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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】EML4-ALK遺伝子変異分析方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20230310BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20230310BHJP
   C12Q 1/24 20060101ALI20230310BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20230310BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230310BHJP
   A61K 31/4545 20060101ALI20230310BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230310BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230310BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/24
C12M1/12
A61K45/00
A61P35/00
A61K31/4545
G01N33/50 P
C12N15/11 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020504378
(86)(22)【出願日】2018-07-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-01
(86)【国際出願番号】 KR2018008046
(87)【国際公開番号】W WO2019031722
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2020-01-23
(31)【優先権主張番号】10-2017-0099591
(32)【優先日】2017-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520029457
【氏名又は名称】サイトジェン インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】CYTOGEN, INC.
【住所又は居所原語表記】(Moonjung-dong,Moonjung SK V1 GL Metrocity) A-8,128,Beobwon-ro Songpa-gu Seoul 05839,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、ビョン ヒ
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0001304(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1254679(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0115478(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1254680(KR,B1)
【文献】韓国登録特許第10-1226515(KR,B1)
【文献】国際公開第2017/181183(WO,A1)
【文献】TAN, C. L. et al. ,Concordance of anaplastic lymphoma kinase (ALK) gene rearrangements between circulating tumor cells and tumor in non-small cell lung cancer,Oncotarget,2016年,Vol.7, No.17,P.23251-23262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数の気孔を有し、気孔径(pore-size)が5.5~8.5μmであり、BSA溶液でコーティングされた細胞分離用マイクロチップを用いて、癌患者から取得された液体生検サンプルから血中循環癌細胞を分離するステップと、
前記分離された血中循環癌細胞を、インスリン、トランスフェリン、EGF、およびROCK阻害剤からなる群より選択される少なくとも3成分を含む培地で培養するステップと、
前記培養された血中循環癌細胞からRNAを分離するステップと、
前記分離されたRNAを鋳型とし、2つのqRT-PCR用プライマーを用いてqRT-PCRを行うステップと、
前記qRT-PCRの産物を鋳型とし、前記2つのqRT-PCR用プライマーに対する2つのnestedプライマーを用いてnested PCRを行うステップと、
前記nested PCRの産物によりEML-ALK遺伝子の変異型を検出するステップと、を含む
ことを特徴とするEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項2】
前記液体生検サンプルは、血液である
請求項1に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項3】
前記癌は、肺癌である
請求項1に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項4】
前記癌は、非小細胞肺癌である
請求項1に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項5】
前記血中循環癌細胞を分離するステップは、大気圧1000~1020hPa下で行われる
請求項1に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項6】
前記BSA溶液のコーティングは、0.05~0.15%の濃度で行われる
請求項1に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項7】
前記EML4-ALK遺伝子の変異型は、V1型またはV3型である
請求項1に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項8】
前記2つのqRT-PCR用プライマーのうちの一方は、フォワードqRT-PCR用プライマーであり、他方は、リバースqRT-PCR用プライマーである
請求項1に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項9】
前記フォワードqRT-PCR用プライマーは、配列番号1、配列番号3および配列番号4からなる群から選択される1つである
請求項8に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項10】
前記リバースqRT-PCR用プライマーは、配列番号2である
請求項8に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項11】
前記2つのnestedプライマーのうちの一方は、フォワードnestedプライマーであり、他方は、リバースnestedプライマーである
請求項1に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項12】
前記フォワードnestedプライマーは、配列番号1、配列番号3、配列番号4および配列番号10からなる群から選択される1つである
請求項11に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項13】
前記リバースnestedプライマーは、配列番号2または配列番号9である
請求項11に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法。
【請求項14】
請求項1に記載のEML4-ALK遺伝子変異分析方法により得られた癌患者の遺伝子変異が、
(i)EML4遺伝子のエクソン1-13+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(ii)EML4遺伝子のエクソン1-20+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(iii)EML4遺伝子のエクソン1-6a+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(iv)EML4遺伝子のエクソン1-6b+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(v)EML4遺伝子のエクソン15+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(vi)EML4遺伝子のエクソン14+11bpサイズのオリゴヌクレオチドからなるリンカー+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(vii)EML4遺伝子のエクソン2+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(viii)EML4遺伝子のエクソン2+ALK遺伝子のイントロン19+ALK遺伝子のエクソン20-29と、からなる群から選択されたいずれか1つと一致すれば、
