(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】起泡性泥水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/66 20230101AFI20230310BHJP
B01D 19/04 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C02F1/66 510R
C02F1/66 522A
C02F1/66 522B
C02F1/66 530Z
B01D19/04 Z
(21)【出願番号】P 2018157279
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-05-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591022232
【氏名又は名称】株式会社三央
(73)【特許権者】
【識別番号】511123429
【氏名又は名称】テクニカ合同株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【氏名又は名称】森 治
(74)【復代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】金野 正一
(72)【発明者】
【氏名】豊田 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】栃木 雅之
(72)【発明者】
【氏名】高矢 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】梅原 歩
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-047792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/52-56、66、11/00-20
E21D1/00-9/14
B01D19/00-04、21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
泥水を使用する工事で発生する起泡性泥水の処理方法において、工事で発生する泥水のpH値を測定し、pH値がpH12.0~13.0の範囲にある予め定めた閾値を超えた場合に、泥水にpH調整剤
として酸及び炭酸水素ナトリウムを添加して、前記泥水のpH値を前記閾値以下に維持する
ことで、起泡性泥水の泡の発生を抑制することを特徴とする起泡性泥水の処理方法。
【請求項2】
前記工事で発生する泥水に、消泡剤、比重調整剤及びポリアクリル酸塩系又はポリリン酸塩系の分散剤の1種又は2種以上を添加することを特徴とする請求項1
に記載の起泡性泥水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泥水を使用する工事、例えば、泥水シールド工事、泥水推進工事、基礎工事等で発生する起泡性泥水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、泥水シールド工事、泥水推進工事、基礎工事等で使用する泥水には、特定の条件で起泡しやすくなるものがあり、泥水が起泡することによって、泡を含む泥水が、脱水篩の下にある下部水槽や調整槽からオーバーフローするといった問題が発生している。
また、起泡しやすい泥水は、流体輸送を行う際の各種ポンプにおいて起泡に伴う泡の影響でキャビテーション発生の原因となり、ポンプ効率が低下することによって工事の進捗に影響を与える等の問題があった。
【0003】
この問題の対策として、発生した泡に対して消泡剤を散布することや消泡装置を用いて消泡を行うことが実用化されている。特に、消泡剤については、シリコーン系、ポリエーテル系、鉱油系等の各種消泡剤が開発されているが(例えば、特許文献1参照。)、いずれも発生した泡に対する事後的な対策であって、泥水が起泡する原因や条件を含めた起泡性泥水の体系的な処理方法についての検討はなされていなかった。
【0004】
このため、泥水を使用する工事においては、泥水に泡が発生した時点で消泡剤を散布する等の対策を講じており、条件によっては消泡が困難となる場合や一時的な消泡は可能であっても継続的に泡の発生を抑制することが困難となる場合があった。
また、キャビテーションの発生によるポンプ効率の低下の問題は、ポンプ効率が低下することによって初めて対策を講じることとなるため、対策が遅れがちになるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の泥水を使用する工事で発生する起泡性泥水の問題に鑑み、泥水が起泡する原因や条件を探求した結果、泥水に泡が発生する前段階で泥水の性状を把握することで、泥水処理や流体輸送を行う際の障害となる起泡性泥水の泡の発生を抑制することができるようにした起泡性泥水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の起泡性泥水の処理方法は、泥水を使用する工事で発生する起泡性泥水の処理方法において、工事で発生する泥水のpH値を測定し、pH値が予め定めた閾値を超えた場合に、泥水にpH調整剤を添加することを特徴とする。
