(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】受配電機器の短絡余寿命診断方法および短絡余寿命診断システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20230310BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
G01R31/12 Z
G01R31/00
(21)【出願番号】P 2018121508
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094916
【氏名又は名称】村上 啓吾
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】三木 伸介
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】森 武彦
(72)【発明者】
【氏名】西川 哲司
(72)【発明者】
【氏名】塩田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】藤平 幸一
(72)【発明者】
【氏名】上之 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】深澤 晴雄
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/002728(WO,A1)
【文献】特開2017-106750(JP,A)
【文献】特開2015-2600(JP,A)
【文献】特開2014-23401(JP,A)
【文献】特開2012-231633(JP,A)
【文献】特開2005-61901(JP,A)
【文献】特開2004-177383(JP,A)
【文献】特開2003-9316(JP,A)
【文献】特開平9-80029(JP,A)
【文献】特開2019-27810(JP,A)
【文献】三木伸介;岡澤周,「66/77kV系特別高圧受配電設備絶縁物の余寿命推定技術」,検査技術,日本工業出版株式会社,2013年01月01日,Vol. 18, No. 1,pp. 34-39,ISSN 1342-9825
【文献】三木伸介;岡澤周,「受配電機器の絶縁余寿命推定技術」,電気評論,株式会社電気評論社,2011年06月30日,Vol. 96 臨時増刊号,pp. 64-67
【文献】岡本悟,「受配電盤絶縁物の余寿命診断技術開発 -製油所等の安全・安定操業の基盤-」,JXTG Technical Review,2017年07月,Vol. 59, No. 2,pp. 22-28,ISSN 1348-5008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12-31/20
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体を備えた受配電機器の短絡余寿命を、前記絶縁体の劣化による絶縁体表面の放電から短絡に至る表面抵抗率の低下で診断する短絡余寿命診断方法であって、
前記絶縁体の前記表面抵抗率を、測定された硝酸イオン付着量を含む環境要因データから算出するステップと、
前記表面抵抗率が、前記絶縁体の放電が発生する予め算出された表面抵抗率よりも大きい場合に、前記絶縁体の硝酸イオン付着量を含む環境要因データによる表面抵抗率の時間依存性を示す第1の時間依存性曲線を導出するステップと、
前記絶縁体が設置されている環境の湿度データによる放電発生の年間累計時間の予測データから放電発生時間を算出するステップと、
前記放電発生時間に基づいて放電要因による硝酸イオン付着量を算出し、放電要因による前記硝酸イオン付着量と前記環境要因データとに基づいて前記絶縁体の表面抵抗率の時間依存性を示す第2の時間依存性曲線を導出するステップと、
放電電流測定結果による実測の放電発生時点により前記第1の時間依存性曲線および前記第2の時間依存性曲線を補正し、補正された前記第1の時間依存性曲線および前記第2の時間依存性曲線、並びに予め求められた前記絶縁体が短絡に至る表面抵抗率の値から短絡余寿命を算出するステップと、を含むことを特徴とする受配電機器の短絡余寿命診断方法。
【請求項2】
絶縁体を備えた受配電機器の短絡余寿命を、前記絶縁体の劣化による絶縁体表面の放電から短絡に至る表面抵抗率の低下で診断する短絡余寿命診断方法であって、
診断対象である受配電機器の使用条件および前記受配電機器の前記絶縁体のパラメータ条件を入力するステップと、
入力された前記使用条件および前記パラメータ条件に基づいて前記絶縁体の表面に放電が発生する表面抵抗率を算出するステップと、
前記絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータを測定するステップと、
前記測定の結果に応じて、前記絶縁体の表面抵抗率を算出するステップと、
算出された前記絶縁体の表面抵抗率が、前記絶縁体の放電が発生する予め算出された表面抵抗率よりも大きいか否かを判断するステップと、
前記判断するステップにより算出された前記絶縁体の表面抵抗率が前記絶縁体の放電が発生する予め算出された表面抵抗率よりも大きいと判断された場合には、前記絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータに対する時間依存性を導出するステップと、
導出された前記時間依存性に基づいて、環境要因による前記絶縁体の表面抵抗率の時間依存性を示す第1の時間依存性曲線を導出するステップと、
前記絶縁体が設置されている環境の湿度データによる放電発生の年間累計時間の予測データから放電発生時間を算出するステップと、
算出された前記放電発生時間から放電要因による硝酸イオン付着量を算出するステップと、
算出された放電要因による前記硝酸イオン付着量と環境要因による硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータに基づいて、前記絶縁体の表面抵抗率の時間依存性を示す第2の時間依存性曲線を導出するステップと、
放電電流測定結果による実測の放電発生時点により前記第1の時間依存性曲線および前記第2の時間依存性曲線を補正し、補正された前記第1の時間依存性曲線と前記第2の時間依存性曲線に基づいて、算出された前記絶縁体の表面抵抗率と予め定められた短絡閾値とから短絡余寿命を算出するステップとを備えたことを特徴とする受配電機器の短絡余寿命診断方法。
【請求項3】
算出された前記絶縁体の表面抵抗率が前記絶縁体の放電が発生する予め算出された表面抵抗率以下の場合には、前記絶縁体が設置されている環境の湿度データと放電電流測定結果により放電要因による硝酸イオン付着量を算出して、前記絶縁体に付着している前記測定された硝酸イオン付着量から放電要因による硝酸イオン付着量を引いて環境要因による硝酸イオン付着量を求めるステップをさらに備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の受配電機器の短絡余寿命診断方法。
【請求項4】
絶縁体を備えた受配電機器の短絡余寿命を、前記絶縁体の劣化による絶縁体表面の放電から短絡に至る表面抵抗率の低下で診断する短絡余寿命診断システムであって、
診断対象である受配電機器の使用条件および前記受配電機器の絶縁体のパラメータ条件および測定された前記絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータを入力する手段と、短絡余寿命を診断するための制御手段を備え、
前記制御手段は、
入力された使用条件およびパラメータ条件に基づいて前記絶縁体の表面に放電が発生する表面抵抗率を算出する手段と、
測定された前記絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータに応じて、前記絶縁体の表面抵抗率を算出する手段と、
算出された前記絶縁体の表面抵抗率が前記絶縁体の放電が発生する予め算出された表面抵抗率よりも大きいか否かを判断する手段と、
前記判断する手段により、前記算出した前記絶縁体の表面抵抗率が前記絶縁体の放電が発生する予め算出された表面抵抗率よりも大きいと判断された場合には、前記絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータに対する時間依存性を導出する手段と、
導出された前記時間依存性に基づいて、環境要因による前記絶縁体の表面抵抗率の時間依存性を示す第1の時間依存性曲線を導出する手段と、
絶縁体が設置されている環境の湿度データによる放電発生の年間累計時間の予測データから放電発生時間を算出する手段と、
算出された前記放電発生時間から放電による硝酸イオン付着量を算出する手段と、
算出された放電要因による前記硝酸イオン付着量と環境要因による硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータに基づいて、前記絶縁体の表面抵抗率の時間依存性を示す第2の時間依存性曲線を導出する手段と、
