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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】線維症治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/711 20060101AFI20230309BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20230309BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230309BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
A61K31/711 ZNA
A61K31/712
A61K48/00
A61P1/16
A61P11/00
A61P13/12
A61P43/00 111
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020567348
(86)(22)【出願日】2019-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2019002560
(87)【国際公開番号】W WO2020152869
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001395
【氏名又は名称】杏林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】中尾 一久
(72)【発明者】
【氏名】石山 順一
(72)【発明者】
【氏名】市川 航
(72)【発明者】
【氏名】増井 淳
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 ゆにけ
(72)【発明者】
【氏名】本田 亜弥
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0097441(US,A1)
【文献】国際公開第2019/022257(WO,A1)
【文献】PLoS One,2014年,Vol. 9, No. 4,e96095/1-e96095/8
【文献】Cancer Letters,2013年,Vol. 335, No. 1,pp. 175-182
【文献】Cancer Reseach,2017年,Vol. 77, No. 3,pp. 753-765
【文献】BMB Reports,2015年,Vol. 48, No. 8,pp. 473-478
【文献】Scientific Reports,2018年,Vol. 8, No. 1, 16047
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/711
A61K 31/712
A61K 48/00
A61P 1/16
A61P 11/00
A61P 13/12
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NEK6遺伝子のmRNAに相補的なアンチセンスDNAを有効成分として含むSMAD3タンパク質のリン酸化阻害剤。
【請求項2】
NEK6遺伝子のmRNAに相補的なアンチセンスDNAを有効成分として含む、肺線維症、肝線維症又は腎線維症から選択される線維症治療剤。
【請求項3】
アンチセンスDNAの発現阻害のメカニズムが、RNaseHを介したmRNA分解である、請求項2に記載の治療剤
【請求項4】
該アンチセンスDNAが、修飾ヌクレオチド残基を含む核酸である、請求項2に記載の治療剤
【請求項5】
配列番号4で表される核酸に相補的なアンチセンスDNAを有効成分として含む、肺線維症、肝線維症又は腎線維症から選択される線維症の治療剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸及び当該核酸を有効成分とする医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
線維症は、過剰なコラーゲンの蓄積により臓器機能が障害を受け、不可逆的に進行する疾患であり、例えば、その発症臓器としては皮膚、肺、肝臓、膵臓、腎臓、骨髄などが知られている。肺の線維症の一種である特発性肺線維症(IPF)は、人口10万人当たり20人程度の患者数と罹患率は高くはないものの、診断確定後の平均生存期間が2.5~5年と治療後の経過はよくないため、日本において難病指定されている。
【0003】
IPF治療薬としては、これまでにピルフェニドン、ニンテダニブが日本国厚生労働省より承認を受け上市されている。いずれの薬剤も肺活量低下抑制と無増悪期間延長作用を示し、病態の進行を遅延させるものの、治療効果としては十分満足できるものとはいえず、新たなメカニズムに基づく治療薬の開発が望まれている。
【0004】
一方、本発明の標的である「NEK6タンパク質」は、細胞分裂の制御に関わるNIMA-related serine/threonine kinase familyの1つとして知られるが、医薬品開発の研究対象としてはこれまであまり着目されていない。2002年に癌の創薬標的としての可能性が報告されるが、NEK6タンパク質がSMAD2/3タンパク質と相互作用すること、組織の線維化を促進することについて具体的な報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2004/0097441号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規なSMAD2/3タンパク質のリン酸化阻害剤及び線維症治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ブレオマイシン誘発肺線維症モデルを用いた解析から、NEK6(NIMA-related serine/threonine kinase 6)のmRNAレベルの亢進が見られることに着目し研究を進めた結果、NEK6がTGF-β下流で線維化に寄与するSMAD系シグナルを制御することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕 NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸を有効成分として含むSMAD2/3タンパク質のリン酸化阻害剤;
〔2〕 NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸を有効成分として含む線維症治療剤;
〔3〕 線維症が肺線維症、肝線維症又は腎線維症である、〔2〕の治療剤;
〔4〕 配列番号1の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列、配列番号2の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列及び配列番号3の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含む、NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸;
〔5〕 配列番号1の配列、配列番号2の配列及び配列番号3の配列からなる群より選択される配列を含む、NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸;
〔6〕 NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸を対象に投与することを含む、SMAD2/3タンパク質のリン酸化を阻害する方法;
〔7〕 NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸を対象に投与することを含む、線維症を治療する方法;
〔8〕 SMAD2/3タンパク質のリン酸化の阻害に使用するNEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸;
〔9〕 線維症治療に使用するNEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸;
〔10〕 SMAD2/3タンパク質のリン酸化阻害剤を製造するための、NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸の使用;
〔11〕 線維症治療剤を製造するための、NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸の使用;
〔12〕NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸が、KB-XAX、KB-XBX又はKB-XCXの配列を含む核酸である、〔11〕の使用;
〔13〕 NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸を有効成分として含むSMAD2/3タンパク質のリン酸化阻害剤であって、上記核酸はNEK6遺伝子のmRNAの3’非翻訳領域上の配列を標的とするものである、阻害剤;
〔14〕 NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸を有効成分として含む線維症治療剤であって、上記核酸はNEK6遺伝子のmRNAの3’非翻訳領域上の配列を標的とするものである、治療剤;
〔15〕 線維症が肺線維症、肝線維症又は腎線維症である、〔14〕の治療剤;
〔16〕 NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸が、配列番号1の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列、配列番号2の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列及び配列番号3の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列からなる群より選択される配列を含む核酸である、[13]の阻害剤;
〔17〕 NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸が、配列番号1の配列、配列番号2の配列及び配列番号3の配列からなる群より選択される配列を含む核酸である、[13]の阻害剤;
〔18〕 NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸であって、NEK6遺伝子のmRNAの3’非翻訳領域上の配列を標的とする核酸を対象に投与することを含む、SMAD2/3タンパク質のリン酸化を阻害する方法;
〔19〕 NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸であって、NEK6遺伝子のmRNAの3’非翻訳領域上の配列を標的とする核酸を対象に投与することを含む、線維症を治療する方法;
〔20〕 SMAD2/3タンパク質のリン酸化の阻害に使用する、NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸であって、NEK6遺伝子のmRNAの3’非翻訳領域上の配列を標的とする核酸;
〔21〕 線維症治療に使用する、NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸であって、NEK6遺伝子のmRNAの3’非翻訳領域上の配列を標的とする核酸;
〔22〕 SMAD2/3タンパク質のリン酸化阻害剤を製造するための、NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸の使用であって、上記核酸はNEK6遺伝子のmRNAの3’非翻訳領域上の配列を標的とするものである使用;
〔23〕 線維症治療剤を製造するための、NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸の使用であって、上記核酸はNEK6遺伝子のmRNAの3’非翻訳領域上の配列を標的とするものである使用;
〔24〕 NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸が、KB-XAX、KB-XBX又はKB-XCXの配列を含む核酸である、〔23〕の使用;
