(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】ペラミビル溶液吸入剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/196 20060101AFI20230310BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230310BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230310BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230310BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230310BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
A61K31/196
A61K9/08
A61K9/12
A61K47/02
A61K47/04
A61P31/16
(21)【出願番号】P 2021572693
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 CN2019110115
(87)【国際公開番号】W WO2020173095
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】201910137099.2
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521375438
【氏名又は名称】広州南▲シン▼薬業有限公司
【氏名又は名称原語表記】Guangzhou Nanxin Pharmaceutical Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】Jiada Times Apartment, No. 9 Junye Road, Huangpu District, Guangzhou City, Guangdong Province,China
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】張世喜
(72)【発明者】
【氏名】馮玉歓
(72)【発明者】
【氏名】繆棟
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-535820(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103446051(CN,A)
【文献】特表2010-515742(JP,A)
【文献】特表2019-500340(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022814(WO,A1)
【文献】226 ネブライザー吸入器における吸入液の浸透圧変化に関する検討,アレルギー,40(3-2),1991年,p.397,https://doi.org/10.15036/arerugi.40.397_2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 31/00-31/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペラミビル溶液吸入剤であって、
前記溶液吸入剤は、ペラミビル、浸透圧調整剤、pH調整剤
、リン酸二水素ナトリウムおよび水により製造され、ペラミビルの濃度は15mg/mlよりも大きく
且つ25mg/mlより小さく、浸透圧調整剤の濃度は8mg/mlよりも小さく
且つ6mg/mlより大きく、リン酸二水素ナトリウムの濃度は0.05mg/ml~0.2mg/mlであり、前記溶液吸入剤のpH値は5.
5であり、前記浸透圧調整剤は、塩化ナトリウムまたはグルコースから選択されており、前記溶液吸入剤は霧化された後、その質量中央値空気力学的直径は3μm~4μmの間であり、微細粒子の有効堆積率は60%~80%の間である、ことを特徴とするペラミビル溶液吸入剤。
【請求項2】
ペラミビルの濃度は20mg/mlであり、浸透圧調整剤の濃度は7mg/mlであり、前記浸透圧調整剤は塩化ナトリウムである、ことを特徴とする請求項1に記載のペラミビル溶液吸入剤。
【請求項3】