【0008】
この場合において、前記pH調整剤に酸を使用し、該pH調整剤を泥水に添加することで泥水のpH値を閾値以下に維持するようにすることができる。
【0009】
また、前記pH調整剤に炭酸水素ナトリウムを使用し、該pH調整剤を泥水に添加するようにすることができる。
【0010】
また、前記閾値を、pH12.0~13.0の範囲にある特定のpH値、例えば、pH12.5に設定することができる。
【0011】
また、前記工事で発生する泥水に、消泡剤、比重調整剤及び分散剤の1種又は2種以上を添加することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の起泡性泥水の処理方法は、泥水を使用する工事で発生する泥水が起泡する原因や条件を探求した結果、その原因が、泥水のpH(含有成分)、粘性、比重、水温にあり、特に、コンクリート構造物等やセメント等が含有している改良地盤を掘削することに伴う、工事で発生する泥水のpH値の上昇にあることが判明した。
このため、この起泡性泥水の処理方法は、例えば、泥水に泡が発生する前段階で泥水の性状を把握することで、具体的には、工事で発生する泥水のpH値を測定し、pH値が予め定めた閾値(当該閾値は、pH12.0~13.0、好ましくは、pH12.3~12.6の範囲にある特定のpH値、例えば、pH12.5に設定することができる。)を超えた場合に、泥水にpH調整剤として、酸や炭酸水素ナトリウムを添加することによって、さらに、必要に応じて、泥水に、消泡剤、比重調整剤及び分散剤の1種又は2種以上を添加することによって、泥水処理や流体輸送を行う際の障害となる起泡性泥水の泡の発生を抑制したり、液中の気泡の脱泡を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の起泡性泥水の処理方法の実施の形態を、具体的な実施形態に基づいて説明する。
【0014】
本発明の起泡性泥水の処理方法をなすに当たり、本発明の発明者らは、泥水を使用する工事で発生する泥水が起泡する原因や条件を探求するため、泥水シールド工事を例に、工事に用いられる材料及び工事に伴って泥水に含まれる材料について検討した。
その検討結果を、表1に示す。
【0015】
【0016】
ここで、コンクリート構造物中に含まれる、セメント、空気量調整剤、高性能AE減水剤等は、起泡性に顕著な影響を及ぼし、その他の添加剤では起泡性に大きな変化は確認できないことから、特に、マスターグレニウムSP8SV(商品名)等の高性能AE減水剤やマスターエア202(商品名)等の空気量調整剤が含まれるコンクリート構造物等やセメント等が含有している改良地盤では顕著な起泡性が認められる。
【0017】
泥水が起泡する原因については、上記の検討結果及び本発明の発明者らが行った他の実験結果から、泥水のpH(含有成分)、粘性、比重、水温にあり、特に、表2に示すように、コンクリート構造物等やセメント等が含有している改良地盤を掘削することに伴う、工事で発生する泥水のpH値の上昇にあることが判明した。
【0018】
【0019】
このため、本発明の起泡性泥水の処理方法は、例えば、泥水に泡が発生する前段階で泥水の性状を把握することで、具体的には、工事で発生する泥水のpH値を測定し、pH値が予め定めた閾値(当該閾値は、pH12.0~13.0、好ましくは、pH12.3~12.6の範囲にある特定のpH値、例えば、pH12.5に設定することができる。)を超えた場合に、泥水にpH調整剤を添加することで閾値以下に維持するようにすることによって、泥水処理や流体輸送を行う際の障害となる起泡性泥水の泡の発生を抑制するようにしたものである。
これにより、泡を含む泥水が脱水篩の下にある下部水槽や調整槽からオーバーフローするといった問題や流体輸送を行う際の各種ポンプにおいて起泡に伴う泡の影響でキャビテーションが発生してポンプ効率が低下することによる工事の進捗に影響を与える問題を解消することができる。
【0020】
ここで、pH調整剤には、硫酸、塩酸、硝酸等の各種酸を用いることができ、それぞれ水に希釈したものを添加する等、その使用形態に特定の制限はない。
【0021】
この場合において、さらに、必要に応じて、泥水に、消泡剤、比重調整剤及び分散剤の1種又は2種以上を添加することによって、起泡性泥水の泡の発生を抑制することができるが、その場合でも、工事で発生する泥水のpH値を所定の閾値以下に管理することによって、消泡剤等の添加剤の添加量を抑制することができる。
