(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】電磁開閉器
(51)【国際特許分類】
H01H 50/56 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
H01H50/56 G
(21)【出願番号】P 2019124527
(22)【出願日】2019-07-03
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】594192062
【氏名又は名称】東邦電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】黒川 純
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-182687(JP,A)
【文献】実開昭57-198833(JP,U)
【文献】特開平5-62581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 50/54 - 50/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が固定点に固定された片持ちバネ部材の他端寄りの位置にそれぞれ可動接点面を有する2つの可動接点を備えた可動接点部材と、
前記可動接点部材の前記2つの可動接点と接触する固定接点面をそれぞれ有する2つの固定接点を備えた固定接点部材と、
励磁されたときに前記2つの可動接点と前記2つの固定接点とを引き離す力を発生する電磁コイルを備えた可動接点部材駆動機構と、
前記可動接点部材及び前記固定接点部材を収納する電気絶縁樹脂製のケースを具備して100A以上の交流電流を遮断する電磁開閉器であって、
前記2つの可動接点のそれぞれの前記可動接点面と前記2つの固定接点のそれぞれの前記固定接点面が、相手に向かって凸となる球面状接点面からなり、
前記2つの可動接点の前記可動接点面と前記2つの固定接点の前記固定接点面とが接触している状態から、前記可動接点部材駆動機構が駆動されて前記2つの可動接点の前記可動接点面と前記2つの固定接点の前記固定接点面とが完全に離れる状態になるまでの過程において、前記可動接点面と前記固定接点面との間に仮想できる複数の仮想直線のうち、長さが最小寸法になる最小仮想直線の前記可動接点面上の起点が位置する起点の軌跡と前記最小仮想直線の前記固定接点面上の終点が位置する終点の軌跡が、それぞれ前記可動接点面の中心を含む可動側中央領域内と前記固定接点面の中心を含む固定側中央領域内に位置しており、
前記可動接点面の前記中心からその外縁までの距離をRaとしたときに、半径がRa/4からRa/3の可動側仮想円が、前記可動側中央領域の輪郭となり、前記可動接点部材と前記固定接点部材とが完全に開いたときの前記最小仮想直線の前記起点が、前記可動側仮想円上に位置し、前記固定接点面の前記中心からその外縁までの距離をRbとしたときに、半径がRb/4からRb/3の固定側仮想円が、前記固定側中央領域の輪郭となり、前記可動接点部材と前記固定接点部材とが完全に開いたときの前記最小仮想直線の前記終点が、前記固定側仮想円上に位置するように、前記球面状接点面の曲率半径並びに、前記可動接点部材及び前記固定接点部材の構成及び配置位置が定められていることを特徴とする電磁開閉器。
【請求項2】
一端が固定点に固定された片持ちバネ部材の他端寄りの位置に可動接点面を有する可動接点を備えた可動接点部材と、
前記可動接点部材の前記可動接点と接触する固定接点面を有する固定接点を備えた固定接点部材と、
励磁されたときに前記可動接点と前記固定接点とを引き離す力を発生する電磁コイルを備えた可動接点部材駆動機構と、
前記可動接点部材及び前記固定接点部材を収納する電気絶縁樹脂製のケースを具備して100A以上の交流電流を遮断する電磁開閉器であって、
前記可動接点の前記可動接点面と前記固定接点の前記固定接点面が、の少なくとも一方が他方に向かって凸となる球面状接点面からなり、
前記可動接点の前記可動接点面と前記固定接点の前記固定接点面とが接触している状態から、前記可動接点部材駆動機構が駆動されて前記可動接点の前記可動接点面と前記固定接点の前記固定接点面とが完全に離れる状態になるまでの過程において、前記可動接点面と前記固定接点面との間に仮想できる複数の仮想直線のうち、長さが最小寸法になる最小仮想直線の前記可動接点面上の起点が位置する起点の軌跡と前記最小仮想直線の前記固定接点面上の終点が位置する終点の軌跡が、それぞれ前記可動接点面の中心を含む可動側中央領域内と前記固定接点面の中心を含む固定側中央領域内に位置しており、
