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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】送風ファン
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/28 20060101AFI20230310BHJP
   F04D 29/66 20060101ALI20230310BHJP
   F04D 29/60 20060101ALI20230310BHJP
   F04D 29/34 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
F04D29/28 L
F04D29/66 L
F04D29/66 M
F04D29/60 L
F04D29/34 J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018241264
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2020101153
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-08-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115854
【氏名又は名称】リンナイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111970
【弁理士】
【氏名又は名称】三林 大介
(72)【発明者】
【氏名】瀧 啓東志
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-127208(JP,A)
【文献】特開2007-285237(JP,A)
【文献】実開昭52-065908(JP,U)
【文献】実開昭55-149597(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/28
F04D 29/66
F04D 29/60
F04D 29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の先端側にネジ部が形成されたモーターと、回転中心の位置に貫通した取付穴に前記回転軸が挿通された羽根車と、前記羽根車の前記取付穴が形成された部分を両面側から挟んだ状態で設けられ、尚且つ前記回転軸が挿通されたゴムワッシャと、前記回転軸に前記羽根車および前記ゴムワッシャが挿通された状態で、前記回転軸の前記ネジ部に取り付けられることによって、前記羽根車を前記回転軸に固定するナットとを備え、前記モーターを用いて前記羽根車を回転させることによって送風する送風ファンにおいて、
前記回転軸には、先端から所定長さの範囲で外周側面が平面形状に加工されることによって、前記羽根車が前記回転軸に対して回り止めされるDカット面が形成されており、
前記回転軸が挿通される前記ゴムワッシャの挿通穴は、前記回転軸の前記外周側面に対して位置決めされる円弧部分と、前記回転軸の前記Dカット面に対して位置決めされる直線部分とによって形成された形状となっており、
前記回転軸が挿通される前記羽根車の前記取付穴は、前記円弧部分と、前記直線部分と、前記直線部分が前記回転軸の前記Dカット面から離間する方向に屈曲することによって前記Dカット面から離間した直線形状の離間部分とによって形成されており、
前記離間部分と平行で且つ前記円弧部分に接する接線から前記離間部分までの距離は、前記直線部分と平行で且つ前記円弧部分に接する接線から前記直線部分までの距離と同じ若しくは大きな寸法に設定されている
ことを特徴とする送風ファン。
【請求項2】
請求項1に記載の送風ファンにおいて、
前記ゴムワッシャまたは前記羽根車の少なくとも一方には、前記ゴムワッシャに対して前記羽根車が、前記回転軸回りの方向に回転することを防止する回止部が形成されている
ことを特徴とする送風ファン。
【請求項3】
請求項2に記載の送風ファンにおいて、
前記ゴムワッシャから突設された凸部と、前記羽根車に形成されて前記凸部が挿入される挿入穴とによって、前記回止部が形成されている
ことを特徴とする送風ファン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根車をモーターで回転させることによって送風する送風ファンに関する。
【背景技術】
【0002】
羽根車をモーターで回転させることによって送風する送風ファンは、広く用いられている。この送風ファンは、羽根車がモーターの回転軸に対して偏心して組み付けられていると振動や騒音を発生させる原因となるので、羽根車をモーターの回転軸に対して芯出しした状態で組み付けることが重要となる。そこで、多くの送風ファンでは、次のような方法で、羽根車がモーターの回転軸に取り付けられている。