[25] NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸に含まれる塩基数が、10~40塩基である、[1]の阻害剤;
〔26〕 NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸に含まれる塩基数が、12~21塩基である、[1]の阻害剤;
[27] NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸の配列の両端に人工核酸が導入されている、[1]の阻害剤;
[28] NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸に含まれる塩基数が、12~21塩基であり、配列の両端に人工核酸が導入されている、[1]の阻害剤;
[29] NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸に含まれる塩基数が、10~40塩基である、[2]の治療剤;
〔30〕 NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸に含まれる塩基数が、12~21塩基である、[2]の治療剤;
[31] NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸の配列の両端に人工核酸が導入されている、[2]の治療剤;
[32] NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸に含まれる塩基数が、12~21塩基であり、配列の両端に人工核酸が導入されている、[2]の治療剤;
[33] アンチセンス核酸が、リポソーム、グリコール酸共重合体(PLGA)マイクロスフェア、リピドマイクロスフェア、高分子ミセル、ゲル剤又はエキソソームのドラッグデリバリーキャリアに封入されて投与される、[32]の治療剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により新規なSMAD2/3タンパク質のリン酸化阻害剤及び線維症治療剤の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】NEK6遺伝子のmRNAの配列及び実施例1で作製した各アンチセンス核酸の標的部位を示す図である。斜線部は非翻訳領域を示す。(なお、mRNA配列上のU(ウラシル)はT(チミン)として表記している)
図2図2は、各アンチセンス核酸を導入した場合のNEK6遺伝子の転写量を示すグラフである。
図3図3は、各アンチセンス核酸によりNEK6をノックダウンした場合におけるリン酸化SMAD3タンパク質のウェスタンブロットの結果を表す。
図4図4は、各アンチセンス核酸によりNEK6をノックダウンした場合におけるリン酸化SMAD3タンパク質のウェスタンブロットの結果を定量化し、リン酸化SMAD3量をトータルSMAD3量により補正した結果を示す。
図5図5aは、抗NEK6抗体による共免疫沈降の結果を表す。図5bは、抗FLAG抗体による共免疫沈降の結果を表す。
図6図6は、His融合NEK6タンパク質とGST融合SMAD3タンパク質を反応させた場合におけるリン酸化SMAD3タンパク質のウェスタンブロットの結果を表す。
図7図7aは、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合におけるウェスタンブロットの結果を表す。図7bは、NEK6をノックダウンした場合におけるホタルルシフェラーゼの発光量を表す。
図8図8は、肝星細胞において、各アンチセンス核酸によりNEK6をノックダウンした場合のCol1a1遺伝子の転写量を表す。
図9図9は、肝星細胞において、各アンチセンス核酸によりNEK6をノックダウンした場合のFibronectin遺伝子の転写量を表す。
図10図10aは、肺線維芽細胞において、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合におけるCol1a1遺伝子の転写量を表す。図10bは、肺線維芽細胞において、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合におけるαSMA遺伝子の転写量を表す。
図11図11は、腎臓線維芽細胞において、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合のリン酸化SMAD3タンパク質のウェスタンブロッティングの結果を表す。
図12図12aは、CClモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合の血清中GPTの測定結果を表す。図12bは、CClモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合の血清中GOTの測定結果を表す。
図13図13は、CClモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合のリン酸化SMAD3タンパク質のウェスタンブロッティングの結果を表す。
図14図14aは、CClモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合のNEK6遺伝子の転写量を表す。図14bは、CClモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合のCol1a1遺伝子の転写量を表す。図14cは、CClモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合のCol3a1遺伝子の転写量を表す。図14dは、CClモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合のTimp1遺伝子の転写量を表す。
図15図15aは、BDLモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合のNEK6遺伝子の転写量を表す。図15bは、BDLモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合のCol1a1遺伝子の転写量を表す。図15cは、BDLモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合のCol3a1遺伝子の転写量を表す。図15dは、BDLモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合のTimp1遺伝子の転写量を表す。
図16図16は、CClモデルにおいて、siRNAによりNEK6をノックダウンした場合の肝臓の病理解析の結果を表す。図16aはCCl未投与の生理食塩水投与群の結果を表す。図16bはCCl投与の溶媒投与群の結果を表す。図16cはCCl投与の核酸投与群の結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書で使用する用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で用いるものである。また、本発明において、「塩基数」は、例えば、「長さ」を意味し、「塩基長」ということもできる。本発明において、塩基数の数値範囲は、例えば、その範囲に属する正の整数を全て開示するものであり、具体例として、「1~4塩基」との記載は、「1、2、3、4塩基」の全ての開示を意味する。
【0012】
本発明は、NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸を有効成分として含むSMAD2/3タンパク質リン酸化阻害剤及び当該核酸を有効成分として含む線維症治療剤、並びに、NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸であって、NEK6遺伝子のmRNAの3’非翻訳領域上の配列を標的とする核酸を有効成分として含むSMAD2/3タンパク質リン酸化阻害剤及び当該核酸を有効成分として含む線維症治療剤を提供するものである。以下、本発明の内容について詳細に説明する。
【0013】
(1)NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸
NEK6タンパク質は、細胞分裂の制御に関わる11個のNIMA-related serine/threonine kinase familyの1つであり、細胞周期のM期においてリン酸化(活性化)される。
【0014】
本発明の標的であるNEK6遺伝子は、哺乳類由来の遺伝子であり、好ましくはヒト由来の遺伝子である。ヒト由来のNEK6遺伝子は、7種のバリアントが報告されているが、その中のアイソフォーム2のmRNA配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号:NM_014397)を図1に表す(配列番号4)。
【0015】
核酸分子によるNEK6遺伝子の発現の抑制メカニズムは、特に制限されるものではなく、発現をダウンレギュレーションできるものであればよい。NEK6遺伝子の発現抑制は、NEK6遺伝子からの転写産物の生成量の減少、NEK6遺伝子からの翻訳産物の生成量の減少、又は上記翻訳産物の活性の減少等によって確認することができる。
【0016】
NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸としては、NEK6 mRNAのアンチセンス核酸、siRNA、ssPN分子、ssNc分子、miRNA、リボザイムなどがあげられる。上記核酸は、一本鎖核酸であってもよく、二本鎖核酸であってもよい。
【0017】
アンチセンス核酸、siRNA、ssPN分子、ssNc分子、リボザイムは、当業者であれば、上記のヒトNEK6遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて容易に取得することができる。NEK6 アイソフォーム2のmRNA配列(配列番号4)に基づいて作製した核酸が好ましい。例えば、NEK6 アイソフォーム2のmRNA配列の3’非翻訳領域に基づいて上記核酸を作製することができる。
【0018】
(2)アンチセンス核酸
アンチセンス核酸は、標的とするmRNAと配列特異的に二重鎖を形成し、そのスプライシング阻害及び翻訳阻害等の機能阻害を行うオリゴヌクレオチド(アンチセンスDNA及び/又はアンチセンスRNA)であり、標的とするmRNAの全長もしくは一部に対するアンチセンス核酸を細胞内に導入することで効果を発揮する。
【0019】
アンチセンス核酸の発現阻害のメカニズムとしては、
1)mRNAの5’キャップ部位から開始コドンの約25塩基下流までの領域を標的配列とする翻訳開始複合体の立体的阻害
2)標的mRNAと相補的な一本鎖DNAであり、RNaseHを介したmRNA分解
3)pre-mRNAのエキソンとイントロンの境界領域を標的配列とするスプライシング阻害(mRNAの成熟阻害)
があげられる。NEK6遺伝子の発現を抑制するものであれば、そのメカニズムは特に制限されるものではない。
【0020】
本実施形態に係るアンチセンス核酸に含まれる配列としては、NEK6遺伝子に特異的な配列を選択することが好ましい。例えば、NEK6遺伝子に相補的であって、且つ、NEK7遺伝子(RefSeq database:NM_133494.2)に相補的でない、あるいは、領域中1以上(例えば1~3)の塩基がNEK7遺伝子に非相補的(ミスマッチ)である配列を選択することがあげられる。NEK6遺伝子に対しては相補的であり、NEK7遺伝子に対しては非相補的(ミスマッチ)な塩基を増加させる(例えば、4以上、好ましくは5~7)ことは、オフターゲット効果を回避する上で有用である。
【0021】
本実施形態に係るアンチセンス核酸に含まれる塩基数は、NEK6遺伝子の発現を抑制する効果を発揮する限り特に制限されないが、例えば、10~40塩基、10~35塩基、12~30塩基、又は12~21塩基であってよい。
【0022】
NEK6の遺伝子発現を抑制するアンチセンス核酸は、NEK6の成熟mRNAのcDNA配列情報に基づいて、例えば、Antisense LNA(登録商標)GapmeR design tool等のアンチセンス核酸配列設計システムに従って得ることができる。
【0023】
アンチセンス核酸は、RNAとの結合安定性(Tm値など)、ミスマッチ配列認識能、ヌクレアーゼ耐性、RNaseH活性等の点から修飾ヌクレオチド残基を含むことが好ましい。
