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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】ホットメルト組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 153/02 20060101AFI20230310BHJP
   C09J 191/00 20060101ALI20230310BHJP
   F21S 41/19 20180101ALI20230310BHJP
   F21W 102/00 20180101ALN20230310BHJP
【FI】
C09J153/02
C09J191/00
F21S41/19
F21W102:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021088054
(22)【出願日】2021-05-26
(62)【分割の表示】P 2016108867の分割
【原出願日】2016-05-31
(65)【公開番号】P2021120469
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】391047558
【氏名又は名称】ヘンケルジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】土橋 正明
(72)【発明者】
【氏名】森下 岳栄
(72)【発明者】
【氏名】白井 幸児
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-017392(JP,A)
【文献】特開2017-186527(JP,A)
【文献】特許第3029102(JP,B1)
【文献】特開平06-138671(JP,A)
【文献】特開2013-104046(JP,A)
【文献】特開平09-217001(JP,A)
【文献】特開2011-080021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 53/00- 53/02
C08L 91/00
C09J 153/00-153/02
C09J 191/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体、(B)炭化水素系液状軟化剤、及び(C)粘着付与樹脂を含むホットメルト接着剤組成物であって、
(A)熱可塑性ブロック共重合体は、重量平均分子量が50000~500000、スチレン含有率が5~50重量%であり、(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)を含み、
(B)炭化水素系液状軟化剤は、(B1)アニリン点が135℃以上170℃以下の炭化水素系オイルと、(B2)アニリン点が100℃以上135℃未満の炭化水素系オイルとをみ、
(C)粘着付与樹脂は、(C1)軟化点が120℃以上152℃以下の粘着付与樹脂を含み、
分(A1)100重量部に対し、成分(B1)と成分(B2)との総重量が900~1500重量部であり、成分(B1)の重量が500~900重量部、成分(B2)の重量が400~600重量部である、ホットメルト接着剤組成物。
【請求項2】
ホットメルト接着剤組成物の総量に対する(C)粘着付与樹脂の含有量が30~50重量%である、請求項1に記載のホットメルト接着剤組成物。
【請求項3】
成分(B2)100重量部に対して成分(B1)の含有量が700/6~225重量部である、請求項1または2に記載のホットメルト接着剤組成物。
【請求項4】
(A)熱可塑性ブロック共重合体が、さらに、(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のホットメルト接着剤組成物。
【請求項5】
(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)100重量部に対する、(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)の含有量が5~100重量部である、請求項に記載のホットメルト接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のホットメルト接着剤組成物を介し、レンズ部とハウジング部とが接合された灯具。
【請求項7】
請求項6に記載の灯具を有する車輌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト組成物、特に高温での接着剤の変形を防止し、灯具解体時には容易に離形できるホットメルト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車灯具用のシール剤としてホットメルト接着剤が利用されている。このホットメルト接着剤は、自動車灯具に対する高いシール性と、灯具修理時の解体を考慮し、灯具から離形可能であることが求められている。
【0003】
従来から、灯具用シール剤として、湿気硬化型ホットメルト接着剤が用いられているが、これらは、灯具のレンズとハウジング部の解体が難しく、内部の修繕を必要とする近年のLED型の灯具には不向きであった。そこで、スチレン系ブロック共重合体を含むホットメルト接着剤が灯具用シール剤として用いられることがある。
【0004】
特許文献1には、熱可塑性ブロック共重合体としてスチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)及びスチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)を含むホットメルト接着剤組成物が開示されている。特許文献2には、スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)およびスチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)を含むホットメルト組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-190287号公報
