(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】高出力型のリチウムイオン電池用正極材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230310BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230310BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2021531385
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 CN2020089850
(87)【国際公開番号】W WO2021159618
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】202010087825.7
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521235039
【氏名又は名称】湖南長遠▲里▼科股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUNAN CHANGYUAN LICO CO., LTD
【住所又は居所原語表記】No.18, Lutian Road, Yuelu District Changsha, Hunan 410205 China
(73)【特許権者】
【識別番号】521235040
【氏名又は名称】金馳能源材料有限公司
【氏名又は名称原語表記】JINCHI ENERGY MATERIALS CO., LTD
【住所又は居所原語表記】No.955, Huaguo Road, Tongguan recycling industrial base, Wangcheng District Changsha, Hunan 410000 China
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】郭 忻
(72)【発明者】
【氏名】胡 海詩
(72)【発明者】
【氏名】胡 志兵
(72)【発明者】
【氏名】黄 承煥
(72)【発明者】
【氏名】張 海艶
(72)【発明者】
【氏名】周 友元
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-119092(JP,A)
【文献】特開2018-095505(JP,A)
【文献】国際公開第2012/131779(WO,A1)
【文献】特開2013-051172(JP,A)
【文献】特開2016-154143(JP,A)
【文献】特開2015-191844(JP,A)
【文献】特開2015-227263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用正極材料
の製造方法であって、
前記正極材料の化学式はLi
aNi
xCo
yM
zO
2であり、ここで、0.96≦a≦1.35、0.3≦x≦1、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、x+y+z=1であり、
MはMn、Al、Zr、Mg、W、Ti、Y、La、B及びSrのうちの1つ以上であり、前記正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であり、前記二次粒子のシェル部分は複数の一次粒子が凝集して形成され、
前記製造方法は、
共沈法を用いてNi
x
Co
y
M
z
(OH)
2
前駆体を合成するステップであって、前記前駆体の合成はコア形成及びコア成長段階及びシェル成長段階を含み、前記コア形成及びコア成長段階において、アンモニウムイオン濃度が7g/L-15g/Lとなる量の錯化剤を使用し、シェル成長段階において、コア形成及びコア成長段階よりも高い濃度の錯化剤を使用し、得られた前駆体の中心部分は微小粒子により形成され、シェル部分は該微小粒子よりも粒径が大きい大粒子により形成されるステップ(1)と、
前記ステップ(1)で得られた前駆体とリチウム塩を均一に混合し、次に焼結することで、Li
a
Ni
x
Co
y
M
z
O
2
正極材料を得るステップ(2)と、を含み、
前記ステップ(1)において、共沈法を用いてNi
x
Co
y
M
z
(OH)
2
前駆体を合成する操作が、Ni、Co、Mを含有する金属塩溶液、アルカリ溶液、アンモニア水溶液を、それぞれ底液を有する反応釜に加えて反応させ、反応過程において、反応温度は40℃-60℃であり、撹拌回転数は100r/min-1000r/minであり、反応系のpH値を8-13に制御し、反応釜に窒素ガスを連続して導入し、前駆体のコア形成及びコア成長段階において反応系のアンモニウムイオン濃度を7g/L-15g/Lに制御し、シェル成長段階において反応系のアンモニウムイオン濃度を30g/L-40g/Lに制御し、且つシェル成長段階のアンモニウムイオン濃度はコア形成段階及びコア成長段階のアンモニウムイオン濃度より高く、反応により得られた沈殿を固液分離、エージング、洗浄及び乾燥させることで、Ni
x
Co
y
M
z
(OH)
2
前駆体を得ることを含み、
前記ステップ(2)において、リチウム塩の添加量はLiとNi+Co+Mのモル比が0.96-1.35であることを基準とし、前記リチウム塩は炭酸リチウム、水酸化リチウム、シュウ酸リチウム及び酢酸リチウムのうちの1つ以上であり、前記前駆体とリチウム塩を混合する時にさらにドーピング元素の酸化物を加え、前記ドーピング元素はAl、Zr、Mg、W、Ti、Y、La、B及びSrのうちから選択される前記M以外の1つ以上であり、該ドーピング元素が前記正極材料に占める質量パーセントは0.01wt%-2wt%である
ことを特徴とする、リチウムイオン電池用正極材料
の製造方法。
【請求項2】
前記金属塩溶液は硫酸塩溶液、硝酸塩溶液、塩化塩溶液、酢酸塩溶液及びアルミン酸塩溶液のうちの1つ以上であり、前記金属塩溶液中の総金属イオン濃度は0.05mol/L-3mol/Lであり、前記アルカリ溶液は水酸化ナトリウム溶液であり、前記アルカリ溶液の濃度は1mol/L-10mol/Lであり、前記アンモニア水溶液のアンモニウムイオン濃度は3mol/L-6mol/Lであ