【0024】
NEK6遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸の具体例として、以下の一本鎖核酸分子をあげることができる。
〔1〕配列番号1の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、核酸。
〔2〕配列番号2の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、核酸。
〔3〕配列番号3の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、を含む、核酸。
【0025】
アンチセンス核酸に含まれる配列の配列番号1~3の配列との配列同一性は、90%以上、92%以上、95%以上又は98%以上であってもよく、100%であってもよい。〔1〕~〔3〕のアンチセンス核酸は、NEK6遺伝子の発現を抑制する作用を失わない範囲で各種修飾が付加されていてもよい。各種修飾は、配列番号1~3の配列中に存在していてもよく、配列外に存在していてもよい。修飾ヌクレオチド等の詳細については後述する。
【0026】
NEK6の遺伝子発現を抑制するアンチセンス核酸は、NEK6遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて、公知の手法により、容易に取得することができる。例えば、NEK6アイソフォーム2のmRNAの配列(配列番号4)等のNEK6遺伝子のmRNA配列情報に基づいて適宜設計し、従来公知の方法により合成することができる。上記合成方法は、例えば、遺伝子工学的手法による合成法、化学合成法等があげられる。遺伝子工学的手法は、例えば、インビトロ転写合成法、ベクターを用いる方法、PCRカセットによる方法等があげられる。上記ベクターは、特に制限されず、プラスミド等の非ウイルスベクター、ウイルスベクター等があげられる。上記化学合成法は、特に制限されず、例えば、ホスホロアミダイト法及びH-ホスホネート法等があげられる。上記化学合成法は、例えば、市販の自動核酸合成機を使用可能である。
【0027】
(3)siRNA
NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸の1つであるsiRNA(small interfering RNA)を以下に説明する。
【0028】
siRNAは、標的遺伝子と対合するガイド鎖(アンチセンス鎖)、ガイド鎖と二本鎖を形成しているパッセンジャー鎖(センス鎖)からなる核酸分子である。siRNAは、細胞内においてArgonaute(AGO)タンパク質を中核とする RNA-inducing silencing complex(RISC)と呼ばれる複合体に取り込まれた後、センス鎖はAGOにより分解され、ガイド鎖はRISCに残る。ガイド鎖のシード領域(ガイド鎖の5’末端から2-8塩基の7塩基領域)は、標的配列を認識する上で重要な働きを有していると考えられており、オフターゲット効果を回避する目的から標的遺伝子に特異的なシード領域を選択することが好ましいとされている。したがって、本発明の有効成分である核酸のシード領域についてもNEK6成熟mRNA(RefSeq database:NM_014397)に特異的な配列を選択することが好ましい。例えば、NEK6成熟mRNAに相補的であって、且つ、NEK7成熟mRNA(RefSeq databaseNM_133494.2)に相補的でない、あるいは、領域中1以上(例えば1~3)の塩基がNEK7成熟mRNAに非相補的(ミスマッチ)である配列をシード領域として含む核酸を選択することがあげられる。また、全長配列についても、例えば、NEK6成熟mRNAに対しては相補的であり、NEK7成熟mRNAに対しては非相補的(ミスマッチ)な塩基を増加させる(例えば、4以上、好ましくは5~7)ことは、オフターゲット効果を回避する上で有用である。ガイド鎖に含まれる発現抑制配列の塩基数は、例えば、15~30塩基であり、好ましくは、19~25塩基であり、より好ましくは19~23塩基であり、さらに好ましくは21、22、23塩基であり、特に好ましくは23塩基である。
【0029】
上記発現抑制配列は、3’側に、さらに付加配列を有することで突出端を形成してもよい。上記付加配列の塩基数は、例えば、1~11塩基であり、好ましくは1~4塩基である。付加配列は、リボヌクレオチド残基でもデオキシリボヌクレオチド残基でもよい。
【0030】
ガイド鎖の塩基数は、例えば、19~50塩基であり、好ましくは19~30塩基であり、より好ましくは、19~25塩基であり、さらに好ましくは19~23塩基であり、ことさら好ましくは21、22、23塩基であり、特に好ましくは23塩基である。
【0031】
パッセンジャー鎖の塩基数は、例えば、19~50塩基であり、好ましくは19~30塩基であり、より好ましくは、19~25塩基であり、さらに好ましくは19~23塩基であり、ことさら好ましくは21、22、23塩基であり、特に好ましくは21塩基である。
【0032】
パッセンジャー鎖で、ガイド鎖と相補性を示す領域は、例えば、19~50塩基であり、好ましくは19~30塩基であり、より好ましくは、19~25塩基であり、さらに好ましくは19~23塩基である。上記領域は、3’側に、さらに付加配列を有してもよい。上記付加配列の塩基数は、例えば、1~11塩基であり、好ましくは1~4塩基であり、付加配列は、リボヌクレオチド残基でもデオキシリボヌクレオチド残基でもよい。パッセンジャー鎖は、ガイド鎖の相補性を示す領域に対して、例えば、相補的でもよいし、1もしくは数塩基が非相補的であってもよいが、相補的であることが好ましい。上記1塩基若しくは数塩基は、例えば、1~3塩基、好ましくは1塩基又は2塩基である。
【0033】
NEK6の遺伝子発現を抑制するsiRNAは、NEK6成熟mRNAのcDNA配列情報に基づいて、例えば、siSNIPER(登録商標)、創薬・診断研究用siDirect(登録商標)等のsiRNA配列設計システムに従って得ることができる。
【0034】
NEK6 siRNAは、NEK6に特異的に作用するsiRNAが好ましく、例えば以下のような二本鎖核酸をあげることができる。
(a)配列番号1の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含むガイド鎖(アンチセンス鎖)と、パッセンジャー鎖(センス鎖)から形成される二本鎖核酸分子
(b)配列番号2の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含むガイド鎖(アンチセンス鎖)と、パッセンジャー鎖(センス鎖)から形成される二本鎖核酸分子
(c)配列番号3の配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含むガイド鎖(アンチセンス鎖)と、パッセンジャー鎖(センス鎖)から形成される二本鎖核酸分子
【0035】
上記二本鎖核酸分子に含まれるガイド鎖(アンチセンス鎖)に含まれる配列の配列番号1~3の配列との配列同一性は、90%以上、92%以上、95%以上又は98%以上であってもよく、100%であってもよい。
【0036】
また、NEK6遺伝子の発現を抑制するsiRNAは、パッセンジャー鎖(センス鎖)の3’末端とガイド鎖(アンチセンス鎖)の5’末端が、ヌクレオチド残基からなるリンカー配列及び/又は非ヌクレオチド構造のリンカーを介して連結され、あるいは、ガイド鎖(アンチセンス鎖)の3’末端とパッセンジャー鎖(センス鎖)の5’末端が、ヌクレオチド残基からなるリンカー配列及び/又は非ヌクレオチド構造のリンカーを介して連結されたヘアピン型RNA構造を形成している一本鎖核酸分子であってもよい。
【0037】
(4)ssPN分子
NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸の1つとなるssPN分子について説明する。ssPN分子は、WO2012/017919に開示される生物学的安定性に優れた一本鎖RNA核酸分子を意味し、具体的には以下の通りである。
【0038】
本発明の有効成分となるssPN分子は、NEK6遺伝子の発現抑制配列を含む一本鎖核酸分子であって、領域(X)、リンカー領域(Lx)及び領域(Xc)を含み、上記領域(X)と上記領域(Xc)との間に、上記リンカー領域(Lx)が連結され、上記領域(X)及び上記領域(Xc)の少なくとも一方が、上記発現抑制配列を含み、上記リンカー領域(Lx)が、ピロリジン骨格及びピペリジン骨格の少なくとも一方を含む非ヌクレオチド構造を有することを特徴とする。ssPN分子は、その5’末端と3’末端とが未連結であり、線状一本鎖核酸分子ということもできる。
【0039】
ssPN分子において、NEK6遺伝子の発現抑制配列は、例えば、本発明のssPN分子が、in vivo又はin vitroで細胞内に導入された場合に、NEK6遺伝子の発現を抑制する活性を示す配列である。NEK6 mRNAに結合するsiRNA配列は、NEK6遺伝子のcDNA配列情報に基づいて、既存のsiRNA設計システムに従って得ることができ、ssPN分子においても、上記siRNAの発現抑制配列を、ssPN分子の発現抑制配列として使用することができる。
【0040】
上記発現抑制配列は、例えば、NEK6遺伝子の標的領域に対して、80%以上の相補性を有していることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、ことさらに好ましくは98%以上であり、特に好ましくは100%である。
【0041】
特に、siRNAのシード領域に該当する部分については、siRNAの場合と同様にNEK6遺伝子に特異的な配列を選択することが好ましい。
【0042】
ssPN分子によるNEK6遺伝子の発現の抑制は、例えば、RNA干渉が生じることによると推測されるが、このメカニズムにより限定されるものではない。本発明のssPN分子は、例えば、いわゆるsiRNAのように、二本の一本鎖RNAからなるdsRNAとして、細胞等へ導入するものではなく、また、細胞内において、上記発現抑制配列の切り出しは、必ずしも必須ではない。
【0043】
ssPN分子において、上記リンカー領域(Lx)は、例えば、上記ピロリジン骨格を含む非ヌクレオチド構造を有してもよいし、上記ピペリジン骨格を含む非ヌクレオチド構造を有してもよいし、上記ピロリジン骨格を含む非ヌクレオチド構造と、上記ピペリジン骨格を含む非ヌクレオチド構造との両方を有してもよい。
【0044】
(5)ssNc分子
NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸の1つであるssNc分子を説明する。
【0045】
ssNc分子は、WO2012/05368に開示される一本鎖RNA核酸分子を意味し、具体的には以下の通りである。
ssNc分子は、標的遺伝子の発現を抑制する発現抑制配列を含む一本鎖核酸分子であって、
5’側から3’側にかけて、5’側領域(Xc)、内部領域(Z)及び3’側領域(Yc)を、上記順序で含み、
上記内部領域(Z)が、内部5’側領域(X)及び内部3’側領域(Y)が連結して構成され、
上記5’側領域(Xc)が、上記内部5’側領域(X)と相補的であり、
上記3’側領域(Yc)が、上記内部3’側領域(Y)と相補的であり、
上記内部領域(Z)、上記5’側領域(Xc)及び上記3’側領域(Yc)の少なくとも一つが、発現抑制配列を含むことを特徴とする。
【0046】
ssNc分子は、その5’末端と3’末端とが未連結であり、線状一本鎖核酸分子ということもできる。本発明のssNc分子は、例えば、上記内部領域(Z)において、上記内部5’領域(X)と上記内部3’領域(Y)が、直接的に連結されている。
【0047】
ssNc分子において、上記5’側領域(Xc)は、上記内部5’側領域(X)と相補的であり、上記3’側領域(Yc)は、上記内部3’側領域(Y)と相補的である。このため、5’側において、上記領域(Xc)が上記領域(X)に向かって折り返し、上記領域(Xc)と上記領域(X)とが、自己アニーリングによって、二重鎖を形成可能であり、また、3’側において、上記領域(Yc)が上記領域(Y)に向かって折り返し、上記領域(Yc)と上記領域(Y)とが、自己アニーリングによって、二重鎖を形成可能である。
【0048】
ssNc分子は、このように、分子内で二重鎖を形成可能であり、例えば、従来のRNA干渉に使用するsiRNAのように、分離した2本の一本鎖RNAがアニーリングによって二本鎖RNAを形成するものとは、明らかに異なる構造である。
