(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】水性グラビアインキ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/033 20140101AFI20230310BHJP
【FI】
C09D11/033
(21)【出願番号】P 2018110368
(22)【出願日】2018-06-08
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【氏名又は名称】佐々木 渉
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】植田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】水島 龍馬
(72)【発明者】
【氏名】松園 拓人
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208719(WO,A1)
【文献】特開2017-155186(JP,A)
【文献】特開2016-044282(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047267(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104294(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/088560(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子、水溶性有機溶剤、界面活性剤、水を含む水性グラビアインキであって、
該水溶性有機溶剤が、沸点100℃以上260℃以下のグリコールエーテルを含み、インキ中の該沸点100℃以上260℃以下のグリコールエーテルの含有量が、4質量%以上8質量%以下であり、該沸点100℃以上260℃以下のグリコールエーテルがジエチレングリコールモノイソブチルエーテルであり、
該界面活性剤が、下記一般式(1)で表される構成単位を有するシリコーン系界面活性剤及びアセチレングリコール系界面活性剤を含み、
インキ中の該シリコーン系界面活性剤の含有量が0.3質量%以上1質量%以下であり、
インキ中の該アセチレングリコール系界面活性剤の含有量が0.3質量%以上2質量%以下であり、
インキ中の該水溶性有機溶剤の含有量が、
5.5質量%以上10質量%以下であり、
インキ中の水の含有量が、50質量%以上80質量%以下である、水性グラビアインキ。
【化1】
〔式中、m及びnはそれぞれの構造単位の数であり、aは0、bは8以上18以下の整数、mは1以上200以下、nは1以上100以下、Rは水素原子又は炭素数1~15のアルキル基を示し、(m/n)は2.0以上10以下、[(a+b)/(m/n)]は2.0以上4.5以下である。〕
【請求項2】
(シリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤の合計量/グリコールエーテルの含有量)の質量比が、0.02以上0.4以下である、請求項
1に記載の水性グラビアインキ。
【請求項3】
(シリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤の合計量/水の含有量)の質量比が、0.003以上0.06以下である、請求項1
又は2に記載の水性グラビアインキ。
【請求項4】
水溶性有機溶剤の総量に対するグリコールエーテルの含有量の質量比〔グリコールエーテルの含有量/水溶性有機溶剤の総量〕が、0.5以
上である、請求項1~
3のいずれかに記載の水性グラビアインキ。
【請求項5】
〔シリコーン系界面活性剤の含有量/シリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤の合計量〕の質量比が、0.02以上0.9以下である、請求項1~
4のいずれかに記載の水性グラビアインキ。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の水性グラビアインキを用いて、グラビア印刷方式により樹脂フィルムに印刷する、グラビア印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性グラビアインキに関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷は、インキを受容するセルを形成したグラビア版を用いて、インキを印刷基材に転写する印刷方法である。セルの深さやセルの間隔(線数)によって印刷の品質をコントロールすることができ、高精細な印刷が行えることから汎用されている。
グラビア印刷に用いられるグラビアインキとしては、印刷時及び後加工時の乾燥性、印刷安定性等の観点から、トルエン系のインキが用いられてきた。近年、作業環境の改善等の観点から揮発性有機化合物(VOC)を低減したノントルエン系油性インキが用いられているが、VOCやCO2の低減が不十分で、防災上の観点からも問題がある。
このため、環境負荷の少ない安心かつ安全な水性グラビアインキが望まれている。
【0003】
特許文献1には、良好なレベリング性を有し、網点再現性等に優れるインキ組成物として、顔料、水性バインダー樹脂ワニスを含み、さらに特定の水分散性ジメチルポリシロキサンアルキレンオキサイド付加物を0.005~5重量%含有する水性印刷インキ組成物が開示されている。その実施例では、イソプロパノールを2質量%含むインキを用いて樹脂フィルムに印刷したことが記載されている。
特許文献2には、樹脂フィルムに良好な印刷を行うインキ組成物として、グリコールエーテル類等の有機溶剤を1~10重量%含有する水溶性印刷インキ組成物が開示されている。その実施例では、変性シリコーン系消泡剤を含有するベースインキを調製し、インキ組成物の粘度を調整するために、ベースインキを混合溶媒(水/エタノール/イソプロパノール=20部/70部/10部)で希釈して、フィルムに印刷したことが記載されている。
【0004】
また、グラビアインキ市場では、速乾指向の動きが高まっており、インキ乾燥性は重要な指標の一つとされている。インキの乾燥性が劣ると、印刷物を重ねた際にインキが他方に転移する「裏移り」の問題が発生する。
「裏移り」が発生すると印刷物の価値が著しく損なわれるため、印刷後の静置時間を長くとり、擦れても「裏移り」が発生しなくなるまでインキを乾燥させる必要がある。インキの乾燥性が劣るとこの静置時間が長くなり、作業効率が低下する。
このため、インキ乾燥性等を改善する印刷紙や、水性オーバープリントニスとして適用できる水性被覆剤等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-158564号公報
【文献】特開2002-188029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2のインキは、溶剤系のインキと比べてVOCの低減がなされているが、イソプロパノール等のVOCの発生源となる低沸点溶剤を含んでおり、更なるVOCの低減が求められる。
しかし、VOCの低減を目指した、有機溶剤を使用しない水性インキや、有機溶剤をVOCの発生源となりにくい高沸点溶剤に置き換えたインキでは、樹脂フィルム等の低吸水性の印刷基材に印刷すると、印刷基材上でのインキの濡れ拡がりが不足して印刷濃度の低下が生じたり、印刷後の乾燥性の低下が生じる等の課題があった。
上記のように、従来、樹脂フィルム等の低吸水性の印刷基材に印刷する際に、印刷濃度、乾燥性を満足しうる水性グラビアインキは知られていない。
本発明は、環境負荷が少なく、樹脂フィルム等の低吸水性の印刷基材に対する印刷においても、印刷濃度、乾燥性に優れた水性グラビアインキを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、顔料、水溶性有機溶剤、界面活性剤、水を含む水性グラビアインキであって、水溶性有機溶剤が特定の沸点を有するグリコールエーテルを含み、界面活性剤が特定のシリコーン系界面活性剤を特定量含む、水含有量の多い水性グラビアインキが、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、顔料、水溶性有機溶剤、界面活性剤、水を含む水性グラビアインキであって、
該水溶性有機溶剤が、沸点100℃以上260℃以下のグリコールエーテルを含み、
該界面活性剤が、下記一般式(1)で表される構成単位を有するシリコーン系界面活性剤を含み、インキ中の該水溶性有機溶剤の含有量が、1質量%以上10質量%以下であり、
インキ中の水の含有量が、50質量%以上80質量%以下である、水性グラビアインキを提供する。
【0008】
【化1】
〔式中、m及びnはそれぞれの構造単位の数であり、aは0以上40以下の整数、bは1以上40以下の整数、Rは水素原子又はアルキル基を示し、[(a+b)/(m/n)]は1.60以上6.30以下である。〕
なお、m、n、a及びbの各構造単位はブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境負荷が少なく、印刷濃度、乾燥性に優れた水性グラビアインキを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[水性グラビアインキ]
