(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-08
(45)【発行日】2023-03-16
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末、及び、窒化ホウ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20230309BHJP
C04B 35/5833 20060101ALI20230309BHJP
【FI】
C01B21/064 H
C04B35/5833
(21)【出願番号】P 2022542717
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035446
(87)【国際公開番号】W WO2022071245
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2020165647
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆貴
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/146865(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/032060(WO,A1)
【文献】特開2011-98882(JP,A)
【文献】特開平6-76624(JP,A)
【文献】特表2015-529611(JP,A)
【文献】特開2012-56818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C04B 35/5833
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子を含み、
前記一次粒子の平均粒径が1~38μ
mであり、
BET比表面積が0.5~30m
2/gであり、
炭素を含む有色粒子の個数が10gあたり50個以下である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料粉末を成形し成形物を得る工程と、
前記成形物を加熱することで焼成して焼結体を得る工程と、を有する窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、六方晶窒化ホウ素粉末、及び焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等に優れる。そのため、六方晶窒化ホウ素は、放熱材料用の充填材、固体潤滑材、溶融ガス及びアルミニウム等に対する離型材、化粧料用の原料、並びに焼結体用の原料等の種々の用途に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1では、樹脂等の絶縁性放熱材の充填材として用いた場合に、上記樹脂等の熱伝導率及び耐電圧(絶縁破壊電圧)を高めることができる六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法が提案されている。
【0004】
六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば、ホウ酸等のホウ素化合物とメラミン等の窒素を含む化合物との混合物を焼成する方法、酸化ホウ素等のホウ素化合物と、炭素等の還元性物質との混合物を、窒素を含む雰囲気下で焼成する方法、及び炭化ホウ素を、窒素を含む雰囲気下で焼成する方法などによって製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、炭素を含む原料を使用する上述の製造方法によって得られた六方晶窒化ホウ素には、炭素を含む有色粒子のような異物が含まれ、また当該有色粒子は導電性を有し得る。近年の高機能化(例えば、高絶縁性)が求められる用途においては、原料となる六方晶窒化ホウ素粉末にも更なる改善が求められており、上述のような有色粒子も低減されることが望ましい。さらに、上記有色粒子を含む六方晶窒化ホウ素を含む原料を焼結して得られる焼結体は、その表面に有色粒子が存在する場合、黒点となり得る。焼結体の美観を向上させる観点からも上述のような有色粒子も低減されることが望ましい。
【0007】
本開示は、高機能用途に適する窒化ホウ素粉末を提供することを目的とする。本開示はまた美観に優れる窒化ホウ素焼結体を製造可能な窒化ホウ素粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子を含み、炭素を含む有色粒子の個数が10gあたり50個以下である、六方晶窒化ホウ素粉末を提供する。
【0009】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、炭素を含む有色粒子の個数が十分低減されており、絶縁性の低下が十分に抑制されている。また、上記六方晶窒化ホウ素粉末は、有色粒子の個数が十分低減されていることから、高機能用途に適する。また当該粉末を用いて調製される焼結体は美観に優れたものとなり得る。
【0010】
上記一次粒子の平均粒径が1μm以上であってよい。
【0011】
本開示の一側面は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料粉末を成形し成形物を得る工程と、上記成形物を加熱することで焼成して焼結体を得る工程と、を有する焼結体の製造方法を提供する。
【0012】
上記焼結体の製造方法は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料粉末を用いることから、得られる焼結体は外観に優れたものになり得る。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、高機能用途に適する窒化ホウ素粉末を提供できる。本開示によればまた、美観に優れる窒化ホウ素焼結体を製造可能な窒化ホウ素粉末を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、六方晶窒化ホウ素粉末の一例を示す光学顕微鏡写真であり、有色粒子が存在する部分を拡大した拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0016】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書における「工程」とは、互いに独立した工程であってもよく、同時に行われる工程であってもよい。
【0017】
<六方晶窒化ホウ素粉末>
