(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】吹付けコンクリートの配合設計方法、及びコンクリート吹付け方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/10 20060101AFI20230310BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
E21D11/10 D
E04G21/02 103B
(21)【出願番号】P 2019137660
(22)【出願日】2019-07-26
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】311004393
【氏名又は名称】ニシオティーアンドエム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】横内 静二
(72)【発明者】
【氏名】稲田 匠吾
(72)【発明者】
【氏名】天童 涼太
(72)【発明者】
【氏名】多寳 徹
(72)【発明者】
【氏名】谷口 裕史
(72)【発明者】
【氏名】室川 貴光
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨 豊
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-145147(JP,A)
【文献】特開2019-124650(JP,A)
【文献】特開平11-170244(JP,A)
【文献】特開2000-356578(JP,A)
【文献】特開平10-267921(JP,A)
【文献】特開2009-150108(JP,A)
【文献】特開2014-095286(JP,A)
【文献】特開2001-213658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
E04G 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル工事に用いられる吹付けコンクリートの配合を決定する方法において、
吹付けコンクリートの暫定配合を設定する暫定配合設定工程と、
前記暫定配合に基づいて試験用吹付けコンクリートを生成する試験練り工程と、
前記試験用吹付けコンクリートを用いてスランプ試験又はスランプフロー試験を行う第1試験工程と、
前記試験用吹付けコンクリートを用いてVロート試験を行う第2試験工程と、
前記第1試験工程により得られるスランプ値又はスランプフロー値と、前記第2試験工程により得られる流下時間と、に基づいて、前記試験用吹付けコンクリートの適否を判定する第1適否判定工程と、
前記第2試験工程により得られる連続性指標値に基づいて、前記試験用吹付けコンクリートの適否を判定する第2適否判定工程と、を備え、
前記第2試験工程では、単位時間当たりに流下した距離である流下速度を得るとともに、該流下速度の単位時間当たりの変化である前記連続性指標値を求め、
前記第1適否判定工程では、スランプ値又はスランプフロー値があらかじめ定めた許容範囲内にあり、且つ流下時間があらかじめ定めた時間閾値を下回るときに、前記試験用吹付けコンクリートを適切と判定し、
前記第2適否判定工程では、すべての前記連続性指標値があらかじめ定めた連続性閾値を下回るときに、前記試験用吹付けコンクリートを適切と判定し、
前記第1適否判定工程で適切と判定され、且つ前記第2適否判定工程で適切と判定された吹付けコンクリートに係る暫定配合を、トンネル工事に用いる吹付けコンクリートの計画配合として決定する、
ことを特徴とする吹付けコンクリートの配合設計方法。
【請求項2】
トンネル工事に用いられる吹付けコンクリートの配合を決定する方法において、
吹付けコンクリートの暫定配合を設定する暫定配合設定工程と、
前記暫定配合によって試験用吹付けコンクリートを生成する試験練り工程と、
前記試験用吹付けコンクリートを用いてスランプ試験又はスランプフロー試験を行う第1試験工程と、
前記試験用吹付けコンクリートを用いてVロート試験を行う第2試験工程と、
前記第1試験工程により得られるスランプ値又はスランプフロー値と、前記第2試験工程により得られる流下時間と、に基づいて、前記試験用吹付けコンクリートの適否を判定する第1適否判定工程と、
前記第2試験工程により得られる連続性指標値に基づいて、前記試験用吹付けコンクリートの適否を判定する第2適否判定工程と、を備え、
前記第2試験工程では、単位時間当たりに流下した距離である流下速度を得るとともに、該流下速度の単位時間当たりの変化である前記連続性指標値を求め、
前記第1適否判定工程では、スランプ値又はスランプフロー値があらかじめ定めた許容範囲内にあり、且つ流下時間があらかじめ定めた時間閾値を下回るときに、前記試験用吹付けコンクリートを適切と判定し、
