(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-09
(45)【発行日】2023-03-17
(54)【発明の名称】タングステン材料
(51)【国際特許分類】
C22C 27/04 20060101AFI20230310BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20230310BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20230310BHJP
B22F 3/10 20060101ALN20230310BHJP
C22C 1/04 20230101ALN20230310BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230310BHJP
【FI】
C22C27/04 101
C22F1/18 B
B22F1/00 P
B22F3/10 F
C22C1/04 D
C22F1/00 604
C22F1/00 606
C22F1/00 623
C22F1/00 628
C22F1/00 624
C22F1/00 650A
C22F1/00 650C
C22F1/00 661Z
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694B
C22F1/00 694A
C22F1/00 685A
C22F1/00 691Z
C22F1/00 651Z
(21)【出願番号】P 2022552608
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014433
(87)【国際公開番号】W WO2022215551
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021064811
(32)【優先日】2021-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯倉 武志
(72)【発明者】
【氏名】角倉 孝典
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-506711(JP,A)
【文献】特開平06-116077(JP,A)
【文献】特開平02-009786(JP,A)
【文献】特開昭58-133356(JP,A)
【文献】国際公開第2005/073418(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102796977(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111136264(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 27/04
C22F 1/18
B22F 1/00
B22F 3/10
C22C 1/04
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン材料の任意の面において、第1の結晶粒の特定の結晶方位と前記第1の結晶粒に隣接する第2の結晶粒の前記特定の結晶方位とがなす角度が2~15°である割合が、
小数点以下第1位を切り捨てて50%以上である、タングステン材料。
【請求項2】
前記タングステン材料の任意の10の視野において、(100)の格子歪の平均値が0.25%以下である、請求項1に記載のタングステン材料。
【請求項3】
前記タングステン材料の純度は99.9質量%以上である、請求項1または2に記載のタングステン材料。
【請求項4】
前記タングステン材料を2000℃で1時間熱処理した後の結晶粒径が200μm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載のタングステン材料。
【請求項5】
前記タングステン材料を1500℃で1時間熱処理した後の前記角度が2~15°である割合が25%以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載のタングステン材料。
【請求項6】
Re、Ta、Cr、K、Mo、Ti、およびZrからなる群より選ばれた少なくとも1つの元素を合計20質量%以下含有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のタングステン材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示はタングステン材料に関する。本出願は、2021年4月6日に出願した日本特許出願である特願2021-064811号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来、タングステン材料は、たとえば特開昭62-146235号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
