(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】塗布ヘッド
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
B05C5/02
(21)【出願番号】P 2021192645
(22)【出願日】2021-11-29
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2021145174
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594073587
【氏名又は名称】プレマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】福居 克幸
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 大輔
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 謙太朗
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/130045(WO,A1)
【文献】特開2011-218350(JP,A)
【文献】特開2010-86811(JP,A)
【文献】特開平8-318196(JP,A)
【文献】特開2004-313874(JP,A)
【文献】特開2018-69230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ダイブロックと、前記固定ダイブロックの摺動面に沿ってスライド移動可能な摺動面を有する可動ダイブロックとを有し、前記固定ダイブロックと前記可動ダイブロックとの間に形成されるスリット状ノズルから塗布液を吐出することが可能な塗布ヘッドであって、
前記固定ダイブロックと前記可動ダイブロックとを密着させる第1加圧機構を有し、
前記固定ダイブロックは、塗布液を前記スリット状ノズルに供給するマニホールドを断面方向に分割した一方側の約半分が形成された第1マニホールドプレート、前記スリット状ノズルの長さ方向の一方側の端部位置を決める第1ブロック、前記第1ブロックの上方側に並設される第2ブロック、及び、前記第1マニホールドプレート、前記第1ブロック、前記第2ブロックを前記可動ダイブロックに対面する側の面に固定するための第1プレートを有し、
前記可動ダイブロックは、前記マニホールドの前記断面方向に分割した他方側の約半分が形成された第2マニホールドプレート、前記スリット状ノズルの他方側の前記端部位置を決める第3ブロック、前記第3ブロックと前記第2マニホールドプレートの上方側に並設される第4ブロック、及び、前記第2マニホールドプレート、前記第3ブロック、前記第4ブロックを前記固定ダイブロックに対面する側の面に固定するための第2プレートを有している、
ことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布ヘッドにおいて、
前記固定ダイブロックは、前記第1ブロックと前記第1プレートとの間に介在されスリットギャップを形成する第1シムプレートを有し、
前記可動ダイブロックは、前記第3ブロックと前記第2プレートとの間に介在され、前記第1シムプレートと組み合わせて前記スリットギャップを形成する第2シムプレートを有している、
ことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項3】
請求項1に記載の塗布ヘッドにおいて、
前記固定ダイブロックの前記摺動面を構成する構成部品、及び、前記可動ダイブロックの前記摺動面を構成する構成部品の一方は、他方より摩擦係数が小さい異種材質で形成されている、
ことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項4】
請求項1に記載の塗布ヘッドにおいて
前記固定ダイブロックの前記摺動面を構成する構成部品、及び、前記可動ダイブロックの前記摺動面を構成する構成部品の少なくとも一方が、樹脂材で形成されるか、又は、前記摺動面の少なくとも一方の面に樹脂被覆層が形成されている、
ことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項5】
請求項1に記載の塗布ヘッドにおいて、
前記第1加圧機構は、前記固定ダイブロックと前記可動ダイブロックとを流体圧を使用して加圧し、塗布液を吐出するときと、前記可動ダイブロックをスライド移動させるときとで、前記流体圧を切り換えることが可能に構成されている、
ことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項6】
請求項1に記載の塗布ヘッドにおいて、
前記第1加圧機構は、前記可動ダイブロックの移動方向に分割された第1加圧部と、
分割された前記第1加圧部の各々が、流体圧を供給する流体圧供給部を有し、
前記流体圧供給部は分割された前記第1加圧部のうち、前記可動ダイブロックと重なる前記第1加圧部には前記流体圧を加え、前記可動ダイブロックとの重なりが解除された前記第1加圧部には前記流体圧を減圧するよう切換えることが可能に構成されている、
ことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項7】
請求項1に記載の塗布ヘッドにおいて、
前記固定ダイブロックと前記可動ダイブロックのどちらか一方に、前記可動ダイブロックの移動方向に平行な平行キー、又は前記平行キーが嵌合し摺動可能なキー溝が設けられている、
ことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の塗布ヘッドにおいて、
前記平行キー及び前記キー溝を構成する構成部品の一方は、他方より摩擦係数が小さい異種材質で形成されている、
ことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項9】
請求項7に記載の塗布ヘッドにおいて、
前記平行キー又は前記キー溝を構成する構成部品の少なくとも一方が樹脂材で形成されるか、又は、前記平行キーと前記キー溝との前記摺動面の少なくとも一方に樹脂被覆層が形成されている、
ことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項10】
請求項1に記載の塗布ヘッドにおいて、
前記固定ダイブロック及び前記可動ダイブロックの上方端面側に配置され、前記固定ダイブロックを固定する上部プレート、及び、前記上部プレートに保持され、流体圧を使用して前記可動ダイブロックを下方側に加圧するための第2加圧部で構成される第2加圧機構をさらに有している、
ことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項11】
請求項10に記載の塗布ヘッドにおいて、
前記第2加圧機構は、塗布液を吐出するときと、前記可動ダイブロックをスライド移動させるときとで、前記流体圧を切換えることが可能に構成されている、
ことを特徴とする塗布ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従前から、スリット状ノズルからワーク上にレジスト、特殊膜剤或いは接着剤などの液体を吐出し、ワークに塗膜を形成する装置として塗布ヘッドが使用されている。このような塗布ヘッドは、スピンコート法よりも塗布膜厚みの精度がよい、塗布速度が速い、並びに液体(液剤)の使用効率が良いなどの特長を有しており塗布膜形成装置として広く使用されてきている。
