(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】ソレノイドバルブ、流量制御装置、流体制御装置および半導体製造装置
(51)【国際特許分類】
F16K 25/00 20060101AFI20230313BHJP
F16K 1/34 20060101ALI20230313BHJP
F16K 1/42 20060101ALI20230313BHJP
F16K 1/36 20060101ALI20230313BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20230313BHJP
H01L 21/31 20060101ALN20230313BHJP
【FI】
F16K25/00
F16K1/34 J
F16K1/42 G
F16K1/36 J
F16K31/06 305N
F16K31/06 305L
F16K31/06 305M
H01L21/31 B
(21)【出願番号】P 2018179454
(22)【出願日】2018-09-25
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】110002893
【氏名又は名称】弁理士法人KEN知財総合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100186750
【氏名又は名称】藤本 健司
(72)【発明者】
【氏名】饗庭 大輝
(72)【発明者】
【氏名】平井 暢
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 隆
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-144754(JP,A)
【文献】実開昭62-187310(JP,U)
【文献】特開2000-035151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 25/00
F16K 1/00- 1/54
F16K 31/06-31/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属合金製の環状のバルブシートと、前記バルブシートに対して当接および離間可能に設けられた金属合金製の弁体と、前記弁体を駆動するソレノイドアクチュエータと、を有するソレノイドバルブであって、
前記弁体または前記バルブシートのどちらか一方は、凸状に湾曲する湾曲面をもつシール面を有し、
前記弁体または前記バルブシートの他方は、前記シール面の湾曲面に合致する凹状の湾曲面をもつ環状溝を前記シール面に対向する位置に有し、
前記弁体と前記バルブシートの当接する部分には硬度差が設けられ、前記シール面は前記環状溝より高い硬度に形成され、
前記シール面は湾曲面の外周側で連なり、当該バルブシートの根元部分に向かって末広がるように傾斜する傾斜面をさらに有し、
環状溝は、前記傾斜面の一部に合致する傾斜面部をさらに有する、ソレノイドバルブ。
【請求項2】
金属合金製の環状のバルブシートと、前記バルブシートに対して当接および離間可能に設けられた金属合金製の弁体と、前記弁体を駆動するソレノイドアクチュエータと、を有するソレノイドバルブであって、
前記弁体または前記バルブシートのどちらか一方は、凸状に湾曲する湾曲面をもつシール面を有し、
前記弁体または前記バルブシートの他方は、前記シール面の湾曲面に合致する凹状の湾曲面をもつ環状溝を前記シール面に対向する位置に有し、
前記弁体と前記バルブシートの当接する部分には硬度差が設けられ、前記シール面は前記環状溝より高い硬度に形成され、
前記シール面は前記バルブシートに設けられ、
前記環状溝は弁体に設けられた、ソレノイドバルブ。
【請求項3】
金属合金製の環状のバルブシートと、前記バルブシートに対して当接および離間可能に設けられた金属合金製の弁体と、前記弁体を駆動するソレノイドアクチュエータと、を有するソレノイドバルブであって、
前記弁体または前記バルブシートのどちらか一方は、凸状に湾曲する湾曲面をもつシール面を有し、
前記弁体または前記バルブシートの他方は、前記シール面の湾曲面に合致する凹状の湾曲面をもつ環状溝を前記シール面に対向する位置に有し、
前記弁体と前記バルブシートの当接する部分には硬度差が設けられ、前記シール面は前記環状溝より高い硬度に形成され、
前記バルブシートの硬度は、Hv300以上であり、
前記弁体の少なくとも前記バルブシートと当接する部分の硬度は、Hv100~Hv140の範囲内にある、ソレノイドバルブ。
【請求項4】
前記シール面は、円弧状の湾曲面を有する、請求項1ないし3のいずれかに記載のソレノイドバルブ。
【請求項5】
流路を画定するバルブボディをさらに有し、
