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特許7242058デカルボキシラーゼ、及びそれを用いた不飽和炭化水素化合物の製造方法
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  • 特許-デカルボキシラーゼ、及びそれを用いた不飽和炭化水素化合物の製造方法 図1
  • 特許-デカルボキシラーゼ、及びそれを用いた不飽和炭化水素化合物の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】デカルボキシラーゼ、及びそれを用いた不飽和炭化水素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/60 20060101AFI20230313BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230313BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230313BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230313BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230313BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230313BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20230313BHJP
   C12P 5/02 20060101ALI20230313BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C12N15/60 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P7/40
C12P5/02
C12N9/88
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019532643
(86)(22)【出願日】2018-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2018027729
(87)【国際公開番号】W WO2019022083
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2017142930
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 智量
(72)【発明者】
【氏名】森 裕太郎
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0330795(US,A1)
【文献】国際公開第2013/082264(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/202838(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/174439(WO,A2)
【文献】国際公開第2012/106516(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/033965(WO,A1)
【文献】"Putative Ferulic acid decarboxylase 1 [Aspergillus calidoustus]", 2016, retrieved on 2018.10.15, DB;GenBank, retrieved from the Internet, URL;https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/CEN61045
【文献】"UbiD family decarboxylase [Catenulispora acidiphila DSM 44928]", 2014, retrieved on 2018.10.15, DB;;GenBank, retrieved from the Internet, URL;https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/ACU72559
【文献】"5-carboxyvanillate decarboxylase [Sphingomonas paucimobilis]", 2002, retrieved on 2018.10.15, DB;GenBank, retrieved from the Internet, URL;https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/BAB86295
【文献】PAYNE Karl A. P., et al., "New cofactor supports α,β-unsaturated acid decarboxylation via 1,3-dipolar cycloaddition", Nature, 2015, Vol.522, p p.497-501,
【文献】WEBER Heike E., et al., "Requirement of a Functional Flavin Mononucleotide Prenyltransferase for the Activity of a Bacterial Decarboxylase in a Heterologous Muconic Acid Pathway in Saccharomyces cerevisiae", Appl. En viron. Microbiol., 2017.05, Vol.83, No.10, e03472-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼの存在下、下記式(1)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させる工程を含む、下記式(2)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の製造方法
(但し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における395位のスレオニンと同列になる部位のアミノ酸である)
【化1】
[式(1)及び(2)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
【請求項2】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼの存在下、下記式(3)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させる工程を含む、下記式(5)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の製造方法
(但し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と、前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における395位のスレオニンと同列になる部位のアミノ酸である)
【化2】
[式(3)~(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
【請求項3】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼを、コードするDNA又は該DNAを含むベクターが導入された宿主細胞を、培養し、該宿主細胞及び/又はその培養物において生成された下記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を採取する工程を含む、不飽和炭化水素化合物の製造方法
(但し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と、前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における395位のスレオニンと同列になる部位のアミノ酸である)
【化3】
[式(2)及び(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
【請求項4】
前記フェルラ酸デカルボキシラーゼは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンであり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸がヒスチジン、メチオニン、セリン又はロイシンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼである、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の、不飽和炭化水素化合物の製造方法
(但し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における395位のスレオニンと同列になる部位のアミノ酸である)
【請求項5】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミンに改変されており、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸が、ヒスチジンに改変されており、かつ下記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を生成する触媒活性を有するフェルラ酸デカルボキシラーゼ
(但し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における395位のスレオニンと同列になる部位のアミノ酸であり、
配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における394位のチロシンと同列になる部位のアミノ酸である)
【化4】
[式(2)及び(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
【請求項6】
請求項に記載のフェルラ酸デカルボキシラーゼをコードするDNA。
【請求項7】
請求項に記載のDNAを含むベクター。
【請求項8】
請求項に記載のDNA又は請求項に記載のベクターが導入された宿主細胞。
【請求項9】
請求項に記載の宿主細胞を培養し、該宿主細胞に発現したタンパク質を採取する工程を含む、フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体の製造方法。
【請求項10】
下記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を生成する触媒活性が高められたフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体の製造方法であって、フェルラ酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸を、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンに改変させる工程を含み、前記フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列からなる、製造方法
(但し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における395位のスレオニンと同列になる部位のアミノ酸である)
【化5】
[式(2)及び(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
【請求項11】
前記フェルラ酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンに改変させ、更に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸が、ヒスチジン、メチオニン、セリン又はロイシンに改変させる、請求項10に記載の製造方法
(但し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における395位のスレオニンと同列になる部位のアミノ酸であり、
配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における394位のチロシンと同列になる部位のアミノ酸である)
【請求項12】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼ、該フェルラ酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを含む、下記式(1)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させ、下記式(2)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の生成を促進するための剤
(但し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における395位のスレオニンと同列になる部位のアミノ酸である)
【化6】
