも1つの硬化剤はアミン、無水物、ポリオールおよびそれらの組み合わせから選択される。
【0042】
硬化剤として適切なアミンの非限定的例には、ベンゼンジアミン、1,3-ジアミノベンゼン;1,4-ジアミノベンゼン;4,4’-ジアミノジフェニルメタン;ポリアミノスルホン、例えば4,4’-ジアミノジフェニル スルホン(4,4’-DDS)、4-アミノフェニル スルホンおよび3,3’-ジアミノジフェニル スルホン(3,3’-DDS);ジシアノポリアミド、例えばジシアンジアミド、;イミダゾール;4,4’-メチレンジアニリン;ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン;ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン;エチレンジアミン(EDA);4,4’-メチレンビス-(2,6-ジエチル)-アニリン(MDEA);m-キシレンジアミン(mXDA);ジエチレントリアミン(DETA);トリエチレンテトラミン(TΕΤΑ);トリオキサトリデカンジアミン(TTDA);4,4’-メチレンビス-(3-クロロ,2,6-ジエチル)-アニリン(MCDEA);4,4’-メチレンビス-(2,6-ジイソプロピル)-アニリン(M-DIPA);3,5-ジエチル トルエン-2,4/2,6-ジアミン(D-ETDA 80);4,4’-メチレンビス-(2-イソプロピル-6-メチル)-アニリン(M-MIPA);4-クロロフェニル-N,N-ジメチル-ウレア;3,4-ジクロロフェニル-N,N-ジメチル-ウレア;9,9-ビス(3-メチル-4-アミノフェニル)フルオレン;9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン;ジアミノシクロヘキサン(DACH),イソホロンジアミン(IPDA);4,4’-ジアミノ ジシクロヘキシル メタン;ビスアミノプロピルピペラジン;およびN-アミノエチルピペラジンを含む。
【0043】
1つの特定の態様では、少なくとも1つの硬化剤は4,4’-ジアミノジフェニル スルホンである。
【0044】
硬化剤として適切な無水物の非限定的例には、ポリカルボン酸無水物、例えばナド酸無水物、メチルナド酸無水物、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサクロロエンドメチレンテトラヒドロフタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物、マレイン酸無水物、コハク酸無水物、ノネニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、ポリセバシン酸ポリ無水物、およびポリアゼライン酸ポリ無水物を含む。
【0045】
硬化剤として適切なポリオールの非限定的例には、エチレングリコール、ポリ(プロピレン グリコール)およびポリビニル アルコールを含む。
【0046】
追加の硬化剤には、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、例えば:約550-650ダルトンの平均分子量を有するフェノール-ホルムアルデヒド樹脂、約600-700ダルトンの平均分子量を有するp-t-ブチルフェノール-ホルムアルデヒド樹脂、および約1200-1400ダルトンの平均分子量を有するp-n-オクチルフェノール-ホルムアルデヒド樹脂を含み、これらはそれぞれHRJ 2210、HRJ-2255およびSP-1068としてニューヨーク州、スケネクタディのスケネクタディ ケミカルズ社(Schenectady Chemicals,Inc.)から入手可能である。
【0047】
硬化性エポキシ系はさらに、熱可塑性粒子、軟化剤、強化剤、促進剤、コアシェルゴム、湿潤剤、難燃剤、顔料または染料、可塑剤、UV吸収剤、粘性調整剤、充填剤、導電性粒子、粘性調整剤およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの添加剤を含むことができる。
【0048】
