(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】全固体リチウム二次電池のリチウムフィルムアノードの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1395 20100101AFI20230310BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230310BHJP
H01M 10/0562 20100101ALN20230310BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M10/052
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2022022286
(22)【出願日】2022-02-16
【審査請求日】2022-02-16
(32)【優先日】2021-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】521318952
【氏名又は名称】明志科技大學
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】楊 純誠
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 宜萱
(72)【発明者】
【氏名】チェラドユライ カルッピア
(72)【発明者】
【氏名】シメリス レッマ ベシャ
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183051(JP,A)
【文献】特表2019-531487(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0015707(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/13
H01M10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a、ナノ炭素材料を水に分散して分散液を得るステップと、
b、ドーパミンを前記分散液と混合し、ドーパミンを前記分散液中で重合反応させて、ポリドーパミンにより表面改質されたナノ炭素材料を得るステップと、
c、リチウムフィルムに、サブミリスケールの規則的な凹凸模様構造を形成するステップと、
d、前記ポリドーパミンにより表面改質されたナノ炭素材料をリチウムイオン含有の重合物と混合した後、前記規則的な凹凸模様構造を有するリチウムフィルムに塗布して、全固体リチウム二次電池のリチウムフィルムアノードを得るステップと、を備えることを特徴とするリチウムフィルムアノードの製造方法。
【請求項2】
前記ステップcにおいては、規則的な構造を有する金属網を用いてリチウムフィルムに冷間プレス処理を行うことにより、該リチウムフィルムに前記規則的な凹凸模様構造を形成することを特徴とする請求項1に記載のリチウムフィルムアノードの製造方法。
【請求項3】
前記規則的な凹凸模様構造は、
互いに間隔が開けられ且つ規則的に並んでおり、第1の方向に沿って延伸している複数の縦方向槽と、
互いに間隔が開けられ且つ規則的に並んでおり、前記第1の方向と異なる第2の方向に沿って延伸している複数の横方向槽と、を備え、
前記複数の縦方向槽と前記複数の横方向槽とは、同じ平面から同じ程度に凹んでおり、
各前記縦方向槽は、複数の不連続的な縦方向槽段を含み、
各前記横方向槽は、複数の不連続的な横方向槽段を含むことを特徴とする請求項2に記載のリチウムフィルムアノードの製造方法。
【請求項4】
前記冷間プレス処理は、25~150psiの圧力で行うことを特徴とする請求項2または請求項3に記載のリチウムフィルムアノードの製造方法。
【請求項5】
前記ステップaにおいて、前記ナノ炭素材料は、炭素繊維、カーボンチューブ、グラフェン、グラフェンオキシド、カーボンブラック及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のリチウムフィルムアノードの製造方法。
【請求項6】
前記ステップbにおいては、前記分散液にトリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液を添加して、ドーパミンを前記分散液中で重合反応させることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のリチウムフィルムアノードの製造方法。
【請求項7】
