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特許7242116金属結合モチーフを含むIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体
<図1>
  • 特許-金属結合モチーフを含むIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体 図1
  • 特許-金属結合モチーフを含むIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体 図2
  • 特許-金属結合モチーフを含むIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体 図3
  • 特許-金属結合モチーフを含むIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体 図4
  • 特許-金属結合モチーフを含むIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体 図5
  • 特許-金属結合モチーフを含むIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体 図6
  • 特許-金属結合モチーフを含むIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】金属結合モチーフを含むIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/31 20060101AFI20230313BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230313BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230313BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230313BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20230313BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20230313BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C07K14/31
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
C07K16/00
C07K1/22
C12N15/31 ZNA
C07K19/00
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019512905
(86)(22)【出願日】2017-09-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2017072182
(87)【国際公開番号】W WO2018046475
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】1615254.8
(32)【優先日】2016-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1705960.1
(32)【優先日】2017-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516105833
【氏名又は名称】サイティバ・バイオプロセス・アールアンドディ・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】ホバー,ソフィア
(72)【発明者】
【氏名】カニエ,サラ
(72)【発明者】
【氏名】ニルベブラント,ジョハン
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-126297(JP,A)
【文献】特表2013-542919(JP,A)
【文献】ANALYTICAL CHEMISTRY,1996年11月15日,VOL:68, NR:22,PAGE(S):3939 - 3944
【文献】MOLECULAR MICROBIOLOGY,英国,1992年03月01日,VOLUME:6, ISSUE:6,PAGES:703-713
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/31
C12N 15/63
C12N 15/62
C07K 14/31
C07K 16/00
C07K 1/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム結合モチーフを含むIgG 結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体であって、標的結合がカルシウムイオンの存在下で起こり、
配列番号1~9(Zmat1~Zmat9)または前記配列と少なくとも95%の配列同一性を含む対応する配列から選択される、ポリペプチド変異体。
【請求項2】
配列番号8(Zmat8)または前記配列と少なくとも95%の配列同一性を含む対応する配列を含む、請求項1に記載のポリペプチド変異体。
【請求項3】
Zドメイン中に以下の変異:F5L、N28K、K35Iを含む、請求項1または2に記載のポリペプチド変異体。
【請求項4】
Zドメイン中にN23Tの変異を含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリペプチド変異体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリペプチド変異体を含むリガンド。
【請求項6】
請求項2に記載のポリペプチド変異体を含む、請求項5に記載のリガンド。
【請求項7】
二量体、三量体、四量体、五量体または六量体から選択される、請求項5または6に記載のリガンドのポリペプチドの多量体。
【請求項8】
四量体である、請求項7に記載のリガンドのポリペプチドの多量体。
【請求項9】
請求項5もしくは6に記載のリガンドまたはそれに結合した請求項7もしくは8に記載のその多量体を含むクロマトグラフィマトリックス。
【請求項10】
Fc融合タンパク質またはIgGである標的または試料タンパク質を、カルシウムイオンの存在下で請求項5乃至8のいずれか1項に記載のリガンドまたは多量体リガンドに結合させること、およびカルシウム結合分子の添加によって結合タンパク質を溶出することを含む、Fc融合タンパク質またはIgGである標的または試料タンパク質の精製方法。
【請求項11】
前記リガンドまたは多量体リガンドを固相に固定化する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記結合タンパク質を4.5より上のpHで溶出する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記結合タンパク質をpH5~7で溶出する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記結合タンパク質をpH5.4~5.6で溶出する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記標的または試料タンパク質が抗体またはその一部である、請求項10乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記標的または試料タンパク質がIgG である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記標的または試料タンパク質がFc融合タンパク質である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
カルシウム結合分子による前記溶出がキレート剤によるものである、請求項10乃至17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
配列番号1~9から選択されるポリペプチドをコードする核酸またはベクター。
【請求項20】
請求項19に記載の核酸またはベクターを含む発現ベクター。
【請求項21】
標的結合がカルシウムイオンの存在下で起こる、クロマトグラフィ用の固定化リガンドとしての、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体、請求項5もしくは6に記載のポリペプチド変異体を含むリガンド、および/または請求項7もしくは8に記載の多量体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質工学および精製の分野内にある。本発明は、金属結合モチーフを含む、プロテインA、プロテインG、プロテインLまたはプロテインMなどのIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体に関する。より厳密には、本発明は、カルシウム結合EFループが導入されている、プロテインA由来のZドメインに基づく操作されたタンパク質を含むFc結合リガンドに関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は生物科学において最も広く使用されている試薬の1つであり、治療用抗体の分野は拡大し続けており、年間売上高は1,000億ドルに迫ろうとしている。抗体の精製は、一般に、プロテインAに基づくアフィニティクロマトグラフィを使用して行われ、これは、単一の精製工程で純粋で濃縮された生成物を生じる簡単で堅固な方法である3,4。主な欠点は、溶出のために酸性のpH(3~4)を必要とすることである。多くの抗体は、抗体の凝集を引き起こし、さらにはその機能を喪失させ得る低いpHに対する感受性の問題を抱えているため5,6、これは新しい抗体に基づくツールの開発および精製の両方を妨げる。
