(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20230310BHJP
B43K 7/01 20060101ALI20230310BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20230310BHJP
B43K 5/00 20060101ALI20230310BHJP
C09D 11/18 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K7/01
B43K8/02
B43K5/00
C09D11/18
(21)【出願番号】P 2019194495
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】大野 いつ香
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065246(JP,A)
【文献】国際公開第17/168817(WO,A1)
【文献】国際公開第18/181528(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00ー201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色材と水と界面活性剤とを含有し、前記界面活性剤が下式(1)で示されるポリシロキサン系界面活性剤である、筆記具用水性インキ組成物。
【化1】
式中aは1~500の整数、bは0~10の整数を示す。R
1はアルキル基、またはアリール基を示す。R
2a、R
2bは下記(A)、(B)、(C)、(D)の内の何れかの置換基で示され、R
2a、R
2bの内、少なくとも一つは(A)である。[但し、b=0の場合はR
2bの内の少なくとも一つが(A)である。]
(A)
【化2】
式中cは1~20の整数、dは0~50の整数、eは0~50の整数を示す。R
3は水素原子またはアルキル基を示す。R
4は水素原子、アルキル基、アシル基の何れかを示す。
(B)
【化3】
式中fは2~20の整数を示す。R
5は水素原子。アルキル基、アシル基、ジメチルプロピル骨格を有するエーテル基の何れかを示す。
(C)
【化4】
式中gは2~6の整数、hは2~20の整数、iは1~50の整数、jは0~10の整数、kは0~10の整数を示す。R
6は水素原子、アルキル基、アシル基の何れかを示す。
(D)アルキル基またはアリール基
【請求項2】
前記ポリシロキサン系界面活性剤の含有量が、前記水性インキ組成物全質量に対して0.01~5質量%である、請求項1に記載の水性インキ組成物。
【請求項3】
表面張力が20~40mN/mである、請求項1または2に記載の水性インキ組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の水性インキ組成物を収容した筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた筆記性を発現できる水性インキおよびそれを用いた筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水を主溶媒としたインキ(水性インキ)を用いた筆記具が知られ、盛んに利用されている。しかしながら、水は、紙面に対する濡れ性が十分でなく、紙面に速やかに浸透しにくいことから、水性インキを用いた筆記具は乾燥性に優れる筆跡を紙面に形成し難いことがあった。このため、水性インキの分野においては、紙面に対するインキの濡れ性を向上させる検討が行われている。 (例えば、特許文献1、2参照)
【0003】
特許文献1には、インキ中に特定の多価アルコールおよびグリコールエーテル類から選ばれる有機溶剤を含有した水性インキが記載されている。このインキは前記した特定の有機溶剤によって紙面に対する濡れ性が高められてインキの紙面浸透性が良好とされたインキであり、乾燥性に優れる筆跡を形成可能とされている。
しかしながら、前記従来技術のインキは着色材の分散安定性が不十分であり、着色材に顔料を用いた場合に前記有機溶剤の含有量を高めると、顔料が凝集、沈降して、インキ吐出性が悪化することがあった。
【0004】
特許文献2には、特定範囲のSP値(溶解度パラメータ)を有する水溶性有機溶剤とポリオキシエチレンステロール系界面活性剤からなる顔料分散剤とを含有する水性インキが記載されている。このインキもまた、特定の有機溶剤によって乾燥性に優れる筆跡を形成可能とされており、有機溶剤の含有量が高められた場合でも顔料分散剤によって顔料が凝集、沈降することが抑制可能とされている。
しかしながら、前記顔料分散剤はインキ中の溶解安定性が十分ではなく、その他のインキ成分の種類やその配合量によっては顔料分散剤がインキから析出することがあり、インキ中の顔料分散剤の含有量が不足して、やはり顔料が凝集、沈降し、インキ吐出性が悪化することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-193688号公報
【文献】特開2012-21045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の欠点を鑑みて成されたものである。即ち、乾燥性に優れる筆跡を形成可能であり、着色材に顔料を用いた場合でも顔料の凝集、沈降が抑制される筆記具用水性インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、