放電電流測定結果による実測の放電発生時点により前記第1の時間依存性曲線および前記第2の時間依存性曲線を補正し、補正された前記第1の時間依存性曲線と前記第2の時間依存性曲線に基づいて、算出された前記絶縁体の表面抵抗率と予め定められた短絡閾値とから短絡余寿命を算出する手段と、を含むことを特徴とする受配電機器の短絡余寿命診断システム。
【請求項5】
算出された前記絶縁体の表面抵抗率が前記絶縁体の放電が発生する予め算出された表面抵抗率よりも大きいか否かを判断する手段で、算出された前記絶縁体の表面抵抗率が前記絶縁体の放電が発生する予め算出された表面抵抗率以下と判断された場合には、前記絶縁体が設置されている環境の湿度データと放電電流を測定し放電要因による硝酸イオン付着量を算出する手段と、前記測定された前記絶縁体に付着している硝酸イオン付着量から放電要因による硝酸イオン付着量を引いて環境要因による硝酸イオン付着量を求める手段を備えたことを特徴とする請求項4に記載の受配電機器の短絡余寿命診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、受配電機器に使用する絶縁体の経年劣化や使用環境の影響による絶縁性能低下の状況把握を行うものであり、特に受配電機器として使用可能な時間的な限界すなわち余寿命の診断を行う短絡余寿命診断方法および短絡余寿命診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
受配電設備は、電気エネルギーを工場や建物などへ供給する受配電機器を備える設備であり信頼性と安定性を確保して稼動することが要求される。長期間にわたる使用により、受配電機器が備える絶縁体が劣化し、絶縁劣化による電気的トラブルが発生した場合には、生産損失および設備補修など、工場や建物などに与える影響が大きい。一方、絶縁体の劣化は受配電機器の設置環境(湿度、温度、ガス等の汚染空気、浮遊塵埃等)により大きく影響を受けるため、余寿命診断が容易ではない。そのため、受配電機器が備える絶縁体の絶縁性能の劣化状況について、精度のよい診断技術が望まれている。
【0003】
絶縁体の劣化プロセスは、一般的に、(1)潮解性物質の付着および生成等による絶縁体表面の抵抗低下、(2)絶縁体表面の抵抗低下による漏れ電流の発生、(3)漏れ電流が原因で発生するジュール熱による局部的な乾燥帯の発生、(4)乾燥帯への電圧集中による部分放電の発生、(5)放電が原因で有機物に発生する炭化導電路の進展による絶縁破壊の順で生じると考えられている。
【0004】
一方、電気的トラブルを未然に防止するとともに、メンテナンス周期を適正化し、保守コストを削減するためには、電気的な異常が発生する以前から、絶縁体の劣化度を定量的に精度よく把握しておくことが必要であり、このため受配電機器の余寿命診断が望まれている。
【0005】
これに対し、絶縁体の診断方法として、これまで、特許文献1~3に記載されているような方法が実施されてきた。
【0006】
特許文献1に記載されている絶縁抵抗測定による方法では、初期時における絶縁特性と相対湿度との関係に基づく初期特性曲線と、限界時における限界特性曲線とを寿命推定の基準曲線とし、基準曲線に基づいて対象となる機器の絶縁特性と相対湿度との特性点を通る現特性曲線を算出することで、その現特性曲線と使用年数、汚損速度に基づいて対象機器の絶縁体の余寿命を推定している。
【0007】
特許文献2に記載されている部分放電測定による方法では、最大放電電荷量と放電パラメータを含んだ演算式によって残存破壊電圧を求める。絶縁層内部の剥離状態および化学劣化状態を検査し、その検査結果に応じて最大放電電荷量と放電パラメータを補正し、補正後の最大放電電荷量と放電パラメータを用いて残存破壊電圧を求めることにより、対象機器の絶縁体の余寿命を推定している。
【0008】
特許文献3に記載されているイオン、色彩、湿度データによる方法では、イオン、色彩データから絶縁物の劣化度を推定し、予め取得していた絶縁物の劣化度および湿度データ、ならびに放電による劣化の進展データから、絶縁抵抗特性曲線と使用年数との関係を求め、対象機器の絶縁体の短絡余寿命を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-177383号公報
【文献】特開平9-80029号公報
【文献】WO2017/002728/A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、実際に機器が設置されている現場での絶縁体の劣化は、放電が発生するまでは大気中のNOx,SOx,塵埃と汚染物などからの影響を受け、放電の発生後はこれらの要因と放電で発生したオゾンおよび硝酸からの影響を受けて、放電に伴う炭化導電路が進展し絶縁破壊に至る。
つまり、絶縁体の劣化は環境要因と放電要因により進展し、放電発生以後は劣化速度が増加する。
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の絶縁抵抗測定による方法では、環境要因による劣化しか対応できないため、放電発生から短絡までのように劣化速度が変化する場合の絶縁診断を行うことができないという問題がある。
また、特許文献2に記載の部分放電測定による方法では、放電の発生を対象としているが放電の発生は湿度の影響を大きく受け、一度放電しても湿度が低下すると放電が停止することもあるため、診断結果がばらつくという問題があり、さらに、放電が発生しない段階での適用はできないという問題もある。
【0012】
さらに、特許文献3に記載の方法を実現するには、放電開始時点から絶縁破壊時点までの間、診断対象電気機器の絶縁物表面抵抗値等の各種データを採取するための停電作業が必要となり、異常の早期発見のためには、頻繁な停電計画を組まなければならない。また、通常の運転状態とは異なる一定の環境条件下(湿度等)で診断を行っているため、運転状態の異常を間接的に診断しているに過ぎない、という問題があった。更に放電現象は、課電による電界強度が異常箇所の放電限界点(部分放電開始の電界強度)を超えた時に発生するものであり、この放電限界点は異常箇所の状態で大きく異なるうえ、部分放電が発生すると、その放電エネルギーで周辺の絶縁物を破壊することになるが、この時、異常箇所の状態が変化することになるため、放電限界点は刻々と変化する。従って、停電時のスポット的な診断を行っても、通常運転時と同一とは言えず、利用価値の高い診断精度とは言い難い(診断結果のバラつきが大きい)問題点があった。
【0013】
この出願は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、絶縁体を含む受配電機器の短絡余寿命(絶縁体で短絡を生じるまでの残り時間)を精度よく診断することができる受配電機器の短絡余寿命診断方法および短絡余寿命診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この出願に開示される受配電機器の短絡余寿命診断方法は、絶縁体を備えた受配電機器の短絡余寿命を、前記絶縁体の劣化による絶縁体表面の放電から短絡に至る表面抵抗率の低下で診断する短絡余寿命診断方法であって、前記絶縁体の前記表面抵抗率を、測定された硝酸イオン付着量を含む環境要因データから算出するステップと、前記表面抵抗率が、前記絶縁体の放電が発生する予め算出された表面抵抗率よりも大きい場合に、前記絶縁体の硝酸イオン付着量を含む環境要因データによる表面抵抗率の時間依存性を示す第1の時間依存性曲線を導出するステップと、前記絶縁体が設置されている環境の湿度データによる放電発生の年間累計時間の予測データから放電発生時間を算出するステップと、前記放電発生時間に基づいて放電要因による硝酸イオン付着量を算出し、放電要因による前記硝酸イオン付着量と前記環境要因データとに基づいて前記絶縁体の表面抵抗率の時間依存性を示す第2の時間依存性曲線を導出するステップと、放電電流測定結果による実測の放電発生時点により前記第1の時間依存性曲線および前記第2の時間依存性曲線を補正し、補正された前記第1の時間依存性曲線および前記第2の時間依存性曲線、並びに予め求められた前記絶縁体が短絡に至る表面抵抗率の値から短絡余寿命を算出するステップと、を含むものである。
【0015】