六方晶窒化ホウ素粉末の一実施形態は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子を含み、炭素を含む有色粒子の個数が10gあたり50個以下である。このように有色粒子の割合が十分に低減されていることによって、六方晶窒化ホウ素粉末は、絶縁性、熱伝導率等を高度に要求される用途に対しても優れた機能を発揮し得る。すなわち、当該六方晶窒化ホウ素粉末は、高機能用途に適する。上記有色粒子は導電性を有する化合物である。なお、上述の有色の粒子の色味は、無色の六方晶窒化ホウ素の粒子とは異なることを意味するものであって、色味を特定するものではない。炭素を含む粒子は、一般に、褐色、又は黒色であるが、炭素の含有量に応じて色味は変化し得る。
【0018】
図1は、六方晶窒化ホウ素粉末の一例を示す光学顕微鏡写真であり、有色粒子が存在する部分を拡大した拡大写真である。
図1において、無色の六方晶窒化ホウ素2と、当該六方晶窒化ホウ素2の中に混入されている黒色の有色粒子4とが確認できる。上記有色粒子は、例えば、アモルファスカーボン、及び黒鉛等の炭素化合物である。炭素を含有するものであることはエネルギー分散型X線分析装置(EDX)によって測定することで確認できる。なお、上記有色粒子は一般に比較的大きな粒径を有し、有色粒子の中でも粒径の大きなものの方が、粒径の小さなものよりも六方晶窒化ホウ素粉末の物性に影響を及ぼしやすい。上記有色粒子としては粒径が、例えば、63μm以上のものが含まれてよい。
【0019】
上記炭素を含む有色粒子は、六方晶窒化ホウ素粉末10gあたり50個以下であるが、例えば、0.1~50個、0.1~40個、0.1~30個、0.1~20個、又は0.1~10個であってよく、六方晶窒化ホウ素粉末は有色粒子を含まなくてもよい。
【0020】
本明細書における六方晶窒化ホウ素粉末における上記有色粒子の数は、以下のようにして決定される値を意味する。まず、容器に、測定対象となる六方晶窒化ホウ素粉末10gと、エタノール100mLとを測り取り、撹拌棒によって撹拌し、混合溶液を調製する。次に上記混合溶液を、超音波分散器を用いて分散液を調製する。得られた分散液を、目開き63μmのふるい(JIS Z 8801-1:2019「試験用ふるい-金属製網ふるい」)によってふるい、ふるいの上に残ったもの(篩上品)をエタノールにて洗浄する。さらに、篩上品を容器に移し、エタノール100mLを加えて、上述の操作と同様に撹拌、分散、ふるいの処理を行う。ふるいをとおったエタノール溶液の白濁がなくなるまで同様の操作を繰り返し行う。その後、篩上品を乾燥させ光学顕微鏡によって観察を行い、有色粒子の数をカウントする。同様の操作を10サンプルについて行い、得られた有色粒子の数の算術平均を算出し、この平均値を六方晶窒化ホウ素粉末10gあたりの有色粒子の個数とする。
【0021】
六方晶窒化ホウ素粉末の一次粒子の平均粒径(メジアン径、D50)は、例えば、1μm以上、1~30μm、2~25μm、4~20μm、又は7~20μmであってよい。一次粒子の平均粒径が上記範囲内であると、六方晶窒化ホウ素粉末を用いて形成される焼結体をより緻密なものとすることができる。
【0022】
本明細書において一次粒子の平均粒径は、ISO 13320:2009に準拠し、粒度分布測定機を用いて測定するものとする。上記測定で得られる平均粒径は、体積統計値による平均粒径であり、平均粒径はメジアン径(D50)である。粒度分布測定に際し、該凝集体を分散させる溶媒には水を、分散剤にはヘキサメタリン酸を用いる。このとき水の屈折率には1.33を、また、六方晶窒化ホウ素粉末の屈折率については1.80の数値を用いる。なお、粒度分布測定機としては、例えば、日機装株式会社製の「MT3300EX」(製品名)等を使用できる。
【0023】
<六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法>
上述の六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば、ホウ酸等のホウ素化合物とメラミン等の窒素を含む化合物との混合物を焼成する方法(特に、ホウ酸及びメラミンを用いる場合、例えば、ホウ酸メラミン法ともいう)、酸化ホウ素等のホウ素化合物と、炭素等の還元性物質との混合物を、窒素を含む雰囲気下で焼成する方法(いわゆる炭素還元法)、及び炭化ホウ素を、窒素を含む雰囲気下で焼成する方法(以下、例えば、B4C法ともいう)などを応用することで製造することができる。以下、上述の3つの製造方法について、順次説明する。
【0024】
[ホウ酸メラミン法を応用した製造方法]
ホウ酸メラミン法を応用した六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法の一実施形態は、ホウ酸を含むホウ素含有化合物とメラミンを含む窒素含有化合物とを含有する原料組成物を、不活性ガス及びアンモニアガスの少なくとも一方を含む雰囲気中、600~1300℃で焼成して、低結晶性の窒化ホウ素、及び非晶質の窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一方を含む仮焼物を得る工程(仮焼工程)と、仮焼物とホウ酸と助剤とを含む混合粉末を、不活性ガス及びアンモニアガスの少なくとも一方を含む雰囲気中、1600℃以上且つ1900℃未満の温度で焼成して焼成物を得る工程(焼成工程)と、上記焼成物を粉砕して粒度を調整した粉末を得る工程(粉砕工程)と、上記粉末を、不活性ガス及びアンモニアガスの少なくとも一方を含む雰囲気中、1900℃以上の温度で加熱処理する工程(アニール工程)と、を有する。上記焼成工程は、複数回繰り返してもよい(以下、それぞれ順に第一焼成工程、第二焼成工程等という)。焼成工程を複数回繰り返し行う場合には、各焼成工程で得られる焼成物を粉砕してもよい。焼成物を粉砕することで第二焼成工程以降の焼成工程における原料組成物中のメラミン等を十分に消費させることができる。また粉砕工程は、粉砕で得られた粉末を洗浄及び乾燥し、乾燥粉末とすることを含んでもよい。
【0025】
ホウ素含有化合物は、構成元素としてホウ素原子を有する化合物である。ホウ素含有化合物は、ホウ酸に加えて、例えば、酸化ホウ素及びホウ砂等を更に含んでもよい。窒素含有化合物は、構成元素として窒素原子を有する化合物であり、有機化合物であってよい。窒素含有化合物は、メラミンに加えて、例えば、ジシアンジアミド及び尿素等を更に含んでもよい。原料組成物は、上記化合物以外の成分を含んでもよい。例えば、仮焼用助剤として炭酸リチウム及び炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を含んでよい。また、炭素等の還元性物質を含んでよい。
