(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液及びその製造方法、並びに導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20230310BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20230310BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20230310BHJP
C09D 11/52 20140101ALI20230310BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20230310BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20230310BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230310BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230310BHJP
C09D 165/00 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K5/053
C08L65/00
C09D11/52
H01B1/12 F
H01B1/20 A
H01B13/00 Z
H01B13/00 503B
H01B13/00 503D
C09D201/00
C09D165/00
(21)【出願番号】P 2018108473
(22)【出願日】2018-06-06
【審査請求日】2021-02-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 裕美
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-541471(JP,A)
【文献】特開2015-048370(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061502(WO,A1)
【文献】特開2018-021164(JP,A)
【文献】特開2015-117367(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122662(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C09D 1/00-201/10
C09J 1/00-201/10
H01B 1/00- 1/24
H01B 13/00- 13/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、トリオール化合物とを含有する導電性高分子分散液であって、
前記トリオール化合物が、
グリセロール及び1,2,4-ブタントリオールから選択される1種以上であり、
前記π共役系導電性高分子、前記ポリアニオン、及び任意に含まれてもよいバインダ樹脂を樹脂成分とし、前記導電性高分子分散液に含まれる前記樹脂成分以外の成分を100質量%とした際、前記トリオール化合物の含有割合が80質量%以上100質量%以下である、導電性高分子分散液。
【請求項2】
前記導電性高分子分散液の総質量に対する水の含有量が0質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載の導電性高分子分散液。
【請求項3】
前記トリオール化合物が、グリセロールである、請求項1または2に記載の導電性高分子分散液。
【請求項4】
バインダ樹脂をさらに含有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項5】
前記バインダ樹脂が水分散性化合物である、請求項4に記載の導電性高分子分散液。
【請求項6】
前記バインダ樹脂が水分散性ポリエステルである、請求項5に記載の導電性高分子分散液。
【請求項7】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1から6のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項8】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1から7のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項9】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と水とを含有する第1水分散液にトリオール化合物を混合して第1混合液を得て、前記第1混合液から水を除去して導電性高分子分散液を得る方法であって、
前記トリオール化合物が、
グリセロール及び1,2,4-ブタントリオールから選択される1種以上であり、
前記π共役系導電性高分子、前記ポリアニオン、及び任意に含まれてもよいバインダ樹脂を樹脂成分とし、前記導電性高分子分散液に含まれる前記樹脂成分以外の成分を100質量%とした際に前記トリオール化合物の含有割合が80質量%以上100質量%以下になるように、前記第1水分散液に前記トリオール化合物を混合し、前記第1混合液から水を除去する、導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項10】
水分散性の前記バインダ樹脂と水とを含有する第2水分散液に前記トリオール化合物を混合して第2混合液を得て、
前記第2混合液から水を除去してバインダ樹脂分散液を得て、
前記導電性高分子分散液に前記バインダ樹脂分散液をさらに混合する、請求項9に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液を基材の少なくとも一方の面にスクリーン印刷して導電層を形成する、導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子分散液及びその製造方法、並びに導電性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明な導電性フィルムとして、フィルム基材の表面に、インジウムドープ酸化スズ(ITO)からなる透明導電層が形成された導電性フィルムが広く使用されている。しかし、インジウムは高価な金属である上、資源の枯渇が懸念されている。