タングステン材料の任意の面において、第1の結晶粒の特定の結晶方位と前記第1の結晶粒に隣接する第2の結晶粒の前記特定の結晶方位とがなす角度が2~15°である割合が50%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、複数の結晶粒を有するタングステン材料の組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
従来のタングステン材料においては、短周期で熱衝撃が加えられると、割れまたは変形が発生するという問題があった。
【0007】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0008】
(背景技術)
特開昭62-146235号公報においては、タングステン部材はK/Siを0.003~0.05質量%含有し、かつ二次再結晶粒範囲が100mm2当たり1個以下の結晶粒を有している。タングステン部材は炉内部品等の高温構造用材料の粒界割れの原因となる結晶粒界を少なくでき、優れた高温クリープ強度を持つ。
【0009】
タングステンは高融点材料の一つであり(融点3422℃)、2000℃を超える温度負荷でも使用できる高温加熱炉で使用できる。しかしながら、長時間使用において変形や割れが起きる。それにより、炉の安定稼働がしにくくなる。
【0010】
炉部材には圧延等により塑性加工されたタングステン材料が使用されるが、一般的に1200℃を超える温度に晒されると再結晶が起こり、更には熱負荷温度が1800℃を超えると粒成長が起こるため、より変形や割れが起こりやすくなる。
【0011】
タングステン材料は高い融点を持ち高温炉部材として使用される。高温下で使用されるタングステン材料は長年の高温下での使用により結晶粒が粗大化し高温クリープ特性を有する。反面、短周期で繰り返される熱衝撃に対しては弱い側面を持つ。
【0012】
高温雰囲気で使用される炉部材は耐高温変形性を確保するためタングステン等の材料で構成される。高温下で変形しづらいタングステン材料は結晶粒が大きく高いヤング率を持つ。そのため、電源の急激な遮断等の短周期での熱衝撃に対して受ける影響が大きくヒートショックに弱い側面を持つ。
【0013】
従来、タングステン圧延材では、2000℃での温度負荷によって結晶粒径が200μmを超える結晶粒径に変化する。200μmを超える結晶粒径のタングステン材料は、2000℃を超える温度での使用時、急激な昇温や電源のオフによるヒートショックで割れを誘発され、炉の安定稼働が継続できない状態になることがあった。
【0014】
(隣り合う結晶粒の特定の結晶方位のなす角度)
本開示では、新規な加工条件を採用し、圧延材の結晶粒界特性および、格子歪を制御したタングステン材料とし、耐ヒートショック特性を向上させた。
【0015】
本開示のタングステン材料は、2000℃での温度負荷における再結晶粒の結晶粒径を200μm以下になるように制御することによって急激な温度変化(繰り返しを含む)に対するクラック耐性が高まり炉の長寿命化に寄与できる。
【0016】
本開示のタングステン材料は前記特徴により高温加熱炉で使用されるヒータやリフレクターなどの高温熱負荷部材、X線発生装置の陽極固定又は回転ターゲット等の電子ビームの照射を受ける部材、核融合炉のダイバータや内壁材など高温のプラズマに面する箇所や中性子に被ばくされる個所等の部材に使用する事ができる。
【0017】
本開示は、タングステン材料の任意の面において、第1の結晶粒の特定の結晶方位と前記第1の結晶粒に隣接する第2の結晶粒の前記特定の結晶方位とがなす角度が2~15°(小傾角粒界)である割合が50%以上である、タングステン材料に関する。
【0018】
この割合が50%未満となると2000℃の熱負荷によって、変形や割れが起きやすい200μmを超えて粒成長を引き起してしまう。より好ましくはこの割合は55%以上である。この明細書において、「小傾角粒界」とは、第1の結晶粒の特定の結晶方位と前記第1の結晶粒に隣接する第2の結晶粒の前記特定の結晶方位とがなす角度が2~15°であることをいう。この小傾角粒界はより好ましくは80%以下である。80%を超える割合にするには難しく、加工により割れが入る場合や精密な条件の制御が必要であるため量産性には不向きである。
【0019】
図1は、複数の結晶粒を有するタングステン材料の組織図である。
