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特許7241086酸化マンガン組成物、及び酸化マンガン組成物の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】酸化マンガン組成物、及び酸化マンガン組成物の調製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/50 20100101AFI20230309BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20230309BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20230309BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
H01M4/50
H01M4/42
H01M10/36 Z
H01M10/44 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020541793
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 CA2019050112
(87)【国際公開番号】W WO2019148274
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】62/624,105
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/957,913
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520159400
【氏名又は名称】オクトパス テクノロジーズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】OCTOPUS TECHNOLOGIES INC.
【住所又は居所原語表記】World Trade Centre, Suite 404,999 Canada Place,Vancouver,British Columbia V6C 3E2 (CA)
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【弁理士】
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 洋之
(72)【発明者】
【氏名】ウィルキンソン,デヴィッド ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ボナクダルポア,アーマン
(72)【発明者】
【氏名】ストセフスキー,イワン
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-112068(JP,A)
【文献】特表2017-535037(JP,A)
【文献】国際公開第84/003799(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/112660(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0110765(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103151576(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105958131(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107863485(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107004860(CN,A)
【文献】G.Belardia, P.Balliranob, M.Ferrinic, R.Lavecchiac, F.Medicic, L.Pigac, A.Scoppettuoloc,Characterization of spent zinc carbon and alkaline batteries by SEM-EDS, TGA/DTA and XRPD analysis,Thermochimica Acta,526,2011年09月29日,p.169 - p.177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/00-10/04
H01M 10/36-10/39
H01M 10/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードと、アノードと、前記カソード及び前記アノードと流体的に接する電解液とを備え、前記カソードは、26°±0.5°及び36°±0.5°にブラッグピークを示すX線回折パターンを有した酸化マンガン組成物を含み、26°±0.5°における前記ブラッグピークは、それ以外に生じるブラッグピークに比べて、最大の強度を有する、亜鉛・マンガン電池。
【請求項2】
前記酸化マンガン組成物の前記X線回折パターンは、更に、18°±0.5°及び34°±0.5°にブラッグピークを示す、請求項1に記載の亜鉛・マンガン電池。
【請求項3】
34°±0.5°における前記ブラッグピークは、18°±0.5°における前記ブラッグピークよりも強度が大きい、請求項2に記載の亜鉛・マンガン電池。
【請求項4】
前記酸化マンガン組成物の前記X線回折パターンは、更に、44°±0.5°にブラッグピークを示す、請求項2に記載の亜鉛・マンガン電池。
【請求項5】
前記酸化マンガン組成物の前記X線回折パターンは、更に、44°±0.5°にブラッグピークを示す、請求項1に記載の亜鉛・マンガン電池。
【請求項6】
36°±0.5°における前記ブラッグピークは、44°±0.5°における前記ブラッグピークよりも強度が大きい、請求項5に記載の亜鉛・マンガン電池。
【請求項7】
前記酸化マンガン組成物は、少なくとも50%のMnである、請求項1に記載の亜鉛・マンガン電池。
【請求項8】
前記亜鉛・マンガン電池において、8°±0.5°と12°±0.5°との間のブラッグピーク範囲に可逆反射が現れる、請求項1に記載の亜鉛・マンガン電池。
【請求項9】
前記電解液は、中性である、請求項1に記載の亜鉛・マンガン電池。
【請求項10】
(a)請求項1に記載の亜鉛・マンガン電池を用意するステップと、
(b)前記亜鉛・マンガン電池のサイクルを実施するステップであって、
(i)前記亜鉛・マンガン電池を、第1のVcellまで定電流放電すること、
(ii)前記亜鉛・マンガン電池を、第2のVcellまで定電流充電すること、及び
(iii)第2のVcellで、第1の規定時間にわたり、定電圧充電すること
によって、前記亜鉛・マンガン電池のサイクルを実施するステップと
を備える方法。
【請求項11】
