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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】シェーグレン症候群の治療用ペプチド
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20230313BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230313BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20230313BHJP
   C07K 14/00 20060101ALN20230313BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61P37/06
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61P27/02
A61P1/02
A61P19/02
A61P17/00
A61P17/16
A61P15/00
A61P11/00
C07K7/08
C07K14/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019534141
(86)(22)【出願日】2018-01-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 IL2018050012
(87)【国際公開番号】W WO2018127914
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】62/442,441
(32)【優先日】2017-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/481,702
(32)【優先日】2017-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/557,153
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503202608
【氏名又は名称】イエダ リサーチ アンド ディベロプメント カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】モーセ,エドナ
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2002/067848(WO,A2)
【文献】国際公開第2004/064787(WO,A2)
【文献】国際公開第2008/087647(WO,A2)
【文献】国際公開第2014/052393(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/10
A61P 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト被験体におけるシェーグレン症候群(SS)の少なくとも1つの症状の治療において使用するための、アミノ酸配列GYYWSWIRQPPGKGEEWIG(配列番号1)からなるペプチドまたはその塩を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記ペプチドのC末端がアミド化されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ペプチドのN末端がアシル化されている、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
50μg~1mgの前記ペプチド、その活性フラグメント、塩、化学誘導体、類縁体またはコンジュゲートを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ヒト被験体の免疫細胞において、SSと関連する少なくとも1つの遺伝子の発現または活性をモジュレートするのに十分な量での投与のための、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
少なくとも1つの遺伝子の発現または活性のモジュレーションが、(i)インターロイキン1(IL-1)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターフェロン誘導性ダイナミンGTPアーゼ(MX1)およびBリンパ球刺激因子(BLyS)からなる群から選択されるサイトカインをコードする少なくとも1つの遺伝子の前記活性または発現をダウンレギュレートすること;ならびに(ii)フォークヘッドボックスP3(FOXP3)、トランスフォーミング増殖因子(TGF-β)またはインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)の前記活性または発現をアップレギュレートすること、から選択される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記IL-1がIL-1βである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記免疫細胞が、末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核細胞(PBMC)である、請求項5~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1つの症状が、ドライアイ、ドライマウス、関節痛、関節腫脹、関節硬直、唾液腺腫脹、皮疹、ドライスキン、腟乾燥、持続性乾性咳嗽および長引く疲労からなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記被験体が、原発性シェーグレン症候群(pSS)に罹患しているか、または
前記被験体が、高レベルのMX1遺伝子またはタンパク質発現によって特定される高いpSSの疾患活動に悩まされている、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
SSを患うヒト被験体の免疫細胞において、SSと関連する少なくとも1つの遺伝子の活性または発現のモジュレートにおいて使用するための、配列番号1のペプチドまたはその塩を含む医薬組成物。
【請求項12】
前記被験体の免疫細胞における少なくとも1つの遺伝子の発現または活性のモジュレーションが、(i)IL-1、TNF-α、MX1およびBLySからなる群から選択されるサイトカインをコードする少なくとも1つの遺伝子の前記活性または発現をダウンレギュレートすること;ならびに(ii)FOXP3、TGF-βまたはIDOの前記活性または発現をアップレギュレートすること、から選択されるか、または
前記免疫細胞がPBLまたはPBMCである、請求項11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、抗DNA抗体の相補性決定領域(CDR)1の配列に基づく合成ペプチドによるシェーグレン症候群の治療のための組成物および治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シェーグレン症候群(SS:Sjoegren’s syndrome)、乾燥症候群とも呼ばれる)は、外分泌腺のリンパ球浸潤を特徴とする慢性で全身性の自己免疫疾患である。SSは、単独で原発性シェーグレン症候群(pSS:primary Sjogren’s syndrome)として、または別の自己免疫疾患に加
えて二次性シェーグレン症候群(sSS:secondary Sjogren’s syndrome)として現れる場合がある。臨床症状は、ドライアイ(眼球乾燥症)、ドライマウス(口内乾燥症)および耳下腺腫大等の軽度の古典的症状から関節炎、関節痛、筋肉痛、肺疾患、胃腸疾患、ニューロパチーおよびリンパ腫等の複数の器官系が関与する重篤な全身症状まで多岐にわたる。
【0003】
SSは、世界中で何百万もの人々を冒していると推定される。SSの男女比は9:1である。SSは、あらゆる年齢の個体を冒す可能性があるが、典型的には、40代~50代で発症する。米国では、SSは2番目に多いリウマチ性障害であると推定される。pSSの罹患率は0.01%~最大4.8%で変化する。この変動性は、定義の違い、診断基準の適用、および年齢集団の違いを反映する。現在、対症療法の他に乾燥症状に対する有効な治療法はないが、重篤な全身兆候は免疫抑制療法を必要とする。
