(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】練り製品
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20230309BHJP
【FI】
A23L17/00 101A
A23L17/00 101D
(21)【出願番号】P 2022135200
(22)【出願日】2022-08-26
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2022024749
(32)【優先日】2022-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390023456
【氏名又は名称】株式会社極洋
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【氏名又は名称】河野 広明
(72)【発明者】
【氏名】井上 柊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 允朗
【審査官】山本 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-084669(JP,A)
【文献】特開2005-348702(JP,A)
【文献】特開平09-051780(JP,A)
【文献】特開昭63-157959(JP,A)
【文献】特開昭58-116662(JP,A)
【文献】高知大学学術研究報告,51,2002年,31-43
【文献】聖霊女子短期大学紀要,(26),1998年,78-84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類のすり身を含む可食原料からなる棒状体の長手方向に直交する断面の面積に対する、該断面における最大径が1.262626μm以上の非貫通孔
の平均面積が2000μm
2
以上であり、且つ該非貫通孔が占める面積比
が30%以上であり、
前記断面における、平均径が280μm以上である前記非貫通孔の、該断面における全ての該非貫通孔に対する存在比率が、9%以下であり、且つ、
複数の前記棒状体を備えた、
練り製品。
【請求項2】
前記棒状体の束を、最大回転半径が13.8cmの遠心分離機構を用いて、設定温度10℃の温度条件下において、設定回転数10000rpmに到達した後、300秒間連続で回転させたときの、前記棒状体の前記束に対する、該棒状体の該束から分離される液体の質量比が、20%以上である、
請求項1に記載の練り製品。
【請求項3】
前記非貫通孔が占める前記面積比が、35%以上である、
請求項1に記載の練り製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、練り製品、特に、魚介類のすり身を含む練り製品に関する。
【背景技術】
【0002】
市民の生活水準が向上し豊富な食材が供給可能な環境下では美食家が増える。他の食材と同様、平均的な消費者が海老・カニに代表される魚介類(商品)を選ぶ目は、市民の生活水準が向上するにつれて肥えてくるため、特に魚介類に慣れ親しんだ国の消費者の魚介類の品質に対する目は、非常に厳しいといえる。魚介類の加工品を製造販売する企業にとっては、消費者の舌を満足させる商品の開発と提供を常に追求していく姿勢が市場において求められる。
【0003】
これまで、魚肉のすり身を用いた多くの練り製品が提案され、市場に送り出されてきた。カニの抜き身を模した練り製品(かまぼこ)はその代表例である(例えば、特許文献1)。練り製品の品質の差によって消費者の購買意欲にも差が出てくるため、魚介類の加工品を製造販売する企業は、練り製品を噛んだときのみずみずしさ等、練り製品の品質向上に向けた努力を続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6667815号公報
【文献】特開2015-84669号公報
【文献】特開2005-348702号公報
【文献】特開平9-51780号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】久保田賢ほか、低真空走査型電子顕微鏡を用いたスケトウダラ冷凍すり身ゲルの内部構造観察法の検討、高知大学学術研究報告、2002年、51、31-43
【文献】三森一司、蒲鉾組織に及ぼす凍結・回答の影響について、聖霊女子短期大学紀要、1998年、(26)、78-84
