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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】薄板木材樹脂接合体
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20230310BHJP
   B29C 39/10 20060101ALI20230310BHJP
   B29C 65/70 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C39/10
B29C65/70
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019238620
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2020124911
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019019621
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100184767
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100098556
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 紘造
(74)【代理人】
【識別番号】100137501
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 百合子
(72)【発明者】
【氏名】山内 秀文
(72)【発明者】
【氏名】邱 建輝
(72)【発明者】
【氏名】境 英一
(72)【発明者】
【氏名】野村 光由
(72)【発明者】
【氏名】足立 幸司
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-007199(JP,B1)
【文献】特開昭63-147603(JP,A)
【文献】特開2011-020400(JP,A)
【文献】特開2011-037184(JP,A)
【文献】特開平08-039690(JP,A)
【文献】特開平05-131488(JP,A)
【文献】特開昭55-046962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板木材側面に樹脂を接合した薄板木材樹脂接合体で、
薄板木材は繊維方向が揃ったものであって薄板木材と樹脂が繊維方向に接合され、又は、薄板木材は繊維方向が直交する板材を重ねたものであって薄板木材と樹脂が重ねたうちのいずれかの板材の繊維方向に接合され、該樹脂が薄板木材と樹脂の接合部から木材内部へ延びる空隙へ貫入してなる薄板木材樹脂接合体。
【請求項2】
薄板木材側面に樹脂を接合した薄板木材樹脂接合体であって該樹脂が該薄板木材側面から木材内部へ延びる空隙へ貫入してなる薄板木材樹脂接合体で、又は請求項1の薄板木材樹脂接合体で、
薄板木材が、厚さ0.3mm以下の超薄板材を繊維方向が直交するように5~20層重ね合わせた厚さ2mm以下の薄板で、超薄板材間を接着する接着剤の使用重量合計が超薄板材重量合計の40%以下の薄板である、薄板木材樹脂接合体。
【請求項3】
薄板木材が、湾曲部を有する形状である、請求項1又は2の薄板木材樹脂接合体。
【請求項4】
薄板木材を、表裏両面が金型と密着するように金型内に配置した後、樹脂を金型へ射出し又は液状の成型材料を流し込み、樹脂を成形しつつ薄板木材へ接合することを特徴とする請求項1~3のいずれか1の薄板木材樹脂接合体の製造方法。
【請求項5】
空隙が、仮道管及び/又は導管に由来する空隙である請求項1~3のいずれか1の薄板木材樹脂接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板木材と樹脂を接合した薄板木材樹脂接合体、及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、十分な接合強度を有する、薄板木材側面に樹脂を接合した薄板木材樹脂接合体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近代になり、樹脂、鉄、コンクリートなどの素材が登場しこれらが木材の代わりに多く用いられるようになった。しかし、近年、木材の欠点を克服する様々な技術が生み出されており、再び木材の利用に注目が集まっている。