前記pH調整剤は希塩酸である、ことを特徴とする請求項1に記載のペラミビル溶液吸入剤。
【請求項4】
前記溶液吸入剤をエアロゾル吸入してから、1時間後の肺組織における薬物濃度は7μg/gよりも大きく、または、3時間後の肺組織における薬物濃度は5μg/gよりも大きい、ことを特徴とする請求項1~
3の何れか1項に記載のペラミビル溶液吸入剤。
【請求項5】
前記溶液吸入剤の微細粒子用量は10mgよりも大きく、粒子の幾何標準偏差は3.0よりも小さい、ことを特徴とする請求項1~
3の何れか1項に記載のペラミビル溶液吸入剤。
【請求項6】
高温に30日間置いた後、前記溶液吸入剤の関連物質の含有量は0.3%よりも小さい、ことを特徴とする請求項
1に記載のペラミビル溶液吸入剤。
【請求項7】
請求項
1に記載のペラミビル溶液吸入剤の製造方法は、
ペラミビルの原料と補助材料とを混合し、70℃~80℃の水を1000mlに加え、撹拌溶解した後冷却し、次に希塩酸を用いて溶液のpH値を5.0~6.0の間に調整し、その後、プリフィルタリングして無菌ろ過を行い、無菌充填してペラミビル溶液を得る、ことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、医薬技術分野に関し、特に、ペラミビル溶液吸入剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペラミビルは、化学名が(‐)‐(1S、2S、3R、4R)‐2‐ヒドロキシ‐3‐[(1S)‐1‐アセトアミド‐2‐エチル]ブチル‐4‐グアニジノシクロペンタン‐1‐カルボン酸であり、シクロペンタン誘導体類のインフルエンザウイルスノイラミニダーゼ(NA)の阻害剤である。ペラミビルはシクロペンタン誘導体であり、リンクに接続される基には、親水性のカルボキシル基とグアニジノ基、また、疎水性のイソペンチル基とアセトアミド基があり、極性の異なる4つの基は、それぞれインフルエンザウイルスNA構造における異なる活性部位領域に作用する。カルボキシル基部分は、NA活性部位の3つのアルギニン残基Arg118、Arg292、Arg371と強い分子間作用を形成し、アセトアミド基のメチル部分は、NA疎水性ポケットにおけるTrp178とIle222に作用し、カルボニル基酸素はArg152と作用し、グアニジノ基は、NAの活性部位のAsp151、Glu119、Glu227およびTrp227と強い分子間作用を発生し、B型インフルエンザウイルスNAの場合、イソアミル基部分はAla246、Arg224およびIle222により構成された疎水性ポケットと強く作用するが、A型インフルエンザウイルスNAの場合、イソアミル基部分はGlu276の疎水性部分に作用する。ペラミビル分子の複数の基は、それぞれインフルエンザウイルスNA分子の複数の活性部位に作用して、NAの活性を強く抑制することによって、宿主細胞において子孫ウイルス粒子の複製および放出を阻止する。
【0003】
ペラミビルは経口投与可能性が低いため、主に注射液などの非経口製剤に製造されている。例えば、CN101314579Aには、無水ペラミビル結晶およびその医薬組成物が開示されており、組成物は、200mgの無水ペラミビル結晶、マンニトール、適量の塩酸および注射用水を100mLに加えた200mgのペラミビル結晶を含有する注射液を含む。また、200mgの無水ペラミビル結晶、マンニトール、適量の塩酸および注射用水を20mLに加えて凍結乾燥した凍結乾燥粉末注射を含む。
【0004】
CN102058522Aには、ピペラミビル(piperamivir)、非水溶媒、共溶媒、および注射用水により構成されたピペラミビル注射液およびその製造方法が開示されている。うち、ピペラミビルと非水溶媒の重量と体積の比(g/ml)は1:10~100であり、処方における非水溶媒の用量比は20%~60%(v/v)であり、共溶媒の用量は1%~20%(w/v)であり、前記非水溶媒は、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコールの1つまたは複数の混合溶媒であり、前記共溶媒は、グルコース、ソルビトール、マンニトール、イノシトールの1つまたは複数である。溶液の透明度を維持しながら、注射用水、塩化ナトリウムまたはブドウ糖輸液を任意の比で希釈できる、ピペラミビル注射液およびその製造方法が提供されている。前記注射液は、ペラミビルの溶解度を向上させると共に、合理的な製剤処方と製造方法で注射薬の要件を満たすこともでき、適量の非水溶媒と共溶媒を使用することにより、ペラミビルの溶解度を高め、また溶液の安定性を維持することによって、臨床において、希釈して使用する場合、溶液の濁り、投与できない等の問題の発生を回避し、非水溶媒の用量を可能な限り低減し、元の薬剤の濃度を向上させる。CN102702033Aには、アモルファスペラミビルおよびその製造方法と医薬組成物が開示されており、注射液は、200mgのアモルファスペラミビル、マンニトール、適量の塩酸および100mlに加えた注射用水を含む。