【0003】
プロテインAカラムに捕捉された抗体の溶出環境を改善するために様々な試みがなされてきた。例としては、溶出pHを4~4.5に高めることができる、プロテインA由来のZドメインの結合部位突然変異および同じドメインのループの操作改変が含まれる。尿素またはアルギニンを溶出緩衝液に添加すると、タンパク質の凝集が抑制されることが示されており6、9、またプロテインAのドメインの疎水性を低下させる突然変異が作製されており、これにより、40℃での溶出を可能にする熱応答性プロテインAが得られた10
【0004】
本来、タンパク質活性を制御するための1つの方法は、三次元構造を変化させることによるものである。EFハンドモチーフを含むカルシウム結合タンパク質は、カルシウムイオンによってアロステリックに制御される。カルシウムに結合すると、これらのタンパク質はイオン調節機能を可能にするコンフォメーション変化を受けることができる11、12。カルシウムイオンは、12個のアミノ酸からなるEFハンドに見出されるループによって調整され、ここで、タンパク質モチーフ内の特定の位置は保存されたアミノ酸を有するが、他の位置はより柔軟である13。EFループモチーフはモデルタンパク質に成功裏に移植されている14
【0005】
金属結合は、精製目的でタンパク質工学において利用されてきた。カルシウム依存性溶出によるタンパク質精製においてタグおよびアフィニティハンドルとして使用できる、EFハンドサブドメインに基づくスプリットカルシウムタンパク質が報告されている15。さらに、連鎖球菌プロテインG由来の抗体結合ドメインの1つは、ドメインが遷移金属の存在によって免疫グロブリンG(IgG)と結合する能力を失う原因となる金属結合部位を含むように操作されている16
【0006】
従来のプロテインAクロマトグラフィに関して上述したように、酸性溶出の必要性は、精製される抗体またはFc融合タンパク質にとって有害であり得る。さらに、酸性pHはタンパク質の凝集を増大させ、収率を低下させることが知られている。したがって、先行技術のpH3~4.5よりも高いpHでの溶出を可能にするプロテインAリガンドが得られることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許出願公開第2762564A1号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明により、金属結合ループ、好ましくはカルシウム結合EFループが導入されている、好ましくはプロテインA由来Zドメインに基づく操作改変されたタンパク質を提供することによって上記および他の問題を解決する。操作されたタンパク質ドメインを用いて、先行技術のリガンドで可能であるよりも実質的に高いpHでの穏やかな溶出で抗体を精製することができる。本発明の新規リガンドは、特に抗体およびFc融合タンパク質精製のための有益な新しいツールを提供する。
【0009】
第1の態様では、本発明は、金属結合モチーフを含むIgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異体であって、標的結合は金属イオンの存在下で起こる、IgG結合ポリペプチドの標的結合ポリペプチド変異に関する。IgG結合ポリペプチドは、好ましくはプロテインA、プロテインG、プロテインLまたはプロテインM、より好ましくはブドウ球菌プロテインA(SpA)の変異体ドメインに由来する。
【0010】
本発明のポリペプチド変異体は、好ましくはFc結合性であり、すなわち抗体のFc部分もしくは少なくともFc部分を含むその一部、またはFc部分に凝集もしくは融合した他のタンパク質に結合する能力を有する。
【0011】
好ましい実施形態では、Fc結合変異体は、SpAドメインBに由来するドメインZの変異体である。
【0012】
金属結合モチーフは、好ましくはカルシウム結合性であり、例えばランダム突然変異誘発によって得られるか、またはカルパイン、AtcBL2もしくはカルモジュリンから誘導される。好ましい実施形態によれば、金属結合モチーフはZドメインのヘリックス2と3の間に挿入される。ポリペプチド変異体は、金属結合モチーフ配列の前にリンカー、好ましくはGGGを含み得る。
【0013】
好ましくは、ポリペプチド変異体は、配列番号1~9(Zmat1~Zmat9)または前記配列と少なくとも80%、例えば少なくとも90%もしくは95%の配列相同性を含む対応する配列から選択される。より好ましくは、ポリペプチド変異体は、配列番号8(Zmat8)、または前記配列と少なくとも80%、例えば少なくとも90%もしくは95%の配列相同性を含む対応する配列を含む。標的結合部分ならびに金属結合モチーフは、配列1~9の最も必須な部分であり、したがって、1~8個のN末端アミノ酸および1~3個のC末端アミノ酸などの末端リンカー配列は、欠失させ得るかまたは前記配列について言及したもの以外の他の任意のアミノ酸もしくは適切な物質から選択され得る。しかしながら、配列1~9の必須部分内のわずかな変化も、ポリペプチド変異体の所望の特性が維持される限り、本発明に包含される。
【0014】
アルカリ安定性を高めるために、ポリペプチド変異体は、ZドメインN3A、N6D、N23T、好ましくはN23Tに以下の変異を含み得る。この特徴は、アルカリ安定なリガンドを必要とするアフィニティクロマトグラフィにおいて特に有用である。
【0015】
第2の態様では、本発明は、上記のようなポリペプチド変異体を含むリガンド、または結合分子もしくは親和性結合剤に関する。リガンドは、二量体、三量体、四量体、五量体または六量体などの多量体として存在し得る。多量体の場合、シグナルペプチドのアミノ酸残基は、さらに、配列番号1~9、例えば配列番号8、ならびにC末端システイン中に存在し得る。
【0016】
第3の態様では、本発明は、クロマトグラフィマトリックスであって、それに結合した本発明のリガンドを含むクロマトグラフィマトリックスに関する。クロマトグラフィマトリックスは天然または合成起源のものであってよく、好ましくはアガロースマトリックスなどの多糖マトリックスである。
【0017】
第4の態様では、本発明は、試料タンパク質の精製方法であって、試料タンパク質を金属イオンの存在下で上記のリガンドまたは多量体に結合させること;および金属結合分子/キレート化分子の添加によって結合タンパク質を溶出することを含む方法に関する。本発明は、pH5~7などの4.5を上回るpH、好ましくはpH5.4~5.6などの約pH5.5での溶出を可能にする。溶出は、好ましくは、EDTA、EGTA、グルタミン酸二酢酸およびクエン酸グルタミン酸などのキレート剤を用いて行われる。
【0018】
標的または試料タンパク質は、抗体またはその一部、例えばIgGまたはFc融合タンパク質であり、培養上清などの複合試料混合物中に存在し得る。
【0019】
第5の態様では、本発明は、配列番号1~9から選択されるポリペプチドをコードする核酸またはベクターに関する。
【0020】
第6の態様では、本発明は、上記の核酸またはベクターのいずれかを含む発現ベクターに関する。
【0021】
第7の態様では、本発明は、Hisタグ付きタンパク質のアフィニティクロマトグラフィまたはIMACクロマトグラフィのための固定化リガンドとしての、金属結合モチーフおよび/またはその多量体を含むポリペプチド/タンパク質の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】a)3回重複して実施した変異体A5についてのファージELISAのシグナル。ELISAは、それぞれカルシウム(点)、EDTA(斜め縞)、尿素とカルシウム(縦縞)、および尿素とEDTA(横縞)の存在下にポリクローナルIgGで被覆したプレート中でインキュベートしたファージ上清からのシグナルを比較する。b~c)ポリクローナルIgG表面上に流動する25nMのA5(b)および125nMのA5(c)についてのセンサーグラム。b)において、ランニング緩衝液は、カルシウムを含む1×TBST(上の曲線)またはEDTA(下の曲線)である。c)において、ランニング緩衝液は、2Mの尿素およびカルシウムを含む1×TBST(上の曲線)またはEDTA(下の曲線)である。A5とIgGの間の相互作用は、EDTAよりもカルシウムが存在する場合により強い。
図2】成熟選択からの上位9個のユニークな変異体についてのファージELISAからのシグナル読み出し。IgGで被覆したELISAプレートをカルシウム(濃い灰色)またはEDTA(薄い灰色)の存在下でファージ上清に供した。カルシウム含有緩衝液またはEDTA含有緩衝液で洗浄した後、結合ファージを抗M13-HRP抗体で検出した。シグナルの読み出しをy軸上にプロットする。9個すべての変異体がカルシウム含有緩衝液とEDTA含有緩衝液の間で大きな相違を示し、EDTAが存在する場合は低いシグナルを示す。