熱可塑性粒子の非限定的例には、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、およびエポキシ成分および/または樹脂成分に可溶性のポリスルホンを含む。
【0049】
強化剤の例には、限定するわけではないがポリアミド、コポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリーレン エーテル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、高性能炭化水素ポリマー、液晶ポリマー、PTFE、エラストマー、分割型(segmented)エラストマー、例えばアクリロニトリル、ブタジエン、スチレン、シクロペンタジエン、アクリレートのホモまたはコポリマーに基づく反応性液体ゴム、ポリウレタンゴム、およびポリエーテル スルホン(PES)またはコアシェルゴム粒子を含む。
【0050】
促進剤の非限定的例には、例えば3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチルウレアおよび3,3’-(4-メチル-1,3-フェニレン)ビス(1,1-ジメチルウレア)のようなウレア-含有化合物を含む。
【0051】
1つの態様では、少なくとも1つの添加剤が硬化性エポキシ系の重量により35重量%未満、または30重量%未満、または25重量%未満の量で硬化性エポキシ系中に存在する。
【0052】
硬化性エポキシ系に存在するエポキシ成分とCAFを合わせた量は、硬化性エポキシ系の重量により35重量%より多く、または40重量%より多く、または50重量%より多く、または60重量%より多く、または70重量%より多く、または80重量%より多い。
【0053】
1つの特定の態様では、硬化性エポキシ系は300J/g未満、または250J/g未
満、または200J/g未満の硬化エンタルピーを有する。別の態様では、硬化性エポキシ系は、150J/gから300 J/g、または175J/gから300J/g、または200J/gから300J/gまたは200J/gから250J/gの範囲の硬化エンタルピーを有する。
【0054】
好適な態様では、硬化性エポキシ系は300J/g未満、または250J/g未満、または200J/g未満の硬化エンタルピー、および190℃より高いTgを有する。別の好適な態様では、硬化性エポキシ系は150J/gから300J/g、または175J/gから300J/g、または200J/gから300J/g、または200J/gから250J/gの範囲の硬化エンタルピー、および190℃より高いTgを有する。
【0055】
別の態様では、硬化性エポキシ系はエポキシ成分および9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレンからなる場合に、300J/g未満、または250J/g未満、または200J/g未満の硬化エンタルピーを有する。
【0056】
別の観点によれば、本開示は硬化性エポキシ系を硬化する方法を対象とする。この方法は硬化性エポキシ系を約100から220℃、または約120から200℃、または約140から180℃の範囲の設定硬化温度で、少なくとも部分的に硬化した複合材を生成するために十分な時間加熱することを含んでなる。少なくとも部分的に硬化した複合材を生成するために十分な時間は、約2分から24時間、または約15分から10時間、または約30分から約2時間の範囲であり得る。
【0057】
設定硬化温度は、約0.1℃/分から約25℃/分、または約0.5℃/分から約10℃/分、または約1℃/分から約10℃/分、または約2℃/分から約10℃/分、または約3℃/分から約10℃/分、または約4℃/分から約10℃/分、または約5℃/分から約10℃/分、または5℃/分より高くから約25℃、または6℃/分から約10℃/分、または7℃/分から約10℃/分の範囲の硬化ランプ速度で、設定硬化温度に達するまで硬化性エポキシ系を加熱することにより達成される。
【0058】