本発明の水性グラビアインキは、顔料、水溶性有機溶剤、界面活性剤、水を含む水性グラビアインキ(以下、単に「グラビアインキ」又は「インキ」ともいう)であって、
該水溶性有機溶剤が、沸点100℃以上260℃以下のグリコールエーテルを含み、
該界面活性剤が、前記一般式(1)で表される構成単位を有するシリコーン系界面活性剤を含み、インキ中の該水溶性有機溶剤の含有量が、1質量%以上10質量%以下であり、
インキ中の水の含有量が、50質量%以上80質量%以下である。
以下に述べる水性グラビアインキ中の各成分の含有量は、グラビア印刷時の含有量を示す。本発明のグラビアインキは、各成分を印刷時の含有量に調整してそのまま用いてもよく、予め調製したベースインキを水等で希釈し、印刷時の含有量に調整して用いてもよい。
【0011】
本発明の水性グラビアインキによれば、環境負荷が少なく、樹脂フィルム等の低吸水性の印刷基材に対する印刷においても、印刷濃度、乾燥性に優れ、高品質の印刷物を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の水性グラビアインキは、沸点100℃以上260℃以下のグリコールエーテルを含む水溶性有機溶剤を1質量%以上10質量%以下、水を50質量%以上80質量%以下含むことにより、グラビア版のセル内でインキが乾燥せず、転写率を高く維持できると考えられる。また、水含有量が多い系で、グリコールエーテルと特定のシリコーン系界面活性剤を含むことにより、印刷基材上でのインキの濡れ拡がり性(以下、「レベリング性」ともいう)が阻害されないため、印刷濃度及び乾燥性が優れ、高品質の印刷物を得ることができると考えられる。さらに、インキ中の水溶性有機溶剤の含有量が10質量%以下であり、該有機溶剤に沸点100℃以上のグリコールエーテルを含むため、該有機溶剤がVOCの発生源となりにくく、環境負荷が低減されると考えられる。
【0012】
<顔料>
本発明のインキで用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物等が挙げられ、黒色インキにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。白色インキにおいては、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物等が挙げられる。これらの無機顔料は、チタンカップリング剤、シランカップリング剤、高級脂肪酸金属塩等の公知の疎水化処理剤で表面処理されたものであってもよい。
有機顔料としては、例えば、アゾレーキ顔料、不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料類;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンツイミダゾロン顔料、スレン顔料等の多環式顔料類等が挙げられる。
色相は特に限定されず、有彩色インキにおいては、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、ブルー、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー13、17、74、83、93、97、109、110、120、128、139、151、154、155、174、180;C.I.ピグメント・レッド48、57:1、122、146、150、176、184、185、188、202、254;C.I.ピグメント・オレンジ;C.I.ピグメント・バイオレット19、23;C.I.ピグメント・ブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、60;C.I.ピグメント・グリーン7、36等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0013】
本発明で用いられる顔料の形態としては、自己分散型顔料及び顔料をポリマーで分散させた顔料粒子から選ばれる1種以上が挙げられるが、好ましくは顔料を含有するポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)である。
なお、自己分散型顔料とは、アニオン性親水基又はカチオン性親水基の1種以上を、直接又は他の原子団を介して顔料の表面に結合することで、界面活性剤やポリマーを用いることなく水系媒体に分散可能である顔料を意味する。
【0014】
<ポリマー>
本発明のインキは、顔料分散剤及び/又は印刷基材に対する定着剤として、ポリマーを含有することが好ましい。ポリマーとしては、水溶性ポリマー及び水不溶性ポリマーのいずれも用いることができるが、水不溶性ポリマーがより好ましい。
水溶性ポリマーとは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g以上であるポリマーをいう。
水不溶性ポリマーとは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であるポリマーをいい、その溶解量は好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。アニオン性ポリマーの場合、上記溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
【0015】
用いられるポリマーとしては、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられるが、印刷濃度、乾燥性を向上させる観点から、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物等のビニル単量体の付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。また、ポリマーは架橋剤で架橋されたポリマーを用いることができる。
【0016】
本発明に用いられるポリマーは、顔料含有ポリマー粒子又は顔料を含有しないポリマー粒子Bとして、グラビアインキ中に分散して用いることが好ましい。以下、顔料含有ポリマー粒子を構成するポリマーを「ポリマーa」と、顔料を含有しないポリマー粒子Bを構成するポリマーを「ポリマーb」ともいう。
ポリマーaは、顔料分散能を有する顔料分散ポリマーとして、また、ポリマーbは、印刷基材にインキを定着させるための定着助剤ポリマーとして用いられる。
ポリマーaとポリマーbは、異なる組成であってもよく、また、組成も含めて同一のポリマーであって、顔料の有無だけが異なるものであってもよい。
インキ中に顔料含有ポリマー粒子とポリマー粒子Bを含む場合には、インキ中のポリマーの含有量は、ポリマーa及びポリマーbの合計量となる。
グラビアインキ中のポリマーの含有量(ポリマーaとポリマーbの合計量)は、印刷濃度、乾燥性を向上させる観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0017】
〔ポリマーa〕
ポリマーaは、顔料分散能を有するポリマーであり、ポリエステル、ポリウレタン、ビニル系ポリマー等が挙げられる。これらの中でも、印刷濃度、乾燥性を向上させる観点から、ビニルモノマーの付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
ビニル系ポリマーとしては、(a1)イオン性モノマー由来の構成単位と、(a2)疎水性モノマー由来の構成単位を含むことが好ましい。
【0018】
(a1)イオン性モノマーとしては、アニオン性モノマーが好ましく、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー等が挙げられる。これらの中では、カルボン酸モノマーがより好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が更に好ましい。
(a2)疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー、片末端に重合性官能基を有するマクロモノマー等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
芳香族基含有モノマーとしては、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニル系モノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート等がより好ましい。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0019】
ポリマーaは、更に(a3)ノニオン性モノマーを含んでもよい。ノニオン性モノマーは、水や水溶性有機溶剤との親和性が高いモノマーであり、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレートが更に好ましい。ノニオン性モノマーの市販品例としては、新中村化学工業株式会社製のNKエステルMシリーズ、日油株式会社製のブレンマーPEシリーズ、PMEシリーズ、50PEPシリーズ、50POEPシリーズ等が挙げられる。
【0020】
(ポリマーa中における各構成単位の含有量)