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食品の美味しさは、味と食感のみならず、口に含んだり噛んだりしたときのみずみずしさ(いわゆる、「ジューシーさ」)によって影響を受ける。したがって、練り製品のみずみずしさは、練り製品を食する消費者にとって、その味及び食感とともに、購買意欲ないし消費意欲を高める極めて重要な要素である。
【0007】
そのため、練り製品のみずみずしさを追及し、向上させることは、消費者である市民の「食」に対する満足度を一層高めることになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、食品、とりわけ練り製品の美味しさの重要な一要素である、口に含んだり噛んだりしたときのみずみずしさの向上に大きく貢献するものである。
【0009】
本発明者は、練り製品のみずみずしさの向上のため、既存の他社製品の分析に基づいて自社製品を改良すべく多くの試行錯誤を重ねた。
【0010】
試行錯誤を重ねる中で、本発明者は、口に含んだり噛んだりするまでの水又は水分(いずれも、本願において練り製品が含有する液体の意味を含む。)の保持力(いわば、「保水力」)と、口に含んだり噛んだりしたときにジューシーさを実現するためのいわば「離水力」という、一見すると互いに相反すると思われる特性の適度なバランスを取ることの重要性に着眼し、更に分析と検討を行った。その結果、練り製品が内部に備える空隙又は気泡(本願においては、「非貫通孔」ともいう。)の平均的な大きさ又は存在状態、あるいは該非貫通孔の径(平均径)の分布を、既存の他社製品と異ならせることによって、練り製品のみずみずしさを向上させることが可能となることを知得した。
【0011】
本発明者が更に詳しく検討及び分析を行ったところ、大変興味深いことに、練り製品が含有又は保有(以下、総称して「含有」という。)する液体(例えば、うま味成分等を含む水分)の総量がたとえ既存の練り製品と大きな差を有していなくても、非貫通孔の所定の平均的な大きさ又は存在状態、及び/又は該非貫通孔の径(平均径)の所定の分布を実現していれば、該練り製品を口に含んだり噛んだりしたときに、既存の他社製品と比較してその含有する液体が該練り製品から分離され易くなる、換言すれば、該液体が該練り製品から放出され易くなることを知得した。
【0012】
本発明は、上述の各視点に基づいて創出された。
【0013】
本発明の1つの練り製品は、魚介類のすり身を含む可食原料からなる棒状体の長手方向に直交する断面視における、最大径が1.262626μm以上の非貫通孔の平均面積が、2000μm2以上であり、前述の断面視における、平均径が280μm以上である前述の非貫通孔の、該断面視における全ての該非貫通孔に対する存在比率が、9%以下であり、且つ、複数の該棒状体を備える。
【0014】
この練り製品においては、該練り製品の棒状体が内部に備える非貫通孔の、上述の断面視における該平均面積が2000μm2以上であるとともに、該断面視における、該平均径が280μm以上である前述の非貫通孔の、該断面視における全ての該非貫通孔に対する存在比率が、9%以下である。したがって、径(平均径)が大きすぎる非貫通孔の存在比率をできる限り低く抑えて水の保持力を維持し得るため、換言すれば、水分の無駄な離脱を抑え得ることになる。その結果、該練り製品を口に含んだり噛んだりしたときに、練り製品が含有する液体が該練り製品から分離され易くなる、換言すれば、該液体が該練り製品から放出され易くなる。その結果、この練り製品によれば、みずみずしさ(いわゆる、「ジューシーさ」)が向上する。
【0015】
なお、より確度高く、口に含んだり噛んだりしたときに該練り製品が含有する液体が該練り製品から分離され易くなるためには、該非貫通孔の平均面積が、2500μm2以上であることが好適な一態様である。
【0016】
また、本発明のもう1つの練り製品は、魚介類のすり身を含む可食原料からなる棒状体の長手方向に直交する断面の面積に対する、該断面における最大径が1.262626μm以上の非貫通孔が占める面積比が、30%以上であり、前述の断面における、平均径が280μm以上である前述の非貫通孔の、該断面における全ての該非貫通孔に対する存在比率が、9%以下であり、且つ、複数の該棒状体を備える。
【0017】
