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  • 特許-セメント組成物、およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】セメント組成物、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/02 20060101AFI20230310BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20230310BHJP
   C04B 7/36 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C04B7/02
C04B7/38
C04B7/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018247490
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020105059
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-190751(JP,A)
【文献】特開2014-058431(JP,A)
【文献】特開2008-247715(JP,A)
【文献】特開2011-132045(JP,A)
【文献】特開昭61-251545(JP,A)
【文献】特開平08-081244(JP,A)
【文献】依田彰彦,資源の有効利用とコンクリート,コンクリート工学,34巻,日本,日本コンクリート工学会,1996年04月,72-82
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグを含むセメント組成物であって、
SOを0.88~1.10質量%、MgOを1.492.82質量%、およびMnOを0.160.68質量%含むセメントクリンカー100質量部に対し、二水石膏をSO換算で0.5~2.5質量部含み、かつ、
ハンター表示系のL値が48.7~53.5、a値が-2.0~-1.1、および、b値が6.5~7.8であり、
モルタルの圧縮強さが、材齢3日で24.7N/mm 以上、材齢7日で42.8N/mm 以上、および、材齢28日で61.1N/mm 以上である
ことを特徴とする、セメント組成物。
【請求項2】
前記セメント組成物のブレーン比表面積が2000~8000cm/gである、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
下記(1)式に示す硫酸塩飽和度が1.387.80、MgOの含有率が3.708.50質量%、SOの含有率が0.01~2.93質量%である高炉スラグを1.9~277.0kg/クリンカー1t、
転炉スラグを42.4~88.6kg/クリンカー1t、
石灰石を928.7~1166.8kg/クリンカー1t、
フライアッシュを6.8~162.0kg/クリンカー1t、および、
珪石を69.1~107.1kg/クリンカー1tを、
原料に用いて焼成して得たセメントクリンカー100質量部に対し、
二水石膏をSO換算で0.5~2.5質量部添加して粉砕して、請求項1または2に記載のセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造方法。
硫酸塩飽和度=SO/(1.292×NaO+0.85×KO) ・・・(1)
ただし、前記式中の化学式は、該化学式が表す化合物の含有率(質量%)を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉水砕スラグおよび高炉徐冷スラグ(以下「高炉スラグ」という。)を原料の一部に用いて焼成したセメントクリンカー(以下、単に「クリンカー」と云うこともある。)の粉砕物を含むセメント組成物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のセメント製造分野における重要課題は、産業副産物等の再資源化とCOの排出削減である。そして、従来、この課題の解決手段の一つに、高炉セメントが挙げられている。
高炉セメントは、産業副産物である高炉スラグを最大で70質量%含み、その分、クリンカーの使用量(ひいては生産量)を削減できるため、高炉スラグの再資源化、クリンカーの焼成時における二酸化炭素の排出削減、およびクリンカーの主原料である石灰石等の天然資源の節約など、多方面で環境保護に貢献できる。
そして、高炉セメントの中で最も多用されている高炉セメントB種(高炉スラグを約40質量%含有する。)を例にとれば、高炉スラグの製造にかかわる石灰石の使用量とCOの排出量をゼロとした場合、該セメントにおける石灰石とCOの削減率を試算すると、削減効果は、普通ポルトランドセメント(以下「普通セメント」という。)に比べ、いずれも40%程度と高いと云われている。
【0003】
しかし、高炉スラグは、クリンカーの水和によって生じる水酸化カルシウムの刺激により、水和が徐々に進む性質(潜在水硬性)があり、水と直接反応する水硬性のクリンカーと比べ水和速度が小さい。そのため、高炉スラグを含むセメントやコンクリートは、材齢28日までの初期の強度発現性が低いという短所がある。例えば、非特許文献1の93頁の図2に示すように、普通セメントを高炉セメントで逐次置換したセメント組成物を用いたJISモルタル(1997年改正前)の材齢3日の圧縮強さは、高炉スラグの増加に伴い著しく低下し、高炉スラグの添加率が70%では、プレーンモルタルの圧縮強さの30~35%程度である(後掲の図1参照)。
したがって、一定以上の高炉セメントの強度発現性を保証するため、JIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ微粉末」では、コンクリート等の混和材料に用いる高炉スラグの活性度指数を、モルタルの材齢7日で55以上、材齢28日で75以上と規定する。よって、該値を満たさない高炉スラグは、コンクリート等の混和材料として適さず、コンクリート等に混合できない。