【0026】
上記原料組成物において、ホウ素含有化合物及び窒素含有化合物の配合比は、ホウ素原子と窒素原子のモル比に基づいて調製してよく、例えば、ホウ素原子:窒素原子=2:8~8:2となるように配合してよく、3:7~7:3となるように配合してもよい。
【0027】
仮焼工程では、上述の原料組成物を、例えば、電気炉を用いて仮焼して仮焼物を得る。仮焼工程は、不活性ガス及びアンモニアガスの少なくとも一方を含む雰囲気中で行う。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、希ガス等が挙げられる。希ガスは、例えば、ヘリウムガス及びアルゴンガス等であってよい。仮焼工程は、不活性ガス及びアンモニアガスを混合した混合ガス雰囲気中で行ってよい。仮焼温度は、例えば、600~1300℃、800~1200℃、又は900~1100℃であってよい。仮焼時間は、例えば、0.5~5時間、又は1~4時間であってよい。
【0028】
仮焼によって得られる仮焼物は、低結晶性の窒化ホウ素、及び非晶質の窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一方を含み、更に六方晶窒化ホウ素を含んでもよい。仮焼工程は、後述の焼成工程よりも低温で窒化ホウ素の反応を進行させる。仮焼の温度を低くすることによって粒成長を抑制させ、最終的に得られる六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径を小さくすることができる。また、仮焼の温度を低くすることによって粒成長を抑制させ、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積を大きくすることができる。
【0029】
次に、焼成工程において、上述のようにして得られた仮焼物とホウ酸と助剤とを配合して混合し、混合粉末を調製し、これを焼成する。焼成工程では、ホウ酸及び助剤の存在下、原料組成物を十分に消費させつつ、窒化ホウ素の生成及び結晶化を進行させる。これによって、仮焼物に含まれる窒化ホウ素の結晶性を高め六方晶窒化ホウ素を形成させることができる。焼成工程において、ホウ酸を追加で加えることによって、原料組成物におけるメラミン、原料組成物の反応によって生成するアモルファスカーボン及び黒鉛等を十分に反応させ、その含有量を低減することによって、得られる六方晶窒化ホウ素粉末における有色粒子の量をより低減することができる。
【0030】
混合粉末におけるホウ酸の含有量の下限値は、仮焼物100質量部に対して、例えば、1質量部以上、5質量部以上、又は10質量部以上であってよい。ホウ酸の含有量の下限値を上記範囲内とすることで、メラミン等の残存をより十分に低減し、炭素を含む有色粒子の量をより低減することができる。混合粉末におけるホウ酸の含有量の上限値は、仮焼物100質量部に対して、例えば、30質量部以下、20質量部以下、又は15質量部以下であってよい。ホウ酸の含有量の上限値を上記範囲内とすることで、有色粒子が低減され、かつホウ酸残存量が少ない六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。ホウ酸の含有量は上述の範囲内で調整してよく、仮焼物100質量部に対して、例えば、1~30質量部、10~30質量部、10~20質量部、又は1~15質量部であってよい。
【0031】
助剤としては、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、並びに、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、及び炭酸リチウム等の炭酸塩などが挙げられる。窒化ホウ素を含む仮焼物100質量部に対する、助剤の配合量は2~20質量部であってよく、2~8質量部であってもよい。
【0032】
焼成工程において混合粉末は、例えば、電気炉等を用いて焼成して焼成物を得る。焼成工程は、不活性ガス及びアンモニアガスの少なくとも一方を含む雰囲気中で行う。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、及び希ガス等が挙げられる。希ガスは、例えば、ヘリウムガス、及びアルゴンガス等であってよい。焼成工程は、不活性ガス及びアンモニアガスを含む混合ガス雰囲気中で行ってよい。
【0033】
焼成温度は、1600℃以上且つ1900℃未満である。この焼成温度は、1650~1850℃であってよく、1650~1750℃であってもよい。焼成時間は、例えば、0.5~5時間であってよく、1~4時間であってもよい。
【0034】
なお、本明細書における、焼成時間、加熱時間等は、対象物の周囲環境の温度が所定の温度に到達してから当該温度で維持する時間(保持時間)を意味する。
【0035】
焼成温度を比較的高温く保つことによって、原料組成物の消費、原料組成物の反応によって生成するアモルファスカーボン及び黒鉛等の消費、六方晶窒化ホウ素の生成及び結晶化が十分に進行させることができる。原料組成物のうちメラミン等の炭素を含む原料を低減することによって、得られる六方晶窒化ホウ素粉末における有色粒子の量を低減し、品質をより向上させることができる。焼成時間を長くすることでも同様の傾向がある。一方、焼成温度が高くなり過ぎると、六方晶窒化ホウ素の結晶成長が進み過ぎて、微粉砕が困難になる傾向にある。焼成時間が長くなり過ぎたときも同様の傾向にある。
【0036】
焼成工程で得られた焼成物の粉砕は、例えば、粉砕装置等を用いてもよい。粉砕装置としては、例えば、衝撃式粉砕機(パルぺライザー)等を用いてもよい。衝撃式粉砕機は、例えば、衝撃型スクリーン式微粉砕機等のスクリーンによって粉砕物の粒度調整が可能なものを好適に用いることができる。スクリーンの目開きは、例えば、0.1~1mm、又は1~3mmであってよい。
【0037】
粉砕工程では、上記焼成物を粉砕して粒度を調整する。粒度を調整することで、続くアニール工程での効率を向上させることができる。焼成物の粉砕によって得られる粉砕粉中には、六方晶窒化ホウ素以外に不純物が含まれ得る。そこでアニール工程の前に当該不純物を低減する処理(精製処理)を行ってもよい。不純物としては、残存する原料及び助剤、並びに水溶性ホウ素化合物等が挙げられる。精製処理は、例えば、洗浄等によって、このような不純物の量を低減する。洗浄後、固液分離して乾燥し、乾燥粉末を得る。
【0038】