ITOを使用しない透明な導電性フィルムとして、例えば、フィルム基材の表面に、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)等のπ共役系導電性高分子とポリスチレンスルホン酸等のポリアニオンとを含有する導電層が形成された導電性フィルムが知られている。
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電層をフィルム基材の表面に形成する方法としては、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性高分子分散液をフィルム基材の表面に塗布する方法が知られている。また、前記塗布では、各種印刷、例えばスクリーン印刷を適用することがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の導電性高分子分散液は、必ずしもスクリーン印刷の適性が充分に高いものではなかった。スクリーン印刷の適性が低い導電性高分子分散液をフィルム基材にスクリーン印刷しても、例えば、導電層に欠陥が生じたり、導電層の導電性が低下したりすることがあり、目的とする導電層が得られないことがあった。
本発明は、スクリーン印刷の適性が高い導電性高分子分散液及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明は、スクリーン印刷によって目的の導電層を容易に形成できる導電性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、トリオール化合物とを含有する導電性高分子分散液であって、前記導電性高分子分散液に含まれる樹脂成分以外の成分を100質量%とした際、トリオール化合物の含有割合が80質量%以上100質量%以下である、導電性高分子分散液。
[2]前記導電性高分子分散液の総質量に対する水の含有量が0質量%以上20質量%以下である、[1]に記載の導電性高分子分散液。
[3]前記トリオール化合物が25℃において液体である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液。
[4]前記トリオール化合物の標準気圧における沸点が300℃以下である、[1]から[3]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液。
[5]前記トリオール化合物が、グリセロールである、[1]から[4]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液。
[6]バインダ樹脂をさらに含有する、[1]から[5]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液。
[7]前記バインダ樹脂が水分散性化合物である、[6]に記載の導電性高分子分散液。
[8]前記バインダ樹脂が水分散性ポリエステルである、[7]に記載の導電性高分子分散液。
[9]前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]から[8]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液。
[10]前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]から[9]のいずれか一に導電性高分子分散液。
[11]π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と水とを含有する第1水分散液にトリオール化合物を混合して第1混合液を得て、前記第1混合液から水を除去して導電性高分子分散液を得る方法であって、前記導電性高分子分散液に含まれる樹脂成分以外の成分を100質量%とした際にトリオール化合物の含有割合が80質量%以上100質量%以下になるように、前記第1水分散液に前記トリオール化合物を混合し、前記第1混合液から水を除去する、導電性高分子分散液の製造方法。
[12]水分散性のバインダ樹脂と水とを含有する第2水分散液にトリオール化合物を混合して第2混合液を得て、前記第2混合液から水を除去してバインダ樹脂分散液を得て、前記導電性高分子分散液に前記バインダ樹脂分散液をさらに混合する、[11]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[13][1]から[10]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液を基材の少なくとも一方の面にスクリーン印刷して導電層を形成する、導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性高分子分散液は、スクリーン印刷の適性が高く、スクリーン印刷を適用しても導電性及び透明性に優れた導電層を容易に形成できる。
本発明の導電性高分子分散液の製造方法によれば、前記導電性高分子分散液を容易に製造できる。
本発明の導電性フィルムの製造方法によれば、スクリーン印刷によって目的の導電層を容易に形成できる。例えば、厚い導電層を容易に形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<導電性高分子分散液>
本発明の導電性高分子分散液の一態様について説明する。
本態様の導電性高分子分散液は、導電性複合体と、トリオール化合物を含む分散媒とを含有する分散液である。
本態様の導電性高分子分散液においては、水を含まない又は水の含有量が少量であることが好ましい。具体的には、導電性高分子分散液の総質量に対する水の含有量が0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%以上1質量%以下であることが特に好ましい。本態様における導電性高分子分散液中の水の含有量は、カールフィッシャー滴定により測定した値である。