【0049】
ssNc分子における上記発現抑制配列は、ssPN分子の説明を援用することができる。
【0050】
ssNc分子によるNEK6遺伝子の発現の抑制は、例えば、上記内部領域(Z)、上記5’側領域(Xc)及び上記3’側領域(Yc)の少なくとも一つに上記発現抑制配列を配置した構造をとることで、RNA干渉又はRNA干渉に類似する現象(RNA干渉様の現象)が生じることによると推測される。なお、ssNc分子のメカニズムもssPN分子のメカニズム同様限定されるものではない。ssNc分子は、例えば、いわゆるsiRNAのように、二本の一本鎖RNAからなるdsRNAとして、細胞等へ導入するものではなく、また、細胞内において、上記発現抑制配列の切り出しは、必ずしも必須ではない。このため、ssNc分子は、例えば、RNA干渉様の機能を有するということもできる。
【0051】
(6)ssPN分子及びssNc分子の合成方法
ssPN分子及びssNc分子の合成方法は、特に制限されず、従来公知の方法が採用できる。上記合成方法は、例えば、遺伝子工学的手法による合成法、化学合成法等があげられる。遺伝子工学的手法は、例えば、インビトロ転写合成法、ベクターを用いる方法、PCRカセットによる方法等があげられる。上記ベクターは、特に制限されず、プラスミド等の非ウイルスベクター、ウイルスベクター等があげられる。上記化学合成法は、特に制限されず、例えば、ホスホロアミダイト法及びH-ホスホネート法等があげられる。上記化学合成法は、例えば、市販の自動核酸合成機を使用可能である。上記化学合成法は、一般に、アミダイトが使用される。上記アミダイトは、特に制限されず、市販のアミダイトとして、例えば、RNA Phosphoramidites(2’-O-TBDMSi、商品名、三千里製薬)、ACEアミダイト、TOMアミダイト、CEEアミダイト、CEMアミダイト、TEMアミダイト等があげられる。また、本発明のssPN分子及びssNc分子は、WO2012/05368、WO2012/17919、WO2013/27843、WO2016/159374に記載の製造方法に従って製造することができる。
【0052】
(7)miRNA
NEK6遺伝子の発現を抑制する核酸の1つであるmiRNAについて以下に説明する。
【0053】
miRNAは、mRNAからタンパク質への翻訳の阻害又はmRNAの分解を通して、遺伝子の発現調節に関与する。miRNAは、細胞内に存在する短鎖(20-25塩基)のノンコーディングRNAである。miRNAは、まず、DNAから、miRNAとその相補鎖とを含みヘアピンループ構造を取ることが可能な一本鎖のpri-RNAとして転写される。次にpri-RNAは、核内にあるDroshaと呼ばれる酵素によって一部が切断されpre-RNAとなって核外に輸送される。その後、pre-RNAはさらにDicerによって切断されることにより、miRNAとして機能する。miRNAは、mRNAの3’非翻訳領域へ不完全なハイブリダイゼーション結合を行い、そのmRNAがコードするタンパク質合成を阻害する。
【0054】
NEK6の遺伝子発現を抑制するmiRNAは、標的遺伝子の遺伝子名又はmRNA配列情報に基づいて、例えば、miRDB(http://mirdb.org/miRDB/index.html)等のデータベースに従って得ることができる。
【0055】
(8)核酸に使用されるヌクレオチド残基
本実施形態において、有効成分である核酸に使用されるヌクレオチド残基は、構成要素として、糖、塩基及びリン酸を含む。上記ヌクレオチド残基は、例えば、リボヌクレオチド残基及びデオキシリボヌクレオチド残基等があげられる。上記リボヌクレオチド残基は、例えば、糖としてリボース残基を有し、塩基として、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)及びウラシル(U)を有し、上記デオキシリボース残基は、例えば、糖としてデオキシリボース残基を有し、塩基として、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)及びチミン(T)を有する。
【0056】
上記ヌクレオチド残基は、非修飾ヌクレオチド残基及び修飾ヌクレオチド残基等があげられる。上記非修飾ヌクレオチド残基は、上記各構成要素が、例えば、天然に存在するものと同一又は実質的に同一であり、好ましくは、人体において天然に存在するものと同一又は実質的に同一である。
【0057】
上記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、上記非修飾ヌクレオチド残基を修飾したヌクレオチド残基である。上記修飾ヌクレオチドは、例えば、上記非修飾ヌクレオチド残基の構成要素のいずれが修飾されてもよい。本発明において、「修飾」は、例えば、上記構成要素の置換、付加及び/又は欠失、上記構成要素における原子及び/又は官能基の置換、付加及び/又は欠失であり、「改変」ということができる。上記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、天然に存在するヌクレオチド残基、人工的に修飾したヌクレオチド残基等があげられる。上記天然由来の修飾ヌクレオチド残基は、例えば、リンバックら(Limbach et al.1994、Summary:the modified nucleosides of RNA、Nucleic Acids Res.22:2183~2196)を参照できる。また、上記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、上記ヌクレオチドの代替物の残基であってもよい。
【0058】
上記ヌクレオチド残基の修飾は、例えば、リボース-リン酸骨格(以下、リボリン酸骨格)の修飾等があげられる。上記リボリン酸骨格において、例えば、リボース残基を修飾できる。上記リボース残基は、例えば、2’位炭素を修飾でき、具体的には、例えば、2’位炭素に結合する水酸基を、水素又はフルオロ等に置換できる。上記2’位炭素の水酸基を水素に置換することで、リボース残基をデオキシリボースに置換できる。また、2’位水酸基にメチル基又はメトキシエチル基等を導入することによっても修飾でき、例えば、2’-F、2’-O-Methyl(2’-OMe)及び2’-O-Methoxyethyl(2’-MOE)等があげられる。上記リボース残基は、例えば、立体異性体に置換でき、例えば、アラビノース残基に置換してもよい。
【0059】
上記リボリン酸骨格は、例えば、非リボース残基及び/又は非リン酸を有する非リボリン酸骨格に置換してもよい。上記非リボリン酸骨格は、例えば、上記リボリン酸骨格の非荷電体等があげられる。上記非リボリン酸骨格に置換された、上記ヌクレオチドの代替物は、例えば、モルホリノ、シクロブチル、ピロリジン等があげられる。上記代替物は、この他に、例えば、人工核酸モノマー残基等があげられる。具体例として、例えば、PNA(ペプチド核酸)、架橋型人工核酸である2’,4’-BNA[Bridged Nucleic Acid、別名LNA(Locked Nucleic Acid)]、AmNA、ENA(2’-O,4’-C-Ethylenebridged Nucleic Acids)、GuNA及びscpBNA等があげられる。本実施形態に係る核酸が、RNaseHによるRNA分解のメカニズムを利用したアンチセンス核酸である場合には、人工核酸が導入されたアンチセンス核酸であることが好ましく、さらに好ましくは配列の両端に人工核酸が導入された核酸であり、特に好ましくは配列の両端のみに人工核酸が導入されたアンチセンス核酸である。配列の両端のみに人工核酸が導入されたアンチセンス核酸とすることで、人工核酸の特性を維持しつつもRNaseHによるRNA分解が起こり、高いアンチセンス効果を期待できるためである。
【0060】
一方、本実施形態に係る核酸が、エキソンスキッピング誘導のメカニズムを利用したアンチセンス核酸である場合には、標的RNAを切断しないようにするため、ミックスマーや全修飾型オリゴヌクレオチドのようにRNaseHによるRNA分解が起こらない設計とすることが好ましい。
【0061】
上記リボリン酸骨格において、例えば、リン酸基を修飾できる。上記リボリン酸骨格において、糖残基に最も近いリン酸基は、αリン酸基と呼ばれる。上記αリン酸基は、負に荷電し、その電荷は、糖残基に非結合の2つの酸素原子にわたって、均一に分布している。上記αリン酸基における4つの酸素原子のうち、ヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合において、糖残基と非結合である2つの酸素原子は、以下、「非結合(non-linking)酸素」ともいう。他方、上記ヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合において、糖残基と結合している2つの酸素原子は、以下、「結合(linking)酸素」という。上記αリン酸基は、例えば、非荷電となる修飾、又は、上記非結合原子における電荷分布が非対称型となる修飾を行うことが好ましい。
【0062】
上記リン酸基は、例えば、上記非結合酸素を置換してもよい。上記酸素は、例えば、S(硫黄)、Se(セレン)、B(ホウ素)、C(炭素)、H(水素)、N(窒素)及びOR(Rは、例えば、アルキル基又はアリール基)のいずれかの原子で置換でき、好ましくは、Sで置換される。上記非結合酸素は、例えば、両方が置換されていることが好ましく、より好ましくは、両方がSで置換される。上記修飾リン酸基は、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレネート、ボラノホスフェート、ボラノホスフェートエステル、ホスホネート水素、ホスホロアミデート、アルキル又はアリールホスホネート、及びホスホトリエステル等があげられ、中でも、上記2つの非結合酸素が両方ともSで置換されているホスホロジチオエートが好ましい。
【0063】
上記リン酸基は、例えば、上記結合酸素を置換してもよい。上記酸素は、例えば、S(硫黄)、C(炭素)及びN(窒素)のいずれかの原子、又はボラン(BH)で置換できる。上記修飾リン酸基は、例えば、Nで置換した架橋ホスホロアミデート、Sで置換した架橋ホスホロチオエート、及びCで置換した架橋メチレンホスホネート等があげられる。上記酸素原子をS(硫黄)原子に置換したホスホロチオエート修飾(S化)は核酸と核酸をつなぐリン酸ジエステル結合部の修飾であり、配列中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に改変される。これにより、ヌクレアーゼ耐性の向上が期待できるため、好ましい。上記結合酸素の置換は、例えば、本実施形態に係る核酸の5’末端ヌクレオチド残基及び3’末端ヌクレオチド残基の少なくとも一方において行ってもよく、両方において行ってもよい。また、例えば、本実施形態に係る核酸におけるすべてのリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に改変されてもよい。
【0064】
上記リン酸基は、例えば、上記リン非含有のリンカーに置換してもよい。上記リンカーは、例えば、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチル、カルバメート、アミド、チオエーテル、エチレンオキサイドリンカー、スルホネート、スルホンアミド、チオホルムアセタール、ホルムアセタール、オキシム、メチレンイミノ、メチレンメチルイミノ、メチレンヒドラゾ、メチレンジメチルヒドラゾ、及びメチレンオキシメチルイミノ等を含み、好ましくは、メチレンカルボニルアミノ基及びメチレンメチルイミノ基を含む。
【0065】
上記末端のヌクレオチド残基の修飾は、例えば、他の分子の付加等があげられる。上記他の分子は、例えば、前述のような標識物質、保護基等の機能性分子等があげられる。上記保護基としては、例えば、S(硫黄)、Si(ケイ素)、B(ホウ素)、エステル含有基等があげられる。
【0066】
上記他の分子は、例えば、上記ヌクレオチド残基のリン酸基に付加してもよいし、スペーサーを介して、上記リン酸基又は上記糖残基に付加してもよい。上記スペーサーの末端原子は、例えば、上記リン酸基の上記結合酸素、又は、糖残基のO、N、SもしくはCに、付加又は置換できる。上記糖残基の結合部位は、例えば、3’位のCもしくは5’位のC、又はこれらに結合する原子が好ましい。上記スペーサーは、例えば、上記PNA等のヌクレオチド代替物の末端原子に、付加又は置換することもできる。
