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特許7241423発光蛋白質、その基質、及びそれらの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】発光蛋白質、その基質、及びそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230310BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20230310BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230310BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20230310BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20230310BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N9/02
C07K19/00
A01H1/00 A
A01H5/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020523125
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2019022198
(87)【国際公開番号】W WO2019235483
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2018106866
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】永井 健治
(72)【発明者】
【氏名】岩野 惠
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-101850(JP,A)
【文献】特開2006-42768(JP,A)
【文献】Annu. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol., 1998, Vol.49, pp.281-309
【文献】Nat. Commun., 2012, Vol.3, 1262 (pp.1-9)
【文献】化学と生物, 2014, Vol.52, No.10, pp.646-650
【文献】Nat. Commun., 2016, Vol.7, 13718 (pp.1-10)
【文献】Biochem. Biophys. Res. Commun., 2004, Vol.320, pp.703-711
【文献】第78回応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集], 2017, p.2.11 (5p-A203-2)
【文献】Mol. Plant, 2013, Vol.6, No.2, pp.444-455
【文献】Front. Plant Sci., 2012, Vol.3, Article 145 (pp.1-6)
【文献】Plant Signal. Behav., 2007, Vol.2 No.2, pp.79-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
A01H 1/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象を光らせる方法であって、
前記対象は、細胞壁に融合発光蛋白質を備える植物体又はその加工品であって、
前記融合発光蛋白質に基質組成物を接触させることを含み、
前記融合発光蛋白質は、化学発光蛋白質部分と、蛍光蛋白質部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分とを有する蛋白質であり、
前記基質組成物は、前記化学発光蛋白質の基質を含有する、方法。
【請求項2】
前記化学発光蛋白質がルシフェラーゼ、イクオリン、オベリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される発光蛋白質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基質が、ホタルルシフェリン、バクテリアルルシフェリン、渦鞭毛藻類ルシフェリン、ヴァルグリン、セレンテラジン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光蛋白質が、緑色蛍光蛋白質、青色蛍光蛋白質、シアン蛍光蛋白質、黄緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、橙色蛍光蛋白質、及び赤色蛍光蛋白質からなる群から選択される蛋白質である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記接触は、前記基質組成物を前記対象に散布、噴霧、又は塗布することにより行う、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記植物体の植物は、観賞用植物、材料用植物、又は食用植物である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記融合発光蛋白質が前記植物体の1又は複数の部位に局在する、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
化学発光蛋白質の部分と、蛍光蛋白質の部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分とを有する融合発光蛋白質が細胞壁に存在する、植物体。