【0003】
木質材料は、同強度の樹脂材料と比較すれば、非常に軽量な材料であるが、樹脂のように容易に加工することが困難という欠点を有する。特に、曲率半径の小さい湾曲形状を、樹脂のように容易に作り出すことはできず、木質材料では削り出して作り出すのが一般的である。もちろん、熱をかけながら湾曲形状に加工することは可能であるが、それでも引張ひずみ1~2%以下の緩やかな湾曲を超えて、曲率半径の小さい湾曲とすることは困難である。
【0004】
この湾曲形状を作り出すなどの加工が難しいという問題点を解決する方法の一つとして、例えば携帯電話ケースを製造する際に、平板部は薄板の木材で、湾曲部や合わせ目、またはラッチのような複雑な造形が必要となる部分を樹脂で制作し、その後接着することが考えられる。しかし、接着剤や相溶化剤を使用しても、接着強度が十分でなく、実用性に欠けた部材となっている。
【0005】
さらに、接着剤によらずに木材と樹脂を複合化する技術として、突板などの木材の裏面から樹脂をインサート成形して、両者を貼り付ける技術が知られている。例えば、木材の意匠を活かすべく、無垢の木材を射出成型機の金型内に設置し、木材の意匠面(表面)と反対の裏面に熱可塑性樹脂を射出し、木材の圧密化、3次元形状加工と樹脂の複合化を同時に行った例がある(非特許文献1)。しかし、これらは、木材の意匠を生かしつつ薄板の裏面に樹脂を複合化する技術であるので、そもそも、繊維方向に垂直に切断された木材をその断面を介して樹脂をつなげる技術とは全く異なるものである。またこれらの技術は木材に対する何らかの前処理が必要で製造工程が複雑になるという問題点もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】鶴田ら、「3次元木材圧密化技術とインサート成形技術による製品開発(第1報)」、高知県工業技術センター報告 No.41 P.49~51 2010。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、十分な接合強度を有する、薄板木材側面に樹脂を接合した薄板木材樹脂接合体を提供すること、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために種々検討の結果、薄板木材を、表裏両面が金型と密着するように金型内に配して樹脂を射出して射出成形し、または液状の成型材料を流し込んで注型成形することで、十分な接合強度で、樹脂を薄板木材側面に接合できることを見出し本発明に到達した。すなわち本発明は以下のとおりである。
【0009】
1.薄板木材側面に樹脂を接合した薄板木材樹脂接合体であって、該樹脂が該薄板木材側面から木材内部へ延びる無数の空隙へ貫入してなる、薄板木材樹脂接合体。
2.薄板木材は繊維方向が揃ったものであって薄板木材と樹脂が繊維方向に接合され、又は、薄板木材は繊維方向が直交する板材を重ねたものであって薄板木材と樹脂が重ねたうちのいずれかの板材の繊維方向に接合され、該樹脂が薄板木材と樹脂の接合部から木材内部へ延びる無数の空隙へ貫入してなる薄板木材樹脂接合体。
3.薄板木材が、厚さ0.3mm以下の超薄板材を繊維方向が直交するように5~20層重ね合わせた厚さ2mm以下の薄板で、超薄板材間を接着する接着剤の使用重量合計が超薄板材重量合計の40%以下の薄板である、前記1又2の薄板木材樹脂接合体。
4.薄板木材が、湾曲部を有する形状である、前記1~3のいずれか1の薄板木材樹脂接合体。
5.薄板木材を、表裏両面が金型と密着するように金型内に配置した後、樹脂を金型へ射出し又は液状の成型材料を流し込み、樹脂を成形しつつ薄板木材へ接合することを特徴とする前記1~4のいずれか1の薄板木材樹脂接合体の製造方法。
6.空隙が、仮道管及び/又は導管に由来する空隙である前記1~5のいずれか1の薄板木材樹脂接合体。
7.薄板木材側面から木材内部へ人工空隙が形成され、樹脂が、該人工空隙へも貫入してなる、前記1の薄板木材樹脂接合体。
8.薄板木材と樹脂の接合部から木材内部へ延びる人工空隙が形成され、樹脂が、該人工空隙へも貫入してなる、前記2の薄板木材樹脂接合体。
9.薄板木材が板材を重ねたものであって、人工空隙が、重ねられた板材の最下層及び最上層を除くいずれか1又は2以上の板材に、スリットを設けることで形成される、前記8の薄板木材樹脂接合体。