【0003】
先ず、モーターの回転軸の先端部分にネジ加工を施すことによってネジ部を形成しておく。また、モーターの回転軸の先端から所定長さの範囲では、回転軸の外周側面を一方向から平面形状に加工することによって、回転軸の断面形状をいわゆるDカット形状としておく。更に、羽根車の回転中心の位置に形成する取付穴も、Dカット形状の取付穴としておき、この取付穴の大きさはモーターの回転軸のDカット形状の部分がちょうど挿通するような大きさとしておく。そして、この取付穴に、モーターの回転軸を挿通させた後、回転軸の先端部分に形成されたネジ部にナットを取り付けることによって、羽根車を回転軸に固定する。こうすれば、取付穴は羽根車の回転中心の位置に形成されており、取付穴の大きさは回転軸がちょうど挿通する大きさとなっているので、羽根車をモーターの回転軸に対して芯出しした状態で組み付けることができる。また、モーターの回転軸および羽根車の取付穴は何れもDカット形状に形成されているので、モーターの回転軸に対して羽根車が空回りしてしまうことも無い。
【0004】
また、このような送風ファンでは、モーターの電磁振動と呼ばれる高周波数の振動がモーターの回転軸から羽根車に伝わって、大きな騒音が発生することがある。そこで、こうしたことを回避するために、羽根車に形成された取付穴の両面を、粘性を有する材料で形成したワッシャで挟み、更に、その上を両側から金属製のワッシャで挟み込んだ状態で、回転軸に取り付けるようにした送風ファンも提案されている。この提案の送風ファンでは、羽根車と金属製のワッシャとの間に挟み込まれたワッシャの粘性によって、モーターの電磁振動が吸収されるので、騒音の発生を抑制することが可能となる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-023750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した提案されている送風ファンでは、送風ファンの騒音を十分に低減させることが難しいという問題があった。この理由は、羽根車を固定しようとしてナットを締め付けたときに、ナットの摩擦力によって羽根車が回転軸に対して回転する結果、Dカット形状に形成された羽根車の取付穴が、Dカット形状に形成された回転軸に強い力で押し付けられて金属接触し、この部分を介してモーターの電磁振動が羽根車に伝わってしまうためである。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するために成されたものであり、モーターの電磁振動に起因する騒音を十分に低減させることが可能な送風ファンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために本発明の送風ファンは次の構成を採用した。すなわち、
回転軸の先端側にネジ部が形成されたモーターと、回転中心の位置に貫通した取付穴に前記回転軸が挿通された羽根車と、前記羽根車の前記取付穴が形成された部分を両面側から挟んだ状態で設けられ、尚且つ前記回転軸が挿通されたゴムワッシャと、前記回転軸に前記羽根車および前記ゴムワッシャが挿通された状態で、前記回転軸の前記ネジ部に取り付けられることによって、前記羽根車を前記回転軸に固定するナットとを備え、前記モーターを用いて前記羽根車を回転させることによって送風する送風ファンにおいて、
前記回転軸には、先端から所定長さの範囲で外周側面が平面形状に加工されることによって、前記羽根車が前記回転軸に対して回り止めされるDカット面が形成されており、
前記回転軸が挿通される前記ゴムワッシャの挿通穴は、前記回転軸の前記外周側面に対して位置決めされる円弧部分と、前記回転軸の前記Dカット面に対して位置決めされる直線部分とによって形成された形状となっており、
前記回転軸が挿通される前記羽根車の前記取付穴は、前記円弧部分と、前記直線部分と、前記直線部分が前記回転軸の前記Dカット面から離間する方向に屈曲することによって前記Dカット面から離間した直線形状の離間部分とによって形成されており、
前記離間部分と平行で且つ前記円弧部分に接する接線から前記離間部分までの距離は、前記直線部分と平行で且つ前記円弧部分に接する接線から前記直線部分までの距離と同じ若しくは大きな寸法に設定されている
ことを特徴とする。
【0009】