【0004】
本明者に対する国際公開第02/067848号に記載される配列GYYWSWIRQPPGKGEEWIG(配列番号1)を有するhCDR1(Edratide:エドラチド)は、ヒト抗DNAモノクローナル抗体(mAb)16/6Idの重鎖の相補性決定領域(CDR)1番に基づく配列を含むペプチドである。このmAbは、臨床上、全身性エリテマトーデス(SLE)に関連するイデオタイプを持つ。hCDR1では、mAb配列の天然ロイシン(L)残基がペプチドhCDR1の15位でグルタミン酸残基(E)によって置換されている以外は、CDR配列GYYWSの後にヒト16/6Id mAbの重鎖の天然フレームワーク配列が続く。hCDR1は、抗DNAモノクローナル抗体のCDR1に基づくが、hCDR1はDNAも抗DNA抗体も結合せず、B細胞エピトープではなく、T細胞エピトープであることがわかった。自己反応性のT細胞およびB細胞、炎症性サイトカインならびに他の病原性分子のダウンレギュレーションと同様に、制御性T細胞および抑制性/制御性分子をアップレギュレートすることによって、このペプチドが、マウスモデルにおいてSLEの血清学的なおよび臨床上の疾患兆候を改善することが示された。さらに、hCDR1の同様の免疫調節作用が、ヒトループス患者から得られた末梢血単核細胞(PBMC)に対してin-vitroで実証された。第Ia相および第Ib相の臨床研究は、hCDR1が安全であり、ヒトでの忍容性が良好であることを示した。さらに、SLE患者における第II相臨床試験は、いくつかのパラメーターに対するhCDR1の有益な効果を明らかにした(Urowitz et al.,Lupus Science&Medicine 2015,Vol.2:e000104)。
【0005】
SLEと二本鎖DNAに対する抗体(抗dsDNA)との間の関連がはっきりと立証され、Gonzalez et al.(Journal of Immunological Methods,2015,Vol.427,pages 30-35)によって示されるように、検出方法の組み合わせによって、抗dsDNAの結果が陽性であるSLE患者に対し、陽性的中率(PPV:positive predictive value)が得られる。
【0006】
シェーグレン症候群は、遺伝学と環境刺激の組み合わせが関与すると考えられている自己免疫性疾患である。SSは、幾つかの自己抗体および臨床兆候に関してはSLEに似ている。SSの正確な原因は明らかではないが、疾患と抗dsDNA抗体との間の関連は、これまでのところ何らの示唆も報告もされていない。同様に、抗dsDNA抗体と、自己免疫疾患、関節リウマチ(RA:rheumatoid arthritis)および抗リン脂質抗体症候群(APS:antiphospholipid syndrome)との間に関連はない。
【0007】
したがって、SLEが主に抗dsDNA抗体と関連するのに対し、SS患者はかかる抗体を示すことがなく、代わりに、抗Ro抗体および抗La抗体の存在と関連する(Rao and Bowman,Ther.Adv.Musculoskel.Dis.,2013,Vol.5(4),pages 234-249)。
【0008】
PCT出願公開番号第2014/052393号は、SS患者で差次的に発現される遺伝子に基づくSSの診断および治療のための方法に関する。例えば、インターロイキン-1β(IL-1β)および腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)をコードする遺伝子ではなく、インターフェロン誘導性ダイナミンGTPアーゼ(MX1)をコードする遺伝子は、健康な対照被験体と比較して、SS患者において過剰発現されることがわかった。Willekeおよび同僚らは、以前、TNF-αおよびIL-1βを分泌する末梢血単核細胞(PBMC)の数が、対照よりもpSSを有する患者において著しく高いことを見出した(Ann.Rheum.Dis.,2003,Vol.62,pages 359-362)。
【0009】
Maria et al.(Ann Rheu.Dis 2014,Vol.73,pages 1052-1059)は、pSSにおいて全身のI型インターフェロン(IFN)を識別する臨床適用可能なバイオマーカーとしてMX1(MxAと名付けられた)を開示した。I型IFNシグネチャーがpSS患者の半数以上で存在し、より高い疾患活動を有するサブグループを識別することが示されている。
【0010】
ヒトSSでは、Bリンパ球刺激因子(BLyS)のレベルが自己抗体のレベルと相関することが以前に報告された(Mariette et al.,Ann.Rheum.Dis.2003,Vol.62,pages 168-171)。さらに、pSSを有する患者では、DNA高メチル化がCD4+T細胞におけるフォークヘッドボックスP3(FOXP3)の低発現に結びつくことが報告されている(Yu et al.,Clin.Immunol.2013,Vol.148(2),pages 254-257;Liu et al.,Lupus,2008,Vol.17,pages 34-39)。
【0011】
Maria et al.(Arthritis&Rheumatology,2016,Vol.68(7),pages 1688-1699)は、最近、pSSの病因における高レベルのインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)酵素の役割を示唆した。
【0012】
安全で有効であって特異的な方法によるSSの治療のための薬剤および方法に対し、いまだ対処されていない医学的ニーズが存在する。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、ヒト被験体においてシェーグレン症候群(SS)またはSSと関連する少なくとも1つの症状を治療または改善する方法を提供する。本発明は、SSが抗DNA抗体によって引き起こされない、またはそれと関連しないことが知られているという事実にもかかわらず、DNAに対するヒト抗体のCDR1に基づく、19アミノ酸の合成ペプチドであるhCDR1が、SSの治療に有効であるという予想外の知見に基づく。
【0014】
本発明は、部分的に、in-vitroでhCDR1とインキュベートされた場合にSS患者から単離された末梢血免疫細胞が特定の遺伝子の発現の統計学的に有意な変化を示すという知見に基づく。
【0015】
本発明は、一態様では、SSと関連する少なくとも1つの症状の治療または改善における使用に対する、配列番号1に記載されるアミノ酸配列GYYWSWIRQPPGKGEEWIGを含むペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、その類縁体、またはそのコンジュゲートを含む医薬組成物を提供する。
【0016】
特定の実施の形態では、上記ペプチドは19個~40個の連続するアミノ酸を含む。特定の実施の形態では、上記ペプチドは19個~40個の連続するアミノ酸からなる。更に他の実施の形態では、上記ペプチドは19個~35個、19個~30個、または19個~25個の連続するアミノ酸からなる。
【0017】
特定の実施の形態では、上記ペプチドは配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなる。他の実施の形態では、上記ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列の類縁体または化学誘導体からなる。
【0018】
特定の実施の形態では、上記化学誘導体は修飾されたC末端および/またはN末端を有するペプチドである。特定の実施の形態では、上記化学誘導体はアミド化されたC末端を有するペプチドである。他の実施の形態では、上記ペプチドはアシル化されたN末端を含む。
【0019】
幾つかの実施の形態では、配列番号1に関して1個~4個のアミノ酸残基の置換、付加または欠失を含む配列番号1のペプチドの類縁体が提供される。幾つかの具体的な実施の形態では、上記類縁体は、配列番号1に対する1個のアミノ酸の付加、欠失または置換を含む。
【0020】