ることを特徴とする、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(2)において、焼結温度は500℃-1000℃であり、焼結時間は6-24hであり、焼結雰囲気は空気又は酸素、又は酸素と空気の混合であることを特徴とする、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項4】
焼結過程において多段階温度制御焼結方法を用い、まず500-700℃で5-6h保温し、次に810-1000℃まで昇温して8-10h保温し、さらに700-750℃まで冷却して5-8h保温することを特徴とする、請求項
3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池の技術分野に属し、特に高出力型のリチウムイオン電池用正極材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新エネルギー自動車の発展が顕著である。省エネルギー及び排出削減のニーズさらには従来の自動車から新エネルギー自動車へのスムーズな移行のために、ハイブリッド自動車(HEV)は現時点で最適な選択肢となっている。リチウムイオン電池は軽量で使いやすく、比エネルギーが高く、比出力が高く、高効率で環境にやさしいなどの利点を有し、将来の自動車動力用電池として広く受け入れられている最優先の選択肢である。ハイブリッド自動車は内燃機関と動力電池を駆動システムとして同時に有しているため、動力電池の出力特性に対する要件が高い。そのため、高出力のリチウムイオン電池の開発が非常に期待されている。
【0003】
電池が高いサイクル特性、低い抵抗、高い出力電力等の良好な性能を有するためには、正極活物質とするリチウム複合酸化物が、均一で適度な粒径を有し、且つ比表面積の大きい正極材料粒子を形成する必要がある。中空型構造の正極材料は、表面が粗い多孔質であり、比表面積が大きく、正極材料と電解液との接触を強化させることができ、電池の大電流放電を強力にサポートして、電池の出力特性を向上させることができる。現在、中空型正極材料を製造する方法は主にテンプレート法とコア酸化法の2種類である。
【0004】
一つ目は前駆体合成の底液にテンプレート剤(例えばカーボンマイクロビーズ)を添加して結晶成長の基体とし、後続の過程で、さらに一定の方式でテンプレート剤を除去することにより、中空型材料を得る方法である。しかし、テンプレート剤の導入と除去は材料のコスト及び生産プロセス制御の難易度を引き上げ、特に前駆体の合成コストと生産プロセス制御の難易度を引き上げることになる。
【0005】
二つ目の方法はコア酸化法であり、コア形成及びコア成長段階において酸化性の雰囲気(例えば空気雰囲気)を用い、シェル成長段階において不活性ガス雰囲気(例えば窒素ガス)を用い、この方法で製造された前駆体のコアの一次粒子は非常に細かく、コアは粗く、焼結して中空型正極材料を得ることもできる。該方法の原理はコア形成及びコア成長段階において、酸化性の雰囲気を利用してMn2+をMn3+に酸化し、前駆体の結晶性を低下させ、それによりコアの一次粒子の配列をまばらにし、サイズを細分化するものであるが、該方法は一定量のMn(例えばLiaNixCoyMnzO2においてz≧0.1である)を含有する正極材料のみに適し、Mnを含有しない又はMnの含有量が非常に少ない材料(例えばニッケルコバルトアルミニウム三元系材料)には適さない。同時に合成過程における酸化作用により、得られた前駆体は結晶性が低く、タップ密度が小さく、同時に前駆体中の不純物Na、Sの含有量が増加する。
【0006】
また、中空型正極材料の合成過程において、前駆体には内外構造に差異があるため、焼結過程で崩壊しやすい。且つこの材料は中空構造であるため、タップ密度及び圧縮密度が低く、粒子強度が低く、極性シートを圧延する時に正極材料が割れやすく、材料本来の構造を破壊し且つ材料の電気的特性に影響を与える。同時に、材料の比表面積が大きいため、出力電力の向上には有利であるが、材料と電解液の接触面積が増大し、副反応が増加してサイクル特性が悪化する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする技術的課題は、上記技術背景で言及した短所及び欠陥を克服し、レート特性及びサイクル特性に優れた中空微小球構造のリチウムイオン電池用正極材料及びその製造方法、及び該正極材料により製造された電極及びリチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術的課題を解決するために、本発明が提供する技術的解決手段は以下のとおりである:
【0009】
高出力型のリチウムイオン電池用正極材料であって、正極材料の化学式はLiaNixCoyMzO2であり、ここで、0.96≦a≦1.35、0.3≦x≦1、0≦y≦0.4、0≦z≦0.4、x+y+z=1であり、MはMn、Al、Zr、Mg、W、Ti、Y、La、B及びSrのうちの1つ以上である;正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であり、二次粒子のシェル部分は複数の一次粒子が凝集して形成される。
【0010】
上記リチウムイオン電池用正極材料において、好ましくは、二次粒子の平均粒径は0.1μm-40μmであり、比表面積は0.1m2/g-15.0m2/gである;一次粒子の粒径は0.1μm-3.5μmである。二次粒子のシェル部分の厚さと二次粒子の粒径の比は1%-49%である。正極材料はさらにドーピング元素を含み、ドーピング元素はAl、Zr、Mg、W、Ti、Y、La、B及びSrのうちの1つ以上であり、該ドーピング元素が正極材料において占める質量パーセントは0.01wt%-2wt%である。
【0011】
ナノメートルレベルの中空微小球構造の正極材料は低い熱膨張係数、高い比表面積を有し、粒子の大きさが均一であり、粒径の分布範囲が狭く、焼結過程において、リチウムイオンの拡散に有利であり、正極シートを製造した後、電解液との接触面積を効果的に増大させることができ、電子の輸送及びLiイオンの挿入/脱離、緩衝材料のプレス及び充放電過程における体積変化に有利であり、正極材料のレート及びサイクル特性を効果的に向上させることができ、動力電池の出力性能及び安全性を改善し、これにより電気自動車の走行性能及び安全性を向上させる意義は非常に大きい。
総合的な発明概念に基づき、本発明はさらに上記リチウムイオン電池用正極材料の製造方法を提供し、以下のステップを含む。
【0012】