「1. 着色材と水と界面活性剤とを含有し、前記界面活性剤が下式(1)で示されるポリシロキサン系界面活性剤である、筆記具用水性インキ組成物。
【化1】
式中aは1~500の整数、bは0~10の整数を示す。R
1はアルキル基、またはアリール基を示す。R
2a、R
2bは下記(A)、(B)、(C)、(D)の内の何れかの置換基で示され、R
2a、R
2bの内、少なくとも一つは(A)である。[但し、b=0の場合はR
2bの内の少なくとも一つが(A)である。]
(A)
【化2】
式中cは1~20の整数、dは0~50の整数、eは0~50の整数を示す。R
3は水素原子またはアルキル基を示す。R
4は水素原子、アルキル基、アシル基の何れかを示す。
(B)
【化3】
式中fは2~20の整数を示す。R
5は水素原子。アルキル基、アシル基、ジメチルプロピル骨格を有するエーテル基の何れかを示す。
(C)
【化4】
式中gは2~6の整数、hは2~20の整数、iは1~50の整数、jは0~10の整数、kは0~10の整数を示す。R
6は水素原子、アルキル基、アシル基の何れかを示す。
(D)アルキル基またはアリール基
2. 前記ポリシロキサン系界面活性剤の含有量が、前記水性インキ組成物全質量に対して0.01~5質量%である、第1項に記載の水性インキ組成物。
3. 表面張力が20~40mN/mである、第1項または第2項に記載の水性インキ組成物。
4.第1項~第3項のいずれか1項に記載の水性インキ組成物を収容した筆記具。」とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、種々の基材に対して高い濡れ性を奏して優れた筆記性が発現する筆記具用水性インキ組成物が得られる。
前記インキ組成物は、ビヒクル成分が紙に速やかに浸透し、乾燥性に優れる筆跡を紙面に形成可能でありながら、紙面でインキが裏抜けすることを抑制できるとともに、被筆記面が非浸透面であってもカスレや線トビが抑制された鮮明な筆跡を形成できる。
さらに、前記インキ組成物は、筆記具が合成樹脂からなるインキ流路を備える場合であってもインキ流路に対する濡れが良好であり、ペン先へのインキ供給が円滑に行われることから、筆跡のカスレや抜けを抑制できる。
また、前記インキ組成物は、インキ成分が凝集、析出し難く、着色材に顔料を用いた場合でも、経時的に顔料が凝集、沈降してインキの分離が生じることや過度にインキ粘度が上昇することが抑制され、インキ吐出性の悪化が生じることなく長期に亘って安定した筆跡形成性を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0010】
本発明の水性インキ組成物(以下、場合により、「インキ組成物」または「組成物」と表すことがある。)は、着色材と、着色材の溶媒または分散媒であるビヒクルとからなる。以下、本発明による筆記具を構成する各成分について説明する。
【0011】
(着色材)
本発明の水性インキ組成物は、従来からの着色材を用いることができる。
顔料としては、カーボンブラック、金属酸化物または金属塩などの無機顔料、有機色素顔料またはレーキ顔料などの有機顔料、ならびにアルミニウム顔料などの光沢のある光輝性顔料、蛍光顔料、および熱変色性カプセル顔料が挙げられ、染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、反応染料、バット染料、硫化染料、含金染料、カチオン染料、分散染料および熱変色性カプセル顔料が挙げられる。
【0012】
顔料の具体例としては、無機顔料として、カーボンブラックや酸化チタン、酸化亜鉛、鉄黒、黄色酸化鉄、弁柄、複合酸化物系顔料等の金属酸化物、および群青などが、また有機顔料としてはアゾ系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、チオインジゴ系顔料、スレン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体系顔料、メチン・アゾメチン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料などが挙げられ、光沢のある光輝性顔料としては、アルミニウム顔料やガラスフレーク顔料などが挙げることができる。
前記顔料は、溶媒に分散させ、顔料分散体としたものでも良い。本発明に用いられる顔料分散体としては、例えば、SPシリーズ(冨士色素株式会社製)、SANDYESUPERCOLOURシリーズ(山陽色素株式会社製)、EMACOLシリーズ(山陽色素株式会社製)、ルミコールシリーズ(日本蛍光化学株式会社製)MICROPIGMOシリーズ、(オリヱント化学工業株式会社製)、WAシリーズ(大日精化工業株式会社製)などが挙げられる。
なお、このような顔料は、顔料表面が酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、および酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、二酸化ケイ素などの無機酸化物、および脂肪酸などで被覆処理されたものであってもよい。
【0013】
また、熱変色性カプセル顔料としては(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物が好適であり、マイクロカプセルに内包させて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料として適用される。
