(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】最適化された標的を絞った分析
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20230310BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20230310BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20230310BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 X
G01N30/72 C
H01J49/00 310
H01J49/40
H01J49/00 450
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021133337
(22)【出願日】2021-08-18
(62)【分割の表示】P 2019555754の分割
【原出願日】2018-04-11
【審査請求日】2021-08-24
(32)【優先日】2017-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】504142097
【氏名又は名称】マイクロマス ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】マーティン・レイモンド・グリーン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン・リー・ワイルドグース
(72)【発明者】
【氏名】キース・リチャードソン
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0011899(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0036734(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 30/00 - G01N 30/96
H01J 49/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量スペクトル計を用いる質量分析の方法であって、
a)分離器デバイスを使用して分析試料中の化合物をクロマトグラフィにより分離し、前記クロマトグラフィにより分離された化合物をイオン化する、および/またはプリカーサーイオンを分離することで一時的に分離したプリカーサーイオンを提供するステップと、
b)検体が前記分離器デバイスから溶出する際、第1のモードと第2のモードを交互に繰り返し行うステップであって、前記第1のモードでは、前記プリカーサーイオンは、相対的に低い割合のプリカーサーイオンが解離するように、またはプリカーサーイオンが全く解離しないようにフラグメンテーションまたは反応条件を受け、前記第2のモードでは、前記プリカーサーイオンは、相対的に高い割合のプリカーサーイオンが解離するように、または全てのプリカーサーイオンが解離するようにフラグメンテーションまたは反応条件を受け、よって、プロダクトイオンを生成する、ステップと、
c)前記第1のモードにおいてイオンを質量分析するステップと、
d)前記第2のモードにおいて、プロダクトイオン質量スペクトルデータを獲得するために、前記プロダクトイオンの各々を複数の連続する取得時間において前記質量スペクトル計の飛行時間質量分析器によって質量分析するステップであって、前記質量スペクトル計の1つまたは複数の作動パラメータの値は、それが前記複数の連続する取得時間の異なる取得時間において異なる値を有するように変更され、所与のイオンに関して得られた前記プロダクトイオン質量スペクトルデータは前記作動パラメータの前記値に応じて変化する、ステップと、
e)各々の取得時間において得られた前記プロダクトイオン質量スペクトルデータを、前記プロダクトイオン質量スペクトルデータを獲得する際に使用された前記1つまたは複数の作動パラメータのそのそれぞれの値と共に記憶するステップと、
f)前記プロダクトイオンのうちの少なくとも1つに関して前記記憶されたプロダクトイオン質量スペクトルデータを調べ、そのプロダクトイオンに関するどのプロダクトイオン質量スペクトルデータが事前に決められた判定基準に一致するかを特定し、前記事前に決められた判定基準に一致すると見なされたこのプロダクトイオン質量スペクトルデータを目標の作動パラメータ値として提供する前記1つまたは複数の作動パラメータの各々の前記値を特定するステップと、
g)前記第2のモードにおいて、前記プロダクトイオンのうちの前記少なくとも1つに対して再度質量分析を行うステップであって、この分析の間、前記1つまたは複数の作動パラメータの前記値が、前記プロダクトイオンのうちの前記少なくとも1つに関するそのそれぞれの目標の作動パラメータ値に設定される、ステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1のモードにおいて得られたプリカーサーイオン質量スペクトルデータから対象の1つまたは複数のプリカーサーイオンの質量と電荷の比および/または溶出時間を特定することと、
前記第2のモードにおいて得られた前記プロダクトイオン質量スペクトルデータから前記1つまたは複数の対象のプリカーサーイオンの各々のプロダクトイオンに関する前記目標の作動パラメータ値を特定することと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記事前に決められた判定基準に一致すると見なされた前記プロダクトイオン質量スペクトルデータは、最大強度または最大の信号対ノイズ比を有する前記プロダクトイオンに関するスペクトルデータである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物をクロマトグラフィによって分離するステップは、液体クロマトグラフィによって前記分析試料を分離することを含む、または
プリカーサーイオンを分離するステップは、イオン移動度または質量と電荷の比によって前記プリカーサーイオンを分離することを含む、
請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップf)は、特定のプリカーサーイオンの複数のプロダクトイオンに関する前記記憶されたプロダクトイオン質量スペクトルデータを調べることと、どのプロダクトイオンが前記事前に決められた判定基準に一致するプロダクトイオン質量スペクトルデータを有するか特定することと、前記事前に決められた判定基準に一致すると見なされた前記プロダクトイオン質量スペクトルデータを前記目標の値として提供する前記1つまたは複数の作動パラメータの各々の前記値を特定することと、を含む、請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記1つまたは複数の作動パラメータは、前記プリカーサーイオンが断片化される、または反応させられて前記プロダクトイオンを生成するフラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度、あるいは前記プリカーサーイオンが反応物によるフラグメンテーションの反応条件を受ける時間の長さを含む、請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記1つまたは複数の作動パラメータは、前記イオンを加速させるのに使用される電位差、前記イオンをガスまたは表面と衝突させる衝突エネルギー、
または、ソースのイオン化効率
のうちの1つまたは複数である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分離器デバイスからの前記少なくとも1つのプリカーサーイオンのそれぞれの溶出時間を特定することと、前記少なくとも1つのプリカーサーイオンに関連する前記目標の作動パラメータを、そのそれぞれの溶出時間と相関させることと、ステップg)において前記分離器デバイスまたは特定の分離器デバイスを利用して前記プリカーサーイオンを分離することと、前記少なくとも1つのプリカーサーイオンが前記分離器デバイスから溶出する際、前記作動パラメータが、前記少なくとも1つのプリカーサーイオンに関するそれぞれの目標の値であるように、前記分離器デバイスからの溶出時間に応じてステップg)において前記1つまたは複数の作動パラメータを制御することと、を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記プロダクトイオン質量スペクトルデータを記憶するステップは、前記分離器デバイスからのそのそれぞれの溶出時間と共に前記プロダクトイオン質量スペクトルデータを記憶することを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記プロダクトイオン質量スペクトルデータを記憶することは、そのそれぞれのプリカーサーイオンの質量と電荷の比と共に前記プロダクトイオンに関する前記プロダクトイオン質量スペクトルデータを記憶することを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記質量スペクトル計の1つまたは複数の作動パラメータは、多様な作動パラメータを含み、
前記方法は、
前記多様な作動パラメータのうちの異なる作動パラメータの各々に対して目標の作動パラメータ値を特定するために、前記多様な作動パラメータの前記異なる作動パラメータを変化させながらステップa)からステップf)を繰り返すことと、ステップg)において前記多様な作動パラメータを、そのそれぞれの目標の作動パラメータ値に設定することと、を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