【0005】
ペラミビルは、患者の呼吸器組織に滞留することによって、抗インフルエンザ効果を発揮するため、ペラミビルを、非経口経路で呼吸器組織病変に直接到達する吸入剤に製造することによって、体の他の組織に対する潜在的な不良反応を低減する。吸入剤には、乾燥粉末吸入剤、噴霧剤、溶液吸入剤等がある。子供や高齢者、呼吸機能の低い患者等の自発呼吸困難な人には、乾燥粉末吸入製剤を採用すると充分な量の薬物を吸入し難い状況があるため、溶液吸入剤はこのような患者の応用により便利である。ペラミビルは、溶液吸入剤に製造できるが、まだ多くの挑戦がある。
【0006】
霧化に適する溶液型吸入剤の場合、通常に、1)滅菌媒体、2)低粘度液体、低表面張力、3)適度なpH、4)平均直径が5μmよりも小さいまたは3μmよりも小さく形成できる液滴、5)スプレーに対して相対的に安定である処方、6)刺激性の防腐剤および安定剤は含まない等の、幾つかの基本的な性質を満たす必要がある。粒度と剤形は、吸入される製剤の効果に影響する主な要素であり、うち、粒度は主な要素の1つであり、吸入による薬物の伝送は、喉、気管、気管支および肺胞等の気道の異なる部位に、薬物を堆積することができる。通常、粒度が小さいほど、粒子が空気中に浮遊している時間が長くなり、薬物を気道のより深い部位に伝送することができる。
【0007】
粒度と剤形の両方は、何れも吸入されるコルチコステロイドの効果に影響を与える。薬物の剤形は、肺への該薬物の伝送に重要な影響を及ぼし、したがって、その効果に影響を与えている。肺への薬物の伝送において最も重要なことは、エアロゾルキャリアと伝送される粒度である。また、肺への堆積度の減少は、中咽頭での堆積度が増加することを示している。応用している特定の剤形により、一部のコルチコステロイドは口や咽頭に堆積する可能性が高く、また局所的な副作用を引き起こす可能性がある。うち、肺の気道と鼻腔を覆う粘液毛布に堆積した液滴は、繊毛の作用下で咽頭に移動し、このような粒子は、通常上気道に堆積された比較的に大きい薬物粒子であるが、鼻腔と肺からの粘液、細胞および破片は咽頭に集まり、唾液と混ざり合い、飲み込むことで消化管に入る。したがって、より小さい粒径、且つより狭い粒度分布を有する噴霧された液滴を製造することが望ましいが,このような粒子を製造することは困難である。
【0008】
よりよい霧化を実現するために、通常、共溶媒および界面活性剤を吸入剤の処方に添加し製造しているが、気道に対して刺激があるため、エタノール、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコール等の短鎖脂肪アルコールの共溶媒は、吸入投与の時に少量しか許容できず、特に、子供達に適していない。ほとんどの界面活性剤は何れも所定の毒性を有している。したがって、これらの状況は吸入製剤の研究開発を制限している。
【0009】
研究(「超音波霧化中の薬物の分解に関する研究」)によると、リンコマイシン溶液がエアロゾルに霧化された後に硫化物を生成することによって、頭痛、めまいおよび吐き気等の臨床症状を引き起こす可能性があるという報告がある。さらなる研究により、超音波霧化の後に腐敗臭が発生するリンコマイシンエアロゾルには、ジチオメチルと硫化水素が含有されており、また未知の硫化物も混合されていることが分かり、SCH3を含むリンコマイシンの側鎖結合部は、超音波のエネルギーによって、他の硫化物に分解されやすいため、他の薬物も超音波霧化される時に、潜在的な熱分解変化を引き起こす可能性があると考えられている。したがって、ペラミビル溶液吸入剤の研究開発でも、ペラミビルが超音波溶解されるという潜在的な問題に直面している。
【0010】