前記可動接点面の前記中心からその外縁までの距離をRaとしたときに、半径がRa/4からRa/3の可動側仮想円が、前記可動側中央領域の輪郭となり、前記可動接点部材と前記固定接点部材とが完全に開いたときの前記最小仮想直線の前記起点が、前記可動側仮想円上に位置し、前記固定接点面の前記中心からその外縁までの距離をRbとしたときに、半径がRb/4からRb/3の固定側仮想円が、前記固定側中央領域の輪郭となり、前記可動接点部材と前記固定接点部材とが完全に開いたときの前記最小仮想直線の前記終点が、前記固定側仮想円上に位置するように、前記球面状接点面の曲率半径並びに、前記可動接点部材及び前記固定接点部材の構成及び配置位置が定められていることを特徴とする電磁開閉器。
【請求項3】
前記ケースの内壁面と前記可動接点部材と前記固定接点部材との間の間隙の外縁との間の距離が、3.87mm以上であり、
前記可動側中央領域及び前記固定側中央領域の大きさは、実効電流120A、力率0.8のときに発生する全てのアークが、前記可動側中央領域と前記固定側中央領域との間の前記間隙内に起点を有し且つ前記アークの外縁が、前記ケースの内壁面を10000回炙ったときの前記内壁面を沿面とした前記可動接点部材と前記固定接点部材の絶縁抵抗が1000MΩ以上を維持するように定められている請求項1または2に記載の電磁開閉器。
【請求項4】
可動接点の傾き角度をθとし、
前記球面状接点面の曲率半径をSRとし、
前記可動接点面の直径寸法をDaとし、
前記固定接点面の直径寸法をDbとし、
前記可動接点面の高さ寸法をHaとし、
前記固定接点面の高さ寸法をHbとし、
前記可動接点面の傾斜角をαaとし、
前記固定接点面の傾斜角をαbとしたときに、
θ=8.3度、Da=5.4mm、Db=5.4mm、Ha=1.8mm、Hb=1.8mm、αa=9.0度、αb=9.0度の時、8.5≦SR≦11.3mmとなる、請求項1または2に記載の電磁開閉器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、100A以上の交流電流を遮断する電磁開閉器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
実公昭58-10968号公報(特許文献1)及び特開2004-178982号公報(特許文献2)には、可動接点の接点面及び固定接点の接点面を球面状にした接点構造が開示されている。これら従来の接点構造では、接点間にアークが停滞する時間を短くする目的で、接点面を球面状にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公昭58-10968号公報
【文献】特開2004-178982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
球面状の接点を用いて接点間にアークが停滞しないようにすると、接点間のギャップから出たアークは、接点間の距離が長くなる過程で接点の周囲に飛び散る。接点の近傍に絶縁樹脂製のケースの内壁面が存在すると、接点間のギャップから出たアークは、ケースの内壁面を炭化する。炭化が進むと、ケース内壁面の絶縁抵抗が低下し、内壁面に沿ってアークが走り、このアークが内部ショートの原因となるおそれがある。そこで従来は、このような問題が生じない程度に、接点間のギャップとケースの内壁面との間の距離をあけている。そのため従来の設計では、小型化に限界があった。
【0005】
また市販の電磁開閉器の中には、接点面を球面状にし、且つ可動接点を支持する片持ちバネ部材の形状と固定接点との位置関係を適宜に定めて、アークの発生起点を可動接点の接点面と固定接点の接点面の中心に留めているものも見受けられる。しかしながらアークの発生起点をほぼ1カ所に留めると、可動接点の接点面の表面と固定接点の接点面の表面が荒れ、接点面の表面抵抗が大きくなって、電磁開閉器の寿命が短くなる問題が生じる。
【0006】