前記ステップbにおいては、ドーパミンを、pH値が8.0~9.0の範囲内にある前記分散液中で重合反応させることを特徴とする請求項6に記載のリチウムフィルムアノードの製造方法。
【請求項8】
前記ステップdにおいては、前記ポリドーパミンにより表面改質されたナノ炭素材料と前記リチウムイオン含有の重合物との重量比は、1:2~1:20の範囲にあることを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のリチウムフィルムアノードの製造方法。
【請求項9】
前記ステップcにおいて、前記金属網は、銅の網、ニッケルの網、チタンの網、白金の網、及び、ステンレス鋼の網からなる群より選択されることを特徴とする請求項2に記載のリチウムフィルムアノードの製造方法。
【請求項10】
各前記縦方向槽段及び各前記横方向槽段は、長さが450~650μmの範囲内の紡錘状構造であることを特徴とする請求項3に記載のリチウムフィルムアノードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノードの製造方法に関し、特に全固体リチウム二次電池のリチウムフィルムアノードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属を用いてアノードとする全固体リチウム二次電池(all solid-state lithium battery、ASSLB)は、高い理論エネルギー密度(energy density)を有するので、ポータブル電気装置や電気自動車のエネルギー源に適している。
【0003】
しかし、電池の充放電サイクル過程において、リチウム樹枝状結晶(lithium dendrites)の形成は、電池が短絡や熱暴走などを起こす問題の主要原因であって、全固体リチウム二次電池の大規模商業化における制限となっている。
【0004】
また、リチウム樹枝状結晶と死リチウム(dead lithium)で形成された厚い固体電解質界面相層(solid electrolyte interphase、SEI)は、固体電解質膜と電極との接触が不充分になり界面抵抗が増大する原因であり、それにより電池容量減衰が非常に大きくなり、電池のサイクル寿命(cycle life)に悪影響がある。
【0005】
また、非特許文献1には、リチウム樹枝状結晶の形成を抑える全固体リチウム二次電池が開示されているが、更に優れた全固体リチウム二次電池が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“Suppressed dendrite formation realized by selective Li deposition in all-solid-state lithium batteries”, Energy Storage Materials, 2020, Vol. 27, p. 198-204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題点に鑑みて、本発明は、上記の問題点を解決できる全固体リチウム二次電池のリチウムフィルムアノードの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を実現するために、本発明は、
a、ナノ炭素材料を水に分散して分散液を得るステップと、
b、ドーパミンを前記分散液と混合し、ドーパミンを前記分散液中で重合反応させて、ポリドーパミンにより表面改質されたナノ炭素材料を得るステップと、
c、リチウムフィルムに、サブミリスケールの規則的な凹凸模様構造を形成するステップと、
d、前記ポリドーパミンにより表面改質されたナノ炭素材料をリチウムイオン含有の重合物と混合した後、前記規則的な凹凸模様構造を有するリチウムフィルムに塗布して、全固体リチウム二次電池のリチウムフィルムアノードを得るステップと、を備えることを特徴とするリチウムフィルムアノードの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
上記のように、本発明のリチウムフィルムアノードの製造方法で製造されたリチウムフィルムアノードを使用した全固体リチウム二次電池は、分極電位差(polarization potential difference)と、サイクル後のバルク抵抗値(bulk resistance、Rb)と、サイクル後の界面電荷移動抵抗値(charge-transfer resistance、Rct)とがより小さく、放電比容量維持率がより高く、よって優れた長期間充放電サイクル安定性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明による全固体リチウム二次電池のリチウムフィルムアノードの製造方法の一実施形態により形成されたサブミリスケールの規則的な凹凸模様構造を示す概略図である。