【請求項9】
細胞壁へのシグナル配列と、化学発光蛋白質の部分と、蛍光蛋白質の部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分と、を有する組み換え融合発光蛋白質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光蛋白質、その基質、及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光蛋白質を利用した生細胞のイメージングは、バイオイメージングの主要な手段となっている。蛍光蛋白質を光らせるには励起光が必要であるが、この励起光は、しばしば、光毒性、光依存的な生物学的現象の摂動、試料からの自己蛍光などを引き起こすという問題がある。
これらの問題は、蛍光蛋白質の替わりにルシフェラーゼなどの発光蛋白質を使えば、回避できる。発光蛋白質は、ルシフェリンなどの発光化合物の(基質)反応を触媒することで放射シグナルを生成でき、外部光源から完全に独立している。しかしながら、従来の発光蛋白質には、より強い光子出力が求められた。
発光蛋白質の薄暗さを解消するため、発光量子収量、触媒ターンオーバー、安定性などの、ルシフェラーゼの内在特性の向上が試みられた。近年、最も明るいルシフェラーゼであるNanoLuc(Nluc)が、深海エビのOplophorusルシフェラーゼ(Oluc)を用いた遺伝子工学により開発され、最適な基質であるフリマジン(furimazine)も開発された。
Nlucは発光強度が強く、非常に有用であるが、カラーバリエーションがないという問題があった。
【0003】
この問題は、目的の色を発光する蛍光蛋白質へのフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)を利用することで克服された。ルシフェラーゼと蛍光蛋白質との硬い連結が、効率的なFRETに起因するアクセプター蛍光蛋白質の発光をもたらす。
その1つ例が、ナノランタンである。Renillaルシフェラーゼとイエロー蛍光蛋白質Venusが結合され、イエローナノランタン(YNL)が作り出された。また、Renillaルシフェラーゼとオレンジ蛍光蛋白質KusabiraOrange2が結合され、オレンジナノランタン(ONL)が作り出された。
さらに、エンハンストナノランタン(eNL)シリーズが開発された。Nlucが、シアン蛍光蛋白質mTuroquoise2、グリーン蛍光蛋白質mNeonGreen、イエロー蛍光蛋白質Venus、オレンジ蛍光蛋白質mKOκ、及びレッド蛍光蛋白質tdTomatoと結合され、シアンeNL(CeNL)、グリーンeNL(GeNL)、イエローeNL(YeNL)、オレンジイエロー(OeNL)、及びレッドeNL(ReNL)が、それぞれ、作り出された(非特許文献1)。
【0004】
発光蛋白質は、バイオイメージング以外の用途として、観賞用植物への導入が提案されている。特許文献1は、ルシフェラーゼを導入した植物に、根やカットした茎から基質であるルシフェリンを吸収させて発光させることを開示する。
また、特許文献2は、生物発光生成系を含む製造物品(おもちゃ、衣服、入浴剤等)を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Suzuki, K et al. Nat Commun. 2016, DOI: 10.1038/ncomms13718
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-42768号公報
【文献】特表平11-504822公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の植物体は、細胞質内で発光蛋白質が発現する。ルシフェリンなどの基質は一般的に細胞膜を通過できない。そのため、特許文献1では、根やカットした茎から基質を吸収させている。
しかし、観賞用や娯楽用に発光蛋白質を備える植物体を光らせる場合、手軽な方法が望まれる。
そこで、本開示は、一態様において、発光蛋白質を備える植物体を光らせる手軽な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、対象を光らせる方法であって、
前記対象は、細胞壁に融合発光蛋白質を備える植物体又はその加工品であって、
前記融合発光蛋白質に基質組成物を接触させることを含み、
前記融合発光蛋白質は、化学発光蛋白質部分と、蛍光蛋白質部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分とを有する蛋白質であり、
前記基質組成物は、前記化学発光蛋白質の基質を含有する方法に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、化学発光蛋白質の部分と、蛍光蛋白質の部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分とを有する融合発光蛋白質が細胞壁に存在する植物体又はその加工品に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、細胞壁へのシグナル配列と、化学発光蛋白質の部分と、蛍光蛋白質の部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分と、を有する組み換え融合発光蛋白質に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、一態様において、融合発光蛋白質を有する植物体を簡便に光らせることができる方法又は物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、細胞壁シグナル配列の一例を植物種、蛋白質名、遺伝子名とともに示した表である。
