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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】眼内レンズシステム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
A61F2/16
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019569688
(86)(22)【出願日】2018-06-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 IL2018050650
(87)【国際公開番号】W WO2018229766
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】62/518,796
(32)【優先日】2017-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519442911
【氏名又は名称】アイメッド テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Eyemed Technologies Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】シムクラー,ヴァジム
(72)【発明者】
【氏名】イスラエリ,ニール
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05728155(US,A)
【文献】特表平05-502185(JP,A)
【文献】特開2016-203011(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0272727(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内レンズ(IOL)を支持するレンズ支持構造物において、前記レンズ支持構造物は、人間の眼の水晶体に固定的に移植され、前記IOLを複数の位置のうちの1つに保持するように構成されるとともに動作可能であり、前記レンズ支持構造物は、リモートエネルギーソースにより遠隔作動し、前記IOLを、前記IOLの光軸に沿って、または前記IOLの光軸を中心にして、軸方向および角度方向のうち少なくとも1つに独立して制御可能にそれぞれ移動させるように構成されるとともに動作可能であり、それにより前記IOLが複数の位置間を動くことが可能になる再配置アセンブリを具え、
前記再配置アセンブリは、互いに向き合う少なくとも1つのアクチュエータ(122、222)および少なくとも1つの歯列(124、224)を具え、前記少なくとも1つのアクチュエータおよび前記少なくとも1つの歯列のうち一方が前記IOLと固定的な空間関係を有して、前記少なくとも1つのアクチュエータまたは前記少なくとも1つの歯列が移動するときに前記IOLがともに移動し、
前記少なくとも1つのアクチュエータが、前記リモートエネルギーソースにより作動される時の第1の三次元形状(1221)と、静止している時の第2の三次元形状(1222)との間で可逆的にシフト可能であり、
前記少なくとも1つのアクチュエータは、前記再配置アセンブリが前記リモートエネルギーソースにより遠隔作動したときに、前記少なくとも1つのアクチュエータの少なくとも前記第1の三次元形状をもたらすように構成されるとともに動作可能な形状記憶材料で形成された変更可能要素(1224、2224)を具え、
前記少なくとも1つのアクチュエータが、前記第1および第2の三次元形状のそれぞれの場合において、前記少なくとも1つの歯列と選択的に係合して係合を外すように動作可能なラッチ(1228c、2228)を具え、係合したときに、前記ラッチが前記少なくとも1つの歯列の1つの歯を押して、前記少なくとも1つのアクチュエータと前記少なくとも1つの歯列との間の軸方向または角度方向の相対的な移動をもたらすことにより、前記IOLの制御可能な移動を前記複数の位置における隣接する2つの位置の間で引き起こすことを特徴とするレンズ支持構造物。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズ支持構造物において、前記再配置アセンブリは、前記複数の位置のうち少なくとも一部の間で前記IOLの移行をもたらすように構成されることを特徴とするレンズ支持構造物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレンズ支持構造物において、前記アクチュエータおよび/またはそれぞれの歯列は、前記相対的な移動が、前記IOLの光軸に沿って、または前記IOLの光軸を中心にして、前記軸方向または前記角度方向のそれぞれにおいて、一方向のみに生じるように、ラチェット機構を規定することを特徴とする、レンズ支持構造物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレンズ支持構造物において、前記アクチュエータは、バネ状要素(1226、2226)であって、前記変更可能要素に結合されるとともに、前記再配置アセンブリが前記リモートエネルギーソースにより作動しない場合、前記アクチュエータの前記第2の三次元形状に戻すように構成されるとともに動作可能であるバネ状要素(1226、2226)を具えることを特徴とする、レンズ支持構造物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレンズ支持構造物において、前記変更可能要素はニチノールを含むことを特徴とする、レンズ支持構造物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のレンズ支持構造物において、前記リモートエネルギーソースは、前記再配置アセンブリの前記アクチュエータの前記変更可能要素に少なくとも熱を供給するように構成されるとともに動作可能であることを特徴とする、レンズ支持構造物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のレンズ支持構造物において、前記リモートエネルギーソースはレーザ源を具えることを特徴とする、レンズ支持構造物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のレンズ支持構造物において、前記リモートエネルギーソースが電磁放射送信機を具え、前記再配置アセンブリは電磁放射受信機を具えることを特徴とする、レンズ支持構造物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載のレンズ支持構造物において、前記再配置アセンブリは前記アクチュエータの少なくとも2つのアクチュエータ(122aおよび122b、または222aおよび222b)を具え、それぞれのアクチュエータは、前記IOLの光軸周りの互いに反対の方向のうちの一方、または前記IOLの光軸に沿った互いに反対の方向のうちの一方に、前記IOLを制御可能に移動させるように構成されるとともに動作可能であることを特徴とする、レンズ支持構造物。