この練り製品においては、該練り製品が内部に備える該非貫通孔に着目したときに、該練り製品の該棒状体の長手方向に直交する断面において、該棒状体の該断面の面積に対する、該断面における該非貫通孔が占める面積比が30%以上であるとともに、該断面における、平均径が280μm以上である前述の非貫通孔の、該断面における全ての該非貫通孔に対する存在比率が、9%以下である。したがって、径(平均径)が大きすぎる非貫通孔の存在比率をできる限り低く抑えて水分の保持力を維持し得るため、換言すれば、水分の無駄な離脱を抑え得ることになる。その結果、該練り製品を口に含んだり噛んだりしたときに、練り製品が含有する液体が該練り製品から分離され易くなる、換言すれば、該液体が該練り製品から放出され易くなる。その結果、この練り製品によれば、みずみずしさ(いわゆる、「ジューシーさ」)が向上する。
【0018】
なお、より確度高く、口に含んだり噛んだりしたときに該練り製品が含有する液体が該練り製品から分離され易くなるためには、該非貫通孔が占める該面積比が、35%以上であることが好適な一態様である。
【0019】
また、上述のいずれの発明においても、前述の断面視又は前述の断面における、平均径が10μm以下である前述の非貫通孔の、該断面視又は該断面における全ての該非貫通孔に対する存在比率が、10%未満(好適には8%以下、より好適には6%以下、さらに好適には4%以下)であることは、径(平均径)が小さすぎる非貫通孔の存在比率をできる限り低く抑えることによって、適度な水の保持力を維持し得る観点から好適な一態様である。
【0020】
ところで、本出願における「魚介類のすり身を含む練り製品」とは、魚、イカ、カニ、エビ、貝類、タコ、ウニ、及びナマコを含む多種の水産品から選択される少なくとも1種の魚介類のすり身を含む練り製品(代表的には、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、さつま揚げ、つみれ、魚肉ソーセージ)である。
【0021】
また、本出願における「平均径」は、後述する所定の顕微鏡によって撮影された非貫通孔の断面の画像の中から、後述する所定のアプリケーションソフトを用いて該非貫通孔の外縁に基づいた該非貫通孔の縦方向の最大長さと横方向の最大長さの平均値である。本発明者は、この値(平均径)が、後述する保水力及び離水力に対して支配的であると考えている。また、「最大径」は、1つの該非貫通孔に着目したときの該外縁によって特定される非貫通孔の最大の内径である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の1つの練り製品によれば、該練り製品を口に含んだり噛んだりしたときに、練り製品が含有する液体が該練り製品から分離され易くなる、換言すれば、該液体が該練り製品から放出され易くなる。その結果、この練り製品によれば、みずみずしさが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1の実施形態における練り製品の製造工程を示すフローチャートである。
【
図2】第2の実施形態における練り製品の製造工程を示すフローチャートである。
【
図3】実施例1の練り製品の棒状体の束の拡大断面写真である。
【
図4】
図3の棒状体の画像処理後の画像データである。
【
図5】他社品1の練り製品の棒状体の束の拡大断面写真である。
【
図6】
図5の棒状体の画像処理後の画像データである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態における練り製品及び該練り製品の製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。
【0025】
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態における練り製品の製造工程(以下、「第1の製造方法」ともいう。)を示すフローチャートである。
【0026】
[練り製品の製造工程]
具体的には、まず、魚介類のすり身を含む可食原料から、例えば、特許文献1に記載された方法である、加熱処理を用いてタンパク質を凝固させる方法を採用することによって帯状の練り製品が成形される(ステップS0)。なお、可食原料には、主原料である魚介類のすり身に加えて、代表的には、塩、水、でんぷん、鶏卵、砂糖、発酵調味料を含む公知の調味料、油脂、アミノ酸、各種エキス類、香料及び着色料の群から選択される一種以上が含まれるが、これらに限定されない、公知の可食原料としての添加物が含まれる。なお、該練り製品を展延する条件を変更することによって帯状の練り製品の厚みを自由に変更することができるが、代表的な該帯状の練り製品の厚みの例は、0.5mm~1.5mmである。
【0027】
次に、公知の複数の切断刃を用いて、該帯状の練り製品を、その長手方向に沿って切断する切断工程(ステップS1)が行われる。その結果、長手方向に連続する該練り製品の棒状体を成形することができる。なお、上述の複数の切断刃の間隔を調整することによって該棒状体の幅を自由に変更することができるが、代表的な該棒状体の幅の例は、0.5mm~2mmである。
