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▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧

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  • 特許-pH勾配SPRに基づく結合アッセイ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】pH勾配SPRに基づく結合アッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230310BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20230310BHJP
   C07K 17/02 20060101ALN20230310BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/53 D
G01N33/543 595
C07K17/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021538211
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-18
(86)【国際出願番号】 EP2019086740
(87)【国際公開番号】W WO2020141117
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】18215921.0
(32)【優先日】2018-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シュロットハウアー ティルマン
(72)【発明者】
【氏名】スピック クリスチャン
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-507907(JP,A)
【文献】特表2013-500244(JP,A)
【文献】Lakayan, D., Haselberg, R., Gahoual, R. et al,Affinity profiling of monoclonal antibody and antibody-drug-conjugate preparations by coupled liquid chromatography-surface plasmon resonance biosensing,Analytical and Bioanalytical Chemistry,2018年10月17日,410,7837-7848
【文献】Tilman Schlothauer, Petra Rueger, Jan Olaf Stracke, Hubert Hertenberger, Felix Fingas, Lothar Kling, Thomas Emrich, Georg Drabner, Stefan Seeber, Johannes Auer, Stefan Koch & Apollon Papadimitriou,Analytical FcRn affinity chromatography for functional characterization of monoclonal antibodies,mAbs,2013年05月29日,5:4,576-586
【文献】Szabolcs Fekete, Alain Beck, Jeno Fekete, Davy Guillarme,Method development for the separation of monoclonal antibody charge variants in cation exchange chromatography, Part II: pH gradient approach,Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis,2015年01月05日,Volume 102,Pages 282-289
【文献】Nico Lingg, Eddy Tan, Beate Hintersteiner, Muriel Bardor, Alois Jungbauer,Highly linear pH gradients for analyzing monoclonal antibody charge heterogeneity in the alkaline range,Journal of Chromatography A,2013年12月06日,Volume 1319,Pages 65-71
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
解離pH値での抗体のその抗原からの解離速度定数kを決定するための表面プラズモン共鳴方法であって、
a)第1のpH値において、該抗体の抗原がコンジュゲートされた固相上に該抗体を固定化する工程と、
b)第1のpH値から解離pH値までのpH勾配を適用し、その後、該解離pH値でpH値を維持する工程と、
c)pH値を維持している間、結合シグナルを記録し、そこから、解離pH値での該抗体のその抗原からの解離速度定数kを計算する工程と
を含む、表面プラズモン共鳴方法。
【請求項2】
解離pH値での抗体のその抗原からの解離速度定数kを決定するための表面プラズモン共鳴方法であって、
a)第1のpH値において、該抗体の定常ドメインに特異的に結合する捕捉試薬を使用して、固相上に該抗体を固定化する工程と、
b)捕捉された該抗体をその抗原とインキュベートして、捕捉された抗体-抗原複合体を形成する工程と、
c)該固相に第1のpH値から解離pH値までのpH勾配を適用し、その後、該解離pH値でpH値を維持する工程と、
d)pH値を維持している間、結合シグナルを記録し、そこから、解離pH値での該抗体のその抗原からの解離速度定数kを計算する工程と
を含む、表面プラズモン共鳴方法。
【請求項3】
解離pH値が、
i)第1のpH値において、前記抗体の抗原がコンジュゲートされた固相上に該抗体を固定化する工程と、
ii)該固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、該抗体の該固相からの解離をモニターする工程と
を含む方法で決定され、
該抗体がその抗原から解離するpH値が、工程ii)において該抗体の該固相からの解離が検出できるpH勾配のpH値である、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
解離pH値が、
i)第1のpH値において、前記抗体の定常ドメインに特異的に結合する捕捉試薬を使用して、固相上に該抗体を固定化する工程と、
ii)捕捉された該抗体をその抗原とインキュベートして、捕捉された抗体-抗原複合体を形成する工程と、
iii)該固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、該抗原の該抗体からの解離をモニターする工程と
を含む方法で決定され、
該抗原がその抗体から解離するpH値が、工程iii)において該抗原の該抗体からの解離が検出できるpH勾配のpH値である、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
解離が、表面プラズモン共鳴によって測定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
抗原が高密度で固定化されている、請求項1および5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
第1のpH値がpH6.7以上pH10.0以下であり、第2のpH値がpH4.0以上pH6.5以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第1のpH値が約pH7.4であり、第2のpH値がpH5.5以上pH5.8以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