【0022】
ここで、消泡剤には、表3に示す実験結果から、ポリエーテル系、鉱物油系又はポリエーテル系+鉱物油系の消泡剤を混合したものを用いることが望ましく、ポリエーテル系の消泡剤を1ppm~1000ppmとなるように用いることがより望ましいが、消泡剤の効果が本発明の効果を逸脱しない限りは特に限定されない。
【0023】
【0024】
また、比重調整剤には、ベントナイトを用いることが望ましく、表4及び表5に示す実験結果から、泥水の比重は1.00~1.29g/cm3の範囲にあって、特に、1.15g/cm3以下であることが望ましい。
【0025】
また、表4及び表5に示す実験結果から、泥水の粘性がファンネル粘度計にて19~22秒の範囲にあると起泡しやすく、22秒以上となると起泡しにくくなる。しかし、高粘性やチクソ性を得た泥水においては、液中の気泡が脱泡しにくくなり、各種ポンプがキャビテーションを起こしやすい物性となる。
このため、液中の気泡の脱泡を促進するように分散剤を用いることが望ましい。このための分散剤としては、ポリアクリル酸塩やポリリン酸塩系等の分散剤を用いることができる。
【0026】
【0027】
【0028】
ところで、pH調整剤には、上記の各種酸のほか、炭酸水素ナトリウムを単独又は各種酸と併せて用いることができる。
以下、pH調整剤に炭酸水素ナトリウムを使用した実験結果を示す。
【0029】
表6に、実験に使用した材料を示す。
【0030】
【0031】
pH調整剤に炭酸水素ナトリウムを使用した実験は、以下のように行った。
(1)泥水(比重1.10)に各切削対象コンクリート配合材料を添加した、表6に示す材料からなる対象泥水を10分間撹拌した。
(2)落下法及び曝気法により泡沫の評価を行う。その際に、比重、FV粘性、水温及びpHを測定する。なお、比重はマッドバランス、粘性はファンネル粘度計、水温は温度計、pHはポータブルpH計にて測定を行った。
(3)高い発泡性を有する泥水に対し、炭酸水素ナトリウムを諸条件で添加し、(2)の実験から効果を確認する。また、経時変化によるpHの抑制時間を(2)の実験から確認した。
(4)消泡剤との併用効果を確認するために、消泡剤を添加したものと、消泡剤と炭酸水素ナトリウムを併用したもので(2)の実験を行った。
(5)希硫酸と併用効果を確認するために、希硫酸及び炭酸水素ナトリウムを併用してpH調整したもので(2)の実験を行う。
(6)(3)~(5)の経時的影響を(2)の実験から確認した。
【0032】
各材料の泡沫安定度の評価は、以下の方法で行った。
本実験における泡沫安定度の評価をするため、2つの起泡力の評価法を採用した。
(1)落下法
1.高さ1mのところにファンネル(漏斗)を設置する。
2.落下地点に1000mlメスシリンダーを設置する。
3.ファンネルに各材料を添加した泥水500mlを入れ、落下させる。
4.落下後、泡の体積を目視によって読み取る。
(2)曝気法
1.各材料を添加した泥水500mlをメスシリンダーに取る。
2.メスシリンダーの中にバブルストーンを入れ、圧力を0.4MPaに定めて曝気を行う。
3.曝気後、泡の体積を目視によって読み取る。
【0033】
表7~表15に実験結果を示す。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
表7~表15に示す実験結果から、以下のことが明らかとなった。
(1)pH調整剤に炭酸水素ナトリウムを用いることで、泥水は起泡性の高い性状になるが、消泡速度が速くなることが分かった。具体的には、曝気法では、泡がオーバーフローを起こすほど起泡性の高い性状になったが、消泡が速く10秒程度で完全に消泡する泥水性状となっていることを確認した。
(2)消泡剤との併用実験では、炭酸水素ナトリウムを用いて消泡性を高めた泥水を、消泡剤にて抑泡することで非常に起泡し難い泥水となることを確認した。
(3)結果として、炭酸水素ナトリウムには、pHを低下させる機能が認められ、セメント粒子などのアルカリ溶出原因物質との割合でその効果が変化することが分かった。一方、希硫酸と同様に、経時によるpHの上昇が認められ、起泡性が高まることを確認した。
(4)消泡剤との併用によって消泡性・抑泡性が向上することを確認した。
(5)pH調整剤としての希硫酸との併用によって消泡性・抑泡性が向上することを確認した。
【0044】
以上、本発明の起泡性泥水の処理方法について、その実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の起泡性泥水の処理方法は、泥水に泡が発生する前段階で泥水の性状を把握することで、泥水処理や流体輸送を行う際の障害となる起泡性泥水の泡の発生を抑制することができることから、泥水シールド工事、泥水推進工事、基礎工事等の泥水を使用する工事における起泡性泥水の処理の用途に好適に用いることができる。