この出願に開示される受配電機器の短絡余寿命診断システムは、絶縁体を備えた受配電機器の短絡余寿命を、前記絶縁体の劣化による絶縁体表面の放電から短絡に至る表面抵抗率の低下で診断する短絡余寿命診断システムであって、診断対象である受配電機器の使用条件および前記受配電機器の絶縁体のパラメータ条件および測定された前記絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータを入力する手段と、短絡余寿命を診断するための制御手段を備え、前記制御手段は、入力された使用条件およびパラメータ条件に基づいて前記絶縁体の表面に放電が発生する表面抵抗率を算出する手段と、測定された前記絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータに応じて、前記絶縁体の表面抵抗率を算出する手段と、算出された前記絶縁体の表面抵抗率が前記絶縁体の放電が発生する予め算出された表面抵抗率よりも大きいか否かを判断する手段と、前記判断する手段により、前記算出した前記絶縁体の表面抵抗率が前記絶縁体の放電が発生する予め算出された表面抵抗率よりも大きいと判断された場合には、前記絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータに対する時間依存性を導出する手段と、導出された前記時間依存性に基づいて、環境要因による前記絶縁体の表面抵抗率の時間依存性を示す第1の時間依存性曲線を導出する手段と、絶縁体が設置されている環境の湿度データによる放電発生の年間累計時間の予測データから放電発生時間を算出する手段と、算出された前記放電発生時間から放電による硝酸イオン付着量を算出する手段と、算出された放電要因による前記硝酸イオン付着量と環境要因による硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータに基づいて、前記絶縁体の表面抵抗率の時間依存性を示す第2の時間依存性曲線を導出する手段と、放電電流測定結果による実測の放電発生時点により前記第1の時間依存性曲線および前記第2の時間依存性曲線を補正し、補正された前記第1の時間依存性曲線と前記第2の時間依存性曲線に基づいて、算出された前記絶縁体の表面抵抗率と予め定められた短絡閾値とから短絡余寿命を算出する手段と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
この出願に開示される受配電機器の短絡余寿命診断方法および短絡余寿命診断システムによれば、放電電流測定結果と湿度データを用いることで放電要因による絶縁体の硝酸イオン付着量を算出し、硝酸イオン付着量を含む環境要因データと放電要因による硝酸イオン付着量とに基づき、短絡余寿命を算出するため、環境要因と放電要因との両者による絶縁劣化を考慮しているので、短絡余寿命を精度よく診断することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態1における受配電機器の短絡余寿命診断方法を示すフロー図である。
【
図2】実施の形態1に係るマハラノビスの距離と表面抵抗率との相関関係を説明する線図である。
【
図3】実施の形態1に係る硝酸イオン付着量の時間依存性式を導出するための実験装置を説明する斜視図である。
【
図4】実施の形態1に係る環境要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線を説明する線図である。
【
図5】実施の形態1に係る相対湿度(RH%)と表面抵抗率との関係を説明する線図である。
【
図6】実施の形態1における受配電機器の短絡余寿命診断方法に係る短絡加速試験装置を説明するブロック図である。
【
図7】
図6に示す短絡加速試験装置の恒温・恒湿槽内における絶縁体の取付け状態を示す断面図である。
【
図8】実施の形態1に係る放電による絶縁体に付着する硝酸イオン付着量の時間変化を説明する線図である。
【
図9】実施の形態1に係る環境要因および放電要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線を説明する線図である。
【
図10】
図9と同様の、環境要因および放電要因(放電実測有り)による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線を説明する線図である。
【
図11】
図9と同様の、環境要因および放電要因(放電実測有り)による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線を説明する線図である。
【
図12】実施の形態1における放電検出器及び診断装置の構成概要図である。
【
図13】実施の形態1における放電検出機能部分の処理フロー概要図である。
【
図14】実施の形態2における受配電機器の短絡余寿命診断システムを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰返さない。
【0019】
実施の形態1.
実施の形態1を
図1から
図13までに基づいて説明する。本実施の形態1に係る短絡余寿命診断方法は、絶縁体を備えた受配電機器の短絡余寿命を診断する方法である。
ここでいう診断対象の絶縁体とは、受配電機器が備える絶縁体(例えば、電圧が印加される主回路の支持物など)のうち、絶縁劣化を診断したい絶縁体、例えば、絶縁劣化の進行が早く、受配電機器の寿命において重要となる絶縁体である。絶縁体の一例として、不飽和ポリエステル絶縁物、フェノール絶縁物、エポキシ絶縁物等があるが、これらに限定されるものでない。
【0020】
図1は、本実施の形態1における受配電機器の短絡余寿命診断方法のフロー図である。
まず、診断対象である受配電機器の使用条件および受配電機器の絶縁体のパラメータ条件に基づいて、絶縁体の放電及び短絡が発生する表面抵抗率を求める(ステップS1)。
具体的には、診断対象である受配電機器の定格電圧、使用周波数および受配電機器に含まれている絶縁体の厚さ、沿面距離、誘電率の条件に基づいて、予め定められた所定の演算式に基づいて、放電が発生する表面抵抗率を求める。
【0021】
次に、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データからなる環境要因データを測定する(ステップS2)。
そして、測定結果を取得する(ステップS3)。
次表1は、硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データ(色パラメータともいう)の測定結果を説明するものである。
【0022】
【0023】
なお、測定する項目は硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データに限定されるものではなく、湿度および電磁波のような外来ノイズの影響を受けず絶縁体の表面抵抗率を求められるものであれば良い。なお、ここで、色彩データは絶縁体を色彩計等で測定し、絶縁体の色彩をRGB(RGBカラーモデル)あるいはLab(Lab色空間)などの表色系で数値により表したデータを示す。
【0024】
次に、ステップS3で取得した硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データの測定結果から診断対象である受配電機器における絶縁体の表面抵抗率を算出する(ステップS4)。
上述したように、受配電機器の絶縁体の経年劣化による短絡は、表面抵抗率の低下が起因であるので、絶縁体の劣化度として表面抵抗率を求めることは適切である。
本実施の形態1においては、硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データから診断対象である受配電機器の絶縁体の表面抵抗率を以下の如く算出する。
【0025】
図2は、マハラノビスの距離と表面抵抗率との相関関係を説明する線図である。
図2において、縦軸は、表面抵抗率であり、横軸として、絶縁体の初期状態を基準とした基準からのマハラノビスの距離を劣化の指標とした相関図が示されている。
具体的には、予め、絶縁体の初期状態と所定時間後の状態の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データを測定し、測定のばらつきおよび相関を考慮にいれた1つの指標、本実施の形態1においてはマハラノビスの距離で絶縁体の劣化度を表し、その指標と表面抵抗率の実測値との相関関係に従って例えば特許第4121430号公報に示す所定の相関式を算出する。
【0026】
そして、本実施の形態1においては、測定した診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データから劣化の指標であるマハラノビスの距離を求め、
図2で説明した特許第4121430号公報に示す所定の相関式に基づいて、診断対象である受配電機器の絶縁体の表面抵抗率を算出する。
【0027】
次に、診断対象である受配電機器の絶縁体について放電が発生する表面抵抗率と、ステップS4で算出した表面抵抗率とを比較し、ステップS4で算出した表面抵抗率が、放電が発生する表面抵抗率よりも大きいか否かを判断する(ステップS5)。
ステップS5の処理において、放電が発生する表面抵抗率よりも大きい場合には、ステップS8に進む。
【0028】
算出した表面抵抗率が放電の発生する表面抵抗率よりも大きい場合には、硝酸イオンに対する硫酸イオンおよび色彩データの比を算出する(ステップS8)。
