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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20230310BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
A61M1/16 111
A61M1/36 121
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018248123
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020103832
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古橋 智洋
(72)【発明者】
【氏名】小野 和秀
(72)【発明者】
【氏名】真木 秀人
(72)【発明者】
【氏名】フェレンツ カヅィンツィ
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/022024(WO,A1)
【文献】特開2013-052229(JP,A)
【文献】実開昭62-004346(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16 - A61M 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血液を体外循環させる血液回路と、
前記血液回路、あるいは前記血液回路に設けられた血液浄化器に供給液を供給する液供給回路と、
前記血液浄化器から排液が排出される排液回路と、を備え、
前記血液回路、前記液供給回路、及び前記排液回路の各回路が可撓性を有するチューブを用いて構成されており、
前記血液回路、前記液供給回路、または前記排液回路に設けられた蠕動型のポンプを所定時間駆動することによって生じる当該ポンプの送液量または回路内の圧力変動に基づき、前記血液回路、前記液供給回路、または前記排液回路に使用されているチューブの識別、あるいはチューブの異常の有無の判定を行うチューブ識別処理を行うチューブ識別部を備え、
前記チューブ識別部は、血液浄化治療の前に各回路に液を充填するプライミングの際に、前記チューブ識別処理を行う、
血液浄化装置。
【請求項2】
前記供給液の供給量と、前記排液の排出量とを基に、除水量を検出する除水量検出部を備え、
前記除水量検出部は、前記液供給回路に設けられ前記供給液を一時的に貯留する供給液小分けチャンバ、前記排液回路に設けられ前記排液を一時的に貯留する排液小分けチャンバ、及び、前記供給液小分けチャンバと前記排液小分けチャンバの合計の重さを検出する重さ検出機構を有し、
前記チューブ識別部は、前記除水量検出部の前記重さ検出機構により、前記液供給回路または前記排液回路に設けられた前記ポンプを所定時間駆動した際の前記ポンプの送液量を検出する、
請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項3】
予め設定された前記各回路に使用するチューブと、前記チューブ識別部が識別した前記
各回路に実際に使用されているチューブとが一致しないとき、警報を発する警報部を備えた、
請求項1または2に記載の血液浄化装置。
【請求項4】
所定の画面を表示する表示器を備え、
前記警報部は、前記表示器に警報の内容に応じた警報画面を表示させることによって警報を発する、
請求項に記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記警報画面には、予め設定されたチューブの設定変更の操作を受け付ける設定変更受付部が表示される、
請求項に記載の血液浄化装置。
【請求項6】
前記チューブ識別部は、前記ポンプを所定時間駆動した際の前記ポンプの送液量または前記圧力変動が、予め設定された正常範囲内に含まれるか否かに基づき、使用されているチューブの異常の有無を判定する、
請求項1に記載の血液浄化装置。
【請求項7】
前記チューブ識別部のチューブ識別処理時の前記ポンプの送液量または前記圧力変動の測定結果を基に、
当該測定結果を得るために駆動した前記ポンプのポンプ速度を補正するポンプ速度補正部を備えた、