前記第2適否判定工程では、連続する前記連続性指標値が正負反転したときに、前記試験用吹付けコンクリートを不適と判定し、
前記第1適否判定工程で適切と判定され、且つ前記第2適否判定工程で不適と判定されない吹付けコンクリートに係る暫定配合を、トンネル工事に用いる吹付けコンクリートの計画配合として決定する、
ことを特徴とする吹付けコンクリートの配合設計方法。
【請求項3】
掘削中のトンネルにコンクリートを吹き付ける方法において、
請求項1又は請求項2記載の吹付けコンクリートの配合設計方法によって、吹付けコンクリートの配合を決定する配合設計工程と、
前記配合設計工程で決定された配合によって、吹付けコンクリートを生成するコンクリート混錬工程と、
前記コンクリート混錬工程で生成された吹付けコンクリートを、コンクリート圧送ポンプで圧送するとともに、液体急結材を添加しながら、1つのノズルを有するコンクリート吹付け機で、掘削した地山に吹き付ける吹付け工程と、
を備えたことを特徴とするコンクリート吹付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、トンネル工事に用いられる吹付けコンクリートに関する技術であり、より具体的には、コンクリート吹付け工におけるリバウンド率を従来に比して改善することができる吹付けコンクリートの配合設計方法と、コンクリート吹付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国の国土は、およそ2/3が山地であるといわれており、そのため道路や線路など(以下、「道路等」という。)は必ずといっていいほど山地部を通過する区間がある。この山地部で道路等を構築するには、斜面の一部を掘削する切土工法か、地山の内部をくり抜くトンネル工法のいずれかを採用するのが一般的である。トンネル工法は、切土工法に比べて施工単価(道路等延長当たりの工事費)が高くなる傾向にあるものの、切土工法よりも掘削土量(つまり排土量)が少なくなる傾向にあるうえ、道路等の線形計画の自由度が高い(例えば、ショートカットできる)といった特長があり、これまでに建設されたトンネルは10,000を超えるといわれている。
【0003】
山岳トンネルの施工方法としては、昭和50年代までは鋼アーチ支保工に木矢板を組み合わせて地山を支保する「矢板工法」が主流であったが、現在では地山強度を積極的に活かすNATM(New Austrian Tunnelling Method)が主流となっている。NATMは、地山が有する強度(アーチ効果)に期待する設計思想が一つの特徴であり、従来の矢板工法に比べトンネル支保工の規模を小さくすることができ、しかも施工速度を上げることができることから施工コストを減縮することができる工法として知られている。
【0004】
またNATMは、本格的に実施されて以来、飛躍的に掘削技術が進歩しており、種々の補助工法が開発されることによって様々な地山に対応することができるようになり、さらに掘削機械(特に、自由断面掘削機)の進歩によって発破掘削のほか機械掘削も行われるようになった。この機械掘削は、掘削断面積や線形にもよるものの一般的には比較的低い強度(例えば、一軸圧縮強度が49N/mm2以下)の地山に対して採用されることが多く、一方、対象地山に岩盤が存在する場合はやはり発破掘削が採用されることが多い。
【0005】
ここでNATMによる掘削手順について簡単に説明する。はじめに、トンネル切羽の掘削を行う。発破掘削の場合は、ドリルジャンボによって削孔して火薬(ダイナマイト)を装填し、作業員と機械が退避したうえで発破する。一方、機械掘削の場合は、自由断面掘削機によってトンネル切羽を切削していく。1回(1サイクル)の掘削進行長(1スパン長)は、地山の強度に応じて設定される支保パターンによって異なり、一般的には1.0m~2.0mのスパン長で掘削が行われる。1スパン長の掘削を行うと、不安化した地山部分(浮石など)を落とす「こそく」を行いながらダンプトラック(あるいはレール工法)によってズリを搬出(ズリ出し)する。そしてズリ出し後に、必要に応じて1次コンクリート吹付けを行ったうえで鋼製支保工を建て込み、2次コンクリート吹付けを行った後にロックボルトの打設を行う。なお、1次コンクリート吹付けと2次コンクリート吹付けは、掘進した分、すなわち素掘り部分のトンネル内周面(側壁から天端にかけた周面)に対して行われる。
【0006】
NATMにおいてトンネル切羽を安定させることは、安全施工の意味からも極めて重要であり、地山強度や湧水、あるいはトンネル切羽の挙動等によっては、トンネル切羽に対して補助工法が行われる。例えば、トンネル切羽を安定させるためのコンクリート吹付け(鏡吹付け)やロックボルト(鏡ボルト)の打設、水抜きボーリング、あるいは先受け工としてのフォアポーリングや長尺フォアパイリングなどが行われる。このうちトンネル切羽のコンクリート吹付けは、段取りや作業が比較的容易であり、トンネル切羽の縦断方向(掘進方向)の緩みを抑えることができるうえ、トンネル切羽の肌落ちを防止することができ、しかも膨張性地山の場合は空気や水分から隔離することができることから、実践的かつ効果的な補助工法といえる。