本発明の目的は、接点間のアークの起点を接点間の1カ所に留めることなく、しかもアークの延び量を制限することにより、従来よりも寿命が長く且つ小型の電磁開閉器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が改良の対象とする電磁開閉器は、一端が固定点に固定された片持ちバネ部材の他端寄りの位置にそれぞれ可動接点面を有する可動接点を備えた2つの可動接点部材と、可動接点部材の2つの可動接点と接触する固定接点面を有する固定接点をそれぞれ備えた2つの固定接点部材と、励磁されたときに可動接点と固定接点とを引き離す力を発生する電磁コイルを備えた可動接点部材駆動機構と、可動接点部材及び固定接点部材を収納する電気絶縁樹脂製のケースを具備して100A以上の交流電流を遮断する電磁開閉器である。
【0008】
本発明では、可動接点と固定接点がそれぞれ2つの場合には、可動接点面と固定接点面が、相手に向かって凸となる球面状接点面からなる。そして2つの可動接点面と2つの固定接点面とが接触している状態から、可動接点部材駆動機構が駆動されて2つの可動接点面と2つの固定接点面とが完全に離れるまでの過程において、可動接点面と固定接点面との間に仮想できる複数の仮想直線のうち、長さが最小寸法になる最小仮想直線の可動接点面上の起点が位置する起点の軌跡と最小仮想直線の固定接点面上の終点が位置する終点の軌跡が、それぞれ可動接点面の中心を含む可動側中央領域内と固定接点面の中心を含む固定側中央領域内に位置するようにする。ここで可動側中央領域と固定側中央領域は、次のように定める。すなわち可動接点面の中心からその外縁までの距離をRaとしたときに、半径がRa/4からRa/3の可動側仮想円が、可動側中央領域の輪郭となり、可動接点部材と固定接点部材とが完全に開いたときの最小仮想直線の起点が、可動側仮想円上に位置し、固定接点面の中心からその外縁までの距離をRbとしたときに、半径がRb/4からRb/3の固定側仮想円が、固定側中央領域の輪郭となり、可動接点部材と固定接点部材とが完全に開いたときの最小仮想直線の終点が、固定側仮想円上に位置するように、球面状接点面の曲率半径並びに可動接点部材及び固定接点部材の構成及び配置が定められている。この条件は、接点が開き始めてから完全に開ききるまでの間、アークの発生起点が中央に集中しないことと、アークの発生起点が必要以上に接点面の外縁部に近づき過ぎないようにするのに適した条件として、実験結果から発明者が定めたものである。したがって上限値及び下限値の十分な裏付けは必要とされるものではない。
【0009】
本発明を実施する場合において、重要な点は、可動接点部材と固定接点部材とが完全に開いたときの最小仮想直線の起点が、可動側仮想円(半径がRa/4からRa/3)上に位置し、可動接点部材と固定接点部材とが完全に開いたときの最小仮想直線の終点が、固定側仮想円(半径がRb/4からRb/3)上に位置するという条件を満たすように、球面状接点面の曲率半径並びに可動接点部材及び固定接点部材の構成及び配置を定める点にある。
【0010】
このようにすると、接点が開き始めてから完全に開くまでの間、可動接点面の中心と固定接点面の中心に集中して、アークの発生起点が留まることがない。そのため繰り返しアークが発生しても、可動接点面と固定接点面の中心の表面が集中的に荒れることを抑制することができる。その結果、本発明によれば、電磁開閉器の寿命を延ばすことができる。またこのようにすると、可動接点面と固定接点面との間から伸び出る分のアークの長さが実質的に短くなり、アークの外縁によって、ケースの内壁面が炭化することを防止または抑制することができる。なお接点間から延び出たアークの先端が、環境条件の変化によってケースの内壁面を炙る位置まで延びることがあったとしても、従来よりも接点間から出るアークの長さが短くなる分、ケースの内壁面の炭化は遅くなる。すなわちアークの外縁がケースの内壁面と接触することがあったとしても、ケースの内壁面の絶縁抵抗が、ショートを発生するほどに低下することを防止できる。その結果、ケースを従来よりも小型化できる。
【0011】
なお本発明は、可動接点及び固定接点が一つの場合においても当然にして成立する。
【0012】
またケースの内壁面と可動接点部材と固定接点部材との間の間隙の外縁との間の距離が、3.87mm以上であるときに、可動側中央領域及び固定側中央領域の大きさは、実効電流120A、力率0.8のときに発生する全てのアークが、可動側中央領域と固定側中央領域との間の間隙内に起点を有し且つアークの外縁が、ケースの内壁面を10000回炙ったときの内壁面を沿面とした可動接点部材と固定接点部材の絶縁抵抗が1000MΩ以上を維持するように定められているのが好ましい。このようにすれば電磁開閉器を一般的な使用許容期限まで安全に使用できることが担保できる。