図3】Zmat8(a)およびZドメイン(b)と結合したカラムでのポリクローナルヒトIgGの精製からのAbs280クロマトグラム。a)IgGは、pHを3.2に低下させることによって(長い破線)またはpH5.5でEDTAによって(実線)Zmat8カラムから溶出したが、pH5.5でのカルシウム(灰色)では溶出せず、Zmat8によるIgGのカルシウム依存性溶出を実証した。b)IgGは、pHを3.2に低下させることによってZカラムから溶出した(長い破線)が、pH5.5のEDTAによっては溶出しなかった(実線)。
図4】Zmat8カラムでの細胞培養上清精製実験のSDS-PAGE(左)およびウェスタンブロット(右)分析。約10mg/lのIgGを含有する細胞培養上清を、Zmat8と結合したカラムで精製した。フロースルー(FT)およびタンパク質を含む溶出画分(E)を保存し、未精製上清(S)および分子量マーカー(M)の次にSDS-PAGEにかけた。SDS-PAGEをPVDF膜に転写し、抗ヒトHRP結合抗体で検出し、上清および溶出液中でIgGを検出したが、フロースルー中ではIgGは検出されなかった。
図5図5は、大幅に過剰のヒトポリクローナルIgGを、EDTA溶出を用いてZmat8の単量体(灰色)、二量体(斜め縞)、三量体(白色)または四量体(横縞)で精製した場合の各画分(n=3)中のタンパク質の平均溶出量を示す実験2からの図である。
図6図6は、IgGで飽和させたZmat8三量体(a)およびZmat8四量体(b)を用いたカラムでの精製の代表的なクロマトグラムを示す。IgGをpH5.5のEDTAで溶出した。最初のピークはIgG注入時のボイドを示し、2番目のピークは洗浄後に溶出したIgGである。
図7図7は、100mMのNaOHおよび1mMのCaClを用いて実施したチップの再生を伴う、30サイクルにわたるZmat8またはZmat8(N23T)と結合した表面上を流動するIgGの設定濃度についての正規化最大応答を示す。Zmat8(N23T)は、Zmat8と比較してより高いアルカリ安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、カルシウム依存性IgG結合ドメインから開発された、アフィニティクロマトグラフィによる抗体などのタンパク質の精製のための新規リガンドを提示する。親骨格として、プロテインAのBドメインに由来するZドメイン17が使用されてきた。これは、高い親和性でIgGのFc領域と相互作用する小さな3ヘリックスバンドルタンパク質である。ランダム化したカルシウム結合ループをドメインのヘリックス2と3の間に移植することによってZドメインライブラリを構築した。IgGへのカルシウム依存性結合を示すタンパク質変異体を単離するためにファージディスプレイ選択を行った。Zmat8と表される最終ドメインは、複合細胞培養上清からIgGを選択的に捕捉することができ、カルシウム依存性溶出による単一精製工程後に高い度合いの純度を提供する。達成される純度および収率は親Zドメインに匹敵する。
【0024】
Zドメイン骨格はまた、IgG Fc以外の他の標的に親和性を有する変異体の開発のための出発点としても使用されてきた。結合表面のランダム化および所望の標的に対するその後の選択を介して、そのようなZ変異体(Affibody(登録商標)分子)が創製され、様々な用途において商品化されている。その技術とその応用および命名法の総説はLoefblomet al34に記載されている。本発明は、任意の結合親和性を有するZドメイン変異体に適用可能であること、および金属結合モチーフは、IgG Fc結合ポリペプチドについて本明細書に記載されているものと同様の方法でそのような変異体に導入され得ることが企図されている。Z変異体の三次元構造は他の親和性を有する変異体を作製する場合にも保存されると考えられるので、カルシウム結合ループは、例えば任意のZ変異体中の対応する位置に導入することができ、その安定性および結合特性を調節するために使用することができる。
【0025】
ここで本発明を、添付の図面およびいくつかの非限定的な実験に関連してより詳細に説明する
材料および方法
すべての酵素および精製キットは製造業者の指示に従って使用した。特に明記しない限り、すべての酵素はNew England Biolabs(NEB)から購入した。クローニングPCR反応はPhusion DNAポリメラーゼを用いて行い、PCRスクリーニングはDynazyme II DNAポリメラーゼ(ThermoFisher)を用いて行った。すべてのPCR反応物をQuiagen PCR精製キットを用いて精製し、Quiagenゲル抽出キットを用いてゲル抽出を行った。
【0026】
クローニング
試験変異体
一本鎖ヘリックス1および2
Zのヘリックス1および2に対応する一本鎖DNAを、Zの5’末端の上流にNdeI制限部位を含むビオチン化フォワードプライマー(SKJN1)およびヘリックス2の末端に結合するリバースプライマーを用いたPCRによる増幅によって作製した。ストレプトアビジンビーズ(Dynabeads M-270、Invitrogen)を結合緩衝液(2M NaCl、10mM Tris-HCl、1mM EDTA、0.1%Tween20、pH7.6)で2回洗浄し、結合緩衝液に溶解した。洗浄したビーズ20μlをPCR産物20μlと混合し、回転させながら室温(RT)で2時間インキュベートした。ビーズを1×SCC(0.15M NaCl、15mMクエン酸ナトリウム、pH7.0)50μl中で洗浄し、0.15M NaOH 20μl中に再懸濁した。非ビオチン化DNA鎖を含む上清を廃棄した。一本鎖ビオチン化5’-3’DNAを、10mM EDTAを含む95%ホルムアミド中、90℃で2分間のインキュベーションによってストレプトアビジンビーズから解離させた。一本鎖DNAを1/10容量のNaAc(3M、pH5.2)および3倍容量の95%EtOHの添加によって沈殿させた。反応物を-20℃で一晩インキュベートした後、14000×gで30分間遠心分離した。上清を捨て、ペレットを70%EtOHで洗浄し、続いて14000×gで15分間遠心分離した。上清を捨て、ペレットを乾燥させた。乾燥後、それを1×TE(10mM Tris、1mM EDTA)100μlに溶解した。
【0027】
ループおよびヘリックス3によるアニーリングと伸長
ヘリックス1および2の一本鎖DNA(5pmol)を、ヘリックス3の一部、カルモジュリンループ、ヘリックス2の3’末端との18bpのオーバーラップ、およびいくつかの場合にはループの上流のリンカーをコードするリバースプライマー(5pmol)と混合した。標準的なPCR反応を6サイクル実施し、その後SKJN1 2.5pmolおよびNheI制限部位を含むヘリックス3にアニーリングするリバースプライマーを添加し、PCRをさらに50サイクル実施した。
【0028】
切断および連結
精製されたZ-ループ構築物ならびに元のZ構築物を含むpET-26b(+)ベクター(T7プロモーター、カナマイシン(Km)耐性、Novagen)をNdeIおよびNheI制限酵素で切断した。PCR断片を精製し、ベクターを泳動させてアガロースゲルから抽出した。
【0029】
切断したベクターと挿入物を、3倍過剰の挿入物を用いてT4リガーゼで連結した。
【0030】
A5
A5遺伝子を、それぞれZの5’および3’末端にアニーリングするプライマーを用いたPCRによってファージミドから増幅した。フォワードプライマーはNcoI制限部位を含むオーバーハングを有し、リバースプライマーはAscI制限部位を含むオーバーハングを有していた。
【0031】
断片およびベクターpHis32(T7プロモーター、Km耐性)をNcoI-HFおよびAscIで切断した。精製した断片とゲル抽出したベクターを、5倍過剰の断片を用いてT4リガーゼで連結した。
【0032】
Zmat1~9
Zmat1~9をA5と同じ方法でクローニングしたが、遺伝子の開始部および/または末端において元の骨格とは異なる突然変異にマッチする特異的プライマーを用いた。
【0033】
Zmat8不安定化変異体
変異体H18R、F30AおよびL44Aを2段階PCR反応によってZmat8に導入した。段階1では、所望の突然変異を有するミスマッチプライマー25pmol、およびNcoI制限部位を含むZmat8の5’末端にアニーリングするプライマー25pmolを使用し、Zmat8を鋳型として用いた。2番目の段階(H18RおよびF30Aのみ)では、段階1からのPCR産物5μlを一方のプライマーとして使用し、AscI制限部位を含むZmat8の3’末端に結合するプライマー25pmolと組み合わせた。Zmat8を鋳型として使用した。L44A F30A置換は、L44A置換と同じ方法で行ったが、Zmat8(F30A)を鋳型として使用した。変異体をAscIとNcoI-HF(H18A、F30A)またはNcoI-HFとNheI-HF(L44A、F30AL44A)で切断し、5倍過剰でpHisベクターに連結し、T4 DNAリガーゼを使用して、対応する制限酵素で切断した。
【0034】
ライブラリの構築
元のライブラリ