前記可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
更に、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている比較的大きなヒステリシス特性(ΔH=8~50℃)を示すものや、特開2006-137886号公報、特開2006-188660号公報、特開2008-45062号公報、特開2008-280523号公報、等に記載されている大きなヒステリシス特性を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包させ加熱消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
尚、前記水性インキに適用される色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち-50~0℃、好ましくは-40~-5℃、より好ましくは-30~-10℃、且つ、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち50~95℃、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃の範囲に特定し、ΔH値を40~100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0014】
(ポリシロキサン系界面活性剤)
水性インキ組成物は、ビヒクルに下式(1)に示すポリシロキサン系界面活性剤を含む。
前記界面活性剤は、ビヒクルの、紙や、ガラス、金属、合成樹脂、プラスチックフィルム、アート紙およびコート紙等の非浸透面の基材に対する濡れ性を良好として筆記性を高めることができる。例えば、被筆記面が紙である場合は、ビヒクルの紙への浸透性を高めて乾燥性に優れる筆跡を形成することができ、また、被筆記面がガラス、金属、合成樹脂、プラスチックフィルム、アート紙およびコート紙などの非浸透面である場合は、カスレや線トビが抑制された鮮明な筆跡を形成することができる。さらには、筆記具のペン先に通ずるインキ流路が合成樹脂からなる場合であっても、ペン先へのインキ供給が円滑に行われ、インキ吐出性が良好となることもその一例である。
ビヒクルの紙面への浸透性が良好なインキは着色材も紙面に浸透しやすく、インキの紙面裏抜けが生じやすい傾向にある。しかしながら、本発明のインキ組成物は、理由は定かではないが、前記の通り、ビヒクルの紙面への浸透性が良好でありつつも、紙面でインキの裏抜けが生じ難い。
【化1】
式中aは1~500の整数、bは0~10の整数を示す。R
1はアルキル基、またはアリール基を示す。R
2a、R
2bは下記(A)、(B)、(C)、(D)の内の何れかの置換基で示され、R
2a、R
2bの内、少なくとも一つは(A)である。[但し、b=0の場合はR
2bの内の少なくとも一つが(A)である。]
(A)
【化2】
式中cは1~20の整数、dは0~50の整数、eは0~50の整数を示す。R
3は水素原子またはアルキル基を示す。R
4は水素原子、アルキル基、アシル基の何れかを示す。
(B)
【化3】
式中fは2~20の整数を示す。R
5は水素原子。アルキル基、アシル基、ジメチルプロピル骨格を有するエーテル基の何れかを示す。
(C)
【化4】
式中gは2~6の整数、hは2~20の整数、iは1~50の整数、jは0~10の整数、kは0~10の整数を示す。R
6は水素原子、アルキル基、アシル基の何れかを示す。
(D)アルキル基またはアリール基
【0015】
さらに、前記ポリシロキサン系界面活性剤により本発明のインキ組成物は優れた安定性を奏し、経時的に前記ポリシロキサン系界面活性剤や、それ以外のインキ成分が凝集、析出することが抑制される。
本発明のインキ組成物は、着色材に顔料を用いた場合でも顔料が凝集、沈降して、インキの分離や過度にインキ粘度が上昇することが抑制され、インキ吐出性の悪化が生じることなく長期に亘って安定した筆跡形成性を奏する。
【0016】
前記ポリシロキサン系界面活性剤の具体例としては、製品名:TEGO Twin4000、製品名:TEGO Twin4100(以上、エボニックジャパン株式会社製)を挙げることができる。
インキ組成物に用いることができるポリシロキサン系界面活性剤は、前記に限られるものではない。
ポリシロキサン系界面活性剤は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0017】
ポリシロキサン系界面活性剤の含有量は、インキ組成物全質量に対して0.01~5質量%であることが好ましく、0.05~3質量%であることがより好ましい。含有量が前記範囲内であると、紙や非浸透面等の基材に対するインキ組成物の良好な濡れ性と安定性とを両立させやすい。
【0018】
(増粘剤)
水性インキ組成物は、ビヒクルに増粘剤を添加することもできる。これにより、経時的にインキ中の前記着色材が沈降、凝集することを抑え、インキ組成物の発色性およびペン先からのインキ吐出性が低下することを抑制しやすくなる。
