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特許7241162非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20230309BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230309BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021506138
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038365
(87)【国際公開番号】W WO2020188863
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】62/819,166
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516054106
【氏名又は名称】BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】井上 大誠
(72)【発明者】
【氏名】西川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井之上 勝哉
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/190419(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/121654(WO,A1)
【文献】特開2016-219278(JP,A)
【文献】特開2018-98174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、
α-NaFeO構造を有し、
遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、
遷移金属(Me)としてNi及びMnを含み、
空間群R3-mに帰属可能なエックス線回折パターンを有し、CuKα線を用いたエックス線回折測定によるミラー指数hklにおける(101)面の回折ピークの半値幅が0.22°以下である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記モル比Li/Meが1.2以上である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記モル比Li/Meが1.25以上である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記モル比Li/Meが1.5以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記モル比Li/Meが1.45以下である、請求項4に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Meに対するNiのモル比Ni/Meが0.2以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記モル比Ni/Meが0.25以上である、請求項6に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記モル比Ni/Meが0.5未満である、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項9】
前記モル比Ni/Meが0.4以下である、請求項8に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項10】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5超である、請求項1~9のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項11】
前記モル比Mn/Meが0.6以上である、請求項10に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項12】
前記モル比Mn/Meが0.8以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項13】
前記モル比Mn/Meが0.75以下である、請求項11に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項14】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属(Me)としてさらにCoを、Meに対するモル比Co/Meが0.05未満の量で含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項15】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、CuKα線を用いたエックス線回折測定によるミラー指数hklにおける(003)面の回折ピークの半値幅が、0.175°以下である、請求項1~14のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項16】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、前記(003)面の回折ピークの半値幅に対する前記(101)面の回折ピークの半値幅の比が1.40以下である、請求項15に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項17】
BET比表面積が8m/g以下である、請求項1~16のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項18】
前記リチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも表面にアルミニウム化合物が存在している、請求項1~17のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極。
【請求項20】
請求項19に記載の正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質、前記正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極、及び前記正極を備える非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水電解質二次電池は、正極活物質に用いるリチウム遷移金属複合酸化物として、α-NaFeO型結晶構造を有する「LiMeO型」活物質(Meは遷移金属)が検討され、LiCoOが広く実用化されていた。LiCoOを正極活物質として用いた非水電解質二次電池は、放電容量が120~130mAh/g程度であった。
【0003】
より放電容量が大きく、充放電サイクル性能の点でも優れる「LiMeO型」活物質が種々提案され、一部実用化されている。例えば、LiNi1/2Mn1/2やLiCo1/3Ni1/3Mn1/3は、150~180mAh/gの放電容量を有する。
【0004】
前記Meとして、地球資源として豊富なMnを用いることが望まれていた。しかし、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5を超える「LiMeO型」活物質は、充電に伴いα-NaFeO型からスピネル型へと構造変化が起こり、結晶構造が維持できず、充放電サイクル性能が著しく劣るという問題があった。
そこで、近年、上記のような「LiMeO型」活物質に対し、リチウム遷移金属複合酸化物として、遷移金属(Me)に対するリチウムのモル比Li/Meが1を超え、マンガン(Mn)のモル比Mn/Meが0.5を超え、充電をしてもα-NaFeO構造を維持できる、いわゆる「リチウム過剰型」活物質が提案された。この活物質は、Li1+αMe1-α(α>0)と表すことができ、その組成、結晶性、粉体特性、及び製造方法等と電池特性との関係について研究が進められている(特許文献1~4参照)。
