(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】切削工具および切削加工装置
(51)【国際特許分類】
B23C 9/00 20060101AFI20230310BHJP
B23C 5/08 20060101ALI20230310BHJP
B23C 3/06 20060101ALI20230310BHJP
B23C 5/26 20060101ALI20230310BHJP
B23C 5/12 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
B23C9/00 Z
B23C5/08 A
B23C3/06
B23C5/26
B23C5/12 A
(21)【出願番号】P 2022529728
(86)(22)【出願日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2021025777
(87)【国際公開番号】W WO2022038917
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2020137877
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518042372
【氏名又は名称】大昭和精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 宙央
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】角井 雅宣
(72)【発明者】
【氏名】辻野 学
(72)【発明者】
【氏名】緒方 達也
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-210036(JP,A)
【文献】特開2013-230544(JP,A)
【文献】特表2018-537297(JP,A)
【文献】特開2003-062704(JP,A)
【文献】特開2000-107923(JP,A)
【文献】特開2015-116635(JP,A)
【文献】特表2017-524549(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0324344(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
B23C 1/00-9/00
B23Q 1/00-1/76
B23Q 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線の回りを回転する切削工具であって、
内周面と、前記内周面の反対側の外周面と、前記内周面および前記外周面の各々に連なっている第1主面と、前記内周面および前記外周面の各々に連なっておりかつ前記第1主面の反対側にある第2主面とを有する本体部と、
前記内周面および前記外周面の少なくともいずれかに取り付けられた切削インサートと、
前記本体部に設けられた複数の防振部材とを備え、
前記複数の防振部材の各々は、前記本体部を構成する材料よりも比重の大きい材料により構成されたおもり部材を含み、
前記本体部には、内壁面によって囲まれた中空部が設けられており、
前記おもり部材は、前記内壁面から離間した状態で、前記中空部に配置されており、
前記おもり部材には、貫通孔が設けられており、
前記複数の防振部材の各々は、
前記貫通孔を貫通し、かつ前記内壁面に取り付けられたピン部材と、
前記ピン部材を取り囲み、かつ前記貫通孔の内部において前記おもり部材に接する弾性部材とを含み、
前記ピン部材の長手方向は、前記本体部の径方向に対応しており、
前記中空部は、前記第1主面および前記第2主面の各々に開口して
おり、
前記弾性部材は、前記ピン部材に接している、切削工具。
【請求項2】
前記軸線に沿った方向に見て、前記複数の防振部材の各々は、前記軸線を中心とした仮想円上に配置されている、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記軸線に沿った方向に見て、前記複数の防振部材の各々は、前記仮想円の円周方向において、等間隔で配置されている、請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記軸線に沿った方向に見て、前記おもり部材の外形はレーストラック形状である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切削工具。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の切削工具と、
前記本体部を保持するアダプタと備
え、