幾つかの実施の形態によれば、上記医薬組成物は、配列番号1のペプチドのフラグメントである、14個~18個のアミノ酸残基のペプチドを含む。他の実施の形態によれば、配列番号1のフラグメントは17個~18個の連続するアミノ酸残基からなる。幾つかの具体的な実施の形態によれば、上記ペプチドフラグメントは、
配列番号3-YYWSWIRQPPGKGEEWIG;
配列番号4-YWSWIRQPPGKGEEWIG;
配列番号5-GYYWSWIRQPPGKGEEWI;
配列番号6-GYYWSWIRQPPGKGEEW;および
配列番号7-YYWSWIRQPPGKGEEWI
からなる群から選択される。
【0021】
更に他の実施の形態では、上記医薬組成物は、配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、および配列番号7からなる群から選択される配列からなる少なくとも1つのペプチド、またはその塩を含む。
【0022】
特定の実施の形態では、上記コンジュゲートは、追加分子に共有結合された、配列番号1のペプチド、またはその誘導体もしくは類縁体を含む。上記ペプチドおよび追加分子は、直接に、またはスペーサーもしくはリンカーによって共有結合されてもよい。特定の実施の形態では、上記追加分子は、少なくとも1個の追加のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質、透過性増強部分、および巨大分子担体からなる群から選択される。上記追加のペプチドは、配列番号1のペプチド、またはその類縁体もしくは誘導体と同じであってもよく、またはそれらと異なってもよい。幾つかの実施の形態によれば、上記追加のペプチドは、配列番号1に記載される配列を含む。他の実施の形態によれば、上記追加のペプチドは、配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなる。それぞれの可能性が、本発明の別々の実施の形態を表す。
【0023】
幾つかの実施の形態によれば、上記医薬組成物は、50μg~1mgのペプチド、その活性フラグメント、塩、化学誘導体、類縁体またはコンジュゲートを含む。更に他の実施の形態によれば、上記医薬組成物は、100μg~0.5mgのペプチド、その活性フラグメント、塩、化学誘導体、類縁体またはコンジュゲートを含む。
【0024】
例えば、上記医薬組成物は、毎日、毎週、隔週、毎月または隔月のレジメンで投与され得る。
【0025】
幾つかの具体的な実施の形態によれば、100μg~0.5mgのペプチド、その活性フラグメント、塩、化学誘導体、類縁体またはコンジュゲートを含む医薬組成物が、毎週の投与に対して提供される。
【0026】
幾つかの実施の形態によれば、SSと、または少なくとも1つのSS症状と関連する少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をモジュレートするのに十分な量の投与に対して、少なくとも1つのSS症状の治療における使用に対する医薬組成物が製剤化される。幾つかの実施の形態によれば、少なくとも1つの遺伝子は、インターロイキン1(IL-1)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターフェロン誘導性ダイナミンGTPアーゼ(MX1)、Bリンパ球刺激因子(BLyS)、フォークヘッドボックスP3(FOXP3)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)およびトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)からなる群から選択される。幾つかの実施の形態によれば、IL-1はIL-1βである。それぞれの可能性が、本発明の別々の実施の形態を表す。
【0027】
幾つかの具体的な実施の形態によれば、少なくとも1つの遺伝子の活性または発現のモジュレーションは、ヒト被験体の免疫細胞において、(i)IL-1β、TNF-α、MX1およびBLySからなる群から選択されるサイトカインをコードする少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をダウンレギュレートすること、ならびに(ii)FOXP3、IDOまたはTGF-βをコードする少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をアップレギュレートすること、からなる群から選択される。それぞれの可能性が、本発明の別々の実施の形態を表す。
【0028】
幾つかの実施の形態によれば、免疫細胞は末梢血リンパ球(PBL)または末梢血単核細胞(PBMC)である。
【0029】
本発明は、別の態様では、かかる治療を必要とするヒト被験体において、SSと関連する少なくとも1つの症状を治療または改善する方法であって、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、その類縁体またはコンジュゲートを該被験体に投与することによってSSを治療または改善する工程を含む、方法を提供する。
【0030】
幾つかの実施の形態によれば、上記方法は、配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7からなる群から選択されるペプチド、またはその化学誘導体、類縁体、塩もしくはコンジュゲートを上記被験体に投与することを含む。
【0031】
幾つかの具体的な実施の形態によれば、上記方法は、配列番号1からなるペプチドまたはそのコンジュゲートを上記被験体に投与することを含む。
【0032】
特定の実施の形態では、上記ペプチドは、SSと、またはその症状の少なくとも1つと関連する少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をモジュレートするのに十分な量で投与される。幾つかの実施の形態によれば、少なくとも1つの遺伝子は、IL-1、TNF-α、MX1、BLyS、FOXP3、IDOおよびTGF-βからなる群から選択される。それぞれの可能性が、本発明の別々の実施の形態を表す。
【0033】
幾つかの具体的な実施の形態によれば、少なくとも1つの遺伝子の活性または発現の上記モジュレーションは、被験体の免疫細胞において、(i)IL-1β、TNF-α、MX1およびBLySからなる群から選択されるサイトカインをコードする少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をダウンレギュレートすること、ならびに(ii)FOXP3、IDOまたはTGF-βをコードする少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をアップレギュレートすることからなる群から選択される。それぞれの可能性が、本発明の別々の実施の形態を表す。
【0034】
幾つかの実施の形態によれば、上記方法は、100μg~0.5mgのペプチド、その活性フラグメント、塩、化学誘導体、類縁体またはコンジュゲートを含む医薬組成物の投与を含む。投与は、任意の治療レジメン(regiment)、例えば、毎日、毎週、隔週、毎月または隔月のレジメンであってもよい。
【0035】
幾つかの具体的な実施の形態によれば、上記方法は、100μg~0.5mgのペプチド、その活性フラグメント、塩、化学誘導体、類縁体またはコンジュゲートを含む医薬組成物を、それを必要とする被験体に、毎週投与することを含む。
【0036】
幾つかの実施の形態によれば、上記免疫細胞はPBLおよびPBMCから選択される。
【0037】
特定の実施の形態では、IL-1の発現はダウンレギュレートされる。特定の実施の形態では、IL-1はIL-1βである。特定の実施の形態では、TNF-αの発現がダウンレギュレートされる。特定の実施の形態では、MX1の発現がダウンレギュレートされる。特定の実施の形態では、BLySの発現がダウンレギュレートされる。特定の実施の形態では、FOXP3の発現がアップレギュレートされる。特定の実施の形態では、IDOの発現がアップレギュレートされる。更に他の実施の形態では、TGF-βの発現がアップレギュレートされる。
【0038】
特定の実施の形態では、上記SSと関連する少なくとも1つの症状は、ドライアイ、ドライマウス、関節痛、関節腫脹、関節硬直、唾液腺腫脹、皮疹、ドライスキン、腟乾燥、持続性乾性咳嗽および長引く疲労からなる群から選択される。それぞれの可能性が、本発明の別々の実施の形態を表す。特定の実施の形態では、上記症状はドライアイである。特定の実施の形態では、上記症状はドライマウスである。