前記第1のVcellは、1.0Vと1.2Vとの間である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2のVcellは、1.8Vと2.0Vとの間である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
第3のVcellで、第2の規定時間にわたり、前記亜鉛・マンガン電池を定電圧充電することを更に備え、前記第3のVcellでの定電圧充電は、前記亜鉛・マンガン電池を前記第1のVcellまで定電流放電した後で、前記亜鉛・マンガン電池を前記第2のVcellまで定電流充電する前に行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第3のVcellは、1.7Vと1.8Vとの間である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸化マンガン組成物は、少なくとも50%のMnである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本特許出願は、2018年1月30日出願の米国特許仮出願第62/624105号、及び2018年4月20日出願の米国特許出願第15/957913号による優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、酸化マンガン組成物、及び酸化マンガン組成物の調製方法に関する。また、本発明は、酸化マンガン組成物またはサイクル実施組成物を含む、再充電可能な電池に関する。
【背景技術】
【0003】
酸化マンガン組成物は、電池または顔料の製造(但し、これらに限定されない)などの産業用途で使用可能な無機組成物、またはマンガンを含む別の組成物の前駆体材料となる無機組成物である。それらは自然に産出されるものではあるものの、商業的用途で利用される酸化マンガン組成物は、化学的手段または電解的手段のいずれかによって生成されるのが一般的である。
【0004】
酸化マンガン組成物の1つの例は、二酸化マンガン(MnO)である。多くの無機化合物と同様に、二酸化マンガンは、様々な多形体または相で存在する。このような多形体には、α-MnO、β-MnO(軟マンガン鉱)、γ-MnO(ラムスデル鉱)、及びε-MnO(アフテンスク鉱)が含まれるが、これらに限定されない。電解的に合成されたMnO中に存在する多形体は、しばしば高度の結晶性を示す。本明細書では、電解的に合成されたMnOを「EMD」と称する場合がある。
【0005】
酸化マンガン組成物のもう1つの例は、酸化マンガン(II,III)である。酸化マンガン(II,III)は、鉱物のハウスマン鉱中に天然に存在し、限定されるものではないが、磁石などのセラミック材料の生成における前駆体材料として使用されることがある。酸化マンガン(II,III)の種々の化学式は、一般にMnとして同定することができる。
【0006】
酸化マンガン組成物のもう1つの例はMnであり、鉱物のビクスビ鉱として自然界に存在する。
【0007】
二酸化マンガンは、比較的豊富であり、毒性が低く、低価格であるため、アルカリ亜鉛イオン電池(例えば、アルカリZn/MnO電池)の製造に一般的に使用されており、アルカリZn/MnO電池自体が、電池のマーケットシェアのかなりの割合を占めている。概して、アルカリZn/MnO電池は、カソード(即ち、カソード活物質として二酸化マンガンを含むもの)、アノード(即ち、アノード活物質として亜鉛金属を含むもの)、並びにカソード及びアノードの両方が流体的に接するアルカリ電解液(例えば、水酸化カリウム溶液)を備えている。
【0008】
アルカリZn/MnO電池の動作中には、亜鉛アノード物質が酸化され、カソード活物質が還元され、外部の負荷に向けて流れる電流が生成される。このような電池を再充電する際には、二酸化マンガンの還元の結果として形成された副産物が酸化されて、二酸化マンガンが再形成される。市販のZn/MnO電池の典型的な充放電サイクルで生成されるマンガン含有生成物は、ショージ(Shoji)ほかによる、電解質として硫酸亜鉛を使用する亜鉛・二酸化マンガンガルバニ電池の充放電挙動、電気分析化学ジャーナル、362号(1993年):153~157頁に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アルカリZn/MnO電池では、その中のアルカリ電解環境が、経時的に、そして充放電サイクルの過程にわたり、カソード上に形成されるMn(OH)、Mn、及びMnなど(但し、これらに限定されるものではない)の副産物の蓄積に関与することが観察されている(シェン(Shen)ほか、電源、2000年、87、162)。Zn/MnO電池におけるこのような副産物の蓄積は、容量の減衰、クーロン効率の低下、またはその両方といった望ましくない結果を招く可能性がある。そのような蓄積された副産物を含む「消耗された」Zn/MnO電池は、多くの場合、単に廃棄またはリサイクルされ、蓄積された副産物自体の商業的有用性及び工業的有用性の少なくとも一方の可能性についての更なる配慮がなされないことが多い。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、(a)電池を用意するステップであって、当該電池が、(i)主たるカソード活物質として酸化マンガンを含むカソードと、(ii)アノードと、(iii)前記アノード及び前記カソードと流体的に接する電解液とを備えるステップと、(b)前記電池のサイクルを実施するステップであって、(i)前記電池を、第1のVcellまで定電流放電すること、(ii)前記電池を、第2のVcellまで定電流充電すること、及び(iii)第2のVcellで、第1の規定時間にわたり、定電圧充電することによって前記電池のサイクルを実施するステップとを備える方法が提供される。
【0011】
この方法は、前記第1のVcellが、1.0Vと1.2Vとの間であってもよい。この方法は、前記第2のVcellが、1.8Vと2.0Vとの間であってもよい。
【0012】
本発明のもう1つの態様によれば、(a)電池を用意するステップであって、当該電池が、(i)主たるカソード活物質として酸化マンガンを含むカソードと、(ii)アノードと、(iii)前記アノード及び前記カソードと流体的に接する電解液とを備えるステップと、(b)前記電池のサイクルを実施するステップであって、(i)前記電池を、第1のVcellまで定電流放電すること、(ii)前記電池を、第2のVcellで、第1の規定時間にわたり、定電圧充電すること、(iii)前記電池を、第3のVcellまで定電流充電すること、及び(iv)第3のVcellで、第2の規定時間にわたり、定電圧充電することによって、前記電池のサイクルを実施するステップとを備える方法が提供される。
【0013】
この方法は、前記第1のVcellが、1.0Vと1.2Vとの間であってもよい。この方法は、前記第2のVcellが、1.7Vと1.8Vとの間であってもよい。この方法は、前記第3のVcellが、1.8Vと2.0Vとの間であってもよい。