【0005】
特許文献1には、「α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む非水電解質電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物を構成するLiと遷移金属(Me)のモル比Li/Meが1.2より大きく1.5未満であり、前記遷移金属(Me)がMn及びNiを含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物が、空間群P312又はR3-mに帰属可能なX線回折パターンを有し、CuKα線を用いたX線回折測定によるミラー指数hklにおける(003)面の回折ピークの半値幅が0.180~0.210°であり、さらに、前記リチウム遷移金属複合酸化物のBET比表面積が2.0以上3.8m/g以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質。」(請求項1)、「前記リチウム遷移金属複合酸化物のCuKα線を用いたX線回折測定によるミラー指数hklにおける(114)面又は(104)面の回折ピークの半値幅に対する(003)面の回折ピークの半値幅の比が、0.731以上である請求項1又は請求項2のいずれかに記載の非水電解質二次電池用活物質。」(請求項3)が記載されている。
また、「本発明者は、・・・Ni、Mn及び任意成分としてCoを含む共沈炭酸塩前駆体と、炭酸リチウム、酸化ニオブを適切な量で混合し、適切な条件下で焼成して得られた『リチウム過剰型』正極活物質が、大きすぎない比表面積と、適度な結晶性を有することにより、高初期効率、高放電容量を実現し、充放電サイクル時の容量低下の抑制も実現できることを突き止めた。」(段落[0020])と記載されている。
【0006】
特許文献2には、「α-NaFeO構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、Liと遷移金属(Me)のモル比(Li/Me)が1<Li/Meであり、Mnと遷移金属(Me)のモル比(Mn/Me)が0.5<Mn/Meであり、Ceを含有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。」(請求項1)、「CuKα管球を用いたX線回折パターン解析において、(104)面に帰属される回折ピークの半値幅(FWHM)が0.269≦FWHM≦0.273であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の正極活物質。」(請求項3)が記載されている。
また、「Ceイオンを添加して酸処理を行った実施例1~5は、初期効率、放電容量維持率が、いずれも酸処理を施さない比較例1、硫酸処理を施した比較例2、及びSnイオンやFeイオンを添加して酸処理を行った比較例3~9を上回っている。また、Zrを添加して酸処理を行った比較例10と比べると、放電容量維持率に特段の差異が見られないものの、初期効率が優れている。」(段落[0099])と記載されている。
【0007】
特許文献3には、「下記工程(I)、(II)および(III)をこの順で有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
工程(I):Li元素及び遷移金属元素を含むリチウム含有複合酸化物(I)を洗浄液と接触させ、接触後に洗浄液と分離してリチウム含有複合酸化物(II)を得る工程。
工程(II):リチウム含有複合酸化物(II)と、下記組成物(1)および組成物(2)とを接触させてリチウム含有複合酸化物(III)を得る工程。
工程(III):リチウム含有複合酸化物(III)を加熱する工程。
組成物(1):S、P、F、およびBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(a)を含む単原子または多原子の陰イオン(A)を含む水溶液。
組成物(2):Li、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Ga、In、Sn、Sb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Dy、Er、およびYbからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素(m)の単原子または錯体の陽イオン(M)を含む水溶液。」(請求項1)、「リチウム含有複合酸化物(I)が、Li元素と、Ni、Co、およびMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素とを含み、Li元素のモル量が前記遷移金属元素の総モル量に対して1.2倍超である、請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法」(請求項8)が記載されている。
また、「表3の結果より、洗浄液との接触(工程(I))、およびコーティング(工程(II)、(III))を行い、コーティング液として、組成物(1)および組成物(2)を用いた例1~4、例13~20は、洗浄液との接触、およびコーティングのいずれも行わなかった参考例1に比べて、初期効率およびサイクル維持率に優れる。」(段落[0099])と記載されている。
【0008】
特許文献4には、「NiおよびCoのいずれか一方または両方と、Mnと、Liとを含み、Liのモル量がNi、CoおよびMnの総モル量に対して1.2倍超である複合酸化物(I)を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、下記化合物(A)と下記化合物(B)とを混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を、酸素含有雰囲気下にて450~700℃で焼成する第1の焼成工程と、前記第1の焼成工程で得られた焼成物を、酸素含有雰囲気下にて750~1000℃で焼成することにより前記複合酸化物(I)を得る第2の焼成工程とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
化合物(A):・・・炭酸化合物。
化合物(B):・・・炭酸リチウム。」(請求項1)、「前記混合工程において、前記化合物(A)と前記化合物(B)とを混合する際に水を添加する、請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。」(請求項9)が記載されている。
また、「例7~10より、混合工程において少量の水を添加すると、初期効率が高くなることが分る。」(段落[0095])と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-219278号公報
【文献】特開2016-126935号公報
【文献】国際公開第2015/002065
【文献】特開2015-135800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
「リチウム過剰型」活物質は、LiMeOと、理論容量がそれより大きいLiMnOの固溶体とみなすことができるから、大きな放電容量が得られることが期待される。しかし、従来の「リチウム過剰型」活物質は、初回の充電容量に対する放電容量の比である、初回クーロン効率(以下、「初期効率」という)が低いという問題があった。
本発明は、初期効率が高い非水電解質二次電池用正極活物質、前記活物質を含有する正極、及び前記正極を備える非水電解質二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、遷移金属(Me)としてNi及びMn、又はNi、Co及びMnを含み、空間群R3-mに帰属可能なエックス線回折パターンを有し、CuKα線を用いたエックス線回折測定によるミラー指数hklにおける(101)面の回折ピークの半値幅が0.22°以下である、非水電解質二次電池用正極活物質である。
【0012】
本発明の他の一側面は、上記の正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極である。
