(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】光触媒組成物
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20230310BHJP
B01J 23/652 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J23/652 M
(21)【出願番号】P 2019136212
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018158349
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】芝 直樹
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 真也
(72)【発明者】
【氏名】古川 和彦
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-132626(JP,A)
【文献】特開2012-035151(JP,A)
【文献】特開2009-114030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステン粒子を含む光触媒と、増粘剤と、分散媒とを含有し、
前記増粘剤は
、セルロースナノファイバーを含む、光触媒組成物。
【請求項2】
前記酸化タングステン粒子の体積中位径は、0.5μm以上10.0μm以下である、請求項1に記載の光触媒組成物。
【請求項3】
前記増粘剤の含有率は、前記酸化タングステン粒子の質量に対して、0.5質量%以上1000.0質量%以下である、請求項1又は2に記載の光触媒組成物。
【請求項4】
前記増粘剤と前記分散媒との混合物の粘度は、10.0mPa・s以上2000.0mPa・s以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の光触媒組成物。
【請求項5】
前記酸化タングステン粒子は、白金を担持した酸化タングステン粒子である、請求項1~
4の何れか一項に記載の光触媒組成物。
【請求項6】
式(1A)で示される前記光触媒の濃度の変化率C
Aは、0.0%以上2.5%以下である、請求項1~
5の何れか一項に記載の光触媒組成物。
C
A=|100×(C
0-C
21)/C
0|・・・(1A)
(前記式(1A)中、
C
0は、前記光触媒組成物を攪拌した直後に所定位置において測定される前記光触媒組成物中の前記光触媒の質量パーセント濃度を示し、
C
21は、前記光触媒組成物を攪拌してから21時間後に前記所定位置において測定される前記光触媒組成物中の前記光触媒の質量パーセント濃度を示し、
前記所定位置は、前記光触媒組成物の表面から深さ1cmの位置である。)
【請求項7】
式(2)から算出される前記光触媒組成物のアセトアルデヒド分解率D
Aと、式(3)から算出される前記光触媒のみのアセトアルデヒド分解率D
Bとが、式(4)を満たす、請求項1~
6の何れか一項に記載の光触媒組成物。
D
A=100×(D
A0-D
A2)/D
A0・・・(2)
D
B=100×(D
B0-D
B2)/D
B0・・・(3)
85≦100×D
A/D
B≦100・・・(4)
(前記式(2)中、D
A0及びD
A2は、各々、1.3gの前記光触媒を含有する量の前記光触媒組成物から前記分散媒を除去した後、前記分散媒を除去した前記光触媒組成物を所定雰囲気に置き、所定光を照射する前の前記所定雰囲気のアセトアルデヒド濃度、及び前記所定光を2.0時間照射した後の前記所定雰囲気のアセトアルデヒド濃度を示し、
前記式(3)中、D
B0及びD
B2は、各々、1.3gの前記光触媒のみを前記所定雰囲気に置き、前記所定光を照射する前の前記所定雰囲気のアセトアルデヒド濃度、及び前記所定光を2.0時間照射した後の前記所定雰囲気のアセトアルデヒド濃度を示し、
前記所定雰囲気は、300ppmの濃度でアセトアルデヒドを含有する雰囲気であり、
前記所定光は、450nmの中心波長を有し、2500ルクスの照度を有する光である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒に光が照射されることにより、光触媒は光触媒活性を発揮する。光触媒を含有するコート剤が種々検討されている。凝集粒の発生を抑制するために、特許文献1に記載の光触媒性親水性コート剤は、水、光触媒性金属酸化物、アルキルシリケート、及びアルカリ珪酸塩を含有する。この光触媒性親水性コート剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースのような高分子増粘剤を更に含有してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、カルボキシメチルセルロースのような高分子増粘剤が含有された場合に、光触媒の光触媒活性が低下してしまうことが、本発明者らの検討により判明した。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、光触媒活性を低下させることなく、光触媒の分散安定性を向上させる光触媒組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光触媒組成物は、酸化タングステン粒子を含む光触媒と、増粘剤と、分散媒とを含有する。前記増粘剤は、無機増粘剤又はセルロースナノファイバーを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光触媒組成物は、光触媒活性を低下させることなく、光触媒の分散安定性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】参考例の沈降試験用サンプルの攪拌直後の上澄み濃度に対する、攪拌終了から所定時間経過後の上澄み濃度の比率を示すグラフ図である。
【
図2】光触媒組成物(C-1)の攪拌直後の上澄み濃度に対する、攪拌終了から所定時間経過後の上澄み濃度の比率を示すグラフ図である。
【
図3】酸化タングステン粒子の二次粒子の体積基準における粒子径分布曲線を示す図である。
【
図4】酸化チタン粒子の二次粒子の体積基準における粒子径分布曲線を示す図である。
【
図5】光触媒組成物(A-1)の攪拌直後の上澄み濃度に対する、攪拌終了から所定時間経過後の上澄み濃度の比率を示すグラフ図である。
【
図6】光触媒組成物(A-2)の攪拌直後の上澄み濃度に対する、攪拌終了から所定時間経過後の上澄み濃度の比率を示すグラフ図である。
【
図7】光触媒組成物(A-3)の攪拌直後の上澄み濃度に対する、攪拌終了から所定時間経過後の上澄み濃度の比率を示すグラフ図である。
【
図8】光触媒組成物(B-1)の攪拌直後の上澄み濃度に対する、攪拌終了から所定時間経過後の上澄み濃度の比率を示すグラフ図である。
【