別の態様では、設定硬化温度に直ちに到達し(例えば前加熱オーブンを介して)、そして硬化性エポキシ系を設定硬化温度で十分な時間加熱して、少なくとも部分的に硬化した複合材を生成する。この技術は例えば液体樹脂加工法(例えば射出成形)で使用されている。
【0059】
1つの特定の態様では、硬化性エポキシ系が0.5から15mm、または1から15mm、または2から15mmの範囲の厚さでコーティング、積層、射出、注入、または同様にして基材上または型中に付着される場合、そのような厚さで硬化性エポキシ系を硬化する方法は、硬化性エポキシ系を約150℃から約220℃、または約160℃から200℃、または約170℃から約190℃、または約175℃から約185℃の設定硬化温度で、約1時間から4時間、または約1.5時間から約2.5時間、または約1.75時間から約2.25時間の範囲、または約2時間、加熱することを含んでなる。
【0060】
別の特定の態様では、硬化性エポキシ系が15mmより高い厚さ(例えば15mmから60mm、または15mmから50mm)でコーティング、積層、射出、注入、または同様にして基材上または型中に付着される場合、そのような厚さで硬化性エポキシ系を硬化する方法は、(i)硬化性エポキシ系を、約120℃から約220℃、または約130℃から170℃、または約140℃から約160℃、または約145℃から約155℃、または約150℃の設定硬化温度で、約2時間から約4時間、または約2.5時間から約3.5時間、または約2.75時間から約3.25時間の範囲の時間、または約3時間加熱し、そして次に(ii)硬化性エポキシ系を、約150℃から約220℃、または約16
0℃から200℃、または約170℃から約190℃、または約175℃から約185℃の設定硬化温度で、約1時間から4時間、または約1.5時間から約2.5時間、または約1.75時間から約2.25時間の範囲の時間、または約2時間加熱することを含んでなる。
【0061】
好適な態様では、設定硬化温度と硬化中に硬化性エポキシ系の中心で到達する最大温度との間の差は、20℃未満、または15℃未満、または10℃未満、または5℃未満、または2℃未満、または1℃未満である。
【0062】
別の観点では、本開示は本明細書に記載する硬化性エポキシ系を硬化することにより生成される複合材を対象とする。
【0063】
さらに別の観点では、本開示は本明細書に記載する硬化性エポキシ系および繊維材料を含んでなる硬化性繊維強化型エポキシ系を対象とする。
【0064】
繊維材料は、合成または天然繊維、あるいは本明細書に開示される硬化性エポキシ系と合わせ、そして硬化すると複合材製品を形成する任意の他の形態の材料または材料の組み合わせでよい。繊維材料は強化ウェッブまたはトウの状態であることができ、そして巻き戻される繊維のスプールを介するか、またはテキスタイルロールからのいずれかから提供されることができ、そしてランダムな、編まれた、不織の、多軸または任意の他の適切なパターンの状態であることができる。繊維材料はまた、事前に形成されることもできる(すなわち繊維状プレフォーム:fibrous preform)。
【0065】
例示的な繊維には、ガラス、炭素、グラファイト、ホウ素、玄武岩、ヘンプ、海藻、干し草、亜麻、藁、ココナツ、セラミックおよびアラミドを含む。ハイブリッドまたは混合繊維系も想定され得る。クラック(cracked)(すなわち牽切)または選択的な不連続繊維の使用は、生成物のレイアップを促進するために有利となり、そして形成されるその能力を改善することができる。しかし一方向繊維の配列が構造的応用には好ましいが、他の形状も使用できる。典型的な生地の形状には、単純な編織物、メリヤス生地、綾織物、およびサテン織物を含む。また不織またはノン-クリンプ(non-crimped)繊維層を使用することを構想することも可能である。繊維強化内の繊維の表面質量(surface mass)は一般に、80-4000g/m2、好ましくは100-2500g/m2、そして特に好ましくは150-2000g/m2である。トウあたりの炭素フィラメントの数は、3000から320,000で変動することができ、ここでも好ましくは6,000から160,000、そして最も好ましくは12,000から48,000である。ファイバーガラス強化材については、600-2400texの繊維が特にうまくいく。