前記バルブシートは、前記バルブボディの流路の開口周囲に一体に形成され、かつ、硬度が当該バルブシート以外の部分よりも高くなるように形成されている、請求項1ないし4のいずれかに記載のソレノイドバルブ。
【請求項6】
ソレノイドバルブの製造方法であって、
前記ソレノイドバルブは、金属合金製の環状のバルブシートと、前記バルブシートに対して当接および離間可能に設けられた金属合金製の弁体と、前記弁体を駆動するソレノイドアクチュエータと、を有するソレノイドバルブであって、
前記弁体または前記バルブシートのどちらか一方は、凸状に湾曲する湾曲面をもつシール面を有し、
前記弁体または前記バルブシートの他方は、前記シール面の湾曲面に合致する凹状の湾曲面をもつ環状溝を前記シール面に対向する位置に有し、
前記弁体と前記バルブシートの当接する部分には硬度差が設けられ、前記シール面は前記環状溝より高い硬度に形成された、ソレノイドバルブであり、
前記製造方法は、前記弁体を前記バルブシートに対して押し付けて当該弁体に塑性変形を生じさせ、前記環状溝を形成する、ソレノイドバルブの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載のソレノイドバルブを流量制御バルブとして内蔵する、流量制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれかに記載のソレノイドバルブを用いて流体の流量を制御する、流量制御方法。
【請求項9】
複数の流体機器が配列された流体制御装置であって、
前記複数の流体機器は、請求項1ないし5のいずれかに記載のソレノイドバルブまたは請求項
7に記載の流量制御装置を含む、流体制御装置。
【請求項10】
密閉されたチャンバ内においてプロセスガスによる処理工程を要する半導体装置の製造プロセスにおいて、前記プロセスガスの流量制御に請求項1ないし5のいずれかに記載のソレノイドバルブを用いる、半導体製造方法。
【請求項11】
処理チャンバにプロセスガスを供給する流体制御装置を有し、
前記流体制御装置は、複数の流体機器を含み、
前記流体機器は、請求項1ないし5のいずれかに記載のソレノイドバルブを含む、半導体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソレノイドバルブ、これを利用した流量制御装置、流量制御方法、流体制御装置、半導体製造装置及び半導体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造工程においては、半導体製造装置のチャンバに対して、各種のプロセスガスの供給流量を制御するのに、流量制御装置が用いられる。
また、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition 法)等の半導体製造プロセスにおいては、基板に膜を堆積させる処理プロセスに使用する処理ガスをより大きな流量でかつより高精度に制御して供給することが求められている。
流量制御装置に用いられる制御バルブのアクチュエータとしては、ピエゾアクチュエータやソレノイドアクチュエータを使用したものが知られているが、大流量の流量制御には、ピエゾアクチュエータに比べてストローク量が大きいソレノイドアクチュエータが適している。
ソレノイドアクチュエータを用いたソレノイドバルブにおいては、ディスクと呼ばれる弁体がバルブボディに形成されたバルブシートにばねの付勢力で常時押圧されている。そして、目標流量に応じた電圧をソレノイドアクチュエータのソレノイドに印加すると、弁体がバルブシートから離隔することでバルブが開き、目標流量となるように流体が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-185734号公報
【文献】特開2007-146914号公報
【文献】特開2003-343744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなソレノイドバルブを用いた流量制御装置では、流量をゼロにコントロールする場合や、緊急時に流路を遮断するには、バルブシートに弁体をばねの力で押し付けて流路を閉鎖する。
しかし、バルブシートに弁体をばねの力で押し付けただけでは線接触のため、高圧の流体が流通している場合に確実にバルブを閉鎖することは難しい。また、ソレノイドバルブにおいては、バルブシートに対する弁体の当接位置がばらつくため、バルブシートと弁体との間に僅かな隙間が形成され、流体が流通する可能性がある。バルブシートと弁体との間から流体が流通してしまうと、高精度な流量制御の実現が困難である。
このため、バルブ閉鎖時のシール性能を高める必要があった。