【0003】
特許文献1には、2つのL字形状のリップ材(ダイブロックに相当する)を突き当てスリット状ノズルを形成する塗布ヘッドが開示されている。この塗布ヘッドは、2つ対面する一方のリップ材の短辺側面を他方のリップ材の長辺側面に突き当てることによって、スリット状ノズルの開口部の幅に相当するスリットギャップを形成している。スリット状ノズルの開口部に対して反対側は、天板部材によって封止されている。塗布ヘッドは、2つのリップ材を相対的に塗布幅方向に移動させて塗布幅を変更することが可能になるように構成されている。
【0004】
特許文献2に記載される塗布ヘッドは、対面するチャンバプレート(一方のダイブロックに相当する)とブロッキングプレート(他方のダイブロックに相当する)との間に構成されるスリット状ノズルを有し、塗布幅方向に移動自在に配置される一対の板状のシール部材と、一対のシール部材を塗布幅方向に離間及び近接させて、スリット状ノズルの塗布幅方向の開閉動作をするシール部材移動手段をさらに有している。一対のシール部材は、スリットギャップを決定するスペーサシム(シムプレートの相当する)の開口部内を移動することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-313874号公報
【文献】特開2018-69230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の塗布ヘッドは、スリット状ノズルを天板部材で封止している。しかし、ダイブロックに天板部材を固定するために段付け加工をしなければならないが、このような加工を行う場合、平面部と立ち上がり部の交差位置には加工残り(コーナーアールということがある)ができるため、この位置から塗布液が漏れ出てしまうという課題がある。塗布ヘッドは、塗布幅を変更する際に、2つのダイブロックを加圧しながら相対的に塗布幅方向に移動させることから、接触面に傷がついたり、その傷によって摩擦負荷が大きくなったりすることがある。
【0007】
また、2つのダイブロックは、塗布液の漏れを防ぐこと、摩擦負荷を減少させることのためにダイブロックの接触面を鏡面仕上げにすることが好ましいが、対面がL字形状を有しているため、相互の接触面を鏡面仕上げにすることは困難である。ダイブロックは、対面に段差があるため、加工ばらつきによって、スリットギャップがばらつき、このばらつきがあることによって塗布厚みが不安定になる。塗布厚みを安定させるためには、スリットギャップを一定にするために2つのダイブロックを強い力で接触面全体を加圧する必要があるが、この構造については何ら記載されていない。
【0008】
上記特許文献2に記載の塗布ヘッドは、シムプレート及びシール部材がそれぞれ2枚で構成されており、これら4枚の部材の厚みを全て同一に加工することは困難である。例えば、シール部材がシムプレートより薄い場合には、塗布幅が設定値よりシール部材の長さ分広くなることがある。また、シール部材がシムプレートより厚い場合には、スリットギャップが設定値より大きくなるとともに、塗布液がシール部材を回り込んで流れ出し、そのことから塗布幅を制御することが困難になるという課題がある。
【0009】
また、塗布幅を変更する際には、シール部材は2つのダイブロックの対面を摺動して移動するため、シール部材及びダイブロックの衝動面に傷がついたり、この傷によってシール部材の摩擦負荷が大きくなったりするという課題がある。
【0010】
また、シール部材移動手段は、液溜り部(マニホールドという)の内外を連通している。従って、このような塗布ヘッドは、マニホールドに液漏れの可能性がある箇所を複数有していることになり、液漏れが発生する機会が増える可能性がある。
【0011】
そこで、本発明は、このような課題の少なくとも一つを解決するためになされたものであり、塗布液の流路系の液漏れを防止し、固定ダイブロックと可動ダイブロックとの摺動面に傷がつくことを防止し、塗布厚みを安定させることが可能な塗布ヘッドを実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]本発明の塗布ヘッドは、固定ダイブロックと、前記固定ダイブロックの摺動面に沿ってスライド移動可能な摺動面を有する可動ダイブロックとを有し、前記固定ダイブロックと前記可動ダイブロックとの間に形成されるスリット状ノズルから塗布液を吐出することが可能な塗布ヘッドであって、前記固定ダイブロックと前記可動ダイブロックとを密着させる第1加圧機構を有し、前記固定ダイブロックは、塗布液を前記スリット状ノズルに供給するマニホールドの断面方向に分割した一方側の約半分が形成された第1マニホールドプレート、前記スリット状ノズルの長さ方向の一方側の端部位置を決める第1ブロック、前記第1ブロックの上方側に並設される第2ブロック、及び、前記第1マニホールドプレート、前記第1ブロック、前記第2ブロックを前記可動ダイブロックに対面する側の面に固定するための第1プレートを有し、前記可動ダイブロックは、前記マニホールドの前記断面方向に分割した他方側の約半分が形成された第2マニホールドプレート、前記スリット状ノズルの他方側の前記端部位置を決める第3ブロック、前記第3ブロックと前記第2マニホールドプレートの上方側に並設される第4ブロック、及び、前記第2マニホールドプレート、前記第3ブロック、前記第4ブロックを前記固定ダイブロックに対面する側の面に固定するための第2プレートを有している、ことを特徴とする。
【0013】
[2]前記固定ダイブロックは、前記第1ブロックと前記第1プレートとの間に介在されスリットギャップを形成する第1シムプレートを有し、前記可動ダイブロックは、前記第3ブロックと前記第2プレートとの間に介在され、前記第1シムプレートと組み合わせて前記スリットギャップを形成する第2シムプレートを有していることが好ましい。
【0014】
[3]本発明の塗布ヘッドにおいては、前記固定ダイブロックの前記摺動面を構成する構成部品、及び、前記可動ダイブロックの前記摺動面を構成する構成部品の一方は、他方より摩擦係数が小さい異種材質で形成されていることが好ましい。
【0015】
[4]本発明の塗布ヘッドにおいては、前記固定ダイブロックの前記摺動面を構成する構成部品、及び、前記可動ダイブロックの前記摺動面を構成する構成部品の少なくとも一方が、樹脂材で形成されるか、又は、前記摺動面の少なくとも一方の面に樹脂被覆層が形成されていることが好ましい。
【0016】
[5]本発明の塗布ヘッドにおいては、前記第1加圧機構は、前記固定ダイブロックと前記可動ダイブロックとを流体圧を使用して加圧し、塗布液を吐出するときと、前記可動ダイブロックをスライド移動させるときとで、前記流体圧を切り換えることが可能に構成されていることが好ましい。
【0017】
[6]本発明の塗布ヘッドにおいては、前記第1加圧機構は、前記可動ダイブロックの移動方向に分割された第1加圧部と、分割された前記第1加圧部の各々が、流体圧を供給する流体圧供給部を有し、前記流体圧供給部は分割された前記第1加圧部のうち、前記可動ダイブロックと重なる前記第1加圧部には流体圧を加え、前記可動ダイブロックとの重なりが解除された前記第1加圧部には前記流体圧を減圧するよう切換えることが可能に構成されていることが好ましい。
【0018】