図9】光触媒組成物(B-2)の攪拌直後の上澄み濃度に対する、攪拌終了から所定時間経過後の上澄み濃度の比率を示すグラフ図である。
【
図10】光触媒組成物(B-3)の攪拌直後の上澄み濃度に対する、攪拌終了から所定時間経過後の上澄み濃度の比率を示すグラフ図である。
【
図11】光触媒組成物(A-1)を置いた雰囲気中のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度の経時変化を示すグラフ図である。
【
図12】光触媒組成物(A-2)を置いた雰囲気中のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度の経時変化を示すグラフ図である。
【
図13】光触媒組成物(A-3)を置いた雰囲気中のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度の経時変化を示すグラフ図である。
【
図14】光触媒組成物(B-1)を置いた雰囲気中のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度の経時変化を示すグラフ図である。
【
図15】光触媒組成物(B-2)を置いた雰囲気中のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度の経時変化を示すグラフ図である。
【
図16】光触媒組成物(B-3)を置いた雰囲気中のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度の経時変化を示すグラフ図である。
【
図17】光触媒単体を置いた雰囲気中のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度の経時変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は、実施形態に何ら限定されず、本発明の目的の範囲内で適宜変更を加えて実施できる。本実施形態の光触媒組成物(以下、単に「組成物」と記載することがある)は、光触媒と、増粘剤と、分散媒とを含有する。光触媒は、酸化タングステン粒子を含む。増粘剤は、無機増粘剤又はセルロースナノファイバーを含む。本実施形態の組成物は、可視光を吸収して光触媒活性を示す可視光応答型である。本実施形態の組成物は、光触媒活性を低下させることなく、光触媒の分散安定性を向上できる。その理由は、以下のように推測される。
【0010】
組成物は、光触媒粒子として、酸化タングステン粒子を含有する。光触媒活性を有する金属のなかでも、酸化タングステンの比重は大きい。そのため、酸化タングステン粒子は、自重により、組成物内で沈降し易い。ここで、本実施形態では、組成物が増粘剤を含有する。増粘剤が含有されることにより、酸化タングステン粒子を含む光触媒の沈降が抑制され、光触媒の分散安定性を向上できる。
【0011】
しかし、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースのような特定の増粘剤を含有する組成物を使用した場合には、光触媒活性が低下してしまうことが、本発明者らの検討により判明した。これは、組成物に光が照射された際に、組成物に含有される光触媒が、分解対象物(例えば、ホルムアルデヒド)よりも、特定の増粘剤を、優先的に分解するからだと考えられる。そこで、本発明者らは、光触媒によって分解されない又は分解され難い増粘剤を、鋭意検討した。そして、増粘剤として無機増粘剤又はセルロースナノファイバーを組成物が含有することにより、組成物の光触媒活性の低下を抑制できることを見出した。
【0012】
なお、光触媒によって分解される分解対象物としては、例えば、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds、VOC)が挙げられ、より具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、及びアンモニアが挙げられる。
【0013】
<光触媒>
光触媒は、酸化タングステン粒子を含む。酸化タングステン粒子に含有される酸化タングステンとしては、例えば、WO3(三酸化タングステン)、WO2、WO、W2O3、W4O5、W4O11、W25O73、W20O58、及びW24O68、並びにこれらの混合物が挙げられる。光触媒活性を向上させるために、酸化タングステンとしては、WO3が好ましい。
【0014】
酸化タングステン粒子に含有される酸化タングステンの結晶構造は、特に限定されない。酸化タングステンの結晶構造としては、例えば、単斜晶、三斜晶、斜方晶、及びこれらの少なくとも2種の混晶が挙げられる。
【0015】
酸化タングステン粒子は、助触媒を担持していてもよい。助触媒を担持することで、組成物の光触媒活性を向上できる。1種の助触媒のみが担持されていてもよく、2種以上の助触媒が担持されていてもよい。
【0016】
助触媒に含有される金属としては、例えば、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、パラジウム、鉄、ニッケル、ルテニウム、イリジウム、ニオブ、ジルコニウム、及びモリブデンが挙げられる。これらの金属は、例えば、錯体、塩化物、臭化物、沃化物、酸化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、燐酸塩、又は有機酸塩の形態で、助触媒に含有されていてもよい。助触媒の好適な例としては、白金が挙げられる。酸化タングステン粒子は、助触媒として白金を担持した酸化タングステン粒子であることが好ましい。
【0017】
光触媒の質量に対する助触媒の含有率(以下、助触媒担持率と記載することがある)は、0.01質量%以上3質量%以下であることが好ましい。助触媒担持率がこのような範囲内であると、組成物の光触媒活性を更に向上できる。
【0018】
酸化タングステン粒子の体積中位径(以下、「D50」と記載することがある)は、0.5μm以上10.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以上10.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以上10.0μm以下であることが更に好ましい。D50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折散乱法に基づき測定された体積基準の50%積算径である。酸化タングステンのD50は、酸化タングステンの二次粒子のD50である。酸化タングステン粒子が助触媒を担持している場合は、助触媒を担持した酸化タングステン粒子のD50である。酸化タングステンを凝集させることにより、このような範囲のD50を有する酸化タングステン粒子が得られる。
【0019】