前記軸線に平行な方向に見て、前記アダプタは、前記本体部を取り囲んでいる、切削加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具および切削加工装置に関する。本出願は、2020年8月18日に出願した日本特許出願である特願2020-137877号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特開2007-210036号公報(特許文献1)には、クランクシャフトを加工するためのピンミラーカッタが開示されている。当該ピンミラーカッタは、インサートと、本体部と、アダプタとを有している。インサートは、本体部の内周側に取り付けられている。アダプタは、本体部の外周側に取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る切削工具は、軸線の回りを回転する切削工具であって、本体部と、切削インサートと、複数の防振部材とを備えている。本体部は、内周面と、内周面と反対側の外周面とを有する。切削インサートは、内周面および外周面の少なくともいずれかに取り付けられている。複数の防振部材の各々は、本体部に設けられている。複数の防振部材の各々は、本体部を構成する材料よりも比重の大きい材料により構成されたおもり部材を含む。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る切削工具の構成を示す平面模式図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る切削工具の構成を示す側面模式図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る切削工具のおもり部材の構成を示す平面模式図である。
【
図4】
図4は、挿入部材の構成を示す平面模式図である。
【
図5】
図5は、防振部材を本体部に取り付けた状態を示す断面模式図である。
【
図6】
図6は、
図5のVI-VI線に沿った断面模式図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る切削加工装置の構成を示す平面模式図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係る切削工具の構成を示す平面模式図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係る切削工具のおもり部材の構成を示す平面模式図である。
【
図10】
図10は、第4実施形態に係る切削工具の構成を示す平面模式図である。
【
図13】
図13は、クランクシャフトのスラスト面とチーク面との構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
当該ピンミラーカッタにおいては、アダプタに形成された凹部において、アダプタを形成する材質よりも比重の大きな充填材が充填されている。そのため、インサートが被削材と接触することにより発生した振動は、本体部を介してアダプタに伝播する。アダプタとインサートの間に本体部があるため、アダプタに設けられた充填材において制振対象の振動を十分に捕捉することができなかった。そのため、切削加工時における振動を十分に減衰させることができなかった。
【0007】
本開示の目的は、切削加工時における振動を減衰可能な切削工具および切削加工装置を提供することである。
[本開示の効果]
本開示によれば、切削加工時における振動を減衰可能な切削工具および切削加工装置を提供することができる。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
【0008】
(1)本開示に係る切削工具100は、軸線Aの回りを回転する切削工具100であって、本体部10と、切削インサート7と、複数の防振部材8とを備えている。本体部10は、内周面4と、内周面4と反対側の外周面3とを有する。切削インサート7は、内周面4および外周面3の少なくともいずれかに取り付けられている。複数の防振部材8の各々は、本体部10に設けられている。複数の防振部材8の各々は、本体部10を構成する材料よりも比重の大きい材料により構成されたおもり部材20を含む。
【0009】
上記(1)に係る切削工具100によれば、複数の防振部材8の各々は、本体部10に設けられている。切削インサート7は、本体部10に取り付けられている。そのため、切削インサート7が被削材と接触する際に発生した振動は、本体部10に設けられた複数の防振部材8の各々によって減衰する。これにより、防振部材8がアダプタに設けられている切削工具100と比較して、切削加工時の振動を効率的に減衰させることができる。
【0010】