図2図2は、本開示に係る融合発光蛋白質を植物へ遺伝子導入するためのベクターの概略図である。細胞質発現型と細胞壁発現型のそれぞれの一例を示す。
図3図3は、本開示に係る融合発光蛋白質が遺伝子導入されたことをRT-PCRで確認した結果の一例を示す。
図4図4は、遺伝子導入された細胞質発現型融合発光蛋白質及び細胞壁発現型融合発光蛋白質の発現箇所を共焦点レーザー顕微鏡で確認した結果の一例を示す。
図5図5は、基質水溶液を外部(葉など)から接触させた場合の、細胞質発現型植物と細胞壁発現型植物と間の発現強度の違いを示す一例を示す。
図6図6は、細胞質発現型と細胞壁発現型の融合発光蛋白質が導入されたシロイヌナズナの明視野像及び発光像の一例を示す図である。
図7図7は、細胞質発現型と細胞壁発現型の融合発光蛋白質が導入されたシロイヌナズナの蛍光像の一例を示す図である。
図8図8は、細胞壁発現型の融合発光蛋白質が花弁に特異的に発現するように導入されたシロイヌナズナの明視野像、蛍光像及び発光像の一例を示す図である。
図9図9は、細胞質発現型の融合発光蛋白質が導入されたペチュニアの明視野像及び発光像の一例を示す図である。
図10図10は、細胞壁発現型の融合発光蛋白質が導入されたペチュニアの明視野像、発光像及び蛍光像の一例を示す図である。
図11図11は、融合発光蛋白質が導入されたタマネギの表皮細胞の蛍光像及び発光像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[融合発光蛋白質]
本開示で使用する、あるいは、本開示で言及される発光蛋白質は、化学発光蛋白質の部分と、蛍光蛋白質の部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分とを有する融合発光蛋白質である。本開示において、前記共鳴エネルギー移動は、一態様において、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)である。
本開示に係る融合発光蛋白質において、化学発光蛋白質の部分はFRETのドナーとなるものであり、蛍光蛋白質の部分はFRETのアクセプターとなりうるものである。
【0014】
[化学発光蛋白質]
本開示に係る融合発光蛋白質における化学発光蛋白質としては、一又は複数の実施形態において、生物発光蛋白質が挙げられ、あるいは、特定の化学的基質の発光生成反応を触媒する蛋白質が挙げられる。前記化学発光蛋白質の一又は複数の実施形態としては、ルシフェラーゼ、イクオリン、オベリン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0015】
前記化学発光蛋白質は、自然界に存在するルシフェラーゼ、イクオリン、及びオベリンを単離又はクローニングしたものでもよく、それらの改変体であってもよい。化学発光蛋白質の改変体は、一又は複数の実施形態において、化学発光機能特性(例えば、発光強度、発光色)に影響のない部分に変異(例えば欠失及び/又は置換)があり、かつ、該変異がない状態と比較して実質的に同じあるいは類似した化学発光機能特性を有する化学発光蛋白質である。また、化学発光蛋白質の改変体は、一又は複数の実施形態において、化学発光機能特性に影響する部分に変異(例えば欠失及び/又は置換)があり、かつ、該変異がない状態と比較して実質的に異なる化学発光機能特性を有する化学発光蛋白質である。
【0016】
ルシフェラーゼとしては、限定されない一又は複数の実施形態において、ウミシイタケルシフェラーゼ(Renillaルシフェラーゼ)、深海エビルシフェラーゼ(Oplophorusルシフェラーゼ)、ウミホタルルシフェラーゼ(Vargula/Cypridinaルシフェラーゼ)、カイアシルシフェラーゼ(Gaussiaルシフェラーゼ、Metridiaルシフェラーゼ)、渦鞭毛藻類ルシフェラーゼ、発光キノコ(ヤコウタケ:Mycena chlorophos、ツキヨタケ:Omphalotus japinicus)のルシフェラーゼ、サクラエビのルシフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ(Photinusルシフェラーゼ)、バクテリアルシフェラーゼ、Akaluc、Turbolucなどが挙げられる。
【0017】
本開示において、「化学発光蛋白質の部分」とは、融合発光蛋白質に組み込まれて(融合されて)いる化学発光蛋白質又はその一部をいう。「化学発光蛋白質の部分」は、化学発光蛋白質の全体でもよく、その一部でもよい。化学発光蛋白質の一部とは、一又は複数の実施形態において、N末及び/又はC末の一部が欠失しており、かつ、欠失していない状態と比較して実質的に同じあるいは類似した化学発光機能特性(例えば、発光強度、発光色)を有する前記化学発光蛋白質の部分である。
【0018】
本開示における化学発光蛋白質は、市販のものを使用できる。
【0019】
[基質]
本開示において、基質とは、融合発光蛋白質に組み込まれている(融合されている)化学発光蛋白質又はその一部の基質をいう。ルシフェラーゼの基質は、ルシフェリンとよばれる。
一般的に、化学発光蛋白質と基質とは特異的な組み合わせであり、当業者であれば、化学発光蛋白質に対応する基質(一例として、ルシフェラーゼに対応するルシフェリン)を理解でき、あるいは、基質に対応する化学発光蛋白質(一例として、ルシフェリンに対応するルシフェラーゼ)を理解できる。
前記基質としては、限定されない一又は複数の実施形態において、ホタルルシフェリン、バクテリアルルシフェリン、渦鞭毛藻類ルシフェリン、ヴァルグリン、セレンテラジン(Coelenterazine)、AlaLumine-HCl及びこれらの改変体、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0020】
