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特許7241525高水分原料加熱濃縮品及びルウ製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】高水分原料加熱濃縮品及びルウ製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/10 20160101AFI20230310BHJP
【FI】
A23L23/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018232293
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2020092639
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】為則 勇人
(72)【発明者】
【氏名】井澤 義之
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-006027(JP,A)
【文献】特開2003-038136(JP,A)
【文献】特開2014-060977(JP,A)
【文献】特開2004-154028(JP,A)
【文献】特開平10-304852(JP,A)
【文献】特開2006-042806(JP,A)
【文献】特開2016-049047(JP,A)
【文献】特開2017-012092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸、ペプチド又はタンパク質を含む高水分原料、油脂及び砂糖を含む混合物を加熱釜中常圧にて混合物の品温が90~120℃になるよう加熱濃縮する工程を含むことを特徴とする、高水分原料加熱濃縮品の製造方法で得られた高水分原料加熱濃縮品と小麦粉ルウを混合する工程を含む、ルウ製品の製造方法であって、前記加熱濃縮工程の終了時点の混合物のブリックスが75~82であり、
前記高水分原料が、水分を20%以上含む、肉類、魚介類、野菜、果実又はきのこのエキス、ピューレ及びペーストからなる群より選択される少なくとも一種である、方法
【請求項2】
前記混合物中の砂糖の濃度が7~25質量%である、請求項1に記載の高水分原料加熱濃縮品の製造方法。
【請求項3】
前記混合物中の砂糖の濃度が8~20質量%である、請求項1に記載の高水分原料加熱濃縮品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高水分原料加熱濃縮品及びルウ製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂を連続層とする低水分食品であるルウ製品においては、配合する原料を低水分としておく必要がある。高水分の原料を多く配合すると水分活性が上昇し、腐敗の原因となる。また、連続層である油脂との摩擦により粘度が上昇し、工業的連続生産性が著しく損なわれる。
【0003】
高水分原料をルウ製品に配合するために、高水分原料の低水分化技術が過去から種々生み出されてきた。例えば、スプレードライ、ドラムドライ、エアドライ、フリーズドライなどの乾燥法が挙げられる。しかしながら、これらの方法では乾燥時に水分と同時に香気成分が蒸発し、高水分原料の風味が損なわれる。また、他の低水分化技術として真空減圧濃縮法が挙げられる。この方法では低温で水分を蒸発させることができるため、素材自体の風味劣化は抑制できるが、低温加熱であるがゆえにメイラード反応が進まず、コクや調理感が不足したものとなる。
【0004】
更に、最も一般的に用いられる方法として常圧加熱濃縮法が挙げられる。この方法は、コクや調理感を付与しながら水分を蒸発させて低水分化できるという特徴があるものの、工業的に大量生産を行う場合には加熱時間が長時間となり、加熱釜壁面に焦げが付着しやすいという問題がある。焦げの混入は商品価値を低下せしめることから、常圧加熱濃縮法による高水分原料の低水分化には、加熱温度の制約による処理工程の長時間化や調理感不足、または濃縮後の水分値を十分に下げることができないために、配合量を増やすことができないなどの制約があった。
【0005】
