IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テクノポリマー株式会社の特許一覧

特許7241895樹脂組成物の製造方法及び成形品の製造方法
<>
  • 特許-樹脂組成物の製造方法及び成形品の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20230310BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20230310BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20230310BHJP
   C08F 255/08 20060101ALI20230310BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/09
C08L51/04
C08F255/08
C08L25/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021545516
(86)(22)【出願日】2020-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2020033733
(87)【国際公開番号】W WO2021049447
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019164260
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 成季
(72)【発明者】
【氏名】木田 雄嘉
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-089133(JP,A)
【文献】特開昭61-127755(JP,A)
【文献】特表2008-516070(JP,A)
【文献】特開2012-188599(JP,A)
【文献】特開2006-169461(JP,A)
【文献】特表2011-515545(JP,A)
【文献】特開2015-105337(JP,A)
【文献】特開2012-046669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C08F 255/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体、酸変性オレフィン重合体、並びにパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びロジン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の脂肪族カルボン酸である有機酸(D)の塩である乳化剤を溶融混練し、得られた溶融混練物を水に分散させてオレフィン樹脂水性分散体を得る工程と、
前記オレフィン樹脂水性分散体にビニル系単量体成分を加えて乳化重合し、ゴム変性グラフト重合体(B1)を得る工程と、
ジエン系ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体成分を乳化重合し、ゴム変性グラフト重合体(B2)を得る工程と、
芳香族ポリカーボネートであるポリカーボネート系樹脂(A)と、前記ゴム変性グラフト重合体(B1)及び前記ゴム変性グラフト重合体(B2)を含むゴム変性グラフト重合体(B)と、ビニル系重合体(C)とを溶融混練して樹脂組成物を得る工程と、を含み、
前記ゴム変性グラフト重合体(B1)を得る工程において、前記オレフィン樹脂水性分散体に、前記乳化剤を、前記ビニル系単量体成分100質量部に対して0.3~5質量部加えて乳化重合し、その後、前記ゴム変性グラフト重合体(B1)をアルコール溶液で洗浄する工程をさらに含むか、又は、前記ゴム変性グラフト重合体(B1)を得る工程において、前記オレフィン樹脂水性分散体に前記乳化剤を加えずに乳化重合することで、前記有機酸(D)の含有量、前記樹脂組成物100質量%に対し、0.17質量%以下し、
前記ポリカーボネート系樹脂(A)と前記ゴム変性グラフト重合体(B)と前記ビニル系重合体(C)との合計質量に対し、前記ポリカーボネート系樹脂(A)の割合が60~75質量%、前記ゴム変性グラフト重合体(B)の割合が10~25質量%、前記ビニル系重合体(C)の割合が9~30質量%であり、
前記溶融混練により得られた樹脂組成物の温度240℃、荷重98Nにおけるメルトマスフローレートが25g/10分以下であり、前記樹脂組成物を射出成形によりISO 3167に規定されたタイプA1の試験片とした成形品の23℃における引張伸びが55%以上であることを特徴とする、樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記溶融混練により得られた樹脂組成物の温度240℃、荷重98Nにおけるメルトマスフローレートが17g/10分以下であり、前記樹脂組成物を射出成形によりISO 3167に規定されたタイプA1の試験片とした成形品の23℃における引張伸びが80%以上である請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ビニル系重合体(C)が、芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種とを含むビニル系単量体成分が重合された重合体である請求項1又は2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記有機酸(D)の含有量が、前記樹脂組成物100質量%に対し、0.16質量%未満である請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法により樹脂組成物を製造し、得られた樹脂組成物を成形する成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその成形品に関する。
本願は、2019年9月10日に、日本に出願された特願2019-164260号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂、AES樹脂等のゴム変性グラフト重合体は、機械的強度、成形性に優れた材料であるが、耐熱性や高度の耐衝撃性が要求される用途(自動車部品、OA部品等)に用いるには耐熱性や耐衝撃性が不十分な場合がある。一方、ポリカーボネート系樹脂は、耐熱性や耐衝撃性に優れた材料であるが、成形性が不十分な場合がある。これら互いの欠点を補う方法として、ポリカーボネート系樹脂とゴム変性グラフト重合体とをブレンドする方法が知られている。
【0003】
しかし、ポリカーボネート系樹脂とゴム変性グラフト重合体とをブレンドした樹脂組成物においては、湿熱条件下でポリカーボネート系樹脂が加水分解しやすい問題がある。ポリカーボネート系樹脂が加水分解すると、耐衝撃性等の性能が低下する。
【0004】
耐加水分解性に優れたポリカーボネート組成物として、芳香族ポリカーボネート及び/又は芳香族ポリエステルカーボネートと、塊状、溶液又は塊状懸濁重合法により調製されたゴム変性グラフト重合体と、リチウムと、ナトリウム及び/又はカリウムとを所定の割合で含む組成物が提案されている(特許文献1)。
しかし、特許文献1の組成物は、湿熱老化試験による物性(耐衝撃性、引張伸び、破壊形態等)の劣化を抑制する効果(耐湿熱老化性)が必ずしも充分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許第6279420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐湿熱老化性に優れる樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕ポリカーボネート系樹脂(A)と、ゴム変性グラフト重合体(B)と、ビニル系重合体(C)とを含む樹脂組成物であって、
脂肪族カルボン酸である有機酸(D)の含有量が、前記樹脂組成物100質量%に対し、0.18質量%未満である樹脂組成物。
〔2〕前記有機酸(D)の含有量が、前記樹脂組成物100質量%に対し、0.16質量%未満である前記〔1〕の樹脂組成物。
〔3〕前記ポリカーボネート系樹脂(A)が、芳香族ポリカーボネート及び芳香族ポリエステルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記〔1〕又は〔2〕の樹脂組成物。