導電性高分子分散液における水の含有量が前記上限値以下であれば、導電性高分子分散液のスクリーン印刷適性がより高くなる。また、導電性高分子分散液における水の含有量が前記上限値以下であれば、プラスチックフィルムに対する導電性高分子分散液の親和性がより高くなる。
【0008】
(導電性複合体)
本態様における導電性複合体は、π共役系導電性高分子と、アニオン基を有するポリアニオンとを含む。前記ポリアニオンは前記π共役系導電性高分子に配位し、ポリアニオンのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープするため、導電性を有する導電性複合体を形成する。
ポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、余剰のアニオン基を有している。余剰のアニオン基は親水基である。
【0009】
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0010】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
前記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0011】
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、又はカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
ポリアニオンのアニオン基は親水性であり、有機溶剤に対する親和性が低いため、前記アニオン基にアミン化合物及びエポキシ化合物の少なくとも一方を反応させて疎水性置換基を形成させてもよい。しかし、本態様においては、導電性高分子分散液から形成される導電層の耐光性がより高くなることから、ポリアニオンのアニオン基にアミン化合物及びエポキシ化合物の少なくとも一方を反応させないことが好ましい。ポリアニオンのアニオン基にアミン化合物及びエポキシ化合物の少なくとも一方を反応させる場合であっても、アミン化合物及びエポキシ化合物の添加量は少量であることが好ましい。
具体的には、アミン化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して0質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0質量部以上1質量部以下であることがより好ましく、0質量部以上0.1質量部以下であることがさらに好ましい。アミン化合物の添加量が前記上限値以下であれば、導電性高分子分散液から形成される導電層の耐光性をより向上させることができる。
エポキシ化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して0質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0質量部以上1質量部以下であることがより好ましく、0質量部以上0.1質量部以下であることがさらに好ましい。エポキシ化合物の添加量が前記上限値以下であれば、導電性高分子分散液から形成される導電層の耐光性をより向上させることができる。
【0013】
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。ポリアニオンの質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて溶出時間を測定し、分子量既知のポリスチレン標準物質から予め得た、溶出時間対分子量の校正曲線に基づいて求めた質量基準の分子量のことである。
【0014】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるから、充分な導電性を確保できる。
【0015】
本態様の導電性高分子分散液においては、導電性高分子分散液の総質量に対する導電性複合体の含有量が0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
(分散媒)
本態様における分散媒は、トリオール化合物を含有する。
トリオール化合物は、ヒドロキシ基を3つ有する有機化合物である。導電性高分子分散液が分散媒としてトリオール化合物を含むことにより、導電性高分子分散液のスクリーン印刷の適性を向上させることができる。
トリオール化合物は、後述する第1水分散液に容易に混合できることから、25℃において液体であることが好ましい。さらには、トリオール化合物は、乾燥しやすく、乾燥炉の汚染を防止できることから、標準気圧(1013hPa)における沸点が300℃以下であることが好ましい。また、トリオール化合物の標準気圧における沸点は、トリオール化合物の揮発を抑制する点では、100℃以上であることが好ましい。
トリオール化合物の具体例としては、例えば、グリセロール、1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。トリオール化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
トリオール化合物のなかでも、導電性高分子分散液のスクリーン印刷適性をより向上させる点では、グリセロールが好ましい。なお、グリセロールは、25℃において液体であり且つ標準気圧における沸点が300℃以下のトリオール化合物である。
【0017】
トリオール化合物の含有割合は、樹脂成分以外の成分(以下、「非樹脂成分」という。)を100質量%とした際、80質量%以上100質量%以下であり、90質量%以上100質量%以下であることが好ましく、95質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、99質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。非樹脂成分に対するトリオール化合物の含有割合が前記下限値未満であると、分散媒中における導電性複合体の分散性が低下することがある。