(2)上記(1)に係る切削工具100において、軸線Aに沿った方向に見て、複数の防振部材8の各々は、軸線Aを中心とした仮想円B上に配置されていてもよい。これにより、軸線Aと複数の防振部材8の各々との距離が等しくなるため、切削加工時の振動をより効率的に減衰させることができる。
【0011】
(3)上記(2)に係る切削工具100において、軸線Aに沿った方向に見て、複数の防振部材8の各々は、仮想円Bの円周方向において、等間隔で配置されていてもよい。これにより、切削加工時の振動を周方向において均等に減衰させることができる。
【0012】
(4)上記(1)から(3)のいずれかに係る切削工具100において、本体部10には、内壁面6によって囲まれた中空部9が設けられていてもよい。おもり部材20は、内壁面6から離間した状態で、中空部9に配置されていてもよい。おもり部材20が内壁面6から離間しているため、おもり部材20は中空部9において移動することができる。これにより、おもり部材20は、本体部10の振動に対して逆位相の振動を行う。そのため、防振部材8は、動吸振器として機能する。従って、おもり部材20が内壁面6に接している場合と比較して、切削加工時の振動をさらに減衰させることができる。
【0013】
(5)上記(4)に係る切削工具100において、おもり部材20には、貫通孔24が設けられていてもよい。複数の防振部材8の各々は、貫通孔24を貫通し、かつ内壁面6に取り付けられたピン部材12と、ピン部材12を取り囲み、かつ貫通孔24の内部においておもり部材20に接する弾性部材13とを含んでいてもよい。おもり部材20は、おもり部材20と弾性部材13との摩擦および弾性部材13とピン部材12との摩擦により、振動を減衰させることができる。そのため、径方向の振動のみならず、軸方向および周方向の各々における振動についても、効率的に減衰させることができる。
【0014】
(6)上記(1)から(5)のいずれかに係る切削工具100において、軸線Aに沿った方向に見て、おもり部材20の外形はレーストラック形状であってもよい。これにより、おもり部材20の形状が直線状である場合と比較して、おもり部材20を大きくすることができる。結果として、切削加工時の振動をさらに減衰させることができる。
【0015】
(7)上記(3)に係る切削工具100において、本体部10には、内壁面6によって囲まれた中空部9が設けられていてもよい。おもり部材20は、内壁面6から離間した状態で、中空部9に配置されていてもよい。おもり部材20には、貫通孔24が設けられていてもよい。複数の防振部材8の各々は、貫通孔24を貫通し、かつ内壁面6に取り付けられたピン部材12と、ピン部材12を取り囲み、かつ貫通孔24の内部においておもり部材20に接する弾性部材13とを含んでいてもよい。軸線Aに沿った方向に見て、おもり部材20の外形はレーストラック形状であってもよい。
【0016】
上記(7)に係る切削工具100によれば、おもり部材20が内壁面6から離間しているため、おもり部材20は中空部9において移動することができる。これにより、おもり部材20は、本体部10の振動に対して逆位相の振動を行う。そのため、防振部材8は、動吸振器として機能する。従って、おもり部材20が内壁面6に接している場合と比較して、切削加工時の振動をさらに減衰させることができる。またおもり部材20は、おもり部材20と弾性部材13との摩擦および弾性部材13とピン部材12との摩擦により、振動を減衰させることができる。そのため、径方向の振動のみならず、軸方向および周方向の各々における振動についても、効率的に減衰させることができる。さらに、軸線Aに沿った方向に見て、おもり部材20の外形はレーストラック形状である場合は、おもり部材20の形状が直線状である場合と比較して、おもり部材20を大きくすることができる。結果として、切削加工時の振動をさらに減衰させることができる。
【0017】
(8)本開示に係る切削加工装置は、上記(1)から(7)のいずれかに係る切削工具100と、本体部10を保持するアダプタ40とを備えている。
[本開示の実施形態の詳細]
次に、図面に基づいて本開示の実施の形態の詳細について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0018】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る切削工具100の構成について説明する。
【0019】
図1は、第1実施形態に係る切削工具の構成を示す平面模式図である。
図1に示されるように、第1実施形態に係る切削工具100は、たとえば、ピンミラーカッタである。第1実施形態に係る切削工具100は、軸線Aの回りを回転する切削工具100であって、本体部10と、複数の切削インサート7と、複数の防振部材8とを主に有している。本体部10は、環状の形状を有している。本体部10は、内周面4と、外周面3とを有している。外周面3は、内周面4の反対側にある。内周面4および外周面3の各々は、軸線Aを取り囲んでいる。