【文献】特開2008-127473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているホットメルト接着剤組成物は、高温での接着剤の変形を完全に防止することができなかった。また、特許文献2に記載されているホットメルト組成物は、経時試験後の解体性が低く、高温での接着剤の変形を完全に防止することができなかった。
【0007】
したがって、灯具からの離形が可能で、高温でも変形し難いホットメルト接着剤の開発が急務であった。特に近年、灯具の長期間使用を考慮し、ホットメルト接着剤にも、長期間使用しても接着強度の経時的な上昇が小さく、灯具からの離形が容易であることが強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ホットメルト組成物が、特定の熱可塑性ブロック共重合体と、アニリン点が高温の炭化水素系液状軟化剤とを含むことにより、高温で変形し難く、灯具等に対して接着力が十分でかつ離形が容易となることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明および本発明の好ましい態様は下記のとおりである。
【0010】
1.(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)と、
(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイルと
を含むホットメルト組成物。
【0011】
2.さらに、(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)を含む、上記1に記載のホットメルト組成物。
【0012】
3.(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)100重量部に対する、(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)の含有量が5~100重量部である、上記2に記載のホットメルト組成物。
【0013】
4.さらに、(C)粘着付与樹脂を含む、上記1~3のいずれかに記載のホットメルト組成物。
【0014】
5.(C)粘着付与樹脂が、(C1)軟化点が120℃以上の粘着付与樹脂を含む、上記4に記載のホットメルト組成物。
【0015】
6.さらに、カーボネート成分を含む、上記1~5のいずれかに記載のホットメルト組成物。
【0016】
7.さらに、アクリル成分を含む、上記1~6のいずれかに記載のホットメルト組成物。
【0017】
8.上記1~7のいずれかに記載のホットメルト組成物を介し、レンズ部とハウジング部とが接合された灯具。
【0018】
9.上記8に記載の灯具を有する車輌。
【発明の効果】
【0019】
本発明のホットメルト組成物は、高温での変形が発生しにくくて形態維持性が高く、基材への接着に優れ、これを用いた灯具等の解体が可能である。
【0020】
尚、本明細書において「形態維持性」とは、高温下でのホットメルト組成物の変形のしにくさと定義する。すなわち、高温での変形が少ないホットメルト組成物ほど、形態維持性に優れていると言える。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体、および(B)炭化水素系液状軟化剤を含むホットメルト組成物に関する。本発明のホットメルト組成物において、(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体は、(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)を含み、(B)炭化水素系液状軟化剤は、(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイルを含む。以下、各成分について説明する。
【0022】
<(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体>
(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体(以下、単に「(A)熱可塑性ブロック共重合体」または「成分(A)」とも記載する)とは、ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物とがブロック共重合した共重合体(その共重合体に基づく共重合体を含む)である。「(A)熱可塑性ブロック共重合体」は、ビニル系芳香族炭化水素ブロックと共役ジエン化合物ブロックとを有するブロック共重合体(未水素添加型ブロック共重合体)であっても、そのブロック共重合体が水素添加された水素添加型ブロック共重合体であってもよい。また、(A)熱可塑性ブロック共重合体は一種を単独で含んでも2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0023】
ここで、「ビニル系芳香族炭化水素」とは、ビニル基を有する芳香族炭化水素化合物を意味し、具体的には、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、及びビニルアントラセン等を例示できる。特にスチレンが好ましい。これらのビニル系芳香族炭化水素は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