[7]本発明の塗布ヘッドにおいては、前記固定ダイブロックと前記可動ダイブロックのどちらか一方に、前記可動ダイブロックの移動方向に平行な平行キー、又は前記平行キーが嵌合し摺動可能なキー溝が設けられていることが好ましい。
【0019】
[8]本発明の塗布ヘッドにおいては、前記平行キー及び前記キー溝を構成する構成部品の一方は、他方より摩擦係数が小さい異種材質で形成されていることが好ましい。
【0020】
[9]本発明の塗布ヘッドにおいては、前記平行キー又は前記キー溝を構成する構成部品の少なくとも一方が樹脂材で形成されるか、又は、前記平行キーと前記キー溝との前記摺動面の少なくとも一方に樹脂被覆層が形成されていることが好ましい。
【0021】
[10]本発明の塗布ヘッドにおいては、前記固定ダイブロック及び前記可動ダイブロックの上方端面側に配置され、前記固定ダイブロックを固定する上部プレート、及び、前記上部プレートに保持され、空気圧を使用して前記可動ダイブロックを下方側に加圧するための第2加圧部で構成される第2加圧機構をさらに有していることが好ましい。
【0022】
[11]本発明の塗布ヘッドにおいては、前記第2加圧機構は、塗布液を吐出するときと、前記可動ダイブロックをスライド移動させるときとで、前記流体圧を切り換えることが可能に構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の塗布ヘッドは、固定ダイブロックと可動ダイブロックとが第1加圧機構の流体圧(例えば、空気圧)よって密着され、スリット状ノズルを形成している。固定ダイブロック及び可動ダイブロックは、それぞれが複数のプレート及び複数のブロックに分割された部材でスリット状ノズルを構成している。これらの各プレート及び各ブロックの接合部は、それぞれの平面及び端面を突き当てて組み立てられる。このように構成することによって、製造上に形成され易いコーナーアールや面取り部をなくすことが可能となり、コーナーアールや面取り部からの液漏れを減少させることが可能となる。また、塗布ヘッドは、固定ダイブロック及び可動ダイブロックの摺動面を摩擦係数の小さい異種材料を組合せて構成し、少なくとも摺動面の構成要素の一方に樹脂材を使用し、又は、樹脂被覆層を形成している。このことによって摺動面の摩擦負荷を低減し、可動ダイブロックを固定ダイブロックに対してスライド移動される際に摺動面に傷がつくことを防止することが可能となる。
【0024】
また、塗布液の塗布厚みは、主としてスリットギャップの均一性によって決められる。本発明の塗布ヘッドは、固定ダイブロック及び可動ダイブロックの摺動面の全体を均一に第1加圧機構の流体圧で加圧している。そのことによって、スリットギャップのばらつきを抑え、塗布厚みを安定させることが可能となる。
【0025】
以上のことから、塗布液の流路系の液漏れを防止するとともに、固定ダイブロックと可動ダイブロックとの摺動面に傷がつくことを防止し、塗布厚みを安定させることが可能な塗布ヘッドを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】塗布ヘッド1の概略構成を示す外観斜視図である。
【
図2】
図1の矢印方向から見た塗布ヘッド1の側面図である。
【
図3】固定ダイブロック10の構成を示す図である。
【
図4】可動ダイブロック11の構成を示す図である。
【
図5】
図2のA-A切断線で切断した切断面を上方側から見たスリット状ノズル12の構成を示す図である。
【
図6】スリット長Lの切換え方法を説明する図である。
【
図7】
図1のB-B切断線で切断した塗布ヘッド1を構成示す縦断面図である。
【
図8】
図7の矢印Q1方向から見た第1加圧機構16の配置構成を説明する図である。
【
図9】
図7の矢印Q2方向から見た第2加圧機構24の配置構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態に係る塗布ヘッド1について、
図1~
図9を参照しながら説明する。以下に説明する塗布ヘッド1は、スリットコート法によって塗布液をワーク上(例えば、基板など)に吐出し塗布膜を形成するものである。なお、以降に説明する各図は、縮尺や形状が実際とは異なる模式図である。
【0028】
(塗布ヘッド1の概略構成)
図1は、塗布ヘッド1の概略構成を示す外観斜視図である。
図2は、
図1の矢印方向から見た塗布ヘッド1の側面図である。
図1、
図2を参照しながら塗布ヘッド1の概略構造について説明する。塗布ヘッド1は、固定ダイブロック10と、固定ダイブロック10に対してY方向に移動可能な可動ダイブロック11とを有している。なお、以降に説明する各図においては、塗布液の塗布進行方向をX、塗布幅方向をY、X-Y平面に対して垂直方向をZ又は上下方向として説明する。固定ダイブロック10と可動ダイブロック11の合わせ面(摺動面)には、スリット状ノズル12(
図5参照)が形成される。固定ダイブロック10、可動ダイブロック11及びスリット状ノズル12の構成については、
図3~
図5を参照して説明する。
【0029】
固定ダイブロック10及び可動ダイブロック11の上方には、両者の厚み範囲を覆う大きさの上部プレート13が配置されている。固定ダイブロック10は、上部プレート13のY方向3か所でボルト15によって上部プレート13に固定されている。また、上部プレート13は、バックプレート14に端面13aを突き当てて、Y方向に配置される複数のボルト15でバックプレート14に固定されている。上部プレート13には、バックプレート14に対して反対側の端面13bにおいて、Y方向4か所でボルト15によって第1加圧機構16が固定されている。第1加圧機構16は、可動ダイブロック11との間に、可動ダイブロック11を固定ダイブロック10側に流体圧によって加圧することが可能な第1加圧部17、及び第1加圧部17を保持する加圧部保持ブロック18によって構成される(
図2、
図7、
図8参照)。なお、第1加圧機構16の流体圧源としては、空気、窒素などの気体、又は油や水などの液体などを使用することが可能であるが、以降に説明する第1加圧機構16においては、流体圧源を空気(圧空)とする例とし、流体圧を空気圧として説明する。
【0030】
固定ダイブロック10には、可動ダイブロック11側に向かって平行キー19が突設され、平行キー19はY方向に延在されている。平行キー19は、可動ダイブロック11に形成されY方向に延在されるキー溝20に嵌合するように構成される。可動ダイブロック11は、平行キー19に沿ってY方向に固定ダイブロック10に対してスライド移動させることが可能となっている。可動ダイブロック11の上部には、上部プレート13の可動ダイブロック11側に保持される第2加圧部21が配置されている。第2加圧部21は、流体圧(例えば、空気圧)によって可動ダイブロック11を下方側に加圧し、キー溝20を押し下げることによって、キー溝20を平行キー19に圧接させ固定ダイブロック10に対する可動ダイブロック11の上下方向のがたつきを「0」にしている。上部プレート13と第2加圧部21とで第2加圧機構24が構成される(
図7、
図9参照)。
【0031】
以上説明したように、塗布ヘッド1は、固定ダイブロック10、可動ダイブロック11、第1加圧機構16及び第2加圧機構24によって構成されている。可動ダイブロック11は、キー溝20を平行キー19に嵌合させ、第1加圧機構16で固定ダイブロック10側に加圧されることによってX方向の位置が保持され、第2加圧機構24によってZ方向の位置が保持されている。固定ダイブロック10と可動ダイブロック11を接合した状態で、スリット状ノズル12の吐出側先端に三角柱の稜線からなるノズル先端部23が形成される。ノズル先端部23は、固定ダイブロック10及び可動ダイブロック11の高さ方向の大きさに対して極めて小さく、塗布液吐出の際、第1加圧機構16によって可動ダイブロック11を加圧したときに変形することがないように構成されている。