【0067】
上記スペーサーは、特に制限されず、例えば、-(CH-、-(CHN-、-(CHO-、-(CHS-、O(CHCHO)CHCHOH、無塩基糖、アミド、カルボキシ、アミン、オキシアミン、オキシイミン、チオエーテル、ジスルフィド、チオ尿素、スルホンアミド、及びモルホリノ等、ならびに、ビオチン試薬及びフルオレセイン試薬等を含んでもよい。上記式において、nは、正の整数であり、n=3又は6が好ましい。
【0068】
上記末端に付加する分子は、これらの他に、例えば、色素、インターカレート剤(例えば、アクリジン)、架橋剤(例えば、ソラレン、マイトマイシンC)、ポルフィリン(TPPC4、テキサフィリン、サッフィリン)、多環式芳香族炭化水素(例えば、フェナジン、ジヒドロフェナジン)、人工エンドヌクレアーゼ(例えば、EDTA)、親油性担体(例えば、コレステロール、コール酸、アダマンタン酢酸、1-ピレン酪酸、ジヒドロテストステロン、1,3-ビス-O(ヘキサデシル)グリセロール、ゲラニルオキシヘキシル基、ヘキサデシルグリセロール、ボルネオール、メントール、1,3-プロパンジオール、ヘプタデシル基、パルミチン酸、ミリスチン酸、O3-(オレオイル)リトコール酸、O3-(オレオイル)コール酸、ジメトキシトリチル、又はフェノキサジン)及びペプチド複合体(例えば、アンテナペディアペプチド、Tatペプチド)、アルキル化剤、リン酸、アミノ、メルカプト、PEG(例えば、PEG-40K)、MPEG、[MPEG]、ポリアミノ、アルキル、置換アルキル、放射線標識マーカー、酵素、ハプテン(例えば、ビオチン)、輸送/吸収促進剤(例えば、アスピリン、ビタミンE、葉酸)、合成リボヌクレアーゼ(例えば、イミダゾール、ビスイミダゾール、ヒスタミン、イミダゾールクラスター、アクリジン-イミダゾール複合体、テトラアザマクロ環のEu3+複合体)等があげられる。
【0069】
核酸分子は、上記5’末端が、例えば、リン酸基又はリン酸基アナログで修飾されてもよい。上記リン酸基は、例えば、5’一リン酸((HO)(O)P-O-5’)、5’二リン酸((HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’三リン酸((HO)(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’-グアノシンキャップ(7-メチル化又は非メチル化、7m-G-O-5’-(HO)(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’-アデノシンキャップ(Appp)、任意の修飾又は非修飾ヌクレオチドキャップ構造(N-O-5’-(HO)(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’一チオリン酸(ホスホロチオエート:(HO)(S)P-O-5’)、5’一ジチオリン酸(ホスホロジチオエート:(HO)(HS)(S)P-O-5’)、5’-ホスホロチオール酸((HO)(O)P-S-5’)、硫黄置換の一リン酸、二リン酸及び三リン酸(例えば、5’-α-チオ三リン酸、5’-γ-チオ三リン酸等)、5’-ホスホルアミデート((HO)(O)P-NH-5’、(HO)(NH)(O)P-O-5’)、5’-アルキルホスホン酸(例えば、RP(OH)(O)-O-5’、(OH)(O)P-5’-CH、Rはアルキル(例えば、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル等))、5’-アルキルエーテルホスホン酸(例えば、RP(OH)(O)-O-5’、Rはアルキルエーテル(例えば、メトキシメチル、エトキシメチル等))等があげられる。
【0070】
上記ヌクレオチド残基において、上記塩基は、特に制限されない。上記塩基は、例えば、天然の塩基でもよいし、非天然の塩基でもよい。上記塩基は、例えば、天然由来でもよいし、合成品でもよい。上記塩基は、例えば、一般的な塩基、その修飾アナログ等が使用できる。
【0071】
上記塩基は、例えば、アデニン及びグアニン等のプリン塩基、シトシン、ウラシル及びチミン等のピリミジン塩基等があげられる。上記塩基は、この他に、イノシン、チミン、キサンチン、ヒポキサンチン、ヌバラリン(nubularine)、イソグアニシン(isoguanisine)、ツベルシジン(tubercidine)等があげられる。上記塩基は、例えば、2-アミノアデニン、6-メチル化プリン等のアルキル誘導体;2-プロピル化プリン等のアルキル誘導体;5-ハロウラシル及び5-ハロシトシン;5-プロピニルウラシル及び5-プロピニルシトシン;6-アゾウラシル、6-アゾシトシン及び6-アゾチミン;5-ウラシル(プソイドウラシル)、4-チオウラシル、5-ハロウラシル、5-(2-アミノプロピル)ウラシル、5-アミノアリルウラシル;8-ハロ化、アミノ化、チオール化、チオアルキル化、ヒドロキシル化及び他の8-置換プリン;5-トリフルオロメチル化及び他の5-置換ピリミジン;7-メチルグアニン;5-置換ピリミジン;6-アザピリミジン;N-2、N-6、及びO-6置換プリン(2-アミノプロピルアデニンを含む);5-プロピニルウラシル及び5-プロピニルシトシン;ジヒドロウラシル;3-デアザ-5-アザシトシン;2-アミノプリン;5-アルキルウラシル;7-アルキルグアニン;5-アルキルシトシン;7-デアザアデニン;N6,N6-ジメチルアデニン;2,6-ジアミノプリン;5-アミノ-アリル-ウラシル;N3-メチルウラシル;置換1,2,4-トリアゾール;2-ピリジノン;5-ニトロインドール;3-ニトロピロール;5-メトキシウラシル;ウラシル-5-オキシ酢酸;5-メトキシカルボニルメチルウラシル;5-メチル-2-チオウラシル;5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウラシル;5-メチルアミノメチル-2-チオウラシル;3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウラシル;3-メチルシトシン;5-メチルシトシン;N-アセチルシトシン;2-チオシトシン;N6-メチルアデニン;N6-イソペンチルアデニン;2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン;N-メチルグアニン;O-アルキル化塩基等があげられる。また、プリン及びピリミジンは、例えば、米国特許第3,687,808号、「Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering」、858~859頁、クロシュビッツ ジェー アイ(Kroschwitz J.I.)編、John Wiley & Sons、1990、及びイングリッシュら(Englischら)、Angewandte Chemie、International Edition、1991、30巻、p.613に開示されるものが含まれる。
【0072】
(9)その他の用語の定義
本実施形態において、有効成分である核酸、リンカー等の説明にて使用される用語は、当該技術分野での通常用いられるものであり、例えば、以下のように示すことができる。
【0073】
本発明において、「アルキル」は、例えば、直鎖状又は分枝状のアルキル基を含む。上記アルキルの炭素数は、特に制限されず、例えば、1~30であり、好ましくは、1~6又は1~4である。上記アルキル基は、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ぺンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル等があげられる。好ましくは、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ぺンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル等があげられる。
【0074】
本発明において、「アリール」は、例えば、単環芳香族炭化水素基及び多環芳香族炭化水素基を含む。上記単環芳香族炭化水素基は、例えば、フェニル等があげられる。上記多環芳香族炭化水素基は、例えば、1-ナフチル、2-ナフチル、1-アントリル、2-アントリル、9-アントリル、1-フェナントリル、2-フェナントリル、3-フェナントリル、4-フェナントリル、9-フェナントリル等があげられる。好ましくは、例えば、フェニル、1-ナフチル及び2-ナフチル等のナフチル等があげられる。
【0075】
(10)SMAD2/3タンパク質リン酸化阻害剤
SMAD2/3タンパク質のリン酸化阻害とは、TGF-β刺激により促進されるSMAD2及び/又はSMAD3のリン酸化が阻害(制御)されることを意味する。
【0076】
SMAD2/3は、TGF-βI型レセプターによってリン酸化を受けるR-SMAD(receptor regulated SMAD)の1種であり、TGF-βによる刺激後、リン酸化(活性化)されたSMAD2及びSMAD3は、Co-SMAD(common partner SMAD)であるSMAD4とともに核内へ移行する。実施例4に示すように、本発明者らは、NEK6タンパク質が、細胞内でSMAD2/3タンパク質と相互作用し、SMAD2/3タンパク質のリン酸化を促進することを見出した。リン酸化されたSMAD2/3タンパク質はSMADタンパク質複合体形成し、核内に移行し、α―SMA、α2-コラーゲン、インターフェロンβ、インターロイキン-5、VEGF等の転写を亢進する。
【0077】
したがって、本実施形態に係るSMAD2/3タンパク質リン酸化阻害剤によってSMADシグナル系を阻害することで、α-SMA、α2-コラーゲン、インターフェロンβ等の転写制御が可能となり、ひいては創傷治癒過程における、線維芽細胞、肝星細胞等の筋線維芽細胞への分化抑制、線維芽細胞等によるマトリックス合成の制御、炎症・免疫反応の調節等に有用であることが理解できる。
【0078】
(11)線維症治療剤
本実施形態に係る線維症治療剤は、肝線維症、肝硬変、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎、アルコール性肝疾患、原発性硬化性胆菅炎、ヘモクロマトーシス、ウイルソン病、α1-アンチトリプシン欠損症、非ウイルス性鬱血性肝硬変、薬剤性肝障害、膵炎、膵線維症、網膜線維症、声帯瘢痕化、声帯粘膜線維症、喉頭線維症、肺線維症、間質性肺炎、特発性肺線維症、非特異性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、剥離性間質性肺炎、呼吸細気管支炎関連間質性肺炎、急性間質性肺炎、リンパ球性間質性肺炎、サルコイドーシス、慢性好酸球性肺炎、急性好酸球性肺炎、リンパ脈管筋腫症、肺胞蛋白症、ヘルマンスキー・パドラック症候群、肺ランゲルハンス細胞組織球症、鉄肺症、アミロイドーシス、肺胞微石症、過敏性肺炎、じん肺、感染性肺疾患、薬剤性肺炎、放射線肺炎、嚢胞性線維症、骨髄線維症、腎線維症、慢性腎不全、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、悪性腎硬化症、多発性嚢胞腎、薬剤性腎障害、後腹膜線維症、膠原病、強皮症、先天性角化不全症、腎性全身性線維症の他、気道の線維化、腸管の線維化、膀胱の線維化、前立腺の線維化、皮膚の線維化を含む広く線維化に関する疾患に対する治療剤である。好ましくは、肝線維症、肝硬変、肺線維症、間質性肺炎、腎線維症又は慢性腎不全であり、より好ましくは、肺線維症、肝線維症又は腎線維症である。
【0079】
本実施形態に係る線維症治療剤の投与方法は、特に制限されるものではないが、吸入、静脈内投与(静注)、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、髄腔内投与及び経皮投与等の非経口投与であることが好ましい。本実施形態に係る線維症治療剤は、当該線維症治療剤を必要とする対象、例えば、上述した線維化に関する疾患を発症している対象及びその発症リスクが高いと判断される対象に投与されることが好ましい。対象は、ヒトであってもよく、非ヒト動物であってもよい。本実施形態に係る治療方法における本実施形態に係る核酸分子の投与量は、上記疾患の治療上有効な量であれば特に制限されず、疾患の種類、重症度、齢、体重、投与経路等によって異なるが、通常、成人1回あたり約0.0001~約100mg/kg体重、例えば約0.001~約10mg/kg体重、好ましくは約0.005~約5mg/kg体重であり得る。当該量を、例えば、1日3回~1ヶ月に1回、好ましくは1日~1週間に1回の間隔で投与することができる。