【請求項10】
請求項に記載のレンズ支持構造物において、
a)前記再配置アセンブリは前記歯列の少なくとも2つの歯列(124a、124b)具え、それぞれの歯列は、前記少なくとも2つのアクチュエータ(122a、122b)の1つと相互作用し、それによって、前記IOLの光軸周りの互いに反対の角度方向に前記IOLを移動させることが可能になるか、または、
b)前記再配置アセンブリは前記少なくとも2つのアクチュエータ(222a、222b)と相互作用する1つの歯列(224)を具え、それによって、前記IOLの光軸に沿った互いに反対の軸方向に前記IOLを移動させることが可能になることを特徴とする、レンズ支持構造物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のレンズ支持構造物において、前記再配置アセンブリのユーザ検査および作動を可能にしながら、前記再配置アセンブリを密閉し、前記再配置アセンブリへの組織侵入を防ぐように構成されるとともに動作可能な繊維プロテクタを更に具えることを特徴とする、レンズ支持構造物。
【請求項12】
眼内レンズ(IOL)の位置を制御するレンズ制御システムであって、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のレンズ支持構造物と、前記レンズ支持構造物の再配置アセンブリを遠隔作動させるように構成されるとともに動作可能なリモートエネルギーソースとを具え、前記リモートエネルギーソースが、熱発生器、レーザビーム発生器、および電磁放射送受信機のうち少なくとも1つを具えることを特徴とする、レンズ制御システム。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のレンズ支持構造物と、前記レンズ支持構造物に一体的に装着された眼内レンズ(IOL)とを具えることを特徴とする、眼内レンズ(IOL)システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療機器の分野であり、具体的には、眼内レンズ装置およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
白内障は、世界で最も流行している眼の病気であり、世界において失明原因の半分、視力障害の原因の三分の一を占める。毎年、世界で2500万人の患者が白内障手術を必要としている。白内障の障害により個人の日常生活の活動に影響や変化が生じる場合、水晶体の除去および眼内レンズ(IOL)の移植を含む外科手術が、機能的制限を治療する方法として好ましい。米国において、毎年300万件以上の白内障外科手術が行われ、65歳以上の米国人にとって最も多い手術となっている。白内障手術患者の約97%が、眼内レンズインプラントを受けている。
【0003】
白内障は、局所的な混濁であろうと、透明度の損失が拡大していようと、患者の眼の水晶体が混濁していることをいう。白内障は、加齢の結果として、または遺伝的要因、外傷、炎症、代謝または栄養障害、または紫外線に伴って生じる。加齢性白内障疾患が最も一般的である。
【0004】
白内障の治療において、外科医は、水晶体のマトリックスを水晶体嚢から取り除き、それを眼内レンズ(「IOL」)インプラントに置き換える。典型的なIOLは選択された焦点距離を提供し、患者の遠見視力を顕著に良好にすることが可能になる。しかし、視力矯正に必要な正確なレンズの特性を予測することは大抵困難である。
【0005】
現在、最新の多焦点および他の老眼矯正眼内レンズを用いても、治療後に目標の視力を得る患者は50%未満しかおらず、白内障手術を行った患者は、読書や遠くを見るためにメガネをかけなければならないことが多い。
【0006】
白内障手術は医学で最も多く行われる外科手術であるが、例えば、正確なレンズ特性(ELP)の予測、手術中の誤ったレンズの位置決め、眼の治療過程中の傾きやずれ、および年配者における角膜の円錐形の変化等、幾つかの課題を伴う。
【0007】
(同一レンズで可能な組み合わせを含む)単焦点、多焦点、トーリック等、視力障害の矯正に用いられるIOLの種類は少ない。装着および治療過程の後に全ての種類のIOLが水晶体嚢に対して動く場合があるため、IOLの位置を水晶体嚢内部で最適化することで補償を要する。典型的に、焦点の課題を修正するためにIOLの光軸に沿って、および/または、乱視の課題を修正するためにIOLの光軸に沿ってIOLの変形が必要となる。
【0008】
侵襲および非侵襲の技術が幾つか存在し、それらは、例えば以下の補償を行うのに用いられる。
-レンズの後変形による補償が可能である独特な紫外線感受性ポリマーの使用。この技術は、治療過程の間に紫外線の分離が必要で、後に患者にとって多くの不自由なことが続く、および/または
-レーザ照射を使用する、移植したレンズの形状の直接変更。
【0009】
そのような周知技術が、外科室の環境で実践されている。
【0010】
米国特許第8,425,599号には、調節式眼内レンズが記載されている。調節式眼内レンズは、光流体室を画定する前方要素と後方要素とを含む光学部分と、光学部分から放射状に延在する複数のハプティクスであって、複数のハプティクスのそれぞれが光流体室と流体連通するハプティクス流体室を含み、複数のハプティクスのそれぞれが水晶体嚢の再形成に応じて変形するように適合され、複数のハプティクスのそれぞれが前方-後方の寸法において最大高さ寸法を有し、それは少なくとも前方-後方の寸法における光学部分の最大高さ寸法程度である、複数のハプティクスと、複数のハプティクスの変形に応じてハプティクス流体室と光流体室との間を移動するように適合された流体とを具え、前方要素と後方要素はそれぞれ、ハプティクス流体室と光流体室との流体移動に応じて変形して、眼内レンズの度を変えるように適合される。