【0020】
切削インサート7は、内周面4および外周面3の少なくともいずれかに取り付けられている。第1実施形態に係る切削工具100においては、切削インサート7は、本体部10の内周面4に取り付けられている。切削インサート7は、内周面4に露出している。切削インサート7の数は、特に限定されないが、たとえば36個である。切削インサート7は、本体部10の周方向において、等間隔で配置されていてもよい。
【0021】
切削インサート7は、たとえば、縦置きインサート7aと、横置きインサート7bを有している。縦置きインサート7aは、たとえば、すくい面の長手方向が本体部10の径方向に沿って配置されている。横置きインサート7bは、たとえば、すくい面の長手方向が本体部10の軸方向に沿って配置されている。軸方向とは、軸線Aに平行な方向である。径方向とは、軸線Aに対して垂直な方向である。
【0022】
図2は、第1実施形態に係る切削工具の構成を示す側面模式図である。本体部10は、第1主面1と、第2主面2とを有している。第2主面2は、第1主面1の反対側にある。第1主面1は、外周面3および内周面4の各々に連なっている。同様に、第2主面2は、外周面3および内周面4の各々に連なっている。第2主面2は、第1主面1と実質的に平行である。第1主面1および第2主面2の各々は、軸線Aに対して実質的に垂直である。
【0023】
図2に示されるように、軸線Aに対して垂直な方向から見て、縦置きインサート7aの一部(切刃)は、第1主面1および第2主面2の各々から軸線Aに平行な方向に突出していてもよい。同様に、軸線Aに対して垂直な方向から見て、横置きインサート7bの一部(切刃)は、第1主面1および第2主面2の各々から軸線Aに平行な方向に突出していてもよい。軸線Aに平行な方向において、本体部10の厚みTは、たとえば、17mm以上30mm以下である。
【0024】
図1に示されるように、本体部10の外周面3には、複数の取付凹部5が設けられていてもよい。複数の取付凹部5の各々は、本体部10の周方向において、等間隔に配置されていてもよい。取付凹部5の数は、特に限定されないが、たとえば16個である。
図2に示されるように、軸線Aに対して垂直な方向から見て、本体部10の周方向における複数の取付凹部5の各々の幅は、第1主面1から第2主面2に向かうにつれて広がっていてもよい。
【0025】
図1に示されるように、複数の防振部材8の各々は、本体部10に設けられている。
図1に示されるように、軸線Aに沿った方向に見て、複数の防振部材8の各々は、軸線Aを中心とした仮想円B上に配置されていてもよい。軸線Aに沿った方向に見て、複数の防振部材8の各々は、仮想円Bの円周方向において、等間隔で配置されていてもよい。防振部材8の数は、特に限定されないが、たとえば8個である。複数の防振部材8の配置は、等間隔に限定されない。複数の防振部材8の各々は、不等間隔で配置されていてもよい。
【0026】
図3は、第1実施形態に係る切削工具のおもり部材の構成を示す平面模式図である。複数の防振部材8の各々は、おもり部材20を含んでいる。おもり部材20は、本体部10を構成する材料よりも比重の大きい材料により構成されている。本体部10を構成する材料は、たとえば、超硬合金である。超硬合金は、タングステンカーバイト(WC)をコバルト(Co)を結合助剤として焼結したものである。超硬合金の比重は、たとえば、13g/cm
3以上15g/cm
3以下である。なお、本体部10が複数の部品からなり、当該複数の部品の各々が異なる比重を有する場合、「本体部の比重」とは、「本体部を構成する複数の部品の重量の合計値」を「本体部を構成する複数の部品の体積の合計値」で割ったもの(つまり平均の比重)である。
【0027】
おもり部材20を構成する材料は、たとえば、タングステンを主成分とするタングステン合金である。タングステン合金は、たとえば、タングステンと、ニッケルと、銅とを含んでいる。タングステン合金は、たとえば、タングステンと、ニッケルと、鉄とを含んでいてもよい。タングステン合金の比重は、たとえば、13g/cm3より大きく18.3g/cm3以下である。
【0028】