前記癌患者は、EML4-ALK遺伝子変異をターゲットにする抗癌剤の投与による治療効果の期待できる癌患者であると評価する
ことを特徴とする癌患者スクリーニング方法。
【請求項15】
前記癌は、肺癌である
請求項14に記載の癌患者スクリーニング方法。
【請求項16】
前記癌は、非小細胞肺癌である
請求項14に記載の癌患者スクリーニング方法。
【請求項17】
前記抗癌剤は、クリゾチニブである
請求項14に記載の癌患者スクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EML4-ALK変異の検出方法に係り、さらに詳しくは、血中循環癌細胞ベースのEML4-ALK変異検出用PCRプライマー対、nested PCRを用いたEML4-ALK変異の検出方法および非小細胞肺癌患者の血液由来癌細胞を利用して、抗癌剤の非小細胞肺癌患者スクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は、2010年に韓国において発生した全ての癌患者(202,053人)のうちの4位(10.3%)を占めるほど韓国人に一般的な癌である。しかし、5年生存率は19.7%で、他の癌に比べて予後が悪い。肺癌は、癌細胞の大きさや形状を顕微鏡で見ると、非小細胞肺癌と小細胞肺癌とに分類され、このように非小細胞肺癌と小細胞肺癌とを区別するということは、臨床的経過と治療が異なるからである。2011年に発表された、韓国の中央癌登録本部の資料によると、2009年に韓国で発生した癌は192,561件であり、その中で非小細胞肺癌は、男女を合わせ14,300件であり、非小細胞肺癌は、全ての肺癌発生19,685件の72.6%を占めた。男女の性比は2.5:1で男の方が多かった(韓国の保健福祉部・中央癌登録本部2011年12月29日の発表資料)。ALK陽性非小細胞肺癌は、2つの遺伝子ALKとEML4の融合によって引き起こされる肺癌であり、全ての非小細胞肺癌患者の4~7%(東洋人7%)に相当する患者がEML4-ALK遺伝子変異を有し、韓国の非小細胞肺癌患者167人のうちの10人がEML4-ALK変異を有すると報告された(非特許文献1)。
【0003】
上記EML4-ALK変異による非小細胞肺癌に対する標的抗癌剤は、ファイザー社が開発したザーコリ(登録商標)(一般名:クリゾチニブ)である。2011年8月にアメリカ食品医薬品局(FDA、Food and Drug Administration)がザーコリと共同でアボット社のコンパニオン診断(companion diagnostics)を承認した以来、アメリカの腫瘍学コミュニティで広く使用され、臨床的に証明され、標準化された遺伝子検査法になった。ヨーロッパでのCE-IVDテストに承認されており、2011年9月から医療現場で使用されており、主に学術研究と新しい治療法の評価をサポートするために使用されている。ザーコリの出現後、非小細胞肺癌の治療は、EGFR変異検査の後、変異体の有無に応じて、イレッサ又は姑息的細胞毒性抗癌剤(治療効果が低く、副作用が強い)を投薬する標準的な治療方法から、EGFR、EML4-ALK検査の後、イレッサ/ザーコリ/姑息的細胞毒性抗癌剤のうちから治療方法を選択する方式に、そのパラダイムが転換された。ALK遺伝子変異は、様々なタイプの遺伝子融合を示し、これを検出するための方法として、免疫組織化学(immunohistochemistry)、RT-PCR、FISHなどが臨床に使用でき、現在は、クリゾチニブ(crizotinib)投与のための標準的なコンパニオン診断テストとして、FDAにより承認されたアボット社のVysis ALK FISH方法が利用されている。しかし、この方法は難しく複雑なので、多数の患者をテストするのに多くの費用と時間がかかるという問題がある。さらに、解剖学的特性上、肺癌組織の採取が難しいため、前記ALK-FISH検査が不可能な患者が8~18%(非特許文献2)に達することが知られており、これに対する代案の模索が切実に求められている。
【0004】
一方、血中循環癌細胞(CTC、circulating tumor cell)とは、原発腫瘍組織から離れ出て血流に循環する少数の腫瘍細胞であり、癌の種類に応じて、血液1mLあたり1から数千の血中循環癌細胞が存在する。血中循環癌細胞を用いた検査法は、従来の組織検査を置き換えることができる強力な技術であり、低コスト、組織検査による患者の苦痛と危険を低減し、ターゲット薬物の迅速な選択により患者の寿命を延ばすことができるというメリットがある。
【0005】
そこで、本発明者らは、肺癌組織の採取が困難な患者に抗癌剤、例えばクリゾチニブ(crizotinib)を投与できるようにするための遺伝子検査法の開発に鋭意努力し、その結果、血中循環癌細胞の形で存在する肺癌細胞を捕獲して、前記血中循環肺癌細胞のEML4-ALK変異を高精度で確認する方法を開発し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.Korean Med.Sci.,27:228-230,2012
【文献】Lung Cancer84:39-44,2014,Cancer Cytopathol.Epub ahead of print2014.4.10
【文献】J.Korean Med.Sci.、27:228-230,2012
【文献】Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniatis,T.,Molecular Cloning:A LaboratoryManual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989)
【文献】Silhavy,T.J.,Bennan,M.L.and Enquist,L.W.,Experiments with Gene Fusions,Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1984)
【文献】Ausubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,published by Greene Publishing Assoc.and Wiley-Interscience(1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、血中循環癌細胞ベースのEML4-ALK遺伝子変異を高精度で確認するためのEML4-ALK変異検出用PCRプライマー対を提供することである。本発明の他の目的は、EML4-ALKのV1型変異を高精度に検出する方法を提供することである。本発明のまた他の目的は、EML4-ALKのV3型変異を高精度に検出する方法を提供することにある。
【0008】
本発明のまた他の目的は、非小細胞肺癌患者の血液由来の癌細胞を用いて、癌患者への抗癌剤の有効可能性を通じて、癌患者をスクリーニングする方法を提供することである。
本発明の別の目的は、非小細胞肺癌患者における血液由来の癌細胞の使用を通じて、癌患者への抗癌剤の入手可能性を通じて、癌患者をスクリーニングする方法を提供することである。
【0009】
本発明が解決しようとする技術的課題は、上述した技術的課題に何ら制限されるものではなく、未言及の他の技術的課題は、次の記載から本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者にとって明らかに理解できる筈である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記技術的課題を達成するために、本発明の一側面によるEML4-ALK遺伝子変異分析方法は、
癌患者から液体生検サンプルを取得するステップと、
バイオチップを用いて、前記液体生検サンプルから血中循環癌細胞を分離するステップと、
前記分離された血中循環癌細胞からRNAを分離するステップと、
前記分離されたRNAを鋳型とし、2つのqRT-PCR用プライマーを用いてqRT-PCRを行うステップと、
前記qRT-PCRの産物を鋳型とし、前記2つのqRT-PCR用プライマーに対する2つのnestedプライマーを用いてnested PCRを行うステップと、
前記nested PCRの産物によりEML-ALK遺伝子の変異型を検出するステップと、
を含んでいてもよい。
【0011】
本発明の実施例において、前記液体生検サンプルは、血液であってもよい。
【0012】
本発明の実施例において、前記癌は、肺癌であってもよい。
【0013】
本発明の実施例において、前記癌は、非小細胞肺癌であってもよい。
【0014】