(1)共沈法を用いてNixCoyMz(OH)2前駆体を合成し、前駆体の合成はコア形成及びコア成長段階とシェル成長段階を含み、コア形成及びコア成長段階において、錯化剤を使用しないか又は低濃度の錯化剤を使用する。シェル成長段階において、コア形成及びコア成長段階よりも高い濃度の錯化剤を使用する。得られた前駆体の中心部分は微小粒子で形成され、シェル部分は該微小粒子よりも粒径の大きい大粒子で形成され、中心部分及びシェル部分の粒子成分はいずれもNixCoyMz(OH)2である;
(2)ステップ(1)で得られた前駆体とリチウム塩を均一に混合してから、焼結することで、LiaNixCoyMzO2正極材料を得る。
【0013】
上記製造方法は、好ましくはステップ(1)において、共沈法を用いてNixCoyMz(OH)2前駆体を合成する操作を行い、具体的には以下のステップを含む。Ni、Co、Mを含有する金属塩溶液、アルカリ溶液、アンモニア水溶液を、それぞれ底液を有する反応釜に加えて反応させ、反応過程において、反応温度は40℃-60℃であり、撹拌回転数は100r/min-1000r/minであり、反応系のpH値を8-13に制御し、反応釜内に窒素ガスを連続して導入する。 前駆体のコア形成及びコア成長段階では反応系のアンモニウムイオン濃度を0g/L-15g/Lに制御し、シェル成長段階において反応系のアンモニウムイオン濃度を5g/L-40g/Lに制御し、且つシェル成長段階におけるアンモニウムイオン濃度はコア形成段階及びコア成長段階におけるアンモニウムイオン濃度より高い。反応により得られた沈殿物を固液分離、エージング、洗浄及び乾燥することで、NixCoyMz(OH)2前駆体を得ることができる。
【0014】
より好ましくは、前駆体のコア生成及びコア成長段階における反応系のアンモニウムイオン濃度を7g/L-15g/Lに制御し、シェル成長段階における反応系のアンモニウムイオン濃度を30g/L-40g/Lに制御する。
【0015】
従来の製造プロセスでは錯化剤を添加しておらず、合成された製品はタップ密度が極めて低く、BETが極めて高く、これは材料のエネルギー密度を大幅に低下させるだけでなく、前駆体の後処理に厳密な要件をもたらし、またタップが低くBETが高い製品は、乾燥後に凝集が発生しやすく、現在主流のエージング及び乾燥プロセスでは要件を満たすことができず、大量生産が困難である。 錯化剤を添加しないと、前駆体は結晶性に劣り、製品が含有するNa、S等の不純物の量が多くなり、焼結過程及び正極材料の電気的特性に悪影響を及ぼし、さらにNi(OH)2、Co(OH)2、Mn(OH)2分相を生成し、前駆体製品内部の元素分布が不均一になることで、最終製品の電気的特性を低下させる。本発明はNi、Co、Mnの三元素の共沈過程において、錯化剤を添加しており、その作用は主にNi2+、Co2+及びMn2+と、遊離した錯化金属イオンを形成し、沈殿速度を適切に低下させることで、三つの元素に均一な共沈を生成して、相分離の発生を防止することであり、且つ多くの研究結果が示すように、錯化剤の存在は生成物の結晶性を効果的に向上させることができ、且つ緻密な球形水酸化物の形成にとって欠かせないものである。
【0016】
コア形成及びコア成長過程においては、錯化剤を使用しないか又は低濃度の錯化剤(アンモニウムイオン濃度0g/L-15g/Lであり、より好ましくは7g/L-15g/Lである)を使用し、生成された一次粒子は粗密である。シェル成長過程においては、高濃度の錯化剤(アンモニウムイオン濃度5g/L-40g/Lであり、より好ましくは30g/L-40g/Lである)を使用し、生成された一次粒子はコア粒子よりもやや大きく、得られたシェル層は緻密である。正極材料の焼結過程において、コアの一次粒子が小さく粗いため、反応活性が大きく、焼結の進行に伴い、コア粒子がシェル方向に収縮し、それにより中空構造を有する正極材料を形成する。
【0017】
コア形成及びコア成長段階の終了は粒度の制御を基準とし、コアの粒度が予め定めた要件に達すると、アンモニウムイオン濃度を上げて、シェル成長段階を開始することができ、粒子が目標粒度に成長するまで行う。
【0018】
本発明は前駆体の異なる反応段階においてアンモニウムイオン濃度を調整することにより、前駆体のコアとシェルの差別化を実現し、テンプレート剤等の新たな原材料を導入する必要がなく、且つ適用範囲が広く、Mn含有材料に適するだけでなく、ニッケルコバルトアルミニウム等のMnを含まない材料にも適する。同時に、合成の過程で常に窒素ガス保護を用いるため、前駆体の結晶度及びタップ密度はコア酸化法より明らかに優れており、不純物であるNa、Sの含有量が相対的に低い。また、コア及びコア成長段階において、アンモニア水を使用しないか又は少量のアンモニア水を使用するだけであるため、前駆体合成のコストを削減することができ、同時に反応系におけるアンモニア水の揮発量を削減し、環境汚染を減少させる。また、コア形成及びコア成長段階、シェル成長段階の反応温度を40℃-60℃に設定しており、これは60℃以上の高温条件下では、アルカリ性環境においてMn2+がより酸化しやすく、装置の密封性、不活性ガスの流量に対する要件がより高くなり、装置のコスト及び不活性ガスの使用量が増加し、必要なエネルギー消費が高く、前駆体の生産コストを増加させるためである。
【0019】
より好ましくは、金属塩溶液は硫酸塩溶液、硝酸塩溶液、塩化塩溶液、酢酸塩溶液及びアルミン酸塩溶液のうちの1つ以上であり、金属塩溶液中の総金属イオン濃度は0.05mol/L-3mol/Lである。アルカリ溶液は水酸化ナトリウム溶液であり、アルカリ溶液の濃度は1mol/L-10mol/Lである。アンモニア水溶液のアンモニウムイオン濃度は3mol/L-6mol/Lである。中心部分の微小粒子の粒径は<0.3μmであり、シェル部分の大粒子の粒径は≧0.3μmである。
【0020】
好ましくは、ステップ(2)において、リチウム塩の添加量はLiとNi+Co+Mのモル比が0.96-1.35であることを基準とし、リチウム塩は炭酸リチウム、水酸化リチウム、シュウ酸リチウム及び酢酸リチウムのうちの1つ以上である。前駆体とリチウム塩を混合する時にさらにドーピング元素の酸化物を加え、ドーピング元素はAl、Zr、Mg、W、Ti、Y、La、B及びSrのうちの1つ以上であり、該ドーピング元素が正極材料に占める質量パーセントは0.01wt%-2wt%である。
好ましくは、ステップ(2)において、焼結温度は500℃-1000℃であり、焼結時間は6-24hであり、焼結雰囲気は空気及び/又は酸素である。
【0021】