〔4〕前記〔1〕~〔3〕のいずれかの樹脂組成物を含む成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐湿熱老化性に優れる樹脂組成物及びその成形品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1~10、比較例1~7の樹脂組成物における有機酸(D)の含有量と、湿熱老化試験によるMFR上昇率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルを意味し、「(共)重合体」は、単独重合体及び共重合体を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂(A)と、ゴム変性グラフト重合体(B)と、ビニル系重合体(C)とを含む。
本発明の樹脂組成物は、有機酸(D)をさらに含んでいてもよい。
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0012】
<ポリカーボネート系樹脂(A)>
ポリカーボネート系樹脂(A)は、主鎖にカーボネート結合を有する樹脂である。
ポリカーボネート系樹脂(A)としては、特に限定されず、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族-芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステルカーボネート等が挙げられる。これらのポリカーボネート系樹脂は、末端がR-CO-基又はR’-O-CO-基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。これらのポリカーボネート系樹脂は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0013】
ポリカーボネート系樹脂(A)としては、耐衝撃性、耐熱性の観点から、芳香族ポリカーボネート及び芳香族ポリエステルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、耐衝撃性の観点から、芳香族ポリカーボネートがより好ましい。
【0014】
芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応による反応生成物、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの界面重縮合法による重縮合物、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとのピリジン法による重縮合物等が挙げられる。
【0015】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内に芳香環に結合したヒドロキシ基を2つ有する化合物であればよく、ヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4,4’-ビフェノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という。)、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、9,9-ビス(p-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、ビス(p-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。この化合物において、炭化水素基としては、例えばアルキレン基が挙げられる。炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。
2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物としては、ビスフェノールA、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3、5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0017】
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
芳香族ポリエステルカーボネートは、主鎖にカーボネート結合及びエステル結合を有する樹脂である。
芳香族ポリエステルカーボネートとしては、ポリ-4,4’-イソプロピリデンジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0019】
ポリカーボネート系樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)は、15,000~40,000が好ましく、17,000~30,000がより好ましく、18,000~28,000が特に好ましい。Mvが上記下限値以上であれば、耐衝撃性がより優れる。Mvが上記上限値以下であれば、流動性、成形性がより優れる。
ポリカーボネート系樹脂(A)のMvは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計で温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式(η=1.23×10-4Mv0.83)から算出される。
【0020】
<ゴム変性グラフト重合体(B)>
ゴム変性グラフト重合体(B)は、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体成分を重合(グラフト重合)して得られたものであり、ゴム質重合体とビニル系重合体とを含む。 ビニル系単量体成分は、1種以上のビニル系単量体からなる。ビニル系重合体は、ビニル系単量体成分の重合体であり、ビニル系単量体に基づく構成単位を含む。
【0021】
ゴム質重合体とビニル系重合体との合計質量(ゴム質重合体とビニル系単量体成分との合計質量)に対するゴム質重合体の割合は、15~70質量%が好ましく、18~68質量%がより好ましく、20~65質量%がさらに好ましい。この割合は、さらに、20~60質量%であってもよく、25~55質量%であってもよく、30~50質量%であってもよい。
【0022】
(ゴム質重合体)
ゴム質重合体としては、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体、ジエン系ゴム質重合体、アクリル系ゴム質重合体等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ゴム質重合体としては、耐衝撃性の観点から、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体及びジエン系ゴム質重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、成形品同士が互いに接触したときの軋み音を低減する観点から、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体がより好ましい。
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体とジエン系ゴム質重合体とを併用してもよい。この場合、樹脂組成物の成形品が、例えば-30℃といった非常に低温の環境下においても、衝撃破壊時に延性破壊するようになるため、樹脂組成物が、安全性が要求される成形品(自動車用部品等)の成形品の成形材料として好適なものとなる。
【0023】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、エチレンに基づく構成単位と、α-オレフィンに基づく構成単位とを含む。
α-オレフィンとしては、例えば、炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらのα-オレフィンは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
α-オレフィンの炭素数は、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、さらに好ましくは3~8である。炭素数が20以下であれば、エチレンとの共重合性が良好で、樹脂組成物の成形品の表面外観がより優れる。
【0024】
エチレンに基づく構成単位とα-オレフィンに基づく構成単位との合計質量に対するエチレンに基づく構成単位の割合は、典型的には5~95質量%であり、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~95質量%、特に好ましくは70~90質量%である。エチレンに基づく構成単位の割合が上記範囲内であれば、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体のゴム弾性が十分なものとなり、耐衝撃性がより優れる。
