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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】無段変速機の変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20230313BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20230313BHJP
   F16H 59/02 20060101ALI20230313BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20230313BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/662
F16H59/02
F16H59/42
F16H59/70
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019048544
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2020148310
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 大城
(72)【発明者】
【氏名】西澤 雅央
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 厚
(72)【発明者】
【氏名】井上 拓市郎
(72)【発明者】
【氏名】諏訪部 智之
(72)【発明者】
【氏名】塚本 晋
(72)【発明者】
【氏名】菱田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】根岸 克也
(72)【発明者】
【氏名】小川 正勝
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 未奈
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-013875(JP,A)
【文献】特開2007-263262(JP,A)
【文献】特開2005-042768(JP,A)
【文献】特開2019-002480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12
F16H 61/16-61/24
F16H 61/66-61/70
F16H 63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動源から駆動輪までの駆動系にバリエータを搭載し、前記バリエータの変速比を制御する変速コントローラを備える無段変速機の変速制御装置において、
前記変速コントローラは、マニュアル変速モードを選択すると、固定変速比線を有しないマニュアル変速マップを用い、運転点のマップ位置とドライバによるシフト要求操作に基づいて変速比制御を行うフレキシブルマニュアル変速制御部を有し、
前記フレキシブルマニュアル変速制御部は、
前記マニュアル変速モードの選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある場合、設定された回転段差をダウンシフト量としてダウンシフトを実行し、
前記ダウンシフトを実行すると、前記設定された回転段差により前記バリエータの入力回転数が、前記バリエータの最大入力回転数を規定するダウンシフト上限回転数を超えてしまう場合、前記ダウンシフト上限回転数までの回転段差の上昇によるダウンシフトを許可し、
前記マニュアル変速モードの選択中にドライバ操作によるシフトアップ要求があると、現在の入力回転数から予め設定された所定回転数分だけ一気に低下させ、所定回転数分だけ低下すると、低下した時点の運転点による変速比を維持する固定変速比制御を実行し、
前記マニュアル変速マップは、ドライバ操作によるシフトアップ要求があったときに前記シフトアップを許可する入力回転数の上限回転数を規定するアップシフト上限回転数線と、ドライバ操作によるシフトダウン要求があったときに前記ダウンシフトを許可する入力回転数の上限回転数を規定するダウンシフト上限回転数線と、を有し、
前記アップシフト上限回転数線を、前記ダウンシフト上限回転数線より高い変速機入力回転数域に設定する
ことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された無段変速機の変速制御装置において、
前記フレキシブルマニュアル変速制御部は、前記ドライバによるシフト要求操作に基づくダウンシフトが終了すると、ダウンシフト終了時点における運転点のマップ位置で決まる変速比を維持する
ことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された無段変速機の変速制御装置において、
前記フレキシブルマニュアル変速制御部は、連続的なシフトダウン要求がある場合、シフトダウン要求が1回目のときの回転段差を、マニュアル変速での変速比幅相当のダウンシフト量を確保する第1回転段差に設定し、
前記シフトダウン要求が2回目以降のときの回転数段差を、前記第1回転段差より回転段差幅を小さくした第2回転段差に設定する
ことを特徴とする無段変速機の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動系に適用され、変速比が無段階に制御される無段変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力軸の動力を無段階に変速して出力軸に伝達可能な無段変速機が搭載された車両に用いられ、前記無段変速機を制御する制御装置であって、
