(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】造影用の複合粒子、複合粒子の製造方法、細胞、細胞構造体および混合分散液
(51)【国際特許分類】
A61K 49/14 20060101AFI20230310BHJP
A61K 49/08 20060101ALI20230310BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20230310BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230310BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230310BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230310BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230310BHJP
【FI】
A61K49/14
A61K49/08
A61K9/48
A61K9/14
A61K47/42
A61K47/02
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2019551100
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2018039058
(87)【国際公開番号】W WO2019087828
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2017213709
(32)【優先日】2017-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599029420
【氏名又は名称】田畑 泰彦
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】乾 智惠
(72)【発明者】
【氏名】田畑 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】前澤 明弘
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠
(72)【発明者】
【氏名】平山 奈津実
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-517085(JP,A)
【文献】特開2008-150596(JP,A)
【文献】特表2010-540513(JP,A)
【文献】特表2009-519894(JP,A)
【文献】特表2009-536151(JP,A)
【文献】TOMITAKA, Asahi et al.,Preparation of biodegradable iron oxide nano-particles with gelatin for magnetic resonance imaging,Inflammation and Regeneration,2014年,Vol.34, No.1,pp.45-55,ISSN:1880-9693, 特に第46頁右欄第8行~第47頁第29行、第49頁右欄第9行~第12行、第51頁左欄
【文献】GUPTA, Ajay Kumar et al.,Synthesis and surface engineering of iron oxide nanoparticles for biomedical applications,Biomaterials,2005年,Vol.26,pp.3995-4021,ISSN:0142-9612
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影作用を有する物質と、
前記造影作用を有する物質よりも細胞内で溶解または分解しやすい物質であって、前記造影作用を有する物質の溶解または分解を促進する物質である分解促進剤と、を含み、
前記分解促進剤は前記造影作用を有する物質に内包されており、
前記造影作用を有する物質は、Feを含む物質であり、
前記分解促進剤は、親水性高分子と、Mg、Ca、K、AlおよびZnからなる群からなる原子を含む化合物とを含み、
水以外の成分の全質量に対する、親水性高分子の質量の割合は、25質量%以上95質量%以下であり、
細胞内での6日経過後における造影率および同一種の細胞内での11日経過後における造影率の平均値である長期残存量と、同一種の細胞内での2日経過後における造影率である短期残存量と、の比率(長期残存量/短期残存量)が、90%未満である、造影用の複合粒子。
【請求項2】
水以外の成分の全質量に対する、前記
Mg、Ca、K、AlおよびZnからなる群からなる原子の質量の割合は、0.1質量%以上90質量%以下である、請求項
1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記
親水性高分子は、ゼラチンである、請求項
1または2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記分解促進剤は、
Feと配位結合できるキレート
剤を含む、請求項
1~3のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項5】
前記造影作用を有する物質は、MRI用の造影剤に含まれ得る物質である、請求項
1~4のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項6】
含水量が0.01質量%以上10質量%以下であるときの、Feの1gあたりの飽和磁化量は1emu/g以上150emu/g以下である、請求項
5に記載の複合粒子。
【請求項7】
前記複合粒子の体積平均粒子径は、2.0nm以上1500nm以下である、請求項
1~6のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項8】
その外縁部が前記分解促進剤によって被覆されている、請求項
1~7のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項9】
造影作用を有する物質と、
前記造影作用を有する物質よりも細胞内で溶解または分解しやすい物質であって、前記造影作用を有する物質の溶解または分解を促進する物質である分解促進剤と、を含み、
前記分解促進剤は前記造影作用を有する物質に内包されて
おり、
前記造影作用を有する物質は、Feを含む物質であり、
前記分解促進剤は、親水性高分子と、Mg、Ca、K、AlおよびZnからなる群からなる原子を含む化合物とを含み、
水以外の成分の全質量に対する、親水性高分子の質量の割合は、25質量%以上95質量%以下である、造影用の複合粒子。
【請求項10】
Feを含む造影作用を有する物質と、
親水性高分子と、Mg、Ca、K、AlおよびZnからなる群からなる原子を含む化合物とを含む分解促進剤と、を含む溶液を用意する工程と、
前記溶液内で前記造影作用を有する物質を粒子化する工程と、
を含む、請求項
1~9のいずれか1項に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項
1~9のいずれか1項に記載の複合粒子を細胞膜の内側に有する細胞。
【請求項12】
複数の請求項
11に記載の細胞が集合してなる、細胞構造体。
【請求項13】
前記細胞構造体は、複数の前記細胞がシート状に凝集した細胞シート、複数の前記細胞が球状に凝集したスフェロイド、複数の前記細胞が高分子からなる膜で被覆された構造体、または高分子からなる立体構造体の表面を複数の前記細胞が被覆している構造体である、請求項
12に記載の細胞構造体。
【請求項14】
複数の請求項
11に記載の細胞または請求項
12もしくは
13に記載の細胞構造体と、高分子と、を含む、混合分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造影用の複合粒子、複合粒子の製造方法、細胞、細胞構造体および混合分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