【0025】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、必要に応じて、非共役ジエンに基づく構成単位をさらに含んでいてもよい。
非共役ジエンとしては、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0026】
非共役ジエンに基づく構成単位の含有量は、軋み音低減の観点から、少ない方が好ましい。非共役ジエンに基づく構成単位が少ないほど、ゴムの結晶性が高く、軋み音の低減効果が優れる。
エチレンに基づく構成単位とα-オレフィンに基づく構成単位との合計質量に対する非共役ジエンに基づく構成単位の割合は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましく、0質量%が特に好ましい。すなわち、非共役ジエンに基づく構成単位を含まないことが特に好ましい。
【0027】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体が好ましく、エチレン・プロピレン共重合体がより好ましい。
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体の100℃におけるムーニー粘度(ML1+4)は、典型的には5~80、好ましくは10~65、より好ましくは10~45である。ムーニー粘度が上記範囲内であれば、ゴム変性グラフト重合体(B)の流動性が十分なものとなり、成形性がより優れる。
ムーニー粘度は、JIS K 6300に規定された方法に従って測定した値である。
【0029】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、軋み音を低減する観点から、融点(Tm)を持つことが好ましい。
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体がTmを持つことは、このゴム質重合体が結晶性部分を有することを意味している。ゴム質重合体中に結晶性部分が存在すると、スティックスリップ現象の発生が抑制される為、軋み音の発生が抑制されるものと考えられる。
【0030】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体のTmは、好ましくは0~120℃、より好ましくは10~100℃、特に好ましくは20~80℃である。Tmが0℃以上であれば、軋み音の低減効果がより優れる。
Tmは、示差走査熱量計(DSC)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読みとった値であり、詳細は、JIS K 7121:1987に規定されている。なお、DSCの測定において、吸熱変化のピークを明瞭に示さないものは、実質的に結晶性がないものであり、Tmを持たないものと判断する。
【0031】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-20℃以下、より好ましくは-30℃以下、特に好ましくは-40℃以下である。Tgが-20℃以下であれば、樹脂組成物の成形品の耐衝撃性がより優れる。
Tgは、Tmの測定と同様に、DSCを用い、JIS K 7121:1987に規定された方法に従って測定することができる。
【0032】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体の重量平均分子量は、典型的には50,000~1,000,000、好ましくは80,000~800,000、より好ましくは80,000~500,000である。重量平均分子量が上記範囲内であれば、樹脂組成物の流動性、成形性、樹脂組成物の成形品の耐衝撃性及び外観がより優れる。
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0033】
ジエン系ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらはランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
ジエン系ゴム質重合体は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。
ジエン系ゴム質重合体は、共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる(共)重合体であってもよい。このジエン系ゴム質重合体に対する水素添加率は、典型的には95%以上、好ましくは98%以上である。
ジエン系ゴム質重合体は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
(ビニル系単量体成分)
ゴム変性グラフト重合体(B)を構成するビニル系単量体成分(以下、「ビニル系単量体成分(b)」とも記す。)としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、これらの化合物と共重合可能な他のビニル系単量体が挙げられる。他のビニル系単量体としては、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシ基含有不飽和化合物、ヒドロキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα-メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0036】
シアン化ビニル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0038】
マレイミド系化合物の具体例としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
カルボキシ基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
ヒドロキシ基含有不飽和化合物の具体例としては、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
ビニル系単量体成分(b)は、ゴム変性グラフト重合体(B)とその他樹脂との相溶性の観点から、芳香族ビニル化合物を含むことが好ましい。
ビニル系単量体成分(b)の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、40質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましい。この割合は100質量%であってもよい。
【0043】
ビニル系単量体成分(b)は、ゴム変性グラフト重合体(B)とその他樹脂との相溶性の観点から、芳香族ビニル化合物に加えて、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、シアン化ビニル化合物を含むことがより好ましい。芳香族ビニル化合物と共にシアン化ビニル化合物を含むと、樹脂組成物の成形品の耐薬品性、靭性等がより優れる。
【0044】
ビニル系単量体成分(b)が芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む場合、ビニル系単量体成分(b)の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、40~90質量%が好ましく、55~85質量%がより好ましい。また、ビニル系単量体成分(b)の総質量に対するシアン化ビニル化合物の割合は、10~60質量%が好ましく、15~45質量%がより好ましい。
なお、ビニル系単量体成分(b)の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、ゴム変性グラフト重合体(B)においてビニル系重合体を構成する全ての構成単位の合計質量に対する芳香族ビニル化合物に基づく構成単位の割合とみなすことができる。シアン化ビニル化合物の割合も同様である。
【0045】
(ゴム変性グラフト重合体(B)の製造方法)
ゴム変性グラフト重合体(B)は、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体成分(b)を重合することにより得られる。
重合方法としては、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法等が挙げられる。
【0046】