より好ましくは、焼結過程において多段階温度制御焼結方法を用い、まず500-700℃で5-6h保温し、次に810-1000℃に昇温して8-10h保温し、更に700-750℃まで温度を下げて5-8h保温する。
【0022】
従来の製造方法は、中空型正極材料の合成過程において、前駆体に内外構造の差異が存在するため、焼結過程において崩壊しやすい。この問題を克服するために、本発明は焼結プロセスを改良及び調整し、多段階温度制御焼結方法を採用し、且つ温度を下げる段階で一段階の保温過程を設定することにより、中空構造の安定に役立ち、材料内部の粒子を内側から外側へ収縮させ、酸素を外側から内側へ拡散させて、均一で安定した中空型正極材料を形成する。また、焼結過程において、より高いリチウム配合量は中空構造の形成に有利であり、これはより高いリチウム含有量が前駆体とリチウムイオンの反応活性を増加して、中心部分の粒子が外側に拡散してリチウムと反応するよう促進することにより、中空の形態をより形成しやすくすることによる。
【0023】
正極材料の比表面積が大きいため、電解液との接触面積が増大し、出力電力の向上に有利であり、リチウムイオンが拡散する距離を短縮させるが、同時に電解液との副反応も増加してサイクル特性を悪化させる恐れがある。一般的なサイクル特性を向上させる手段は表面被覆であるが、表面被覆は必然的に材料の比表面積を低下させ、これは本発明の材料の設計と矛盾する。正極材料の粒子強度及びサイクル特性をさらに向上させるため、本発明は正極材料の焼結過程において、対応する元素をドープすることにより、材料の粒子強度を向上させることができ、極性シートの圧延過程における粒子の破壊を防止し、材料の加工特性を向上させることができる。また、比表面積が大きいために生じる電解液との副反応による材料の構造の不安定化を防ぎ、材料のサイクル特性の安定性を向上させることができる。
【0024】
要約すると、中空微小球構造を製造する技術的原理は以下のとおりである。1)前駆体の合成過程においてアンモニウムイオンの濃度を調整することにより前駆体のコアとシェルの差別化を実現し、前駆体中心部分の粒子サイズを小さく且つ粗くして、シェル部分の粒子サイズを大きく且つ緻密にする。2)前駆体のコアとシェル粒子の差異を利用して、焼結過程において、焼結プロセスを制御(温度制御及び時間制御)することにより、粒子を内側から外側へ収縮させ、酸素を外側から内側へ拡散させて、内部が中空形態の球状粒子材料を形成する;3)焼結過程で元素をドープし、粒子強度及びサイクル特性を向上させる。
【0025】
総合的な発明概念に基づき、本発明はさらに電極及びリチウムイオン電池(リチウムイオン電池は正極、負極、セパレータ及び電解液を含む)を提供し、電極及びリチウムイオン電池の活物質は上記正極材料を含み、電極中の正極材料の質量含有量は50-99.9%である。
従来技術に比べ、本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0026】
1、本発明のリチウムイオン電池用正極材料は、中空微小球構造を呈し、粒子の大きさが均一であり、表面が粗く多孔質であり、比表面積が大きく、電解液との反応面積を増加させ、リチウムイオンの拡散距離を短縮することができ、高いレート特性及び優れたサイクル特性を有する。
【0027】
2、本発明の正極材料の製造方法は、プロセスが簡単であり、コストが低く、工業化生産することができ、且つ得られた材料の統一性が高く、粒子の形状が規則的で且つ粒径の分布範囲が小さく、材料構造が安定している。
【0028】
3、本発明の電極及びリチウムイオン電池は、上記正極材料を用い、高いサイクル特性、低い抵抗、高い出力電力等の良好な性能を有し、安全性が高く、電気自動車の走行性能及び安全性能を向上させる意義は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明の実施例又は従来技術における技術的解決手段をより明確に説明するために、以下に実施例又は従来技術の説明に必要な図面を簡単に説明し、明らかな点として、以下の説明における図面は本発明の幾つかの実施例であり、当業者であれば、創造的な労力を要することなく、これらの図面に基づいて他の図面を得ることができる。
【
図1】は本発明の正極材料の断面模式図(Aはシェル部分の厚さ、Dは二次粒子の粒径)である。
【
図2】は実施例2で得られた正極材料の断面の電子顕微鏡図である。
【
図3】は比較例3で得られた正極材料の電子顕微鏡図である。
【
図4】は比較例3で得られた正極材料の断面の電子顕微鏡図である。
【
図5】は比較例3で得られた正極材料の異なる倍率での放電比容量図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を理解しやすくするために、以下に明細書の図面及び好ましい実施例を参照しながら本発明をより全面的、且つ詳細に説明するが、本発明の保護範囲は以下の具体的な実施例に限定されない。
【0031】
別途定義されない限り、以下で使用される全ての専門用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で使用される専門用語は、具体的な実施例を説明する目的のためだけに用いられ、本発明の保護範囲を限定することを意図したものではない。
特に説明のない限り、本発明で用いられる各種原材料、試薬、機器及び装置等は、いずれも市販品であるか又は従来の方法で製造されたものである。
【実施例1】
【0032】
本発明のリチウムイオン電池用正極材料であって、正極材料の化学式はLi
1.2Ni
0.6Co
0.2Mn
0.2O
2であり、
図1に示すように、正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であり、二次粒子のシェル部分は複数の一次粒子が凝集して形成される。
該正極材料の製造方法は、以下のステップを含む。
【0033】