特許文献1は、コーティング処理を施した弁座に環状の面押し加工痕を形成することでバルブ閉鎖時のシール性を高める技術を開示している。
特許文献2は、球面状の弁体とテーパー状の開口部を形成する弁座とにより構成されるソレノイドバルブおいて、弁座に球体治具により球面状に圧痕形成することでバルブ閉鎖時のシール性能を高める技術を開示している。
特許文献3は、弁体の弁座と対応する位置に膨張黒鉛を材料としたシール部材を設けることにより、バルブ閉鎖時のシール性能を高める技術を開示している。
しかしながら、特許文献1、2の技術は、球体以外の形状の弁体への適用が困難である。特許文献3の技術では、構造が複雑になる、パーティクルが生じやすい等の問題が存在する。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてされたものであり、その目的の一つは、バルブ閉鎖時のシール性能が改善されたソレノイドバルブを提供することにある。
本発明の他の目的は、上記のソレノイドバルブを利用した流量制御装置、流量制御方法、流体制御装置、半導体製造装置及び半導体製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るソレノイドバルブは、金属合金製の環状のバルブシートと、前記バルブシートに対して当接および離間可能に設けられた金属合金製の弁体と、前記弁体を駆動するソレノイドアクチュエータと、を有するソレノイドバルブであって、
前記弁体または前記バルブシートのどちらか一方は、凸状に湾曲する湾曲面をもつシール面を有し、
前記弁体または前記バルブシートの他方は、前記シール面の湾曲面に合致する凹状の湾曲面をもつ環状溝を前記シール面に対向する位置に有し、
前記弁体と前記バルブシートの当接する部分には硬度差が設けられ、前記シール面は前記環状溝より高い硬度に形成された、ソレノイドバルブである。
【0007】
好適には、前記バルブシートは、前記シール面の湾曲面の外周側で連なり、当該バルブシートの根元部分に向かって末広がるように傾斜する傾斜面をさらに有し、
前記弁体の環状溝は、前記傾斜面の一部に合致する傾斜面部をさらに有する、構成を採用できる。
さらに好適には、前記シール面は、円弧状の湾曲面を有する、構成を採用できる。
【0008】
好適には、前記バルブシートの硬度は、Hv300以上であり、
前記弁体の少なくとも前記バルブシートと当接する部分の硬度は、Hv100~Hv140の範囲内にある、構成を採用できる。
【0009】
本発明に係るソレノイドバルブの製造方法は、上記のソレノイドバルブの製造方法であって、
前記弁体を前記バルブシートに対して押し付けて当該弁体に塑性変形を生じさせ、前記環状溝を形成する。
【0010】
本発明に係る流量制御装置は、上記のソレノイドバルブを流量制御バルブとして内蔵する。
【0011】
本発明に係る流量制御方法は、上記のソレノイドバルブを用いて流体の流量を制御する。
【0012】
本発明に係る流体制御装置は、複数の流体機器が配列された流体制御装置であって、
前記複数の流体機器は、上記のソレノイドバルブまたは流量制御装置を含む。
【0013】
本発明に係る半導体製造方法は、密閉されたチャンバ内においてプロセスガスによる処理工程を要する半導体装置の製造プロセスにおいて、前記プロセスガスの流量制御に上記のソレノイドバルブを用いる。
【0014】
本発明に係る半導体製造装置は、処理チャンバにプロセスガスを供給する流体制御装置を有し、
前記流体制御装置は、複数の流体機器を含み、
前記流体機器は、上記のソレノイドバルブを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ソレノイドバルブのバルブ閉鎖時のシール性能を改善できる。
また、本発明によれば、流量制御装置に適したソレノイドバルブが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るソレノイドバルブが適用された流量制御装置の断面図。
【
図2A】
図1の流量制御装置のバルブシート周辺の拡大断面図。
【
図5】バルブシートと環状溝との関係を示す断面図。
【
図6A】バルブシートと環状溝のガイド機能を説明するための模式図。
【
図7】本実施形態のソレノイドバルブ又は流量制御装置が適用される流体制御装置の一例を示す斜視図。
【
図8】本発明の一実施形態に係る流体制御装置の半導体製造プロセスへの適用例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。説明において同様の要素には同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
図1に本発明の一実施形態に係るソレノイドバルブが適用された流量制御装置1を示す。