乳化重合法によりゴム変性グラフト重合体(B)を得る方法としては、例えば、ゴム質重合体のラテックスの存在下にビニル系単量体成分(b)を重合する方法が挙げられる。これにより、ゴム変性グラフト重合体(B)のラテックスが得られる。
ゴム質重合体のラテックスは、公知の方法により製造できる。ラテックスを製造する方法としては、溶融状態のゴム質重合体を水中で攪拌剪断力によって、均質化処理(ホモジナイズ)する方法や、乳化剤の存在下で、重合性モノマーを乳化重合する方法等が知られている(特公平4-30970号公報、特許第3403828号、特開平11-269206号公報等参照)。
【0047】
ビニル系単量体成分(b)は、ゴム質重合体のラテックスに、全量を一括して添加して重合させてもよく、少量ずつ分割して又は連続的に添加して重合させてもよい。また、これらを組み合わせた方法で重合してもよい。さらにゴム質重合体のラテックスの全量又は一部を重合の途中で添加して重合してもよい。
重合温度は、特に限定されないが、例えば50~90℃である。重合時間は、重合温度によっても異なるが、例えば1~8時間である。
重合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を用いることができる。
【0048】
重合開始剤としては、例えばクメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、含糖ピロリン酸、スルホキシレート等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、アゾビスイソブチロニトリル、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物等が挙げられる。重合開始剤は、油溶性でも水溶性でもよく、さらにはこれらを組み合わせて用いてもよい。重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤は、ゴム質重合体のラテックスに一括して又は連続的に添加することができる。
重合開始剤の使用量は、単量体成分全量100質量部に対し、好ましくは0.1~1.5質量部、より好ましくは0.2~0.7質量部である。
【0049】
連鎖移動剤としては、例えばオクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサメチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、t-テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類;α-メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。連鎖移動剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤は、ゴム質重合体のラテックスに一括して又は連続して添加することができる。
連鎖移動剤の使用量は、ビニル系単量体成分(b)の全量100質量部に対し、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部である。
【0050】
乳化剤としては、例えばアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩等が挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、例えば炭素数2~18のアルキル基を有するもの(ドデシルベンゼンスルホン酸塩等)が挙げられる。脂肪族スルホン酸塩としては、例えば、炭素数2~12の高級アルコールの硫酸エステル塩(ラウリル硫酸エステル塩等)が挙げられる。脂肪族カルボン酸塩としては、例えば、炭素数2~18の脂肪酸塩、炭素数2~6の脂肪族ジカルボン酸塩(アルケニルコハク酸塩等)が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型化合物、アルキルエーテル化合物等が挙げられる。
乳化剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
乳化剤の使用量は、ビニル系単量体成分(b)の100質量部に対し、例えば0.3~5質量部である。
【0051】
乳化重合は、ビニル系単量体成分(b)、重合開始剤等の種類に応じ公知の条件で行うことができる。
乳化重合の後、得られたラテックスからゴム変性グラフト重合体(B)を回収する。回収方法としては、例えば、ラテックス中のゴム変性グラフト重合体(B)を凝固し、凝固したゴム変性グラフト重合体(B)を回収する方法が挙げられる。なお、この際、必要に応じて、ラテックスに予め各種酸化防止剤、各種安定剤を添加してもよく、さらにこれらを乳化して添加してもよい。必要に応じて、回収したゴム変性グラフト重合体(B)を洗浄し、乾燥する。
乳化剤としてアニオン系界面活性剤を用いて乳化重合を行った場合、乳化剤に由来する有機酸(D)を低減しやすい点で、ラテックス中のゴム変性グラフト重合体(B)をメタノールにより凝固して回収し、回収したゴム変性グラフト重合体(B)を洗浄することが好ましい。
【0052】
ゴム変性グラフト重合体(B)を凝固する方法としては、凝固剤による凝固、メタノールによる凝固、機械的凝固、凍結凝固等が挙げられる。
凝固剤としては、例えば、酸、無機塩が挙げられる。酸としては、例えば、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸;酢酸、乳酸等の有機酸が挙げられる。無機塩としては、例えば、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウムが挙げられる。これらの凝固剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
凝固剤による凝固方法としては、特に制限されない。例えば、ラテックスを凝固剤水溶液に投入して凝固してもよく、凝固剤水溶液をラテックスに投入して凝固してもよい。ラテックス(又は凝固剤水溶液)を凝固剤水溶液(又はラテックス)に投入した後、低温から高温に温度勾配をつけ二段階以上に分けて凝固してもよく、弱酸性から強酸性に又は強酸性から弱酸性に酸性度勾配をつけて二段階以上に分けて凝固してもよい。ラテックスに凝固剤水溶液を混合してペーストとした後、細孔から温水中へ押出して凝固してもよい。これらの方法から二種類以上を選択して組み合わせてもよい。
【0053】
凝固したゴム変性グラフト重合体(B)の回収方法としては、例えば、遠心脱水機、流動乾燥機を使用して、脱水又は乾燥する方法が挙げられる。
回収したゴム変性グラフト重合体(B)の洗浄方法としては、例えば、遠心脱水、吸引濾過が挙げられる。洗浄に用いる洗浄液としては、例えば、純水、アルカリ水、酸性水、アルコール溶液が挙げられる。ゴム変性グラフト重合体(B)を洗浄する際の温度は、例えば、10~80℃である。
【0054】
ゴム変性グラフト重合体(B)のグラフト率は、典型的には10~150質量%、好ましくは15~120質量%、より好ましくは20~100質量%、特に好ましくは30~80質量%である。グラフト率が前記範囲内であれば、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がより優れる。
【0055】
上記グラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)={(S-T)/T}×100 ・・・(1)
上記式中、Sは、ゴム変性グラフト重合体(B)1gをアセトン20mLに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tは、ゴム変性グラフト重合体(B)1gに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。このゴム質重合体の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー、CHN元素分析等の方法により得ることができる。
【0056】
上記グラフト率は、例えば、単量体成分の重合時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加量、添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0057】
ゴム変性グラフト重合体(B)のアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、典型的には0.1~1.5dL/g、好ましくは0.15~1.2dL/g、より好ましくは0.15~1.0dL/gである。極限粘度[η]が前記範囲内であれば、耐衝撃性、成形性がより優れる。