【0080】
本実施形態に係る線維症治療剤は、通常、薬学的に許容される担体とともに適当な医薬組成物として製剤化されて経口又は非経口の形で投与される。
【0081】
本実施形態に係るアンチセンス核酸は、リポソーム、グリコール酸共重合体(PLGA)マイクロスフェア、リピドマイクロスフェア、高分子ミセル、ゲル剤又はエキソソームのドラッグデリバリーキャリアに封入され、投与されることが好ましい。
【0082】
以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例において「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は、「アンチセンス核酸」、「ASO」と同意である。
【実施例
【0083】
〔実施例1: アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたNEK6のノックダウン〕
ヒト肝星細胞株LI-90細胞に、ヒトNEK6アンチセンスオリゴヌクレオチド(KB-XAX、KB-XBX、KB-XCX)を、Lipofectamine RNAi MAX(Invitrogen社)を用いて、終濃度30nMでトランスフェクションした。トランスフェクション48時間後、培地を10% FCS含有DMEM Low Glucose培地(Thermo Fisher社)から0.2% FCS含有DMEM Low Glucose培地(Thermo Fisher社)に交換した。トランスフェクションから96時間後、アンチセンスオリゴヌクレオチドをトランスフェクションした細胞から、RNeasy Mini Kit(Qiagen社)を用いてRNAを抽出した。
【0084】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの配列としては、以下のKB-XAX、XBX及びXCXを使用した。
NEK6アンチセンスオリゴヌクレオチド(KB-XAX):5’-GCAATCCTGAAGGTAG-3’(配列番号1)
NEK6アンチセンスオリゴヌクレオチド(KB-XBX):5’-GACAGCTCAGACAATT-3’(配列番号2)
NEK6アンチセンスオリゴヌクレオチド(KB-XCX):5’-TCAAGGAGGTGACGAA-3’(配列番号3)
【0085】
得られたRNAをHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems社)を用いて逆転写を行い、cDNAを得た。得られたcDNAについて、TaqMan Gene Expression Assays(Applied Biosystems社)を用いてリアルタイムPCRを行い、NEK6のノックダウンによるNEK6遺伝子の転写量に対する影響を調べた。NEK6遺伝子の転写量は、NEK6 Taqman Probe(HS00205221_m1、Applied Biosystems社)での測定値を、18s Probeでの測定値で除することで算出した。18s Probeは下記のカスタム合成18s MGB Probe、カスタム合成18s Primer1及びカスタム合成18s Primer2を、それぞれ0.2μM、0.4μM及び0.4μMとなるように混合し、リアルタイムPCRを行った。
【0086】
カスタム合成18s MGB Probe(Applied Biosystems社):
5’-ATTGGAGGGCAAGTCTGGTGCCAGC-3’(配列番号5)
カスタム合成18s Primer1(ThermoFisher社):
5’-CGGCTACCACATCCAAGGAAG-3’(配列番号6)
カスタム合成18s Primer2(ThermoFisher社):
5’-GCTGGAATTACCGCGGCT-3’(配列番号7)
【0087】
図2にNEK6アンチセンスオリゴヌクレオチドが導入された場合のNEK6のリアルタイムPCRの結果を示す。NEK6アンチセンスオリゴヌクレオチドの導入は、NEK6遺伝子の転写量を抑制した。したがって、用いられたNEK6アンチセンスオリゴヌクレオチドは、効率的に標的遺伝子の発現を抑制したことが示された。
【0088】
〔実施例2: NEK6のノックダウンによるSMAD3リン酸化に対する影響〕
NEK6アンチセンスオリゴヌクレオチドがTGF-βシグナルを制御する可能性を検討するため、各NEK6アンチセンスオリゴヌクレオチドをトランスフェクションした細胞においてリン酸化SMAD3の量を解析した。
【0089】
ヒト肝星細胞株LI-90細胞に、ヒトNEK6アンチセンスオリゴヌクレオチド(KB-XAX,XBX、XCX)を、Lipofectamine RNAi MAX(Invitrogen社)を用いて、終濃度30nMでトランスフェクションした。トランスフェクション24時間後、培地を10% FCS含有DMEM Low Glucose培地(Thermo Fisher社)から0.2% FCS含有DMEM Low Glucose培地(Thermo Fisher社)に交換した。トランスフェクション48時間後、ヒトTGF-βタンパク質(Peprotech社)を終濃度5ng/mlとなるように添加した。TGF-β添加30分後、細胞を2×SDS sample buffer[100mM Tris-HCl pH6.8,4% SDS,6M Urea,12% Glycerol,2% protease inhibitor cocktail(nacalai tesque社),1% phosphatase inhibitor cocktail(nacalai tesque社)]で溶解し、細胞抽出液とした。
【0090】
得られた細胞抽出液にβ-Mercaptoethanol及びBromophenol blueをそれぞれ終濃度5%及び0.025%となるように添加した後に、95℃で4分加熱してサンプルとした。得られたサンプルを用いてSDS-PAGEを実施し、サンプルに含まれるタンパク質を大きさにより分離した。その後、分離したタンパク質をPVDFメンブレンに転写し、抗リン酸化SMAD3抗体(Cell Signaling Technology社)及び抗SMAD3抗体(Cell Signaling Technology社)、抗NEK6抗体(Santa Cruz Biotechnology社)、抗β-Actin抗体(Sigma Aldrich社)によりウェスタンブロッティングを行った。リン酸化SMAD3量はトータルSMAD3量により補正した。
【0091】
図3にNEK6をノックダウンした場合におけるリン酸化SMAD3タンパク質のウェスタンブロットの結果を、図4にリン酸化SMAD3量をトータルSMAD3量により補正した結果を示す。NEK6アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いることで、NEK6のタンパク質の量が減少し、TGF-βによって上昇するリン酸化SMAD3の量が減少した。したがって、NEK6のノックダウンによりSMAD3タンパク質のリン酸化が抑制されることが示された。
【0092】
〔実施例3: NEK6タンパク質とSMAD3タンパク質との細胞内における相互作用〕
NEK6タンパク質が細胞内でSMAD3と相互作用してSMAD3をリン酸化しているかを検討するため、共免疫沈降を行った。
【0093】
IPF患者の肺から樹立されたヒト肺線維芽細胞株LL29細胞に、ヒトNEK6がクローニングされた発現ベクター(pEZ-M02 Nek6,GeneCopoeia社)とFLAGタグで標識されたヒトSMAD3がクローニングされた発現ベクター(pEZ-M11 Flag-hSmad3,GeneCopoeia社)を、X-tremeGENE HP(Roche社)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクション24時間後に培地を交換した。トランスフェクション48時間後、溶解バッファー(175mM NaCl,50mM HEPES pH7.6,0.1% NP40,0.2mM EDTA pH8.0,1.4mM β-Mercaptoethanol,1% protease inhibitor cocktail,1% phosphatase inhibitor cocktail)で細胞を回収し、遠心分離によって上清を得た。上清にTrueBlot Anti-Goat IgIP Beads(Rockland社)を添加し、遠心分離を行い、非特異的な結合を除去した。そこから得られた上清にコントロールとしてnormal goat IgG(Santa Cruz Biotechnology社)、もしくは抗NEK6抗体を加え、オーバーナイト4℃にてインキュベートした後に、TrueBlot Anti-Goat IgIP Beadsを加え4時間、4℃にてインキュベートした。遠心分離を行って上清を除いた後に、TrueBlot Anti-Goat IgIP Beadsを溶解バッファーで洗浄して非特異的な結合を除去した。2×SDS PAGE loading buffer(100mM Tris―HCl pH6.8,4% SDS,20% Glycerol,0.2% Bromophenol blue,50mM DTT)をTrueBlot Anti-Goat IgIP Beadsに添加して95℃で5分間加熱し、上清に含まれる共免疫沈降物を回収した。抗NEK6抗体による共免疫沈降物に対して抗SMAD3抗体(Cell Signaling Technology社)、抗NEK6抗体を用いてウェスタンブロッティングを行い、NEK6タンパク質とSMAD3タンパク質が共沈降されるかを検出した。
【0094】
図5aに、抗NEK6抗体による共免疫沈降の結果を示す。共免疫沈降物から、NEK6タンパク質とSMAD3タンパク質が検出された。
【0095】
SMAD3タンパク質がNEK6と細胞内で相互作用しリン酸化されているかを解析するため、ヒトNEK6発現ベクターとFLAGタグで標識されたヒトSMAD3発現ベクターをLL29細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション24時間後に培地を交換した。トランスフェクション48時間後、溶解バッファー(250mM NaCl,50mM HEPES pH7.6,0.1% NP40,0.2mM EDTA pH8.0,1.4mM β-Mercaptoethanol,1% protease inhibitor cocktail,1% phosphatase inhibitor cocktail)で細胞を回収し、遠心分離によって上清を得た。得られた上清にAnti-FLAG M2 Affinity Gel(Sigma-Aldrich社)を添加し、4℃にてオーバーナイトでインキュベートした。その後、遠心分離を行い、上清を除いた。Anti-FLAG M2 Affinity Gelを溶解バッファーで洗浄して非特異的な結合を除去した。2×SDS PAGE loading buffer(100mM Tris―HCl pH6.8,4% SDS,20% Glycerol,0.2% Bromophenol blue,50mM DTT)をAnti-FLAG M2 Affinity Gelに添加して95℃で4分間加熱し、上清に含まれる共免疫沈降物を回収した。得られた共免疫沈降物をSDS-PAGEにより大きさに基づいて分離した後、PVDFメンブレンに転写し、Anti-FLAG M2 Affinity Gelによる共免疫沈降物に対しては抗リン酸化SMAD3抗体、抗FLAG抗体(Sigma-Aldrich社)、抗NEK6抗体を用いてウェスタンブロッティングを行い、NEK6タンパク質とリン酸化SMAD3タンパク質が共沈降されるかを検出した。
【0096】
図5bに、抗FLAG抗体による共免疫沈降の結果を示す。共免疫沈降物から、NEK6タンパク質とFLAG-SMAD3タンパク質が検出された。また、ヒトNEK6の発現ベクターのトランスフェクションによって、リン酸化SMAD3タンパク質の量が上昇した。
【0097】
抗NEK6抗体による共免疫沈降物中にSMAD3タンパク質が検出されたこと、及び逆に抗FLAG抗体による共免疫沈降物中にNEK6が検出されたことから、NEK6タンパク質とSMAD3タンパク質が細胞内で相互作用して複合体を形成することが示された。更に、ヒトNEK6の発現ベクターのトランスフェクションによってリン酸化SMAD3タンパク質の量が上昇したことから、NEK6タンパク質はSMAD3タンパク質を細胞内でリン酸化することが示された。