【0013】
本発明のさらに他の一側面は、上記の正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、初期効率が高い非水電解質二次電池用正極活物質、前記活物質を含有する正極、及び前記正極を備える非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】空間群R-3mに帰属されるLiMeO型結晶構造図((101)面についての説明図)
図2】「リチウム過剰型」活物質のBET比表面積と0.1C放電容量との関係を示すグラフ
図3】「リチウム過剰型」活物質の(101)面の半値幅と初期効率との関係を示すグラフ
図4】「リチウム過剰型」活物質の(101)面の半値幅と0.1C放電容量との関係を示すグラフ
図5】「リチウム過剰型」活物質の(003)面の半値幅と0.1C放電容量との関係を示すグラフ
図6】「リチウム過剰型」活物質の(003)面の半値幅に対する(101)面の半値幅の比と初期効率との関係を示すグラフ
図7】「リチウム過剰型」活物質の(003)面の半値幅に対する(101)面の半値幅の比と0.1C放電容量との関係を示すグラフ
図8】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池を示す外観斜視図
図9】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合した蓄電装置を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その本質又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施形態又は実施例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0017】
本発明の一実施形態は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meであり、遷移金属(Me)としてNi及びMnを含み、空間群R3-mに帰属可能なエックス線回折パターンを有し、CuKα線を用いたエックス線回折測定によるミラー指数hklにおける(101)面の回折ピークの半値幅が0.22°以下である、非水電解質二次電池用正極活物質である。
本発明の一実施形態によれば、前記リチウム遷移金属複合酸化物の組成が特定の範囲であり、前記(101)面の回折ピークの半値幅が0.22°以下であることにより、初期効率が高く、放電容量が大きな正極活物質が得られる。前記(101)面の回折ピークの半値幅は0.215°以下であってもよく、0.21°以下であってもよい。
【0018】
本発明の一実施形態において、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、モル比Li/Meが1.2以上であってもよく、特に1.25以上であってもよい。また、モル比Li/Meが1.5以下であってもよく、特に1.45以下であってもよい。
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Meに対するNiのモル比Ni/Meが0.2以上であってもよく、特に0.25以上であってもよい。また、モル比Ni/Meが0.5未満であってもよく、特に0.4以下であってもよい。
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5超であってもよく、特に、0.6以上であってもよい。また、モル比Mn/Meが0.8以下であってもよく、特に、0.75以下であってもよい。
前記遷移金属(Me)として、さらにモル比Co/Meが0.05未満であるCoを含んでもよい。この場合、モル比Co/Meは、0.03以下であってもよく、0.01以下であってもよく、0でもよい。
【0019】
本発明の一実施形態において、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、CuKα線を用いたエックス線回折測定によるミラー指数hklにおける(003)面の回折ピークの半値幅が
、0.175°以下であってもよく、前記(003)面の回折ピークの半値幅に対する前記(101)面の回折ピークの半値幅の比が1.40以下であってもよい。
【0020】
本発明の一実施形態において、前記正極活物質のBET比表面積は、8m2/g以下であってもよい。
また、前記リチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも表面にアルミニウム化合物が存在していてもよい。
【0021】
本発明の他の一実施形態は、前記の正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極である。
さらに、本発明の他の一実施形態は、前記の正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池である。
【0022】
上記した本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池用正極活物質(以下、「本実施形態に係る正極活物質」という。)、本発明の他の一実施形態に係る非水電解質二次電池用正極(以下、「本実施形態に係る正極」という。)、本発明のさらに他の一実施形態に係る非水電解質二次電池(以下、「本実施形態に係る非水電解質二次電池」という。)について、以下、詳細に説明する。
【0023】
(リチウム遷移金属複合酸化物)
本実施形態に係る正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物(以下、「本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物」ともいう。)は、典型的には、組成式Li1+αMe1-α(α>0、Me:Ni及びMnを含む遷移金属)で表される「リチウム過剰型」活物質である。エネルギー密度が高い非水電解質二次電池を得るために、遷移金属(Me)に対するLiのモル比Li/Me、すなわち(1+α)/(1-α)は1.2以上であることが好ましく、1.25以上であることがより好ましく、1.3以上であることが特に好ましい。また、1.5以下であることが好ましく、1.45以下であることがより好ましく、1.4以下であることが特に好ましい。
【0024】
Niは、活物質の放電容量を向上させる作用があるから、遷移金属(Me)に対するNiのモル比Ni/Meは、0.2以上とすることが好ましく、0.25以上とすることがより好ましく、0.3以上とすることが特に好ましい。また、モル比Ni/Meは、0.5未満とすることが好ましく、0.45以下とすることがより好ましく、0.4以下とすることが特に好ましい。
遷移金属(Me)に対するMnのモル比Mn/Meは、材料コストの観点から、また、充放電サイクル性能を向上させるために、0.5超とすることが好ましく、0.6以上とすることがより好ましく、0.65以上とすることが特に好ましい。また、0.8以下とすることが好ましく、0.75以下とすることがより好ましく、0.7以下とすることが特に好ましい。
Coは、活物質粒子の電子伝導性を高め、高率放電性能を向上させる作用があるが、充放電サイクル性能及び経済性の点で、少ない方が好ましい任意元素である。遷移金属(Me)に対するCoのモル比Co/Meは、0.05未満とすることが好ましく、0.03以下であってもよく、0.01以下でもよく、0でもよい。なお、Niを含む原料を用いると、Coは不純物として含まれる場合がある。
【0025】
本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、その特性を著しく損なわない範囲で、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属、Fe等の3d遷移金属に代表される遷移金属など少量の他の金属を含んでいてもよい。
【0026】
本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物の粒子は、BET比表面積が8m2/g以下であることが好ましい。