【0004】
そこで、以前から、高炉セメントの使用量の拡大を目的として、高炉スラグを含むセメントの強度発現性を改善する手段が、いくつか提案されている。
例えば、特許文献1では、高炉スラグ含有セメントと塩素バイパスダストを含むセメント組成物が提案されている。しかし、該セメント組成物中の塩素バイパスダストの含有率が5%を超えると、塩素バイパスダストに由来するアルカリが過多となり、アルカリ骨材反応によるコンクリートのひび割れが発生するおそれがある。
また、特許文献2では、高炉水滓を400~700℃で5~30分間急熱処理した後に、100℃以下に急冷した高炉水滓と、これを含む低発熱セメントが提案されている。しかし、この方法では、高炉水滓の急熱処理と急冷処理を続けて行うため、熱の利用効率が悪く実用的ではない。
【0005】
ところで、高炉スラグは白色度(L値)が約82と高いため、高炉スラグを含むセメントは、ポルトランドセメント(L値は約50)と比べて白く、ポルトランドセメントとは色調が異なる。そのため、ポルトランドセメントを用いた既設のコンクリート構造物を、高炉スラグ含むセメントコンクリートを用いて補修や改築すると、コンクリートの打ち継ぎ部分に色調の差が生じて、美観が損なわれる場合がある。そこで、高炉スラグを含むセメントの色調を、ポルトランドセメントと同じにする方法が望まれている。
例えば、特許文献3では、MgOやTiO等の含有量を調整することにより、色調を特定の範囲に調整したクリンカーが提案されている(請求項1、段落0045等)。
以上のように、高炉スラグをセメント用混合材として用いる場合、セメントの強度発現性の低下や色調の変動が課題になっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】依田彰彦ほか「微粉末化した高炉スラグを混和材として用いたモルタル・コンクリートの強度」、セメント技術年報、Vol.42、pp.92-95、昭和63年
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-218657号公報
【文献】特公平07-106929号公報
【文献】特開2016-190751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、高炉スラグを原料に用いた場合でも、強度発現性の低下や色調の変動を抑制できるセメント組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは前記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の高炉スラグをクリンカー原料として用いて焼成したクリンカーの粉砕物を含むセメント組成物は、前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は下記の構成を有するセメント組成物等である。
【0010】
[1]高炉スラグを含むセメント組成物であって、
SOを0.88~1.10質量%、MgOを1.492.82質量%、およびMnOを 0.160.68質量%含むセメントクリンカー100質量部に対し、二水石膏をSO換算で0.5~2.5質量部含み、かつ、
ハンター表示系のL値が48.7~53.5、a値が-2.0~-1.1、および、b値が6.5~7.8であり、
モルタルの圧縮強さが、材齢3日で24.7N/mm 以上、材齢7日で42.8N/mm 以上、および、材齢28日で61.1N/mm 以上である
ことを特徴とする、セメント組成物。
[2]前記セメント組成物のブレーン比表面積が2000~8000cm/gである、前記[1]に記載のセメント組成物。
[3]下記(1)式に示す硫酸塩飽和度が1.387.80、MgOの含有率が3.708.50質量%、SOの含有率が0.01~2.93質量%である高炉スラグを1.9~277.0kg/クリンカー1t、
転炉スラグを42.4~88.6kg/クリンカー1t、
石灰石を928.7~1166.8kg/クリンカー1t、
フライアッシュを6.8~162.0kg/クリンカー1t、および、
珪石を69.1~107.1kg/クリンカー1tを、
原料に用いて焼成して得たセメントクリンカー100質量部に対し、
二水石膏をSO換算で0.5~2.5質量部添加して粉砕して、前記[1]または[2]に記載のセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造方法。
硫酸塩飽和度=SO/(1.292×NaO+0.85×KO) ・・・(1)
ただし、前記式中の化学式は、該化学式が表す化合物の含有率(質量%)を表す。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセメント組成物は、高炉スラグを原料に用いるにもかかわらず、強度発現性の低下や色調の変動を抑制することができる。
また、本発明のセメント組成物は、産業副産物(高炉スラグ)の再資源化、クリンカーの焼成時における二酸化炭素の排出削減、および天然資源の節約に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】非特許文献1の93頁に掲載されたJIS R 5201によるモルタルの圧縮強さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、前記のとおり、SOを0.1~1.3質量%、MgOを1.4~3.2質量%、およびMnOを0.1~0.7質量%含むセメントクリンカー100質量部に対し、石膏をSO換算で0.5~7質量部含むセメント組成物等である。以下、セメント組成物およびセメント組成物の製造方法に分けて説明する。
【0014】
1.セメント組成物
本発明のセメント組成物は、SOを0.1~1.3質量%、MgOを1.4~3.2質量%、およびMnOを0.1~0.7質量%含むセメントクリンカー100質量部に対し、石膏をSO換算で0.5~7質量部含む、セメント組成物である。