【0007】
上記したとおりNATMによるトンネル掘削方法は、切羽の掘削~ロックボルトの打設を1つの施工サイクルとし、途中、支保パターンは随時変化していくものの、この施工サイクルを繰り返し行うことで貫通するまで掘進していく方法である。したがって、1施工サイクルにかかる時間(以下、「サイクルタイム」という。)が、トンネル工事全体の工期の基礎となり、サイクルタイムを短くすることができれば工期短縮に直結するし、逆にサイクルタイムが長くなれば工期が長引くことになる。工期を短縮することは、いち早く完成品を引き渡すことができるうえに、人件費や機械損料、間接経費などが圧縮されて工事費の低減化を図ることができるため、トンネル工事においてサイクルタイムを短縮することは極めて重要かつ有効な手段とされている。
【0008】
サイクルタイムを短縮するには、施工サイクルを構成する切羽掘削やズリ出し、鋼製支保工の建込み、コンクリート吹付け、ロックボルトの打設などの各工程のうちいずれか(あるいはいくつか)を短縮することが考えられる。これまでにも、施工サイクルを構成する各工程に対してそれぞれ施工時間を短縮する技術が提案されており、例えば特許文献1では、コンクリート吹付けにかかる時間を短縮する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、従来のコンクリート吹付け機が1つのノズルであったところ、2つのノズルを有するコンクリート吹付け機について提案するとともに、これを用いた施工方法について提案している。2つのノズルのうち一方のノズルでトンネル断面右側のコンクリート吹付けを行い、同時に他方のノズルでトンネル断面左側のコンクリート吹付けを行うことで、コンクリート吹付けにかかる時間の短縮を図るわけである。しかしながら、特許文献1で提案されるコンクリート吹付け機は、2つのノズルを有するが故に大型化し複雑化するため、機械そのものが高価となることから機械損料が高騰するうえ、そもそも断面が比較的小さいトンネルでは採用できないといった問題がある。
【0011】
ところで、「吹付けコンクリート指針(案)[トンネル編](コンクリート委員会 吹付けコンクリート研究小委員)」にも示されているように、従来のコンクリート吹付けにおける一般的なはね返り率(以下、「リバウンド率」という。)は概ね20~30%であることが知られている。なお、このリバウンド率は、実際に吹き付けたコンクリート量Qaと、地山に付着することなくはね返るコンクリート量Qrの比率(Qr/Qa)である。すなわち、20~30%のコンクリート材料をロスしているだけでなく、そのロス分を吹き付けるために余分な施工時間も要しているわけである。
【0012】
また従来では、比較的大きな吐出量(例えば18m3/h)を有するコンクリート吹付け機(以下、「大容量コンクリート吹付け機」という。)が現存するにもかかわらず、吐出量10~15m3/hのコンクリート吹付け機を用いてコンクリート吹付けを行っていた。なぜなら、大容量コンクリート吹付け機を用いると、リバウンド率がさらに大きく(つまり30%以上)なることが知られているからである。
【0013】
さらに、コンクリート吹付け機にコンクリートを圧送する摺動式ポンプに関しても問題を指摘することができる。
図8に示す摺動式ポンプSPは、ピストンの摺動(切替)によってコンクリートをコンクリート配管内に送り出す装置であり、具体的にはこのピストンの摺動に同期するようにコンクリートが断続的に、つまり脈動しながら(流動と停止を繰り返しながら)コンクリート配管内に送られる。このとき、脈動によって実際に圧送されるコンクリート量は理論上の圧送量を下回り、一般的にその圧送効率(理論上の圧送量に対する実圧送量の比率)は80%程度といわれている。
【0014】
本願の発明者らは、上記した従来技術の問題は吹付けコンクリートの品質(性能)に原因があると考え、吹付けコンクリートの品質(性能)を改善することによって、コンクリート吹付けにおけるリバウンド率を低減することができ、しかも大容量コンクリート吹付け機を用いてもなお従来のリバウンド率より低減することができ、さらに従来技術よりも摺動式ポンプの圧送効率を向上することができることを見出した。
【0015】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、コンクリート吹付けにおけるリバウンド率や摺動式ポンプの圧送効率を改善することができる、すなわちコンクリート吹付けにかかる時間(つまりサイクルタイム)の短縮を図ることができる吹付けコンクリートの配合設計方法と、コンクリート吹付け方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明は、スランプ試験(スランプフロー試験)によるスランプ値(スランプフロー値)とVロート試験による流下時間に基づいて吹付けコンクリートの適否を判定するとともに、Vロート試験により得られる連続性指標値に基づいてコンクリートの適否を判定することによって、目標とする吹付けコンクリートの配合を得る、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0017】