(1)共沈法を利用してNi0.6Co0.2Mn0.2(OH)2前駆体を合成し、該前駆体の合成はコア形成及びコア成長段階及びシェル成長段階を含み、具体的な操作は以下を含む。まずニッケル、コバルト、マンガンを含有する硫酸塩を用いて、総金属イオン濃度が2mol/Lの混合金属塩溶液を調製し、ニッケル、コバルト、マンガンのモル比は6:2:2であり、濃度が2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液とアンモニウムイオン濃度が6mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、反応釜において純水を底液とし、水酸化ナトリウムを用いて反応釜の底液のpHを12.0に調整し、アンモニウムイオン濃度を7g/Lに調整し、さらに混合金属塩溶液、水酸化ナトリウム溶液、アンモニア水溶液を、計量ポンプを介して反応釜に導入して反応させ、反応過程において、反応温度は55℃であり、回転速度は500r/minであり、反応釜のpHを10.5-12.0に制御し、反応釜内に窒素ガスを連続して導入する。コア形成及びコア成長段階において反応系中のアンモニウムイオン濃度を7g/Lに制御し、材料の粒度が1.5μmに成長するまで待ち、次に反応系のアンモニウム濃度を35g/Lに調整し、シェルを粒度が5.5μmになるまで成長させる。反応で得られた沈殿を固液分離、エージング、洗浄及び乾燥させることで、Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2前駆体が得られ、該前駆体の平均粒径は5.5μmであり、そのシェル部分の厚さは約2μmであり、該前駆体は微小粒子で形成された中心部分と該微小粒子より大きい粒子で形成されたシェル部分で構成される。
【0034】
(2)リチウム金属比1.20(LiとNi+Co+Mnのモル比)に基づき適量の上記前駆体及び炭酸リチウムを秤量し、Mgが正極材料に占める質量パーセント0.1wt%に基づき適量のMgOを秤量し、Tiが正極材料に占める割合0.08wt%に基づき適量のTiO2を秤量し、上記材料を均一に混合した後に高温で焼結し、まず700℃で6h保温し、次に850℃まで昇温して10h保温し、焼結雰囲気は酸素と空気の混合であり、焼結が完了した後に材料を室温まで冷却し篩にかけて処理することで、Mg及びTiがドープされた中空構造材料Li1.2Ni0.6Co0.2Mn0.2O2を得る。
【0035】
正極材料のLi1.2Ni0.6Co0.2Mn0.2O2に対して物理的及び化学的特性の検出を行った結果、該正極材料の比表面積は1.08m2/gであり、平均粒径は5.5μmであった。該材料に対してSEM観察及び断面のSEM観察を行った電子顕微鏡の結果から分かるように、該材料は二次球形構造を呈し、粒子の大きさが均一である。断面のSEMの結果から分かるように、該正極材料は中空微小球の二次粒子であり、そのシェル部分は一次粒子を焼結し凝集させることで形成され、そのシェル部分の厚さは約2.0μmであった。
【0036】
2032型ボタン電池を用いて該正極材料に対して電気特性の評価を行った結果、その1C初期放電比容量は165mAh/gであり、該サンプルのレート特性は良好であり、2C/1Cは97.81%であり、5C/1Cは93.44%であり、10C/1Cは90.65%であった。
【実施例2】
【0037】
本発明のリチウムイオン電池用正極材料であって、正極材料の化学式はLi
1.08Ni
0.9Co
0.08Al
0.02O
2であり、
図1に示すように、正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であり、二次粒子のシェル部分は複数の一次粒子が凝集して形成される。
該正極材料の製造方法は、以下のステップを含む:
【0038】
(1)共沈法を利用してNi0.9Co0.08Al0.02(OH)2前駆体を合成し、該前駆体の合成はコア形成及びコア成長段階とシェル成長段階を含み、具体的な操作は以下を含む。まずニッケル、コバルトを含有する硫酸塩を用いて総金属イオン濃度が2mol/Lの混合金属塩溶液を調整し、ニッケル、コバルトのモル比は90:8であり、アルミニウムの硫酸塩と過剰量の水酸化ナトリウムを用いてアルミニウムのモル濃度が0.1mol/Lのアルミン酸塩溶液を調整し、濃度が2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液とアンモニウムイオン濃度が5mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、反応釜において純水を底液とし、水酸化ナトリウムを用いて反応釜の底液のpHを11.5に調整し、アンモニウムイオン濃度を10g/Lに調整し、さらに混合金属塩溶液、アルミン酸塩溶液、水酸化ナトリウム溶液、アンモニア水溶液を、計量ポンプを介して反応釜に導入して反応させ、反応過程において、反応温度は55℃であり、回転速度は450r/minであり、反応釜のpHを10.0-11.5に制御し、反応釜内に窒素ガスを連続して導入し、混合金属塩溶液及びアルミン酸塩溶液の流量比を制御し、ニッケル、コバルト、アルミニウムの金属モル比を90:8:2とする。コア形成及びコア成長段階における反応系中のアンモニウムイオン濃度を10g/Lに制御し、材料の粒度が2μmになるまで成長させ、次に反応系中のアンモニウムイオン濃度を30g/Lに調整し、シェルを粒度が9.0μmになるまで成長させる。反応により得られた沈殿を固液分離、エージング、洗浄及び乾燥させた後、Ni0.9Co0.08Al0.02(OH)2前駆体を得て、該前駆体の平均粒径は9.0μmであり、そのシェル部分の厚さは約3.5μmであり、該前駆体は微小粒子で形成された中心部分と該微小粒子より大きい粒子で形成されたシェル部分で構成される。
【0039】
(2)リチウム金属比1.08(LiとNi+Co+Mnのモル比)に基づき適量の上記前駆体及び水酸化リチウムを秤量し、Srが正極材料に占める質量パーセント0.2wt%に基づき適量のSrCO3を秤量し、上記材料を均一に混合した後に高温で焼結し、710℃まで直接昇温して12h保温し、焼結雰囲気は酸素であり、焼結が完了した後に材料を室温まで冷却し篩にかけて処理し、Srがドープされた中空構造材料Li1.08Ni0.9Co0.08Al0.02O2を得る。
【0040】
正極材料Li
1.08Ni
0.9Co
0.08Al
0.02O
2に対して物理的及び化学的特性の測定を行った結果、該正極材料の比表面積は0.76m
2/gであり、平均粒径は9.0μmであった。該材料に対してSEM観察及び断面のSEM観察を行った電子顕微鏡の結果から分かるように、該材料は二次球形構造を呈し、粒子の大きさは均一である。断面のSEMの結果から分かるように(
図2に示す)、該正極材料は中空微小球二次粒子であり、そのシェル部分は一次粒子を焼結し凝集させることで形成され、そのシェル部分の厚さは約3.5μmであった。
【0041】