請求項1に記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液浄化装置として、内径が異なり、プライミングボリューム(PV)が異なる複数種類のチューブを血液回路等に適用可能なものが知られている。例えば、患者の体重等に応じて、大人向けの標準PV回路用のチューブと、新生児等の低体重患者向けの低PV回路用のチューブとを使い分けることが一般に行われている。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-80266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大人患者向けの標準PV回路を適用した場合と、新生児など低体重患者向けの低PV回路を適用した場合とでは、治療時の目標流量範囲が異なる等、具体的な制御内容が異なるのが一般的である。そのため、制御用に設定したチューブのプライミングボリュームと、実際に装着されているチューブのプライミングボリュームとが異なると、意図しない流量制御をしてしまうおそれがある。また、チューブに異常がある場合にも、意図しない流量制御をしてしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、装着されているチューブを識別可能、あるいはチューブの異常を検知可能な血液浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することを目的として、請求項1に係る発明は、患者の血液を体外循環させる血液回路と、前記血液回路、あるいは前記血液回路に設けられた血液浄化器に供給液を供給する液供給回路と、前記血液浄化器から排液が排出される排液回路と、を備え、前記血液回路、前記液供給回路、及び前記排液回路の各回路が可撓性を有するチューブを用いて構成されており、前記血液回路、前記液供給回路、または前記排液回路に設けられた蠕動型のポンプを所定時間駆動することによって生じる当該ポンプの送液量または回路内の圧力変動に基づき、前記血液回路、前記液供給回路、または前記排液回路に使用されているチューブの識別、あるいはチューブの異常の有無の判定を行うチューブ識別処理を行うチューブ識別部を備えた、血液浄化装置を提供する。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記供給液の供給量と、前記排液の排出量とを基に、除水量を検出する除水量検出部を備え、前記除水量検出部は、前記液供給回路に設けられ前記供給液を一時的に貯留する供給液小分けチャンバ、前記排液回路に設けられ前記排液を一時的に貯留する排液小分けチャンバ、及び、前記供給液小分けチャンバと前記排液小分けチャンバの合計の重さを検出する重さ検出機構を有し、前記チューブ識別部は、前記除水量検出部の前記重さ検出機構により、前記液供給回路または前記排液回路に設けられた前記ポンプを所定時間駆動した際の前記ポンプの送液量を検出する、請求項1に記載の血液浄化装置である。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記チューブ識別部は、血液浄化治療の前に各回路に液を充填するプライミングの際に、前記チューブ識別処理を行う、請求項1または2に記載の血液浄化装置である。
【0010】
請求項4に係る発明は、予め設定された前記各回路に使用するチューブと、前記チューブ識別部が識別した前記各回路に実際に使用されているチューブとが一致しないとき、警報を発する警報部を備えた、請求項1乃至3の何れか1項に記載の血液浄化装置である。
【0011】
請求項5に係る発明は、所定の画面を表示する表示器を備え、前記警報部は、前記表示器に警報の内容に応じた警報画面を表示させることによって警報を発する、請求項4に記載の血液浄化装置である。
【0012】
請求項6に係る発明は、前記警報画面には、予め設定されたチューブの設定変更の操作を受け付ける設定変更受付部が表示される、請求項5に記載の血液浄化装置である。
【0013】
請求項7に係る発明は、前記チューブ識別部は、前記ポンプを所定時間駆動した際の前記ポンプの送液量または前記圧力変動が、予め設定された正常範囲内に含まれるか否かに基づき、使用されているチューブの異常の有無を判定可能に構成されている、請求項1乃至6の何れか1項に記載の血液浄化装置である。
【0014】
請求項8に係る発明は、前記チューブ識別処理時の前記ポンプの送液量または前記圧力変動の測定結果を基に、当該測定の際に駆動した前記ポンプのポンプ速度を補正するポンプ速度補正部を備えた、請求項1乃至7の何れか1項に記載の血液浄化装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、装着されているチューブを識別可能、あるいはチューブの異常を検知可能な血液浄化装置を提供できる。
【0016】
請求項2に係る発明によれば、除水量の検出機構を兼用することで、センサを追加で設けることなく、低コストで回路を識別できる。
【0017】
請求項3に係る発明によれば、治療開始前に回路の適否を判断できるため、不適な回路を用いて治療することを未然に防止できる。