ポリマーa中における(a1)~(a3)成分に由来する構成単位の含有量は、インキの分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(a1)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
(a2)成分の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
(a3)成分の含有量は、0質量%以上であり、(a3)成分を用いる場合、好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0021】
(ポリマーaの製造)
前記ポリマーaは、(a1)イオン性モノマー、(a2)疎水性モノマー等を含むモノマー混合物を公知の溶液重合法等により共重合させることにより製造できる。
ポリマーaの重量平均分子量は、インキの分散安定性、印刷濃度、乾燥性を向上させる観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは13,000以上であり、そして、好ましくは20万以下、より好ましくは10万以下、更に好ましくは5万以下である。
ポリマーaの酸価は、顔料の分散性及びポリマーの吸着性の観点から、好ましくは100mgKOH/g以上、より好ましくは150mgKOH/g以上、更に好ましくは200mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは350mgKOH/g以下、より好ましくは300mgKOH/g以下、更に好ましくは270mgKOH/g以下である。
なお、重量平均分子量及び酸価の測定は実施例に記載の方法により行うことができる。
【0022】
(顔料含有ポリマー粒子の製造)
顔料含有ポリマー粒子は、顔料表面にポリマーaが吸着した粒子であり、インキ中で安定に分散させることができる。
顔料含有ポリマー粒子は、分散体として下記工程Iを有する方法により、効率的に製造することができる。更に、下記工程IIを有する方法により製造してもよい。ポリマーを架橋剤で架橋する場合は、工程IIIを有することが好ましい。
工程I:ポリマーa、有機溶媒、顔料、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を含有する混合物を分散処理して、顔料含有ポリマー粒子の分散体を得る工程
工程II:工程Iで得られた分散体から有機溶媒を除去して、顔料含有ポリマー粒子の水分散体を得る工程
工程III:工程Iで得られた分散体又は工程IIで得られた水分散体と架橋剤を混合し、架橋処理して、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体を得る工程
【0023】
(工程I)
ポリマーaがアニオン性ポリマーの場合、中和剤を用いてポリマー中のアニオン性基を中和してもよい。中和剤を用いる場合は、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられる。また、該ポリマーを予め中和しておいてもよい。
ポリマーaのアニオン性基の中和度は、インキの分散安定性を向上させる観点から、アニオン性基に対して好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%未満、より好ましく90モル%以下、更に好ましくは80モル%以下、より更に好ましくは75モル%以下である。
ここで中和度は、ポリマーaがアニオン性基を有する場合、ポリマーaのアニオン性基に対する中和剤の使用当量として下記式によって求めることができる。中和剤の使用当量が100モル%以下の場合、中和度と同義である。中和剤の使用当量が100モル%を超える場合には、中和剤がポリマー分散剤(a)の酸基に対して過剰であることを意味し、この時のポリマー分散剤(a)の中和度は100モル%とみなす。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{ポリマー分散剤(a)の加重平均酸価(mgKOH/g)×ポリマー分散剤(a)の質量(g)}/(56×1000)]〕×100
【0024】
工程Iにおける混合物の分散方法に特に制限はない。本分散だけで顔料含有ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、好ましくは予備分散させた後、さらに剪断応力を加えて本分散を行い、顔料含有ポリマー粒子の平均粒径を所望の粒径とするよう制御することが好ましい。
好ましくは、ディスパー等を用いて予備分散した後、高圧分散処理する方法がある。ここで、「高圧分散」とは、20MPa以上の分散圧力で分散することを意味する。
【0025】
(工程II)
工程IIにおける有機溶媒の除去は公知の方法で行うことができる。顔料含有ポリマー粒子を含む水分散体中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。
有機溶媒の除去は、有機溶媒を除去した分散体の不揮発成分(固形分)濃度が、好ましく15質量%以上、より好ましくは20質量%以上になるまで行うことが好ましく、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下になるまで行うことが好ましい。
【0026】
(工程III)
工程IIIは、工程Iで得られた分散体又は工程IIで得られた水分散体と架橋剤を混合し、架橋処理して、顔料を含有する架橋ポリマー粒子の水分散体を得る工程である。
架橋剤は、ポリマーaがアニオン性基を有するアニオン性ポリマーである場合、該アニオン性基と反応する官能基を有する化合物が好ましく、該官能基を分子中に2以上有する化合物がより好ましく、分子中に2以上6以下有する化合物が更に好ましい。
【0027】
架橋剤としては、好ましくは分子中に2以上のエポキシ基を有する水不溶性多官能エポキシ化合物が好ましい。架橋剤は、より好ましくは分子中に2以上のグリシジルエーテル基を有する化合物、更に好ましくは分子中に3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物である。
ここで、架橋剤の「水不溶性」とは、架橋剤を25℃のイオン交換水100gに飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が好ましくは50g未満であることをいう。前記溶解量は、好ましくは40g以下、より好ましくは35g以下である。
架橋剤は、水系媒体中で効率よく架橋反応させる観点から、該架橋剤の水溶率(質量比)は、好ましくは50%未満、より好ましくは40%以下、更に好ましくは35%以下である。ここで、水溶率%(質量%)とは、室温25℃にて水90質量部に架橋剤10質量部を溶解したときの溶解率(%)をいう。
架橋剤の分子量は、反応を容易にする観点から、好ましくは120以上、より好ましくは150以上、更に好ましくは200以上であり、そして、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下、更に好ましくは1000以下である。
架橋剤のエポキシ当量(g/eq)は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上であり、そして、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは150以下である。
なお、エポキシ当量の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
【0028】
架橋剤の具体例としては、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(水溶率31%)、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(水溶率27%)、及びペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(水溶率0%)から選ばれる1種以上である。
水不溶性多官能エポキシ化合物の市販品としては、ナガセケムテックス株式会社製のデナコールEXシリーズ、日油株式会社製のエピオールBE、同Bシリーズ等が挙げられる。
ポリマーa中における酸成分の架橋率は、インキの保存安定性の観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。
【0029】
インキ中のポリマーaの含有量は、定着性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
インキ中の顔料に対するポリマーaの質量比〔ポリマーa/顔料〕は、インキの保存安定性の観点から、好ましくは0.2/99.8~70/30、より好ましくは0.5/99.5~60/40、更に好ましくは1/99~50/50である。
【0030】
商業的に入手しうるビニル系ポリマーの具体例としては、例えば、「アロンAC-10SL」(東亜合成株式会社製)等のポリアクリル酸、「ジョンクリル67」、「ジョンクリル611」、「ジョンクリル678」、「ジョンクリル680」、「ジョンクリル690」、「ジョンクリル819」(以上、BASFジャパン株式会社製)等のスチレン-アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0031】