BET比表面積の測定は、次の条件で行う。正極活物質粒子を測定試料とし、ユアサアイオニクス社製比表面積測定装置(商品名:MONOSORB)を用いて、一点法により、測定試料に対する窒素吸着量(m)を求める。測定試料の投入量は、0.5g±0.01gとする。予備加熱は120℃15minとする。液体窒素を用いて冷却を行い、冷却過程の窒素ガス吸着量を測定する。測定された吸着量(m)を活物質質量(g)で除した値をBET比表面積(m/g)とする。
【0027】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属元素を含有する化合物とリチウム化合物とを混合、焼成して合成することができる。合成後(充放電前)の粉末の、CuKα線を用いたエックス線回折パターンは、空間群R3-mに帰属される結晶系に由来する2θ=18.6±1°、36.7±1°及び44.0±1°の回折ピークに加えて、2θ=20.8±1°に、空間群C2/m、C2/c又はP312に帰属される結晶系に由来する超格子ピーク(LiMnO型の単斜晶に見られるピーク)が確認される。ところが、4.5V(vs.Li/Li)以上の正極電位範囲で、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域が発現する充電を一度でも行うと、結晶中のLiの脱離に伴って結晶の対称性が変化することにより、この超格子ピークは消滅する。なお、空間群C2/m、C2/c又はP312は、空間群R3-mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルである。
空間群R3-mに帰属されるエックス線回折パターンの図上の2θ=18.6±1°、36.7±1°及び44.0±1°の回折ピークは、それぞれ、ミラー指数hklにおける(003)面、(101)面、及び(104)面に指数付けされる。空間群R-3mに帰属されるLiMeO型結晶構造の(101)面は、図1(a)、(b)に示すように各遷移金属層の遷移金属原子を斜めに横切るような面となる。なお、「R3-m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「-」を施して表記する。
【0028】
<エックス線回折測定>
本明細書において、エックス線回折測定は、次の条件にて行う。線源はCuKα、加速電圧は30kV、加速電流は15mAとする。サンプリング幅は0.01deg、スキャンスピードは1.0deg/min、発散スリット幅は0.625deg、受光スリットは開放、散乱スリット幅は8.0mmとする。
【0029】
<エックス線回折測定に供する試料の調製方法>
本実施形態に係る正極活物質や、本実施形態に係る非水電解質二次電池が備える正極に含まれる活物質に対するエックス線回折測定に供する試料は、以下のとおりの手順及び条件により、調製する。
測定に供する試料は、正極作製前の活物質粉末であれば、そのまま測定に供する。電池を解体して取り出した正極から試料を採取する場合には、電池を解体する前に、当該電池の公称容量(Ah)の10分の1となる電流値(A)で、指定される電圧の下限となる電池電圧に至るまで定電流放電を行い、放電末状態とする。解体した結果、金属リチウム電極を負極に用いた電池であれば、以下に述べる追加作業は行わず、正極から採取した正極合剤を測定対象とする。金属リチウム電極を負極に用いた電池でない場合は、正極電位を正確に制御するため、電池を解体して電極を取り出した後に、金属リチウム電極を対極とした電池を組立て、正極合剤1g当たり10mAの電流値で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li)となるまで定電流放電を行い、放電末状態に調整した後、再解体する。取り出した正極は、ジメチルカーボネートを用いて付着した非水電解質を十分に洗浄し、室温にて一昼夜の乾燥後、アルミニウム箔集電体上の合剤を採取する。採取した合剤をめのう乳鉢で軽くほぐし、エックス線回折測定用試料ホルダーに配置して測定に供する。なお、電池の解体から再解体までの作業、及び正極板の洗浄、乾燥作業は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。
【0030】
従来、正極活物質の放電容量は、比表面積との相関が高く、比表面積が高いと、概して大きな放電容量が得られていた。しかし、「リチウム過剰型」活物質では、組成が一定範囲内の場合、同一の比表面積を有していても、同等の放電容量を示すとは限らない。図2は、後述する実施例及び比較例に係る正極活物質のBET比表面積と、0.1Cでの放電容量との関係を示したグラフである。
活物質の比表面積は、活物質に用いるリチウム遷移金属複合酸化物の結晶子径と相関があり、さらに結晶子径はエックス線回折パターンの各回折ピークの半値幅と関係がある指標である。すなわち、リチウム遷移金属複合酸化物の各回折ピークの半値幅が大きいほど、結晶子径は小さく、活物質の比表面積は大きい。しかし、その一方で、各回折ピークの半値幅は、各指数付けされる面方向における結晶の歪の情報も含んでいる。
そこで、本発明者らは、正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物を一定の組成範囲内で様々な条件で合成し、各回折ピークの半値幅と初期効率及び放電容量との関連について検討した。
図3は、リチウム遷移金属複合酸化物の(101)面の回折ピークの半値幅(以下、「FWHM(101)」という。)と初期効率の関係を調べたグラフである。図3からは、FWHM(101)が0.22°以下である場合、初期効率が優れていることがわかった。
図4は、FWHM(101)と放電容量との関係を調べたグラフである。図4からは、FWHM(101)が0.22°以下である場合、放電容量が大きい正極活物質が得られることがわかった。
図5は、リチウム遷移金属複合酸化物の(003)面の回折ピークの半値幅(以下、「FWHM(003)」という。)と放電容量との関係を調べたグラフである。図5からは、FWHM(003)が同等であっても放電容量がばらつき、明確な相関がないことがわかった。
【0031】
FWHM(003)は、(003)平面に垂直な方向の結晶成長の程度、及び(003)面の面間隔のばらつき(以下、「(003)面の歪」ともいう)の情報を含んでいる。以下、(003)面の歪の観点から考察する。
歪が生じ、面間隔が局所的に狭いもの(ブラッグの反射式;2dsinθ=nλにおいて、dが小さいもの)はエックス線回折図において、わずかに高角側にピークが観測され、面間隔が局所的に広いもの(ブラッグの反射式において、dが大きいもの)はエックス線回折図において、わずかに低角側にピークが観測される。すなわち、FWHM(003)が大きすぎないということは、(003)面の面間隔がある程度等間隔であり(結晶内における歪が小さい)、ab平面に沿って脱離・挿入されるリチウムイオンへの支障が少ないと考えられる。したがって、本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物のFWHM(003)については、0.175°以下であることが好ましい。FWHM(003)は0.170°以下であってもよく、0.160°以下であってもよい。
しかし、FWHM(003)が小さいだけでは、必ずしも大きな放電容量が得られないことは、図5に示すとおりである。
【0032】
FWHM(101)を特定することの技術的意義は、以下の作用機構によるものと推察される。FWHM(101)は(101)面に垂直な方向の結晶成長の程度、及び(101)面の面間隔のばらつき(以下、「(101)面の歪」ともいう)の情報を含んでいるから、FWHM(101)が小さいことは、(101)面に垂直な方向の結晶成長が進んでいる(結晶子径が大きい)こと、又は(101)面の歪が小さいことを意味する。空間群R-3mに帰属されるLiMeO型結晶構造の(101)面は、各遷移金属層の遷移金属原子を斜めに横切るような面となっており(図1(a)、(b))、結晶子径が大きいと、結晶内におけるリチウムイオン拡散距離が長くなるためリチウムイオンの離脱・挿入が阻害されて放電容量が小さくなると考えられる。ところが、後述の実施例及び比較例からみると、放電容量はむしろ向上している。