2032型ボタン電池を用いて該正極材料に対して電気的特性の評価を行った結果、その1C初期放電比容量は192mAh/gであり、該サンプルのレート特性は良好であり、2C/1Cは97.09%であり、5C/1Cは92.68%であり、10C/1Cは90.00%であった。
【比較例3】
【0042】
リチウムイオン電池用の正極材料であって、正極材料の化学式はLi
1.25Ni
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2であり、
図1に示すように、正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であり、二次粒子のシェル部分は複数の一次粒子が凝集して形成される。
該正極材料の製造方法は、以下のステップを含む。
【0043】
(1)共沈法を利用してNi1/3Co1/3Mn1/3(OH)2前駆体を合成し、該前駆体の合成はコア形成及びコア成長段階及びシェル成長段階を含み、具体的な操作は以下を含む。まずニッケル、コバルト、マンガンを含有する硫酸塩を用いて、総金属イオン濃度が2mol/Lの混合金属塩溶液を調製し、ニッケル、コバルト、マンガンのモル比は1:1:1であり、濃度が2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液とアンモニウムイオン濃度が5mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、反応釜において純水を底液とし、水酸化ナトリウムを用いて反応釜の底液におけるpHを11.0に調整し、アンモニア水は添加せず(アンモニウムイオン濃度が0であることを保証する)、さらに混合金属塩溶液、水酸化ナトリウム溶液を、計量ポンプを介して反応釜に導入して反応させ、反応過程において、反応温度は50℃であり、回転速度は500r/minであり、反応釜のpHを9.5-11.0に制御し、反応釜内に窒素ガスを連続して導入する。コア形成及びコア成長段階においてアンモニア水を添加せず、材料の粒度が1.6μmになるまで成長させ、次にアンモニア水を導入し、反応系中のアンモニウムイオン濃度を10g/Lに制御し、シェルを粒度が4.0μmになるまで成長させる。反応により得られた沈殿を固液分離、エージング、洗浄及び乾燥させることで、Ni1/3Co1/3Mn1/3(OH)2前駆体が得られ、該前駆体の平均粒径は4μmであり、そのシェル部分の厚さは約1.2μmであり、該前駆体は微小粒子で形成される中心部分と該微小粒子よりも大きい粒子で形成されるシェル部分から構成される。
【0044】
(2)リチウム金属比(LiとNi+Co+Mnのモル比)1.25に基づき適量の上記前駆体及び炭酸リチウムを秤量し、Zrが正極材料に占める質量パーセント0.5wt%に基づき適量のZrO2を秤量し、上記材料を均一に混合した後、高温で焼結し、焼結工程は昇温プラットフォーム、高温プラットフォーム及び冷却プラットフォームを含み、まず600℃で6h保温し、次に900℃まで昇温して8h保温し、さらに700℃まで冷却して5h保温し、焼結雰囲気は空気であり、焼結が完了した後に材料を室温まで冷却し篩にかけて処理し、Zrがドープされた中空微小球構造の正極材料Li1.25Ni1/3Co1/3Mn1/3O2を得る。
【0045】
正極材料のLi
1.25Ni
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2に対して物理的及び化学的特性の測定を行った結果、該正極材料の比表面積は2.13m
2/gであり、二次粒子の平均粒径は約4.5μmであり、一次粒子の粒径は0.1μm-2μmであった。該材料に対してSEM観察及び断面図のSEM観察を行った(
図3及び
図4を参照)。
【0046】
図3から分かるように、該材料は二次球形構造を呈し、粒子の大きさが均一である。
図4から分かるように、該正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であり、そのシェル部分は一次粒子を焼結し凝集することで形成され、シェル部分の厚さは約1.2μmであった。
【0047】
2032型ボタン電池を用いて該正極材料の電気的特性を評価した結果は
図5に示すとおりである。その1C 初期放電比容量は147.7mAh/gであり、該サンプルのレート特性は良好であり、2C/1Cは98.24%であり、5C/1Cは94.85%であり、10C/1Cは90.66%であった。
【比較例4】
【0048】
リチウムイオン電池用の正極材料であって、正極材料の化学式はLi
1.1Ni
0.4Co
0.3Mn
0.3O
2であり、
図1に示すように、正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であり、二次粒子のシェル部分は複数の一次粒子が凝集して形成される。
該正極材料の製造方法は、以下のステップを含む。
【0049】
(1) 共沈法を利用してNi0.4Co0.3Mn0.3(OH)2前駆体を合成し、該前駆体の合成はコア形成及びコア成長段階及びシェル成長段階を含み、具体的な操作は以下を含む。まずニッケル、コバルト、マンガンを含有する硫酸塩を用いて、総金属イオン濃度が2mol/Lの混合金属塩溶液を調製し、ニッケル、コバルト、マンガンのモル比は4:3:3であり、濃度が4mol/Lの水酸化ナトリウム溶液とアンモニウムイオン濃度が5mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、反応釜において純水を底液とし、水酸化ナトリウムを用いて反応釜の底液のpHを13.0に調整し、アンモニア水は導入せず(アンモニウムイオン濃度が0であることを保証する)、さらに混合金属塩溶液、水酸化ナトリウム溶液を、計量ポンプを介して反応釜に導入して反応させ、反応過程において、反応温度は45℃であり、回転速度は600r/minであり、反応釜のpHを9.5-13.0に制御し、反応釜内に窒素ガスを連続して導入する。コア形成及びコア成長段階においてアンモニア水は導入せず、材料の粒度が0.8μmに成長した後、次に反応系中のアンモニウムイオン濃度を15g/Lに調整し、シェルを粒度が3.8μmになるまで成長させる。反応により得られた沈殿を固液分離、エージング、洗浄及び乾燥させることで、Ni0.4Co0.3Mn0.3(OH)2前駆体が得られ、該前駆体の平均粒径は3.8μmであり、シェル部分の厚さが約1.5μmであり、微小粒子で形成される中心部分と該微小粒子よりも大きい粒子で形成されるシェル部分により構成される。