【0013】
可動接点の傾き角度をθとし、可動接点面の直径寸法をDaとし、固定接点面の直径寸法をDbとし、可動接点面の高さ寸法をHaとし、固定接点面の高さ寸法をHbとし、可動接点面の傾斜角をαaとし、固定接点面の傾斜角をαbとしたとき、球面状接点面の曲率半径をSRとし、SRの範囲を求めることが出来る。例えば、θ=8.3度、Da=5.4mm、Db=5.4mm、Ha=1.8mm、Hb=1.8mm、αa=9.0度、αb=9.0度の時、8.5≦SR≦11.3mmとなる。この条件を満たした120A用の電磁開閉器は、コンパクトで且つ寿命が長い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態の電磁開閉器のケースの蓋を外した状態で、接点が閉じている場合における内部の状態を示す平面図である。
【
図2】本実施の形態の電磁開閉器のケースの蓋を外した状態で、接点が開いている場合における内部の状態を示す平面図である。
【
図4】(A)乃至(C)は、コンタクトプレートと取付状態を説明するための図である。
【
図5】可動接点と固定接点の形状及び構造を説明するための図である。
【
図6】アークの発生領域を説明するために用いる模式図である。
【
図7】(A)は本願の考え方に基づいて、球面状接点面の曲率半径を10にした実施例の接点を開いて電流を遮断する場合の電流、電圧及びアーク電圧の測定波形を示す図であり、(B)は(A)の拡大図であり、(C)乃至(G)は(B)に示したタイミングにおけるアークの発生状況を示す写真である。
【
図8】(A)は本願の考え方から逸脱して、球面状接点面の曲率半径を30にした実施例の接点を開いて電流を遮断する場合の電流、電圧及びアーク電圧の測定波形を示す図であり、(B)は(A)の拡大図であり、(C)乃至(G)は(B)に示したタイミングにおけるアークの発生状況を示す写真である。
【
図9】
図5に示した可動接点部材と固定接点部材の接点として、同じ形状のものを用いる場合に、各パラメータから曲率半径SRを演算に基づいて、どのように定めるのかについて説明するために接点の各部に記号を付した図である。
【
図10】(A)乃至(D)は、可動側仮想円がRa/3または固定側仮想円がRb/3となるときの曲率半径SRと接点径Dとの関係、曲率半径SRと可動接点の傾斜角θとの関係、曲率半径SRと接点高さHとの関係、曲率半径SRと接点側面傾斜角αとの関係を示す演算式に数値を入れて得たグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施の形態を詳細に説明する。
図1及び
図2は、本実施の形態の電磁開閉器のケースの蓋を外した状態で、接点が閉じている場合と開いている場合における内部の状態を示す平面図であり、
図3は
図2のIII-III線断面図である。
【0016】
まず、本願明細書においては、
図1に示すように、電磁開閉器1に対して複数の方向を定めている。すなわち、右方向R及び左方向Lと、上方向U及び下方向Dを
図1に示すように定義している。
図2及び
図3でも同じ方向を用いている。
【0017】
本実施の形態の電磁開閉器1は、電力量計などに内蔵されて、電力の供給を制御するためのものである。
【0018】
[全体構成]
図1及び
図2に示すように、本実施の形態の電磁開閉器1は、絶縁ケース3を有しており、各構成部材が絶縁ケース3内に収納されている。絶縁ケース3は、ケース本体5及びケース本体5のカバーである図示しない蓋とから構成されている。絶縁ケース3には、主な構成部材として、第1の端子部材9、第1の端子部材9に固定される可動接点部材11、固定接点を備える固定接点部材14を有する第2の端子部材13、コンタクトプレート15、電磁コイル装置17、回動部材19、駆動部21とが収納されている。ただし、第1及び第2の端子部材9,13は、絶縁ケース3に設けられたスリットから端子部を外部に突出させた状態で絶縁ケース3に収納されている。
【0019】