シフト操作によらずに変速比を変更する自動変速モードと選択的に切り替えられる手動変速モードにおいて、シフト操作に応答して、段階的に設定された複数の固定変速比間で変速比を変更する手動変速手段と、
前記手動変速モードにおいて、前記入力軸の最低回転数を設定し、前記入力軸の回転数が前記最低回転数を下回らないように変速比を変更する回転数ガード手段と、
前記車両を加速させる加速要求が入力されたか否か判定する判定手段と、
前記加速要求が入力された場合、前記最低回転数を引き上げる補正を行う補正手段とを含む技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-102566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術にあっては、マニュアル変速モードの選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある走行シーンにおいて、ダウンシフト量(=回転段差)により上限回転数を超えてしまうと、無段変速機の入力回転数を上昇させるダウンシフトの実行を禁止している。このため、ドライバにとっては、エンブレ減速などを狙ってシフトダウンを要求しているにもかかわらず、ダウンシフトが実行されないことで、ドライバが期待する走行性能が得られず、ドライバに違和感を与える、という課題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、マニュアル変速モードの選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある走行シーンにおいて、回転段差幅にかかわらずダウンシフトを許可することで、ドライバに違和感を与えるのを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の無段変速機の変速制御装置は、走行用駆動源から駆動輪までの駆動系にバリエータを搭載し、バリエータの変速比を制御する変速コントローラを備える。
変速コントローラは、マニュアル変速モードを選択すると、固定変速比線を有しないマニュアル変速マップを用い、運転点のマップ位置とドライバによるシフト要求操作に基づいて変速比制御を行うフレキシブルマニュアル変速制御部を有する。
フレキシブルマニュアル変速制御部は、マニュアル変速モードの選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある場合、設定された回転段差をダウンシフト量としてダウンシフトを実行する。
ダウンシフトを実行すると、記設定された回転段差によりバリエータの入力回転数が、バリエータの最大入力回転数を規定するダウンシフト上限回転数を超えてしまう場合、ダウンシフト上限回転数までの回転段差の上昇によるダウンシフトを許可する。
マニュアル変速モードの選択中にドライバ操作によるシフトアップ要求があると、現在の入力回転数から予め設定された所定回転数分だけ一気に低下させ、所定回転数分だけ低下すると、低下した時点の運転点による変速比を維持する固定変速比制御を実行する。
マニュアル変速マップは、ドライバ操作によるシフトアップ要求があったときにシフトアップを許可する入力回転数の上限回転数を規定するアップシフト上限回転数線と、ドライバ操作によるシフトダウン要求があったときにダウンシフトを許可する入力回転数の上限回転数を規定するダウンシフト上限回転数線と、を有する。
アップシフト上限回転数線を、ダウンシフト上限回転数線より高い変速機入力回転数域に設定する。
【発明の効果】
【0007】
このように、シフトダウン要求に対し、ダウンシフトを実行すると設定された回転段差により入力回転数がダウンシフト上限回転数を超えても、ダウンシフト上限回転数までの回転段差をダウンシフト量とするダウンシフトが許可されることになる。このため、マニュアル変速モードの選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある走行シーンにおいて、回転段差幅にかかわらずダウンシフトを許可することで、ドライバに違和感を与えるのを低減することができる。加えて、アップシフト上限回転数線とダウンシフト上限回転数線に回転数ヒステリシスを設定することにより、ダウンシフト即アップシフトのように頻繁なシフトとなるビジーシフト感を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の変速制御装置が適用されたベルト式無段変速機を搭載するエンジン車の駆動系と制御系を示す全体システム図である。
図2】エンジン車に適用されたベルト式無段変速機の変速制御装置を示すシステム概要図である。
図3】Dレンジでの無段変速モード選択時に無段変速制御部にて用いられるDレンジ無段変速マップの一例を示す変速マップ図である。
図4】マニュアル変速モード選択時にフレキシブルマニュアル変速制御部にて用いられるマニュアル変速マップの一例を示す変速マップ図である。
図5】変速コントローラのフレキシブルマニュアル変速制御部においてシフトダウン要求があるときに実行されるフレキシブルマニュアル変速制御処理の流れを示すフローチャートである。
図6】背景技術におけるマニュアル変速モード選択時に用いられるDレンジマニュアル有段変速マップの一例を示す変速マップ図である。
図7】背景技術においてマニュアル変速モードの選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある走行シーンにおいての課題を示す課題説明図である。
図8】実施例1においてマニュアル変速モードの選択によるコースト減速走行中にシフトダウン要求操作を複数回連続したときのコースト状態での減速ダウンシフト作用を示すタイムチャートである。