特許文献1の実施例1では、高水分原料の加熱濃縮物と小麦粉ルウの混合物に砂糖等の他の原料を添加して冷却混合処理を行っているが、本発明者が追試したところ、この方法では高水分原料の加熱濃縮物の製造に使用される加熱釜に焦げ付きが発生し、さらに十分なコクが得られないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-154028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高水分原料の常圧加熱濃縮法による低水分化において、コクをアップすると共に加熱釜の焦げ付きを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の高水分原料加熱濃縮品及びルウ製品の製造方法を提供するものである。
項1. アミノ酸、ペプチド又はタンパク質を含む高水分原料、油脂及び砂糖を含む混合物を加熱釜中常圧にて混合物の品温が90~120℃になるよう加熱濃縮する工程を含むことを特徴とする、高水分原料加熱濃縮品の製造方法。
項2. 前記混合物中の砂糖の濃度が7~25質量%である、項1に記載の高水分原料加熱濃縮品の製造方法。
項3. 前記混合物中の砂糖の濃度が8~20質量%である、項1に記載の高水分原料加熱濃縮品の製造方法。
項4. 項1~3のいずれかの方法で得られた高水分原料加熱濃縮品と小麦粉ルウを混合する工程を含む、ルウ製品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高水分原料の高温加熱だけでは得られないコクをルウ製品に付与することができた。また、高水分原料が濃縮される過程で油脂と固形部が分離することなく、一体となったペースト状の物性を保つことができ、釜表面の固形部付着が抑制されて加熱釜の焦げ付きを軽減できた。これによって、生産性が著しく向上した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、ルウ製品は、例えば、カレールウ、ホワイトルウ、シチュールウ(ビーフシチュールウ、クリームシチュールウなど)、ハッシュドビーフルウ、ハヤシライスルウ、チャウダールウなどを含む。ルウの形態は、当該分野で公知の形態であり得る。ルウ製品の形態の例としては、ブロック状、フレーク状、顆粒状およびペースト状が挙げられる。好ましいルウ製品は固体(ブロック状、フレーク状または顆粒状)である。
【0011】
アミノ酸、ペプチド又はタンパク質を含む高水分原料は、水分を20%以上含む肉類、魚介類、野菜、果実、きのこなどのエキス、ピューレもしくはペーストが挙げられる。高水分原料は、さらにブイヨン、ワイン、酵母エキス、たん白加水分解物、香辛料摩砕物などを含んでいてもよい。ブイヨンは、動物、野菜などを煮出して得られるだし汁を意味し、牛の骨、肉、筋;チキンの骨、肉;野菜などから得ることができる。
【0012】
肉類としては、牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉および鴨肉が挙げられる。
【0013】
魚介類としては、カツオ、イワシ、サケ、タラ、ブリ、サバ、タイ、アジ、イカ、タコ、エビ、カニ、ムール貝、アサリ、ハマグリ、シジミ、ホタテ貝、カキが挙げられる。
【0014】
野菜としては、 タマネギ、ニンジン、トマト、ナス、ジャガイモ、サツマイモ、れんこん、ピーマン(緑、赤、黄)、パプリカ、しょうが、にんにく、コーン、大根、かぶ、ブロッコリー、キャベツ、セロリ、ほうれん草、小松菜、白菜、かぼちゃ、アスパラガス、枝豆、栗、グリンピース、シソ、ねぎ、よもぎ、オクラ、ケール、パセリ、モロヘイヤ、ごぼう、エシャロットなどが挙げられる。
【0015】
果実としては、リンゴ、温州ミカン、オレンジ、ブドウ、メロン、マンゴー、スイカ、青梅、アプリコット、グレープフルーツ、チェリー、ザクロ、アセロラ、イチゴ、イチジク、イヨカン、柿、カシス、カボス、キウイ、バナナ、パパイヤ、桃、梨、ビワ、プラム、ユズ、ラズベリー、レモン、プルーン、ブルーベリー、ライム、パイナップル、巨峰、マスカット、ココナツ、なつめ、オリーブなどが挙げられる。
【0016】
きのことしては、マッシュルーム、しいたけ、しめじ、えのき、まいたけ、えりんぎなどが挙げられる。
【0017】
本発明で使用する小麦粉ルウは、小麦粉と油脂を含む。
【0018】