「共役ジエン化合物」とは、少なくとも一対の共役二重結合を有するジオレフィン化合物を意味する。「共役ジエン化合物」として、具体的には、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(又はイソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンを例示することができる。1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエンが特に好ましい。これらの共役ジエン化合物は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0025】
「未水素添加型ブロック共重合体」として、具体的には、共役ジエン化合物に基づくブロックが水素添加されていないものが挙げられる。また、「水素添加型ブロック共重合体」としては、具体的には、共役ジエン化合物に基づくブロックの全部または一部が水素添加されたブロック共重合体が挙げられる。
【0026】
「水素添加型ブロック共重合体」の水素添加された割合を、「水素添加率」で示すことができる。「水素添加型ブロック共重合体」の「水素添加率」とは、共役ジエン化合物に基づくブロックに含まれる全脂肪族二重結合を基準とし、その中で、水素添加されて飽和炭化水素結合に転換された二重結合の割合をいう。この「水素添加率」は、赤外分光光度計及び核磁器共鳴装置等によって測定することができる。本発明に用いられる、スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)の水素添加率は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0027】
(A)熱可塑性ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、50000~500000であることが好ましく、150000~400000であることがより好ましい。(A)熱可塑性ブロック共重合体の重量平均分子量が上記範囲内にあることにより、形態維持性と剪断接着力、解体性に優れる。なお、本明細書において、重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用して、標準物質としての単分散分子量のポリスチレンを使用した検量線を用いて分子量を換算して求められる。
【0028】
(A)熱可塑性ブロック共重合体のスチレン含有率は、特に限定されないが、好ましくは5~50重量%であり、より好ましくは10~40重量%である。スチレン含有率とは、(A)熱可塑性ブロック共重合体に含まれるスチレンブロックの割合のことをいう。(A)熱可塑性ブロック共重合体のスチレン含有率が上記範囲内にあることにより、ホットメルト組成物が耐熱性に優れたものになる。
【0029】
本発明のホットメルト組成物において、(A)熱可塑性ブロック共重合体は、水素添加型ブロック共重合体である「(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)」を含む。(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)は、スチレン-ブタジエン-イソプレン-スチレンで形成されるブロック共重合体の水素添加物である。
【0030】
(A1)SEEPSは、プロセスオイル等の液状軟化剤で膨潤され、ホットメルト組成物にゴム弾性の性質を付与し、高い耐熱性、密着性、およびシール剤としての強度を発現させることができる。ホットメルト組成物の塗布時、加温によって、SEEPSは熱可塑性樹脂としての流動性を発現する。SEEPSとして市販品として、クラレ社製のセプトン4033、セプトン4044、セプトン4055、セプトン4077、セプトン4099が挙げられる。
【0031】
本発明のホットメルト組成物において、(A)熱可塑性ブロック共重合体は、(A1)SEEPSに加えて、別の水素添加型ブロック共重合体である「(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)」を含むのが好ましい。
【0032】
(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)は、スチレン-イソプレンで形成されるブロック共重合体の水素添加物である。SEPは、A-B型水添ブロック共重合体であるので、スチレンブロックが片末端にのみ存在し、共役ジエン化合物がもう一方の末端部に存在する。共役ジエン化合物が末端部に存在することで、パラフィン系プロセスオイルとの相溶性が向上し、ホットメルト組成物にタックを持たせることができる。
【0033】
(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)は、芳香族ビニル化合物であるスチレンブロックがPC(ポリカーボネート)と密着することができ、共役ジエン化合物のブロック部であるエチレン/プロピレンブロックがPP(ポリプロピレン)と密着することができる。よって、(A2)SEPは、極性の異なる2つのプラスチック被着体の密着力の安定化に特に寄与することができる。SEPの市販品としては、クレイトン社製のKRATON G1701、G1702HU、クラレ社製のセプトン1001、セプトン1020等が挙げられる。
【0034】
本発明において、(A)熱可塑性ブロック共重合体の総量100重量部に対する(A1)SEEPSの含有量は、20重量部以上が好ましく、30重量部以上がより好ましく、50重量部以上がさらに好ましく、60重量部以上がよりさらに好ましく、100重量部であってもよい。また、ホットメルト組成物の総量中の成分(A1)の含有量は、3~20重量%程度であることが好ましい。
【0035】