【0014】
本発明のもう1つの態様によれば、上述の方法によって生成された化学組成物が提供される。この化学組成物は、電池の製造に使用してもよい。
【0015】
本発明のもう1つの態様によれば、約26°にブラッグピークを示すX線回折パターンを有し、当該ブラッグピークは、それ以外に生じるブラッグピークに比べ、最大の強度を有する化学組成物が提供される。この化学組成物は、電池の製造に使用してもよい。
【0016】
この化学組成物のX線回折パターンは、更に、約18°及び約34°にブラッグピークを示してもよい。約34°におけるブラッグピークは、約18°におけるブラッグピークよりも強度が大きくてもよい。この化学組成物のX線回折パターンは、更に、約36°及び約44°にブラッグピークを示してもよい。約36°におけるブラッグピークは、約44°におけるブラッグピークよりも強度が大きくてもよい。この化学組成物は、Mnに対してサイクルを実施することによって生成してもよい。
【0017】
電池は、亜鉛イオン電池であってもよい。電池は、非リチウム電池であってもよい。電池は、亜鉛・マンガン電池であってもよい。電池は、水系電池であってもよい。
【0018】
本発明のもう1つの態様によれば、活性化組成物に対してサイクルを実施することによって生成される1以上の化学種を含む化学組成物が提供される。この化学組成物は、電池の製造に使用してもよい。
【0019】
活性化組成物は、LiMnを処理することによって生成してもよい。
【0020】
1以上の化学種の少なくとも1つは、MMnの化学式を有するものであってもよく、このとき、「x」は0.01と1との間であり、「y」は2であり、「z」は4である。1以上の化学種の少なくとも1つは、スピネル結晶構造を有するものであってもよい。化学式MMnの「M」は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択されてもよい。アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムから選択されてもよい。アルカリ金属はリチウムであってもよい。
【0021】
1以上の化学種の少なくとも1つは、ラムスデル鉱であってもよい。
【0022】
電池は、亜鉛イオン電池であってもよい。電池は、非リチウム電池であってもよい。電池は、亜鉛・マンガン電池であってもよい。電池は、水系電池であってもよい。
【0023】
この発明の概要は、本発明の全ての態様の全範囲を必ずしも記載するものではない。別の態様、特徴、及び利点は、以下の具体的な実施形態の説明を考察することにより、当業者に明らかなものとなるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】酸化マンガン組成物に対してサイクルを実施するためのコイン型セルの分解図である。
図2】化学式Mnを有する市販の酸化マンガン組成物のX線回折(XRD)パターンであって、23°と63°との間の散乱角のXRDパターンの拡大を含む。
図3】市販のEMD(即ち、エラケム・コミログ(Erachem-Comilog))のXRDパターンである。
図4】Mn及びMnを含む組成物のXRDパターンであり、この組成物は、市販のEMD(即ち、エラケム・コミログ(Erachem-Comilog))を熱処理することによって生成される。
図5a】種々の電池の比容量(mAh/g)対サイクル数のプロットであり、各電池はカソードを備え、当該カソードは、主たるカソード活物質として酸化マンガン組成物を最初に含む。
図5b図5aに示す種々の電池の容量(mAh)対サイクル数のプロットである。
図5c図5aに示す種々の電池の比エネルギ(mWh・g-1)対サイクル数のプロットである。
図5d図5aに示す種々の電池の電圧対比容量のプロットである。
図5e】特定の充放電サイクル(例えば、1回のサイクル、55回のサイクル)における電池の電圧対比容量のプロットである(図5aに示すセルIDのFCB081_02を参照)。
図6】(i)サイクル実施前の市販の酸化マンガン組成物、(ii)10回目の電池サイクルの放電状態におけるサイクル実施組成物であって、酸化マンガン組成物に対するサイクルの実施で生じる組成物、(iii)10回目の電池サイクルの充電状態におけるサイクル実施組成物であって、酸化マンガン組成物に対するサイクルの実施で生じる組成物、(iv)20回目の電池サイクルの放電状態におけるサイクル実施組成物であって、酸化マンガン組成物に対するサイクルの実施で生じる組成物、及び(v)20回目の電池サイクルの充電状態におけるサイクル実施組成物であって、酸化マンガン組成物に対するサイクルの実施で生じる組成物のそれぞれのXRDパターンを示す。
図7】(i)ZnMn、(ii)10回目の電池サイクルの放電状態におけるサイクル実施組成物であって、Mnに対するサイクルの実施で生じる組成物、及び(iii)Zn(OH)SO・0.5HOのそれぞれのXRDパターンを示す。
図8a】(i)Mn粉末、及び(ii)50回の充放電サイクルの後のサイクル実施電極のX線光電子分光法(XPS)スペクトルを示す図であり、サイクル実施電極は、活物質としてMnを最初に含む電極に対するサイクルの実施で生成される。
図8b図8aにおける、サイクル実施電極のXPSスペクトルの一部の高分解能拡大図であり、当該高分解能拡大図は、Mnを最初に含む電極に対して充放電サイクルを実施することによるZnMn種の生成を示している。
図9a】(i)LiMnの処理によって得られる活性化組成物を最初に含む電池と、(ii)処理されていないLiMnを最初に含む電池との比容量(特定回数のサイクルの後)を比較する図である。
図9b図9aに示すようなLiMnの化学処理で得られる活性化組成物を最初に含む電池の、所定の充放電プロセスの228回目のサイクル及び229回目のサイクルにおける充放電曲線を示す図である。
図9c】処理されていないLiMnと、LiMnの処理によって得られる活性化組成物とのXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
添付図面は、1以上の実施形態を示している。
【0026】
XRDパターンに適用可能な場合、ミラー指数が含まれている。
【0027】
「上部」、「下部」、「上方」、「下方」、「垂直に」、及び「横に」などの方向の用語は、以下の説明において、相対的な関係のみを提供する目的で使用するものであり、実施の際に、どの物品がどのように配置されるか、または組立体において、もしくは周囲に対し、どのように取り付けられるかについて、いかなる限定の示唆も意図するものではない。用語「備える」と併せて本明細書で使用する場合、英語の「a」または「an」の使用は、「1つ」を意味する場合があるが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、及び「1つ以上」の意味とも一致する。単数形で表現されるいかなる要素もまた、その複数の形態を包含する。複数形で表されるいかなる要素もまた、その単数の形態を包含する。本明細書で用いる「複数」とは、2つ以上を意味し、例えば、「複数」とは、2つ以上、3つ以上、4つ以上などを含む。