解離は、結合シグナルが5%以上変化したときである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
抗原が可溶性抗原である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
抗体が単一特異性抗体である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
捕捉または固定が、抗体を、2.5から30μL/minの流速で、0.6μg/mLから30μg/mLの濃度で、45から720秒間注入することにより行われる、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能アッセイの分野に関する。本明細書において、抗体のpH依存的な相互作用を測定するための、SPRに基づく新規な結合アッセイが報告される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
SPR(表面プラズモン共鳴)は、リアルタイムのタンパク質間相互作用を測定するためのバイオセンサーに基づく技術である。SPR技術は生物医薬品の研究開発において標準的な手段となっており[1~5]、一般に高分子の相互作用の結合定数を決定するために用いられる。分子の相互作用の会合および解離の速度論を明らかにできることによって、複合体形成機構に詳細な理解が与えられる[6]。この情報は、モノクローナル抗体およびその他の生物医薬品生成物の選択プロセスおよび最適化プロセスの不可欠な要素となってきている[7~10]。さらに、SPR技術によって、例えば標的に結合している抗体などの、結合活性(結合能力)の測定が可能になる。
【0003】
単一の抗体分子の抗原中和能力は、その親和性に依存する。親和性を上げることによって、より少ない量の抗体で抗原を中和することができる。抗体の親和性を高めるために様々な方法を使用することができる。さらに、共有結合的に抗体を抗原に結合することによって親和性を無限にできれば、単一の抗体分子が1つの抗原分子を中和できることになるであろう(二価の抗体であれば2つの抗原分子を中和できる)。しかし、1つの抗原に対して1つの抗体(2つの抗原に対して1つの二価の抗体)という化学量論的な中和であるために、抗原の量よりも少ない抗体の量で完全に抗原を中和することは不可能である。一定期間、中和抗体の中和効果を持続させるためには、同じ期間に体の中で産生される抗原の量よりも高い用量で抗体を投与しなければならない。抗体の薬物動態または親和性成熟技術を改善するだけでは、必要な抗体の用量を下げることには限界がある。
【0004】
したがって、抗原の量よりも少ない抗体の量で、目標期間、抗体の抗原中和効果を持続させるためには、単一の抗体が複数の抗原を中和しなければならないことになる。
【0005】
Shank-Retzlaff,M.L.およびSligar,S.G.は、反応速度(kinetic rate)および高分子結合親和性を測定するためのワンステップ方法として、被分析物勾配表面プラズモン共鳴を開示した(Anal.Chem.72(2000)4212~4220)。
【0006】
US2005/0019933は、液体環境中の2種間の相互作用を特徴づける方法であって、少なくとも前記1種を含む液体が測定系を流れて通過し、前記測定系中で相互作用が生じる方法を開示した。この方法は、少なくとも前記種の1つ、または相互作用もしくは相互作用成分に影響を及ぼす少なくとも1つの別の種の濃度勾配を発生させることを含む。
【0007】
Schasfoort,R.B.M.らは表面プラズモン共鳴のハンドブック(2008年12月31日(2008-12-31)、354~394ページ、Cambridge)において、SPR技術の将来動向を開示した。
【0008】
US2010/256338は、完全長抗体および単鎖Fab断片を含む多重特異性抗体、特に二重特異性抗体、それらの産生方法、それらの抗体を含有する薬学的組成物、ならびにそれらの使用を開示した。
【0009】
WO2012/023053は、免疫グロブリン分子の各結合部位に対して異なる特異性を担う新規の二重特異性モノクローナル抗体、および免疫グロブリン分子の各結合部位に対して異なる特異性を担う新規の二重特異性モノクローナル抗体の産生方法を開示した。
【0010】
Schlothauer,T.らは、モノクローナル抗体の機能的特徴づけのための分析的FcRnアフィニティークロマトグラフィーを開示した(mAbs5(2013)576~586。
【0011】
WO2015/140126は、in vivoの半減期に影響を及ぼす抗体-Fc-FcRn複合体中の抗体-Fab-FcRn相互作用の存在を、異なる塩濃度の存在下で、FcRnアフィニティークロマトグラフィーカラムを正の線形pH勾配溶出で使用することによって明らかにする方法を開示した。
【0012】
WO2015/172800は、新規の多重特異性分子およびそのような多重特異性分子に基づく新規の治療方法を開示した。
【0013】
Meschendoerfer,W.らは、二重特異性分子の完全機能解析を可能にするSPRに基づくアッセイを開示した(J.Pharm.Biomed.Anal.132(2016)141~147)。
【0014】
EP2275443は、抗原結合分子の薬物動態を改善するための方法および抗原結合分子の抗原結合回数を増加させるための方法、ならびに薬物動態が改善した抗原結合分子、抗原結合回数が増加した抗原結合分子、およびそのような分子の産生方法を開示した。
【発明の概要】
【0015】
本明細書において、抗体のpH依存的な結合活性を測定するための、SPRに基づく新規なアッセイが報告される。
【0016】
本明細書で報告される一態様は、(モノクローナル)抗体のその抗原への結合がpH依存的である(すなわち、抗体がpH依存的な抗原結合性を有する)かどうかを明らかにするためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体を、該抗体の抗原がコンジュゲートされた固相上に捕捉/固定化する、すなわち、捕捉/固定化を、抗体のその抗原との相互作用によって行う工程と、
b)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、抗体の固相からの解離をモニターする工程と
を含み、工程b)で抗体の固相からの解離が検出できれば抗体のその抗原への結合はpH依存的である、方法である。
【0017】
pH依存的な解離を示す例示的なSPRのセンサーグラムを図2に示す。
【0018】
本明細書で報告される一態様は、その抗原にpH依存的に結合する(モノクローナル)抗体(すなわち、抗体がpH依存的な抗原結合性を有する)を選択するためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体を、該抗体の抗原がコンジュゲートされた固相上に捕捉/固定化する、すなわち、捕捉/固定化を、抗体のその抗原との相互作用によって行う工程と、
b)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、抗体の固相からの解離をモニターする工程と
を含み、工程b)で抗体の固相からの解離が検出できればその抗体を選択する、方法である。
【0019】
本明細書で報告される一態様は、その抗原にpH依存的に結合する抗体が、その抗原から解離(pH依存的に解離)するpH値を決定するためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体を、該抗体の抗原がコンジュゲートされた固相上に捕捉/固定化する、すなわち、捕捉/固定化を、抗体のその抗原との相互作用によって行う工程と、
b)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、抗体の固相からの解離をモニターする工程と