【0018】
請求項4に係る発明によれば、警報によって適切な対応をユーザに促せる。
【0019】
請求項5に係る発明によれば、ユーザが警報の内容を容易に知ることができ、利便性が向上する。
【0020】
請求項6に係る発明によれば、チューブの設定が誤っている場合には、一から設定を行うことなく、警報画面から直接設定変更を行えるようになり、利便性が向上する。
【0021】
請求項7に係る発明によれば、異常な回路か否かを判定できるため、判定後、異常な回路の使用を抑制できる。
【0022】
請求項8に係る発明によれば、適切なポンプ速度で送液することが出来ると共に、共通の測定結果(ポンプの送液量又は圧力変動)で、チューブ識別とポンプ速度補正を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施の形態に係る血液浄化装置の概略構成図である。
図2】(a),(b)は設定されたチューブと使用されているチューブが一致しない場合の警報画面の表示例、(c)はチューブが異常と判定された場合の警報画面の表示例を示す図である。
図3】チューブ識別処理の制御フローを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態に係る血液浄化装置の概略構成図である。図1に示すように、血液浄化装置1は、患者の血液を体外循環させる血液回路2と、血液回路2に設けられ血液を浄化する血液浄化器3と、血液浄化器3、あるいは血液回路2に供給液を供給する液供給回路4と、血液浄化器3から排液が排出される排液回路5と、を備えている。
【0026】
血液回路2、液供給回路4(後述する透析液回路6と補充液回路7)、及び排液回路5は、可撓性を有するチューブを用いて構成されており、内径(プライミングボリューム)の異なる複数の種類のチューブを適用可能に構成されている。基本的に、各回路に使用するチューブはセットになっており、全ての回路で同じ種類(同じ内径、同じプライミングボリューム)のチューブが使用される。
【0027】
血液回路2の一端には、動脈側穿刺針21が設けられ、他端には静脈側穿刺針22が設けられている。また、血液回路2には、動脈側穿刺針21側から静脈側穿刺針22側にかけて、第1気泡検出装置23、血液ポンプ24、血液浄化器3、気液分離器25、第2気泡検出装置26が順次設けられている。第1気泡検出装置23及び第2気泡検出装置26は、気泡を検出する気泡検出センサを有し、気泡を検出したときに血液回路2をクランプする(挟み込んで閉塞する)機構を有している。
【0028】
血液ポンプ24は、チューブをしごいて血液を血液浄化器3側へと流動させる蠕動型のポンプからなる。血液浄化器3は、ダイアライザとも呼称されるものであり、図示しない血液浄化膜を介して血液と透析液とを接触させることで、血液を浄化するものである。気液分離器25は、気泡を除去し液体のみを静脈側穿刺針22側に通すように構成されている。
【0029】
本実施の形態では、血液浄化装置1で様々な治療を可能とするため、液供給回路4として、透析液を供給する透析液回路6と、補充液を供給する補充液回路7の両回路を有している。ただし、血液浄化装置1は、透析液回路6と補充液回路7のどちらか一方のみを有していてもよい。
【0030】
透析液回路6の一端には、透析液を収容する透析液収容バッグ61が接続されている。透析液回路6の他端は、血液浄化器3の透析液導入口に接続されている。透析液回路6には、透析液収容バッグ61側から血液浄化器3側にかけて、透析液移送ポンプ62、透析液を一時的に貯留する透析液小分けチャンバ63、透析液ポンプ64、透析液加熱器65が順次設けられている。透析液小分けチャンバ63は、本発明の供給液小分けチャンバの一態様である。
【0031】
透析液移送ポンプ62及び透析液ポンプ64は、チューブをしごいて透析液を流動させる蠕動型のポンプからなる。透析液移送ポンプ62は、透析液収容バッグ61内の透析液を透析液小分けチャンバ63に移送するために用いられる。透析液ポンプ64は、透析液小分けチャンバ63内の透析液を血液浄化器3側に流動させるために用いられる。透析液小分けチャンバ63を有することで、治療を中断させずに透析液収容バッグ61を交換することが可能になる。透析液加熱器65は、患者に戻す血液の温度を下げてしまわないように、透析液を適宜な温度に加熱するためのものである。
【0032】
補充液回路7の一端には、補充液を収容する補充液収容バッグ71が接続されている。補充液収容バッグ71の下流の補充液回路7には、補充液移送ポンプ72、補充液を一時的に貯留する補充液小分けチャンバ73、補充液ポンプ74、補充液加熱器75、補充液用気液分離器76が順次設けられている。補充液小分けチャンバ73は、本発明の供給液小分けチャンバの一態様である。