(顔料を含有しないポリマー粒子B)
グラビアインキは、印刷基材上での定着性を向上させる観点から、顔料を含有しないポリマー粒子B(ポリマー粒子B)を含むことが好ましい。ポリマー粒子Bは、顔料を含有せず、ポリマー単独で構成される水不溶性ポリマー粒子である。
ポリマー粒子Bを構成するポリマーbとしては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等が挙げられるが、印刷濃度、乾燥性を向上させる観点から、アクリル系樹脂、塩化ビニル-アクリル系樹脂が好ましく、それらの併用も好ましい。
ポリマー粒子Bは、それが水中に分散した水分散体として用いることが好ましい。ポリマー粒子Bは、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0032】
〔ポリマーb〕
前記アクリル系樹脂としては、(b1)イオン性モノマーと(b2)疎水性モノマーとを含むモノマー混合物Bを共重合させてなる水不溶性ビニル系ポリマーが好ましい。
(b1)成分は、前記(a1)成分と同様であるが、それらの中でも、定着性を向上させる観点から、アニオン性モノマーが好ましく、カルボン酸モノマーがより好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が更に好ましい。
(b2)成分は、前記(a2)成分と同様のアルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー、マクロモノマー等が挙げられる。これらの中でも、アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数1以上22以下、好ましくは炭素数1以上10以下のアルキル基を有するものがより好ましく、前記例示化合物が更に好ましく、メチル(メタ)アクリレートと2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートとの併用がより更に好ましい。
【0033】
(ポリマーb中における各構成単位の含有量)
ポリマーb中における(b1)及び(b2)成分に由来する構成単位の含有量は、印刷基材への定着性を向上させる観点から、次のとおりである。
(b1)成分の含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%未満、より好ましくは30質量%未満、更に好ましくは20質量%未満である。
(b2)成分の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは99.5質量%未満、より好ましくは99質量%未満、更に好ましくは98.5質量%未満である。
【0034】
前記ポリマーbは、(b1)イオン性モノマー、(b2)疎水性モノマー等を含むモノマー混合物を公知の溶液重合法等により共重合させることにより製造できる。
商業的に入手しうるポリマー粒子Bの分散体としては、例えば、「Neocryl A1127」(DSM Neo Resins社製、アニオン性自己架橋水系アクリル系樹脂)、「ジョンクリル390」(BASFジャパン株式会社製)等のアクリル系樹脂、「WBR-2018」「WBR-2000U」(大成ファインケミカル株式会社製)等のウレタン系樹脂、「SR-100」、「SR102」(以上、日本エイアンドエル株式会社製)等のスチレン-ブタジエン樹脂、「ジョンクリル7100」、「ジョンクリル7600」、「ジョンクリル734」、「ジョンクリル780」、「ジョンクリル537J」、「ジョンクリル538J」、「ジョンクリルPDX-7164」、「ジョンクリルPDX-7775」(以上、BASFジャパン株式会社製)等のスチレン-アクリル系樹脂及び「ビニブラン700」、「ビニブラン701」(日信化学工業株式会社製)等の塩化ビニル-アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0035】
ポリマーbの重量平均分子量は、定着性を向上させる観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは20万以上、更に好ましくは30万以上であり、そして、好ましくは250万以下、より好ましくは100万以下、更に好ましくは60万以下である。
ポリマーbの酸価は、定着性を向上させる観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは3mgKOH/g以上、更に好ましくは5mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは65mgKOH/g以下、更に好ましくは60mgKOH/g以下である。
なお、ポリマーbの重量平均分子量と酸価は、実施例に記載の方法により測定される。
【0036】
インキ中のポリマー粒子Bの含有量は、定着性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
また、分散体中又はインキ中のポリマー粒子Bの平均粒径は、インキ安定性から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
なお、ポリマー粒子Bの平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0037】
<水溶性有機溶剤>
本発明に用いられる水溶性有機溶剤は、常温(25℃)で液体であっても固体であってもよい。水溶性有機溶剤とは、有機溶剤を25℃の水100mlに溶解させたときに、その溶解量が10ml以上である有機溶剤をいう。
水溶性有機溶剤は、乾燥性を向上させる観点から、沸点が100℃以上260℃以下のグリコールエーテルを含む。
前記グリコールエーテルの分子量は、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは100以上であり、そして、好ましくは200以下、より好ましくは190以下、更に好ましくは180以下である。
前記グリコールエーテルの沸点は、レベリング性を向上させる観点から、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、更に好ましくは120℃以上、より更に好ましくは130℃以上であり、そして、好ましくは240℃以下、より好ましくは230℃以下、更に好ましく220℃以下である。
【0038】
前記グリコールエーテルとしては、乾燥性を向上させる観点から、アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びアルキレングリコールジアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、アルキレングリコールモノアルキルエーテルがより好ましい。
前記グリコールエーテルが有するアルキル基の炭素数は、レベリング性を向上させる観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、そして、乾燥性を向上させる観点から、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下である。前記グリコールエーテルのアルキレングリコールは、乾燥性を向上させる観点から、エチレングリコール及びプロピレングリコールから選ばれる1種以上が好ましく、エチレングリコールがより好ましい。前記グリコールエーテルのアルキレングリコールの重合度は、レベリング性を向上させる観点から、1以上3以下が好ましく、1又は2がより好ましく、2が更に好ましい。
これらを総合すると、グリコールエーテルは、アルキル基の炭素数が1以上8以下であり、アルキレングリコールの重合度が1以上3以下のエチレングリコール及びプロピレングリコールから選ばれる1種以上であり、アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びアルキレングリコールジアルキルエーテルから選ばれる1種以上であることが好ましく、アルキル基の炭素数が2以上6以下であり、アルキレングリコールの重合度が1又は2のエチレングリコール及びプロピレングリコールから選ばれる1種以上であり、アルキレングリコールモノアルキルエーテルであることがより好ましく、アルキル基の炭素数が3以上4以下のジエチレングリコールモノアルキルエーテルがより更に好ましい。
【0039】
グリコールエーテルの具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、及びジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
これらの中では、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及びジエチレングリコールモノイソブチルエーテルから選ばれる1種以上が更に好ましく、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBDG、沸点220℃)から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0040】