かかる本発明の送風ファンにおいては、羽根車の取付穴が形成された部分が、両面側からゴムワッシャで挟まれるような状態で回転軸が挿通しており、この回転軸の先端側に形成されたネジ部にナットを取り付けることによって、羽根車をモーターの回転軸に固定する。モーターの回転軸には、先端から所定長さの範囲で外周側面が平面形状に加工されることによって、羽根車が回転軸に対して回り止めされるDカット面が形成されている。尚、Dカット面は、回転軸の周方向の複数箇所に設けることができる。また、回転軸が挿通されるゴムワッシャの挿通穴の形状も、回転軸の外周側面に対して位置決めされる円弧部分と、回転軸のDカット面に対して位置決めされる直線部分とによって形成された形状となっている。これに対して、羽根車の取付穴の形状は、回転軸の外周側面に対して位置決めされる円弧部分と、回転軸のDカット面に対して位置決めされる直線部分とに加えて、直線部分がDカット面から離間する方向に屈曲した直線形状の離間部分とによって形成された形状となっている。更に、直線形状の離間部分と平行で且つ円弧部分に接する接線から、その離間部分までの距離が、取付穴の直線部分と平行で且つ円弧部分に接する接線から、その直線部分までの距離と同じ寸法、若しくは大きな寸法となっている。
【0010】
このため、モーターの回転軸に羽根車を取り付けようとした時に、ナットを締めつけた時の摩擦力で羽根車が回転軸に対して回転しようとしても、ナットと羽根車との間に介在するゴムワッシャが直線部分で回転軸のDカット面に当接して回転が抑制されるため、ナットの摩擦力で羽根車が回転することを抑制することができる。加えて、羽根車の取付穴は、取付穴の離間部分がDカット面から離間して形成されているので、羽根車の取付穴が、回転軸のDカット面に強い力で押し付けられて金属接触することがない。その結果、モーターの電磁振動が羽根車に伝わることを防止することができる。更に、ゴムワッシャの直線部分が回転軸のDカット面に押し付けられるため、Dカット面に押し付けられたゴムワッシャがクッションとなって、モーターの電磁振動が羽根車に伝わることを防止することができる。このため、送風ファンの騒音を十分に低減させることが可能となる。加えて、直線形状の離間部分と平行で且つ円弧部分に接する接線から、その離間部分までの距離が、取付穴の直線部分と平行で且つ円弧部分に接する接線から、その直線部分までの距離と同じ寸法、若しくは大きな寸法とすることで、送風ファンの騒音を、より一層低減させることができる。この理由は、定性的には次のように説明することができる。仮に、取付穴の離間部分から、その離間部分と平行で且つ円弧部分に接する接線までの距離を小さくすると、それに伴って、取付穴の直線部分の長さが長くなる。そして、このような形状(取付穴の直線部分の長さが延長された形状)の取付穴が形成された羽根車を、回転軸に取り付けようとしてナットを締めつけると、羽根車が回転軸に対して回転しようとしたときに、取付穴の延長された直線部分が、回転軸のDカット面に強い力で押し付けられて金属接触が発生し得る。これに対して、取付穴の離間部分から、その離間部分と平行で且つ円弧部分に接する接線までの距離を、取付穴の直線部分から、その直線部分と平行で且つ円弧部分に接する接線までの距離と同じ寸法、若しくは大きな寸法となるようにしておけば、羽根車が回転軸に対して回転しようとしたときに、取付穴の直線部分が回転軸のDカット面に押し付けられて金属接触が発生することがない。その結果、モーターの電磁振動に起因して騒音が発生する事態を回避することが可能となる。
【0013】
また、上述した本発明の送風ファンにおいては、ゴムワッシャに対して羽根車が回転軸回りの方向に回転することを防止する回止部を、ゴムワッシャまたは羽根車の少なくとも一方に設けることとしても良い。
【0014】
ゴムワッシャの挿通穴は、円弧部分に加えて直線部分を有する形状となっているので、ゴムワッシャは回転軸に対して回転方向に位置決めされている。従って、ゴムワッシャに対して羽根車が回転軸回りの方向に回転しないようにする回止部を設けておけば、羽根車についても、回転軸に対して回転方向に位置決めすることができる。このため、羽根車およびゴムワッシャに回転軸を挿通したときに、取付穴の離間部分と、回転軸の回止面との位置関係がばらつくことを防止することができる。その結果、ナットを締めつけたときの摩擦力で羽根車が回転しても、取付穴の離間部分が回転軸の回止面に強い力で押し付けられてしまう事態を防止することが可能となる。
【0015】
また、上述した本発明の送風ファンにおいては、ゴムワッシャから突設された凸部と、羽根車に形成されて凸部が挿入される挿入穴とによって、回止部を形成することとしても良い。
【0016】
こうすれば、簡単に回止部を形成することができ、その結果、ナットを締めつけたときに、取付穴の離間部分が回転軸の回止面に強い力で押し付けられてしまう事態を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施例の送風ファン1の大まかな構造を示した分解組立図である。