【0032】
上記のように構成される塗布ヘッド1は、スリットコーター本体(図示は省略)に水平に配置されているゲートフレーム22にバックプレート14を介してY方向に配置される複数のボルト15によって固定される。可動ダイブロック11には、可動ダイブロック11を固定ダイブロック10に対してY方向にスライド移動させ、さらに塗布ヘッド1全体をY方向にスライド移動させることが可能な塗布ヘッド駆動装置60を有している(
図5参照)。塗布ヘッド駆動装置60は、可動ダイブロック11を移動させてスリット状ノズル12のスリット長Lを決め、被塗布材であるワーク(基板など)に対する塗布液の塗布幅方向の位置を決める役割を担う。このことについては、
図5及び
図6を参照して説明する。
【0033】
(固定ダイブロック10の構成)
続いて、固定ダイブロック10の構成について
図3を参照して説明する。
【0034】
図3は、固定ダイブロック10の構成を示す図である。
図3(a)は、可動ダイブロック11側から見た固定ダイブロック10の構成を示す斜視図である。
図3(b)は、固定ダイブロック10の組み立て分解図である。固定ダイブロック10は、マニホールド30の断面方向に分割された約半分(マニホールド30Aとする)が形成された第1マニホールドプレート31、スリット長Lの一方の端部位置を決める第1ブロック32、第1ブロック32の上部に配置される第2ブロック33、及び、ベースプレートとしての第1プレート34を有している。第1ブロック32と第1プレート34との間には、第1シムプレート35が介在されている。
【0035】
第1マニホールドプレート31、第2ブロック33は、第1プレート34に固定され、第1シムプレート35は、第1ブロック32に挟まれて第1プレート34に固定される。第1マニホールドプレート31と第1ブロック32との接合部、第1ブロック32と第2ブロック33との接合部、及び第1マニホールドプレート31と第2ブロック33とが接合する各端面は密着されている。また、第1マニホールドプレート31の表面31aと第2ブロック33の表面33aの第1プレート34からの高さは同じである。一方、第1ブロック32の表面32aは、第1マニホールドプレート31の表面31a、及び第2ブロック33の表面33aよりも第1シムプレート35の厚み分高くなる。第1シムプレート35はスリットギャップGを決める機能を担う。
【0036】
固定ダイブロック10において、可動ダイブロック11に対面する表面31a,32a及び33aは、可動ダイブロック11が摺動する摺動面になるため鏡面仕上げが施されている。
図3(b)に示すように、第1ブロック32の端面32bは、第1マニホールドプレート31の端面31bに密着させることによってマニホールド30Aの端部位置を決める。
【0037】
マニホールド30Aの長さ方向の中央部には、マニホールド30内に塗布液を供給するための塗布液供給孔36が設けられている。図示は省略するが、塗布液供給孔36は第1マニホールドプレート31を貫通し可撓性を有するチューブに接続され、このチューブは第1プレート34の開口部37を貫通し塗布液供給装置に接続される。マニホールド30Aには、塗布液に含まれる気泡を外部に排出するための気泡排出部38が2か所に設けられており、気泡排出部38には気泡排出孔39が設けられている。気泡排出孔39は、気泡排出部38から第1マニホールドプレート31の上部端面に達している。図示は省略するが、気泡排出孔39には可撓性を有するチューブが接続され、このチューブは上部プレート13に設けられた開口部40(
図1参照)を貫通し、マニホールド30の上方に集まる気泡を多く含む塗布液を収容するための廃液タンクに接続される。
【0038】
第1マニホールドプレート31の表面31aには、2か所に平行キー19が突設されている。平行キー19は、可動ダイブロック11に形成されたキー溝20に嵌合し、可動ダイブロック11の上下方向の位置を規制する。第1マニホールドプレート31及び第2ブロック33の上部端面には、上部プレート13をボルト15で固定するためのネジ穴41が設けられている。また、第1マニホールドプレート31及び第1ブロック32の下端部には、ノズル先端部23が下方側に突設されている。なお、第1プレート34の第1シムプレート35が配置される面を、第1シムプレート35と同じ平面形状、同じ厚みで突設させる構成としてもよい。
【0039】
(可動ダイブロック11の構成)
続いて、可動ダイブロック11の構成について
図4を参照して説明する。
【0040】
図4は、可動ダイブロック11の構成を示す図である。なお、
図4は、
図3に示す固定ダイブロック10の右側端部を基準とする直線Sを軸に左右に展開したときの可動ダイブロック11を示している。
図4(a)は、可動ダイブロック11の構成を示す斜視図である。
図4(b)は、可動ダイブロック11の組み立て分解図である。
【0041】
可動ダイブロック11は、マニホールド30の断面方向に分割された約半分(マニホールド30Bとする)が形成された第2マニホールドプレート50、固定ダイブロック10に対しスリット長Lの他方側となる端部位置を決める第3ブロック51、第3ブロック51及び第2マニホールドプレート50の上部に配置される第4ブロック52、及び、ベースプレートとしての第2プレート53を有している。第3ブロック51及び第4ブロック52と、第2プレート53との間には、L字形状の第2シムプレート54が介在されている。固定ダイブロック10と可動ダイブロック11とを接合することによって、マニホールド30Aとマニホールド30Bとが合成され断面が略円形のマニホールド30が形成される(
図7参照)。なお、第1ブロック32、第2ブロック33及び第1マニホールドプレート31をさらに分割し、
図3(a)に示すように組み立てて構成することも可能である。
【0042】
第2マニホールドプレート50は、第2シムプレート54のL字形状の解放部位置において第2プレート53に直接固定される。第2シムプレート54は、第3ブロック51及び第4ブロック52に挟まれて第2プレート53に固定される。第2マニホールドプレート50と第3ブロック51との接続部、第3ブロック51と第4ブロック52との接続部、及び第2マニホールドプレート50と第4ブロック52との接続部の各端面は密着される。また、第3ブロック51の表面51a及び第4ブロック52の表面52aの第2プレート53からの高さは同じである。
【0043】
一方、第2マニホールドプレート50は第2シムプレート54を介さずに第2プレート53に固定される。第2マニホールドプレート50の表面50aは、第3ブロック51の表面51a及び第4ブロック52の表面52aよりも第2シムプレート54の厚さ分だけ低くなる。第2シムプレート54と第1シムプレート35の厚みは同じである。第2シムプレート54は第1シムプレート35と厚み方向に重ならないように配置することによって、第1シムプレート35及び第2シムプレート54の厚みに相当するスリットギャップGを形成することが可能となる(
図5参照)。なお、第2プレート53の第2シムプレート54が配置される面を、第2シムプレート54と同じ平面形状、同じ厚みで突設させる構成としてもよい。
【0044】