ホタルルシフェリン、バクテリアルルシフェリン、渦鞭毛藻類ルシフェリン、及びヴァルグリンは、それぞれ、ホタルルシフェラーゼ、バクテリアルシフェラーゼ、渦鞭毛藻類ルシフェラーゼ、及びウミホタルルシフェラーゼ(Vargula/Cypridinaルシフェラーゼ)のルシフェリン(基質)となりうる。
また、セレンテラジンは、ウミシイタケルシフェラーゼ(Renillaルシフェラーゼ)、深海エビルシフェラーゼ(Oplophorusルシフェラーゼ)、カイアシルシフェラーゼ(Gaussiaルシフェラーゼ)、イクオリン、及びオベリンの基質となりうる。
【0021】
前記基質は、自然界に存在する基質を単離又は合成したものでもよく、それらの改変体であってもよい。
本開示において、基質組成物とは基質を含む組成物をいう。その形態は、液体の形態であってもよく、粉体などの固体の状態であってもよい。
一般的に基質は細胞壁を通過できない。細胞質に存在する発光蛋白質に基質を届けるには、根や切り口をつけた茎や葉などから基質を吸収させる方法や、基質組成物に界面活性剤を混ぜる方法がある。前者の方法だと吸収させる部位から光らせたい部位まで移動する時間が必要となる。また、基質が消費又は分解される場合もある。後者の方法は、光らせたい部位に直接基質組成物を塗布等することができるが、界面活性剤によって植物体がダメージを受ける恐れがある。
本開示に係る方法は、光らせる対象の細胞壁に融合発光蛋白質が存在するから、一又は複数の実施形態において、基質組成物に界面活性剤が含まれてなくても光らせたい部分に塗布などして接触させることで簡便に光らせることができる。
よって、限定されない一又は複数の実施形態において、基質組成物における界面活性剤の含有量としては、基質を細胞質に届けることができる濃度以下が挙げられ、あるいは、1.0mM以下、0.5mM以下、0.1mM以下、0.01mM以下、又は、0.001mM以下が挙げられる。また、基質組成物は、一又は複数の実施形態において、界面活性剤を実質的に含まない、あるいは、界面活性剤を含まない形態であってもよい。
【0022】
[蛍光蛋白質]
本開示に係る融合発光蛋白質における蛍光蛋白質としては、上述したドナーである化学発光蛋白質のエネルギーのアクセプターとして機能し、ドナーのエネルギーを吸収して蛍光発光できるものが挙げられる。前記蛍光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、前記化学発光蛋白質の発光の強度を強めるか、又は、発光の色を変更できるものが挙げられる。
前記蛍光蛋白質は、自然界に存在するものを単離又はクローニングしたものでもよく、市販されているものでもよく、それらの改変体であってもよい。様々な色の蛍光蛋白質が開発されており、これらを利用することで、本開示に係る融合発光蛋白質の発光の色を様々に設計することができる。
蛍光蛋白質の改変体は、一又は複数の実施形態において、蛍光特性(例えば、発光強度、発光色)に影響のない部分に変異(例えば欠失及び/又は置換)があり、かつ、該変異がない状態と比較して実質的に同じあるいは類似した蛍光特性を有する蛍光蛋白質である。また、蛍光蛋白質の改変体は、一又は複数の実施形態において、蛍光特性(例えば、発光強度、発光色)に影響する部分に変異(例えば欠失及び/又は置換)があり、かつ、該変異がない状態と比較して実質的に異なる蛍光特性を有する蛍光蛋白質である。
【0023】
蛍光蛋白質としては、限定されない一又は複数の実施形態において、緑色蛍光蛋白質、青色蛍光蛋白質、シアン蛍光蛋白質、黄緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、橙色蛍光蛋白質、及び赤色蛍光蛋白質が挙げられ、より具体的な限定されない一又は複数の実施形態において、Azurite, bsDronpa, Cerulean, Citrine, Clover, CyOFP1, Dendra2, Dreiklang, Dronpa2, Dronpa3, DsRed, EBFP, EBFP2, ECFP, EGFP, Emerald, eqFP650, eqFP670, EYFP, Fast-FT, FusionRed, Gamillus, hmKeima8.5, IFP1.4, IFP2.0, iRFP670, iRFP682, iRFP702, iRFP713, iRFP720, Kaeda, KikGR, Kohinoor, LSSmCherry, LSSmKate2, LSSmOrange, mAG1, mAmetrine, mAmetrine1.2, mApple, mBlueberry2, mCardinal, mCerulean3, mCherry, mCherry2, mClover3, mCyRFP1, Medium-FT, mEOS2, mEOS3.1, mEOS3.2, mGarnet2, mIFP2, miniSOG, miRFP670, miRFP720, mKalama1, mKate2, mK-GO, mKOkappa, mKO1, mKO2, mlris, mMaroon1, mNeonGreen, mNeptune, mNeptune2, mNeptune2.5, mNeptune681, mNeptune684, mOrange, mOrange2, mPlum, mRFP1, mRuby2, mRuby3, mScarlet, mScarlet-H, mScarlet-I, mStable, mStrawberry, mTagBFP2, mTFP1, mTurquoise, mTurquoise2, Neptune, NowGFP, oxFP series, Padron, PA-GFP, PAmCherry1, PAmCherry2, PAmCherry3, Phanta, PS-CFP, PS-CFP2, PSLSSmKate, PSmOrange, RDSmCherry1, rsCherry, rsEGFP, rsEGFP2, rsTagRFP, SBFP2, shyRFP, Sirius, skylan NS, skylan S, Slow-FT, SPOON, TagBFP, TagCFP, TagFP635, TagGFP, TagGFP2, TagRFP, TagRFP657, TagRFP675, TagRFP-T, TagYFP, T-Sapphire, TurboFP602, TurboGFP, TurboRFP, TurboYFP, UnaG, Venusなどが挙げられる。