【0039】
特定の実施の形態では、上記被験体は原発性シェーグレン症候群(pSS)に罹患している。特定の実施の形態では、上記被験体は二次性シェーグレン症候群(sSS)に罹患している。特定の実施の形態では、上記被験体は更に全身性エリテマトーデス(SLE)に罹患している。
【0040】
幾つかの実施の形態によれば、本発明の組成物による治療に適格な被験体は、その血液または細胞中に高レベルのMX1(MxAとも呼ばれる)タンパク質有することによって識別される。
【0041】
幾つかの実施の形態によれば、治療を必要とする被験体は、高レベルのMX1遺伝子またはタンパク質の発現によって特定される、高いpSS疾患活動を有する患者集団に属する。
【0042】
本発明は、別の態様では、SSと、または該疾患の少なくとも1つの症状と関連する少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をモジュレートする方法における使用に対する、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、その類縁体またはそのコンジュゲートを含む医薬組成物を更に提供する。
【0043】
幾つかの実施の形態によれば、上記発現または活性をモジュレートすることは、SS患者の末梢血リンパ球において、IL-1β、TNF-α、MX1およびBLySからなる群から選択されるサイトカインをコードする少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をダウンレギュレートすること、ならびにFOXP3、TGF-βおよびIDOからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をアップレギュレートすることから選択される。
【0044】
本発明は、別の態様では、SSと、またはその症状の少なくとも1つと関連する少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をモジュレートする方法であって、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、その類縁体またはそのコンジュゲートと細胞を接触させることによって、少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をダウンレギュレートする工程を含む、方法を更に提供する。
【0045】
幾つかの実施の形態によれば、上記活性または発現をモジュレートすることは、SSを患う被験体の免疫細胞において、IL-1β、TNF-α、MX1およびBLySからなる群から選択されるサイトカインをコードする少なくとも1つの遺伝子をダウンレギュレートすること、またはFOXP3、TGF-βもしくはIDOからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の活性もしくは発現をアップレギュレートすることを含み、該方法は、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むもしくはそれからなるペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、その類縁体またはそのコンジュゲートと細胞を接触させることによって、少なくとも1つの遺伝子の活性または発現をダウンレギュレートする工程を含む。
【0046】
幾つかの実施の形態によれば、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むもしくはそれからなるペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、その類縁体またはそのコンジュゲートと接触される免疫細胞は、PBMCである。幾つかの具体的な実施の形態によれば、上記免疫細胞はPBLである。
【0047】
当該技術分野で知られているin-vitro、ex-vivoまたはin-vivoの方法を使用して、上記免疫細胞を本発明の組成物およびペプチドと接触させてもよい。
【0048】
特定の実施の形態では、上記PBLまたはPBMCはSS患者から単離される。特定の実施の形態では、上記ペプチドは配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなる。
【0049】
更なる実施の形態および本発明の適用可能性の全範囲は、以下に与えられる詳細な記載から明らかなものとなる。しかしながら、本発明の趣旨および範囲に含まれる様々な変化および修飾が、この詳細な説明から当業者に明らかとなることから、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の特定の実施の形態を示すものであると同時に、具体例として与えられるに過ぎないと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1A図1Aは、培地単独、および対照スクランブルペプチド(配列番号2)の効果と比較した、RA患者の細胞における遺伝子発現に対するhCDR1の有意差のない効果を説明する棒グラフである。
図1B図1Bは、培地単独および対照スクランブルペプチドの効果と比較した、APSを有する患者の細胞における遺伝子発現に対するhCDR1の有意差のない効果を説明する棒グラフである。
図2図2は、培地単独および対照スクランブルペプチドの効果と比較した、SSを有する患者の細胞における、IL-1β、TNFα、MX1、BLySおよびFOXP3の遺伝子発現に対するhCDR1の有意な効果を説明する棒グラフである。
図3A図3Aおよび図3Bは、pSS(3A)およびRA(3B)を有する被験体の細胞におけるIDO遺伝子発現に対するhCDR1、培地単独および対照スクランブルペプチドの効果を説明する棒グラフである。
図3B図3Aおよび図3Bは、pSS(3A)およびRA(3B)を有する被験体の細胞におけるIDO遺伝子発現に対するhCDR1、培地単独および対照スクランブルペプチドの効果を説明する棒グラフである。
図3C図3Cは、IDO遺伝子の発現に対する培地単独、hCDR1、およびhCDR1とIL-1βまたはIFN-αとの組み合わせの効果を説明する棒グラフである。
図3D図3Dは、IDO遺伝子およびFOXP3遺伝子の発現に対する、hCDR1単独、またはhCDR1とIDO阻害剤1mTとの組み合わせの効果を説明する棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明は、ヒト被験体においてシェーグレン症候群(SS)と関連する少なくとも1つの症状を治療または改善する方法を提供する。具体的には、DNAに対するヒト抗体のCDR1に基づく19アミノ酸合成ペプチドであるhCDR1(エドラチド)がSSの治療に有益で有効であることがわかった。
【0052】
hCDR1は、以前に、高レベルの抗DNA抗体と強く関連する疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)の治療に有効であることが見出されたが、関節リウマチ(RA)および抗リン脂質抗体症候群(APS)等の他のリウマチ学的自己免疫障害の治療に有効であることは示されていなかった。SLEとは対照的に、自己免疫性疾患であるRA、APSおよびSSは、抗DNA抗体によってまたはそれと関連しては引き起こされないことから、これらの疾患はいずれもhCDR1療法に応答することは予想されていない。しかしながら、本発明は、驚いたことに、hCDR1がRAおよびAPSの患者に有効でないものの、SSの治療に有効であることを実証する。さらに、SS患者で上昇することが知られているインターフェロン誘導性ダイナミンGTPアーゼ(MX1)遺伝子は、以前に、SLEと関連することも、SLE患者でhCDR1療法の効果と関連することも報告されていなかった。いかなる理論または機構にも拘束されるものではなく、本明細書に提示される知見は、hCDR1が、SLE療法におけるその役割とは異なる方法でSS療法において有効であることを示唆する。
【0053】
本発明は、一態様では、SSと関連する少なくとも1つの症状を治療または改善する方法における使用に対する、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、その類縁体またはそのコンジュゲートを含む医薬組成物を提供する。