前記樹脂成分は、例えば、π共役系導電性高分子、ポリアニオン、及び後述するバインダ樹脂等が挙げられる。前記非樹脂成分は、分子量が1000未満の非重合体からなる化合物であり、特に常温(20℃±15℃)で液体の化合物である。
【0018】
非樹脂成分100質量%に対するトリオール化合物の含有割合が100質量%でない場合には、導電性高分子分散液には、トリオール化合物以外の分散媒が含まれる。トリオール化合物以外の分散媒としては、水、トリオール化合物以外の他の有機溶剤が挙げられる。
他の有機溶剤としては、アルコール系溶剤(前記トリオール化合物を除く。)、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶媒等が挙げられる。他の有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アルコール系溶媒としては、ヒドロキシ基を1つ有するモノオール、ヒドロキシ基を2つ有するジオールが挙げられる。モノオールとしては、例えば、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール及びブタンジオール(1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール)等が挙げられる。
エーテル系溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロプレングリコールモノメチルエーテル等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0019】
(バインダ樹脂)
本態様の導電性高分子分散液は、バインダ樹脂をさらに含有してもよい。
バインダ樹脂は、π共役系導電性高分子及びポリアニオン以外の樹脂であり、導電層において導電性複合体を結着させ、導電層の強度を高める樹脂である。
バインダ樹脂の具体例としては、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、メラミン樹脂等が挙げられる。
本態様では、導電性高分子分散液中における分散安定性が高くなることから、バインダ樹脂として水分散性樹脂を使用することが好ましい。分散媒として含まれるトリオール化合物はヒドロキシ基を有するため、極性が低い疎水性樹脂よりも、極性が高い水分散性樹脂を分散しやすいと推測される。
具体的に、バインダ樹脂としては、水分散性ポリエステル、水分散性アクリル樹脂、水分散性ポリウレタン、水分散性ポリイミド、水分散性メラミン樹脂等が挙げられる。これらバインダ樹脂のなかでも、水分散性ポリエステルが好ましい。バインダ樹脂が水分散性ポリエステルであれば、導電性高分子分散液のスクリーン印刷によって形成される導電層の導電性及び強度を高くできる。また、バインダ樹脂が水分散性ポリエステルであれば、導電性高分子分散液をスクリーン印刷する基材としてポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた場合に、基材に対する導電層の密着性を高めることができる。
水分散性樹脂の具体例としては、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有する親水性樹脂が挙げられる。
水分散性樹脂の他の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、エマルションにされたものが挙げられる。
水分散性樹脂のなかでも、水分散性が高く、導電層の導電性をより高くできることから、酸基又はその塩を有するポリエステル、酸基又はその塩を有するポリウレタン、エマルション状のポリエステル樹脂、エマルション状のポリウレタン樹脂が好ましく、酸基又はその塩を有するポリエステルがより好ましい。
前記水分散性樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
本態様の導電性高分子分散液がバインダ樹脂をさらに含有する場合、導電性高分子分散液におけるバインダ樹脂の含有割合は、導電性複合体の固形分100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上1000質量部以下であることがさらに好ましい。バインダ樹脂の含有割合が前記下限値以上であれば、製膜性と導電層の強度をより向上させることができる。バインダ樹脂の含有割合が前記上限値以下であれば、導電性が充分に高い導電層を形成できる。
【0021】
(高導電化剤)
本態様の導電性高分子分散液は、高導電化剤を含有してもよい。
高導電化剤は、導電層の導電性をより向上させる成分である。ここで、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、トリオール化合物、分散媒及びバインダ樹脂は、高導電化剤に分類されない。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、1個以上のヒドロキシ基及び1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
導電性高分子分散媒に含有される高導電化剤は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0022】
高導電化剤を添加する場合、導電性高分子分散液における高導電化剤の含有割合は導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。導電性高分子分散液における高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下と透明性の低下を防止できる。
【0023】
(添加剤)
本態様の導電性高分子分散液は、添加剤を含有してもよい。
添加剤としては、本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、π共役系導電性高分子、ポリアニオン、トリオール化合物、バインダ樹脂及び高導電化剤以外の化合物からなる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンレジン等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ビタミン類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0024】