(A)熱可塑性ブロック共重合体が、(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)および(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)を含む場合、(A1)SEEPS100重量部に対し、(A2)SEPの配合量は、5~100重量部が好ましく、10~80重量部がより好ましく、30~70重量部がさらに好ましい。(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)の配合量が該範囲内にあると、ホットメルト組成物は、高温で変形し難く、灯具に対して接着に優れ、かつ、離形が容易であり、更には、耐フォギング性が向上し、レンズが曇るのを防止できる。
【0036】
本発明において、(A)熱可塑性ブロック共重合体は、本発明に悪影響を与えない範囲で、(A3)その他のブロック共重合体を含んでもよい。(A3)その他のブロック共重合体としては、(A1)SEEPSおよび(A2)SEP以外の水素添加型ブロック共重合体ならびに未水素添加型ブロック共重合体が挙げられる。熱可塑性ブロック共重合体の水素添加物としては、例えば、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体が水素添加されたスチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(「SEPS」ともいう)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体が水素添加されたスチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体(「SEBS」ともいう)が挙げられる。未水素添加型ブロック共重合体としては、例えばスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(「SIS」ともいう)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(「SBS」ともいう)を例示できる。
【0037】
ホットメルト組成物の総量に対する(A)熱可塑性ブロック共重合体の含有量は、3重量%以上が好ましく、4重量%~20重量%がより好ましく、4重量%~10重量%であることがさらに好ましい。(A)熱可塑性ブロック共重合体の含有量が3重量%以上であることにより、ホットメルト組成物が、耐熱性、密着性および強度に優れたものになる。また、20重量%以下であることにより、ホットメルト組成物のせん断接着力が高くなり過ぎず、解体しやすくなる。
【0038】
<(B)炭化水素系液状軟化剤>
(B)炭化水素系液状軟化剤(単に「成分(B)」とも記載する)は、ホットメルト組成物の溶融粘度調整、柔軟性の付与、被着体への濡れ向上を目的として配合される。炭化水素系液状軟化剤は、炭素と水素を主体とし、室温(約20℃)で液状である。炭化水素系液状軟化剤は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有してもよい。炭化水素系液状軟化剤としては、例えば、パラフィン系、ナフテン系または芳香族系のプロセスオイル、液状ポリブテン、液状ポリブタジエン及び液状ポリイソプレン等の液状樹脂、流動パラフィン、オレフィンプロセスオイルが挙げられる。市販品のプロセスオイルとして、出光興産社製のダイアナプロセスオイルが挙げられる。
【0039】
本発明において、(B)炭化水素系液状軟化剤は、「(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイル」(単に「成分(B1)」とも記載する)を含む。成分(B1)は、通常のホットメルト組成物に汎用されているオイルに比べてアニリン点が高いため、ホットメルト組成物の溶融粘度が高くなる。これにより、本発明のホットメルト組成物は、高温での形態維持が可能となり、変形が抑制され、優れた形態維持性を実現できる。成分(B1)の炭化水素系オイルのアニリン点の上限は、特に限定されないが、170℃以下が好ましい。
【0040】
本明細書において、アニリン点とは、JIS2256、K2520に記されるように、試験管法、U字管法、薄膜法といった試験方法により、等容量のアニリンと試料とが均一な溶液として存在する最低温度である。アニリンと試料の混合物を攪拌しつつ温度を上げ、完全に溶け合って透明になっている状態から温度を下げて濁りはじめた温度を測定する。アニリン点は潤滑油、プロセスオイルのゴム膨潤性に関係しており、アニリン点が低い程、溶解性が高いオイルであるといえる。
【0041】
本発明の成分(B1)の炭化水素系オイルは、アニリン点が135℃以上と高く、分子量が高いため、揮発性が少なく、また(A)熱可塑性ブロック共重合体のミッドブロック部(共役ジエン化合物に基づくブロック部分)とも親和性が高い。
【0042】
従来のホットメルト接着剤でシールされた灯具を長期間使用すると、組成物中のオイルの揮発等によって、ホットメルト接着剤は接着強度が高くなり、解体性が悪化するという問題があった。一方、本発明のホットメルト組成物は、成分(B1)が(A)熱可塑性ブロック共重合体のミッドブロック部に浸透し続けるため、ホットメルト組成物の接着強度が経時的に増加し続けることがなく、長期間の使用においても安定した解体性が保つことができる。
【0043】
また、本発明のホットメルト組成物は、(A)熱可塑性ブロック共重合体と、(B1)アニリン点が135℃以上のオイルとを含み、成分(B1)が高分子量であるためホットメルト組成物の粘度を高めることができ、形態維持性を高めることができる。
【0044】
このように、本発明のホットメルト組成物は、(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイルを含むことにより、特に自動車等の灯具用のシール材に適しており、灯具の修理時の解体性に優れ、かつ、長期での安定した物性、塗布性、高い形態維持性を両立させることができ、優れた性能を発揮することができる。
【0045】