本発明の実施例において、前記血中循環癌細胞を分離するステップは、大気圧1000~1020hPa下で行われてもよい。
【0015】
本発明の実施例において、前記バイオチップは、BSA溶液でコーティングされた高密度マイクロチップであってもよい。
【0016】
本発明の実施例において、前記高密度マイクロチップは、サイズ特異性を有してもよい。
【0017】
本発明の実施例において、前記BSA溶液のコーティングは、0.05~0.15%の濃度で行われてもよい。
【0018】
本発明の実施例において、前記EML4-ALK遺伝子の変異型は、V1型またはV3型であってもよい。
【0019】
本発明の実施例において、前記2つのqRT-PCR用プライマーのうちの一方は、フォワードqRT-PCR用プライマーであり、他方は、リバースqRT-PCR用プライマーであってもよい。
【0020】
本発明の実施例において、前記フォワードqRT-PCR用プライマーは、配列番号1、配列番号3および配列番号4からなる群から選択される1つであってもよい。
【0021】
本発明の実施例において、前記リバースqRT-PCR用プライマーは、配列番号2であってもよい。
【0022】
本発明の実施例において、前記2つのnestedプライマーのうちの一方は、フォワードnestedプライマーであり、他方は、リバースnestedプライマーであってもよい。
【0023】
本発明の実施例において、前記フォワードnestedプライマーは、配列番号1、配列番号3、配列番号4および配列番号10からなる群から選択される1つであってもよい。
【0024】
本発明の実施例において、前記リバースnestedプライマーは、配列番号2または配列番号9であってもよい。
【0025】
上記技術的課題を達成するために、本発明の他の一側面による癌患者スクリーニング方法では、
本発明によるEML4-ALK遺伝子変異分析方法により得られた癌患者の遺伝子変異が、
(i)EML4遺伝子のエクソン1-13+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(ii)EML4遺伝子のエクソン1-20+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(iii)EML4遺伝子のエクソン1-6a+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(iv)EML4遺伝子のエクソン1-6b+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(v)EML4遺伝子のエクソン15+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(vi)EML4遺伝子のエクソン14+11bpサイズのオリゴヌクレオチドからなるリンカー+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(vii)EML4遺伝子のエクソン2+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(viii)EML4遺伝子のエクソン2+ALK遺伝子のイントロン19+ALK遺伝子のエクソン20-29と、からなる群から選択されたか1つと一致すれば、抗癌剤は、前記癌患者に対して有効可能性があることを示すことができる。
【0026】
本発明の実施例において、前記癌は、肺癌であってもよい。
【0027】
本発明の実施例において、前記癌は、非小細胞肺癌であってもよい。
【0028】
本発明の実施例において、前記抗癌剤は、クリゾチニブであってもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の実施例によれば、肺癌組織の採取が困難でALK-FISH検査が実施できない肺癌患者でも、血中循環癌細胞を用いてEML4-ALK変異を検出可能であり、これによりEML4-ALK変異を標的とする抗癌剤の投与に適しているかどうかを容易に確認することができる。
【0030】
本発明の効果は、前述した効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明の欄または特許請求の範囲に記載の発明の構成から推論可能なあらゆる効果を含むものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】血中循環癌細胞を分離する過程を示す説明図
図2】高密度マイクロチップによって分離された血中循環癌細胞を撮影した写真
図3】本発明による培養液で培養された血中循環癌細胞の成長と分裂、および一般的な培養液で培養された血中循環癌細胞の成長と分裂について示すグラフ
図4】本発明による培養液を用いて、本発明で使用されるハイドロゲルコーティングされた培養プレートで培養された血中循環癌細胞の成長と分裂、および一般的な培養プレートで培養された血中循環癌細胞の成長と分裂について示すグラフ
図5】公知のEML4-ALKのV1型遺伝子変異の検出方法によるV1型遺伝子変異の検出結果を示す説明図
図6】本発明によるEML4-ALKのV1型遺伝子変異検出用プライマーを用いたV1型遺伝子変異の検出結果を示す説明図
図7】本発明によるEML4-ALKのV1型遺伝子変異検出用プライマーを用いたnested PCR実行によるV1型遺伝子変異の検出結果を示す説明図
図8】公知のEML4-ALKのV3型遺伝子変異の検出方法によるV3遺伝子変異の検出結果を示す説明図
図9】本発明によるEML4-ALKのV3型遺伝子変異検出用プライマーを用いたV3型遺伝子変異の検出結果を示す説明図
図10】本発明によるEML4-ALKのV3型遺伝子変異検出用プライマーを用いたnested PCR実行によるV3型遺伝子変異の検出結果を示す説明図
図11】本発明によるEML4-ALKのV1型遺伝子変異検出用プライマーを用いて、実際の患者のサンプルに適用した結果を示す説明図
図12】H3122細胞株におけるEML4-ALKのV1型遺伝子変異のqRT-PCRグラフ
図13】H2228細胞株におけるEML4-ALKのV3型遺伝子変異のqRT-PCRグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかしながら、本発明は、種々の異なる形態に具現化でき、ここで説明する実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1:高密度マイクロチップの製造
実験で使用されている高密度マイクロチップは、気孔径(pore-size)が5.5~8.5μmであるため、5.5μmよりも小さい白血球(WBC;white blood cell)および赤血球(RBC;red blood cell)の場合、チップを通過させて除去し、5.5μmよりも大きい標的細胞の場合、チップを通過させないようにすることで、特定のサイズを選択的に回収できるように考案したマイクロチップである。
【0034】
ちなみに、高密度マイクロチップの細胞回収率を確認するために、癌患者の癌細胞を10個、100個、1000個スパイク(spiking)して、それをチップに通過させて、チップ上の癌細胞の回収率を調べる実験を行った。その結果を下記表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
チップの細胞回収率を計算した結果、約80%以上の高い細胞回収率を示し、回収された細胞が癌細胞であることを再び確認するために、従来の癌検定で使われているCK抗体を染色して確認した結果、いずれもCK陽性癌細胞であることが確認された。
【0037】
実施例2:血中循環癌細胞(CTC)の分離過程
1.血液5mlに抗体重合体250μlを入れ、3秒程度混合した後、常温で20分間反応させる。
2.1%FBSを含むPBS5mlを加える。
3.Ficoll溶液15mlが入っている50mlチューブ(tube)に反応溶液10mlを注意深く入れる。
4.溶液を1200gで20分間遠心分離し、血球細胞を1次的に除去する。
5.不要な細胞吸着を防止するために、高密度マイクロチップ(HD Microporous chip、濾過網)を0.1%BSA溶液で10分間処理してコーティングした後、PBSでリンスする。
6.Ficollの上層溶液を濾過網上に置き、微量に存在する赤血球を重力濾過して、高純度の血中循環癌細胞を2次的に分離する。これにより、遠心分離や免疫ビーズ(immunobead)などの処理を行わないことにより、血中循環癌細胞の損傷を防ぐ。
7.分離された血中循環癌細胞は染色により同定される。
【0038】
実施例3.分離された血中循環癌細胞の短期培養
本発明による高密度マイクロチップにより分離された血中循環癌細胞を、中性電荷を有する親水性ハイドロゲルでコーティングされた超低付着(Ultra low attachment)培養プレートに播種した。前記培養プレートには、11ng/mlのインスリン、22ng/mlのトランスフェリン、2ng/mlのEGFおよび8μMのROCK阻害剤を含む培養液が含まれており、前記短期培養は、培養した時点から14日間、細胞培養インキュベーターで37℃および5~10%COの条件下で行われた。