これらの蛍光蛋白質の詳細は、例えば、https://sites.google.com/site/ilovegfp/Home/fpsなどを参照できる。蛍光蛋白質としては、より具体的な限定されない一又は複数の実施形態において、シアン蛍光蛋白質mTuroquoise2、グリーン蛍光蛋白質mNeonGreen、イエロー蛍光蛋白質Venus、オレンジ蛍光蛋白質mKOκ、及びレッド蛍光蛋白質tdTomatoが挙げられる。
【0024】
本開示において、「蛍光蛋白質の部分」とは、融合発光蛋白質に組み込まれて(融合されて)いる蛍光蛋白質又はその一部をいう。「蛍光蛋白質の部分」は、蛍光蛋白質の全体でもよく、その一部でもよい。蛍光蛋白質の一部とは、一又は複数の実施形態において、N末及び/又はC末の一部が欠失しており、かつ、欠失していない状態と比較して実質的に同じあるいは類似した蛍光特性を有する蛍光蛋白質の部分である。
【0025】
本開示における蛍光蛋白質は、市販のものを使用してもよい。
【0026】
[リンカー]
本開示に係る融合発光蛋白質における、「前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分」は、一又は複数の実施形態において、該化学発光蛋白質部分と該蛍光蛋白質部分とが1又は複数のアミノ酸からなるリンカーを介して連結している場合はそのリンカーを指し、あるいは、該化学発光蛋白質部分と該蛍光蛋白質部分とが直接連結している場合はその連結部のペプチド結合を指し得る。
前記リンカーはドナーである化学発光蛋白質部分からアクセプターである蛍光蛋白質部分への共鳴エネルギー移動の効率が高くなるように選択されうる。該リンカーの長さとしては、一又は複数の実施形態において、1~10、1~5、2~4又は2~3アミノ酸残基が挙げられる。
【0027】
本開示に係る融合発光蛋白質における化学発光蛋白質部分と蛍光蛋白質部分との融合の順番は特に限定されず、N末側が化学発光蛋白質部分であってもよく、蛍光蛋白質部分であってもよい。本開示に係る融合発光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、N末又はC末にタグタンパク質が融合されてもよい。
【0028】
本開示に係る融合発光蛋白質の限定されない一又は複数の実施形態として、エンハンストナノランタン(eNL)シリーズ;シアンeNL(CeNL)、グリーンeNL(GeNL)、イエローeNL(YeNL)、オレンジイエロー(OeNL)、及びレッドeNL(ReNL)が挙げられる(Suzuki, K et al. Nat Commun. 2016, DOI: 10.1038/ncomms13718)。
本開示に係る融合発光蛋白質のその他の例としては、BAF-Y, BARAC, ffLuc-cp156, GpNluc, OgNluc, LSSmOg、Antares, iRFP670-2-Luc8, iRFP792などが挙げられる。
【0029】
[細胞壁発現型融合発光蛋白質]
本開示に係る融合発光蛋白質は、一態様において、細胞壁に局在するように発現する、細胞壁発現型融合発光蛋白質である。本態様の融合発光蛋白質は、植物内で発現すると、該植物の細胞壁に局在することになる。
細胞壁発現型融合発光蛋白質の一又は複数の実施形態として、発現時に細胞壁へのシグナルペプチドを有する融合発光蛋白質が挙げられる。
植物体の細胞壁に本態様に係る細胞壁発現型融合発光蛋白質が存在すると、植物体外部から融合発光蛋白質への基質のアクセスが著しく向上する。例えば、花や葉や茎などに基質含有液を散布するだけで、散布した部分を光らせることができる。
したがって、本開示は、一態様において、細胞壁へのシグナル配列と、化学発光蛋白質の部分と、蛍光蛋白質の部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分と、を有する組み換え融合発光蛋白質に関する。また、本開示は、該組み換え融合発光蛋白質をコードする塩基配列を有するDNA、並びに、該組み換え融合発光蛋白質を発現可能な、又は、前記DNAを有するベクターに関する。
本態様の組み換え融合発光蛋白質の一又は複数の実施形態において、細胞壁に局在した融合発光蛋白質には、前記シグナル配列が残っていてもよく、残っていなくてもよい。
【0030】
セレンテラジンやその他のルシフェリンは植物細胞の細胞膜を通過できない。細胞膜を通過できない基質を細胞膜内(細胞質)に存在する融合発光蛋白質に届かせるためには、植物体であれば、根から基質を吸収させる、あるいは、茎や葉に切り込みをつくりそこから基質を吸収させる方法が必要である。これらの方法では基質が花や葉に到達するまでに時間がかかり、基質が消費されてしまうという問題がある。
【0031】
本開示において、「細胞壁へのシグナル配列」は、一又は複数の実施形態において、細胞壁に局在する蛋白質が有するシグナルペプチドの配列を使用でき、例えば、細胞壁の合成や膨潤にかかわる酵素の細胞壁へのシグナルペプチドの配列が挙げられる。