表1には、一例として、測定した絶縁体の硝酸イオン付着量に対する硫酸イオン付着量および色彩データの比を示している。表1の色彩は絶縁体を色彩計で測定し、CIE 1976(L*、a*、b*)色空間で表した色彩データの中の色彩b*である。
受配電機器の交換推奨時期は25~30年であり、長期間にわたる環境劣化の結果が硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データの測定値となる。
【0029】
したがって、短絡までの数年間の間に、環境要因によるこれらの測定値の比は変わらないと考えられる。それゆえ、環境要因による硝酸イオン付着量の時間依存性は、硫酸イオン付着量の時間依存性および色彩データの時間依存性と同様であると考えられる。
すなわち、当該算出した比に基づいて、硝酸イオン付着量の時間依存性から環境要因による硫酸イオン付着量および色彩データの時間依存性を算出することが可能である。
【0030】
次に、環境要因による硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データの時間依存性式を導出する(ステップS9)。
図3は、硝酸イオン付着量の時間依存性式を導出するための実験装置を説明する斜視図である。
【0031】
図3では、新品の絶縁体1aと適当な容器に収容された硝酸2をデシケータ3に入れて、温度60℃により曝露する実験装置が示されている。そして、一定時間後の硝酸イオン付着量の測定結果を反応速度論により解析して次式(1)に示される時間依存性式が導出される。
【0032】
【0033】
式(1)中のtは時間(hr)、f(t)は機器の設置からt時間後の硝酸イオン付着量(mg/cm2)、Aは見かけの大気中のNOx濃度を表す。
診断対象である受配電機器の使用年数と硝酸イオン付着量の実測値を上式(1)のtとf(t)にそれぞれ代入することにより、診断対象である受配電機器が設置されている環境の見かけの大気中のNOx濃度Aを求めることができる。
【0034】
そして、求めた環境の見かけの大気中NOx濃度Aを上式(1)に代入した式が診断対象である受配電機器の絶縁体の環境要因による硝酸イオン付着量の時間依存性式として導出することが可能である。
また、環境要因による硝酸イオン付着量の時間依存性式に基づいて、上記算出した硝酸イオン付着量に対する硫酸イオン付着量および色彩データの比を用いて、環境要因による硫酸イオン付着量の時間依存性式および環境要因による色彩データの時間依存性式を導出する。
これにより、放電が発生していない絶縁体について、大気中のNOx、SOx,塵埃および汚染物からの影響を受ける環境要因による劣化度合を診断することが可能である。
【0035】
再び
図1を参照して、次に、環境要因による表面抵抗率の時間依存性曲線(第1の時間依存性曲線)201を導出する(ステップS10)。
図4は、環境要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線(第1の時間依存性曲線)201を説明する線図である。
図4に示される環境要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線201は、上述した硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データの時間依存性式に基づいて、硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データを算出する。そして、算出した硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データに基づいて、マハラノビスの距離を算出する。また、
図2で説明した表面抵抗率とマハラノビスの距離との所定の相関式に基づいて表面抵抗率を算出することにより環境要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線201を導出することが可能である。
【0036】
次に、放電要因による絶縁体の劣化度合を診断する方法について説明する。
図5は、相対湿度(RH%)と表面抵抗率との関係を説明する図である。
図5に示されるように表面抵抗率は相対湿度により変化する。複数の曲線を記載しているが、上方の曲線は劣化が少ないもの、下方の曲線は劣化が進展したものを示す。
図5から、同じ相対湿度でも劣化が進展したものほど表面抵抗率が低くなることがわかる。
【0037】
ここで、相対湿度が高くなると表面抵抗率が下がる傾向にある。
例えば、
図5で湿度50%RH(
図5中のP)の表面抵抗率は約1×10
+11Ωであるが、湿度が
図5中のQ%RHに上昇すると表面抵抗率は1×10
+9Ω(
図5中のR
s)に低下する。したがって、一定湿度以上となって、絶縁体の表面抵抗率が下がり、算出した放電が発生する表面抵抗率以下となった場合に放電が発生し、湿度が低くなると絶縁体の表面抵抗率が上がり、算出した放電が発生する表面抵抗率よりも大きくなり、放電が発生しなくなる。
【0038】
本実施の形態1においては、相対湿度に応じて設置環境で放電が発生する時間を求めることで、放電による硝酸イオン付着量を求める。
再び、
図1に示すフローにおいて、本実施の形態1においては、当該相対湿度(RH%)と表面抵抗率との所定の関係式に基づいて、上述した放電が発生する表面抵抗率から放電が発生する相対湿度を算出する(ステップS11)。
【0039】
次に、受配電機器が設けられた環境における湿度データ(相対湿度
)から放電が発生する時間を算出する(ステップS12)。
なお、放電が発生する時間の算出は次のように行う。対象とする電気機器EMの年間湿度データ(湿度0%から100%を横軸とし、縦軸に横軸の各湿度対応の累計時間を表示)により年間の放電発生時間を算出する。具体的には、放電が発生する表面抵抗率の閾値は上記ステップ11にて算出済みであるため、
図5から放電が発生する最低湿度が求まり、この最低湿度以上になる年間の累計時間が求める放電発生時間となる。
また、
図12及び
図13に示すように、受配電機器としての電気機器EMが収納される電気機器盤11の内部環境における湿度データは湿度検出器14により測定される。部分放電電流データは電源電圧位相検出器(VT)12および変成器(HFCT)13からなる放電検出手段CDにより検出される。
ここで、部分放電電流とは、受配電機器としての電気機器EMに設けられた絶縁体の表面に発生する部分放電により、絶縁体の課電部位から接地部位としての接地線へ絶縁体の表面に沿って流れる漏れ電流であって、接地線電流ECに相当する。
【0040】
電気機器EMの絶縁物において、部分放電が発生することで、絶縁物にストレスを与え絶縁物が損傷するが、その損傷程度は一定時間内における接地電流面積(=接地電流値×時間;時間積分)が大きいほど、また発生頻度が多いほど、絶縁物は激しく損傷する。
放電検出手段CDの検出信号を処理する信号処理部15では、電気機器(診断対象)EMで発生し変成器(HFCT)で検出された部分放電による接地線電流ECの検出波形について、電源電圧位相検出器(VT)12で検出する電源電圧波形と位相比較し、この比較結果から同定・評価部16は部分放電の発生を同定・評価する。すなわち、部分放電は電気機器EMの電源電圧波形の振幅が上昇するタイミング(電源電圧波形の位相が0~90°及び180~270°)で発生し易いことに着目し、計測された電気機器EMの接地線電流ECと、電源電圧波形および位相を比較して、電源電圧波形の特定の位相範囲内の接地線電流ECを部分放電によるものと同定・評価する。
【0041】
なお、電源電圧波形との比較においては、部分放電波形が持つ基本周期は電源電圧周波数、例えば50Hzの倍の周波数100Hz成分になることから、100Hz成分のフーリエ係数を求めることによって、部分放電発生の大きさを評価できるため、部分放電検出の確度を更に高めることができる。
【0042】
放電検出手段CDの出力を受ける同定・評価部16では、信号処理部15で処理・抽出した結果としての部分放電電流波形より、一定時間内における接地電流面積(=接地線電流値×時間;時間積分)を算出する。また、診断対象の電気機器EMの近傍に設置した湿度検出器14により、機器周辺環境の湿度値を検出する。これらのオンライン(リアルタイム)データを用いて、部分放電の発生有無およびその同定・評価に必要な情報を提供する。
【0043】
具体的には、上記方法によって得られたデータより下記4パターンに分類し、パターンに応じて予め決定される相関係数(絶縁劣化程度を示す指標):K1~K4を、下記の通り決定する。
(1)「接地電流面積:大」&「湿度:低」⇒K1
(2)「接地電流面積:大」&「湿度:高」⇒K2
(3)「接地電流面積:小」&「湿度:低」⇒K3
(4)「接地電流面積:小」&「湿度:高」⇒K4
ここで、K1は劣化末期に近く、K4は劣化初期に近いものであり、寿命診断の観点から優先度の高い順に並べると、K1>K2>K3>K4の関係になる。