【0066】
一方向の繊維トウの例示的層は、HexTow(登録商標)炭素繊維から作られ、これらはヘキセル社(Hexcel Corporation)(米国、コネチカット州、スタンフォード)から入手可能である。一方向の繊維トウの作成に使用するために適切なHexTow(登録商標)炭素繊維には:IM7炭素繊維、これは6,000または12,000フィラメント、およびそれぞれ0.223g/mおよび0.446g/mの重量を含むトウとして入手可能;IM8-IM10炭素繊維、これは12,000フィラメント、および0.446g/mから0.324g/mの重量を含むトウとして入手可能;およびAS7炭素繊維、これは12,000フィラメント、および0.800g/mの重量を含むトウで入手可能;を含み、最高80,000または50,000(50K)のフィラメントを含むトウ、例えば東レ(Toray)(日本、東京、中央区)から入手可能な約25,000フィラメントを含むもの、およびゾルテック(Zoltek)(米国、モンタナ州、セントルイス)から入手可能な約50,000フィラメントを含むものを使用で
きる。トウは一般に、3から7mmの幅を有し、そして櫛を使用してトウを保持し、そしてトウを平行かつ一方向に維持する装置での含浸に供給される。
【0067】
1つの態様では、硬化性繊維強化型エポキシ系はプリプレグの状態である。用語「プリプレグ」は、未硬化または一部硬化した状態の樹脂に含浸され、そして硬化の準備ができている繊維材料を記載するために使用する。プリプレグの繊維材料は、本明細書に記載する硬化性エポキシ系に実質的に含浸されることになり、そしてプリプレグの総重量の20重量%から85重量%の硬化性エポキシ系含量を含むプリプレグが好適であり、またはより好ましくはプリプレグの重量に基づき30重量%から50重量%の硬化性エポキシ系を含む。本発明のプリプレグは繊維材料を硬化性エポキシ系に含浸することにより生成することができる。含浸率を上げるためには、この工程は樹脂の粘度が下がるように高温で行うことが好ましい。しかし硬化性エポキシ系の不完全(premature)な硬化が起こるほど十分に長い時間、高温であってはならない。すなわち含浸工程は好ましくは20℃から90℃の範囲の温度で行われる。樹脂はこの範囲の温度で繊維材料に適用され、そしてニップローラーの1もしくは複数の対を通過することにより発揮されるような圧により繊維材料中に固められる。
【0068】
本開示のプリプレグは、成分を均一な混合物が形成される連続ミキサーに供給することにより調製されることができる。混合は一般的に、35から180℃、または35から150℃、または35から120℃、または35から80℃の範囲の温度で行われる。次いで混合物は冷却され、そして貯蔵のためにペレット化またはフレーク状にされる。あるいは別法では、混合物は連続ミキサーからプリプレグラインに直接供給されることができ、ここで移動している繊維層上に置かれて、そして通常はニップローラーを通過することにより繊維層中に固められる。次いでプリプレグは巻き取られ、そして貯蔵されるか、または使用される場所に輸送される。
【0069】
別の態様では、硬化性繊維強化型エポキシ系は、繊維状プレフォームの状態で、そして液体樹脂加工を使用して調製される繊維材料を含んでなる。液体樹脂加工は、繊維材料(例えば繊維状プレフォーム)を型に注入し、一般に圧をかけて、またはかけずに、硬化性エポキシ系を繊維材料のスタックまたは事前に形成した形に通して引き出すことを含んでなる。繊維材料の注入速度および距離は、繊維材料の透過性、注入された硬化性エポキシ系に作用する圧勾配、および硬化性エポキシ系の粘度に依存する。適切には、硬化性エポキシ系は強化するスタックを、約35から200℃、または35から180℃、または35から150℃、または35から120℃、または35から80℃の範囲の温度で通して引き出される。
【0070】