0.5μm以上10.0μm以下のD50を有する酸化タングステン粒子は、次の利点を有する。組成物が基材に塗布されると、増粘剤及び分散媒が自重により、酸化タングステン粒子の上端部から流れ落ちる。流れ落ちることにより、酸化タングステン粒子が増粘剤及び分散媒から露出して、酸化タングステン粒子に露出領域が形成される。酸化タングステン粒子のD50が大きいほど、酸化タングステン粒子に露出領域が形成され易い。酸化タングステン粒子の露出領域は、直接、外気及び光に晒される。酸化タングステン粒子が露出領域を有することで、酸化タングステン粒子が分解対象物と接触でき、酸化タングステン粒子によって分解対象物が好適に分解される。このため、組成物の光触媒活性が向上する。
【0020】
しかし、上記利点を有する反面、酸化タングステン粒子のD50が大きくなると、酸化タングステン粒子の質量が増加して、酸化タングステン粒子が組成物内で沈降する傾向がある。しかし、本実施形態では、組成物が増粘剤として無機増粘剤又はセルロースナノファイバーを含有する。このような増粘剤が含有されることにより、酸化タングステン粒子のD50が大きい場合であっても、酸化タングステン粒子を含む光触媒の沈降が抑制され、光触媒の分散安定性を向上できる。
【0021】
光触媒活性を低下させることなく、光触媒の分散安定性を向上させるためには、酸化タングステン粒子の含有率が、増粘剤と分散媒との混合物の質量に対して、0.5質量%以上50.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以上30.0質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
組成物は、光触媒粒子として、1種の酸化タングステン粒子のみを含有してもよく、2種以上の酸化タングステン粒子を含有してもよい。組成物に含有される光触媒は、酸化タングステン粒子を主成分とする。但し、組成物は、光触媒粒子として、酸化タングステン粒子に加えて、酸化タングステン粒子以外の光触媒粒子を更に含有していてもよい。
【0023】
<増粘剤>
増粘剤は、無機増粘剤又はセルロースナノファイバーを含む。無機増粘剤及びセルロースナノファイバーは、組成物に光が照射された際に、組成物に含有される光触媒によって、分解されない又は分解され難い。そのため、組成物に含有される光触媒によって増粘剤よりも分解対象物が優先的に分解され、組成物の光触媒活性の低下を抑制できる。また、無機増粘剤及びセルロースナノファイバーは、光触媒と分解対象物との接触を阻害し難い。
【0024】
無機増粘剤としては、例えば、粘土増粘剤が挙げられる。粘土増粘剤の利点としては、粘土増粘剤に含有される粘土粒子が極めて小さいため、組成物に光が照射された際に、粘土増粘剤によって光の侵入が阻害され難いことが挙げられる。粘土増粘剤は、粘土鉱物を含有する。粘土増粘剤は、天然粘土増粘剤であってもよく、合成粘土増粘剤であってもよい。粘土増粘剤としては、層状珪酸塩鉱物が挙げられる。層状珪酸塩鉱物は、複数個(例えば、多数個)の層を備える。複数個の層は、各々、珪素原子と酸素原子とを少なくとも含有する。層状珪酸塩鉱物としては、例えば、ベントナイト、スメクタイト、マイカ、カオリン鉱物、及びタルクが挙げられる。ベントナイトは、モンモリロナイトを含有する。また、ヘクトライト、サポナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、ソーコナイト、及びスチーブンサイトを包括的に、スメクタイトと総称する。モンモリロナイトは、ベントナイト及びスメクタイトの各々に共通する粘土鉱物である。
【0025】
光触媒活性を低下させることなく、光触媒の分散安定性を向上させるためには、増粘剤としては、無機増粘剤が好ましく、粘土増粘剤がより好ましく、層状珪酸塩鉱物がより一層好ましい。
【0026】
層状珪酸塩鉱物としては、スメクタイト又はベントナイトが更に好ましく、スメクタイトが一層好ましく、モンモリロナイトが特に好ましい。スメクタイト及びベントナイトは分散媒(特に、水)に対する膨潤性が高いことから、分散媒を含有する組成物に増粘性を付与できる。増粘性が付与された組成物中では、酸化タングステン粒子を含む光触媒の沈降が抑制されるため、光触媒の分散安定性を向上できる。
【0027】
層状珪酸塩鉱物としては、マイカ(特に、膨潤性マイカ)も好ましい。膨潤性マイカは、分散媒(特に、水)に対して膨潤性を有するマイカである。膨潤性マイカは分散媒(特に、水)に対する膨潤性が高いことから、分散媒を含有する組成物に増粘性を付与できる。増粘性が付与された組成物中では、酸化タングステン粒子を含む光触媒の沈降が抑制されるため、光触媒の分散安定性を向上できる。
【0028】
層状珪酸塩鉱物は、層状珪酸塩鉱物が備える各層の間に、層間イオンを有することが好ましい。層間イオンとしては、アルカリ金属イオンが好ましく、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、又はリチウムイオン(Li+)がより好ましく、ナトリウムイオン又はリチウムイオンが更に好ましい。層間イオンがカリウムイオンである場合と比較して、層間イオンがナトリウムイオン又はリチウムイオンである場合は、分散媒(特に、水)に対する層状珪酸塩鉱物の膨潤性が高くなる。
【0029】
層状珪酸塩鉱物は、層状珪酸塩鉱物が備える各層の間にナトリウムイオンを有することがより好ましい。層間イオンとしてナトリウムイオンを有する層状珪酸塩鉱物は、分散媒(特に、水)に対して、より高い膨潤性を有する。層間イオンであるナトリウムイオンに分散媒が引き寄せられ、層状珪酸塩鉱物が備える各層の間に分散媒が入り込む。分散媒が入り込むことで、層状珪酸塩鉱物が備える各層が互いに引き剥がされ、層状珪酸塩鉱物の表面積が大幅に増加して、組成物に増粘性が付与される。増粘性が付与された組成物中では、酸化タングステン粒子を含む光触媒の沈降が抑制されるため、光触媒の分散安定性を向上できる。
【0030】
分散媒(特に、水)に対する膨潤性が高く、分散媒を含有する組成物に増粘性を付与できることから、層状珪酸塩鉱物としては、層間イオンとしてナトリウムを有するスメクタイト、又は層間イオンとしてナトリウムを有する膨潤性マイカが好ましい。
【0031】
セルロースナノファイバーは、ナノ単位の繊維径を有する。セルロースナノファイバーの繊維径は、500nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、20nm以上50nm以下であることが更に好ましい。セルロースナノファイバーの繊維径は、例えば、電子顕微鏡を用いてセルロースナノファイバーを観察することにより測定できる。
【0032】
増粘剤の含有率は、酸化タングステン粒子の質量に対して、0.5質量%以上1000.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上50.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上35.0質量%以下であることが更に好ましく、0.5質量%以上20.0質量%以下であることが特に好ましい。増粘剤の含有率が酸化タングステン粒子の質量に対してこのような範囲内であると、酸化タングステン粒子を含む光触媒の沈降が抑制され、光触媒の分散安定性を向上できる。