別の文献(「ペラミビルバルク薬の安定性に関する研究」、甘微等、現代薬物および臨床(Drugs&Clinic)、2018年)には、ペラミビルのバルク薬が100℃の条件下で48時間内では安定であり、10日間の光照射の状況下で、ペラミビルの安定性が優れており、ペラミビルは、アルカリ性および中性の環境下で安定性が優れており、酸性条件下では不安定であり、pH値の低下に従って安定性が悪くなるという報告がある。ペラミビルは、酸性の環境では非常に不安定であり、アルカリ性および中性条件下で優れた安定性を有する。したがって、ペラミビル溶液吸入剤の安定性をどのように改善するかということも、解決すべき緊急の問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来技術の欠点を克服し、関連物質の生成を効果的に低減することができ、より小さく、より均一に分布された粒径を有し、肺組織への薬物の堆積を有利にし、よりよい安定性を有するペラミビル溶液吸入剤を提供することである。また、本発明のペラミビル溶液吸入剤は、pH5.5の条件下でよりよい安定性を有する。また、本発明のペラミビル溶液吸入剤は、肺組織にターゲット分布されることができ、ペラミビル注射液に対して、肺組織における本発明のペラミビル溶液吸入剤の薬物濃度が静脈内投与(10mg/kg)の1.58~5.31倍である。また、本発明のペラミビル溶液吸入剤は、超音波プロセスによりもたらす薬物の分解および化学反応を、よりよく低減することができる。
【0012】
本発明が前記技術問題を解決する技術案は、以下の通りである。
【0013】
本発明は、ペラミビル溶液吸入剤を提供しており、前記溶液吸入剤は、ペラミビル、浸透圧調整剤、pH調整剤および水により製造されており、うち、ペラミビルの濃度は15mg/mlよりも大きく、浸透圧調整剤の濃度は8mg/mlよりも小さく、前記溶液吸入剤のpH値は5.0~6.0で、且つ非加熱方法で滅菌しており、前記浸透圧調整剤は、塩化ナトリウムまたはグルコースから選択されており、前記溶液吸入剤は霧化された後、その質量中央値空気力学的直径(MMAD)が3μm~4μmの間であり、微細粒子の有効堆積率(FPF)が60%~80%の間である。
【0014】
うち、ペラミビルの濃度は、15mg/mlより大きく且つ25mg/mlより小さく、好ましくは20mg/mlであり、浸透圧調整剤の濃度は、8mg/mlより小さく且つ6mg/mlより大きく、好ましくは7mg/mlであり、前記浸透圧調整剤は塩化ナトリウムである。
【0015】
本発明では、非加熱の殺菌工程を利用し、好ましくは無菌工程を利用する。
【0016】
前記pH調整剤は、希塩酸であり、より好ましくは5%の希塩酸である。
【0017】
前記水は注射用水である。
【0018】
うち、ペラミビル溶液吸入剤は、pH値が5.5であり、前記pH条件下で優れた安定性を有する。
【0019】
前記溶液吸入剤をエアロゾル吸入して1時間後、肺組織における薬物の濃度は7μg/gよりも大きく、または、3時間後、肺組織における薬物の濃度は5μg/gよりも大きい。
【0020】
前記溶液吸入剤の微細粒子用量(FPD)は10mgよりも大きく、粒子の幾何標準偏差は3.0よりも小さい。
【0021】
本発明は、ペラミビル溶液吸入剤をさらに提供しており、前記溶液吸入剤は、ペラミビル、浸透圧調整剤、pH調整剤、リン酸二水素ナトリウムおよび水により製造されており、うち、ペラミビルの濃度は15mg/mlよりも大きく、浸透圧調整剤の濃度は8mg/mlよりも小さく、リン酸二水素ナトリウムの濃度は0.05mg/ml~0.2mg/mlであり、前記溶液吸入剤のpH値は5.5で、且つ非加熱方法で滅菌しており、前記浸透圧調整剤は、塩化ナトリウムまたはグルコースから選択されており、前記溶液吸入剤は霧化された後、その質量中央値空気力学的直径(MMAD)が3μm~4μmの間であり、微細粒子の有効堆積率(FPF)が60%~80%の間である。
【0022】
本発明の溶液吸入剤は、良好な熱安定性を有し、高温に30日間置いた後、関連物質の含有量が0.3%よりも小さい。
【0023】
本発明は、ペラミビル溶液吸入剤の製造方法をさらに提供し、前記製造方法は、ペラミビルの原料と補助材料とを混合し、70℃~80℃の水を1000mlに加え、撹拌溶解した後冷却し、次に希塩酸を用いて溶液のpH値を5.0~6.0の間に調整した後、プリフィルタリングし、次に無菌ろ過を行い、無菌充填してペラミビル溶液を得る。
【有益効果】
【0024】