[式(1)及び(2)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
【請求項13】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼ、該フェルラ酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを含む、下記式(3)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させ、下記式(5)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の生成を促進するための剤
(但し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における395位のスレオニンと同列になる部位のアミノ酸である)
【化7】
[式(3)~(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
【請求項14】
前記フェルラ酸デカルボキシラーゼは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンであり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸がヒスチジン、メチオニン、セリン又はロイシンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼである、請求項12又は13に記載の剤
(但し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における395位のスレオニンと同列になる部位のアミノ酸であり、
配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位に対応するアミノ酸は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と前記フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列とを、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェアを用いて整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における394位のチロシンと同列になる部位のアミノ酸である)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェルラ酸デカルボキシラーゼにおいて395位等がグルタミン等であるデカルボキシラーゼを用いた、不飽和炭化水素化合物の製造方法に関する。また本発明は、該デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターが導入された宿主細胞を用いた、不飽和炭化水素化合物の製造方法に関する。さらに本発明は、前記デカルボキシラーゼ、前記DNA又は前記ベクターを含む、不飽和炭化水素化合物の生成を促進するための剤にも関する。
【0002】
また本発明は、395位等がグルタミン等に改変されたフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体、及びその製造方法に関し、さらに、該フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体をコードするDNA、該DNAが挿入されているベクター、該DNA又は該ベクターが導入された宿主細胞に関する。
【背景技術】
【0003】
ブタジエン(1,3-ブタジエン)は、各種合成ゴム(ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム等)、ポリマー樹脂(ABS樹脂、ナイロン66等)といった様々な高分子化合物の原料として用いられるため、化学産業において極めて重要な有機化合物と言える。また、これらブタジエンを原料とする高分子化合物は、自動車用タイヤ、等の工業用品だけでなく、衣料品等の生活用品にも幅広く利用されている。そのため、ブタジエンの需要は年々増加しており、その年間需要は1300万トンとなり、また市場規模も150億ドルに達している。
【0004】
ブタジエンは、従前より、主に石油からエチレン及びプロピレンを製造する際に副生するC4留分を精製することにより製造されてきた。しかしながら、石油等の化石燃料の枯渇や温室効果ガス排出による地球温暖化等の環境問題により、前述の増加の一途を辿るブタジエン需要に対応すべく、持続可能なブタジエン製造を実現する必要性が高まっている。そして、その対応策として、再生可能資源であるバイオマス資源由来物質から、酵素を利用して、ブタジエンを製造する方法の開発が盛んに行なわれている。
【0005】
例えば、特許文献1においては、キシロースを原料とし、それをクロチルアルコール等に変換し得る酵素活性を有する微生物を用いて、ブタジエンを製造する方法が開示されている。また、特許文献2においては、キシロースを原料とし、それを2,3-ブタンジオールに変換し得る酵素活性を有する微生物を用い、ブタジエンを製造する方法が開示されている。このように、酵素を利用したブタジエン等の不飽和炭化水素化合物の製造は多々試みられているものの、生産性等の観点で未だ十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-30376号公報
【文献】特開2015-228804号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Karl A.P.Payneら、Nature、2015年6月25日発行、522巻、7557号、497~501ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ブタジエン等の不飽和炭化水素化合物を高い生産性にて製造することを可能とする酵素を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、フェルラ酸デカルボキシラーゼが関与する、フェルラ酸の脱炭酸反応による4-ビニルグアイヤコール(4VG)の生成(非特許文献1及び下記式 参照)を、ブタジエン等の不飽和炭化水素化合物の製造に応用することを着想した。
【0010】
【化1】
【0011】
すなわち、フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸に変異を導入し、当該酵素の基質特異性を、元来のフェルラ酸からムコン酸等に対するものに変更することで、下記式に示すような脱炭酸反応を経て、ブタジエン等を製造することを着想した。
【0012】
【化2】
【0013】
そこで、本発明者らは、コウジカビ由来のフェルラ酸デカルボキシラーゼ(配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるデカルボキシラーゼ)の10個の部位の各々に、アミノ酸置換を伴う変異を導入し、121のフェルラ酸デカルボキシラーゼの改変体を調製した。そして、それら改変体について、ムコン酸を基質とするブタジエンの生成に関する触媒活性を評価した。
【0014】
その結果、変異を導入した10個の部位にて、395位においては、当該部位のスレオニンを他のアミノ酸(グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、リジン、セリン又はアルギニン)に置換することによって、概してブタジエンの生成に関する触媒活性が向上すること(変異導入前の野生型のフェルラ酸デカルボキシラーゼと比較して、少なくとも約3倍は触媒活性が向上すること)が明らかになった。驚くべきことには、395位をアスパラギンに置換した場合には50倍近く、ヒスチジンに置換した場合には70倍近く、グルタミンに置換した場合には100倍以上、野生型のフェルラ酸デカルボキシラーゼと比較して、ブタジエンの生成に関する触媒活性が向上することを見出した。
【0015】
さらに、これら395位を他のアミノ酸に置換したフェルラ酸デカルボキシラーゼにおいて、他の部位のアミノ酸を更に置換した改変体も作製し、それらについても前記触媒活性を評価した。
【0016】
その結果、前記395位におけるアミノ酸置換に加え、394位を他のアミノ酸に置換することにより、1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性が更に向上し得ることが明らかになった。特に驚くべきことには、395位をヒスチジンに置換した改変体において、394位をセリン、ロイシン又はメチオニンに置換した場合には500倍以上、また当該部位をヒスチジンに置換した場合には1000倍以上、野生型のFDCと比較して、1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性が向上することを見出した。
【0017】
また、前述の395位におけるアミノ酸置換の他、394位のチロシンのみを他のアミノ酸(フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、トレオニン、アルギニン又はアスパラギン)に置換した場合、及び437位のフェニルアラニンをチロシンに置換した場合においても、フェルラ酸デカルボキシラーゼの1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性は、野生型と比して向上することも見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、フェルラ酸デカルボキシラーゼにおいて395位等がグルタミン等であるデカルボキシラーゼを用いた、不飽和炭化水素化合物の製造方法に関する。また本発明は、該デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターが導入された宿主細胞を用いた、不飽和炭化水素化合物の製造方法に関する。さらに本発明は、前記デカルボキシラーゼ、前記DNA又は前記ベクターを含む、不飽和炭化水素化合物の生成を促進するための剤にも関する。
【0019】
また本発明は、395位等がグルタミン等に改変されたフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体、及びその製造方法に関し、さらに、該フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体をコードするDNA、該DNAが挿入されているベクター、該DNA又は該ベクターが導入された宿主細胞に関する。
【0020】
より具体的に、本発明は以下を提供するものである。
<1> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼの存在下、下記式(1)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させる工程を含む、下記式(2)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の製造方法
【0021】
【化3】
【0022】
[式(1)及び(2)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
<2> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼの存在下、下記式(3)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させる工程を含む、下記式(5)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の製造方法
【0023】
【化4】
【0024】
[式(3)~(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
<3> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼを、コードするDNA又は該DNAを含むベクターが導入された宿主細胞を、培養し、該宿主細胞及び/又はその培養物において生成された下記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を採取する工程を含む、不飽和炭化水素化合物の製造方法
【0025】
【化5】
【0026】
[式(2)及び(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
<4> 前記フェルラ酸デカルボキシラーゼは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンであり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸がヒスチジン、メチオニン、セリン又はロイシンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼである、<1>~<3>のうちのいずれか一項に記載の、不飽和炭化水素化合物の製造方法。
<5> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンに改変されており、かつ下記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を生成する触媒活性を有するフェルラ酸デカルボキシラーゼ
【0027】
【化6】
【0028】
[式(2)及び(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