図3に示されるように、軸線Aに沿った方向に見て、おもり部材20の外形はレーストラック形状であってもよい。レーストラック形状とは、扇形の一部である円弧であって、軸線Aを中心とした仮想円Bよりも曲率半径が大きな円弧と、当該円弧と概ね等しい中心角を有し、軸線Aを中心とした仮想円Bよりも曲率半径が小さな円弧と、前者の円弧のそれぞれの端部と近接する後者の円弧のそれぞれの端部とを接続する曲線で囲まれた形状であってもよい。当該曲線は、円弧であってもよい。レーストラック形状の、当該曲線の部分は、曲線に替えて、線分であってもよい。レーストラック形状の長手方向の軸は直線であってもよい。レーストラック形状は、曲がったレーストラック形状であって、レーストラック形状の長手方向の軸が円周の一部に沿っていてもよい。好ましくは、レーストラック形状の長手方向の軸が軸線Aを中心とした仮想円Bに沿っていてもよい。レーストラック形状は、オーバルトラック形状であってもよい。おもり部材20は、第1端面21と、第2端面22と、第3端面23とを有している。おもり部材20には、貫通孔24が設けられている。貫通孔24は、第1端面21および第2端面22の各々に開口している。貫通孔24の数は、特に限定されないが、たとえば2個である。
【0029】
第3端面23の各々は、第1端面21と第2端面22とを繋いでいる。
図3に示されるように、軸線Aに沿った方向に見て、第1端面21および第3端面23の各々は、外側に凸の曲面である。第2端面22は、内側に凸の曲面である。第2端面22の曲率半径は、第3端面23の曲率半径よりも大きくてもよい。第1端面21の曲率半径は、第2端面22の曲率半径よりも大きくてもよい。
【0030】
図4は、挿入部材の構成を示す平面模式図である。複数の防振部材8の各々は、挿入部材15を有している。挿入部材15は、たとえば、ピン部材12と、弾性部材13と、ロケータ14とを有している。ピン部材12は、棒状の部材である。ピン部材12は、たとえば金属製である。ロケータ14は、円筒状の部材である。ロケータ14は、たとえば樹脂製である。ピン部材12は、ロケータ14の中空部分を貫通している。弾性部材13は、環状の部材である。弾性部材13は、たとえばオーリングである。弾性部材13は、たとえばゴム製である。
【0031】
弾性部材13の数は、特に限定されないが、たとえば2個である。ピン部材12は、弾性部材13の中空部分を貫通している。ピン部材12の長手方向に沿って、弾性部材13と、ロケータ14と、弾性部材13とが順番に配置されている。別の観点から言えば、ロケータ14は、たとえば2つの弾性部材13によって挟まれている。なお、ピン部材12の長手方向は、本体部10の径方向に対応する。
【0032】
ピン部材12の軸方向において、ピン部材12の長さは、ロケータ14の厚みと、弾性部材13の厚みの2倍の厚みとの合計よりも大きい。ピン部材12の軸方向において、弾性部材13の厚みは、ロケータ14の厚みよりも小さくてもよい。ピン部材12の直径は、弾性部材13の外径よりも小さい。ピン部材12の直径は、ロケータ14の外径よりも小さい。ロケータ14の外径は、弾性部材13の外径よりも小さくてもよい。弾性部材13の厚みは、弾性部材13の外径よりも小さくてもよい。
【0033】
図5は、防振部材を本体部に取り付けた状態を示す断面模式図である。
図5に示される断面は、軸線Aに対して垂直な断面である。
図5に示されるように、本体部10には、中空部9が設けられている。中空部9は、内壁面6によって囲まれている。おもり部材20は、内壁面6から離間した状態で、中空部9に配置されていてもよい。中空部9は、軸線Aに平行な方向に沿って本体部10を貫通している。中空部9は、第1主面1および第2主面2の各々に開口している。
【0034】
内壁面6には、たとえば、第1凹部31と、第2凹部32とが設けられている。第1凹部31は、ピン部材12に対して外周面側に位置している。第1凹部31には、ピン部材12の一端が配置される。第1凹部31は、外周面3に開口していてもよい。第2凹部32は、ピン部材12に対して内周面側に位置している。第2凹部32には、ピン部材12の他端が配置される。第1凹部31および第2凹部32の各々は、たとえば本体部10の径方向に沿って延びている。切削工具100は、固定部材16を有していてもよい。固定部材16は、第1凹部31に配置されている。固定部材16は、ピン部材12を、本体部10に押しつけている。
【0035】
図5に示されるように、おもり部材20の貫通孔24は、第1凹部31および第2凹部32の各々に連通するように配置される。ピン部材12は、貫通孔24を貫通している。ピン部材12は、中空部9の内壁面6に取り付けられている。弾性部材13は、ピン部材12を取り囲んでいる。弾性部材13は、貫通孔24の内部においておもり部材20に接している。弾性部材13は、本体部10の周方向において、貫通孔24の内面と、ピン部材12とに接している。弾性部材13は、ピン部材12の長手方向において、内壁面6と、ロケータ14とに接している。
【0036】
第1端面21および第2端面22の各々は、本体部10の径方向において、中空部9の内壁面6に対面している。本体部10の径方向において、第1端面21は、第2端面22と外周面3との間に位置している。本体部10の径方向において、第2端面22は、第1端面21と内周面4との間に位置している。第3端面23は、本体部10の周方向において、中空部9の内壁面6に対面している。