図2】羽根車10が取り付けられるモーター30の回転軸31や、回転軸31に取り付けられる羽根車10の取付穴14や、ゴムワッシャ40や、ワッシャ41の詳細な形状を示した拡大図である。
図3】回転軸31の断面形状と、ゴムワッシャ40の挿通穴40aの形状と、羽根車10の回転円板11に形成された取付穴14の形状とについての説明図である。
図4】回転円板91の取付穴94がDカット形状に形成されている場合には、回転円板91と回転軸31との間に金属接触が発生する様子を示した説明図である。
図5】本実施例の送風ファン1では、羽根車10の回転円板11とモーター30の回転軸31との間で金属接触の発生を回避可能な理由を示した説明図である。
図6】ゴムワッシャ40の凸部40bを回転円板11の挿入穴15に嵌め込んでいる理由を示した説明図である。
図7】取付穴14の寸法H2を、取付穴14の寸法Hよりも小さな値に設定した場合に生じ得る弊害についての説明図である。
図8】取付穴14の寸法H3が、取付穴14の寸法Hよりも僅かに小さな値に設定された変形例についての説明図である。
図9】取付穴14の離間部分14eが曲線形状に形成された変形例についての説明図である。
図10】回転軸31に複数の回止面31dが形成された変形例についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本実施例の送風ファン1の大まかな構造を示した分解組立図である。図示されるように本実施例の送風ファン1は、回転することによって風を発生させる羽根車10や、羽根車10が収容されるファンケース20や、羽根車10を回転させるモーター30や、モーター30をファンケース20に固定するための固定板35などを備えている。
【0019】
羽根車10は、いわゆるシロッコファンであり、略円板形状の回転円板11と、回転円板11の外周部に一端側が取り付けられた複数枚の羽根板12と、複数枚の羽根板12の他端側を連結する円環形状の連結板13とを備えている。また、回転円板11には、羽根車10の回転中心の位置に取付穴14が形成されている。尚、本実施例の羽根車10はシロッコファンであるものとして説明するが、プロペラファンなど、他の形式の羽根車であっても構わない。
【0020】
ファンケース20は、板金部材を組み合わせることによって形成されており、羽根車10の外径よりも大きく開口する円形の開口部21と、ベルマウス形状に形成されてファンケース20内に空気が流入する流入口22と、ファンケース20内から空気が流出する流出口23とを備えている。
【0021】
モーター30は、略円柱形状の外観形状を有する3相交流モーターであり、円柱形状の一端面の中心位置からは回転軸31が突出しており、回転軸31の先端側には雄ネジが形成されている。また、回転軸31が突出した側の端面の外周部分の3箇所からは、モーター30を固定板35に取り付けるための取付部32が、半径方向外側に向かって突設されている。
【0022】
固定板35は円環形状の板状部材であり、外径の寸法は、ファンケース20に形成された開口部21の直径よりも大きな寸法に設定されている。また、中央に開口した穴に対して半径方向外側の3箇所には、モーター30の取付部32をネジ止めするためのネジ穴35aが形成されている。更に、固定板35の外周の半径方向内側の3箇所には、固定板35をファンケース20にネジ止めするためのネジ穴35bが形成されている。
【0023】
羽根車10をモーター30の回転軸31に組み付ける際には、先ず初めにモーター30の取付部32を、図示しない取付ネジを用いて、固定板35のネジ穴35aにネジ止めしておく。そして、モーター30の回転軸31に、金属製のワッシャ41およびゴムワッシャ40をこの順序で取り付けた後、回転円板11の取付穴14に回転軸31を挿通させる。その後、更に、ゴムワッシャ40およびワッシャ41をこの順序で回転軸31に取り付けて、最後に、回転軸31の先端側に形成された雄ネジにナット42を取り付ける。こうして、羽根車10と固定板35とモーター30とを一体に組み付けた後、ファンケース20に形成された開口部21から、羽根車10をファンケース20内に挿入して、固定板35のネジ穴35bと図示しない取付ネジとを用いて、固定板35をファンケース20に固定する。
【0024】
図2は、羽根車10が取り付けられるモーター30の回転軸31や、回転軸31に取り付けられる羽根車10の取付穴14や、ゴムワッシャ40や、ワッシャ41の詳細な形状を示した拡大図である。図示されるように、モーター30の回転軸31は、根元側(モーター30の本体側)の太径部31aと、太径部31aよりも細径の細径部31bとを備えており、太径部31aの外径が細径部31bの外径に切り換わる部分には、円環形状の段付部31cが形成されている。また、細径部31bの先端側から段付部31cの近くまでの範囲では、回転軸31(ここでは細径部31b)の外周側面にネジ加工が施されることによってネジ部31nが形成されている。更に、細径部31bの先端側から段付部31cの近くまでの範囲では、回転軸31(ここでは細径部31b)の外周側面が一方向から平面形状に加工されることによって、回止面31dが形成されている。尚、図2に示されるように、本実施例の回止面31dは、回転軸31の外周側面の一箇所が一方向から平面形状に加工されており、このような回止面31dは、いわゆるDカット面と呼ばれている。しかし、回止面31dを設ける箇所は一箇所である必要は無く、回転軸31の外周側面の複数箇所に回止面31dを設けることととしても良い。