10.板材のスリットが、板材の繊維方向と角度がつくように、かつ、垂直にはならないように、設けられた前記9の薄板木材樹脂接合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軽量で十分な強度を持つ、全く新しい素材である薄板木材樹脂接合体を提供することができる。特に、薄板木材として、軽量で強度も大きい木質薄層多層成形体(Micro Multiple Plywood、以下MMP)を用いれば、より軽量で強度の大きい薄板木材樹脂接合体を提供できる。薄板木材樹脂接合体では、平板部は木材、複雑な形状が必要とされる部分は樹脂で制作することが可能となるので、例えば、携帯電話ケース、車のボディ、パソコンの筐体などの素材として使うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】湾曲部を設けた薄板木材(湾曲部を設けたMMP)を示した。
図2】木材を繊維方向と垂直な断面で切断したときの模式図と、電子顕微鏡で撮影した拡大写真を示した。
図3】金型内に薄板木材を配置した様子を示した。
図4】薄板木材樹脂接合体(MMPを使用)で製造した製品とその軽量化の度合いを示した。
図5】薄板木材(MMPを使用)端部の様子を示した。(a)空隙をなくす処理をしたMMP、(b)特に処理しないMMP。
図6】引張せん断試験用試験片を示した。
図7】空隙数と接合強度(せん断強さ)の関係を表す図を示した。
図8】木材部分と樹脂部分を引きはがす様子と引きはがしたときの樹脂部分表面の様子を写真で示した。
図9】スリット入り単板の写真を示した。Aは木材の繊維方向と平行なスリットを千鳥状に付与した単板、Bは45度のスリットを千鳥状に付与した単板である。
図10】薄板木材(MMP)の模式図と断面写真を示した。Aはスリットをいれない通常のMMP、Bは単板に平行スリットをいれたMMP、Cは単板に45度スリットをいれたMMPである。模式図の実線は単板の繊維方向、B、Cの中ほど4枚にひかれたやや薄い千鳥状の線は、スリットを示す。B、Cの写真の枠線は断面に現れた空隙である。
図11】MMPとポリプロピレンを複合化した薄板木材樹脂接合体を示した。Aは模式図で、点線部分は引張試験片を切り出す部分である。Bは複合体の写真で、左上の写真は引張試験片の写真である
図12】スリットを付与したときの効果を示した。「Control」は通常のMMPを使用したとき、「平行スリット」は平行スリット入りMMPを使用したとき、「45°スリット」は、45度スリット入りMMPを使用したときの引張強度である。
図13】人工空隙内における樹脂の配置予想図を示した。(A)は平行スリット入りMMP、(B)は45度スリット入りMMPの予想図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明では、薄板木材を金型内に配して樹脂を射出し、薄板木材側面と樹脂を接合する。使用する薄板木材は、無垢材、板を重ねて貼り合わせた木質材料、明確な繊維方向配列を持たない繊維板やパーティクルボードなど、仮道管や導管などによるミクロマクロな空隙を有するあらゆる木質材料を含む。樹種も問わない。板を重ねて貼り合わせた木質材料の場合、木の繊維方向は無垢材やLVL(Laminated veneer Lumber)のように揃っていてもよいし、合板のように直交していてもよい。また、薄板木材の形状は、典型的には表面(おもてめん)が長方形であるが、円形、三角形、台形などでもよく、特に制限はない。さらに、薄板木材は、例えば表面が長方形であれば縦横の長さに比べ厚みが薄い木材で、典型的には平板であるが、湾曲部があってもよい(例えば、図1)。
薄板木材には、製造工程で、樹脂との接合部分に射出圧がかかり得るので、これに耐えられる強度があれば好ましい。例えば、軽くて丈夫な、木質薄層多層成形体(Micro Multiple Plywood、以下MMP、特開2013-226680号)を使用することができる。MMPは、本発明の発明者である山内らが開発した、厚さ0.3mm以下の超薄板材を繊維方向が直交するように5~20層重ね合わせた厚さ2mm以下の薄板で、超薄板材間を接着する接着剤の使用重量合計が超薄板材重量合計の40%以下の薄板である。軽くて丈夫、そして接着剤の使用量が少ないことに特徴がある。さらにMMPを使用すれば、射出成形時の高温による寸法変化や、成型後の吸湿による寸法変化が少なく好都合である。