画像診断などのために生体内を撮像するとき、観察対象をより明瞭に画像上で表現するため、造影作用を有する粒子(以下、単に「造影剤粒子」ともいう。)が用いられる。造影剤粒子の例には、MRI用の造影剤である磁性体(酸化鉄など)の粒子などが含まれる。造影剤粒子は、生体内での安定性および生体適合性を高めるなどの目的を達成するため、生分解性物質を含む粒子(以下、単に「複合粒子」ともいう。)として用いられることがある。
【0003】
たとえば、特許文献1には、疎水性有機物質で表面処理された磁性酸化鉄ナノ粒子と塩粒子とを含む混合粉末をアニーリングして有機物質がない酸化鉄ナノ粒子を作製し、その後、上記酸化鉄ナノ粒子を親水性高分子でコーティングして得られる、複合粒子が記載されている。特許文献1には、上記混合粉末をアニーリングすることで、酸化鉄ナノ粒子の結晶性を向上させて酸化鉄ナノ粒子の磁性を向上させることができると記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、酸化鉄ナノ粒子などの磁気応答性粒子と、ゼラチンなどのタンパク質と、を混合および撹拌して得られる、複合粒子が記載されている。特許文献2には、上記タンパク質は生体適合性が高いため、上記複合粒子は安全性が高いと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2014-511324号公報
【文献】特表2009-519894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に記載のように、従来は、撮像前における造影剤の生体適合性を高めるために、酸化鉄ナノ粒子などの造影剤粒子をゼラチンなどの親水性高分子でコーティングした複合粒子が検討されてきた。これらの複合粒子は、生体に投与されて観察対象に存在する細胞に到達した後、または観察対象である細胞に直接投与された後(以下、複合粒子を観察対象に存在する細胞に到達させることおよび複合粒子を観察対象である細胞に直接投与することをまとめて、「投与する」という。)に、親水性高分子の溶解などにより造影剤粒子を放出する。
【0007】
ところで、造影剤粒子に用いられる酸化鉄などの材料には、生分解性が低いものも含まれ、撮像後に生体(細胞)内に長期間にわたって残存することがある。撮像後の造影剤粒子は、早期に溶解または分解されて生体(細胞)内から排出されることが望ましい。つまり、撮像後の複合粒子は、生分解性が高いことが望ましい。
【0008】
本発明は、撮像後の生分解性が高い造影用の複合粒子、当該複合粒子の製造方法、当該複合粒子を細胞膜の内部に含む細胞、当該細胞を含む細胞構造体、および当該細胞または細胞構造体を含む混合分散液を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、以下の手段によって解決される。
[1]細胞内での6日経過後における造影率および同一種の細胞内での11日経過後における造影率の平均値である長期残存量と、同一種の細胞内での2日経過後における造影率である短期残存量と、の比率(長期残存量/短期残存量)が、90%未満である、造影用の複合粒子。
[2]造影作用を有する物質と、前記造影作用を有する物質よりも細胞内で溶解または分解しやすい物質であって、前記造影作用を有する物質の溶解または分解を促進する物質である分解促進剤と、を含み、前記分解促進剤は前記造影作用を有する物質に内包されている、[1]に記載の複合粒子。
[3]前記造影作用を有する物質は、金属元素の原子を含む物質であり、前記分解促進剤は、前記金属元素よりもイオン化傾向が大きい金属元素の原子を含む化合物、または前記金属元素の原子と配位結合できるキレート剤、を含む、[2]に記載の複合粒子。
[4]水以外の成分の全質量に対する、前記金属元素よりもイオン化傾向が大きい金属元素の原子の質量の割合は、0.1質量%以上90質量%以下である、[3]に記載の複合粒子。
[5]前記金属元素はFeであり、前記金属元素よりもイオン化傾向が大きい金属元素は、Mg、Na、Ca、K、AlおよびZnからなる群から選択される金属元素を含む化合物である、[3]または[4]に記載の複合粒子。
[6]前記分解促進剤は、生分解性物質を含む、[2]に記載の複合粒子。
[7]前記生分解性物質は、ゼラチンである、[6]に記載の複合粒子。
[8]水以外の成分の全質量に対する、前記親水性高分子の質量の割合は、5質量%以上80質量%以下である、[6]または[7]に記載の複合粒子。
[9]前記造影作用を有する物質は、金属元素の原子を含む物質であり、前記分解促進剤は、前記金属元素よりもイオン化傾向が大きい金属元素の原子を含む化合物または前記金属元素の原子と配位結合できるキレート剤と、生分解性物質と、を含む、[2]に記載の複合粒子。
[10]前記造影作用を有する物質は、MRI用の造影剤に含まれ得る物質である、[2]~[9]のいずれか1項に記載の複合粒子。
[11]前記造影作用を有する物質は、Feを含み、含水量が0.01質量%以上10質量%以下であるときの、Feの1gあたりの飽和磁化量は1emu/g以上150emu/g以下である、[10]に記載の複合粒子。
[12]前記複合粒子の体積平均粒子径は、2.0nm以上1500nm以下である、[2]~[11]のいずれかに記載の複合粒子。
[13]その外縁部が前記分解促進剤によって被覆されている、[2]~[12]のいずれかに記載の複合粒子。
[14]造影作用を有する物質と、前記造影作用を有する物質よりも細胞内で溶解または分解しやすい物質であって、前記造影作用を有する物質の溶解または分解を促進する物質である分解促進剤と、を含み、前記分解促進剤は前記造影作用を有する物質に内包されている、造影用の複合粒子。
[15]生細胞に投与された後の、前記生細胞中での濃度の単位時間あたりの減少率を、互いに重ならない2つの期間において測定したときに、投与からの経過時間がより短い期間における前記減少率が、投与からの経過時間がより長い期間における前記減少率よりも小さい、造影用の複合粒子。
[16]造影作用を有する物質と、前記造影作用を有する物質よりも細胞内で溶解または分解しやすい物質である分解促進剤と、を含む溶液を用意する工程と、前記溶液内で前記造影作用を有する物質を粒子化する工程と、を含む、[1]~[15]のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
[17][1]~[15]のいずれかに記載の複合粒子を細胞膜の内側に有する細胞。
[18]複数の[17]に記載の細胞が集合してなる、細胞構造体。
[19]前記細胞構造体は、複数の前記細胞がシート状に凝集した細胞シート、複数の前記細胞が球状に凝集したスフェロイド、複数の前記細胞が高分子からなる膜で被覆された構造体、または高分子からなる立体構造体の表面を複数の前記細胞が被覆している構造体である、[18]に記載の細胞構造体。
[20]複数の[17]に記載の細胞または[18]もしくは[19]に記載の細胞構造体と、高分子と、の混合分散液。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、撮像後の生分解性が高い造影用の複合粒子、当該複合粒子の製造方法、当該複合粒子を細胞膜の内部に含む細胞、当該細胞を含む細胞構造体、および当該細胞または細胞構造体を含む混合分散液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1Aは、本発明の一実施形態に係る複合粒子を示す模式図であり、
図1Bは、本発明の別の実施形態に係る複合粒子を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る複合粒子が分解する様子を示す模式図であり、
図2Aは細胞内に投与された複合粒子を、
図2Bは分解促進剤が優先して溶解または分解されている複合粒子を、
図2Cは造影剤粒子の溶解または分解も促進されている複合粒子を、