<6> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンに改変されており、更に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸が、ヒスチジン、メチオニン、セリン又はロイシンに改変されている、<5>に記載のフェルラ酸デカルボキシラーゼ。
<7> <5>又は<6>に記載のフェルラ酸デカルボキシラーゼをコードするDNA。
<8> <7>に記載のDNAを含むベクター。
<9> <7>に記載のDNA又は<8>に記載のベクターが導入された宿主細胞。
<10> <9>に記載の宿主細胞を培養し、該宿主細胞に発現したタンパク質を採取する工程を含む、フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体の製造方法。
<11> 下記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を生成する触媒活性が高められたフェルラ酸デカルボキシラーゼの製造方法であって、フェルラ酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸を、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンに改変させる工程を含む、製造方法。
【0029】
【化7】
【0030】
[式(2)及び(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
<12> 前記フェルラ酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンに改変させ、更に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸が、ヒスチジン、メチオニン、セリン又はロイシンに改変させる、<11>に記載の製造方法。
<13> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼ、該フェルラ酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを含む、下記式(1)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させ、下記式(2)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の生成を促進するための剤
【0031】
【化8】
【0032】
[式(1)及び(2)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
<14> 配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼ、該フェルラ酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを含む、下記式(3)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させ、下記式(5)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の生成を促進するための剤
【0033】
【化9】
【0034】
[式(3)~(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい]。
<15> 前記フェルラ酸デカルボキシラーゼは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンであり、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸がヒスチジン、メチオニン、セリン又はロイシンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼである、<13>又は<14>に記載の剤。
<16> フェルラ酸デカルボキシラーゼの存在下、前記式(1)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させる工程を含み、かつ
前記フェルラ酸デカルボキシラーゼが、下記(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のフェルラ酸デカルボキシラーゼである、
前記式(2)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の製造方法
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼ、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸が、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、トレオニン、アルギニン又はアスパラギンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼ、及び
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の437位又は該部位に対応するアミノ酸が、チロシンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼ
なお、前記式(1)及び(2)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい。
<17> フェルラ酸デカルボキシラーゼの存在下、前記式(3)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させる工程を含み、かつ
前記フェルラ酸デカルボキシラーゼが、<16>に記載の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のフェルラ酸デカルボキシラーゼである、
前記式(5)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の製造方法
なお、前記式(3)~(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい。
<18> フェルラ酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAを含むベクターが導入された宿主細胞を、培養し、該宿主細胞及び/又はその培養物において生成された前記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を採取する工程を含み、かつ
前記フェルラ酸デカルボキシラーゼが、<16>に記載の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のフェルラ酸デカルボキシラーゼである、
不飽和炭化水素化合物の製造方法
なお、前記式(2)及び(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい。
<19> 下記(d)~(f)からなる群から選択される少なくとも1の改変が導入されており、かつ前記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を生成する触媒活性を有するフェルラ酸デカルボキシラーゼ
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸を、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンに改変、
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸を、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、トレオニン、アルギニン又はアスパラギンに改変、及び
(f)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の437位又は該部位に対応するアミノ酸を、チロシンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼに改変
なお、前記式(2)及び(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい。
<20> <19>に記載のフェルラ酸デカルボキシラーゼをコードするDNA。
<21> <20>に記載のDNAを含むベクター。
<22> <20>に記載のDNA又は<21>に記載のベクターが導入された宿主細胞。
<23> <22>に記載の宿主細胞を培養し、該宿主細胞に発現したタンパク質を採取する工程を含む、フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体の製造方法。
<24> 前記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を生成する触媒活性が高められたフェルラ酸デカルボキシラーゼの製造方法であって、フェルラ酸デカルボキシラーゼにおいて、<19>に記載の(d)~(f)からなる群から選択される少なくとも1の改変を導入する工程を含む、製造方法。
【0035】
なお、前記式(2)及び(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい。
<25> フェルラ酸デカルボキシラーゼ、該フェルラ酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを含み、かつ
前記フェルラ酸デカルボキシラーゼが、<16>に記載の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のフェルラ酸デカルボキシラーゼである、
前記式(1)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させ、前記式(2)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の生成を促進するための剤
なお、前記式(1)及び(2)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい。
<26> フェルラ酸デカルボキシラーゼ、該フェルラ酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを含み、かつ
前記フェルラ酸デカルボキシラーゼが、<16>に記載の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも1種のフェルラ酸デカルボキシラーゼである、
前記式(3)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させ、前記式(5)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の生成を促進するための剤
なお、前記式(3)~(5)中、R、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。Aは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示し、炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を形成してもよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、ブタジエン等の不飽和炭化水素化合物を高い生産性にて製造することを可能とする酵素、並びに当該酵素を用いた不飽和炭化水素化合物の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】フェルラ酸デカルボキシラーゼにおいて、10個の部位のアミノ酸(185位のロイシン、187位のイソロイシン、283位のメチオニン、323位のスレオニン、327位のイソロイシン、331位のアラニン、394位のチロシン、395位のスレオニン、437位のフェニルアラニン及び439位のロイシン)を各々、他のアミノ酸(アルギニン、リジン、ヒスチジン、セリン、スレオニン、グルタミン、アスパラギン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン又はトリプトファン)に置換した改変体を、大腸菌において発現させ、cis,cis-ムコン酸を基質とする1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性を解析した結果を示すグラフである。なお、当該図においては、野生型のフェルラ酸デカルボキシラーゼと比較して、前記触媒活性が3倍以上向上した改変体についてのみ、結果を示す。図中、縦軸は、各フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体によって生成された1,3-ブタジエン量を、野生型のフェルラ酸デカルボキシラーゼ(WT)におけるそれを基準(1)として算出した相対値を示す。また、図中「A331I」等は、フェルラ酸デカルボキシラーゼの各改変体を示し、数字は当該酵素においてアミノ酸置換を伴う変異が導入された部位(331位等)を表し、数字の左側のアルファベットは置換される前のアミノ酸(A/アラニン等)を表し、数字の右側のアルファベットは置換された後のアミノ酸(I/イソロイシン等)を表す。アミノ酸改変体に関する表記については、特に断りのない限り、図2及び表8~12においても同様である。