増粘剤としては従来公知の物質を用いることが可能であるが、好ましくは、インキ組成物にせん断減粘性を付与できる物質である。前記物質を用いることにより、静置時に着色材が沈降、凝集しにくいインキ粘度としながらも、筆記時においてインキ組成物にせん断力が加わった際にインキが容易に低粘度化するため、着色材の沈降、凝集抑制と、良好なインキ吐出性とを両立させることが容易となる。なお、このようなインキ組成物は、ボールペンに好ましく用いることができる。これは、ボールペンは、筆記時にボールの回転に伴ってインキに強いせん断応力が加わるため、ペン先からのインキ吐出性がより良好となって発色性が一層優れる、鮮明な筆跡を形成することが可能であることによる。
【0019】
インキ組成物にせん断減粘性を付与できる増粘剤の具体例としては、キサンタンガム、ウェランガム、ゼータシーガム、ダイユータンガム、マクロホモプシスガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100万ないし800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万~15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ポリN-ビニル-カルボン酸アミド架橋物、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、無機質微粒子、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩やアミン塩等を例示できる。
【0020】
(その他)
また、水性インキ組成物は、必要に応じて以下の添加剤を用いることができる。
具体的には、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、セリサイト、およびチタン酸カリウムなどの体質材、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、およびポリグリセリンなどのアルコールまたはグリコール、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、およびフッ素樹脂などからなる樹脂粒子、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、アルキッド樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢ビ樹脂、塩ビ-酢ビ樹脂、スチレンとマレイン酸エステルとの共重合体、スチレン-アクリロニトリル樹脂、シアネート変性ポリアルキレングリコール、エステルガム、キシレン樹脂、尿素樹脂、尿素アルデヒド樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン系樹脂やその水添化合物、ロジンフェノール樹脂、ポリビニルアルキルエーテル、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、シクロヘキサノン系樹脂などの定着剤、pH調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、およびサポニンなどの防錆剤、尿素、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性等の各種界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性樹脂からなる顔料分散剤、還元又は非還元デンプン加水分解物、トレハロース等の二糖類、オリゴ糖、ショ糖、サイクロデキストリン、ぶどう糖、デキストリン、ソルビット、マンニット、およびピロリン酸ナトリウムなどの湿潤剤、エチレンジアミン四酢酸およびその塩等のキレート剤、防腐剤、気泡抑制剤、気泡吸収剤などの添加剤を用いることができる。
【0021】
水性インキ組成物の表面張力は、20℃下において、20~40mN/mが好ましく、22~38mN/mがより好ましい。表面張力が上記数値範囲内であれば、非浸透面上における筆跡形成性を良好にするとともに、紙面において、筆跡の滲みや紙面裏抜けを抑えつつ筆跡の乾燥性を良好とすることができる。また、筆跡カスレ・中抜けなどを抑制して、筆記性を向上させることができる。
なお、表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求められる。
【0022】
水性インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0023】
(筆記具)
水性インキ組成物は、ペン先、インキ充填機構、インキ充填機構に充填されたインキをペン先へ供給するためのインキ供給機構を備えた、ボールペン、マーキングペン、および万年筆等の筆記具に収容される。
【0024】
ペン先としては、チップ本体のボールハウス(ボール抱持室)にボールを回転自在に抱持したボールペンチップの他、繊維チップ、フェルトチップ、ならびにプラスチックチップなどのペン芯、および金属製の万年筆用のペン先などを好ましく用いることができる。
【0025】
ボールペンチップは、先端縁の内壁にボールを押圧するコイルスプリングを配設することによってボールペンチップ先端のシール性を保ち、チップ先端から水の蒸発を防いでインキ増粘を抑制しやすくすることで、ドライアップ性能向上をしやすくなるため、より好ましく用いることが可能である。
【0026】
また、ボールの材質は特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金や、ステンレス、炭化珪素、アルミナ、ジルコニアおよび窒化珪素などを例示することができる。