【0028】
その後、長手方向に連続する棒状体に成形された練り製品のそれぞれを、例えば、回転する公知のガイドローラーを用いて該棒状体の束となるように集める集束工程(ステップS2)が行われる。さらに、必要に応じて、該棒状体の束に対して斜めに、又は直交するように切断することにより、該棒状体の束が成形される(ステップS3)。
【0029】
なお、本実施形態においては、該棒状体の束を成形する過程において、上述のように、帯状の練り製品の成形工程(ステップS0)、切断工程(ステップS1)、及び棒状体の集束工程(ステップS2)が採用されたが、本実施形態における該棒状体の束を成形する方法は、それらの各工程に限定されない。例えば、加熱前の、魚介類のすり身を含む可食原料を、押し出し処理又は絞り出し処理を行ったうえで加熱処理する練り製品の棒状体も、該棒状体を手作業又は公知の方法を用いて集束することによって棒状体の束を成形することができる。なお、本実施形態においては、成形工程(ステップS0)の前に、いわゆる「すわり」又は「熟成」とも呼ばれる、0℃超(一般的には、数℃~数十℃)の温度環境下における一定期間(例えば、数十分~24時間)放置又は保存による、該棒状体(特に、該すり身)のゲル化を促進するための処理は行われない。したがって、本実施においては、特許文献3及び4において開示されている製造方法は採用されない。
【0030】
その後、該練り製品の該棒状体の束を、十分に殺菌し得る温度で加熱する加熱処理が行われる(ステップS4)。本実施形態における加熱手段は特に限定されないが、代表的な加熱手段は、高温蒸気の噴射、高温蒸気への曝露、熱水への曝露、赤外線の照射、電磁波の照射、ガス火又は炭火による直接の加熱、加熱された板状体への接触、加熱された食用油との接触(浸漬を含む)、又は該練り製品自体の抵抗を利用した通電による加熱である。
【0031】
さらにその後、該練り製品の該棒状体の束の粗熱を急速に取り除くことによって60℃以下(より好適には50℃以下)の温度帯までに冷却した後、該棒状体の束の凍結工程が行われる(ステップS5)。なお、本実施形態においては、該練り製品の該棒状体の束を保存する室内において、該棒状体の束を十分に凍結させるまでの過程において、10分以上継続して、-5℃以上0℃未満の温度帯が設定された状態で保存される凍結工程が行われる。現時点で詳細なメカニズムは不明であるが、前述のように加熱処理工程後の急速な冷却とともに所定の温度帯による該練り製品の凍結が行われることが、後述する、該練り製品の内部に形成される非貫通孔の平均的な大きさ、又は該練り製品に対する該非貫通孔の占める割合に影響を与えていると考えられる。そして、前述の凍結工程が行われる(ステップS5)ことにより、適度に水(凍結後は、氷)を含んだ状態の該練り製品が製造される。
【0032】
凍結工程の後、該練り製品の該棒状体の束の包装工程が行われる(ステップS6)。
【0033】
なお、上述の各工程内、及び各工程間は、公知の搬送機構(例えば、ベルトコンベア)を利用することにより、本実施形態の練り製品又は該練り製品の棒状体を連続的に搬送することができる。
【0034】
<第2の実施形態>
本実施形態における練り製品の製造工程(以下、「第2の製造方法」ともいう。)は、第1の実施形態における帯状の練り製品の成形工程(ステップS0)から棒状体の束の成形工程(ステップS3)まで同じ工程を含む。したがって、第2の実施形態における帯状の練り製品の成形工程(ステップSa0)、切断工程(ステップSa1)、棒状体の集束工程(ステップSa2)、及び棒状体の束の成形工程(ステップSa3)は、それぞれ、第1の実施形態における帯状の練り製品の成形工程(ステップS0)、切断工程(ステップS1)、棒状体の集束工程(ステップS2)、及び棒状体の束の成形工程(ステップS3)に相当するため、重複する説明は省略され得る。
【0035】
図2は、本実施形態における練り製品の製造工程(第2の製造方法)を示すフローチャートである。
【0036】
本実施形態においては、第1の実施形態における加熱処理工程(ステップS4)に相当する加熱処理工程(ステップSa5)が行われる前に、減圧包装工程(ステップSa4)が行われる。具体的には、例えば、気体(水蒸気を含む)、特に酸素の透過性が非常に低い包装材料に該練り製品の該棒状体の束を充填する際に該包装材料内のガスを排気した状態で密封包装する工程が行われる。
【0037】