図2Dは加速的に溶解または分解される複合粒子を、それぞれ示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の別の実施形態に係る複合粒子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前記の課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を行ったところ、細胞内での6日経過後における造影率および同一種の細胞内での11日経過後における造影率の平均値を算出して求められる値(以下、単に「長期残存量」ともいう。)と、同一種の細胞内での2日経過後における造影率である値(以下、単に「短期残存量」ともいう。)と、の比率(長期残存量/短期残存量)が、90%未満である、造影剤および生分解性物質を含む粒子(以下、単に「複合粒子」ともいう。)を作製した。
【0013】
なお、「造影率」とは、当該複合粒子を造影剤として用いたときに細胞内から検出される信号の強度を意味する。たとえば、当該複合粒子がMRI用の造影剤であるときは、造影率は飽和磁化率とすることができ、当該複合粒子がX線撮像用の造影剤であるときは、造影率は撮像された画像内での当該複合粒子の明度または輝度(X線吸収率)とすることができ、当該複合粒子がポジトロン断層撮像法(PET)用の造影剤粒子の造影剤であるときは、造影率は放射線の強度とすることができ、当該複合粒子が蛍光撮像用の造影剤であるときは、造影率は蛍光強度とすることができ、当該複合粒子が光音響撮像用の造影剤であるときは、造影率は超音波の強度とすることができる。
【0014】
長期残存率および短期残存率を測定するために用いる細胞は、同一種の細胞を用いる限りにおいて、いずれの種類の細胞でもよいが、容易に入手可能な細胞株由来の細胞であることが好ましく、接着性の動物細胞がより好ましい。上記動物細胞は、いかなる動物種に由来する細胞であってもよく、たとえば、ヒト、ブタ、イヌおよびマウスなどに由来する細胞を用いることができる。接着性の動物細胞の例には、初代培養細胞および株化細胞などの、培養容器への接着性が高い細胞が含まれ、たとえば、表皮角化細胞、血管内皮細胞、繊維芽細胞、骨芽細胞および肝細胞などの初代培養細胞、ならびに、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、間葉系幹細胞、脂肪前駆細胞、肝幹細胞などを含む幹細胞または前駆細胞などが含まれる。上記細胞は、培養前に外来遺伝子が導入された細胞であってもよいし、抗体およびリガンドなどの刺激因子などにより予め刺激または加工されている細胞であってもよい。
【0015】
1.複合粒子
本発明の一実施形態において、
図1Aに示すように、複合粒子100は、造影剤粒子110と、造影剤粒子110の分解を促進する分解促進剤120と、を含む。造影剤粒子110は、内部に空孔112を有し、分解促進剤120は、空孔112の内部に存在して造影剤粒子110に内包されている。
図1Bに示すように、複合粒子100は、造影剤粒子110の外縁部が分解促進剤130でさらに被覆されていてもよい。なお、上記被覆する分解促進剤130は、内包される分解促進剤120と同一の物質から形成されてもよいし、異なる物質から形成されてもよい。
【0016】
複合粒子100は、造影剤粒子110を含む。造影剤粒子110は、造影作用を有する物質を含んでなる粒子であるであり、細胞内を撮像したときに、生体物質とは異なるコントラストまたは輝度などで撮像された画像内に表示されることにより、その存在が強調して画像内に表示される物質を含んでなる粒子である。
【0017】
造影剤粒子110の例には、MRI用の造影剤粒子、X線撮像用の造影剤粒子、ポジトロン断層撮像法(PET)用の造影剤粒子、蛍光撮像用の造影剤粒子、および光音響撮像用の造影剤粒子などの公知の造影剤粒子が含まれる。
【0018】
MRI用の造影剤粒子に含まれ得る造影作用を有する物質の例には、ガドリニウム(Gd)ならびに酸化鉄(Fe3O4、γ-Fe2O3およびフェライトなど)を含む磁性体が含まれる。
【0019】
X線撮像用の造影剤粒子に含まれ得る造影作用を有する物質の例には、タングステン、白金、タンタル、イリジウム、金、硫酸バリウム、次炭酸ビスマス、三酸化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、メトリザマイド、イオパミドール、イオタラム酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウムおよびメグルミンなどが含まれる。
【0020】
蛍光撮像用の造影剤粒子に含まれ得る造影作用を有する物質の例には、フルオレセインおよびインドシアニングリーンなどを含む蛍光色素、ならびに緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光タンパク質などが含まれる。
【0021】
光音響撮像用の造影剤粒子に含まれ得る造影作用を有する物質の例には、金ナノ粒子、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、インドシアニングリーンおよびメチレンブルーなどが含まれる。
【0022】
造影剤粒子110は、空孔112を有する多孔質の粒子である。空孔112は、複合粒子100の分解を促進できる量の分解促進剤120が造影剤粒子110の内部(空孔112の内部)に存在できる大きさおよび形状を有すればよい。
【0023】
より多くの分解促進剤120を造影剤粒子110の内部に内包し、撮像後の複合粒子100の分解率を高める観点からは、造影剤粒子110の比表面積および空孔率はより大きいことが望ましい。また、特にMRIで撮像するときに、撮像前に空孔112内の分解促進剤120がわずかに溶解または分解して生じる隙間に水(プロトン)が入り込むことにより飽和磁化率をより高める観点からも、造影剤粒子110の比表面積および空孔率はより大きいことが望ましい。一方で、投与された複合粒子100が撮像前に過剰に分解することによる造影作用の低下を抑制する観点からは、造影剤粒子110の比表面積および空孔率は大きすぎないことが望ましい。
【0024】
上記観点から、造影剤粒子110の比表面積は、144cm2/g以上11500cm2/g以下であることが好ましく、400cm2/g以上5500cm2/g以下であることがより好ましく、576cm2/g以上5500cm2/g以下であることがさらに好ましい。
【0025】
また、上記観点から、造影剤粒子110の空孔率は、10%以上90%以下であることが好ましく、20%以上80%以下であることがより好ましく、30%以上70%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
なお、造影剤粒子110の比表面積および空孔率は上記範囲に限定されるものではなく、撮像後に造影剤粒子110が分解しやすくなり、かつ、投与された複合粒子100が撮像前に過剰に分解しない範囲である限りにおいて、造影剤粒子の材料および観察対象の種類(観察対象である細胞が分泌可能な酵素や当該細胞内(特にはリソソーム内)のpHなど)などに応じて任意に定めることができる。
【0027】
造影剤粒子110の比表面積は、造影剤粒子110の見かけ表面積を、造影剤粒子110の見かけ体積と密度との積で除算して得られる値とすることができる。造影剤粒子110の見かけ表面積は、透過型電子顕微鏡(SEM)によって撮像した造影剤粒子110の断面画像をもとに、1個の造影剤粒子110の輪郭線から推定される当該造影剤粒子110の表面積を、複数(たとえば20個)の造影剤粒子110について求め、当該求められた複数の造影剤粒子110の表面積の平均値として算出することができる。造影剤粒子110の見かけ体積は、上記SEMによって撮像した造影剤粒子110の断面画像をもとに、1個の造影剤粒子110の長径と短径との平均値を加算平均して当該造影剤粒子110の平均粒子径を算出し、造影剤粒子110が球形であると仮定して当該平均粒子径から算出される当該造影剤粒子110の体積を複数(たとえば20個)の造影剤粒子110について求め、当該求められた複数の造影剤粒子110の体積の平均値として算出することができる。造影剤粒子110の密度は、ICP発光分光分析法により同定される造影剤粒子110の材料について公知の密度とすることができる。
【0028】