【0013】
薄板木材の側面に樹脂は接合されるが、ここで、薄板木材の側面とは、薄板木材の厚み方向の面で薄板木材を取り囲む全ての面であり、合板であればその4側面で、薄板木材が薄い円柱であれば、その側面である。無垢材の木口も当然含む。
薄板木材の、繊維方向と垂直な面には、パイプの穴が並ぶような多数の空隙が存在する(図2)。この空隙は、針葉樹であれば主に仮道管、広葉樹であれば主に導管に相当し、繊維方向に接合部から木材内部へパイプのように延びている。また、明確な繊維方向配列を持たない木材は、ランダムにこの空隙が現れる。この多数の空隙へ射出成形などにより樹脂を貫入させることで、アンカー効果が生じ、木材と樹脂を十分な接合強度で接合することが可能となる。
アンカー効果をより発揮し、より高い接合強度を得るためには、繊維方向が明確である木材を使用すればより好ましく、繊維方向が揃っていれば木材の繊維方向に、直交していれば重ねた板材のうちのいずれかの繊維方向と同じ方向に接合するのが、より好ましい。ただし、この場合、接合の方向は繊維方向と厳密な一致を求めるものではない。
なお、貫入とは、樹脂が空隙部に入ることであるが、接合部から木材内部へ延びる空隙に樹脂が流入して硬化することで、硬化した樹脂は空隙部に入り込んで多列のスパイクあるいは多数のピンのような形状を形成する。
また、仮道管や導管に由来する木材内部へ延びる空隙の存在しない無垢材やLVL(Laminated Veneer Lumber)の木端(こば)側の側面には、当然ながら樹脂が貫入できないので、十分な接合強度で樹脂を接合できない。よって、MMPや合板を使用したほうが、全ての側面に樹脂を接合することができるので、薄板木材樹脂複合体の用途が大きく広がる。
薄板木材側面や接合部の形状は典型的には平面であるが、階段状、ホゾ状、ギザギザ状など、どんな形状でも構わない。
【0014】
薄板木材側面、あるいは薄板木材と樹脂の接合部から木材内部へ、人工的に空隙を形成してもよい。人工的な空隙(以下、人工空隙)を形成することで、人工空隙へ樹脂が貫入して、より強いアンカー効果を生じさせ、これにより、薄板木材樹脂接合体の強度をより大きくできる。さらに、導管や仮道管由来の空隙のみの場合は、木材の種類による差や、個体差により、薄板木材樹脂接合体の強度にバラつきが生じてしまうが、人工空隙を形成させることでこのバラつきを少なくすることができる。
【0015】
形成する人工空隙の数、形状、配置、木材内部へ延びる際の方向に特に制限はないが、空隙が形成される薄板木材自体の強度低下を抑えつつ薄板木材と樹脂の接合強度は高めるように、さらには両者の強度のバランスをとるように、数、形状、配置、方向を考えると好ましい。
木材内部へ延びる際の方向は、無垢材、LVL、合板のように木材の繊維方向が存在する場合は、繊維方向と平行にしてもよいし、繊維方向と角度をつけてもよい。繊維方向と垂直に近づきすぎない程度に角度をつけて空隙を形成すれば、薄板木材自体の強度は低下する可能性があるが、薄板木材と樹脂の結合強度は大きくなる。角度をつけることで、繊維方向に延びる導管や仮道管の中の樹脂と人口空隙の中の樹脂が交差し、その交点で樹脂同士が結合して、空隙中に貫入した樹脂が薄板木材に、より絡まるので、結合強度が大きくなると考えられる。ただし、垂直にすると、薄板木材の強度が低下するだけでなく、繊維方向の揃う無垢材やLVLでは、繊維方向と垂直に切断したときに、切断面に、空隙が現れなくなってしまう。
【0016】
人工空隙は、例えば、薄板木材として板材を重ね合わせた薄板を用いて、かつ、最上層及び最下層を除くいずれか1又は2以上の板材にあらかじめスリットを設けることで、形成できる。さらに、最上層及び最下層も、裏面側にあらかじめ溝を掘ってもよい。このスリットや溝はレーザーや回転刃物で形成することができる。
板材にいれるスリットの数、形状、配置、方向に特に制限はないが、薄板木材に繊維方向がある場合、板材の繊維方向と垂直に切断したときに、どこで切断しても、樹脂が貫入できるように、空隙が現れるようにすると好ましい。繊維方向と平行に、あるいは垂直にならない程度に角度をつけてスリットを設け、このスリットを千鳥状に板材全面に設ければ、どこを切断しても空隙が現れやすくなるし、板材の強度低下を抑えることができる。ただし、垂直にすると、繊維方向の揃うLVLでは、繊維方向と垂直に切断したときに、空隙が現れなくなってしまう。