【0039】
実施例4.血中循環癌細胞の確認
前記実施例3により短期培養された血中循環癌細胞が染色法により癌細胞であることを確認するために、下記の方法を用いて細胞染色工程を行う。
【0040】
1.細胞遠心分離法であるサイトスピン(cytospin)工程を行い、回収した細胞を染色用スライドに固定する。
2.抗体が細胞内に入ることができるように、透過(permeabilization)工程を行う。
3.PBSで洗浄(washing)工程を行う。
4.PBSを用いて1%BSA(bovine serum albumin:ウシ血清アルブミン)を得、非特異的結合(non-specific binding)および内因性ペルオキシダーゼ活性(endogenous peroxidase activity)を低下させるために、ブロッキング(blocking)工程を行う。
5.1次抗体としてのEpCAM(epithelial cell adhesion molecule:上皮細胞接着分子)、CK(cytokeratin:サイトケラチン)、CD(cluster of differentiation:分化抗原群)45を、常温で60分間反応させる。
6.前記1次抗体に結合する蛍光標識された二次抗体を、室温で60分間反応させる。
7.PBSで洗浄工程を行う。
8.最後に、細胞核を染色するために、DAPI(4’,6-diamidino-2-phenylindole:4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)溶液を入れた後、ガラスカバーを覆い、常温で10分間反応させる。
9.染色された細胞を観察しながら、染色率および回収率をマニュアルで計算する。
【0041】
比較例1.培養液による血中循環癌細胞の培養された細胞数の変化
一般に、細胞培養に使用される細胞培養液および本発明による培養液における血中循環癌細胞の分裂および成長の度合いを比較実験した。一般に、細胞培養に使用される培養液は、25nM亜セレン酸ナトリウム、50nMヒドロコルチゾン、0.01mMエタノールアミン、0.01mMホスホリルエタノールアミン、100pMトリヨードサイロニン、0.5%(w/v)ウシ血清アルブミン、10mMHEPES、0.5mMピルビン酸ナトリウム、4.5mM L-グルタミンおよび1X抗生物質(antibiotic)-抗真菌剤(antimycotic)を含み、本発明による培養液は、前記実施例3と同様である。また、培養条件は、一般的なプレートを用いたことを除いては、実施例3と同様である。
【0042】
図3に示すように、CD45-は、培養される血中循環癌細胞のバイオマーカーであり、Normal growth media(通常の成長培地)は一般的な細胞培養液を意味し、CG growth media(CG成長培地)は本発明による培養液を意味する。図3は、本発明による培養液で培養された血中循環癌細胞がより多いことを示し、これは、一般的な培養液よりも本発明による培養液の方が、血中循環癌細胞の分裂および培養においてより効果的であることを示す。
【0043】
比較例2.ハイドロゲルコーティングされた培養プレートにおける、培養液による血中循環癌細胞の培養された細胞数の変化
本発明による培養液を用いた状況で、血中循環癌細胞の細胞成長および分裂に対する、ハイドロゲルコーティングされた培養プレートの効果を測定するために、一般的な培養プレートとの比較培養を実施した。本発明による培養液は、前記実施例3と同様である。
【0044】
図4に示すように、Normal culture type(通常の培養タイプ)は一般的な細胞培養プレート(細胞が培養プレートの表面に接着)を示し、Low attachment type(低接着タイプ)は、本発明で使用される、ハイドロゲルコーティングされた培養プレートを示す。図4は、本発明による培養液を用い、ハイドロゲルコーディングされた培養プレートで培養された血中循環癌細胞がより多いことを示し、これは、ハイドロゲルコーティングされた培養プレートの方が、血中循環癌細胞の分裂および培養においてより効果的であることを示す。
【0045】
実施例5:qRT-PCRを用いたEML4-ALKのV1型変異の検出方法
EML4-ALKのV1型の変異を有する肺癌細胞株であるH3122細胞株(Matthew Meyerson Department of Medical Oncology、Dana-Farber Cancer Institute、Boston、MA 02115)を培養した後、RNAを抽出した。前記抽出されたRNAからcDNAを合成し、合成されたcDNAを順次希釈してEML4-ALKのV1型検出用qRT-PCRの鋳型として使用した。
【0046】
陰性対照群としては、PBMC細胞およびA549細胞(ATCC、CCL-185)を使用した。qRT-PCR反応用混合物の組成を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
PCRサイクルは、95℃で10分間変性させた後、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で40秒を1サイクルとして40サイクルを行い、72℃で10分間伸長させた。
【0049】
使用したPCRプライマーは以下の通りである。
EML4(E12)-FP:5’-CACACCTGGGAAAGGACCTA-3’(V1フォワードプライマー)(配列番号1)
ALK(E20)-RP5’-ACTACTGCTTTGCTGGCAAGACCT-3’(V1リバースプライマー)(配列番号2)
対照群プライマー配列(FP):5’-GTGCAGTGTTTAGCATTCTTGGGG-3’(フォワードプライマー)(配列番号5)
対照群プライマー配列(RP):5’-ATCCAGTTCGTCCTGTTCAGAGC-3’(リバースプライマー)(配列番号6)
【0050】
増幅されたqRT-PCR産物をアガロースゲルで電気泳動してバンドを確認し、確認されたバンドを分離してシーケンスを行った。
【0051】
その結果、従来公知のプライマーを用いたPCR法(図5)と本発明のプライマーを用いたqRT-PCR法(図6)の両方で、V1変位を検出限界0.1%~1%で検出することができ、本実施例の方法ではよりクリーンなバンドを確認することができた。ここで0.1%とは、白血球1000個あたり血中循環癌細胞1個から検出できることを意味する。
【0052】
実施例6:qRT-PCRを用いたEML4-ALKのV3型変異の検出方法
EML4-ALKのV3型の変異を有する肺癌細胞株であるH2228細胞株(ATCC、CRL-5935)を培養した後、RNAを抽出した。前記抽出されたRNAからcDNAを合成し、合成されたcDNAを順次希釈して、EML4-ALKのV3型検出用qRT-PCRの鋳型として使用した。使用されたプライマーを除いては、実施例5と同様の方法でqRT-PCRを行った。
【0053】
EML4(E1E2)-FPプライマー(配列番号3)およびALK(E20)-RPプライマー(配列番号2)を使用してqRT-PCRを行う場合は、789bp(V3a型)または822bp(V3b型)のPCR産物が増幅され、EML4(E4)-FPプライマー(配列番号4)およびALK(E20)-RPプライマー(配列番号2)を使用してqRT-PCRを行う場合は、387bp(V3a型)または420bp(V3b型)のqRT-PCR産物が増幅される。
【0054】
使用したqRT-PCRプライマーは以下の通りである。
EML4(E1E2)-FP:5’-CCAAAACTGCAGACAAGCAT-3’(V3フォワードプライマー)(配列番号3)
EML4(E4)-FP:5’-CACAAATTCGAGCATCACCTTCTC-3’(V3フォワードプライマー)(配列番号4)
ALK(E20)-RP 5’-ACTACTGCTTTGCTGGCAAGACCT-3’(配列番号2)(プライマーV3リバース)
対照群プライマー配列(FP):5’-GTCAGCTCITGAGTCACGAGIT-3’(フォワードプライマー)(配列番号7)
対照群プライマー配列(RP):5’-ATCCAGITCGTCCTGITCAGAGC-3’(リバースプライマー)(配列番号8)
【0055】
増幅されたqRT-PCR産物は、アガロースゲル電気泳動してバンドを確認し、確認されたbandを分離してシーケンスを行った。
【0056】
その結果、従来公知のプライマーを用いたPCR法(図8)では、V3変異を検出限界1%~10%で検出することができ、本発明のプライマーを用いたPCR法(図9)では、EML4(E1E2)-FPプライマーを使用した場合、1~10%の検出限界を示し、EML4(E4)-FPプライマーを使用した場合、0.1~1%の検出限界を示した。
【0057】
実施例7:Nested PCRを用いたV1およびV3型変異の検出
V1変異を検出するためのNested PCRにおいて、1回目のPCRでは、EML4(E12)-FP(配列番号1)および3078RRプライマー(配列番号9)を使用し、2回目のPCRでは、Fusion RT-Sプライマー(配列番号10)およびALK(E20)-RP(配列番号2)を使用した。