【0050】
(2)リチウム金属比(LiとNi+Co+Mnのモル比)1.10に基づき適量の前駆体及び炭酸リチウムを秤量し、Zrが正極材料に占める質量パーセント0.3wt%に基づき適量のZrO2を秤量し、Bが正極材料に占める割合0.1wt%に基づき適量のホウ酸を秤量し、上記材料を均一に混合した後に高温で焼結し、焼結プロセスは昇温プラットフォーム、高温プラットフォーム及び冷却プラットフォームを含み、まず650℃で5h保温し、次に810℃に昇温して8h保温し、さらに700℃まで冷却して8h保温し、焼結雰囲気は空気であり、焼結が完了した後に材料を室温まで冷却し篩にかけて処理し、Zr及びBがドープされた中空微小球構造の正極材料Li1.1Ni0.4Co0.3Mn0.3O2を得る。
【0051】
正極材料Li1.1Ni0.4Co0.3Mn0.3O2に対して物理的及び化学的特性の測定を行った結果、該正極材料の比表面積は0.65m2/gであり、平均粒径は4.0μmであった。該材料に対してSEM観察及び断面のSEM観察を行った電子顕微鏡の結果から分かるように、該材料は二次球形構造を呈し、粒子の大きさが均一である。断面のSEMの結果から分かるように、該正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であり、そのシェル部分は一次粒子を焼結し凝集することで形成され、そのシェル部分の厚さは約1.5μmであった。
【0052】
2032型ボタン電池を用いて該正極材料に対して電気的特性の評価を行った結果、その1C初期放電比容量は152mAh/gであり、該サンプルのレート特性は良好であり、2C/1Cは98.00%であり、5C/1Cは94.24%であり、10C/1Cは91.37%であった。
【比較例5】
【0053】
リチウムイオン電池用の正極材料であって、正極材料の化学式はLi
1.2Ni
0.6Co
0.2Mn
0.2O
2であり、
図1に示すように、正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であり、二次粒子のシェル部分は複数の一次粒子が凝集して形成される。
該正極材料の製造方法は、以下のステップを含む。
【0054】
(1) 共沈法を利用してNi0.6Co0.2Mn0.2(OH)2前駆体を合成し、該前駆体の合成はコア形成及びコア成長段階及びシェル成長段階を含み、具体的な操作は以下を含む。まずニッケル、コバルト、マンガンを含有する硫酸塩を用いて、総金属イオン濃度が2mol/Lの混合金属塩溶液を調製し、ニッケル、コバルト、マンガンのモル比は6:2:2であり、濃度が2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液とアンモニウムイオン濃度が6mol/Lのアンモニア水溶液を調製する。反応釜において純水を底液とし、水酸化ナトリウムを用いて反応釜の底液のpHを12.0に調整し、アンモニウムイオンの濃度を0g/Lに調整し、さらに混合金属塩溶液、水酸化ナトリウム溶液、アンモニア水溶液を、計量ポンプを介して反応釜に導入して反応させ、反応過程において、反応温度は55℃であり、回転速度は500r/minであり、反応釜のpHを10.5-12.0に制御し、反応釜内に窒素ガスを連続して導入する。材料の粒度が1.5μmに成長するのを待ち、次に反応系中のアンモニウムイオン濃度を25g/Lに調整し、シェルを粒度が5.5μmになるまで成長させる。反応により得られた沈殿を固液分離、エージング、洗浄及び乾燥させることで、Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2前駆体が得られ、該前駆体の平均粒径は5.5μmであり、そのシェル部分の厚さは約2μmであり、該前駆体は微小粒子で形成される中心部分と該微小粒子より大きい粒子で形成されるシェル部分で構成される。
【0055】
(2)リチウム金属比1.20(LiとNi+Co+Mnのモル比)に基づき適量の上記前駆体及び炭酸リチウムを秤量し、Mgが正極材料に占める質量パーセント0.1wt%に基づき適量のMgOを秤量し、Tiが正極材料に占める割合0.08wt%に基づき適量のTiO2を秤量し、上記材料を均一に混合した後に高温で焼結し、まず700℃で6h保温し、次に850℃まで昇温して10h保温し、焼結雰囲気は酸素ガスと空気の混合であり、焼結が完了した後に材料を室温まで冷却し篩にかけて処理し、MgとTiをドープした中空構造材料Li1.2Ni0.6Co0.2Mn0.2O2を得る。
【0056】
正極材料Li1.2Ni0.6Co0.2Mn0.2O2に対して物理的及び化学的特性の測定を行った結果、該正極材料の比表面積は0.88m2/gであり、平均粒径は6.0μmであった。該材料に対してSEM観察及び断面のSEM観察を行った電子顕微鏡の結果から分かるように、該材料は二次球形構造を呈し、粒子の大きさが均一である。断面のSEMの結果から分かるように、該正極材料は中空微小球二次粒子であり、そのシェル部分は一次粒子を焼結し凝集させることで形成され、そのシェル部分の厚さは約2.5μmであった。
【0057】
2032型ボタン電池を用いて該正極材料に対して電気的特性の評価を行った結果、その1C初期放電比容量は163mAh/gであり、該サンプルのレート特性は良好であり、2C/1Cは92.16%であり、5C/1Cは88.06%であり、10C/1Cは86.42%であった。
【比較例6】
【0058】
リチウムイオン電池用の正極材料であって、正極材料の化学式はLi
1.08Ni
0.9Co
0.08Al
0.02O
2であり、
図1に示すように、正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であり、二次粒子のシェル部分は複数の一次粒子が凝集して形成される。
該正極材料の製造方法は、以下のステップを含む:
【0059】