を含み、抗体がその抗原から解離するpH値は、工程b)で抗体の固相からの解離が検出できる、pH勾配のpH値である、方法である。
【0020】
本明細書で報告される一態様は、抗体がその抗原にpH依存的に結合(pH依存的に解離)するところでの、解離pH値(解離pH値とは、抗体のその抗原からの解離が検出できるpH値のことである)における、抗体のその抗原からの解離速度定数kを決定するためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体を、該抗体の抗原がコンジュゲートされた固相上に捕捉/固定化する、すなわち、捕捉/固定化を、該抗体のその抗原との相互作用によって行う工程と、
b)固相に第1のpH値から解離pH値までのpH勾配を適用し、その後該解離pH値でpH値を維持する工程と、
c)(結合)シグナルを記録し、そこから解離速度定数kを計算し、それによって解離pH値での解離速度定数kを決定する工程と
を含む方法である。
【0021】
解離pH値での解離を示す例示的なSPRのセンサーグラムを図3に示す。
【0022】
本明細書で報告される一態様は、(モノクローナル)抗体のその抗原へのpH依存的な結合に、抗体のオリゴマー化が及ぼす影響を明らかにするためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、モノマーの抗体を、該抗体の抗原がコンジュゲートされた固相上に捕捉/固定化する、すなわち、捕捉/固定化を、抗体のその抗原との相互作用によって行う工程と、
b)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、抗体の固相からの解離をモニターし、それによって解離速度を計算する工程と、
c)ダイマー、トライマー、テトラマー、および/またはオリゴマーの抗体で工程a)から工程b)を繰り返す工程と
を含み、工程b)で計算された解離速度が、モノマーの抗体と、ダイマー、トライマー、テトラマーおよび/またはオリゴマーの抗体とで10%超異なっていれば、抗体のその抗原へのpH依存的な結合はオリゴマー化によって影響される、方法である。
【0023】
本明細書で報告される一態様は、(モノクローナル)抗体のその抗原へのpH依存的な結合に、抗原のオリゴマー化が及ぼす影響を明らかにするためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体を、該抗体のモノマーの抗原がコンジュゲートされた固相上に捕捉/固定化する、すなわち、捕捉/固定化を、抗体のその抗原との相互作用によって行う工程と、
b)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、抗体の固相からの解離をモニターし、それによって解離速度を計算する工程と、
c)固相上に固定化されている、ダイマー、トライマー、テトラマーおよび/またはオリゴマーの抗原で工程a)から工程b)を繰り返す工程と、
を含み、工程b)で計算された解離速度が、モノマーの抗原と、ダイマー、トライマー、テトラマーおよび/またはオリゴマーの抗原とで10%超異なっていれば、抗体のその抗原へのpH依存的な結合はオリゴマー化によって影響される、方法である。
【0024】
本明細書で報告される一態様は、同じ抗原に結合する抗体の混合物から、低pH結合性(モノクローナル)抗体を分離または単離するための方法であって、
a)第1のpH値において、抗体の混合物を、抗体の混合物の抗原がコンジュゲートされた固相に添加する、すなわち、抗体をその抗原との相互作用によって捕捉/固定化する工程と、
b)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、場合により抗体の固相からの解離をモニターする工程と、
c)低pH値で解離する抗体を集める工程と
を含み、それによって同じ抗原に結合する抗体の混合物から低pH結合性(モノクローナル)抗体を分離または単離する、方法である。
【0025】
一実施形態では、低pH値はpH6.5以下である。一実施形態では、低pH値はpH6.0以下である。一実施形態では、低pH値はpH5.5以下である。
【0026】
下記に、先に概説された態様の実施形態が示される。実施形態のすべての可能な組み合わせもまた開示されることが理解される。
【0027】
一実施形態では、工程b)における条件が、pH値を除いて一定に保たれる。
【0028】
一実施形態では、方法は表面プラズモン共鳴方法である。
【0029】
一実施形態では、解離は表面プラズモン共鳴によって測定される。
【0030】
一実施形態では、固相は表面プラズモン共鳴チップである。
【0031】
一実施形態では、抗原は高密度で固定化されている。
【0032】
一実施形態では、固相は表面プラズモン共鳴チップであって、解離は表面プラズモン共鳴によって測定され、抗原は少なくとも500RUにて/で、表面プラズモン共鳴チップに固定化されている。好ましい一実施形態では、抗原は500~4000RUにて/で、固定化されている。
【0033】
一実施形態では、抗体の固相への結合は強い結合(avid binding)である。
【0034】
一実施形態では、第1のpH値はpH7.4以上であって第2のpH値はpH5.5以下であるか、または第1のpH値はpH5.5以下であって第2のpH値はpH7.4以上である。
【0035】
一実施形態では、抗原がモノマーでなければ抗体はモノマーであり、抗体がモノマーでなければ抗原はモノマーである。
【0036】
一実施形態では、抗体はその抗原に対して二価である。
【0037】
一実施形態では、解離は、結合シグナルが5%以上変化したときである。一実施形態では、解離は、結合シグナルが10%以上変化したときである。
【0038】
一実施形態では、抗原は可溶性抗原である。
【0039】
一実施形態では、抗体は単一特異性抗体である。
【0040】
一実施形態では、抗体は二重特異性抗体である。
【0041】
一実施形態では、抗体は、抗原上の第1のエピトープに特異的に結合する第1の結合部位、および抗原上の第2のエピトープに特異的に結合する第2の結合部位を有する二重特異性抗体である。
【0042】
一実施形態では、捕捉は、抗体を、2.5から30μL/min、好ましい一実施形態では2.5から10μL/minの流速で、0.6μg/mLから30μg/mLの濃度で、45から720秒間注入することによって行う。好ましい一実施形態では、捕捉は、抗体を、約5μL/minの流速で、0.6μg/mLから10μg/mLの濃度で、約60秒間注入することによって行う。
【0043】
一実施形態では、pH勾配は100から10,000秒間である。一実施形態では、pH勾配は1000から5000秒間である。一実施形態では、pH勾配は2000~2300秒間である。
【0044】
一実施形態では、第1の工程において、解離pH値は、本発明による方法を用いて決定される。
【0045】
一実施形態では、解離pH値は100から10,000秒間維持される。一実施形態では、解離pH値は150から1,000秒間維持される。
【0046】
本明細書で報告される一態様は、(モノクローナル)抗体のその抗原への結合がpH依存的(pH依存的な抗原結合)であるかどうかを明らかにするためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体の定常ドメインに特異的に結合する捕捉試薬を使用して、抗体を固相上に捕捉/固定化する工程と、
b)捕捉された抗体をその抗原とインキュベートして/捕捉された抗体にその抗原を添加して、安定した/一定の結合シグナルが得られるまで、捕捉された抗体-抗原複合体を形成する工程と、
c)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、抗原の抗体からの解離をモニターする工程と
を含み、工程c)で抗原の抗体からの解離が検出できれば抗体のその抗原への結合はpH依存的である、方法である。
【0047】