また、垂直に近づきすぎない程度に角度をつけて、スリットを設ければ前述のとおり、薄板木材自体の強度は低下するが、導管や仮道管の中の樹脂と結合し樹脂がより薄板木材に絡むようになって薄板木材と樹脂の接合強度は大きくなる。
さらに、上下で隣接する板材にスリットがあれば、上下の板材のスリットに貫入した樹脂がその接点で3次元的に結合し、樹脂と薄板木材の接合強度がより大きくなる可能性がある。
【0017】
合板のように板材の繊維方向が直交する薄板木材を使用する場合は、繊維方向と平行にスリットを設けると繊維方向と平行に切断された板材断面からは人工空隙が現れないが、繊維方向と垂直に近づきすぎない程度に角度をつけてスリットを設ければ、繊維方向と平行な板材断面にも人工空隙が現れるので、薄板木材切断時に現れる人工空隙の数が2倍になりより好ましい。現れる人工空隙の数が増えれば、樹脂の貫入によるアンカー効果をより大きくすることができる。
また、繊維方向と45度の角度をつけてスリットを設ければ、人工空隙の数を2倍にしつつ、X軸Y軸どちらに力がかかっても、異方性を生じないので特に好ましい。
【0018】
樹脂は熱可塑性樹脂を使用することができる。使用する熱可塑性樹脂は、空隙の奥まで樹脂が貫入するように、粘性の低いものが好ましく、メルトマスフローレート(以下、MFR)の値は10g/10min以上が好ましく、20g/10min以上がさらに好ましい。ここでMFRの値は、JIS K 7210に準拠して測定する値である。
使用する樹脂は、具体的には、ポリプロレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、ポリ乳酸(PLA)、ナイロン6(PA6)、などが挙げられる。
また、熱硬化性樹脂を使用することもできる。この場合、成形材料を金型内で高温加熱し硬化させる圧縮成型法、液状のプレポリマーまたは化合物を型に流し込み硬化する注型成形法で成形することができる。ここで、液状の成形材料を型に流し込む注型成形法は、空隙に樹脂が入り込みやすく、より好ましい。
使用する樹脂は具体的にはポリウレタン(PU)が挙げられる。
【0019】
前述のとおり、空隙に貫入した樹脂のアンカー効果で十分な接合強度が生じるので、接着剤や相溶化剤を使用する必要はないし薄板木材接合部に何らかの前処理を施す必要もないので、余計な材料が不要であるし、製造工程を簡素化することもできる。
【0020】
さらに、本発明の薄板木材樹脂接合体では、薄板木材と樹脂は、アンカー効果で、強く接合しているので、樹脂がひけようとしても、薄板木材の剛性により、ひけにくいし、反りも生じにくい効果がある。特に、MMPのように接合方向と垂直な方向にも剛性が高ければ、垂直方向にかかる、樹脂の収縮しようとする力に抗しやすい。
加えて言えば、この樹脂の収縮するときの圧力が、薄板木材と樹脂の接合強度を、より大きくしている可能性がある。
【0021】
本発明の薄板木材樹脂接合体は以下のように製造する。
薄板木材を、繊維方向配列が明確でないものまたは薄板木材が繊維方向が直交する板材を重ねたものであるときは少なくとも表裏両面が金型と密着するように、繊維方向が揃ったものであるときは、好ましくは、さらに繊維方向左右も金型と密着させ、金型内に配置した後、樹脂を金型へ射出して、樹脂を成形しつつ薄板木材へ接合する。金型と密着していない側面から樹脂が木材の空隙部へ貫入し、薄板木材と樹脂が接合される。
【0022】
金型は、接合部と樹脂部分にセットされていればよく、必ずしも薄板木材部分も含めた全体にセットされる必要はない。全体にセットされていないときは、薄板木材と金型は、金型がセットされた部分で密着すればよく、当然ながら、金型がセットされていない部分では密着しない。よって、樹脂単体で成形するより、金型の樹脂容積あるいは樹脂面積が小さいために金型及び射出成型機容量を小さくできるし、薄板木材部分が湾曲していてもその部分に合わせた金型を用意する必要はない。金型の小型化は、取扱いの容易さやコストの削減につながり、車のボディのような大きいものを製造するとき、特に有用である。
【0023】
射出成形する際の温度や射出圧の条件は、樹脂が無数の木材の空隙に十分に貫入しやすい樹脂の粘度と薄板木材にかかる圧力を実現しながら、木材を割裂かない程度であれば好ましい。
【0024】
また、熱硬化性樹脂を用いて注型成形法により成形するときは、金型内に薄板木材を同様に配置し、この金型に液状の化合物又はポリマーを注入し硬化させる。