したがって、FWHM(101)が小さく、(101)面の歪が小さいことがリチウムイオンの離脱・挿入のしやすさに寄与し、初期効率が高く、放電容量が大きい「リチウム過剰型」活物質が得られた理由と推察される。
【0033】
次に、FWHM(003)に対するFWHM(101)の比(以下、「FWHM(101)/FWHM(003)」という。)に着目した。図6は、FWHM(101)/FWHM(003)と初期効率の関係を、図7は、FWHM(101)/FWHM(003)と放電容量の関係を調べたグラフである。FWHM(101)/FWHM(003)が1.40以下であると、大きな放電容量及び優れた初期効率が得られることがわかった。その作用機構は以下のように推察される。
FWHM(003)は、上述のように、大きすぎない方が好ましいが、小さすぎても、リチウムイオンの離脱・挿入の効率が低下し、初期効率や放電容量が低下すると考えられる。
したがって、FWHM(101)/FWHM(003)が一定値以下であることは、FWHM(003)が適度な範囲であり、すなわち、(003)面の歪が適度であり、かつ、FWHM(101)が小さい、すなわち、(101)面の歪が小さいことを意味し、そのため、初期効率を高く、放電容量を大きくすることができたものと推察される。FWHM(101)/FWHM(003)は1.35以下であってもよく、1.30以下であってもよい。
【0034】
また、後述の実施例及び比較例から、FWHM(101)が0.22°以下であることに加えて、(104)面の回折ピークの半値幅(以下、「FWHM(104」という。)が0.27°以下であるリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質は、初期効率が高く、放電容量が大きいとともに、電位維持率が高いことがわかった。FWHM(104)は0.265°以下であってもよく、0.26°以下でもよい。
FWHM(104)は、(104)面の垂直方向の結晶子径、及び(104)面に垂直な方向の結晶の歪に関係する値である。一方、FWHM(003)は、(003)面に垂直方向の結晶子径、及び(003)面の結晶の歪に関係する値であり、電位維持率は、FWHM(003)とは関係性がなかった。したがって、FWHM(104)と関係する電位維持率は、(104)面に垂直な方向の結晶の歪に関係する値であると判断することができる。
前記リチウム遷移金属複合酸化物のFWHM(104)の値が小さく、(104)面に垂直な方向の結晶の歪が小さいということは、遷移金属とリチウムの配列が規則的に保たれており、遷移金属がリチウムサイトにランダムに置き換わるカチオンミキシングが起きにくいことを表す。したがって、FWHM(104)が0.27°以下であるリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いると、充放電に伴う構造変化が起き難く、そのために充放電サイクルに伴う電位低下が抑制され、高い電位維持率を示す非水電解質二次電池が得られると推察される。但し、FWHM(104)が小さくなると、電位維持率が優れない傾向にあるから、電位低下を抑制する効果を優れたものにするために、FWHM(104)は0.21°以上であることが好ましく、0.22°より大きいことがより好ましい。
【0035】
(前駆体の製造方法)
本実施形態に係る正極活物質に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物は、Ni及びMnを含有する溶液とアルカリ溶液とを反応槽に供給し、反応槽内を撹拌しながら、Ni及びMnを含有する遷移金属化合物を沈殿させて得られた前駆体を用いて製造することができる。
【0036】
前記の前駆体は、所定濃度の遷移金属を含有する溶液とアルカリ溶液とを撹拌機を備えた反応槽に供給し、オーバーフローした懸濁液をろ過し、得られた沈殿物を水洗、乾燥することで作製することができる。また、オーバーフローした懸濁液は連続的に濃縮槽で濃縮し、反応槽に戻してもよい。
【0037】
前記の遷移金属を含有する溶液は、目的のリチウム遷移金属複合酸化物の組成になるように、遷移金属化合物を秤量、混合し、調製することが好ましい。
【0038】
前記の遷移金属を含有する溶液に用いるニッケル源としては、特に限定されないが、例えば、硫酸ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、ヨウ化ニッケル、及び金属ニッケル等が挙げられ、硫酸ニッケルが好ましい。
【0039】
同様に、コバルト源としては、特に限定されないが、例えば、硫酸コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト、硝酸コバルト、炭酸コバルト、塩化コバルト、ヨウ化コバルト、及び金属コバルト等が挙げられ、硫酸コバルトが好ましい。
【0040】
同様に、マンガン源としては、特に限定されないが、例えば、硫酸マンガン、酸化マンガン、水酸化マンガン、硝酸マンガン、炭酸マンガン、塩化マンガン、ヨウ化マンガン、及び金属マンガン等が挙げられ、硫酸マンガンが好ましい。
【0041】
前記の撹拌機の回転速度は、反応槽のスケールによるが、例えば、後述する実施例における30L程度の反応液を収容する反応槽においては、200~1000rpmに調整することが好ましい。適切な範囲の撹拌速度を選択することで、前駆体の粒子毎の遷移金属の濃度が均一化される。前駆体の粒子毎の遷移金属(Me:Ni及びMn)の濃度が均一化されると、この前駆体から得られた「リチウム過剰型」活物質のLiMeO相とLiMnO相のドメインが小さくなり、結晶全体の歪が小さくなる。特に遷移金属の影響を受けるab平面の結晶の歪が小さくなるので、FWHM(101)及びFWHM(101)/FWHM(003)を小さくすることができる。LiMnOが活性化し易く、結晶の歪が小さいため、初期効率が高く、放電容量が大きい正極活物質が得られる効果を奏すると推察される。
撹拌速度が遅すぎると、前駆体の粒子毎の遷移金属の濃度が不均一になりやすく、速すぎると、微粉が発生し、粉の取り扱いが困難になりやすい。
より好ましい回転速度は250~700rpmである。さらに好ましい回転速度は300~600rpmである。
【0042】
反応槽内の温度は20~60℃に調整することが好ましい。好適な範囲の温度を選択し、溶解度を好適な値に制御することで、遷移金属の濃度を均一化しやすくなる。遷移金属の濃度が均一になることで、LiMeO相とLiMnO相のドメインが小さくなり、結晶の歪が小さくなるから、上記と同様の効果を奏すると推察される。
反応槽内の温度が低すぎると、溶解度が下がり、析出速度が速くなり、遷移金属の濃度が不均一になりやすく、結晶の歪みが大きくなる。また、温度が高すぎると、溶解度は上がるが、析出速度が遅くなり、反応時間が長くなるから、製造上の実用的な温度から逸脱する。より好ましい温度は30℃~60℃である。さらに好ましい温度は35℃~55℃である。
【0043】
前記の前駆体は、遷移金属化合物の水溶液とともに反応槽に供給するアルカリ水溶液を炭酸塩水溶液として、遷移金属炭酸塩前駆体とすることができる。炭酸塩水溶液としては、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸リチウム水溶液等が好ましい。
【0044】
前記の前駆体を製造するときの反応槽の好ましいpHは、10以下であり、より好ましくは7~9である。pHが低い方が、Ni及びMnの溶解度が高くなるため、前駆体のNi及びMnの組成が均一になりやすい。
【0045】
また、通常の前駆体作製工程においては、反応槽に、アルカリ水溶液とともに、アンモニア、アンモニウム塩等の錯化剤を投入する場合が多い。しかし、錯化剤を投入すると、Niが錯体を形成するので、NiとMnの溶解度に差が出るため、前駆体のNi、Mn組成が均一になり難い可能性がある。したがって、後述する実施例においては、錯化剤を使用していない。
【0046】
(正極活物質の製造方法)