【0033】
増粘剤の含有率は、分散媒の質量に対して、0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。増粘剤の含有率が分散媒の質量に対してこのような範囲内であると、酸化タングステン粒子を含む光触媒の沈降が抑制され、光触媒の分散安定性を向上できる。
【0034】
増粘剤と分散媒との混合物の粘度は、10.0mPa・s以上2000.0mPa・s以下であることが好ましく、10.0mPa・s以上100.0mPa・s以下であることがより好ましく、10.0mPa・s以上80.0mPa・s以下であることがより一層好ましく、55.0mPa・s以上70.0mPa・s以下であることが更に好ましく、55.0mPa・s以上65.0mPa・s以下であることが特に好ましい。増粘剤と分散媒との混合物の粘度がこのような範囲内であると、酸化タングステン粒子を含む光触媒の沈降が抑制され、光触媒の分散安定性を向上できる。また、増粘剤と分散媒との混合物の粘度が2000.0mPa・s以下であると、組成物の粘度が高くなり過ぎず、基材に対して組成物を好適に塗布できる。
【0035】
<分散媒>
分散媒としては、例えば極性溶媒が挙げられる。極性溶媒としては例えば、水、メタノール、エタノール、及びイソプロパノールが挙げられる。
【0036】
なお、組成物は、必要に応じて、バインダーを更に含有していてもよい。また、組成物は、必要に応じて、添加剤を更に含有していてもよい。
【0037】
<光触媒の濃度の変化率>
本実施形態の組成物の光触媒の濃度の変化率CA、CB、及びCCが、以下に示す範囲内であることが好ましい。光触媒の濃度の変化率CA、CB、及びCCについて、順に説明する。
【0038】
光触媒の濃度の変化率CAは、式(1A)で示される。光触媒の濃度の変化率CAは、0.0%以上2.5%以下であることが好ましく、0.0%以上2.0%以下であることがより好ましく、0.0%以上1.0%以下であることがより一層好ましい。
CA=|100×(C0-C21)/C0|・・・(1A)
【0039】
式(1A)中、C0は、組成物を攪拌した直後(攪拌終了直後)に所定位置において測定される組成物中の光触媒の質量パーセント濃度(単位:質量%)を示す。C21は、組成物を攪拌してから21時間後(攪拌終了から21時間後)に所定位置において測定される組成物中の光触媒の質量パーセント濃度(単位:質量%)を示す。所定位置は、容器に組成物を投入した場合に、組成物の表面から深さ1cmの位置である。組成物が液状である場合には、組成物の表面は、液面である。式(1A)中の「|100×(C0-C21)/C0|」は、100×(C0-C21)/C0の絶対値を示す。以下、「所定位置において測定される組成物中の光触媒の質量パーセント濃度」を、「上澄み濃度」と記載することがある。なお、組成物の攪拌条件は、実施例で後述する。
【0040】
光触媒の濃度の変化率CAは、組成物内での光触媒の沈降し易さを示す。光触媒の濃度の変化率CAが小さいほど、組成物内で沈降する光触媒の量が少ない。光触媒の濃度の変化率CAが大きいほど、組成物の上澄みにおける光触媒の濃度が低下して、組成物内で沈降する光触媒の量が多くなる。光触媒の濃度の変化率CAが0.0%以上2.5%以下であると、組成物内での光触媒の経時的な沈降が好適に抑制される。光触媒の経時的な沈降が抑制されることで、組成物の濃度を長時間にわたって均一に保つことができる。
【0041】
光触媒の濃度の変化率CBは、式(1B)で示される。光触媒の濃度の変化率CBは、0.0%以上10.0%以下であることが好ましく、0.0%以上5.0%以下であることがより好ましい。
CB=|100×(C0-C336)/C0|・・・(1B)
【0042】
式(1B)中のC0は、式(1A)中のC0と同義である。式(1B)中、C336は、組成物を攪拌してから336時間後(攪拌終了から336時間後)に所定位置において測定される組成物中の光触媒の質量パーセント濃度(単位:質量%)を示す。式(1B)中の「|100×(C0-C336)/C0|」は、100×(C0-C336)/C0の絶対値を示す。光触媒の濃度の変化率CBが0.0%以上10.0%以下であると、組成物内での光触媒の経時的な沈降を一層好適に抑制できる。
【0043】
光触媒の濃度の変化率CCは、式(1C)で示される。光触媒の濃度の変化率CCは、0.0%以上10.0%以下であることが好ましく、0.0%以上5.0%以下であることがより好ましい。
CC=|100×(C0-C672)/C0|・・・(1C)
【0044】
式(1C)中のC0は、式(1A)中のC0と同義である。式(1C)中、C672は、組成物を攪拌してから672時間後(攪拌終了から672時間後)に所定位置において測定される組成物中の光触媒の質量パーセント濃度(単位:質量%)を示す。式(1C)中の「|100×(C0-C672)/C0|」は、100×(C0-C672)/C0の絶対値を示す。光触媒の濃度の変化率CCが0.0%以上10.0%以下であると、組成物内での光触媒の経時的な沈降を特に好適に抑制できる。
【0045】
<アセトアルデヒド分解率>
組成物のアセトアルデヒド分解率DAと、光触媒のみのアセトアルデヒド分解率DBとは、式(4)を満たすことが好ましい。
85≦100×DA/DB≦100・・・(4)
【0046】
組成物のアセトアルデヒド分解率DAは、式(2)から算出される。
DA=100×(DA0-DA2)/DA0・・・(2)
【0047】
式(2)中、DA0及びDA2は、次の通りである。1.3gの光触媒を含有する量の組成物を準備する。組成物から分散媒を除去した後、分散媒を除去した組成物(例えば、光触媒と増粘剤とを含有し、分散媒を含有しない組成物)を、所定雰囲気に置く。DA0は、所定光を照射する前の所定雰囲気のアセトアルデヒド濃度である。DA2は、所定光を2.0時間照射した後の所定雰囲気のアセトアルデヒド濃度である。本実施形態において、所定雰囲気は、300ppmの濃度でアセトアルデヒドを含有する雰囲気とする。所定光は、450nmの中心波長を有し、2500ルクスの照度を有する光とする。
【0048】
光触媒のみのアセトアルデヒド分解率DBは、式(3)から算出される。
DB=100×(DB0-DB2)/DB0・・・(3)
【0049】
式(3)中、DB0及びDB2は、次の通りである。1.3gの光触媒のみを所定雰囲気に置く。DB0は、所定光を照射する前の所定雰囲気のアセトアルデヒド濃度である。DB2は、所定光を2.0時間照射した後の所定雰囲気のアセトアルデヒド濃度である。
【0050】