【実施例
【0025】
以下に、本発明を実施例で説明する。
【0026】
実施例1
<軽量化の評価>
【0027】
1.スマートフォンケース及びスマートフォン筐体の製造
薄板木材樹脂接合体を使用したスマートフォンケース及びスマートフォン筐体を製造した。薄板木材は杉材由来の木質薄層多層成形体(Micro Multiple Plywood、以下MMP)を使用した。このMMPは厚さ0.15mmのスギ単板を9層重ねたもの(9ply)を用いた。このMMPはスギ単板をレーザーで切り出し、フェノール樹脂接着剤を1接着層あたり10g/m2使用して製造した。
樹脂はスマートフォンケースではPU、筐体ではABSまたはPPを使用した。
ABS、PPでスマートフォンの筐体を製造するときは、まず、金型中央に、表裏面を金型に密着するようにして、MMPを配置した(図3)。ペレットを射出成型機へ投入し射出成型機から、スプール、ランナー、ゲートを経由して、金型内に、樹脂を射出し、薄板木材の4側面に射出圧をかけ、樹脂を成形しつつ接合した。このときの射出圧と樹脂温度を表1に示した。
PUでスマートフォンケースを製造するときは、ABS、PPのときと同様にMMPを配置し、2液混合・常温硬化型の低粘度PUを使い、金型に常温・常圧で注型、硬化させて成形した。この低粘度PUは極めて流動性が高く、MMP側面の空隙に容易に侵入することができると考えられる。
比較例として、樹脂単独で射出成形して、PU製のスマートフォンケース、ABS製の筐体、PP製の筐体を製造した。
【0028】
【表1】
【0029】
2.重量の測定
射出成形後、それぞれの製品を金型からとりはずし、薄板木材樹脂接合体で製造した製品と樹脂単独の製品の重さを測定し、両者を比較した。その結果、樹脂単独の場合と比較して、薄板木材樹脂接合体で製造した製品は、20~40%程度軽量化できることがわかった(図4)。さらに、ABSとPPについては、上面のすべてでなく一部をMMPに置き換えたにとどまるので、すべてをMMPに置き換えればさらなる軽量化が可能となる。
【0030】
実施例2
<薄板木材樹脂複合体の接合強度の評価>
【0031】
1.試験片の作成
測定に供する薄板木材樹脂複合体の試験片を作成した。実施例1に準じて射出成形を行い、JIS K 7171に準じて、試験片を作成した。
【0032】
2.各種強度特性の測定
JIS K 7171に準じて、薄板木材樹脂複合体の破断時あるいは降伏時の曲げ強さを測定した。
【0033】
3.結果
薄板木材樹脂複合体の接合部の曲げ強さの測定結果を表2に示した。また、これと比較するために今までに調べられているMMP単体の曲げ強さと樹脂単体の曲げ強さを示したた。これを見ると、接合部の曲げ強さは、MMP+PPで10~18Mpa、MMP+PA6で20~80Mpaであり、MMPの曲げ強さ25~150Mpaとほぼ同等で、十分な接合部の曲げ強さであった。PPでもPAでも、十分な接合強度を得ることができたが、MMP+PA6の接合部強度がより大きいのは、PA6自体の強度に加え、PA6はアミド基を有し極性が高く木材と親和性が高いためと考えられる。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例3
<空隙の有無と接合強度の関係の評価>
【0036】
1.試験片の作成
スギ由来のMMPにマシニングセンタにより表面の凹凸をなくす処理を実施した空隙のないMMP(図5(a))、および、スギ由来のMMPで特に処理せず空隙を有するMMPをロット違いで2枚準備し(そのうちの1枚が図5(b))た。樹脂はPLA(ポリ乳酸)を用い、射出成形でMMPとPLAを接合した。ここで、MMP(Wood)は紙面と垂直な方向に超薄板材を重ねた状態である(図6右側の右側面図参照)。この接合体に長手方向の中央から-1mmの位置に木材側から、+1mmの位置に樹脂側から、切り欠きを境界面ギリギリまでの長さで入れ、試験片とした(図6)。
【0037】
2.各種強度特性の測定
切り欠きを長手方向に引っ張り破断時のせん断強さを測定した。
【0038】
3.結果
空隙のないMMPを使用した薄板木材樹脂接合体は、せん断強さがほぼ0となる一方、空隙のある未加工のMMPを使用した薄板木材樹脂接合体は、十分なせん断強さを示し、さらに、ロット間では、空隙数が多い方が、せん断強さが大きくなった(図7)。よって、接合強度に効いてくるのは、化学的な接着力でなく、空隙部へ貫入した樹脂による物理的嵌合といえるとともに、薄板木材接合部の空隙数が多いほど、接合強度も大きくなることが分かった。