【0025】
ワッシャ41は、金属製の板材を打ち抜いて形成された円環形状の部材であり、中央に貫通した貫通穴41aの内径は、回転軸31の太径部31aの外径よりは小さく、細径部31bの外径よりは大きな寸法となっている。ゴムワッシャ40は、シリコンゴムなどのゴム材料で形成された略円環形状の部材であり、中央に貫通した挿通穴40aの形状は、回止面31dが形成されている部分での回転軸31の断面形状と同じ形状(本実施例では、Dカット形状)となっており、ゴムワッシャ40の挿通穴40aに、回転軸31の細径部31bを挿通させることができる。尚、ゴムワッシャ40の挿通穴40aの詳細な形状については後ほど詳しく説明する。更に、ゴムワッシャ40の一方の面には,円柱形状の凸部40bが形成されている。このような凸部40bが形成されている理由については、後ほど詳しく説明する。
【0026】
また、図2では、回転円板11の全体ではなく、羽根車10の回転中心およびその周辺に相当する部分が取り出された状態で表示されている。取付穴14は、羽根車10の回転中心の位置に形成されている。詳細には後述するが、この取付穴14の形状は、ゴムワッシャ40の挿通穴40aの形状の一部を切り欠いた形状となっている。このため、回転円板11の取付穴14にも、回転軸31の細径部31bを挿通させることができる。更に、取付穴14の周囲には、ゴムワッシャ40の凸部40bの外径と同じ内径を有する4つの挿入穴15が等間隔に形成されている。このような挿入穴15が形成されている理由については、後ほど詳しく説明する。尚、本実施例では、ゴムワッシャ40の凸部40bと、回転円板11の挿入穴15とによって、本発明における「回止部」が形成されている。
【0027】
図3は、回転軸31(ここでは細径部31b)の断面形状と、ゴムワッシャ40の挿通穴40aの形状と、羽根車10の回転円板11に形成された取付穴14の形状とについての説明図である。図3(a)に示されるように、回転軸31の断面形状は、ネジ部31nに対応する円弧形状の部分(以下、円弧部分)と、回止面31dに対応する直線形状の部分(以下、直線部分)とによって形成されている。円弧部分の半径は、寸法Rのマイナス公差(中央値はRよりも小さく、公差の範囲で大きくなった場合でもRを超えることはない状態)に設定されている。図3(a)中で「R(0-)」と表示されているのは、寸法がRのマイナス公差となっていることを表している。また、回止面31dに対応する直線部分から、その直線部分に平行で、且つ円弧部分に接する接線までの距離は、寸法Hのマイナス公差に設定されている。図3(a)中で「H(0-)」と表示されているのは、寸法がHのマイナス公差となっていることを表している。
【0028】
図3(b)には、ゴムワッシャ40に形成された挿通穴40aの詳細な形状が示されている。図示されるように、挿通穴40aにも、円弧形状の部分(以下、円弧部分40n)と、直線形状の部分(以下、直線部分40d)とによって形成されている。また、円弧部分40nの半径は、寸法Rのプラス公差(中央値はRよりも大きく、公差の範囲で小さくなった場合でもRを下まわることはない状態)に設定されている。図3(b)中で「R(0+)」と表示されているのは、寸法がRのプラス公差となっていることを表している。また、直線部分40dから、その直線部分に平行で、且つ円弧部分40nに接する接線までの距離は、寸法Hのプラス公差に設定されている。図3(b)中で「H(0+)」と表示されているのは、寸法がHのプラス公差となっていることを表している。このように、回転軸31(ここでは細径部31b)の断面形状およびゴムワッシャ40の挿通穴40aは、何れも、回転軸31の断面形状と同じ形状(本実施例ではDカット形状)に形成されており、更に、回転軸31の断面形状はマイナス公差で形成され、ゴムワッシャ40の挿通穴40aはプラス公差で形成されている。このため、図2に示すように、ワッシャ41の上からゴムワッシャ40を回転軸31に嵌めると、ゴムワッシャ40は回転軸31のネジ部31nおよび回止面31dで位置決めされた状態で、回転軸31に沿って滑り落ちた後、ワッシャ41に接触して停止する。
【0029】