pAY02592ファージミド(33に記載のpAffi1と基本的に同一)を、Z-ループ遺伝子を含むように修飾した(pAYZ-ループ)。Z-ループ構築物を、その5’および3’末端に結合するプライマーを用いて増幅し、フォワードプライマーはXhoI制限部位を含み(SAKA1)、リバースプライマーはSacI制限部位、続いてSnaBI制限部位を含んだ(SAKA2)。ファージミドおよびZ-ループ遺伝子をXhoIおよびSnaBIで切断した。プラスミドをゲル抽出し、脱リン酸化して、断片を精製した。切断した遺伝子とプラスミドを、5%PEG6000を添加して、供給業者の指示に従ってT4 DNAリガーゼで連結した。
【0035】
2つのライブラリ(ループライブラリの前にGGGリンカーを含むものと含まないもの)を別々に調製した。
【0036】
ライブラリ用のプライマー原液を調製した(100pmol/μl)。フォワード原液は、ヘリックス1および2をコードするプライマーを含み、原液の50%はF30A変異をコードしていた。リバース原液は、ヘリックス2の3’末端との18bpのオーバーラップ、リンカー(GGGループライブラリのみ)、ループライブラリおよびヘリックス3をコードするプライマーを含んだ。原液の50%は突然変異なしでヘリックス3をコードした。他の50%は、L44、A48、L51の位置に変異を含むか、または3つの任意の組み合わせの変異(L44X+A48X、L44X+L51X、A48X+L51X、L44X+A48X+L51X)を含む、等量のプライマーを有していた。
【0037】
各ライブラリ原液5pmolを混合することによってライブラリをアニーリングおよび伸長させ、6サイクルの間伸長させた。SAKA1およびSAKA2 100pmolを添加し、ライブラリを15サイクル増幅し、続いてPCR精製した。
【0038】
断片をSacI-HFおよびXhoI制限酵素で切断し、標準的な手順によるフェノール/クロロホルム抽出とそれに続くエタノール沈殿で精製した。精製したライブラリを2%GTGアガロースゲルに流し、正しいサイズのバンドを切り出してゲル抽出した。
【0039】
pAYZ-ル-プファージミドをライブラリ断片と同じ方法で切断および精製した。
【0040】
切断したファージミド5μgを、T4リガーゼを用いて16℃で一晩(ON)、ライブラリ断片1μg(5倍過剰)と連結した。連結物をフェノール/クロロホルム抽出とそれに続くエタノール沈殿によって精製した。2つのライブラリをプールした。
【0041】
指示に従って、プールしたライブラリをエレクトロポレーション、21反応によってER2738細胞(Lucigen)に形質転換した。1時間の表現型検査の後、形質転換反応物をプールし、100μg/mlのアンピシリン(Amp)を含むトリプシン大豆ブロス(TSB、30g/l、Merck)2×500ml中、37℃で一晩増殖させた。細胞を、16時間後に2700×g、15分、4℃で回収した。ペレットを20%グリセロール(最終グリセロール濃度15%)40mlに溶解し、アリコートに分けて-80℃で保存した。
【0042】
成熟ライブラリ
成熟ライブラリを、GeneMorph IIキット(Agilent)を使用して、pAYZ-ループにおいてA5遺伝子のすぐ上流および下流にそれぞれアニーリングするプライマーでのエラープローンPCRによって作製した。鋳型0.1μgを用いて5回の連続するエラープローンPCRを実施した。ライブラリ断片を、ゲル抽出を用いて精製した。
【0043】
ライブラリをファージミドに導入するために、ライブラリフ断片を制限フリークローニング反応において使用した。A5遺伝子を含有するpAYZ-ループ50ngをライブラリフ断片60ngと混合し、熱サイクルさせた(95℃1分[95℃50秒、60℃50秒、68℃9分]×25)。DpnI酵素(1μl)を添加し、37℃で2時間インキュベートした。Qiagenミニプレップキットを用いてプラスミドを精製し、ER2738細胞にエレクトロポレーションした。
【0044】
ライブラリの増幅
ライブラリサイズの100倍(2×1010(元のライブラリ)または2×10(成熟ライブラリ))を、2%グルコース、100μg/mlのAmp、10μg/mlのテトラサイクリン(Tet)および1mMのCaClを含むTSB 100mlに接種し、約0.5~0.8のOD600まで37℃でインキュベートした。10倍過剰のM13K07ヘルパーファージを添加し、37℃で30分間インキュベートした。培養物を2つに分け、2500×gで10分間遠心分離した。各ペレットを、酵母抽出物(5g/l、Merck、TSB+Y)を含むTSB 5mlに溶解した。各ペレットを、100μg/mlのAmp、50μg/mlのKm、1mMのイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)および1mMのCaClを含むTSB+Y 495mlに添加した。培養物を30℃、250rpmで一晩インキュベートした。
【0045】
ファージ沈殿
細胞を10000×gで10分間ペレット化した。上清を保存し、上清容量の1/4の5×PEG/NaCl(20%PEG6000、2.5M NaCl)を添加し、氷上で1~2時間インキュベートした。ファージを10500×gで30分間ペレット化し、ペレットを50mlの培養物容量当たり1×TBS(50mM Tris、150mM NaCl、pH7.5)10mlに溶解し、0.45μmシリンジフィルタで濾過した。1/4容量の5×PEG/NaClを添加し、氷上で45分間インキュベートした。沈殿物を3500×gで50分間遠心分離し、ペレットを1×TBSTB(1×TBS、0.1%Tween20、3%BSA)に溶解した。
【0046】
ファージの滴定
マイクロプレートにおいて水中で一連の1:10希釈液を作製することによってファージを滴定した。対数期のER2738細胞100μlを各ウェルに添加し、5分間インキュベートした。感染細菌(5μl/希釈液)をAmpプレートに塗布し(100μg/ml)、37℃で一晩インキュベートした。
【0047】
選択
回転させながら室温で45分間、被覆緩衝液(50mM炭酸塩、pH9.6)3ml中のポリクローナルヒトIgG(20μg/ml)で被覆したEIA/RIAチューブ(高結合、Greiner bio-one)において陰性選択を実施し、その後4℃で保存した。チューブを回転させながら室温で1時間、100mMのEDTAを含む1×TBSTB 3mlでブロックした。ファージ原液(コロニー形成単位(cfu)の量)を、100mMのEDTAを含む1×TBSTB 2mlに希釈し、ブロックしたチューブに添加した。回転させながら室温で20分間インキュベートした後、ファージ混合物を新しいチューブに移し、20分間インキュベートした。
【0048】
陰性選択の後、残りのファージを、30kDaカットオフのAmicon Ultra-0.5ml遠心フィルタ(Merck)において緩衝液交換した。濃縮器の膜を、1×TBSTB 500μlを用いて14000×gで5分間洗浄した。陰性選択からのアウトプット(output)を一度に500μl添加し、14000×gで5~10分間濃縮した。濃縮したファージを1×TBST(1×TBS、0.1%Tween20)で4回洗浄した。洗浄したファージを濃縮器から取り出し、2M尿素および5mM CaClを含む1×TBSTBで最終容量1mlに希釈した(インプット(input)陽性選択)。
【0049】
標的ポリクローナルIgGを、EZ-link(商標)スルホ-NHS-ビオチン(ThermoFisher)を用いて製造業者の指示に従ってビオチン化した。
【0050】
1×TBSTで洗浄し、回転させながら室温で30分間、1×TBSTBでブロックしたストレプトアビジン被覆ビーズ(Dynabeads M-280(Invitrogen))を予備選択および陽性選択に使用した。
【0051】
陽性選択インプットを、回転させながら室温で1時間、ストレプトアビジンビーズおよびマイクロチューブ(1×TBSTBでブロックしたもの)に対して予備選択した。予備選択したライブラリ(上清)を50nMのビオチン化IgGと共に、回転させながら室温で2時間インキュベートした。標的のインキュベーション後、ファージおよび標的をストレプトアビジン被覆ビーズと共に、回転させながら室温で15分間インキュベートした。ビーズを、2M尿素および1mM CaClを含む1×TBST 1ml中で複数回洗浄した。洗浄後、ファージを、2M尿素および100mM EDTAを含む1×TBSTB 500μlで、室温で回転させながら5分間溶出させた。上清を保存し、1×TBST 450μlおよび1M CaCl 50μlで希釈した。
【0052】
選択後、溶出液(初回後の750μl、その後のすべての回について500μl)を、さらに37℃で対数期初期(OD600 0.5~0.8)のER2738細胞5mlに感染させることによって増幅した。Ampを最終濃度100μg/mlまで添加し、細胞を37℃、150rpmで1時間インキュベートした。5倍過剰のM13K07ヘルパーファージを添加し、37℃で30分間インキュベートした。細胞を3000×gで15分間ペレット化し、TSB+Y 5mlに再懸濁した。これに続いて、Amp(100μg/ml)、Km(25μg/ml)、CaCl(1mM)およびIPTG(0.1mM)を含むTSB+Y 200ml中、30℃で一晩増幅した。ファージを前述のように沈殿させた。
【0053】
配列決定