図2】フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体(T395N、T395H若しくはT395Q)、又は各改変体及び野生型のフェルラ酸デカルボキシラーゼを発現させた大腸菌に関し、cis,cis-ムコン酸を基質とする1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性を解析した結果を示すグラフである。図中、縦軸は、各フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体、又は各改変体及び野生型のフェルラ酸デカルボキシラーゼによって生成された1,3-ブタジエン量を、野生型のフェルラ酸デカルボキシラーゼ(WT)におけるそれを基準(1)として算出した相対値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
<不飽和炭化水素化合物の製造方法 1>
後述の実施例において示すように、395位のアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼは、下記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を生成する下記反応を促進する触媒活性(「不飽和炭化水素化合物を生成する触媒活性」とも称する)が高いということを見出した。
【0039】
【化10】
【0040】
【化11】
【0041】
したがって、本発明は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼ(以下、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」とも称する。該デカルボキシラーゼについては後述を参照のほど)の存在下、下記式(1)若しくは(3)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物、又はそれらの幾何異性体を脱炭酸させる工程を含む、下記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体の製造方法を提供する。
【0042】
本発明において、前記反応によって生成される「不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体」は、前記式(2)及び(5)に示すとおり、炭素間二重結合を少なくとも1つ有する炭化水素化合物を意味し、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基が導入されているものであってもよい。このような化合物としては、例えば、ブタジエン(1,3-ブタジエン)、2,4-ペンタジエン酸、イソクロトン酸、3-メチルイソクロトン酸、3-ペンテン酸、10-ウンデセン酸が挙げられる。
【0043】
本発明において、不飽和炭化水素化合物生成の原料となる「不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体」は、前記式(1)及び(3)に示すとおり、炭素間二重結合を少なくとも1つ有し、かつカルボキシル基を少なくとも2つ有する炭化水素化合物を意味し、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基が導入されているものであってもよい。このような化合物としては、例えば、cis,cis-ムコン酸、cis,trans-ムコン酸、trans,trans-ムコン酸、グルタコン酸、2-メチルグルタコン酸、3-メチルグルタコン酸、トラウマチン酸が挙げられる。
【0044】
このような前記式(1)及び(3)で表される化合物、並びにそれらの幾何異性体は、後述の実施例において示すように、市販の製品として購入することができる。また、当業者であれば、公知の合成方法(例えば、Kiyoshi Kudoら、石油学会誌、1994年07月13日発行、38巻、1号、48~51ページに記載の方法)を適宜参酌しながら、合成することもできる。
【0045】
前記式(1)及び(2)で表される化合物、並びにそれらの幾何異性体におけるR及びR、又は前記式(3)~(5)で表される化合物、並びにそれらの幾何異性体におけるR、R、R及びRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状若しくは分枝状のアルコキシ基又は水酸基を示す。
【0046】
「炭素数1~5の直鎖状又は分枝状のアルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基が挙げられる。
【0047】
「炭素数1~5の直鎖状又は分枝状のアルコキシ基」としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、1,2-ジメチル-プロポキシ基が挙げられる。
【0048】
また、前記式(1)~(5)で表される化合物、並びにそれらの幾何異性体におけるAは、置換されていてもよい炭素数0~5の直鎖状炭化水素基を示す。なお、「置換されていてもよい炭素数0の直鎖状炭化水素基」とは、前記式(1)~(5)で表される化合物、並びにそれらの幾何異性体においてAを介して結合している炭素原子どうしが、Aを介さずに直接結合していることを意味する。さらに、置換されていてもよい直鎖状炭化水素基の炭素数が2~5の場合は、隣接する炭素原子間で二重結合を少なくとも1つ形成してもよい。また、Aにおいて炭化水素基が有していてもよい置換基とは、例えば、炭素数1~5の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数1~5の直鎖状又は分枝状のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、ホルミル基が挙げられる。
【0049】
本発明にかかるデカルボキシラーゼの存在下、不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物を脱炭酸させる条件については、当該脱炭酸が促進され、不飽和炭化水素化合物が生成される条件であればよく、当業者であれば、反応液の組成、反応液のpH、反応温度、反応時間等を適宜調整し、設定することができる。
【0050】
例えば、本発明にかかるデカルボキシラーゼと、その基質である不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物が添加される反応液としては、前記反応を妨げない限り、特に制限はないが、好ましくはpH6~8の緩衝液が挙げられ、より好ましくはpH6~7の塩化カリウム及びリン酸ナトリウムを含む緩衝液が挙げられる。さらに、前記反応をより促進し易くなるという観点から、プレニル化されたフラビンモノヌクレオチド(prFMN)又はそのアイソマー(prFMNketimine、prFMNiminiu、これらprFMN及びそのアイソマーについては、非特許文献1参照のほど)が含まれていることが好ましい。
【0051】
また、このような反応において用いられる本発明にかかるデカルボキシラーゼとして、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミン等であるフェラル酸デカルボキシラーゼ1種のみを用いることもできるが、2種以上の本発明にかかるデカルボキシラーゼを併用することもできる。さらに、後述の実施例に示すとおり、不飽和炭化水素カルボン酸化合物の脱炭酸をより促進し易くなるという観点から、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がスレオニンであるフェラル酸デカルボキシラーゼを併用することが好ましい(「配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がスレオニンであるフェラル酸デカルボキシラーゼ」については、後記表1~3を参照のほど)。
【0052】
また、反応温度としても、前記反応を妨げない限り、特に制限はないが、通常20~40℃であり、好ましくは25~37℃である。さらに、反応時間としては、前記不飽和炭化水素化合物が生成し得る時間であればよく、特に制限はないが、通常30分~7日であり、好ましくは12時間~2日である。
【0053】
また、このような条件にて生成される前記不飽和炭化水素化合物は、大概気化し易いため、揮発性ガスの公知の回収、精製方法により採取することができる。かかる採取方法としては、ガスストリッピング、分留、吸着、脱着、パーベーパレーション、固相に吸着させたイソプレンの熱若しくは真空による固相からの脱着、溶媒による抽出、又はクロマトグラフィー(例えば、ガスクロマトグラフィー)等が挙げられる。また、生成されるオレフィン化合物が液体である場合にも、公知の回収、精製方法(蒸留、クロマトグラフィー等)を適宜利用し、採取することができる。さらに、これらの方法は単独にて行ってもよく、また適宜組み合わせて多段階的に実施し得る。
【0054】
<不飽和炭化水素化合物の製造方法 2>
また、後述の実施例において示すとおり、フェルラ酸デカルボキシラーゼの395位がグルタミン等であるデカルボキシラーゼを発現するように形質転換された宿主細胞を、培養することにより、不飽和炭化水素化合物を生産性高く製造することができる。
【0055】
したがって、本発明においては、本発明にかかるデカルボキシラーゼをコードするDNA又はベクターが導入された宿主細胞を培養し、該宿主細胞及び/又はその培養物において生成された前記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を採取する工程を含む、不飽和炭化水素化合物の製造方法も提供される。
【0056】
「本発明にかかるデカルボキシラーゼをコードするDNA又はベクターが導入された宿主細胞」については、後述のとおりであるが、このような宿主細胞にて発現する本発明にかかるデカルボキシラーゼとしては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミン等であるフェラル酸デカルボキシラーゼ1種のみであってもよいが、2種以上の本発明にかかるデカルボキシラーゼであってもよい。さらに、後述の実施例に示すとおり、不飽和炭化水素カルボン酸化合物の脱炭酸をより促進し易くなるという観点から、前記宿主細胞においては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がスレオニンであるフェラル酸デカルボキシラーゼも発現していることが好ましい。
【0057】
また、前記細胞の培養条件については、後述のとおりであるが、培地には、本発明にかかるデカルボキシラーゼの基質である前記式(1)若しくは(3)にて表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物、又はそれらの幾何異性体が添加されていることが好ましい。培養温度は、用いる宿主細胞の種類に合わせて適宜設計変更し得るが、通常20~40℃であり、好ましくは25~37℃である。
【0058】
また、本発明において、「培養物」とは、宿主細胞を培地で培養することによって得られる、増殖した宿主細胞、該宿主細胞の分泌産物及び該宿主細胞の代謝産物等を含有する培地のことであり、それらの希釈物、濃縮物を含む。
【0059】
このような宿主細胞及び/又は培養物からの不飽和炭化水素化合物の採取についても、特に制限はなく、上述の公知の回収、精製方法を用いて行うことができる。また、採取の時期としては、用いる宿主細胞の種類に合わせて適宜調整され、不飽和炭化水素化合物が生成し得る時間であればよいが、通常30分~7日であり、好ましくは12時間~2日である。
【0060】
<本発明にかかるデカルボキシラーゼ>
次に、上述の本発明の不飽和炭化水素化合物の製造方法等において用いられるデカルボキシラーゼについて説明する。
【0061】
通常、「フェルラ酸デカルボキシラーゼ」とは、EC番号:4.1.1.102として登録されている酵素であり、フェルラ酸を脱炭酸して4-ビニルグアイヤコール(4VG)を生成する下記反応を、触媒する酵素を意味する。
【0062】
【化12】
【0063】
上述のとおり、本発明者らは、395位のアミノ酸が、グルタミン等であるフェルラ酸デカルボキシラーゼは、高い不飽和炭化水素化合物を生成する触媒活性を有するということを、見出した。
【0064】
したがって、本発明にかかるデカルボキシラーゼは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであり、不飽和炭化水素化合物を生成する触媒活性を有するデカルボキシラーゼであればよく、後述の実施例において示すような、前記部位のアミノ酸がグルタミン等に人工的に改変されたフェルラ酸デカルボキシラーゼ(以下、「フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体」とも称する)のみならず、前記部位のアミノ酸がグルタミン等である、天然に存在するフェルラ酸デカルボキシラーゼ(以下、「フェルラ酸デカルボキシラーゼ相同体」又は「フェルラ酸デカルボキシラーゼ天然変異体」とも称する)を含むものである。
【0065】