【0011】
米国特許第7,122,053号には、毛様体筋により加えられた力を用いて生体内で変更される光パラメータを有する調節式眼内レンズが記載されている。レンズ本体は、同一の屈折率または異なる屈折率のいずれかを有する2つの流体で満たされたチャンバを分離するアクチュエータを担持する。アクチュエータの作動により、レンズの光学素子内の流体の容積が変更される。
【0012】
米国特許第5,443,506号には、眼内レンズシステムの2つのレンズ面の間に位置する媒体の種類を変えて、レンズの調節作用を変える焦点可変眼内レンズシステムが記載されている。連続的な流路が眼内レンズ内に作成され、これらが眼内レンズの光学ゾーンへの流体の流れを制御する。連続的な流路は、レンズシステムの流路を進む流体の複数の別々のセグメントを含む。流体のセグメントは、正電気を荷電した流体、負電気を荷電した流体、大気、油、水、又は他の流体のセグメントを含むことができる。毛様体が収縮して緩和するときに生成される電圧は、一定の荷電流体を引き寄せ、およびはね返して、レンズの光学ゾーンに含まれる媒体の種類を制御する。光学ゾーンに含まれる媒体の種類を変えることにより、眼内レンズシステムの調節作用を変えることができる。更に、毛様体の収縮および緩和により生成された荷電を用いて流体セグメントを動かすことにより、本発明の可変レンズシステムの調整を変更するのに外部電源または信号は必要ない。
【0013】
米国特許第4,816,031号には、PMMA眼内レンズインプラント、その上に設けられたシリコン等の第2の柔らかく柔軟なレンズ、および、柔らかいシリコンレンズと硬いPMMAレンズとの間の距離を調節する電気機械的回路を含むIOLが記載されている。電気機械的回路は、マイクロ太陽電池、マイクロプロセッサ、微細流動ポンプ、マイクロ流体リザーバ、およびマイクロDC貯蔵セルを含むことができる。電気機械的回路は、遠見視力から近見視力への調整のためのレンズシステムの焦点の調整を行う。
【0014】
米国特許第4,932,966号には、比較的柔軟な部分と比較的硬い部分を含み、それらの間に流体充填室を有するレンズ部材を具える調節式眼内レンズ装置が記載されている。好ましい眼内レンズは、眼の筋肉の動きに応答して、流体充填室の流体圧力を変えることにより、柔軟なレンズの形状または位置を変える油圧または他の流体調節機能も含む。
【0015】
米国特許第6,884,261号には、後に続く移植のための光学軸を有する調節式眼内レンズを作成する方法が記載されている。方法は、複数の部材により相互接続された第1および第2の視覚要素を有する眼内レンズを提供するステップを具える。部材の少なくとも一部は、視覚要素の少なくとも1つの付近よりも長い距離分だけ光軸から離れて置かれる。その距離は、光軸に対して直交して計測される。方法は更に、第1および第2の視界要素を相対的に回転させることにより、部材を光軸の方へ内側に引くステップを具える。方法は更に、部材を内側に引きながら、光軸に沿って視界要素間の間隔を増やすステップを具える。
【0016】
米国特許公開第2016/0015511号には、温度補償を有する眼内レンズ挿入装置が記載されている。挿入装置は、エネルギー蓄積部、温度補償を提供するアクチュエータ部、およびレンズ支持部を含む。エネルギー蓄積部は、圧縮可能な流体、バネ、および他の装置等の圧縮可能なエネルギー蓄積装置を含む。挿入装置は、実質的に非圧縮性の流体で動作するアクチュエータ部を含むことができる。アクチュエータは、レンズを眼内レンズカードリッジから排出するためにプランジャーを動かす加圧流体の放出の制御をオペレータに提供するように構成することができ、レンズの排出は、温度上昇により、加圧流体からの圧力フィードバックに少なくとも部分的に基づいて制限される。
【0017】
米国特許公開第2016/0235587号には、眼内一次および二次要素を含むモジュラーIOLシステムが記載され、それらの要素が組み合わさると眼内光学補正装置を形成し、二次要素は、嚢切開部の周囲内で一次要素上に位置し、したがって水晶体嚢に触れる、または他の方法で操作する必要性がない。二次要素は、手術中または手術後に、一次要素を取り外すことを必要とせず、および、水晶体嚢を操作することを必要とせず、光学的結果の修正または変更のために、操作したり、取り外したり、および/または、異なる二次要素と交換することができる。一次要素は、水晶体嚢内の中心化のために延在するハプティクスを有してもよく、二次要素は、ハプティクスを省いてもよく、その代わり、安定のために一次要素への装着部に依存する。そのような装着部は、動作可能な連結部材を含んでもよい。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、移植後に如何なるときでも、必要な再配置範囲内で、眼内レンズ(IOL)の位置を人間の眼の水晶体嚢内で最適化する新規の技術を提供する。一態様において、水晶体嚢内のレンズ位置決めの非侵襲的な補償が可能になるIOLシステムが提供される。有利には、本発明は、レンズ移植後の院内最適化が可能で、および別の外科的侵襲的処置を必要としない創傷治癒が可能である。更に、本発明の技術は、必要な場合、支持構造物/クレードル全体を取り外す必要がなく、IOLの除去および交換が可能になる。加えて、本発明の技術は、レンズの健全性を維持しながら、レンズ支持構造物/クレードル内のジェネリックレンズの位置決めを制御することにより、ジェネリックの既製品のレンズに適用可能である。乱視等の条件および調節の課題を補償するため、本発明に係るレンズ位置制御は、角度方向および軸方向に対して独立して利用可能であり、それぞれの方向を個別に補償して、必要に応じていずれの位置にもIOLを繰り返し再配置することが可能である。本発明により、外科医が、手術後に所望の視力を得るのに必要とされる正確な視力矯正および最適化に基づいて、IOLを精密に調節することが可能になる。