構築物をPCRでスクリーニングし、続いてBig Dye(Life technologies)を用いた単一プライマーサイクル配列決定反応を実施した。すべての配列決定は3730xl DNAアナライザ(AME bioscience)で行った。
【0054】
ファージELISA
アウトプット滴定からのコロニーを、96ウェルディープウェルプレートにおいてAmp(100μg/ml)、Tet(10μg/ml)およびCaCl(1mM)を含むTSB+Y 500μl中に接種した。プレートを37℃、250rpmで一晩インキュベートした。一晩培養物30μlを、Amp、TetおよびCaClを含むTSB+Y 720mlに添加し、37℃、250rpmで2時間インキュベートした。Amp、Tet、CaClおよび10 M13K07ヘルパーファージを含むTSB+Y 100μlを各ウェルに添加し、37℃でさらに30分間感染させた。Amp、Tet、CaCl、Km(250μg/ml)およびIPTG(0.7mM)を含むTSB+Y 150μlを各ウェルに添加し、プレートを30℃、250rpmで一晩インキュベートした。ファージ培養物を3000×gで15分間回収し、上清を保存した。
【0055】
未処理の96ウェルハーフエリアプレート(Corning)を、1×TBS中1μg/mlのポリクローナルヒトIgG、50μl/ウェルで、4℃で一晩被覆した。
【0056】
各ファージ上清を2つのELISA実験に供し、1つはすべての緩衝液が100mMのEDTAを含むものであり、もう1つはすべての緩衝液が1mMのCaClを含むものであった。元のZ骨格を提示するファージを陽性対照として使用し、非IgG結合剤を提示するファージを陰性対照として使用した。
【0057】
プレートを1×TBS中の0.5%カゼイン、140μl/ウェルで、低い振とう速度で室温にて2時間ブロックした。ファージ上清を0.5%カゼイン中で1:20に希釈し、室温で30分間放置した。50μl/ウェルの希釈したファージを2つのプレートに添加し、低振とうしながら室温で1時間インキュベートした。プレートを1×TBST(0.1%Tween20)でさらに3×10分間、140μl/ウェルで洗浄し、続いて0.5%カゼイン中で1:5000に希釈した抗M13-HRP抗体(GE Healthcare)と共に、低振とうしながら室温で1時間インキュベートした。プレートを上記のように洗浄し、2M HSO50μlで反応を停止させる15~30分前にTMB基質(Pierce)50μlで発色させた。吸光度を、Sunrise(商標)マイクロプレートリーダ(Tecan)において450nMで読み取った。
【0058】
タンパク質生成、精製および分析
発現
選択した変異体を発現ベクターにサブクローニングし、BL21(DE3)細胞(Novagen(登録商標)、Merck4Biosciences)に形質転換した。単一コロニーを、Km(50μg/ml)を含むTSB+Y 5mlに接種し、37℃、150rpmで一晩増殖させた。Km(50μg/ml)およびCaCl(1mM)を含むTSB+Y 100mlに一晩培養物1mlを添加することによって培養を開始し、OD600が0.8~1に達するまで37℃、150rpmで増殖させた。培養物をIPTG(1mM)で誘導し、25℃で一晩増殖させた。培養物を4℃で8分間、2400×gで回収し、続いてペレットを1×TBST-C(1×TBS、0.05%Tween20、1mM CaCl)5mlに再懸濁した。再懸濁したペレットを1×TBST-Cで10mlに希釈し、Vibra-cell(Sonics)を用いて1分30秒間、40%振幅、1.0/1.0sのパルスで超音波処理した。溶解した細胞を4℃で20分間、35000×gでペレット化した後、上清を精製用に保存した。
【0059】
精製
IgG-Sepharose 6 Fast Flow(GE Healthcare)4mlを充填したカラムを、dHO 20ml、0.3M HAc(pH3.2)20mlおよび1×TBST-C 20mlで洗浄した。カラムを0.3M HAc 10mlでパルスし、続いて1×TBST-C 50mlで平衡させた。細胞溶解物を添加し、続いて1×TBST-C 75mlで洗浄した。1mM CaClを含む5mM NHAc(pH5.5)50mlでカラムを洗浄した後、15×1ml画分中の0.3M HAcで溶出した。280nmで最も高い吸光度を有する画分を凍結乾燥し、1mM CaClを含む1×TBSに溶解し、BCA(Pierce)を用いて濃度を決定した。
【0060】
質量分析
マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)を用いて、α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸(5mg/ml、Bruker)と1:1で混合することによって分子量を決定し、MALDI標的上にスポットし、MALDI-TOF LT3プラス(SAI)または4800 MALDI TOF/TOFアナライザ(Applied Biosystems)で分析した。エレクトロスプレーイオン化(ESI)-MSも使用し、試料をC4カラム(μ-Precolumn Cartridge Acclaim PepMap300 C4、5μm、300A、内径300μm×5mm、Dionex)で脱塩し、Agilent 6520 ESI Q-TOFシステムで分析した。
【0061】
SDS-PAGE
タンパク質試料を、最終濃度が20mM Tris-HCl、1mM EDTA、88mM SDS、720mM β-メルカプトエタノール、17%グリセロールになるように還元緩衝液と混合することによって、SDS-PAGEでタンパク質の純度を決定し、95℃で5分間加熱した。還元した試料を、1×TGSランニング緩衝液(Bio-Rad)中のMini-PROTEAN(登録商標)TGX(商標)ゲル(Bio-Rad)に200V、4℃で30分間流した。ゲルをdHO中で3×5分間洗浄した後、GelCode(登録商標)Blue(Thermo scientific)で1時間染色した。ゲルをdHO中で一晩脱染した。使用したマーカーはLMW-SDSマーカーキット(GE Healthcare)であった。
【0062】
ウェスタンブロット
ウェスタンブロット分析のために、1×MES(50mM MES、50mM TRIS、1mM EDTA、0.1%SDS、pH7.3)をランニング緩衝液として使用して、SDS-PAGEをNuPAGE Novex 4-12%Bis-Trisゲル(Invitrogen)上で泳動させた。0.45μmのInvitrolon PVDFウェスタンブロット膜(Invitrogen)への転写を、1×転写緩衝液(25mM Bicine、25mM BisTris、1mM EDTA、10%エタノール、pH7.2)中で、PageRuler(商標)Plus Prestained Protein Ladder(Thermo Scientific)を分子量マーカーとして用いて40Vで90分間行った。ブロッキング緩衝液(5%粉乳、0.5%Tween20)を用いて室温で1時間ブロッキングを行った。ヒト抗体を、ブロッキング緩衝液中1:5000希釈のHRP結合ヤギ抗ヒト抗体(Novex)を用いて室温で1時間検出した。1×PBST(10mMリン酸塩、0.15M NaCl、0.1%Tween20、pH7.4)で4×5分間洗浄を行い、続いてBioRad ChemiDoc(商標)XRS+システムでImmobilonウェスタン化学発光HRP基質(Merck)を読み取った。
【0063】
CD
すべてのCD測定は、Jasco J-810分光偏光計で行った。CDスペクトルを、100nm/分の走査速度および0.1nmのデータピッチで、0.1cmのセル長にて250~195nmで測定した。タンパク質融解曲線は、5℃/分の温度勾配を用いて221nmで20~90℃の間で測定した。
【0064】
予備試験:タンパク質を、それぞれ100倍モル過剰のEDTAまたはCaClを含む1×PBS(Tweenなしの1×PBST)中で0.4mg/mlに希釈した。最初の選択:A5を、1mM CaClもしくは3mM EDTAを含む1×TBSまたは1M尿素および1mM CaClもしくは3mM EDTAを含む1×TBS中で0.2mg/mlに希釈した。成熟選択:Zmat1~9、ZまたはA5を、1mM CaClまたは3mM EDTAを含む1×TBS中で0.2mg/mlに希釈した。
【0065】
SPR
試験変異体
試験変異体をProteOn(商標)XPR36機器(Bio-Rad)にかけた。標準的なアミンカップリング手順を用いてGLMセンサーチップを活性化した。モノクローナルヒトIgGを、5000RUの固定化レベルに達するようにNaAc pH4に希釈して10μg/mlで注入した。表面をエタノールアミンで不活性化させ、10mM HClで再生した。試験前の変異体をランニング緩衝液中で300、100、33、11、3.7および0nMに希釈し、330秒の会合および3000秒の解離時間を用いて50μl/分で注入した。すべてのタンパク質を、1×PBST(0.05%Tween20)、30μM CaClを含む1×PBST、および30μM EDTAを含む1×PBSTを用いて泳動した。緩衝液を差し引いたデータを、ProteOn Managerソフトウェアバージョン3.1.0.6を用いて1:1ラングミュア等温線に適合させた。