別の観点に従えば、本開示は硬化性繊維強化型エポキシ系を約100から220℃、または約120から200℃、または約140から180℃の範囲の設定硬化温度で少なくとも部分的に硬化した複合材を生成するために十分な時間、加熱することを含んでなる硬化性繊維強化型エポキシ系を硬化する方法を対象とする。少なくとも部分的に硬化した複合材を形生成するために十分な時間は、約2分から24時間、または約15分から10時間、または約30分から約2時間の範囲であることができる。
【0071】
設定硬化温度は、硬化性繊維強化型エポキシ系を約0.1℃/分から約25℃/分、または約0.5℃/分から約10℃/分、または約1℃/分から約10℃/分、または約2℃/分から約10℃/分、または約3℃/分から約10℃/分、または約4℃/分から約10℃/分、または約5℃/分から約10℃/分、または5℃/分より高くから約25℃、または6℃/分から約10℃/分、または7℃/分から約10℃/分の範囲の硬化ランプ速度で、設定硬化温度に到達するまで加熱することにより達成される。
【0072】
別の態様では、設定硬化温度に直ちに到達し(例えば前加熱したオーブンを介して)、そして硬化性繊維強化型エポキシ系は少なくとも部分的に硬化した複合材を生成するために十分な時間、設定硬化温度で加熱される。この技法は、例えば液体樹脂加工法(例えば射出成形)で使用されている。
【0073】
1つの特定の態様では、硬化性繊維強化型エポキシ系が0.5から15mm、または1から15mm、または2から15mmの範囲の厚さでコーティング、積層、射出、注入、または同様にして基材上または型中に付着される場合、硬化性繊維強化型エポキシ系をそのような厚さで硬化する方法は、硬化性エポキシ系を約150℃から約220℃、または約160℃から200℃、または約170℃から約190℃、または約175℃から約185℃の設定硬化温度で、約1時間から4時間、または約1.5時間から約2.5時間、または約1.75時間から約2.25時間の範囲、または約2時間、加熱することを含んでなる。
【0074】
別の特定の態様では、硬化性繊維強化型エポキシ系が15mmより高い厚さ(例えば15mmから60mm、または15mmから50mm)でコーティング、積層、射出、注入、または同様にして基材上または型中に付着される場合、そのような厚さで硬化性繊維強化型エポキシ系を硬化する方法は、(i)硬化性繊維強化型エポキシ系を、約120℃から約220℃、または約130℃から170℃、または約140℃から約160℃、または約145℃から約155℃、または約150℃の設定硬化温度で、約2時間から約4時間、または約2.5時間から約3.5時間、または約2.75時間から約3.25時間の範囲の時間、または約3時間加熱し、そして次に(ii)硬化性繊維強化型エポキシ系を、約150℃から約220℃、または約160℃から200℃、または約170℃から約190℃、または約175℃から約185℃の設定硬化温度で、約1時間から4時間、または約1.5時間から約2.5時間、または約1.75時間から約2.25時間の範囲の時間、または約2時間加熱することを含んでなる。
【0075】
好適な態様では、設定硬化温度と硬化中に硬化性繊維強化型エポキシ系の中心で到達する最大温度との間の差は、20℃未満、または15℃未満、または10℃未満、または5℃未満、または2℃未満、または1℃未満である。
【0076】
別の観点では、本開示は本明細書に記載する硬化性繊維強化型エポキシ系を硬化することにより生成される複合材を対象とする。
【0077】
本明細書に記載する複合材は任意の意図する目的に使用でき、それには例えば自動車および航空宇宙機での、そして特に民間航空機および軍用機での使用を含む。また複合材は他の構造的応用にも使用して一般的な耐荷重部品および構造体を作るために使用することができ、例えばそれらは風力タービンの桁または刃に、そしてスキー板のようなスポーツ用品に使用することができる。
【実施例
【0078】
以下に実施例を提供する。しかし本開示はその応用を以下の明細書に開示する具体的な実験、結果および研究室での手順に限定するものと理解されない。むしろ実施例は単に様々な態様の1つとして提供され、そして例示であり、そして包括的ではないことを意味している。