式(4)中の「100×DA/DB」は、光触媒単体のアセトアルデヒド分解率DBに対して、分散媒を除去した組成物のアセトアルデヒド分解率DAが、どの程度維持されているかを示す。組成物から分散媒を除去した状態は、基材に組成物を塗布して乾燥させた状態に相当する。「100×DA/DB」の値が高い程、光触媒単体のアセトアルデヒド分解率DBに対して、分散媒を除去した組成物のアセトアルデヒド分解率DAが低下し難いことを示す。このことは、増粘剤によって光触媒活性の低下が引き起こされていないこと又は引き起こされ難いことを示している。光触媒活性の低下を抑制するためには、90≦100×DA/DB≦100であることが好ましく、95≦100×DA/DB≦100であることがより好ましく、100×DA/DB=100であることが特に好ましい。
【0051】
<組成物の製造方法>
次に、組成物の製造方法を説明する。組成物の製造方法は、光触媒形成工程と、混合工程とを含む。なお、市販の光触媒を使用する場合には、光触媒形成工程は省略できる。
【0052】
(光触媒形成工程)
光触媒形成工程は、一次粉砕工程と、二次粉砕工程とを含む。光触媒形成工程は、必要に応じて、助触媒担持工程を更に含んでいてもよい。
【0053】
一次粉砕工程を説明する。一次粉砕工程において、酸化タングステン粒子を含む光触媒を液中で一次粉砕する。その後、液の少なくとも一部を除去することにより、光触媒の塊状物を得る。一次粉砕は、液を用いる湿式粉砕である。一次粉砕によって、光触媒の数平均一次粒子径を小さくすることができる。以下「数平均一次粒子径」を「一次粒子径」と記載することがある。一次粒子径が小さい程、光触媒の表面積が大きくなり、光触媒の光触媒活性を向上できる。光触媒の一次粒子径は、500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることが更に好ましく、100nm以下であることが一層好ましい。光触媒の一次粒子径の下限は特に限定されないが、例えば、10nm以上とすることができる。
【0054】
一次粉砕に用いる液としては、例えば、水、及びエタノールが挙げられる。一次粉砕を行う粉砕機としては、例えば、ホモジナイザー、超音波分散機、及びビーズミルが挙げられる。一次粉砕を行う粉砕機の周速が速くなる程、光触媒の一次粒子径は小さくなる。一次粉砕する時間が長くなる程、光触媒の一次粒子径は小さくなる。液の少なくとも一部を除去する方法としては、例えば、風乾、及び加熱乾燥が挙げられる。
【0055】
一次粉砕工程で得られた光触媒の塊状物を、二次粉砕工程で用いる。但し、以下の助触媒担持工程を行う場合には、光触媒を液中で一次粉砕した後、液の少なくとも一部を除去することなく、光触媒を含有する液を助触媒担持工程に用いてもよい。
【0056】
助触媒担持工程を説明する。助触媒担持工程において、酸化タングステン粒子に、助触媒を担持させる。助触媒を担持させる方法としては、例えば、加熱処理する方法、紫外線により光析出させる方法、及び可視光により光析出させる方法が挙げられる。
【0057】
助触媒担持工程において、助触媒の代わりに、助触媒の前駆体を添加してもよい。助触媒の前駆体が加熱されることで助触媒に変化して、酸化タングステン粒子に助触媒が担持される。助触媒が白金である場合、助触媒の前駆体として、例えば、酸化白金(II)、酸化白金(IV)、塩化白金(II)、塩化白金(IV)、塩化白金酸、ヘキサクロロ白金酸、若しくはテトラクロロ白金酸、又はこれらの錯体を添加することができる。
【0058】
二次粉砕工程を説明する。二次粉砕工程において、一次粉砕工程で得られた光触媒の塊状物を、気体中で二次粉砕する。助触媒担持工程を行う場合には、助触媒担持工程で得られた光触媒(詳しくは、助触媒を担持した酸化タングステン粒子)を、気体中で二次粉砕する。二次粉砕により、光触媒の二次粒子のD50が調整される。二次粉砕は、気体中で粉砕する乾式粉砕である。二次粉砕により、光触媒一次粒子が凝集して、光触媒二次粒子となる。
【0059】
気体中で二次粉砕することの具体例としては、大気中又は不活性ガス雰囲気中で二次粉砕することが挙げられる。二次粉砕は、粉砕機を用いて行うことができる。二次粉砕を行う粉砕機としては、例えば、衝突板式粉砕機(例えば、衝突板式ジェットミル)、流動層式粉砕機(例えば、流動層式ジェットミル)、機械式粉砕機(例えば、ハンマーミル)、及びボールミルが挙げられる。二次粉砕は、乳鉢及び乳棒を用いて行うこともできる。二次粉砕する時間が短くなる程、光触媒の二次粒子のD50は大きくなる。
【0060】
光触媒の二次粉砕物を、そのまま、混合工程に用いてもよい。或いは、光触媒の二次粉砕物を分級して、分級された光触媒を混合工程に用いてもよい。光触媒の二次粉砕物を分級することにより、光触媒の二次粒子のD50が更に調整される。分級機としては、例えば、気流式分級機、及び振動篩が挙げられる。分級条件を変更することにより、光触媒の二次粒子のD50を調整することができる。例えば、振動篩で分級する場合には、篩のメッシュ径が大きくなる程、光触媒の二次粒子のD50は大きくなる。
【0061】
(混合工程)
混合工程において、増粘剤と、分散媒と、光触媒とを混合する。混合することにより、組成物が得られる。光触媒の分散性を向上させるためには、増粘剤と分散媒とを第1攪拌して増粘剤と分散媒との混合物を得た後に、混合物と光触媒とを第2攪拌することが好ましい。混合及び攪拌は、例えば、攪拌機を用いて行うことができる。
【0062】
なお、組成物を基材に塗布して分散媒を乾燥させることにより、基材上に光触媒層が形成される。光触媒層は、基材上に備えられる。光触媒層は、酸化タングステン粒子を含む光触媒と、増粘剤とを含有する。酸化タングステン粒子は、光触媒層の裏面と接触する接触点を有することが好ましい。光触媒層の裏面は、光触媒層の基材側の面である。光触媒活性を有する金属のなかでも、酸化タングステンの比重は大きい。そのため、組成物を基材に塗布する際に、自重により酸化タングステン粒子が組成物内で沈降して、酸化タングステン粒子が基材に接触する。このようにして、酸化タングステン粒子に接触点を効率的に形成することができる。
【0063】
光触媒層に含有される酸化タングステン粒子は、接触点に加えて、露出領域を更に有することが好ましい。酸化タングステン粒子の露出領域は、増粘剤に被覆されることなく突出して、光触媒層の表面のうちの凸面の少なくとも一部を構成している。酸化タングステン粒子の露出領域は、直接、外気及び光に晒される。酸化タングステン粒子が露出領域を有することで、酸化タングステン粒子が分解対象物と接触でき、酸化タングステン粒子によって分解対象物が好適に分解される。例えば、1個の酸化タングステン粒子が、接触点及び露出領域の両方を有していることが好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0065】
[沈降試験(参考例)]
はじめに、参考例として沈降試験を行い、光触媒が沈降するという課題が生じるか否かを検討した。
【0066】