任意の所与の時間にステップd)において、限定された範囲の質量と電荷の比またはイオン移動度を質量分析されるように伝達するために、ステップd)より前に質量と電荷の比またはイオン移動度によってイオンをフィルタリングする、または分離することを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記作動パラメータの前記値は、時間と共に変更される特定の範囲内でステップd)において変更され、前記限定された範囲の質量と電荷の比またはイオン移動度は、任意選択で前記作動パラメータの前記範囲の変化と同調して時間と共に変更される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
2つまたはそれ以上のプリカーサーイオンが同時に前記分離器デバイスから一緒に溶出する場合、2つまたはそれ以上の目標の作動パラメータ値をそれぞれ提供するために、前記2つまたはそれ以上の一緒に溶出するプリカーサーイオンの各々に関して、ステップb)~f)を実行すること、並びに、
(i)前記2つまたはそれ以上の目標の作動パラメータ値のうちの妥協点として単一の目標の作動パラメータ値を特定することであって、前記単一の目標の作動パラメータ値はステップg)における前記2つまたはそれ以上の一緒に溶出するプリカーサーイオンの各々に関して使用される、特定すること、若しくは、
(ii)ステップg)における前記2つまたはそれ以上の目標の作動パラメータを使用することであって、前記2つまたはそれ以上の目標の作動パラメータの各々が使用される時間の割合は、ステップf)において決められる、使用すること
を含む、請求項1~13のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
検体が分離器デバイスから溶出する際、第1のモードと第2のモードを交互に繰り返し行うステップであって、前記第1のモードでは、プリカーサーイオンは、相対的に低い割合のプリカーサーイオンが解離するように、またはプリカーサーイオンが全く解離しないようにフラグメンテーションまたは反応条件を受け、前記第2のモードでは、前記プリカーサーイオンは、相対的に高い割合のプリカーサーイオンが解離するように、または全てのプリカーサーイオンが解離するようにフラグメンテーションまたは反応条件を受け、よって、プロダクトイオンを生成する、ステップと、
前記第1のモードにおいてイオンを質量分析するステップと、
前記第2のモードにおいて、プロダクトイオン質量スペクトルデータを獲得するために、前記プロダクトイオンを複数の連続する取得時間において質量スペクトル計の飛行時間質量分析器によって質量分析するステップであって、前記質量スペクトル計の1つまたは複数の作動パラメータの値は、それが前記複数の連続する取得時間の異なる取得時間において異なる値を有するように変更され、所与のイオンに関して得られた前記プロダクトイオン質量スペクトルデータは、前記作動パラメータの前記値に応じて変化する、ステップと、
各取得時間において得られた前記プロダクトイオン質量スペクトルデータを、前記プロダクトイオン質量スペクトルデータを獲得するのに使用された前記1つまたは複数の作動パラメータのそのそれぞれの値と共に記憶するステップと、
前記プロダクトイオンのうちの少なくとも1つに関して前記記憶されたプロダクトイオン質量スペクトルデータを調べ、そのプロダクトイオンに関するどのプロダクトイオン質量スペクトルデータが事前に決められた判定基準に一致するかを特定し、前記事前に決められた判定基準に一致すると見なされた前記プロダクトイオン質量スペクトルデータを目標の作動パラメータ値として提供する前記1つまたは複数の作動パラメータの各々の前記値を特定するステップと、
前記第2のモードにおいて、前記プロダクトイオンのうちの前記少なくとも1つに対して再度質量分析を行うステップであって、この分析の間、前記1つまたは複数の作動パラメータの前記値は、前記プロダクトイオンのうちの前記少なくとも1つに関するそのそれぞれの目標の作動パラメータ値に設定される、ステップと、
を含む、質量分析の方法。
【請求項16】
そのプロダクトイオンに関するどのプロダクトイオン質量スペクトルデータが前記事前に決められた判定基準に一致するかを特定することは、どのプロダクトイオン質量スペクトルデータが最大の信号対ノイズ比を有するかを特定することを含む、
請求項1~15のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成された質量スペクトル計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年4月12日に提出された英国特許出願第1705908.0号からの優先権およびその利益を主張する。この出願の全内容は参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
技術分野
本発明は一般に質量分析計に関し、詳細には選択された種の分析を最適化する方法および質量分析計に関する。
【背景技術】
【0003】
標的を絞った分析では、方法発生段階が実施され、その後、標的種に対して分析段階が実施される。方法発生段階では、参照基準が使用されてよく、参照基準の溶液を吹き込む、またはループ状に注入し、その後特定の範囲の異なる質量分析計条件の下で基準物質を分析して、プリカーサーイオンおよびプロダクトイオンの両方に関してスペクトル計の最適な設定を決定することが知られている。モニターすべき好適なプロダクトイオンの選択もまた、この方法発生段階の間に決められてよい。これは、時間がかかる場合があり、各標的に関するクロマトグラフィの保持時間に関する情報を生み出さないため、この情報を、クロマトグラフィによる分離の間にその後で決定する必要がある。
【0004】
データ依存型取得(DDA)では、スペクトル計の最初の作動状態の下で取得されたスペクトルは、取得中に調べられて、その計器はその後、このようなスペクトルの範囲内の情報に基づいて1つまたは複数の異なる作動状態に周期的に切り換えられる。DDA利用の一例は、ディスカバリープロテオミクス用途であり、そこではタンパク質の酵素消化物からのペプチドがMS-MSによって分析され、結果として生じるプロダクトイオンのスペクトルを使用して、データベース検索に基づいてどのタンパク質が存在するかを確認する。このような用途では、低衝突エネルギープレカーサースペクトル(すなわちMSスペクトル)が調べられて、その後のMS-MSモードでの分析のための1つまたは複数の標的プリカーサーイオンを特定する。ひとたび標的プリカーサーイオン(複数可)が特定されると、計器はMS-MSモードに切り換えられ、そこでは、四重極質量フィルタは、標的プリカーサーイオンの質量と電荷の比を有するイオンのみを質量選択的に通すように設定される。このようなイオンはその後、衝突または反応セル内で解離させられ、プロダクトイオンのスペクトルを記録するために、結果として生じるイオンが質量分析される。十分なMS-MSデータが記録されると、システムはMSモードに戻るように切り換えられる。四重極飛行時間質量スペクトル計(Q-ToF)は、このような用途で一般的に使用されるシステムの一種である。
【0005】
しかしながらこの種のディスカバリーDDA実験では、参照基準の化合物を全く利用することができない。何千ものプリカーサーイオンが存在する可能性があるため、このことは、プリカーサーイオンの各々に関して最適な衝突エネルギーを効率的に決定するという難題を提示する。この種のDDA利用において、すなわちMS-MSモードにおいて、衝突エネルギーを好適な範囲にわたって走査することで、この衝突エネルギーの範囲にわたってその後平均化されるMS-MSスペクトルを生成することが知られている。衝突エネルギーの範囲は、選択されたプリカーサーイオンの質量と電荷の比および/または荷電状態などの要因によって決められてよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MS-MSデータを後工程のステップにおいて調べた後、その後の標的を絞った定量分析用に目標のm/z値のリストが生成される。このような用途では、標的を絞った多重反応モニタリング(MRM)分析において特徴的なペプチドプロダクトおよび/またはプレカーサーの相対的な強度をモニタリングすることによって、DDA実験で特定されたタンパク質同定は、その後の試料において定量化される。妥当なレベルのフラグメンテーションを保証するために、標的を絞ったMS-MSデータが取得される間、標的プロダクトイオンを生成するのに使用される衝突エネルギーは所定の範囲にわたって走査される。しかしながら、これは、標的を絞った定量化における感度が損なわれるという結果を招く。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、質量分析の方法であり、
a)分析様の試料中の化合物をクロマトグラフィにより分離し、溶出する試料をイオン化する、および/またはプリカーサーイオンを分離することで一時的に分離したプリカーサーイオンを提供することと、
b)質量スペクトルデータを取得するために、分離したプリカーサーイオンおよび/またはそこから抽出したプロダクトイオンの各々を複数の連続する取得時間において質量分析することとを含み、スペクトル計の1つまたは複数の作動パラメータの値は、それが異なる取得時間において異なる値を有するように変更され、所与のイオンに関して得られたスペクトルデータは前記作動パラメータの値に応じて変化し、
さらにc)各々の取得時間において得られたスペクトルデータを、データを獲得する際に使用された前記1つまたは複数の作動パラメータのそのそれぞれの値と共に記憶することと、
d)プリカーサーイオンまたはそこから抽出されたプロダクトイオンのうちの少なくとも1つに関して記憶されたスペクトルデータを調べ、そのプリカーサーイオンまたはそのプロダクトイオンのうちの少なくとも1つに関するどのスペクトルデータが事前に決められた判定基準に一致するかを特定し、この質量スペクトルデータを目標の作動パラメータ値として提供する前記1つまたは複数の作動パラメータの各々の値を特定することと、