【表1】
【0079】
比較実施例1-1E
比較(“Comp.”)実施例1-1Eは、以下の表2に示す成分を使用して配合した。各比較実施例1-1Eについて、エポキシをAradur(登録商標)9664-1硬化剤と1:1の化学量論的重量比で、23℃で5分間、均一な混合物が得られるまで混合した。各化合物の量(グラムで)を表2に与える。
【表2】
【0080】
TAインスツルメンツ(TA Instruments)からのQ-2000示差走査熱量測定計を使用して、開始の反応温度、ピーク温度および硬化エンタルピーを上記の各比較実施例1-1Eについて測定した。サンプルを25℃から350℃まで10℃/分の硬化ランプ速度で加熱した。さらに比較実施例1-1EのTgは、DSCならびに動的機械分析(DMA)を使用して、180℃で2時間の硬化スケジュールにわたり測定した。DMAにより測定されたTgは、動的機械分析機TA Q800を以下のように使用して決定した:シングル/デュアルカンチレバー、3-点屈曲モード、および最大長50mm、幅15mm、および厚さ7mmの検体。表3は各比較実施例1-1Eの開始の反応温度、ピーク温度、エンタルピーおよびTgを詳細に説明する。
【表3】
【0081】
比較実施例2-2Bおよび実施例2C
比較実施例2-2Bおよび実施例2Cは、以下の表4に示す成分を使用して配合した。各比較実施例2-2Bについて、ビスフェノールCグリシジル エーテル(“BCDGE”)を、Aradur(登録商標)9664-1硬化剤、Aradur(登録商標)9719-1硬化剤、またはAradur(登録商標)5200US硬化剤のいずれかと、1:1の化学量論的重量比で23℃にて5分間、均一な混合物が得られるまで混合した。実施例2Cは硬化剤として9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン(CAF)を使用した点を除き、同じ手順に従った。各成分の量を表4に提供する(グラムで)。
【表4】
【0082】
またDSCを使用して、上で説明した各実施例2-2Cの開始の反応温度、ピーク温度およびエンタルピーを決定した。サンプルを25℃から350℃まで10℃/分の硬化ランプ速度で加熱した。各比較実施例2-2BのTgは、DSCならびに動的機械分析を使用して、180℃で2時間の硬化スケジュールにわたり測定した。上記の動的機械分析機TA Q800を、DMAで測定するTgに使用した。実施例2CのTgは180℃で3時間の硬化スケジュールを使用して同様に測定した。表5は各比較実施例2-2Bおよび実施例2Cについて開始の反応温度、ピーク温度、エンタルピーおよびTgを詳述する。
【表5】
【0083】
プリプレグ実施例
表6は、プリプレグを形成するために使用した比較実施例3および実施例3Aに関する配合を説明する。表6の成分はグラムで提供される。
【表6】
【0084】
比較実施例3は、最初にAraldite(登録商標)MY0610三官能性樹脂、Araldite(登録商標)MY721樹脂、およびAraldite(登録商標)GY285樹脂を、温度を90℃と100℃の間に保持しながら、均一な混合物が得られるまで混合することにより調製した。次いでPES VW-10200 RSFP(PES)を混合物に加え、そして加熱して温度を120℃から130℃の間に保持し、そして全てのPESが溶解するまで混合した。次いで混合物を冷却し、そしてOrgasol(登録商標)1002 D Nat 1 Polyamide 6およびOrgasol(登録商標)3502 D Nat 1 Copolyamide 6/12を高剪断下(すなわち2000―2500rpms)で10から20分間加えた。次いで混合物を100℃で表面にかけ(discharged)、そして室温に冷却した。
【0085】