水溶性有機溶剤は、さらに前記グリコールエーテル以外の他の水溶性有機溶剤を含むことができる。他の水溶性有機溶剤としては、アルコール、グリコール等の二価以上の多価アルコール、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン等のピロリドン、アルカノールアミン等が挙げられる。これらの中でも、レベリング性を向上させる観点から、グリコールが好ましい。
前記グリコールの沸点の好適範囲は、前記のグリコールエーテルの沸点の好適範囲と同じである。
【0041】
前記グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-デカンジオール等の炭素数2以上10以下の1,2-アルカンジオール;1,3-プロパンジオール、2-メチル―1,3-プロパンジオール、3-メチル―1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等の炭素数3以上8以下の1,3-アルカンジオール;ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール等のポリアルキレングリコール等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合せて用いることができる。これらの中でも、乾燥性及びレベリング性を向上させる観点から、炭素数2以上10以下の1,2-アルカンジオールが好ましく、炭素数2以上6以下の1,2-アルカンジオールがより好ましく、炭素数2以上4以下の1,2-アルカンジオールが更に好ましく、プロピレングリコール(PG、沸点188℃)を含有することがより更に好ましい。
【0042】
インキは、沸点が100℃未満又は260℃を超える水溶性有機溶剤を含有してもよい。100℃未満の水溶性有機溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等の一価アルコールが挙げられる。260℃を超える水溶性有機溶剤としては、トリエチレングリコール(沸点285℃)、トリプロピレングリコール(沸点273℃)、グリセリン(沸点290℃)等が挙げられる。
【0043】
<界面活性剤>
(シリコーン系界面活性剤)
本発明においては、インキの乾燥性の観点から、下記一般式(1)で表される構成単位を有するシリコーン系界面活性剤を含む。
【0044】
【化2】
〔式中、m及びnはそれぞれの構造単位の数であり、aは0以上40以下の整数、bは1以上40以下の整数、Rは水素原子又はアルキル基を示し、[(a+b)/(m/n)]は1.60以上6.30以下である。〕
なお、m、n、a及びbの各構造単位はブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。
【0045】
式(1)におけるポリアルキレンオキシド基を有さないシリコーン構造単位数mは、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは5以上、より更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは200以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは50以下である。
式(1)におけるポリアルキレンオキシド基を有するシリコーン構造単位数nは、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは4以上、より更に好ましくは6以上あり、そして、好ましくは100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは50以下である。
構造単位数m及びnの比(m/n)は、シリコーン系界面活性剤のポリアルキレンオキシド基の割合を表し、ポリアルキレンオキシド基の数が多いほど(m/n)の値は小さくなる。
【0046】
構造単位数m及びnの比(m/n)は、インキの乾燥性の観点から、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.8以上、更に好ましくは2.0以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下である。
当該比(m/n)は、実施例に記載の方法により測定される。
具体的には、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)分光法による。1H-NMRの測定結果を用い、δ(ppm):0.3-0.6のピーク面積値を2(2H:固定値)とする。δ(ppm):0-0.5のピーク面積値から変性されたSi元素に直接結合したメチル基(CH3)のプロトン(面積値3)を減じ、更に変性されていないSi元素に直接結合したメチル基(CH3)を2H分(面積値6)として除することにより変性・未変性のSi元素の比率[m/n]を算出する。
また、ポリプロピレンオキシド基の構造単位数であるaは、δ=1.0-1.2のピーク面積値をプロピレンオキシド基(PO)のメチル基(CH3)の3H分で除することにより算出する。
ポリエチレンオキシド基の構造単位数であるbは、δ=3.0-3.8のピーク面積値が、プロピレンオキシド基(EO)又はPOの酸素元素に直接結合したメチレン基(CH2/2H)、POの(CH,CH2)分の水素(3H×PO平均付加モル数)、EO(CH2-CH2/4H×EO平均付加モル数)のピーク面積の合計値であること、及び前記aの値から算出する。
【0047】
式(1)中のaは、好ましくは0以上であり、そして、好ましくは35以下、より好ましくは25以下、更に好ましくは15以下である。
式(1)中のbは、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは5以上、より更に好ましくは8以上であり、そして、好ましくは35以下、より好ましくは25以下、更に好ましくは20以下、より更に好ましくは18以下である。bの値が大きいほどポリアルキレンオキシド基あたりの親水性が大きくなる。
式(1)中の(a+b)は、ポリアルキレンオキシド基の長さを表す指標であり、グリコールエーテルとの親和性に関係すると考えられる。
(a+b)は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは5以上、より更に好ましくは8以上であり、そして、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下、より更に好ましくは20以下、より更に好ましくは18以下である。
【0048】
式(1)中の[(a+b)/(m/n)]は、グリコールエーテルとの親和性とシリコーン系界面活性剤の親水性の指標となり、グリコールエーテルとシリコーン系界面活性剤とを含む水系インキの印刷基材の濡れ拡がりに寄与すると考えられ、適度に水系インキが濡れ拡がることにより印刷濃度が向上すると考えられる。
[(a+b)/(m/n)]は、好ましくは1.65以上、より好ましくは1.7以上、更に好ましくは1.8以上、より更に好ましくは2.0以上であり、そして、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.5以下、更に好ましくは5.0以下、より更に好ましくは4.5以下である。
当該比[(a+b)/(m/n)]は、実施例に記載の方法により測定される。
【0049】
式(1)中のRは、好ましくは水素原子又は炭素数1~15のアルキル基、より好ましくは水素原子又は炭素数1~8のアルキル基、更に好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基、より更に好ましくはメチル基である。
一般式(1)で表される構成単位を有するシリコーン系界面活性剤としては、下記一般式(2)で表される構成単位を有するジメチルポリシロキサンアルキレンオキシドが挙げられる。
【0050】
【化3】
〔式中、m、n、a、b、及び[(a+b)/(m/n)]は前記と同義である。〕
【0051】
商業的に入手しうるシリコーン系界面活性剤の具体例としては、信越化学工業株式会社のシリコーン KF-6011、KF-6012、KF-6013,KF-6015、KF-6016、KF-6017、KF-6028、KF-6038、KF-6043、エボニック・ジャパン株式会社製のTEGO WET240、TEGO WET270等が挙げられる。
【0052】
(アセチレングリコール系界面活性剤)
本発明のインキは、インキの乾燥性を向上させる観点から、界面活性剤としてさらにアセチレングリコール系界面活性剤を含有することが好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、インキの乾燥性を向上させる観点から、炭素数8以上22以下のアセチレングリコール及び該アセチレングリコールのエチレン付加物が好ましく、炭素数8以上22以下のアセチレングリコールがより好ましい。前記アセチレングリコールの炭素数は、好ましくは10以上、より好ましく12以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である。具体的には、レベリング性を向上させる観点から、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、及び2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオールから選ばれる1種以上のアセチレングリコール、及び該アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。これらの中でも、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールが好ましい。