【0028】
本明細書では、用語「備える」、「有する」、「含む」、及び「含有する」、並びにその文法的変形は、包括的または可変的なものであり、更なる、記載していない要素及び方法ステップの少なくとも一方を排除するものではない。用語「実質的に・・・からなる」は、組成物、使用、または方法に関連して本明細書で使用する場合、更なる要素、もしくは方法ステップ、または更なる要素及び方法ステップの両方が存在し得ることを意味するが、これらの追加は、記載した組成物、方法、または使用が機能する様式に実質的に影響を及ぼすものではない。用語「・・・からなる」は、組成物、使用、または方法に関連して本明細書で使用する場合、更なる要素及び方法ステップの少なくとも一方の存在を排除する。
【0029】
本明細書において、用語「約」は、記載した値が後に続く場合、その記載した値のプラスまたはマイナス5%以内を意味する。このような用語は、例えば、ブラッグスピークの場合、記載した値の±0.1°、±0.2°、±0.3°、±0.4°、±0.5°以内の値を意図する。
【0030】
本明細書において、「活性化組成物」という用語は、MMn組成物の処理(例えば、電気化学的、化学的、熱的、これらの組み合わせ)から生じる組成物を指す。
【0031】
本明細書において、「活物質」という用語は、充電反応または放電反応に関与するカソードまたはアノードの化学反応性材料を指す。
【0032】
本明細書において、用語「電池」は、1つの電気化学セル、または直列、並列、もしくはそれらの組み合わせで一緒に接続された2つ以上の電気化学セルを意図し、本明細書で使用する場合、用語「セル」は、1つの電気化学セル、または直列、並列、もしくはそれらの組み合わせで一緒に接続された2つ以上の電気化学セルを意図するものであって、本明細書で使用する場合、用語「電池」と用語「セル」とは、置換可能である。
【0033】
本明細書において、「Cレート」は、電池が放電する速さを指す。例えば、2Cレートは、30分で電極容量の全てを放電し、1Cレートは、1時間で電極容量の全てを放電し、C/2レートは、2時間で電極容量の全てを放電し、C/10レートは、10時間で電極容量の全てを放電することになる。
【0034】
本明細書において、「カットオフ容量」または「容量カットオフ」という用語は、電池の放電ステップを停止する電量容量を指す。
【0035】
本明細書において、「カットオフ電圧」または「電圧カットオフ」という用語は、(i)放電ステップを停止、または(ii)充電ステップを停止する電池の電圧を指す。
【0036】
本明細書において、「サイクル実施組成物」という用語は、放電反応、充電反応、これらの組み合わせ、またはこれらの複数に晒された酸化マンガン組成物を意味する。
【0037】
本明細書において、用語「サイクル実施電極」は、活物質として作用する酸化マンガン組成物を最初に含み、放電反応、充電反応、これらの組み合わせ、またはこれらの複数に晒された電極を意味する。
【0038】
本明細書において、用語「放電状態」(電池の)は、電池のカソードの酸化マンガン組成物の少なくとも一部が放電反応に関与した電池の状態を意味する。
【0039】
本明細書において、「リチウム電池」という用語は、アノードとしてリチウムを有した一次電池を意味する。
【0040】
本明細書において、「MMn組成物」という用語は、MMnの化学式を有した組成物を指すものであって、「M」はMn以外の金属であり、「x」、「y」、及び「z」は数字であって、「y」及び「z」は0より大きく、「x」は0以上である。例えば、「M」は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であってもよい。アルカリ金属の例には、Li、Na、K、及びRbが含まれる。アルカリ土類金属の例には、Be、Mg、Ca、及びSrが含まれる。例えば、「M」は、遷移金属であってもよい。遷移金属の例には、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、及びCdが含まれる。例えば、「M」は、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnからなる群から選択してもよい。例えば、「M」は、Li、Na、K、及びZnからなる群から選択してもよい。MMn組成物の非限定的な例は、式Mnを有する組成物であり、「a」及び「b」は、0より大きい。
【0041】
本明細書において、「酸化マンガン組成物」という用語は、活性化組成物及びMMn組成物を含む。
【0042】
本明細書において、用語「非サイクル状態」(電池の)は、電池のカソードのMMn組成物が充電反応または放電反応に晒されていない電池の状態を意味する。
【0043】
本発明は、酸化マンガン組成物、及び酸化マンガン組成物の生成方法に関する。また、本発明は、酸化マンガン組成物またはサイクル実施組成物を含む再充電可能な電池に関する。この再充電可能な電池は、亜鉛イオン電池であってもよい。
【0044】
本発明によってなされる教示は、本明細書に開示される例を主に用いて示される。しかしながら、当業者は、本発明がこれらの例に限定されるものではなく、本明細書による教示が酸化マンガン組成物の全般に適用され得ることを理解するであろう。化学的に合成された酸化物、ドープされた酸化マンガン組成物、及びドープされていない酸化マンガン組成物といった(但し、これらに限定されない)様々な形態の酸化マンガン組成物を、本明細書に開示するいずれかの教示と同一または類似の様式で、活性化し、サイクルを実施し、または一般的に調製することができる。
【0045】
[酸化マンガン粉末]
酸化マンガン組成物は、任意の適切な物理的形態(例えば、粉末、シート、薄膜、物理蒸着または化学蒸着によって生成されたフィルム)とすることができる。本明細書において、粉末状の酸化マンガン組成物は、「酸化マンガン粉末」と称する場合がある。酸化マンガン粉末は、MMn組成物の粉末、活性化組成物の粉末、またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0046】
いくつかの実施形態において、活性化組成物(例えば、粉末状のものなど)は、MMn組成物(例えば、粉末状のものなど)を化学的に処理することによって生成される。このような活性化組成物は、部分的に脱金属化されてもよい。また、このような活性化組成物は、完全に脱金属化されてもよい。MMn組成物を化学的に処理する場合には、このMMn組成物を、予め定められた期間にわたり、高温度の強酸溶液中に混入し、その後、得られた生成物を、(例えば、イオン除去水で)洗浄する。強酸は、任意の適切な強酸とすることができる。強酸の例には、HCl、HSO、HNO、HClO、HClOが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、強酸は、HSOである。