洗浄に用いる洗浄液としては、例えば、水及び酸性物質を含む水溶液、有機溶媒、並びに有機溶媒及び水の混合液等が挙げられる。不純物の二次的な混入を避ける観点から、電気伝導度が1mS/m以下の水を使用してよい。酸性物質としては、例えば、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール及びアセトン等の水溶性の有機溶媒が挙げられる。洗浄方法に特に制限はなく、例えば、粉砕粉を洗浄液中に浸漬し撹拌して洗浄してよく、粉砕粉に洗浄液をスプレーして洗浄してもよい。
【0039】
洗浄終了後、デカンテーション、吸引ろ過機、加圧ろ過機、回転式ろ過機、沈降分離機又はこれらを組み合わせた装置を用いて洗浄液を固液分離してよい。分離した固形分を通常の乾燥機で乾燥して乾燥粉末を得てもよい。乾燥機は、例えば、棚式乾燥機、流動層乾燥機、噴霧乾燥機、回転型乾燥機、ベルト式乾燥機、及びこれらの組み合わせが挙げられる。乾燥後に、粗大粒子を除去するために、例えば、篩による分級を行ってもよい。
【0040】
アニール工程では、焼成物の粉砕物又は乾燥粉末を、例えば、電気炉等を用いて加熱処理する。アニール工程は、不活性ガス及びアンモニアガスの少なくとも一方を含む雰囲気中で行う。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、及び希ガス等が挙げられる。希ガスは、例えば、ヘリウムガス及びアルゴンガス等であってよい。仮焼工程は、不活性ガス及びアンモニアガスを含む混合ガス雰囲気中で行ってよい。アニール工程における加熱処理の温度は、1900℃以上であるが、酸素量を十分に低減する観点から、1950℃以上であってよく、2000℃以上であってもよい。アニール工程を行うことによって、粒子の表面に官能基等として存在する酸素を飛散させ、酸素量を低減することができる。アニール工程の前に粉砕工程を経ることで、焼成物よりも助剤等の含有量が低減された粉末又は乾燥粉末を調製してからアニールすることで、粒成長を抑制しつつ酸素量を低減することができる。
【0041】
粒子の成長を抑制する観点から、アニール工程における加熱処理の温度は、2200℃以下、又は2100℃以下であってよい。アニール工程における加熱時間は、酸素量を十分に低減するとともに粒子の成長を抑制する観点から、例えば、0.5~5時間、又は1~4時間であってよい。
【0042】
上述のホウ酸メラミン法を応用した製法によって得られる六方晶窒化ホウ素粉末は、有色粒子が十分に低減されている。上述の製法によって得られる六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径は、例えば、1~30μm、3~20μm、又は5~15μmとすることができる。
【0043】
上述の製法によって得られる六方晶窒化ホウ素粉末のBET比表面積は、例えば、0.5~30m2/g、1~20m2/g、又は2~10m2/gとすることができる。BET比表面積が上記範囲内であると、離型性、潤滑性、及び熱伝導性に優れる。
【0044】
本明細書において六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は、JIS Z 8803:2013に準拠し、測定装置を用い測定するものとする。当該比表面積は、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出した値である。
【0045】
[炭素還元法を応用した製造方法]
炭素還元法を応用した六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法の一実施形態は、ホウ酸を含むホウ素含有化合物と、炭素含有化合物とを含む原料組成物を、窒素含有化合物を含むガス雰囲気、且つ0.25MPa以上5.0MPa未満の圧力下において、1600℃以上の温度で加熱処理して第一の加熱処理物を得る低温焼成工程と、上記低温焼成工程よりも高く、1850℃未満の温度で第一の加熱処理物を加熱処理して第二の加熱処理物を得る焼成工程と、上記焼成工程よりも高い温度で、上記第二の加熱処理物を焼成して六方晶窒化ホウ素粉末を得る高温焼成工程と、を有する。上記製造方法において、ホウ素含有化合物の含有量は、炭素含有化合物100質量部に対して、350質量部以上である。
【0046】
低温焼成工程は、原料組成物を、窒素含有化合物の存在下で、加圧及び加熱することで窒化ホウ素を生成させる工程である。原料組成物は、ホウ素含有化合物及び炭素含有化合物を含む。
【0047】
ホウ素含有化合物は構成元素としてホウ素を有する化合物である。ホウ素含有化合物は、炭素含有化合物及び窒素含有化合物と反応して窒化ホウ素を形成する化合物である。ホウ素含有化合物としては、純度が高く比較的安価な原料を用いることができる。このようなホウ素含有化合物としては、ホウ酸の他、例えば、酸化ホウ素などが挙げられる。ホウ素含有化合物はホウ酸を含むが、ホウ酸は加熱によって脱水し酸化ホウ素となり、原料組成物の加熱処理中に液相を形成すると共に粒成長を促す助剤としても働くことができる。またホウ酸は、低圧環境下で加熱することによって、容易に系外に除去することができる。
【0048】
炭素含有化合物は構成元素として炭素原子を有する化合物である。炭素含有化合物は、ホウ素含有化合物及び窒素含有化合物と反応して窒化ホウ素を形成する。炭素含有化合物としては、純度が高く比較的安価な原料を用いることができる。このような炭素含有化合物としては、例えば、カーボンブラック及びアセチレンブラック等が挙げられる。
【0049】
原料組成物において、ホウ素含有化合物を炭素含有化合物に対して過剰量となるように配合する。原料組成物におけるホウ素含有化合物の含有量は、炭素含有化合物100質量部に対して、例えば、350~1000質量部、400~800質量部、450~700質量部、又は450~600質量部であってよい。原料組成物にホウ素含有化合物を過剰量で含有させ、加熱処理することで炭素含有化合物を十分に反応させて、その含有量を低減することによって、得られる六方晶窒化ホウ素粉末における有色粒子の量をより低減することができる。
【0050】
上述の製造方法は、例えば、原料組成物の調製工程を備えてもよい。当該原料組成物の調製工程は、ホウ素含有化合物を脱水する工程を含んでいてもよい。ホウ素含有化合物を脱水する工程を有することで、低温焼成工程で得られる窒化ホウ素の収量を向上させることができる。また原料組成物の調製工程は、原料をより一層均一に混合し、原料組成物の加熱による反応をより均質な環境で行う観点から、衝撃式粉砕機(パルぺライザー)等を用いた粉砕混合処理を行ってもよい。粉砕混合処理の条件は、上述のホウ酸メラミン法を応用した製造方法において説明した焼成物の粉砕条件と同じであってよい。
【0051】