【0058】
3078RRプライマー配列:5’-ATCCAGTTCGTCCTGTTCAGAGC-3’(配列番号9)
Fusion RT-Sプライマー配列:5’-GTGCAGTGTTTAGCATTCTTGGGG-3’(配列番号10)
【0059】
その結果、図7に示すように、V1型変異の場合、検出限界0.001%で変異型の検出が可能であって、敏感度が公知の技術よりも1000倍向上することが確認された。
【0060】
V3変異を検出するためのNested PCRにおいて、1回目のPCRでは、EML4(E1E2)-FP(配列番号3)およびALK(E20)-RP(配列番号2)を使用し、2回目のPCRでは、EML4(E4)-FP(配列番号4)およびALK(E20)-RP(配列番号2)を使用した。
【0061】
その結果、図10に示すように、V3型変異の場合、検出限界0.1%で変異型の検出が可能であって、敏感度が10倍向上することが確認された。
【0062】
実施例8:Nested PCRを用いた臨床サンプルにおけるEMI.A-ALK変異検出
実施例6及び実施例7のPCRおよびNested PCR法を用いて、臨床サンプルにおけるEML4-ALK変異を検出した。
【0063】
組織学的に確診された非小細胞肺癌患者のうち、癌組織のFISHの結果でEML4-ALK陽性と確認された患者(韓国のソウル大学病院IRB 1209-029-424、2012.9.12)の血液から分離した血中循環癌細胞からRNAを抽出した。前記抽出されたRNAからcDNAを合成し、合成されたcDNAを鋳型として用いて、実施例7の方法でNested PCRを行った。
【0064】
その結果、図11に示すように、V1型変異の検出が確認され、実際EML4-ALK変異を有する患者の血中癌細胞からEML4-ALK変異を検出できることが確認された。
【0065】
上述した本発明の説明は、単なる例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態へと容易に変形できることが理解できる筈である。よって、上述した実施例は、あらゆる面において例示的なものに過ぎず、限定的ではないものと理解すべきである。例えば、単一型であると説明されている各構成要素は、分散されて実施されてもよく、同様に、分散されていると説明されている構成要素もまた、組み合わせられた形態に実施されてもよい。
【0066】
本発明の範囲は、後述する特許請求の範囲によって表わされ、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導き出されるあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下では、添付図面に基づいて、本発明を詳しく説明する。しかしながら、本発明は、種々の異なる形態に具現化可能であり、したがって、ここで説明する実施例に限定されるものではない。また、図中、本発明を明確に説明するために、説明とは無関係な部分は省略し、明細書の全般に亘って、類似の部分には類似の図面符号を付している。
【0068】
明細書の全般に亘って、ある部分が他の部分と「連結(接続、接触、結合)」されているとしたとき、これは、「直接的に連結(接続、接触、結合)」されている場合のみならず、これらの間に他の部材を挟んで「間接的に連結(接続、接触、結合)」されている場合も含む。なお、ある部分がある構成要素を「含む」としたとき、これは、特に断りのない限り、他の構成要素を除外するわけではなく、他の構成要素をさらに備えていてもよいことを意味する。
【0069】
本明細書において用いた用語は、単に特定の実施例を説明するために用いられたものであり、本発明を限定しようとする意図はない。単数の表現は、文脈からみて明らかに他の意味を有さない限り、複数の言い回しを含む。本明細書において、「含む」または「有する」などの用語は、明細書に記載の特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するものに過ぎず、1つまたはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないものと理解すべきである。
【0070】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施例を詳しく説明する。
【0071】
本発明の一側面によるEML4-ALK遺伝子変異分析方法は、
(a)癌患者から液体生検サンプルを取得するステップと、(b)バイオチップを用いて、前記液体生検サンプルから血中循環癌細胞を分離するステップと、(c)前記分離された血中循環癌細胞からRNAを分離するステップと、(d)前記分離されたRNAを鋳型とし、2つのqRT-PCR用プライマーを用いてqRT-PCRを行うステップと、(e)前記qRT-PCRの産物を鋳型とし、前記2つのqRT-PCR用プライマーに対する2つのnestedプライマーを用いてnested PCRを行うステップと、(f)前記nested PCRの産物によりEML-ALK遺伝子の変異型を検出するステップと、を含んでいてもよい。
【0072】
前記液体生検とは、穿刺や切開などの侵襲的手術を行わず、血液や腹水などの体液中の癌遺伝子断片を採取する検査を意味する。すなわち、前記液体生検は、血液などの体液の検査だけで、身体の部位別血液や腹水内に存在する癌細胞由来のDNAを分析することにより、癌の発生と転移などについての詳細な観察を行うことができる。本発明の一実施例によれば、前記液体生検のためのサンプルは、血液、滑液、腹水、胸膜液、脳脊髄液、および腹膜液を含んでいてもよい。本発明の好適な一実施例によれば、前記液体生検サンプルは、血液であってもよい。
【0073】
前記血中循環癌細胞(Circulating Tumor Cells、CTC)とは、悪性腫瘍の患者の末梢血に見られる腫瘍細胞を意味する。血中循環癌細胞は非常にまれであり、入手できる標本の量が非常に制限される。血中循環癌細胞の検出および特性解析における技術は、複数の逆転写定量ポリメラーゼ連鎖反応の方法、イメージングベースのアプローチ、および精密ろ過法、ならびにマイクロチップデバイスを含み、これらに限定されない。血中循環癌細胞は、液体生検検体によりパーソナライズされた治療と治療後の経過観察を必然的に提供できる腫瘍の生物学的マーカーとして機能することができる。また、血中循環癌細胞は、腫瘍の生物学的特性および腫瘍細胞の播種を理解するための標的として使用できるが、これらに限定されない。本発明の一実施例によれば、前記血中循環癌細胞は肺癌由来細胞であってもよい。本発明の好適な一実施例によれば、前記血中循環癌細胞は非小細胞肺癌由来細胞であってもよい。
【0074】
前記バイオチップとは、半導体などの無機物からなる固体基質に、生物に由来するDNA、タンパク質、酵素、抗体、微生物、動植物細胞および器官、神経細胞などの物質を、高密度に集積化して組み合わせて、従来の半導体チップ形状にした混成素子であり、生体分子の固有の機能を用いて、遺伝子発現パターン、遺伝子結合、タンパク質の分布などの生物学的情報を得るか、または生化学的プロセスおよび反応速度または情報処理速度を高めるツールや装置をいう。
【0075】
前記高密度マイクロチップとは、バイオチップの作用原理に基づいて特定のサイズの物質を分離できるバイオチップをいう。
【0076】
前記高密度マイクロチップは、血液細胞の大きさの違いに基づいて、血中循環癌細胞を10分以内に約90%の回収率で捕捉することができる。
【0077】
本発明の実施例において、前記高密度マイクロチップの気孔径(pore size)は、好ましくは5.5~8.5μm、より好ましくは6.5~7.5μmであってもよい。気孔径が5.5μmよりも小さい場合には、赤血球および白血球がチップを通過できず、チップ上にかかるようになって除去されない。気孔径が8.5μmよりも大きい場合には、気孔径が血中循環癌細胞および免疫細胞の大きさよりも大きいため、血中循環癌細胞および免疫細胞がチップを通過して、血中循環癌細胞および免疫細胞を選択的に回収することができない。本発明の一実施例において、前記高密度マイクロチップの気孔形状は、円形、四角形または楕円形であってもよく、好ましくは四角形であってもよい。
【0078】
本発明の一実施例において、前記高密度マイクロチップの気孔は、規則的なパターンで配置されてもよい。本発明の他の一実施例において、前記高密度マイクロチップは、具体的にはステンレス鋼、ニッケル、アルミニウムまたは銅で作られていてもよい。前記気孔は、メムス(MEMS、Micro-electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)技術を利用したエッチング(etching)によって形成されてもよい。
【0079】