本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法は、トンネル工事に用いられる吹付けコンクリートの配合を決定する方法であって、暫定配合設定工程と試験練り工程、第1試験工程、第2試験工程、第1適否判定工程、第2適否判定工程を備えた方法である。このうち暫定配合設定工程では、吹付けコンクリートの暫定配合を設定し、試験練り工程では、暫定配合に基づいて試験用吹付けコンクリートを生成する。また第1試験工程では、試験用吹付けコンクリートを用いてスランプ試験(あるいはスランプフロー試験)を行い、第2試験工程では試験用吹付けコンクリートを用いてVロート試験を行い、「流下時間」と「流下速度(単位時間当たりに流下した距離)」を得るとともに、「連続性指標値(流下速度の単位時間当たりの変化)」を求める。第1適否判定工程では、スランプ値(スランプフロー値)があらかじめ定めた許容範囲内にあり、且つ流下時間があらかじめ定めた時間閾値を下回るときに、試験用吹付けコンクリートを適切と判定し、第2適否判定工程では、すべての連続性指標値があらかじめ定めた連続性閾値を下回るときに、試験用吹付けコンクリートを適切と判定する。そして、第1適否判定工程で適切と判定され、且つ第2適否判定工程で適切と判定された吹付けコンクリートに係る暫定配合を、トンネル工事に用いる吹付けコンクリートの計画配合として決定する。
【0018】
本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法は、第2適否判定工程において連続する連続性指標値が正負反転したときに試験用吹付けコンクリートを不適と判定することもできる。この場合、第1適否判定工程で適切と判定され、且つ第2適否判定工程で不適と判定されない吹付けコンクリートに係る暫定配合を、トンネル工事に用いる吹付けコンクリートの計画配合として決定する。
【0019】
本願発明のコンクリート吹付け方法は、掘削中のトンネルにコンクリートを吹き付ける方法であって、配合設計工程とコンクリート混錬工程、吹付け工程を備えた方法である。このうち配合設計工程では、本願発明のコンクリートの配合設計方法によって吹付けコンクリートの配合を決定し、コンクリート混錬工程では、配合設計工程で決定された配合に基づいて吹付けコンクリートを生成する。そして吹付け工程では、コンクリート混錬工程で生成された吹付けコンクリートを、コンクリート圧送ポンプで圧送するとともに、液体急結材を添加しながら、1つのノズルを有するコンクリート吹付け機で、掘削した地山に吹き付ける。
【発明の効果】
【0020】
本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法、及びコンクリート吹付け方法には、次のような効果がある。
(1)大容量コンクリート吹付け機(例えば吐出量18m3/h)を用いてコンクリート吹付けを行っても、従来技術よりリバウンドを低減することができる。その結果、サイクルタイムを大幅に短縮することができ、すなわち工期が短縮されることで全体の工事費を低減することができる。
(2)従来約80%であった摺動式ポンプの圧送効率が95%程度まで向上するため、この点においてもサイクルタイムを短縮することができる。
(3)液体急結材を用いることによって、大容量コンクリート吹付け機を用いてコンクリート吹付けを行っても、従来技術と同程度の粉塵濃度(例えば、切羽後方50m地点における粉塵濃度3mg/m3)を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図2】Vロート試験によって得られる連続性指標値を説明するグラフ図。
【
図3】第1適否判定において暫定配合が適切と判断される条件を示すグラフ図。
【
図4】(a)は第2適否判定において連続性閾値による適切判断の考え方を示すグラフ図、(b)は第2適否判定において連続性指標値の正負反転による適切判断の考え方を示すグラフ図。
【
図5】本願発明のコンクリート吹付け方法の主な工程を示すフロー図
【
図6】本願発明のコンクリート吹付け方法を実施するための設備配置の一例を示すブロック図。
【