細胞壁シグナル配列としては、限定されない一例として、シロイヌナズナArabidopsis thalianaのセルラーゼ(遺伝子名:AT1G70710)の細胞外輸送シグナル配列であるMARKSLIFPVILLAVLLFSPPIYSA(配列番号1)が挙げられる。他の植物体においては、この遺伝子のオーソログの細胞壁シグナル配列を利用することができる。
また、細胞壁で機能する他の酵素にも細胞外輸送シグナル配列は存在するのでそれらの細胞壁シグナル配列を利用することができる。
植物体の種類と利用可能なシグナル配列を有する蛋白質及び遺伝子の限定されない一例を図1に示す。
【0032】
[対象]
本開示において光らせる対象は、細胞壁に融合発光蛋白質を備える植物体又はその加工品である。
本開示において「細胞壁に融合発光蛋白質を備える」とは、一又は複数の実施形態において、少なくとも細胞壁に融合発光蛋白質が存在すること、細胞質に比べて細胞壁に融合発光蛋白質が偏在すること、細胞質に比べて細胞壁に融合発光蛋白質が特異的に存在すること、又は、細胞壁に融合発光蛋白質が局在することを意味しうる。
本開示において植物体とは、一又は複数の実施形態において、植物の全体又はその一部をいう。植物の一部とは、一又は複数の実施形態において、花、花弁、花冠、葉、茎、根、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
本開示において植物体の加工品とは、植物体を含む物品をいう。
一又は複数の実施形態において、融合発光蛋白質は、植物体の一又は複数の部位に他の部位に比べて偏在してもよく、植物体の一又は複数の部位に他の部位に比べて特異的に存在してもよく、又は、植物体の一又は複数の部位に細胞壁に局在してもよい。前記部位としては、花、葉、茎、根、及び、これらの組み合わせ又はこれらの一部が挙げられる。限定されない一又は複数の実施形態において、花冠の細胞壁に融合発光蛋白質が局在する植物体、又は、葉の細胞壁に融合発光蛋白質が局在する植物体が挙げられる。
【0033】
本開示において植物は、一又は複数の実施形態において、観賞用植物、及び、材料用植物が挙げられる。
観賞用植物としては、花卉、観葉植物が挙げられる。観賞用植物としては、切り花(花束を含む)(バラ、キク、カーネーションなど)、切り葉(ヤシなど)、切り枝(桜など)、球根(チューリップ、ユリなど)、鉢物(シクラメン、ラン、観葉植物、盆栽など)、花卉苗(パンジー、ペチュニアなど)、芝、植木、地被植物(笹、蔓など)など、美観の創出ないし維持又は緑化などに供する目的で栽培される植物が挙げられる。
観葉植物としては、アイビー(ウコギ科)、アジアンタム(ワラビ科)、アレカヤシ(ヤシ科)、インドゴム(クワ科)、イリヅルラン(ユリ科)、サンセベリア(リュウゼツラン科)、シェフレラ(ウコギ科)、スパテイフィラム(サトイモ科)、ドラセナ(リュウゼツラン科)、ネオレゲイラ(パイナップル科)、パキラ(パンヤ科)、ベンジャミン(クワ科)、ポトス(サトイモ科)、モンステラ(サトイモ科)、レックスベコニア(シュウカイドウ科)などが挙げられる。
観賞用植物の加工品には、観賞用植物から作られる切り花、切り葉、切り枝、球根、鉢物、花卉苗、芝、植木などが含まれうる。観葉植物の鉢物には、ハイドロカルチャー、テラリウム、アクアテラリウムが含まれうる。
観賞用植物の加工品には、ハーバリウム(植物標本)、プリザーブドフラワー、ドライフラワーなど“死んだ”観賞用植物も含まれうる。観賞用植物の加工品には、観賞用植物からつくられるアクセサリー及びインテリアなどが含まれうる。
材料用の植物としては、樹木が挙げられる。材料用の植物の加工品としては、木材及びそれらを用いた物品が挙げられる。
本開示において植物は、その他の一又は複数の実施形態において、食用植物の植物体が挙げられる。
【0034】
[対象を光らせる方法]
本開示は、一態様において、本開示に係る融合発光蛋白質を細胞壁に有する植物体又はその加工品を光らせる方法であって、前記融合発光蛋白質に基質組成物を接触させることを含む方法に関する。
本開示に係る方法において、融合発光蛋白質、植物体又はその加工品、基質は上述のとおりである。
【0035】
前記基質組成物の前記融合発光蛋白質への接触は、例えば、液体の基質組成物を、本開示に係る融合発光蛋白質を細胞壁に有する植物体又は植物体の加工品に、散布、噴霧又は塗布することで行うことができる。あるいは、液体の基質組成物に前記植物体又は植物体の加工品を浸漬してもよい。
本開示に係る融合発光蛋白質が細胞壁に存在するため、散布などを行った後、速やかに発光させることができる。
本開示に係る方法において使用する液体の基質組成物における基質濃度は、適宜調節して使用できる。例えば、基質濃度としては、融合発光蛋白質の化学発光蛋白質(ルシフェラーゼ)部分と基質(ルシフェリン)との酵素反応に対して最大反応速度を与える基質濃度以上とすることが挙げられる。
【0036】
本開示に係る融合発光蛋白質を細胞壁に有する植物体は、一又は複数の実施形態において、対象の植物体に、細胞壁シグナル配列を有する融合発光蛋白質を遺伝子導入して形質転換植物体を得ることで製造できる。
形質転換植物体を得る方法は、既に報告され確立された方法を適宜利用できる。例えば、アグロバクテリウム法、PEG-リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。
アグロバクテリウム法には、プロトプラストを用いる場合、組織片を用いる場合、及び植物体そのものを用いる場合(in planta法)がある。プロトプラストを用いる場合は、Tiプラスミドをもつアグロバクテリウムと共存培養する方法、スフェロプラスト化したアグロバクテリウムと融合する方法(スフェロプラスト法)、組織片を用いる場合は、対象植物の無菌培養葉片(リーフディスク)に感染させる方法やカルスに感染させる等により行うことができる。また種子或いは植物体を用いるin planta法を適用する場合、すなわち植物ホルモン添加の組織培養を介さない系では、吸水種子、幼植物(幼苗)、鉢植え植物などへのアグロバクテリウムの直接処理等にて実施可能である。 したがって、本開示は、一態様において、細胞壁発現型融合発光蛋白質が遺伝子導入された形質転換植物体に関する。