【0033】
また、補充液回路7は、補充液用気液分離器76の下流で分岐し、分岐した一方の補充液回路7である前補液回路7aの端部は、血液浄化器3と血液ポンプ24の間の血液回路2に接続されている。前補液回路7aには、前補液用ポンプ77が設けられている。分岐した他方の補充液回路7である後補液回路7bの端部は、血液回路2の気液分離器25に接続されている。
【0034】
補充液移送ポンプ72、補充液ポンプ74、及び前補液用ポンプ77は、チューブをしごいて透析液を流動させる蠕動型のポンプからなる。補充液移送ポンプ72は、補充液収容バッグ71内の補充液を補充液小分けチャンバ73に移送するために用いられる。補充液ポンプ74は、補充液小分けチャンバ73内の補充液を血液回路2側に流動させるために用いられる。前補液用ポンプ77は、血液浄化器3の上流側の血液回路2に補充液を供給する「前補液」を行う際に駆動される。前補液用ポンプ77を駆動しない場合、補充液ポンプ74にて送液された補充液は後補液回路7bを通り、血液浄化器3の下流側の血液回路2(ここでは気液分離器25)に補充液を供給する「後補液」が行われる。
【0035】
補充液小分けチャンバ73を有することで、治療を中断させずに補充液収容バッグ71を交換することが可能になる。補充液加熱器75は、患者に戻す血液の温度を下げてしまわないように、補充液を適宜な温度に加熱するためのものである。補充液用気液分離器76は、補充液から気泡を分離除去するためのものである。
【0036】
排液回路5の一端は、血液浄化器3の排液出口に接続されている。血液浄化器3の下流の排液回路5には、排液ポンプ51、排液を一時的に貯留する排液小分けチャンバ52、排出用ポンプ53が順次設けられている。排液回路5の他端は、装置外に排液を排出する排液出口54となっている。
【0037】
排液ポンプ51及び排出用ポンプ53は、チューブをしごいて透析液を流動させる蠕動型のポンプからなる。排液ポンプ51は、排液を排液小分けチャンバ52に送液するために用いられる。排出用ポンプ53は、排液小分けチャンバ52内の排液を排液出口54側へ排出するために用いられる。
【0038】
また、血液浄化装置1は、供給液と排液の水収支量である除水量を検出する除水量検出部10を有している。除水量検出部10は、上述の各小分けチャンバ63,73,52と、各小分けチャンバ63,73,52の合計の重さを検出可能な重さ検出機構としての荷重計8と、変化量演算部91と、を有している。なお、除水量とは、供給液と排液の水収支量がマイナスである場合の水収支量である。以下の説明では、水収支量がマイナスである場合について説明し、水収支量を除水量に統一して説明するが、本発明は、供給液と排液の水収支量がプラスの場合(例えば補液を行う場合)も適用可能である。
【0039】
荷重計8は、透析液小分けチャンバ63、補充液小分けチャンバ73、及び排液小分けチャンバ52の合計の重さを検出可能に構成されている。荷重計8の検出値は、制御装置9に出力される。
【0040】
例えば、除水量が0(ゼロ)の場合、透析液や補充液の供給量と、排液の排出量とが等しくなる。よって、透析液や補充液の小分けチャンバ63,73からの減少量と、排液小分けチャンバ52での排液の増加量が等しくなり、荷重計8の検出値は時間的に変化しない。これに対して、除水量が大きくなると、透析液や補充液の小分けチャンバ63,73からの減少量よりも、排液小分けチャンバ52での排液の増加量が大きくなる。よって、荷重計8の検出値は徐々に大きくなる。よって、荷重計8の検出値の時間変化(重さの変化量)を検出することで、除水量を検出することができる。
【0041】
本実施の形態では、荷重計8の検出値の時間変化、すなわち重さ検出機構で検出された重さの変化量(単位時間あたりの重さの変化量、すなわち傾き)を、除水量の指標として用いた。この重さの変化量を演算する際の荷重の測定時間を検出時間と呼称する。変化量演算部91は、設定された検出時間での重さの変化量を演算する。変化量演算部91は、制御装置9に搭載され、CPU等の演算素子、メモリ、記憶装置、ソフトウェア、インターフェイス等を適宜組み合わせて実現される。
【0042】
変化量演算部91は、設定された検出時間(除水量検出部10が除水量を検出する時間)よりも短い時間で設定された所定の時間毎に荷重計8で測定された荷重のデータを用い、最小二乗法により、当該検出時間での重さの変化量(傾き)を演算するとよい。これにより、各ポンプの脈動により発生する荷重の検出値の乱れを抑制でき、より精度の高いポンプ速度(ポンプ流量)の補正が可能になる。
【0043】