【0019】
この目標を達成するために、本発明は、IOLの機械的変位および調整を利用する再配置システム/機構/アセンブリが設けられたレンズ支持構造物/ホルダ/クレードルを提供し、当該システムは、IOLを固定して、遠隔に空間的再配置が可能になるように構成された支持構造物/ホルダ/クレードルを含む。支持構造物/ホルダ/クレードルは、必要に応じて、移植後にIOLを交換することも可能である。再配置システムは、遠隔作動するように構成されたアクチュエータを含み、駆動機構と組み合わせたときに、角度(xy面、シータ)および軸(z)方向のうち一方または両方でIOLの位置を修正すること、つまり、IOLを回転させて、その光学的深さを変更することが可能になる。アクアチュエータは、容量および/または立体形状を含むその特性を一時的に変更するように構成されて、駆動機構に影響を与え/駆動機構を作動させ、その駆動機構は同様に支持構造物/ホルダにおけるIOLの位置に影響を与える。アクチュエータの一時的な特性/形状変更は、例えば、形状記憶材料を利用することにより実現可能である。そのような形状記憶材料は、物理的および/または温度等の環境的条件の変化により、一時的に変形可能である。一部の実施形態において、変形は、形状記憶材料が所定の値/勾配により加熱/冷却される場合の収縮を含む。一部の実施形態において、形状記憶材料の元の形状に戻すことは、物理的/環境的条件の変化が取り除かれた/もはや存在しない場合に、変形した形状記憶材料を元の形状に戻させるバネまたはバネ状機構の適用が含まれる。
【0020】
本発明の再配置システムによるIOLのそれぞれの変位は可逆的であり、IOLを、光軸を中心に時計回りおよび/または反時計周りの方向に回転させ、また同様に、光軸に沿って前方(眼の内側に向かって、つまり網膜寄り)および/または後方に(網膜から離れて)回転させるのに応用可能である。一部の実施形態において、それぞれ駆動機構に結合された複数のアクチュエータが採用され、結合した駆動機構を有する各アクチュエータは、IOLを(時計周り、反時計周り、前方および後方の4つの方向から)1つの方向のみに動かすことを担うラチェットとして作用する。
【0021】
従って、本発明の第一の広い態様に従って、眼内レンズ(IOL)を支持するレンズ支持構造物が提供され、レンズ支持構造物は、人間の眼の水晶体に固定的に移植され、IOLを複数の位置のうちの1つに保持するように構成されるとともに動作可能であり、支持構造物は、リモートエネルギーソースにより遠隔作動し、IOLを、IOLの光軸に沿って、またはIOLの光軸を中心にして複数の方向のうち少なくとも1つに制御可能に変位させるように構成されるとともに動作可能であり、それによりIOLが複数の位置間を動くことが可能になる。
【0022】
一部の実施形態において、再配置アセンブリは、複数の位置のうち少なくとも一部の間でIOLの漸進的な移行をもたらすように構成される。
【0023】
一部の実施形態において、再配置アセンブリが少なくとも1つのアクチュエータおよびそれぞれの歯列を具え、アクチュエータおよび歯列のうち一方がIOLと固定的な空間関係を有し、アクチュエータは、歯列と選択的に係合する、および係合を外すように構成されるとともに動作可能であり、係合したときに、アクチュエータと歯列との間で相対的な漸進移動が生じ、複数の位置のうちの2つの隣接する位置間のIOLの制御可能な変位をもたらす。アクチュエータおよび/またはそれぞれの歯列は、相対的な漸進移動が、IOLの光軸に沿って、およびIOLの光軸を中心にして、複数の方向のうち少なくとも1つのそれぞれにおいて、一方向のみに生じるように、ラチェット機構を規定することが可能である。アクチュエータは、第1および第2の空間構成間を可逆的にシフト可能であり、それによって歯列との係合および解放をそれぞれもたらす。アクチュエータは、再配置アセンブリがリモートエネルギーソースにより遠隔作動したときに、アクチュエータの少なくとも第1の空間構成をもたらすように構成されるとともに動作可能な形状記憶材料で形成された変更可能要素を具えることが可能である。アクチュエータは、変更可能要素に結合されるとともに、再配置アセンブリがリモートエネルギーソースにより作動しない場合、アクチュエータの少なくとも第2の空間構成をもたらすように構成されるとともに動作可能であるバネ状要素を具えることが可能である。変更可能要素は、ニチノールを含むことが可能である。
【0024】
一部の実施形態において、リモートエネルギーソースは、再配置アセンブリの少なくとも一部に熱を供給するように構成されるとともに動作可能である。
【0025】
一部の実施形態において、リモートエネルギーソースは放射素子を具える。
【0026】
一部の実施形態において、リモートエネルギーソースはレーザ源を具える。
【0027】
一部の実施形態において、リモートエネルギーソースは電磁放射送信機を具え、再配置アセンブリは電磁放射受信機を具える。
【0028】
一部の実施形態において、再配置アセンブリは少なくとも一対のアクチュエータを具え、それぞれのアクチュエータは、IOLを、IOLの光軸を中心にして、またはIOLの光軸に沿って、反対方向のうちの1つに制御可能に変位させるように構成されるとともに動作可能である。再配置アセンブリは一対の歯列を具え、それぞれの歯列は、対のアクチュエータの1つと相互作用し、それによって、IOLの光軸を中心にして反対方向へのIOLの変位が可能になる。再配置アセンブリは対のアクチュエータと相互作用する1つの歯列を具え、それによって、IOLの光軸に沿った反対方向へのIOLの変位が可能になる。
【0029】
一部の実施形態において、レンズ支持構造物は、再配置アセンブリのユーザ検査および作動を可能にしながら、再配置アセンブリを密閉し、再配置アセンブリへの組織侵入を防ぐように構成されるとともに動作可能な繊維プロテクタを更に具える。
【0030】
本発明の別の態様に従い、眼内レンズの位置を制御するレンズ制御システムが提供され、レンズ制御システムが、レンズ支持構造物と、再配置アセンブリを遠隔作動させるように構成されるとともに動作可能なリモートエネルギーソースとを具える。一部の実施形態において、エネルギーソースは、熱発生器、レーザビーム発生器、および電磁放射送受信機のうち少なくとも1つを具える。
【0031】