図1において、実際には、流量制御装置1の全体を覆うカバーや流量制御装置1を制御する制御基板、温度センサ等が存在するが省略している。
図1において、A1,A2は、上下方向を示しており、A1が上方向、A2が下方向を示す。
流量制御装置1は、上流側ブロック24、バルブボディ16、下流側ブロック25、オリフィス19、弁体20、板バネ43、可動ステム55、ベローズ30、ソレノイドアクチュエータ50、調節部材60、および、ロックナット61を有する。
【0018】
バルブボディ16には、上部側に凹状の弁室16dが形成され、この弁室16dに流路16aおよび流路16bが接続されるように形成されている。流路16aは上流側ブロックに形成された流路24aと接続されている。流路16bはバルブボディ16内を水平方向に延びる流路16cと連通しており、流路16cは下流側ブロック25に形成された流路25aにオリフィス19(本実施形態では、ガスケット型オリフィス)を介して接続されている。
バルブボディ16の流路16bは、弁室16dの底面において開口しており、この開口周囲に環状のバルブシート17がバルブボディ16に一体に形成されている。バルブシート17の構造については後で詳述する。
【0019】
弁体20は、円盤状に形成され、バルブシート17に対向配置され、板バネ43によりバルブシート17に向けて常時付勢されている。板バネ43は、ソレノイドアクチュエータ50のケーシング51の下端部に設けられた環状部材42とその外周に螺合するナット部材41との間に挟持されている。なお、弁体20の構造については後で詳述する。
【0020】
ソレノイドアクチュエータ50は、図示しない、プラグナット(固定鉄心)、コイル、ヨーク、スリーブ等および可動鉄心としての可動ステム55をケーシング51に内蔵する周知のアクチュエータである。このコイルに電流を流すことによりプラグナットおよび可動ステム55が磁化され、可動ステム55が磁力により板バネ43の付勢力に抗して上方向A1に引き上げられる。これにより、流路16bが開放され、流路16aと連通する。コイルへの印加電圧に応じて磁力をコントロールすることで、弁体20のバルブシート17からのリフト量を制御でき、流路16aから流路16bに流通する流体の流量を制御する。
ケーシング51の基端部51bは、バルブボディ16の上面に締結部材BTにより固定されることで、バルブボディ16の弁室16dを気密に閉鎖している。ベローズ30は、弁室16d内の流体がケーシング51内に侵入するのを防ぐために設けられている。
このように、バルブボディ16およびソレノイドアクチュエータ50は、ソレノイドバルブを構成している。
ソレノイドアクチュエータ50の上端部には、可動ステム55のリフト量を調節するための調節部材60が設けられている。この調節部材60を回転操作することで、プラグナットの上下方向A1,A2の位置を調整する。ロックナット61は、調節部材60の位置をロックするために設けられている。
【0021】
なお、流量制御装置1のオリフィス19の上流側と下流側とにはそれぞれ圧力センサ70,71が設けられている。流量制御装置1では、これら2つの圧力センサ70,71の検出する流路内の圧力に基づいて、流路25aから流出する流体の流量が目標流量になるように上記のソレノイドバルブがフィードバック制御される。
【0022】
バルブシートの構造
図2Aおよび
図2Bにバルブシート17の構造を示す。なお、
図2Bは
図2Aの円A内の拡大図である(ハッチングは省略している)。
バルブシート17は、流路16bの開口周囲に円環状に形成され、バルブボディ16の上端面16fから突出している。
バルブシート17の硬度は、Hv300以上である。バルブボディ16は、ステンレス鋼等の金属により形成されており硬度は約Hv200程度であるが、バルブシート17は加工硬化により、部分的に硬度が高められている。
図2Bから分かるように、バルブシート17は凸状に湾曲する湾曲面からなるシール面17aを上端部に有する。シール面17aは、具体的には、曲率半径R1の円弧状の湾曲面である。なお、シール面17aは、円弧状の湾曲面に限定されるわけではない。
バルブシート17は、シール面17aの外周側で連なり、当該バルブシートの根元部分、すなわち、バルブボディ16の上端面16fに向かって末広がるように傾斜する傾斜面17bをさらに有する。この傾斜面17bは、シール面17aと滑らかに接続されており、上端面16fに垂直な方向に対して角度αで傾斜している、角度αは、本実施形態では、30度であるが、これに限定されるわけではない。
【0023】
弁体の構造
図3Aおよび
図3Bに弁体20の構造を示す。
弁体20は、円盤状に形成されたディスク部20dと、ディスク部20dの上面側の中心部に設けられた軸部20sと、ディスク部20dの下面側に形成されたバルブシート17に対向する対向面20fとを有する。