この血液浄化装置1では、収容バッグ61,71内の透析液や補充液を移送ポンプ62,72により小分けチャンバ63,73に移送すると共に、排液小分けチャンバ52内の排液を排出用ポンプ53により排出する計測準備フェーズと、移送ポンプ62,72及び排出用ポンプ53を停止し、荷重計8による測定を実施して重さの変化量を求める計測フェーズとを繰り返すようになっている。計測準備フェーズで小分けチャンバ63,73に移送する透析液や補充液の量を変えることで、計測フェーズの継続時間、すなわち上述の検出時間を適宜変化させることができる。例えば、長い検出時間としたい場合には、計測準備フェーズで小分けチャンバ63,73に移送する透析液や補充液の量を多くする。なお、各ポンプ(血液ポンプ24、透析液移送ポンプ62、透析液ポンプ64、補充液移送ポンプ72、補充液ポンプ74、前補液用ポンプ77、排液ポンプ51、及び排出用ポンプ53)の制御は、制御装置9により行われる。
【0044】
また、血液浄化装置1は、除水量検出部10で検出した除水量が、目標除水量と一致するように、液供給ポンプ(透析液ポンプ64及び補充液ポンプ74)と排液ポンプ51の一方または両方のポンプ速度(ポンプ流量)を補正する除水量制御部92を備えている。本実施の形態では、除水量制御部92は、変化量演算部91で演算された重さの変化量(傾き)が、目標除水量となる重さの変化量(傾き)の目標値と一致するように、ポンプ速度を補正するように構成されている。速やかに除水量を制御できるように、除水量制御部92は、PID制御やPI制御などのフィードバック制御を用いて、重さの変化量(傾き)が目標値に近づくように制御する。除水量制御部92は、制御装置9に搭載され、CPU等の演算素子、メモリ、記憶装置、ソフトウェア、インターフェイス等を適宜組み合わせて実現される。
【0045】
なお、液供給ポンプ(透析液ポンプ64及び補充液ポンプ74)と排液ポンプ51の両方のポンプ速度を補正してもよいが、制御が複雑となるため、どちらか一方を一定のポンプ速度のままで維持し、他方のポンプ速度を補正することがより望ましい。また、透析液ポンプ64と補充液ポンプ74の両方を用いる場合(透析と補液の両方の治療を同時に行う場合)には、より制御を簡単にするため、排液ポンプ51のポンプ速度を補正するように構成するとよい。
【0046】
(チューブ識別処理)
本実施の形態に係る血液浄化装置1では、血液回路2、液供給回路4、または排液回路5に設けられた蠕動型のポンプを所定時間駆動することによって生じる当該ポンプの送液量または回路内の圧力変動に基づき、血液回路2、液供給回路4、または排液回路5に使用されているチューブを識別するチューブ識別処理を行うチューブ識別部11を備えている。本実施の形態では、チューブ識別部11は、標準PV回路用のチューブが用いられているか、あるいは低PV回路用のチューブが用いられているかを識別する。すなわち、チューブ識別部11は、各回路に使用されているチューブとして、どのような内径(あるいは流路断面積、あるいはプライミングボリューム)のチューブが用いられているかを識別する。なお、標準PV回路とは、プライミングボリュームが標準量の血液浄化用回路(血液回路2、液供給回路4、排液回路5)であり、低PV回路とは、プライミングボリュームが低量の血液浄化用回路(血液回路2、液供給回路4、排液回路5)である。本実施の形態では、チューブ識別部11が、標準PV回路用のチューブが用いられているか、あるいは低PV回路用のチューブが用いられているかを識別するが、これに限らず、チューブ識別部11は、プライミングボリュームの異なる複数の回路が適用可能とされている場合に、どの回路に使用されているチューブかを識別するものであればよい。
【0047】
本実施の形態では、チューブ識別部11は、除水量検出部10の重さ検出機構、すなわち荷重計8の検出結果より、液供給回路4または排液回路5に設けられたポンプを所定時間駆動した際のポンプの送液量を検出する識別部93を有している。識別部93は、制御装置9に搭載され、CPU等の演算素子、メモリ、記憶装置、ソフトウェア、インターフェイス等を適宜組み合わせて実現される。
【0048】
本実施の形態において、チューブ識別時に駆動するポンプとしては、透析液移送ポンプ62、透析液ポンプ64、補充液移送ポンプ72、補充液ポンプ74、排液ポンプ51、または排出用ポンプ53のいずれかを用いることができる。詳細は後述するが、本実施の形態では、チューブ識別処理時に測定したポンプの送液量を利用して、ポンプ速度(ポンプ流量)の補正を行うことが出来るため、ポンプ速度(ポンプ流量)の精度がより求められる透析液ポンプ64、補充液ポンプ74、または排液ポンプ51を、チューブ識別処理時に駆動するポンプとすることがより望ましい。以下では、一例として、チューブ識別処理時に透析液ポンプ64を駆動する場合について説明する。なお、チューブ識別処理時には、荷重計8の検出結果に影響が出ないように、他のポンプは停止させるとよい。