本発明の別の態様に従い、レンズ支持構造物と、レンズ支持構造物に一体的に装着された眼内レンズ(IOL)とを具える眼内レンズ(IOL)システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
本明細書に開示された主題をより良く理解するため、および、実際にどのように実施され得るかを例示するため、実施形態を非限定的な例のみにより、以下の添付図面を参照しながら記載する。
図1図1aは、IOLの典型的な形状を示し、必要な場合に補償の方向を定める。図1bは、角度補償が可能になるレンズ支持構造物の実施形態の等角図を概略的に示す。図1cは、軸補償が可能になるレンズ支持構造物の実施形態の等角図を概略的に示す。図1dは、角度および軸補償の両方が可能になるレンズ支持構造物の実施形態の等角図を概略的に示す。図1e乃至図1hは、人間の眼に実装される本発明のレンズ支持構造物の例と、エネルギーの利用を示す。
図2図2a乃至図2f2は、角度補償に関する再配置アセンブリの非限定的な例を概略的に示す。
図3図3a乃至図3d2は、角度および軸補償に関する再配置アセンブリの非限定的な例を概略的に示す。
図4図4a及び図4bは、本発明のレンズ支持構造物に用いる繊維プロテクタの非限定的な例を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
上述のように、本発明は、眼内レンズ(IOL)支持構造物/クレードルであって、レンズの位置を、IOLの光軸に沿って(Z方向)、IOLの光軸を中心にして(シータ方向)、または、Z(軸)およびシータ(角度)方向の両方に、遠隔に(非侵襲的に)制御調整することが可能になるIOL支持構造物/クレードルを提供することを目的とする。この目的を達成するために、本発明は、IOLの支持構造物に組み込まれた、遠隔制御された再配置アセンブリを提供する。
【0034】
本発明の技術の一般的な原理を概略的に示す図1a乃至図1hを参照する。図1aは一般的に、典型的な市販のIOLインプラント10を示す。IOLインプラント10は、IOL12(光学活性部分)と、ハプティクス14の一例とを含み、ハプティクス14は、円形のIOL12に取り付けられ(ハプティクスはレンズ体に取り外し可能に取り付けることができ、共に1つの一体部分を形成してもよい)、IOLが人間の眼に安全に移植されるよう支持する。IOLは典型的に、解剖上の水晶体嚢の区画、または水晶体嚢が損傷/破裂した場合は解剖上の溝に移植され、ハプティクス14は、特定の移植解剖部位に合わせて装着されてもよい。以下では、水晶体嚢と溝は、移植部位を示すために可換的に用いることができる。また、図面には、移植後にユーザの視力に必要な矯正を行うためにIOL12に対してもたらされるべき、必要とされ得る移動/調整も示されている。図示されるように、IOLに適用される主な移動は、方向Zに沿った軸方向であって、IOL12の光軸16に沿った移動、および角度シータ(Θ)の角度方向であって、光軸16を中心にする移動である。
【0035】
図1b、図1c、および図1dはそれぞれ、人間の眼の水晶体嚢に既に移植したまま、IOLの非侵襲的な角度(シータ)および/または軸(Z)変位が可能になることで、補償および視力矯正が可能なレンズ支持構造物の非限定的な例の等角図を示す。従って、図1b乃至図1dは、IOL12を支持するレンズ支持構造物100、200、および300を示し、レンズ支持構造物は(更に以下に示すように)人間の眼の水晶体嚢に固定的に移植されて、IOLを、複数の位置のうちの1つ、つまりIOLの光軸に対する角度位置、またはIOLの光軸に対する軸位置のいずれか、または角度位置および軸位置の両方に保持するように構成されるとともに動作可能である。以下で更に詳しく述べるように、それぞれの支持構造物は、120や220等の少なくとも1つの再配置アセンブリを含み、それらは(図1fに示す)リモートエネルギーソースにより遠隔作動し、(図1aに示す)IOLの光軸に沿った、およびIOLの光軸を中心にした複数の方向のうち少なくとも1つにIOLを制御可能に変位させることで、IOLが複数の位置間を動くことが可能になるように構成されるとともに動作可能である。再配置アセンブリが作動しない限り、IOLは水晶体嚢内に安全かつ安定的に位置することを理解すべきである。レンズ支持構造物は、再配置アセンブリを作動させて、IOLを角度および軸方向の2つの方向のうち1つ以上の方向に変位させるまで、IOLを両方の方向の常設位置/向きに保持するように構成される。しかし、上述のとおり、本発明のレンズ支持構造物はまた、必要に応じて、IOLの取り外しおよび交換ができるように構成される。
【0036】
簡潔に示すために、図1bの例は、IOLを、角度方向においてIOLの光軸を中心にして変位させる本発明の技術の機能に関連して再配置アセンブリ120を含み、図1cの例は、IOLを、軸方向においてIOLの光軸に沿って変位させる本発明の技術の機能に関連して再配置アセンブリ220を含み、図1dの例は、IOLを、角度方向および軸方向の両方においてそれぞれ独立して、IOLの光軸を中心にして、およびIOLの光軸に沿って変位させる本発明の技術の機能に関連して再配置アセンブリ120および220の両方を含む。
【0037】
本発明の技術により、IOLを移植した後で、例えば、1ミリ未満および1度未満の解像度まで、IOLの正確かつ精密な変位が有利に可能になる。一部の非限定的な例において、線形および軸方向変位のピッチは、0.15mm乃至0.55mmとなり、約4mmの線形変位の全領域に及ぶ。一部の非限定的な例において、角度変位のピッチは、0.25度乃至1度となり、約20度の角度変位の全領域に及ぶ。そのようにして、レンズ支持構造物には、治療を行う医者がIOLの正確な角度および/または軸の位置(新旧、前後の変位両方)を特定するのに役立つ目盛線130を設けることができる。再配置アセンブリ(120、220)は、IOLを配置可能な複数の位置のうち少なくとも一部の間でのIOLの漸進移動を提供するように構成されるとともに動作可能である。図示した例において、角度の再配置アセンブリ120の目盛線のみを示しているが、目盛線または任意の他の周知技術を、線、軸方向の再配置アセンブリ220に適用することも可能である。支持構造物におけるIOLの複数の利用可能な位置のうち、2つの隣接する位置はそれぞれ、等しい、一定の距離/ピッチ/ステップで互いに離れてもよく、異なる、可変の距離/ピッチ/ステップで互いに離れてもよいことを理解されたい。