【0058】
上記極限粘度[η]は、下記方法により測定できる。
まず、ゴム変性グラフト重合体(B)のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なる測定用試料5点を作製する。次に、ウベローデ粘度管を用い、30℃における各濃度の測定用試料の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求める。単位は、dL/gである。アセトン可溶分は、ゴム変性グラフト重合体(B)の1gをアセトン20mLに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分(アセトン可溶分のアセトン溶液)とを分離し、可溶分を乾燥(アセトンを除去)して得られる。
【0059】
上記極限粘度[η]は、例えば、ビニル系単量体成分(b)の重合時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時のビニル系単量体成分(b)の添加方法及び添加時間、重合温度、重合時間等を適宜選択することにより調整することができる。また、極限粘度[η]が異なる2種以上のゴム変性グラフト重合体(B)を適宜選択して混合することにより調整することもできる。
【0060】
<ビニル系重合体(C)>
ビニル系重合体(C)は、ビニル系単量体成分が重合された重合体である。
ビニル系重合体(C)を構成するビニル系単量体成分(以下、「ビニル系単量体成分(c)」とも記す。)としては、ビニル系単量体成分(b)と同様のものが挙げられる。ビニル系単量体成分(c)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
ビニル系単量体成分(c)は、流動性の観点から、芳香族ビニル化合物を含むことが好ましい。
ビニル系単量体成分(c)の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、40質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましい。この割合は100質量%であってもよい。
【0062】
ビニル系単量体成分(c)は、強靭性の観点から、芳香族ビニル化合物に加えて、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、シアン化ビニル化合物を含むことがより好ましい。ビニル系単量体成分(c)が芳香族ビニル化合物と共にシアン化ビニル化合物を含むと、樹脂組成物の成形品の耐薬品性、靭性等がより優れる。
【0063】
ビニル系単量体成分(c)が芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む場合、ビニル系単量体成分(c)の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、40~90質量%が好ましく、55~85質量%がより好ましい。また、ビニル系単量体成分(c)の総質量に対するシアン化ビニル化合物の割合は、10~60質量%が好ましく、15~45質量%がより好ましい。
なお、ビニル系単量体成分(c)の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、ビニル系重合体(C)を構成する全ての構成単位の合計質量に対する芳香族ビニル化合物に基づく構成単位の割合とみなすことができる。シアン化ビニル化合物の割合も同様である。
【0064】
ビニル系重合体(C)のアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、典型的には0.1~1.5dL/g、好ましくは0.15~1.2dL/g、より好ましくは0.15~1.0dL/gである。極限粘度[η]が前記範囲内であれば、耐衝撃性、成形性がより優れる。
【0065】
ビニル系重合体(C)は、ビニル系単量体成分(c)を重合することにより得られる。重合方法としては、特に限定されず、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法等の公知の重合法を用いることができる。
【0066】
<有機酸(D)>
有機酸(D)は、脂肪族カルボン酸である。
有機酸(D)の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ロジン酸等の脂肪酸が挙げられる。
有機酸(D)は、典型的には、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びロジン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0067】
<他の熱可塑性樹脂>
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
<他の添加剤>
他の添加剤としては、紫外線吸収剤、耐候剤、充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、防曇剤、滑剤、抗菌剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤、無機充填剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
本発明の樹脂組成物中、ポリカーボネート系樹脂(A)及びゴム変性グラフト重合体(B)の含有量は、必要とする耐衝撃性、耐熱性、機械的強度、成形性等に応じて適宜選定できる。
ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム変性グラフト重合体(B)とビニル系重合体(C)との合計質量に対するポリカーボネート系樹脂(A)の割合は、30~80質量%が好ましく、40~75質量%がより好ましく、50~75質量%がさらに好ましい。この割合は、さらに、50~70質量%であってもよい。ポリカーボネート系樹脂(A)の割合が上記下限値以上であれば、耐衝撃性、耐熱性がより優れる。ポリカーボネート系樹脂(A)の割合が上記上限値以下であれば、機械的強度、成形性がより優れる。
【0070】
ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム変性グラフト重合体(B)とビニル系重合体(C)との合計質量に対するゴム変性グラフト重合体(B)の割合は、3~40質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましく、6~30質量%がさらに好ましく、10~25質量%が特に好ましい。この割合は、さらに、10~20質量%であってもよい。ゴム変性グラフト重合体(B)の割合が上記下限値以上であれば、機械的強度、成形性がより優れる。ゴム変性グラフト重合体(B)の割合が上記上限値以下であれば、耐衝撃性、耐熱性がより優れる。
【0071】
ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム変性グラフト重合体(B)とビニル系重合体(C)との合計質量に対するビニル系重合体(C)の割合は、5~30質量%が好ましく、7~30質量%がより好ましく、9~30質量%がさらに好ましい。この割合は、さらに、9~20質量%であってもよい。ビニル系重合体(C)の割合が上記下限値以上であれば、成形性がより優れる。ビニル系重合体(C)の割合が上記上限値以下であれば、機械強度がより優れる。
【0072】
有機酸(D)の含有量は、樹脂組成物100質量%に対し、0.18質量%未満であり、0.16質量%未満が好ましく、0.14質量%未満がより好ましく、0.12質量%未満がさらに好ましく、0.10質量%未満が特に好ましい。有機酸(D)の含有量が0.18質量%未満であれば、耐湿熱老化性が優れる。
有機酸(D)の含有量は0質量%であってもよい。すなわち、樹脂組成物は有機酸(D)を含まないものであってもよい。有機酸(D)の含有量は0質量%を超えていてもよい。
有機酸(D)の含有量は、典型的には、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びロジン酸の合計量である。
有機酸(D)の含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定される。詳しい測定方法は以下のとおりである。