図1で示すように、タングステン材料1は複数の結晶粒11,12,13を有する。複数の結晶粒11,12,13の境界が結晶粒界21,22である。結晶粒12における特定の結晶方位(たとえば<100>)を矢印32で示す。結晶粒13における結晶方位を矢印33で示し、これは矢印32の結晶方位と同じ方位とする。2つの矢印32,33がなす角度θが2から15°である小傾角粒界の割合が50%以上である。
【0020】
さらに、前記タングステン材料を1500℃で1時間熱処理した時の小傾角粒界の割合が25%以下であることがより好ましい。より好ましくは10%以下である。
【0021】
小傾角粒界の測定方法は、以下の通りである。
タングステン材料の任意の面を測定面とした。測定面に機械研磨を施した後に、クロスセクションポリッシャを用いて加速電圧6kV、照射電流130μAで断面加工を行った後に測定した。測定面の測定視野は200μm×600μmで行い
図1のように結晶粒が含まれるようにした。結晶粒12は結晶粒11および13と接触する。結晶粒11と結晶粒12の特定の結晶方位がなす角度θAを測定した。結晶粒12と結晶粒13の特定の方位がなす角度をθBとした。前記方法を用いて視野の中に含まれる結晶粒12を中心とした隣接する結晶粒間のなす角度を測定した。測定は結晶粒12を中心に行った。角度の測定数が200に到達するまで、必要に応じて200μm×600μmの視野の範囲を移動させながら隣接し異なる結晶粒間のなす角度を200測定し、前記200の測定結果を用いて2~15°以下の小傾角粒界の割合を算出した。
【0022】
測定視野における結晶粒界特性は、SEM(ZEISS製 Gemini450)に付随したEBSDを用いて測定した。SEM条件は加速電圧30kV、照射電流25nA、EBSD条件はWD:13mm、0.5μmstepで測定した。
【0023】
測定されたデータの解析はOxford製Symmetryを用いて行った。
(格子歪)
タングステン材料の任意の10の視野において、(100)の格子歪の平均値が0.25%以下であることが好ましい。0.25%を超えても、高温における熱衝撃によって割れが入ることはなかったが、0.25%以下であると、高温における変形もおきることなく炉部材などの用途において優位性を示すことが分かった。より好ましくは0.20%以下である。
【0024】
格子歪の測定方法は、以下の通りである。
タングステン材料の、任意の面を測定面とする。測定面に機械研磨を施した後に、液温22℃、1規定KOH溶電解液を使用し、10Vの直流電解研磨を施して、機械研磨による硬化層を20μm除去したものを測定面とした。
【0025】
測定面おいて任意の10の視野を選択した。格子ひずみは、X線回折装置(Malvern Panalytical製 Empyrean、DY1204)を用いて測定した。測定条件として、管球はCu、電圧45kV、電流40mA、10mmのスリット使用、スキャン速度は0.11°/sとして2θ:35~135°まで測定した。測定されたデータの解析はHigh score plusを用い、Rietveld methodに基づいて(100)の格子ひずみを計算した。10視野の格子歪みの平均値を求めた。
【0026】
(タングステン材料の純度)
タングステン材料の純度は、99.9質量%以上が好ましい。
【0027】
99.9質量%を下回ると、特に真空雰囲気による使用によって、内在する不可避不純物が揮発し炉内を汚染させ、炉の寿命低下につながるおそれがある。なお、「おそれがある」とは、僅かながらそのようになる可能性があることを示し、高い確率でそのようになることを意味するものではない。
【0028】
タングステン材料の純度は以下のようにして規定する。純度の分析方法はJIS H1402(2001)、JIS H1403(2001)に準じて行い、板材のMo、Fe、Al、Ca、Mg、Siの含有量を化学分析にて測定し、Al、Ca、Mg、Siについては全量酸化物(Al2O3、CaO、MgO、SiO2)として存在していると仮定して酸化物換算する。100からMo、Fe、酸化物換算したAl2O3、CaO、MgO、SiO2を引いた数値をタングステンの純度とした。
【0029】
しかしながら、水素などの還元雰囲気、あるいはアルゴンなどの不活性雰囲気下における使用においては、タングステン以外の元素を含有したタングステン合金でも使用できる。前記タングステン合金は、2000℃を超える温度負荷においても結晶粒径が200μm以下であるだけでなく、添加元素の固溶・分散強化による高強度化も期待できる。
【0030】
タングステン合金は、タングステンのほかに、Re(レニウム)、Ta(タンタル)、Cr(クロム)、K(カリウム)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、およびZr(ジルコニウム)からなる群より選ばれた少なくとも1つの元素を合計20質量%以下含有する。このようなタングステン合金は2000℃の熱負荷における粒成長を抑制するだけでなく、高強度化が期待できる。各元素の総添加量が20質量%を超えると、圧延時に加工割れが起きるおそれがあるため合計の添加量を20質量%以下に抑えることが好ましい。