【0037】
図6は、
図5のVI-VI線に沿った断面模式図である。
図6に示される断面は、軸線Aに平行な断面である。
図6に示されるように、軸線Aに平行な方向において、弾性部材13は、ピン部材12およびおもり部材20の各々に接している。軸線Aに平行な方向において、おもり部材20は、内壁面6に囲まれて形成される中空部9の中に納まっており、中空部9からはみ出していないことが望ましい。別の観点から言えば、軸線Aに平行な方向において、おもり部材20は、第1主面1と、第2主面2との間に位置している。
【0038】
1つの防振部材8におけるピン部材12の数は、特に限定されないが、たとえば2個以上である。ピン部材12の数が1個の場合には、おもり部材20がピン部材12を中心として回転し、おもり部材20の一部が中空部9からはみ出すことがある。ピン部材12の数を2個以上とすることにより、おもり部材20が中空部9からはみ出すことを抑制することができる。
【0039】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る切削加工装置200の構成について説明する。
【0040】
図7は、第2実施形態に係る切削加工装置の構成を示す平面模式図である。
図7に示されるように、第2実施形態に係る切削加工装置200は、第1実施形態に係る切削工具100と、アダプタ40と、取付部材50とを主に有している。切削工具100は、本体部10と、切削インサート7と、防振部材8とを有している。本体部10は、アダプタ40に取り付けられている。アダプタ40は、本体部10を保持している。
図7に示されるように、軸線Aに平行な方向に見て、アダプタ40は、本体部10を取り囲んでいる。なお、第1実施形態に係る切削工具100の代わりに、後述する第3実施形態に係る切削工具100または第4実施形態に係る切削工具100が用いられてもよい。
【0041】
図7に示されるように、アダプタ40は、たとえば、環状部材である。アダプタ40の内周側には、複数の取付凸部41が設けられている。アダプタ40の複数の取付凸部41の各々は、本体部10に設けられた複数の取付凹部5の各々に挿入されている。別の観点から言えば、アダプタ40の複数の取付凸部41の各々は、本体部10に設けられた複数の取付凹部5の各々と嵌合している。本体部10は、取付部材50によって、アダプタ40に固定される。
【0042】
図7に示されるように、アダプタ40には、複数の取付孔42が設けられていてもよい。複数の取付孔42は、図示しない外部の回転装置に取り付けられる。回転装置が回転することにより、アダプタ40が回転する。アダプタ40が回転することにより、切削工具100が回転方向Cに沿って回転する。回転装置の回転力は、アダプタ40を介して切削工具100に伝達される。切削工具100の回転方向Cは、本体部10の周方向に対応する。
【0043】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る切削工具100の構成について説明する。第3実施形態に係る切削工具100は、主に、防振部材8の形状が直線状である構成において、第1実施形態に係る切削工具100と異なっており、他の構成については、第1実施形態に係る切削工具100と同様である。以下、第1実施形態に係る切削工具100と異なる構成を中心に説明する。
【0044】
図8は、第3実施形態に係る切削工具の構成を示す平面模式図である。
図8に示されるように、軸線Aに平行な方向に見て、複数の防振部材8の各々の形状は、直線状である。軸線Aに平行な方向に見て、複数の防振部材8の各々は、外周面3に交差する方向に延びている。防振部材8の数は、特に限定されないが、たとえば8個である。
図8に示されるように、軸線Aに沿った方向に見て、おもり部材20の外形は、角丸長方形(Rounded Rectangle)であってもよい。
【0045】
図9は、第3実施形態に係る切削工具のおもり部材の構成を示す平面模式図である。
図9に示されるように、軸線Aに平行な方向に見て、第1端面21および第2端面22の各々は、直線状である。第1端面21は、たとえば第2端面22と平行である。軸線Aに平行な方向に見て、貫通孔24は、第1端面21および第2端面22の各々が延びる方向に対して垂直に延びていてもよい。
【0046】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る切削工具100の構成について説明する。第4実施形態に係る切削工具100は、主に、切削インサート7が本体部10の外周面3に取り付けられている構成において、第1実施形態に係る切削工具100と異なっており、他の構成については、第1実施形態に係る切削工具100と同様である。以下、第1実施形態に係る切削工具100と異なる構成を中心に説明する。