可動ダイブロック11において、固定ダイブロック10に対面する表面50a,51a及び52aは、固定ダイブロック10に対して摺動する摺動面になるため鏡面仕上げが施されている。マニホールド30Bは、第3ブロック51の端面51bを第2マニホールドプレート50の端面50bに密着させることによって端部位置が決められる。第4ブロック52の表面52aには、平行キー19(
図3(a)参照)が嵌合可能なキー溝20が形成されている。
【0045】
なお、固定ダイブロック10及び可動ダイブロック11は、各々の摺動面を構成する部材が、どちらか一方より摩擦係数が小さい異種材質で形成されている。固定ダイブロック10において、可動ダイブロック11に対する摺動面を有する部材は、第1ブロック32、第2ブロック33及び第1マニホールドプレート31である。また、可動ダイブロック11においては、固定ダイブロック10に対する摺動面を有する部材は、第2マニホールドプレート50、第3ブロック51及び第4ブロック52である。
【0046】
例えば、固定ダイブロック10の上記各部材をSK材とし、可動ダイブロック11の上記各部材も同様にSK材としたときの摩擦係数に対し、可動ダイブロック11側の各部材を銅系金属にすれば、摩擦係数は約1/2になる。また、固定ダイブロック10の上記各部材をSK材とし、可動ダイブロック11側の各部材を樹脂材、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)材にしたときには、SK材―SK材の組み合わせに対して摩擦係数を約1/10以下にすることが可能となる。従って、可動ダイブロック11がスライド移動する際の摩擦負荷を減らすることが可能となり耐摩耗性を向上させることができる。
【0047】
なお、固定ダイブロック10及び可動ダイブロック11の各々の摺動面の少なくとも一方に樹脂被覆層を形成することが可能である。固定ダイブロック10において、可動ダイブロック11に対する摺動面は、第1マニホールドプレート31の表面31a、第1ブロック32の表面32a、及び第2ブロック33の表面33aである。可動ダイブロック11において、固定ダイブロック10に対する摺動面は、第3ブロック51の表面51a、第4ブロック52の表面52a、及び第2マニホールドプレート50の表面50aである。これら互いに摺動する各表面のいずれか、又は両方に樹脂被覆層、例えば、PTFEメッキ層を形成することによって、SK材―SK材の組み合わせに対して摩擦係数を約1/10以下にすることが可能となる。このことによって、可動ダイブロック11がスライド移動する際の摩擦負荷を減らすることが可能となり耐摩耗性を向上させることができる。但し、塗布液の流路を形成する第1マニホールドプレート31の表面31a及び第2マニホールドプレート50の表面50aは、樹脂被覆層によって塗布液との濡れ性が悪くなり、気泡が付着しやすい傾向があるため、第1マニホールドプレート31及び第2マニホールドプレート50には、樹脂被覆層を形成しないことが好ましい。
【0048】
なお、平行キー19とキー溝20とは摺動する。そこで、平行キー19とキー溝20を有する第4ブロック52の一方を他方より摩擦係数が小さい異種材料にすることが好ましい。例えば、平行キー19をSK材とし、第4ブロック52を樹脂材、例えば、PTFE材などにする。又は、その逆にする。或いは、平行キー19に樹脂被覆層、例えば、PTFEメッキ層を形成する。或いは、平行キー19及び第4ブロック52の両方に樹脂被覆層、例えば、PTFEメッキ層を形成することによって、摩擦係数を下げ、可動ダイブロック11がスライド移動する際に平行キー19及びキー溝20の摩擦負荷を減らすることが可能となり耐摩耗性を向上させることができる。なお、平行キー19を可動ダイブロック11側に、キー溝20を固定ダイブロック10側に形成してもよい。次いで、スリット状ノズル12の構成について
図5及び
図6を参照して説明する。
【0049】
(スリット状ノズル12の構成)
図5は、
図2のA-A切断線で切断した切断面を上方側から見たスリット状ノズル12の構成を示す図である。
図5に示すように、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11とは、第1ブロック32と第2マニホールドプレート50とが当接し、第1マニホールドプレート31と第3ブロック51とが当接している。第1ブロック32と第1プレート34との間には、第1シムプレート35が介在されている。また、第2プレート53と第3ブロック51との間には、第2シムプレート54が介在されている。第1シムプレート35と第2シムプレート54の厚みは同じであることから、第1マニホールドプレート31の表面31aと第2マニホールドプレート50の表面50aとの間にスリット状ノズル12が形成される。
【0050】
スリット状ノズル12において、スリットギャップGは第1シムプレート35及び第2シムプレート54の厚みで決められる。従って、スリットギャップGは、第1シムプレート35及び第2シムプレート54の厚みを変更することによって容易に変更することが可能となる。スリット長Lは、第1ブロック32の端面32bと第3ブロック51の端面51bとの距離で決められている。
【0051】
なお、断面形状が半円のマニホールド30Aとマニホールド30Bとが向かい合う範囲が断面形状円形のマニホールド30となる。従って、スリット状ノズル12は、マニホールド30の範囲内に構成されることになる。
図5に示すスリット長Lは一状態例を示しており、スリット長Lはマニホールド30の範囲内において長くしたり、短くしたりすることが可能となっている。スリット長Lは、ワーク上に塗布する塗布液の塗布幅を規定する。スリット長Lは、塗布ヘッド駆動装置60によって可動ダイブロック11を移動させることによって任意に調整することが可能である。
【0052】
図5に示すように、固定ダイブロック10及び可動ダイブロック11は、塗布ヘッド駆動装置60に接続されている。図示は省略するが、塗布ヘッド駆動装置60は、モータ及びギアヘッドを有している。可動ダイブロック11は、ギアヘッドから延在される駆動軸61によって塗布ヘッド駆動装置60に接続されている。固定ダイブロック10は、ギアヘッドから延在される駆動軸62によって塗布ヘッド駆動装置60に接続されている。駆動軸61は、固定ダイブロック10に対して可動ダイブロック11をY方向に移動させる。駆動軸62は、可動ダイブロック11を含み塗布ヘッド1全体をY方向に移動させる。次いで、スリット長Lの切換え方法について
図6を参照して説明する。
【0053】
図6は、スリット長Lの切換え方法を説明する図である。
図6(a)は、スリット長Lが最小のスリット長L0の例を示している。このときの塗布幅の中心位置を中心位置P0とする。
図6(b)は、
図6(a)の状態から、固定ダイブロック10を固定し、可動ダイブロック11をY(+)方向に距離L1だけ移動させた一状態例を表している。つまり、可動ダイブロック11の端面51bを距離L1だけ移動させる。このとき、塗布幅の中心位置は、中心位置P0から中心位置P1に移動する。なお、スリット長L0は、可動ダイブロック11をY(-)方向に移動させることによって「0」に近づけることも可能である。
【0054】
図6(c)は、