本明細書で報告される一態様は、その抗原にpH依存的に結合する(pH依存的な抗原結合性を有する)(モノクローナル)抗体を選択するアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体の定常ドメインに特異的に結合する捕捉試薬を使用して、抗体を固相上に捕捉/固定化する工程と、
b)捕捉された抗体をその抗原とインキュベートして/捕捉された抗体にその抗原を添加して、安定した/一定の結合シグナルが得られるまで、捕捉された抗体-抗原複合体を形成する工程と、
c)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、抗原の抗体からの解離をモニターする工程と
を含み、工程c)で抗原の抗体からの解離が検出できればその抗体を選択する、方法である。
【0048】
本明細書で報告される一態様は、その抗原にpH依存的に結合する抗体がその抗原から解離(pH依存的に解離)するpH値を決定するためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体の定常ドメインに特異的に結合する捕捉試薬を使用して、抗体を固相上に捕捉/固定化する工程と、
b)捕捉された抗体をその抗原とインキュベートして/捕捉された抗体にその抗原を添加して、安定した/一定の結合シグナルが得られるまで、捕捉された抗体-抗原複合体を形成する工程と、
c)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、抗原の抗体からの解離をモニターする工程と、
を含み、抗原が抗体から解離するpH値が、工程c)において抗原の抗体からの解離が検出できるpH勾配のpH値である、方法である。
【0049】
本明細書で報告される一態様は、抗体がその抗原にpH依存的に結合(pH依存的に解離)するところでの、解離pH値(解離pH値とは、抗体のその抗原からの解離が検出できるpH値のことである)における、抗体のその抗原からの解離速度定数kを決定するためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体の定常ドメインに特異的に結合する捕捉試薬を使用して、抗体を固相上に捕捉/固定化する工程と、
b)捕捉された抗体をその抗原とインキュベートして/捕捉された抗体にその抗原を添加して、安定した/一定の結合シグナルが得られるまで、捕捉された抗体-抗原複合体を形成する工程と、
c)固相に第1のpH値から解離pH値までのpH勾配を適用し、その後、該解離pH値でpH値を維持する工程と、
d)結合シグナルを記録し、そこから解離速度定数kを計算し、それによって解離pH値での解離速度定数kを決定する工程と
を含む方法である。
【0050】
本明細書で報告される一態様は、(モノクローナル)抗体のその抗原へのpH依存的な結合に、抗体のオリゴマー化が及ぼす影響を明らかにするためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体の定常ドメインに特異的に結合する捕捉試薬を使用して、固相上にモノマーの抗体を捕捉/固定化する工程と、
b)捕捉された抗体をその抗原とインキュベートして/捕捉された抗体にその抗原を添加して、安定した/一定の結合シグナルが得られるまで、捕捉された抗体-抗原複合体を形成する工程と、
c)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、抗原の抗体からの解離をモニターし、それによって解離速度を計算する工程と、
d)ダイマー、トライマー、テトラマー、および/またはオリゴマーの抗体で工程a)から工程c)を繰り返す工程と
を含み、工程c)において計算された解離速度が、モノマーの抗体と、ダイマー、トライマー、テトラマーおよび/またはオリゴマーの抗体とで10%超異なっていれば、抗体のその抗原へのpH依存的な結合はオリゴマー化によって影響される、方法である。
【0051】
本明細書で報告される一態様は、(モノクローナル)抗体のその抗原へのpH依存的な結合に、抗原のオリゴマー化が及ぼす影響を明らかにするためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体の定常ドメインに特異的に結合する捕捉試薬を使用して、抗体を固相上に捕捉/固定化する工程と、
b)捕捉された抗体をそのモノマーの抗原とインキュベートして/捕捉された抗体にそのモノマーの抗原を添加して、安定した/一定の結合シグナルが得られるまで、捕捉された抗体-抗原複合体を形成する工程と、
c)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、抗原の抗体からの解離をモニターし、それによって解離速度を計算する工程と、
d)ダイマー、トライマー、テトラマー、および/またはオリゴマーの抗原で工程a)から工程c)を繰り返す工程と
を含み、工程c)において計算された解離速度が、モノマーの抗原と、ダイマー、トライマー、テトラマーおよび/またはオリゴマーの抗原とで10%超異なっていれば、抗体のその抗原へのpH依存的な結合はオリゴマー化によって影響される、方法である。
【0052】
下記に、先に概説した態様の実施形態が示される。実施形態のすべての可能な組み合わせもまた開示されることが理解される。
【0053】
一実施形態では、工程c)におけるpH値を除くすべての条件が一定に保たれる。
【0054】
一実施形態では、解離は表面プラズモン共鳴によって測定される。
【0055】
一実施形態では、固相は表面プラズモン共鳴チップである。
【0056】
一実施形態では、抗体は高密度で固定化されている。
【0057】
一実施形態では、固相は表面プラズモン共鳴チップであって、解離は表面プラズモン共鳴によって測定され、抗体は少なくとも50RUにて/で、表面プラズモン共鳴チップに固定化されている。好ましい一実施形態では、抗体は50~400RUにて/で、固定化されている。
【0058】
一実施形態では、第1のpH値はpH7.4以上であって第2のpH値はpH5.5以下であるか、または第1のpH値はpH5.5以下であって第2のpH値はpH7.4以上である。
【0059】
一実施形態では、抗原がモノマーでなければ抗体はモノマーであり、抗体がモノマーでなければ抗原はモノマーである。
【0060】
一実施形態では、抗体はその抗原に対して二価である。
【0061】
一実施形態では、解離は、結合シグナルが5%以上変化したときである。一実施形態では、解離は、結合シグナルが10%以上変化したときである。
【0062】
一実施形態では、抗原は可溶性抗原である。
【0063】
一実施形態では、抗体は単一特異性抗体である。
【0064】
一実施形態では、抗体は二重特異性抗体である。
【0065】
一実施形態では、抗体は、抗原上の第1のエピトープに特異的に結合する第1の結合部位、および抗原上の第2のエピトープに特異的に結合する第2の結合部位を有する二重特異性抗体である。
【0066】
一実施形態では、捕捉は、抗体を、2.5から30μL/min、好ましい一実施形態では2.5から10μL/minの流速で、0.6μg/mLから30μg/mLの濃度で、45から720秒間注入することによって行う。好ましい一実施形態では、捕捉は、抗体を、約5μL/minの流速で、0.6μg/mLから10μg/mLの濃度で、約60秒間注入することによって行う。
【0067】
一実施形態では、pH勾配は100から10,000秒間である。一実施形態では、pH勾配は1000から5000秒間である。一実施形態では、pH勾配は2000~2300秒間である。
【0068】
一実施形態では、第1の工程において、解離pH値は、本発明による方法を用いて決定される。
【0069】
一実施形態では、解離pH値は100から10,000秒間維持される。一実施形態では、解離pH値は150から1,000秒間維持される。
【0070】
[本発明1001]
解離pH値での抗体のその抗原からの解離速度定数k を決定するための表面プラズモン共鳴方法であって、