1.本発明のペラミビル溶液吸入剤は、酸性条件下で、ペラミビル注射液が十分に安定ではないことを解決し、関連物質の生成を効果的に低減することができ、より小さく、より均一に分布された粒径を有し、肺組織への薬物の堆積を有利にする。また、pH5.5の条件下で、本発明のペラミビル溶液吸入剤はよりよい安定性を有する。
2.本発明のペラミビル溶液吸入剤は、肺組織にターゲット分布されることができ、ペラミビル注射液に対して、肺組織における本発明のペラミビル溶液吸入剤の薬物濃度が、静脈内投与(10mg/kg)の1.58~5.31倍である。
3.本発明のペラミビル溶液吸入剤は、超音波プロセスによりもたらす薬物の分解および化学反応を、よりよく低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、具体的な実施例を参照しながら、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明を説明するためにのみ使用されることを理解されたい。以下の実施例において、具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、慣用の条件または製造業者が推奨した条件に従う。
【0026】
別に定義しない限り、明細書で使用しているすべての専門用語および科学用語は、当業者に熟知している意味と同じである。また、記載された内容と類似または均等の方法および材料は、何れも本発明の方法に適用することができる。明細書で説明されている好ましい実施方法と材料は、単なる例示として使用するものである。
【0027】
[実施例1]吸入剤処方
表2の処方に従って、ペラミビルの原料と補助材料とを液体混合タンクで混合し、70℃~80℃の注射用水を1000mlに加え、撹拌溶解した後冷却し、次に希塩酸(5%v/v)を用いて溶液のpH値を5.0~6.0の間に調整し、その後、プリフィルタリングして無菌ろ過を行い、無菌充填してペラミビル溶液を得る。
【0028】
表2の処方1~処方9を、それぞれ密閉の高温(60℃)、光照射(4500lx±500lx)の条件下で、0日、5日、10日、30日間置いて、関連物質の状況を調査する。
【0029】
関連物質の含有量の測定方法:HPLC:Agilent 1260 Infinity USA、クロマトカラム:Eclipse Plus C18(5μm、4.6×250mm、Agilent、USA)、流動相:グラジエント溶出は以下の通りであり、流速は1mL/分で、試料注入量は20μLで、検出波長は210nmで、カラム温度は室温である。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
以上の実験結果により、ペラミビルとビタミンCで調整した吸入液は、光照射と高温に5日間置くと、淡黄色の透明な溶液に変化し始め、高温と強光の条件下に30日間置くと、関連物質が大幅に増加し、残りの処方は、高温と強光の条件下で、各々の時点で何れも無色の透明な溶液であることを示している。また、ペラミビルと塩化ナトリウムとを、クエン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、クエン酸及びプロピレングリコールの少なくとも1つで調整した吸入液は、高温に30日間置いた後、関連物質も明確に増加し、安定性が劣っている。しかし、ペラミビルと塩化ナトリウム、ペラミビルと塩化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムで調整した吸入溶液は、高温と光照射の条件下で、何れも優れた安定性を有する。
【0034】
[実施例2]ペラミビルの溶解度に対する異なるpHの影響実験
過量のペラミビルバルク薬を量り取って25mlのメスフラスコに入れ、0.7%の塩水でマークまでメスアップし、シェーカーに置いて24時間振盪(25℃、75rpm)した後、希塩酸(5%、v/v)を用いてそれぞれpHを4.0、4.5、5.0、5.5に調整し、継続して48時間置いた後、0.45μmの濾膜でろ過を行い、ろ過液を脱イオン水で250倍に希釈し、ペラミビル標準のHPLC法を用いて、サンプルにおけるペラミビルの含有量を測定する。
【0035】
【0036】
実験結果により、ペラミビルの平衡溶解度はpH依存性を有し、pHの低下に従ってその平衡溶解度が増加することを示している。製剤のpHの要求(3~8)と生理刺激性等の要素を組み合わせると、ペラミビル吸入溶液のpHは4.5~6.0の間でより適切である。
【0037】
[実施例3]異なるpH条件下でペラミビル吸入溶液の安定性実験