図9】実施例1においてマニュアル変速モードの選択によるコースト減速走行中にシフトダウン要求操作を複数回連続したときのコースト状態での減速ダウンシフトでの運転点の動きを示す作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の無段変速機の変速制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
実施例1における無段変速機の変速制御装置は、トルクコンバータと前後進切替機構とバリエータと終減速機構により構成されるベルト式無段変速機を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「変速制御装置のシステム構成」、「フレキシブルマニュアル変速制御処理構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は、実施例1の変速制御装置が適用されたエンジン車の駆動系と制御系を示す。以下、図1に基づいて全体システム構成を説明する。
【0012】
エンジン車の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。ここで、ベルト式無段変速機CVTは、トルクコンバータ2と前後進切替機構3とバリエータ4と終減速機構5を図外の変速機ケースに内蔵することにより構成される。
【0013】
エンジン1は、ドライバのアクセル操作による出力トルクの制御(通常制御)以外に、外部からのエンジン制御信号により出力トルクを制御可能である。このエンジン1には、変速機との協調制御によりトルクダウン制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。なお、トルクダウン制御では、エンジン1の点火時期リタード制御やスロットルバルブ閉制御などによりエンジントルクが上限トルクを上回らないように制限する。
【0014】
トルクコンバータ2は、トルク増幅機能やトルク変動吸収機能を有する流体継手による発進要素である。トルク増幅機能やトルク変動吸収機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、ポンプインペラ23と、タービンランナ24と、ケースにワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
【0015】
前後進切替機構3は、バリエータ4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、前進クラッチ31と、後退ブレーキ32と、を有する。前進クラッチ31は、Dレンジなどの前進走行レンジ選択時に前進クラッチ圧Pfcにより油圧締結される。後退ブレーキ32は、Rレンジなどの後退走行レンジ選択時に後退ブレーキ圧Prbにより油圧締結される。なお、前進クラッチ31と後退ブレーキ32は、Nレンジ(ニュートラルレンジ)の選択時、前進クラッチ圧Pfcと後退ブレーキ圧Prbをドレーンすることで、いずれも解放される。
【0016】
バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、プーリベルト44と、を有し、ベルト接触径の変化により変速比(バリエータ入力回転とバリエータ出力回転の比)を無段階に変化させる無段変速機構である。
【0017】
プライマリプーリ42は、バリエータ入力軸40の同軸上に配された固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bは、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriによりスライド動作する。
【0018】
セカンダリプーリ43は、バリエータ出力軸41の同軸上に配された固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bは、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecによりスライド動作する。
【0019】
プーリベルト44は、プライマリプーリ42のV字形状をなすシーブ面と、セカンダリプーリ43のV字形状をなすシーブ面に掛け渡されている。このプーリベルト44は、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リングと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リングに沿って挟み込みにより環状に積層して取り付けられた多数のエレメントにより構成されている。なお、プーリベルト44としては、プーリ進行方向に多数配列したチェーンエレメントを、プーリ軸方向に貫通するピンにより結合したチェーンタイプのベルトであっても良い。
【0020】
終減速機構5は、バリエータ出力軸41からのバリエータ出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、減速ギア機構として、バリエータ出力軸41に設けられたアウトプットギア52と、アイドラ軸50に設けられたアイドラギア53及びリダクションギア54と、デフケースの外周位置に設けられたファイナルギア55と、を有する。そして、差動ギア機構として、左右のドライブ軸51,51に介装されたディファレンシャルギア56を有する。
【0021】
エンジン車の制御系は、図1に示すように、油圧制御系である油圧制御ユニット7と、電子制御系であるCVTコントロールユニット8と、エンジンコントロールユニット9とを備えている。なお、CVTコントロールユニット8とエンジンコントロールユニット9は、CAN通信線13により情報交換可能に接続されている。