樹脂組成物0.5gを10mLの溶媒(1,4-ジオキサン又はテトラヒドロフラン)に溶解する。得られた溶液に、ジアゾメタンを3分間吹き込むか、又は、トリメチルシリルジアゾメタン4mLとメタノール溶媒4mLを添加し3時間反応させることで、溶液中の遊離脂肪酸をメチルエステル化する。その後、得られた溶液を、内部標準物質(アラキジン酸メチル)を含む溶媒に溶解し、得られた試料を、水素炎イオン化検出器を備えたガスクロマトグラムに注入し、ガスクロマトグラム測定を行う。ガスクロマトグラム測定により得られたスペクトルより遊離脂肪酸である有機酸(D)を定量し、樹脂組成物100質量%に対する有機酸(D)の含有量(質量%)を求める。
【0073】
樹脂組成物100質量%に対するポリカーボネート系樹脂(A)とゴム変性グラフト重合体(B)とビニル系重合体(C)と有機酸(D)との合計質量の割合は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。この合計質量の割合の上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。
【0074】
他の熱可塑性樹脂の含有量は、耐衝撃性の観点では、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム変性グラフト重合体(B)とビニル系重合体(C)との合計100質量部に対し、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましい。他の熱可塑性樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0質量部であってもよい。
【0075】
他の添加剤の含有量は、例えば、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム変性グラフト重合体(B)とビニル系重合体(C)との合計100質量部に対し、0~40質量部である。
【0076】
樹脂組成物の温度240℃、荷重98Nにおけるメルトマスフローレート(MFR)は、1~100g/10分が好ましく、5~75g/10分がより好ましく、10~60g/10分が特に好ましい。MFRが上記下限値以上であれば、流動性、成形性がより優れる。MFRが上記上限値以下であれば、耐衝撃性がより優れる。
MFRは、ISO 1133に規定された方法に従って測定した値である。
【0077】
本発明の樹脂組成物は、例えば、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム変性グラフト重合体(B)、ビニル系重合体(C)、必要に応じて他の熱可塑性樹脂及び他の添加剤を、タンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混練機を用いて、適当な条件下で溶融混練して製造することができる。バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。
各成分の混合順序は特に制限されず、一部の成分を混合した後、残部を混合してもよく、全成分を一括に混合してもよい。各成分を混練するに際して、各成分を一括して混練してもよく、多段、分割配合して混練してもよい。充填材のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給する方が好ましい。溶融混練温度は、通常200~300℃、好ましくは220~280℃である。
【0078】
以上説明した本発明の樹脂組成物にあっては、有機酸(D)の含有量が0.18質量%未満であるので、耐湿熱老化性に優れ、湿熱条件下でのポリカーボネート系樹脂(A)の加水分解、それに伴う樹脂組成物の物性(MFR、耐衝撃性、引張伸び、破壊形態等)の変動を充分に抑制できる。
【0079】
本発明の樹脂組成物は、80℃、95%RHで1000時間の湿熱処理時のMFRの上昇率が250%以下であることが好ましく、200%以下であることがより好ましく、180%以下であることがさらに好ましく、100%以下であることが特に好ましい。
「MFRの上昇率」は、以下の式により求められる。
MFRの上昇率(%)={湿熱処理後の樹脂組成物のMFR(g/10分)-湿熱処理前の樹脂組成物のMFR(g/10分)}/湿熱処理前の樹脂組成物のMFR×100
【0080】
本発明の樹脂組成物は、80℃、95%RHで1000時間の湿熱処理時のシャルピー衝撃強度の保持率が20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。
「シャルピー衝撃強度の保持率」は、以下の式により求められる。
シャルピー衝撃強度の保持率(%)=湿熱処理後の試験片Aのシャルピー衝撃強度(kJ/m)/湿熱処理前の試験片Aのシャルピー衝撃強度(kJ/m)×100
ここで、「試験片A」は、本発明の樹脂組成物を射出成形により、ISO3167に規定されたタイプA1の試験片を長さ80mm、厚み4mm、幅10mmに切削し、ノッチ先端半径0.25mmにノッチ加工した成形品である。「シャルピー衝撃強度」は、ISO 179-1に規定された方法に従って、23℃において測定される値である。
【0081】
本発明の樹脂組成物は、80℃、95%RHで1000時間の湿熱処理時の引張伸びの保持率が5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
「引張伸びの保持率」は、以下の式により求められる。
引張伸びの保持率(%)=湿熱処理後の試験片Bの引張伸び(%)/湿熱処理前の試験片Bの引張伸び(%)×100
ここで、「試験片B」は、本発明の樹脂組成物を射出成形により、ISO3167に規定されたタイプA1の試験片とした成形品である。「引張伸び」は、ISO 527に規定された方法に従って、23℃において測定される値である。
【0082】
〔成形品〕
本発明の成形品は、本発明の樹脂組成物を含む。
本発明の成形品は、例えば、本発明の樹脂組成物を成形することにより製造できる。 成形方法としては、特に制限はなく、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト成形法、プレス成形法、ブロー成形法、異形押出成形法、カレンダー成形法、Tダイ押出成形法等の公知の方法が挙げられる。
【0083】
本発明の成形品は、例えば、電気若しくは電子機器、光学機器、照明機器、事務用機器、自動車用部品、事務用機器部品、住宅用部品、家電用部品等として好適である。
具体的な用途としては、例えば、シートベルトのバックル、アッパーボックス、カップホルダー、ドアトリム、ドアノブ、ドアポケット、ドアライニング、ピラーガーニッシュ、コンソール、コンソールボックス、ルームミラー、サンバイザー、センターパネル、ベンチレータ、エアコン、エアコンパネル、ヒーターコンパネル、板状羽根、バルブシャッター、ルーバー等、ダクト、メーターパネル、メーターケース、メーターバイザー、インパネアッパーガーニッシュ、インパネロアガーニッシュ、A/Tインジケーター、オンオフスイッチ類(スライド部、スライドプレート)、スイッチベゼル、グリルフロントデフロスター、グリルサイドデフロスター、リッドクラスター、カバーインストロアー等のマスク類(マスクスイッチ、マスクラジオ等)、ポケット類(ポケットデッキ、ポケットカード等)、ステアリングホイールホーンパッド、カップホルダー、スイッチ部品、スイッチボックス、アシストグリップ等のグリップ、ハンドル、グラブハンドルカーナビゲーション用外装部品、カメラカバー、カメラモニタリングシステム、ヘッドアップディスプレイ、リアエンターテイメントシステム、グローブボックス、グローブボックスラチェット、小物入れ、小物入れ等の蓋にあるラチェット、ルームミラー、ルームランプ、アームレスト、スピーカーグリル、ナビパネル、オーバーヘッドコンソール、クロックインジケーター、SOSスイッチ等の車両内装品、フロントグリル、ホイールキャップ、バンパー、フェンダー、スポイラー、ガーニッシュ、ドアミラー、ラジエターグリル、リアコンビネーションランプ、ヘッドランプ、ターンランプ、アウトサイドドアハンドルのグリップ等の車両外装品、事務機器、家庭用家電製品のケース、ハウジング等の外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品、デスク用ロック部品、デスク引き出し、複写機の用紙トレイ、直管型LEDランプ、電球型LEDランプ、電球型蛍光灯、シーリングライトのパネル、カバー、コネクタ等の照明器具、携帯電話、タブレット端末、炊飯器、冷蔵庫、電子レンジ、ガスコンロ、掃除機、食器洗浄機、空気清浄機、エアコン、ヒーター、TV、レコーダー等の家電器具、プリンター、FAX、コピー機、パソコン、プロジェクター等のOA機器、オーディオ器具、オルガン、電子ピアノ等の音響機器、化粧容器のキャップ、電池セル筐体等として使用することができ、特に車両内装品として好ましく使用することができる。