【0031】
添加物の形態は純金属だけでなく、酸化物、水素化物、炭化物でも良い。
(熱処理後の結晶粒径)
タングステン材料を温度2000℃で1時間熱処理した後の結晶粒径は、200μm以下が好ましい。200μmを超えると、熱衝撃により割れたり、変形が起きるおそれがある。より好ましくは100μm以下である。
【0032】
結晶粒径の測定に関しては、任意の面において倍率200倍の拡大写真を撮影する。この写真上において任意の粒子の長径を最低50個測定し、その平均値を結晶粒径とした。
【0033】
(形状)
タングステン材料は上記特徴を有していれば、板厚は何mmでも同様の効果を得ることができる。製造条件についても制限はなく、焼結は高温プレス(HIP、HP)を使用しても良い。塑性加工方法についても、鍛造、圧延や押出など制限はない。
【0034】
タングステン材料は単純な形状だけでなく、機械加工により穴を開けたり、曲げ加工などを施しても同様の効果を得ることができる。さらには、ステンレスや銅、あるいは銅合金などタングステン以外の材料とロウ付けや圧接により接合を施しても同様の効果を得ることができる。
【0035】
タングステン材料の板厚は、タングステン材料の厚みを任意の10箇所でマイクロメータで測定して、その平均値を用いた。
【0036】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0037】
(実施例1)
(1)タングステン材料の製造
(1-1)タングステン焼結体製造工程
W酸化物を還元して、原料としての純W粉末を得た。純W粉末において、フィッシャー法によるFSSS平均粒子径が2.5μmである。純W粉末に、必要に応じてFSSS平均粒子径4.0μmのRe粉末、20μmのTaおよびCr粉末、FSSS平均粒子径4.2μmのMo粉末、20μmのTiH2粉末、FSSS平均粒子径3.0μmのZrC粉末を準備し、純W粉末に一定量添加し、乳鉢を用いて混合することにより混合粉末を得た。KはKOH水溶液をW酸化物に噴霧して還元することによってK入りW粉末を得た。これにより表1から表3に示す試料番号1から24、31から54および61から80の粉末を得た。試料番号61から80は純Wの粉末である。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
この粉末を、プレス機を用いて、金型プレスによりプレス成形体を作製した。
このプレス成形体を、焼結炉を用いて、水素雰囲気中、2200℃-30時間で焼結し、W焼結体を得た。
【0042】
この時の焼結体のサイズは100mm×100mm×厚さ100mmであった。焼結後の密度は18.2g/cm3であった。
【0043】
FSSS平均粒子径は、焼結体の密度が17.5g/cm3以上であれば焼結方法に制限はない。種々のテストの結果、W粉末のFSSS平均粒子径は、1μm以上、10μm以下が好ましい。FSSS平均粒子径が10μmを超えると、圧延加工に耐えられる密度に上がらないおそれがある。FSSS平均粒子径が粒径が1μm未満であると、焼結体内で密度バラツキが起こるおそれがある。
【0044】
焼結雰囲気は、水素雰囲気の他に、アルゴンなどの不活性雰囲気、真空雰囲気を選択することができる。焼結後の密度が17.5g/cm3以上になれば焼結雰囲気は複数の組み合わせ(例えば1200℃までは水素雰囲気、1200~2000℃は真空雰囲気など)も可能で、かつ焼結温度、焼結時間も任意に選択することができる。
【0045】
また、HIP、HP等の加圧焼結をすることで比重の高い焼結体を得ることが出来るが、加圧焼結中にカーボン部材等と接触しタングステン材料を脆化させる恐れもある為、これらの工程を選択する場合は十分に配慮する必要がある。
【0046】
(1-2)鍛造工程
このW焼結体を、加熱炉温度1800℃で加熱した後、1トンエアーハンマーを用いて、1ヒート目で厚さ70mmまで鍛造加工を繰り返し、試料番号13~24、43~54、67~71、77~80用として準備した。試料番号1~12、31~42、61~66、72~76用としてはこの材料を更に1800℃まで加熱した後、1トンエアハンマーを用いて加工し2ヒート目で厚さ50mmまで鍛造した。
【0047】
(1-3)圧延工程
この70mm又は50mmまで鍛造された材料を、加熱炉温度1800℃で加熱し、圧延と加熱を繰り返しながら厚さ約10mmとなるまで圧延した。この時、厚さ20~10mmの範囲でサンプリングしながら圧延した。これにより試料番号13から24、43から54および67から71、77から80を作製した。
【0048】
圧延時の加熱雰囲気は、窒素雰囲気の他に、アルゴンや水素雰囲気中でもよい。