【0047】
図10は、第4実施形態に係る切削工具の構成を示す平面模式図である。
図9に示されるように、切削インサート7は、本体部10の外周面3に取り付けられていてもよい。切削インサート7は、縦置きインサート7aと、横置きインサート7bとを有している。横置きインサート7bは、本体部10の外周面3に取り付けられている。縦置きインサート7aは、本体部10の第1主面1に取り付けられている。縦置きインサート7aは、本体部10の第2主面2に取り付けられていてもよい。本体部10の内周面4には、複数の取付凹部5が設けられていてもよい。複数の取付凹部5の各々は、アダプタ40の複数の取付凸部41の各々に取り付けられてもよい。
【0048】
次に、上記実施形態に係る切削工具100の作用効果について説明する。
上記実施形態に係る切削工具100によれば、複数の防振部材8の各々は、本体部10に設けられている。切削インサート7は、本体部10に取り付けられている。そのため、切削インサート7が被削材と接触する際に発生した振動は、本体部10に設けられた複数の防振部材8の各々によって減衰する。これにより、防振部材8がアダプタ40に設けられている切削工具100と比較して、切削加工時の振動を効率的に減衰させることができる。
【0049】
上記実施形態に係る切削工具100によれば、軸線Aに沿った方向に見て、複数の防振部材8の各々は、軸線Aを中心とした仮想円B上に配置されていてもよい。これにより、軸線Aと複数の防振部材8の各々との距離が等しくなるため、切削加工時の振動をより効率的に減衰させることができる。
【0050】
上記実施形態に係る切削工具100によれば、軸線Aに沿った方向に見て、複数の防振部材8の各々は、仮想円Bの円周方向において、等間隔で配置されていてもよい。これにより、切削加工時の振動を周方向において均等に減衰させることができる。
【0051】
上記実施形態に係る切削工具100によれば、本体部10には、内壁面6によって囲まれた中空部9が設けられていてもよい。おもり部材20は、内壁面6から離間した状態で、中空部9に配置されていてもよい。おもり部材20が内壁面6から離間しているため、おもり部材20は中空部9において移動することができる。これにより、おもり部材20は、本体部10の振動に対して逆位相の振動を行う。そのため、防振部材8は、動吸振器として機能する。従って、おもり部材20が内壁面6と接している場合と比較して、切削加工時の振動をさらに減衰させることができる。
【0052】
上記実施形態に係る切削工具100によれば、おもり部材20には、貫通孔24が設けられていてもよい。複数の防振部材8の各々は、貫通孔24を貫通し、かつ内壁面6に取り付けられたピン部材12と、ピン部材12を取り囲み、かつ貫通孔24の内部においておもり部材20に接する弾性部材13とを含んでいてもよい。おもり部材20は、おもり部材20と弾性部材13との摩擦および弾性部材13とピン部材12との摩擦により、振動を減衰させることができる。そのため、径方向の振動のみならず、軸方向および周方向の各々における振動についても、効率的に減衰させることができる。
【0053】
上記実施形態に係る切削工具100によれば、軸線Aに沿った方向に見て、おもり部材20の外形はレーストラック形状であってもよい。これにより、おもり部材20の形状が直線状である場合と比較して、おもり部材20を大きくすることができる。結果として、切削加工時の振動をさらに減衰させることができる。
【0054】
上記実施形態に係る切削工具100によれば、本体部10には、内壁面6によって囲まれた中空部9が設けられていてもよい。おもり部材20は、内壁面6から離間した状態で、中空部9に配置されていてもよい。おもり部材20には、貫通孔24が設けられていてもよい。複数の防振部材8の各々は、貫通孔24を貫通し、かつ内壁面6に取り付けられたピン部材12と、ピン部材12を取り囲み、かつ貫通孔24の内部においておもり部材20に接する弾性部材13とを含んでいてもよい。軸線Aに沿った方向に見て、おもり部材20の外形はレーストラック形状であってもよい。
【0055】
上記実施形態に係る切削工具100によれば、おもり部材20が内壁面6から離間しているため、おもり部材20は中空部9において移動することができる。これにより、おもり部材20は、本体部10の振動に対して逆位相の振動を行う。そのため、防振部材8は、動吸振器として機能する。従って、おもり部材20が内壁面6に接している場合と比較して、切削加工時の振動をさらに減衰させることができる。またおもり部材20は、おもり部材20と弾性部材13との摩擦および弾性部材13とピン部材12との摩擦により、振動を減衰させることができる。そのため、径方向の振動のみならず、軸方向および周方向の各々における振動についても、効率的に減衰させることができる。さらに、軸線Aに沿った方向に見て、おもり部材20の外形はレーストラック形状である場合は、おもり部材20の形状が直線状である場合と比較して、おもり部材20を大きくすることができる。結果として、切削加工時の振動をさらに減衰させることができる。