(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイルとしては、パラフィン系原油由来のパラフィン系オイル、アロマ系オイル、ナフテン系原油由来の、ナフテン系オイル、アロマ系オイルなどのプロセスオイルであって、アニリン点が135℃以上のものを用いることができる。市販品としては、例えば、ダイアナプロセスオイルPW-380が挙げられる。成分(B1)として、一種を単独で含んでも二種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0046】
(B)炭化水素系液状軟化剤は、(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイルに加えて、(B2)その他の炭化水素系液状軟化剤(「成分(B2)」とも記載する)を含んでもよい。
【0047】
本発明のホットメルト組成物において、成分(B)100重量部に対する成分(B1)の含有量は30重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましく、60重量部以上がさらに好ましく、100重量部であってもよい。また、ホットメルト組成物の総量中の成分(B1)の含有量は10重量%~70重量%程度が好ましい。
【0048】
(B2)その他の炭化水素系液状軟化剤のアニリン点は、135℃未満であるのが好ましく、130℃以下であるのがより好ましく、下限は、特に限定されないが100℃以上であるのが好ましい。また、成分(B2)は、炭化水素系オイルであるのが好ましい。
【0049】
本発明の一態様において、ホットメルト組成物は、成分(B1)と成分(B2)の両方を含むと、比較的低粘度な組成物が得られ、より高い塗布性が得られるので好ましい。
【0050】
ホットメルト組成物の総量中の(B)炭化水素系液状軟化剤の含有量は、30重量%以上が好ましく、40~80重量%がより好ましく、40~70重量%であることがさらに好ましい。成分(B)の含有量が30重量%以上であることにより、ホットメルト組成物が、高温での形態維持性に優れ、かつ長時間の使用後でも解体性に優れたものになる。また、80重量%以下であることにより、ホットメルト組成物の適切な形態維持性を得ることが出来る。
【0051】
<(C)粘着付与樹脂>
本発明のホットメルト組成物の一態様は、さらに(C)粘着付与樹脂(「成分(C)」とも記載する)を含むのが好ましい。成分(C)は、「(C1)軟化点が120℃以上の粘着付与樹脂」を含むのが好ましい。ここで、本明細書において、軟化点は、JIS K 2207に基づき、石油アスファルト試験に準拠した自動軟化点装置(環球式)で測定された値とする。粘着付与樹脂の軟化点が上記範囲にあることによって、本発明のポリマー組成物の流動性が安定化する。
【0052】
成分(C)100重量部に対する(C1)軟化点が120℃以上の粘着付与樹脂の含有量は、好ましくは50重量部以上であり、より好ましくは80重量部以上であり、100重量部であってもよい。本発明のホットメルト組成物は、(C1)軟化点が120℃以上の粘着付与樹脂を含むと、より高い形態維持性を保つことができる。
【0053】
粘着付与樹脂としては、特に限定されないが、ロジン系樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、石油樹脂、フェノール系樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル共重合体樹脂等が挙げられる。密着性の観点から、スチレン系の粘着付与樹脂をベースに芳香族炭化水素系テルペン樹脂を用いるのが好ましい。市販品としては、例えば、イーストマン社製のイーストタックシリーズ、エンデックスシリーズが挙げられる。
【0054】
(C)粘着付与樹脂は、一種を単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0055】
ホットメルト組成物の総量に対する(C)粘着付与樹脂の含有量は、0重量%であってもよいが、20重量%以上が好ましく、30~50重量%がより好ましく、30~40重量%であることがさらに好ましい。成分(C)の含有量が20重量%以上であることにより、ホットメルト組成物の接着力が高くなる。また、50重量%以下であることにより、ホットメルト組成物の解体性が得られやすくなる。
【0056】
<ポリカーボネート成分>
本発明のホットメルト組成物の一態様は、さらに、ポリカーボネート成分を含むのが好ましい。被着体がポリカーボネート基材である場合、ポリカーボネート成分と被着体の化学的な親和性により、灯具のレンズ部への密着性が高くなる。すなわち、ホットメルト組成物がポリカーボネート成分を含むことにより、ポリカーボネートへの高い密着性が得られる。また、ホットメルト組成物を灯具に用いる場合は、ポリカーボネート基材への密着性が高いと、灯具を解体する際にレンズ(ポリカーボネート)側にホットメルト組成物を残すことができる。
【0057】
ポリカーボネート成分は、ポリカーボネート構造を含むポリマーであればよい。ポリカーボネート成分はその末端がOH基であってもよく、両末端にOH基を有するポリカーボネートジオールであってもよい。ホットメルト組成物への相溶性の観点から、ポリカーボネートジオールが好ましい。
【0058】
ポリカーボネート成分の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、300~50000が好ましく、500~40000がより好ましく、1000~35000がさらに好ましい。
【0059】
液状成分で分子量の比較的小さい(例えば、Mnが5000以下)ポリカーボネートジオールを用いると、PCへの濡れ性が向上し、ポリカーボネート基材との界面でより高い密着効果を得ることができる。ポリカーボネート成分の市販品としては、旭化成ケミカルズ社製のデュラノールT4672、T5650J、T5652、日本ポリウレタン社製のニッポラン982R、関西化学社製のリサイクルPC等が挙げられる。
【0060】