後に詳しく説明するが、本実施の形態の電磁開閉器1は、一端が固定点に固定された片持ちバネ部材(金属板54A,54B,54C)の他端寄りの位置に球面状の可動接点面66を有する2つの可動接点65を備えた可動接点部材11と、可動接点部材11の2つの可動接点65と接触する球面状の固定接点面76を有する2つの固定接点75を備えた固定接点部材14と、励磁されたときに可動接点65,65と固定接点75,75とを引き離す力を発生する電磁コイル装置17を備えた可動接点部材駆動機構(15,17,19)と、可動接点部材11及び固定接点部材14を収納する電気絶縁樹脂製の絶縁ケース3を具備して100A以上の交流電流を遮断する。
【0020】
[各部材の構成]
<絶縁ケース>
絶縁ケース3のケース本体5は、主に底壁部22と周壁部23とから構成されている。底壁部22は、矩形状を呈している。周壁部23は、底壁部22から立ち上がる第1の側壁部25、第2の側壁部27、第3の側壁部29及び第4の側壁部31によって構成されている。第4の側壁部31の第1の側壁部25寄りの部分には、第1の端子部材9の端子部9Aを外部に突出した状態で収納するための第1の端子導出孔33と、第2の端子部材13の端子部13Aを外部に突出した状態で収納するための第2の端子導出孔35が間隔をあけて形成されている。第3の側壁部29には、電磁コイル装置17の給電用端子を外部に突出させるための給電用端子導出孔37が形成されている。
【0021】
本実施の形態では、絶縁ケース3の底壁部の内壁面と可動接点部材と固定接点部材との間の間隙の外縁との間の距離が、3.87mmである。そして後に説明するが、絶縁ケース3の底壁部22には可動接点65と固定接点75との間に発生するアークによる内壁面の炭化によるショートの発生を防止するために、ギャップと対向する絶縁ケース3の底壁面上には、可動接点部材11に沿って延びる3本の溝30が、可動接点部材11が延びる方向と直交する方向に間隔をあけて形成されている。なおこれらの溝30は、少なくとも可動接点部材11と固定接点部材14との間に形成された空間と対向する内壁面を完全に横切るように形成されている。
【0022】
<端子部材及び可動接点部材並びに固定接点部材>
第1の端子部材9は、一端に可動接点部材11が固定される接点部材固定部45と、他端に端子部47を備えており、第1の側壁部25に沿って延びるように配置される。接点部材固定部45には、可動接点部材11がカシメにより固定されている。可動接点部材11は、3枚の金属板54A,54B,54Cを重ね合わせて形成されており、接点部材固定部45に固定される支持部55A,55B,55Cと、支持部から第1の端子部材9に沿って延びる板バネ部57A,57B,57Cを有している。板バネ部57A,57B,57Cは、自由端に貫通孔が形成されており、この貫通孔を利用して2つの可動接点65,65が固定されている。さらに、板バネ部57A,57B,57Cには、それぞれスリット67が形成されている。板バネ部57A,57B,57Cは、支持部55A,55B,55Cと隣接する位置に右方向Rに延びる湾曲部71A,71B,71Cを有している。湾曲部71A,71B,71Cは、順番に湾曲している部分が広がるように形状が定められており、相互間に隙間が形成されている。なお、以下では、一体に結合された可動接点部材11の状態を示す場合には、A、B、Cの符号は付さないで説明を行う。
【0023】
第2の端子部材13は、一端に固定接点75,75が固定されており、他端に端子部77を備えている。本実施の形態では、第2の端子部材13の一端と固定接点75,75により、固定接点部材14が構成されている。固定接点75,75の位置は、ケース本体5に収納された状態で、可動接点65,65と接触可能に対向する位置である。なお可動接点65及び固定接点75の形状については、後に詳しく説明する。
【0024】
<コンタクトプレート、回動部材及び電磁コイル装置>
図3及び
図4(A)乃至(C)に詳しく示すように、絶縁材料によって形成されたコンタクトプレート15は、可動接点部材11の先端側に設けた3つの爪部12一端が係止されている。3つの爪部12によってコンタクトプレート15の先端を係止すると、コンタクトプレートの位置を定位置に位置決めすることができる。コンタクトプレート15は、回動部材19によって左右方向に移動させられ、
図1に示すように右方向Rに移動した状態では可動接点65と固定接点75を接触させ、