気孔の中で2つの隣接する気孔間の間隔は、血中循環癌細胞および免疫細胞の直径よりも狭く形成されている。本発明の一実施例によれば、2つの気孔間の間隔は、血中循環癌細胞および免疫細胞の直径に対して45~65%で形成されてもよい。前記高密度マイクロチップは、通路を流れる血液または溶液の圧力によって変形されない。
【0080】
血液は、気孔を通過した後に外に排出され、血液中の血中循環癌細胞は、気孔を通過せずに表面に残留される。本発明の一実施例によれば、前記血中循環癌細胞は肺癌由来細胞であってもよい。本発明の好適な一実施例によれば、前記血中循環癌細胞は非小細胞肺癌由来細胞であってもよい。
【0081】
非標的細胞、すなわち血中循環癌細胞よりも高い変形率を有する赤血球は、気孔を容易に通過する。
【0082】
血中循環癌細胞のろ過後、血中循環癌細胞は、溶液を逆方向または順方向に供給して外に排出することができる。本発明の一実施例によれば、血中循環癌細胞の損傷を最小限に抑えるために、溶液を逆方向に供給してもよい。前記溶液を、注射器、シリンジポンプ、プランジャーポンプ等を使用して供給することができる。本発明の一実施例によれば、前記溶液は、血液を希釈する希釈剤、水(Water)および希釈用酸から構成されていてもよい。前記溶液の供給によって外に排出される血中循環癌細胞および免疫細胞を、コンテナ(Container)、例えば試験管、ペトリ皿などに収集して簡単に採取することができる。
【0083】
一方、直径7.5~15μmの血中循環癌細胞は、約100mmHgの圧力が加えられるとき、直径8μmの管を通過する。直径8μmの管を通過する直径15μmの血中循環癌細胞は、約53%の変形率を有する。逆洗浄(Back washing)、すなわち溶液を血液の流れとは反対方向に流して、直径7.5μmの血中循環癌細胞を外に排出させるとき、血中循環癌細胞の変形率を考慮すると、2つの気孔間の間隔は、好ましくは4μm以下である。例えば、非小細胞肺癌と乳癌の癌細胞は、直径が40μm程度に達することが知られている。逆洗浄の際、直径40μmの血中循環癌細胞の変形率を考慮すると、好ましくは、2つの気孔間の間隔を21μm以下に設定する。直径7.5μmの血中循環癌細胞が間隔4μmを超える2つの気孔の間に存在するとき、血中循環癌細胞が溶液の流れによって変形されて表面から脱落しない場合がある。また、直径40μmの癌細胞も間隔21μmを超える2つの気孔間の表面から脱落しない場合がある。本発明による高密度マイクロチップにおいて、溶液の圧力を考慮して、2つの気孔間の間隔は、血中循環癌細胞の直径に対して45~65%で設けられる。直径7.5μmの血中循環癌細胞は、間隔が65%を超え、すなわち約4.9μmを超える場合、逆洗浄によって2つの気孔間の表面から脱落しない場合がある。直径40μmの血中循環癌細胞は、間隔が65%を超え、すなわち26μmを超える場合、逆洗浄によって2つの気孔間の表面から脱落しない場合がある。2つの気孔間の表面にくっついた血中循環癌細胞を強制的に脱落させるために溶液の圧力を上げると、血中循環癌細胞が損傷して、生きている血中循環癌細胞の採集率が低下する。直径7.5μmの血中循環癌細胞に対する間隔が45%未満、すなわち約3.375μm未満の場合、血液と溶液の流れによって前記高密度マイクロチップが破損する恐れが高い。
【0084】
本発明の一実施例において、前記高密度マイクロチップで前記試料を繰り返し通過させることができる。具体的には、血中循環癌細胞が前記高密度マイクロチップで一回分離された後、前記分離された血中循環癌細胞を再び前記高密度マイクロチップにロードして分離することができ、前記分離工程を繰り返すことができる。
【0085】
本発明の一実施例において、前記高密度マイクロチップを用いた血中循環癌細胞の分離は、血中循環癌細胞を含む溶液を高密度マイクロチップにロードした後に特定の人為的圧力を加えることで行われるのではなく、重力を用いて行われてもよい。本発明による高密度マイクロチップを用いた血中循環癌細胞の分離は、血中循環癌細胞への人為的な圧力により引き起こされるダメージを最小限に抑えることにより、患者の体内に存在していた状態をそのまま維持することができる。
【0086】
本発明の一実施例において、前記高密度マイクロチップは、血中循環癌細胞が分離されるとき、前記高密度マイクロチップによる血中循環癌細胞へのダメージを最小限に抑えるか、前記高密度マイクロチップの繰り返し使用をより効率的にするために、または血中循環癌細胞の回収率をより効率的に高めるために、特定の物質でコーティングされてもよい。前記特定の物質は、具体的に血中循環癌細胞に特異的に結合できる抗体であってもよく、細胞に物理的または化学的にダメージを与えない生体材料であってもよい。本発明の一実施例によれば、前記の特定の物質は、BSA(Bovine Serum Albumin)または抗体であってもよい。前記抗体は、例えば、抗上皮細胞接着分子抗体(Anti-Epithelial Cell Adhesion Molecule antibody、Anti-EpCAM antibody)、抗サイトケラチン抗体(Anti-Cytokeratin antibody、Anti-CK antibody)などから構成されていてもよい。本発明の好適な一実施例によれば、前記特定の物質は、BSA(Bovine Serum Albumin)であってもよい。
【0087】
前記BSA(Bovine Serum Albumin)溶液とは、ウシ血清アルブミンをいう。これは、分子量約66.4kDa程度のタンパク質であって、ほとんどの動物に大量に含まれている蛋白質である。BSAは、生化学/生物学において、細胞培養時に細胞の栄養分として加えてもよく、タンパク質の定量で検量線を得るための標準物としても多く使われており、制限酵素を使用する場合、少量の酵素(タンパク質)を使用する必要があるので、溶液内のタンパク質濃度を補うために加えられてもよい。また、種々の生化学的実験(Western blot、Immunocytochemistry、ELISAなど)において、特定の抗体を検出しようとするタンパク質を接着する前に、非特異的結合(nonspecific binding)、すなわち所望しないタンパク質、あるいは所望しない位置に抗体がくっつく非特異的結合を防ぐために使用されてもよい。
【0088】
本発明の一実施例によれば、遠心分離法を用いて末梢血を、前記BSA溶液でコーティングされた高密度マイクロチップに反応させて、血中循環癌細胞を除いた他の生体高分子を除去することができる。本発明の一実施例によれば、前記高密度マイクロチップを用いた分離は、重力により行われてもよく、具体的には大気圧1000~1020hPaで、好ましくは大気圧1000~1015hPaで、より好ましくは大気圧1000~1013hPaで行われてもよい。
【0089】
本発明の一実施例によれば、前記BSA溶液は、前記高密度マイクロチップの上面、下面または前記気孔の内面にコーティングされてもよい。好ましくは、前記高密度マイクロチップの上面、下面及び前記気孔の内面のすべてにコーティングされてもよい。
【0090】
本発明の一実施例によれば、前記BSA溶液のコーティングは、0.05~0.15%の濃度で行われてもよい。本発明の好ましい実施例によれば、前記BSA溶液のコーティングは、0.08~0.012%の濃度で行われてもよい。
【0091】
本発明の一実施例によれば、前記BSA溶液のコーティングは、5~15分間処理されてもよい。本発明の好適な一実施例によれば、前記BSA溶液のコーティングは、8~12分間処理されてもよい。
【0092】
図1に示すように、患者の血液からまず血球細胞を除去するために、採血された患者の血液に抗体重合体を入れた後、よく混合し、常温で反応させる。次に、1%FBSを含むPBS溶液を加え、反応溶液にFicoll溶液を加えた後、遠心分離により血球細胞を1次的に除去する。このように、本発明では、不要な血球細胞を1次的に除去した後、BSA溶液で特別にコーティングされた高密度マイクロチップを用いて、赤血球をろ過して高純度の血中循環癌細胞を分離する。分離された血中循環癌細胞は染色により同定される。前記BSAでコーティングされた高密度マイクロチップを用いると、本発明において分離しようとする血中循環癌細胞を、損傷を最小限に抑えた状態で分離させることができる。このように高純度の血中循環癌細胞は、本発明のEML4-ALK遺伝子変異分析方法が効果的に作用できるように、その効率を大幅に高めることができる。
【0093】
本発明の一実施例によれば、バイオチップを用いて前記液体生検サンプルから血中循環癌細胞を分離するステップの後に、分離された血中循環癌細胞を短期培養するステップをさらに行ってもよい。
【0094】
本発明の一実施例において、前記の短期培養で使用される培養液は、インスリン、トランスフェリン、EGF(Epidermal Growth Factor:上皮成長因子)およびROCK(Rho-kinase:Rhoキナーゼ)阻害剤からなる群から選ばれた少なくとも3つから構成されてもよい。
【0095】