その後、その密封包装された状態のままで、第1の実施形態における加熱処理工程(ステップS4)に相当する加熱処理工程(ステップSa5)、及び第1の実施形態における凍結工程(ステップS5)に相当する凍結工程(ステップSa6)が行われる。
【0038】
<練り製品の評価>
図1及び
図2に示す上述の各製造工程を経て製造された第1の実施形態及び第2の実施形態の各練り製品、及び各練り製品の棒状体について、本発明者は、下記の(v1)~(v4)の指標に基づいて、評価を行った。なお、該評価においては、比較例として、本願出願時においてそれぞれ異なる他企業により我が国において販売されていた練り製品(他社品1~他社品3)を採用した。
[指標]
(v1)液体比率(質量%)
(v2)液体分離率(質量%)
(v3)断面視における非貫通孔の平均面積(μm
2)
(v4)断面視における棒状体の全面積に対する非貫通孔の面積比(%)
【0039】
上述の「液体比率」、「液体分離率」、「非貫通孔の平均面積」、及び「非貫通孔の面積比」は、それぞれ、下記の数式により算出される値である。なお、下記の各数式(v1)及び(v2)における分子と分母の「練り製品」は同一製品である。また、下記の各数式(v3)及び(v4)における分子と分母の「所定の径」は、1.262626μmである。
【0040】
【0041】
ここで、該評価における(v1)の「液体比率」は、上式のとおり、測定対象となる本実施形態の1つの練り製品、換言すれば、一単位の練り製品(以下、本実施形態においては、「1つの練り製品」という。)に対する、該練り製品が含有している液体の質量比である。
【0042】
次に、該評価における(v2)の「液体分離率」は、測定対象となる本実施形態の1つの練り製品から、次に示す方法によって、該練り製品が含有している液体の一部を該練り製品から分離することによって得られた、該液体の質量を測定した値である。
【0043】
具体的には、最大回転半径が13.8cmの遠心分離機構(日立工機株式会社製、型式CR20GIII)により、該遠心分離機内に配置した本実施形態の1つの練り製品としての棒状体の束(例えば、約10g)を、設定温度10℃の温度条件下において、設定回転数10000rpmに到達した後、300秒間連続で回転させたときの、該棒状体の束から分離される液体の質量を測定した。
【0044】
なお、該遠心分離機内への該棒状体の束の配置は、予め秤量された吸湿性を持つ紙によって包まれた該棒状体の束を遠沈管の中に収めることにより行われた。したがって、該液体の質量の測定は、本方法により該液体が該棒状体の束から分離された後、その紙の質量を測定することにより行われた。
【0045】
また、該評価における(v3)の「断面視における非貫通孔の平均面積」及び、(v4)の「断面視における棒状体の全面積に対する非貫通孔の面積比」は、測定対象となる本実施形態の1つの練り製品のうちの1つの棒状体の、長手方向に直交する断面に着目したときの、非貫通孔の面積及び個数、並びに1つの該棒状体の面積を、次に示す試料作製方法及び画像処理方法を用いて測定した値に基づいて算出した値である。
【0046】
具体的には、本実施形態の1つの練り製品の棒状体の束を、該棒状体の長手方向に直交する面(断面)が現れるように切断した後、長さ及び幅がいずれも約5mmであって厚みが約2mmの測定用試料が作製された。その後、該測定用試料の該断面が、株式会社日立ハイテク製の卓上顕微鏡(型式Miniscope TM3030)を用いて100倍に拡大したうえで、自動輝度調整機能及び自動焦点機能を利用して観察及び撮影された。
【0047】
上述の方法を用いて撮影された該断面の画像を、公知のアプリケーションソフト(「Photoshop」(登録商標,アドビ インコーポレイテッド製)を用いて、1つの練り製品における1つの棒状体の断面積が算出された。具体的には、棒状体の束となっている測定用試料の画像から、各棒状体の間に見られる溝に基づいて1つの棒状体の外縁を導き出すことによって該棒状体の断面積の算出が行われた。
【0048】
また、非貫通孔については、該断面の画像の中から、上述のアプリケーションソフトにおいて認識することができる最も小さい径(1.262626μm)以上の非貫通孔、換言すれば、その1つの非貫通孔に着目したときの最大径が1.262626μm以上の該非貫通孔の外縁を調べることによって、該棒状体の長手方向に直交する断面視における、該非貫通孔の面積と個数を導出した。したがって、上述のとおり、本願における「非貫通孔」は、最大径が1.262626μm以上の孔に限定している。
【0049】