【0049】
上述ように、本実施の形態では、除水量の検出のために設けられている荷重計8を利用して、ポンプの送液量の検出を行っている。そのため、チューブ識別処理を低コストに実現可能であり、また荷重計8を有する既存の装置に容易に適用可能である。ただし、チューブ識別処理時にポンプを駆動した際のポンプの送液量を検出する手段はこれに限定されず、例えば、流量計等を用いてもよい。
【0050】
識別部93は、透析液ポンプ64を所定時間(所定の回転数)駆動させ、当該駆動の前後での荷重計8で検出した荷重の変化量を検出する。この荷重の変化量が、予め設定した標準PV用閾値範囲内にある場合、識別部93は、各回路に標準PV回路用のチューブが用いられていると判断する。同様に、荷重計で検出した荷重の変化量が、予め設定した低PV用閾値範囲内にある場合、識別部93は、各回路に低PV回路用のチューブが用いられていると判断する。標準PV用閾値範囲、及び低PV用閾値範囲は、チューブの製造公差や治療条件(ポンプの入り口側圧力の変化)による誤差を考慮して、適宜な数値範囲に設定される。
【0051】
また、本実施の形態では、識別部93は、荷重計で検出した荷重の変化量が、予め設定された正常範囲に含まれるか否かに基づき、使用されているチューブの異常の有無を判定可能に構成されている。より具体的には、識別部93は、荷重計で検出した荷重の変化量が、上述の標準PV用閾値範囲、及び低PV用閾値範囲に含まれないとき、チューブに異常があると判定する。
【0052】
治療開始後に各回路のチューブを交換するのは困難が伴うため、治療の開始前に、チューブ識別処理を行うことが望ましいといえる。本実施の形態では、識別部93は、血液浄化治療の前に各回路に生理食塩水や透析液等の液を充填するプライミングの際(例えば各回路に液を導入する際)に、チューブ識別処理を行うように構成されている。つまり、チューブ識別処理時に駆動されるポンプは、プライミング用の生理食塩水を吐出し、その生理食塩水の送液量を検出することで、各回路に使用されているチューブの識別が行われる。
【0053】
なお、血液回路2に設けられた血液ポンプ24を用いて、使用されているチューブの識別を行う事も可能である。この場合、血液ポンプ24の送液量(吐出量)を測定する流量センサを用いて、血液ポンプ24を所定時間駆動させた際の流量をもとめてもよい。また、例えば、第1気泡検出装置23にて血液回路2をクランプした(閉塞させた)状態で血液ポンプ24を所定時間駆動させ、血液ポンプ24の入り口側(第1気泡検出装置23側)の圧力変動を圧力センサにより測定することで、血液ポンプ24の流量を推定することも可能である。
【0054】
また、血液浄化装置1は、予め設定された各回路に使用するチューブの種類と、チューブ識別部11(識別部93)が識別した各回路に実際に使用されているチューブの種類とが一致しないとき、及び、チューブ識別部11(識別部93)がチューブの異常を検知したときに、警報を発する警報部12を備えている。
【0055】
警報部12は、光や音、振動等により警報を発する警報装置94aと、警報装置94aを制御する警報制御部94と、を有している。警報装置94aは、例えば、音により警告音を発するブザーや、警告灯を点灯あるいは点滅させる機構等からなる。警報制御部94は、制御装置9に搭載され、CPU等の演算素子、メモリ、記憶装置、ソフトウェア、インターフェイス等を適宜組み合わせて実現される。
【0056】
本実施の形態では、血液浄化装置1は、操作案内や装置の状態、治療の状態等を示す所定の画面を表示する表示器100を備えている。また、警報部12の警報制御部94は、図2(a)~(c)に示すように、表示器100に警報の内容に応じた警報画面101を表示させることによって警報を発するように構成されている。
【0057】
例えば、低PV回路に設定されているのに標準PV回路用のチューブが装着されている場合には、図2(a)に示すように、警報画面101のメッセージ部101aに、「標準PV回路が装着されています」、「設定と装着されている回路が異なります」といったメッセージや対処の仕方が表示される。また、例えば、標準PV回路に設定されているのに低PV回路用のチューブが装着されている場合には、図2(b)に示すように、警報画面101のメッセージ部101aに、「低PV回路が装着されています」、「設定と装着されている回路が異なります」といったメッセージや対処の仕方が表示される。
【0058】