原料組成物は、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物に加えて、その他の化合物を含有してもよい。その他の化合物としては、例えば、核剤としての窒化ホウ素等が挙げられる。原料組成物が核剤としての窒化ホウ素を含有することで、合成される六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径をより容易に制御することができる。原料組成物は、好ましくは核剤を含む。原料組成物が核剤を含む場合、比表面積の小さな六方晶窒化ホウ素粉末(例えば、比表面積が2.0m2/g未満である六方晶窒化ホウ素粉末)の製造がより容易となる。
【0052】
核剤としての窒化ホウ素の粉末を使用する場合には、上記核剤の含有量は、原料組成物100質量部を基準として、例えば、0.05~8質量部であってよい。上記核剤の含有量の下限値を0.05質量部以上とすることで、核剤を含むことの効果をより向上させることができる。上記核剤の含有量の上限値を8質量部以下とすることで、六方晶窒化ホウ素粉末の収量を向上させることができる。
【0053】
窒素含有化合物は構成元素として窒素原子を有する化合物であり、炭素含有化合物及びホウ素含有化合物と反応して窒化ホウ素を形成する化合物である。窒素含有化合物としては、例えば、窒素及びアンモニア等が挙げられる。窒素含有化合物は、ガスの形で供給されてよく、この場合、窒素含有化合物は窒素含有ガスともいう。窒素含有ガスは、窒化反応による窒化ホウ素の形成を促進する観点、及びコストを低減する観点から、好ましくは窒素ガスを含み、より好ましくは窒素ガスである。窒素含有ガスとして複数の気体の混合ガスを用いる場合、混合ガス中における窒素ガスの割合が、好ましくは95体積/体積%以上であってよい。なお、上記窒素ガスの割合は、標準状態における体積で定められる値を意味する。
【0054】
低温焼成工程は加圧下で行われる。低温焼成工程における圧力は、例えば、0.25MPa以上5.0MPa未満、0.25~3.0MPa、0.25~2.0MPa、0.25~1.0MPa、0.25MPa以上1.0MPa未満、0.30~2.0MPa、又は0.50~2.0MPaであってよい。低温焼成工程における圧力を高くすることで、ホウ素含有化合物等の原料の揮発をより抑制し、副生成物である炭化ホウ素の生成を抑制することができる。また低温焼成工程における圧力を高くすることで、窒化ホウ素粉末の比表面積の増加を抑制することができる。低温焼成工程の圧力の上限値を上記範囲内とすることで、窒化ホウ素の一次粒子の成長をより促進することができる。
【0055】
低温焼成工程は加熱下で行われる。低温焼成工程における加熱温度は、例えば、1650℃以上1800℃未満、1650~1750℃、又は1650~1700℃であってよい。低温焼成工程における加熱温度の下限値を上記範囲内とすることで、反応を促進させ、低温焼成工程で得られる窒化ホウ素の収量を向上させることができる。低温焼成工程における加熱温度の上限値を上記範囲内とすることで、副生成物の生成を十分に抑制することができる。低温焼成工程において、昇温速度は特に制限されるものでは無いが、例えば、0.5℃/分以上であってよい。
【0056】
低温焼成工程における加熱時間は、例えば、1~10時間、1~5時間、又は2~4時間であってよい。窒化ホウ素を合成する反応の序盤である低温焼成工程において、比較的低温で所定時間の間、維持することで、反応系をより均質化することができ、ひいては低温焼成工程で形成される窒化ホウ素をより均質化できる。
【0057】
焼成工程は、低温焼成工程で得られた第一の加熱処理物を、低温焼成工程よりも高い温度で更に加熱処理して第二の加熱処理物を得る工程である。本工程において、結晶粒の成長を促すと共に、反応系における助剤をより十分に消費させることができる。
【0058】
焼成工程における加熱温度は、低温焼成工程よりも高く、1850℃未満の温度である。焼成工程は、低温焼成工程に連続して行ってもよく、低温焼成工程における温度以外の条件は維持したままであってよい。すなわち、低温焼成工程も窒素含有ガス等を含む加圧環境下で第一の加熱処理物を加熱する工程であってよい。
【0059】
焼成工程における加熱時間は、例えば、3~15時間、5~10時間、又は6~9時間であってよい。
【0060】
高温焼成工程は、焼成工程で得られた第二の加熱処理物を、更に高温で焼成して六方晶窒化ホウ素粉末を得る工程である。高温焼成工程において、窒化ホウ素の結晶性が向上し、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が得られる。得られる六方晶窒化ホウ素の一次粒子は、鱗片状の形状を有する。さらに本工程における加熱温度を高く設定することによって、助剤等の残存量を低減し、純度をより向上させることで、得られる六方晶窒化ホウ素粉末を焼結体の原料としてより好適なものとすることができる。
【0061】
高温焼成工程における圧力は低温焼成工程及び焼成工程と同じであっても、異なってもよい。高温焼成工程における圧力が低温焼成工程及び焼成工程と異なる場合、高温焼成工程の圧力は、低温焼成工程及び焼成工程における圧力よりも低くてよい。
【0062】
高温焼成工程の圧力は、例えば、0.25MPa以上5.0MPa未満、0.25~3.0MPa、0.25~2.0MPa、0.25~1.0MPa、0.25MPa以上1.0MPa未満、0.30~2.0MPa、又は0.50~2.0MPaであってよい。高温焼成工程における圧力を高くすることで、得られる六方晶窒化ホウ素粉末における純度をより向上させることができる。高温焼成工程における圧力の上限値を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素粉末の製造コストをより低減することができ、工業的に優位である。
【0063】
高温焼成工程における焼成温度は上記焼成工程における加熱温度よりも高い温度に設定する。高温焼成工程における焼成温度は、例えば、1850~2100℃、1850~2050℃、又は1900~2025℃であってよい。高温焼成工程における焼成温度を高くすることで、六方晶窒化ホウ素の純度をより向上させると共に、一次粒子の成長を促進して、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積をより小さなものとすることができる。高温焼成工程における焼成温度の上限値を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素の黄変化を抑制することができる。
【0064】