【0038】
図1eおよび図1gはそれぞれ、図1bおよび図1dのレンズ支持構造物を人間の眼の内部に実装する非限定的な例を示し、特に、そのようなレンズ支持構造物が人間の眼に対して大きい印象を与えている。一貫して、図1fは図1eの拡大図であり、図1hは図1gの拡大図であり、眼の内部から外部にかけて位置する水晶体嚢、虹彩、強膜、角膜等、人間の眼の異なる解剖上の部位により囲まれたレンズ支持構造物を示す。図1fは更に、レンズ支持構造物における再配置アセンブリの関連部分を遠隔作動させるためにエネルギー22を生成する、遠隔のエネルギーソース20の使用を概略的に示す。一部の実施形態において、エネルギーソースは、エネルギーソースと遠隔作動した部分との間に直接視線/途切れない経路/照準線を必要とする一方で、一部の他の実施形態において、そのような要件はなく、直接視線なしに作動させることができる。一部の実施形態において、以下に更に詳細を記載するように、エネルギーソースは、エネルギーを熱の形態で提供し、それによって再配置アセンブリの関連部分を作動させるように構成される。例えば、レーザ光発生装置の形態でエネルギーソースを使用することにより、熱を与えることができ、レーザ光発生装置は、再配置アセンブリの関連部分を照射し、加熱して、所定の温度上昇が生じることで、その部分を作動させて、IOLの所望の変位を生じさせるように構成される。別の例において、エネルギーソースは電磁送受信機を含み、電磁送受信機は、受信機の部分、例えば、マイクロアンテナが再配置アセンブリの関連部分の付近に位置することで関連部分を加熱して作動させるよう、照射野を生成するように構成されるとともに動作可能である。
【0039】
IOLの光軸を中心にする角度(シータ)補償に関してレンズの漸進的な移動/変位が可能になる再配置アセンブリ120を有する、レンズ支持構造物100の非限定的な例をより具体的に示す図2a乃至図2f2を参照する。図2aは、レンズ支持構造物100を上から見た図である。図2bは、レンズ支持構造物100の分解図である。図2cおよび図2dは、再配置アセンブリ120の拡大図である。図2aに示すように、IOL12は、眼の水晶体嚢に固定的に受け入れられるハプティクスハウジング14に位置する。
【0040】
再配置アセンブリ120は、IOLの変位に関わる少なくとも2つの要素、つまり、アクチュエータ122aと、アクチュエータと関連付けられる歯列(ステップ駆動機構)124aとを含む。一部の実施形態において、再配置アセンブリは、2つ以上のアクチュエータを含み、それぞれ関連付けられた歯列を有する。記載する例において、一対の(2つの)アクチュエータ122aおよび122bとともに、一対の(2つの)関連付けられた歯列を示す(図2dにおいて、組み立てた形態で示す)。図2bに示すように、アクチュエータ122aおよび122bは、歯列とハプティクスハウジング14との間に受け入れられるアクチュエータハウジング126に安全に収容される。アクチュエータ122aおよび122b、および関連付けられた歯列124aおよび124bはそれぞれ、IOLを、IOLの光軸を中心にして一方向に動かすよう作用する。言い換えると、一対のアクチュエータおよび関連付けられた歯列により、IOLを反対方向に動かすことが可能になる。より具体的には、関連付けられた歯列を有する一方のアクチュエータは、IOLを時計周りの方向に動かすように作用する一方、関連付けられた歯列を有する他方のアクチュエータは、IOLを反時計回りの方向に動かすよう作用する。各歯列、または一対のアクチュエータおよび歯列により、IOLを上記のうち一方向に動かすことが可能になるよう設計されるとともに、IOLが反対方向に動かないようにすることに留意されたい。一部の例において、反対向きに置かれた歯列は2つの部分に分けられた(それぞれの部分は歯列の1つにより形成される)ラチェット機構を形成し、(例えば、図2cに示すように)それぞれの間にハープピッチの開きを有することで、妥当な構造寸法を保ちながら、解像度を上げることが可能になる。
【0041】
アクチュエータまたは歯列のいずれかは、IOLと一緒に動くように、IOLと一定の空間関係を有する。記載する例において、歯列はIOLに取り付けられ、歯列およびIOLの両者がアクチュエータに対して一緒に動く。具体的には、歯列124aおよび124bは、その内側でIOLを取り囲む円形で構成されるとともに、アクチュエータ122aおよび122bが位置するハプティクスハウジング14に外側に向かった歯で構成される。理解されるように、歯列124aおよび124bのそれぞれが平歯車の構造を形成する。
【0042】
アクチュエータ122aおよび122bのそれぞれが、関連付けられた歯列124aおよび124bと選択的に係合する、または係合を外すように構成されるとともに動作可能であり、係合したときに、アクチュエータと関連付けられた歯列との間で相対的な漸進移動が生じ、IOLが存在し得る複数の位置のうち2つの隣設する位置間の(歯列に付着しているため)IOLの制御可能な変位をもたらす。
【0043】
アクチュエータ122aおよび122bの具体的な非限定的構造を図2e1乃至図2f2に示す。図示するように、アクチュエータ122aまたは122bは、第1および第2の空間構成間で可逆的にシフト可能で、エネルギーソースがアクチュエータに作用している/作用していない第1の構成1221を図2f1(側面図)と図2f2(等角図)に示し、エネルギーソースがアクチュエータに作用していない/作用している第2の構成1222を、図2e1(側面図)と図2e2(等角図)に示す。2つの構成間のアクチュエータの動きは、アクチュエータがそれらの構成のうちの一方で歯列と係合することで、歯列と歯列に装着されたIOLとの移動を生じさせ、他方の構成で(例えば、図2e1および図2e2に示したもの)当該歯列からの係合を外すことで、利用可能な複数の位置のうちの1つに安全に配置されたIOLを維持する。
【0044】