前記インスリンは、ヒトの代謝系のホルモンの1つであり、膵臓(器官)のランゲルハンス島のベータ細胞から分泌され、血液中のブドウ糖の数値である血糖値を一定に保つ働きをする。血糖値が一定以上に上がるとインスリンが分泌され、血液中のブドウ糖(グルコース)が細胞内に取り込まれて再び多糖(グリコーゲン)の形で蓄える作用を促進する。本発明による短期培養ステップで使用される培養液は、前記インスリンを含むことにより、血中癌細胞を培養するにあたり、従来の血中循環腫瘍細胞培養液よりも細胞の成長および分裂をさらに促進させることができる。本発明の一実施例によれば、前記インスリンは、3~50ng/mlの、3~45ng/ml、3~40ng/ml、3~30ng/ml、4~50ng/ml、4~45ng/ml、4~30ng/ml、5~50ng/ml、5~45ng/mlまたは5~30ng/mlであってもよい。
【0096】
前記トランスフェリンはβグロブリンの一種であり、血清中に吸収された2分子の3価鉄イオンと結合して、細胞増殖やヘモグロビン産生に必要な鉄を、トランスフェリン受容体を介して細胞内に供給する鉄輸送タンパク質である。血清中の鉄99%以上がトランスフェリンと結合し、通常はトランスフェリンの約3分の1が鉄と結合できる。本発明による短期培養ステップで使用される培養液は、前記トランスフェリンを含むことにより、血中癌細胞を培養するにあたり、従来の血中循環腫瘍細胞培養液よりも細胞の成長および分裂をさらに促進させることができる。本発明の一実施例によれば、前記トランスフェリンは、3~50ng/ml、3~45ng/ml、3~40ng/ml、3~30ng/ml、4~50ng/ml、4~45ng/ml、4~30ng/ml、5~50ng/ml、5~45ng/mlまたは5~30ng/mlであってもよい。
【0097】
前記上皮成長因子(Epidermal Growth Factor、EGF)は、上皮成長因子受容体に結合して細胞の成長および分裂を促進させるポリペプチド成長因子である。また、前記上皮成長因子は、タンパク質合成やRNA合成を促進するほか、オルニチン脱炭酸酵素を誘導することができる。本発明による短期培養ステップで使用される培養液は、前記上皮成長因子を含むことにより、血中癌細胞を培養するにあたり、従来の血中循環腫瘍細胞培養液よりも細胞の成長および分裂をさらに促進させることができる。本発明の実施例によれば、前記上皮成長因子は、0.5~10ng/ml、0.5~9ng/ml、0.5~8ng/ml、0.5~7ng/ml、0.5~6ng/ml、0.5~5ng/ml、0.7~10ng/ml、0.7~9ng/ml、0.7~8ng/ml、0.7~7ng/ml、0.7~6ng/ml、0.7~5ng/ml、1~10ng/ml、1~9ng/ml、1~8ng/ml、1~7ng/ml、1~6ng/mlまたは1~5ng/mlであってもよい。
【0098】
前記ROCK(Rho-associated protein kinase)阻害剤は、Rhoキナーゼ(ROCK)をターゲットにしてその機能を阻害または低下させることができる化合物を意味する。ここで、Rhoキナーゼは、セリン-トレオニンキナーゼのAGCファミリー(PKA/PKG/PKC)に属するキナーゼである。前記Rhoキナーゼは、細胞骨格(cytoskeleton)に作用することにより、細胞の運動および形態を制御する過程に関連している。具体的には、前記Rhoキナーゼは、細胞の移動およびアクチン組織化の調節因子として作用することができる。前記Rhoキナーゼは、糖尿病、出血性脳血管疾患、パーキンソン氏病などの神経変性疾患に関連しており、前記Rhoキナーゼ阻害剤は、前記Rhoキナーゼ関連疾患の治療および阻害に使用できる。本発明の一実施例によれば、前記ROCK阻害剤は、ファスジル(Fasudil)、リパスジル(Ripasudil)、RKI-1447及びY27632からなる群から選択された少なくとも1つであってもよい。前記ファスジルは、ROCK阻害剤の1つであって、脳血管痙攣の治療に使用でき、肺高血圧症の治療にも効果的である。前記リパスジルは、前記ファスジルの誘導体であって、ROCK阻害剤として作用でき、緑内障または高眼圧症の治療にも使用できる。前記RKI-1447は、ROCK1及びROCK2を阻害することができる。前記Y27632は、細胞を通過して、酵素の触媒部位に結合するためにATPと競合することにより、ROCK1およびROCK2を阻害することができる。本発明の一実施例によれば、前記ROCK阻害剤は、3~30μM、3~27μM、3~24μM、3~21μM、4~20μM、4~30μM、4~27μM、4~24μM、4~21μM、4~20μMであってもよい。
【0099】
本発明による短期培養で使用される前記培養プレートは、細胞接着を防ぐ表面を有してもよい。本発明の一実施例によれば、血中癌細胞を浮遊状態で培養することができるため、細胞接着を防ぐために前記培養プレートの表面をコーティングしてもよい。前記培養プレートの表面コーティングは、ハイドロゲルで行われてもよい。前記ハイドロゲルは、水を分散媒とするゲルを意味し、ヒドロゾルが冷却により流動性を喪失したり、3次元網目構造および微結晶構造を有する親水性高分子が水を含有して膨張したりして形成される。具体的には、前記ハイドロゲルは、共有結合、水素結合、ファンデルワールス結合または物理的結合などの凝集力によって架橋された親水性高分子であって、水溶液上で多量の水を内部に含有して膨潤できる3次元高分子ネットワーク構造を有する物質である。このように、水を吸収した状態では、生体の組織と同様の挙動を示す。前記ハイドロゲルは、温度、pHなどにより相転移するため、膨張率を不連続的に変化させることができ、コンタクトレンズ、医療用電極、細胞培養に使用できる。本発明の一実施例によれば、前記ハイドロゲルは、血中癌細胞が培養プレートの表面に接着されるのを防ぐために、培養プレート上に共有結合的にコーティングされてもよい。本発明の他の一実施例によれば、前記ハイドロゲルは、中性電荷を持ちながら親水性を有してもよい。前記中性電荷を持つということは、電荷が正でも負でもないことを意味し、前記親水性とは、水に対する強い親和性を意味し、水によく溶けることを意味する。
【0100】
本発明の一実施例において、前記短期培養するステップは、培養の開始から1~15日間行われてもよい。本発明の他の実施例においては、5~15日、好ましくは10~15日、より好ましくは12~15日であってもよい。
【0101】
本発明の一実施例によれば、ALK陽性非小細胞肺癌は、2つの遺伝子ALKおよびEML4の融合によるEML4-ALK変異によって引き起こされる肺癌であり、EML4-ALK変異には、融合されるEML4遺伝子のエクソンおよび/またはイントロン部位に応じて、以下に示すような様々な変異型がある。
【0102】
変異(Variant)1:エクソン1-13(EML4)+エクソン20-29(ALK)
変異(Variant)2:エクソン1-20(EML4)+エクソン20-29(ALK)
変異(Variant)3a:エクソン1-6a(EML4)+エクソン20-29(ALK)
変異(Variant)3b:エクソン1-6b(EML4)+エクソン20-29(ALK)
変異(Variant)4a:エクソン15(EML4)+エクソン20-29(ALK)
変異(Variant)4b:エクソン14(EML4)+11bpサイズのオリゴヌクレオチドからなるリンカー+エクソン20-29(ALK)
変異(Variant)5a:エクソン2(EML4)+エクソン20-29(ALK)
変異(Variant)5b:エクソン2(EML4)+イントロン19(ALK)+エクソン20-29(ALK)
【0103】
これらの変異のうち、韓国では、2種類の変異、変異1(Variant1、V1)と変異3(Variant3、V3)の患者が多数存在することが確認されており、非小細胞肺癌患者167人を確認した結果、10人の患者がEML4-ALK融合変異を有していることが確認された場合、そのうちの4人がV1型変異であり、2人がV3b型変位であるという報告があった(非特許文献3)。
【0104】
V3型には、2つのアイソフォーム(isoform)があり、V3b型には、EML4のイントロン6の33bpがさらに融合部分に含まれている。したがって、V3型のPCRを検出すると、2つのサイズのPCR産物が発生する可能性がある。
【0105】
本発明の一実施例によれば、前記EML4-ALK遺伝子の変異型は、V1型、V2型、V3a型、V3b型、V4a型、V4b型、V5a型またはV5b型であってもよく、好ましくはV1型またはV3型であってもよい。
【0106】