【0053】
アセチレングリコール系界面活性剤のHLBは、好ましくは0以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは2以上、より更に好ましくは2.5以上であり、そして、好ましくは5以下、より好ましくは4.5以下、更に好ましくは4以下、より更に好ましくは3.5以下である。
アセチレングリコール系界面活性剤は、単独で又は2つ以上併用してもよい。
ここで、HLB(親水性親油性バランス;Hydrophile-Lypophile Balance)値は、界面活性剤の水及び油への親和性を示す値であり、グリフィン法により次式から求めることができる。
HLB=20×[(界面活性剤中に含まれる親水基の分子量)/(界面活性剤の分子量)]
界面活性剤中に含まれる親水基としては、例えば、水酸基及びエチレンオキシ基が挙げられる。
【0054】
商業的に入手しうるアセチレングリコール系界面活性剤の具体例としては、Air Products & Chemicals社のサーフィノール104(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、EO平均付加モル数:0、HLB:3.0)、同104E(サーフィノール104のエチレングリコール50%希釈品)、同104PG-50(サーフィノール104のプロピレングリコール50%希釈品)、サーフィノール420(サーフィノール104のEO平均付加モル数:1.3、HLB:4.7)、川研ファインケミカル株式会社製のアセチレノールE13T(EO平均付加モル数:1.3、HLB:4.7)等が挙げられる。
界面活性剤は、上記以外の他の界面活性剤を含んでもよい。他の界面活性剤としては、好ましくはアニオン性界面活性剤、上記以外のノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤から選ばれる1種以上であり、これらを2つ以上併用してもよい。
これらの中でも、アルコール系界面活性剤等のノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0055】
(水性グラビアインキ中の各成分の含有量)
インキ中の顔料、ポリマー、水溶性有機溶剤、界面活性剤、及び水の含有量は、レベリング性の観点から、以下のとおりである。ここでいうインキは、希釈することなく印刷に用いることができる状態に調整されたものであり、この状態におけるインキ中の各成分の含有量を示す。
インキ中の顔料の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは18質量%以下である。
インキ中の顔料含有ポリマー粒子の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である。
【0056】
インキ中のポリマーの含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。
インキ中の顔料に対するポリマー(ポリマーaとポリマーbの総量)の質量比〔ポリマー/顔料〕は、インキの安定性の観点から、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下である。
【0057】
インキ中の水溶性有機溶剤の総量としての含有量は、レベリング性を向上させる観点から、1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、そして、環境負荷を低減する観点から、10質量%以下であり、好ましくは9質量%以下、より好ましくは8質量%以下である。
インキ中の前記グリコールエーテルの含有量は、レベリング性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9質量%以下、更に好ましく8質量%以下である。
インキ中の水溶性有機溶剤の総量に対する前記グリコールエーテルの含有量の質量比〔グリコールエーテルの含有量/水溶性有機溶剤の総量〕は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、更に好ましくは0.7以上、より更に好ましくは0.8以上であり、そして1以下である。
【0058】
インキ中の前記グリコールの含有量は、レベリング性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましく3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であり、下限値は0質量%である。
インキ中の沸点が100℃未満の水溶性有機溶剤の含有量は、レベリング性を向上させ、環境負荷を低減する観点から、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.5質量%未満であり、下限値は0質量%である。
インキ中の沸点が260℃を超える水溶性有機溶剤の含有量は、乾燥性を向上させる観点から、好ましくは2質量%以下、より好ましく1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。
【0059】
インキ中の界面活性剤の含有量は、レベリング性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3.5質量%以下である。
インキ中の下記一般式(1)で表される構成単位を有するシリコーン系界面活性剤の含有量は、レベリング性を向上させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
インキ中のアセチレングリコール系界面活性剤の含有量は、レベリング性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0060】
インキ中のシリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤の合計量に対するシリコーン系界面活性剤の質量比〔シリコーン系界面活性剤の含有量/シリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤の合計量〕は、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.04以上、更に好ましくは0.06以上であり、そして、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.7以下である。
インキ中のシリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤の合計量とポリマーの含有量の質量比〔シリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤の合計量/ポリマーの含有量〕は、レベリング性の観点から、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.008以上、更に好ましくは0.01以上であり、そして、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.4以下である。
グリコールエーテルの含有量に対するシリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤の合計量の質量比〔シリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤の合計量/グリコールエーテルの含有量〕は、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.04以上、更に好ましくは0.06以上であり、そして、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.25以下である。
【0061】
インキ中の水の含有量は、揮発性有機化合物を低減しつつ、レベリング性を向上させる観点から、50質量%以上であり、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは66質量%以上であり、そして、良好な乾燥性を有しつつ、レベリング性を向上する観点から、80質量%以下であり、好ましくは78質量%以下、より好ましくは76質量%以下、更に好ましくは74質量%以下である。
顔料、ポリマー、水溶性有機溶剤、界面活性剤及び水以外の他の任意成分をインキ中に含有する場合は、水の含有量の一部を他の成分に置き換えて含有することができる。
水の含有量に対するシリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤の合計量の質量比(シリコーン系界面活性剤とアセチレングリコール系界面活性剤の合計量/水の含有量)は、好ましくは0.003以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.06以上であり、そして、好ましくは0.06以下、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.04以下である。