【0047】
強酸の濃度は、任意の適切な濃度とすることができる。例えば、強酸の濃度は、1.0M、1.5M、2.0M、2.5M、3.0M、3.5M、または4.0Mであってもよい。例えば、強酸溶液は、2.5Mの硫酸溶液とすることができる。
【0048】
高温度には、約80℃と約120℃との間、約90℃と約110℃との間、約95℃と約105℃との間のいずれかの温度が含まれるが、これらに限定されない。例えば、高温度は95℃であってもよい。
【0049】
予め定められた時間は、乾燥のための任意の適切な時間であってもよい。例えば、予め定められた時間は、2時間以上、3時間以上、4時間以上であってもよい。例えば、予め定められた時間は、2.5時間とすることができる。
【0050】
次に、得られた生成物を、予め定められた時間にわたり、高温度で乾燥させる。この高温度には、約80℃と約120℃との間、約90℃と約110℃との間、約95℃と約105℃との間のいずれかの温度が含まれるが、これらに限定されない。例えば、高温度は100℃とすることができる。予め定められた時間は、乾燥のための任意の適切な時間であってもよい。例えば、予め定められた時間は、2時間以上、3時間以上、4時間以上であってもよい。一例では、予め定められた時間が12時間である。
【0051】
別の実施形態において、活性化組成物(例えば、粉末状のもの)は、MMn組成物(例えば、粉末状のもの)を電気化学的に処理することによって生成される。
【0052】
別の実施形態において、MMn組成物は、化学的処理、電気化学的処理、及びそれ以外のいずれの処理も受けない。
【0053】
[酸化マンガン電極]
酸化マンガン粉末を集電体と組み合わせて電極を形成してもよい。また、他の物理的形態の酸化マンガン組成物(例えば、シート、薄膜、物理蒸着または化学蒸着によって生成されたフィルム)を集電体と組み合わせて電極を形成してもよい。本明細書において、このような電極は「酸化マンガン電極」と称する場合がある。
【0054】
酸化マンガン電極を調製する実施形態によれば、酸化マンガン粉末をカーボンブラック(例えば、バルカン(Vulcan、登録商標)のXC72R)と混合し、7重量%のポリフッ化ビニリデン(例えば、EQ-Lib-PVDF、MTI社)及びn-メチル-2-ピロリドン(例えば、EQ-Lib-NMP、MTI社)を主成分とする溶液に添加して混合物を形成する。この混合物をカーボンペーパの集電体基材(例えば、TGP-H-12カーボンペーパ)上に広げる。この混合物を、集電体基材上で、約2時間にわたり約150℃で乾燥させる。乾燥すると、酸化マンガン電極が形成される。
【0055】
酸化マンガン粉末対カーボンブラック対PVDFの比は変化させてもよい。一例では、この比が約7:2:1である。
【0056】
集電体基板は、実質的に2-D構造または3-D構造とすることができる。集電体基板は、様々な多孔度(例えば、5%~70%)、及び曲がりくねった状態を有することができる。いくつかの実施形態において、集電体基板は、金属、合金、または金属酸化物とすることができる。適切な金属または合金の例には、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タングステン、及びニッケル系合金が含まれるが、これらに限定されない。別の実施形態では、集電体基板のための別の炭素支持体を使用することができる。このような炭素支持体には、カーボンナノチューブ、改質カーボンブラック、活性炭が含まれるが、これらに限定されない。別の実施形態では、これら以外の集電体基板を使用することができる。このような基材には、3-D構造化炭素、多孔質炭素、及びニッケル金属メッシュが含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
別の実施形態では、上述とは別の重量%のポリフッ化ビニリデンを含むポリフッ化ビニリデン溶液を使用することができる。例えば、このような溶液は、1重量%~15重量%のポリフッ化ビニリデンを含有することができる。
【0058】
別の実施形態では、上述とは別の乾燥温度を使用することができる。例えば、乾燥温度は、約80℃と約180℃との間の任意の温度とすることができる。例えば、乾燥気温は、約80℃と約180℃との間、約80℃と約170℃との間、約80℃と約160℃との間、約90℃と約150℃との間、約90℃と約160℃との間、約100℃と約150℃の間とすることができる。別の実施形態では、上述とは別の乾燥時間を使用することができる。例えば、乾燥時間は、約2時間と約18時間との間の任意の時間とすることができる。例えば、乾燥時間は、約5時間と約18時間との間、約5時間と約14時間との間、約5時間と約10時間との間、及び約5時間と約8時間との間とすることができる。
【0059】
別の実施形態において、酸化マンガン粉末対カーボンブラック対PVDFの比は変化させてもよい。
【0060】
別の実施形態では、別のバインダ及びバインダ溶媒を使用することができる。例えば、グルタルアルデヒドで架橋されたポリビニルアルコール(PVA)を、水溶液の形成の際のバインダとして使用することができる。理論にとらわれることなく、PVAは電極の親水性を増加させ、それによって電池性能を改善すると考えられる。もう1つの例では、ゴム系バインダであるスチレンブタジエンを使用することができる。それ以外のバインダには、Mクラスゴム及びテフロン(登録商標)が含まれるが、これらに限定されない。
【0061】
別の実施形態では、例えば、硫酸塩、水酸化物、アルカリ金属塩(例えば、解離してLi、Na、またはKを生成する塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、解離してMg2+、またはCa2+を生成する塩)、遷移金属塩、酸化物、及びこれらの水和物などの添加剤を、電極の形成の際に添加するが、添加剤はこれらに限定されない。アルカリ土類金属塩及び硫酸塩の例には、BaSO、CaSO、MnSO、及びSrSOが含まれるが、これらに限定されない。遷移金属塩の例には、NiSO及びCuSOが含まれるが、これらに限定されない。酸化物の例には、Bi及びTiOが含まれるが、これらに限定されない。別の実施形態では、銅系添加剤及びビスマス系添加剤などの添加剤を、電極の形成の際に添加するが、添加剤はこれらに限定されない。理論にとらわれることなく、このような添加剤は、電池のサイクル性を改善し得ると考えられる。
【0062】
酸化マンガン電極は、電池の製造に組み入れてもよい。酸化マンガン電極は、電池の構成要素としてもよい。酸化マンガン電極は、電池での使用に適合させてもよい。酸化マンガン電極は、電池に用いてもよい。いくつかの例において、電池は亜鉛イオン電池である。いくつかの例において、電池は非リチウム電池である。いくつかの例において、電池は亜鉛・マンガン電池である。いくつかの例において、電池は水系電池である。
【0063】
[酸化マンガン電極のサイクル実施]