本実施形態に係る正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物は、上記の方法で製造された前駆体と、リチウム化合物を混合し、焼成して製造することができる。
【0047】
前記焼成温度は840℃以上1000℃以下であることが好ましい。焼成温度が840℃以上であることによって、所望の結晶が得られる。また、焼成温度が1000℃以下であることによって、過度の結晶成長を抑制し、大きなエネルギー密度を得ることができる。より好ましい焼成温度は、850℃~970℃である。
【0048】
リチウム化合物と前駆体の粒子粉末との混合処理は、均一に混合することができれば乾式、湿式のどちらでもよい。
また、この実施形態に用いる前駆体が炭酸塩である場合は、焼成時に通風を十分に行い、炭酸塩を分解させて残留しないようにすることが好ましい。
【0049】
この実施形態に用いるリチウム化合物としては、特に限定されることなく各種のリチウム塩を用いることができる。例えば、水酸化リチウム・一水和物、硝酸リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、クエン酸リチウム、フッ化リチウム、ヨウ化リチウム、乳酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、ピルビン酸リチウム、硫酸リチウム、酸化リチウム等が挙げられ、炭酸リチウムが好ましい。
【0050】
焼成して得たリチウム遷移金属複合酸化物は、平均二次粒子径100μm以下の粉体であることが好ましく、特に、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で15μm以下の粉体であることが好ましい。粉体を所定の粒径で得るためには、所定の大きさの前駆体を作製する方法や粉砕機、分級機を用いる方法等を採用できる。粉砕機としては、例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0051】
焼成して得たリチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子及び/又は二次粒子の表面にアルミニウム化合物を被覆及び/又は固溶させてもよい。粒子表面にアルミニウム化合物が存在することにより、リチウム遷移金属複合酸化物と非水電解質との直接的な接触が防止され、充放電に伴う構造変化等の劣化を抑制することができ、エネルギー密度維持率を向上させることができる。
【0052】
アルミニウム化合物を被覆させるには、リチウム遷移金属複合酸化物粒子を純水に解膠して撹拌しながらアルミニウム化合物を滴下後、濾過水洗して80℃~120℃程度で乾燥し、これを電気炉にて300℃~500℃程度で5時間前後、空気流通下で焼成する方法を採用することができる。
【0053】
また、前記アルミニウム化合物を被覆させる際の乾燥温度、焼成温度等の条件を適宜調整することにより、アルミニウム化合物を固溶させることができる。
【0054】
前記アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、及び金属アルミニウム等が挙げられ、硫酸アルミニウムが好ましい。
【0055】
リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面にアルミニウム化合物を被覆させる際には、リチウム遷移金属複合酸化物に対してアルミニウム化合物が、好ましくは0.1wt%~0.7wt%となるように、より好ましくは0.2wt%~0.6wt%となるようにすると、前記エネルギー密度維持率のさらなる向上効果及び初期効率の向上効果がより充分に発揮される。
【0056】
(正極)
本実施形態に係る正極活物質と、他の任意成分として、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の材料とが混合された合剤を集電体に塗布、又は圧着することにより、本実施形態に係る正極を作製することができる。
【0057】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種又はそれらの混合物として含ませることができる。
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが好ましい。導電剤の添加量は、正極の総重量に対して0.1重量%~50重量%が好ましく、特に0.5重量%~30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1~0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため好ましい。正極活物質に導電剤を十分に混合するために、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミル等の粉体混合機を乾式、あるいは湿式で用いることが可能である。
【0058】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種又は2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極の総重量に対して1~50重量%が好ましく、特に2~30重量%が好ましい。
【0059】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば限定されない。通常、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0060】
正極は、正極活物質と上記の任意の材料とを混練した合剤を、N-メチルピロリドン、トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液をアルミニウム箔等の集電体の上に塗布し、又は圧着して50℃~250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより合剤層を形成することで好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロール等のローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0061】
(非水電解質二次電池)
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、上記の正極と、負極及び非水電解質を備える。以下、非水電解質二次電池の各要素について詳述する。
【0062】
(負極)
本実施形態に係る電池の負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを放出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のリチウム複合酸化物、金属リチウム、リチウム合金(リチウム-シリコン、リチウム-アルミニウム、リチウム-鉛、リチウム-スズ、リチウム-アルミニウム-スズ、リチウム-ガリウム、及びウッド合金等の金属リチウム含有合金)、酸化珪素等の金属酸化物、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0063】
負極は、前記負極活物質の粉体と、正極と同様の任意成分である上記の導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の材料とが混合された合剤を、銅箔又はニッケル箔等の集電体上に塗布又は圧着して形成することができる。
【0064】
(非水電解質)
本実施形態に係る非水電解質二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。