図7】(a)は従来工法と本願発明による実証施工それぞれのリバウンド率を示す結果図、(b)は従来工法と本願発明による実証施工それぞれのサイクルタイムを示す結果図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法、及びコンクリート吹付け方法の実施形態の例を図に基づいて説明する。本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法は、トンネル工事に用いられる吹付けコンクリートの配合を決定する方法であり、一方、本願発明のコンクリート吹付け方法は、本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法で決定された配合のコンクリートをトンネル工事において吹き付ける方法である。そこで、まずは本願発明のコンクリートの配合設計方法について説明し、その後に本願発明のコンクリート吹付け方法について説明することとする。
【0023】
1.吹付けコンクリートの配合設計方法
本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法ついて、おもに
図1を参照しながら詳しく説明する。
図1は、本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、その中央の列に実施する工程を示し、左列にはその工程に必要なものを、右列にはその工程から得られるものを示している。
【0024】
ここでいうコンクリートの配合設計とは、セメントや水、骨材(細骨材と粗骨材)、混和剤、その他フライアッシュなどの単位量(kg/m3)を決定することであり、特に、大容量コンクリート吹付け機を用いても従来のリバウンド率より低減することができ、しかも従来技術よりも摺動式ポンプの圧送効率を向上することができる吹付けコンクリートの配合を決定することである。ところで本願の発明者らは、大容量かつ低リバウンドでしかも低粉塵のコンクリート吹付けを実現するには、「圧送量の増大」と「安定した吐出」が極めて重要であると考え、さらにそのためには「粘性」と「流動性」と「変形性」をバランスよく備えたいわば高規格配合のコンクリートが必要であることを見出した。圧送量の増大は、当然ながら吹付けコンクリートの大容量化と吐出量の増大に貢献し、一方、吐出の安定は、コンクリートの吐出が安定することでノズル手前においてエアーや急結剤がムラなく混入する、吹付け作業のノズルワークが容易になる、といった効果があり、またこれらの効果が結果的に低リバウンドや低粉塵のコンクリート吹付けに貢献するわけである。そして、「粘性」と「流動性」と「変形性」をバランスよく備えた高規格配合のコンクリートは、摺動式ポンプのポンプシリンダー内への流入効率を高め、これにより「圧送量の増大」と脈動の抑制による「吐出の安定化」を確保し、すなわち摺動式ポンプの「圧送効率」を向上させる。また本願の発明者らは、高規格配合の吹付けコンクリートとするための3つの特性(粘性、流動性、変形性)を評価するには、「スランプ値(スランプフロー値)」とVロート試験による「流下時間」に基づいてコンクリートの適否を判定し、さらに後述する「連続性指標値」に基づいてコンクリートの適否を判定する2段階評価が有効であることを見出した。すなわち本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法は、この2段階評価を含むことをひとつの特徴としている。
【0025】
図1に示すように、まずは暫定的なコンクリート配合(以下、「暫定配合」という。)を設定する(Step101)。そして、ここで設定された暫定配合に基づいて試験用としてのコンクリート(以下、「試験用吹付けコンクリート」という。)を生成する(Step102)。試験用吹付けコンクリートが得られると、その一部を用いて第1の試験を行う(Step103)とともに、やはりその一部を用いて第2の試験を行う(Step104)。
【0026】
第1の試験(Step103)では、従来行われているフロー試験あるいはスランプフロー試験を行う。ここで、第1の試験としてフロー試験を行った場合はスランプ値が得られ、スランプフロー試験を行った場合はスランプフロー値が得られる。一方、第2の試験(Step104)では、従来行われているVロート試験を行う。Vロート試験は、例えばコンクリートの自己充填性を評価するときに採用される試験であり、試料(コンクリート)がロート内を流下する時間(流下時間)や、試料がロート内を単位時間に移動する距離(流下速度)などを取得するために行われる試験である。なお本願発明では、Vロート試験によって流下時間と流下速度のほか、「連続性指標値」を取得する。以下、この連続性指標値について説明する。
【0027】
図2は、Vロート試験によって得られる連続性指標値を説明するグラフ図である、なおこの図では、横軸を時間t、縦軸を流下速度vとしており、つまり試料(コンクリート)に係る流下速度vの時間変化を表している。そしてこの図に示すように連続性指標値αは、流下速度vの変化量をその時間で除した値であり、換言すれば単位時間あたりの流下速度vの変化量であり、いわば試料(コンクリート)が流下する際の加速度である。
【0028】