【
図2】
図1のA-A´線に沿うリチウムフィルムの概略断面図である。
【
図3】(A)本発明実施例、(B)比較例1、(C)比較例2、(D)比較例3の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルムアノードの光学顕微鏡写真である。
【
図4】本発明応用例1及び比較応用例1~3の全固体対称性電池SC
E及びSC
CE1~SC
CE3の沈殿/剥離分極サイクルテスト(plating/stripping polarization cycling test(s))における時間-電池電位の関係を示す図である。
【
図5】本発明応用例1及び比較応用例1~3の全固体対称性電池SC
E及びSC
CE1~SC
CE3が0.1mA・cm
-2で充放電サイクル100時間を行った後の交流インピーダンススペクトルである。
【
図6】本発明応用例2及び比較応用例4~6の全固体リチウム二次電池LB
E及びLB
CE1~LB
CE3が活性化(0.1Cのレートで、充放電サイクル3回)を行った後の比容量-電池電位の関係を示す図である。
【
図7】本発明応用例2及び比較応用例4~6の全固体リチウム二次電池LB
E及びLB
CE1~LB
CE3が活性化(0.1Cのレートで、充放電サイクル3回)を行った後の交流インピーダンススペクトルである。
【
図8】本発明応用例2及び比較応用例4~6の全固体リチウム二次電池LB
E及びLB
CE1~LB
CE3が0.2Cのレートで、充放電サイクル100回を行った後のサイクル回数-放電比容量及びサイクル回数-クーロン効率の関係を示す図である。
【
図9】本発明応用例2及び比較応用例4~6の全固体リチウム二次電池LB
E及びLB
CE1~LB
CE3が0.2Cのレートで、充放電サイクル100回を行った後の交流インピーダンススペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルムアノードの製造方法について詳しく説明する。
【0012】
本発明の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルムアノードの製造方法は、以下のステップを備える。
a、ナノ炭素材料を水に分散して分散液を得るステップ。
b、ドーパミン(dopamine)を前記分散液と混合し、ドーパミンを前記分散液中で重合反応させて、ポリドーパミンにより表面改質(surface modification)されたナノ炭素材料を得るステップ。
c、リチウムフィルムに、サブミリ(submillimeter)スケールの規則的な凹凸模様構造を形成するステップ。
d、前記ポリドーパミンにより表面改質されたナノ炭素材料をリチウムイオン含有の重合物と混合した後、前記規則的な凹凸模様構造を有するリチウムフィルムに塗布して、全固体リチウムイオン二次電池のリチウムフィルムアノードを得るステップ。
【0013】
好ましくは、前記ステップcにおいては、規則的な構造を有する金属網(metal mesh)を用いてリチウムフィルムに冷間プレス処理を行うことにより、該リチウムフィルムに前記規則的な凹凸模様構造を形成する。より好ましくは、前記ステップcにおいて、前記金属網は、銅の網、ニッケルの網、チタンの網、白金の網、及び、ステンレス鋼の網からなる群より選択される。本発明の具体実施例において、金属網は、銅の網である。
【0014】
より好ましくは、
図1及び
図2に示されるように、前記規則的な凹凸模様構造は、互いに間隔が開けられ且つ規則的に並んでおり、第1の方向D1に沿って延伸している複数の縦方向槽1と、互いに間隔が開けられ且つ規則的に並んでおり、第1の方向D1と異なる第2の方向D2に沿って延伸している複数の横方向槽2とを備える。複数の縦方向槽1と複数の横方向槽2とは、同じ平面から同じ程度に凹んでいる。
【0015】
また、各縦方向槽1は、
図1に示されるように、複数の不連続的な縦方向槽段10を含み、各横方向槽2は、複数の不連続的な横方向槽段20を含む。
【0016】
本発明の具体実施例において、
図1及び
図2に示されるように、第1の方向D1は、第2の方向D2と略直交しており、且つ、各縦方向槽1及び各横方向槽2は、各縦方向槽段10が4つの横方向槽段20に囲まれていると共に各横方向槽段20が4つの縦方向槽段10に囲まれているように、リチウムフィルムの表面S1に形成されている。更により好ましくは、各縦方向槽段10及び各横方向槽段20は、長さが450~650μmの範囲内の紡錘状構造(spindle-like shape)である。