e)プリカーサーイオン、またはそこから抽出されたプロダクトイオンのうちの前記少なくとも1つに対して再度質量分析を行うこととを含み、この分析の間、前記1つまたは複数の作動パラメータの値は、前記少なくとも1つのプリカーサーイオンまたはそのプロダクトイオンのうちの前記少なくとも1つに関するそのそれぞれの目標の作動パラメータ値に設定される。
【0008】
前記事前に決められた判定基準に一致すると見なされたスペクトルデータは、最大強度または最大の信号対ノイズ比を有するプリカーサーイオンに関するスペクトルデータ、またはそのプロダクトイオンのうちの少なくとも1つに関するスペクトルデータであってよい。
【0009】
事前に決められた判定基準は最大の信号強度または信号対ノイズ比に基づくものとして記載されてきたが、それは1つまたは複数の他の所望される基準に基づく場合もある。
【0010】
化合物をクロマトグラフィによって分離するステップは、液体クロマトグラフィによって、あるいはイオン移動度または質量と電荷の比によってプリカーサーイオンを分離することによって試料を分離することを含んでよい。
【0011】
プリカーサーイオンは、上記のステップb)より前に断片化される、または反応させられてよく、ステップb)は、結果として生じるプロダクトイオンを質量分析することを含んでよい。
【0012】
上記のステップd)は、特定のプリカーサーイオンの複数のプロダクトイオンに関するスペクトルデータを調べることと、どのプロダクトイオンが事前に決められた判定基準に一致する質量スペクトルデータを有するか特定することと、前記この質量ペクトルデータを前記目標の値として提供する前記1つまたは複数の作動パラメータの各々の値を特定することとを含んでよい。
【0013】
1つまたは複数の作動パラメータは、プリカーサーイオンが断片化される、または反応させられてプロダクトイオンを生成するフラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度、あるいはプリカーサーイオンが反応物によるフラグメンテーションの反応条件を受ける時間の長さを含んでよい。
【0014】
1つまたは複数の作動パラメータは、イオンを加速させるのに使用される電位差、イオンをガスまたは表面と衝突させる衝突エネルギー、ソースのイオン化効率または感度またはイオン化エネルギー、差動イオン移動度フィルタにおける補償電圧などのイオン移動度フィルタの作動パラメータ、ガス圧またはガス組成、調整パラメータなど、イオンに対して作用する静電気デバイスまたはRFデバイスの設定、イオンの減衰レベル、電子増倍管の設定、最適な信号とノイズ比または感度などの質量フィルタの分解能の設定、あるいはイオントラップ時間のうちの1つまたは複数であってよい。
【0015】
上記のステップb)からステップe)は、プリカーサーイオンの少なくとも一部またはその全てに対して実行されてよい。
【0016】
方法は、上記のステップa)を実行するのに分離器デバイスを使用することと、前記分離器デバイスからの前記少なくとも1つのプリカーサーイオンのそれぞれの溶出時間を特定することと、前記少なくとも1つのプリカーサーイオンに関連する目標の作動パラメータを、そのそれぞれの溶出時間と相関させることと、上記のステップe)においてその分離器デバイスまたは特定の分離器デバイスを利用して前記プリカーサーイオンを分離することと、前記少なくとも1つのプリカーサーイオンが分離器デバイスから溶出する際、作動パラメータが、前記少なくとも1つのプリカーサーイオンに関するそれぞれの目標の値であるように、分離器からの溶出時間に応じて、上記のステップe)において1つまたは複数の作動パラメータを制御することとを含んでよい。
【0017】
方法は、上記のステップa)を実行するのに分離器デバイスを使用することを含んでよく、スペクトルデータを記憶するステップは、分離器からのそのそれぞれの溶出時間と共にスペクトルデータを記憶することを含む。
【0018】
スペクトルデータを記憶することは、そのそれぞれのプリカーサーイオンの質量と電荷の比と共にプロダクトイオンに関するスペクトルデータを記憶することを含んでよい。
【0019】
方法は、DDA法であってよい。
【0020】
方法は、プリカーサーイオンの質量スペクトルデータを獲得するためにプリカーサーイオンを質量分析することと、前記プリカーサーイオンの質量スペクトルデータから、その後の分析のために1つまたは複数のプリカーサーイオンを特定することと、前記1つまたは複数のプリカーサーイオンを隔離することと、前記1つまたは複数の隔離したプリカーサーイオンを断片化する、または反応させてプロダクトイオンを生成することとを含んでよく、上記のステップb)からステップe)がこのプロダクトイオンに対して行われる。
【0021】
隔離するステップは、プリカーサーイオンを質量フィルタリングする、またはイオントラップからプリカーサーイオンを質量選択式に排出することによって行われることで、前記1つまたは複数のプリカーサーイオンのみが前記その後の分析のために伝達される。
【0022】
方法は、上記のステップa)を実行するために分離器デバイスを使用することと、検体が分離器から溶出する際、第1のモードと第2のモードを交互に繰り返し行うこととを含み、第1のモードでは、プリカーサーイオンは、相対的に低い割合のプリカーサーイオンが解離するように、またはプリカーサーイオンが全く解離しないようにフラグメンテーションまたは反応条件を受け、第2のモードでは、プリカーサーイオンは、相対的に高い割合のプリカーサーイオンが解離するように、または全てのプリカーサーイオンが解離するようにフラグメンテーションまたは反応条件を受け、、さらに第1のモードにおいてイオンを質量分析することと、第2のモードで生成されたプロダクトイオンに対して上記のステップb)からステップd)を実行することとを含んでよい。
【0023】
方法は、第1のモードにおいて得られた質量スペクトルデータから対象の1つまたは複数のプリカーサーイオンの質量と電荷の比および/または溶出時間を特定することと、第2のモードにおいて得られた質量スペクトルデータから、前記1つまたは複数の対象のプリカーサーイオンの各々のプロダクトイオンに関する目標の作動パラメータ値を特定することとを含んでよい。
【0024】
1つまたは複数の作動パラメータは、多様な作動パラメータであってよく、ステップb)において前記多様な作動パラメータ値は変更されてよい。
【0025】
方法は、異なる作動パラメータに対して目標の作動パラメータ値を特定するために、異なる作動パラメータを変化させながらステップa)からステップd)を繰り返すことと、ステップe)において多様な作動パラメータを、そのそれぞれの目標の作動パラメータ値に設定することとを含んでよい。
【0026】
方法は、任意の所与の時間にステップb)において、限定された範囲の質量と電荷の比またはイオン移動度を質量分析されるように伝達するために、ステップb)より前に質量と電荷の比またはイオン移動度によってイオンをフィルタリングする、または分離することを含んでよい。
【0027】
作動パラメータの値は、時間と共に変更される特定の範囲内でステップb)において変更されてよく、限定された範囲の質量と電荷の比またはイオン移動度は、任意選択で作動パラメータの範囲の変化と同調して時間と共に変更される。
【0028】
質量分析は、飛行時間質量分析であってよい。
【0029】
上記に記載したように、方法はDDA法であってよい。
【0030】
したがって本発明はまた、
(i)プリカーサーイオンの質量スペクトルデータを獲得するためにプリカーサーイオンを質量分析することと、
(ii)前記プリカーサーイオンの質量スペクトルデータから、その後の分析のためにプリカーサーイオンを特定することと、
(iii)前記プリカーサーイオンを隔離することと、
(iv)質量スペクトルデータを獲得するために、前記隔離されたプリカーサーイオンを断片化する、または反応させてプロダクトイオンを生成し、前記プロダクトイオンを複数の連続する取得時間において質量分析することとを含み、前記スペクトル計の1つまたは複数の作動パラメータの値は、それが異なる取得時間において異なる値を有するように変更され、所与のイオンに関して得られたスペクトルデータは前記作動パラメータの値に応じて変化し、
さらに(v)各取得時間に得られたスペクトルデータを、データを獲得するのに使用された前記1つまたは複数の作動パラメータのそのそれぞれの値と共に記憶することと、
(vi)記憶したスペクトルデータを調べ、どのスペクトルデータが事前に決められた判定基準に一致するかを特定し、この質量スペクトルデータを目標の作動パラメータ値として提供する前記1つまたは複数の作動パラメータの各々の値を特定することと、そしてその後、
(vii)前記プリカーサーイオンを断片化する、または反応させ、結果として生じるプロダクトイオンを質量分析し、その一方で前記1つまたは複数の作動パラメータの値が目標の作動パラメータ値に設定されることとを含む質量分析の方法も提供する。
【0031】
ステップ(i)の前に、方法は、分析試料中の化合物をクロマトグラフィによって分離することと、プリカーサーイオンを提供するために、溶出する試料をイオン化する、および/またはプリカーサーイオンを分離することで、一時的に分離されたプリカーサーイオンを提供することとを含んでもよい。
【0032】
ステップ(ii)は、対象の多数のプリカーサーイオンを同定することを含んでよい。ステップ(iii)からステップ(vii)がその後、対象の多数のプリカーサーイオンの各々に対して別々に実行されてよい。
【0033】
一時的に分離したプリカーサーイオンを提供するステップは省略される場合もあることが企図されている。
【0034】
したがって、本発明はまた、