【0027】
筆記具のインキ充填機構は、水性インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、水性インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
筆記具が水性インキ組成物を直に充填する構成のものである場合、顔料の再分散を容易とするために、インキ収容体にはインキを攪拌する攪拌ボールなどの攪拌体を内蔵することが好ましい。前記攪拌体の形状としては、球状体、棒状体などが挙げられる。攪拌体の材質は特に限定されるものではないが、具体例として、金属、セラミック、樹脂、硝子などを挙げることができる。
また、筆記具が水性インキ組成物を充填することのできるインキ吸蔵体を備えるものである場合は、インキ吸蔵体は、撚り合わせた繊維を用いてなる繊維集束体が好ましい。
【0028】
本発明の筆記具の出没機構は、特に限定されず、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式、ノック式、回転式およびスライド式などが挙げられる。また、軸筒内にペン先を収容可能な出没式であってもよい。
【0029】
また、筆記具におけるインキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、(2)櫛溝状のインキ流量調節部材を備え、これを介在させ、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、(3)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介してインキ組成物をペン先へ誘導する機構、(4)弁機構によるインキ流量調節部材を備え、水性インキ組成物をペン先に供給する機構、および(5)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、水性インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構などを挙げることができる。
ペン先を具備したインキ収容体としては、前記ボールペンチップを先端に具備し、後端にグリース等の粘稠液体からなるインキ逆流防止体を充填したインキレフィルであっても良い。
【0030】
インキ組成物を収容する筆記具は、前記したペン先、インキ充填機構、ペン先出没機構、およびインキ供給機構の中から各部材を適宜選択して構成することが可能であり、いずれも好ましく用いることができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
下記原材料および配合量にて、室温で1時間攪拌混合することにより、水性インキ組成物を得た。
得られた水性インキ組成物の表面張力を、表面張力計測器(20℃環境下、垂直平板法、協和界面科学株式会社製)により測定したところ、27mN/mであった。
・青色染料 5質量%
(商品名:アシッドブルーPG、住友化学工業株式会社製)
・ポリシロキサン系界面活性剤A 0.5質量%
(商品名:TEGO Twin4000、エボニックジャパン株式会社製)
・ジエチレングリコール 10質量%
・リン酸エステル系界面活性剤
(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、商品名:プライサーフAL、第一工業製薬株式会社製)
・トリエタノールアミン 1質量%
・防腐剤(石炭酸) 0.3質量%
・水 残部
【0032】
(実施例2~4、比較例1~4)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1に示したとおりに変更して、実施例2~4、比較例1~4の水性インキ組成物を得た。
【0033】
水性インキ組成物について、表面張力計測器(垂直平板法、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃における表面張力を、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定した。
【0034】
上記実施例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
(1)青色染料(商品名:アシッドブルーPG、住友化学工業株式会社製)
(2)青色顔料分散液(24質量%水分散体、商品名:Sandye Super Blue GLL-E、山陽色素株式会社製)
(3)赤色顔料分散液(21.5質量%水分散体、商品名:Sandye Super Pink FBL、山陽色素株式会社製)
(4)熱変色性カプセル顔料
以下の手順で調整された可逆熱変色性マイクロカプセル顔料である。
(可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の調整手順)
1. (イ)成分として2-(ジブチルアミノ)-8-(ジペンチルアミノ)-4-メチル-スピロ[5H-[1]ベンゾピラノ[2,3-g]ピリミジン-5,1′(3′H)-イソベンゾフラン]-3-オン1.0部、(ロ)成分として4,4′-(2-エチルヘキサン-1、1-ジイル)ジフェノール3.0部、2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包した可逆熱変色性マイクロカプセル顔料懸濁液を得た。