【0098】
〔実施例4: NEK6タンパク質によるSMAD3タンパク質リン酸化〕
NEK6タンパク質がSMAD3タンパク質を基質として直接リン酸化している可能性を、NEK6とSMAD3の精製タンパク質を用いて検討した。
【0099】
His融合NEK6タンパク質(eurofins社)とGST融合SMAD3タンパク質(Sigma-Aldrich社)を反応溶媒(150μM ATP,50mM HEPES,150mM NaCl,0.1% Triton X-100,10mM MgCl,1mM DTT,1% phosphatase inhibitor cocktail)と混合し、30°Cにて45分間インキュベートした。5% β-Mercaptoethanol及び0.025% Bromophenol blueを含む2×SDS sample bufferを、反応液に等量添加して反応を停止させた後に、95℃で5分加熱し、サンプルとした。得られたサンプルを用いてSDS-PAGEを実施し、反応液に含まれるタンパク質を大きさにより分離した。その後、分離したタンパク質をPVDFメンブレンに転写し、抗リン酸化SMAD3抗体及び抗GST抗体(Santa Cruz Biotechnology社)、抗NEK6抗体によりウェスタンブロッティングを行った。
【0100】
図6にHis融合NEK6タンパク質とGST融合SMAD3タンパク質を反応させた場合におけるリン酸化SMAD3タンパク質のウェスタンブロットの結果を示す。NEK6タンパク質を用いることで、リン酸化SMAD3の量が上昇した。したがって、NEK6タンパク質はSMAD3タンパク質を基質として直接リン酸化することが示された。
【0101】
〔実施例5: NEK6のノックダウンによるSMADタンパク質複合体の転写活性に対する影響〕
NEK6タンパク質が、SMADタンパク質複合体の核内移行後におこる転写活性も制御しているかを検討するため、SMADタンパク質複合体のDNA結合配列とルシフェラーゼ遺伝子を用いたルシフェラーゼレポーターアッセイを実施した。また、同時に調製したLL29細胞を用いてウェスタンブロッティングを実施し、NEK6のノックダウンについて確認した。
【0102】
IPF患者の肺から樹立されたヒト肺線維芽細胞株LL29細胞に、ヒトNEK6に対するsiRNAである ON-TARGET plus SMART pool siRNA(Dharmacon社)をLipofectamine RNAi MAXを用いてトランスフェクションした。siRNAのトランスフェクション24時間後、培地を10% FCS含有F-12K培地から0.4% FCS含有F-12K培地に交換した。siRNAのトランスフェクション48時間後、SMADタンパク質複合体のDNA結合配列[SMAD biding element(SBE)]とホタルルシフェラーゼ遺伝子がクローニングされた発現ベクター(pTL-SBE-luc:5’-AGTATGTCTAGACTGAAGTATGTCTAGACTGAAGTATGTCTAGACTGA-3’(配列番号8),Panomics社)と野生型ウミシイタケルシフェラーゼを含むレポーターアッセイ補正用のベクター(pRL-TK:Promega社)を、Lipofectamine LTX with PLUS reagent(Thermo Fisher Scientific社)を用いてトランスフェクションした。発現ベクターのトランスフェクション2時間後、ヒトTGF-βタンパク質を終濃度10ng/mLとなるように添加した。TGF-β添加24時間後において、細胞を2×SDS sample buffer(100mM Tris-HCl pH6.8,4% SDS,6M Urea,12% Glycerol,2% protease inhibitor cocktail,1% phosphatase inhibitor cocktail)で溶解した。得られた細胞抽出液に含まれるタンパク質をSDS-PAGEにより分離後、タンパク質をPVDFメンブレンに転写し、抗SMAD3抗体、抗NEK6抗体、抗Vinculin抗体によりウェスタンブロッティングを行った。また、上記と同様に調製したLL29細胞をDual-Luciferase Reporter Assay System(Promega社)に順じて回収し、ホタルルシフェラーゼとウミシイタケルシフェラーゼによる発光を測定した。ホタルルシフェラーゼの発光量をウミシイタケルシフェラーゼによる発光量で補正した。
【0103】
<ON-TARGET plus SMART pool siRNA>
siNEK6:5’-CUGUCCUCGGCCUAUCUUC-3’(配列番号9)
siNEK6:5’-UAUUUGGGUGGUUCAGUUG-3’(配列番号10)
siNEK6:5’-CAACUCCAGCACAAUGUUC-3’(配列番号11)
siNEK6:5’-UACUUGAUCAUCUGCGAGA-3’(配列番号12)
【0104】
図7aにNEK6をノックダウンした場合におけるウェスタンブロットの結果を示す。NEK6のsiRNAを用いることで、NEK6のタンパク質の量が減少している事が示されたが、SMAD3タンパク質の量は変化しなかった。図7bにNEK6をノックダウンした場合における、ウミシイタケルシフェラーゼで補正したホタルルシフェラーゼの発光量を示す。NEK6のsiRNAを用いることで、TGF-βによって上昇するホタルルシフェラーゼの発光量が減少した。したがって、NEK6のノックダウンによりSMADタンパク質複合体の転写活性が抑制されることが示された。
【0105】
〔実施例6: 肝星細胞におけるNEK6のノックダウンによる線維症関連遺伝子の転写量に対する影響〕
NEK6のノックダウンが線維症に対して有効性を示すことを検討するため、NEK6 アンチセンスオリゴヌクレオチドをトランスフェクションした細胞における線維症関連遺伝子の転写量を解析した。
【0106】
ヒト肝星細胞株LI-90細胞に、ヒトNEK6アンチセンスオリゴヌクレオチド(KB-XAX、XBX及びXCX)を、Lipofectamine RNAi MAX(Invitrogen社)を用いて、終濃度30nMでトランスフェクションした。トランスフェクション48時間後、培地を10% FCS含有DMEM Low Glucose培地(Thermo Fisher社)から0.2%FCS含有DMEM Low Glucose培地(Thermo Fisher社)に交換した。トランスフェクション72時間後、ヒトTGF-βタンパク質(Peprotech社)を終濃度2ng/mlとなるように添加した。TGF-β添加24時間後、NEK6アンチセンスオリゴヌクレオチドをトランスフェクションした細胞から、RNeasy Mini Kit(Qiagen社)を用いてRNAを抽出した。
【0107】
得られたRNAをHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems社)を用いて逆転写を行い、cDNAを得た。得られたcDNAはTaqMan Gene Expression Assays(Applid Biosystems社)を用いてリアルタイムPCRを行い、NEK6のノックダウンによる遺伝子の転写量に対する影響を検出した。Col1a1遺伝子とFibronectin遺伝子の転写量は、Col1a1 Taqman Probe(HS00164004_m1、Applied Biosystems社)での測定値、又はFibronectin Taqman Probe(HS01549976_m1、Applid Biosystems社)での測定値を、18s Probeでの測定値で除することで算出した。18s Probeは下記のカスタム合成18s MGB Probe、カスタム合成18s Primer1、カスタム合成18s Primer2を、それぞれ0.2μM、0.4μM及び0.4μMとなるように混合し、リアルタイムPCRを行った。
【0108】
カスタム合成18s MGB Probe(Applied Biosystems社):
5’-ATTGGAGGGCAAGTCTGGTGCCAGC-3’(配列番号5)
カスタム合成18s Primer1(ThermoFisher社):
5’-CGGCTACCACATCCAAGGAAG-3’(配列番号6)
カスタム合成18s Primer2(ThermoFisher社):
5’-GCTGGAATTACCGCGGCT-3’(配列番号7)
【0109】
図8にNEK6をノックダウンした場合におけるCol1a1遺伝子の転写量、図9にNEK6をノックダウンした場合におけるFibronectin遺伝子の転写量を示す。NEK6アンチセンスオリゴヌクレオチドにより、TGF-βによって上昇するCol1a1遺伝子、Fibronectin遺伝子の転写量が減少した。したがって、NEK6のノックダウンは線維化を抑制することが示された。
【0110】
〔実施例7: 肺線維芽細胞におけるNEK6のノックダウンによる線維症関連遺伝子の転写量に対する影響〕
NEK6のノックダウンが線維症に対して有効性を示すことをさらに検討するため、NEK6 siRNAをトランスフェクションした細胞における線維症関連遺伝子の転写量を解析した。
【0111】
IPF患者の肺から樹立されたヒト肺線維芽細胞株LL29細胞にヒトNEK6に対するsiRNA(ON-TARGET plus SMART pool siRNA,Dharmacon社)をLipofectamine RNAi MAXを用いてトランスフェクションした。トランスフェクション24時間後、培地を10%FCS含有F-12K培地から0.1%BSA含有F-12K培地に交換した。トランスフェクション48時間後、ヒトTGF-βタンパク質を終濃度1ng/mLとなるように添加した。トランスフェクション72時間後、siRNAをトランスフェクションした細胞から、RNeasy Mini Kitを用いてRNAを抽出した。得られたRNAをHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kitを用いて逆転写を行い、cDNAを得た。得られたcDNAはTaqMan GeneExpression Assaysを用いてリアルタイムPCRを行い、NEK6のノックダウンによる遺伝子の転写量に対する影響を検出した。Col1a1遺伝子とαSMA遺伝子の転写量は、Col1a1 Taqman Probe(HS00164004_m1、Applied Biosystems社)での測定値、又はαSMA Taqman Probe(HS00426835_g1、Applied Biosystems社)での測定値を、18s Probeでの測定値で除することで算出した。
【0112】
図10aにNEK6をノックダウンした場合におけるCol1a1の転写量、図10bにNEK6をノックダウンした場合におけるαSMA遺伝子の転写量を示す。NEK6のsiRNAを用いることで、TGF-βによって上昇するCol1a1、αSMA、遺伝子の転写量が減少した。したがって、NEK6のノックダウンは線維症を抑制することが示された。
【0113】
〔実施例8: 腎臓線維芽細胞におけるNEK6のノックダウンによるSMAD3タンパク質リン酸化に対する影響〕
NEK6タンパク質がTGF-βシグナルを制御する可能性を検討するため、NEK6 siRNAをトランスフェクションした細胞においてリン酸化SMAD3の量を解析した。
【0114】
ラット腎線維芽細胞株NRK-49F細胞に、ヒトNEK6に対するssPN分子(KB-004:5’-GAUAAGAUGAAUCUCUUCUCCCC-Lx-GGGGAGAAGAGAUUCAUCUUAUCUC-3’(配列番号16)、下線は発現抑制配列を示す)をLipofectamine RNAi MAXを用いてトランスフェクションした。トランスフェクション24時間後、培地を10%FCS含有DMEM培地から0.1%FCS含有DMEM培地に交換した。トランスフェクション48時間後、ヒトTGF-βタンパク質を終濃度5ng/mlとなるように添加した。添加後30分或いは1時間後、細胞を2×SDS sample buffer(100mM Tris-HCl pH6.8,4%SDS,6M Urea,12%Glycerol,2%protease inhibitor cocktail,1%phosphatase inhibitor cocktail)で溶解し細胞抽出液とした。得られた細胞抽出液にβ-Mercaptoethanol及びBromophenol blueをそれぞれ終濃度5%、0.025%となるように添加した後に、95℃で4分加熱してサンプルとした。得られたサンプルを用いてSDS-PAGEを実施し、サンプルに含まれるタンパク質を大きさにより分離した。その後、分離したタンパク質をPVDFメンブレンに転写し、抗リン酸化SMAD3抗体及び抗SMAD3抗体、抗NEK6抗体(abcam社)、抗Vinculin抗体によりウェスタンブロッティングを行った。