本態様の導電性高分子分散液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0025】
(導電性高分子分散液の粘度)
本態様の導電性高分子分散液は、25℃における粘度が240mPa・s以上であることが好ましい。ここで、粘度は、B型粘度計を用い、25℃にて測定した値である。得られる導電性高分子分散液の粘度を240mPa以上にすれば、導電性高分子分散液におけるスクリーン印刷適性がより高くなる。
また、導電性高分子分散液の25℃における粘度は、300mPa・s以上にすることがより好ましく、400mPa・s以上にすることがさらに好ましい。但し、粘度が高すぎると、流動性が低下して取り扱いが困難になるため、導電性高分子分散液の25℃における粘度は5000mPa・s以下にすることが好ましい。
【0026】
(作用効果)
本態様の導電性高分子分散液においては、導電性複合体を分散させる分散媒の主成分としてトリオール化合物を使用する。トリオール化合物を含有する導電性高分子分散液は粘度が適度に高くなる傾向にある。また、トリオール化合物は沸点が高い傾向にあるため、印刷した後に乾燥させる際に使用する乾燥炉の汚染を抑制できる。さらに、トリオール化合物は導電性複合体を高い分散性で分散できる。このような本態様の導電性高分子分散液は、スクリーン印刷適性に優れる。
また、本態様の導電性高分子分散液においては、トリオール化合物中における導電性複合体の分散性が高いため、本態様の導電性高分子分散液から形成される導電層においても導電性複合体の分散性が高くなり、導電性、及び透明性等の光学特性に優れる傾向にある。
【0027】
<導電性高分子分散液の製造方法>
本発明の導電性高分子分散液の製造方法の一態様について説明する。
本態様の導電性高分子分散液の製造方法は、導電性複合体と水とを含有する第1水分散液にトリオール化合物を混合して第1混合液を得て、前記第1混合液から水を除去して導電性高分子分散液を得る方法である。
本態様の製造方法では、得られる導電性高分子分散液に含まれる非樹脂成分100質量%に対するトリオール化合物の含有割合が80質量%以上100質量%以下になるように、前記第1水分散液に前記トリオール化合物を混合し、前記第1混合液から水を除去する。
【0028】
第1水分散液を製造する方法としては、例えば、ポリアニオンの水溶液中で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合する方法が挙げられる。
また、第1水分散液は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとの導電性複合体を含む市販の水分散液を使用しても構わない。
前記化学酸化重合には、公知の触媒を適用してもよい。例えば、触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0029】
第1水分散液に含まれる導電性複合体の固形分濃度は、第1水分散液の総質量に対して、0.1質量%以上4.5質量%未満であることが好ましく、0.3質量%以上4質量%未満であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%未満であることがより好ましい。
【0030】
第1混合液から水を除去する方法としては、例えば、第1水分散液を加熱して水を蒸発させる方法、第1混合液を減圧して水を蒸発させる方法、第1混合液を減圧しながら加熱して水を蒸発させる方法、膜分離により水を除去する方法等が挙げられる。
これらの水除去方法により水を選択的に除去して、導電性複合体及びトリオール化合物を含有し且つトリオール化合物の含有割合が非樹脂成分100質量%に対して80質量%以上である導電性高分子分散液を得る。
【0031】
本態様における導電性高分子分散液がバインダ樹脂を含有する場合、バインダ樹脂の添加のタイミングに特に制限はない。導電性高分子分散液におけるバインダ樹脂の分散性を高くする点では、バインダ樹脂のトリオール分散液を調製し、このバインダ樹脂のトリオール分散液を上記のように製造した導電性高分子分散液に混合する導電性高分子分散液の製造方法が好ましい。前記製造方法は、バインダ樹脂が水分散性である場合により好適である。
すなわち、導電性高分子分散液の好ましい製造方法は、水分散性バインダ樹脂と水とを含有する第2水分散液にトリオール化合物を混合して第2混合液を得て、前記第2混合液から水を除去してバインダ樹脂分散液を得て、前記導電性高分子分散液に前記バインダ樹脂分散液をさらに混合する方法である。
【0032】
高導電化剤及びその他の添加剤は適宜添加すればよく、例えば、第1水分散液に添加してもよいし、第1混合液に添加してもよいし、第2水分散液に添加してもよいし、第2混合液に添加してもよい。
【0033】
(作用効果)
本態様の導電性高分子分散液の製造方法では、導電性複合体及び水を含む第1水分散液にトリオール化合物を混合した後、水を除去するため、粘度が適度に高く且つ導電性複合体の分散性が高い導電性高分子分散液を容易に得ることができる。また、導電性複合体の固体にトリオール化合物を直接添加する場合に比べて導電性複合体に分散性を向上させることができる。このようにして得られた導電性高分子分散液は、スクリーン印刷適性が高い。
【0034】
<導電性フィルムの製造方法>
本発明の導電性フィルムの製造方法の一態様について説明する。
本態様の導電性フィルムの製造方法は、前記態様の導電性高分子分散液を基材の少なくとも一方の面にスクリーン印刷して導電層を形成する方法である。
本態様では、前記態様の導電性高分子分散液を使用するから、スクリーン印刷によって目的の導電層を容易に形成できる。
【0035】
前記基材としては、樹脂フィルム、ガラス板、繊維を抄造したシート等が挙げられるが、本態様では、樹脂フィルムが好適に使用される。
樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-αオレフィン共重合樹脂、プロピレン-αオレフィン共重合樹脂等が挙げられる。