【0054】
本発明は、別の態様では、ヒト被験体においてSSまたはSSと関連する少なくとも1つの症状を治療または改善する方法であって、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、その類縁体またはそのコンジュゲートを該被験体に投与することによって、SSを治療する工程を含む方法を更に提供する。
【0055】
本明細書で使用される「少なくとも1つの症状を治療または改善する」という句は、本明細書で引用される疾患を改善することおよび/または治癒すること、該疾患の進行を抑制すること、または上記疾患と関連する少なくとも1つの症状の少なくとも改善を指す。
【0056】
本明細書で使用される「配列番号1の活性フラグメント」という用語は、配列番号1の17個または18個の連続するアミノ酸のペプチドを指す。特定の実施形態では、上記活性フラグメントは配列番号1の17個の連続するアミノ酸からなる。特定の実施形態では、上記活性フラグメントは配列番号1の18個の連続するアミノ酸からなる。特定の実施形態では、上記活性フラグメントは、配列番号1の活性の少なくとも50%を保持する。特定の実施形態では、配列番号1の活性フラグメントは配列番号3~7に記載される配列から選択される。それぞれの可能性が、本発明の別々の実施形態を表す。
【0057】
SSと関連する特定の遺伝子は、本発明の治療に応答してモジュレートされる可能性がある。幾つかの実施形態によれば、インターロイキン1β(IL-1β、例えばNP_000567)、腫瘍壊死因子α(TNF-α、例えばNP_000585)、インターフェロン誘導性ダイナミンGTPアーゼ(MX1、例えばNP_002453)、Bリンパ球刺激因子(BLyS、例えばNP_006564)、フォークヘッドボックスP3(FOXP3、例えばNP_054728)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β、例えばNP_000651)、およびインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO、例えばNP_002155)からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子がモジュレートされる。
【0058】
幾つかの実施形態によれば、本発明に包含されるペプチドまたは医薬組成物の投与は、少なくとも1つの遺伝子の発現または活性の変化をもたらす。特定の実施形態では、IL-1の活性がダウンレギュレートされる。特定の実施形態では、IL-1の発現がダウンレギュレートされる。特定の実施形態では、IL-1はIL-1βである。特定の実施形態では、TNF-αの活性がダウンレギュレートされる。特定の実施形態では、TNF-αの発現がダウンレギュレートされる。特定の実施形態では、MX1の活性がダウンレギュレートされる。特定の実施形態では、MX1の発現がダウンレギュレートされる。特定の実施形態では、BLySの発現がダウンレギュレートされる。特定の実施形態では、FOXP3の発現がアップレギュレートされる。特定の実施形態では、IDOの発現がアップレギュレートされる。特定の実施形態では、TGF-βの発現がアップレギュレートされる。
【0059】
特定の実施形態では、ペプチドは、患者の免疫細胞において、(i)IL-1、TNF-α、MX1およびBLySからなる群から選択されるサイトカインをコードする少なくとも1つの遺伝子の活性および/または発現をダウンレギュレートする、または(ii)FOXP3、TGF-βおよびIDOから選択される少なくとも1つの遺伝子の活性および/または発現をアップレギュレートするのに十分な量で投与される。それぞれの可能性が、本発明の別々の実施形態を表す。特定の実施形態では、免疫細胞はPBMCおよびPBLから選択される。
【0060】
特定の実施形態では、上記ペプチドは19個~40個の連続するアミノ酸残基からなる。特定の実施形態では、上記ペプチドは、20個~25個、25個~30個、30個~35個または35個~40個の連続するアミノ酸残基からなる。更に他の実施形態では、上記ペプチドは19個~40個の連続するアミノ酸残基と、アミノ酸残基でない少なくとも1つの部分とを含む。
【0061】
幾つかの実施形態によれば、上記ペプチドは、少なくとも1つの修飾された、ノンコーディングまたは非天然のアミノ酸残基を含む。
【0062】
幾つかの実施形態によれば、上記ペプチドは、少なくとも1つの修飾された結合を含む。幾つかの具体的な実施形態によれば、該修飾された結合は、尿素結合、カルバメート結合、スルホンアミド結合、ヒドラジン結合または任意の他の共有結合からなる群から選択される結合で置換されたアミド結合である。
【0063】
特定の実施形態では、上記ペプチドはペプチド誘導体である。幾つかの実施形態によれば、上記化学誘導体は、少なくとも1つのペプチド末端の修飾を含む。幾つかの実施形態によれば、上記化学誘導体は修飾されたC末端を備える。幾つかの実施形態によれば、上記化学誘導体はペプチドのC末端のアミドである。幾つかの実施形態によれば、上記化学誘導体はペプチドのN末端のアセチル化等の修飾されたN末端を含む。
【0064】
特定の実施形態では、上記医薬組成物は、配列番号1のペプチド、類縁体、誘導体またはフラグメントのコンジュゲートと、少なくとも1つの追加部分とを備える。上記ペプチドと追加部分との複合化は、幾つかの実施形態により、直接であってもよく、または他の実施形態により、リンカーもしくはスペーサーによってもよい。特定の実施形態では、追加分子は、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むまたはそれからなる少なくとも1つの追加のペプチド、および巨大分子担体からなる群から選択される。それぞれの可能性が、本発明の別々の実施形態を表す。特定の実施形態では、上記コンジュゲートのペプチドは、配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなる。
【0065】
「リンカー」という用語は、その目的が細胞透過性部分と、ペプチドまたはペプチド模倣物とを共有結合することである化学部分を意味する。スペーサーは、透過性増強部分とペプチドとの間の距離を許容するために使用されてもよく、またはスペーサーは任意の種類の化学結合である。リンカーは直接化学結合またはスペーサーを意味する。
【0066】
「透過性」は、バリア、膜または皮膜層を通って薬剤または物質が浸透する、染み込む、または拡散する能力を指す。「細胞透過性」または「細胞浸透」部分は、膜を通る分子の浸透を促進するまたは増強することができる当該技術分野において知られている任意の分子を指す。非限定的な例として、脂質、脂肪酸、ステロイド、および大きな芳香族または脂肪族の化合物等の疎水性部分;ステロイド、ビタミンおよび糖等の細胞膜受容体または担体を有し得る部分、天然および非天然のアミノ酸、トランスポーターペプチド、ナノ粒子およびリポソームが挙げられる。
【0067】
上記ペプチドの安定性、可溶性、透過性、または任意の他の薬物動態学的特性を改善することができる任意の部分を、その活性を破壊することなく、またペプチドコンジュゲートに抗原性または有害作用を与えない限り、配列番号1のペプチドと、またはそのフラグメント、誘導体もしくは類縁体と複合化させてもよい。
【0068】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物によって治療または改善される症状は、ドライアイ、ドライマウス、関節痛、関節腫脹、関節硬直、唾液腺腫脹、皮疹、ドライスキン、腟乾燥、持続性乾性咳嗽および長引く疲労からなる群から選択される。それぞれの可能性が、本発明の別々の実施形態を表す。特定の実施形態では、該症状はドライアイである。特定の実施形態では、該症状はドライマウスである。
【0069】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物によって治療される被験体は、原発性シェーグレン症候群(pSS)に罹患している、すなわちSSのみに罹患している。特定の実施形態では、該患者は、二次性シェーグレン症候群(sSS)に罹患している、すなわち更なる自己免疫疾患と併せてSSに罹患している。特定の実施形態では、該患者は、更に、全身性エリテマトーデス(SLE)に罹患している。