なお、接地電流面積:大/小、湿度:高/低の、各判定基準(数値による区分)については、診断対象毎の実績に基づく経験値より決定する。
【0044】
そして、放電検出の都度、上記にて決定される相関係数K(K1~K4のいずれか)を診断装置10へ入力する。時間経過とともに、一定時間内において放電発生及び湿度の状態が変化した場合は、
・放電未検出となった場合:K4
・パターン変更となった場合:K=Kt-1(変更前)⇒K=Kt(変更後)
このようにして、オンライン(リアルタイム)監視にて相関係数K1~K4を用いることで、注意が必要な電気機器EMを特定して監視することができる。
相関係数K1~K4は、監視者に対して注意すべき度合いを示すものであり、短絡余寿命診断の計算式に影響するものではない。
ただし、K1~K4の状況にあるということは絶縁体の表面で部分放電が発生している可能性が高いため、K1~K4の状況では無い電気機器EMに比べて注意が必要な状態であるとみなして特に注意して監視を行うことになる。必要があれば、K1~K4の状態になった場合は、監視員に対してK1~K4の区分を含めたアラームを発することも有効である。
なお、ここでは接地電流面積:大/小ならびに湿度:高/低として評価し、相関係数:K1~K4(4パターン)を当てはめるようにしているが、これは一例であり、更に細分化(nパターン:K1~Kn)した形態であってもよい。
【0045】
また、部分放電発生時に現れる接地線電流値は微小であるため、設置環境によっては、接地線電流検出値が、外部ノイズとの区別が難しい場合がある。このような場合に対し、前述の通り電源電圧波形の振幅が上昇するタイミング(電源電圧波形の位相が0~90°、及び180~270°)において、ある一定時間当たりに計測された接地電流面積の大/小で、放電を検出したものと同定・評価するが、これに加えて、接地電流面積が一定レベル以上の面積値を持つ波形として発生する回数の多さで、放電を検出したものと同定・評価する形態であってもよい。
以上のようにして放電の発生の有無を検知し、放電発生時間を求める。
【0046】
なお、診断対象の電気機器EMは、単独で接地された状態において、電気機器EMと接地部間を接地線で接続した接地線電流ECを測定することが望ましい。これは、該機器を収容している盤筐体において、盤内の他の機器が接地された状態あるいは、盤筐体自体が大地と接地された状態にて、接地線電流ECを測定する場合は、診断対象の電気機器EMからの接地線電流ECがこれらに分流し、該機器のみに発生した部分放電による接地電流かを、判別しにくくなるためである。
【0047】
再び
図1に示すフローにおいて、次に、算出した放電発生時間に基づいて硝酸イオン付着量を算出する(ステップS13)。
図6は、本実施の形態1における短絡加速試験装置を説明するブロック図である。
図6に示されるように、本実施の形態1における短絡加速試験装置は、トランス4と、デジタルオシロスコープ5と、恒温・恒湿槽6とで構成される。そして、恒温・恒湿槽6に絶縁体1bが配置され、絶縁体1bに電圧を印加することにより放電が発生するように構成される。
【0048】
図7は、恒温・恒湿槽6内に設けられた絶縁体1bを説明する断面図である。
図7に示すように、ここでは、予め劣化させたポリエステルの絶縁体1bが設けられ、トランス4により変圧された電圧が印加される高電圧電極7が絶縁体1bに取り付けられる。また、接地電極8が絶縁体1bに取り付けられ、トランス4を介して高電圧を印加することで放電が発生するように構成されている。
【0049】
そして、劣化させた絶縁体1bに定格電圧、湿度60~90%、温度60℃の条件で放電を発生させ、短絡までの硝酸イオン付着量の変化を測定した。
硝酸イオン付着量の測定は、純水を含ませたろ紙を絶縁体1bに押し当てることによりイオンを回収し、その回収したイオンをイオンクロマトグラフで測定した。
【0050】
図8は、放電による絶縁体に付着する硝酸イオン付着量の時間変化を説明する線図である。
図8に示すように、本実施の形態1においては、湿度90%、80%、60%の3種類の湿度で実験した場合の硝酸イオン付着量の時間変化が示されている。
ここで、いずれの湿度でも試験時間が増加するとともにイオン付着量が増加した。イオン付着量は試験時の湿度の影響を受け、湿度が高いほど増加した。
【0051】
放電により絶縁体に付着する硝酸イオン付着量P(t)は、時間と湿度との関数として次式(2)の如く表される。
【0052】
【0053】
ここで、aは定数であり以下の値をとる。tは放電発生時間、hは湿度を表す。50≦h≦60;a=5、60<h≦70;a=10、70≦h;a=15。
上式(2)で表される硝酸イオン付着量は常時放電が発生しているときに付着する量であるが、前述のとおり実際の機器の設置環境では常に湿度が変化しているため、一定湿度以上になると放電が発生し、湿度が低くなると放電が発生しなくなる。
したがって、上記の式(2)に従って、受配電機器の設置現場での放電による硝酸イオン付着量を求めることができる。
【0054】
再び
図1に示すフローにおいて、次に、放電発生後の表面抵抗率を算出する(ステップS14)。具体的には、環境要因による硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データと、放電要因による硝酸イオン付着量とに基づいて、放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率を算出する。
【0055】
そして、放電発生後の表面抵抗率の時間依存性曲線を導出する(ステップS15)。
図9は、環境要因および放電要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線を説明する図である。
図9においては、環境要因による絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線201が点線で示され、放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線202が実線で示されている。
具体的には、上式に基づく年毎の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データからマハラノビスの距離を算出する。そして、
図2で説明した表面抵抗率とマハラノビスの距離との所定の相関式に基づいて表面抵抗率を算出することにより環境要因および放電要因による受配電機器に含まれる放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率に係る時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202を導出することが可能である。
【0056】
そして、再び
図1に示すフローにおいて、導出した絶縁体の表面抵抗率に係る時間依存性曲線に従って、短絡余寿命を診断する(ステップS16)。
具体的には、
図9において、放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202と予め定められた短絡閾値とから短絡余寿命を判断する。
短絡閾値は、短絡加速試験により短絡時の表面抵抗率を実測した値を用いることとした。一例として、湿度90%での短絡加速試験において、短絡時の硝酸イオン付着量は1.5mg/cm
2であった。
【0057】
上述したように、環境要因による硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データと、放電による硝酸イオン付着量とに基づいてマハラノビスの距離を算出して、
図2で説明した所定の相関式に基づいて絶縁体の表面抵抗率を算出した結果、湿度90%での表面抵抗率は2.5×10
4Ωであり、湿度50%では2.5×10
6Ωであった。よって、短絡閾値となる表面抵抗率は2.5×10
6Ωとした。上記はあくまでも一例であり、実際には絶縁体の形状および現地の環境調査結果によって閾値は決定される。
【0058】
再び
図9を参照して、当該短絡閾値に従って、放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202から短絡寿命を算出することにより、受配電機器に含まれる絶縁体の短絡余寿命を精度よく診断することが可能である。
【0059】
前記ステップS5で、算出した表面抵抗率が、放電が発生する表面抵抗率よりも小さいと判断した場合は、ステップS6に進む
。絶縁体が設置されている環境の湿度データと部分放電電流を算出し放電要因による硝酸イオン付着量を算出する(ステップS6)。
前記ステップS3により得た絶縁体に付着している硝酸イオン付着量から、前記ステップS6により算出した放電要因による硝酸イオン付着量を引いて環境要因による硝酸イオン付着量を求める(ステップS7)。
ステップS7で上記のような操作を行う理由は、