小麦粉ルウ及び高水分原料加熱濃縮品に含まれる油脂としては、任意の植物油脂および動物油脂ならびにこれらを原料として得られた硬化油やエステル交換油が挙げられる。植物油脂としては、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、コーン油、サフラワー油、パーム油、米油などが挙げられ、動物油脂としては、牛脂、ギー、バター、バターオイル、豚脂などが挙げられる。これらの油脂は、単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
小麦粉としては、強力粉、中力粉、薄力粉のいずれであってもよいが、薄力粉が好ましい。
【0020】
高水分原料加熱濃縮品は、アミノ酸、ペプチド又はタンパク質を含む高水分原料、油脂及び砂糖を含む混合物を加熱釜中常圧にて混合物の品温が90~120℃で加熱濃縮して水分を蒸発させることにより製造することができる。加熱時間は、好ましくは10~120分間、より好ましくは30~100分間である。なお、混合物の品温は、以下のように測定することができる。
【0021】
例えば、品温測定時には撹拌を停止し、ハンディタイプのデジタル温度計のセンサー棒先端部を混合物の中に挿入して測定する方法がある。その際、品温の偏りがなるべく生じないよう、温度計センサー棒で混合物を撹拌しながら測定する。また、デジタル温度計が撹拌羽根の回転軸と平行に設置された加熱釜を用いる場合は、センサー棒先端部が混合物の中に位置するよう設置されているため、撹拌しながら常時、混合物の内部の品温を測定することができる。
【0022】
アミノ酸、ペプチド又はタンパク質を含む高水分原料、油脂及び砂糖を含む加熱前の混合物において、砂糖の濃度は、好ましくは7~25質量%、より好ましくは8~20質量%である。砂糖の濃度が低すぎると、加熱釜の表面に焦げが発生することになり、砂糖の濃度が高すぎると、ブリックス(Bx)が高くなりすぎ、水の蒸発に時間がかかり、香気成分が蒸発することにより風味が損なわれ、かつ、焦げが発生しやすくなる。
【0023】
アミノ酸、ペプチド又はタンパク質を含む高水分原料、油脂及び砂糖を含む加熱前の混合物のブリックスは40~60程度であり、水分の加熱蒸発の終了時点でのブリックスは75~82程度である。加熱濃縮用の組成物に砂糖を加えるとブリックスが高くなり、水の蒸発により高い温度が必要になるため焦げが発生しやすくなると考えられたが、実際には水の蒸発は砂糖によりほとんど影響されず、加熱釜表面の焦げの発生は抑えられる。
【0024】
小麦粉ルウは、油脂と小麦粉を含む原料を加熱することによって得られるものをいう。小麦粉の一部または全部をコーンスターチなどの澱粉やデキストリンに置換してもよい。小麦粉ルウの油脂の割合は、好ましくは30~80質量%、より好ましくは40~55質量%であり、小麦粉の割合は、好ましくは20~70質量%、より好ましくは45~60質量%である。
【0025】
小麦粉ルウは、ルウ製品に、好ましくは40~70質量%含まれる。
本発明のルウ製品は、高水分原料加熱濃縮品、小麦粉ルウの他に食塩、乳製品、調味料、カレー粉、野菜・果実のパウダー、魚介粉末、香料、着色料、甘味料、乳化剤などを含んでいてもよい。これらの成分は、高水分原料加熱濃縮品と小麦粉ルウを混合する際に加えてもよく、高水分原料加熱濃縮品または小麦粉ルウに含まれていてもよい。
【0026】
乳製品としては、クリーム、チーズ、濃縮ホエイ、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、タンパク質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、発酵乳、乳飲料などが挙げられる。
【0027】
加熱釜としては、任意の調理器具が使用可能である。ここで、調理器具とは、ルウの原材料を収容できる容器であって、原料を収容した状態で攪拌、加熱などの調理作業を行うことができる任意の器具であり、例えばルウを製造する調理器具として従来公知の釜を加熱釜として使用可能である。
【0028】
加熱釜の加熱方式としては、スチーム加熱、電気ヒーター加熱、直火による加熱、マイクロ波加熱または電磁加熱などが挙げられる。
【0029】