【0070】
本発明は、別の態様では、SSと関連する少なくとも1つの遺伝子の発現または活性をモジュレートする方法における使用に対する、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むもしくはそれからなるペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、その類縁体またはそのコンジュゲートを含む医薬組成物を更に提供し、ここで、モジュレートすることは、SS患者の末梢血リンパ球において、(i)IL-1β、TNF-α、MX1およびBLySからなる群から選択されるサイトカインをコードする少なくとも1つの遺伝子の活性および/または発現をダウンレギュレートすること;ならびに(ii)FOXP3、TGF-βおよびIDOから選択される少なくとも1つの遺伝子の活性および/または発現をアップレギュレートすること、から選択される。
【0071】
本発明は、別の態様では、SSと関連する少なくとも1つの遺伝子の発現または活性をモジュレートする方法を更に提供し、ここで、モジュレートすることは、SS患者の免疫細胞において、(i)IL-1β、TNF-α、MX1およびBLySからなる群から選択されるサイトカインをコードする少なくとも1つの遺伝子の活性および/または発現をダウンレギュレートすること;ならびに(ii)FOXP3、TGF-βまたはIDOの活性および/または発現をアップレギュレートすることから選択され、該方法は、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、その類縁体、またはそのコンジュゲートと細胞を接触させることによって、上記少なくとも1つの遺伝子の活性および/または発現をモジュレートする工程を含む。
【0072】
特定の実施形態では、上記免疫細胞はPBLまたはPBMCである。特定の実施形態では、PBLまたはPBMCはSS患者から単離される。特定の実施形態では、使用されるペプチドは、配列番号1に記載されるアミノ酸配列からなる。
【0073】
特定の実施形態では、hCDR1ペプチドは、直接または短い連結鎖(linking chain)のいずれかによって互いに共有結合されたhCDR1ペプチドの2つのコピーを含むデュアルペプチドである。特定の実施形態では、hCDR1ペプチドは、直接または短い連結鎖のいずれかによって互いに共有結合されたhCDR1ペプチドの複数のコピーを含む多重合成ペプチドである。
【0074】
また、本発明は、ペプチドhCDR1の化学誘導体を含む。「化学誘導体」という用語は、1個以上のアミノ酸が本来のペプチドに存在するアミノ酸残基の官能性側鎖の反応によって化学的に誘導体化された、本来のペプチドに由来する任意のペプチドを指す。したがって、「化学誘導体」は、1以上の化学工程によって本明細書で識別される配列またはペプチドに由来するペプチドである。「化学誘導体」という用語は、通常はペプチドの一部ではない追加の化学部分を更に含み、その有用性を可能とするペプチドの機能の少なくとも一部を保持する限り本発明によって包含される。例えば、化学誘導体は、上記ペプチドの選択された側鎖または末端残基と反応することができる有機誘導体化剤の反応から生じ得て、該ペプチドの機能の少なくとも一部を保持する。これらの化学誘導体のうち、アミド、すなわちC末端にあるカルボキシル基のアミドと、アスパラギン酸残基またはグルタミン酸残基の遊離カルボキシル基のアミドの両方について特に関心が持たれる。多くのかかる化学誘導体およびそれらを作製するための方法が当該技術分野でよく知られている。特定の実施形態では、本発明のペプチドの化学誘導体は、上記ペプチドの機能の少なくとも50%を保持する。特定の実施形態では、本発明のペプチドの化学誘導体は、上記ペプチドの機能の少なくとも75%を保持する。特定の実施形態では、本発明のペプチドの化学誘導体は、上記ペプチドの機能の少なくとも90%を保持する。特定の実施形態では、本発明のペプチドのコンジュゲートは、上記ペプチドの機能の少なくとも50%を保持する。特定の実施形態では、本発明のペプチドのコンジュゲートは、上記ペプチドの機能の少なくとも75%を保持する。特定の実施形態では、本発明のペプチドのコンジュゲートは、上記ペプチドの機能の少なくとも90%を保持する。
【0075】
誘導体として、例えば、カルボキシル基の脂肪族エステル、アンモニアまたは第一級もしくは第二級アミンとの反応によって生じたカルボキシル基のアミド、アシル部分(例えばアルカノイル基または炭素環式アロイル基)との反応によって形成されたアミノ酸残基の遊離アミノ基のN-アシル誘導体、またはアシル部分との反応によって形成された遊離ヒドロキシル基(例えば、セリル残基またはトレオニル残基の)のO-アシル誘導体が挙げられ得る。
【0076】
「類縁体」という用語は、1個以上のアミノ酸の変化を除いて、本発明によるアミノ酸配列を有する分子を示す。また、本発明による類縁体は、ペプチド模倣物も含み得る。「ペプチド模倣物」は、本発明によるペプチドが、少なくとも1個のノンコーディング残基または非ペプチド結合を含むように修飾されることを意味する。かかる修飾は、例えば、1個以上の残基のアルキル化およびより特異的なメチル化、非天然アミノ酸の挿入または非天然アミノ酸による天然アミノ酸の置換、別の共有結合によるアミド結合の置換が挙げられる。本発明によるペプチド模倣物は、任意に、尿素結合、カルバメート結合、スルホンアミド結合、ヒドラジン結合、または他の共有結合等のアミド置換結合である少なくとも1つの結合を含んでもよい。適切な「類縁体」の設計は、コンピューターによって支援され得る。類縁体は、それらが薬学的に許容可能である限り、本発明に含まれる。
【0077】
本発明で使用されるアミノ酸は、商業的に入手可能であるか、または通例の合成方法によって入手可能なものである。特定の残基は、ペプチドへの組み込みに対して特殊な方法を必要とする場合があり、ペプチド配列に対する逐次合成、分岐的合成または収束合成のアプローチのいずれかが本発明において有用である。天然コード化アミノ酸およびそれらの誘導体は、IUPACの慣例に従い3文字コードによって表される。指示がない場合は、L異性体を使用した。D異性体は、残基略語の前の「D」によって示される。
【0078】
当業者に知られているアミノ酸の保存的置換は、本発明の範囲に含まれる。保存的アミノ酸置換として、例えば、脂肪族、芳香族、プラスに帯電した、マイナスに帯電した、同じ種類の官能基または側鎖を有する別のアミノ酸による、或る1個のアミノ酸の置換が挙げられる。これらの置換は、経口バイオアベイラビリティー、膵島への浸透、特定のβ細胞集団に対するターゲッティング、免疫原性等を増強し得る。当業者は、コード化された配列中の1個のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変更、付加または欠失するペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失または付加が、その変更が化学的に類似するアミノ酸による或るアミノ酸の置換を生じる場合、「保存的に修飾された変異体」であることを認識する。機能的に類似するアミノ酸を提供する保存的置換の表は、当該技術分野でよく知られている。
【0079】
以下の6つの群は、各々、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0080】
また、hCDR1ペプチドの塩も本発明の範囲に含まれる。本明細書で使用される「塩」という用語は、カルボキシル基の塩、およびペプチド分子のアミノ基の酸付加塩の両方を指す。カルボキシル基の塩は当該技術分野で知られている手段によって形成され得て、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、第二鉄塩または亜鉛塩等の無機塩、および例えば、トリエタノールアミン等のアミン、アルギニン、またはリジン、ピペリジン、プロカイン等と形成されるもの等の有機塩基との塩が挙げられる。酸付加塩として、例えば、鉱酸(例えば塩酸または硫酸等)との塩、および有機酸(例えば酢酸またはシュウ酸等)との塩が挙げられる。かかる化学誘導体および塩は、好ましくは、安定性、可溶性等に関する限りペプチドの薬学的特性を修飾するために使用される。
【0081】