図9の「放電発生」時点を把握するためである。すなわち、ステップS5において「表面抵抗率が、放電が発生する表面抵抗率よりも小さいと判断」した場合には、その時点で既に過去に何回かの放電が発生しているため、短絡余寿命診断の実施時点では、
図9の「放電発生」時点の位置から右下に伸びる放電要因による表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202上のどこかに位置していることになる。このため、ステップS6で放電要因による硝酸イオン付着量を求め、ステップS7で絶縁体に付着している硝酸イオン付着量から前記放電要因による硝酸イオン付着量を差引いて環境要因による硝酸イオン付着量を求めることで、まずは、環境要因による絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線(第1の時間依存性曲線)201を求める。次いで、ステップS6にて算出した放電要因による硝酸イオン付着量と放電要因による表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202を用いて、
図9の「放電発生」時点から現在位置までの経過時間を逆算して、
図9の「放電発生」時点を特定する。このようにして
図9に示すような環境要因による絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線(第1の時間依存性曲線)201と放電要因による表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202を確定する。
以下、前記ステップS8~S16と同様に、第1の時間依存性曲線201および第2の時間依存性曲線202を導出し、短絡余寿命を算出する。
なお、ステップS6及びステップS7を経由しない場合、すなわち、ステップS5において「放電が発生する表面抵抗率より大」と判断した場合は、診断実施時から放電が発生するまでの期間は環境要因のみを用いて表面抵抗率を算出し、放電発生以降は環境要因と放電要因による表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存曲線)202だけを用いて短絡余寿命を算出することになる。
【0060】
また、
図9の説明においては、診断実施時点(A)において、診断対象である受配電機器の設置場所における診断対象の絶縁体表面の汚損状況の測定データ及び湿度環境の測定データ(年間の季節別・時間別の湿度測定データ)を元に、環境要因による表面抵抗率の時間依存性曲線(第1の時間依存性曲線)201及び放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202を算出し、第1の時間依存性曲線201及び第2の時間依存性曲線202を用いて短絡閾値に至るまでの残存時間(短絡余寿命)を算出していた。
この場合、
図9における放電発生の時期は、あらかじめ算出された放電が発生する表面抵抗率(Rs)と第1の時間依存性曲線201から算出した予測値であり、さらに第2の時間依存性曲線202は、診断実施時点(A)であらかじめ予測した放電開始時の表面抵抗率(予測値)と、診断実施時点(A)に測定した湿度環境の測定データ(年間の季節別・時間別の湿度測定データ)とから算出したものである、こちらも予測値である。このように、
図9における放電発生時期、短絡閾値への到達時期は、すべて診断実施時点(A)の測定に基づく予測値であり、診断対象である受配電機器の設置場所における汚損環境や湿度環境の変化により、短絡余寿命診断の誤差の可能性を伴うものである。
【0061】
受配電機器は工場などの重要な生産設備の運転継続の可否に直接影響するものであるため、余寿命診断の精度向上は重要な課題である。この観点から、短絡余寿命の中間段階である部分放電の発生時点を実測で把握することは、
図9のように全て予測値である2つの表面抵抗率(部分放電発生段階、短絡閾値)を用いて短絡余寿命診断するものに比べて、
部分放電発生時点を実測値で補正することで、
図9のものに比べて短絡余寿命診断の精度を向上させることができる。
図10及び
図11は、部分放電を実測することで部分放電の開始時点を正確に把握し、その結果を用いて、環境要因による表面抵抗率の時間依存性曲線(第1の時間依存性曲線)201及び放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202を補正し、短絡余寿命の診断精度を向上するものである。
【0062】
図10は、部分放電の開始時点「×」が
図9で予測した放電開始時点よりも遅れた場合を示す。当初の診断実施時点(A)と実際の部分放電発生時点「×」との時間経過から環境要因による表面抵抗率の時間依存性曲線(第1の時間依存性曲線)201が、上述の
図1の各ステップに沿って、当初の予測よりも長寿命化(破線201の傾きが小)した第1の時間依存性曲線201aの形に補正され、さらに、上述の
図1の各ステップに沿って、実際の部分放電発生時点「×」の表面抵抗率のデータを用いて新たな放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202aも補正される。この補正された第2の時間依存性曲線202aを用いて、実測された放電発生(実測)時点「×」から新たな短絡閾値到達時点(C)迄の時間が短絡余寿命として算出される。このように、短絡閾値到達迄の中間時点である部分放電開始時点を実測して新たに第1の時間依存性曲線201a及び第2の時間依存性曲線202aを得ることで、
図9のものに比べて、短絡閾値到達迄の短絡余寿命診断の精度を向上することが可能になる。
【0063】
図11は、部分放電の開始時点「×」が
図9で予測した放電開始時点よりも早くなった場合を示す。当初の診断実施時点(A)と実際の部分放電発生時点「×」との時間経過から環境要因による表面抵抗率の時間依存性曲線(第1の時間依存性曲線)201が、上述の
図1の各ステップに沿って、当初の予測よりも短命化(破線201の傾きが大)した第1の時間依存性曲線201aの形に補正され、さらに、上述の
図1の各ステップに沿って、実際の部分放電発生時点「×」の表面抵抗率のデータを用いて新たな放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202aも補正される。この補正された第2の時間依存性曲線202aを用いて、実測された放電発生(実測)時点「×」から新たな短絡閾値到達時点(C)迄の時間が短絡余寿命として算出される。このように、短絡閾値到達迄の中間時点である部分放電開始時点を実測して新たに第1の時間依存性曲線201a及び第2の時間依存性曲線202aを得ることで、
図9のものに比べて、短絡閾値到達迄の短絡余寿命診断の精度を向上することが可能になる。この結果、受配電機器の保守・更新などを確実に実施することで絶縁劣化に伴う事故を回避することが可能となり、工場などの重要な生産設備の運転継続の信頼性を向上させることが可能となる。
【0064】
本実施の形態1における短絡余寿命診断方法によれば、環境要因と放電要因との両者による劣化を考慮しているので、放電の発生の有無および絶縁体の劣化度に係らず診断が可能であり、湿度の影響を受けないイオン量および色彩データの化学的評価を行っているので高精度な診断が可能になり、受配電機器に含まれる絶縁体の短絡余寿命を精度よく診断できるようになり、その絶縁体の劣化による電気的トラブルを未然に防ぐことができる。
【0065】
なお、上記においては、絶縁体の表面抵抗率を求めるための化学的な評価項目として硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データを用いる方式について説明したが、絶縁体の種類と設置環境によっては塩化物イオン,ナトリウムイオン,カルシウムイオン,アンモニウムイオンのようなイオン付着量および色彩データ,光沢およびエステル,フェノール,エポキシ,炭化水素,ケイ酸塩のような絶縁体の成分を用いる方式とすることも可能である。また、上記のステップS9では硝酸イオン付着量の時間依存性式を求めたが、用いた評価項目に応じて適切な加速試験を行い、その評価項目の変化を解析することでその評価項目の測定量の時間依存性を求めることも可能である。
【0066】
実施の形態1における受配電機器の短絡余寿命診断方法は、
図1から
図13までに示す通り、次の方法が開示されている。
絶縁体を備えた受配電機器の短絡余寿命を診断する短絡余寿命診断方法であって、前記絶縁体の表面抵抗率を算出するステップS1~S4と、前記表面抵抗率が放電発生値よりも大きい場合に前記絶縁体の硝酸イオン付着量を含む環境要因データに基づいて前記絶縁体の表面抵抗率に係る環境要因による第1の時間依存性曲線を導出するステップS10と、前記絶縁体が設置されている環境の湿度計14による測定結果としての湿度データと接地線電流ECを測定する変成器(HFCT)と電源電圧位相検出器(VT)からなる放電検出手段CDによる部分放電電流測定結果により放電発生時間を算出するステップと、前記放電発生時間に基き放電要因による硝酸イオン付着量を算出し、放電要因による前記硝酸イオン付着量と前記環境要因データとに基づき前記絶縁体の表面抵抗率に係る第2の時間依存性曲線を導出するステップS13~S15と、前記第2の時間依存性曲線に基づいて、算出された絶縁体の表面抵抗率と予め定められた短絡閾値とから短絡余寿命を算出するステップS16とを含む。