【0017】
より好ましくは、前記冷間プレス処理は、25~150psiの圧力で行う。本発明の具体実施例において、前記冷間プレス処理は、50~100psiの圧力で行う。
【0018】
前記ナノ炭素材料は、炭素原子を主成分とするナノメートルサイズの材料であり、好ましくは、前記ステップaにおいて、前記ナノ炭素材料は、炭素繊維、カーボンチューブ、グラフェン、グラフェンオキシド、カーボンブラック及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。本発明の具体実施例において、前記ナノ炭素材料は、気相成長炭素繊維である。
【0019】
好ましくは、前記ステップbにおいては、前記分散液にトリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液(tris(hydroxymethyl)aminomethane buffer solution)を添加して、ドーパミンを前記分散液中に重合反応させる。より好ましくは、前記ステップbにおいては、ドーパミンを、pH値が8.0~9.0の範囲内にある前記分散液中で重合反応させる。本発明の具体実施例において、前記ステップbにおいては、ドーパミンを、pH値が約8.5である前記分散液中で重合反応させる。
【0020】
好ましくは、前記ステップdにおいて、前記ポリドーパミンにより表面改質されたナノ炭素材料と前記リチウムイオン含有の重合物との重量比は、1:2~1:20の範囲にある。本発明の具体実施例において、前記ポリドーパミンにより表面改質されたナノ炭素材料と前記リチウムイオン含有の重合物との重量比は、1:10である。
【0021】
好ましくは、前記ステップdにおいて、前記リチウムイオン含有の重合物は、リチウムイオン含有のNafion(登録商標)(ナフィオン)(Li-Nafion)である。Nafionは、スルホ化されたテトラフルオロエチレンをベースにしたフッ素樹脂の共重合体である。選択的に、それのリチウムイオン源は、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、塩化リチウム、リン酸水素リチウム、リン酸リチウム、炭酸リチウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。本発明の具体実施例において、該リチウムイオン源は、水酸化リチウム一水和物である。
【0022】
以下、実施例をもって本発明を更に説明する。該実施例は、例示的かつ説明的なものであり、且つ、本発明を限定するものと解釈されるべきではないことを理解されたい。
【0023】
<実施例>全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極Eの製造方法
本発明の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルムアノードの製造方法の実施例は以下のステップを備える。
【0024】
(a)100mgの1次元構造を有する気相成長炭素繊維(vapor grown carbon fiber、VGCF、台湾YONYU APPLIED TECHNOLOGY MATERIAL CO., LTD.社から購入、型番:GS013010)であるナノ炭素材料粉末を、100mLの脱イオン水に分散しながら、プローブ型超音波破砕装置(probe-type sonicator、米QSONICA社から購入、型番:Q700)を用いて、振動分散処理を75分行って(操作出力は2~3W、振幅は10mV、周波数は20kHz、先ずパルスを20分間ONにして、そしてパルスを5分間OFFにし、これを3回繰り返すことにより75分行う)、ナノ炭素材料粉末(気相成長炭素繊維)の集中を防止し、ナノ炭素材料粉末が均一に分散した分散液を得た。
【0025】
(b)上記ステップ(a)で得た分散液を撹拌しながら100mgのドーパミンを添加し、且つ、該分散液にトリスヒドロキシメチルアミノメタン-塩酸緩衝液(Tris-HCl、99%、TAIWAN HOPAX CHEMICALS MFG. CO., LTD.社から購入)を添加して、pH値を約8.5に調整し、25℃で24時間撹拌して、ドーパミンを該分散液中で重合反応させる。そして、6000rpmで遠心分離を30分行って、固体を収集し、脱イオン水で該固体を洗った後、80℃のオーブンで12時間乾燥し、ポリドーパミンにより表面改質された、1次元構造を有する気相成長炭素繊維を得た。
【0026】