酸化チタン粒子(石原産業株式会社製「STS-01」、D50:0.13μm)47.1質量部と、水100.0質量部とを、容器に投入し、マグネチックスターラー(アズワン株式会社販売「REXIM」)を用いて、1500rpmで10分間攪拌した。このようにして、増粘剤を含有せず酸化チタン粒子を含有する沈降試験用サンプルを得た。容器内の沈降試験用サンプルの高さは、3cmであった。攪拌終了の直後(0時間経過後)に、ピペットを用いて、容器内の沈降試験用サンプルの表面(液面)から深さ1cmの位置の液0.5mLを取り出した。赤外線水分計(株式会社ケツト科学研究所製「FD-720」)を用いて、取り出した液の酸化チタン粒子の濃度を測定した。測定した酸化チタン粒子の濃度を、酸化チタン粒子の上澄み濃度とした。次いで、攪拌終了から所定時間経過後に、同じ方法により、酸化チタン粒子の上澄み濃度を測定した。酸化チタン粒子の上澄み濃度の測定では、所定時間を240時間及び384時間とした。
【0067】
次いで、酸化チタン粒子47.1質量部を酸化タングステン粒子(D50:3.1μm)25.0質量部に変更したこと、及び所定時間を21時間としたこと以外は、酸化チタン粒子の上澄み濃度の測定と同じ方法で、酸化タングステン粒子の上澄み濃度を測定した。なお、この酸化タングステン粒子の上澄み濃度を測定したサンプルは、後述する組成物(C-1)に相当する。
【0068】
酸化チタン粒子の上澄み濃度の測定結果を、表1に示す。酸化チタン粒子の濃度比率を表1及び
図1に示す。また、酸化タングステン粒子の上澄み濃度の測定結果を、表2に示す。酸化タングステン粒子の濃度比率を表2及び
図2に示す。なお、濃度比率は、攪拌終了から0時間経過後(即ち、攪拌直後)の上澄み濃度に対する、攪拌終了から所定時間経過後の上澄み濃度の比率である。
【0069】
【0070】
【0071】
表1及び
図1に示されるように、酸化チタン粒子は、攪拌終了から384時間経過した後であっても、上澄み濃度が低下せず、酸化チタン粒子が沈降され難かった。一方、酸化タングステン粒子は、攪拌終了から21時間経過した後に、上澄み濃度が0.1質量%まで低下し、酸化タングステン粒子の沈降が引き起こされていた。その理由としては、酸化タングステン粒子の比重が酸化チタン粒子の比重よりも大きく、酸化タングステン粒子が酸化チタン粒子よりも沈降し易いことが考えられる。また、酸化タングステンは酸化チタンよりも凝集し易く、酸化タングステン粒子の二次粒子のD
50が酸化チタン粒子の二次粒子のD
50よりも大きくなることが考えられる。以上のことから、酸化チタン粒子を含有する組成物においては、光触媒が沈降するという課題が生じ難いことが判明した。一方、酸化タングステン粒子を含有する組成物においては、光触媒が沈降するという課題が顕著となることが判明した。そこで、酸化タングステンを含有した場合であっても、光触媒の沈降を抑制でき分散安定性に優れる組成物を、以下の実施例で検討した。
【0072】
[実施例及び比較例に係る組成物]
表3に、実施例又は比較例に係る組成物(A-1)~(A-3)、(B-1)~(B-3)、及び(C-1)の構成を示す。
【0073】
【0074】
表3中の各用語は、次の意味である。「部」は「質量部」を示す。「増粘剤・水混合物粘度」は「増粘剤と分散媒(具体的には水)との混合物の粘度」を示す。「WO3」は「酸化タングステン粒子(W-A)」を示す。酸化タングステン粒子(W-A)の調製方法は、後述する。また、表3及び後述する表4及び表5中の以下に示す用語は、各々、次の意味である。
【0075】
「スメクタイト」として、クニミネ工業株式会社製「クニピアF」を使用した。クニピアFにおけるモンモリロナイトの含有率は、98.5%以上であった。また、クニピアFの主成分の化学式は、Si8(Al3.34Mg0.66)Na0.66O20(OH)4であった。クニピアFは、層間イオンとして、ナトリウムイオンを有していた。
【0076】
「CNF」は「セルロースナノファイバー」を示す。「CNF」として、セルロースナノファイバー(株式会社スギノマシン製「BiNFi-s(登録商標)」、繊維径:20nm以上50nm以下)を使用した。
【0077】
「マイカ」として、親水性膨潤性マイカ(片倉コープアグリ株式会社製「ソマシフME-100」)を使用した。ソマシフME-100は、層間イオンとして、ナトリウムイオンを有していた。
【0078】
「CMC」は「カルボキシメチルセルロース」を示す。「CMC」として、カルボキシメチルセルロース(三晶株式会社製「FINNFIX」)を使用した。
【0079】
「HEC」は「ヒドロキシエチルセルロース」を示す。「HEC」として、ヒドロキシエチルセルロース(三晶株式会社製「SANHEC」)を使用した。
【0080】
「HPMC」は「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」を示す。「HPMC」として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(三晶株式会社製「NEOVISCO-MC」)を使用した。
【0081】
次に、表3に示す組成物(A-1)~(A-3)、(B-1)~(B-3)、及び(C-1)の作製方法、測定方法及び測定結果、並びに評価方法及び評価結果について、説明する。
【0082】
[作製方法]
<酸化タングステン粒子(W-A)の作製>
以下の方法により、酸化タングステン粒子(W-A)を作製した。なお、酸化タングステン粒子(W-A)は、組成物(A-1)~(A-3)、(B-1)~(B-3)、及び(C-1)の作製に用いられる。
【0083】
(一次粉砕工程)
ビーズミル(日本コークス工業株式会社製メディア攪拌型湿式超微粉砕・分散機「MSC50」)を用いて、酸化タングステン(詳しくはWO3、キシダ化学株式会社製)135gと、イオン交換水1215gとを、一次粉砕して、酸化タングステンの分散液を得た。ビーズミルには、ビーズ(株式会社ニッカトー製、直径:0.1mm)を使用した。ビーズミルの条件は、周速10m/秒、及び処理時間360分であった。一次粉砕後の分散液に含有される酸化タングステンの一次粒子径は、約50nmであった。一次粉砕後の分散液を乾燥させることなく、助触媒担持工程に使用した。
【0084】
(助触媒担持工程)
一次粉砕工程で得られた酸化タングステンの分散液に、ヘキサクロロ白金(VI)・6水和物(キシダ化学株式会社製、固形分濃度:98.5%)を溶解させた。ヘキサクロロ白金(VI)・6水和物の添加量は、作製される酸化タングステン粒子(W-A)の質量に対して、白金単体の含有率が0.025質量%となるような量であった。次に、分散液を100℃で加熱して、水分を蒸発させた。これにより、白金を担持した酸化タングステンの塊状物を得た。
【0085】
(二次粉砕工程)
助触媒担持工程で得られた塊状物を、乳鉢及び乳棒を用いて粉砕し、白金を担持した酸化タングステンの粉砕物を得た。振動篩を用いて粉砕物を篩別し、目開き63μmの篩いを通過した酸化タングステン粒子を得た。得られた酸化タングステン粒子を純水に混合し、酸化タングステン粒子のスラリーを作製した。作製した酸化タングステン粒子のスラリーを噴霧乾燥させることにより、所望の粒径の(即ち、D50が3.1μmである)酸化タングステン粒子(W-A)を得た。得られた酸化タングステン粒子(W-A)は、助触媒として白金を担持していた。