酸化マンガン電極の酸化マンガン組成物に対し、電池のその場(in-situ)またはその場以外(ex-situ)でサイクルを実施することができる。以下は、サイクル実施電極がどのように調製され得るかの例である。
【0064】
図1を参照すると、コイン型セル100が示されている。コイン型セル100は、ステンレス鋼(例えば、MTI社製のCR2032)からなる外側ケーシング110と蓋170とを備える。外側ケーシング110は、基部と、当該基部を取り囲む側壁とを有する。側壁及び基部は、内部キャビティ112を画定する。また、コイン型セル100は、適切なエラストマ材料(例えば、ポリプロピレン)からなるガスケット180(例えば、Oリング)、スペーサ150、及びワッシャ160を備える。また、コイン型セルは、カソード120、アノード140、及びカソード120とアノード140との間にあるセパレータ130を備え、これらは全て電解液と流体的に接している(例えば、電解液中に浸漬されている)。別の例では、これ以外の適切なセルを使用してもよい。
【0065】
カソード120(例えば、サイクルを実施していない酸化マンガン電極)は、コイン型セル100の内部キャビティ112に配置される。中性に近いpH(即ち、pHはほぼ中性)の電解液が、当該電解液にカソード120が流体的に接する(例えば、浸漬される)状態になるまで、コイン型セル100の内部キャビティ112に注入される。
【0066】
本明細書で意図するところでは、電解液が、少なくとも第1の電解質種を含む。第1の電解質種の一例は、硫酸亜鉛である。この電解質種は、任意の適切な濃度で電解液中に存在してもよい。この電解質種は、水和されていても、または水和されていなくてもよい。適切な濃度の非限定的な例には、約0.5Mから飽和まで、約0.5M~約2.5M、約1.0Mから飽和まで、約1.0M~約2.5M、約1.5Mから飽和まで、及び約1.5M~約2.5Mの範囲のものが含まれ、例えば、硫酸亜鉛七水和物が、約0.5M、0.6M、0.7M、0.8M、0.9M、1.0M、1.1M、1.2M、1.3M、1.4M、1.5M、1.6M、1.7M、1.8M、1.9M、2.0M、2.1M、2.2M、2.3M、2.4M、2.5Mの濃度で溶液中に存在していてもよい。一例において、第1の電解質種は、2.0MのZnSO・7HO(例えば、アナケミアカナダ社(Anachemia Canada Co.)の純度98%のもの)である。
【0067】
また、第1の電解質種は、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、または適切な濃度で電解液中に溶解されたこれらの組み合わせなどの亜鉛系の塩であってもよいが、亜鉛系の塩は、これらに限定されない。また、第1の電解質種は、これ以外でpHがほぼ中性の電解質であってもよい。このような別の中性に近い電解質の例には、解離時にLi、Na、及びMg2+のようなカチオン種を生じるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0068】
電解液は、更に第2の電解質種を含んでもよい。第2の電解質種の一例は、硫酸マンガンである。この電解質種は、任意の適切な濃度で電解液中に存在してもよい。この電解質種は、水和されていても、または水和されていなくてもよい。第2の電解質種の適切な濃度には、約0.1M~約0.2Mの範囲のものまたは飽和が含まれ、例えば、硫酸マンガン一水和物が、約0.10M、0.11M、0.12M、0.13M、0.14M、0.15M、0.16M、0.17M、0.18M、0.19M、0.20M、または飽和の濃度で電解液中に存在していてもよい。一例において、第2の電解質種は、約0.1MのMnSO・HO(例えば、アナケミアカナダ社(Anachemia Canada Co.)製の純度99%のもの)である。別の実施形態において、電解液は、硝酸マンガンなど(但し、これに限定されない)の硫酸マンガン一水和物と同じまたは実質的に同様の機能を有する別の適切なマンガン含有化合物を含む。
【0069】
電解液は、硫酸塩、水酸化物、アルカリ金属塩(例えば、解離してLi、Na、またはKを生成する塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、解離してMg2+、またはCa2+を生成する塩)、遷移金属塩(例えば、銅系またはビスマス系)、酸化物、及びこれらの水和物などの添加剤を更に含んでもよいが、添加剤はこれらに限定されない。アルカリ土類金属塩及び硫酸塩の例には、BaSO、CaSO、MnSO、及びSrSOが含まれるが、これらに限定されない。遷移金属塩の例には、NiSO、及びCuSOが含まれるが、これらに限定されない。酸化物の例には、Bi、及びTiOが含まれるが、これらに限定されない。理論にとらわれることなく、このような添加剤は、電池のサイクル性を改善し得ると考えられる。
【0070】
セパレータ130も、コイン型セル100内に配置されている。セパレータ130は、第1の層及び第2の層を備える。この第1の実施形態で意図するところでは、第1の層及び第2の層の各々が、セロファンフィルムの副層と、当該副層に結合されたポリエステル不織布(例えば、ネプトコ社(Neptco Inc.)製のNWP150)の副層とから実質的になる。第1の層及び第2の層は、それぞれのポリエステル不織布の副層が互いに隣接するように配置される。セパレータ130は、カソード120が第1層のセロファンフィルムの副層に隣接するように、カソード120の上に配置される。セパレータ130は、電解液と流体的に接している(例えば、電解液中に浸漬されている)。
【0071】
アノード140は、亜鉛箔(例えば、デクスメット(Dexmet)のSO31050)を備え、アノード140がセパレータ130の第2の層のセロファンフィルムの副層に隣接するようにコイン型セル100内に配置される。電解液は、カソード140が当該電解液と流体的に接する状態となるまでコイン型セル100に注入される。
【0072】
スペーサ150はアノード140に隣接して配置され、ワッシャ160はスペーサ150に隣接して配置され、ガスケット180はワッシャ160に隣接して配置される。スペーサ150及びワッシャ160は、ステンレス鋼からなる。蓋170はガスケット180の上に配置され、蓋170と外側ケーシング110とが互いに圧着されてコイン型セル100を形成する。
【0073】