(c)規則的な構造を有する銅の網(即ち金属網、厚さは100~300μm)を用いて100psiの圧力で、表面が平滑な円形リチウムフィルム(半径は0.75cm、厚さは200μm)に冷間プレス処理を行って、サブミリスケールの規則的な凹凸模様構造を形成した。この実施例において、円形リチウムフィルムの一面はサブミリスケールの規則的な凹凸模様構造が形成され、該一面の反対面は平面である。
【0027】
(d)25.2mgの水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O、米Sigma-Aldrich社から購入)を10mLのNafion溶液(5wt%、溶媒は脂肪族アルコール及び水、米Sigma-Aldrich社から購入、型番:274704)と混合し、60℃で2時間攪拌し、80℃で12時間真空乾燥して、リチウムイオン含有のNafion(Li-Nafion)を得た。そして、Li-NafionをN-メチルピロリドン(NMP)に分散して、Li-NafionのNMP分散液を得て、80℃で6時間攪拌した。
【0028】
上記ステップ(b)で得たポリドーパミンにより表面改質された気相成長炭素繊維とLi-Nafionとを、重量比1:10で混合して混合物を得た後、ポリエチレンテレフタラート(PET)膜を使用して、該混合物を上記ステップ(c)で形成した規則的な凹凸模様構造を有するリチウムフィルムに塗布して、最後に25℃のアルゴンガス雰囲気で12時間乾燥し、更に80℃で2時間真空乾燥して、本実施例の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極Eを得た。
【0029】
なお、デジタル厚さ測定装置で上記ステップ(d)を行う前後のリチウムフィルムを測定すると、リチウムフィルムに塗布したポリドーパミンにより表面改質された気相成長炭素繊維及びLi-Nafionの厚さは、1次元構造を有する気相成長炭素繊維の存在により5μm~7μmであることを得られる。
【0030】
<比較例1>全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極CE1
比較例1の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極CE1は、表面が平滑な円形リチウムフィルム(半径は0.75cm、厚さは200μm)である。
【0031】
<比較例2>全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極CE2の製造方法
比較例2の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極CE2の製造方法は、上記の実施例に類似し、相異点は、比較例2の製造方法において、ステップ(d)を行っていないことであり(ポリドーパミンにより表面改質された気相成長炭素繊維とLi-Nafionとの混合物を塗布していない)、即ち、比較例2の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極CE2は、上記ステップ(c)で形成した規則的な凹凸模様構造を有するリチウムフィルムである。
【0032】
<比較例3>全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極CE3の製造方法
比較例3の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極CE3の製造方法は、上記の実施例に類似し、相異点は、比較例3の製造方法において、ステップ(c)を行っていないことであり、そして、ステップ(d)では、上記ステップ(b)で得たポリドーパミンにより表面改質された気相成長炭素繊維とLi-Nafionとの混合物を表面が平滑な円形リチウムフィルム(半径は0.75cm、厚さは200μm)に塗布して、比較例3の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極CE3を得た。
【0033】
<光学顕微鏡による観察>
光学顕微鏡を使用して、実施例及び比較例1~3の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極E、CE1~CE3を観察した結果が
図3(A)~
図3(D)に示される。
【0034】
図3(A)及び
図3(C)に示されるように、上記ステップ(c)を行った冷間プレス処理で得られたリチウムフィルム電極E及びリチウムフィルム電極CE2の表面には、サブミリスケールの規則的な凹凸模様構造が形成された。該規則的な凹凸模様構造は、互いに間隔が開けられ且つ横方向(