b)質量スペクトルデータを獲得するために、プリカーサーイオンおよび/またはそこから抽出されたプロダクトイオンを複数の連続する取得時間において質量分析することを含み、スペクトル計の1つまたは複数の作動パラメータの値は、それが異なる取得時間において異なる値を有するように変更され、所与のイオンに関して得られたスペクトルデータは、前記作動パラメータの値に応じて変化し、
c)各取得時間において得られたスペクトルデータを、データを獲得するのに使用された前記1つまたは複数の作動パラメータのそのそれぞれの値と共に記憶することと、
d)プリカーサーイオンまたはそこから抽出されたプロダクトイオンのうちの少なくとも1つに関して記憶されたスペクトルデータを調べ、そのプリカーサーイオンまたはそのプロダクトイオンのうちの少なくとも1つに関するどのスペクトルデータが事前に決められた判定基準に一致するかを特定し、この質量スペクトルデータを目標の作動パラメータ値として提供する前記1つまたは複数の作動パラメータの各々の値を特定することと、
e)プリカーサーイオンまたはそこから抽出されたプロダクトイオンのうちの前記少なくとも1つを再度質量分析を行うことを含み、この分析の間、前記1つまたは複数の作動パラメータの値は、前記少なくとも1つのプリカーサーイオンまたはそのプロダクトイオンのうちの前記少なくとも1つに関するそのそれぞれの目標の作動パラメータ値に設定される質量分析の方法も提供する。
【0035】
本発明はまた、本明細書に記載される方法のうちの任意の1つを実行するように設定され、そのように構成された質量分析計も提供する。
【0036】
したがって本発明はまた、
質量分析計と、
スペクトル計の1つまたは複数の作動パラメータを変更するためのコントローラと、
質量スペクトルデータを獲得するために、プリカーサーイオンおよび/またはそこから抽出されたプロダクトイオンの各々を複数の連続する取得時間において質量分析するように質量分析計を制御する、
スペクトル計の1つまたは複数の作動パラメータを、それが異なる取得時間において異なる値を有するように変更するように前記コントローラを制御し、所与のイオンに関して得られたスペクトルデータは、前記作動パラメータの値に応じて変化する、
各取得時間において得られたスペクトルデータを、データを獲得するのに使用された前記1つまたは複数の作動パラメータのそのそれぞれの値と共に記憶する、
プリカーサーイオンおよび/またはそこから抽出されたプロダクトイオンのうちの少なくとも1つに関して記憶されたスペクトルデータを調べ、そのプリカーサーイオンまたはそのプロダクトイオンのうちの少なくとも1つに関するどのスペクトルデータが事前に選択された、または閾値の判定基準に一致するかを特定し、この質量スペクトルデータを目標の作動パラメータ値として提供する前記1つまたは複数の作動パラメータの各々の値を特定することと、プリカーサーイオンまたはそこから抽出されたプロダクトイオンのうちの前記少なくとも1つを再度質量分析するようにスペクトル計を制御し、
この分析の間に、前記1つまたは複数の作動パラメータの値が、前記少なくとも1つのプリカーサーイオンまたはそのプロダクトイオンのうちの前記少なくとも1つに関するそのそれぞれの目標の作動パラメータ値に設定されるように設定され、そのように構成されたプロセッサとを備える質量分析計も提供する。
【0037】
質量分析計は、飛行時間質量分析計であってよい。
【0038】
スペクトル計は、溶出する試料をイオン化するために化合物およびイオン源をクロマトグラフィにより分離する分離デバイス、および/またはプリカーサーイオンを分離するための分離デバイスを備えてよく、プロセッサは、質量スペクトルデータを取得するために、分離されたプリカーサーイオン、および/またはそこから抽出されたプロダクトイオンの各々を前記複数の連続する取得時間において質量分析するように質量分析計を制御するように設定され、そのように構成されている。
【0039】
スペクトル計は、前記プロダクトイオンを形成するために、前記プリカーサーイオンを断片化する、または反応させるためのフラグメンテーションデバイスまたは反応デバイスを備えてよい。
【0040】
本発明の一実施形態は、q-ToF計器を用いるデータ依存取得(DDA)MS-MS分析において、複数の異なる衝突エネルギーでMS-MSデータを記録する方法を含む。その後の後工程のステップでは、DDAデータを調べて、その後の標的を絞った定量化のための標的プリカーサーイオンおよび標的プロダクトイオンを見い出す。プレカーサーのm/z、プロダクトのm/z、衝突エネルギーおよび保持時間(RT)が、DDAデータから特定され、その後、標的を絞った分析において使用される。このことは、モニタされる各標的プレカーサーからプロダクトへのトランジッションに関して最適な感度が達成されることを保証する。
【0041】
本明細書に開示されるスペクトル計は、(i)電気スプレーイオン化(「ESI」)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(「APPI」)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(「APCI」)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザ脱離(「MALDI」)イオン源、(v)レーザ脱離イオン化(「LDI」)イオン源、(vi)大気圧イオン化(「API」)イオン源、(vii)シリコン上での脱離イオン化(「DIOS「)イオン源、(viii)電子衝撃(「EI」)イオン源、(ix)化学イオン化(「CI」)イオン源、(x)電界イオン化(「FI」)イオン源、(xi)電界脱離(「FD」)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(「ICP」)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(「FAB」)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(「LSIMS」)イオン源、(xv)脱離電気スプレーイオン化(「DESI」)イオン源、(xvi)ニッケル63放射イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザ脱離イオン化イオン源、(xviii)サーモスプレーイオン源、(xix)大気圧サンプリンググロー放電イオン化(「ASGDI」)イオン源、(xx)グロー放電(「GD」)イオン源、(xxi)衝撃子イオン源、(xxii)リアルタイムの直接分析(「DART」)イオン源、(xxiii)レーザースプレーイオン化(「LSI」)イオン源、(xxiv)ソニックスプレーイオン化(「SSI」)イオン源、(xxv)マトリックス支援レーザインレットイオン化(「MAII」)イオン源、(xxvi)溶剤支援インレットイオン化(「SAII」)イオン源、(xxvii)脱離電気スプレーイオン化(「DESI」)イオン源、(xxviii)レーザアブレーション電気スプレーイオン化(「LAESI」)イオン源、および(xxix)表面支援レーザ脱離イオン化(「SALDI」)イオン源から成る群から選択されたイオン源を備えてよい。
【0042】
スペクトル計は、1つまたは複数の連続する、またはパルス状のイオン源を備えてよい。
【0043】
スペクトル計は、1つまたは複数のイオンガイドを備えてよい。
【0044】
スペクトル計は、1つまたは複数のイオン移動度分離デバイス、および/または1つまたは複数の電界非対称イオン移動度分光計デバイスを備えてよい。
【0045】
スペクトル計は、1つまたは複数のイオントラップ、あるいは1つまたは複数のイオントラップ領域を含んでよい。
【0046】
スペクトル計は、(i)衝突誘起解離(「CID」)フラグメンテーションデバイス、(ii)表面誘起解離(「SID」)フラグメンテーションデバイス、(iii)電子移動解離(「ETD」)フラグメンテーションデバイス、(iv)電子捕獲解離(「ECD」)フラグメンテーションデバイス、(v)電子衝突または衝撃解離フラグメンテーションデバイス、(vi)光誘起解離(「PID」)フラグメンテーションデバイス、(vii)レーザ誘起解離フラグメンテーションデバイス、(viii)赤外線誘起解離デバイス、(ix)紫外線誘起解離デバイス、(x)ノズル-スキーマインターフェースフラグメンテーションデバイス、(xi)インソースフラグメンテーションデバイス、(xii)インソース衝突誘起解離フラグメンテーションデバイス、(xiii)熱または温度ソースフラグメンテーションデバイス、(xiv)電場誘起フラグメンテーションデバイス、(xv)磁場誘起フラグメンテーションデバイス、(xvi)酵素消化または酵素分解フラグメンテーションデバイス、(xvii)イオン-イオン反応フラグメンテーションデバイス、(xviii)イオン-分子反応フラグメンテーションデバイス、(xix)イオン-原子反応フラグメンテーションデバイス、(xx)イオン-準安定イオン反応フラグメンテーションデバイス、(xxi)イオン-準安定分子反応フラグメンテーションデバイス、(xxii)イオン-準安定原子反応フラグメンテーションデバイス、(xxiii)付加物またはプロダクトイオンを形成するためにイオンを反応させるためのイオン-イオン反応デバイス、(xxiv)付加物またはプロダクトイオンを形成するためにイオンを反応させるためのイオン-分子反応デバイス、(xxv)付加物またはプロダクトイオンを形成するためにイオンを反応させるためのイオン-原子反応デバイス(xxvi)付加物またはプロダクトイオンを形成するためにイオンを反応させるためのイオン-準安定イオン反応デバイス、(xxvii)付加物またはプロダクトイオンを形成するためにイオンを反応させるためのイオン-準安定分子反応デバイス、(xxviii)付加物またはプロダクトイオンを形成するためにイオンを反応させるためのイオン-準安定原子反応デバイス、および(xxix)電子イオン化解離(「EID」)フラグメンテーションデバイスから成る群から選択された1つまたは複数の衝突セル、フラグメンテーションセルまたは反応セルを備えてよい。