本発明の「フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体」において、アミノ酸改変が施されるフェルラ酸デカルボキシラーゼとしては、特に制限はなく、様々な生物由来のものを用いることができる。例えば、コウジカビ Aspergillus niger(CBS513.88株)由来のフェルラ酸デカルボキシラーゼ(UNIPROT ID:A2QHE5、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるフェルラ酸デカルボキシラーゼ)の他、UNIPROT上で「Ferulic acid decarboxylase」に該当するタンパク質が挙げられ、より具体的には、下記表1~6に記載のフェルラ酸デカルボキシラーゼが挙げられる。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
なお、表1~3は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がスレオニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼを示し、表4は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼを示し、表5は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がヒスチジンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼを示し、表6は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がアスパラギンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼを示す。また、自然界においてヌクレオチド配列が変異することにより、タンパク質のアミノ酸配列の変化が生じ得ることは理解されたい。
【0073】
表1~6に記載のフェルラ酸デカルボキシラーゼの中で、アミノ酸改変が施されるフェルラ酸デカルボキシラーゼとして、コウジカビ Aspergillus niger由来のフェルラ酸デカルボキシラーゼが好ましく、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質がより好ましい。
【0074】
また、本発明にかかる「フェルラ酸デカルボキシラーゼ相同体」及び「フェルラ酸デカルボキシラーゼ天然変異体」としては、例えば、表4~6に記載の、前記部位がグルタミン、ヒスチジン又はアルギニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼが挙げられる。
【0075】
「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸としては、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであれば良いが、不飽和炭化水素化合物を生成する触媒活性がより高いという観点から、好ましくは、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン又はリジンであり、より好ましくは、グルタミン、ヒスチジン又はアスパラギンであり、さらに好ましくは、グルタミン又はヒスチジンであり、特に好ましくは、グルタミンである。
【0076】
さらに、後述の実施例において示すとおり、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、不飽和炭化水素化合物を生成する触媒活性が更に高くなり易い傾向にあることから、前述の395位に加え、更に配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸は、ヒスチジン、メチオニン、セリン、ロイシン、フェニルアラニン、イソロイシン、スレオニン、アスパラギン、トリプトファン又はグルタミンであることが好ましい。より具体的に、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくは、ヒスチジン、メチオニン、セリン、ロイシン、フェニルアラニン、イソロイシン、スレオニン又はアスパラギンであり、さらに好ましくは、ヒスチジン、メチオニン、セリン又はロイシンであり、特に好ましくは、ヒスチジンである。配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がヒスチジンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくは、トリプトファン、フェニルアラニン又はヒスチジンである。また、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がアスパラギンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくは、フェニルアラニン、ヒスチジン、ロイシン又はトリプトファンである。
【0077】
また、前記同様に、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、上述の395位に加え、更に配列番号:2に記載のアミノ酸配列の187位又は該部位に対応するアミノ酸は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、セリン、スレオニン、グルタミン、アスパラギン、ロイシン、メチオニン又はトリプトファンであることが好ましい。より具体的に、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の187位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくは、ヒスチジン、ロイシン、メチオニン、トリプトファン、セリン、スレオニン、アスパラギン又はアルギニンであり、さらに好ましくは、ヒスチジン、ロイシン又はメチオニンである。配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がヒスチジンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の187位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくは、セリン、アスパラギン、スレオニン、グルタミン、リジン又はロイシンであり、さらに好ましくは、セリン、アスパラギン、スレオニン又はグルタミンである。配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がアスパラギンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の187位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくは、ヒスチジン、セリン、スレオニン又はアスパラギンである。
【0078】
また、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、上述の395位に加え、更に配列番号:2に記載のアミノ酸配列の327位又は該部位に対応するアミノ酸はロイシンであることが好ましい。
【0079】
また、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、上述の395位に加え、更に配列番号:2に記載のアミノ酸配列の331位又は該部位に対応するアミノ酸は、スレオニン、ロイシン、メチオニン又はアスパラギンであることが好ましい。より具体的に、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の331位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくは、メチオニン、ロイシン又はスレオニンであり、さらに好ましくは、メチオニン又はロイシンである。配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がヒスチジンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の331位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくはアスパラギンである。
【0080】
また、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、上述の395位に加え、更に配列番号:2に記載のアミノ酸配列の437位又は該部位に対応するアミノ酸は、スレオニン、アスパラギン又はチロシンであることが好ましい。より具体的に、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の437位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくはチロシンである。配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がヒスチジンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の437位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくはチロシンである。
【0081】
また、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、上述の395位に加え、更に配列番号:2に記載のアミノ酸配列の439位又は該部位に対応するアミノ酸は、イソロイシン又はメチオニンであることが好ましい。より具体的に、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がヒスチジンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の439位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくはイソロイシンである。配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がアスパラギンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の439位又は該部位に対応するアミノ酸は、より好ましくはメチオニンである。
【0082】
また、「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミンである場合には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の185位又は該部位に対応するアミノ酸はチロシンであることが好ましく、又は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の283位又は該部位に対応するアミノ酸はロイシンであることが好ましい。
【0083】
なお、本発明において、「対応する部位」とは、ヌクレオチド及びアミノ酸配列解析ソフトウェア(GENETYX-MAC、Sequencher等)やBLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を利用し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と、他品種に由来するフェルラ酸デカルボキシラーゼ等のアミノ酸配列とを整列させた際に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列における395位のスレオニン、394位のチロシン等と同列になる部位のことである。
【0084】
「本発明にかかるデカルボキシラーゼ」は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸以外に、人工的に変異が導入されているものであってもよい。すなわち、本発明にかかるデカルボキシラーゼには、フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸配列(配列番号:2に記載のアミノ酸配列等)の395位以外において1又は複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/又は挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質」も含まれる。ここで「複数」とは、特に制限はないが、通常2~100個、好ましくは2~50個、より好ましくは2~40個、さらに好ましくは2~30個、より好ましくは2~20個、さらに好ましくは2~10個(例えば、2~8個、2~4個、2個)である。
【0085】
また、本発明にかかるデカルボキシラーゼは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列との同一性が、15%以上(例えば、16%以上、17%以上、18%以上、19%以上)であることが好ましく、20%以上(例えば、30%以上、40%以上)であることがより好ましく、50%以上(例えば、60%以上、70%以上)であることがさらに好ましく、80%以上(例えば、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上)であることがより好ましく、90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)であることがより好ましい。なお、本発明において「同一性」とは、本発明にかかるデカルボキシラーゼのアミノ酸総数に対する、本発明にかかるデカルボキシラーゼと配列番号:2に記載のアミノ酸配列と一致したアミノ酸数の割合(%)を意味する。
【0086】