SO、MgO、およびMnOの含有率が前記範囲内にあれば、セメント組成物の色調はポルトランドセメントと同程度になる。また、石膏の含有率が前記範囲内にあれば、強度発現性は、同じく、ポルトランドセメントと同程度になる。なお、SO3の含有率は、好ましくは0.2~1.2質量%、より好ましくは0.3~1.1質量%であり、MgOの含有率は、好ましくは1.5~3.0質量%、より好ましくは1.6~2.9質量%であり、MnOの含有率は、好ましくは0.15~0.60質量%、より好ましくは0.20~0.55質量%であり、また、石膏の含有率はSO換算で、好ましくは0.6~6.8質量%、より好ましくは0.7~ 6.5質量%である。
また、前記セメント組成物のブレーン比表面積は、強度発現性や作業性の向上、および製造コストの削減等から、好ましくは2000~8000cm/gである。なお、前記ブレーン比表面積の下限は、より好ましくは2700cm/g、さらに好ましくは2800m/gであり、その上限は、より好ましくは7000cm/g、さらに好ましくは6000cm/gである。
【0015】
2.セメント組成物の製造方法
本発明のセメント組成物の製造方法は、前記(1)式に示す硫酸塩飽和度が0.02~9.5、MgOの含有率が8.5質量%未満、SOの含有率が0.01~2.8質量%である高炉スラグを原料に用いて焼成して得たセメントクリンカーと石膏を粉砕して、ハンター表示系のL値が47~57、a値が-3.0~3.0、およびb値が6.5~8.5であるセメント組成物を製造する方法である。
ここで、硫酸塩飽和度はアルカリ金属に対する石膏の比であり、下記の式の変形により硫酸塩飽和度の式(下記(1)式)が導出できる。
硫酸塩飽和度=(SO/80)/(NaO・52+KO/94)
=SO/(1.292×NaO+0.85×KO)・・・(1)
ただし、前記式中の化学式は、該化学式が表す化合物の含有率(質量%)を表す。
【0016】
本発明の製造方法で原料として用いる高炉スラグは、高炉で銑鉄を製造する際に副生する溶融状態のスラグを、水で急冷して破砕するか、または徐冷して得られる高炉スラグである。
前記高炉スラグのブレーン比表面積は、好ましくは300cm/g以上である。該値が300cm/g未満では、焼成が不十分になるおそれがある。なお、前記高炉スラグ粉末のブレーン比表面積は、より好ましくは1000cm/g以上、さらに好ましくは2000cm/g以上、特に好ましくは2500cm/g以上である。また、該値の上限は、粉砕コストの観点から12000cm/gである。
また、前記ブレーン比表面積を有する高炉スラグ粉末は、高炉スラグをボールミルやジェットミルなどの粉砕機で粉砕して得ることができる。
【0017】
本発明の製造方法では、クリンカーと石膏は個別に粉砕した後に混合してもよく、混合した後に同時に粉砕してもよい。いずれの粉砕方法でも、セメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは2000~8000cm/gである。石膏は、無水石膏、二水石膏、および半水石膏等から選ばれる1種以上が挙げられる。
なお、該セメント組成物は、少量混合成分として、さらに高炉スラグ粉末、フライアッシュ、およびシリカ質混合材等のポゾランや石灰石粉末を、前記セメント組成物の物性が損なわれない範囲で含んでもよい。
【実施例
【0018】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.セメント組成物の製造
表1に示す化学組成を有する高炉スラグ、表2に示す化学組成を有する転炉スラグ、石灰石、フライアッシュ、および珪石を、表3に示す配合に従い混合して、混合原料を調製した。次に、ロータリーキルンを用いて、該混合原料を温度1400~1500℃で焼成してクリンカーを製造した。さらに、クリンカー100質量部に対し、二水石膏をSO換算で0.5~2.5質量部添加して粉砕し、ブレーン比表面積が3300cm/gのセメント組成物を製造した。該セメント組成物の化学組成を表3に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
2.色調および圧縮強さの測定
前記セメント組成物の白色度は、JIS Z 8722「色の測定方法-反射及び透過物体色」に準拠して、分光色差計(型番:SE-6000、日本電色工業社製)を用いて測定した。また、モルタルの圧縮強さは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠して測定した。これらの結果を表4に示す。
【0023】
【表4】
【0024】
表4に示すように、高炉スラグを原料の一部に用いて製造した本発明のセメント組成物(実施例1~5、MgO=2.74質量%、MnO=0.51~0.66質量%)は、高炉スラグを原料に用いないポルトランドセメント(比較例1、MgO=2.72質量%、MnO=0.07質量%)と比較して、いずれもb値が8.5未満に改善でき、また、圧縮強さも同程度であった。また、実施例6、7(MgO=1.75質量%、MnO=0.15質量%、0.35質量%)および比較例2(MgO=1.77質量%、MnO=0.07質量%)と、実施例8、9、10(MgO=1.45%,MnO=0.35質量%、0.21質量%、0.11質量%)および比較例3(MgO=1.45質量%、MnO=0.11質量%)についても、同様の結果となり、セメント組成物のMgOの増加にともなうb値の上昇は、クリンカー原料の一部に高炉スラグを用いることにより解決できた。
一方、硫酸塩飽和度が9.5を超える高炉スラグをクリンカー原料の一部に用いたセメント組成物(比較例5)は、クリンカー中のSOの含有率が1.3質量%を超え、L値および圧縮強さが低下した。MgOが8.5質量%の高炉スラグをクリンカー原料としたセメント組成物(比較例6)は、クリンカーのMgO量が3.4%を超え、また、圧縮強さが低下した。
したがって、本発明によれば、特定の組成を有する高炉スラグを選定してクリンカー原料の一部に用いれば、強度発現性の低下や色調の変動が小さいセメント組成物を提供することができる。
図1