本発明のインキは、その用途に応じて、任意成分として、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤等の各種添加剤を含有することができる。
【0062】
20℃におけるインキのザーンカップ粘度は、レベリング性を向上させる観点から、好ましくは10秒以上、より好ましくは12秒以上、更に好ましくは13秒以上であり、そして、好ましくは25秒以下、より好ましくは20秒以下、更に好ましくは18秒以下である。
20℃におけるインキのpHは、分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上、更に好ましくは6.5以上であり、そして、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは10.0以下である。
ザーンカップ粘度及びpHは、実施例に記載の方法により測定される。
【0063】
[グラビア印刷方法]
本発明の水性グラビアインキは、グラビア版を用いるグラビア印刷に好適に使用することができる。本発明のインキを、グラビア印刷方式により印刷基材に印刷することにより、優れた印刷濃度、乾燥性により高精細なグラビア印刷物を得ることができる。
グラビア印刷は、表面に凹状のセルが形成されたグラビアシリンダ(グラビア版)を回転させながらグラビアシリンダ表面に前記インキを供給し、所定の位置に固定されたドクターでインキをかき落としセル内のみにインキを残し、連続的に供給される印刷基材を表面がゴムで形成された圧胴にてグラビアシリンダに圧着させ、グラビアシリンダのセル内のインキのみを印刷基材に転写させることにより、文字や画像を印刷する方法である。
グラビア印刷で用いる印刷基材としては、コート紙、アート紙、合成紙、加工紙等の紙;ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム等の樹脂フィルム等が挙げられる。
印刷基材としては、非吸水性の基材に対するインキの濡れ拡がり性の観点から、樹脂フィルムが好ましく、印刷物を製造した後の打ち抜き加工等の後加工適性の観点から、ポリエステルフィルム及びポリプロピレンフィルムが好ましい。これらの樹脂フィルムは、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム、無延伸フィルムであってもよい。
また、グラビア印刷適性を向上させる観点から、コロナ処理、プラズマ処理等の放電加工による表面処理を行った樹脂フィルムを用いてもよい。
【実施例】
【0064】
以下の製造例、調製例、実施例、参考例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。なお、各物性等の測定方法は以下のとおりである。
【0065】
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲルクロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolum Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中に樹脂0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP PTFE 0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0066】
(2)ポリマーの酸価の測定
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)にポリマーをトルエンとアセトン(2:1)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価を算出した。
【0067】
(3)水分散体、分散体の固形分濃度の測定
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件で固形分濃度を測定した。
【0068】
(4)顔料含有ポリマー粒子、ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定する粒子の濃度が約5×10-3重量%になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力し、得られたキュムラント平均粒径を顔料含有ポリマー粒子、ポリマー粒子の平均粒径とした。
【0069】
(5)エポキシ化合物のエポキシ当量の測定
エポキシ化合物のエポキシ当量は、JIS K7236に従い、京都電子工業株式会社製、電位差自動滴定装置、AT-610を用いて電位差滴定法により測定した。
(6)インキのザーンカップ粘度の測定
ザーンカップ粘度計(株式会社離合社製、No.3)を用いて、20℃におけるインキの粘度を測定した。
(7)インキのpHの測定
pH電極「6337-10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F-71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、20℃におけるインキのpHを測定した。
【0070】
(8)一般式(1)の[a+b]/[m/n]の算出
[a+b]/[m/n]は、以下の条件によるプロトン核磁気共鳴(1H-NMR)分光法の測定結果を用いて算出した。
測定資料100mgを、トリメチルシリルを含有しない重クロロホルム(NMR用クロロホルムd-1(重水素化率99.8%)、関東化学株式会社製)2.0mlで希釈し、直径5.0mmの1H-NMR用チューブを用いて、Agilent-NMR-vmrs400(varian社製、400MHz)装置により、パルス幅:45μs(45°パルス)、観測幅:6410Hz、待ち時間:10s、積算回数:8回、測定温度:室温条件下で、測定を行った。
【0071】
シリコーン系界面活性剤として、日信化学工業株式会社製、シルフェイスSAG002を使用した場合を例にとり、[a+b]/[m/n]の算出法を説明する。
δ(ppm):0.3-0.6のピーク面積値を2(2H:固定値)とする。これによりEO又はPO変性されたSi元素の分子内比率が1となるので、未変性のSi元素との比率[m/n]を求めるために用いた。
(8-1)m/nの算出
δ(ppm):0-0.5のピーク面積値からEO又はPO変性されたSi元素に直接結合したメチル基(CH3)のプロトン(面積値3)を減じ、更にEO又はPO変性されていないSi元素に直接結合したメチル基(CH3)を2つ(面積値6)として除することにより変性・未変性のSi元素の比率[m/n]を算出した。
m/n={[0-0.5のピーク面積値]-[変性Si元素に直接結合するメチル基3H]}/[未変性Si元素に直接結合するメチル基6H]=(19-3)/6=2.67
(8-2)a(分子内のPOの平均付加モル数)の算出
δ=1.0-1.2のピーク面積値をPOのメチル基(CH3)の3H分で除することによりPOの平均付加モル数aを算出した。
a=[1.0-1.2のピーク面積値]/[PO鎖のメチル基(3H)]=0/3=0
(8-3)b(分子内のEOの平均付加モル数)の算出
δ=3.0-3.8のピーク面積値は、EO又はPOの酸素元素に直接結合したメチレン基(CH2/2H)、POの(CH,CH2)分の水素(3H×PO平均付加モル数)、EO(CH2-CH2/4H×EO平均付加モル数)のピーク面積の合計値である。
b={[δ=3.0-3.8のピーク面積値]-[POの(CH,CH2)分の水素(3H)]×a-[EO又はPOの酸素元素に直接結合したメチレン基(CH2/2H)]}/[EO(CH2-CH2)の水素(4H)]=(43.1-3×(0)-2)/4=10.28
上記で得られた[m/n]、a、bの値から、シルフェイスSAG002の[a+b]/[m/n]は以下のとおり、3.85と算出された。
[a+b]/[m/n]=(0+10.28)/2.67=3.85
他のシリコーン系界面活性剤を使用した場合も、上記と同様にして算出した。
【0072】
製造例1(顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
(1)2Lフラスコにイオン交換水236部を計量し、水不溶性スチレン-アクリルポリマー(BASF社製、商品名:ジョンクリル690、重量平均分子量:16500、酸価:240mgKOH/g)を60部、及び5N水酸化ナトリウム溶液36.5部(ナトリウム中和度:60モル%)を投入した。アンカー翼を用いて200rpmで2時間撹拌し、スチレン-アクリルポリマー水溶液332.5部(固形分濃度:19.9%)を得た。
ディスパー翼を有する容積が2Lのベッセルに上記水溶液331.7部及びイオン交換水448.3部を添加し、0℃の水浴で冷却しながら、ディスパー(浅田鉄工株式会社製、ウルトラディスパー:商品名)を用いて1400rpmで15分間撹拌した。