非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン又はその誘導体;1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソラン又はその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトン又はその誘導体等の単独又はそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li210Cl10、NaClO4、NaI、NaSCN、NaBr、KClO4、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO23、LiC(C25SO23、(CH34NBF4、(CH34NBr、(C254NClO4、(C254NI、(C374NBr、(n-C494NClO4、(n-C494NI、(C254N-maleate、(C254N-benzoate、(C254N-phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0066】
さらに、LiPF6又はLiBF4と、LiN(C25SO22のようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より好ましい。
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0067】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い特性を有する非水電解質二次電池を得るために、0.1mol/L~5mol/Lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/L~2.5mol/Lである。
【0068】
(セパレータ)
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独使用あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0069】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0070】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0071】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため好ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0072】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、電子線(EB)照射、又は、ラジカル開始剤を添加して加熱若しくは紫外線(UV)照射を行うこと等により、架橋反応を行わせることが可能である。
【0073】
(その他の構成要素)
電池のその他の構成要素としては、端子、絶縁板、電池ケース等があるが、これらの部品は従来用いられてきたものをそのまま用いて差し支えない。
【0074】
(非水電解質二次電池の構成)
図8に、本実施形態に係る非水電解質二次電池の外観斜視図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図8に示す非水電解質二次電池1は、電極群2が電池容器3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
非水電解質二次電池の形状については特に限定されるものではなく、図8に示すように角形電池(矩形状の電池)であってよく、その他、円筒型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【0075】
(蓄電装置の構成)
本実施形態は、上記の非水電解質二次電池を複数個集合した蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図9に示す。図9において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0076】
以下に、本発明の代表的な実施例と比較例とを挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0077】
<実施例1>
(前駆体作製工程)
硫酸ニッケルと、硫酸マンガンとをニッケルとマンガンとのモル比がNi:Mn=31.7:68.3となるように秤量した後、水と混合して、混合溶液を得た。1.3mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液を準備した。密閉型反応槽に水を30L入れ、炭酸ガスを0.1L/分で流通させながら40℃に保持した。炭酸ナトリウム水溶液を加えて、pH=8.5に調整した。前記混合溶液と前記炭酸ナトリウム水溶液とを、400rpmで撹拌しながら、前記反応槽に連続的に滴下した。48時間後、オーバーフローした懸濁液を回収し、ろ過し、水洗した。水洗後、120℃で一晩乾燥させ、共沈前駆体の粉末を得た。
【0078】
(焼成工程)
リチウムと該共沈前駆体中の遷移金属量との割合(モル比)がLi/(Ni+Mn)=1.38となるように、炭酸リチウム粉末を秤量し、充分に共沈前駆体と混合した。これを、電気炉を用いて、酸化性雰囲気で900℃にて5時間焼成し、実施例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0079】
<実施例2>
前駆体作製工程において、ニッケルとマンガンとのモル比がNi:Mn=31.8:68.2となるように秤量して、水と混合したこと、反応槽の温度を35℃、撹拌速度を600rpmに変更したこと、焼成工程において、Li/(Ni+Mn)=1.37に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0080】
<実施例3>
前駆体作製工程において、撹拌速度を700rpmに変更したこと以外は、実施例2と同様にして、実施例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0081】
<実施例4>
前駆体作製工程において、ニッケルとマンガンとのモル比がNi:Mn=31.5:68.5となるように秤量して、水と混合したこと、反応槽の温度を45℃、撹拌速度を500rpmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0082】
<実施例5>
焼成工程において、Li/(Ni+Mn)=1.39に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0083】
<実施例6>
前駆体作製工程において、ニッケルとマンガンとのモル比がNi:Mn=31.6:68.4となるように秤量して、水と混合したこと、反応槽の温度を20℃、撹拌速度を250rpmに変更したこと、焼成工程において、Li/(Ni+Mn)=1.36に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例6に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0084】
<実施例7>
焼成工程において、Li/(Ni+Mn)=1.36に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、実施例7に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0085】
<実施例8>
前駆体作製工程において、反応槽の温度を30℃に変更したこと以外は、実施例7と同様にして、実施例8に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0086】
<実施例9>
前駆体作製工程において、反応槽の温度を55℃、撹拌速度を350rpmに変更したこと以外は、実施例7と同様にして、実施例9に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0087】
<実施例10>
前駆体作製工程において、反応槽の温度を50℃、撹拌速度を200rpmに変更したこと以外は、実施例7と同様にして、実施例10に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0088】