処方1及び処方6は、それぞれ希塩酸(5% v/v)を用いてpH値を4.5、5.0、5.5に調整した溶液と、希塩酸でpH値を調整していない溶液に分け、その後、ペラミビル溶液をそれぞれ密閉の高温(60℃)、光照射(4500lX±500lX)の条件下に0日、30日間置いて、関連物質の状況を調査する。
【0038】
【0039】
実験結果は、ペラミビル吸入液がpH値5.5の条件下で最も安定であり、高温の条件下でも良好な安定性を維持できることを示している。
【0040】
[実施例4]
処方:
ペラミビル 18g
塩化ナトリウム 6.5g
5%塩酸 適量
注射用水 1000ml
製造方法:ペラミビルの原料と補助材料とを液体混合タンクで混合し、75℃の注射用水を1000mlに加え、撹拌溶解した後冷却し、次に希塩酸(5%v/v)を用いて溶液のpH値を5.5に調整し、その後、プリフィルタリングして無菌ろ過を行い、無菌充填してペラミビル溶液を得る。
【0041】
[実施例5]
処方:
ペラミビル 20g
塩化ナトリウム 7g
5%塩酸 適量
注射用水 1000ml
製造方法:ペラミビルの原料と補助材料とを液体混合タンクで混合し、75℃の注射用水を1000mlに加え、撹拌溶解した後冷却し、次に希塩酸(5%v/v)を用いて溶液のpH値を5.5に調整し、その後、プリフィルタリングして無菌ろ過を行い、無菌充填してペラミビル溶液を得る。
【0042】
[実施例6]
処方:
ペラミビル 15g
塩化ナトリウム 8g
5%塩酸 適量
注射用水 1000ml
製造方法:ペラミビルの原料と補助材料とを液体混合タンクで混合し、70℃の注射用水を1000mlに加え、撹拌溶解した後冷却し、次に希塩酸(5%v/v)を用いて溶液のpH値を5.7に調整し、その後、プリフィルタリングして無菌ろ過を行い、無菌充填してペラミビル溶液を得る。
【0043】
[実施例7]
処方:
ペラミビル 20g
塩化ナトリウム 7g
リン酸二水素ナトリウム 0.1g
5%塩酸 適量
注射用水 1000ml
製造方法:ペラミビルの原料と補助材料とを液体混合タンクで混合し、70℃の注射用水を1000mlに加え、撹拌溶解した後冷却し、次に希塩酸(5%v/v)を用いて溶液のpH値を5.5に調整し、その後、プリフィルタリングして無菌ろ過を行い、無菌充填してペラミビル溶液を得る。
【0044】
[実施例8]
処方:
ペラミビル 25g
グルコース 8g
5%塩酸 適量
注射用水 1000ml
製造方法:ペラミビルの原料と補助材料とを液体混合タンクで混合し、75℃の注射用水を1000mlに加え、撹拌溶解した後冷却し、次に希塩酸(5%v/v)を用いて溶液のpH値を5.5に調整し、その後、プリフィルタリングして無菌ろ過を行い、無菌充填してペラミビル溶液を得る。
【0045】
[実施例9]
処方:
ペラミビル 15g
塩化ナトリウム 8g
リン酸二水素ナトリウム 0.1g
5%塩酸 適量
注射用水 1000ml
製造方法:ペラミビルの原料と補助材料とを液体混合タンクで混合し、75℃の注射用水を1000mlに加え、撹拌溶解した後冷却し、希塩酸(5%v/v)を用いて溶液のpH値を5.5に調整し、その後、プリフィルタリングして無菌ろ過を行い、無菌充填してペラミビル溶液を得る。
【0046】
実験例1:ペラミビルエアロゾル吸入溶液の品質評価実験
処方1および処方6の吸入溶液の送達速度と総送達量、微細粒子の用量をそれぞれ測定する。
【0047】
微細粒子用量の測定
NGIを冷却キャビネットに置き、冷却キャビネットの温度が4℃に下がった後、テストを開始し、NGIを底流速の真空ポンプおよび流速計に連結し、流速を15L/分(±5%)に調整する。2mlのペラミビルエアロゾル吸入溶液(20mg/ml)を含んでいるプラスチックアンプルを取り、よく振った後、アンプルを絞り、ペラミビルエアロゾル吸入溶液を霧化カップに添加し、霧化カップを圧縮機に連結し、まず、底流速の真空ポンプをオンにしてから圧縮機をオンにし、圧縮機によって生成される圧縮空気を利用して霧化し、16分(完全に霧化される)後に圧縮機をオフにし、霧化カップを取り外してから、底流速の真空ポンプをオフにする。サンプルを添加した霧化カップを取り外し、NGIから分離し、脱イオン水/メタノール(60:40)の混合溶媒を用いてアンプルを洗浄し、薬液を5mlのメスフラスコに回収し、霧化カップを洗浄して残留の薬液を100mlのメスフラスコに回収し、希釈液を用いて喉管を洗浄し50mlのメスフラスコに入れ、希釈液を用いてそれぞれ第1の収集層、第2の収集層、第3の収集層、第4の収集層、第5の収集層、第6の収集層、第7の収集層および濾過紙付のMOC収集層を洗浄し、対応する50mlのメスフラスコに回収し、3回の平行測定を行う。MOC収集層の試験溶液は0.45μmの濾膜を介してろ過され、その後のろ過液を取ってMOC収集層の試験溶液として使用し、他の試験溶液は直接注入することができる。