軸部20sが可動ステム55の下端部にねじ込まれることにより、弁体20は可動ステム55に固定される。
対向面20fは、平坦面からなり、
図3Bに示すように、対向面20fの中心部に環状溝21が形成されている。なお、本実施形態では、対向面20fを平坦面としたが、これに限定されるわけではない。
弁体20は、ステンレス合金等の金属材料で形成され、バルブシート17よりも低い硬度、例えば、Hv100~Hv140の範囲内の硬度を有する。弁体20の硬度をバルブシート17よりも低くしたのは、後述するように、弁体20を塑性変形させて環状溝21を形成するためである。
【0024】
図4Aおよび
図4Bに環状溝の構造を示す。
図4Aに示すように、環状溝21は、対向面20fに形成された円環状の凹みであり、
図4Bに示すように、凹状の湾曲面21aを有する。具体的には、湾曲面21aは、曲率半径R2の円弧状の曲面であり、曲率半径R2は上記したバルブシート17のシール面17aの曲率半径R1に略一致している。すなわち、湾曲面21aは、曲率半径R2は上記したバルブシート17のシール面17aと合致する形状を有する。
湾曲面21aの外周側には、対向面20fに向かって末広がる傾斜面部21bが形成されており、この傾斜面部21bはバルブシート17の傾斜面に17bの一部(上側部分)に合致する形状を有する。なお、本実施形態では、傾斜面に17bおよび傾斜面部21bは、断面で見て直線状に延びる構成としたが、これに限定されるわけではなく、湾曲していてもよい。
【0025】
環状溝21の加工方法の一例について説明する。
流量制御装置1(ソレノイドバルブ)が組み立てられた状態では、弁体20の対向面20fは環状溝21が未だ形成されていない状態にある。
このため、上記したソレノイドアクチュエータ50の上端部に設けられた調節部材60を回転操作し、弁体20の対向面20fをバルブシート17に押し付ける。弁体20の対向面20fに塑性変形を生じさせるのに必用なトルクを調節部材60に作用させる。バルブシート17の傾斜面17bの上側部分が弁体20の対向面20fに食い込むまで、弁体20の対向面20fをバルブシート17に押し付ける。
本実施形態では、弁体20のリフト量調整用の調節部材60を環状溝21の加工に用いたが、環状溝21の加工用に別機構を設けてもよいし、専用機構を設けずに工具等を用いて外部から弁体20に外力を作用させることも可能である。
【0026】
図5に示すように、環状溝21の中心軸線Ct1とバルブシート17の中心軸線Ct2は、一致するように設計され、バルブシート17と環状溝21は対応した位置に位置付けられている。本実施形態では、バルブシート17と弁体20との接触部に、凸状の湾曲面からなるシール面17aとこれに合致する凹状の湾曲面21aを設けることで、接触面積を増大させ、シール性能の向上を図っている。加えて、バルブシート17と弁体20との間に硬度差をつけることで、両者の接触部分がなじみやすくなり、よりシール性能が高まる。
しかしながら、バルブの開閉動作を繰り返した際に、中心軸線Ct1と中心軸線Ct2が常に一致していれば、バルブシート17に対する環状溝21の接触位置が常に同じになるため、上記した高いシール性能は維持できるが、ソレノイドアクチュエータ50等に存在するガタつきにより、
図6Aに示すように、環状溝21の中心軸線Ct1とバルブシート17の中心軸線Ct2との間に僅かなずれが必ず発生する。
【0027】
本実施形態では、バルブシート17と弁体20との接触部に、凸状の湾曲面からなるシール面17aとこれに合致する凹状の湾曲面21aを設けることに加えて、バルブシート17に傾斜面17bおよび環状溝21にこれに対応する傾斜面部21bを設けている。
このため、
図6Bに示すように、傾斜面17bおよび環状溝21がガイド機能を果たし、バルブシート17と弁体20とが接触する際に、環状溝21の中心軸線Ct1とバルブシート17の中心軸線Ct2との間のずれがキャンセルされる。これにより、バルブ閉鎖時に、常に高いシール性能が維持される。
【0028】
図7を参照して、本発明のソレノイドバルブ又は流量制御装置1が適用される流体制御装置の一例を説明する。
図7に示す流体制御装置には、幅方向W1,W2に沿って配列され長手方向G1,G2に延びる金属製のベースプレートBSが設けられている。なお、W1は正面側、W2は背面側,G1は上流側、G2は下流側の方向を示している。ベースプレートBSには、複数の流路ブロック992を介して各種流体機器991A~991Eが設置され、複数の流路ブロック992によって、上流側G1から下流側G2に向かって流体が流通する図示しない流路がそれぞれ形成されている。
【0029】