<実施例11>
前駆体作製工程において、硫酸ニッケルと、硫酸コバルトと、硫酸マンガンとをニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=32.8:0.2:67.0となるように秤量した後、水と混合して、混合溶液を得たこと、反応槽の温度を60℃、撹拌速度を1000rpmに変更したこと、焼成工程において、Li/(Ni+Co+Mn)=1.35に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例11に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0089】
<比較例1>
前駆体作製工程において、ニッケルとマンガンとのモル比がNi:Mn=31.4:68.6となるように秤量して、水と混合したこと、反応槽の温度を15℃に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、比較例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0090】
<比較例2>
焼成工程において、Li/(Ni+Mn)=1.39に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0091】
<比較例3>
前駆体作製工程において、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=34.7:0.8:64.5となるように秤量して、水と混合したこと、撹拌速度を100rpmに変更したこと、焼成工程において、Li/(Ni+Co+Mn)=1.35に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、比較例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0092】
<比較例4>
前駆体作製工程において、ニッケルとマンガンとのモル比がNi:Mn=32.3:67.7となるように秤量して、水と混合したこと、撹拌速度を150rpmに変更したこと、焼成工程において、Li/(Ni+Mn)=1.35に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、比較例4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0093】
<比較例5>
前駆体作製工程において、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比がNi:Co:Mn=34.0:0.9:65.1となるように秤量して、水と混合したこと、反応槽の温度を25℃に変更したこと以外は、比較例3と同様にして、比較例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0094】
上記実施例1~11及び比較例1~5に係るリチウム遷移金属複合酸化物に対して、上記の測定条件にて、BET比表面積の測定及び、CuKα線を用いたエックス線回折測定を行った。
エックス線回折測定において、全ての試料は、空間群R3-mに帰属可能なエックス線回折パターンを有し、α-NaFeO構造を有していることを確認した。また、20~22°の範囲に、リチウム過剰型に特有の超格子ピークが観察された。
付属のソフトウェアを用いて、空間群R3-mに帰属したときの(101)面の半値幅「FWHM(101)」、(104)面の半値幅「FWHM(104)」、及び(003)面の半値幅「FWHM(003)」を記録した。(003)面の半値幅に対する(101)面の半値幅の比「FWHM(101)/FWHM(003)」を算出した。
【0095】
(非水電解質二次電池の作製)
前記実施例及び比較例に係る正極活物質(活物質)の粉末をそれぞれ用いて、以下の手順で非水電解質二次電池を作製した。
【0096】
N-メチルピロリドンを分散媒とし、活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比90:5:5の割合で混練分散されている塗布用ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布、乾燥後プレスし、正極板を作製した。なお、全ての実施例及び比較例に係る非水電解質二次電池同士で試験条件が同一になるように、一定面積当たりに塗布されている正極合剤の質量及びプレス後の厚みを統一した。
【0097】
正極の単独挙動を正確に観察する目的のため、対極、即ち負極には金属リチウムをニッケル箔集電体に密着させて用いた。ここで、非水電解質二次電池の容量が負極によって制限されないよう、負極には十分な量の金属リチウムを配置した。
【0098】
非水電解質(電解液)として、フッ素化炭酸エステル溶媒に、濃度が1mol/LとなるようにLiPFを溶解させた溶液を用いた。セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用い、正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように電極を収納し、前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止し、前記電解液を注液後、注液孔を封止した。
【0099】
(充放電試験)
25℃にて、下記の条件で、充放電試験を行った。充電は、電流0.1C、終止電圧4.7Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が0.05Cに減衰した時点とした。放電は、電流0.1C、終止電圧2.0Vの定電流放電とし、この充放電を2回行った。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ10分の休止過程を設けた。1回目の放電容量を、1回目の充電容量で割った値を「初期効率(%)」として記録した。また、2回目の放電容量(mAh)を、正極が含む活物質の質量で除算し、「0.1C放電容量(mAh/g)」として記録した。
【0100】
(電位維持率の測定)
引き続き、充電電流、及び放電電流を1/3Cとし、充電終止条件が、電流値が0.1Cに減衰した時点とした以外は、上記の充放電試験と同じ条件で30サイクルの充放電を行い、1サイクル目の平均放電電位と30サイクル目の平均放電電位の比を「電位維持率(%)」として記録した。
以上の結果を表1、及び図2~7に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
上記の全ての実施例及び比較例に係る正極活物質は、本実施形態に係る「リチウム過剰型」活物質の組成を満たすリチウム遷移金属複合酸化物を含有しているが、前駆体の作製条件(反応温度、撹拌条件等)により、比表面積や結晶性が異なる。
表1より、実施例1~11に係る正極活物質を用いた非水電解質二次電池は、比較例1~5に係る正極活物質を用いた非水電解質二次電池と比較して、初期効率が高いことがわかる。また、これらの実施例については、放電容量も、比較例より大きかった。
図2、5からは、BET比表面積、及びFWHM(003)の値が放電容量の大きさと必ずしも相関しないことがわかる。
これに対して、FWHM(101)の値、及びFWHM(101)/FWHM(003)の値は、初期効率、及び放電容量の向上に強い相関を有することを、図3、4、6及び7から見て取ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明により、初期効率が高く、放電容量が大きい「リチウム過剰型」正極活物質を提供することができるので、この正極活物質を用いた二次電池は、携帯電話、パソコン等の携帯機器に加え、ハイブリッド電気自動車(HEV)、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車載用充電池として有用である。
【符号の説明】
【0104】
1 非水電解質二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9