a)第1のpH値において、該抗体の抗原がコンジュゲートされた固相上に該抗体を固定化する工程と、
b)第1のpH値から解離pH値までのpH勾配を適用し、その後、該解離pH値でpH値を維持する工程と、
c)pH値を維持している間、結合シグナルを記録し、そこから、解離pH値での該抗体のその抗原からの解離速度定数k を計算する工程と
を含む、表面プラズモン共鳴方法。
[本発明1002]
解離pH値での抗体のその抗原からの解離速度定数k を決定するための表面プラズモン共鳴方法であって、
a)第1のpH値において、該抗体の定常ドメインに特異的に結合する捕捉試薬を使用して、固相上に該抗体を固定化する工程と、
b)捕捉された該抗体をその抗原とインキュベートして、捕捉された抗体-抗原複合体を形成する工程と、
c)該固相に第1のpH値から解離pH値までのpH勾配を適用し、その後、該解離pH値でpH値を維持する工程と、
d)pH値を維持している間、結合シグナルを記録し、そこから、解離pH値での該抗体のその抗原からの解離速度定数k を計算する工程と
を含む、表面プラズモン共鳴方法。
[本発明1003]
解離pH値が、
i)第1のpH値において、前記抗体の抗原がコンジュゲートされた固相上に該抗体を固定化する工程と、
ii)該固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、該抗体の該固相からの解離をモニターする工程と
を含む方法で決定され、
該抗体がその抗原から解離するpH値が、工程ii)において該抗体の該固相からの解離が検出できるpH勾配のpH値である、
本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
解離pH値が、
i)第1のpH値において、前記抗体の定常ドメインに特異的に結合する捕捉試薬を使用して、固相上に該抗体を固定化する工程と、
ii)捕捉された該抗体をその抗原とインキュベートして、捕捉された抗体-抗原複合体を形成する工程と、
iii)該固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、該抗原の該抗体からの解離をモニターする工程と
を含む方法で決定され、
該抗原がその抗体から解離するpH値が、工程iii)において該抗原の該抗体からの解離が検出できるpH勾配のpH値である、
本発明1001または1002の方法。
[本発明1005]
解離が、表面プラズモン共鳴によって測定される、本発明1001から1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
抗原が高密度で固定化されている、本発明1001または1003から1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
第1のpH値がpH6.7以上pH10.0以下であり、第2のpH値がpH4.0以上pH6.5以下である、本発明1001から1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
第1のpH値が約pH7.4であり、第2のpH値がpH5.5以上pH5.8以下である、本発明1001から1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
解離は、結合シグナルが5%以上変化したときである、本発明1001から1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
抗原が可溶性抗原である、本発明1001から1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
抗体が単一特異性抗体である、本発明1001から1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
捕捉は、抗体を、2.5から30μL/minの流速で、0.6μg/mLから30μg/mLの濃度で、45から720秒間注入することによる、本発明1001から1011のいずれかの方法。
下記の実施例および図面は本発明の理解を助けるために提供されるものであり、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に記載される。本発明の主旨を逸脱することなく、記載された手順を変更することが可能であることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】1つの測定に対して1つの一定のバッファー条件のみが適用される、古典的なSPR-BIAcoreの速度論的実験の模式図である。
図2】pH7.4からpH4.9までのpH勾配を用いた本発明の方法による、固体表面からのpH依存的な抗体の解離を表す例示的なセンサーグラムを示す図である。
図3】解離pH値での解離速度定数を決定するための例示的なセンサーグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
発明の詳細な説明
定義
「約」という用語は、その後に続く数値の+/-20%の範囲を意味する。一実施形態では、約という用語は、その後に続く数値の+/-10%の範囲を意味する。一実施形態では、約という用語は、その後に続く数値の+/-5%の範囲を意味する。
【0073】
本明細書の「抗体」という用語は広い意味で使用され、それらが所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体、三重特異性抗体)、および抗体断片を包含するが、それらに限定されない様々な抗体の構造を網羅する。
【0074】
抗体は、一般に、2つのいわゆる軽鎖ポリペプチド(軽鎖)および2つのいわゆる重鎖ポリペプチド(重鎖)を含む。重鎖および軽鎖ポリペプチドのそれぞれは、抗原と相互作用可能な結合領域を含む可変ドメイン(可変領域)(通常はポリペプチド鎖のアミノ末端部)を含有する。重鎖および軽鎖ポリペプチドのそれぞれは、定常領域(通常はカルボキシル末端部)を含む。重鎖の定常領域は、i)Fcガンマ受容体(FcγR)を有する細胞、例えば食細胞、またはii)Brambell受容体としても知られる新生児Fc受容体(FcRn)を有する細胞への抗体の結合を媒介する。重鎖の定常領域はまた、成分(C1q)などの古典的な補体系の因子を包含する一部の因子への結合を媒介する。抗体重鎖の定常ドメインはCH1ドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む一方、軽鎖はただ1つの定常ドメイン、CLを含み、CLはカッパアイソタイプまたはラムダアイソタイプでもよい。
【0075】
免疫グロブリンの軽鎖または重鎖の可変ドメインは、異なるセグメント、すなわち4つのフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(HVR)を交互に含む。
【0076】
抗体の「クラス」とは、その重鎖が保有する定常ドメインまたは定常領域の種類のことを指す。5つの主要な抗体のクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖の定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれている。
【0077】
「への結合」という用語は、結合部位のその標的への結合、例えば、抗体重鎖可変ドメインおよび抗体軽鎖可変ドメイン(VH/VLペア)を含む抗体の結合部位の、それぞれの抗原への結合を意味する。この結合は、例えばBIAcore(登録商標)アッセイ(GE Healthcare、Uppsala、Sweden)を使用して測定することができる。
【0078】