【0039】
実施例4
接合した、木材部分と樹脂部分を引きはがし、引きはがす様子と引きはがした後の樹脂部分表面を撮影した(図8)。写真から、木材の空隙部に、実際に、無数の樹脂が貫入していることが確かめられた。さらに実施例3の結果と合わせて、木材の空隙部に貫入した樹脂が接合強度に効いている可能性が高いことが分かった。
【0040】
実施例5
<スリットを付与したMMPを使用した薄板木材樹脂接合体の製造>
厚さ0.15mmのスギ・スライス単板を8枚用い、うち芯層部4枚に繊維方向と平行なスリットを千鳥状に付与した単板(図9A)を用いて、スリット入りの8層MMPを製造した(以下、平行スリット入りMMP)。さらに、繊維方向と45度のスリットを付与した単板(図9B)を用い、同様に、スリット入りの8層MMP(以下、45度スリット入りMMP)を製造した。スリットはレーザー加工で付与した。
スリットをいれないMMP(コントロール)、平行スリット入りMMP、45度スリット入りMMPの模式図と写真を図10A、B、Cに示した。写真の枠で覆われた部分が断面に現れた人工空隙である。参考までに、人工空隙よりかなり小さい、粒々のように見えるのが仮道管由来の空隙である。平行スリット入りMMPでは、単板の力学性能はほとんど損なわれないが、スリット付与された単板4枚のうち、空隙が現れる断面は加力方向に対し2枚にとどまる(図10B右写真)。一方で、45度スリット入りMMPは、木材繊維を分断することで、薄板木材の力学性能が低下する可能性があるが、単板4枚全てに、人工空隙が現れる(図10C右写真)。
次に、MMPとポリプロピレンを接合すべく、製造した厚さ約1mmのMMPを長方形に切り出し、射出成型用金型内に位置決めして配置し、射出成形を行った。射出成形は、射出温度190℃、射出速度30mm/s、保圧力20MPaで行った。このようにMMPとポリプロピレンを複合化して、薄板木材樹脂接合体(図11B)を製造した。
【0041】
実施例6
<スリットを付与したMMPを使用した薄板木材樹脂接合体の接合性能の評価>
複合化された薄板木材樹脂接合体から、幅約8mm、長さ約40mmの引張試験片(図11B左の写真)を切り出し(図11A点線)、引張試験にて接合性能の評価を行った。引張試験は、引張試験片の両端を掴んで長手方向に引っ張り、破断時の引張強さを測定しすることで行った。
結果を図12に示した。スリットのないコントロール(Control)と比較し、スリット入りMMP(平行スリット、45°スリット)は、優位に引張強度が大きくなった。さらに、引張強度のバラツキが小さくなる傾向を観察できた(Controlと、平行スリット、45°スリットのエラーバー参照)。また、平行スリット入りMMPと45度スリット入りMMPを比較すると、45度スリット入りMMPの方が、引張強度が強かった(図12)。
スリットをいれることで引張強度が向上したメカニズムを考察するために、人工空隙内における樹脂の配置予想図を示した(図13A、B)。引張強度が向上したのは、樹脂がスリットに侵入して、摩擦力によるアンカー効果が発現するとともに、スリット交点で各層の樹脂がつながることにより、木材の組織構造のみでは、ほぼ起こりえない網目構造による補強が効いている可能性がある。
また、45度スリットの引張強度が大きいのは、平行スリットでは、半分の層にしか人工空隙が現れないので(図10B)、人工空隙の影響が加力方向に対して1/2になるのに対し、45度スリットでは、全層に人工空隙が現れる(図10C)ので樹脂の貫入によるアンカー効果がより大きくなる上、前記した網目構造により、加力方向にV字にくさび効果を発現できることが効いている可能性がある。さらには、前述のとおり、人工空隙中の樹脂が仮道管中の樹脂と結合することで、より薄板木材に樹脂が絡まることも効いていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の薄板木材樹脂接合体を使用することで、様々な製品を強度は維持しながら軽量化することができる。また、木材の用途を拡げ、木材の需要を拡大することができる。このことは、多くの製造業に有用であるし、特に木材の需要拡大は、木材産業にとって有用である。
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