【0022】
油圧制御ユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppri、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psec、前進クラッチ31への前進クラッチ圧Pfc、後退ブレーキ32への後退ブレーキ圧Prb、などを調圧するユニットである。この油圧制御ユニット7は、エンジン1により回転駆動されるメカオイルポンプと電動モータにより回転駆動される電動オイルポンプとの少なくとも一方による油圧源70と、油圧源70からの吐出圧に基づいて各種の制御圧を調圧する油圧制御回路71と、を備える。
【0023】
油圧制御回路71には、ライン圧ソレノイド弁72と、プライマリ圧ソレノイド弁73と、セカンダリ圧ソレノイド弁74と、セレクトソレノイド弁75と、ロックアップ圧ソレノイド弁76と、を有する。なお、各ソレノイド弁72,73,74,75,76は、CVTコントロールユニット8から出力されるソレノイド指令値によって各指令圧に調圧する。
【0024】
ライン圧ソレノイド弁72は、CVTコントロールユニット8から出力されるライン圧指令値に応じ、油圧源70からの吐出圧を、指令されたライン圧PLに調圧する。このライン圧PLは、各種の制御圧を調圧する際の元圧であり、駆動系を伝達するトルクに対してベルト滑りやクラッチ滑りを抑える油圧とされる。他のソレノイド弁73,74,75,76は、ライン圧PLを元圧として指令された油圧に減圧調整する。
【0025】
CVTコントロールユニット8は、ライン圧制御や変速制御や前後進切替制御やロックアップ制御などを行う。ライン圧制御では、アクセル開度APOなどに応じた目標ライン圧を得る指令値をライン圧ソレノイド弁72に出力する。変速制御では、目標変速比(目標プライマリ回転Npri*)を決めると、決めた目標変速比(目標プライマリ回転Npri*)を得る指令値をプライマリ圧ソレノイド弁73及びセカンダリ圧ソレノイド弁74に出力する。前後進切替制御では、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する指令値をセレクトソレノイド弁75に出力する。ロックアップ制御では、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するロックアップ制御圧PL/Uを制御する指令値をロックアップ圧ソレノイド弁76に出力する。
【0026】
CVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ80、車速センサ81、セカンダリ回転センサ82、油温センサ83、インヒビタスイッチ84、ブレーキスイッチ85、タービン回転センサ86からの情報が入力される。さらに、変速モード選択スイッチ87、シフト操作スイッチ88などからの情報が入力される。エンジンコントロールユニット9には、アクセル開度センサ90、エンジン回転センサ91などからの情報が入力される。
【0027】
[変速制御装置のシステム構成]
図2は、エンジン車に適用されたベルト式無段変速機CVTの変速制御装置を示す。以下、図2図4に基づいて変速制御装置のシステム構成を説明する。
【0028】
エンジン車の駆動系は、図3に示すように、エンジン1(走行用駆動源)と、ベルト式無段変速機CVT(トルクコンバータ2、前後進切替機構3、バリエータ4、終減速機構5)と、駆動輪6と、を備えている。
【0029】
ベルト式無段変速機CVTのトルクコンバータ2は、締結によりエンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結するロックアップクラッチ20を有する。前後進切替機構3は、前進走行レンジ(Dレンジ、Lレンジなど)の選択により締結される前進クラッチ31と、後退走行レンジ(Rレンジ)の選択により締結される後退ブレーキ32と、を並列に有する。バリエータ4(無段変速機構)は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、両プーリ42,43に掛け渡されるプーリベルト44と、を有する。
【0030】
変速制御装置の油圧制御系は、図2に示すように、油圧源70と、油圧制御回路71と、プライマリ圧ソレノイド弁73と、セカンダリ圧ソレノイド弁74と、を備えている。
【0031】
プライマリ圧ソレノイド弁73は、変速油圧制御時、油圧制御回路71において、油圧源70からの吐出圧に基づいて調圧されたライン圧を元圧とし、CVTコントロールユニット8からのプライマリ圧制御指令によりプライマリ圧Ppriを調圧する。そして、調圧されたプライマリ圧Ppriは、バリエータ4に有するプライマリプーリ42のプライマリ圧室45に導かれる。
【0032】
セカンダリ圧ソレノイド弁74は、変速油圧制御時、油圧制御回路71において、油圧源70からの吐出圧に基づいて調圧されたライン圧を元圧とし、CVTコントロールユニット8からのセカンダリ圧制御指令によりセカンダリ圧Psecを調圧する。そして、調圧されたセカンダリ圧Psecは、バリエータ4に有するセカンダリプーリ43のセカンダリ圧室46に導かれる。
【0033】
変速制御装置の電子制御系は、図2に示すように、CVTコントロールユニット8を備え、CVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ80、車速センサ81、インヒビタスイッチ84、変速モード選択スイッチ87、シフト操作スイッチ88、アクセル開度センサ90などからの情報が入力される。
【0034】