【0048】
【0049】
送達速度と総送達量の測定
指示に従って、呼吸シミュレータと濾過紙を備えた濾過紙装置とを取り付ける。2mlのペラミビルエアロゾル吸入溶液(20mg/ml)を含んでいるプラスチックアンプルを取り、よく振った後、アンプルを絞り、ペラミビルエアロゾル吸入溶液を霧化カップに添加し、霧化カップを圧縮機に連結し、呼吸シミュレータを成人モード(15サイクル/分の呼吸数、500mlの潮汐量、吸入と呼気時間の比1:1)に設定する。呼吸シミュレータをオンにし、第1の段階の時間を1分に設定し、呼吸サイクルの開始時に圧縮機をオンにし、呼吸サイクルの終了時に圧縮機を同時にオフにする。希釈液を用いて濾過紙と濾過紙装置を洗浄して、同一の100mlメスフラスコに回収し、第1の段階の試験溶液とする。また、指示に従って、呼吸シミュレータと濾過紙を備えた濾過紙装置と、霧化カップと、セットの圧縮機とを取り付け、呼吸シミュレータをオンにし、第2の段階の時間を15分に設定し、呼吸サイクルの開始時に圧縮機をオンにし、呼吸サイクルの終了時に圧縮機を同時にオフにする。希釈液を用いて濾過紙と濾過紙装置を洗浄して、同一の100mlメスフラスコに回収し、第2の段階の試験溶液とする。
【0050】
【0051】
実験結果により、高濃度のペラミビルエアロゾル吸入溶液(20mg/ml)は、総送達量が8mgよりも大きく、FPD(微細粒子の用量)が10mgよりも大きく、FPF(微細粒子の有効堆積率)が61%よりも大きく、MMAD(質量中央値空気力学的直径)が4μmよりも小さく、GSD(幾何標準偏差)が3.0よりも小さく、エアロゾル吸入溶液製剤の品質要件を満たすことを示している。
【0052】
[実施例2 組織分布試験]
実験方法:15匹のSD雄ラットを取り、各組に5匹ずつランダムに3組に分け、静脈内注射を介して、ペラミビル塩化ナトリウム注射液(バッチ番号:3139262、広州南新製薬有限公司)を10mg/kgの用量で投与し、投与5分後、1時間後、3時間後に眼窩の静脈叢から0.20mlの血を採取した後、麻酔によって動物を死亡させてから肺組織(気管を含む)を取る。全血がヘパリンナトリウムによって抗凝固された後、遠心分離(10000rpm、5分)し、血漿部分を取り、肺組織をきれいに洗浄して秤量し、血漿と肺組織を試験のために-20℃で保存する。
【0053】
54匹のSD雄ラットを取り、各組に6匹ずつランダムに9組に分け、エアロゾル吸入を介してペラミビル化合物塩化ナトリウム溶液(処方1)を投与し、投与用量はそれぞれ、低用量が2.5mg/kgであり、中用量が5mg/kgであり、高用量が10mg/kgであり、エアロゾル吸入の投与時間は30分であり、それぞれ投与5分後、1時間後、3時間後に眼窩の静脈叢から0.20mlの血を採取し、麻酔によって動物を死亡させた後、肺組織(気管を含む)を取る。全血がヘパリンナトリウムによって抗凝固された後、遠心分離(10000rpm、5分)し、血漿部分を取り、肺組織をきれいに洗浄して秤量し、血漿と肺組織を試験のために-20℃で保存する。
【0054】
収集処理分析:
肺組織の収集
投与後5分、1時間、3時間で麻酔によってラットを死亡させ、それぞれその体重を計って記録し、その後解剖し、その肺組織(気管を含む)を取り、生理食塩水で肺組織をきれいに洗浄し、濾過紙を用いて肺組織に残っている液体を吸収し、肺組織をEPチューブに入れ、重さを計り(EPチューブ自体の重さを取り除く)肺組織の重さを記録し、最後に肺組織を-20℃の冷蔵庫で保存する。
【0055】
肺組織の予備処理
肺組織/生理食塩水の比率1g/4mLに従って、対応する生理食塩水を肺組織に加え、ホモジナイザーでホモジネートを製造し、遠心分離(10000rpm、10分)した後、100μLの上清を取り、1.5mLの遠心管に置いて、1g/mLの内部標準オセルタミビルメタノール溶液400μLを正確に加え、1分間ボルテックスして混合し、12000rpmで10分間遠心分離し、100μLの上清を取った後、100μLの水を加えて充分に混合し、その後、LC-MS/MS分析を待つ。