【0047】
イオンと分子の反応デバイスは、脂質中のオレフィン(二重)結合の位置に対してオゾン酸化を行うように構成されてよい。
【0048】
スペクトル計は、(i)四重極質量分析計、(ii)2Dまたは線形四重極質量分析計、(iii)ポルまたは3D四重極質量分析計、(iv)ペニングトラップ質量分析計、(v)イオントラップ質量分析計、(vi)磁気セクター質量分析計、(vii)イオンサイクロトロン共鳴(「ICR」)質量分析計、(viii)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(「FTICR」)質量分析計、(ix)クワドロ対数ポテンシャル分布を有する静電場を形成するように構成された静電気質量分析計、(x)フーリエ変換静電気質量分析計、(xi)フーリエ変換質量分析計、(xii)飛行時間質量分析計、(xiii)直交加速型飛行時間質量分析計および(xiv)線形加速型飛行時間質量分析計から成る群から選択された質量分析計を備えてよい。
【0049】
スペクトル計は、1つまたは複数のエネルギー分析器または静電気エネルギー分析器を備えてよい。
【0050】
スペクトル計は1つまたは複数のイオン検出器を備えてよい。
【0051】
スペクトル計は、(i)四重極質量フィルタ、(ii)2Dまたは線形四重極イオントラップ、(iii)ポルまたは3D四重極イオントラップ、(iv)ペニングイオントラップ、(v)イオントラップ、(vi)磁気セクター質量フィルタ、(vii)飛行時間質量フィルタおよび(viii)ウィーンフィルタ
から成る群から選択されたから成る群から選択された質量フィルタを備えてよい。
【0052】
スペクトル計は、イオンをパルス化するためのデバイスまたはイオンゲート、および/またはほぼ連続するイオンビームをパルス状のイオンビームに変換するためのデバイスを備えてよい。
【0053】
スペクトル計は、Cトラップを備えてよく、質量分析計は、外側のバレル様電極と、クワドロ対数ポテンシャル分布を有する静電場を形成する同軸の内側のスピンドル様電極とを備え、作動の第1のモードでは、イオンはCトラップへと送られ、その後質量分析計に注入され、作動の第2のモードでは、イオンはCトラップへと送られ、その後衝突セルまたは電子移動解離デバイスへと送られ、そこで少なくとも一部のイオンは、フラグメントイオンになるように断片化され、そしてフラグメントイオンは、その後、質量分析計に注入される前にCトラップへと送られる。
【0054】
スペクトル計は、そこを通って使用中にイオンが送られる開口部を各々が有し、複数の電極を備えるスタック式のリングイオンガイドを備えてよく電極の間隔はイオン経路の長さに沿って増大し、イオンガイドの上流部分にある電極内の開口部は第1の直径を有し、イオンガイドの下流部分にある電極内の開口部は、第1の直径より小さい第2の直径を有し、ACまたはRF電圧の逆相が、使用中に連続する電極に印加される。
【0055】
スペクトル計は、ACまたはRF電圧を電極に供給するように配列され、そのように適合されたデバイスを備えてよい。ACまたはRF電圧は任意選択で(i)<およそ50Vのピークピーク値、(ii)およそ50~100Vのピークピーク値、(iii)およそ100~150Vのピークピーク値、(iv)およそ150~200Vのピークピーク値、(v)およそ200~250Vのピークからピーク値、(vi)およそ250~300Vのピークピーク値、(vii)およそ300~350Vのピークピーク値、(viii)およそ350~400Vのピークピーク値、(ix)およそ400~450Vのピークピーク値、(x)およそ450~500Vのピークピーク値、および(xi)>およそ500Vのピークピーク値から成る群から選択される振幅を有する。
【0056】
ACまたはRF電圧は(i)<およそ100kHz、(ii)およそ100-200kHz、(iii)およそ200-300kHz、(iv)およそ300-400kHz、(v)およそ400-500kHz、(vi)およそ0.5-1.0MHz、(vii)およそ1.0-1.5MHz、(viii)およそ1.5-2.0MHz、(ix)およそ2.0-2.5MHz、(x)およそ2.5-3.0MHz、(xi)およそ3.0-3.5MHz、(xii)およそ3.5-4.0MHz、(xiii)およそ4.0-4.5MHz、(xiv)およそ4.5-5.0MHz、(xv)およそ5.0-5.5MHz、(xvi)およそ5.5-6.0MHz、(xvii)およそ6.0-6.5MHz、(xviii)およそ6.5-7.0MHz、(xix)およそ7.0-7.5MHz、(xx)およそ7.5-8.0MHz、(xxi)およそ8.0-8.5MHz、(xxii)およそ8.5-9.0MHz、(xxiii)およそ9.0-9.5MHz、(xxiv)およそ9.5-10.0MHz、および(xxv)>およそ10.0MHzから成る群から選択される周波数を有する。
【0057】
スペクトル計は、イオン源の上流にクロマトグラフィデバイスまたは他の分離デバイスを備えてよい。クロマトグラフィ分離デバイスは、液体クロマトグラフィまたはガスクロマトグラフィデバイスであってよい。あるいは分離デバイスは、(i)キャピラリー電気泳動(「CE」)分離デバイス、(ii)キャピラリー電気クロマトグラフィ(「CEC」)分離デバイス、(iii)実質的に合成のセラミックベースの多層マイクロ流体基板(「セラミックタイル」)分離デバイス、または(iv)超臨界流体クロマトグラフィ分離デバイスを備えてよい。
【0058】
イオンガイドは、(i)<およそ0.0001mミリバール、(ii)およそ0.0001-0.001ミリール、(iii)およそ0.001-0.01ミリバール、(iv)およそ0.01-0.1ミリバール、(v)およそ0.1-1ミリバール、(vi)およそ1-10ミリバール、(vii)およそ10-100ミリバール、(viii)およそ100-1000ミリバール、および(ix)>およそ1000ミリバールから成る群から選択された圧力に維持されてよい。
【0059】
検体イオンは、電子移動解離フラグメンテーションデバイスにおいて電子移動解離(「ETD」)フラグメンテーションを受ける場合がある。検体イオンをイオンガイドまたはフラグメンテーションデバイス内でETD試薬イオンと相互作用させる場合もある。
【0060】
クロマトグラフィ検出器が提供されてよく、この場合クロマトグラフィ検出器は、(i)水素炎イオン化検出器(FID)、(ii)エアロゾルベースの検出器またはナノ量分析検出器(NQAD)(iii)炎光光度検出器(FPD)、(iv)原子発光検出器(AED)、(v)窒素リン検出器a(NPD)、および(vi)蒸発光散乱検出器(ELSD)から成る群から任意選択で選択された破壊クロマトグラフィ検出器、あるいは(i)固定または可変波長UV検出器、(ii)熱伝導率検出器(TCD)、(iii)蛍光検出器、(iv)電子捕獲検出器(ECD)、(v)伝導率モニタ、(vi)光イオン化検出器(PID)、(vii)屈折率検出器(RID)、(viii)ラジオフロー検出器、および(ix)キラル検出器から成る群から任意選択で選択された非破壊クロマトグラフィ検出器のいずれかを備える。
【0061】
スペクトル計は、質量分析計(「MS」)モードの作動、タンデム質量分析計(「MS/MS」)モードの作動、フラグメントイオンまたはプロダクトイオンを生成するためにペアレントまたはプリカーサーイオンが二者択一的に断片化される、または反応させられる、および全く断片化されない、全く反応させられない、あるいはより低い程度に断片化される、または反応させられる特定のモードの作動、多重反応モニタリング(「MRM」)モードの作動、データ依存分析(「DDA」)モードの作動、データ非依存分析(「DIA」)モードの作動、定量化モードの作動、またはイオン移動度分光分析(「IMS」)モードの作動を含めた多様なモードの作動で作動されてよい。
【0062】
種々の実施形態がここで、単なる一例として、添付の図面を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】5つの基準を有する試料のLCクロマトグラムを示す図である。
【
図2】
図1におけるLCピークの1つに関するプリカーサーイオンおよびプロダクトイオンを含む質量スペクトルを示す図である。
【
図3A】プリカーサーイオンを断片化するのに使用される衝突エネルギーを関数とした、
図2の質量スペクトルデータを表現する図である。
【
図3B】プリカーサーイオンをフラグメンテーションするのに使用される衝突エネルギーを関数とした、
図2の質量スペクトルデータの別の表現の図である。
【
図4】
図3A~
図3Bにおける主要なプロダクトイオンに関する強度と衝突エネルギーのプロットを示す図である。
【
図5】最適なイオン信号を提供する
図4からのプロダクトイオンおよび衝突エネルギーを利用するMRM分析の結果を示す図である。
【
図6】衝突エネルギーが走査されること以外は、
図5のMRM分析の結果に対応するMRM分析の結果を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態による一例のDDA法を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0064】
データ依存取得(DDA)MS-MS分析によって試料が分析される本発明の一実施形態を次に記載する。試料は、例えば液体クロマトグラフィ(LC)デバイスによって分離され、その後プリカーサーイオンを形成するために、それが溶出する際にイオン化される。あるいは、プリカーサーイオンを形成するために試料がイオン化され、その後このプリカーサーイオンが、イオン移動度または質量と電荷の比などの物理化学特性に従って分離され得ることも企図される。また、プリカーサーイオンを形成するために、試料が、例えばLCデバイスによって分離され、その後このプリカーサーイオンが、イオン移動度または質量と電荷の比などの物理化学特性に従って分離され得ることも企図される。