【0066】
最初の選択
A5タンパク質をBiacore 3000機器(GE Healthcare)にかけた。1×PBSTをランニング緩衝液として用いて、ポリクローナルヒトIgGを、アミンカップリングによって4000RUまでCM5チップ表面に固定化した。A5タンパク質を1mM CaClまたは100mM EDTAを含む1×TBST(0.05%Tween20)中で200、100、50、25および12.5nMに希釈し、180秒の会合および420秒の解離時間を用いて50μl/分で注入した。表面を10mM HCl 30μl/分、30秒で再生した。A5をまた、同じランニング緩衝液中であるが2M尿素を添加して注入し、次いで1000nM、500nM、250nM、125nM、62.5および0nMに希釈した。
【0067】
成熟選択
成熟変異体(Zmat1~9)、A5および元のZドメインをBiacore T200(GE Healthcare)で分析した。1×PBSTをランニング緩衝液として用いて、ポリクローナルヒトIgGおよびモノクローナルヒトIgG1をアミンカップリングによって4000RUまでCM5チップ上に固定化した。タンパク質を、1mM CaClまたは100mM EDTAを含む1×TBST中に希釈し、180秒の会合および420秒の解離時間を用いて50μl/分で、単一サイクルキネティクスによって泳動した。再生は、10mM HClを用いて30μl/分、30秒で行った。元のZドメインは両方の緩衝液中で25、12.5、6.25、3.13、1.56および0nMで泳動した。A5、Zmat1~3、Zmat5およびZmat7~9は、カルシウム含有緩衝液中100、50、25、12.5、6.25および0nM、ならびにEDTA含有緩衝液中1000、500、250、125、62.5および0nMで泳動した。Zmat4およびZmat6は、カルシウム含有緩衝液中400、200、100、50、25および0nM、ならびにEDTA含有緩衝液中4000、2000、1000、500、250および0nMで泳動した。
【0068】
精製試験IgGセファロース
IgG Sepharose 6 Fast Flow(GE Healthcare)約600μlをNAP-5カラムに充填した。カラムを0.3M HAc(pH3.2)2mlおよび1×TBST-C 2mlで2回パルスした。1×TBST-C中で1.2mlに希釈したタンパク質100μgをカラムに添加し、続いて1×TBST-C 6mlで洗浄した。タンパク質を、100mM EDTAを含む100mM NHAc(pH5、5.7、6、6.5または7)8×200μlでの溶出について試験した。pH5の同じ溶出緩衝液であるがEDTAの代わりに1mM CaClを用いた対照実験も行った。最初の溶出後、カラムを1mM CaClを含むpH5.5の5mM NHAc 1.2mlで洗浄し、続いて0.3M HAc、pH3.2を含む画分8×200μlで溶出した。すべての溶出画分を96ウェルUV Star(登録商標)Microplate(Greiner bio-one)に収集し、それらの280nMでの吸光度をCLARIOStar(BMG Labtech)プレートリーダで測定した。
【0069】
精製試験Zmat8およびZカラム
Zmat8およびZを上記のようにクローニングし、作製し、精製した。各タンパク質10mgを、カップリングpH6.5およびカップリング時間30分で、製造業者の指示に従ってHiTrap(商標)NHS活性化HPカラム(GE Healthcare)1mlにカップリングした。
【0070】
純粋なポリクローナルヒトIgG、スパイクしたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞上清(100mg/lポリクローナルヒトIgG)および実際のCHO細胞上清(モノクローナルヒトIgG約10mg/l)の精製を、1ml/分の流速を用いてAekta Explorerシステム(GE Healthcare)で行った。カラムのパルシングを、6カラム容量(CV)の1×TBST-C、続いて6CV溶出緩衝液(0.3M HAc pH3.2または100mM NHAc、100mM EDTA pH5.5または100mM NHAc、1mM CaCl pH5.5)で行った。2mlの試料ループを用いて試料注入前に13CVの1×TBST-Cで平衡化を行った。13CVの1×TBST-C、続いて5CVの5mM NHAc、1mM CaCl、pH5.5で洗浄を行った。タンパク質を6CV溶出緩衝液で溶出し、0.5ml画分に収集した。再生は、3CVの溶出緩衝液および6CVの1×TBST-Cを用いて行った。
【0071】
実験項
ループ位置の決定
Zドメインにカルシウム結合ループを導入するための最良の位置を見つけるために、種々のカルシウム結合タンパク質およびZドメインの構造を検討した。カルモジュリン(18、6.6Å)、カルパインドメイン(19、7.3Å)およびカルシウムが結合したAtCBL2タンパク質(20、6.6Å)のカルシウム結合ループのN末端とC末端との間の距離、ならびにカルモジュリンループのアポ型での対応する距離(21、9.6Å、22、平均12Å、23、9.0Å)を測定した。これらの距離を、Zドメインのヘリックス1と2(平均12Å)、および2と3(平均7Å)の間のループのN末端とC末端との間の距離と比較した24。Zドメインのヘリックス2と3の間のループのN末端とC末端との間の距離(7Å)は、種々のカルシウム結合ループのカルシウム結合形態における距離(6.6~7.3Å)とよく一致し、同時にカルモジュリンループの非結合形態(9~12Å)とは異なっていたので、カルシウム結合ループをZドメインのヘリックス2と3の間に導入した。
【0072】
カルシウム結合ループの移植
ヘリックス2と3の間のループの構造的および機能的依存性を調べるために、カルモジュリン由来のカルシウム結合ループのうちの1つをZドメインに移植した。Zドメインのヘリックス2と3の間のループ(アミノ酸配列:DPSQ)をカルモジュリンループ(アミノ酸配列:DKDGDGTITTKE、配列番号11)と交換した。ループの前後にリンカーを付加することの影響も検討した。グリシンおよびセリン残基はリンカーとして一般的に使用されており、ロイシンは、ループのN末端の疎水性残基の影響を調べるために付加した。したがって、6つの変異体を設計し、検討した:ループのみを付加したもの(Z-ループ)、ループのN-末端にLeu残基を付加したもの(Z-Leu-ループ)、ループのN-末端に3つのグリシンまたはセリンを付加したもの(Z-GGG-ループ、Z-SSS-ループ)、およびループのN末端およびC末端に3つのグリシンまたはセリンを付加したもの(Z-GGG-ループ-GGG、Z-SSS-ループ-SSS)。変異体ならびに元のZドメインを作製し、IgGアフィニティクロマトグラフィによって均一になるまで精製した。タンパク質を、円二色性(CD)を用いて、1×PBS、100倍モル過剰のCaClを含む1×PBS、および100倍モル過剰のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含む1×PBSにおける二次構造含量および融解温度についてそれぞれ分析した。変異体とモノクローナルヒトIgGとの相互作用を、0.05%Tween20を補完したCD実験で使用したものと同じランニング緩衝液で表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて検討した。センサーグラムは、ランニング緩衝液にかかわりなく固定化IgGとの相互作用を示したが、緩衝液中のカルシウムおよびEDTAに関するデータは速度論的解析に使用することができなかった。ZドメインのIgGに対する親和性は、カルモジュリンループの単なる導入によって低下した。ループのN末端にロイシンを導入すると、ドメインの構造的安定化がもたらされ、これはIgGに対する親和性の回復をもたらした。ループのN末端およびC末端にグリシンまたはセリンリンカーを有することは、Zドメインと比較してIgGに対する親和性の最大の差異を生じさせた。Z-ループおよびZ-GGG-ループは、カルシウム含有緩衝液とEDTA含有緩衝液との間の融解温度の差が最も大きく、カルシウム依存安定性を示す、元のZドメインと比較してIgGに約10倍低い親和性を示したため、さらなる検討のために選択した。
【0073】
ライブラリ設計
より顕著なカルシウム依存性を有する変異体を作製するための試みとして、2つの変異体Z-ループおよびZ-GGG-ループ上に構築されるコンビナトリアルファージミドライブラリを設計した。多数のカルシウム結合ループの配列に基づき13,25、多種多様な標準的EFハンドループをカバーするように縮重コドンを選択した。Zドメインの三次元構造を作製し、それによってIgGへの結合能力をカルシウム結合ループのコンフォメーションにより依存性にするために、構造的に不安定化する突然変異を、30、44、48および51位を変えることによってライブラリ設計に含めた26-28。30位には、元のフェニルアラニンの他に置換F30Aのみを含めた。44、48および51位については、Ala、Gly、Leu、Ser、TrpおよびValをコードするコドンKBGを使用した。このライブラリは、カルシウム結合ループ中のライブラリに加えて、30、44、48、51位またはこれらの2もしくは数個の組み合わせのいずれかに、50%の「野生型」Z骨格および50%のさらなる置換を有するものを含むように設計した。理論的には、各ライブラリ(Z-ループライブラリおよびZ-GGG-ループライブラリ)のサイズは2×10であった。両方のサブライブラリをプールした最終ライブラリは、形質転換後に2×10のサイズを有し、これは理論上のサイズの半分に相当する。