【0067】
この方法によれば、部分放電による接地線電流ECを測定した放電電流測定結果と湿度検出器14で検出した前記絶縁体が設置されている環境の湿度データを用いることで放電要因による絶縁体の硝酸イオン付着量を算出し、硝酸イオン付着量を含む環境要因データと放電要因による硝酸イオン付着量とに基づき、短絡余寿命を算出するため、環境要因と放電要因との両者による絶縁劣化を考慮しているので、短絡余寿命を精度よく診断することが可能である。
【0068】
また、実施の形態1における受配電機器の短絡余寿命診断方法は、
図1から
図13までに示す通り、次の方法が開示されている。
診断対象である受配電機器の使用条件および前記受配電機器の絶縁体のパラメータ条件を入力するステップと、入力された前記使用条件および前記パラメータ条件に基づいて前記絶縁体の放電が発生する表面抵抗率を算出するステップS1と、前記絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータを測定するステップS2と、ステップS3により取得する前記測定の結果に応じて、前記絶縁体の表面抵抗率を算出するステップS4と、算出された前記絶縁体の表面抵抗率が前記絶縁体の放電が発生する表面抵抗率よりも大きいか否かを判断するステップS5と、前記判断するステップS5により、前記算出した前記絶縁体の表面抵抗率が前記絶縁体の放電が発生する表面抵抗率よりも大きいと判断された場合には、前記絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータに対する時間依存性式を導出するステップS8,S9と、ステップS9で導出された前記時間依存性式に基づいて、環境要因による前記絶縁体の表面抵抗率の第1の時間依存性曲線を導出するステップS10と、絶縁体が設置されている環境の湿度デー
タから放電発生時間を算出するステップS12と、算出された前記放電発生時間から放電要因による硝酸イオン付着量を算出するステップS13と、算出された放電による前記硝酸イオン付着量と環境による硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータに基づいて、前記絶縁体の表面抵抗率の第2の時間依存性曲線を導出するステップS15と、前記第2の時間依存性曲線に基づいて、ステップS14で算出された前記絶縁体の表面抵抗率と予め定められた短絡閾値とから短絡余寿命を算出するステップS16を備えたことを特徴とする。
また、前記ステップS5で算出した絶縁体の表面抵抗率が絶縁体の放電が発生する表面抵抗率よりも小さいと判断された場合には、以下のようにして環境要因によるイオン付着量と放電要因によるイオン付着量を区別する。つまり、絶縁体が設置されている環境の湿度データと部分放電電流を測定し放電要因による硝酸イオン付着量を算出する手段と、絶縁体に付着している硝酸イオン量から放電要因によるイオン付着量を引いて環境要因による硝酸イオン付着量を求める。以下、前記ステップと同様に、第1の時間依存性曲線および第2の時間依存性曲線を導出し、短絡余寿命を算出する。
短絡余寿命の算出は、具体的には、
図9において、診断実施時点(A)と、放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202と予め定められた短絡閾値との交点(B)との水平距離(時間)から短絡余寿命を判断する。
また、
図10、
図11においては、「放電発生(実測)」時点「×」と放電発生以降の絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線(第2の時間依存性曲線)202aと予め定められた短絡閾値との交点(C)との水平距離(時間)から短絡余寿命を判断する。
【0069】
この方法により、放電電流と湿度データを用いることで、環境要因による絶縁体の表面抵抗率の第1の時間依存性曲線と、放電要因による絶縁体の表面抵抗率の第2の時間依存性曲線を精度よく導出し、第1および第2の時間依存性曲線に基づいて、短絡余寿命を算出するため、環境要因と放電要因との両者による劣化を考慮しているので、短絡余寿命を精度よく診断することが可能となるものである。そして、推定に必要な表面抵抗値等の測定が、停電作業等の制約を受けずオンライン(リアルタイム)に可能となり、電気機器の寿命判定が容易かつ高精度に行え、ひいては、電気機器の効率的・経済的な更新を行うことができる。
また、前記ステップS5で算出した絶縁体の表面抵抗率が絶縁体の放電が発生する表面抵抗率よりも小さいと判断された場合には、絶縁体が設置されている環境の湿度データと部分放電電流の測定結果を用いることにより、環境要因による硝酸イオン付着量を的確に求めることができる。
【0070】
実施の形態2.
次に、上述した短絡余寿命診断方法を使用して受配電機器の短絡余寿命診断を実現するためのシステムについて説明する。
図14は、実施の形態2における受配電機器の短絡余寿命診断システムの概略構成図である。
実施の形態2における短絡余寿命診断システムは、受配電機器に含まれる絶縁体を対象として短絡余寿命を診断するものであり、磁気ディスク等の記録媒体に記録されたプログラムによってその動作が制御されるコンピュータによって構成される。
実施の形態2における短絡余寿命診断システムは、前述した実施の形態1における短絡余寿命診断方法の動作を実現するための手段を有する実行装置に関するものであって、それぞれの手段は、実施の形態1における短絡余寿命診断方法の各ステップに相当する。
【0071】
図14に示されるように、実施の形態1おける受配電機器の短絡余寿命診断システム100は、入力部111,記憶部112,制御部113,検出部114,出力部115を備える。
入力部111は、例えばキーボードおよびマウス,タブレットなどを含む入力デバイスからなり、絶縁体の短絡余寿命の診断に必要な各種データの入力を行う。
【0072】
記憶部112は、例えばROM,RAMなどを含むメモリデバイスからなり、この実施の形態2による構成を実現するためのプログラムの他、短絡余寿命の診断に必要な各種データを記憶する。
制御部113は、マイクロプロセッサ(CPU)からなり、記憶部112に記憶されたプログラムを読み込むことにより、そのプログラムに記述された手順に従って短絡余寿命の診断に関する処理を実行する。
検出部114は相対湿度と部分放電電流を検出して、前記の部分放電電流に関するデータ処理を行う。
出力部115は、例えば表示デバイスからなり、短絡余寿命の診断結果を出力する。
【0073】
このような構成において、記憶部112には、
図2で説明した表面抵抗率とマハラビノスの距離との所定の相関式が格納されているものとする。
また、記憶部112には、マハラビノスの距離を算出演算する式も格納されているものとする。
また、記憶部112には、
図3の実験装置の説明において説明した、環境要因による硝酸イオン付着量の時間依存性式である式(1)、
図5の相対湿度と表面抵抗率との所定の相関式、
図7で説明した短絡加速試験装置による試験にて得られた
図8の測定データに基づく放電による硝酸イオン付着量算出の式(2)の、演算処理が可能なデータが格納されているものとする。
【0074】
まず、診断対象である受配電機器の定格電圧、使用周波数および受配電機器に含まれている絶縁体の厚さ、沿面距離、誘電率の設定条件を入力部111により入力する。
また、受配電機器の絶縁体に関する各パラメータとして、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データの実測データを入力部111により入力する。そして、受配電機器の使用年数を入力部111により入力する。また、受配電機器に使用されている絶縁体の予め定められた短絡閾値を入力部111により入力する。
【0075】
これらのデータが記憶部112に保持された後、前述した実施の形態1におけるステップS1~S16による処理を行うため、制御部113によって以下のような手順で受配電機器の短絡余寿命診断が実行される。
(1)まず、入力部111によりデータ入力された、診断対象である受配電機器の定格電圧、使用周波数および受配電機器に含まれている絶縁体の厚さ、沿面距離、誘電率に基づいて、放電及び短絡が発生する表面抵抗率を算出する(ステップS1に相当)。
(2)次に、入力部111によりパラメータとして入力された、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データに基づいてマハラノビスの距離が演算されて、