また、デカルボキシラーゼが、不飽和炭化水素化合物を生成する触媒活性を有するか否かは、例えば、後述の実施例に示すとおり、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)にて、不飽和炭化水素化合物の量を直接測定することにより判定することができる。さらに、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるフェルラ酸デカルボキシラーゼ又は野生型のフェルラ酸デカルボキシラーゼにおける量と比較することで、該フェルラ酸デカルボキシラーゼよりも不飽和炭化水素化合物を生成する触媒活性が高いか否かも判定することができる。
【0087】
本発明にかかるデカルボキシラーゼは、不飽和炭化水素化合物を生成する触媒活性において、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるフェルラ酸デカルボキシラーゼに対し、2倍以上(例えば、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上)であることが好ましく、10倍以上(例えば、20倍以上、30倍以上、40倍以上)であることがより好ましく、50倍以上(例えば、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上)であることがさらに好ましく、100倍以上(例えば、200倍以上、300倍以上、400倍以上)であることがより好ましく、500倍以上(例えば、600倍以上、700倍以上、800倍以上、900倍以上)であることがより好ましく、1000倍以上であることが特に好ましい。
【0088】
また、本発明にかかるデカルボキシラーゼとしては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がグルタミン等であるフェラル酸デカルボキシラーゼ1種のみを用いることもできるが、2種以上の本発明にかかるデカルボキシラーゼを併用することもできる。さらに、後述の実施例に示すとおり、不飽和炭化水素カルボン酸化合物の脱炭酸をより促進し易くなるという観点から、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸がスレオニンであるフェラル酸デカルボキシラーゼと併用してもよい。
【0089】
本発明の「フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体」は、不飽和炭化水素化合物を生成する触媒活性において、野生型のフェルラ酸デカルボキシラーゼに対し、2倍以上(例えば、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上)であることが好ましく、10倍以上(例えば、20倍以上、30倍以上、40倍以上)であることがより好ましく、50倍以上(例えば、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上)であることがさらに好ましく、100倍以上(例えば、200倍以上、300倍以上、400倍以上)であることがより好ましく、500倍以上(例えば、600倍以上、700倍以上、800倍以上、900倍以上)であることがより好ましく、1000倍以上であることが特に好ましい。
【0090】
なお、「野生型のフェルラ酸デカルボキシラーゼ」は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸における改変、さらには前述の他の部位における変異が導入される前のフェルラ酸デカルボキシラーゼであり、例えば、表1~6に記載のフェルラ酸デカルボキシラーゼ及びその天然の変異体が挙げられる。
【0091】
本発明にかかるデカルボキシラーゼは、他の化合物が直接又は間接的に付加されていてもよい。かかる付加としては特に制限はなく、遺伝子レベルでの付加であってもよく、化学的な付加であってもよい。また付加される部位についても特に制限はなく、本発明にかかるデカルボキシラーゼのアミノ末端(以下「N末端」とも称する)及びカルボキシル末端(以下「C末端」とも称する)のいずれかであってもよく、その両方であってもよい。遺伝子レベルでの付加は、本発明にかかるデカルボキシラーゼをコードするDNAに、他のタンパク質をコードするDNAを読み枠を合わせて付加させたものを用いることにより達成される。このようにして付加される「他のタンパク質」としては特に制限はなく、本発明にかかるデカルボキシラーゼの精製を容易にする目的の場合には、ポリヒスチジン(His-)タグ(tag)タンパク質、FLAG-タグタンパク質(登録商標、Sigma-Aldrich社)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)等の精製用タグタンパク質が好適に用いられ、また本発明にかかるデカルボキシラーゼの検出を容易にする目的の場合には、GFP等の蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ等の化学発光タンパク質等の検出用タグタンパク質が好適に用いられる。化学的な付加は、共有結合であってもよく、非共有結合であってもよい。「共有結合」としては特に制限はなく、例えば、アミノ基とカルボキシル基とのアミド結合、アミノ基とアルキルハライド基とのアルキルアミン結合、チオールどうし間のジスルフィド結合、チオール基とマレイミド基又はアルキルハライド基とのチオエーテル結合が挙げられる。「非共有結合」としては、例えば、ビオチン-アビジン間結合が挙げられる。また、このようにして化学的に付加される「他の化合物」としては、本発明にかかるデカルボキシラーゼの検出を容易にする目的の場合には、例えば、Cy3、ローダミン等の蛍光色素が好適に用いられる。
【0092】
また、本発明にかかるデカルボキシラーゼは、他の成分と混合して用いてもよい。他の成分としては特に制限はなく、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、プロテアーゼ阻害剤、保存剤が挙げられる。
【0093】
<本発明にかかるデカルボキシラーゼをコードするDNA、及び該DNAを有するベクター>
次に、本発明にかかるデカルボキシラーゼをコードするDNA等について説明する。かかるDNAを導入することによって、宿主細胞の形質を転換し、本発明にかかるデカルボキシラーゼを当該細胞において製造させること、ひいては不飽和炭化水素化合物を製造させることが可能となる。
【0094】
本発明にかかるDNAは、上述の本発明にかかるデカルボキシラーゼをコードする限り、天然のDNAであってもよく、天然のDNAに人為的に変異が導入されたDNAであってもよく、人工的に設計されたヌクレオチド配列からなるDNAであってもよい。さらに、その形態について特に制限はなく、cDNAの他、ゲノムDNA、及び化学合成DNAが含まれる。これらDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、コウジカビ等からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PAC等が利用できる)を作製し、これを展開して、フェルラ酸デカルボキシラーゼ遺伝子のヌクレオチド配列(例えば、配列番号:1に記載のヌクレオチド配列)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、フェルラ酸デカルボキシラーゼ遺伝子に特異的なプライマーを作製し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、コウジカビ等から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作製し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製することが可能である。
【0095】
そして、このように調製したDNAに、必要に応じ、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸をグルタミン等に置換する変異を導入することは、当業者であれば、公知の部異特異的変異導入法を利用することで行うことができる。部異特異的変異導入法としては、例えば、Kunkel法(Kunkel,T.A.、Proc Natl Acad Sci USA、1985年、82巻、2号、488~492ページ)、SOE(splicing-by-overlap-extention)-PCR法(Ho,S.N.,Hunt,H.D.,Horton,R.M.,Pullen,J.K.,and Pease,L.R.、Gene、1989年、77巻、51~59ページ)が挙げられる。
【0096】
また、当業者であれば、フェルラ酸デカルボキシラーゼの395位又は該部位に対応するアミノ酸をグルタミン等に置換してあるタンパク質をコードするヌクレオチド配列を人工的に設計し、該配列情報に基づき、自動核酸合成機を用いて、本発明にかかるDNAを化学的に合成することもできる。
【0097】
さらに、本発明にかかるDNAは、コードする本発明にかかるデカルボキシラーゼの発現効率を宿主細胞においてより向上させるという観点から、当該宿主細胞の種類に合わせて、コドンを最適化した本発明にかかるデカルボキシラーゼをコードするDNAの態様もとり得る。
【0098】
また、本発明においては、前述のDNAを宿主細胞内において複製することができるよう、当該DNAが挿入されているベクターの態様もとり得る。
【0099】
本発明において「ベクター」は、自己複製ベクター、すなわち、染色体外の独立体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しない、例えば、プラスミドを基本に構築することができる。また、ベクターは、宿主細胞に導入されたとき、その宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それが組み込まれた染色体と一緒に複製されるものであってもよい。
【0100】
このようなベクターとしては、例えば、プラスミド、ファージDNAが挙げられる。また、プラスミドとしては、大腸菌由来のプラスミド(pET22、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19等)、酵母由来のプラスミド(YEp13、YEp24、YCp50等)、枯草菌由来のプラスミド(pUB110、pTP5等)が挙げられる。ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、宿主細胞が昆虫由来であれば、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターを、植物由来であればT-DNA等、動物由来であればレトロウイルス、アデノウイルスベクター等の動物ウイルスベクターも、本発明にかかるベクターとして用いることもできる。また、本発明にかかるベクター構築の手順及び方法は、遺伝子工学の分野で慣用されているものを用いることができる。例えば、本発明にかかるDNAをベクターに挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法等が採用される。
【0101】
また、本発明にかかるベクターは、前記DNAがコードする本発明にかかるデカルボキシラーゼを宿主細胞内にて発現可能な状態で含んでなる発現ベクターの形態であってもよい。本発明にかかる「発現ベクター」は、これを宿主細胞に導入して本発明にかかるデカルボキシラーゼを発現させるために、前記DNAの他に、その発現を制御するDNA配列や形質転換された宿主細胞を選択するための遺伝子マーカー等を含んでいるのが望ましい。発現を制御するDNA配列としては、プロモーター、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)及びターミネーター等がこれに含まれる。プロモーターは宿主細胞において転写活性を示すものであれば特に限定されず、宿主細胞と同種若しくは異種のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の発現を制御するDNA配列として得ることができる。また、前記発現を制御するDNA配列以外に発現を誘導するDNA配列を含んでいても良い。かかる発現を誘導するDNA配列としては、宿主細胞が細菌である場合には、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加により、下流に配置された遺伝子の発現を誘導することのできるラクトースオペロンが挙げられる。本発明における遺伝子マーカーは、形質転換された宿主細胞の選択の方法に応じて適宜選択されてよいが、例えば薬剤耐性をコードする遺伝子、栄養要求性を相補する遺伝子を利用することができる。
【0102】
また、本発明にかかるDNA又はベクターは、他の成分と混合して用いてもよい。他の成分としては特に制限はなく、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、DNase阻害剤、保存剤が挙げられる。
【0103】
<不飽和炭化水素化合物の生成を促進するための剤>
上述の通り、本発明にかかるデカルボキシラーゼ、該デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを用いることにより、前記式(1)若しくは(3)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物、又はそれらの幾何異性体を脱炭酸させ、前記式(2)又は(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体の生成を促進することが可能となる。