高温焼成工程における焼成時間(高温での加熱時間)は、例えば、0.5~30時間、1~25時間、又は3~10時間であってよい。高温焼成工程における焼成時間を上記範囲内とすることで、六方晶窒化ホウ素の純度をより向上させると共に、一次粒子の成長をより十分なものとすることができる。高温焼成工程における焼成時間を上記範囲内に収めることで、より安価に六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができる。
【0065】
上述の製造方法は、低温焼成工程、焼成工程及び高温焼成工程の他に、その他の工程を有していてもよい。その他の工程としては、例えば、上述の原料組成物の調製工程、原料組成物の脱水工程、原料組成物の加圧成型工程、第一及び第二の加熱処理物の粉砕工程、並びに、六方晶窒化ホウ素の粉砕工程等が挙げられる。上述の製造方法が原料組成物の加圧成型工程を有する場合、原料組成物が高密度に存在する環境で焼成を行うことができ、低温焼成工程及び焼成工程で得られる窒化ホウ素の収量をより向上させることができる。なお、本明細書における粉砕工程には、粉砕の他、解砕も含まれるものとする。
【0066】
粉砕の条件は、上述のホウ酸メラミン法を応用した製造方法で記載した条件を使用することができる。
【0067】
上述の炭素還元法を応用した製法によって得られる六方晶窒化ホウ素粉末は、有色粒子が十分に低減されている。上述の炭素還元法を応用した製法によって得られる六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径は、例えば、1~30μm、3~20μm、又は5~15μmとすることができる。
【0068】
上述の製法によって得られる六方晶窒化ホウ素粉末のBET比表面積は、例えば、0.5~30m2/g、0.8~20m2/g、又は1~10m2/gとすることができる。BET比表面積が上記範囲内であると、離型性、潤滑性、及び熱伝導性に優れる。
【0069】
[B4C法を応用した製造方法]
B4C法を応用した六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法の一実施形態は、炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で焼成して、炭窒化ホウ素を含む焼成物を得る工程(窒化工程)と、当該焼成物と、ホウ酸を含むホウ素含有化合物とを含む混合粉末を加熱して鱗片状である窒化ホウ素の一次粒子を生成し、一次粒子が凝集して構成される塊状粒子を含む窒化ホウ素粉末を得る工程(結晶化工程)と、を有する。上記製造方法において、ホウ素含有化合物の含有量は、炭窒化ホウ素粉末100質量部に対して、50質量部以上である。
【0070】
炭化ホウ素粉末は、例えば、以下の手順で調製することができる。ホウ酸とアセチレンブラックとを混合したのち、不活性ガス雰囲気中、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、炭化ホウ素塊を得る。この炭化ホウ素塊を、粉砕後、篩分けし、洗浄、不純物除去、乾燥等を適宜行い、炭化ホウ素粉末を調製することができる。ここで、上述のアスペクト比を有する炭化ホウ素粉末は、例えば、比較的マイルドな条件で粉砕を行った後、振動篩による分級と気流分級とを組み合わせて行うことによって得ることができる。具体的には、振動篩で所定サイズ以上の粒子を排除し、気流分級で所定サイズ以下の粒子を排除することによって得てもよい。
【0071】
窒化工程では、炭化ホウ素粉末を、窒素加圧雰囲気下で焼成して炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得る。窒化工程における焼成温度は、例えば、1800~2400℃、1900~2400℃、1800~2200℃又は1900~2200℃であってよい。
【0072】
窒化工程における圧力は、0.6~1.0MPa、0.7~1.0MPa、0.6~0.9MPa、又は0.7~0.9MPaであってよい。当該圧力の下限値を上記範囲内とすることで、炭化ホウ素の窒化をより十分に進行させることができる。一方、当該圧力が高すぎると、製造コストが上昇する傾向にある。
【0073】
窒化工程における窒素加圧雰囲気の窒素ガス濃度は95体積%以上、又は99.9体積%以上であってよい。窒化工程における焼成時間は、窒化が十分進む範囲であれば特に限定されず、例えば6~30時間であってよく、8~20時間であってもよい。
【0074】
結晶化工程では、窒化工程で得られた炭窒化ホウ素を含む焼成物とホウ素含有化合物とを含む配合物を加熱して、鱗片状である窒化ホウ素の一次粒子を生成し、一次粒子が凝集して構成される塊状粒子を含む窒化ホウ素粉末を得る。すなわち、結晶化工程では、炭窒化ホウ素を脱炭化させるとともに、所定の大きさの鱗片状の一次粒子を生成させつつ、これらを凝集させて塊状粒子を含む窒化ホウ素粉末を得る。
【0075】
ホウ素含有化合物としては、ホウ酸に加えて、酸化ホウ素等が挙げられる。結晶化工程で加熱する混合粉末は、公知の添加物を含有してもよい。
【0076】
混合粉末において、炭窒化ホウ素とホウ素含有化合物との配合割合は、モル比に応じて適切に設定可能である。混合粉末におけるホウ素含有化合物の含有量は、炭窒化ホウ素100質量部に対して、例えば、50~300質量部、100~300質量部、100~250質量部、又は150~250質量であってよい。ホウ素含有化合物を炭窒化ホウ素に対して過剰量となるように含有させ、加熱処理することで炭化ホウ素の未反応部及び炭窒化ホウ素を十分に反応させて、その含有量を低減することによって、得られる六方晶窒化ホウ素粉末における有色粒子の量をより低減することができる。
【0077】
結晶化工程において混合粉末を加熱する加熱温度は、例えば、1800~2200℃、2000~2200℃、又は2000~2100℃であってよい。加熱温度を上記範囲内とすることで、粒成長をより十分に進行させることができる。結晶化工程は、常圧(大気圧)の雰囲気下で加熱してもよく、加圧して大気圧を超える圧力で加熱してもよい。加圧する場合には、例えば0.5MPa以下、又は0.3MPa以下であってよい。
【0078】
結晶化工程における加熱時間は、例えば、0.5~40時間、0.5~35時間、又は1~30時間であってよい。加熱時間が短すぎると粒成長が十分に進行しない傾向にある。一方、加熱時間が長すぎると工業的に不利になる傾向にある。
【0079】
以上の工程によって、六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。結晶化工程の後に、粉砕工程を行ってもよい。粉砕工程においては、一般的な粉砕機又は解砕機を用いることができる。例えば、ボールミル、振動ミル、及びジェットミル等を用いることができる。なお、本開示においては、「粉砕」には「解砕」も含まれる。粉砕及び分級によって、六方晶窒化ホウ素粉末の平均粒径を15~200μmに調整してもよい。