また、樹脂フィルムは、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、樹脂フィルムの表面には、後述する親水化処理によって、カルボキシ基、ヒドロキシ基等の親水基が形成されていてもよい。親水化処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等が挙げられる。
【0036】
前記基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
基材の厚さは、任意の10箇所以上について厚さを、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いて測定し、その測定値を平均した値である。
【0037】
導電性高分子分散液をスクリーン印刷した後には、印刷した導電性高分子分散液を乾燥することが好ましい。
その乾燥方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、通常は50℃以上150℃以下の範囲であり、好ましくは60℃以上130℃以下、より好ましくは70℃以上120℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
また、充分に分散媒を除去する点で、乾燥時間は5分以上であることが好ましい。
【0038】
本態様の導電性高分子分散液の印刷によって形成された導電層は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、トリオール化合物とを含有する。
導電性フィルム製造の際に使用する導電性高分子分散液にバインダ樹脂が含まれる場合には、導電層にバインダ樹脂が含まれる。
前記導電層の平均厚さとしては、10nm以上20000nm以下であることが好ましく、20nm以上10000nm以下であることがより好ましく、30nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
導電層の厚さは、任意の10箇所以上について厚さを、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いて測定し、その測定値を平均した値である。
導電層は、基材の表面にパターン状に形成されてもよいし、基材の表面全面に形成されてもよい。パターン状に形成された導電層は、電極、配線等の電気回路に使用することができる。
【0039】
(作用効果)
本態様の導電性フィルムの製造方法では、前記態様の導電性高分子分散液をインキとして使用して基材にスクリーン印刷するため、目的とする導電層を容易に形成でき、例えば、厚い導電層を容易に形成できる。導電層を電気回路として使用する場合、導電層が厚いことが要求されるため、電気回路として使用する導電層を形成する場合には、本態様の導電性フィルムの製造方法は好適である。
また、導電性複合体の分散性が高い前記態様の導電性高分子分散液から形成される導電層は、導電性及び透明性に優れる。したがって、前記態様の導電性高分子分散液をインキとして使用する本態様の導電性フィルムの製造方法によれば、導電性及び透明性に優れた導電性フィルムを容易に製造できる。
【実施例】
【0040】
(製造例1)
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、その溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0041】
(製造例2)
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。これにより得られた混合溶液を20℃に保ち攪拌を行いながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくりと添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。次に、得られた溶液に、200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)を水洗した。この操作を8回繰り返して、固形分濃度1.2質量%のPEDOT-PSS水分散液を得た。
【0042】
(実施例1)
製造例2のPEDOT-PSS水分散液1000gにグリセロール545.5gを添加し、混合した後、エバポレーターを用いて945.5gの水を減圧留去して、非樹脂成分100質量%に対するグリセロールの含有割合が93質量%の導電性高分子分散液を得た。
水分散性ポリエステルの水分散液(互応化学工業社製Z-690)にグリセロールを500g添加し、エバポレーターを用いて324.3gの水を減圧留去してバインダ樹脂分散液を得た。
次いで、前記導電性高分子分散液と前記バインダ樹脂分散液とを混合して、バインダ樹脂含有導電性高分子分散液を得た。このバインダ樹脂含有導電性高分子分散液における非樹脂成分100質量%に対するグリセロールの含有割合は92質量%である。
次いで、得られたバインダ樹脂含有導電性高分子分散液をポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT-60)の片面に、350メッシュのスクリーン版を用いてスクリーン印刷し、120℃で1分間乾燥させた。これにより導電層を形成して導電性フィルムを得た。
【0043】
(実施例2)
製造例2のPEDOT-PSS水分散液1000gにグリセロール545.5gを添加し、混合した後、エバポレーターを用いて878.8gの水を減圧留去して、非樹脂成分100質量%に対するグリセロールの含有割合が83質量%の導電性高分子分散液を得た。本例において、実施例1と同様にして調製したバインダ樹脂含有導電性高分子分散液における非樹脂成分100質量%に対するグリセロールの含有割合は87質量%である。このバインダ樹脂含有導電性高分子分散液を用い、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。
【0044】
(実施例3)