また、図3(c)には、羽根車10の回転円板11に形成された取付穴14の詳細な形状が示されている。図示されるように、取付穴14にも、円弧形状の部分(以下、円弧部分14n)と、直線形状の部分(以下、直線部分14d)とが形成されている。円弧部分14nの半径は、ゴムワッシャ40の挿通穴40aと同様に、寸法Rのプラス公差となっており、直線部分14dから、その直線部分に平行で、且つ円弧部分14nに接する接線までの距離も、ゴムワッシャ40の挿通穴40aと同様に、寸法Hのプラス公差に設定されている。
【0030】
更に、取付穴14では、直線部分14dの一端側が切り欠かれた状態となっている。図3(c)では、切り欠かれる前の直線部分14dが破線で示されている。直線部分14dの一端側が切り欠かれる前の取付穴14の形状は、図3(b)を用いて前述したゴムワッシャ40の挿通穴40aと同じであるから、回転円板11の取付穴14に回転軸31を挿通させると、ゴムワッシャ40と同様に、回転軸31のネジ部31nおよび回止面31dで回転円板11が位置決めされる。ところが、本実施例の取付穴14は、直線部分14dが途中から、回転軸31の回止面31dから離間する方向に折れ曲がった状態となるように、直線部分14dの一端側が切り欠かれている。この結果、取付穴14には、直線部分14dに加えて、直線形状の離間部分14eが形成されている。また、直線形状の離間部分14eから、その離間部分14eに平行で、且つ円弧部分14nに接する接線までの距離は、寸法Hのプラス公差もしくは、寸法Hよりも大きな寸法H1に設定されている。本実施例の送風ファン1は、羽根車10の取付穴14に、このような離間部分14eが形成されているので、ナット42を用いて羽根車10を回転軸31に取り付けたときに、羽根車10と回転軸31とが金属接触することを回避することができ、モーターの電磁駆動に起因する騒音を低減させることが可能となる。以下では、この理由について説明する。また、ゴムワッシャ40に突設された凸部40bや、回転円板11に形成された挿入穴15の役割についても、送風ファン1の騒音を低減可能な理由を説明した後で説明する。
【0031】
理解の便宜を図るため、先ず初めに、羽根車10の取付穴14に離間部分14eが設けられていない場合について、簡単に説明しておく。図4は、羽根車10の取付穴94がDカット形状の場合には、羽根車10の回転円板91と回転軸31との間に金属接触が発生する様子を示した説明図である。図4(a)は、Dカット形状の取付穴94に、断面がDカット形状の回転軸31(ここでは細径部31b)が挿入された状態を表している。図3を用いて前述したように、取付穴94のDカット形状と、回転軸31の断面のDカット形状は同じ寸法であり、且つ、取付穴94のDカット形状はプラス公差に設定され、回転軸31のDカット形状はマイナス公差に設定されている。従って、取付穴94に回転軸31を挿入した段階では、取付穴94と回転軸31とが部分的に軽く接触することはあっても、強い力で金属接触することはない。
【0032】
また、図2を用いて前述したように、回転円板91の両面側にはゴムワッシャ40が取り付けられ、更にその外側にはワッシャ41が取り付けられた状態で、回転軸31の先端側のネジ部31nにナット42が取り付けられる。ナット42を回転させてワッシャ41に近付けて行くと、やがてはナット42がワッシャ41に接触し、その後は、ナット42がワッシャ41を強い力で押し付けながら回転することになる。すると、ワッシャ41は、ナット42から受ける摩擦力によってナット42と同じ方向に回転しつつ、下方に存在する2枚のゴムワッシャ40(および回転円板11あるいは回転円板91)を強い力で押し付ける。このため、それぞれのゴムワッシャ40は、上面側(ナット42が存在する側)の面がナット42の回転方向に回転して捻れるような変形をしようとし、それに伴って、回転円板91もナット42の回転方向に回転しようとする。その結果、図4(b)に示すように、Dカット形状の取付穴94の直線部分が、回転軸31の回止面31d(いわゆるDカット面)に強い力で金属接触することになる。図4(b)中に太い破線で示した矢印は、ナット42の回転方向を表しており、図中に示した黒塗りの矢印は、強い力で金属接触している箇所を示している。このような状態になると、モーター30の電磁振動が回転軸31および回転円板91を介して羽根車10に伝わってしまうので騒音が発生する。
【0033】