例えば、BIAcore(登録商標)アッセイの可能な一実施形態では、抗原を表面に結合させて、抗体の結合部位の結合を表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定する。結合の親和性は、ka(結合定数:複合体形成のための結合の速度定数)、kd(解離定数;複合体の解離の速度定数)、およびK(k/k)という用語によって定義される。あるいは、共鳴シグナルの高さおよび解離の挙動に関して、SPRセンサーグラムの結合シグナルを基準の応答シグナルと直接比較することができる。
【0079】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団、すなわち、その集団を構成する個々の抗体が、可能性のある変異体抗体、例えば天然に存在する変異を含有するかまたはモノクローナル抗体調製物の産生中に生じる、通常微量に存在する変異体抗体を除いて、同一でありかつ/または同じエピトープに結合する、という抗体の集団から得られた抗体のことを指す。種々の決定基(エピトープ)に対する種々の抗体を典型的には包含するポリクローナル抗体調製物とは異なり、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対する。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体としての性質を示すものであって、いずれかの特定の方法で抗体を産生することが必要であると解釈するべきではない。例えば、本発明に従って使用するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ方法、組み換えDNA方法、ファージディスプレイ方法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全体または一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を包含するがそれらに限定されない様々な技術によって作製されてもよく、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法および他の例示的な方法が本明細書において記載される。
【0080】
本明細書で使用される「超可変領域」または「HVR」という用語は、配列が超可変である抗体可変ドメインの各領域(「相補性決定領域」または「CDR」)および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成する抗体可変ドメインの各領域および/または抗原と接触する残基(「抗原接触部」)を含有する抗体可変ドメインの各領域のことを指す。通常は、抗体は6つのHVR:VH(H1、H2、H3)内の3つおよびVL(L1、L2、L3)内の3つを含む。本明細書における例示的なHVRとしては、
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)および96~101(H3)に存在する超可変ループ(ChothiaおよびLesk、J.Mol.Biol.196:901~917(1987));
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)および95~102(H3)に存在するCDR(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991));
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)および93~101(H3)に存在する抗原接触部(MacCallumら、J.Mol.Biol.262:732~745(1996));および
(d)HVRのアミノ酸残基46~56(L2)、47~56(L2)、48~56(L2)、49~56(L2)、26~35(H1)、26~35b(H1)、49~65(H2)、93~102(H3)および94~102(H3)を包含する(a)、(b)および/または(c)の組み合わせ、が挙げられる。
【0081】
別途指示がない限り、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書中ではKabatらに従って番号付けされる。
【0082】
本出願において使用される「価」という用語は、(抗体)分子中に結合部位が特定数存在することを意味する。そのため、「二価」、「四価」および「六価」という用語は、2つの結合部位、4つの結合部位および6つの結合部位が、(抗体)分子中にそれぞれ存在することを意味する。本明細書において報告される二重特異性抗体は、好ましい一実施形態では、「二価」である。
【0083】
ある特定の実施形態では、抗体は多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある特定の実施形態では、結合特異性の一方は第1の抗原に対してであり、他方は異なる第2の抗原に対してである。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は同じ抗原の2つの異なるエピトープに結合し得る。多重特異性抗体は、抗原を発現する細胞に、細胞傷害性剤を局在させるために使用することもできる。多重特異性抗体は、完全長の抗体または抗体断片として調製することができる。
【0084】
多重特異性抗体を作製するための手法には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組み換え共発現(Milstein,C.およびCuello,A.C.、Nature 305(1983)537~540、WO93/08829、ならびにTraunecker,A.ら、EMBO J.10(1991)3655~3659を参照されたい)および「ノブインホール(knob-in-hole)」工学(例えば、US5,731,168を参照されたい)が挙げられるが、これらに限定されない。多重特異性抗体はまた、抗体Fcヘテロダイマー分子を作製するための工学的静電的ステアリング効果(WO2009/089004);2つ以上の抗体または断片の架橋(例えば、US4,676,980およびBrennan,M.ら、Science 229(1985)81~83を参照されたい);二重特異性抗体を産生するためのロイシンジッパーの使用(例えば、Kostelny,S.A.ら、J.Immunol.148(1992)1547~1553を参照されたい;二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術の使用(例えば、Holliger,P.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA90(1993)6444~6448を参照されたい);および単鎖Fv(scFv)ダイマーの使用(例えば、Gruber,M.ら、J.Immunol.152(1994)5368~5374);ならびに、例えばTutt,A.ら、J.Immunol.147(1991)60~69)に記載される三重特異性抗体の調製によって作製してもよい。
【0085】
抗体または断片は、WO2009/080251、WO2009/080252、WO2009/080253、WO2009/080254、WO2010/112193、WO2010/115589、WO2010/136172、WO2010/145792、またはWO2010/145793に記載されるような多重特異性抗体でもよい。
【0086】
抗体またはその断片はまた、WO2012/163520に開示されるような多重特異性抗体であってもよい。
【0087】
本明細書において報告される方法
抗体などの新規の生物治療薬(biotherapeutics)がますます複雑になってきているため、機能的特徴づけに新たな課題が生じている。それぞれの抗原に対してpH依存的な結合を示す抗体を特徴づけしなければならない場合は特にそうである。
【0088】
pH依存的な抗原結合性を有する例示的な抗体およびその生成が、例えば、EP2275443において報告されている。pH依存的な抗原結合は、原理的には任意の抗体に導入することができる。抗体にpH依存的な抗原結合を導入することによって、単一抗原結合抗体を、複数の抗原分子に結合可能な、繰り返し抗原結合抗体に変換することができる。抗体が複数の抗原分子に結合する場合、そのような抗体は、普通の抗原結合分子よりも優れたin vivo効果を発揮する。