グリセロール545.5gの代わりに1,2,4-ブタントリオール545.5gを製造例2のPEDOT-PSS水分散液1000gに添加したこと以外は実施例1と同様にして、導電性フィルムを得た。すなわち、非樹脂成分100質量%に対する1,2,4-ブタントリオールの含有割合が93質量%の導電性高分子分散液を得て、その後、バインダ樹脂含有導電性高分子分散液を得た。本例において、バインダ樹脂含有導電性高分子分散液における非樹脂成分100質量%に対する1,2,4-ブタントリオールの含有割合は92質量%である。
【0045】
(比較例1)
製造例2のPEDOT-PSS水分散液1000gにグリセロール545.5gを添加し、混合した後、エバポレーターを用いて545.5gの水を減圧留去して、非樹脂成分100質量%に対するグリセロールの含有割合が55質量%の導電性高分子分散液を得た。その後、実施例1と同様にしてバインダ樹脂含有導電性高分子分散液を得た。本例において、バインダ樹脂含有導電性高分子分散液における非樹脂成分100質量%に対するグリセロールの含有割合は68質量%である。
【0046】
(比較例2)
製造例2のPEDOT-PSS水分散液1000gから、エバポレーターを用いて水を減圧留去して、4.0質量%のPEDOT-PSS水分散液300gを得た。得られた4.0質量%のPEDOT-PSS水分散液300gにメタノールを表1に示す含有割合となるように混合して導電性高分子分散液を得た。
【0047】
(比較例3)
製造例2のPEDOT-PSS水分散液1000gから、エバポレーターを用いて水を減圧留去して、4.0質量%のPEDOT-PSS水分散液300gを得た。得られた4.0質量%のPEDOT-PSS水分散液300gにエタノールを表1に示す含有割合となるように混合して導電性高分子分散液を得た。
【0048】
(比較例4)
グリセロールの代わりにエチレングリコールを製造例2のPEDOT-PSS水分散液に添加したこと以外は実施例1と同様にして、導電性高分子分散液、バインダ樹脂含有導電性高分子分散液、および導電性フィルムを得た。
【0049】
(比較例5)
グリセロールの代わりにプロピレングリコールを製造例2のPEDOT-PSS水分散液に添加したこと以外は実施例1と同様にして、導電性高分子分散液、バインダ樹脂含有導電性高分子分散液、および導電性フィルムを得た。
【0050】
(比較例6)
製造例2のPEDOT-PSS水分散液1000gから、エバポレーターを用いて水を減圧留去して、4.0質量%のPEDOT-PSS水分散液300gを得た。
次いで、得られた導電性高分子分散液をポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT-60)の片面に、350メッシュのスクリーン版を用いてスクリーン印刷し、120℃で1分間乾燥させた。これにより導電層を形成して導電性フィルムを得ることを試みたが、スクリーン印刷版に目詰まりが起きた。
【0051】
<評価>
(導電性高分子分散液の粘度の測定)
各例におけるバインダ樹脂を配合する前の導電性高分子分散液の粘度を、B型粘度計を用いて25℃で測定した。粘度の測定結果を表1に示す。
【0052】
(導電性フィルムの表面抵抗値の測定)
各例の導電性フィルムの導電層について、表面抵抗値を、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリティック製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。表面抵抗値の測定結果を表1に示す。
【0053】
(導電性フィルムの全光線光透過率及びヘイズの測定)
各例の導電性フィルムの全光線透過率及びヘイズを、JIS K7136に従い、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製NDH-5000)を用いて測定した。全光線透過率及びヘイズの測定結果を表1に示す。
【0054】
(導電性高分子分散液のスクリーン印刷適性の評価)
ポリエチレンテレフタレートフィルムに対する各例のバインダ樹脂を配合する前の導電性高分子分散液のスクリーン印刷適性を目視により観察し、以下の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
A:スクリーン印刷適性が特に良好であった。
B:スクリーン印刷適性がやや不良であった。
C:スクリーン印刷適性が不良であった。
D:スクリーン印刷適性が特に不良であった。
【0055】
【0056】
<結果>
導電性複合体及びトリオールを含有し且つ非樹脂成分100質量%に対するトリオールの含有割合が80質量%以上である各実施例の導電性高分子分散液は、粘度3000mPa・s以上であった。この導電性高分子分散液は、スクリーン印刷適性が良好であった。よって、本発明の導電性高分子分散液はスクリーン印刷の適性が高い。
また、各実施例の導電性高分子分散液を用いて調製したバインダ樹脂含有導電性高分子分散液を、塗料として作製した実施例1~3の導電性フィルムは、表面抵抗値が低く、全光線透過率が高く、ヘイズが低かった。すなわち、本発明の導電性フィルムは、導電性及び透明性が高かった。このことは、導電性高分子分散液のスクリーン印刷によって形成される導電層が、π共役系導電性高分子を含む導電層としての基本性能を充分に発揮できることを示している。
これに対し、導電性複合体及びトリオールを含有するものの非樹脂成分100質量%に対するトリオールの含有割合が80質量%未満である比較例1の導電性高分子分散液は、粘度が1500mPa・s未満であり、導電性高分子膜が海島状になってしまうなど印刷性は低下した。
トリオールの代わりにモノオールを含有する比較例2,3の導電性高分子分散液は、粘度が低く、スクリーン印刷をすることができなかった。また、導電性高分子分散液における導電性複合体の分散性も低かった。
トリオールの代わりにジオールを含有する比較例4,5の導電性高分子分散液は、モノオールに比べて粘度は上昇したが、トリオールに比べて低かった。また、導電性高分子分散液における導電性複合体の分散安定性も低く、表面抵抗値およびヘイズが高かった。 トリオール化合物を含まない比較例6の導電性高分子分散液は、粘度は高かったが、スクリーン印刷においてインクの乾燥による版の目詰まり等の問題から、印刷はできなかった。