調味料としては、L-グルタミン酸ナトリウム、コショウ、ニンニク、食塩、醤油、ウスターソース、核酸、酢、トマトケチャップ、砂糖が挙げられる。なお、砂糖は高水分原料加熱濃縮品にも添加されるが、高水分原料加熱濃縮品に添加できる砂糖の量は限られているので、それを超える量の砂糖は、小麦粉ルウに添加するか、或いは、高水分原料加熱濃縮品と小麦粉ルウの混合時に添加することができる。また、ニンニク、醤油、ウスターソース、酢、トマトケチャップなどの水分の多い原料は、高水分原料加熱濃縮品に加えてもよい。
【0030】
小麦粉ルウは、食塩、砂糖、香辛料等の調味料を含有し得る。ルウ製品がカレールウの場合には、カレー粉が高水分原料加熱濃縮品又は小麦粉ルウに含まれていてもよい。
【0031】
カレー粉に含まれる香辛料としては、エシャロット、ニンニク、コリアンダー、カルダモ ン、クミン、フェンネル、クローブ、シナモン、ナツメグ、メース、オールスパイス、フェヌグリーク、スターアニス、花椒、リカリス、アニス、ディル、キャラウェイ、ローレル、セボリー、オレガノ、ローズマリー、セージ、マジョラム、タイム、陳皮、バジルおよびマンダリン等が挙げられる。
【0032】
本発明のルウ製品は、高水分原料加熱濃縮品と小麦粉ルウを混合することで製造できるが、このときに食塩、香辛料等の調味料、乳製品、カレー粉、野菜・果実のパウダー、魚介粉末、香料、着色料、甘味料、乳化剤などをさらに加えてルウ製品としてもよい。
【実施例
【0033】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1~3及び比較例1~4
(1)常圧加熱濃縮の実験条件
IH釜:カジワラ製 卓上撹拌機KRミニ
釜表面設定温度:130℃
撹拌羽根回転数:30rpm
【0034】
(2)実験手順
(i)カレー用油脂を釜表面温度80℃で融解する。
(ii)高水分原料と砂糖を釜に入れ、5分間撹拌混合する。
(iii)撹拌混合後、釜表面温度を130℃に設定して撹拌加熱開始。加熱開始から15分毎にハンディタイプのデジタル温度計のセンサー棒先端部を混合物の中に挿入し、かき混ぜるようにして品温を測定する。加熱開始時の品温は49℃であった。また、一定時間ごとにATAGO自動温度補正手持屈折計MASTER-Tシリーズを用いてBx.を測定する。
(iv)高水分原料の34±2%の水分が蒸発した時点で加熱を終了(Bx.77到達)し、高水分原料加熱濃縮品を得た。加熱終了時の品温は104℃であった。
野菜ペースト、野菜エキス、畜肉エキス、ブイヨン、その他(ワイン、酵母エキス)は、本発明の高水分原料に該当し、その組成配合を表1に示す。
【0035】
また、表1中の糖類の種類と配合量を表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
(3)実験結果
上記(2)の実験手順で得られた高水分原料加熱濃縮品の製造時の釜焦げ付き評価を下記(3-1)に従い行った。また、高水分原料加熱濃縮品の風味評価を下記(3-3)に従い行った。
(3-1)釜焦げ付き評価
○:油分離、焦げ殆ど無し ×:油分離、釜表面の焦げ付き有り △:コントロール(比較例1)と比べて焦げ付き改善
(3-2)ハヤシライス用ルウ作成手順
(i)カレー用油脂33重量部、小麦粉25重量部を125℃まで加熱釜で焙煎して(釜表面温度130℃)、小麦粉ルウを調製する。
(ii)小麦粉ルウに上記「(2)実験手順」で調製した高水分原料加熱濃縮品10重量部と下記の原料を加えて混合しながら、55℃まで冷却する。
加える原料:食塩7重量部、グルタミン酸ナトリウム2重量部、ソースパウダー2重量部、トマトパウダー2重量部、たん白加水分解物0.5重量部、胡椒0.2重量部、カラメル2重量部、パプリカ色素0.2重量部、バターフレーバー0.01重量部、砂糖13重量部から高水分原料加熱濃縮物に添加した糖類(甘味度を砂糖に換算)を差し引いた重量部
(iii)トレーに充填し、5℃の冷蔵庫内で20分間冷却・固化し、ハヤシライス用ルウを得た。
(3-3)加熱濃縮品風味評価
風味評価は、上記(3-2)の手順で作り上げたハヤシライス用ルウを用いて行った。風味評価は、ルウ:湯=2:10の割合で混合・加熱溶解し、ハヤシライス用ソースを作り、官能評価パネル5名により評価した。
○:調理感、こくがある △:こくや香りが弱い ×:焦げ感、癖のある風味
【0039】
結果を表3に示す。
【0040】
【表3】