第1の試験によってスランプ値(スランプフロー値)が得られ、第2の試験によって流下時間と連続性指標値が得られると、2段階評価のうちの第1の評価(以下、「第1適否判定」という。)を行う(Step105)。この第1適否判定では、第1試験工程で得られたスランプ値(スランプフロー値)と、第2試験工程で得られた「流下時間」に基づいてその適否が判定される。より具体的には、
図3に示すようにスランプ値(スランプフロー値)があらかじめ定めた許容範囲内(
図3に示す「下限値」以上であって「上限値」以内)にあり、しかも流下時間があらかじめ定めた閾値(
図3で示す「時間閾値」)を下回る暫定配合を適切と判断し(Step105のYes)、この条件に該当しないものは不適と判断する(Step105のNo)。つまり、
図3のうち網掛けした領域が適切であり、その他の領域は不適と判断される。なお。第1適否判定で定められるスランプ値(スランプフロー値)の許容範囲は、例えば、普通強度のコンクリートであれば21±2cm、高強度のコンクリートであれば55±10cmとすることができ、一方、流下時間の時間閾値は、例えば、普通強度のコンクリートであれば7秒程度、高強度のコンクリートであれば10秒程度とすることができる。
【0029】
第1適否判定においてその暫定配合が不適と判断されたときは、改めて暫定配合を設定し(Step101)、第1適否判定(Step105)までの一連の工程を繰り返す。一方、第1適否判定においてその暫定配合が適切と判断されたときは、2段階評価のうちの第2の評価(以下、「第2適否判定」という。)を行う(Step106)。この第2適否判定では、第2試験工程で得られた「連続性指標値」に基づいてその適否が判定される。より具体的には、
図4(a)の「a部(破線部)」に示すように極端に大きな連続性指標値を示すケース、すなわち連続性指標値があらかじめ定めた閾値(以下、「連続性閾値」という。)を上回るときにその暫定配合が不適と判断され(Step106のNo)、これに対してすべての連続性指標値が連続性閾値を下回るときにはその暫定配合が適切と判断される(Step106のYes)。
【0030】
第2試験工程では、上記した連続性閾値による判断に代えて(あるいは加えて)連続性指標値の正負に着目してその適否を判定することもできる。より具体的には、
図4(b)の「b1部(破線部)」や「b2部(破線部)」に示すように連続する連続性指標値が正負反転したときにその暫定配合が不適と判断され(Step106のNo)、これに対して連続する連続性指標値が正負反転しないときにはその暫定配合が適切と判断される(Step106のYes)わけである。
【0031】
第2適否判定においてその暫定配合が不適と判断されたときは、改めて暫定配合を設定し(Step101)、第2適否判定(Step106)までの一連の工程を繰り返す。一方、第2適否判定においてその暫定配合が適切と判断されたときは、その暫定配合を実際のトンネル工事に用いる吹付けコンクリートの計画配合として決定する(Step107)。
【0032】
2.コンクリート吹付け方法
次に、本願発明のコンクリート吹付け方法ついて図を参照しながら説明する。なお、本願発明のコンクリート吹付け方法は、ここまで説明した本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法で決定された配合のコンクリートを、トンネル工事において吹き付ける方法であり、したがって本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明のコンクリート吹付け方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.吹付けコンクリートの配合設計方法」で説明したものと同様である。
【0033】
図5は、本願発明のコンクリート吹付け方法の主な工程を示すフロー図であり、
図6は、本願発明のコンクリート吹付け方法を実施するための設備配置の一例を示すブロック図である。本願発明のコンクリート吹付け方法を実施するにあたっては、まずは
図5に示すように吹付けコンクリートの計画配合を決定する(Step201)。もちろんこの計画配合は、本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法(Step101~Step107)を実施することによって決定される。
【0034】
吹付けコンクリートの計画配合を決定すると、例えば
図6に示すように必要な機械や設備を配置するとともに(Step202)、計画配合に基づいて吹付けコンクリートが混錬(生成)される(Step203)。
図6では、切羽側からノズルNZと高圧パイプHP、摺動式ポンプSP、そしてトラックミキサTMが配置され、さらに合流ノズルMNで合流するルート上に粉体助剤添加装置PAが配置されるとともに、別ルート上に液体急結材ポンプNPと液体急結材タンクCT、コンプレッサCMが配置されている。なお、ここでは摺動式ポンプSPを使用する例で説明しているが、摺動式のほかスウィング式やスクイズ式など従来用いられている種々のコンクリート圧送ポンプを使用することもできる。