【0089】
pH5.8での抗体の抗原結合活性を、pH7.4での抗体の抗原結合活性と比べて低下させるための方法(pH依存的な結合能を付与するための方法)は特に限定されることはなく、いずれの方法であってもよい。このような方法としては、例えば、抗体中の他のアミノ酸をヒスチジンで置換するか、または抗体にヒスチジンを挿入することによってpH5.8での抗原結合活性をpH7.4での抗原結合活性と比べて低下させる方法が挙げられる。抗体中のアミノ酸をヒスチジンで置換することによって抗体にpH依存的な抗原結合活性を付与することができることは既に知られている(FEBS Letter、309(1)、8588(1992))。そのようなヒスチジン変異(置換)部位または挿入部位は、変異または挿入前と比べて、pH5.8での抗原結合活性がpH7.4での抗原結合活性より低下する(K(pH5.8)/K(pH7.4)の値が大きくなる)限り、特には限定されず、いずれの部位も許容される。抗体の場合、そのような部位としては、例えば、抗体の可変領域内の部位が挙げられる。ヒスチジン変異または挿入部位の適切な数は、当業者が適宜決定することができる。
【0090】
ヒスチジンは単一の部位または2つ以上の部位に、置換または挿入してもよい。それに加えて非ヒスチジン変異(ヒスチジン以外のアミノ酸による変異)を導入することも可能である。さらに、ヒスチジンの挿入と同時にヒスチジン変異を導入してもよい。当業者に知られているアラニンスキャニングのアラニンの代わりにヒスチジンを使用するヒスチジンスキャニングのような方法を使用して、無作為にヒスチジンで置換またはヒスチジンを挿入することが可能である。あるいは、K(pH5.8)/K(pH7.4)が変異前と比べて増加する抗原結合分子を、無作為なヒスチジン変異または挿入によって抗原結合分子のライブラリーから選択することができる。
【0091】
抗体のアミノ酸をヒスチジンで置換するまたは抗体のアミノ酸の間にヒスチジンを挿入する場合、ヒスチジン置換または挿入後のpH7.4での抗体の抗原結合活性が、ヒスチジン置換または挿入前のpH7.4での抗体の抗原結合活性と比較可能であることが好ましいが、必要ではない。「ヒスチジン置換または挿入後のpH7.4での抗体の抗原結合活性が、ヒスチジン置換または挿入前のpH7.4での抗体の抗原結合活性と比較可能である」とは、ヒスチジン置換または挿入後であっても、抗体が、ヒスチジン置換または挿入前の抗原結合活性の10%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上を保持していることを意味する。ヒスチジン置換または挿入が原因で抗体の抗原結合活性が低下してしまった場合には、抗原結合活性がヒスチジン置換または挿入前の抗原結合活性と比較可能になるように、1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失、付加、および/または挿入を抗体に導入することによって抗原結合活性を調節することができる。
【0092】
pH5.8での抗体の抗原結合活性を、pH7.4での抗体の抗原結合活性と比べて低下させるための別の方法としては、抗体中のアミノ酸を非天然アミノ酸で置換するまたは抗体のアミノ酸に非天然アミノ酸を挿入する方法が挙げられる。pKaは、非天然アミノ酸を使用して人為的に制御できることが知られている(Angew.Chem.Int.編 2005、44、34; Chem.Soc.Rev.2004年9月10日;33(7):422~30; Amino Acids.1999;16(3~4):345~79)。したがって、非天然アミノ酸を上記のヒスチジンの代わりに使用することができる。そのような非天然アミノ酸置換および/また挿入は、上記のヒスチジン置換および/または挿入と同時に導入することができる。本発明においては、任意の非天然アミノ酸を使用してもよい。当業者に知られている非天然アミノ酸を使用することが可能である。
【0093】
したがって、本発明の目的は、抗原に複数回結合する抗体のpH依存的な抗原結合を測定するための方法を提供することである。
【0094】
標準的なSPRに基づくアッセイ構成が、当技術分野において記述されてきた。これらによって、抗体のその抗原に対する結合活性を一組の条件で評価することが可能になる。
【0095】
本発明においては、酸性pHと中性pHとの間で抗原結合活性に絶対的な差があることは、酸性pHでの抗原結合活性が中性pHでの抗原結合活性と異なる限り必須ではない。
【0096】
しかし、一実施形態では、pH5.8での抗原に対する解離定数(K)とpH7.4での抗原に対する解離定数との比である、K(pH5.8)/K(pH7.4)の値は、好ましくは2以上、より好ましくは10以上、さらにより好ましくは40以上である。分子を当業者の技術によって産生することができる限り、K(pH5.8)/K(pH7.4)の値の上限は特に定められず、例えば400、1,000、または10,000などのいずれの値であってもよい。
【0097】
しかし、一実施形態では、pH7.4での抗原に対する解離定数(K)とpH5.8での抗原に対する解離定数との比である、K(pH7.4)/K(pH5.8)の値は、好ましくは2以上、より好ましくは10以上、さらにより好ましくは40以上である。分子を当業者の技術によって産生することができる限り、K(pH7.4)/K(pH5.8)の値の上限は特に定められず、例えば400、1,000、または10,000などのいずれの値であってもよい。
【0098】
抗原が可溶性抗原の場合、抗原結合活性は、解離定数(K)によって提示することができる。あるいは、抗原が膜抗原の場合、抗原結合活性は、見かけの解離定数によって提示することができる。解離定数(K)および見かけの解離定数(見かけのK)は、当業者に知られている方法によって、例えばBIAcore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、またはFACSを使用して決定することができる。
【0099】
一実施形態では、解離定数(K)の代わりに、解離速度定数(k)を結合活性の差の指標として使用する場合、pH5.8での抗原に対する解離速度定数(k)とpH7.4での抗原に対する解離速度定数との比である、k(pH5.8)/k(pH7.4)の値は、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、さらにより好ましくは10以上、さらにより好ましくは30以上である。分子を当業者に共通する技術によって産生することができる限り、k(pH5.8)/k(pH7.4)の値の上限は特に定められず、例えば50、100、または200などのいずれの値であってもよい。
【0100】
一実施形態では、解離定数(K)の代わりに、解離速度定数(k)を結合活性の差の指標として使用する場合、pH7.4での抗原に対する解離速度定数(k)とpH5.8での抗原に対する解離速度定数との比である、k(pH7.4)/k(pH5.8)の値は、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、さらにより好ましくは10以上、さらにより好ましくは30以上である。分子を当業者に共通する技術によって産生することができる限り、k(pH7.4)/k(pH5.8)の値の上限は特に定められず、例えば50、100、または200などのいずれの値であってもよい。
【0101】
抗原が可溶性抗原の場合、抗原結合活性は、解離速度定数(k)によって提示することができる。あるいは、抗原が膜抗原の場合、抗原結合活性は、見かけの解離速度定数(見かけのk)によって提示することができる。解離速度定数(k)および見かけの解離速度定数(見かけのk)は、解離pH値において、本発明による方法によって直接決定することができる。
【0102】