その結果、測定対象となる本実施形態の1つの練り製品のうちの1つの棒状体の、長手方向に直交する断面に着目したときの、上述の画像処理方法による該断面の面積に対する、該非貫通孔の平均面積(v3)と、該非貫通孔の総面積の面積比(v4)とが算出された。
【0050】
なお、比較例である他社品1~他社品3の練り製品の各指標(v1)~(v4)についても、本実施形態の上述の方法と同様に各測定及び各算出が行われた。
【0051】
さらに、実施例1~実施例3、及び他社品1~他社品3について、上述の「Photoshop」を用いて、断面視における該非貫通孔の平均径及び最大径の分布を調査した。その後、複数に区分された数値範囲に属する該非貫通孔の各々について、全ての該非貫通孔に対する存在比率(個数比率)を分析した。
【0052】
<実施例>
以下、上述の実施形態をより詳細に説明するために、実施例を挙げて説明するが、上述の実施形態はこれらの例によって限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
本実施例の練り製品は、上述の第1の実施形態における第1の製造方法を用いて製造された1つの練り製品である。
【0054】
本実施例の練り製品の材料は、魚肉、卵白、でんぷん、カニエキス、食塩、発酵調味料、砂糖、植物油脂、調味料(アミノ酸等)、香料、及び着色料である。また、加熱処理工程(ステップS4)においては、該練り製品の該棒状体の束を十分に殺菌し得る温度による高温蒸気に曝露する工程が採用された。また、該棒状体の束の粗熱を、冷風を用いて急速に取り除くことによって約50℃になるように冷却した後、凍結工程(ステップS5)においては、-5℃以上0℃未満の温度帯において約20分間維持された温度条件下において該練り製品を凍結する工程が採用された。
【0055】
ここで、実施例1~実施例3を代表して、本実施例(実施例1)についての1つの練り製品の棒状体の束の拡大断面写真を
図3に示し、
図3の棒状体の束の画像処理後の画像データを
図4に示す。
【0056】
(実施例2)
本実施例の練り製品は、上述の第1の実施形態における第1の製造方法を用いて製造された1つの練り製品である。
【0057】
本実施例の練り製品の材料は、魚肉、卵白、でんぷん、カニエキス、食塩、発酵調味料、砂糖、植物油脂、調味料(アミノ酸等)、香料、及び着色料である。また、加熱処理工程(ステップS4)においては、該練り製品の該棒状体の束を十分に殺菌し得る温度による高温蒸気に曝露する工程が採用された。また、該棒状体の束の粗熱を例えば、送風により、急速に取り除くことによって約40℃になるように冷却した後、凍結工程(ステップS5)においては、-5℃以上0℃未満の温度帯において約10分間維持された温度条件下において該練り製品を凍結する工程が採用された。
【0058】
(実施例3)
本実施例の練り製品は、上述の第2の実施形態における第2の製造方法を用いて製造された1つの練り製品である。
【0059】
本実施例の練り製品の材料は、魚肉、食塩、でん粉、卵白、発酵調味料、カニエキス、植物油脂、酵母エキス、トレハロース、調味料(アミノ酸等)、香料、及び着色料である。また、減圧包装工程(ステップSa4)においては、複数の該練り製品を1つの包装用袋内に収容したうえで、公知の減圧装置を用いて該包装用袋内を約5000Paまで減圧する条件において減圧処理が施された。また、加熱処理工程(ステップSa5)においては、該練り製品の該棒状体の束(より正確には、該包装用袋)を十分に殺菌し得る温度による高温蒸気に曝露する工程が採用された。また、該棒状体の束の粗熱を、冷却水を用いて急速に取り除くことによって約5℃になるように冷却した後、凍結工程(ステップSa6)においては、-5℃以上0℃未満の温度帯において約40分間維持された温度条件下において該練り製品を凍結する工程が採用された。
【0060】
(比較例としての他社品1)
本比較例の練り製品は、S社製のカニかまぼこである。
【0061】
ここで、比較例としての他社品1~他社品3を代表して、本比較例(他社品1)についての
図3及び
図4に相当する画像を、それぞれ
図5及び
図6に示す。
【0062】
(比較例としての他社品2)
本比較例(他社品2)の練り製品は、N社製のカニかまぼこである。
【0063】
(比較例としての他社品3)
本比較例(他社品3)の練り製品は、H社製のカニかまぼこである。
【0064】
表1は、本実施形態の練り製品及び該練り製品の棒状体の束である、上述の実施例1~実施例3と、比較例である他社品1~他社品3とを観察、測定、及び算出することにより得られた、上述の各指標(v1)~(v4)の結果である。なお、下記の表1においては、最も左側の項目である指標(v1)から最も右側の項目である指標(v4)まで、順序どおりに各項目の値が記載されている。