【0065】
方法は、プリカーサーイオンが質量分析されるMSモードで最初は作用する。この質量スペクトルデータがその後調べられて、その後のMS-MSモードでの分析のために1つまたは複数の標的プリカーサーイオンを特定する。ひとたび1つまたは複数の標的プリカーサーイオンが特定されると、計器はMS-MSモードに切り換えられ、そこでは、質量フィルタ(例えば四重極質量フィルタ)は、1つまたは複数の標的プリカーサーイオンのうちの最初のものに中心に据えた狭い範囲の質量と電荷の比を質量選択式に通過させ、他のイオンを除去するように設定される。質量フィルタは、最初の標的プリカーサーイオンを通過させ、これはその後、これらのイオンを断片化する、または反応させることで、それらが解離してプロダクトイオンを形成するように、例えば衝突セルなどのフラグメンテーションデバイスまたは反応デバイスに送り込まれる。最初の標的プリカーサーイオンが受けるフラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度は、時間と共に変更されてよい(例えば連続的に走査される、または断続的に段階がつけられる)。結果として生じるプロダクトイオン(何らかの断片化されないプリカーサーイオンを含める)はその後質量分析され、質量スペクトルデータが、イオンを生成するのに使用されたフラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度の関数として記録される。したがって、複数の異なるフラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度に関しての最初の標的イオンに関する質量スペクトルが獲得されてよい(例えばネスト化されたMS-MS衝突エネルギースペクトルを生成するために)。このスペクトルデータは、最初のプリカーサーイオンに関連付けられるものとして記録されてよい。
【0066】
2つ以上の標的プリカーサーイオンが同定された場合、その場合質量フィルタは、標的プリカーサーイオンのうちの2番目をフラグメンテーションデバイスまたは反応デバイスへと質量選択的に通すことで、このようなイオンを断片化する、または反応させ、その結果それらが解離してプロダクトイオンを形成するように、その後操作されてよい。上記のように、2番目の標的プリカーサーイオンが受けるフラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度は、時間と共に変更されてよい(例えば連続的に走査される、または断続的に段階がつけられる)。結果として生じるイオンはその後、質量分析され、質量スペクトルデータが、イオンを生成するのに使用されたフラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度の関数として記録される。したがって、複数の異なるフラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度に関しての2番目の標的イオンに関する質量スペクトルが獲得されてよい。このスペクトルデータは、2番目のプリカーサーイオンに関連付けられるものとして記録されてよい。
【0067】
3つ以上の標的プリカーサーイオンが同定された場合、このプロセスが、さらなる標的プリカーサーイオンの各々に対して繰り返されてよい。十分なMS-MSデータが記録されると、システムは、MSモードにもどるように切り換えられてよい。この方法を実施するのに四重極飛行時間質量分析計(Q-ToF)が使用されてよい。
【0068】
得られたMS-MSデータが調べられてよく、その後の標的を絞った定量化(発見)のために目標のm/z値のリストが選択されてよい。標的は、対象の検体に相当するプレカーサーからプロダクトへのMRMトランジションであってよい。プレカーサーイオンとプロダクトイオンの組み合わせの候補リストをこのステップにおいて特定することができる。例えば、ディスカバリープロテオミクス用途では、この段階で特定されたタンパク質の同定は、特殊なタンパク質の存在の特徴であるペプチドを同定してよい。これらは、標的を絞った多重反応モニタリング(MRM)分析において特徴的なペプチドプロダクトおよび/またはプレカーサーの相対的な強度をモニタリングすることによってその後の試料において定量化されてよい。
【0069】
定量化のための標的を特定するMS/MSデータの処理において、プロダクトイオンデータを生成するのに使用されたフラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度は無視されてよい(例えばネスト化されたスペクトルは、各MS-MSスペクトルに関するフラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度の大きさに縮約されてよい)。ひとたび目標のm/z値のリストが生成されると、ネスト化されたスペクトルデータが調べられて、各プリカーサーイオンに関して、そのプロダクトイオンのどれが(すなわちどのm/z)最適なイオン信号を有するかを特定し、またこのプロダクトイオンに関して最適なイオン信号を生成するフラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度を特定してよい。これは、例えば最適なイオン信号を有するプロダクトイオンを含まないトランジッションを除外することによって、目標のm/z値のリストを改良するのに使用されてよい。あるいは、フラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度のデータを無視するのではなく、このプロセスが目標のm/z値の最初のリストを作成する際に実施される場合もある。
【0070】
その後に続くクロマトグラフィ分析がその後行われてよく、そこではプリカーサーイオンが分離デバイスから溶出する際、断片化される、または反応させられる。任意の所与のプリカーサーイオンが溶出する時間は知られており、そのため所与のプリカーサーイオンが溶出する際、フラグメンテーションまたは反応のエネルギーまたは速度は、そのプリカーサーイオンに関する最適なプロダクトイオン信号を生成するように選択されてよい。したがってフラグメンテーション/反応エネルギーまたは反応速度は、任意の所与のプリカーサーイオンに関して固定されてよく、したがってプロダクトイオンが最適な信号を生成するための最大感度を保証する。
【0071】
所与のプリカーサーイオンの多数のプロダクトイオンに関するイオン信号を最適化する、または増強することが望ましい場合がある。ネスト化されたスペクトルデータが調べられて、このような多数のプロダクトイオンに関して最適なフラグメンテーション/反応のエネルギーまたは速度を特定してよい。その後の分析において、プリカーサーイオンが溶出する際、フラグメンテーション/反応のエネルギーまたは速度は、このような多数の最適なフラグメンテーション/反応のエネルギーまたは速度の間で(例えば狭い範囲にわたって変更されることによって)変更されてよい。
【0072】
図7は、本発明の一実施形態による一例のDDA法を例示するフローチャートである。方法は、一時的に分離したプリカーサーイオンを提供するために、分析用の試料中の化合物をクロマトグラフィによって分離し、溶出する試料をイオン化する、および/またはプリカーサーイオンを分離するステップ10を含む。方法は次いで、質量スペクトルを獲得するために、プリカーサーイオン、および/またはそこから抽出されたプロダクトイオンを複数の連続する取得時間において質量分析し、スペクトル計の1つまたは複数の作動パラメータの値は、それが異なる取得時間において異なる値を有するように変更され、所与のイオンに関して得られたスペクトルデータは、前記作動パラメータの値に応じて変化するステップ12を含む。方法は次いで、データを獲得するのに使用された前記1つまたは複数の作動パラメータのそのそれぞれの値と共に、各取得時間に得られたスペクトルデータを記憶するステップ14を含む。方法は次いで、プリカーサーイオン、またはそこから抽出されたプロダクトイオンのうちの少なくとも1つに関する記憶されたスペクトルデータを調べ、そのプリカーサーイオンに関する、またはそのプロダクトイオンのうちの少なくとも1つに関するどのスペクトルデータが事前に決められた判定基準に一致するかを特定し、この質量スペクトルデータを目標の作動パラメータ値として提供する前記1つまたは複数の作動パラメータの各々の値を特定するステップ16を含む。方法は次いで、プリカーサーイオン、またはそこから抽出されたプロダクトイオンのうちの少なくとも1つに対して質量分析をし、この分析の間、前記1つまたは複数の作動パラメータの値は、前記少なくとも1つのプリカーサーイオン、またはそのプロダクトイオンのうちの前記少なくとも1つに関するそのそれぞれの目標の作動パラメータ値に設定されるステップ18を含む。
【0073】
上記に記載した方法は、ネスト化された質量と電荷の比およびフラグメンテーション/反応のエネルギーまたは速度のデータが試料の分離(例えばクロマトグラフィによる分離)において生成されるDDA技術である。しかしながらこの技術は、他のDDA以外のタイプの取得中に使用されてもよく、その場合、生成された情報を使用して、その後の標的分析に関して最適な計器の条件を決定する。例えば標的m/zリストが既に知られている場合、衝突エネルギーを走査するなど計器の条件を変えながら、スケジュール設定されたMS-MSまたはMS(単一イオン記録SIR)分析が実行されてよく、生成されたデータは、その後の実験のために最適な条件を決定するのに使用されてよい。これら両方の実験において、モニターされるm/z範囲を制限するのに質量フィルタが使用されてよい。