【0074】
最初の選択
ライブラリから所望の変異体を選択するために4回の選択を行った。各々の回はIgGに対する陰性選択から開始し、EDTAの存在下でライブラリをインキュベートして、そのような条件下で結合した変異体を除去した。EDTAの存在下でIgGに結合することができなかったすべての変異体を含む上清をカルシウム含有緩衝液に緩衝液交換し、陽性選択に使用した。添加したファージの量と比較して過剰の標的(ポリクローナルヒトIgG)を用いてすべての陽性選択を行った。ファージ提示されたライブラリメンバーをさらに構造的に不安定化するために、漸増回数の洗浄を実施し、すべての工程に2M尿素が存在した。ファージの溶出はEDTAを用いて行った。4回の陰性選択および陽性選択の後、ファージ酵素免疫測定法(ELISA)を用いてアウトプットをスクリーニングし、カルシウムまたはEDTAの存在下でのIgGへの結合をそれぞれ測定した。282のスクリーニングしたファージ上清のうちで、A5と表される1つのクローンは、カルシウムまたはEDTAの存在下でIgGへの結合に大きな差異を示した(図1a)。
【0075】
クローンA5を配列番号10と配列決定し、可溶性タンパク質を生成するために発現ベクターにクローニングした。この配列は、元のZ骨格に組み込まれたループのN末端にGGGリンカーを含んでいた。タンパク質を細菌中で発現させ、IgGセファロース上で均一になるまで精製した。純度および分子量を、それぞれドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)および質量分析(MS)によって確認した。精製したドメインを、緩衝液中に尿素が存在するか否かにかかわらず、カルシウムまたはEDTAの存在下でIgGに対するその親和性についてSPRによって評価した。IgGに対するA5の解離平衡定数(K)は、カルシウムまたはEDTAでそれぞれ20および50nM、2M尿素およびカルシウムまたはEDTAでそれぞれ170および330nMであった。同じリガンド表面上に注入した種々のランニング緩衝液中の同じ濃度のタンパク質からのセンサーグラムを図1bおよびcに示し、シグナルおよび曲率の違いを視覚化している。ランニング緩衝液中に存在するEDTAとの解離がカルシウム含有ランニング緩衝液よりもはるかに速いことは明らかである。また、達成された結合シグナルは、カルシウムが存在する場合により高かった。
【0076】
尿素の有無にかかわらず、カルシウムまたはEDTAの存在下での二次構造ならびに融解温度を、CDおよび熱変性後のリフォールディング能力を用いて分析した。タンパク質A5は、緩衝液にかかわりなく融解後にリフォールディングすることができた。融解温度は、EDTAまたはカルシウムを含む緩衝液間で3~4度異なった。二次構造を示すCDスペクトルから、EDTAと比較してカルシウムが緩衝液中に存在する場合、A5はより高いαへリックス含量を有すると考えられる。合わせて考慮すると、これらのデータは、変異体A5が、IgGに対する親和性および二次構造含量においてカルシウム依存性の差異を示すことを示唆する。しかしながら、EDTAが存在する場合のIgGに対する親和性は、カラム精製の設定におけるEDTA媒介カルシウム枯渇による効率的な溶出のためにはまだ高すぎた。
【0077】
成熟ライブラリ
最初の選択は1つの興味深い配列しかもたらさなかったので、選択したクローンの配列アラインメントによって機能的に重要な残基を同定することはできなかった。そのため、A5を鋳型として用いるエラープローンPCRによって成熟ライブラリを作製した。目的は、遺伝子当たり平均2個または3個のランダムなアミノ酸変異を有するライブラリであった。最終ライブラリサイズは2×10であり、予想された突然変異頻度は>250クローンの配列決定に基づいた。
【0078】
成熟選択
2番目の選択を3つの平行なトラックで行った。最初の選択戦略と同様に、第一段階は、ライブラリをEDTA含有緩衝液中のポリクローナルヒトIgGに供する陰性選択であった。これに続いて、陰性選択からのすべての非結合変異体を含む上清を、カルシウムの存在下でファージと比較して過剰の標的に曝露する陽性選択を行った。洗浄後、EDTAの添加時に溶出したファージを回収した。1つのトラックでは、2M 尿素がすべての回の陽性選択に存在した。2番目のトラックでは、尿素の量を陽性選択に比べて減少させ、3番目のトラックでは尿素は存在しなかった。3つのトラックからのアウトプット(トラック当たり192クローン)を、それぞれカルシウムまたはEDTAの存在下でのIgGへの結合を比較するファージELISAでスクリーニングした。最も有望な候補物を三重に再分析し、上位9つのユニークな候補物からの結果を図2に示す。
【0079】
上位9つの変異体(Zmat1~Zmat19)を配列番号1~9と配列決定した。それらはすべて、IgG結合に関与すると記載されている位置に置換を有する(F5、H18、N28、Q32およびK35)24、29、30。さらに、いくつかの変異体(Zmat1~3)は、ループの前のリンカーにGlyからSerへの突然変異を有する。変異体のうちの1つ(Zmat3)だけが、A5と比較してカルシウム結合ループに変異を有する。
【0080】
Zmat1~9を作製し、均一になるまで精製して、これをSDS-PAGEによって確認し、分子量をMSによって確認した。ドメインを二次構造およびIgG結合に関して分析し、元のZドメインおよび親A5変異体と比較した。カルシウムまたはEDTAの存在下でのIgGに対する変異体の親和性を、それぞれSPRによって測定した。二次構造含量、融解温度および融解後にリフォールディングする能力を同じ条件でCDによって調べた。すべての変異体が融解後にリフォールディングすることができた。実験の概要を表1に示す。
【0081】
【表1】
精製実験
実験1
ファージELISA、SPRおよびCDからの結果に基づき、カルシウムの有無にかかわりなく検出された差異に注目して、Zmat1(配列番号1)、Zmat3(配列番号3)、Zmat6(配列番号6)およびZmat8(配列番号8)を精製設定においてさらに検討することを決定した。タンパク質変異体がEDTAを使用して溶出できるかどうかを調べるために、一定量のタンパク質(100μg)をIgGセファロースカラムに充填した。検討したさらなる因子は、溶出緩衝液への1M尿素の添加、高温(37℃)での溶出、および最終溶出前の30分間の溶出緩衝液とのインキュベーションであった。対照として、EDTA溶出の後にpH3.2での従来の溶出を行い、カラムから残留タンパク質を回収した。元のZドメインはpH3.2でしか溶出できないが、緩衝液のpHが5に低下すれば、Zmat8はカルシウム依存的に溶出できると結論付けられた。溶出したピークをSDS-PAGEによって分析した。Zmat8の挙動をさらに特徴付けるために、溶出緩衝液のpHの段階的上昇(pH5.5、5.7、6、6.5および7)を検討し、ここでZmat8は、pH5.5ではEDTAで溶出されるが、pHをさらに上昇させた場合は溶出されないことが示された。
【0082】
Zmat8の配列は配列番号8に示されている。これは、ヘリックス1および2に3つのアミノ酸置換、F5L、N28KおよびK35Iを含む。これは、37~39位にGGGリンカーおよび40~51位にカルシウム結合モチーフを含む。すべての位置がZドメインとIgGとの間の相互作用にとって重要である。それはまた、55位の突然変異、Q55Rも含む(元のZ骨格による番号付け、Zmat8の場合、このアミノ酸は66位にある)。元のアミノ酸は、元の骨格の他のアミノ酸と水素結合を形成する31
【0083】
適切な精製設定でZmat8にチャレンジする(challenge)ために、これをNHS活性化マトリックスにカップリングした。親ドメインZも同様にカップリングし、2つの異なるカラムからの結果を比較した。ポリクローナルヒトIgGをカラムに捕捉することができるかどうか、および捕捉された抗体がどのような条件下で溶出されるかを調べた。IgGは、pH5.5でカルシウム依存的にZmat8カラムから溶出したが(図3a)、Zカラムでは溶出しなかった(図3b)。対照として、pHを3.2に下げることによって両方のカラムからIgGを溶出させ、これは、IgGがZmat8カラム上の酸に匹敵する方法でEDTAで溶出されることを示した。さらに、Zmat8およびZカラムから低いpHで得られた溶出プロフィールは非常に類似することが示された(図3)。
【0084】
ポリクローナルヒトIgG(100mg/l)でスパイクしたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞培養上清および生成されたヒトIgG(約10mg/l)を含むCHO細胞培養上清を試験精製に使用した。図4の生成されたIgGを含む上清によって例示されるように、両方の上清を、Zmat8カラムでの捕捉後にEDTA溶出を用いて高い均一性および純度まで精製した。
【0085】
実験2