一部の実施形態において、アクチュエータ122は、アクチュエータの第1および第2の空間構成1221および1222のうち少なくとも1つを提供するように構成されるとともに動作可能な変更可能要素1224を含む。変更可能要素1224は、エネルギーの印加、または印加エネルギーの消失により、その構成を変更する。一部の実施形態において、変更可能要素1224は、形状記憶材料により形成される。形状記憶材料は、所定の条件の下で、一定の空間構成を有することが可能な材料である。例えば、一部の実施形態において、本発明は、アクチュエータの変更可能要素1224に用いる形状記憶材料として、ニチノール(ニッケル-チタン合金)を用いる。
【0045】
理解されるように、ニチノールは、その構造を、摂氏数度の勾配のもとでマルテンサイト相からオーステナイトに変更するように構成される。約32乃至37度の温度条件で、ニチノールは可塑性のマルテンサイト相になり、外力の作用により所望の形状に形成することが可能である。一方、温度が41乃至43度に上昇すると、オーステナイトへの相転移が生じ、そこでは、一定量の外力の作用があってもニチノールが「記憶」された形状へと形状を変え(変形し)、例えば、歯列と係合する場合にアクチュエータの第1の空間構成を形成する。温度が約37度に戻ったら、ニチノールは可塑性のある状態に戻り、所望通りに再形成することができ、したがってアクチュエータの第2の空間構成を形成する。
【0046】
一方向で漸進移動ステップを発生させるため、上述のようなラチェット機構を有する往復機構を取り入れることができる。2つ以上のアクチュエータを組み合わせることで、各方向で前後移動が可能になる。
【0047】
一部の実施形態において、アクチュエータは、変更可能要素1224に結合されたバネ状要素1226であって、アクチュエータの第1および第2の空間構成間に少なくとも別の空間構成を提供するか、そうするようにアクチュエータを少なくとも支持するように構成されるとともに動作可能であるバネ状要素1226を含む。
【0048】
特に限定されないがこの具体例において、バネ状要素1226は、弾性ブラケット1228としてU字に形成されるが、本発明はこの具体的構成に限定されず、ブラケットは他の方法で形成されてもよく、そのようなバネ状機構は他の適切な構成を有してもよいことを理解すべきである。そのようなU字型ブラケット1228は、基部側1228aおよび側壁1228bにより形成される。図に示すように、ブラケット1228は非対称的で、ラッチ1228cは一方の側壁のみに存在する。基部側1228aは、実際にはバネのように機能する。ニチノールワイヤ1224(形状記憶要素)が遠隔のエネルギーソースから十分な熱を吸収した場合、図2f1および図2f2に示すように、ワイヤが収縮し、ラッチ1228cの横移動が生じて、アクチュエータが変形する。ラッチ1228cは、歯列上の付近の歯を押して、歯列を回転させる。回転が生じる一方で、一対の他方のアクチュエータがノンバックブレーキ要素のように作動し、熱が放散してニチノールが膨張可能になり、ブラケットが(図2e1および図2e2のように)ニチノールおよびアクチュエータを他方の構成に戻そうとするときに歯列が逆回転することを防ぐ。
【0049】
図3a乃至図3d2を参照すると、IOLの光軸を中心にする角度(シータ)補償について、および、IOLの光軸に沿った軸(Z)補償についてレンズの漸進的な移動/変位を実現する、(上記で説明したような)再配置アセンブリ120および220を有するレンズ支持構造物300の非限定的な例がより具体的に例示されている。移動による補償は、角度および軸方向それぞれにおいて独立していることに再び留意されたい。図3aはレンズ支持構造物300を上から見た図であり、図3bは、レンズ支持構造物300の分解図を示す。図3aに示すように、IOL12は、眼の水晶体嚢に固定的に受け入れられるハプティクスハウジング14に位置する。
【0050】
再配置アセンブリ220は、IOLの軸変位に関わる少なくとも2つの要素、つまり、アクチュエータ222aと、軸のZ方向にアクチュエータと関連付けられた歯列(ステップ駆動機構)224とを含む。一部の実施形態において、再配置アセンブリは、歯列224と関連付けられた2つ以上のアクチュエータを含む。記載する例において、一対の(2つの)アクチュエータ222aおよび222bを示す。図3aおよび図3bに示すように、全てのアクチュエータ122a、122b、222a、および222bは、ハプティクスハウジング14により受け入れられるアクチュエータハウジング326に安全に収容される。アクチュエータ222a、222bはそれぞれ、関連付けられた共通の歯列224とともに、IOLを、IOLの光軸に沿って一方向に動かすよう作用する。言い換えると、一対のアクチュエータおよび関連付けられた歯列により、IOLを反対向きの両方向に動かすことが可能になる。より具体的には、一方のアクチュエータは、関連付けられた共通の歯列と、IOLを眼の内側に向けて前方方向に動かすように作動する一方で、他方のアクチュエータは、関連付けられた共通の歯列と、IOLを眼の外側に向けて後方方向に動かすように作動する。一対のそれぞれのアクチュエータは、IOLを上記方向のうち一方に動かすことが可能になるとともに、IOLが反対方向に動かないように設計されることに留意されたい。
【0051】
アクチュエータまたは歯列のいずれかは、IOLと一緒に動くように、IOLと固定の空間関係を有する。記載する例において、アクチュエータはIOLに装着され、アクチュエータおよびIOLの両者が歯列に対して一緒に動く。
【0052】
アクチュエータ222aおよび222bは、同一の構成を有するが、一方が歯列に対して上方に動き、他方が歯列に対して下方に動くように、歯列224に対して逆向きに位置することに留意されたい。
【0053】
アクチュエータ222aおよび222bのそれぞれは、共通の歯列と選択的に係合する、および係合を外すように構成されるとともに動作可能であり、係合したときに、アクチュエータと歯列との間で相対的な漸進移動が生じ、IOLが存在し得る複数の位置のうち2つの隣設する位置間で(歯列に付着しているため)IOLの制御可能な変位をもたらす。
【0054】