造影剤粒子110の空孔率は、上記SEMによって撮像した造影剤粒子110の断面画像における、造影剤粒子110と空孔112との面積比率を、体積比率に換算して得られた値(上記面積比率の平方根を3乗して得られた値)とすることができる。
【0029】
なお、空孔112は、
図1Aに示す空孔112aのように、その全体が分解促進剤120で充填されていてもよいし、
図1Aに示す空孔112bのように、その一部に分解促進剤120が存在しない領域を有してもよい。
【0030】
分解促進剤120は、上記造影作用を有する物質の溶解または分解を促進して、複合粒子100の分解を促進する物質である。分解促進剤120は、細胞内の環境で造影剤粒子110よりも早く溶解または分解して造影剤粒子110の分解を促進し、上記造影作用を有する物質の溶解または分解を促進する物質とすることができる。
【0031】
図2に示すように、複合粒子100(
図2A)が細胞内に投与されると、細胞内の酵素による作用またはリソソームなどの酸性(低pH)環境による作用などにより、複合粒子100に含まれる分解促進剤120が優先して溶解または分解される(
図2B)。これにより、造影剤粒子110の表面積が増加して造影剤粒子110も溶解または分解されやすくなったり、分解促進剤120が部分的に剥離するときに造影剤粒子110の周縁部も同時に剥離されたりして、造影剤粒子110の溶解または分解も促進される(
図2C)。そのため、複合粒子100は、投与からある程度の時間を経過した後(撮像後)に加速的に溶解または分解されると考えられる(
図2D)。
【0032】
一方で、投与直後においては、空孔112の内部には分解促進剤120が存在するため、細胞内の酵素や酸性の細胞内液は空孔112の内部に侵入しにくく、複合粒子の溶解または分解は抑制される。
【0033】
上述した作用により、複合粒子100は、投与直後は溶解または分解されにくく、投与からある程度の時間を経過した後に加速的に溶解または分解されるという特性を有すると考えられる。これにより、複合粒子100に含まれる造影剤粒子110は、投与後、撮像までは良好な造影作用を有するだけの大きさを有するため造影作用が良好であるが、その後は急速に溶解または分解して細胞内から排除される。
【0034】
そのため、複合粒子100は、生細胞に投与された後の、当該生細胞内に含まれる複合粒子100の濃度の単位時間あたりの減少率を測定したとき、投与からの経過時間がより短い期間における上記減少率が、投与からの経過時間がより長い期間における上記減少率よりも小さいという特性を有し得る。この特性は、生細胞に投与した後は複合粒子100が溶解または分解される速度が遅い(上記減少率が小さい)が、時間を経過するにつれて溶解または分解される速度が速くなっていく(上記減少率が大きくなっていく)ことを示す。上記投与からの経過時間がより短い期間と、投与からの経過時間がより長い期間とは、互いに重ならない期間であればよく、任意に定めることができる。たとえば、投与時から2日経過後までの複合粒子100の濃度の1日あたりの減少率を「投与からの経過時間がより短い期間における減少率」とし、投与から6日経過時以降11日経過時までの複合粒子100の濃度の1日あたりの減少率を「投与からの経過時間がより長い期間における減少率」とすることができる。また、生細胞中の複合粒子100の濃度は、生細胞中の造影作用を有する物質の濃度とすることができる。分解促進剤120の種類または量を変化させることで、上記特性を充足する複合粒子を作製することができる。
【0035】
分解促進剤120は、たとえば、造影剤粒子110が金属元素の原子を含む粒子であるとき、当該金属元素よりもイオン化傾向が大きい金属元素の原子(以下、単に「易イオン化原子」ともいう。)を含む化合物、または当該金属原子と配位結合できるキレート剤(以下、単に「キレート剤」ともいう。)を含む化合物とすることができる。あるいは、分解促進剤120は、細胞内の酵素またはpHにより分解される、生分解性物質とすることができる。なお、分解促進剤120は、上記各物質以外に水を含んでもよい。
【0036】
分解促進剤120は、単一の上記化合物または物質でもよく、複数の上記化合物または物質の組み合わせでもよい。特に、分解促進剤120は、酸化鉄粒子の分散状態を維持させやすいため、易イオン化原子を含む化合物またはキレート剤と、生分解性物質と、の組み合わせであることが好ましい。
【0037】
たとえば、造影剤粒子110がFeの原子を含む粒子であるときは、分解促進剤120は、易イオン化原子として、Feよりもイオン化傾向が大きい金属元素である、Mg、Na、Ca、K、AlおよびZnなどの原子を含む化合物とすることができる。これらの原子を含む化合物は、たとえば上記元素を含む塩、および上記元素の酸化物または窒化物などとすることができる。これらのうち、分解促進剤をより溶解させやすくする観点からは、塩であることが好ましい。これらの化合物は、複合粒子100に分散状態を維持させやすいため、複合粒子100の造影率をより高めつつ、分解促進剤120による複合粒子100の分解をさらに促進する。
【0038】
また、キレート剤は、造影剤粒子に含まれる金属元素の種類に応じて適宜選択することができる。上記キレート剤の例には、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸(HIDA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラアミンヘキサ酢酸(TTHA)、ジカルボキシメチルグルタミン酸(GLDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、1,3-プロパンジアミンテトラ酢酸(PDTA)、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸(GEDTA)、1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパンテトラ酢酸(DPTA-OH)、ヒドロキシエタンジホスホン酸(HEDP)、ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTMP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)、クエン酸、およびアスコルビン酸などが含まれる。
【0039】
上記生分解性物質は、細胞内で加水分解されるか、細胞内で分泌される酵素により分解されるか、または細胞内のリソソームなどにおける酸性環境下で溶解または分解する材料を含む物質であればよい。たとえば、上記生分解性物質は、水溶性の化合物であることが好ましく、親水性高分子であることがより好ましい。
【0040】
分解促進剤120を細胞内でより溶解または分解されやすくする観点から、上記親水性高分子である生分解性物質は、ハイドロゲルであることが好ましい。ハイドロゲルとは、水を溶媒として形成可能なゲルを意味する。典型的には、ハイドロゲルは、網目構造を形成する親水性の高分子と、上記網目構造に取り込まれた水とを含む。
【0041】
ハイドロゲルの例には、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸、アガロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、およびペクチンなどを含む多糖類、ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、およびアルブミンなどを含むタンパク質、ポリ-γ-グルタミン酸、ポリ-L-リジン、およびポリアルギニンなどを含むポリアミノ酸、ならびに、アクリルアミド、シリコーン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、およびポリビニルピロリドンなどを含む合成高分子が含まれる。
【0042】
これらのうち、複合粒子100を生細胞自らによって細胞内に取り込まれやすくして、取り込みの際の生細胞の損傷などを抑制可能とする観点からは、多糖類、タンパク質およびポリアミノ酸が好ましく、入手または作製の容易さからは、多糖類およびタンパク質がより好ましく、ゼラチンがさらに好ましい。
【0043】