C末端システインを含むZmat8(配列番号8)の単量体および頭-尾多量体(二量体、三量体および四量体)の遺伝子を増幅し、発現ベクターにクローニングした。タンパク質を大腸菌で発現させ、IgGセファロースで精製した。
【0086】
等モル量のタンパク質を、システインの共有結合固定化のためにヨードアセチル樹脂(SulfoLink(商標)カップリング樹脂、ThermoFisher)に固定化した。カラムの結合能力を試験するために、EDTA溶出による試験精製設定において大過剰のポリクローナルヒトIgGを樹脂に添加した。
【0087】
材料および方法
樹脂カップリング
タンパク質のカラムへの共有結合および不可逆的固定化を、C末端システインを介してヨードアセチル基で活性化したSulfoLink(登録商標)カップリング樹脂(Thermo Scientific)を用いて行った。Zmat8MonoCys 0.5mg、Zmat8DiCys 1mg、Zmat8TriCys 1.5mgおよびZmat8TetCys 2mgに対応する約70ナノモルの各タンパク質変異体を、総容量1mlのカップリング緩衝液(50mM Tris、5mM EDTA、pH8)に希釈した。各タンパク質の正確な量を確保にするために、エッペンドルフバイオフォトメータを用いて280nmでの吸光度を測定した。pHを7に調整した0.5M TCEP(Sigma)を25mMの最終濃度まで添加し、室温で30分間インキュベートした。空にしたNAP-5カラムを使用して、暗所でカップリング反応を生じさせることを追加して、1mlのSulfoLink(登録商標)カップリング樹脂床への各タンパク質の共有結合固定化を製造業者の指示に従って実施した。保存緩衝液として、20%EtOHを含む1×TBST-Cを使用した。カップリング反応後にカラムから回収した非カップリング画分の280nmでの吸光度を測定し、それらをタンパク質混合物をカラムに添加する前に測定した吸光度と比較することによってカップリング度を決定した。
【0088】
精製
カップリングした樹脂の容量を試験するために、試験精製を3回実施した。1×TBST-C(50mM Tris、150mM NaCl、1mM CaCl、0.05%Tween 20、pH7.5)2ml中の大過剰(50mg)の純粋なポリクローナルヒトIgGを、各試験精製の間に各カラムで精製した。カラムを0.3M HAc(pH3.3)4mlおよび1×TBST-C 4mlで2回パルスした。純粋なIgG 2mlを添加し、続いて1×TBST-C 10mlで洗浄した。溶出緩衝液(100mM NHAc、100mM EDTA、0.05%Tween20、pH5.5)を10×300μlの画分に添加した。カラムを5mM NHAc 3ml、1mM CaClで洗浄した後、10×300μl画分中の0.3M HAcで2回目の溶出を行った。再生は、0.3M HAc 4ml、1×TBST-C 20mlおよび20%EtOHを含む1×TBST 20mlで実施した。各溶出画分の280nmでの吸光度を測定して、カラムから溶出したタンパク質の量を決定した。
【0089】
結果
カップリング前のタンパク質の吸光度とカップリング後の流動タンパク質の吸光度とを比較すると、樹脂へのカップリング効率は、単量体、二量体、三量体および四量体についてそれぞれ54、42、48および49%であった。
【0090】
種々のカラムで過剰のIgGを用いた試験精製を3回行った。各画分中のタンパク質の平均溶出量を図5に示す。Zmat8の多量体変異体から、単量体変異体よりも多くのタンパク質が溶出される。
【0091】
図5は、大過剰のヒトポリクローナルIgGを、EDTA溶出を用いてZmat8の単量体(灰色)、二量体(斜め縞)、三量体(白色)または四量体(横縞)で精製した場合の各画分(n=3)中のタンパク質の平均溶出量を示す。
【0092】
各カラムからのmg単位の溶出タンパク質の総量およびその平均を表2に示す。HAc溶出画分では吸光度を測定することができず、EDTAによる全タンパク質の溶出がすべての多量体変異体で成功したことを意味した。
【0093】
【表2】
実験3
C末端システインを有するZmat8の頭-尾多量体を、HiTrap(商標)カラム(GE Healthcare)中のアガロースベースのマトリックス1mlにカップリングした。試験した変異体は三量体および四量体であった。リガンドの量は、三量体については4.5mg/ml、四量体については3.2mg/mlと決定した。
【0094】
このカラムを、ポリクローナルヒトIgGを用いたAEKTA Pureでの精製に使用した。IgG 40mgの注入は両方のカラムを飽和させることが示された。IgGを、pH5.5の100mM EDTAを用いて溶出した(図6)。pH3.3での溶出も行い、IgGがカラムに残っていないことを確認した。2つの変異体についての精製能力を決定するために、2つのカラムのEDTA溶出ピークの面積を比較した(表3)。四量体は、三量体と比較して、結合分子当たり1.8倍多いIgGおよび結合部位当たり1.3倍多いIgGに結合することができ、カラム精製設定において四量体が三量体よりも高い結合能を有することを示した。
【0095】
【表3】
材料および方法
Zmat8TriCysおよびZmat8TetCysを、C末端システインを介してアガロースベースの樹脂に共有結合的に固定化し、HiTrap(商標)カラム(GE Healthcare)1mlに充填した。アミノ酸分析によってカップリング度を決定した。カラムを使用してAEKTA Pureクロマトグラフィシステム(GE Healthcare)でヒトポリクローナルIgGを精製した。
【0096】
カラムを6カラム容量(c.v.)の1×TBST-C(1×TBS(50mM Tris、150mM NaCl、0.05%Tween20、1mM CaCl、pH7.5))および6c.v.の溶出緩衝液(0.3M HAc、pH3.3または100mM NHAc、100mM EDTA、0.05%Tween20、pH5.5)でパルスした後、13c.v.の1×TBST-Cで平衡させた。次いで、それらを1×TBST-C 2ml中のIgG 40mgで飽和させ、続いて13c.v.の1×TBST-Cおよび5 c.v.の5mM NHAc、1mM CaClで洗浄した。次に、6c.v.の溶出緩衝液をカラムに添加し、溶出液を500μlの画分に収集した。カラムを3c.v.の溶出緩衝液および6c.v.の1×TBST-Cを用いて再生した。両方の溶出緩衝液と両方のタンパク質リガンドを比較するために、各溶出緩衝液を用いた三重測定をZmat8TriCysまたはZmat8TetCysを用いて各カラムで実施した。各精製のピーク面積を含むAbs280クロマトグラムをAEKTA Pureソフトウェアによって作成した。
【0097】
アルカリ安定性
Zmat8のアルカリ安定性を改善できるかどうかを試験するために、元のZドメインのアルカリ安定性を改善することが公知の突然変異、N3A、N6AおよびN23T、ならびにカルシウム結合ループの一部である2つのアスパラギン、N42DおよびN44Dを分子に導入した。6位、42位、または44位の突然変異は、IgGとZmat8との間の親和性を低下させ、精製時にカラムからの漏出を引き起こし、そのためさらなる検討には不適切であると見なされた。N3A変異は、Zmat8と比較してアルカリ安定性の変化を示さず、親和性の変化も示さなかった。
【0098】
N23Tの影響をさらに評価するために、Zmat8およびZmat8(N23T)をBiacoreチップ表面に結合した。IgGを表面上に注入し、続いて100mM NaOHおよび1mM CaClで30サイクルにわたって再生した。各サイクルの最大応答を正規化し、図7に示すようにプロットした。N23T変異は、Zmat8と比較してアルカリ安定性の改善を示した。
【0099】
材料および方法
ミスマッチPCRおよび標準的なクローニング手順を用いて変異体を作製した。それらを配列確認し、大腸菌中で産生させ、SDS-PAGEおよびMALDI-MSによって均一性確認されるまで精製した。
【0100】
SPR実験をBiacore T200(GE Healthcare)で実施した。1×HBSTC(10mM HEPES、150mM NaCl、0.05%Tween20、1mM CaCl)をランニング緩衝液として使用した。100RUを目指す固定化ウィザードを使用して変異体をチップ表面に結合した。カップリング後、チップを3回のブランク注入および10mM HCl再生を伴う1回の試験IgG注入で調整した。
【0101】
500nMのポリクローナルヒトIgGを、180秒の会合および420秒の解離時間を用いて50μl/分で表面に注入した。100mM NaOH、1mM CaClを用いて30μl/分で30秒間表面を再生した。IgG注入とそれに続く再生の30サイクルを実施した。
【0102】
データ解析は、各注入および表面に対する最大応答レベルを調べることによって行った。1回目のサイクルに対する正規化最大応答が1となるように、各応答を最初のIgG注入に対する最大応答で除することによって応答を正規化した。アルカリ再生がチップ表面に結合したZmat8変異体にどのように影響を与えるかを調べるために、正規化最大応答をサイクルに対してプロットした。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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