本対応において、細胞壁発現型融合発光蛋白質は、植物体の一又は複数の部位の細胞壁に局在してもよい。前記部位としては、花、花弁、花冠、葉、茎、根、及び、これらの組み合わせ又はこれらの一部が挙げられる。特定の部位への局在は、一又は複数の実施形態において、部位特異的に発現する遺伝子の発現系や発現カセットを利用して細胞壁発現型融合発光蛋白質遺伝子を導入することで実現できる。
【0037】
本開示に係る融合発光蛋白質は、一又は複数の実施形態において、遺伝子組み換え技術により作製した組み換えタンパク質であってもよいし、化学合成により合成したタンパク質であってもよい。遺伝子組み換え技術による組み換えタンパク質の作製としては、一又は複数の実施形態において、本開示に係る融合発光蛋白質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換した宿主を用いて作製する方法、或いは、無細胞系で作製する方法が挙げられる。本開示に係る融合発光蛋白質は、タグタンパク質を利用するなどして精製してもよい。
【0038】
本開示は、一態様において、化学発光蛋白質の部分と、蛍光蛋白質の部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分とを有する融合発光蛋白質が細胞壁に存在する植物体に関する。
【0039】
[核酸]
本開示は、一態様において、本開示に係る融合発光蛋白質をコードする核酸に関する。本開示において、核酸は、合成DNA,cDNA、ゲノムDNA及びプラスミドDNAから選択される一本鎖又は二本鎖DNA、並びにこれらのDNAの転写生成物が挙げられる。
【0040】
[発現カセット]
本開示は、一態様において、本開示に係る融合発光蛋白質をコードする核酸を含む発現カセットに関する。該発現カセットにおいて、前記核酸は、導入する宿主細胞に応じた発現調節配列が作動的に連結されている。発現調節配列としては、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター等が挙げられ、その他には、開始コドン、イントロンのスプライシングシグナル、及び停止コドンなどが挙げられる。
【0041】
[ベクター]
本開示は、一態様において、本開示に係る融合発光蛋白質を発現可能なベクターに関する。本開示は、その他の態様において、本開示に係るベクターは、一又は複数の実施形態において、本開示に係る核酸又は発現カセットを有する発現ベクターである。本開示に係るベクターは、発現させたい細胞(宿主)に応じた発現ベクター系を適宜選択して使用できる。本開示に係るベクターに利用できるベクターとしては、限定されない一又は複数の実施形態として、プラスミド、コスミド、YACS、ウイルス(例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、エピソームEBVなど)ベクター及びファージベクター、並びに、アグロバクテリウム法のためのバイナリーベクターが挙げられる。
【0042】
[形質転換体]
本開示は、一態様において、本開示に係る融合発光蛋白質を発現する形質転換体に関する。本開示は、一又は複数の実施形態において、本開示に係る核酸又はベクターを有する形質転換体に関する。本開示の形質転換体は、一又は複数の実施形態において、本開示の核酸、発現カセット又はベクターを宿主に導入することによって作成することができる。宿主としては、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、微生物等が挙げられる。
【0043】
本開示はさらに以下の限定されない一又は複数の実施形態に関する。
〔1〕 対象を光らせる方法であって、
前記対象は、細胞壁に融合発光蛋白質を備える植物体又はその加工品であって、
前記融合発光蛋白質に基質組成物を接触させることを含み、
前記融合発光蛋白質は、化学発光蛋白質部分と、蛍光蛋白質部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分とを有する蛋白質であり、
前記基質組成物は、前記化学発光蛋白質の基質を含有する、方法。
〔2〕 前記化学発光蛋白質がルシフェラーゼ、イクオリン、オベリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される発光蛋白質である、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 前記基質が、ホタルルシフェリン、バクテリアルルシフェリン、渦鞭毛藻類ルシフェリン、ヴァルグリン、セレンテラジン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質である、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕 前記蛍光蛋白質が、緑色蛍光蛋白質、青色蛍光蛋白質、シアン蛍光蛋白質、黄緑色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、橙色蛍光蛋白質、及び赤色蛍光蛋白質からなる群から選択される蛋白質である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕 前記接触は、前記基質組成物を前記対象に散布、噴霧、又は塗布することにより行う、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕 前記植物体の植物は、観賞用植物、材料用植物、又は食用植物である、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 前記融合発光蛋白質が前記植物体の1又は複数の部位に局在する、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕 化学発光蛋白質の部分と、蛍光蛋白質の部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分とを有する融合発光蛋白質が細胞壁に存在する、植物体。