【0115】
図11にNEK6をノックダウンした場合におけるリン酸化SMAD3タンパク質のウェスタンブロッティングの結果を示す。NEK6のsiRNAを用いることで、NEK6のタンパク質の量が減少し、TGF-βによって上昇するリン酸化SMAD3の量が減少した。したがって、NEK6のノックダウンによりSMAD3タンパク質のリン酸化が抑制されることが示された。
【0116】
〔実施例9: 四塩化炭素(CCl)誘発肝線維化モデルにおけるNEK6のノックダウンの有効性評価〕
NEK6のノックダウンが線維症に対して有効性を示すことを確認するため、CClモデルマウスに、NEK6 siRNAを静脈内投与して抗線維化作用を解析した。
【0117】
7週齢雄のC57BL/6Jマウス(日本チャールス・リバー株式会社)に、10v/v%CCl含有オリーブ油溶液(富士フイルム和光純薬株式会社)を、10 mL/kg体重で0,4,7,11日目に腹腔内投与し、肝線維化モデルマウスを作製した。CClの初回投与前日の体重で群わけを実施し、群設定は、CCl未投与の生理食塩水投与群(n=5)、CCl投与の溶媒投与群(n=10)、CCl投与の核酸投与群(n=10)とした。NEK6 ssPN分子としてKB-004を、投与溶媒としてinvivofectamine 3.0 Reagent(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、invivofectamine 3.0の製品プロトコールに従い、0.3mg/mLの核酸投与液を作製した。核酸投与群にはKB-004を含む核酸投与液を3mg/kg体重となるように尾静脈投与し、溶媒投与群には核酸投与群と等量の投与溶媒を、CClの初回投与前日および病態誘発10日目に尾静脈投与した。肝障害および線維化の評価は病態誘発13日目で実施した(実施例10、11、12及び14)。
【0118】
〔実施例10: CClモデルでの肝障害マーカーの解析〕
線維化とは、細胞や組織の障害に対する過剰な創傷治癒過程だと理解されている。そのため、線維化と共に細胞や組織の障害を抑制することは、各種線維症の治療に有効であると考えられている。そこで、NEK6のノックダウンが肝障害に対して効果を示すかを検討するため、CClモデルにおける肝障害マーカーの測定を行った。
【0119】
病態誘発13日目に尾静脈よりプレーンのキャピラリー採血管を用いて採血し、30分以上静置した。静置後の血液を遠心分離し、血清を得た。トランスアミナーゼCII-テストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて血清中グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)及びグルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)を測定した。測定方法は試薬の説明書に従った。
【0120】
図12aに血清中GPTの測定結果、図12bに血清中GOTの測定結果を示した。NEK6 siRNAを投与することで、CClモデルで認められた血清中GPT及びGOTの上昇が抑制された。したがって、NEK6のノックダウンは肝障害を抑制することが示された。
【0121】
〔実施例11: CClモデルでのSMAD3タンパク質リン酸化の解析〕
NEK6のノックダウンがSMAD3タンパク質のリン酸化に対して効果を示すかを検討するため、CClモデルにおけるリン酸化SMAD3の量を解析した。
【0122】
病態誘発13日目に採取した肝臓を凍結後に粉砕し粉状にした。粉末状の肝臓へ溶解バッファー(150mM NaCl,1% NP40,0.1% SDS,50mM Tris-HCl pH7.5,1mM EDTA,1mM Benzylsulfonyl fluoride,2% protease inhibitor cocktail,1% phosphatase inhibitor cocktail)を加え、ハンディ超音波発生機を用いて臓器抽出液を調製した。臓器抽出液を遠心分離して得られた上清へβ-Mercaptoethanol及びBromophenol blueをそれぞれ終濃度5%、0.025%となるように添加した。その後、95℃で4分加熱してサンプルとした。得られたサンプルを用いてSDS-PAGEを実施し、サンプルに含まれるタンパク質を大きさにより分離した。その後、分離したタンパク質をPVDFメンブレンに転写し、抗リン酸化SMAD3抗体(abcam社)及び抗SMAD3抗体、抗NEK6抗体(abcam社)、抗Vinculin抗体によりウェスタンブロッティングを行った。リン酸化SMAD3はトータルSMAD3量により補正した。
【0123】
図13にNEK6をノックダウンした場合におけるリン酸化SMAD3タンパク質のウェスタンブロッティングの結果を示す。NEK6のsiRNAを用いることで、NEK6のタンパク質の量が減少し、TGF-βによって上昇するリン酸化SMAD3の量が減少した。したがって、NEK6のノックダウンはCClモデルの肝臓においてSMAD3タンパク質のリン酸化を抑制することが示された。
【0124】
〔実施例12: CClモデルでの線維症関連遺伝子の解析〕
NEK6のノックダウンが線維化に対して有効性を示すかを検討するため、CClモデルにおける線維症関連遺伝子の転写量を解析した。
【0125】
病態誘発13日目に採取した肝臓からQIAzol Lysis reagent(QIAGEN社)を用いてRNAを抽出した。続いて、RNeasy mini kitを用いてRNAを精製し、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kitを用いて逆転写反応を行った。TaqMan GeneExpression Assayを用いてNEK6 Taqman Probe(Mm00480730_m1、Applied Biosystems社)、及び線維症関連遺伝子としてCol1a1 Taqman Probe(Mm00801666_g1、Applied Biosystems社)、Col3a1 Taqman Probe(Mm01254476_m1、Applied Biosystems社)、Timp1 Taqman Probe(Mm01341361_m1、Applied Biosystems社)の転写量を測定し、内部標準である18s rRNA Taqman Probe(Hs99999901_s1、Applied Biosystems社)の転写量との相対比を各遺伝子の転写量とした。
【0126】
CClモデルにおける各遺伝子の転写量を図14a~dに示す。NEK6 ssPN分子の投与によって、NEK6遺伝子の転写量が低下した。このことから、用いられたKB-004は、効率的に標的遺伝子の転写を抑制したことが示された。この時、病態誘発によって誘導される線維症関連遺伝子(Col1a1、Col3a1、Timp1)の転写量は有意に低下した。したがって、NEK6のノックダウンは線維化を抑制することが示された。
【0127】
〔実施例13: 胆管結紮誘発肝線維化(BDL)モデルでの線維症関連遺伝子の解析〕
NEK6のノックダウンが線維症に対して有効性を示すことを検討するため、胆管結紮誘発肝線維化モデルマウス(BDLモデル)にNEK6 siRNAを静脈内投与して線維症関連遺伝子の転写量を解析した。
【0128】
9週齢のC57BL/6Jマウス(日本チャールス・リバー社)を体重で群分けし、遺伝子導入試薬invivofectamin 3.0(ThermoFisher Scientific社)の添付文書に従って調製したKB-004溶液(0.3mg/mL)を3mg/kg体重の用量で尾静脈内投与した(n=12)。対照群には、溶媒のみを投与した(n=15)。投与翌日、総胆管を2箇所結紮し、肝線維化モデルマウスを作製した。偽手術群は、生理食塩水(大塚生食注)を尾静脈内投与し、総胆管の剥離のみ行った(n=7)。胆管結紮14日目に肝臓を採取し、上記と同様にしてNEK6 Taqman Probe(Mm00480730_m1、Applied Biosystems社)、及び線維症関連遺伝子としてCol1a1 Taqman Probe(Mm00801666_g1、Applied Biosystems社)、Col3a1 Taqman Probe(Mm01254476_m1、Applied Biosystems社)、Timp1 Taqman Probe(Mm01341361_m1、Applied Biosystems社)の転写量を測定し、内部標準であるGAPDH Taqman Probe(Mm9999995_g1、Applied Biosystems社)の転写量との相対比を各遺伝子の転写量とした。
【0129】
BDLモデルにおける各遺伝子転写量を図15にa~dに示す。NEK6 siRNAの投与によって、NEK6遺伝子の転写量が低下した。このことから、用いられたKB-004は、効率的に標的遺伝子の転写を抑制したことが示された。この時、病態誘発によって誘導される線維症関連遺伝子(Col1a1、Col3a1、Timp1)の転写量は有意に低下した。したがって、NEK6のノックダウンは線維化を抑制することが示された。
【0130】
〔実施例14: CClモデルでの病理解析〕
NEK6のノックダウンがCCl誘発肝線維化モデルに対して効果を示すかを検討するため、病理像の観察を行った。
【0131】
病態誘発13日目に肝臓の内側右葉を採取し、10%中性緩衝ホルマリン液を用いて固定した。パラフィンで包埋した後に、組織切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。
【0132】
図16に病理像の代表例を示した。図16aはCCl未投与の生理食塩水投与群の結果、図16bはCCl投与の溶媒投与群の結果、図16cはCCl投与の核酸投与群の結果を表す。図16b中に多く認められる空胞変性は細胞の障害を示し、中央部付近に多く存在する核が染色していない部分は細胞の壊死を示す。NEK6 siRNAを投与することで、CClモデルの肝臓組織で認められた細胞の障害や壊死が減少した。したがって、NEK6のノックダウンはCCl誘発肝線維化モデルにおける病理像の変化を抑制することが示された。
【0133】
参考例1: 一本鎖核酸分子の合成
以下に示す核酸分子を、ホスホロアミダイト法に基づき、核酸合成機(商品名ABI3900 DNA Synthesizer、Applied Biosystems)により合成した。固相担体としてCPG(Controlled Pore Glass)を用い、RNAアミダイトとして、EMMアミダイト(国際公開第2013/027843号)を用いた固相合成を行った。固相担体からの切り出し及びリン酸基保護基の脱保護、塩基保護基の脱保護、2’-水酸基保護基の脱保護は、定法に従った。合成した一本鎖核酸分子は、HPLCにより精製した。
【0134】
本発明の下記一本鎖核酸分子において、Lxは、リンカー領域Lxであり、下記構造式のL-プロリンジアミドアミダイトを示す。
【0135】
【化1】
【0136】
また、下記一本鎖核酸分子中の下線部は、NEK6の遺伝子発現抑制配列である。
KB-001
5’-GAGGGAGUUCCAACAACCUCUCC-Lx-GGAGAGGUUGUUGGAACUCCCUCCA-3’(配列番号13)
KB-002
5’-CGAGGCAGGACUGUGUCAAGGCC-Lx-GGCCUUGACACAGUCCUGCCUCGCC-3’(配列番号14)
KB-003
5’-CGUGGAGCACAUGCAUUCACGCC-Lx-GGCGUGAAUGCAUGUGCUCCACGGC-3’(配列番号15)
KB-004
5’-GAUAAGAUGAAUCUCUUCUCCCC-Lx-GGGGAGAAGAGAUUCAUCUUAUCUC-3’(配列番号16)
KB-005
5’-CAGAGACCUGACAUCGGAUACCC-Lx-GGGUAUCCGAUGUCAGGUCUCUGGU-3’(配列番号17)
図1
図2
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【配列表】
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