ペプチドの誘導体、塩および類縁体は、それらが薬学的に許容可能である限り、すなわち、それらが上記ペプチドの活性を破壊せず、それを含む組成物に対して毒性を付与せず、その免疫原性に悪影響を与えない限り、本発明に含まれる。
【0082】
本発明の更なる実施形態によれば、1個以上のhCDR1ペプチドが好適な巨大分子担体に複合化されてもよく、またはリジンアミノ酸残基等の好適なリンカーによって重合または分岐されてもよい。複合化または重合は、限定されないが、グルタルアルデヒドの存在下での複合化を含む、当該技術分野で知られている任意の方法を使用して行われ得る。
【0083】
特定の実施形態では、上記ペプチド、その誘導体、類縁体、フラグメント、ポリマー、またはそれらの好適な巨大分子担体もしくは他の部分とのコンジュゲートは、それらのバイオアベイラビリティーを保証して、それらを治療に適したものとする形態で患者に投与される。
【0084】
また、本発明はヒトの医療用途の医薬製剤または医薬組成物を企図する。
【0085】
本発明の幾つかの実施形態によれば、少なくとも1つのペプチド、またはそのフラグメント、塩、誘導体もしくは類縁体を含む医薬組成物が提供される。かかる医薬組成物および医薬製剤では、活性物質は、好ましくは、1以上の薬学的に許容可能な担体(複数の場合もある)および任意には任意の他の治療成分と共に利用される。担体(複数の場合もある)は、製剤の他の成分と適合性であり、その受容者に過度に有害ではないという意味で薬学的に許与可能でなくてはならない。活性物質は、上に記載される所望の薬理学的効果を達成するのに有効な量であって、所望の投薬量を達成するのに適した量で提供される。
【0086】
有効成分としての本発明の分子を、良く知られているように薬学的に許容可能であって、有効成分と適合性の賦形剤に溶解させ、分散させ、または混合する。好適な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、デキストロース、グリセロール、エタノール等、およびそれらの組み合わせである。他の好適な担体は当業者によく知られている。さらに、必要に応じて、上記組成物は、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤等の少量の補助物質を含んでもよい。
【0087】
典型的には、本発明の分子を、治療用途に対して無菌の生理食塩溶液に懸濁する。或いは、上記医薬組成物は、有効成分(抗体の抗原結合部分を含む分子)の放出を制御するように、または患者体内でその存在を延長するように製剤化されてもよい。多数の好適な薬物送達システムが知られており、例えば、埋め込み式薬物放出システム、ヒドロゲル、ヒドロキシメチルセルロース、マイクロカプセル、リポソーム、マイクロエマルジョン、マイクロスフェア等が挙げられる。制御放出調剤薬は、本発明による分子を複合体化するまたは吸着するためのポリマーの使用によって調製され得る。例えば、生体適合性ポリマーとして、ポリ(エチレン-co-ビニルアセテート)のマトリクスおよびステアリン酸二量体およびセバシン酸のポリ無水物コポリマーのマトリクスが挙げられる。かかるマトリクスからの本発明による分子の放出速度は、その分子の分子量、マトリクス内の分子の量、および分散された粒子のサイズに依存する。
【0088】
非経口的および経腸の経路を含む任意の好適な投与経路が、本発明によって包含される。投与は、経口、静脈内、皮下、関節内、筋肉内、吸入、鼻腔内、髄腔内、腹腔内、皮内、経皮、動脈内、病巣内、局所または他の既知の経路を使用して行われ得る。特定の実施形態では、上記組成物は注射等の非経口経路によって投与される。幾つかの具体的な実施形態では、上記組成物は皮下投与によって投与される。
【0089】
本発明による分子の治療的有効量は、とりわけ、投与スケジュール、投与される分子の単位用量、分子が他の治療剤と組み合わされて投与されるか否か、患者の免疫状態および健康、投与される分子の治療活性、ならびに担当医師の判断に依存することが、当業者に明らかとなる。本明細書で使用される「治療的有効量」は、或る期間に亘って治療されている障害と関連する1以上の症状を緩和するのに必要な分子の量を指す。
【0090】
本発明の分子の適切な投薬量は投与経路、分子の種類(ペプチド、塩、誘導体、類縁体)、患者の年齢、性別または状態に応じて変化するが、最終的には医師によって決定される。非経口投与の場合、SSを治療するためのhCDR1ペプチド、およびそのフラグメント、誘導体、塩、類縁体またはコンジュゲートの投薬量は、一般的には約5μg~5mgであってもよい。幾つかの実施形態によれば、一日投薬量は50μg~1mgである。更に他の実施形態によれば、一日投薬量は100μg~0.5mgである。上記ペプチドは、例えば、毎日、毎週、隔週、毎月または隔月のレジメンで投与され得る。
【0091】
本発明は、さらに、SSの治療に対する医薬の調製のためのhCDR1ペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、その類縁体、そのコンジュゲートまたはそのポリマーの使用に関する。
【0092】
本発明は、別の態様では、患者におけるSSと関連する少なくとも1つの症状の治療または改善における使用に対する、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、またはそのコンジュゲートを更に提供する。
【0093】
本発明は、別の態様では、SS患者の末梢血リンパ球における、IL-1β、TNF-α、MX1およびBLySからなる群から選択されるサイトカインをコードする少なくとも1つの遺伝子の活性および/または発現のダウンレギュレートすることにおける使用に対する、またはFOXP3、TGF-βまたはIDOの活性および/発現のアップレギュレートすることにおける使用に対する、配列番号1に記載されるアミノ酸配列を含むペプチド、その活性フラグメント、その塩、その化学誘導体、またはそのコンジュゲートを更に提供する。
【0094】
特定の実施形態では、上記ペプチドはリンパ球とex-vivoで接触する。特定の実施形態では、ペプチドとex-vivoで接触したリンパ球を、SS患者に投与する。
【0095】
本発明のペプチドは、組み換え法および合成法を含む当該技術分野で知られている任意の方法によって製造され得る。合成法として、排他的固相合成、部分的固相合成、フラグメント縮合、または古典的溶液合成が挙げられる。固相ペプチド合成の手順は、当業者によく知られている。幾つかの実施形態では、合成ペプチドは、分取高速液体クロマトグラフィーによって精製され、そのペプチド配列は当業者に知られている方法によるアミノ酸シーケンシングを経て確認される。
【0096】
幾つかの実施形態では、当該技術分野で知られている組み換えタンパク質技術を、本発明のペプチドを作製するために使用する。幾つかの実施形態では、組み換えタンパク質技術を、比較的長いポリペプチド(典型的には20アミノ酸より長い)の作製に使用する。
【0097】
特定の実施形態を参照して本発明を記載したが、様々な変更がなされてもよく、本発明の範囲から逸脱することなく等価物が置換され得ることが当業者によって理解される。さらに、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の教示に対して特定の状況または材料を適合させるため、多くの修飾が行われ得る。したがって、本発明は開示される特定の実施形態に限定されないが、本発明は、添付の特許請求の範囲に含まれる全ての実施形態を包含するということが意図される。
【0098】
以下の実施例は、本発明の幾つかの実施形態をより完全に説明するため提示される。しかしながら、決して本発明の幅広い範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0099】
実施例
ペプチド
表1は、本発明のペプチドの幾つかを収載する。

【表1】
【0100】
実施例1
in-vitroでの末梢血リンパ球に対するhCDR1の効果
実験計画
関節リウマチ(RA)患者、抗リン脂質抗体症候群患者(APS)およびSS患者の血液試料から得た5×10/mLの末梢血単核細胞(PBMC)を、培地のみ、hCDR1(配列番号1)25μg/mLを含む培地、または対照スクランブルペプチド(配列番号2)25μg/mLを含む培地においてin-vitroでインキュベートした。48時間のインキュベーションの後、細胞を収集し、全ての試料からmRNAを調製した。様々な遺伝子の発現をリアルタイムRT-PCRを使用して判定した。対照ペプチドは、順番が入れ替えられた配列番号1と同じアミノ酸残基を有する。