【実施例】
【0056】
次に、振動測定試験について説明する。まず、サンプル1およびサンプル2に係るピンミラーカッタを準備した。サンプル1に係るピンミラーカッタは、比較例である。サンプル1に係るピンミラーカッタは、防振部材8を有していない。サンプル2に係るピンミラーカッタは、実施例である。サンプル2に係るピンミラーカッタは、防振部材8を有している。サンプル2に係るピンミラーカッタは、第1実施形態に係る切削工具100である。軸方向における本体部10の厚みTは、17mmである。
【0057】
次に、振動測定方法について説明する。
図11は、振動測定方法を示す側面模式図である。クランクシャフト65の軸方向の一方側(左側)に左カッタ63が配置される。左カッタ63は、第1モータ61に取り付けられている。クランクシャフト65の軸方向の他方側(右側)に右カッタ64が配置される。右カッタ64は、第2モータ62に取り付けられている。振動測定センサ66は、第1モータ61上に配置される。左カッタ63および右カッタ64を使用して、クランクシャフト65の切削加工が行われた。
【0058】
振動測定装置は、株式会社東陽テクニカ製のマルチJOB FETアナライザ(形式:OR35-10J)とした。チャンネル数は、10CHとした。測定レンジは、2kHzとした。分解能は、2.5Hzとした。
【0059】
図12は、振動測定結果を示す図である。振動の単位gは、重力加速度であり、9.8m/s
2である。
図12に示すように、X(径)方向およびY(軸)方向においては、サンプル2に係るピンミラーカッタの振動は、サンプル1に係るピンミラーカッタの振動よりも小さいことが確認された。Z(周)方向においては、サンプル2に係るピンミラーカッタの振動は、サンプル1に係るピンミラーカッタの振動とほぼ同じであった。以上の結果より、サンプル2に係るピンミラーカッタの振動は、主に、X(径)方向およびY(軸)方向における振動を減衰可能であることが確認された。
【0060】
図13は、クランクシャフトのスラスト面とチーク面との構成を示す模式図である。
図13に示されるように、クランクシャフト65は、スラスト面72と、チーク面71とを有している。チーク面71は、スラスト面72に対して、径方向の外側に位置している。チーク面71とスラスト面72とは、軸方向において異なる位置にある。
【0061】
クランクシャフト65の切削加工が行われた後、クランクシャフト65のスラスト面72とチーク面71とにおいて、面粗度(Ra:算術平均粗さ)が測定された。面粗度測定装置は、株式会社ミツトヨ製の表面粗さ測定器(形式:SV-3200L8)とした。測定長さは、4.8mmとした。測定速度は、1mm/秒とした。
【0062】
図14は、面粗度測定結果を示す図である。
図14に示すように、サンプル2に係るピンミラーカッタを使用した場合におけるスラスト面72の面粗度(Ra)は、サンプル1に係るピンミラーカッタを使用した場合におけるスラスト面72の面粗度(Ra)よりも小さいことが確認された。同様に、サンプル2に係るピンミラーカッタを使用した場合におけるチーク面71の面粗度は、サンプル1に係るピンミラーカッタを使用した場合におけるチーク面71の面粗度よりも小さいことが確認された。
【0063】
切削工具100のビビリ現象は、被削材(クランクシャフト65)の加工面と、切削工具100の刃先とが、軸方向に接触と非接触とを繰り返すことにより発生する。ビビリ現象は、加工面の面粗度の悪化につながる。Y(軸)方向における振動の減衰は、ビビリ現象の抑制に効果がある。結果として、加工面の面粗度を低減することができると考えられる。
【0064】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1 第1主面、2 第2主面、3 外周面、4 内周面、5 取付凹部、6 内壁面、7 切削インサート、7a 縦置きインサート、7b 横置きインサート、8 防振部材、9 中空部、10 本体部、12 ピン部材、13 弾性部材、14 ロケータ、15 挿入部材、16 固定部材、20 おもり部材、21 第1端面、22 第2端面、23 第3端面、24 貫通孔、31 第1凹部、32 第2凹部、40 アダプタ、41 取付凸部、42 取付孔、50 取付部材、61 第1モータ、62 第2モータ、63 左カッタ、64 右カッタ、65 クランクシャフト、66 振動測定センサ、71 チーク面、72 スラスト面、100 切削工具、200 切削加工装置、A 軸線、B 仮想円、C 回転方向、T 厚み。