【0080】
<焼結体の製造方法>
焼結体の製造方法の一実施形態は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を含む原料粉末を成形し成形物を得る工程と、上記成形物を加熱することで焼成して焼結体を得る工程と、を有する。上記成形物を得る工程は、上記粉末とバインダーとを含むスラリーを調製し、噴霧乾燥機等で球状化処理した後に成型してもよい。球状化処理によって造粒した粉末を用いることで、成形物密度を向上させ、焼結体の組織をより緻密なものとすることができる。成型には、金型を用いてもよく、冷間等方圧加圧法(CIP)を用いてもよい。
【0081】
焼結体の製造方法において成形物を得るための粉末は、六方晶窒化ホウ素粉末に加えて、例えば、アモルファス窒化ホウ素粉末、その他の窒化物、及び焼結助剤等を含んでもよい。その他の窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の窒化物を含有してよい。上記粉末は、好ましくは六方晶窒化ホウ素粉末及びアモルファス窒化ホウ素粉末を含み、より好ましくはその他の窒化物を含まない。
【0082】
焼結助剤は、例えば、酸化イットリウム等の希土類元素の酸化物、酸化アルミナ、及び酸化マグネシウム等の酸化物、炭酸リチウム及び炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、並びにホウ酸等であってよい。焼結助剤を配合する場合は、焼結助剤の添加量は、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末、アモルファス窒化ホウ素粉末、及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、又は0.1質量部以上であってよい。焼結助剤の添加量は、六方晶窒化ホウ素粉末、アモルファス窒化ホウ素粉末、及び焼結助剤の合計100質量部に対して、例えば、20質量部以下、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。
【0083】
成形物の焼結温度の下限値は、例えば、1600℃以上、又は1700℃以上であってよい。成形物の焼結温度の上限値は、例えば、2200℃以下又は2000℃以下であってよい。成形物の焼結時間は、例えば、1時間以上、又は3時間以上であってよく、また30時間以下、又は10時間以下であってよい。焼結時の雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気下であってよい。
【0084】
焼結には、例えば、バッチ式炉及び連続式炉等を用いることができる。バッチ式炉としては、例えば、マッフル炉、管状炉、及び雰囲気炉等を挙げることができる。連続式炉としては、例えば、ロータリーキルン、スクリューコンベア炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、及び琴形連続炉等を挙げることができる。
【0085】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)
[六方晶窒化ホウ素粉末の調製:ホウ酸メラミン法を応用した製造方法]
<仮焼工程>
ホウ酸粉末(純度99.8質量%以上、関東化学社製)100.0質量部、及びメラミン粉末(純度99.0質量%以上、和光純薬社製)90.0質量部を、アルミナ製乳鉢を用いて10分間混合し混合原料を得た。乾燥後の混合原料を、六方晶窒化ホウ素製の容器に入れ、電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から1000℃に昇温した。1000℃で2時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。このようにして、低結晶性の六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物を得た。
【0088】
<焼成工程>
仮焼物100.0質量部に、ホウ酸を20質量部、及び助剤として炭酸ナトリウム(純度99.5質量%以上)を3.0質量部添加し、アルミナ製乳鉢を用いて10分間混合した。混合物を、上述の電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から1700℃に昇温した。1700℃の焼成温度で4時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。得られた焼成物を回収し、アルミナ製乳鉢で3分間粉砕して、六方晶窒化ホウ素の粗粉を得た。
【0089】
<精製工程>
六方晶窒化ホウ素の粗粉中に含まれる不純物を除くため、希硝酸500質量部(硝酸濃度:5質量%)に、粗粉を30質量部投入し、室温で60分間攪拌した。攪拌後、吸引ろ過によって固液分離し、ろ液が中性になるまで水(電気伝導度:1mS/m)を入れ替えて洗浄した。洗浄後、乾燥機を用いて120℃で3時間乾燥して乾燥粉末を得た。
【0090】
<アニール工程>
乾燥粉末を、上述の電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から2000℃に昇温した。2000℃で4時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。得られた焼成物を回収し、アルミナ製乳鉢で3分間粉砕し、得られた乾燥粉末から、超音波振動篩(株式会社興和工業所製、商品名:KFS-1000、目開き250μm)を用いて粗粉を除去して、実施例1の六方晶窒化ホウ素粉末を得た。
【0091】
(比較例1)
焼成工程においてホウ酸を使用せずに、仮焼物と助剤との混合粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を製造した。
【0092】
(実施例2)
[六方晶窒化ホウ素粉末の調製:炭素還元法を応用した製造方法]
<原料調製工程>
アセチレンブラック(デンカ株式会社製、グレード名:HS100)100質量部と、ホウ酸(株式会社高純度化学研究所製)700質量部とを、ヘンシェルミキサーを用いて混合し原料組成物を得た。得られた混合粉末を250℃の乾燥機に入れ、3時間保持することでホウ酸の脱水を行った。脱水後の混合粉末200gをプレス成型機の直径100Φの型に入れ、加熱温度:200℃及びプレス圧:30MPaの条件にて成型を行った。このようにして得られた原料組成物のペレットを以降の加熱処理に供した。
【0093】
<低温焼成工程>