【0101】
培地単独と比較したまたは対照ペプチドと比較した、関節リウマチまたは抗リン脂質抗体症候群のいずれかを有する患者のPBMCをhCDR1で処理した場合(それぞれ図1Aおよび図1B)、病原性サイトカインの遺伝子発現に対する著しい効果を観察することはできなかった。これらの知見は、関節リウマチまたは抗リン脂質抗体症候群を有する患者のPBMCに対して、ペプチドhCDR1(配列番号1)が実証可能な免疫調節作用を有していないことを示唆する。
【0102】
対照的に、上記結果は、hCDR1とのSS患者のPBMCのインキュベーションが、SSにおいて病原性とされる3つのサイトカイン(IL-1β、TNF-αおよびMX1)の遺伝子発現の著しい減少(ダウンレギュレーション)をもたらすことを示す(図2)。
【0103】
さらに、上記結果は、hCDR1とのSS患者のPBMCのインキュベーションが、BLyS遺伝子の遺伝子発現の著しい減少(ダウンレギュレーション)、およびFOXP3遺伝子の遺伝子発現の著しい増加(アップレギュレーション)をもたらすことを示す(図2)。
【0104】
関節リウマチまたは抗リン脂質抗体症候群は、SSと同様に、またSLEとは対照的に、抗DNA抗体の存在と関連しないが、関節リウマチまたは抗リン脂質抗体症候群のいずれかを有する患者に由来する細胞において、hCDR1が遺伝子を有利に操作できないことは、本明細書に記載される知見の驚くべき性質を強調する。SSは、多くの兆候がSLEに類似することと並んで、実際、多くのSLE患者がSSの特徴である抗Ro抗体および抗La抗体を持つ。表2および図2は、スクランブルペプチドおよび培地単独による処理と比較した、配列番号1のペプチドで処理した場合のSS患者のPBMCで得られた結果を要約する。
【表2】
【0105】
実施例2
hCDR1によるインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)およびトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)アップレギュレーション
実験計画
pSSを有する患者のPBMCを単離し、培地、hCDR1(配列番号1)または対照スクランブルペプチド(配列番号2)の存在下、in vitroで48時間インキュベートした。その後、RNAを細胞から抽出し、遺伝子発現をリアルタイムRT-PCRによって判断した。図3Aは、培地単独とのまたは対照ペプチドの存在下での細胞インキュベーション後のIDO遺伝子の発現と比較して、pSSを有する患者のPBMCとのhCDR1のin-vitroインキュベーションが、該遺伝子の発現を有意にアップレギュレートすることを実証する。図3Bに示されるように、hCDR1がRAを有する被験体のPBMCにおけるIDOの発現に有意に影響しなかったことから、この効果はpSSを有する患者に特異的である。
【0106】
SS患者から単離されたPBMCにおいて、hCDR1とのそれらのPBMCのインキュベーションに応答して有意にアップレギュレートされたTGF-βに対する遺伝子の発現を伴って同様の結果が得られた(培地単独および対照ペプチドとインキュベートした細胞と比較して、hCDR1とインキュベートした細胞についてそれぞれp=0.012およびp=0.028)が、培地単独または対照スクランブルペプチドではそのような結果は得られなかった。
【0107】
IL-1βとIFN-αの両方がIDOの産生および発現を増加させると報告されたことから、IDO遺伝子発現に対するhCDR1とのPBMCの培養物に対する組み換えIL-1βまたはIFN-αの添加の効果を更に試験した。図3Cに示されるように、これらのサイトカインのいずれかの添加が、hCDR1単独の存在下で決定されるものよりもはるかに高いレベルまでIDO遺伝子の発現を増加させた。
【0108】
hCDR1誘導性にアップレギュレートされたIDO発現が、pSS患者におけるサイトカインのバランスに対するhCDR1の有利な効果に寄与するかどうかを確認するため、IDO阻害剤である1-メチル-D-トリプトファン(1mT)をpSS患者のPBMCとのhCDR1の培養物に添加した。機能的T制御性細胞で発現される抑制性マスター遺伝子FOXP3の発現に対するIDO阻害の効果を試験した。図3Dは、hCDR1とのPBMC培養物に対する1mTの添加がIDO遺伝子発現の有意な減少につながったことを実証する。さらに、IDOの阻害は、FOXP3の発現をアップレギュレートするhCDR1の能力を干渉して、FOXP3の有意なダウンレギュレーションをもたらした。これらの結果は、FOXP3を発現する機能的制御性T細胞のhCDR1誘導性アップレギュレーションが、少なくとも部分的にはIDO経路を経ることを示唆する。
【0109】
実施例3
実験計画-SSの動物モデル
in vivoでSSの症状を確立することを目標として様々なマウスモデルが開発された。Park et al.は、上記モデルを、SS様疾患のスポンテニアスな発症、遺伝子操作された発症、および実験的に誘導された発症の3つのカテゴリーに分類した(Curr.Pharm.Des.,2015,Vol.21,pages 2350-2364)。
【0110】
本実験では、BALB/cマウス、または同様のモデルマウスを、60-kDa Ro抗原に由来する短鎖ペプチドの腹腔内の反復注射によって免疫し、抗Ro抗体、唾液腺リンパ球浸潤細胞、ヒトSSを非常に彷彿とさせる唾液機能不全を作製した(Scofield et al.,2005,J.Immunol.,Vol.175,pages 8409-8414)。免疫性付与と同時に、ビヒクル単独(PBS)、PBS中の対照ペプチド25μg~50μg、またはPBS中のhCDR1 25μg~50μgをマウスに皮下注射(s.c.)する。治療の前、その間およびその後に、外分泌腺への白血球浸潤、口内乾燥症(ドライマウス)、乾性角結膜炎(ドライアイ)、疲労、関節炎、レイノー現象(血流の減少)、および/または筋骨格系、胃腸管系、肝胆嚢系、血液系、血管系、皮膚科学系、腎臓系および神経系の様々な機能不全等のSS症状の少なくとも1つの変化について上記マウスをモニターする。
【0111】
実施例4
実験計画-臨床試験-第I相
pSSの治療に対するhCDR1(エドラチド)による第I相パイロット研究。
主要評価項目測定基準-pSSを有する患者におけるエドラチドの安全性の評価(有害事象および重篤な有害事象の種類および数)。副次評価項目測定基準-pSSを有する患者におけるエドラチドの治療効果の検討。その他の評価項目測定基準-全体的な健康状態の変化および乾燥症状の改善を調査。
【0112】
選択基準:pSSの診断。除外基準:関連する心疾患、肺疾患、神経疾患または精神疾患;妊娠中または授乳中。性別:両方、年齢:18歳~75歳、健康なボランティアの受け入れ:なし。
【0113】
実施例5
実験計画-臨床試験-第II相
シェーグレン症候群における皮下注射用エドラチドの有効性、忍容性および安全性を評価するための多国間、多施設共同、無作為、二重盲検、プラセボ対照、反復投与、並行群間試験。
【0114】
独自の主要評価項目測定基準-疾患活動スコアの改善。試験材料:エドラチド;毎週1回の0.25mg、0.5mg、1.0mgおよび2.5mgの注射。
【0115】
選択基準:自発的に書面のインフォームドコンセントを与えることができる;18歳~65歳(含む);中程度の活動性疾患を有するpSS患者;妊娠の可能性のある女性は、医学的に許容可能な避妊法を実施しなければならない;研究の要件を理解し、研究プロトコルに従うことに合意しなければならない。除外基準:調査者が、研究への参加に支障を来す可能性があると感じる任意の状態;慢性感染症の病歴を有する被験体;免疫不全症候群または悪性腫瘍の病歴を有する被験体;無作為化の前3カ月以内にいずれかの治験薬による治療を受けた被験体;無作為化の前3カ月の間にいずれかの細胞毒性剤で治療された被験体。性別:両方;年齢:18歳~65歳;健康なボランティアの受け入れ:なし。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
【配列表】
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