図2に示すように左方向Lに移動した状態では可動接点65と固定接点75を離した状態にする。回動部材19は、電磁コイル装置17によって駆動される駆動部21によって駆動されて回転軸20を中心にして所定の角度範囲を回動する。なお駆動部21の構成の説明は省略する。電磁コイル装置17に一方向の電流が流れて励磁されると、回動部材19は左方向Lに回動し、コンタクトプレート15が可動接点部材11を左方向Lに移動させて、可動接点65を固定接点75から離す。そして電磁コイル装置17に逆方向の電流が流されて逆励磁されると、回動部材19が右方向に回動し、コンタクトプレート15が右方向Rに移動して、可動接点65が固定接点75と接触し、接点が閉状態になり、電力が供給される状態になる。
【0025】
本実施の形態では、回動部材19が回動して接点が開状態または閉状態になった後は、一方向に励磁電流を流すまでは、図示しない永久磁石によって回動部材19の位置は自己保持される。したがって、電磁開閉器1が動作したことを確認できた後は、励磁電流を止めることが可能であり、開状態・閉状態を変更したいときにのみコイルの励磁電流を流せばよく、また、励磁電流の向きを変えることにより、接点の開状態・閉状態を切り替えることが可能である。
【0026】
<接点構造の詳細>
図5は、可動接点65と固定接点75の形状および構造を説明するための図である。
図6は、アークの発生領域を説明するために用いる模式図である。本実施の形態では、2つの可動接点65と2つの固定接点75は、可動接点面66と固定接点面76が、相手の接点に向かって凸となる球面状接点面から構成されている。本実施の形態では、可動接点65及び固定接点75は、銅の基体の上に銀合金の層を接合して構成されている。
【0027】
可動接点面66と固定接点面76とが接触している状態から、可動接点部材駆動機構(15,17,19)が駆動されて可動接点面66と固定接点面76とが完全に離れるまでの過程において、可動接点面66と固定接点面76との間に仮想できる複数の仮想直線のうち、長さが最小寸法になる最小仮想直線Lの可動接点面66上の最小仮想直線の起点Sの軌跡STと固定接点面76上の最小仮想直線Lの終点Eの軌跡ETが、それぞれ可動接点面66の中心C1を含む可動側中央領域R1内と固定接点面76の中心C2を含む固定側中央領域R2内に位置するように、球面状接点面(66,76)の曲率半径並びに可動接点部材11及び固定接点部材14の構成及び配置が定められている。なお
図6に示した軌跡ST及びETは、理論的に得られる軌跡であり、実際の軌跡は、球面状接点面の加工精度並びに可動接点部材11及び固定接点部材14の組付け精度のバラツキにより微小な幅の中で変化している。具体的には、可動接点面66の中心からその外縁までの距離をRaとしたときに、半径がRa/4からRa/3の可動側仮想円IR1が、可動側中央領域R1の輪郭となり、可動接点部材11と固定接点部材14とが完全に開いたときの最小仮想直線Lの起点S(
図5)が、可動側仮想円IR1上に位置し、固定接点面76の中心C2からその外縁までの距離をRbとしたときに、半径がRb/4からRb/3の固定側仮想円IR2が、固定側中央領域R2の輪郭となり、可動接点部材11と固定接点部材14とが完全に開いたときの最小仮想直線Lの終点E(
図5)が、固定側仮想円IR2上に位置するように、球面状接点面(66,76)の曲率半径並びに可動接点部材11及び固定接点部材14の構成及び配置が定められている。なおこの点については、後に詳しく説明する。
【0028】
このようにすると接点が離れた直後の最小仮想直線Lは、可動接点面66の中心C1と固定接点面76の中心C2とを結ぶ線となる。開き角度が大きくなるにつれて、最小仮想直線Lの起点Sと終点Eは、可動接点65の外周部側と固定接点75の外周部側に移動していく。
【0029】
このようにすると、可動接点面66と固定接点面76とが接触している状態から完全に離れる過程において、可動接点面66と固定接点面76との間で発生するアークの起点は、最小仮想直線Lに近い位置になる。したがってアークの起点は、可動側中央領域R1の中心と固定側中央領域R2の中心に停留することなく、移動することになるので、可動接点面66の中心と固定接点面76の中心に集中して、アークの発生起点が留まることがない。そのため繰り返しアークが発生しても、可動接点面66と固定接点面76の中心の表面が集中的に荒れることを抑制することができる。その結果、本実施の形態によれば、電磁開閉器の寿命を延ばすことができる。またこのようにすると、可動接点面66と固定接点面76との間から伸び出る分のアークの長さが実質的に短くなり、アークの外縁によって、絶縁ケース3の内壁面が炭化することを防止または抑制することができる。本実施の形態の場合、発生するアークの影響を受けやすい絶縁ケース3の底壁部22側に3本の溝30が設けられている。