図2で説明した表面抵抗率とマハラビノスの距離との所定の相関式に基づいて表面抵抗率を算出する(ステップS2~S4に相当)。
【0076】
(3)そして、次に、放電が発生する表面抵抗率と、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データに基づいて算出された表面抵抗率とを比較演算して、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データに基づいて算出された表面抵抗率の方が、放電が発生する表面抵抗率よりも大きいか否かを判断する(ステップS5に相当)。
(4)比較演算結果に従って、診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データに基づいて算出された表面抵抗率の方が、放電が発生する表面抵抗率よりも大きい場合には、硝酸イオン付着量に対する硫酸イオン付着量、色彩データの比を算出する(ステップS8に相当)。
【0077】
(5)そして、次に、入力部111によりパラメータとして入力された診断対象である受配電機器の使用年数と硝酸イオン付着量の実測データとに基づいて、硝酸イオン付着量の時間依存性式である式(1)を用いて、診断対象である受配電機器が設置されている環境の見かけの大気中のNOx濃度Aを算出する。
(6)そして、算出した環境の見かけの大気中NOx濃度Aを式(1)に代入した受配電機器の絶縁体の環境要因による硝酸イオン付着量の時間依存性式を導出する(ステップS9に相当)。
【0078】
(7)環境要因による硝酸イオン付着量の時間依存性式に基づいて、上記算出した硝酸イオン付着量に対する硫酸イオン付着量および色彩データの比を用いて、環境要因による硫酸イオン付着量の時間依存性式および環境要因による色彩データの時間依存性式を導出する(ステップS9に相当)。
(8)そして、次に、上述した硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データの時間依存性式に基づいて、
図4で説明したように環境要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線を導出する(ステップS10に相当)。
【0079】
(9)そして、次に、
図5で説明した相対湿度と表面抵抗率との所定の相関式に基づいて、算出した放電が発生する表面抵抗率から放電が発生する相対湿度を算出する(ステップS11に相当)。
(10)そして、次に、電気室の湿度モニター結
果に基づいて、放電発生時間を算出する(ステップS12に相当)。
【0080】
(11)そして、次に、
図7で説明した短絡加速試験装置による試験により取得された
図8の測定データに基づく式(2)に従って、年間の放電発生時間に基づく受配電機器の設置現場での放電による硝酸イオン付着量を算出する(ステップS13に相当)。
(12)そして、次に、前述した手順に従って、環境要因による硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データと、放電による硝酸イオン付着量とに基づいて、放電発生後の表面抵抗率を算出する(ステップS14に相当)。
【0081】
(13)そして、前述した手順に従って、環境要因および放電要因による受配電機器に含まれる絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線を導出する(ステップS15に相当)。
(14)そして、導出した絶縁体の表面抵抗率の時間依存性曲線と入力部111により入力データとして入力された予め定められた短絡閾値とから短絡余寿命を算出する(ステップS16に相当)。
(15)そして、算出結果を例えば表示デバイスである出力部114に出力する。
【0082】
診断対象である受配電機器の絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに色彩データに基づく算出された表面抵抗率の方が、放電が発生する表面抵抗率よりも大きいか否かを判断する手段で算出した表面抵抗率が、放電が発生する表面抵抗率よりも小さいと判断した場合は、絶縁体が設置されている環境の湿度データと部分放電電流を測定し放電要因による硝酸イオン付着量を算出する。
【0083】
絶縁体に付着している硝酸イオン付着量から放電要因による硝酸イオン付着量を引いて環境要因による硝酸イオン付着量を求める。以下、前記ステップと同様に、第1の時間依存性曲線および第2の時間依存性曲線を導出し、短絡余寿命を算出する。
【0084】
即ち、本実施の形態2における受配電機器の短絡余寿命を診断する短絡余寿命診断システムにあっては、診断対象である受配電機器の使用条件および受配電機器の絶縁体のパラメータ条件および測定された絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに絶縁体の色パラメータを入力する手段と、短絡余寿命を診断するための制御手段を備え、制御手段は、入力された使用条件およびパラメータ条件に基づいて絶縁体の放電が発生する表面抵抗率を算出するステップS1の実行手段と、測定された絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに絶縁体の色パラメータに応じて、絶縁体の表面抵抗率を算出するステップS2~4の実行手段と、ステップS2~4の実行手段により算出された絶縁体の表面抵抗率が絶縁体の放電が発生する表面抵抗率よりも大きいか否かを判断するステップS5の実行手段と、判断するステップS5の実行手段により、算出した絶縁体の表面抵抗率が絶縁体の放電が発生する表面抵抗率よりも大きいと判断した場合には、絶縁体の硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに前記絶縁体の色パラメータに対する時間依存性式を導出するステップS8,S9の実行手段と、ステップS9の実行手段で導出された前記時間依存性式に基づいて、環境要因による絶縁体の表面抵抗率の第1の時間依存性曲線を導出するS10の実行手段と、湿度データから放電発生時間を算出するステップS12の実行手段と、ステップS12の実行手段で算出された放電発生時間から放電による硝酸イオン付着量を算出するステップS13の実行手段と、ステップS13の実行手段で算出された放電による硝酸イオン付着量と環境による硝酸イオン付着量および硫酸イオン付着量ならびに絶縁体の色パラメータに基づいて、絶縁体の表面抵抗率の第2の時間依存性曲線を導出するステップS14,S15の実行手段と、第2の時間依存性曲線に基づいて、算出された絶縁体の表面抵抗率と予め定められた短絡閾値とから短絡余寿命を算出する手段とにより構成される。
【0085】
また、絶縁体の表面抵抗率が絶縁体の放電が発生する表面抵抗率よりも大きいか否かを判断するステップS5の実行手段で算出した絶縁体の表面抵抗率が、絶縁体の放電が発生する表面抵抗率よりも小さいと判断された場合には、以下のようにして環境要因によるイオン付着量と放電要因によるイオン付着量を区別する手段を含んでいる。つまり、絶縁体が設置されている環境の湿度データと部分放電電流を測定し放電要因による硝酸イオン付着量を算出するステップS6の実行手段と、絶縁体に付着している硝酸イオン量から放電要因による硝酸イオン付着量を引いて環境要因による硝酸イオン付着量を求めるステップS7の実行手段を含んでいる。
【0086】
本実施の形態2で示した受配電機器の短絡余寿命診断システムによれば、データを持ち帰らずに機器の設置現場で迅速に診断結果が得られるため、絶縁体のメンテナンスおよび更新計画をより容易に迅速に実施することができる。また、精度の高い診断が可能であるため、信頼性、安定性を確保しつつ受配電機器の長期間の使用が可能となる。
【0087】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この出願における技術思想としての開示事項は、その技術範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することができる。この出願における技術範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
1a,1b 絶縁体、2 硝酸、3 デシケータ、4 トランス、5 デジタルオシロスコープ、6 恒温・恒湿槽、7 高電圧電極、8 接地電極、10 診断装置、11 電気機器盤、12 電源電圧位相検出器(VT)、13 変成器(HFCT)、14 湿度検出器、15 信号処理部、16 同定・評価部、100 短絡余寿命診断システム、111 入力部、112 記憶部、113 制御部、114 検出部、115 出力部、201,201a 第1の時間依存性曲線、202,202a 第2の時間依存性曲線、CD 放電検出手段、EC 接地線電流、EM 電気機器。