【0065】
【0066】
表1に示すように、実施例1~実施例3及び他社品1~他社品3における液体比率(質量%)は、75%±1.5%の範囲に収まっている。しかしながら、大変興味深いことに、実施例1~実施例3の各練り製品の棒状体の束から分離された液体の分離率(質量%)は20%以上(より狭義には、23%以上)であり、他社品1~他社品3の各練り製品の棒状体の束から分離された液体の分離率(質量%)よりも顕著に大きい値、具体的には5%以上(より正確には、5.7%以上)大きい値となることが確認された。
【0067】
実施例1~実施例3による該液体分離率の向上は、該練り製品を口に含んだり噛んだりしたときに、他社品1~他社品3と比較してその含有する液体が該練り製品から放出され易くなることを意味する。その結果、実施例1~実施例3の1つの練り製品は、高度なみずみずしさ(いわゆる、「ジューシーさ」)を有することが分かる。
【0068】
また、実施例1~実施例3の各練り製品の棒状体の、長手方向に直交する断面視における非貫通孔の平均面積に着目すると、該平均面積は、他社品1~他社品3における前述の非貫通孔に相当する非貫通孔の平均面積よりも顕著に大きいことが明らかとなった。より具体的には、実施例1~実施例3の各練り製品の棒状体における該平均面積が2000μm2以上(より好適には2500μm2以上、更に好適には、3000μm2以上)であれば、上述のとおり、1つの練り製品の棒状体の束から分離された液体の分離率(質量%)が他社品1~他社品3よりも格段に大きくなることが分かった。
【0069】
一方、実施例1~実施例3の各練り製品の棒状体の、長手方向に直交する断面の面積に対する、該断面における該非貫通孔が占める面積比に着目すると、該面積比は、他社品1~他社品3における前述の非貫通孔に相当する非貫通孔の面積比よりも顕著に大きいことが明らかとなった。より具体的には、実施例1~実施例3の各練り製品の棒状体における該面積比が30%以上(より好適には35%以上、更に好適には38%以上)であれば、上述のとおり、1つの練り製品の棒状体の束から分離された液体の分離率(質量%)が他社品1~他社品3よりも格段に大きくなることが分かった。
【0070】
なお、第1の実施形態のみに着目すると、実施例1及び2の各練り製品の棒状体における該面積比が40%以上であるため、実施例1及び2の各練り製品は、1つの練り製品の棒状体の束から分離された液体の分離率(質量%)が、他社品1~他社品3のみならず実施例3の練り製品よりも大きくなることが分かった。
【0071】
また、表1に示すように、上述の該平均面積及び該面積比のいずれの観点においても、さらに、該断面視又は該断面における、該非貫通孔の平均径が280μm以上である該非貫通孔の、該断面視又は該断面における全ての該非貫通孔に対する存在比率が、9%以下(好適には7%以下、より好適には5%以下、さらに好適には3%以下)であることは、平均径(代表的には、
図4又は
図6における非貫通孔の平均径)が大きすぎる非貫通孔の存在比率をできる限り低く抑えて水分の保持力を維持し得る観点、換言すれば、水分の無駄な離脱を抑え得る観点から、好適な一態様である。
【0072】
ここで、本発明者は、引用文献1に開示される「直径数百μmの孔構造」、及び引用文献2に開示される「長径280μm~430μmの大きな空洞」という貫通孔又は非貫通孔との「径」としての違いを明確にするため、実施例1~実施例3及び他社品1~他社品3における280μm以上非貫通孔の存在比率について調査した。
【0073】
表2は、断面視における、最大径が280μm以上の非貫通孔の、全ての非貫通孔に対する存在比率(%)を示している。表2に示すように、実施例1~実施例3の非貫通孔の各々は、他社品1~他社品3の非貫通孔の各々と比較すれば存在比率は少し高い値ではあるが、「最大径」であっても全ての非貫通孔に対して3%未満しか存在していないことが確認された。なお、表1に示すように、実施例1~実施例3の非貫通孔の「平均径」に着目すれば、全ての非貫通孔に対して1%未満しか該非貫通孔は存在していないことが分かる。したがって、実施例1~実施例3によって得られる非貫通孔は、引用文献1及び引用文献2に開示される貫通孔又は非貫通孔とは全く異なるものであると言える。
【0074】
【0075】
また、表1には示していないが、実施例1~実施例3の結果をさらに細かく分析すると、平均径が0μm超40μm以下の非貫通孔の、該断面視又は該断面における全ての該非貫通孔に対する存在比率は約47%~約57%であった。この事実からも、「40μm以下の小さな空洞は少な」いことを開示する、非特許文献2に記載された非貫通孔又は貫通孔との違いが明らかとなった。