【実施例
【0084】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中、部、ppm及び%は、特に断らない限り、質量基準である。実施例1、5、6、9、10は参考例である。
【0085】
〔測定方法〕
<有機酸(D)の含有量>
樹脂組成物のペレット0.5gを10mLのテトラヒドロフランに溶解し、得られた溶液に、トリメチルシリルジアゾメタン4mLとメタノール溶媒4mLを添加し3時間反応させることで、溶液中の遊離脂肪酸をメチルエステル化した。その後、得られた溶液を、内部標準物質(アラキジン酸メチル)を含む溶媒に溶解し、得られた試料を、水素炎イオン化検出器を備えたガスクロマトグラムに注入し、ガスクロマトグラム測定を行った。ガスクロマトグラム測定により得られたスペクトルより遊離脂肪酸である有機酸(D)を定量し、樹脂組成物100%に対する有機酸(D)の含有量(%)を求めた。本実施例において有機酸(D)の含有量は、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びロジン酸の合計量である。
【0086】
<MFR>
樹脂組成物のペレットについて、ISO 1133に規定された方法に従って、温度240℃及び荷重98Nの条件でMFRを測定した。
【0087】
<シャルピー衝撃強さ(IMP)>
樹脂組成物のペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所社製「J110AD-180H」)を用い、シリンダー温度240℃の条件で射出成形して試験片A(成形品)を得た。得られた試験片Aについて、ISO 179-1に規定された方法に従って、23℃におけるIMPを測定した。
【0088】
<引張伸び(TE)>
樹脂組成物のペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所社製「J110AD-180H」)を用い、シリンダー温度240℃の条件で射出成形して試験片B(成形品)を得た。得られた試験片Bについて、ISO 527に規定された方法に従って、23℃におけるTEを測定した。
【0089】
<破壊形態>
樹脂組成物のペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所社製「J35AD-30H」)を用い、シリンダー温度240℃の条件で射出成形して2.4mm厚の試験片C(成形品)を得た。得られた試験片Cについて、高速衝撃試験機((株)島津製作所社製「HITS-P10」)を用いて成形品の面衝撃強度を測定し、成形品の破壊形態(延性破壊又は脆性破壊)を目視にて確認した。
【0090】
〔使用材料〕
<ポリカーボネート樹脂(A)>
三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバレックス7022PJ-LH1」(Mv18,700(カタログ値)の芳香族ポリカーボネート)を使用した。
【0091】
<ゴム変性グラフト重合体(B)>
(製造例1:ゴム変性グラフト重合体(B-1)の製造)
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計等を装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体として、エチレン・プロピレン共重合体(エチレン/プロピレン=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)20、融点(Tm)は40℃、ガラス転移温度(Tg)は-50℃)22部、スチレン55部、アクリロニトリル23部、t-ドデシルメルカプタン0.5部、トルエン110部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間攪拌して均一溶液とした。その後、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温して、100℃に達した後は、この温度を保持しながら、攪拌回転数100rpmとして重合反応を行った。重合反応開始後4時間目から、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合反応を終了した。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)-プロピオネート0.2部、ジメチルシリコーンオイル;KF-96-100cSt(商品名:信越シリコーン株式会社製)0.02部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し、さらに40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化した。得られたエチレン・α-オレフィン系ゴム強化ビニル系樹脂(B-1)のグラフト率は70%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.47dL/gであった。
【0092】
(製造例2:ゴム変性グラフト重合体(B-2))
「オレフィン樹脂水性分散体の調製」
エチレン・プロピレン共重合体100部と、酸変性オレフィン重合体として無水マレイン酸変性ポリエチレン(三井化学社製、「三井ハイワックス 2203A」、質量平均分子量:2,700、酸価:30mg/g)20部と、アニオン系乳化剤として牛脂脂肪酸カリウム(オレイン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、パルミチン酸カリウムの混合物)5部とを混合した。
この混合物を2軸スクリュー押出機(池貝社製、「PCM30」、L/D=40)のホッパーから4kg/Hrで供給し、この2軸スクリュー押出機のベント部に設けた供給口より、水酸化カリウム0.5部とイオン交換水2.4部を混合した水溶液を連続的に供給しながら、220℃に加熱して溶融混練して押出した。溶融混練物を2軸スクリュー押出機の先端に取り付けた冷却装置に連続的に供給し、90℃まで冷却した。そして、2軸スクリュー押出機先端より吐出させた固体を、80℃の温水中に投入し、連続的に分散させて、固形分濃度40質量%付近まで希釈して、オレフィン樹脂水性分散体を得た。
【0093】
「ゴム変性グラフト重合体の調製」
撹拌機付きステンレス重合槽に、オレフィン樹脂水性分散体(エチレン・プロピレン共重合体の固形分として60部)を入れ、オレフィン樹脂水性分散体に固形分濃度が30%になるようにイオン交換水を加え、硫酸第一鉄0.006部、ピロリン酸ナトリウム0.3部、フラクトース0.35部及び牛脂脂肪酸カリウム(オレイン酸カリウム,ステアリン酸カリウム、パルミチン酸カリウムの混合物)1.0部を仕込み、温度を80℃とした。スチレン30部、アクリロニトリル10部及びクメンヒドロペルオキシド1.0部を150分間連続的に添加し、重合温度を80℃に保ち乳化重合を行い、ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体を得た。ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行い、脱水、洗浄、乾燥の工程を経て、粉状のゴム変性グラフト共重合体(B-3)を得た。ゴム変性グラフト重合体(B-2)のグラフト率を測定したところ40%であった。
【0094】
(製造例3:ゴム変性グラフト重合体(B-3))
ゴム変性グラフト重合体(B-2)と同様の手順により、ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体を得た。ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行った後、水性分散体に水酸化カリウムを添加しpH7に調整し15分間撹拌によるエージングを行った。エージング終了後、脱水、洗浄、乾燥の工程を経て、粉状のゴム変性グラフト共重合体(B-3)を得た。ゴム変性グラフト重合体(B-3)のグラフト率を測定したところ40%であった。
【0095】
(製造例4:ゴム変性グラフト重合体(B-4))
ゴム変性グラフト重合体(B-2)と同様の手順により、ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体を得た。ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行った後、水性分散体に水酸化カリウムを添加しpH9に調整し15分間撹拌によるエージングを行った。エージング終了後、脱水、洗浄、乾燥の工程を経て、粉状のゴム変性グラフト重合体(B-4)を得た。ゴム変性グラフト重合体(B-4)のグラフト率を測定したところ40%であった。