2.前記懸濁液を遠心分離して 熱変色性マイクロカプセル顔料(1)を単離した。
前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径は2.0μm、完全消色温度は58℃であり、完全発色温度は-20℃であり、温度変化によりピンク色から無色に変色する。
3.前記マイクロカプセル顔料を-20℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料をピンク色に発色させた。
(5)ポリシロキサン系界面活性剤A(商品名:TEGO Twin4000、有効成分100%、エボニックジャパン株式会社製)
(6)ポリシロキサン系界面活性剤B(商品名:TEGO Twin4100、有効成分100%、エボニックジャパン株式会社製)
(7)ポリオキシエチレンフィトステロール(商品名:NIKKOL BPS-30、有効成分100%、日光ケミカルズ株式会社製)
(8)リン酸エステル系界面活性剤(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、商品名:プライサーフAL、有効成分100%、第一工業製薬株式会社製)
(9)キサンタンガム(商品名:ケルザン、三晶株式会社製)
【0035】
調製した水性インキ組成物を筆記具に収容し、下記の通り、評価を行った。得られた結果は表2に記載したとおりであった。
なお、評価試験では、以下のような筆記具を作成し試験に用いた。
ボールペンA:ボール外径が0.5mmの超硬合金製ボールを回転自在に抱持する金属製ボールペンチップのペン先と、インキ組成物を直詰め可能なインキ充填機構と、前記ペン先と前記インキ充填機構との間に介在し、多数の円盤体(ABS樹脂製)が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯(ポリアセタール樹脂製インキ誘導芯とポリエステル繊維製インキ誘導芯との連結芯)が配置されてなるペン芯を介してインキ組成物をペン先へ誘導する機構とを備えたボールペン(株式会社パイロットコーポレーション製、商品名:ハイテックポイントV5グリップ)に実施例1~2、比較例1~2で得られたインキ組成物を収容した。
ボールペンB:インキ収容筒の先端にボール径が0.5mmのボールを回転自在に抱持した金属製ボールペンチップを合成樹脂製チップホルダーに介して具備したインキ収容筒内(ポリプロピレン製)に実施例3~4、比較例3~4で作製したインキ組成物を充填し、後端に粘稠液体からなるインキ逆流防止体を充填したレフィルを(株)パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:Hi-Tec-05)に装着した。
【0036】
(筆跡乾燥性の評価)
前記筆記具で文字書き(筆記文字:小諸なる)を行い、筆記から3秒後に筆跡を紙(製品名:JKワイパー150―S、日本製紙クレシア株式会社製)で擦過した時のインキ組成物の筆跡周辺への広がりを目視により観察した。なお、筆記試験用の媒体として、白紙(旧JIS P3210 筆記用紙A)を用いた。
〇:筆跡周辺にインキが広がった形跡は確認されない。
×:筆跡周辺におけるインキの広がりが確認される。
【0037】
(インキの紙面裏抜け性の評価)
前記(筆跡乾燥性の評価)で形成した筆跡の紙面裏面部分を観察し、インキが裏抜けした形跡の有無を目視で確認した。
〇:裏抜けは確認されない。
×:裏抜けが確認される。
【0038】
(非浸透面への筆記性の評価)
前記筆記具により、アート紙(商品名:アート紙90K、株式会社活英社製)に筆記を行い、筆跡を目視により観察した。
〇:線トビやカスレがなく、鮮明である。筆跡の視認性は良好である。
×:線トビやカスレが確認され、筆跡の視認性が悪い。
【0039】
(インキ吐出性)
前記筆記具を自動筆記試験機に装着して筆記不能になるまで螺旋状の丸を連続筆記し、筆跡および筆記不能となった筆記具のインキ残量を目視で確認した。
なお、前記試験機は、筆記荷重50g、筆記角度70°、筆記速度4m/分の条件で使用した。
〇:筆記具内のインキ残りは確認されない(筆記具内のインキを消費しきった)。
筆記当初から筆記終了までカスレ、線トビがない、均一な筆跡が形成された。
△:筆記具内のインキ残りは確認されない。筆跡の所々にカスレや線トビ、筆跡濃度が低い部分が確認される。
×:筆記具内にインキ残りが確認される(筆記具内のインキを消費しきれなかった)。
【0040】
(インキの経時安定性)
各インキ組成物をガラス瓶に封入し、50℃環境下に30日間保管した後、前記ガラス瓶を室温下で放冷し、放冷後のインキの状態を目視で観察した。
〇:50℃環境下で保管する前と比較して変化なし。インキの異常は確認されない。
×:凝集物や析出物が確認される。
【0041】
(筆記具の経時安定性)
紙面への筆記で筆跡にカスレ線トビが生じないことを確認した前記筆記具を50℃環境下に30日間保管した後、室温下で放冷し、放冷後の筆跡形成性を目視で確認した。なお、筆記試験用の媒体として、白紙(旧JIS P3210 筆記用紙A)を用いた。
〇:50℃環境下で保管する前と比較して変化なし。筆跡は、カスレや線トビがなく、鮮明である。
×:50℃環境下で保管する前と比較して、悪化した。筆跡のカスレや線トビが確認されるか、若しくはインキを消費しきる前に筆記不能になった。
【0042】
【0043】