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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20230310BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230310BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C08L21/00
B60C1/00 A
C08K3/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017030106
(22)【出願日】2017-02-21
(65)【公開番号】P2018135436
(43)【公開日】2018-08-30
【審査請求日】2019-12-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】杉本 奈津希
【合議体】
【審判長】細井 龍史
【審判官】海老原 えい子
【審判官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-71722(JP,A)
【文献】特開2011-148952(JP,A)
【文献】特開2016-193687(JP,A)
【文献】特表2005-534608(JP,A)
【文献】特表2005-525447(JP,A)
【文献】特表2005-526893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B60C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0℃で測定したtanδ及びE*が下記式を満たすゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤであって、
前記ゴム組成物が2種以上のジエン系ゴムを含む空気入りタイヤ
tanδ/E*0.30.23
【請求項2】
前記tanδが0.420~0.680であり、
前記E*が16.50~30.20Mpaである請求項記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ゴム組成物のガラス転移温度が-40℃以上である請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積が60~150m/gのカーボンブラックと、レジンとを含有する請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
0℃で測定したtanδ及びE*が下記式を満たすゴム組成物を用いて作製したトレッドを有するモーターサイクルタイヤ
tanδ/E* 0.3 ≧0.23
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気入りタイヤのウェットグリップ性能を向上する手法が種々検討されており、例えば、特許文献1では、レジンを用いた手法が開示されている。しかしながら、近年では、ウェットグリップ性能の更なる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-350535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決し、ウェットグリップ性能に優れた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般的に、ウェットグリップ性能は、0℃付近のtanδと相関すると考えられている。本発明者らの実験でも、後述の図1~3で示しているように、0℃で測定したtanδは、E*やガラス転移温度と比較して、ウェットグリップ性能との相関性が高いという結果が得られた。
【0006】
上記結果に基づき、本発明者らが種々検討したところ、E*の0.3乗でtanδを除するという特殊な計算で得られた値が、ウェットグリップ性能と強く相関していることを発見した。そして、本発明者らが更に検討を進めた結果、tanδ/E*0.3が特定の範囲内であれば、良好なウェットグリップ性能が確保されるという知見を見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明は、0℃で測定したtanδ及びE*が下記式を満たすゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
tanδ/E*0.3≧0.18
【0007】
前記tanδ及び前記E*が下記式を満たすことが好ましい。
tanδ/E*0.3≧0.23
【0008】
前記tanδが0.420~0.680であり、前記E*が16.50~30.20Mpaであることが好ましい。
【0009】
前記ゴム組成物のガラス転移温度が-40℃以上であることが好ましい。
【0010】
前記ゴム組成物が、窒素吸着比表面積が60~150m/gのカーボンブラックと、レジンとを含有することが好ましい。
【0011】
本発明の空気入りタイヤは、モーターサイクルタイヤであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、0℃で測定したtanδ及びE*が上記式を満たすゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する空気入りタイヤであるので、優れたウェットグリップ性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】TgとWET指数とを変数とする散布図である。
図2】E*とWET指数とを変数とする散布図である。
図3】tanδとWET指数とを変数とする散布図である。
図4】tanδ/E*とWET指数とを変数とする散布図である。
図5】tanδ/E*とWET指数とを変数とする散布図である。
図6】tanδ/E*0.3とWET指数とを変数とする散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の空気入りタイヤは、0℃で測定したtanδ及びE*が下記式を満たすゴム組成物を用いて作製したトレッドを有する。
tanδ/E*0.3≧0.18
【0015】
tanδ/E*0.3が0.18以上であるゴム組成物をトレッドに適用することで、ウェットグリップ性能に優れた空気入りタイヤが得られる。より良好なウェットグリップ性能が得られるという点から、tanδ/E*0.3は0.23以上であることが好ましい。
なお、tanδ/E*0.3の上限は特に限定されないが、0.3以下であることが好ましい。
【0016】
本発明において、tanδ、E*は、加硫後のゴム組成物に対し、0℃で粘弾性試験を実施することで得られる値であり、より詳細には、後述の実施例に記載された方法で測定される値である。
tanδは、0.420~0.680であることが好ましく、E*は、16.50~30.20Mpaであることが好ましい。
【0017】
tanδ、E*は、ゴム組成物に配合されるゴム成分、フィラー、レジン(粘着付与樹脂)に強く影響される。よって、tanδ/E*0.3を特定の範囲に調整するためには、これらの成分の配合内容をどのように設定するかが重要となる。
以下、tanδ/E*0.3を0.18以上とする場合に好適なゴム成分、フィラー、レジンについて説明する。
【0018】
ゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)などのジエン系ゴムが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、SBRが好ましい。
【0019】
SBRのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-60℃以上、より好ましくは-45℃以上、更に好ましくは-40℃以上である。上限は特に限定されないが、-10℃以下が好ましい。
なお、本発明において、Tgは、JIS-K7121:1987に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計(Q200)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した値である。
【0020】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
なお、スチレン含有量は、H-NMR測定により算出される。
【0021】
SBRのビニル含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
なお、ビニル含有量は、赤外吸収スペクトル分析法によって算出される。
【0022】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、好ましくは50万以上、より好ましくは60万以上、更に好ましくは90万以上であり、また、好ましくは120万以下、より好ましくは110万以下である。
なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0023】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0024】