ホットメルト組成物の総量に対するポリカーボネート成分の含有量は、0重量%であってもよいが、3~15重量%が好ましく、4~10重量%がより好ましい。
【0061】
<アクリル成分>
本発明のホットメルト組成物の一態様は、さらにアクリル成分を含むのが好ましい。アクリル成分は灯具レンズの成分であるポリカーボネートに溶解度パラメーターが近いので、アクリル成分とポリカーボネートとの化学的親和性により、ホットメルト組成物はポリカーボネートへの密着性が向上する。
【0062】
アクリル成分としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチル-ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソノニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n-ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸、アクリルアミド、アクリル二トリル、メタクリル酸グリシジル等から選ばれる一種以上の化合物の単独重合体または共重合体のアクリル樹脂が挙げられ、アクリル共重合体中に、さらにスチレン、酢酸ビニル等に基づくモノマーユニットを含んでもよい。アクリル成分は、低いガラス転移点を有するものであっても高いガラス転移点を有するものであってもよい。
【0063】
本発明の一態様として、アクリル樹脂のうちビーズ状のものは、分子量分布がシャープであり、これを含むホットメルト組成物は、ポリカーボネート樹脂への密着と、高いガラス転移温度を持つアクリル樹脂により高温での形態維持性を得ることができるため好ましい。
【0064】
アクリル成分の市販品としては三菱レーヨン社製のダイアナールシリーズが挙げられる。
【0065】
ホットメルト組成物の総量に対するアクリル成分の含有量は、0重量%でもよいが、3~20重量%が好ましく、4~15重量%がより好ましい。
【0066】
本発明のホットメルト組成物は、ホットメルト組成物に通常使用される添加剤を含んでもよく、本発明が目的とするホットメルト組成物を得ることができる限り、特に制限されることはない。そのような添加剤として、例えば、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料、およびレオロジー調整剤、ワックス等を添加することができる。
【0067】
「酸化防止剤」として、例えば、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤を例示できる。
【0068】
「可塑剤」として、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、アルキルスルフォン酸系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、アセテート系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤等を例示できる。
【0069】
「紫外線吸収剤」として、例えば、ベンゾトリアゾール、ヒンダートアミン、ベンゾエート、ベンゾトリアゾール等を例示できる。
【0070】
「顔料」として、カーボンブラック、酸化チタン等を例示できる。
【0071】
「レオロジー調整剤」として、脂肪酸アミド、ヒュームドシリカ等を例示できる。脂肪酸アミドの市販品としては伊藤製油社製のA-S-A T-1700,A-S-A T-1800等が挙げられる。
【0072】
「ワックス」として、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等のワックスを例示できる。
【0073】
本発明のホットメルト組成物は、上述の成分を所定の割合で配合し、必要に応じて更に種々の添加剤を配合し、加熱して溶融し混合することで製造される。具体的には、上記成分を攪拌機付きの溶融混合釜に投入し、加熱混合することによって製造される。
【0074】
本発明のホットメルト組成物の使用方法は、特に限定されることはない。例えば、本発明のホットメルト組成物を180~215℃に加熱して溶融させ被着体(例えば第1の部材および/または第2の部材)に塗布する。第2の部材の材質は第1の部材と同じでも異なってもよい。ホットメルト組成物が溶融状態の時に第1の部材と第2の部材とを接合させ接合体とし、室温(約20℃~25℃)の条件下において固化させる方法が挙げられる。本発明のホットメルト組成物を被着体に塗布する際は、種々のアプリケーターを用いることができる。
【0075】
本発明の組成物を適用することができる被着体としては、例えば、プラスチック(例えば、ポリプロピレンのようなポリオレフィン;ポリカーボネート;アクリル樹脂;PET樹脂)、木材、ゴム、ガラス、金属が挙げられる。ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂の接着;ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂とポリプロピレンとの接着に使用することが好ましい形態として挙げられる。
【0076】
本発明のホットメルト組成物は、例えば、PP(ポリプロピレン)とPC(ポリカーボネート)等、極性の異なった2つのプラスチックの接合にも好適である。
【0077】
本発明に係るホットメルト組成物は、工業用シール剤、例えば、電子電気部品、自動車部品、車輛部品等のシールに利用でき、灯具に用いるのが好ましい。
【0078】
本発明の一態様は、上記ホットメルト組成物を用いて製造される灯具に関する。灯具としては、例えば、自動車用灯具(例えば、ヘッドランプ、リアコンビネーションランプ等)、二輪車(オートバイ等)用灯具が挙げられる。
【0079】