【0030】
なお接点(65,75)間から延び出たアークの先端が、環境条件の変化によって絶縁ケース3の内壁面を炙る位置まで延びることがあったとしても、従来よりも接点間から出るアークの長さが短くなる分、絶縁ケース3の内壁面の炭化は遅くなる。すなわちアークの外縁が絶縁ケース3の内壁面と接触することがあったとしても、絶縁ケース3の内壁面の絶縁抵抗が、ショートを発生するほどに低下することを防止できる。その結果、絶縁ケース3を従来よりも小型化できる。前述のアークの発生現象は、本実施の形態のように2つの可動接点65及び2つの固定接点75を有する場合には、後から離れる可動接点面66と固定接点面76との間に発生するアークに関して発生する。
【0031】
また可動側中央領域R1及び固定側中央領域R2の大きさは、実効電流120A、力率0.8のときに発生する全てのアークが、可動側中央領域R1と固定側中央領域R2との間の間隙内に起点を有し且つアークの外縁が、絶縁ケース3の内壁面を10000回炙ったときの内壁面を沿面とした可動接点部材と固定接点部材の絶縁抵抗が1000MΩ以上を維持するように定められているのが好ましい。
【0032】
本実施の形態のように、可動接点面66及び固定接点面76が共に球面状接点面からなる場合には、可動接点部材11の傾き角度をθとし、可動接点面66の直径寸法をDaとし、固定接点面76の直径寸法をDbとし、可動接点面66の高さ寸法をHaとし、固定接点面76の高さ寸法をHbとし、可動接点面66の傾斜角をαaとし、固定接点面76の傾斜角をαbとしたとき、球面状接点面の曲率半径をSRとし、SRの範囲を求めることが出来る。例えば、θ=8.3度、Da=5.4mm、Db=5.4mm、Ha=1.8mm、Hb=1.8mm、αa=9.0度、αb=9.0度の時、8.5≦SR≦11.3mmとなる。この条件を満たした120A用の電磁開閉器は、コンパクトで且つ寿命が長い。
【0033】
<アークの発生状況>
本実施の形態において、可動接点面66及び固定接点面76を共に球面状接点面によって構成した場合で、可動接点部材11の傾き角度をθ=8.3とし、可動接点面66の直径寸法をDa=5.4とし、固定接点面76の直径寸法をDb=5.4とし、可動接点面66の高さ寸法をHa=1.8とし、固定接点面76の高さ寸法をHb=1.8とし、可動接点面66の傾斜角をαa=9とし、固定接点面76の傾斜角をαb=9としたときに、球面状接点面の曲率半径を10とした実施例の場合と30にした比較例の場合について、実際のアークの発生状況を説明する。
図7(A)は本願の考え方に基づいて、球面状接点面の曲率半径を10にした実施例の接点を開いて電流を遮断する場合の電流、電圧及びアーク電圧の測定波形を示す図であり、
図7(B)は
図7(A)の拡大図であり、
図7(C)乃至(G)は
図7(B)に示したタイミングにおけるアークの発生状況を示す写真である。
図8(A)は本願の考え方から逸脱して、球面状接点面の曲率半径を30にした実施例の接点を開いて電流を遮断する場合の電流、電圧及びアーク電圧の測定波形を示す図であり、
図8(B)は
図8(A)の拡大図であり、
図8(C)乃至(G)は
図7(B)に示したタイミングにおけるアークの発生状況を示す写真である。
図7と
図8を比較すると、曲率半径が適正範囲にある場合(
図7の場合)のほうが、曲率半径が適正範囲を外れている比較例の場合(
図8の場合)よりも、接点間のアークの起点を接点の所定の領域内に留めることにより、接点間から出るアークの長さが短くなることが判る。
【0034】
<パラメータの決定>
前述のRa/4からRa/3の半径の可動側仮想円IR1と、Rb/4からRb/3の半径の固定側仮想円IR2と定めたときに、その他のパラメータはどのように決定されるかの例について説明する。
【0035】
図9は、
図5に示した可動接点部材11と固定接点部材14の接点として、同じ形状のものを用いる場合に、曲率半径等のパラメータを、条件をできるだけ簡易的なものとして考えて、演算により、どのように定めるのかについて説明するために接点の各部に記号を付した図である。