図5は、羽根車10の取付穴14に離間部分14eを設けることによって、モーター30の電磁振動が羽根車10に伝わって騒音を発生させる事態を回避可能な理由についての説明図である。図5(a)は、羽根車10の回転円板11の取付穴14に、回転軸31(ここでは細径部31b)の先端側(すなわち、回止面31dが形成された部分)が挿入された状態を表している。回転円板11の取付穴14には、図3を用いて前述したように、直線部分14dが途中で折れ曲がることによって離間部分14eが形成されている。その一方で、ゴムワッシャ40の挿通穴40aは、回転軸31の断面形状と同じ形状となっており、離間部分のような部分は形成されていない。このため、図5(a)に示したように、取付穴14に形成された離間部分14eの付近では、回転円板11については回転軸31の回止面31dから離間しているが、ゴムワッシャ40については、回転軸31の回止面31dと軽く接触した状態(若しくは、僅かな隙間で向き合った状態)となっている。
【0034】
このような状態で、回転軸31の先端側に取り付けたナット42(図2参照)を回転させていくと、図5(b)に示した状態となる。すなわち、ナット42が回転すると、ワッシャ41はゴムワッシャ40の上面側を強い力で押し付けながら回転し、それに伴ってゴムワッシャ40が捻れるように変形する結果、回転円板11もナット42の回転方向に回転する。しかし、回転円板11の取付穴14には離間部分14eが形成されているので、ゴムワッシャ40の捻れによって回転円板11が回転する程度の回転量では、取付穴14の離間部分14eが回転軸31の回止面31dに接触することはない。また、ゴムワッシャ40が捻れる結果として、図中に白抜きの矢印で示したように、ゴムワッシャ40は直線部分40d(図3(b)参照)が回転軸31の回止面31d(図3(a)参照)に押し付けられることになる。しかし、ゴムワッシャ40の部分であれば、回転軸31に強く押し付けられていても、モーター30の電磁振動が羽根車10に伝わってしまうことがなく、騒音の発生を回避することが可能となる。
【0035】
また、図3(b)および図3(c)を用いて前述したように、ゴムワッシャ40の片面には円柱形状の凸部40bが形成されており、回転円板11には挿入穴15が形成されている。これは、回転軸31まわりの回転円板11の取付角度を位置決めするためである。すなわち、本実施例の羽根車10は、回転円板11の取付穴14に離間部分14eが形成されている影響で、取付穴14に回転軸31(ここでは細径部31b)を挿通させたときに、回転軸31まわりには回転円板11の取付角度に若干の自由度が生じ得る。このため、ナット42で羽根車10を回転軸31に取り付けようとした時に、回転軸31まわりの回転円板11の角度は、図5(a)に例示したように、取付穴14の直線部分14d(図3(c)参照)が回転軸31の回止面31dに軽く接触した状態(若しくは、僅かな隙間で向き合った状態)になっているとは限らない。
【0036】
例えば、図6(a)に例示したように、回転円板11に形成された取付穴14の直線部分14dおよび離間部分14eが何れも、回転軸31の回止面31dから離間した状態となっている可能性がある。更に、場合によっては、図6(b)に示したように、取付穴14の直線部分14dが回止面31dから離間する一方で、取付穴14の離間部分14eが回止面31dに軽く接触した状態(若しくは、僅かな隙間で向き合った状態)となり得る。そして、図6(b)に示すような状態から、ナット42を用いて羽根車10の回転円板11やワッシャ41およびゴムワッシャ40を締めつけていくと、ゴムワッシャ40の捻れによって回転円板11が僅かに回転する結果、取付穴14の離間部分14eと回転軸31の回止面31dとが強い力で金属接触する可能性がある。
【0037】
そこで、このような事態を防止するために、本実施例のゴムワッシャ40には片面側に凸部40bが突設されていると共に、羽根車10の回転円板11には、取付穴14の周囲に挿入穴15が形成されている。そして、羽根車10を回転軸31に取り付ける際には、ゴムワッシャ40の凸部40bを上向きにした状態で、回転円板11の下方から凸部40bを挿入穴15に嵌め込むことによって回転円板11にゴムワッシャ40を取り付ける。更に、凸部40bが下向きになるようにゴムワッシャ40を裏返した後、回転円板11の上方から凸部40bを挿入穴15に嵌め込むことによって、もう一方のゴムワッシャ40も回転円板11に取り付ける。回転円板11の挿入穴15の位置は、このようにして2枚のゴムワッシャ40を取り付けたときに、それぞれのゴムワッシャ40の挿通穴40aに形成された直線部分40d(図3(b)参照)が、回転円板11の取付穴14に形成された直線部分14d(図3(c)参照)と重なるような位置に設定されている。尚、このような挿入穴15の用途からすると回転円板11に形成する挿入穴15の個数は2つで良いが、2つの挿入穴15を結ぶ方向と、その方向に対して直交する方向とで重量差が生じることを回避する目的で、本実施例の回転円板11には4つの挿入穴15が形成されている。
【0038】