【0056】
標準プログラムで肺組織予備処理
グラジエント希釈法に従って、1mg/mLの母液を用いて、濃度が0.5μg/mL、1μg/mL、5μg/mL、10μg/mL、50μg/mL、100μg/mLおよびイ200μg/mLのペラミビル標準溶液を調製する。ブランクの肺組織ホモジネート90μLを取り、上述の各濃度の標準液10μLをそれぞれ正確に加えることによって、濃度がそれぞれ0.05μg/mL、0.1μg/mL、0.5μg/mL、1μg/mL、5μg/mL、10μg/mLおよび20μg/mLの肺組織標準品を調製し、各種の肺組織標準品に、1g/mLの内部標準オセルタミビルメタノール溶液400μLを加え、1分間ボルテックスして混合し、12000rpmで10分間遠心分離し、100μLの上清を取り、その後、100μLの水を加えて充分に混合し、LC-MS/MS分析を待つ。毎日、肺組織の薬物濃度は、何れも標準プログラムで計算する。
【0057】
測定条件:
クロマトグラフ条件:アゲラ(Agela)会社のVenusil XBP フェニルカラム(100mm×2.1mm、5μm)を用いて、流動相A(0.1%のギ酸水溶液、2mMの酢酸アンモニウムを含む)とB(0.1%ギ酸のメタノール)の比は60:40であり、流速は0.40mL/分で、カラム温度は40℃で、注入量は5μLである。
【0058】
質量分析条件:イオン源はエレクトロスプレーイオン化源(ESI)であり、検出方法は陽イオン検出であり、スキャン方法は多重反応モニタリング(MRM)であり、スプレー電圧は5500Vであり、イオン源の温度は550℃であり、エアカーテンのガス流速は25L/分で、GS1は50L/分で、GS2は:50L/分であり、衝突ガスの流速は6L/分で、スキャン時間は0.2秒であり、定量および定性に使用されるイオン条件は、表8および
図2に示している。
【0059】
【0060】
肺組織の薬物濃度
異なる投与方法と投与用量を経て、5分、1時間および3時間での研究の結果(表9)により、ペラミビルは、静脈内注射投与(10mg/kg)された後1時間および3時間で、肺組織における薬物濃度が、エアロゾル吸入投与の各用量組(P<0.001)に比べて何れも著しく低く、5分で、静脈内投与された肺組織の薬物濃度は、エアロゾル吸入投与の中用量組及び高用量組より著しく低いが、低用量の噴霧投与とは統計的に有意な差がない(P>0.05)。肺組織におけるペラミビルの薬物濃度は、エアロゾル吸入投与による用量依存的な特徴を表しており、用量の増加に従って増加する。肺組織の薬物濃度におけるペラミビルの2つの投与方法の差は、時間の延長に従って差が大きくなる。同じ投与の条件下(10mg/kg)で、各時点でのペラミビルの噴霧投与の肺組織濃度は、静脈内投与の2.02~11.58倍であり、各時点での低用量のエアロゾル吸入投与(2.5mg/kg)の肺組織濃度は、静脈内投与(10mg/kg)の1.07~4.58倍であり、各時点での中用量のエアロゾル吸入投与(5mg/kg)の肺組織濃度は、静脈内投与(10mg/kg)の1.58~5.31倍である。
【0061】
【0062】
[実施例3]
超音波霧化の安定性実験
実施例1における処方1および処方6の吸入溶液を超音波噴霧器(2500KHz)に置いて超音波霧化し、それぞれ0分、20分、40分、60分および90分後にその関連物質の含有量を測定し、実験結果は表10に示す通りである。
【0063】
【0064】
実験結果により、処方1のペラミビル塩化ナトリウム溶液吸入剤は、2500KHzの電力で超音波霧化から40分以内に、良好な安定性を維持できるが、1時間後には関連物質の含有量が著しく増加し始め、超音波によって薬物成分が分解され、さらに化学反応が発生した可能性があり、処方にリン酸二水素ナトリウムをさらに加えた後、超音波霧化から90分以内に、関連物質の増加が顕著ではなく、薬物の超音波安定性を大幅に向上させることを示している。
【0065】
以上の説明は、本発明の実質的な技術的内容の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の好ましい実施例にすぎない。本発明の実質的な技術的内容は、出願の特許請求の範囲内で広く定義され、他者によって完成された技術的実体または方法は、出願の特許請求の範囲で定義されたものとまったく同じである場合、または同等の変更である場合、該特許請求の範囲内に含まれるもとのみなされる。