実施例3Aは、最初にLME 10169樹脂、Araldite(登録商標)MY 0510三官能性樹脂、およびBCDGEを70℃から90℃の間の温度に保持しながら均一な混合物が得られるまで混合することにより調製した。次いでCAFを加え、そして高剪断下(すなわち2000―2500rpms)で30分間混合した。さらにポリイミド強化剤を、10-20分間、高剪断下で混合物に加え、同時に温度を90℃未満に維持した。次いで混合物を90℃で表面にかけ、そして室温に冷却した。
【0086】
次いで比較実施例3および実施例3AをDSCで分析して、そのようなサンプルを25℃から350℃に10℃/分の硬化ランプ速度で個々に加熱することにより各エンタルピーを決定した。比較実施例3および実施例3AのTgは、動的機械分析(DMA)を使用して、180℃で3時間の硬化スケジュールについて測定した。上記の動的機械分析機TA Q800をDMAで測定するTgに使用した。表7は比較実施例3および実施例3Aに関するエンタルピーおよびTgを詳述する。
【表7】
【0087】
次いで比較実施例3および実施例3Aは、個別に:(i)比較実施例3および実施例3Aの組成物をロールコーター中で熱溶融してフィルムを形成し、そして(ii)フィルムを一方向IM7炭素繊維に含浸し、そして(iii)繊維を含浸したフィルムを室温に冷却することによりプリプレグを形成するために使用した。180℃で3時間、硬化した後に得たプリプレグに関する機械的特性を含む具体的詳細を表8に与える。表8に説明した測定値を得るために、以下の手順を使用した。
【0088】
層間剪断強さ(ILSS)試験
プリプレグ実施例のILSSは、ASTM D2344を使用していた。
【0089】
プリプレグ実施例のILSSも、プリプレグ実施例を沸騰水に72時間供した後(72時間のホットウェット工程:72-hour hot wet process)、ASTM D2344を使用して評価した。
【0090】
保持パーセントは、初期の乾燥ILSS測定値および72時間のホットウェット工程後に測定したILSSに基づき算出した。
【0091】
引張強さ、モジュラスおよび歪
プリプレグ実施例に関する引張強さ、モジュラスおよび歪は、ASTM D3039を使用して測定した。
【0092】
またプリプレグ実施例の引張強さ、モジュラスおよび歪は、サンプルを沸騰水に72時間供した後、ASTM D3039を使用して評価した。
【0093】
引張強さおよびモジュラスに関する保持パーセントは、初期の乾燥測定値および72時間のホットウェット工程を使用して得た測定値に基づき算出した。
【0094】
圧縮強さおよびモジュラス
プリプレグ実施例に関する圧縮強さおよびモジュラスは、ASTM D695を使用して測定した。
【0095】
衝撃後圧縮(CAI)
プリプレグ実施例に関するCAI強さおよびモジュラス測定値は、ASTM D7136およびASTM D7137を使用して得た。
【表8】
【0096】
比較実施例3は、主にAraldite(登録商標)MY721樹脂、Araldite(登録商標)MY0510三官能性樹脂、およびAradur(登録商標)9664-1硬化剤に基づいた例示の強化型航空宇宙用プリプレグ配合を表す。この配合は、熱的および機械的特性の良好なバランスを現わすが、当該技術分野で知られている典型的配合のように、この配合は523J/gの特徴的に高い反応エンタルピーを有する。
【0097】
実施例3Aの配合は、比較実施例3のような配合に匹敵する高い熱的および機械的特性を有するように設計されたが、実施例3AはCAFおよびBCDGEの組み合わせも含むので、反応エンタルピーはわずか237J/gである。
【0098】
硬化挙動
実施例3Aおよび比較実施例3の予測可能な硬化挙動を評価するために、実施例3Aおよび比較実施例3を注入した炭素繊維系部品のシミュレーションを、以下の式を使用して行った:
【数1】
式中、αは硬化度であり、k1およびk2はアレニウスの式により定められる速度係数であり、そしてn1,n2,m1,およびm2は実験的に定めた反応次数である。上記式中の変数は、最初に比較実施例3および実施例3Aを、TAインスツルメンツからのQ-2000示差走査熱量計を使用して、ランプ速度および等温線を変動させてDSC熱流を作成し、そして次にそのようなデータをネッチ―ゲレテバウ有限会社(NETZSCH-Geratebau GmbH)(ドイツ、ゼルブ)から入手可能な反応速度ソフトウェアプログラムに入力することにより決定した。次いで上記式を使用してシミュレーションを行い、様々な特性について時間の関数として硬化度を決定した。