【0086】
<組成物の作製>
(組成物(A-1)の作製)
マグネチックスターラー(アズワン株式会社販売「REXIM」)を用いて、増粘剤であるスメクタイト(クニミネ工業株式会社製「クニピアF」)5.0質量部と、分散媒である水95.0質量部とを、1500rpmで180分間、第1攪拌した。これにより、増粘剤と分散媒との混合物を得た。混合物に、光触媒である酸化タングステン粒子(W-A)25.0質量部を添加し、マグネチックスターラー(アズワン株式会社販売「REXIM」)を用いて、1500rpmで30分間、第2攪拌した。このようにして、組成物(A-1)を得た。
【0087】
(組成物(A-2)~(A-3)及び(B-1)~(B-3)の作製)
スメクタイト5.0質量部を表3に示す種類及び量の増粘剤に変更したこと、及び水95.0質量部を表3に示す量の水に変更したこと以外は、組成物(A-1)の作製と同じ方法で、組成物(A-2)~(A-3)及び(B-1)~(B-3)の各々を作製した。
【0088】
(組成物(C-1)の作製)
水100.0質量部に、光触媒である酸化タングステン粒子(W-A)25.0質量部を添加し、マグネチックスターラー(アズワン株式会社販売「REXIM」)を用いて、1500rpmで10分間攪拌した。このようにして、組成物(C-1)を得た。
【0089】
[測定方法及び測定結果]
<粘度>
上記<組成物の作製>で得られた増粘剤と分散媒との混合物の粘度を、JISZ 8803:2011に準拠した方法により測定した。詳しくは、混合物の粘度を、振動式粘度計(株式会社セコニック製「ビスコメイト VM-10A-L」)を用いて測定した。混合物の粘度の測定は、上記<組成物の作製>で第1攪拌が終了した直後、且つ酸化タングステン粒子(W-A)を添加する前に行った。測定結果は、上記表3に示す通りであった。なお、組成物(C-1)に関しては、増粘剤を添加していないため、混合物の粘度の測定は行わなかった。
【0090】
<酸化タングステン粒子(W-A)の粒子径>
上記<酸化タングステン粒子(W-A)の作製>で作製した酸化タングステン粒子(W-A)の二次粒子の粒子径を、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「マイクロトラック(登録商標)MT3000II」)を用いて測定した。酸化タングステン粒子(W-A)の二次粒子の体積基準における粒子径分布曲線を、
図3に示す。酸化タングステン粒子(W-A)の二次粒子のD
10は0.9μmであり、D
50は3.1μmであり、D
90は7.5μmであった。
【0091】
<酸化チタン粒子の粒子径>
酸化タングステン粒子(W-A)を酸化チタン粒子(石原産業株式会社製「STS-01」)に変更したこと以外は、酸化タングステン粒子(W-A)の粒子径の測定と同じ方法で、酸化チタン粒子の二次粒子の粒子径を測定した。なお、この酸化チタン粒子は、上記参考例で使用している。酸化チタン粒子の二次粒子の体積基準における粒子径分布曲線を、
図4に示す。酸化チタン粒子の二次粒子のD
10は0.08μmであり、D
50は0.13μmであり、D
90は0.19μmであった。
【0092】
なお、
図3及び
図4中の横軸は、体積基準で測定された測定対象の粒子径(単位:μm)を示す。
図3及び
図4中の縦軸は、体積基準で測定された各粒子径を有する測定対象の存在頻度(単位:%)を示す。
図3及び
図4に示す粒子径分布曲線において、粒子径の小さい側(0.01μm側)から積算した存在頻度が10%となる粒子径を、D
10とした。
図3及び
図4に示す粒子径分布曲線において、粒子径の小さい側(0.01μm側)から積算した存在頻度が50%となる粒子径を、D
50とした。
図3及び
図4に示す粒子径分布曲線において、粒子径の小さい側(0.01μm側)から積算した存在頻度が90%となる粒子径を、D
90とした。
【0093】
[評価方法及び評価結果]
<光触媒の分散安定性の評価>
上記表3に示す組成物(A-1)~(A-3)、(B-1)~(B-3)、及び(C-1)の各々について、光触媒の分散安定性を評価した。組成物を、容器に投入した。組成物を、マグネチックスターラー(アズワン株式会社販売「REXIM」)を用いて、攪拌した。攪拌条件は、1500rpmで10分間であった。容器内の組成物の高さは、3cmであった。攪拌終了の直後(0時間経過後)に、ピペットを用いて、容器内の組成物の表面(液面)から深さ1cmの位置の液0.5mLを取り出した。赤外線水分計(株式会社ケツト科学研究所製「FD-720」)を用いて、取り出した液の酸化タングステン粒子の濃度を測定した。測定した酸化タングステン粒子の濃度を、酸化タングステン粒子の上澄み濃度とした。次いで、攪拌終了から所定時間経過後に、同じ方法により、酸化タングステン粒子の上澄み濃度を測定した。この測定では、所定時間を21時間、336時間、及び672時間とした。
【0094】
組成物中の酸化タングステン粒子の上澄み濃度の測定結果及び濃度比率を、表4に示す。組成物(C-1)の上澄み濃度の測定結果及び濃度比率は、表2で既に示しているが、理解を助けるために、表4に再度示す。また、組成物(A-1)、(A-2)、(A-3)、(B-1)、(B-2)、及び(B-3)の濃度比率を、各々、
図5、
図6、
図7、
図8、
図9、及び
図10に示す。なお、組成物(C-1)の濃度比率は、
図2に既に示している。
【0095】
表4中の「濃度比率」は、攪拌終了から0時間経過後(即ち、攪拌直後)の上澄み濃度に対する、攪拌終了から所定時間経過後の上澄み濃度の比率を示す。表4中の「CA」は、式(1A)で示される光触媒の濃度の変化率CAを示す。式(1A)中の「C0」は、表4中の「時間」が0時間であるときの上澄み濃度である。式(1A)中の「C21」は、表4中の「時間」が21時間であるときの上澄み濃度である。表4中の「CB」は、式(1B)で示される光触媒の濃度の変化率CBを示す。式(1B)中の「C0」は、表4中の「時間」が0時間であるときの上澄み濃度である。式(1B)中の「C336」は、表4中の「時間」が336時間であるときの上澄み濃度である。表4中の「CC」は、式(1C)で示される光触媒の濃度の変化率CCを示す。式(1C)中の「C0」は、表4中の「時間」が0時間であるときの上澄み濃度である。式(1C)中の「C672」は、表4中の「時間」が672時間であるときの上澄み濃度である。表4中の組成物(A-3)の「測定せず」は、光触媒の沈降速度が組成物(A-1)と同程度であり、光触媒が沈降し難いことが確認されたため、測定を中断したことを示す。表4中の組成物(B-1)~(B-3)及び(C-1)の「測定せず」は、光触媒の大部分が沈降したため、次の所定時間における上澄み濃度を測定しなかったことを示す。