図6(b)に示す状態から塗布幅の中心位置P1を移動前の中心位置P0に一致させた状態を示している。塗布ヘッド1は、ワークに対する塗布基準位置である中心位置P0を変えずに塗布幅だけ切換える場合には、可動ダイブロック11をL1分移動し、固定ダイブロック10、つまり、塗布ヘッド1全体をY(-)方向に距離L1の1/2を移動させる。このようにすることによって、塗布幅の中心位置P1を塗布基準位置である中心位置P0に一致させることができる。
【0055】
なお、スリット長LをL0より小さくする場合には、可動ダイブロック11をY(-)方向に移動させ、塗布ヘッド1全体をY(+)方向に塗布幅の切換え分の距離L1の1/2だけ移動させればよい。このようにすれば、塗布幅の中心位置P0を変えずに塗布幅を任意に切換えることが可能となる。なお、塗布ヘッド1は、可動ダイブロック11を移動させながら塗布ヘッド1をY方向に移動させてもよく、塗布ヘッド1をY方向に移動させた後に可動ダイブロック11を移動させてもよい。
【0056】
(第1加圧機構16及び第2加圧機構24の構成)
続いて、第1加圧機構16及び第2加圧機構24の構成について
図1及び
図7~
図9を参照して説明する。まず、第1加圧機構16の構成を説明する。
【0057】
図7は、
図1のB-B切断線で切断した塗布ヘッド1の構成を示す縦断面図である。
図8は、
図7の矢印Q1方向から見た第1加圧機構16の配置構成を説明する図である。なお、固定ダイブロック10及び可動ダイブロック11の構成は、
図3~
図5において説明しているため詳しい説明は省略する。また、
図7及び
図8において、固定ダイブロック10及び可動ダイブロック11には、
図3及び
図4と同じ符号を付している。塗布ヘッド1は、マニホールド30から固定ダイブロック10と可動ダイブロック11との合わせ面に形成されるスリット状ノズル12を通ってノズル開口部25から塗布液が吐出されるように構成されている。第1加圧機構16は、上部プレート13に固定されており、可動ダイブロック11の第2プレート53の側面に沿って配設されている。
【0058】
第1加圧機構16は、可動ダイブロック11との間に可動ダイブロック11を固定ダイブロック10側に向かって空気圧によって加圧することが可能な第1加圧部17A、及び、第1加圧部17Aを保持する加圧部保持ブロック18を有している。
図8に示すように、第1加圧機構16は、第1加圧部17A及び第1加圧部17Bで構成されているが、第1加圧部17A及び第1加圧部17Bは平面サイズが異なるものの、同様な構成を有していることから第1加圧部17Aを代表例として説明する。
【0059】
第1加圧部17Aは、加圧部保持ブロック18の第2プレート53側に設けられた凹部65に収容される。第1加圧部17Aは、凹部65内を機密に保持するためのOリング66、Oリング66によって保持される可動プレート67、及び可動プレート67によって支持される加圧プレート68によって構成されている。加圧プレート68は、PTFE材などの樹脂材又はPTFEメッキ層などの樹脂被覆層が形成された材料などで形成されている。加圧部保持ブロック18には、凹部65と外部とを連通する圧空供給部69が形成されている。図示は省略するが、流体圧供給部である圧空供給部69は、可撓性を有するチューブを介して流体圧供給手段である空気圧供給手段に接続されている。
【0060】
第1加圧機構16は、塗布ヘッド1が塗布膜を形成する際には圧空を供給し、可動プレート67、加圧プレート68を介して可動ダイブロック11を固定ダイブロック10に圧接させ、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11との摺動面を密着させる。これにより、スリットギャップGを所定寸法に規定することが可能となり、さらに、スリット状ノズル12以外の場所からの液漏れを防止することが可能となる。また、第1加圧機構16は、可動ダイブロック11を移動しスリット長Lを切換える際には、圧空の供給を停止し、可動ダイブロック11が固定ダイブロック10を加圧することを解除する。第2プレート53と加圧部保持ブロック18及び可動プレート67との間には、隙間T1を有しているため、圧空の供給を停止すれば可動ダイブロック11を容易に移動させることが可能となる。なお、可動ダイブロック11の移動前(圧空の供給を停止する前)には、マニホールド30への塗布液の供給を停止している。
【0061】
なお、
図7に示す例においては、マニホールド30Aとマニホールド30Aとが向かい合う範囲は、断面形状が略円形のマニホールド30となる。但し、マニホールド30の断面形状は略円形に限らず、楕円や四角形など直線を含む形状としてもよく、任意の形状とすることが可能である。マニホールド30は気泡排出部38に接続し、気泡排出部38は気泡排出孔39に連通されている。記述したように、気泡排出孔39には可撓性を有するチューブが接続されており、このチューブは、上部プレート13に設けられた開口部40を貫通し廃液タンクに接続される(図示は省略)。また、既述したように、マニホールド30は塗布液供給孔36に連通し、塗布液供給孔36は第1マニホールドプレート31を貫通し可撓性を有するチューブに接続され、このチューブは第1プレート34の開口部37を貫通し塗布液供給装置に接続される。
【0062】
なお、第1加圧機構16は、可動ダイブロック11の移動方向(Y方向)に分割された第1加圧部17A,17Bで構成されている。第1加圧部17A,17Bの構成について
図7及び
図8を参照して説明する。
【0063】
図8(a)は、可動ダイブロック11が固定ダイブロック10に対して移動していない初期状態を表している。第1加圧部17Aにおいて、圧空供給部69は、可動プレート67及び加圧プレート68を偏りなく加圧するのに十分な面積を有する拡張部70と、拡張部70と空気圧供給手段とを接続する2か所に設けられる圧空供給路71とによって構成されている。一方、第1加圧部17Bにおいて、圧空供給部69Aは、可動プレート67A及び加圧プレート68Aを偏りなく加圧するのに十分な面積を有する拡張部70Aと、拡張部70Aと空気圧供給手段とを接続する1か所の圧空供給路71Aとによって構成されている。第1加圧機構16は、固定ダイブロック10に固定されていることから、スリット長Lを切換える際には、可動ダイブロック11は第1加圧機構16に対して移動することにもなるため、可動ダイブロック11と第1加圧機構16との相対位置が変化する。そのことについて
図8(b)を参照して説明する。
【0064】
図8(b)は、可動ダイブロック11をY(+)方向に移動させたときの一状態を示している。可動ダイブロック11は、第1加圧部17Bから外れる位置に移動している。例えば、第1加圧部17Aと第1加圧部17Bとが一体で構成されているとき(第1加圧部17とする)、第1加圧部17全体に圧空が供給される。ここで、
図8(b)に示すような位置に可動ダイブロック11を移動させて圧空を供給する。すると、可動ダイブロック11が存在しない位置にある第1加圧部17Bが変形してしまい、固定ダイブロック10に可動ダイブロック11を偏りなく圧接させることができないことが考えられる。そこで、第1加圧部17を2分割し、可動ダイブロック11が第1加圧部17Bから外れる位置に移動する際には、第1加圧部17Aへ加える空気圧は維持しながら第1加圧部17Bへ加える空気圧は減圧する。このことによって、第1加圧機構16と重なる可動ダイブロック11には、固定ダイブロック10に圧接するのに必要な偏りのない加圧力を加えることが可能となる。
【0065】