【0099】
特に3つの異なる特性をシミュレーションで個別に変動させて、部品の硬化挙動に及ぼす効果の可能性を評価した。そのような特性には、硬化ランプ速度(表9を参照)、繊維画分体積(表10参照)、および部品厚(表11参照)を含んだ。
【0100】
温度および部品の硬化挙動におよぼす効果を実験するために、5つのパラメーターを調査し、そして各シミュレーションについて報告した:最大オーバーシュート温度、これは部品の中心で到達する最大温度を示す;ΔT1、これは硬化プロファイルでの設定温度と部品の中心で到達する最大温度との間の差である;ΔT2、これは部品の中心で到達する最大温度と表面で到達する最大温度との間の差である;および部品の厚さあたりのΔT1、および部品の厚さあたりのΔT2、これは2つの値を標準化し、そしてそれらを様々な厚さについて比較する。
【0101】
可変性硬化ランプ速度
比較実施例3および実施例3Aを含み、そして15mmの厚さおよび60%の繊維体積画分を含有する炭素繊維系部品を評価した。各サンプルは180℃で2時間の硬化プロファイル、および表9に特定する異なる硬化ランプ速度を使用して評価した。
【表9】
【0102】
表9は硬化ランプ速度を上げることがより高いオーバーシュートを生じることを示す。しかし実施例3Aに関するΔT1およびΔT2値は、比較実施例3について得られた値よりも有意に低い。これは実施例3Aが比較実施例3に比べ大変早く、しかもより高度な均
一性で硬化できると予想されることを示す。
【0103】
可変性の繊維画分体積
比較実施例3よび実施例3Aを含み、厚さ15mmおよび60%、55%および50%の間で変動する繊維画分体積を有する炭素繊維系部品を評価した。各サンプルは180℃で2時間の硬化プロファイルおよび3℃/分の硬化ランプ速度を使用して評価した。各サンプルについて測定した5つのパラメーターを以下の表10で説明する。
【表10】
【0104】
表10は、複合体部品中により高い繊維体積画分(すなわちより低い樹脂含量)で、低下したオーバーシュート温度が生じると予想されることを示す。より高い繊維体積画分を有する部品は樹脂量が少なく、発熱硬化反応による局所的な熱の発生の効果を下げる。また表10に提示するデータは、比較実施例3と比べて実施例3Aが硬化工程中に設定温度から有意に低い熱偏差を提供するという事前に検討した結論も確認する。
【0105】
可変性の部品厚
比較実施例3よび実施例3Aを含み、そして5から55mmの間で変動する厚さ、および60%の繊維画分体積を含有する炭素繊維系部品を評価した。180℃で2時間の硬化スケジュールおよび1℃/分の硬化ランプ速度を、5および15mmの厚さを有する部品に使用した(すなわちサンプル8および9)。2回の一時停止(dwell)を含む硬化プロファイルを、30および50の厚さの部品に使用した(すなわちサンプル10および11):150℃で3時間、続いて180℃で2時間、および1℃/分の硬化ランプ速度。各サンプルについて測定した5つのパラメーターを、以下の表11に説明する。
【表11】
【0106】
表11は2つの配合について、部品の厚さがオーバーシュート温度に及ぼす予想された効果を示す。表11はポリマー複合材の硬化中に有意な発熱現象を明らかに示す。比較実
施例3では6.8から59.3℃へのオーバーシュートが予想され、一方、実施例3Aでのオーバーシュートはわずか2.7から16.7℃である。
【0107】
上記記載から本開示は、目的を行うため、そして本明細書に言及し、ならびに本開示に固有の利点に到達するために十分に適合することが明らかである。本開示の例示的態様は開示目的で記載してきたが多数の変更を行うことができ、この変更は当業者に本開示および添付の請求の範囲から逸脱せずに達成できることを容易に連想させると理解されるものである。