上記ゼラチンは、具体的には、アミノ酸測定装置で分析した際、アミノ酸1000残基の内、グリシンが300以上含まれており、アラニン、プロリン両方を含むタンパク質である。ゼラチンは、牛骨、牛皮、豚皮、豚腱、魚鱗および魚肉などに由来するコラーゲンを変性して得られる、公知のいかなるゼラチンであってもよい。ゼラチンは、以前から食用や医療用に使用されており、体内に摂取しても人体に害を与えることが少ない。
【0044】
なお、これらの分解促進剤120は、溶解または分解された造影効果を有する物質を捕捉して、造影効果を有する物質の細胞内での析出および沈殿などを抑制し、造影効果を有する物質を排出しやすくする効果もあると期待される。たとえば、造影効果を有する物質がFeであるとき、上記親水性高分子が含むカルボキシル基などが溶解したFeイオンを捕捉して(R-COOFeを形成して)、上記親水性高分子とともにFeを細胞外に排出させることができる。
【0045】
上記親水性高分子の重量平均分子量は、1000以上100000以下であることが好ましい。上記重量平均分子量は、たとえばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって得られるスチレン換算の分子量、またはゼラチンについてはパギイ法第10版(2006年)に準じて測定された値とすることができる。
【0046】
上記親水性高分子は、架橋していてもよい。架橋は、架橋剤による架橋でもよいし、架橋剤を用いずになされる自己架橋でもよい。
【0047】
上記架橋剤は、たとえば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、チオール基およびイミダゾール基などと化学結合を作る官能基を複数有する化合物であればよい。このような架橋剤の例には、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)および1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド-メト-p-トルエンスルホナート(CMC)などを含む水溶性カルボジイミド、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルおよびグリセロールポリグリシジルエーテルなどを含む2以上のエポキシ基を有する化合物、ならびにプロピレンオキサイドなどが含まれる。これらのうち、反応性をより高める観点からは、グルタルアルデヒドおよびEDCが好ましく、グルタルアルデヒドがより好ましい。
【0048】
上記自己架橋の例には、熱の付与または電子線もしくは紫外線の照射による架橋が含まれる。
【0049】
分解促進剤120が含有する水の量は特に限定されないが、膨潤処理後において、分解促進剤120の全質量に対して1質量%以上99質量%以下であることが好ましく、10質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
なお、本明細書において、膨潤処理後とは、乾燥時の複合粒子100を40℃の水中に大気圧下で60分間浸漬する処理を意味する。また、本明細書において、乾燥時の複合粒子100とは、80℃の大気中に24時間静置した後の複合粒子100を意味する。
【0051】
複合粒子100は、分解促進剤120が易イオン化原子を含む化合物であるとき、複合粒子100に含まれる水以外の成分の全質量に対する易イオン化原子を含む化合物の量が0.1質量%以上90質量%以下であることが好ましい。上記易イオン化原子を含む化合物の量が0.1質量%以上であると、分解促進剤120の溶解または分解により造影剤粒子110の分解が良好に促進される。また、特にMRIで撮像するときに、上記易イオン化原子を含む化合物の量が0.1質量%以上であると、撮像前に空孔112内の上記易イオン化原子がわずかに溶解して生じる隙間に水(プロトン)が入り込むことにより、飽和磁化率をより高めることができる。上記易イオン化原子を含む化合物の量が90質量%以下であると、複合粒子100が十分な量の造影剤粒子110を含むため、複合粒子100の造影効果が十分に発揮される。上記観点からは、複合粒子100に含まれる水以外の成分の全質量に対する易イオン化原子を含む化合物の量は、0.1質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。なお、造影剤粒子110が分解促進剤120によってさらに被覆されているときは、上記易イオン化原子を含む化合物の量は、造影剤粒子110を被覆する分解促進剤120を構成する易イオン化原子の量を含む値である。
【0052】
複合粒子100に含まれるキレート剤の全質量は、複合粒子100に含まれる水以外の成分の全質量に対するキレート剤の量が0.1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。なお、造影剤粒子110が分解促進剤120によってさらに被覆されているときは、上記キレート剤の量は、造影剤粒子110を被覆する分解促進剤120を構成する易イオン化原子の量を含む値である。
【0053】
複合粒子100は、分解促進剤120が上記親水性高分子であるとき、複合粒子100に含まれる水以外の成分の全質量に対する親水性高分子の量が1.0質量%以上95質量%以下であることが好ましい。上記親水性高分子の量が1.0質量%以上であると、分解促進剤120の溶解または分解により造影剤粒子110の分解が良好に促進される。また、特にMRIで撮像するときに、親水性高分子の量が5質量%以上であると、撮像前に空孔112内の上記親水性高分子がわずかに溶解または分解して生じる隙間に水(プロトン)が入り込むことにより、飽和磁化率をより高めることができる。上記親水性高分子の量が95質量%以下であると、複合粒子100が十分な量の造影剤粒子110を含むため、複合粒子100の造影効果が十分に発揮される。上記観点からは、複合粒子100にまれる水以外の成分の全質量に対する親水性高分子の量は、1.0質量%以上95質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上95質量%以下であることがさらに好ましい。なお、造影剤粒子110が分解促進剤120によってさらに被覆されているときは、上記親水性高分子の量は、造影剤粒子110を被覆する分解促進剤120を構成する親水性高分子の量を含む値である。
【0054】
複合粒子100に含まれる水以外の成分の全質量は、上記乾燥時の複合粒子100の質量とすればよい。複合粒子100に含まれる易イオン化原子の全質量は、ICP発光分光分析法により測定された値とすることができる。なお、SEMによって撮像された画像内に空孔112を有する粒子と当該空孔112内に内包された他の物質とを含む複合粒子100が観察され、かつ、ICP発光分光分析法によって造影剤となり得る金属元素および当該金属元素よりもイオン化傾向が大きい金属の元素が同定されたときは、前者の金属元素が造影剤粒子110を構成する元素であり、後者の金属元素が分解促進剤120を構成する易イオン化原子である元素であると推測できる。このとき、SEMで撮像された画像から推測される粒子および空孔112内の物質の体積と、ICP発光分光分析法によって測定された各元素の質量と当該元素の比重とから算出される当該元素の体積と、を比較して、両者がそれぞれ造影剤粒子110を構成する元素と分解促進剤120を構成する元素とであることを確認してもよい。
【0055】
複合粒子100に含まれる生分解性物質またはキレート剤の全質量は、FT-IRなどの公知の方法により測定された値とすることができる。
【0056】
たとえば、複合粒子100(または複合粒子100を含むスラリーを13000rpmで20分遠心分離して回収された沈殿)を以下に例示する条件でFT-IR測定した得られたスペクトルから、生分解性物質に由来すると想定される官能基または構造(たとえば、COOH)に対応するピークの高さまたはピーク面積から、生分解性物質の量を算出すればよい。
測定装置:フーリエ変換型赤外分光光度計Nicolet380(Thermo Fisher Scientific社製)
FT-IR測定条件 :1点反射型ATR法
検出範囲 :4000-700cm-1