図1の第2の方向D2に対応)に沿って規則的に並んでおり、該横方向と略直交する縦方向(
図1の第1の方向D1に対応)に沿って延伸している複数の縦方向槽と、互いに間隔が開けられ且つ該縦方向に沿って規則的に並んでおり、該横方向に沿って延伸している複数の横方向槽とを備える。また、該複数の縦方向槽と該複数の横方向槽とは、同じ平面から同じ程度に凹んでいる。また、各該縦方向槽は、複数の不連続的な縦方向槽段を含み、各該横方向槽は、複数の不連続的な横方向槽段を含む。各該縦方向槽段及び各該横方向槽段は、長さが590μm、広さが135μm、深さが30~60μmの紡錘状構造である。
【0035】
一方、
図3(B)及び
図3(D)に示されるように、上記ステップ(c)を行っていないリチウムフィルム電極CE1及びリチウムフィルム電極CE3の表面は、平坦であり且つ規則的な凹凸模様構造が形成されていない。
【0036】
<応用例1>全固体対称性電池SCE
上記実施例の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極Eを2枚同じものを用意し、それぞれを全固体対称性電池のカソード(正極)とアノード(負極)とにした。アルミドーピングリチウムランタンジルコニウム酸化物(Li6.25Al0.25La3Zr2O12、Al-LLZO)と、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(Poly(vinylidene fluoride-co-hexafluoropropylene)、PVDF-HFP)とで構成されたPVDF-HFP/PVDF-HFP@Al-LLZO/PVDF-HFPのサンドイッチ構造(PVDF-HFP@Al-LLZOは、Al-LLZOを含むPVDF-HFPを示す。)1枚を、全固体対称性電池の複合式高分子電解質膜(CPE膜、厚さは240μm)にした。それにより、応用例1の全固体(リチウムフィルム-リチウムフィルム)対称性電池SCEを構成した。
【0037】
<比較応用例1~3>全固体対称性電池SCCE1~SCCE3
比較応用例1~3の全固体対称性電池SCCE1~SCCE3は、応用例1に類似し、相異点は、比較応用例1~3において、比較例1~3の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極CE1~CE3を2枚同じものを用意し、それぞれを全固体対称性電池のカソード(正極)とアノード(負極)とにしたことにより、比較応用例1~3の全固体(リチウムフィルム-リチウムフィルム)対称性電池SCCE1~SCCE3のそれぞれを構成した。
【0038】
<全固体対称性電池の評価>
電池テスト装置(台湾ACUTECH SYSTEMS CO., LTD.社から購入、型番:BAT-750B)を使用して、上記の応用例1及び比較応用例1~3の全固体(リチウムフィルム-リチウムフィルム)対称性電池SC
E及びSC
CE1~SC
CE3に対して、沈殿/剥離分極サイクルテスト(電流密度(current density)は0.1mA・cm
-2、面積電気容量(capacity per unit area)は0.1mAh・cm
-2)を行うことにより、分極電位差を測定した。また、交流インピーダンス分光法(AC impedance spectroscopy)により、上記の応用例1及び比較応用例1~3の全固体(リチウムフィルム-リチウムフィルム)対称性電池SC
E及びSC
CE1~SC
CE3それぞれのバルク抵抗値R
b(0.1 mA・cm
-2で充放電サイクル100時間を行った後)及び界面電荷移動抵抗値R
ct(0.1 mA・cm
-2で充放電サイクル100時間を行った後)を測定した。その結果は、
図4~
図5及び表1に示される。
【表1】
表1によると、応用例1の全固体(リチウムフィルム-リチウムフィルム)対称性電池SC
Eの分極電位差、充放電サイクル後のバルク抵抗値R
b及びサイクル後の界面電荷移動抵抗値R
ctは、いずれも明らかに比較応用例1~3の全固体(リチウムフィルム-リチウムフィルム)対称性電池SC
CE1~SC
CE3の分極電位差、充放電サイクル後のバルク抵抗値R
b及びサイクル後の界面電荷移動抵抗値R
ctより小さく、結果として、応用例1の全固体(リチウムフィルム-リチウムフィルム)対称性電池SC
Eがより優れた長期間充放電サイクル安定性を有することが示される。
【0039】
<応用例2>全固体リチウム二次電池LBE