本実施の形態では、警報画面101には、予め設定されたチューブの設定変更の操作を受け付ける設定変更受付部101bが表示される。つまり、本実施の形態では、設定されているチューブと装着されているチューブとが異なる場合には、警報画面101の設定変更受付部101bで設定変更を行うことが可能になっている。これにより、設定を一からやり直す必要がなくなるため、利便性が向上する。なお、本実施の形態では、表示器101としてタッチパネル式のものを用い、チューブの設定変更時の入力をタッチ操作により行えるようにしたが、例えば、ハードキーにより入力を行うようにしてもよく、入力装置については特に限定されない。
【0059】
また、チューブの異常が検知された場合には、図2(c)に示すように、警報画面101のメッセージ部101aに、「総補充液ポンプ吐出量異常」、「血液回路のポンプ吐出量に異常を検知しました」といったメッセージや対処の仕方が表示される。
【0060】
さらに、血液浄化装置1は、チューブ識別処理時のポンプ流量またはポンプの前後の回路内での圧力変動の測定結果(ここでは、ポンプ駆動前後の荷重の変化量)を基に、当該測定の際に駆動したポンプ(ここでは透析液ポンプ64)のポンプ速度を補正するポンプ速度補正部95を備えている。上述のように、透析液ポンプ64等のポンプ速度(ポンプ流量)は、治療開始後に除水量制御部92により補正がなされるが、ポンプ速度補正部95を備えることで、治療開始時点でポンプ速度が補正された値になるため、より徐水量の誤差を少なくし、高価な透析液や補充液を無駄に使用してしまうことを抑制できる。ポンプ速度補正部95は、制御装置9に搭載され、CPU等の演算素子、メモリ、記憶装置、ソフトウェア、インターフェイス等を適宜組み合わせて実現される。
【0061】
本実施の形態では、透析液ポンプ64の駆動のみでチューブ識別処理を行ったが、複数のポンプを用いて複数回チューブ識別処理を行ってもよい。例えば、透析液ポンプ64、補充液ポンプ74、及び排液ポンプ51のそれぞれを用いてチューブ識別処理を行うことで、透析液回路6、補充液回路7、及び排液回路5のそれぞれの異常の有無を検知でき、かつ、各ポンプ64,74,51のポンプ速度(ポンプ流量)を補正した状態で治療の開始を行うことができ、治療開始時から高精度に徐水量を管理することが可能になる。
【0062】
図3は、チューブ識別処理の制御フローを示すフロー図である。図3の制御フローは、プライミングによって各回路に生理食塩水が満たされたときに実行される。
【0063】
図3に示すように、まず、ステップS1にて、透析液移送ポンプ62を駆動して透析液小分けチャンバ63に生理食塩水を充填し、その際の荷重を荷重計8により測定する。その後、ステップS2にて、透析液ポンプ64を所定時間駆動し停止する。このとき、透析液ポンプ64以外のポンプは停止しておく。その後、ステップS3にて、荷重計8により荷重を測定し、ステップS4にて、ステップS1で求めた初期の荷重からの変化量を求める。
【0064】
その後、ステップS5にて、ステップS4で求めた荷重の変化量が、標準PV用閾値範囲内にあるかを判定する。ステップS5でYesと判定された場合、ステップS6にて、使用されているチューブが標準PV回路用のチューブであると判定し、ステップS11に進む。
【0065】
ステップS5でNoと判定された場合、ステップS7にて、ステップS4で求めた荷重の変化量が、低PV用閾値範囲内にあるかを判定する。ステップS7でYesと判定された場合、ステップS8にて、使用されているチューブが低PV回路用のチューブであると判定し、ステップS11に進む。ステップS7でNoと判定された場合、ステップS9にて、チューブに異常があると判定し、ステップS10にて、チューブ異常時の警報を発し、処理を終了する。
【0066】
ステップS11では、設定されたチューブの種類と、使用されているチューブの種類が一致するかを判定する。ステップS11でYesと判定された場合、処理を終了する。ステップS11でNoと判定された場合、ステップS12にて、チューブ不一致時の警報を発し、処理を終了する。
【0067】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る血液浄化装置1では、血液回路2、液供給回路4、または排液回路5に設けられた蠕動型のポンプを所定時間駆動することによって生じる当該ポンプの送液量または回路内の圧力変動に基づき、血液回路2、液供給回路4、または排液回路5に使用されているチューブの識別、あるいはチューブの異常の有無の判定を行うチューブ識別処理を行うチューブ識別部11を備えている。
【0068】
チューブ識別部11を備えることで、設定と異なるプライミングボリュームのチューブを使用してしまうことを抑制したり、チューブの異常を検知したりでき、より安全に治療を行うことが可能になる。その結果、意図しない流量制御が行われ、意図した治療効果が得られないといった不具合を抑制できる。