電池のその場(in-situ)で、酸化マンガン電極の酸化マンガン組成物を調製する(例えば、サイクルを実施する)第1の実施形態によれば、コイン型セルは、第1のVcellとなるまで定電流放電され、第1の規定期間にわたって第2のVcellで定電圧充電され、第3のVcellとなるまで定電流充電され、第2の規定期間にわたって第3のVcellで定電圧充電される。第1のVcellは、1.0Vと1.2Vとの間のいずれかの電圧から選択されてもよい。第2のVcellは、1.7Vと1.8Vとの間のいずれかの電圧から選択されてもよい。第3のVcellは、1.8Vと2.0Vとの間のいずれかの電圧から選択されてもよい。第1の規定期間は、30分と6時間との間の長さの時間であってもよい。例えば、第1の規定期間は、0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3.0時間であってもよい。第2の規定期間は、30分と6時間との間の長さの時間であってもよい。例えば、第2の規定期間は、0.5時間、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3.0時間であってもよい。この第1の実施形態で意図するところでは、コイン型セル100が、1.1Vcellに低下するまでC/2レートで定電流放電され、2時間にわたって1.75Vcellで定電圧充電され、1.9VcellとなるまでC/2レートで定電流充電され、2時間にわたって1.9Vcellで定電圧充電される。この充放電のサイクルは、繰り返すことが可能である。別の実施形態では、酸化マンガン電極の酸化マンガン組成物(またはサイクル実施電極のサイクル実施組成物)が、放電の後、少なくとも部分的に、100mA/gの割合で1.9Vcellとなるまで定電流充電の状態におかれる。
【0074】
電池のその場(in-situ)でサイクル実施電極を調製する第2の実施形態によれば、コイン型セルは、第1のVcellに低下するまで定電流放電され、第2のVcellとなるまで定電流充電され、第1の規定期間にわたって第2のVcellで定電圧充電される。第1のVcellは、1.0Vと1.2Vとの間のいずれかの電圧から選択されてもよい。第2のVcellは、1.8Vと2.0Vとの間のいずれかの電圧から選択されてもよい。第1の規定時間は、約1分と60分との間、約5分と50分との間、約10分と40分との間のいずれかの時間であってよい。この第2の実施形態で意図するところでは、コインセル100が、1.1Vcellに低下するまでC/2レートで定電流放電され、1.9VcellとなるまでC/2レート(例えば、100mA/g)で定電流充電され、10分間にわたって1.9Vcellで定電圧充電される。この充放電のサイクルは、繰り返すことが可能である。
【0075】
別の実施形態において、酸化マンガン電極の酸化マンガン組成物は、電池のその場以外(ex-situ)で、電池のその場(in-situ)におけるサイクル実施と同様の方法でサイクルを実施してもよい。電池のその場以外(ex-situ)でのサイクル実施電極は、電池内に構成要素として組み込まれてもよい。電池は、亜鉛イオン電池であってもよい。
【0076】
実施例1:Mn
酸化マンガン組成物の一例はMn組成物である。
【0077】
Mn組成物は、市販されているものがある。市販のMn組成物の一例は、東ソーのCMO-CM104Bである。参考として、東ソーのCMO-CM104BのXRDパターンを図2に示す。
【0078】
Mn組成物は、市販されていないものもある。例えば、市販のEMD(例えば、エラケム・コミログ(Erachem-Comilog)による市販のEMDであり、そのXRDパターンを、図3に示している)を、約900℃と約960℃との間の温度(例えば、900℃)で、約12時間と約24時間との間の時間(例えば、12時間)にわたって、炉内で加熱することにより、Mn組成物を生成してもよい。生成されたMn種(及び残留不純物のMn)のXRDパターンを図4に示す。Mn組成物の生成の際に残った残留不純物は、更なる熱処理によって除去してもよい。
【0079】
本実施例では、4つの異なる電池を調整する。これらの電池のうちの3つは、それぞれカソード活物質としてMnを含む電極を備える。電池の1つは、米国特許出願第62/583,952号に従って調製されたEMD電極を備え、当該米国特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。調製した各電池の詳細を以下の表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
図5aを参照すると、サイクル実施前の表1の電池の初期比容量は低い(即ち、約0mAh/g)。表1に記載した各電池の比容量はサイクル数と共に増加し、約50~約60サイクルで比容量が頂点に達する。
【0082】
図5bを参照すると、表1の電池の容量はサイクル数と共に増加し、約50~約60サイクルで比容量が頂点に達する。
【0083】
図5cを参照すると、表1の電池の比エネルギは、サイクル数と共に増加し、約50~約60サイクルで比容量が頂点に達する。
【0084】
図5dを参照すると、30回目のサイクルにおける表1の電池の電圧/容量特性が示されている。
【0085】
図5eを参照すると、セルIDがFCB081_02の、1回目のサイクル、14回目のサイクル、28回目のサイクル、42回目のサイクル、55回目のサイクルにおける電圧/容量特性が示されている。図示するように、電池の比容量は、サイクルの進行に伴って増加する。
【0086】
当業者に公知のX線回折(XRD)法を用い、Mn(サイクル実施前)、及びMnに対して約10回または約20回の電池サイクルを実施することによって生じるサイクル実施組成物を含む電極について、特性を明らかにして分析を行う。本実施例では、ブルカー(Bruker)のD2フェーザを用いて分析を行う。サイクルを実施していないMnのXRDパターン(図1参照)は、ハウスマン鉱のMnの相の2つの正方晶単位格子の存在を示している。主要な正方晶相は、a=5.75Å、c=9.42Å(PDF:00-001-1127)の単位格子パラメータを有する。a=8.16Å及びc=9.44Å(PDF:03-065-2776)の格子パラメータを有したハウスマン鉱の正方晶相のわずかな部分の存在も認められる(図2のXRDパターンの拡大部分)。
【0087】
図6は、(i)サイクルを実施していないMn、(ii)Mnに対して10回のサイクルを実施することによって生じるサイクル実施組成物、及び(iii)Mnに対して20回のサイクルを実施することによって生じるサイクル実施組成物のそれぞれのXRDパターンを示す。図6によれば、サイクルプロセスによって幾つかの「新たな」ブラッグピークの出現がもたらされ、また、幾つかの既存のブラッグピーク反射が、より顕著となるように見えることが分かる。Mnの相の存在は、より小さな正方晶単位格子のサイズ(即ち、PDF:00-001-1127)ではあるものの、維持されている。新たな反射及び顕著化された反射は、(i)一旦出現すると、充電状態及び放電状態のいずれにおいても存在し続けることを意味する不可逆ピーク、及び(ii)放電状態のみに存在する可逆ピークの2つの群に分けることができる。
【0088】