フィラーとしては、カーボンブラックを好適に用いることができる。
【0025】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは60m/g以上、より好ましくは100m/g以上であり、また、好ましくは150m/g以下、より好ましくは120m/g以下である。
なお、本発明において、カーボンブラックのNSAは、ASTM D4820-93に従って測定される値である。
【0026】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは60質量部以上、より好ましくは90質量部以上であり、また、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下である。
【0027】
フィラーとしては、シリカを用いてもよい。
【0028】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは100m/g以上、より好ましくは150m/g以上であり、また、好ましくは300m/g以下、より好ましくは200m/g以下である。
なお、シリカのNSAは、ASTM D1993-03に準じて測定される値である。
【0029】
本発明に係るゴム組成物がシリカを含有する場合、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。
【0030】
レジンとしては、例えば、クマロン樹脂、インデン樹脂、クマロンインデン樹脂、α-メチルスチレン樹脂などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、クマロンインデン樹脂、α-メチルスチレン樹脂が好ましい。
【0031】
クマロンインデン樹脂はクマロン及びインデンを、α-メチルスチレン樹脂はα-メチルスチレンを主成分とする樹脂である。これらは、スチレンなどの他のモノマー成分を更に含んでいてもよい。
【0032】
レジンの軟化点は、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上であり、また、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。
なお、本発明において、レジンの軟化点は、JIS K6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0033】
本発明に係るゴム組成物がレジンを含有する場合、レジンの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。
【0034】
本発明に係るゴム組成物には、上記成分以外にも、タイヤ工業において一般的に用いられている配合剤、例えば、ワックス、酸化亜鉛、ステアリン酸、離型剤、老化防止剤、加硫促進剤、硫黄などの材料を適宜配合してもよい。
【0035】
本発明に係るゴム組成物は、ガラス転移温度(Tg)が-40℃以上であることが好ましく、-35℃以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、-10℃以下が好ましい。
【0036】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、上記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのトレッドの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0037】
本発明の空気入りタイヤは、特に優れたウェットグリップ性能が要求されるモーターサイクルタイヤとして好適に用いることができる。
【実施例
【0038】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0039】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR1:油展SBR(Tg:-39℃、スチレン含有量:32質量%、ビニル含有量34質量%、Mw:106万、ゴム固形分100質量部に対してオイル分37.5質量部含有)
SBR2:非油展SBR(Tg:-56℃、スチレン含有量:23質量%、ビニル含有量17質量%、Mw:51万)
SBR3:油展SBR(Tg:-55℃、スチレン含有量:25質量%、ビニル含有量15質量%、Mw:76万、ゴム固形分100質量部に対してオイル分37.5質量部含有)
SBR4:油展SBR(Tg:-43℃、スチレン含有量:37質量%、ビニル含有量16質量%、Mw:64万、ゴム固形分100質量部に対してオイル分34質量部含有)
カーボンブラック N351H:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN351H(NSA:69m/g)
カーボンブラック N330:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN330H(NSA:75m/g)
カーボンブラック N220:三菱化学(株)製のダイヤブラックN220(NSA:114m/g)
シリカ:エボニックデグッサ社製のUltrasil VN3(NSA:175m/g)
レジン SA85:アリゾナケミカル社製のSYLVARES SA85(αメチルスチレン樹脂(α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体)、軟化点:85℃)
レジン V-120:日塗化学(株)製のニットレジン クマロン V-120(クマロンインデン樹脂、軟化点:120℃)
【0040】
<実施例及び比較例>
表1に示す配合処方に従って各成分を混練し、未加硫ゴム組成物を得た。なお、表1では、ゴム成分、フィラー、レジンのみを記載しているが、これら以外に、共通成分として、オイル25質量部、硫黄2質量部、加硫促進剤2質量部、老化防止剤2質量部、ステアリン酸2質量部、酸化亜鉛2質量部を配合した。
得られた未加硫ゴム組成物を160℃の条件下で20分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に押出し成形し、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、160℃の条件下で20分間加硫し、試験用タイヤを得た。
【0041】
得られた加硫ゴム組成物、試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
(ガラス転移温度(Tg))
JIS-K7121に従い、(株)島津製作所製の自動示差走査熱量計(DSC-60A)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で、上記加硫ゴム組成物のガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0043】
(粘弾性試験)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、温度0℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪2%の条件下で、上記加硫ゴム組成物の複素弾性率(E*(MPa))及び損失正接(tanδ)を測定した。
【0044】
(ウェットグリップ性能)
上記試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着させ、下記条件で実車テストを行い、結果を、実施例Aを100として指数表示した(WET指数)。指数が大きいほどウェットグリップ性能に優れることを示す。指数が95以上であれば良好である。
<実車テスト条件>
路面:岡山TCドルセット路
速度:50km/h進入で40~10km/hまでの制動距離をGPS測定
ブレーキ方法:ABSフルブレーキ
タイヤサイズ:120/70ZR17 D222F
内圧:250kPa
【0045】
(相関性)
上記で測定したTg、E*、tanδのそれぞれと、WET指数とを変数とする散布図を作成した。そして、該散布図に近似曲線を追加し、得られた寄与率(R)に基づいて相関性を評価した(図1~3)。tanδ/E*、tanδ/E*、tanδ/E*0.3についても同様の手法で相関性を評価した(図4~6)。Rが0.7~1.0の範囲内であれば、2つの変数の相関性が高いことを意味する。
【0046】
【表1】
【0047】
表1から、tanδ/E*0.3≧0.18である実施例では、良好なウェットグリップ性能が得られていることが分かる。
【0048】
図1~3で示されているように、tanδは、Rが比較的高いが、Tg、E*は、Rがそれほど高くなく、また、図4、5で示されているように、tanδ/E*や、tanδ/E*は、Rが非常に低く、ウェットグリップ性能とほとんど相関していない。これに対し、図6で示されているように、tanδ/E*0.3は、tanδの場合よりもRが高く、ウェットグリップ性能と強く相関していることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6