自動車用灯具に用いる場合、自動車用灯具のレンズとハウジングとのシール(接着)に本発明の組成物を使用することができる。本発明のホットメルト組成物が自動車用灯具に使用される場合、レンズ、ハウジングの材料については特に制限されない。レンズの材料としては例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂(例えばPMMA:ポリメタクリル酸メチル樹脂)、PET等の透明な樹脂やガラス等を用いることができる。ハウジングの材料としては例えば、ポリプロピレンのようなポリオレフィンが挙げられる。本発明の灯具は、上記ホットメルト組成物を用いて製造されるので、例えば、自動車用灯具のレンズとハウジングが接着された後の検査時間が短縮され、レンズが曇ることがない。
【0080】
また、本発明のホットメルト組成物は、洗濯機、乾燥機及び冷蔵庫等の家電の防水パッキン部の接合等に用いることができる。
【0081】
本発明は、上記ホットメルト組成物用いて製造された灯具を有する車輌にも関する。本発明の車輌は、上記ホットメルト組成物を用いて製造された灯具を有するので、灯具が熱や衝撃で剥がれたりすることがなく、より安全な走行が可能となる。本発明に係る車輌は、上記灯具を有するものであれば特に限定されることはない。具体的には、電車、汽車、列車等の鉄道車輌、戦車、装甲車等の軍用車輌、自動車、原動機付自転車(オートバイ)、バス、路面電車等に道路交通法上の車が車輌として挙げられる。
【実施例
【0082】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて説明するが、これらの例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0083】
実施例および比較例のホットメルト組成物に用いた各成分を以下に示す。
【0084】
(A)熱可塑性ブロック共重合体
(A1-1)SEEPS(クラレ製 商品名:セプトン4055,スチレン含有量30重量%)
(A1-2)SEEPS(クラレ製 商品名:セプトン4077,スチレン含有量30重量%)
(A1-3)SEEPS(クラレ製 商品名:セプトン4099,スチレン含有量30重量%)
(A2)SEP(クレイトンポリマー製 商品名 KRATON G1702HU スチレン含有量28重量%、ジブロック含有量100重量%)
(A3)SEPS(クラレ製 商品名 セプトン2005 スチレン含有量20重量%)
【0085】
(B)炭化水素系液状軟化剤
(B1-1)パラフィン系プロセスオイル(出光興産製 商品名 ダイアナプロセスオイルPW380,アニリン点142.7℃)
(B1-2)パラフィン系プロセスオイル(出光興産製 商品名 ダイアナプロセスオイルPS430,アニリン点138℃)
(B2-1)パラフィン系プロセスオイル(出光興産製 商品名 ダイアナプロセスオイルPW90,アニリン点124.8℃)
(B2-2)パラフィン系プロセスオイル(カネダ製 商品名 ハイコールK350,アニリン点122.4℃)
(B2-3)パラフィン系プロセスオイル(エクソンモービル製 商品名 プライモールN382,アニリン点121.9℃)
【0086】
(C)粘着付与樹脂
(C1)水添C5系樹脂(イーストマンケミカル製 商品名 イーストタックレジンH142R、重量平均分子量1030、軟化点142℃)
(C2)水添DCPD系樹脂(エクソンモービル製 商品名 エスコレッツ5320、軟化点125℃)
(C3)純C9モノマー樹脂(イーストマンケミカル製 商品名 エンデックス155、軟化点152℃)
(C4)芳香族系炭化水素樹脂(三井化学製 商品名 FMR150、軟化点150℃)
(C5)テルペンフェノール樹脂(アリゾナケミカル製 商品名 SILVERES TP2019、軟化点125℃、水酸基価80)
【0087】
(D)酸化防止剤
(D1)ヒンダートフェノール酸化防止剤(BASF製 商品名 イルガノックス1010)
【0088】
(E)カーボネート成分
(E1)ポリカーボネートジオール(旭化成ケミカルズ製 商品名 デュラノールT5652、水酸基価56、数平均分子量2000)
(E2)再生ポリカーボネート樹脂(関西化学製 商品名 リサイクルPC)
【0089】
(F)アクリル成分
(F1)アクリル樹脂(三菱レーヨン製 商品名 ダイアナールBR87、重量平均分子量25000、ガラス転移温度105℃)
【0090】
これらの成分を表4~6に示す配合割合にて配合し、200℃設定のトーシン製加温ニーダー(TKV0.5-1型)により減圧下で4時間溶融混練し、実施例1~17、比較例1~10のホットメルト組成物を得た。なお、表4~6のホットメルト組成物の組成(配合)に関する数値の単位は、すべて重量部である。以下、実施例1~4および実施例16~17を、それぞれ、参考例1~4および参考例16~17と読み替えるものとする。
【0091】
各ホットメルト組成物について、形態維持性、溶融粘度、剪断試験、PC密着性、初期解体性、耐熱サイクル後の解体性、および耐フォギング性を評価した。各評価の概要について以下記載する。各ホットメルト組成物の評価結果は表4~6に示す。
【0092】
<形態維持性>
各ホットメルト組成物の形態維持性を評価するために、深さ12mm、幅7mm、長さ14mmのポリプロピレン製の溝にホットメルト組成物を流し込み、角度70°で、130℃の乾燥機に24時間静置して、ホットメルト組成物の下部先端の移動距離(塗布直後の状態から流れ出た距離)を測定した。該移動距離に基づく評価基準を以下に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
<溶融粘度>
溶融粘度は、ホットメルト組成物を加熱して溶融し、210℃、200℃、190℃及び180℃において、溶融状態の粘度を、ブルックフィールド社製回転粘度計を用いて1rpmの回転数にて測定した。スピンドルを粘度計に取付け、スピンドルを回転させて、加温開始30分後の最低値を測定した。スピンドルは27番ローターを使用した。
【0095】
<初期評価(剪断試験によるPC密着性および解体性)>