なお、第1加圧部17の分割は、3分割又は4分割にとし、分割ごとに圧空の供給を切換える構成とすることが可能である。また、可動ダイブロック11の端部が第1加圧部17Bの途中位置で移動を停止する場合には、可動ダイブロック11が第1加圧部17Bの面積の約1/2より大きい位置では圧空を供給する。そして、第1加圧部17Bの面積の約1/2より小さい位置では減圧するというように制御することが可能である。なお、第1加圧機構16の加圧方式は圧空式に限らず、カム機構などを用いた機械方式を採用することが可能である。続いて、第2加圧機構24について
図7及び
図9を参照して説明する。
【0066】
図9は、
図7の矢印Q2方向から見た第2加圧機構24の配置構成を説明する図である。
図7及び
図9に示すように、第2加圧機構24は、上部プレート13と第2加圧部21によって構成されている。第2加圧部21は、上部プレート13の可動ダイブロック11側に設けられた凹部75に収容される。第2加圧機構24は、凹部75内を機密に保持するためのOリング76、Oリング76によって保持される可動プレート77、及び可動プレート77によって支持される加圧プレート78によって構成されている。なお、第2加圧機構24の流体圧源としては、空気、窒素などの気体、又は油や水などの液体などを使用することが可能であるが、以降に説明する第2加圧機構24においては、流体圧源を空気(圧空)とする例とし、流体圧を空気圧として説明する。加圧プレート78には、PTFE材などの樹脂材又はPTFEメッキ層などの樹脂被覆層が形成された材料が使用される。
【0067】
上部プレート13には、凹部75と外部とを連通する2か所の圧空供給路79が形成されている(
図9参照)。図示は省略するが、圧空供給路79は、可撓性を有するチューブを介して空気圧供給手段に接続されている。
図9に示すように、可動プレート77及び加圧プレート78は、平行キー19、19の上方から可動ダイブロック11を下方側に加圧することができる十分な面積を有している。既述したように、可動ダイブロック11は、固定ダイブロック10に対して移動可能である。
図9において、移動後の可動ダイブロック11を二点鎖線で表している。第2加圧機構24は、可動ダイブロック11が移動前、移動後の両方の位置において、常に平行キー19,19の上方を加圧するように配置されている。そのため、固定ダイブロック10に対する可動ダイブロック11のY方向位置(すなわち、スリット長Lの大きさ)に関わらず、可動ダイブロック11と固定ダイブロック10の上下方向の位置ずれは発生しない。
【0068】
第2加圧機構24は、塗布ヘッド1が塗布膜を形成する際には圧空を供給して可動ダイブロック11を下方側に押動する。すると、可動ダイブロック11側のキー溝20は、固定ダイブロック10の平行キー19に密着され、可動ダイブロック11は固定ダイブロック10に対して上下方向位置が規定される。このことによって、ノズル先端部23は、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11の上下方向の位置ずれを抑えることが可能となり、ノズル開口部25(
図7参照)の先端に位置ずれが生じないため、塗布膜厚みを安定させることが可能となる。第2加圧機構24は、可動ダイブロック11を移動しスリット長Lを切換える際には減圧する。上部プレート13と可動ダイブロック11との間には、隙間T2を有しているため、第1加圧機構16とタイミングを合わせて減圧すれば可動ダイブロック11を容易に移動させることが可能となる。
【0069】
以上説明した塗布ヘッド1は、固定ダイブロック10と、固定ダイブロック10の摺動面に沿ってスライド移動可能な摺動面を有する可動ダイブロック11とを有し、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11との間に形成されるスリット状ノズル12から塗布液を吐出しワークに塗布膜を形成する。塗布ヘッド1は、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11とを密着させる第1加圧機構16を有している。固定ダイブロック10は、第1マニホールドプレート31、第1ブロック32、第2ブロック33、及び第1マニホールドプレート31、第1ブロック32、第2ブロック33を可動ダイブロック11に対面する側の面に固定するための第1プレート34を有している。可動ダイブロック11は、第2マニホールドプレート50、第3ブロック51、第4ブロック52、第2プレート53、及び第2マニホールドプレート50、第3ブロック51、第4ブロック52を固定ダイブロック10に対面する側の面に固定するための第2プレート53を有している。
【0070】
このように構成される塗布ヘッド1は、構成要素である複数のプレートや複数のブロックを接合部で密着させることによってスリット状ノズル12を構成している。例えば、
図3(b)を参照して説明すると、第1マニホールドプレート31と第1ブロック32とを一体で形成した場合、一般に製造上において、第1マニホールドプレート31の表面31aと、第1ブロック32の端面32bとの交差位置には加工残り(コーナーアールということがある)ができ、第1ブロック32の端面32bと表面32aの交差部に面取り部が形成される。このように加工残りや面取り部があると、液漏れが発生することになる。しかし、固定ダイブロック10及び可動ダイブロック11において、各ブロックを分割構成として各ブロックを平面で突き当てて密着させることによって、加工残りや面取り部がなくなり、液漏れを減少させることが可能となる。
【0071】
固定ダイブロック10は、第1ブロック32と第1プレート34との間に介在されスリットギャップGを形成する第1シムプレート35を有し、可動ダイブロック11は、第3ブロック51と第2プレート53との間に介在され、第1シムプレート35と組み合わせてスリットギャップGを形成する第2シムプレート54を有している。第1シムプレート35及び第2シムプレート54は、単純な板部材で構成されるため、第1シムプレート35及び第2シムプレート54の厚みを変更することによって、スリットギャップGを容易に変更することが可能となる。
【0072】
また、固定ダイブロック10は、摺動面を構成する構成部品である第1マニホールドプレート31、第1ブロック32、第2ブロック33、第1プレート34、第1シムプレート35を有している。可動ダイブロック11は、摺動面を構成する構成部品である第2マニホールドプレート50、第3ブロック51、第4ブロック52、第2プレート53、第2シムプレート54を有している。固定ダイブロック10及び可動ダイブロック11の相互に摺動する構成部品の一方は、他方より摩擦係数が小さい異種材質で形成されている。このように構成することによって、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11との摺動面に傷がつくことを防止し、耐摩耗性を向上することができる。
【0073】
また、塗布ヘッド1は、固定ダイブロック10の摺動面を構成する上記構成部品、及び、可動ダイブロック11の摺動面を構成する上記構成部品の少なくとも一方をPTFE材などの樹脂材で形成している。又は、摺動面の少なくとも一方の面にPTFEメッキ層などの樹脂被覆層が形成されている。PTFE材は、摩擦係数が小さく耐摩耗性に優れ、耐薬品性にも優れた材料である。このような材料を使用したり、表面処理を施したりすることによって、可動ダイブロック11がスライド移動する際の摺動面の摩擦負荷を減らすることが可能となり、耐摩耗性を向上させることができる。また、摺動面となる構成部品にPTFE材用いたり、層PTFE層を形成したりすることによって、様々な塗布液にも対応可能となる。