【0096】
(製造例5:ゴム変性グラフト重合体(B-5))
ゴム変性グラフト重合体(B-2)と同様の手順により、ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体を得た。ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行った後、水性分散体に水酸化カリウムを添加しpH11に調整し15分間撹拌によるエージングを行った。エージング終了後、脱水、洗浄、乾燥の工程を経て、粉状のゴム変性グラフト重合体(B-5)を得た。ゴム変性グラフト重合体(B-5)のグラフト率を測定したところ40%であった。
【0097】
(製造例6:ゴム変性グラフト重合体(B-6))
ゴム変性グラフト重合体(B-2)と同様の手順により、ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体を得た。ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行った後、水性分散体に水酸化カリウムを添加しpH11に調整し15分間撹拌によるエージングを行った。エージング終了後、脱水、洗浄を行い、得られた粉状のグラフト共重合体を再度水中に分散させ、水性分散体に硫酸を加えることでゴム変性グラフト重合体を酸洗浄した。その後脱水、水による洗浄、乾燥の工程を経て、粉状のゴム変性グラフト重合体(B-6)を得た。ゴム変性グラフト重合体(B-6)のグラフト率を測定したところ39%であった。
【0098】
(製造例7:ゴム変性グラフト重合体(B-7))
ゴム変性グラフト重合体(B-2)と同様の手順により、ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体を得た。ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行った。脱水、洗浄、乾燥の工程の後得られた粉状のゴム変性グラフト重合体を、洗浄を目的としてメタノール水溶液中に添加し、メタノール水溶液によるゴム変性グラフト重合体の洗浄を行った。その後再度脱水し、水による洗浄、乾燥の工程を行うことで、粉状のゴム変性グラフト重合体(B-7)を得た。ゴム変性グラフト重合体(B-7)のグラフト率を測定したところ39%であった。
【0099】
(製造例8:ゴム変性グラフト重合体(B-8))
ゴム変性グラフト重合体(B-2)と同様の手順により、オレフィン樹脂水性分散体を得た。撹拌機付きステンレス重合槽に、オレフィン樹脂水性分散体(エチレン・プロピレン共重合体の固形分として60部)を入れ、オレフィン樹脂水性分散体に固形分濃度が30%になるようにイオン交換水を加え、硫酸第一鉄0.006部、ピロリン酸ナトリウム0.3部、及びフラクトース0.35部を仕込み、温度を80℃とした。スチレン30部、アクリロニトリル10部及びクメンヒドロペルオキシド1.0部を150分間連続的に添加し、重合温度を80℃に保ち乳化重合を行い、ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体を得た。ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行い、脱水、洗浄、乾燥の工程を経て、粉状のゴム変性グラフト共重合体(B-8)を得た。ゴム変性グラフト重合体(B-8)のグラフト率を測定したところ39%であった。
【0100】
(製造例9:ゴム変性グラフト重合体(B-9))
攪拌機付き重合容器に、水280部及びジエン系ゴム質重合体として、重量平均粒子径0.26μm、ゲル分率90%のポリブタジエンラテックス60部(固形分換算)、ロジン酸カリウム0.6部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら60℃に加熱した後、アクリロニトリル10部、スチレン30部、t-ドデシルメルカプタン0.2部、クメンハイドロパーオキサイド0.3部からなる単量体混合物を60℃で5時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合温度を65℃にし、1時間撹拌を続けた後、重合を終了させ、グラフト共重合体のラテックスを得た。重合転化率は98%であった。その後、得られたラテックスに、2,2’-メチレン-ビス(4-エチレン-6-t-ブチルフェノール)0.2部を添加し、硫酸を添加して凝固し、洗浄、濾過及び乾燥工程を経てパウダー状の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物のグラフト率は40%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.38dL/gであった。
【0101】
<ビニル系重合体(C)>
(製造例10:ビニル系重合体(C1))
アクリロニトリル及びスチレンを公知の懸濁重合法で重合しアクリロニトリル-スチレン共重合体を得た。これをビニル共重合体(C)とした。アクリロニトリル/スチレンの組成比(質量比)は25/75であった。アセトン可溶分の極限粘度[η]では0.35dL/gであった。
(製造例11:ビニル系重合体(C2))
アクリロニトリル、スチレン及びα-メチルスチレンを公知の懸濁重合法で重合しアクリロニトリル-スチレン-α-メチルスチレン共重合体を得た。これをビニル共重合体(C2)とした。アクリロニトリル/スチレン/α-メチルスチレンの組成比(質量比)は25/50/25であった。アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.30dL/gであった。
【0102】
〔実施例1~10、比較例1~7〕
表1、表2記載の成分を表1、表2に記載の配合割合(部)でヘンシェルミキサーにより混合した後、ベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX44、バレル設定温度260℃)を用いて溶融混練し、樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットについて、前記した方法によりMFR及び有機酸(D)の含有量を測定した。また、前記した方法により試験片を成形してIMP、TE及び破壊形態を測定した。
【0103】
得られたペレット及び試験片をそれぞれ、80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で250時間、500時間又は1000時間放置(湿熱処理)した後、前記した方法によりMFR、IMP、TE及び破壊形態を測定した。測定結果から、下記式によりMFRの上昇率、IMPの保持率、TEの保持率を算出した。この上昇率が低いほど、又は保持率が高いほど、耐湿熱老化性に優れる。初期のMFR、IMP、TE、破壊形態はそれぞれ、製造直後(湿熱処理0時間)のMFR、IMP、TE、破壊形態である。結果を表3~5に示した。また、図1に、実施例1~10、比較例1~7の樹脂組成物における有機酸(D)の含有量と、1000時間の湿熱処理時のMFR上昇率との関係を示すグラフを示した。図1中、「PC69」は、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム変性グラフト重合体(B)とビニル系重合体(C)との合計質量に対するポリカーボネート系樹脂(A)の割合が69質量%である例を示す。「PC75」、「PC60」、「PC50」、「PC40」も同様である。
MFRの上昇率(%)={湿熱処理後のMFR-初期のMFR}/初期のMFR×100
IMPの保持率(%)=湿熱処理後のIMP/初期のIMP×100
TEの保持率(%)=湿熱処理後のTE/初期のTE×100
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】
【0108】
【表5】
【0109】
ポリカーボネート系樹脂(A)の含有量が同じ実施例1~6と比較例1~5とを対比すると、実施例1~6の樹脂組成物は、比較例1~5に比べて、MFRの上昇率が低く、IMP及びTEの保持率が高く、破壊形態も延性破壊を保持していることから耐湿熱老化性に優れていた。IMP及びTEの保持率が高いことから、ポリカーボネート系樹脂の加水分解が抑制されたことがわかる。実施例9と比較例6との対比、実施例10と比較例7との対比においても同様の傾向がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の樹脂組成物は、耐湿熱老化性に優れるので、過酷な環境下で使用される物品の成形材料として有用である。
図1