各ホットメルト組成物のPC(ポリカーボネート)密着性と解体性を評価するために、幅25mm、長さ100mm、厚さ3mmのPC板2枚を用い、190℃に溶融したホットメルト組成物を塗布し、接着剤層の幅25mm、長さ5mmの剪断試験片を作成した。2枚のポリカーボネート板ギャップは2mm程度とした。
【0096】
剪断試験片を引張試験機(テンシロンRTM250型)にセットし、温度23℃(室温)下で50mm/分の引張速度で引張試験を実施し最大荷重を測定した。この最大荷重(N)を剪断接着力とした。最大荷重が2.0N以上6.0N以下のものはPC密着性と解体性がともに得られると判断し、2.0Nより小さい場合は密着性不足と判断した。
【0097】
初期解体性は、剪断試験における破壊モードにて判定した。ポリカーボネート板上のホットメルト組成物の破壊モードが界面破壊(adhesion failure/「AF」とも記載する)となることにより、接着面に材料が残らず、解体性がOKとなると判断した。ポリカーボネート板上の接着剤の破壊モードが一部でも凝集破壊(cohesive failure/「CF」とも記載する)の場合には、解体の際にもポリカーボネート上に接着剤が残るため、本発明においては解体性難有りと判定した。評価基準を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
<耐熱サイクル後の評価(剪断試験によるPC密着性および解体性)>
同様に、各ホットメルト組成物について耐熱サイクル後のPC密着性と解体性を評価するために、幅25mm、長さ100mm、厚さ3mmのPC板2枚を用い、190℃に溶融したホットメルト組成物を塗布し、接着剤層の幅25mm、長さ5mmの剪断試験片を作成した。2枚のポリカーボネート板ギャップは2mm程度とした。剪断試験片を小型環境試験機(エスペック社製SH-241型)にセットし、20℃1h後、昇温1h、85℃1h後、降温1hを1サイクルとし、1000サイクル後に耐熱サイクルオーブンから取出した。剪断試験片を引張試験機(テンシロンRTM250型)にセットし、50mm/分の引張速度で引張試験を実施し最大荷重を測定した。この最大荷重(N)を剪断接着力とした。
【0100】
初期評価と同様に、最大荷重が2.0N以上6.0N以下でかつ破壊モードがAFのものはPC密着性と解体性がともに得られると判断し、2.0Nより小さい場合は密着性不足と判断した。評価基準は表2と同様とした。
【0101】
耐熱サイクル後の強度安定性の指標として、初期剪断接着力と耐熱サイクル後剪断接着力から、下記式にて、強度変化率を算出した。
強度変化率(%)=100×(耐熱サイクル後剪断接着力-初期剪断接着力)/初期剪断接着力
【0102】
耐熱サイクル後の解体性は、初期評価と同様、剪断試験における破壊モードにて判定した。ポリカーボネート板上のホットメルト組成物の破壊モードが界面破壊(adhesion failure/AF)となることにより、接着面に材料が残らず、解体性がOKとなると判断した。破壊モードがAFであることと、強度変化率が20%以内であることにより、耐熱サイクル後や、実車使用上で予想される長期試験後も解体可能であると判断した。ポリカーボネート板上の接着剤の破壊モードが一部でも凝集破壊(cohesive failure/CF)の場合には、解体の際にもポリカーボネート上に接着剤が残るため、解体性難有りと判定した。評価基準を表3に示す。
【0103】
【表3】
【0104】
<耐フォギング性試験>
190℃に溶融したホットメルト組成物をカートリッジに入れ、ホットメルトガン(REKA Klebetechnik社製ヒートガン TR80型)を用いて離型紙上に2mmビード状に塗布した。110mlのガラス瓶(AS ONE社製スクリュー管瓶No.8 高さ120mm、口径21mm、ガラス瓶中央部外径40mm)に上記の接着剤をカットし1グラムを入れ、ポリカーボネート板で蓋をして錘をのせた。
【0105】
接着剤の入ったガラス瓶、ポリカーボネート板と錘をオイルバス(BUCHI社製Heating Bath B-491)内に設置した。オイルバス内のシリコーンオイルを加熱し、90℃に達したことを確認し、24時間加温を行った。24時間加温の後、ガラス瓶、ポリカーボネート板と錘をオイルバスから出し、室温になるまで放置した。その後、錘を取り除き、ポリカーボネート板上にある付着物を観察した。
【0106】
(耐フォギング性試験の評価基準)
耐フォギング性試験の評価基準は以下のとおりである。
○:ポリカーボネート板上に付着物がなかった。
×:ポリカーボネート板上に付着物があった。
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
【表6】
【0110】
表4、5に示されるように、実施例のホットメルト組成物は、形態維持性が非常に優れており、剪断接着強度が高く、カーボネート成分に対し高い接着力を得ることができた。さらに、実施例のホットメルト組成物は、破壊モードがAFであり、高い解体性を得ることができた。
【0111】
また、実施例のホットメルト組成物は、耐熱サイクル後においても強度変化が少なく、安定した解体性が得られた。このことより、灯具に本発明のホットメルト組成物を用いても、長期使用後に安定した解体性を得ることができる。さらに、実施例のホットメルト組成物は、高い耐フォギング性を有し、加熱によるレンズの曇りが生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、自動車灯具のレンズおよびハウジングの接着に用いるホットメルト組成物を提供する。本発明に係るホットメルト組成物は、発光ダイオードに代表される灯具内の電装部品の交換やメンテナンスのために、シール部を容易に解体することができる。特に、シール用途に要求されるポリカーボネート樹脂への高い接着性と、補修やメンテナンス時に要求される高い解体性、解体時の作業性に係る要求であるポリカーボネートからの離形要求を、長期間使用後においても満たすことができる。