図9においては、可動接点部材11と固定接点部材14が同じ形状を有しているので、各パラメータ及び寸法は、それぞれ共通の記号を用いている。例えば、接点側面の傾斜はα、接点の高さH、接点の直径はDとする。そして各部の寸法には、g,h,m,n,p,l,s,t,uの記号を付してある。また図中の複数の位置A,B,C,D,E,F、G,K,O及びR(接点円弧の中心)には、Aの位置の座標を(0,0)として、それぞれ座標値を付してある。
図9に示したθは
図5のθと同じであり、完全に接点が開いたときの可動接点部材11と固定接点部材14との間の角度である。可動側仮想円IR1が、前述のRa/3になる状態を想定すると、
図9中のK点は、CG間の距離の2/3の点となる。そして曲率半径SRは、SR=u+2s+2tにより求めることができる。そこでuとtを求めることとする。まずt/g=2/3であり、t=(2/3)gとなる。詳しい説明は省略するが、
図9のパラメータを用いると寸法nは、下記導入式により導き出される式(A)により表現できる。
【0036】
【数1】
また寸法gは、下記導入式により導き出される式(B)により表現できる。
【0037】
【数2】
更に寸法uは、下記導入式により導き出される式(C)により表現できる。
【0038】
【数3】
そして曲率半径SRは、下記導入式により導き出される式(D)により表現できる。
【0039】
【数4】
上記式(D)に式(B)のgを入れて整理し、可動側仮想円がRa/3または固定側仮想円がRb/3となるときの曲率半径SRは2/3を式(D)に乗じることにより、下記の式(E)として表現できる。
【0040】
【数5】
また可動側仮想円がRa/4またはRb/4となるときの曲率半径SRは1/2を式(D)に乗じることにより、得られる式[式(E)の最後の係数2/3を1/2に置き換えた式]として表現できる。なお上記演算は、条件をできるだけ簡易的なものとしたものであって、厳密なものではない。
【0041】
例えば、具体的に、θ=8.3度、α=9度、H=1.8mm、D=5.4φを上記式(E)に入れて計算すると、SR=11.28mmとなる。同様の値を式(E)の最後の係数2/3を1/2に置き換えた式に入れて計算すると、SR=8.46となる。このように、仮想円の範囲が変わると、曲率半径は変わる。
【0042】
図10(A)乃至(D)は、可動側仮想円がRa/3または固定側仮想円がRb/3となるときの曲率半径SRと接点径Dとの関係、曲率半径SRと可動接点の傾斜角θとの関係、曲率半径SRと接点高さHとの関係、曲率半径SRと接点側面傾斜角αとの関係を示す演算式に数値を入れて得たグラフである。可動側仮想円がRa/4または固定側仮想円がRb/4となる場合についても、
図10(A)乃至(D)と同様のグラフを得ることができる。
【0043】
これらのグラフから、可動側仮想円の大きさが同じであっても、各パラメータは一定ではないので、パラメータに応じて適正な値を選択しなければならないことが判る。ちなみに、θ=3.2度、α=15度、H=1.8mm、D=6.0φを上記式(E)に入れて計算すると、SR=30.35mmとなる。本実施の形態の考え方によれば、可動側仮想円及び固定側仮想円を考えたとき、SR=22.76~30.35mmとなる。
【0044】
<変形例>
上記の実施の形態では、可動接点及び固定接点が2接点の場合であるが、可動接点及び固定接点が1接点の場合にも本発明が適用できるものは勿論である。また上記実施の形態では、可動接点面及び固定接点面の両方が球面状接点面であるが、可動接点面及び固定接点面のいずれか一方が球面状接点面の場合でも本発明を適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、接点間のアークの起点を接点間に留めることにより、従来よりも小型の電磁開閉器を提供することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 電磁開閉器
3 絶縁ケース
5 ケース本体
9 第1の端子部材
11 可動接点部材
12 爪部
13 第2の端子部材
14 固定接点部材
15 コンタクトプレート
17 電磁コイル装置
19 回動部材
21 駆動部分
22 底壁部
23 周壁部
25,27,29,31 第1乃至第4の側壁部
30 溝
65 可動接点
66 可動接点面
67 スリット
75 固定接点
76 固定接点面