【0076】
別の見方をすれば、上述の該平均面積及び該面積比のいずれの観点においても、該断面視又は該断面における、平均径が10μm以下である該非貫通孔の、該断面視又は該断面における全ての該非貫通孔に対する存在比率が10%未満(好適には8%以下、より好適には6%以下、さらに好適には4%以下)であることは、径が小さすぎる非貫通孔の存在比率をできる限り低く抑えることによって、適度な水の保持力を維持し得る観点から好適な他の一態様である。
【0077】
さらに興味深いことに、表1に示すように、実施例1~実施例3の共通点として、平均径が50μm超200μm以下の範囲の非貫通孔の各存在比率が、他社品1~他社品3における同じ数値範囲の各存在比率よりも有意に高いことが本発明者によって確認されている。したがって、平均径が50μm超200μm以下という、いわば適度に大きい径の非貫通孔の存在比率の違いが、実施例1~実施例3の適度な保水力及び離水力の実現し寄与しているといえる。
【0078】
したがって、本実施形態を別の視点から捉えると、以下の技術思想を一つの発明として導き出すことができる。
【0079】
本実施形態の練り製品の1つは、魚介類のすり身を含む可食原料からなる棒状体の長手方向に直交する断面視における、平均径が50μm超200μm以下の非貫通孔の、該断面視における全ての該非貫通孔に対する存在比率が、10%以上(好適には15%以上、より好適には、18%以上、さらに好適には19%以上)であり、且つ、複数の前記棒状体を備えている。
【0080】
上述の視点から捉えられる練り製品も、平均径が50μm超200μm以下という、いわば適度に大きい径の非貫通孔の存在比率が高いことから、適度な保水力及び離水力が得られることになる。その結果、該練り製品を口に含んだり噛んだりしたときに練り製品が含有する液体が該練り製品から分離され易くなる、換言すれば、該練り製品を口に含んだり噛んだりしたときに該液体が該練り製品から放出され易くなる。その結果、この練り製品によれば、みずみずしさ(いわゆる、「ジューシーさ」)が向上する。なお、平均径が50μm超200μm以下の範囲の非貫通孔の存在が本実施形態の練り製品が奏する効果に寄与し得ると考えられることから、該存在比率の上限は特に限定されないが、代表的な該存在比率の上限は、90%程度(狭義には80%程度、より狭義には70%程度、さらに狭義には60%程度、最も狭義には50%程度)である。
【0081】
したがって、1つの練り製品の棒状体の該非貫通孔の平均面積、又は1つの練り製品の棒状体の該断面の面積に対する該断面における該非貫通孔が占める面積比が、上述の各値以上であり、また、該断面視又は該断面における、該非貫通孔の平均径が280μm以上である前述の非貫通孔の、該断面視における全ての該非貫通孔に対する存在比率が上述の数値範囲(9%以下(好適には7%以下、より好適には5%以下、さらに好適には3%以下))であること、あるいは該断面視又は該断面における、平均径が10μm以下である該非貫通孔の、該断面視又は該断面における全ての該非貫通孔に対する存在比率が上述の数値範囲(10%未満(好適には8%以下、より好適には6%以下、さらに好適には4%以下))であることはは、高度なみずみずしさ(いわゆる、「ジューシーさ」)の実現に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の1つの練り製品は、練り製品に高度なみずみずしさを求める食品業、飲食業及び水産業に限らず、該練り製品を扱う各種の産業(航空産業及び鉄道産業など)、あるいは医療業界及び介護業界においても極めて有用である。
【要約】
【課題】みずみずしさを高めた練り製品を提供する。
【解決手段】本発明の1つの練り製品は、魚介類のすり身を含む可食原料からなる棒状体の長手方向に直交する断面視における、最大径が1.262626μm以上の非貫通孔の平均面積が、2000μm
2以上であり、該断面視における、平均径が280μm以上である前述の非貫通孔の、該断面視における全ての該非貫通孔に対する存在比率が、9%以下であり、且つ、複数の該棒状体を備える。この練り製品によれば、該練り製品を口に含んだり噛んだりしたときに、練り製品が含有する液体が該練り製品から分離され易くなる、換言すれば、該練り製品から該液体が放出され易くなる。その結果、この練り製品によれば、みずみずしさ(いわゆる、「ジューシーさ」)が向上する。
【選択図】
図3