【0096】
【0097】
表3に示すように、組成物(A-1)~(A-3)は、酸化タングステン粒子を含む光触媒と、増粘剤と、分散媒とを含有していた。増粘剤は、無機増粘剤(詳しくは、スメクタイト又は膨潤性マイカ)又はセルロースナノファイバーであった。表4及び
図5~
図6に示すように、攪拌終了から672時間経過後であっても、組成物(A-1)及び(A-2)の上澄み濃度は20.3質量%以上であった。表4及び
図7に示すように、攪拌終了から336時間経過後であっても、組成物(A-3)の上澄み濃度は21.5質量%であった。一方、表3に示すように、組成物(B-1)~(B-3)に含有される増粘剤は、無機増粘剤及びセルロースナノファイバーではなかった。表4及び
図8~
図10に示すように、攪拌終了から336時間経過後の組成物(B-1)~(B-3)の上澄み濃度は6.7質量%以下であった。表3に示すように、組成物(C-1)には、増粘剤が含有されていなかった。表4及び
図2に示すように、攪拌終了から21時間経過後の組成物(C-1)の上澄み濃度は0.1質量%であった。以上のことから示されるように、組成物(A-1)~(A-3)は、組成物(B-1)~(B-3)及び(C-1)と比較して、上澄み濃度が低下し難く、光触媒の分散安定性に優れていた。
【0098】
<光触媒活性の評価>
組成物(A-1)~(A-3)及び(B-1)~(B-3)の各々について、光触媒活性を評価した。光触媒活性として、可視光が照射された光触媒によって引き起こされるアセトアルデヒドから二酸化炭素への分解活性を評価した。詳しくは、シャーレ(直径60mm)に、組成物に含有される光触媒の質量が1.3gとなるような量の組成物を入れ、組成物を80℃で30分間乾燥させた。このようにして、組成物中の水を蒸発させた。容量5Lのガスバッグ内に、乾燥後の組成物が入ったシャーレを置いた。ガスバッグ内に、濃度300ppmのアセトアルデヒドを充填した。次いで、光(中心波長:450nm、照度:2500ルクス)を、ガスバッグに照射した。光の照射前(0.0時間)、並びに光の照射開始から0.5時間、1.0時間、1.5時間、及び2.0時間経過したときに、ガスバッグ内のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度を測定した。アセトアルデヒド濃度の測定には、アセトアルデヒド用ガス検知管(株式会社ガステック製「92」)を用いた。二酸化炭素濃度の測定には、二酸化炭素用ガス検知管(株式会社ガステック製「2LC」)を用いた。なお、光触媒活性が高いほど、光触媒によって引き起こされるアセトアルデヒドから二酸化炭素への分解活性が高くなる。分解活性が高いほど、アセトアルデヒド濃度が低くなり、二酸化炭素濃度が高くなる。
【0099】
次いで、組成物ではなく、光触媒単体(酸化タングステン粒子(W-A)のみ)での光触媒活性を評価した。ガスバッグ内に乾燥後の組成物が入ったシャーレを置く代わりに、ガスバッグ内に1.3gの酸化タングステン粒子(W-A)が入ったシャーレを置いたこと以外は、組成物の光触媒活性の評価と同じ方法で、光触媒単体の光触媒活性を評価した。
【0100】
水除去後の組成物のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度の測定結果、並びに光触媒単体のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度の測定結果を、表5に示す。また、水除去後の組成物(A-1)、(A-2)、(A-3)、(B-1)、(B-2)、及び(B-3)のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度の測定結果を、各々、
図11、
図12、
図13、
図14、
図15、及び
図16に示す。光触媒単体のアセトアルデヒド濃度及び二酸化炭素濃度の測定結果を、
図17に示す。
図11~
図17中、菱形プロットはアセトアルデヒド濃度を示し、丸形プロットは二酸化炭素濃度を示す。
【0101】
表5中の用語の意味は、次の通りである。「C2H4O」は、ガスバッグ内のアセトアルデヒド濃度(単位:ppm)を示す。「CO2」は、ガスバッグ内の二酸化炭素濃度(単位:ppm)を示す。「光照射時間」は、光の照射開始から経過した時間(単位:時間)を示す。「DA」は、式(2)から算出される値を示す。式(2)中のDA0は、光照射時間が0.0時間であるときの組成物の「C2H4O」欄の値である。式(2)中のDA2は、光照射時間が2.0時間であるときの組成物の「C2H4O」欄の値である。「DB」は、式(3)から算出される値を示す。式(3)中のDB0は、光照射時間が0.0時間であるときの光触媒単体の「C2H4O」欄の値である。式(3)中のDB2は、光照射時間が2.0時間であるときの光触媒単体の「C2H4O」欄の値である。「式(4)値」は、式(4)から算出される値を示す。「-」は、式に該当しないため算出していないことを示す。
【0102】
【0103】
表3に示すように、組成物(A-1)~(A-3)は、酸化タングステン粒子を含む光触媒と、増粘剤と、分散媒とを含有していた。増粘剤は、無機増粘剤(詳しくは、スメクタイト又は膨潤性マイカ)又はセルロースナノファイバーであった。表5及び
図11~
図12に示すように、組成物(A-1)及び(A-2)を使用した場合、光照射開始から2時間経過したときのアセトアルデヒド濃度が0ppmであった。また、表5及び
図13に示すように、組成物(A-3)を使用した場合、光照射開始から2時間経過したときのアセトアルデヒド濃度が35ppmであった。一方、表3に示すように、組成物(B-1)~(B-3)に含有される増粘剤は、無機増粘剤及びセルロースナノファイバーではなかった。表5及び
図14~
図16に示すように、組成物(B-1)~(B-3)を使用した場合、光照射開始から2時間経過したときのアセトアルデヒド濃度が220ppm以上であった。更に、表5及び
図17に示すように、光触媒単体を使用した場合、光照射開始から2時間経過したときのアセトアルデヒド濃度が0ppmであった。以上のことから示されるように、組成物(A-1)~(A-3)は、組成物(B-1)~(B-3)と比較して、アセトアルデヒド濃度が低く、アセトアルデヒド分解活性が優れていた。また、組成物(A-1)~(A-3)を使用した場合のアセトアルデヒド濃度は、光触媒単体を使用した場合のアセトアルデヒド濃度と同程度であった。組成物(A-1)~(A-3)は、増粘剤を含有した場合であっても、光触媒単体と同程度のアセトアルデヒド分解活性を有していた。
【0104】
以上のことから、本発明に包含される組成物(A-1)~(A-3)は、光触媒活性を低下させることなく、光触媒の分散安定性を向上できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の組成物は、建築資材、自動車用内装材、家電製品及び繊維製品のような光触媒活性製品に利用することができる。