前記RNAを分離するステップは、当業界で通常使用される方法により行われてもよく、商業的に販売されているRNA抽出キットを用いて行われてもよい。また、前記qRT-PCRを行うステップにおいて、qRT-PCRは、分離されたRNAを鋳型とし、本発明の2つのqRT-PCR用プライマーのうちリバースqRT-PCR用プライマーをプライマーとし、逆転写酵素を用いて逆転写反応により相補的DNA鎖を合成した後、PCR反応を行ってもよい。PCR反応は、PCR反応に必要な当業界に公知の種々の成分を含むPCR反応混合液を使用して行ってもよい。前記PCR反応混合液は、逆転写反応により合成された相補的DNAおよび本発明で提供されるqRT-PCR用プライマーに加えて、適量のDNAポリメラーゼ、dNTP、PCR緩衝液および蒸留水(dHO)を含む。前記PCR緩衝液は、トリス-HCl(Tris-HCl)、MgCl、KClなどを含む。このとき、MgCl濃度は、増幅の特異性と収量に大きく影響を与える。一般に、Mg2+が過剰な場合は、非特異的なPCR増幅産物が増加し、Mg2+が不十分な場合は、PCR産物の算出率が減少する。前記PCR緩衝溶液は、適量のトリトンX-100(Triton X-100)をさらに含んでいてもよい。また、PCRは、DNAを前変性させた後、変性(denaturation)、アニーリング(annealing)、および増幅(extension)のサイクルを行い、最終的に72℃で延長(elongation)させる一般的なPCR反応条件下で行われてもよい。上記において、変性及び増幅は94~95℃及び72℃でそれぞれ行い、結合時の温度は増幅ステップで使用されるプライマーの種類によって変わり得る。本発明の一実施例によれば、本発明のqRT-PCR用プライマーの場合は55~64℃で行われてもよい。各ステップの時間とサイクル数は、当業界において一般に行われる条件によって定められてもよい。
【0107】
EML4-ALK変異の検出に使用されてきた公知のプライマーの検出限界は、0.1~1%であり、検体が癌組織である場合は、変異の検出に問題がないが、血中循環癌細胞を分離して検出する方法を使用するためには0.1%以下でも確認する必要があるので、検出限界の低いプライマーが必要である。本発明では、高精度と検出効率を有するプライマーを設計するために、下記の方法でプライマーを設計した。プライマーの設計では、プライマー3(http://bioinfo.ut.ee/or imer3-0.4.O/)プライマー設計(primer design)プログラムを用いて候補群を決定し、その後、NCBIホームページ(htto://www.ncbi.nlm.nih.gov/)でblastsearchを用いて、EML4-ALK部位ではない他の部分にプライマーが結合する可能性と、ヘアピン構造が生じる可能性とを回避し、また、プライマー対の間の相同性を直接比較して、互いにdimerを形成しないようにし、さらに、GC contentを確認して、60%以上にならないようにした。前記4種類のプライマーのTm値を類似に調整することで、いかなるプライマーの組み合わせでもPCRを容易に実施できるように設計した。反復配列又は連続配列を避け、cDNAを鋳型として用いるため、プライマーがゲノムDNAに結合して複数のバンド(multiple bands)を生成するのを防ぐために、可能な限りエキソンジャンクション間に設計した。
【0108】
本発明の他の一実施例によれば、2つのqRT-PCR用プライマーのうちの一方は、配列番号1、配列番号3および配列番号4で表されるプライマーからなる群から選択される1つのフォワードqRT-PCR用プライマーであり、他方は、配列番号2で表されるリバースqRT-PCR用プライマーであってもよい。
【0109】
本発明の一実施例によれば、前記2つのqRT-PCR用プライマーは、配列番号1および配列番号2で表されるプライマー対;配列番号3および配列番号2で表されるプライマー対;および配列弁護4および配列番号2で表されるプライマー対からなる群から選択されてもよい。
【0110】
本発明の別の一実施例によれば、2つのqRT-PCR用プライマーが配列番号1および配列番号2で表されるプライマー対は、EML4-ALKのV1型遺伝子変異の検出に使用でき、配列番号3および配列番号2で表されるプライマー対;及び配列番号3および配列番号2で表されるプライマー対は、EML4-ALKのV3型遺伝子変異の検出に使用できる。
【0111】
前記nested PCRを行うステップでは、当業界で周知の方法により、PCR産物のDNAをサイズ別に分離することができる。好ましくは、アガロースゲル(agarose gel)またはポリアクリルアミドゲル(polyacrylamide gel)電気泳動または蛍光分析装置(ABI prism 3100 genetic analyzer-electropherogram)によって確認することができる。このとき、蛍光分析装置を使用するために、当業界に公知の蛍光色素(dye)を付けた2つのqRT-PCR用プライマーを用いて前記qRT-PCRを行うステップでPCRを行う。
【0112】
nested PCRステップを追加すると、PCVを検出する際の非特異的な反応によるエラーを最小限に抑えることができ、これは、必要な場合に役に立つ。
【0113】
PCR増幅の結果は、好ましくは、アガロースゲル電気泳動により確認できる。電気泳動後、臭化エチジウム(ethidium bromide)染色により電気泳動の結果を分析することができる。一般的な逆転写反応、PCR実行およびその結果の分析方法は、当業界によく知られている。
【0114】
本発明の一実施例によれば、前記の2つのnestedプライマーのうちの一方は、フォワードnestedプライマーであり、他方は、リバースnestedプライマーであってもよい。
【0115】
本発明の他の一実施例によれば、2つのnestedプライマーのうちの一方は、配列番号1、配列番号3、配列番号4および配列番号10で表されるプライマーからなる群から選択される1つのフォワードnestedプライマーであり、他方は、配列番号2または配列番号9に表示されるプライマーからなる群から選択される1つのリバースnestedプライマーであってもよいが、前記qRT-PCR産物を増幅できるプライマー対であれば制限なく使用可能である。
【0116】
本発明の他の一実施例によれば、前記の2つのnestedプライマーが配列番号1および配列番号9で表されるプライマー対;及び配列番号10および配列番号2で表されるプライマー対は、EML4-ALKのV1型遺伝子変異の検出に使用でき、配列番号3および配列番号2で表されるプライマー対;及び配列番号4および配列番号2で表されるプライマー対で表されるプライマー対は、EML4-ALKのV3型遺伝子変異の検出に使用できる。
【0117】
本発明で使用される標準的な組換えDNAおよび分子クローニング技術は、当該分野で周知であり、次の文献に記載されている(非特許文献4~6)
【0118】
本発明のまた他の一側面による癌患者スクリーニング方法では、前記EML4-ALK遺伝子変異分析方法により得られた遺伝子変異が、
(i)EML4遺伝子のエクソン1-13+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(ii)EML4遺伝子のエクソン1-20+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(iii)EML4遺伝子のエクソン1-6a+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(iv)EML4遺伝子のエクソン1-6b+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(v)EML4遺伝子のエクソン15+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(vi)EML4遺伝子のエクソン14+11bpサイズのオリゴヌクレオチドからなるリンカー+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(vii)EML4遺伝子のエクソン2+ALK遺伝子のエクソン20-29と、
(viii)EML4遺伝子のエクソン2+ALK遺伝子のイントロン19+ALK遺伝子のエクソン20-29と、からなる群から選択された1つと一致すれば、抗癌剤は、癌患者に対して有効可能性があることを示すことができる。
【0119】
本発明の一実施例によれば、前記癌は肺癌、好ましくは非小細胞肺癌であってもよい。
【0120】
本発明の他の一実施例によれば、前記抗癌剤は、クリゾチニブであってもよい。
【0121】
EML4-ALK変異によって発生する非小細胞肺癌に対する標的抗癌剤は、クリゾチニブ(製品名:ザーコリ、ファイザー社)であり、現在、非小細胞肺癌の治療は、EGFR遺伝子変異およびEML4-ALK融合変異検査の後、イレッサ/ザーコリ/姑息的細胞毒性抗癌剤のうちから治療方法を選択する方式により行われている。
【0122】
しかし、肺癌組織の侵襲的な組織検査を実施できない患者の場合、EML4-ALK融合変異の遺伝子検査を実施できず、クリゾチニブの投与が有効かどうかを確認できないため、投薬治療を行うことができなかった。
【0123】
本発明による癌患者スクリーニング方法は、血中循環癌細胞を非小細胞肺癌患者の血液から分離し、前記血中循環癌細胞におけるEML4-ALK融合変異の存在を確認して、非小細胞肺癌患者にクリゾチニブが有効かどうかを判断することができる。
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【配列表】
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