【0104】
したがって、本発明は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン等であるフェルラ酸デカルボキシラーゼ、該フェルラ酸デカルボキシラーゼをコードするDNA又は該DNAが挿入されているベクターを含む、前記式(1)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させ、前記式(2)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の生成を促進するための剤、又は、前記式(3)で表される不飽和炭化水素ジカルボン酸化合物又はその幾何異性体を脱炭酸させ、前記式(5)で表される不飽和炭化水素化合物又はその幾何異性体の生成を促進するための剤を提供する。
【0105】
このような剤としては、本発明にかかるデカルボキシラーゼを含むものであれば良いが、他の成分と混合していても用いてもよい。かかる他の成分としては特に制限はなく、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、プロテアーゼ阻害剤、DNase阻害剤、保存剤が挙げられる。
【0106】
また、本発明は、このような剤を含むキットをも提供することができる。本発明のキットにおいて、上記剤は、本発明にかかるDNA等が導入され、形質転換された、後述の宿主細胞の態様にて含まれていてもよい。さらに、このような剤の他、前記式(1)若しくは(3)で表される化合物、又はそれらの幾何異性体、本発明にかかるDNA等を導入するための宿主細胞、該宿主細胞を培養するための培地、及びそれらの使用説明書等が、本発明のキットに含まれていてもよい。また、このような使用説明書は、本発明の剤等を上述の不飽和炭化水素化合物の製造方法に利用するための説明書である。説明書は、例えば、本発明の製造方法の実験手法や実験条件、及び本発明の剤等に関する情報(例えば、ベクターのヌクレオチド配列等が示されているベクターマップ等の情報、本発明にかかるデカルボキシラーゼの配列情報、宿主細胞の由来、性質、当該宿主細胞の培養条件等の情報)を含むことができる。
【0107】
<本発明にかかるデカルボキシラーゼをコードするDNA等が導入された宿主細胞>
次に、本発明にかかるDNA又はベクターが導入された宿主細胞について説明する。前述のDNA又はベクターの導入によって形質転換された宿主細胞を用いれば、本発明にかかるデカルボキシラーゼを製造することが可能となり、ひいては前記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を製造させることも可能となる。
【0108】
本発明にかかるDNA又はベクターが導入される宿主細胞は特に限定されず、例えば、微生物(大腸菌、出芽酵母、分裂酵母、枯草菌、放線菌、糸状菌等)、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞が挙げられるが、比較的安価な培地にて、短時間にて高い増殖性を示し、ひいては生産性高い、前記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体の製造に寄与し得るという観点から、微生物を宿主細胞として利用することが好ましく、大腸菌を利用することがより好ましい。
【0109】
また、本発明にかかるDNA又はベクターが導入される宿主細胞は、フラビンモノヌクレオチド(FMN)のプレニル化を誘導し、前記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体の生産性向上に寄与するprFMN又はそのアイソマーを産生するという観点から、フラビンプレニルトランスフェラーゼを保持する細胞であることが好ましい。
【0110】
また、本発明にかかるDNA又はベクターが導入される宿主細胞は、ブタジエンの製造においては、本発明にかかるデカルボキシラーゼの基質となるムコン酸を、グルコースを原料として生成し易いという観点から、グルコースから3-デヒドロシキミ酸及びカテコールを介してムコン酸を生合成する経路が活性化されている細胞が好ましい。かかる細胞としては、例えば、ホスホトランスフェラーゼ系酵素及びピルビン酸キナーゼの活性が抑制され、かつコリスミ酸又はイソコリスミ酸から芳香族化合物を合成することを可能とする酵素を有する細胞(例えば、国際公開2017/033965に記載の微生物)、Kruyer NSら、Curr Opin Biotechnol.2017年、Jun;45:136~143ページに記載の大腸菌、シュードモナス・プチダ又は出芽酵母が挙げられる。
【0111】
本発明にかかるDNA又はベクターの導入も、この分野で慣用されている方法に従い実施することができる。例えば、大腸菌等の微生物への導入方法としては、ヒートショック法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法が挙げられ、植物細胞への導入方法としては、アグロバクテリウムを用いる方法やパーティクルガン法が挙げられ、昆虫細胞への導入方法としては、バキュロウィルスを用いる方法やエレクトロポレーション法が挙げられ、動物細胞への導入方法としては、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法が挙げられる。
【0112】
このようにして宿主細胞内に導入されたDNA等は、宿主細胞内において、そのゲノムDNAにランダムに挿入されることによって保持されてもよく、相同組み換えによって保持されてもよく、またベクターであれば、そのゲノムDNA外の独立体として複製され保持し得る。
【0113】
また、本発明にかかるDNA又はベクターが導入された宿主細胞は、後述の実施例において示す方法にて測定される1,3-ブタジエンを生成する触媒活性は、5μM以上(例えば、10μM以上、20μM以上、30μM倍以上、40μM以上)であることが好ましく、50μM以上(例えば、60μM以上、70μM以上、80μM、90μM)であることがより好ましく、100μM以上(例えば、150μM以上、200μM以上、300μM以上、400μM以上)であることがより好ましく、500μM以上(例えば、600μM以上、700μM以上、800μM以上、900μM以上)であることがより好ましく、1mM以上であることが特に好ましい。
【0114】
<本発明のフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体の製造方法>
後述の実施例に示す通り、本発明のフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体をコードするDNA等が導入された宿主細胞を培養することにより、該宿主細胞内にてフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体を製造することができる。
【0115】
したがって、本発明は、本発明のフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体をコードするDNA又は該DNAを含むベクターが導入された宿主細胞を培養し、該宿主細胞に発現したタンパク質を採取する工程を含む、フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体の製造方法をも提供することができる。
【0116】
本発明において、「宿主細胞を培養する」条件は、前記宿主細胞が本発明のフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体を製造できる条件であればよく、当業者であれば、宿主細胞の種類、用いる培地等に合わせて、温度、空気の添加の有無、酸素の濃度、二酸化炭素の濃度、培地のpH、培養温度、培養時間、湿度等を適宜調整し、設定することができる。
【0117】
かかる培地としては、宿主細胞が資化し得るものが含有されていればよく、炭素源、窒素源、硫黄源、無機塩類、金属、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、カゼイン加水分解物、血清等が含有物として挙げられる。また、かかる培地には、例えば、本発明のフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体をコードするDNAの発現を誘導するためのIPTGや、本発明にかかるベクターがコードし得る薬剤耐性遺伝子に対応する抗生物質(例えば、アンピシリン)や、本発明にかかるベクターがコードし得る栄養要求性を相補する遺伝子に対応する栄養物(例えば、アルギニン、ヒスチジン)を添加してもよい。
【0118】
そして、このようにして培養した宿主細胞から、「該細胞に発現したタンパク質を採取する」方法としては、例えば、宿主細胞を濾過、遠心分離等により培地から回収し、回収した宿主細胞を、細胞溶解、磨砕処理又は加圧破砕等によって処理し、さらに、限外濾過処理、塩析、硫安沈殿等の溶媒沈殿、クロマトグラフィー(例えば、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー)等によって、宿主細胞において発現したタンパク質を精製、濃縮する方法が挙げられる。また、本発明のフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体に、前述の精製タグタンパク質が付加されている場合には、該タグタンパク質が吸着する基質を用いて精製し、採取することもできる。さらに、これらの精製、濃縮方法は単独にて行ってもよく、また適宜組み合わせて多段階的に実施し得る。
【0119】
また、本発明のフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体は、上記生物学的合成に限定されることなく、本発明のDNA等及び無細胞タンパク質合成系を用いても製造することができる。かかる無細胞タンパク質合成系としては特に制限はないが、例えば、コムギ胚芽由来、大腸菌由来、ウサギ網状赤血球由来、昆虫細胞由来の合成系が挙げられる。さらに、当業者であれば、市販のペプチド合成機等を用い、本発明のフェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体を化学的に合成することもできる。
【0120】
また、本発明は、前記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を生成する触媒活性が高められたフェルラ酸デカルボキシラーゼの製造方法であって、フェルラ酸デカルボキシラーゼにおいて、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸をグルタミン等に改変させ、好ましくは、他の部位のアミノ酸(例えば、上述の、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸等)を更に改変させる工程を含む、製造方法をも提供することができる。
【0121】
「前記式(2)若しくは(5)で表される不飽和炭化水素化合物、又はそれらの幾何異性体を生成する触媒活性が高められたフェルラ酸デカルボキシラーゼ」とは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸に変異が導入されることにより、好ましくは、前記他の部位のアミノ酸に変異が更に導入されることにより、前記導入前と比較して不飽和炭化水素化合物を生成する触媒活性が高いフェルラ酸デカルボキシラーゼを意味し、その比較対象は通常、上記コウジカビ等の様々な生物由来のフェルラ酸デカルボキシラーゼ及びその天然の変異体である。
【0122】
なお、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位若しくは該部位に対応するアミノ酸、又は、他の部位のアミノ酸(配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位若しくは該部位に対応するアミノ酸等)に導入される変異、すなわちグルタミン等又はヒスチジン等への置換の好適な態様としては、上述の<本発明にかかるデカルボキシラーゼ>の記載を参照のほど。
【0123】
フェルラ酸デカルボキシラーゼにおける「グルタミン等又はヒスチジン等への改変」は、コードするDNAの改変によって行うことができる。「DNAの改変」は、このようなDNAの改変は、上記の通り、当業者においては公知の方法、例えば、部位特異的変異誘発法、改変された配列情報に基づくDNAの化学的合成法を用いて、適宜実施することが可能である。また、「グルタミン等又はヒスチジン等への改変」は、上記の通り、ペプチドの化学的合成法を用いても行うことができる。
【0124】
また、このような変異導入によって、オレフィン化合物を生成する触媒活性が高められたかどうかは、上記の通り、GC-MS分析等により評価することができる。
【0125】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明にかかるフェルラ酸デカルボキシラーゼにおけるアミノ酸は、上述の配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位若しくは該部位に対応するアミノ酸に限定されるものではない。
【0126】
下記実施例において示すとおり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位が、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン等である場合に、不飽和炭化水素化合物を生成する触媒活性は、野生型と比して高くなる。また同様に、配列番号:2に記載のアミノ酸配列の437位がチロシンである場合に、前記触媒活性は高くなる。