〔9〕 細胞壁へのシグナル配列と、化学発光蛋白質の部分と、蛍光蛋白質の部分と、前記化学発光蛋白質部分から前記蛍光蛋白質部分へ共鳴エネルギー移動が可能なように両者を連結する部分と、を有する組み換え融合発光蛋白質。
【0044】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例
【0045】
実施例1
1.細胞壁発現型の融合発光蛋白質の植物ゲノムへの遺伝子導入用ベクターの構築
グリーンエンハンストナノランタン(GeNL)にシロイヌナズナの細胞壁シグナルペプチド(AtCel1SP、配列番号1)が融合した蛋白質が35Sプロモーター、シロイズナズナ翻訳エンハンサー(AtADH5’-UTR)及びHSPターミネーターに発現可能に連結された発現カセットをバイナリーベクターpCambia1300に挿入して細胞壁発現型GeNLを発現する遺伝子導入用ベクターを構築した(図2)。同様に、細胞壁シグナルペプチド有さない細胞質発現型GeNLを発現する遺伝子導入用ベクターも作製した(図2)。
【0046】
2.植物への遺伝子導入
図3のベクターをアグロバクテリウム法にてシロイズナズナに導入した。遺伝子導入された融合発光蛋白質の発現は、下記のプライマーを使用するRT-PCR及び蛍光発光にて確認した(図3)。
UTR-Fw:TACATCACAATCACACAAAACTAACAAAAGA(配列番号28)
Sacl-eNL-Rv:CATGGAGCTCTTACGCCAGAATGCGTTCGC(配列番号29)
図3に示すように、細胞壁発現型は、細胞質発現型と同程度に転写されていることが確認された。
【0047】
次に、遺伝子導入した融合発光蛋白質のシロイズナズナにおける発現部位を確認した。共焦点レーザー顕微鏡で融合発光蛋白質の蛍光蛋白質部分の蛍光を観察した。その結果を図4に示す。
図4に示すように、細胞壁発現型は細胞壁での発現が認められた。また、同じ撮影条件下において、細胞質発現型と細胞壁発現型とは、同程度の強い蛍光が観察された。
【0048】
3.外部からの基質を接触させた場合の発光の違い
細胞壁発現型又は細胞質発現型を導入したシロイズナズナを50μM基質溶液(セレンテラジン水溶液)に浸漬してその直後及び5分後に発光像を明視野及び暗視野で観察した。その結果を図5に示す。
図5に示すように、細胞壁発現型は、基質溶液を接触させた直後から強い発光が観察された。一方、細胞質発現型は、基質溶液を接触させて5分経過しても強い発光は観察されなかった。
なお、細胞質発現型の場合でも、基質溶液に界面活性剤(1.5mM TritonX-100)を添加したものは、界面活性剤を含まない基質溶液に比べて強い発光が観察された(結果示さず)。
【0049】
実施例2
実施例1と同様にして、GeNLに加えて、CeNL又はReNLの細胞質発現型と細胞壁発現型のコンストラクトをシロイヌナズナに導入して形質転換体を作製した。界面活性剤を含まない基質溶液を添加した結果、根の部分においては細胞質発現型でも細胞壁発現型でも発光が確認できたが、地上部である葉では細胞壁発現型でのみ目視で発光が確認できた(図6)。さらに、共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いた観察により、導入した細胞壁発現型融合発光蛋白質が細胞壁に局在して発現していることが確認された(図7)。
【0050】
実施例3
ペチュニアの花弁特異的に発現する遺伝子Xygloglucan endotransglucosylase hydrolase 7 (XEH7)を同定し、プロモーターの下流に細胞壁発現型のGeNL遺伝子をつなぎ、花弁の細胞壁で特異的にGeNLを発現させるコンストラクトを作製し、シロイヌナズナに導入した。その結果、界面活性剤を含まない基質溶液を花に塗布することにより、目視で発光が確認できた(図8)。
【0051】
実施例4
ペチュニアに、細胞質発現型と細胞壁発現型のGeNLコンストラクトを導入し、界面活性剤を含まない基質溶液を花に塗布することにより発光を確認した(図9及び10)。その結果、細胞壁発現型を導入したペチュニアの花(図10)は、細胞質発現型を導入したもの(図9)に比べて強い発光を示した。
【0052】
実施例5
タバコに、アグロインフィルトレーション法(発現ベクターで形質転換したアグロバクテリウムをシリンジで葉に注入することにより、数日後に目的遺伝子を一過的に発現させる方法)により、細胞壁発現型のCeNLベクターを注入した。その結果、CeNLの蛍光が確認され、また、基質溶液を葉に塗布することにより発光が確認できた(データ示さず)。
【0053】
実施例6
タマネギに、パーティクルガン法(発現ベクターを金粒子にコーティングしパーティクルガンにより植物組織に打ち込んで、目的遺伝子を一過的に発現させる方法)を用いて、細胞壁発現型のCeNLコンストラクトを一過的に導入した。その結果、細胞壁でCeNLの蛍光が確認され、また、基質溶液の添加により発光が確認できた(図11)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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