本明細書において、酸性pHでの抗原結合活性を、中性pHでの抗原結合活性と比べて低下させるとは、pH4.0からpH6.5での抗体の抗原結合能を、pH6.7からpH10.0での抗体の抗原結合能と比べて低下させること、好ましくはpH5.5からpH6.5での抗体の抗原結合活性を、pH7.0からpH8.0での抗体の抗原結合活性と比べて低下させること、より好ましくはpH5.8での抗体の抗原結合活性を、pH7.4での抗体の抗原結合活性と比べて低下させることを意味する。したがって、本発明においては、酸性pHは典型的にはpH4.0からpH6.5、好ましくはpH5.5からpH6.5、より好ましくはpH5.8である。あるいは、本発明においては、中性pHは典型的にはpH6.7からpH10.0、好ましくはpH7.0からpH8.0、より好ましくはpH7.4である。
【0103】
したがって、一実施形態では、第1のpH値はpH6.7以上pH10.0以下であり、第2のpH値はpH4.0以上pH6.5以下である。一実施形態では、第1のpH値はpH7.0以上pH8.0以下であり、第2のpH値はpH5.5以上pH6.5以下である。一実施形態では、第1のpH値はpH7.2以上pH7.6以下であり、第2のpH値はpH5.5以上pH5.8以下である。好ましい一実施形態では、第1のpH値は約pH7.4であり、第2のpH値はpH5.5以上pH5.8以下である。
【0104】
本発明は、表面プラズモン共鳴実験はpH勾配を用いて実施することができるという知見に、少なくとも部分的には基づく。それによって、一方では抗体のその抗原からの解離が起こる正確なpH値、すなわち解離pH値を決定することにより、他方では該解離pH値における解離速度定数を決定することにより、抗体のpH依存的な抗原結合を特徴づけることが可能である。
【0105】
本発明による方法は、pH勾配を適用している間、抗体の抗原への結合シグナルを記録またはモニターすることを必須の工程として含む。結合シグナルが低下し始めるpH勾配の一点では、結合部位のアミノ酸残基のプロトン化または脱プロトン化によって抗体とその抗原との間の相互作用が弱められている。pH勾配の前記一点が、抗体とその抗原との間のpH依存的な相互作用に対して解離pH値を定める。
【0106】
例えば、pH依存的な抗原結合性を有する抗体の、複数の抗原分子に結合可能な繰り返し抗原結合抗体としての適性を評価するために、本発明による方法を用いて、pH依存的な抗原結合を測定することができる。リソソームのpH、すなわちpH6.0未満、好ましくは約pH5.0での抗原への結合が減少する(または無くなりさえする)一方で、生理的pH、すなわちpH7.0超、好ましくは約pH7.4での結合は維持する(または最大でありさえする)のであれば、前記抗体は所期の目的に適するものである。
【0107】
したがって、本発明による方法は、
- 生理的pHからリソソームのpHまでのpH勾配に抗体-抗原複合体を曝露し、
i)少しでもあるかどうか(if at all)、
または
ii)抗体-抗原複合体が解離する、正確なpH値
を決定する、主要な工程を含む。
【0108】
上記は、中性から酸性のpH値までのpH勾配に対しては概説されているものの、本発明による方法は、任意のpH勾配、すなわち中性から酸性、または中性からアルカリ性、またはアルカリ性から酸性、または酸性からアルカリ性までの任意のpH勾配を用いて使用することができる。
【0109】
したがって、本明細書で報告される一態様は、(モノクローナル)抗体のその抗原への結合がpH依存的(pH依存的な抗原結合)であるかどうかを明らかにするためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体を、該抗体の抗原がコンジュゲートされた固相上に捕捉/固定化する工程と、
b)固相に第1のpH値から第2のpH値までのpH勾配を適用し、抗体の固相からの解離をモニターする工程と
を含み、工程b)で抗体の固相からの解離が検出できれば、抗体のその抗原への結合はpH依存的である方法である。
【0110】
本明細書で報告される一態様は、抗体がその抗原にpH依存的に結合(pH依存的に解離)するところでの、解離pH値(解離pH値とは、抗体のその抗原からの解離が検出できるpH値のことである)における、抗体のその抗原からの解離速度定数kを決定するためのアッセイまたは方法であって、
a)第1のpH値において、抗体の定常ドメインに特異的に結合する捕捉試薬を使用して、抗体を固相上に捕捉/固定化する工程と、
b)捕捉された抗体をその抗原とインキュベートして、安定した/一定の結合シグナルが得られるまで、捕捉された抗体-抗原複合体を形成する工程と、
c)固相に第1のpH値から解離pH値までのpH勾配を適用し、その後、該解離pH値でpH値を維持する工程と、
d)結合シグナルを記録し、そこから解離速度定数kを計算し、それによって解離pH値での解離速度定数kを決定する工程と
を含む、方法である。
【0111】
pH値を解離pH値より高いpH値から解離pH値に下げることによって、エンドサイトーシスの間およびリソソーム酸性化の間のプロセスがシミュレーションできるため、この手法は有利である。さらに、解離速度定数を決定するための開始点を厳密に設定できることによって、解離pH値での解離速度定数をより正確に決定することが可能になる。
【0112】
文献リスト
【実施例
【0113】
機器と試薬
すべてのSPR実験はセンサーチップXantec SCR CMD500Lを備えたXantec SR7500DC上で実施した。
【0114】
実施例1
チップの調製
抗原を固定化するために、ブランク対照としてのFc1および特異的な標的が結合する相互作用表面としてのFc2の2つのフローセル(Fc)を準備した。フローセル2上に抗原を固定化するために、EDC/NHSによって表面を活性化し、ダイマーの抗原コンストラクトのアミンカップリングを行う準備をした。抗原のダイマーは、pH4.5の10mMの酢酸バッファー中に30μg/mlの濃度で調製した。この溶液を、20μl/minの流速で10分間Fc2上に注入した。
【0115】
pH勾配の操作
勾配を確立するために、2種類のPBS-P+バッファーを調製した。バッファーAは7.4のpHに調整した。バッファーBはpH4.9に調整した。
【0116】
100μl/minの流速で、抗体試料を、バッファーA中100nMの濃度で90秒間注入した。210秒の平衡化後に、100%のバッファーAから100%のバッファーBまでの勾配を2400秒以内で開始した。操作の最後に、表面を1.5のpHの10mMグリシンバッファーによって再生した。
【0117】
pH依存的な結合体(binders)の解離が開始するpH値は、25:75のバッファーAとバッファーBの比率に基づいて決定した。この混合物の測定により、5.85から5.9のpH値が結果として得られた。
【0118】
実施例2
チップの調製
抗ヒトFc捕捉抗体(<hFc> GE BR-1008-39)を固定化するために、ブランク対照としてのFc1および特異的な標的が結合する相互作用表面としてのFc2の2つのフローセルを準備した。フローセル2上に捕捉抗体を固定化するために、EDC/NHSによって表面を活性化し、アミンカップリングを行う準備をした。<hFc>は、pH4.5の10mMの酢酸バッファー中に30μg/mlの濃度で調製した。この溶液を、20μl/minの流速で10分間Fc2上に注入した。
【0119】
抗体の後のpH勾配の操作
勾配を確立するために、2種類のPBS-P+バッファーを調製した。バッファーAは7.4のpHに調整した。バッファーBはpH4.9に調整した。100μl/minの流速で、当該抗体を、バッファーA中100nMの濃度で90秒間注入した。第2の工程では、種々の抗原調製物(ダイマー、野生型およびモノマー)を、バッファーA中100nMの濃度で90秒間注入した。210秒の平衡化後に、100%のバッファーAから100%のバッファーBまでの勾配を2400秒以内で開始した。操作の最後に、表面を3MのMgCl溶液によって再生した。
図1
図2
図3