【0035】
必要な機械や設備を配置し、計画配合に基づく吹付けコンクリートが生成されると、その吹付けコンクリートをトンネル掘削面(素掘り面)に対して吹き付ける(Step204)。以下、
図6を参照しながら吹付けコンクリートを吹き付ける手順について説明する。
【0036】
計画配合に基づく吹付けコンクリートがプラントで生成されると、この吹付けコンクリートはトラックミキサTMによってトンネル坑内まで運搬される。そして、摺動式ポンプSPに供給され、さらに高圧パイプHPを通じてノズルNZまで圧送される。一方、液体急結材タンクCTに貯留された液体急結材も、液体急結材ポンプNPとコンプレッサCMによって合流ノズルMNを通じてノズルNZまで圧送される。そしてこのノズルNZから、液体急結材が混入した吹付けコンクリートがトンネル掘削面(素掘り面)に対して吹き付けられる。このとき、コンクリート吹付け機の大型化や複雑化を避けるため1つのノズルNZを有するコンクリート吹付け機を用いて(つまり、
図6に示すように1のノズルNZを用いて)吹き付けるとよい。液体急結材に加えて、粉体助剤添加装置PAに貯留された粉体急結材を、コンプレッサCMによって合流ノズルMNを通じてノズルNZまで圧送することもできる。なお本願の発明者らが実証施工を行ったところ、ここで液体急結材を使用すると、大容量コンクリート吹付け機を用いてコンクリート吹付けを行っても、従来技術と同程度の粉塵濃度(例えば、切羽後方50m地点における粉塵濃度3mg/m
3)を維持することができることが確認できた。
【0037】
3.実証施工結果
以下、本願発明の効果を確認するために本願の発明者らが実施した実証施工の結果について説明する。もちろんこの実証施工は、秘密が保たれた状況のもと行われている。
【0038】
実証施工は、概ね
図6に示すような機器設備配置で行い、吐出量20m
3/hの大容量コンクリート吹付け機を用いて行った。そこで実証施工では、従来工法に対して本願発明のことを「大容量工法」と呼んでいる。
図7は、従来工法に対するコンクリート吹付け方法(以下、「本願工法」という。)の効果を示す図であり、(a)は従来工法と本願工法それぞれのリバウンド率を示す結果図、(b)は従来工法と本願工法それぞれのサイクルタイムを示す結果図である。
【0039】
図7(a)に示すように、本願工法によるリバウンド率は、大容量コンクリート吹付け機(吐出量20m
3/h)を用いてコンクリート吹付けを行ったにもかかわらず、12%と大幅に改善されている。従来工法のリバウンド率が27.5%であることを考えると、その効果が際だって優れたものであることが理解できる。また本願工法によれば、大容量コンクリート吹付け機を用いたうえ、さらにリバウンド率が改善したことから、時間当たりの吹付けコンクリートの付着量が従来工法の2倍以上(8.2m
3/hに対して17.6m
3/h)に増加している。
【0040】
また、
図7(b)に示すように本願工法によるコンクリート吹付け作業は、従来工法に比べ著しく短縮されている。具体的には、従来工法によるコンクリート吹付け作業が40分であったのに対して、本願工法によるコンクリート吹付け作業は20分であり、実に1/2まで短縮されている。これに伴い本願工法によるサイクルタイムも短縮され、具体的には従来工法の約93%(285分に対して265分)まで短縮されている。これは、トンネル施工における直接工事費が、概ね7%程度圧縮されることを意味する。
【0041】
さらに、この実証施工において本願の発明者らは、従来約80%であった摺動式ポンプの圧送効率が、本願工法によれば95%程度まで向上することを確認している。ここまで説明したように、本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法、及びコンクリート吹付け方法は、従来技術に対して際だって優れた効果を有しており、しかもこの効果は現状の当業者が予測することができる程度のものではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本願発明の吹付けコンクリートの配合設計方法、及びコンクリート吹付け方法は、道路トンネルや鉄道トンネルのほか、通水用トンネルなど様々なトンネル掘削に利用することができる。本願発明によれば、短い工期でトンネルを完成させることができ、すなわちトンネル構造物という社会基盤(社会インフラストラクチャ)を早々に利用することができることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0043】
CM コンプレッサ
CT 液体急結材タンク
HP 高圧パイプ
MN 合流ノズル
NP 液体急結材ポンプ
NZ ノズル
PA 粉体助剤添加装置
SP 摺動式ポンプ
TM トラックミキサ