(2)次いでマゼンタ顔料(C.I.ピグメント・レッド146)220部を加え、6400rpmで1時間撹拌した。その分散液をジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー社製、商品名:XTZボール、0.3mmφ)を80%充填した湿式分散機(株式会社広島メタル&マシナリー製、商品名:ウルトラアペックスミル UAM05)に投入し、5℃の冷却水で冷却しながら周速8m/s、流量200g/分で5パス分散後、200メッシュ金網を用いて濾過を行った。
(3)上記で得られた濾液500部(顔料:110部、ポリマー:33部)にデナコール EX-321L(ナガセケムテックス株式会社製、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エポキシ当量:129)7.3部(ポリマー中のアクリル酸に含有する架橋反応点となるカルボン酸に対し40mol%相当)、プロキセルLV(S)(ロンザジャパン株式会社製、防黴剤、有効分:20%)1部を添加し、更に固形分濃度が27.3%になるようにイオン交換水43.2部を添加し、70℃で3時間攪拌した後、200メッシュ金網で濾過し、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(顔料含有ポリマー粒子の含有量:27.3%、平均粒径:280nm)550.5部を得た。なお、顔料含有ポリマー粒子を構成するポリマーは水不溶性ポリマーである。
【0073】
製造例2(顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子の分散体の製造)
滴下ロートを備えた反応容器内に、メタクリル酸0.5部、メチルメタクリレート(富士フイルム和光純薬株式会社製)14.5部、2-エチルヘキシルアクリレート(富士フイルム和光純薬式会社製)5.0部、ラテムルE-118B(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム11.1部、花王株式会社製、界面活性剤)、重合開始剤である過硫酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.2部、イオン交換水282.8部を入れて150prmで混合した後、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー溶液を得た。
メタクリル酸9.5部、メチルメタクリレート275.5部、2-エチルヘキシルアクリレート95.0部、ラテムルE-118B 35.1部、過硫酸カリウム0.6部、イオン交換水183.0部を150prmで混合した滴下モノマー溶液を滴下ロート内に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を150prmで攪拌しながら室温から80℃に30分かけて昇温し、80℃に維持したまま、滴下ロート中のモノマーを3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の温度を維持したまま、1時間攪拌し、イオン交換水204.7部を加えた。次いでステンレス金網(200メッシュ)でろ過し、水不溶性ポリマー粒子の分散体(固形分濃度:40%、平均粒径:100nm、ポリマーの酸価:16mgKOH/g)を得た。
【0074】
<グラビア印刷用インキの調製>
実施例1(インキ1の調製)
表1に記載のインキ組成となるように、製造容器内に製造例1で得られた顔料含有ポリマー粒子の水分散体57.6部(インキ中の顔料含有量:11.5部、顔料含有ポリマー粒子の含有量:15.7部)に中和剤(富士フイルム和光純薬株式会社製、5N水酸化ナトリウム溶液)0.27部及び製造例2で得られた顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子の分散液12.5部(インキ中のポリマー含有量:5.0%に相当、固形分濃度40%)を加え、150rpmで撹拌を行った。
更にジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(iBDG;富士フイルム和光純薬株式会社製、沸点220℃)7.0部、シリコーン系界面活性剤(信越化学工業株式会社製、商品名:KF642)0.5部、及びアセチレングリコール系界面活性剤(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール(HLB:3.0);サーフィノール104のプロピレングリコール50%希釈品、エアープロダクツアンドケミカルズ社製、商品名:サーフィノール104PG-50)1.0部、増粘剤(株式会社ADEKA製、商品名:アデカノールUH-420、ノニオン高分子界面活性剤、有効分30%水溶液)0.4部、及びイオン交換水を加え、室温下で30分撹拌を行った後、ステンレス金網(200メッシュ)で濾過し、水性グラビアインキを得た。
結果を表1に示す。なお、表1中の配合量は有効分としての量を示し、配合量の合計は100部であるので、グラビアインキ中の水の含有量は70.63部である。
また、水性グラビアインキの20℃におけるザーンカップ粘度は14秒、20℃におけるpHは7.6であった。
【0075】
なお、表1中の各表記は下記のとおりである。
(水溶性有機溶剤)
・PG:プロピレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製、沸点188℃)
・iBDG:ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(富士フイルム和光純薬株式会社製、沸点220℃)
・BTG:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(富士フイルム和光純薬株式会社製、沸点271℃)
(シリコーン系界面活性剤)
・KF642(一般式(1)中、a=0、b=14.97、[m/n]=4.56、[a+b]/[m/n]=3.28)
・KF643(一般式(1)中、a=0、b=10.11、[m/n]=2.59、[a+b]/[m/n]=3.90)
・KF644(一般式(1)中、a=0、b=9.87、[m/n]=2.54、[a+b]/[m/n]=3.88)
・KF355A(一般式(1)中、a=0、b=16.40、[m/n]=4.10、[a+b]/[m/n]=4.08)
・SAG002(一般式(1)中、a=0、b=10.28、[m/n]=2.67、[a+b]/[m/n]=3.85、日信化学工業株式会社製、シルフェイスSAG005)
・TEGO240(一般式(1)中、a=0、b=12.0、[m/n]=5.70、[a+b]/[m/n]=2.11、EVONIK社製、TEGO WET240)
・KF352A(一般式(1)中、a=35.16、b=37.1、[m/n]=11.3、[a+b]/[m/n]=6.41)
・KF353A(一般式(1)中、a=0、b=11.6、[m/n]=7.8、[a+b]/[m/n]=1.48)
・KF6012(一般式(1)中、a=39.10、b=41.6、[m/n]=11.6、[a+b]/[m/n]=6.96)
・KF6017(一般式(1)中、a=0、b=11.36、[m/n]=25.45、[a+b]/[m/n]=0.45)
なお、「KF」シリーズは、信越化学工業株式会社製のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤である。また、この実施例で用いたこれらのシリコーン系界面活性剤は、いずれも一般式(1)における、mが1以上200以下の数、nが1以上100以下の数、Rが水素原子又は炭素数1~15のアルキル基を満たす化合物である。
【0076】
実施例2~7及び9、参考例8及び10並びに比較例1~7
実施例1の配合処方を表1に示す条件に変えた以外は、実施例1と同様にして、インキ2~17を得た。
【0077】
(1)印刷試験
実施例1~7及び9並びに参考例8及び10で得られたインキ1~10、並びに比較例1~7で得られたインキ11~17を用いて、OPPフィルム(フタムラ化学株式会社製、FOR-AQ#20、ラミネートグレード)のコロナ放電処理面にグラビア印刷を行った。印刷は、卓上グラビア印刷テスト機(松尾産業株式会社製、Kプリンティングプルーファー)を用いて付属の電子彫刻プレート(線数175線/インチ、版深度31μm)で印刷濃度100%のベタ印刷を行い、印刷物を得た。
【0078】
(2)印刷濃度の評価方法
分光光度計(グレタグマクベス社製、商品名:SpectroEye)を用いて、測定モード(DIN,Abs)にて印刷部の印刷濃度を測定し、以下基準で評価した。
評価結果がB以上であれば実用上問題はない。
(評価基準)
A:1.9以上
B:1.7以上1.9未満
C:1.7未満
【0079】
(3)乾燥性の評価方法
上記(1)のベタ印刷を行った後、60℃に設定した乾燥機(ヤマト科学株式会社、Drying Oven DSV402)内で1分間乾燥させた後、印刷面を指で擦り、インキの転移状況を目視で観察し、以下の基準で乾燥性を評価した。なお、印刷濃度の評価が「C」の場合は印刷物上のインキの濡れ拡がりが不十分であり、適正な評価ができないため、乾燥性の評価を実施しなかった。
評価結果が○であれば実用上問題ない。
(評価基準)
○:インキ転移なし
×:インキ転移あり
-:評価を実施せず
【0080】
【0081】
表1から、実施例1~7及び9のグラビアインキ1~7及び9は、比較例1~7のグラビアインキ11~17に比べて、印刷濃度、乾燥性に優れていることが分かる。