【0127】
したがって、本発明は、上述の配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン等であるフェルラ酸デカルボキシラーゼに代えて、
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸が、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼ、
(b)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸が、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、トレオニン、アルギニン、又はアスパラギンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼ、及び
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の437位又は該部位に対応するアミノ酸が、チロシンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼ、
から選ばれる少なくとも1種のフェルラ酸デカルボキシラーゼ、及び該フェルラ酸デカルボキシラーゼを用いる態様も提供し得る。
【0128】
また同様に、本発明は、上述の配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸のグルタミン等への改変に関する態様に代えて、下記(d)~(f)から選択される少なくとも1の改変に関する態様も提供し得る。
(d)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の395位又は該部位に対応するアミノ酸を、グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニンに改変、
(e)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の394位又は該部位に対応するアミノ酸を、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、トレオニン、アルギニン又はアスパラギンに改変、及び
(f)配列番号:2に記載のアミノ酸配列の437位又は該部位に対応するアミノ酸を、チロシンであるフェルラ酸デカルボキシラーゼに改変。
【実施例
【0129】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0130】
(実施例1)
<フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体の作製及び評価>
本発明者らは、ブタジエン(1,3-ブタジエン)を高い生産性にて製造することを可能とすべく、下記4-ビニルグアイヤコール(4VG)の生成反応を触媒するフェルラ酸デカルボキシラーゼ(以下「FDC」とも称する)のアミノ酸に変異を導入し、当該酵素(フェルラ酸デカルボキシラーゼ改変体)の基質特異性を、元来のフェルラ酸からcis,cis-ムコン酸に対するものに変更することで、1,3-ブタジエンを製造することを着想した。
【0131】
【化13】
【0132】
すなわち、フェルラ酸デカルボキシラーゼのアミノ酸に変異を導入し、当該酵素の基質特異性を、元来のフェルラ酸からムコン酸等に対するものに変更することで、下記式に示すような脱炭酸反応を経て、ブタジエン等の不飽和炭化水素化合物を製造することを着想した。
【0133】
【化14】
【0134】
そこで、本発明者らは、以下に示す方法等にて、フェルラ酸デカルボキシラーゼの様々な部位に、アミノ酸置換を伴う変異を導入し、多数のフェルラ酸デカルボキシラーゼの改変体を調製した。そして、それら改変体について、cis,cis-ムコン酸を基質とする1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性を評価した。
【0135】
<プラスミドベクターの調製>
先ず、コウジカビ由来のFDCを大腸菌にて効率良く発現させるために、それをコードする野生型ヌクレオチド配列のC末端にポリヒスチジンタグを融合させた形態にて、大腸菌におけるコドンの使用頻度を考慮して改変した。次いで、かかる改変ヌクレオチド配列からなるDNAを常法に沿って化学合成した。そして、このようにして調製したDNAとpET22b(+)ベクター(Novagen社製)を、Gibson Assembly法(New England Biolabs社のキットNEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(登録商標)を使用)により連結することによって、当該野生型のFDCを、大腸菌において発現可能なプラスミドベクター(FDCベクター)を調製した。同様にして、大腸菌(K-12)株からフラビンプレニルトランスフェラーゼ(以下「UbiX」とも称する)をコードする遺伝子をPolymerase Chain Reaction法により増幅したDNAとpColADuetベクター(Novagen社製)を、Gibson Assembly法により連結することにより、当該野生型のUbiXを大腸菌において発現可能なプラスミドベクター(UbiXベクター)を調製した。
【0136】
次に、下記表7に示す通り、フェルラ酸デカルボキシラーゼの10個の各々の部位において、アミノ酸置換を伴う変異をFDCに導入すべく、各変異が導入されたアミノ酸配列をコードするプライマーを設計し、合成した。
【0137】
【表7】
【0138】
そして、前記FDCベクターを鋳型として、前記プライマーを用い、Gibson Assembly法のプロトコールに従って、各変異が導入されたFDCを、ポリヒスチジンタグをそのC末端に融合させた形態にて、大腸菌において発現可能なプラスミドベクター(FDC改変体ベクター)を調製した。
【0139】
また、FDC改変体ベクターを鋳型とし、FDC変異体をコードする遺伝子をPCRによって増幅した。次いで、得られた増幅産物をFDCベクターに、Gibson Assembly法により連結することによって、野生型FDC及び変異型FDCを、大腸菌において共発現することができるプラスミドベクター(FDCDuetベクター)も調製した。
【0140】
<酵素反応溶液の調製及び酵素活性の測定>
前記のとおり調製したベクター(5μgのFDCベクター又はFDC改変体ベクターと、5μgのUbiXベクター)を、大腸菌C41(DE3)株(Lucigen Corporation社製、100μL)に、ヒートショック法により導入し、野生型のFDC又は各FDC改変体とUbiXとを共発現する形質転換体を調製した。また前記同様に、FDCDuetベクター及びUbiXベクター(各5μg)を、100μLの大腸菌C41(DE3)株に導入することにより、野生型のFDC、各FDC改変体及びUbiXを共発現する形質転換体も調製した。
【0141】
そして、これら形質転換体を各々、アンピシリン及びカナマイシンを添加したLB培地にて6時間培養した。なお、かかる6時間の培養(前培養)により、これら形質転換体の増殖は頭打ちとなる。そのため、後述の酵素反応開始時点での菌体量は、これら形質転換体間において均一となる。
【0142】
また、12g/L トリプトン、24g/L イーストエクストラクト、10g/L グリセロール、9.4g/L リン酸水素二カリウム、2.2g/L リン酸二水素カリウム、20g/L ラクトース、100mg/L アンピシリン及び50mg/L カナマイシンに、基質であるcis,cis-ムコン酸(シグマアルドリッチ社製)を終濃度0.5mMとなるように添加し、酵素反応用培地を調製した。
【0143】
そして、ヘッドスペース型ガスクロマトグラフィー質量分析計(HS/GSMS)用の10mLバイアルに、前記6時間培養した大腸菌培養液100μLと前記酵素反応用培地2.5mLとを添加し、その直後にバイアルのキャップを閉め、37℃、振盪速度180rpmにて更に培養した。当該培養を開始してから18時間後にバイアルのヘッドスペース中に生成された1,3-ブタジエン量を表すピーク面積を、GC-MS(製品名:GCMS-QP Ultra、島津製作所社製)によって測定した。
【0144】
得られたピーク面積に基づき算出した、野生型のFDCに対する、各FDC改変体における1,3-ブタジエン生成量の相対値を、表8、並びに図1及び2に示す。また、1,3-ブタジエン生成量(酵素反応用培地における1,3-ブタジエンの濃度)は、1,3-ブタジエン(東京化成工業株式会社製)を添加した酵素反応用培地2.5mLを、HS/GSMS用の10mLバイアルに添加し、その直後にバイアルのキャップを閉めた標品から得られたピーク面積に基づき算出した。得られた結果を表9に示す。
【0145】
【表8】
【0146】
【表9】
【0147】
表8及び図1に示すとおり、変異を導入した10個の部位にて、395位においては、当該部位のスレオニンを他のアミノ酸(グルタミン、ヒスチジン、アスパラギン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リジン、セリン、アルギニン、チロシン又はフェニルアラニン)に置換することによって、概して1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性が向上すること(野生型のFDCと比較して、少なくとも約3倍は触媒活性が向上すること)が明らかになった。驚くべきことには、395位をアスパラギンに置換した場合には50倍近く、ヒスチジンに置換した場合には70倍近く、特に驚くべきことに、グルタミンに置換した場合には100倍以上、野生型のFDCと比較して、1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性が向上した。
【0148】
また、このように向上された1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性は、表9及び図2に示すとおり、野生型のFDCとを併用することによって、更に高まることが明らかになった。
【0149】
また、表8及び図1に示すとおり、上述の395位におけるアミノ酸置換の他、394位のチロシンのみを他のアミノ酸(フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、トレオニン、アルギニン又はアスパラギン)に置換した場合、及び437位のフェニルアラニンのみをチロシンに置換した場合においても、フェルラ酸デカルボキシラーゼの1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性は、野生型と比して向上することも明らかになった。
【0150】
(実施例2)
<フェルラ酸デカルボキシラーゼ二重アミノ酸改変体の作製及び評価>
実施例1に記載の方法と同様にして、フェルラ酸デカルボキシラーゼの395位をグルタミン、ヒスチジン又はアスパラギンに置換した改変体(各々「T395Q」、「T395H」、「T395N」とも称する)において、更に他の部位にアミノ酸置換を伴う変異を導入し、フェルラ酸デカルボキシラーゼ二重アミノ酸改変体を調製した。そして、それら改変体について、cis,cis-ムコン酸を基質とする1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性を評価した。得られた結果を、「T395Q」、「T395H」及び「T395N」の更なるアミノ酸改変体について、表10~12に各々示す。
【0151】
【表10】
【0152】
【表11】
【0153】
【表12】
【0154】
表10~12に示すとおり、「T395Q」、「T395H」及び「T395N」のいずれにおいても、394位を他のアミノ酸に置換することにより、1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性が更に向上する傾向にあることが明らかになった。特に驚くべきことには、「T395H」において、394位をセリン、ロイシン又はメチオニンに置換した場合には500倍以上、また当該部位をヒスチジンに置換した場合には1000倍以上、野生型のFDCと比較して、1,3-ブタジエンの生成に関する触媒活性が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0155】
以上説明したように、本発明によれば、1,3-ブタジエン等の不飽和炭化水素化合物を高い生産性にて製造することを可能とする酵素、並びに当該酵素を用いた不飽和炭化水素化合物の製造方法を提供することが可能となる。また、本発明によれば、化学合成によらず、生合成によって不飽和炭化水素化合物を製造できるため、環境への負荷が少ない。したがって、本発明は、ブタジエンといった、合成ゴム等の様々な合成ポリマーの原料の製造において極めて有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0156】
配列番号:1
<223> フェルラ酸デカルボキシラーゼ
配列番号:3
<223> 大腸菌における発現のためにコドンが最適化された配列
<223> フェルラ酸デカルボキシラーゼ
配列番号:4
<223> フェルラ酸デカルボキシラーゼ
配列番号:5
<223> フラビンプレニルトランスフェラーゼ
図1
図2
【配列表】
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