まず、上記ペレットをカーボン雰囲気炉内に静置し、0.8MPaに加圧された窒素雰囲気において昇温速度:5℃/分で1750℃まで昇温し、1750℃にて3時間保持して上記ペレットの加熱処理を行い、第一の加熱処理物を得た。
【0094】
<焼成工程>
次に、カーボン雰囲気炉内を昇温速度:5℃/分で1800℃まで更に昇温し、1800℃にて7時間保持して第一の加熱処理物を加熱処理し、第二の加熱処理物を得た。
【0095】
<高温焼成工程>
その後、カーボン雰囲気炉内を昇温速度:5℃/分で2000℃まで更に昇温し、2000℃にて7時間保持して第二の加熱処理物を高温で焼成した(第三の工程)。焼成後の緩く凝集した窒化ホウ素をヘンシェルミキサーで解砕し、目開き:75μmの篩を通し、篩を通過した粉末を得た。このようにして、六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。
【0096】
(実施例3)
ホウ酸の含有量を、アセチレンブラック100質量部に対して、350質量部としたこと以外は、実施例2と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。
【0097】
(実施例4)
[六方晶窒化ホウ素粉末の調製:B4C法を応用した製造方法]
<原料調製工程>
アセチレンブラック(デンカ株式会社製、グレード名:HS100)100質量部と、オルトホウ酸(新日本電工株式会社製)285質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、黒鉛製のルツボ中に充填し、アーク炉によって、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(B4C)を得た。得られた塊状物を、ジョークラッシャーで粗粉砕して粗粉を得た。この粗粉を、炭化珪素製のボール(φ10mm)を有するボールミルによってさらに粉砕して粉砕粉を得た。ボールミルによる粉砕は、回転数20rpmで60分間行った。その後、目開き45μmの振動篩を用いて粉砕粉を分級した。篩上の微粉を、クラッシール分級機で気流分級を行って、10μm以上の粒径を有する炭化ホウ素粉末を得た。このようにして、アスペクト比が2.5、平均粒径が30μmの炭化ホウ素粉末を得た(それぞれの測定方法は後述する。)。得られた炭化ホウ素粉末の炭素量は19.9質量%であった。炭素量は、炭素/硫黄同時分析計によって測定した。
【0098】
<窒化工程>
調製した炭化ホウ素粉末を、窒化ホウ素製のルツボに充填した。その後、抵抗加熱炉を用い、窒素ガス雰囲気下で、2000℃、0.85MPaの条件で10時間加熱した。このようにして炭窒化ホウ素(B4CN4)を含む焼成物を得た。
【0099】
<結晶化工程>
焼成物とホウ酸とを、炭窒化ホウ素100質量部に対してホウ酸が300質量部となるような割合で配合し、ヘンシェルミキサーを用いて混合した。得られた混合物を、窒化ホウ素製のルツボに充填し、抵抗加熱炉を用い0.2MPaの圧力条件で、窒素ガス雰囲気下、室温から1000℃まで昇温速度10℃/分で昇温した。引き続いて、1000℃から昇温速度2℃/分で2000℃まで昇温した。2000℃で、6時間保持して加熱することによって、一次粒子が凝集して構成される塊状粒子を含む六方晶窒化ホウ素を得た。
【0100】
得られた塊状窒化ホウ素を、ヘンシェルミキサーを用いて解砕した。その後、篩目90μmのナイロン篩によって分級を行い、六方晶窒化ホウ素粉末を得た。
【0101】
(比較例2)
ホウ酸の含有量は、炭窒化ホウ素100質量部に対して、20質量部としてこと以外は、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。
【0102】
[六方晶窒化ホウ素粉末の評価]
実施例1~4、及び比較例1~2で得られた六方晶窒化ホウ素粉末のそれぞれについて、有色粒子の個数、平均粒径、及び比表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
[窒化ホウ素粉末の平均粒径]
窒化ホウ素粉末の平均粒径は、ISO 13320:2009の記載に準拠し、ベックマンコールター社製のレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(装置名:LS-13 320)を用いて測定した。なお、実施例1~3、比較例1で得られた六方晶窒化ホウ素粉末に対してはホモジナイザー処理を行い、実施例4、比較例2で得られた六方晶窒化ホウ素粉末に対してはホモジナイザー処理を行わずに測定を行った。粒度分布の測定に際し、窒化ホウ素粉末を分散させる溶媒には水を用い、分散剤にはヘキサメタリン酸を用いた。この際、水の屈折率として1.33の数値を用い、窒化ホウ素粉末の屈折率として1.80の数値を用いた。
【0104】
[六方晶窒化ホウ素の焼結体の製造と評価]
実施例1~4、及び比較例1~2で得られた六方晶窒化ホウ素粉末のそれぞれを用いて、後述の方法で焼結体を製造した。すなわち、容器に、六方晶窒化ホウ素粉末が60.0質量%、アモルファス窒化ホウ素粉末(デンカ株式会社製、酸素含有量:1.5%、窒化ホウ素純度97.6%、平均粒径:6.0μm)が40.0質量%となるようにそれぞれ測り取り混合して焼結原料を調製した。上記焼結原料を、冷間等方加圧装置に充填し、30MPaの圧力をかけて圧縮し成形物(未焼成物)を得た。得られた成形物を、焼成炉を用いて2000℃で10時間保持して焼結させることによって、窒化物の焼結体を調製した。なお、焼成は、炉内を窒素雰囲気下に調整して行った。
【0105】
上述のとおり得られた焼結体について、目視観察を行い、下記の基準で美観の評価を行った。具体的には、焼結体の両主面上に黒点(黒色粒子の存在位置)の有無を目視観察することで確認した。観察結果から、以下の基準で美観を評価した。結果を表1に示す。
A:黒点が観察されなかった。
B:黒点の数が1個/cm2以上3個/cm2未満であった。
C:黒点の数が3個/cm2以上5個/cm2未満であった。
D:黒点の数が5個/cm2以上であった。
【0106】
【0107】
上述のとおり有色粒子が低減された六方晶窒化ホウ素粉末を調製できることが確認された。当該六方晶窒化ホウ素粉末は高機能用途に適するといえる。当該六方晶窒化ホウ素粉末を用いて得られる焼結体は、優れた絶縁性及び美観を発揮し得る。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本開示によれば、異物の含有量を低減された、高機能用途に適する窒化ホウ素粉末を提供できる。本開示によればまた、美観に優れる窒化ホウ素焼結体を製造可能な窒化ホウ素粉末を提供できる。
【符号の説明】
【0109】
2…六方晶窒化ホウ素、4…有色粒子。