【0069】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0070】
[1]患者の血液を体外循環させる血液回路(2)と、前記血液回路(2)、あるいは前記血液回路に設けられた血液浄化器(3)に供給液を供給する液供給回路(4)と、前記血液浄化器(3)から排液が排出される排液回路(5)と、を備え、前記血液回路(2)、前記液供給回路(4)、及び前記排液回路(5)の各回路が可撓性を有するチューブを用いて構成されており、かつ、前記各回路が内径の異なる複数種類のチューブを適用可能に構成されており、前記血液回路(2)、前記液供給回路(4)、または前記排液回路(5)に設けられた蠕動型のポンプを所定時間駆動することによって生じる当該ポンプの送液量または回路内の圧力変動に基づき、前記血液回路(2)、前記液供給回路(4)、または前記排液回路(5)に使用されているチューブの識別、あるいはチューブの異常の有無の判定を行うチューブ識別処理を行うチューブ識別部(11)を備えた、血液浄化装置(1)。
【0071】
[2]前記供給液の供給量と、前記排液の排出量とを基に、除水量を検出する除水量検出部(10)を備え、前記除水量検出部は、前記液供給回路(4)に設けられ前記供給液を一時的に貯留する供給液小分けチャンバ(63,73)、前記排液回路(5)に設けられ前記排液を一時的に貯留する排液小分けチャンバ(52)、及び、前記供給液小分けチャンバ(63,73)と前記排液小分けチャンバ(52)の合計の重さを検出する重さ検出機構(8)を有し、前記チューブ識別部(11)は、前記除水量検出部(10)の前記重さ検出機構(8)により、前記液供給回路(4)または前記排液回路(5)に設けられた前記ポンプを所定時間駆動した際の前記ポンプの送液量を検出する、[1]に記載の血液浄化装置(1)。
【0072】
[3]前記チューブ識別部(11)は、血液浄化治療の前に各回路に液を充填するプライミングの際に、前記チューブ識別処理を行う、[1]または[2]に記載の血液浄化装置(1)。
【0073】
[4]予め設定された前記各回路に使用するチューブと、前記チューブ識別部(11)が識別した前記各回路に実際に使用されているチューブとが一致しないとき、警報を発する警報部(12)を備えた、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の血液浄化装置(1)。
【0074】
[5]所定の画面を表示する表示器(100)を備え、前記警報部(12)は、前記表示器(100)に警報の内容に応じた警報画面(101)を表示させることによって警報を発する、[4]に記載の血液浄化装置(1)。
【0075】
[6]前記警報画面(101)には、予め設定されたチューブの設定変更の操作を受け付ける設定変更受付部(101b)が表示される、[5]に記載の血液浄化装置(1)。
【0076】
[7]チューブ識別部(11)は、前記ポンプを所定時間駆動した際の前記ポンプの送液量または前記圧力変動が、予め設定された正常範囲内に含まれるか否かに基づき、使用されているチューブの異常の有無を判定する、[1]乃至[6]の何れか1項に記載の血液浄化装置(1)。
【0077】
[8]前記チューブ識別処理時の前記ポンプの送液量または前記圧力変動の測定結果を基に、当該測定の際に駆動した前記ポンプのポンプ速度を補正するポンプ速度補正部(95)を備えた、[1]乃至[7]の何れか1項に記載の血液浄化装置(1)。
【0078】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0079】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、各回路に断面形状が円形状のチューブを用いたが、これに限らず、例えば断面形状が楕円形状、角丸四角形状、あるいは多角形状であってもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…血液浄化装置
2…血液回路
24…血液ポンプ
3…血液浄化器
4…液供給回路
5…排液回路
51…排液ポンプ
52…排液小分けチャンバ
53…排出用ポンプ
6…透析液回路
62…透析液移送ポンプ
63…透析液小分けチャンバ(供給液小分けチャンバ)
64…透析液ポンプ
7…補充液回路
72…補充液移送ポンプ
73…補充液小分けチャンバ(供給液小分けチャンバ)
74…補充液ポンプ
8…荷重計(重さ検出機構)
9…制御装置
91…変化量演算部
92…除水量制御部
93…識別部
94…警報制御部
94a…警報装置
95…ポンプ速度補正部
10…除水量検出部
11…チューブ識別部
12…警報部
図1
図2
図3