1枚の上記実施例の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極Eを、全固体リチウム二次電池のアノード(負極)にした。1枚のLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(台湾UBIQ Technology社から購入、型番: LNCM-801T、厚さは40μm)を、全固体リチウム二次電池のカソード(正極)にした。上記のPVDF-HFP/PVDF-HFP@Al-LLZO/PVDF-HFPのサンドイッチ構造1枚を、全固体リチウム二次電池の複合式高分子電解質膜にした。それにより、応用例2の全固体リチウム二次電池LBEを構成した。
【0040】
<比較応用例4~6>全固体対称性電池LBCE1~LBCE3
比較応用例4~6の全固体対称性電池LBCE1~LBCE3は、応用例2に類似し、相異点は、比較応用例4~6において、1枚の比較例1~3の全固体リチウム二次電池のリチウムフィルム電極CE1~CE3を、全固体対称性電池のアノード(負極)にしたことにより、比較応用例4~6の全固体リチウム二次電池LBCE1~LBCE3のそれぞれを構成した。
【0041】
<全固体リチウム二次電池の評価>
電池テスト装置(台湾ACUTECH SYSTEMS CO., LTD.社から購入、型番:BAT-750B)を使用して、上記の応用例2及び比較応用例4~6の全固体リチウム二次電池LB
E及びLB
CE1~LB
E3の初期放電比容量(initial specific capacity)(室温で0.1C充放電活性化3回)、クーロン効率(coulombic efficiency)(室温で0.2C充放電サイクル100回)及び比容量維持率(capacity retention、CR)(室温で0.2C充放電サイクル100回)を測定した。
また、交流インピーダンス分光法により、上記の応用例2及び比較応用例4~6の全固体リチウム二次電池LB
E及びLB
CE1~LB
E3それぞれのバルク抵抗値R
b(室温で0.1C充放電活性化を3回行った後、室温で0.2C充放電サイクルを100回行った)及び界面電荷移動抵抗値R
ct(室温で0.1C充放電活性化を3回行った後、室温で0.2C充放電サイクルを100回行った)を測定した。その結果は、
図6~
図7及び表2(室温で0.1C充放電活性化3回の後のバルク抵抗値R
b及び界面電荷移動抵抗値R
ct)、並びに、
図8~
図9及び表3(室温で0.2C充放電サイクル100回の後のバルク抵抗値R
b及び界面電荷移動抵抗値R
ct)に示される。
【表2】
【表3】
【0042】
表2、表3及び
図8によると、応用例2の全固体リチウム二次電池LB
Eの初期放電比容量及びクーロン効率は、比較応用例4~6の全固体リチウム二次電池LB
CE1~LB
E3の初期放電比容量及びクーロン効率と近いが、応用例2の全固体リチウム二次電池LB
Eのサイクル後の比容量維持率は、比較応用例4~6の全固体リチウム二次電池LB
CE1~LB
CE3のサイクル後の比容量維持率より高い。比較応用例の内、特に比較応用例4の全固体リチウム二次電池LB
CE1は、サイクル後の比容量維持率が7.30%にまで大幅に減少した。また、応用例2の全固体リチウム二次電池LB
Eの活性化後のバルク抵抗値R
bとサイクル後のバルク抵抗値R
bと活性化後の界面電荷移動抵抗値R
ctとサイクル後の界面電荷移動抵抗値R
ctとは、いずれも比較応用例4~6の全固体リチウム二次電池LB
CE1~LB
CE3の活性化後のバルク抵抗値R
bとサイクル後のバルク抵抗値R
bと活性化後の界面電荷移動抵抗値R
ctとサイクル後の界面電荷移動抵抗値R
ctより明らかに小さい。それにより、応用例2の全固体リチウム二次電池LB
Eがより優れた長期間充放電サイクル安定性を有することが示される。
【0043】
上記の内容により、本発明の製造方法により製造されたリチウムフィルムアノードを使用した全固体リチウム二次電池は、分極電位差と、サイクル後のバルク抵抗値と、サイクル後の界面電荷移動抵抗値とがより小さく、放電比容量維持率はより高く、したがってより優れた長期間充放電サイクル安定性を有する。
【0044】
上記実施形態は例示的に本発明の原理及び効果を説明するものであり、本発明を制限するものではない。本技術を熟知する当業者であれば本発明の精神及び範囲から離れないという前提の下、上記の実施形態に対して若干の変更や修飾が可能である。従って、当業者が本発明の主旨から離れないという前提の下、行った全ての変更や修飾も本発明の保護範囲に含まれるものとされるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のリチウムフィルムアノードの製造方法は、全固体リチウム二次電池に使用するリチウムフィルムアノードの製造に好適である。