スキャン回数:32回
使用窓材 :Ge
分解能 :4
ビームスプリッタ:KBr
ゲイン :2
光源 :IR
検出器 :DTGS KBr
【0057】
複合粒子100は、十分な造影率が得られる量の上記造影効果を有する物質を含めばよい。たとえば、造影剤粒子110がMRI用の造影剤粒子であるとき、造影効果を有する物質の量は、含水量が0.01質量%以上10質量%以下であるときの複合粒子100の飽和磁化率が1.0emu/g以上150emu/g以下となる量であることが好ましく、30emu/g以上140emu/g以下となる量であることがより好ましい。
【0058】
細胞自らによって細胞内に取り込まれやすくして、取り込みの際の生細胞の損傷などを抑制する観点からは、複合粒子100は、平均粒子径が2.0nm以上1500nm以下の粒子であることが好ましい。
【0059】
平均粒子径が2.0nm以上である複合粒子100は、粒子内により多くの上記造影効果を有する物質を含ませやすい。上記観点からは、複合粒子100の粒子径は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。
【0060】
平均粒子径が1500nm以下である複合粒子100は、生細胞自らの活動による細胞内への取り込みがなされやすい。これは、上記粒子径が1500nm以下である複合粒子100は生細胞によって異物と認識されにくく、エンドサイトーシス等の活動により細胞内に取り込まれやすいからと考えられる。上記観点からは、複合粒子100の粒子径は、1000nm以下であることが好ましく、800nm以下であることがより好ましく、600nm以下であることがさらに好ましい。
【0061】
特に、複合粒子100の体積に対する表面積の比率を大きくして、複合粒子100を溶解させやすくする観点からは、複合粒子100の平均粒子径はより小さいことが好ましく、2.0nm以上500nm以下であることが好ましく、2.0nm以上400nm以下であることがより好ましく、2.0nm以上300nm以下であることがさらに好ましい。
【0062】
複合粒子100は、乾燥時のアスペクト比が1.0以上1.4以下であることが好ましい。上記アスペクト比が1.4以下であると、複合粒子100はより球形に近い形状を有するため、複合粒子100および細胞を含む溶液において、複合粒子100と細胞とがより均一な形状および大きさの接触面で接しやすくなり、複合粒子100間での細胞への取り込まれやすさの差が生じにくくなると考えられる。そのため、上記アスペクト比を有する複合粒子100は、細胞へ取り込まれる複合粒子100の量、および複合粒子100を取り込む細胞の量、をより制御しやすいと考えられる。上記複合粒子100のアスペクト比は、乾燥時の複合粒子100の長径を乾燥時の複合粒子100の短径で除算して求めた値とすることができる。
【0063】
複合粒子100の平均粒子径は、SEMによって撮像した複合粒子100の断面画像をもとに、1個の複合粒子100の長径と短径との平均値を加算平均して算出される当該複合粒子100の粒子径を、複数(たとえば20個)の複合粒子100について求め、当該求められた複数の複合粒子100の粒子径の平均値として算出することができる。複合粒子100のアスペクト比は、SEMによって撮像した複合粒子100の断面画像をもとに、1個の複合粒子100の長径と短径との比率(短径/長径)として算出される当該複合粒子100のアスペクト比を、複数(たとえば20個)の複合粒子100について求め、当該求められた複数の複合粒子100のアスペクト比の平均値として算出することができる。
【0064】
複合粒子100は、各種の薬剤をさらに含んでいてもよい。上記薬剤の例には、医薬活性を有するタンパク質、プラスミド、アプタマー、アンチセンス核酸、リボザイム、tRNA、snRNA、siRNA、shRNA、ncRNAおよび凝縮型DNAを含む医薬用途に用いられる核酸、ならびに医薬用途に用いられる抗原が含まれる。
【0065】
上記医薬活性を有するタンパク質の例には、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、ビタミンA(レチノイド)、ビタミンD3およびビタミンD3類似体、抗生物質、抗ウィルス性薬剤、ならびに抗細菌性薬剤が含まれる。
【0066】
なお、本発明の別の実施態様において、
図3に示すように、複合粒子200は、造影作用を有する物質210および分解促進剤220がいずれも単独では明瞭な粒子を構成せずに、互いに入り混じって存在する粒子であってもよい。本明細書において、内包とは、造影作用を有する物質より内部に分解促進剤が入り込んでいる構成を意味する。
【0067】
また、上記いずれの態様においても、複合粒子100または複合粒子200は、その外縁部が分解促進剤によって被覆されていてもよい。これにより、長期残存率および短期残存率をそれぞれ調整することができる。
【0068】
2.複合粒子の製造方法
上記複合粒子は、上記造影作用を有する物質および分解促進剤を含む液体(以下、単に「材料溶液」ともいう。)を用意し、材料溶液内で上記造影作用を有する物質を粒子化して、作製することができる。粒子化は、材料溶液の液滴を加熱管または乾燥室の雰囲気中に吐出して乾燥させる方法(気中滴下法)、材料溶液の液滴を疎水性溶媒内に吐出して分散させる方法(液中滴下法)、および、材料溶液をエマルジョン化してゼラチンを含む微小液滴を分散させる方法(液中分散法)等によって、行うことができる。
【0069】
また、上述の方法などで製造した複合粒子に、さらに分解促進剤を付与して、分解促進剤でさらに被覆された複合粒子を得ることもできる。
【0070】
上記材料溶液は、上記造影作用を有する物質と分解促進剤とを混合して得てもよいし、分解促進剤を含む溶液中で上記造影作用を有する物質を合成して、分解促進剤と上記造影作用を有する物質とを含むスラリーとしてもよい。上記スラリーを加温して上記造影作用を有する物質を粒子化して、複合粒子を得ることができる。さらに、分解促進剤でさらに被覆された複合粒子を製造するときは、上記スラリーに相分離誘起剤を添加すればよい。作製された複合粒子は、精製してスラリーから分離することができる。
【0071】
たとえば、上記造影作用を有する物質としてFe3O4を含む複合粒子を製造するときは、Fe3O4の原料となるFeCl3・6H2OおよびFeCl2・4H2Oと、分解促進剤とを含む水溶液を調製し、そこにアルカリ溶液(たとえば、NaOH、NH3、KOHなどの溶液)を添加して溶液のpHを7以上に調整してFe3O4を合成すれば、上記分解促進剤を内包する粒子状のFe3O4が均一に分散したスラリーが得られる。
【0072】
上記得られたスラリーを50℃以上80℃以下に加温すれば、Fe3O4が多孔質の粒子となり、空孔内に分解促進剤を含む複合粒子を得ることができる。さらに、上記得られた複合粒子を含むスラリーに相分離誘起剤を添加して分解促進剤(特にはゼラチンなどの親水性高分子)のコアセルベーションを生じさせれば、分解促進剤でさらに被覆された複合粒子を得ることもできる。
【0073】
相分離誘起剤は、分解促進剤を相分離させることが可能な成分である限り特に限定されない。相分離誘起剤の例には、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、および1-ブタノールなどを含むアルコール類、ならびにアセトンなどを含む有機溶媒が含まれる。
【0074】
また、上記スラリーに相分離誘起剤を添加するときは、スラリー中の分解促進剤の濃度を調整することで、得られる複合粒子の平均粒子径を調整することができる。つまり、スラリー中の分解促進剤の濃度が高いほど、得られる複合粒子の平均粒子径は大きくなり、スラリー中の分解促進剤の濃度が低いほど、得られる複合粒子の平均粒子径は小さくなる傾向がある。分解促進剤としてMgCl2などの易イオン化原子を用いるときは特に、スラリー中の分解促進剤の濃度が高いほど、得られる複合粒子の平均粒子径は大きくなる傾向がみられる。
【0075】