【0074】
あるいは、衝突エネルギーを走査し記録する間、m/z選択をしない状態で、完全なMSデータが取得される場合もある。
【0075】
あるいは、MSモードの作動が使用されてもよく、この場合スペクトルは、検体が分離器(例えばLCデバイス)から溶出する際、第1のモードと第2のモードを交互にして取得される。第1のモードでは、フラグメンテーション/反応のエネルギーまたは速度は低い(および固定されてよい)ため、プリカーサーイオンは実質的に全く分離しない、または比較的低い割合のプリカーサーイオンが分離することになる。第2のモードでは、フラグメンテーション/反応のエネルギーまたは速度は、上記に記載されるように変更され、その結果イオンが解離し(または比較的高い割合のプリカーサーイオンが解離する)、結果として生じるスペクトルは、エネルギーまたは速度の関数として記録される。第1のモードにおいて得られたデータは、対象のプリカーサーイオンのm/zおよび保持時間(分離器内の)を特定するのに使用されてよい。第2のモードにおいて得られたデータは、各保持時間における特徴的なプロダクトイオンのm/zおよび各プロダクトイオンに関する最適なフラグメンテーション/反応のエネルギーまたは速度を特定するのに使用されてよい。この情報は、上記に記載したものに相当する様式でその後の標的を絞った分析で使用されてよく、すなわち所与のプリカーサーイオンがフラグメンテーションデバイスまたは反応デバイスに進入する際、フラグメンテーション/反応のエネルギーまたは速度は、所望されるプロダクトイオンを生成するのに最適化された値に設定される。この作動のモードは、データ非依存取得(DIA)モードの作動である。
【0076】
一実施形態の一例を次に記載するが、そこでは試料は、LCデバイスによって分離され、その後DIAモードの作動を受ける。この例では、試料はUPLCによって分離され、正イオンモードでのエレクトロスプレーイオン化によってイオン化され、その後四重極飛行時間計器を用いて分析される。計器は、50-1200amuのm/z範囲にわたって4spe/秒のスペクトル速度を有するMSモードでデータを取得するように設定された。フラグメンテーションモードでは、プリカーサーイオンは、各0.25のスペクトル周期の間に10~40eVから走査された衝突エネルギーによって衝突セル内に入るように加速された。この0.25秒の走査において、各々のスペクトルが異なる衝突エネルギーにおいて得られたデータを含む200個の別個の質量スペクトルが取得された。この実験中の個々の質量スペクトルの集まりの全体の速度はしたがって800spe/秒であった。分析された試料は、以下の5つの基準化合物を含んでいた。
スルファグアニジン[M+H]+=215amu
アセトアミノフェン[M+H]+=152amu
ValTyrVal(VYV)[M+H]+=380amu
ロイシン-エンケファリン[M+H]+=556amu
スルファジメトキシン[M+H]+=311amu
【0077】
図1は、生成されたUPLCクロマトグラムを示す。1で表示された線は、実験中に記録された総イオン電流である。ピーク2、3、4、5および6は、m/z215、152、380、556および311のそれぞれの復元されたマスクロマトグラムである。これらのピークは、5つの標的基準化合物のプリカーサーイオンからの信号である。各検体に関するカラム上の基準物質の量は、スルファグアニジン-0.5ng、アセトアミノフェン-1ng、ValTyrVal(VYV)-0.25ng、ロイシンエンケファリン-0.25ngおよびスルファジメトキシン-0.1ngであった。このデータから、5つの基準化合物の各々に関する保持時間が特定された。
【0078】
図2は、RT=1.57分でのロイシンエンケファリン[M+H]+m/z=556.3の溶出に相当する、
図1におけるピーク5に関する質量スペクトルを示している。このスペクトルは、線形の衝突エネルギー走査にわたって平均化された、プリカーサーイオン(m/z=556.3)と主要なプロダクトイオンの相対的なアバンダンスを示している。
【0079】
図3Aは、
図2におけるデータに関する衝突エネルギーとm/zのヒートマップを示す。信号の強度は、マップ内の各地点の明るさによって示されている。
図3Bは、高さが信号の強度を表す三次元表示としてであることを除いて、
図3Aのヒートマップに示されるものと同じデータを示している。
【0080】
図4は、
図1からの1.57分の保持時間におけるロイシンエンケファリンの主要なプロダクトイオンに関する強度と衝突エネルギーのプロットを示している。任意のプロダクトイオンの最も高い強度の信号は、m/z=397を有するプロダクトイオンに関するものであり、衝突エネルギーが23.5eVのときに発生することを
図4から見ることができる。上記に記載したように、10~40eVからの各衝突エネルギー走査中に、各スペクトルが異なる衝突エネルギーにおいて得られたデータを含む、200個の別個の質量スペクトルが取得された。
図4におけるx軸はまた、0~200のスペクトル数を示している。
【0081】
図4と同様のグラフが、他の基準化合物に関して、すなわちスルファグアニジン、アセトアミノフェン、ValTyrVal(VYV)およびスルファジメトキシンに対して作成された。最も高い強度の信号のプロダクトイオンが、それが得られたそれぞれの衝突エネルギーと共に、これらの他の基準化合物の各々に関しても記録された。その結果を以下の表にまとめる。
【表1】
最初の列は、基準化合物を示している。2番目の列は、プレカーサーのm/zから最も高い強度信号を有するプロダクトm/zへのトランジッションを示している。3番目の列は、第2の列におけるプロダクトイオンに関するイオン信号が最大であった衝突エネルギーを示している。4番目の列は、LCデバイスにおける基準カラムの保持時間を示している。
【0082】
多重反応モニタリング(MRM)分析はこの後、上記の表に示されるMS-MSトランジッションと衝突エネルギーのみを利用して、すなわち最適なプロダクトイオン信号を利用して実行された。システムは、標的エンハンスモードで稼働され、そこでは各トランジッションに関して選択されたプロダクトイオンは、一連の信用できるイオン集団として直交加速型TOF(プッシャー)の加速領域に放出された。直交加速型電極パルスは、プッシャーパルスが加えられたときプロダクトイオンがプッシャー領域に達するようにイオンの放出と同時に作動された。このことは、各プロダクトイオンを中心に据えた特有のm/z領域に関するToF質量分析計のデューティーサイクルを最大にし、標的イオンの感度を高めた。
【0083】
【0084】
この実験で注入された各基準化合物の量は、スルファグアニジン-0.5pg、アセトアミノフェン-1pg、ValTyrVal(VYV)-0.25pg、ロイシンエンケファリン-0.25pgおよびスルファジメトキシン-0.1pgであった(すなわち化合物は、上記に記載した方法発生段階でのものより1000分の1に薄められた)。
【0085】
図6は、各プロダクトイオンに関して特定された最適な値に設定されるのとは対照的に、衝突エネルギーが10~40eVから走査されたこと以外は、
図5に関連して記載したものに相当する実験の結果を示す。
【0086】
以下の表は、
図5および
図6における標的の各々に関するクロマトグラフィピーク面積の比較を示している。
【表2】
最初の列は、基準化合物を示している。2番目の列は、
図6に関連して記載した技術によって得られたクロマトグラフィピーク面積を示しており、そこでの衝突エネルギーは、10~40eVの間で走査された。3番目の列は、
図5に関連して記載した技術によって得られたクロマトグラフィピーク面積を示しており、そこでは最適な衝突エネルギーが特定され使用される。4番目の列は、3番目の列における面積と、2番目の列における面積の比を示している。
図5に関連して記載した技術(最適なフラグメンテーションエネルギーを有する)は、
図5に関連して記載した技術(走査された衝突エネルギーを利用する)より、各化合物に関してより大きなクロマトグラフィピーク面積を提供することを見ることができる。
図5の方法を利用することによって1.84倍の平均の絶対感度の増加が得られることを4番目の列から見ることができる。
【0087】
本発明を好ましい実施形態を参照して記載してきたが、形式および詳細における種々の変更は、添付の特許請求の範囲に記載されるような本発明の範囲から逸脱することなく行うことができることは当業者によって理解されるであろう。
【0088】
例えば上記に記載される例では、基準化合物が利用可能であり、衝突エネルギー走査データを収集するのにデータに依存しない方法が使用された。しかしながら、この同一の方法論が、プレカーサーとプロダクトのトランジッションデータ、RTおよび最適な衝突エネルギー値を生成するためにデータ依存取得(DDA)に適用される場合もある。
【0089】
上記に記載される例におけるデータは、純粋な溶媒中で基準試料を利用して取得されたが、同一の方法論が、マトリックス中の基準試料に適用される場合もある。
【0090】
衝突エネルギーを最適化する際、最適な値は、最適な感度または最適な信号強度が達成される値になるように選択されてよい。しかしながら最適な値が、感度以外の何かを最適化するために選択され得ることも企図される。例えば、最適な値は、絶対強度ではなく、信号とノイズ比を最大にするために選択される場合もある。
【0091】
上記に記載した実施形態では、方法は、MS-MS分析のために衝突エネルギーを最適化するのに使用される。しかしながら、例えばクロマトグラフィ分離においてなど、本明細書に記載される方法を用いて他の計器のパラメータまたは条件に関する最適な値が特定される場合もある。
【0092】
変更され、最適化され得るパラメータの例の非制限的な例は以下の通りである。