圧延時の加熱温度は、1800℃以上2000℃以下が好ましい。2000℃を超えると、加熱炉の寿命が短くなるため生産性には優れない。1800℃未満であると、結晶粒界特性や格子歪の制御が難しい。温間圧延の圧下率は、5%以上15%以下が好ましい。5%未満または15%を超えると、結晶粒界特性および格子歪の制御が難しい。
【0049】
次に加熱温度を1600℃とし、先の圧延工程で作製した約10mmの厚さの材料を加熱し、圧延と加熱を繰り返しながら厚さ0.5mmまでサンプリングをしながら圧延した。
【0050】
これにより試料番号1~12、31~42、61~66、72~76の試料を作製した。圧延時の加熱雰囲気は窒素雰囲気の他に、アルゴンや水素雰囲気でもよい。
【0051】
圧延時の加熱温度は1600℃以上1800℃以下が望ましい。加工が進むと結晶粒の成長が起こりやすくなり1600℃未満であれば結晶粒界特性や格子歪みの制御が難しく、1800℃を超えると結晶粒の成長が起こりやすくなるためである。
【0052】
(1-4)機械加工
鍛造及び圧延の終わったそれぞれの試料は切削および研磨等を行いそれぞれの厚み、幅、長さになるよう仕上げ加工をおこなった。
【0053】
(2)評価結果
(2-1)組成の特定
各試料(試料番号1から24、31から54および61から80)について、JIS H1402(2001)、JIS H1403(2001)に準じた分析を用いて組成を特定した。たとえば、試料番号1において組成が「W-0.003K」とあるのは、0.003質量%のKを含み残部がWであることを示す。
【0054】
(2-2)板厚の特定
各試料について、板厚(mm)を測定した。その結果を表中の「板厚(mm)」の欄において示す。
【0055】
(2-3)小傾角粒界の割合(%)の特定
各試料について、小傾角粒界の割合(%)を測定した。その結果を表中の「小傾角粒界の割合(%)」の欄において示す。
【0056】
(2-4)熱処理後の小傾角粒界の割合(%)の特定
各試料において、温度1500℃で1時間熱処理後の小傾角粒界の割合(%)を測定した。その結果を表中の「熱処理後の小傾角粒界の割合(%)」の欄において示す。
【0057】
(2-5)熱処理後の結晶粒径(μm)の特定
各試料において、温度2000℃で1時間熱処理後の結晶粒径(μm)を測定した。その結果を表中の「熱処理後の結晶粒径(μm)」の欄において示す。
【0058】
(2-6)熱衝撃割れ試験
各試料を、水素雰囲気中の炉内でそのまま帯ヒーター(幅10mm×長さ100mm×各厚さmm)として通電し、放射温度計で2000℃になるまで出力ONし、直ちに出力をOFFとする。OFFとしてから10s経過後に、また2000℃になるまで出力ONとする。このサイクルを1000回繰り返した。
【0059】
その後、各試料の割れおよび変形の有無を調べた。試験後の割れについては、×5倍のルーペを用いて割れが確認されなかったものは評価をA、1および2ヶ所割れが観察され、それぞれの割れが表面のみにとどまっているものの評価をBとした。3箇所以上割れまたは、割れが内部まで観察されたら評価をCとした。
【0060】
その結果を表中の「試験結果(熱衝撃割れ)」の欄において示す。
(2-7)熱変形試験
(2-6)の評価後の各試料(試験後のヒーター)の10mm×100mmの面を平坦な台板の上に置き、隙間ゲージを用いて、反り量(各試料と台板との間の隙間)を測定した。隙間が3mm以下であれば評価をAとした。隙間が3mmを超えて10mmまでは評価をBとした。隙間が10mm以上あるいは、割れが入った材料は評価をCとした。
【0061】
小傾角粒界の割合が50%以上であれば熱衝撃割れにおいてAまたはBの評価が得られ、かつ、熱変形においてAまたはBの評価が得られることが分かった。
【0062】
1500℃で1時間の熱処理をすることで小傾角粒界の割合は25%以下になることが分かった。2000℃で1時間の熱処理後の結晶粒が200μm以下であれば熱衝撃割れの評価はA又はBとなることが分かった。
【0063】
(実施例2)
純W粉末を用いて上記実施例1における「(1)タングステン材料の製造」に従い、表4における試料番号81から87を得た。
【0064】
【0065】
試料番号81から86においては製造時に圧延時の加熱条件をそれぞれ変更した。
実施例1の「(2)評価結果」に従い、各種物性を評価するとともに、格子歪みを測定した。その結果を表4に示す。
【0066】
表4から、格子歪が0.25%以下であれば、熱衝撃割れおよび熱変形においてAの評価が得られることが分かった。
【0067】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 タングステン材料、11,12,13 結晶粒、21,22 結晶粒界、32,33 矢印。