アクチュエータ222aおよび222bの具体的な非限定的例を図3c1乃至図3d2に示す。図示するように、アクチュエータ222aまたは222bは、第1および第2の空間構成間で可逆的にシフト可能で、エネルギーソースがアクチュエータに作用している/作用していない第1の構成2221を図3c2(等角図)と図3d2(側面図)に示し、エネルギーソースがアクチュエータに作用していない/作用している第2の構成2222を、図3c1(等角図)と図3d1(側面図)に示す。2つの構成間のアクチュエータの動きは、アクチュエータがそれらの構成のうちの一方で歯列と係合することで、アクチュエータとアクチュエータに装着されたIOLとの移動を生じさせ、他方の構成では(例えば、図3d1に示したもの)当該歯列からの係合を外すことで、利用可能な複数の位置のうちの1つに安全に配置されたIOLを維持する。
【0055】
一部の実施形態において、アクチュエータ222は、アクチュエータの第1および第2の空間構成2221および2222のうち少なくとも1つを提供するように構成されるとともに動作可能な変更可能要素2224を含む。変更可能要素2224は、エネルギー印加、またはエネルギー印加の消失により、その構成を変更する。一部の実施形態において、変更可能要素2224は、ニチノール等の形状記憶材料により形成される。
【0056】
約32乃至37度の温度条件で、ニチノールはマルテンサイト相になり、温度が41乃至43度に上昇すると、オーステナイトへの相移転が生じ、そこでは、ニチノールがその記憶された形状へと変形し、例えば、アクチュエータの第1の空間構成(変形された構成)を形成する。温度が約37度まで戻ったら、ニチノールは弛緩し、それにより、アクチュエータの第2の空間構成を形成する。記載する具体例において、変更可能要素2224は、長手軸xを中心にしてねじれる/回転することで、その立体形状を変形する。変更可能要素2224は、一方の側2224bで安定的なプラットフォーム2225に固定して装着され、他方の側は固定されていない。従って、変更可能要素が変形する場合、軸xを中心にして自由端部2224aに向けてねじれる。それは、以下で更に記載するように、変更可能要素は、軸xに沿った変形を防ぐ、または少なくとも最小限にするブラケットにより保持されているからである。
【0057】
一方向への漸進移動ステップを発生させるため、上述のようなラチェット機構を有する往復機構を取り入れることができる。2つ以上のアクチュエータを組み合わせることで、各方向への上下移動が可能になる。
【0058】
一部の実施形態において、アクチュエータは、変更可能要素2224に結合されたバネ状要素2226を含み、アクチュエータの第1および第2の空間構成間に少なくとも別の空間構成をとる場合に、アクチュエータを提供または少なくとも支持するように構成されるとともに動作可能である。この場合、上述のようなバネ状要素2226により、変更可能要素が長手軸xを中心にする変形が可能となるとともに、軸xに沿った変形を防ぐ/最小限に抑える。
【0059】
特に限定されないがこの具体例において、バネ状要素2226は、弾性半円筒型ブラケットとして形成されるが、本発明は、この具体的構成に限定されず、ブラケットは他の方法で形成されてもよく、そのようなバネ状機構は他の適切な構成を有してもよいことを理解すべきである。ラッチ2228は、要素2226と一緒に動くように、要素2226に装着される。ニチノールワイヤ2224(形状記憶材料)が、遠隔のエネルギーソースから十分な熱を吸収した場合、図3c2に示すように、ワイヤが変形して反時計方向にねじれる。要素2226は要素2224に装着されているため、要素2226およびラッチ2228も反時計方向に回転する。ラッチが下降し、歯列224の付近にある歯を押し出し、そこで、ラッチが水晶体嚢内に固定された歯列を押し下げるにつれて、アクチュエータハウジング226およびそれに装着されたIOLを上に動かす。(歯を上方に押して、下方に動かすための)一対の他方のアクチュエータは、ノンバックブレーキ要素のように作動し、熱が放熱したときにIOLが下降することを防ぐ。
【0060】
アクチュエータと歯列との相互作用を示す図3d1および図3d2に記載の例において、記載の構成は、アクチュエータが歯列を押し上げて、アクチュエータおよびIOLを一段下降させるものである。弛緩した構成を図3d1に示し、作動した構成を図3d2に示す。
【0061】
具体的に示さないが、レンズ支持構造物300に対する上記の説明は、図1cに示すようなレンズ支持構造物200に対しても有効であるが、少なくとも以下の例外がある。レンズ支持構造物200のアクチュエータハウジングは、再配置アセンブリ220のアクチュエータのみを収容するように構成されるとともに、IOL12は、角度方向に制限がなく、角度軸において自由に回転するように構成してもよく(例えば、IOLが単焦点である場合)、または角度軸において特定の向きに固定してもよい。
【0062】
本発明のレンズ支持構造物(100、200および300)は、生体組織内、つまり、水晶体嚢または眼の角膜内に移植されたインプラントである。周知の通り、生体は異物に反応する。複数の反応のうちの1つが線維症であり、修復または反応工程において、器官または組織で過剰な線維結合組織を形成する。組織形成は、再配置アセンブリ120および220を遮り、ブロックして、それらの起動または正常作動を妨げ得る。
【0063】
本発明のレンズ支持構造物のいずれかと共に用いる繊維プロテクタ400を示す、図4a乃至図4bを参照する。ここで示す非限定的な例において、繊維プロテクタ400は、レンズ支持構造物300と共に例示され、組み立てられた構成を図4aに、分解図を図4bに示す。繊維プロテクタ400は、再配置アセンブリ、具体的にはアクチュエータおよび関連付けられた歯列を密閉する/覆うようにして、レンズ支持構造物に一致するように構成されたリング形状を有する。繊維プロテクタ400は、好ましくは、鋭利なエッジで構成され、細胞の不連続性をもたらし、細胞の進行を抑制または少なくとも最小限にして、再配置アセンブリへの侵入を防止する。繊維プロテクタ400は、透明材料からなり、再配置アセンブリの検査、および外的なエネルギーソースによるアクチュエータの適切な作動が可能になる。
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図1g
図1h
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e1
図2e2
図2f1
図2f2
図3a
図3b
図3c1
図3c2
図3d1
図3d2
図4a
図4b