1.イオンをガスまたは表面と衝突させる衝突エネルギーが最適化されてよい。例えば、イオンを断片化させるためにイオンをAC電圧によって特定のガスの中で振動させる場合があり、この電圧の周波数または振幅数が最適化されてよい。
2.イオンが断片化されるフラグメンテーションエネルギーが最適化されてよい。例えばイオンが、電磁放射または光子を受けることによって断片化される場合、放射または光子エネルギーのレベルが最適化されてよい。
3.イオン化条件が最適化されてよい。例えば電気スプレーイオン化において、電気スプレーニードル電圧が最適化されてよい。最も高い感度に関する値は、異なる溶媒組成を使用した場合に異なり、それ故異なる保持時間においても異なる。電子衝撃イオン化法(EI)に関して、最適な感度および最適な信号とノイズ比は化合物固有であるため、電子エネルギーが最適化されてよい。一部のケースでは、電子エネルギーまたはイオン化ポテンシャルは、妨害する化合物を区別するように選択/最適化されてよい。APPIソースなどの光子イオン化源では、光子エネルギーまたは流速が最適化されてよい。
4.計器内のガス圧またはガス組成が最適化されてよい。例えばこれは、例えばイオン移動度分離バッファガスへのドーパントの導入、すなわち極性気体または分極可能な気体の導入によってイオン移動度の分離を制御するように最適化されてよい。
5.イオン移動度フィルタの作動パラメータが最適化されてよい。例えば差動イオン移動度フィルタで使用される補償電圧が最適化されてよい。
6.イオンが、質量分析計を通ってイオン検出器に向かって進む際のイオンの通過に影響を与えるように作用する静電気デバイスまたはRFデバイスの1つまたは複数の設定が最適化されてよい。例えば極めて変化し易い化合物に関して、集束が大きい、加速が大きい、偏向が大きい、またはRF閉じ込めポテンシャルが大きいことは、他の化合物にとって最適である値における望ましくないフラグメンテーションを招く可能性がある。これは化合物特有の作用であり、記載される方法を用いて調査されてよい。
7.最適な信号とノイズ比に関する分析フィルタの分解能設定と感度が最適化されてよい。例えば四重極質量フィルタの分解能が高められると、伝達が低下する可能性がある。何らかの障害物の性質に応じて、最適な検出限界に対する最適なフィルタ分解能が存在してよい。これは、例えばイオン移動度フィルタまたは差動イオン移動度フィルタなどの任意の分析フィルタに適用される。
8.分析RFイオントラップの分解能が最適化されてよい。
9.分析静電気イオントラップの分解能が最適化されてよい。
10.イオンが反応物に曝される反応時間、例えば解離を生じさせる反応時間が最適化されてよい。このようなプロセスには、例えば、ETD、HDX、ECD、PTR、イオンと分子、またはイオンとイオンの相互作用が含まれる。これは、イオンをデバイス内を通るように推し進める推進力を変える、またはデバイスの中でのトラップ時間を変えることによって反応時間が調節される貫流デバイスを用いて達成されてよい。あるいは、そのような反応は、イオン化源の中で、またはさらにはイオン化より前に溶液中で生じる場合もある。
11.イオンの伝達または減衰レベルが最適化されてよい。
12.検出器または電子増倍管の電圧またはゲインが最適化されてよい。
【0093】
2つ以上の計器のパラメータの最適な値は、1回のクロマトグラフィの作業時間の範囲内で決定され得ることが本明細書では企図されている。2つ以上の作動パラメータの異なる条件下での計器からのデータは、別々のクロマトグラフィの作業時間中に個別に取得されてよい、または同一のクロマトグラフィの作業時間中に事実上同時に取得されてもよい。後の方の手法において、2つ以上の機能が実験中に取得されてよい。例えば、ある取得時間は、全ての他のパラメータが固定された状態のパラメータAの複数の値からのデータを含んでもよい。次の取得時間は、全ての他のパラメータ(パラメータAを含む)が固定された状態のパラメータBの複数の値からのデータを含んでもよい。この方法において、データがその後調べられて、1回のクロマトグラフィの作業時間からパラメータAとBの両方の最適化された値を特定することができる。
【0094】
2つ以上のパラメータが、1回のクロマトグラフィの作業時間の中で変更される場合があることが企図されている。一部のケースでは2つ(またはそれ以上)のパラメータが相互に依存している。例えば、電子衝撃イオン化源に関する電子エネルギーの異なる設定は、最適な感度のために異なる電子放出設定(通常フィラメント電流によって制御される)を必要とする場合がある。このようなケースでは、方法は、2つのパラメータの組み合わせの最適な値を見つけるために拡張されてよい。例えば電子エネルギーの複数の値の各々において、複数の放出電流値からのデータが記録されてよい。結果として生じるデータは、これを調べることで、そのクロマトグラフィ溶出時間に関して、各検体のこのようなパラメータの最適な組み合わせを特定することができる、各保持時間地点における異なる電子エネルギーの強度と、放出電流に関する二次元マップを含んでいる。
【0095】
本明細書に開示される発明は、質量または移動度選択分離器および/またはフィルタを使用することで、任意の所与の時間に下流に進むイオンの質量または移動度を最小限にする、または制限し、これにより下流の要素の作動パラメータの変化の範囲を最小限にする、または制限することを可能にすることができる。例えば、イオンの解離に必要とされる衝突エネルギーは、イオン移動度に強く相関させられるように示されてきた。したがってイオンの母集団が、CIDによる解離より前にフィルタリングされた、または分離されたイオン移動度である場合、走査される必要がある衝突エネルギーの範囲は、衝突セルに進入する移動度の範囲に応じて変更されてよい。狭い衝突エネルギーの範囲を使用することで、この実験における感度を最大にする。
【0096】
同様に、単独で帯電したイオンの混合体に関して(例えば脂質または代謝産物の分析において)、最適な衝突エネルギーは、イオンのm/zと相関させられる。イオンの母集団が、m/zに関してフィルタリングされる、または分離された場合、衝突エネルギーが走査される、または変更される範囲は、m/zの関数として変更されてよい。これに加えて、クロマトグラフィ分離から溶出するイオンのm/zもまた、質量またはm/zに相関させられることが多い。キャピラリー電気泳動は、液相モビリティ分離技術であり、溶液中の異なる荷電状態のイオンの溶出もまた、必要とされる衝突エネルギーに相関させられる。したがって衝突エネルギーが走査される範囲は、保持時間に関して変更されてよい、または複数の分離技術が組み合わされた場合、保持時間、m/zおよびイオン移動度の関数として変更される場合もある。
【0097】
一部のケースでは、所与の保持時間における単一の最適化された値を特定することができないことがあり、例えばこの場合、2つの標的イオンが一緒に溶出し、作動パラメータの異なる値を必要とする。このようなケースでは、ひとたび最適な値が特定されると、一緒に溶出する種に関して必要とされる値の中での妥協点をもたらす単一の値が使用されてよい。あるいは、計器が、2つ以上の最適な値を使用するように構成されてもよく、各値が使用される時間の割合は、最初の分析において取得されたデータを利用して決められてよい。
【0098】
特徴的な分離の時間尺度(例えばクロマトグラフィピーク幅)は、各取得時間に関して必要とされる時間の3倍を超える(5、10倍など)ことが本明細書の方法においては望ましい。このことは、最初の実験の間に、クロマトグラフィピークを特徴付け、保持時間を特定するのに十分なデータが生成されることを保証する。最新技術のUPLCシステムは、1秒から10秒の幅のクロマトグラフィピークを生成する。したがって、各取得時間において異なる値の作動パラメータで多数の質量スペクトルを記録することは、高いデューティサイクルによって高いスペクトル率でデータを記録することが可能な取得システムを必要とする。そのような取得システムは、ネスト化されたIMS-MSデータセットを記録するために近年開発されており、個々の質量スペクトルを毎秒2000スペクトルを超える速度で記録することが可能である。1つのそのような取得システムが、別の目的のために再利用されて本明細書に開示される一例の分析においてデータを生成する。
【0099】
本明細書に開示される例の
図2のスペクトルは、衝突エネルギーの大きさのデータを単一のスペクトルに縮約することによって生成される。これは、開示される方法に必修なものではない。あるいはデータは、好適な特徴検出アルゴリズムを用いて各時間周期の中で完全な二次元データとして処理されてもよい。
【0100】
本発明を直交加速型飛行時間質量分析計を参照して記載してきたが、他の質量分析計が使用されてもよい。例えば、記載されるようなディスカバリープロテオミクス実験では、標的ペプチド、保持時間およびプリカーサーイオンからプロダクトイオンへのトランジッションならびに衝突エネルギーが、DDA実験において記載される方法を用いて特定されてよい。しかしながら、直交加速型飛行時間計器ではなく、タンデム四重極計器を用いてそれに続く定量化を行うのが望ましい場合もある。飛行時間計器の時間に関して特定された最適な衝突エネルギーは、例えば衝突ガス圧または組成が2つの計器において異なる場合、タンデム四重型には適用できない場合もある。目標のm/z値および保持時間は、計器間では同一のままである。このようなケースでは、MRM法は、予め特定されたm/zおよび保持時間情報を利用してタンデム四重極に対して設定され得るが、とはいえ衝突エネルギーは走査されてよい。モニターされるプリカーサーイオンからプロダクトイオンへのトランジッションに関する強度データは、各取得時間または滞留時間中に記録されてよい。クロマトグラフィ実験においてこの各滞留時間に関して記録された一次元の強度と衝突のエネルギーのプロットをその後調べて、これに続く分析で使用することができる、各トランジッションに関する衝突エネルギーの好ましい値を特定することができる。