ここで、「流体機器」とは、流体の流れを制御する流体制御装置に使用される機器であって、流体流路を画定するボディを備え、このボディの表面で開口する少なくとも2つの流路口を有する機器である。具体的には、開閉弁(2方弁)991A、レギュレータ991B、プレッシャーゲージ991C、開閉弁(3方弁)991D、マスフローコントローラ991E等が含まれるが、これらに限定されるわけではない。なお、導入管993は、上記した図示しない流路の上流側の流路口に接続されている。
【0030】
本実施形態に係る流量制御装置1は、上記のマスフローコントローラ991Eとして使用できる。また、開閉弁(2方弁)991A、レギュレータ991B、プレッシャーゲージ991C、開閉弁(3方弁)991D等のバルブに、本実施形態に係るソレノイドバルブを適用可能である。
【0031】
次に、上記の流体制御装置の適用される半導体製造装置の例を
図8に示す。
半導体製造装置1000は、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition 法)による半導体製造プロセスを実行するためのシステムであり、600はプロセスガス供給源、700は流体制御装置、710はタンク、800は処理チャンバ、900は排気ポンプを示している。
基板に膜を堆積させる処理プロセスにおいては、処理ガスを安定的に供給するために流量制御装置700から供給される処理ガスをバッファとしてのタンク710に一時的に貯留し、処理チャンバ800の直近に設けられたバルブ720を高頻度で開閉させてタンク700からの処理ガスを真空雰囲気の処理チャンバ800へ供給する。
ALD法は、化学気相成長法の1つであり、温度や時間等の成膜条件の下で、2種類以上の処理ガスを1種類ずつ基板表面上に交互に流し、基板表面上原子と反応させて単層ずつ膜を堆積させる方法であり、単原子層ずつ制御が可能である為、均一な膜厚を形成させることができ、膜質としても非常に緻密に膜を成長させることができる。
ALD法による半導体製造プロセスでは、処理ガスの流量を精密に調整する必要があるとともに、基板の大口径化等により、処理ガスの流量をある程度確保する必要もある。
流体制御装置700は、正確に計量したプロセスガスを処理チャンバ800に供給する。この流体制御装置700に、上記した流量制御装置1が含まれる。
タンク710は、流体制御装置700から供給される処理ガスを一時的に貯留するバッファとして機能する。
処理チャンバ800は、ALD法による基板への膜形成のための密閉処理空間を提供する。
排気ポンプ900は、処理チャンバ800内を真空引きする。
【0032】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。例えば、上記適用例では、流量制御装置1をALD法による半導体製造プロセスに用いる場合について例示したが、これに限定されるわけではなく、本発明は、例えば原子層エッチング法(ALE:Atomic Layer Etching 法)等、精密な流量調整が必要なあらゆる対象に適用可能である。
また、本実施形態では、バルブシートが弁体より高硬度を有し、バルブシートに凸状のシール面を設け弁体の平坦面に環状溝を設けたが、弁体がバルブシートより高硬度を有し、弁体に凸状の環状シール面を設けバルブシートに環状溝を形成してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 :流量制御装置
16 :バルブボディ
16a :流路
16b :流路
16c :流路
16d :弁室
16f :上端面
17 :バルブシート
17a :シール面
17b :傾斜面
19 :オリフィス
20 :弁体
20d :ディスク部
20f :対向面
20s :軸部
21 :環状溝
21a :湾曲面
21b :傾斜面部
24 :上流側ブロック
24a :流路
25 :下流側ブロック
25a :流路
30 :ベローズ
41 :ナット部材
42 :環状部材
43 :板バネ
50 :ソレノイドアクチュエータ
51 :ケーシング
51b :基端部
55 :可動ステム
60 :調節部材
61 :ロックナット
70,71:圧力センサ
600 :プロセスガス供給源
700 :流体制御装置
710 :タンク
720 :バルブ
800 :処理チャンバ
900 :排気ポンプ
991A :開閉弁(2方弁)
991B :レギュレータ
991C :プレッシャーゲージ
991D :開閉弁(3方弁)
991E :マスフローコントローラ
992 :流路ブロック
993 :導入管
1000 :半導体製造装置
A :円
A1 :上方向
A2 :下方向
BS :ベースプレート
BT :締結部材
Ct1 :中心軸線
Ct2 :中心軸線
G1 :長手方向(上流側)
G2 :長手方向(下流側)
R1 :曲率半径
R2 :曲率半径
W1 :幅方向(正面側)
W2 :幅方向(背面側)
α :角度