Mnに対するサイクル実施によって生じた不可逆ピークを表2に列挙する。一般に、これらのピークは、PDF:03-065-2776によるものとすることが可能であり、a軸方向に拡大された正方晶単位格子を有するMn組成物が生成され、サイクルプロセスの間に、より大きな単位格子(PDF:03-065-2776)を有したMnの相の比率が増加することを示唆する。このような特性は、2θ=26.0°における、この相(PDF:03-065-2776)の特徴的な強いブラッグピークによって示されている(図6参照)。この26.0°におけるブラッグピークは、Mnに対するサイクル実施によって生じた全てのサイクル実施組成物に存在し、より小さな正方晶単位格子(PDF:00-001-1127)であることを示す2θ=36°におけるMn(サイクルを実施していない)のブラッグピークよりも際だっている。本実施形態では、電池に使用されるZnSO電解質に由来すると考えられる硫酸亜鉛の存在も認められる。
【0089】
【表2】
【0090】
いくつかの実施例において、サイクル実施組成物の別の特徴には、34°におけるブラッグピークが、18°におけるブラッグピークよりも強度が大きいことが含まれる。いくつかの実施例において、サイクル実施組成物の別の特徴には、36°におけるブラッグピークが、44°におけるブラッグピークよりも強度が大きいことが含まれる。
【0091】
図7は、(i)Mnに対する10回のサイクル実施によって生じたサイクル実施組成物の放電状態、(ii)ZnMn、及び(iii)Zn(OH)SO・0.5HのそれぞれのXRDパターンを示す。32.51°の2θにおける可逆ブラッグピークは、ZnMnまたはZn(OH)SO・0.5HO(JCPDS#44-0674)によるものとすることができる。例えば、Zn(OH)SO・0.5HOは、類似のシステムで可逆的に生成し得ることが示されている(リー(Lee)ほか、ケムサスケム(ChemSusChem)2016年、9、2948参照)。
【0092】
ZnMnの存在は、Mnから得られたサイクル実施組成物に対するZnのインターカレーション/デインターカレーションが可能であることを示すものである。更に、ブラッグピークの位置は、サイクル実施組成物の原子面の面間隔が、放電状態及び充電状態の際に変化することを示唆している(表3参照)。例えば、Mnまたはそのサイクル実施組成物における面間隔dが、放電後に縮小することが認められる。理論にとらわれることなく、α<1であるZnαMnのような組成物がサイクル実施の間に生成されると考えられ、このように生成されたZnαMnにおける面間隔dの変化の方向は、文献で確認されるZnMnのものと同じである。また、充電と放電との間の面間隔dの差は、サイクル実施に伴って増加することが確認され、これは、これらのサイクルプロセスの際、サイクルが進行するにつれて、より多くのZnが酸化マンガン組成物またはそのサイクル実施組成物中に導入されることを示唆するものである。
【0093】
【表3】
【0094】
X線光電子分光法(XPS)(クラトス・アナリティカル(Kratos Analytical)製、アクシス・ウルトラ(Axis Ultra)DLDモデル)を用い、亜鉛塩電解液中における、Mn(サイクル実施前)、及びMnに対して50回のサイクルを実施して得られたサイクル実施組成物の特性を明らかにして分析した。サイクル実施前のMnのXPS測定スペクトル(図8aの実線を参照)は、Mnの化学成分にMn及びOが存在することを示している。Mnに対して50回のサイクルを実施して得られたサイクル実施組成物のXPS測定スペクトル(図8bの点線参照)は、サイクル実施組成物の化学成分にZn、Mn、及びOが存在することを示している。
【0095】
図8a中に「Zn 2p」と示す領域の高分解能スペクトルを図8bに示しており、同図には、サイクル実施組成物の化学成分におけるZnの存在が示されている。Mnに対し、電池の充放電サイクルプロセスを実施した結果、ZnMn、ZnMn、またはZn(OH)SO・5HOといった組成物(但し、これらに限定されない)が、充電状態において生成され得ると想定される。また、カソード活物質に対するZn2+のインターカレーション及びデインターカレーションが、電池の全体的な容量の要因となり得ることも想定される。電池の初期容量の増大をもたらすサイクルプロセスは、比較的小さい正方晶単位格子を有したMnの、比較的大きい正方晶単位格子を有したMnへの変換を導き得る。
【0096】
実施例2:LiMn
マンガン酸化物の一例は、化学的に処理されたLiMnである。
【0097】
化学的に処理されたLiMnは、上述した処理に従って調製される。
【0098】
活物質として化学的に処理されたLiMnを含む電池は、上述した方法に従って調製される。調製した各電池の詳細を以下の表4に示す。
【0099】
【表4】
【0100】
図9aを参照すると、(i)化学的に処理されたLiMnを最初に含み、サイクルを実施した電池(本実施例において「電池A」と称する)、及び(ii)処理されていないLiMnを最初に含み、サイクルを実施した電池(本実施例において「電池B」と称する)の比容量が比較されている。図9aに示すように、電池Aの比容量は、約230回のサイクルにわたって、概ね約150mAh/gで一定のままである。一方、電池Bの比容量は大きくない。
【0101】
図9bを参照すると、電池Aの228回目及び229回目の充放電サイクルにおける充放電曲線が示されている。これらの特性は、電池Aに複数回の充放電サイクルを実施した後であっても、実質的に同様である。
【0102】
図9cを参照すると、化学的な処理の前のLiMn、及び化学的な処理の後のLiMnのそれぞれXRDパターンが示されている。処理の後、MnOのラムスデル鉱の相とLiδMnの相(例えばスピネル結晶構造を有する)を、LiMnの化学的な処理によって得られた活性化組成物中に導入する。ここで、δは0.01<δ<1の期待値を有する。例えば、δは、0.1<δ<1、0.2<δ<1、0.25<δ<1であってもよい。別の実施例では、LiMnに対する化学的な処理を変更することにより、純粋なラムスデル鉱を得るようにしてもよい。
【0103】
[総論]
本明細書で論じられるいずれの態様または実施形態のいずれの部分も、本明細書で論じられる別のいずれかの態様または実施形態のいずれかの部分と、一緒に実施し、または組み合わせてもよいと考えられる。上述のとおり、具体的な実施形態について説明したが、別の実施形態も可能であり、本発明に含まれることを意図するものであることを理解されたい。上述の実施形態の変更及び調整が可能であることは、図示していなくても当業者には明らかであろう。
【0104】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常に理解されるものと同様の意味を有する。更に、本明細書における参考文献の引用は、そのような参考文献が本発明の先行技術であることを認めるものと解釈されるべきではなく、またみなすべきでもない。
【0105】
特許請求の範囲は、本明細書に記載される例示的な実施形態によって限定されるべきではなく、全体として明細書の記載に矛盾しない最も広い解釈をするべきである。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
図6
図7
図8a
図8b
図9a
図9b
図9c