そして、前述したようにゴムワッシャ40の挿通穴40aは、回転軸31の断面形状と同じ形状に形成されているので、ゴムワッシャ40の挿通穴40aに回転軸31を挿通させると、ゴムワッシャ40は回転軸31に対して回転不能に位置決めされる。更に、回転円板11についても、挿入穴15にゴムワッシャ40の凸部40bが嵌め込まれているので、回転軸31に対して回転不能に位置決めされる。このため、ナット42を用いて羽根車10を回転軸31に取り付けようとした時に、図6(c)を用いて前述したように取付穴14の離間部分14eが回転軸31の回止面31dに強い力で金属接触する事態を防止することができ、その結果、モーター30で羽根車10を回転させた時に大きな騒音が発生する事態を確実に防止することが可能となる。
【0039】
また、図3(c)を用いて前述したように、本実施例では、寸法H1(取付穴14の離間部分14eから、その離間部分14eに平行で且つ円弧部分14nに接する接線までの距離)は、寸法H(取付穴14の直線部分14dから、その直線部分に平行で且つ円弧部分14nに接する接線までの距離)と同じか、Hよりも大きな値に設定されている。この理由は次のようなものである。
【0040】
図7は、取付穴14の離間部分14eから、その離間部分14eに平行で且つ円弧部分14nに接する接線までの距離を、寸法H(取付穴14の直線部分14dから、その直線部分に平行で且つ円弧部分14nに接する接線までの距離)よりも小さな寸法H2に設定した場合を示す説明図である(図7(a)参照)。図7(a)と前述の図3(c)とを比較すれば明らかなように、図7(a)の取付穴14では、寸法H2が寸法Hよりも小さな値に設定されたことによる影響で、図7(a)の取付穴14に比べて、直線部分14dが延長されている。
【0041】
このような図7(a)の取付穴14が形成された回転円板11に回転軸31を挿通して、回転軸31に取り付けたナット42を回転させて締めつけて行くと、図5を用いて前述した場合と同様に、ゴムワッシャ40の捻れによって回転円板11が回転しようとする。図7(b)には、回転円板11が回転しようとする方向が、太い破線の矢印によって示されている。ここで、図7(a)の取付穴14では直線部分14dが延長されているので、回転円板11が回転すると、延長された直線部分14dの端部が、回転軸31の回止面31dに強い力で押し付けられて金属接触が発生してしまう。そこで、こうした事態を回避するために、本実施例の羽根車10の回転円板11では、取付穴14の寸法H1(図3(c)参照)が、寸法H(図3(c)参照)と同じか、寸法Hよりも大きな値に設定されているのである。
【0042】
上述した本実施例の送風ファン1の回転円板11には、幾つかの変形例が存在する。以下では、これらの変形例の回転円板11について、本実施例との相違点を中心に簡単に説明する。
【0047】
更には、上述した本実施例および変形例では、回止面31dが回転軸31の外周側面の一箇所に形成されているものとして説明した。しかし、回止面31dを設ける箇所は一箇所である必要は無く、回転軸31の外周側面の複数箇所に回止面31dを設けることもできる。例えば、図10(a)に例示したように、回転軸31の2箇所に回止面31dを形成した場合には、ゴムワッシャ40に形成する挿通穴40aは、図10(b)に示すように円弧部分40nの2箇所に直線部分40dを有する形状とする。更に、回転円板11に形成する取付穴14の形状は、円弧部分14nの2箇所に直線部分14dを有すると共に、それぞれの直線部分14dに離間部分14eを設けた形状とすることができる。このような変形例の場合でも、直線部分14dに離間部分14eが設けられているので、ナット42を用いて羽根車10を回転軸31に取り付けた時に、回転円板11が回転軸31の回止面31dに強い力で押し付けられて金属接触する事態を防止できる。その結果、モーター30の電磁振動が回転軸31を介して羽根車10に伝わる事態を回避することができ、送風ファン1の騒音を抑制することが可能となる。
【0048】
以上、本実施例および各種の変形例について説明したが、本発明は上記の実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…送風ファン、 10…羽根車、 11…回転円板、
12…羽根板、 13…連結板、 14…取付穴、
14d…直線部分、 14e…離間部分、 14n…円弧部分、
15…挿入穴、 20…ファンケース、 21…開口部、
22…流入口、 23…流出口、 30…モーター、
31…回転軸、 31a…太径部、 31b…細径部、
31c…段付部、 31d…回止面、 31n…ネジ部、
32…取付部、 35…固定板、 40…ゴムワッシャ、
40a…挿通穴、 40b…凸部、 40d…直線部分、
40n…円弧部分、 41…ワッシャ、 41a…貫通穴、
42…ナット。
図1
図2
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図10