材料溶液中の上記分解促進剤の量は、得られる複合粒子に含まれる水以外の成分の全質量に対する易イオン化原子、キレート剤または親水性高分子の量が上述した範囲になる量であることが好ましい。たとえば、上記分解促進剤の量は、材料溶液(または上記スラリー)を凍結乾燥して得られる粉末の全質量に対する易イオン化原子の量が0.1質量%以上80質量%以下となる量、上記凍結乾燥して得られる粉末の全質量に対するキレート剤の量が0.1質量%以上80質量%以下となる量、または上記凍結乾燥して得られる粉末の全質量に対する親水性高分子の量が5質量%以上80質量%以下となる量であることが好ましい。
【0076】
また、材料溶液中の上記造影作用を有する物質の量は、得られ複合粒子が、十分な造影率が得られる量の造影効果を有する物質を含み得る量であればよく、たとえば、造影剤粒子がMRI用の造影剤粒子であるとき、造影効果を有する物質の量は、複合粒子の飽和磁化率が1.0emu/g以上150emu/g以下、好ましくは30emu/g以上140emu/g以下となる量であればよい。
【0077】
3.複合粒子を含む細胞
本発明のさらに別の実施形態は、上述した複合粒子を細胞膜の内側に有する細胞(以下、単に「複合粒子内包細胞」ともいう。)に関する。
【0078】
複合粒子を細胞膜の内側に有するとは、細胞をTEMで撮像した画像において、複合粒子が細胞膜の内側に確認されることを意味する。
【0079】
複合粒子を細胞膜の内側に含み得る細胞の例には、骨髄、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、腸管、小腸、心臓弁、皮膚、血管、角膜、眼球、硬膜、骨、気管および耳小骨を含む各種臓器から摘出された生体試料または検体に由来する細胞、市販の株化細胞、ならびに皮膚幹細胞、表皮角化幹細胞、網膜幹細胞、網膜上皮幹細胞、軟骨幹細胞、毛包幹細胞、筋幹細胞、骨前駆細胞、脂肪前駆細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、外胚葉系幹細胞、中胚葉系幹細胞、内胚葉系幹細胞、間葉系幹細胞、ES細胞およびiPS細胞を含む幹細胞ならびにこれらの幹細胞から分化した細胞を含む公知の細胞が含まれる。
【0080】
複合粒子内包細胞は、単独の細胞でもよいが、複数の複合粒子内包細胞を含む細胞構造体であってもよい。
【0081】
上記細胞構造体の例には、複数の複合粒子内包細胞を二次元的に培養した細胞シート、および複数の複合粒子内包細胞を三次元的に培養したスフェロイド(細胞塊)が含まれる。また、上記細胞構造体は、複数の複合粒子内包細胞が高分子からなる膜で被覆された構造体であってもよいし、高分子からなる任意の形状の立体構造体(ビーズ)の表面を複数の複合粒子内包細胞が被覆している構造体であってもよい。上記高分子の例には、ラミニン、プロテオグリカン、フィブリン、マトリゲル、キトサンゲル、ポリエチレングリコール、ゼラチン、およびアルギン酸が含まれ、細胞外マトリクスを構成し得る高分子であることが好ましい。
【0082】
また、上記複合粒子内包細胞または上記細胞構造体は、上記高分子との混合分散液としてもよい。混合分散液の分散媒は、細胞培養液とすることができる。細胞培養液は、公知の緩衝液または生理食塩水であってもよく、たとえば、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid(HEPES)およびその他の公知のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)とすることができる。
【0083】
上記複合粒子内包細胞または上記細胞構造体および上記高分子を含む構造体または混合分散液中で混合分散液中で複合粒子内包細胞を培養すると、形成されたスフェロイドおよび細胞シートなどが合体してより大きな細胞集団となり、組織様の三次元細胞培養物を得ることができる。
【0084】
上記細胞構造体または混合分散液は、1種類の複合粒子内包細胞のみを含んでもよいし、複数種の複合粒子内包細胞を含んでもよいし、複合粒子を有さない他の種類の細胞を含んでもよい。たとえば、組織構築用の複合粒子内包細胞と、血管構築用の細胞とを含む細胞構造体または混合分散液に含まれる細胞を培養して、血管を有する臓器様の三次元細胞構造体を得ることができる。
【0085】
細胞再生医療で患者に移植される細胞および当該細胞を含む細胞構造体、特には幹細胞もしくは幹細胞から分化した細胞または患者から採取されて薬剤の投与などによる治療を施された細胞および当該細胞を含む細胞構造体は、複合粒子を含むことで、患者への移植後、移植部位を撮像することで、切開などの再手術をすることなく、複合粒子内包細胞(または細胞構造体)が移植部位に定着したか否かを観測することができる。そのため、複合粒子内包細胞および複合粒子内包細胞を含む細胞構造体は、再生医療の治療を受ける患者の身体的、精神的、金銭的および時間的な負担を低減し、患者の生活の質(QOL)を高めることができると考えられる。
【0086】
また、活性が高い細胞は複合粒子をより早く分解して排出しやすく、活性が高い細胞は複合粒子の分解および排出がより遅い吐考えられる。そのため、複合粒子内包細胞の内部の造影率の経時変化を測定して、非破壊で細胞の活性を検査することもできる。
【0087】
4.複合粒子を含む細胞の製造方法
複合粒子内包細は、複合粒子を上記細胞に導入して、製造することができる。複合粒子を細胞に導入する方法の例には、液体中に複合粒子と細胞とを添加して、エンドサイトーシスによる取り込みなどの細胞自らの活動によって取り込ませる方法、および外部からの操作によって導入する方法が含まれる。細胞自らの活動によって取り込ませる方法の例には、複合粒子と細胞とを液中で撹拌する方法、および複合粒子が含まれる細胞培養液中で細胞を培養する方法が含まれる。なお、複合粒子は、細胞自らによる取り込み効率が高いため、細胞への取り込みを促進するために他の成分との複合体を形成させる操作は特に必要ない。上記外部からの操作によって導入する方法の例には、エレクトロポレーション法およびマイクロインジェクション法が含まれる。これらのうち、複合粒子を導入させる際に細胞の活性を低下させにくくする観点からは、細胞自らの活動によって導入する方法が好ましく、上記複合体を形成せずに細胞に取り込ませる方法がより好ましい。
【0088】
複合粒子および細胞が添加される液体としては、上述した細胞培養液を用いることができる。
【0089】
細胞の活性を高めて細胞自らの活動によって複合粒子を細胞内に取り込ませやすくする観点からは、上記撹拌時の上記細胞培養液の温度は、15℃以上50℃以下であることが好ましく、35℃以上45℃以下であることがより好ましい。
【0090】
細胞自らの活動によって複合粒子を細胞膜の内側へ導入するとき、たとえば、複合粒子と上記細胞とを含む細胞培養液を振とうして、導入を促進するようにしてもよい。
【0091】
なお、細胞自らの活動によって複合粒子を導入するとき、活性が高い細胞は複合粒子をより取り込みやすく、活性が低い細胞は複合粒子を取り込みにくいと考えられる。そのため、複合粒子と細胞とを液体に添加し必要に応じて振とうした後、細胞の内部の造影率を測定して、非破壊で細胞の活性を検査することもできる。
【実施例】
【0092】
以下において、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0093】
1.粒子の作製
200mlの超純水中にFeCl2・4H2O、FeCl3・6H2O、表1および表2に示す各分解促進剤、および28%アンモニア水溶液を表1および表2に示す割合でそれぞれ添加した後、70℃に加温したウォーターバス内で20分撹拌し、酸化鉄からなる造影剤粒子の内部に各分解促進剤が包含された粒子を含むスラリーを作製した。作製されたスラリーを、GEヘルスケア製PD-10カラムを用いて精製して、粒子1~粒子14および粒子16~粒子19を得た。
【0094】
さらに、20mlの上記精製前のスラリーを50℃で撹拌しながら、100mlのアセトンを滴下し、次いで3.5mlの25%グルタルアルデヒドを添加した。さらに、グリシンを添加して未反応の架橋剤による反応を停止させて、さらにゼラチンで被覆された粒子を含むスラリーを作製した。作製されたスラリーを遠心分離機に投入して、13000rpmで30分の遠心分離を行った。沈殿物を回収して水に分散させ、粒子15を得た。
【0095】