【0074】
また、第1加圧機構16は、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11とを空気圧(流体圧)を使用して加圧する。第1加圧機構16は、塗布液を吐出するときと、可動ダイブロック11をスライド移動させるときとで、空気圧を切り換えることが可能に構成されている。このように、第1加圧機構16は、可動ダイブロック11を移動しスリット長Lを切換える際には、空気圧を減圧することによって、摩擦負荷を減じて可動ダイブロック11を容易に移動させることが可能となる。また、第1加圧機構16は、塗布膜を形成する際には固定ダイブロック10と可動ダイブロック11とを強く加圧し密着させることによって、所定のスリットギャップGを形成し、塗布膜厚みを安定させ、スリット状ノズル12以外の流路系からの液漏れを防ぐことが可能となる。
【0075】
また、第1加圧機構16は、可動ダイブロック11の移動方向に分割された第1加圧部17A,17Bと、分割された第1加圧部17A,17Bの各々が、空気圧を供給する流体供給部である圧空供給部69,69Aを有している。圧空供給部69,69Aは分割された第1加圧部17A,17Bのうち、可動ダイブロック11と重なる第1加圧部17Aには空気圧で加圧し、可動ダイブロック11との重なりが解除された第1加圧部17Bには空気圧を減圧するよう切換えることが可能に構成されている。
【0076】
第1加圧機構16をこのように構成することによって、第1加圧部17Bから外れた位置まで可動ダイブロック11を移動させるときには減圧することによって、第1加圧部17Bの変形を防止することが可能となる。そして、圧空供給部69は可動ダイブロック11と重なる第1加圧部17Aには圧空を供給することによって、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11を十分な加圧力で密着させることが可能となる。
【0077】
また、塗布ヘッド1は、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11のどちらか一方に、可動ダイブロック11の移動方向に平行な平行キー19、又は平行キー19が嵌合し摺動可能なキー溝20が設けられている。このように構成することによって、固定ダイブロック10に対して可動ダイブロック11を平行移動させることが可能となり、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11との上下方向の相対的な位置ずれを抑えることが可能となる。このことによって、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11とのノズル先端部23の位置ずれをなくし、塗布膜厚みのばらつきを抑えることが可能となる。
【0078】
また、塗布ヘッド1においては、平行キー19及びキー溝20を構成する構成部品である第1マニホールドプレート31又は第4ブロック52の一方は、他方より摩擦係数が小さい異種材質で形成されている。このように構成することによって、可動ダイブロック11がスライド移動する際の摺動面の摩擦負荷を減らすることが可能となり、耐摩耗性を向上させることができる。
【0079】
また、塗布ヘッド1は、平行キー19又はキー溝20を構成する第4ブロック52の少なくとも一方が、PTFE材などの樹脂材で形成されるか、又は、平行キー19とキー溝20との摺動面の少なくとも一方の面にPTFEメッキ層などの樹脂被覆層が形成されている。平行キー19及び第4ブロック52に、このような材料を使用したり、樹脂被覆層を形成したりすることによって、可動ダイブロック11がスライド移動する際の摺動面の摩擦負荷を減らすることが可能となり、耐摩耗性を向上させることができる。
【0080】
また、塗布ヘッド1は、固定ダイブロック10及び可動ダイブロック11の上方端面側に配置され、固定ダイブロック10を固定する上部プレート13、及び、上部プレート13に保持され、空気圧(流体圧)を使用して可動ダイブロック11を下方側に加圧するための第2加圧部21で構成される第2加圧機構24を有している。
【0081】
第2加圧機構24は、塗布ヘッド1が塗布膜を形成する際には圧空を供給して可動ダイブロック11を下方側に押動する。すると、可動ダイブロック11側のキー溝20は、固定ダイブロック10の平行キー19に密着され、可動ダイブロック11は固定ダイブロック10に対する上下方向の位置が規定される。このことによって、ノズル先端部23において、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11の上下方向の位置ずれを抑えることが可能となる。
【0082】
また、第2加圧機構24は、塗布液を吐出するときと、可動ダイブロック11をスライド移動させるときとで、空気圧(流体圧)を切り換えることが可能に構成されている。第2加圧機構24は、可動ダイブロック11を移動しスリット長Lを切換える際には減圧する。すなわち、第2加圧機構24において、空気圧を減圧することによって可動ダイブロック11を容易に移動させることが可能となる。また、所定の空気圧を加えることによって、平行キー19とキー溝20の上下方向のがたつきをなくし、ノズル先端部23において、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11の上下方向の位置ずれを抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0083】
1…塗布ヘッド、10…固定ダイブロック、11…可動ダイブロック、12…スリット状ノズル、13…上部プレート、13a,13b…端面、16…第1加圧機構、17,17A,17B…第1加圧部、18…加圧部保持ブロック、19…平行キー、20…キー溝、21…第2加圧部、23…ノズル先端部、24…第2加圧機構、25…ノズル開口部、30,30A,30B…マニホールド、31…第1マニホールドプレート、31a,32a,33a,50a,51a…表面(摺動面)、32…第1ブロック、33…第2ブロック、34…第1プレート、35…第1シムプレート、36…塗布液供給孔、38…気泡排出部、39…気泡排出孔、50…第2マニホールドプレート、51…第3ブロック、52…第4ブロック、53…第2プレート、54…第2シムプレート、60…塗布ヘッド駆動装置、61,62…駆動軸、66,76…Oリング、67,67A,77…可動プレート、68,68A,78…加圧プレート、69,69A…圧空供給部(流体圧供給部)、70,70A…拡張部、71,71A,79…圧空供給路、G…スリットギャップ、L,L0,L2…スリット長、L1…距離、P0,P1…塗布幅の中心位置。
【要約】
【課題】塗布液の漏れを防止するとともに、固定ダイブロックと可動ダイブロックとの摺動面に傷がつくことを防止し、塗布厚みを安定させることが可能な塗布ヘッドを提供すること。
【解決手段】塗布ヘッド1は、固定ダイブロック10と、固定ダイブロック10の摺動面に沿ってスライド移動可能な可動ダイブロック11と、流体圧(空気圧)を使用して固定ダイブロック10と可動ダイブロック11とを密着させる第1加圧機構16を有している。塗布ヘッド1は、固定ダイブロック10と可動ダイブロック11との間の摺動面に形成されるスリット状ノズル12から塗布液を吐出する。
【選択図】
図7