(1)共沈法を利用してNi0.9Co0.08Al0.02(OH)2前駆体を合成し、該前駆体の合成はコア形成及びコア成長段階及びシェル成長段階を含み、具体的な操作は以下を含む。まずニッケル、コバルトを含有する硫酸塩を用いて、総金属イオン濃度が2mol/Lの混合金属塩溶液を調製し、ニッケル、コバルトのモル比は90:8であり、アルミニウムの硫酸塩と過剰量の水酸化ナトリウムを用いてアルミニウムモル濃度が0.1mol/Lのアルミン酸塩溶液を調製し、濃度が2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液とアンモニウムイオン濃度が5mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、反応釜において純水を底液とし、水酸化ナトリウムを用いて反応釜の底液におけるpHを11.5に調整し、アンモニウムイオン濃度を0g/Lに調整し、さらに混合金属塩溶液、アルミン酸塩溶液、水酸化ナトリウム溶液、アンモニア水溶液を、計量ポンプを介して反応釜に導入して反応させ、反応過程において、反応温度は55℃であり、回転速度は450r/minであり、反応釜のpHを10.0-11.5に制御し、反応釜内に窒素ガスを連続して導入し、混合金属塩溶液及びアルミン酸塩溶液の流量比を制御し、ニッケル、コバルト、アルミニウムの金属モル比を90:8:2とする。材料の粒度が2μmに成長するのを待ち、反応系中のアンモニウム塩の濃度を25g/Lに調整し、粒度が9.0μmに成長するまで、シェルを成長させる。反応により得られた沈殿を固液分離、エージング、洗浄及び乾燥させることで、Ni0.9Co0.08Al0.02(OH)2前駆体が得られ、該前駆体の平均粒径は9.0μmであり、そのシェル部分の厚さは約3.5μmであり、該前駆体は微小粒子で形成された中心部分と該微小粒子より大きい粒子で形成されたシェル部分で構成される。
【0060】
(2)リチウム金属比1.08(LiとNi+Co+Mnのモル比)に基づき適量の上記前駆体及び水酸化リチウムを秤量し、Srが正極材料に占める質量パーセント0.2wt%に基づき適量のSrCO3を秤量し、上記材料を均一に混合した後に高温で焼結し、710℃まで直接昇温して12h保温し、焼結雰囲気は酸素であり、焼結が完了した後に材料を室温まで冷却し篩にかけて処理し、Srがドープされた中空構造材料Li1.08Ni0.9Co0.08Al0.02O2を得る。
【0061】
正極材料Li1.08Ni0.9Co0.08Al0.02O2に対して物理的及び化学的特性の測定を行った結果、該正極材料の比表面積は0.5m2/gであり、平均粒径は9.0μmであった。該材料に対してSEM観察及び断面のSEM観察を行った電子顕微鏡の結果から分かるように、該材料は二次球形構造を呈し、粒子の大きさが均一である。断面のSEMの結果から分かるように、該正極材料は中空微小球二次粒子であり、そのシェル部分は一次粒子を焼結し凝集させることで形成され、そのシェル部分の厚さは約4μmであった。
【0062】
2032型ボタン電池を用いて該正極材料に対して電気的特性の評価を行った結果、その1C初期放電比容量は188mAh/gであり、該サンプルのレート特性は良好であり、2C/1Cは90.89%であり、5C/1Cは87.43%であり、10C/1Cは85.24%であった。
【比較例7】
【0063】
本発明のリチウムイオン電池用正極材料であって、正極材料の化学式はLi
1.1Ni
0.5Co
0.3Mn
0.2O
2であり、
図1に示すように、正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であり、二次粒子のシェル部分は複数の一次粒子が凝集して形成される。
該正極材料の製造方法は、以下のステップを含む:
【0064】
(1)共沈法を利用してNi0.5Co0.3Mn0.2(OH)2前駆体を合成し、該前駆体の合成はコア形成及びコア成長段階及びシェル成長段階を含み、具体的な操作は以下を含む:まずニッケル、コバルト、マンガンを含有する硫酸塩を用いて、総金属イオン濃度が2mol/Lの混合金属塩溶液を調製し、ニッケル、コバルト、マンガンのモル比は5:3:2であり、濃度が2mol/Lの水酸化ナトリウム溶液とアンモニウムイオン濃度が5mol/Lのアンモニア水溶液を調製し、反応釜において純水を底液とし、水酸化ナトリウムを用いて反応釜底液におけるpHを12.0に調整し、アンモニウム塩の濃度を3g/Lに調整し、さらに混合金属塩溶液、水酸化ナトリウム溶液、アンモニア水溶液を、計量ポンプを介して反応釜に導入して反応させ、反応過程において、反応温度は55℃であり、回転速度は400r/minであり、反応釜のpHを10.0-12.0に制御し、反応釜内に窒素ガスを連続して導入する。コア形成及びコア成長段階において反応系中のアンモニアイオン濃度を3g/Lに制御し、材料の粒度が2.5μmに成長するのを待ち、次に反応系中のアンモニウムイオン濃度を25g/Lに調整し、粒径が4.5μmになるまでシェルを成長させる;反応により得られた沈殿を固液分離、エージング、洗浄及び乾燥させることで、Ni0.5Co0.3Mn0.2(OH)2前駆体を得て、該前駆体の平均粒径は4.5μmであり、そのシェル部分の厚さは約1μmであり、該前駆体は微小粒子で形成される中心部分と該微小粒子より大きい粒子で形成されるシェル部分で構成される。
【0065】
(2)リチウム金属比(LiとNi+Co+Mnのモル比)1.10に基づき適量の上記前駆体及び炭酸リチウムを秤量し、Wが正極材料に占める質量パーセント0.1wt%に基づき適量のWO3を秤量し、上記材料を均一に混合した後に高温で焼結し、焼結工程は昇温プラットフォーム、高温プラットフォーム及び冷却プラットフォームを含み、まず700℃で6h保温し、次に880℃まで昇温して10h保温し、さらに750℃まで冷却して5h保温し、焼結雰囲気は酸素と空気の混合であり、焼結が完了した後に材料を室温まで冷却し篩にかけて処理し、Wがドープされた中空微小球構造の正極材料Li1.1Ni0.5Co0.3Mn0.2O2を得る。
【0066】
正極材料Li1.1Ni0.5Co0.3Mn0.2O2に対して物理的及び化学的特性の測定を行った結果、該正極材料の比表面積は1.89m2/gであり、平均粒径は4.5μmであった。該材料に対してSEM観察及び断面のSEM観察を行った電子顕微鏡の結果から分かるように、該材料は二次球状構造であり、粒子のサイズが均一である。断面のSEMの結果から分かるように、該正極材料は中空微小球構造を呈する二次粒子であって、そのシェル部分は一次粒子を焼結し凝集させることで形成され、そのシェル部分の厚さは約1μmであった。
【0067】
2032型ボタン電池を用いて該正極材料に対して電気的特性の評価を行った結果、その1Cの初期放電比容量は158.6mAh/gであり、該サンプルのレート特性は良好であり、2C/1Cは99.02%であり、5C/1Cは95.66%であり、10C/1Cは92.13%であった。