200mlの超純水中にFeCl2・4H2O、FeCl3・6H2O、および28%アンモニア水を表2に示す割合でそれぞれ添加した後、60℃に加温した水浴中で30分撹拌してスラリーを作製した。作製されたスラリーを、GEヘルスケア製PD-10カラムを用いて精製した。精製されたスラリー中に0.05gのMgCl2・6H2Oを加えて一晩撹拌し、粒子20を得た。
【0096】
200mlの超純水中にFeCl2・4H2O、FeCl3・6H2O、およびの28%アンモニア水を表2に示す割合でそれぞれ添加した後、60℃に加温した水浴中で30分撹拌してスラリーを作製した。作製されたスラリーを、GEヘルスケア製PD-10カラムを用いて精製した。精製されたスラリー中に1gのゼラチンを加えて一晩撹拌し、粒子21を得た。
【0097】
200mlの超純水中にFeCl2・4H2O、FeCl3・6H2O、および28%アンモニア水を表2に示す割合でそれぞれ添加した後、60℃に加温した水浴中で30分撹拌してスラリーを作製して、粒子22を得た。
【0098】
SEMによって撮像した上記各粒子の断面画像をもとに、1個の粒子の長径と短径との平均値を加算平均して算出される当該粒子の粒子径を、20個の粒子について求め、当該求められた20個の粒子の粒子径の平均値を、当該粒子の平均粒子径とした。
【0099】
粒子1~粒子22の作製に用いた各材料の量、および得られた粒子の平均粒子径を表1および表2に示す。なお、表1および表2において、「PVA」はポリビニルアルコールを、「金属塩」はMgCl2・6H2Oを、「28%NH4」は28%アンモニア水溶液を、それぞれ示す。また、分解促進剤の欄に記載された「外添」は、造影剤粒子を作製後に分解促進剤を被覆させたため、得られた粒子をSEMで観察しても、分解促進剤が造影剤粒子に内包された構造が観察されず、分解促進剤は造影剤粒子の周囲にのみ存在していたことを示す。また、「分解促進剤の量」に記載の数値は、各粒子の作製に用いた材料の比率をもとに算出した、各粒子に含まれる分解促進剤の量を示す。
【0100】
【0101】
【0102】
2.評価サンプルの作製
Life Technologies社製細胞培養液MEM Alpha basic(1X)500mlにウシ胎児血清(Fetal bovne serum)50mlを加えたものを細胞培養液として使用した。3mlの細胞培養液に、それぞれ1mgの粒子1~粒子22を加え、マウス骨芽由来の細胞(MC3T3E1)を1000cells/mlになるように添加し、細胞添加後の細胞培養液を24時間40℃で保温して、評価サンプルを作製した。
【0103】
3.評価
3-1.細胞による取り込み
上記評価サンプルから、それぞれの細胞分散液の一部を取り出し、以下の手順によって、細胞膜の内側に取り込まれた粒子が確認できるか否かを観察し、以下の基準によって判定した。
【0104】
(細胞及びFeの染色)
培養した細胞に1%パラホルムアルデヒド1mlを加えて細胞固定化処理を行った。次いで、下記組成のFe染色液1mlを加えてFeを染色した。さらに、下記の濃度に調整した核染色液1mlを加えて細胞を染色した。
【0105】
(Fe染色液の組成)
下記の2液を同体積混合してFe染色液を調製した。
・20体積% HCL(濃塩酸を5倍希釈したもの)
・10質量% K4(Fe(CN6))水溶液(100mg/ml)
【0106】
(核染色液の組成)
硫酸アンモニウム5質量部と、Nuclear fast red 0.1質量部とを、蒸留水100質量部に混合して核染色液を調製した。
【0107】
(Feを取り込んだ細胞数のカウント)
染色された細胞を光学顕微鏡で観察して、任意に選択された細胞20個の中に青く染色されたFeが含まれているかどうかをもとに、各粒子の細胞による取り込みやすさを以下の基準で評価した。
◎ 上記20個の細胞のうち、50%以上(10個以上)の細胞で、細胞膜の内側にFe(粒子)が取り込まれていることが確認できた
○ 上記20個の細胞のうち、10%以上50%未満(2個以上10個未満)の細胞で、細胞膜の内側にFe(粒子)が取り込まれていることが確認できた
× 上記20個の細胞のうち、10%未満(2個未満)の細胞で、細胞膜の内側にFe(粒子)が取り込まれていることが確認できた
【0108】
3-2.分解性
粒子を細胞培養液に添加してから、2日後、6日後および11日後に、それぞれのバッファー溶液を凍結乾燥して得られた紛体のうち0.02gから、カンタム・デザイン社の磁気特性測定装置 MPMSを用いて飽和磁化率(測定時の装置内温度:25℃)を計測した。
【0109】
また、ICPを用いて、各粉体中のFe濃度を測定した。
【0110】
上記飽和磁化率を同一の粉体から得られた上記Fe濃度で除算して、造影剤の単位量あたりの飽和磁化率を算出した。
【0111】
6日後に凍結乾燥して得られた粉体から測定された造影剤の単位量あたりの飽和磁化率と、11日後に凍結乾燥して得られた粉体から測定された造影剤の単位量あたりの飽和磁化率と、の平均値を算出して、長期残存率とした。2日後に凍結乾燥して得られた粉体から測定された造影剤の単位量あたりの飽和磁化率を、短期残存率とした。長期残存率と短期残存率との比率(長期残存量/短期残存量)を求めて、各粒子の分解性を評価した。
【0112】
3-3.粒子濃度の減少率(2日目~6日目、6日目~11日目)
粒子を細胞培養液に添加してから2日後、6日後および11日後に、それぞれのバッファー溶液を凍結乾燥して得られた紛体のうち0.02gから、ICPを用いて、各粉体中のFe濃度を測定した。
【0113】
添加してから2日目のFe濃度から6日目のFe濃度を減算して、日数(4日)で除算して、2日目~6日目の1日あたりの粒子濃度の減少率を求めた。また、添加してから6日目のFe濃度から11日目のFe濃度を減算して、日数(5日)で除算して、6日目~11日目の1日あたりの粒子濃度の減少率を求めた。
【0114】
3-4.飽和磁化率
粒子を細胞培養液に添加してから24時間経過後に、それぞれのバッファー溶液を凍結乾燥して得られた紛体のうち0.02gから、カンタム・デザイン社の磁気特性測定装置 MPMSを用いて飽和磁化率(測定時の装置内温度:25℃)を計測した。
【0115】
結果を表3および表4に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
造影剤粒子と、上記造影剤粒子に内包された分解促進剤と、を有する粒子1~粒子19は、投与からある程度の時間を経過した後の生分解性が高かった。また、粒子1~粒子19は、2日目~6日目の1日あたりの粒子濃度の減少率が6日目~11日目の1日あたりの粒子濃度の減少率よりも小さく、投与した後は粒子が溶解または分解される速度が遅いが、時間を経過するにつれて溶解または分解される速度が速くなっていくことが示唆された。
【0119】
特に、分解促進剤として易イオン化原子を含む化合物またはキレート剤と、生分解性物質と、を組み合わせて用いた粒子11~粒子13は、投与からある程度の時間を経過した後の生分解性がより高かった。
【0120】
また、分解促進剤を内包した造影剤粒子をさらに分解促進剤で被覆した粒子15も、投与からある程度の時間を経過した後の生分解性がより高かった。
【0121】
本出願は、2017年11月6日出願の日本国出願番号2017-213709号に基づく優先権を主張する出願であり、当該出願の特許請求の範囲、明細書および図面に記載された内容は本出願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明によれば、撮像後の生分解性が高い造影用の複合粒子が提供される。上記複合粒子は、撮像後に細胞から従来の造影剤より早く排出されるため、造影用途に用いたときの生体および細胞への影響がより少ない。また、上記複合粒子を含む細胞は、生体移植用に用いることができる。移植後に当該細胞を撮像することで、移植された細胞(または細胞構造体)が患部に定着したか否かを切開なしで観察できる。そのため、上記複合粒子は、移植患者のQOLを高めることも期待される。
【符号の説明】
【0123】
100、200 複合粒子
110 造影剤粒子
112、112a、112b 空孔
120、130、220 分解促進剤
210 造影作用を有する物質