ここで、プライマリ回転センサ80は、プライマリプーリ42のプライマリ回転数Npriを検出する。車速センサ81は、車速VSPを検出する。インヒビタスイッチ84は、ドライバが選択しているレンジ位置(Rレンジ、Nレンジ、Pレンジ、Dレンジ、Lレンジなど)を検出する。アクセル開度センサ90は、アクセル開度APO(ドライバによるアクセル操作量)を検出し、CAN通信線13を介してCVTコントロールユニット8へアクセル開度APOの情報を供給する。
【0035】
変速モード選択スイッチ87は、ドライバ操作により「無段変速モード」と「マニュアル変速モード」との何れかの変速モードを選択するスイッチであり、無段変速モード選択信号とマニュアル変速モード選択信号を出力する。
【0036】
シフト操作スイッチ88は、「マニュアル変速モード」を選択している場合、シフトアップを意図するドライバ操作によりシフトアップ要求信号を出力し、シフトダウンを意図するドライバ操作によりシフトダウン要求信号を出力する。なお、ドライバ操作とは、例えば、アップシフト/ダウンシフトの操作レバーに対するレバー操作、或いは、アップシフト/ダウンシフトの操作ボタンに対するボタン操作、或いは、アップシフト/ダウンシフトのシーソースイッチに対するスイッチ操作などをいう。
【0037】
CVTコントロールユニット8は、図2に示すように、ベルト式無段変速機CVTのバリエータ4による変速制御機能を分担する変速コントローラ800を備える。変速コントローラ800は、変速モード選択部801と、無段変速制御部802と、フレキシブルマニュアル変速制御部803と、ソレノイド指令出力部804と、を有する。
【0038】
変速モード選択部801は、インヒビタスイッチ84と変速モード選択スイッチ87からのスイッチ信号を入力する。そして、Dレンジであって、かつ、「無段変速モード」であるとき、無段変速制御部802による無段変速制御処理を選択する。一方、Dレンジであって、かつ、「マニュアル変速モード」であるとき、フレキシブルマニュアル変速制御部803によるマニュアル変速制御処理を選択する。
【0039】
無段変速制御部802は、「無段変速モード」の選択時、図3に示すDレンジ無段変速マップM1を用い、運転点(VSP,APO)のマップ位置に基づいて無段階に変速比を変更する無段変速制御処理を実行する。無段変速制御部802からソレノイド指令出力部804へは、無段変速制御処理結果として目標プライマリ回転数Npri(C)*を出力する。
【0040】
フレキシブルマニュアル変速制御部803は、「マニュアル変速モード」の選択時、図4に示すマニュアル変速マップM2を用い、運転点(VSP,APO)のマップ位置とドライバによるシフト要求操作とに基づいてマニュアル変速制御処理を実行する。フレキシブルマニュアル変速制御部803からソレノイド指令出力部804へは、マニュアル変速制御処理結果として目標プライマリ回転数Npri(M)*を出力する。ここで、“フレキシブルマニュアル変速制御部803”としたのは、マニュアル変速マップM2が固定変速比線を有さず、運転状況に応じて無数の固定変速比線を引くことができる柔軟性が高い制御則によるマニュアル変速制御部であることによる。
【0041】
ソレノイド指令出力部804は、「無段変速モード」の選択時、無段変速制御部802から目標プライマリ回転数Npri(C)*を入力する。そして、実プライマリ回転数Npriを目標プライマリ回転数Npri(C)*へ収束させるプライマリ圧制御指令とセカンダリ圧制御指令を演算する。一方、「マニュアル変速モード」の選択時、フレキシブルマニュアル変速制御部803から目標プライマリ回転数Npri(M)*を入力する。そして、実プライマリ回転数Npriを目標プライマリ回転数Npri(M)*へ収束させるプライマリ圧制御指令とセカンダリ圧制御指令を演算する。演算されたプライマリ圧制御指令はプライマリ圧ソレノイド弁73へ出力し、セカンダリ圧制御指令はセカンダリ圧ソレノイド弁74へ出力する。
【0042】
次に、無段変速制御部802の詳細を説明する。図3は、Dレンジでの無段変速モード選択時に無段変速制御部にて用いられるDレンジ無段変速マップM1の一例を示す。Dレンジ無段変速マップM1は、縦軸を目標プライマリ回転数Npri*とし横軸を車速VSPとする二次元座標面に、最ロー変速比線と最ハイ変速比線とコースト変速比線が書き込まれた変速マップである。なお、トルクコンバータ2のロックアップクラッチ20が締結状態であるときは、バリエータ4への入力回転数であるプライマリ回転数Npriはそのままエンジン回転数Neになる。
【0043】
Dレンジ無段変速マップM1を用いる無段変速制御は、最ロー変速比線と最ハイ変速比線とコースト変速比線とで囲まれるハッチング領域内で、運転点(VSP,APO)の位置に応じて目標プライマリ回転数Npri*を決めることで実行される。なお、変速比は、Dレンジ無段変速マップM1の最ロー変速比線や最ハイ変速比線から明らかなように、ゼロ運転点から引かれる固定変速比線(=等変速比線)の傾きであらわされる。なお、運転点(VSP,APO)の位置により目標プライマリ回転数Npri*を決めることは、セカンダリ回転数Nsec(=車速VSP)との関係からバリエータ4の目標変速比を決めることに等しい。
【0044】
例えば、車速VSPが一定のとき、アクセル踏み込み操作を行うとアクセル開度APOの上昇により目標プライマリ回転数Npri*が上昇してダウンシフト方向に変速する。例えば、車速VSPが一定のとき、アクセル踏み戻し操作を行うとアクセル開度APOの低下により目標プライマリ回転数Npri*が低下してアップシフト方向に変速する。例えば、アクセル開度APOが一定のとき、車速VSPが上昇すると最ハイ変速比線に向かいアップシフト方向に変速し、車速VSPが低下すると最ロー変速比線に向かいダウンシフト方向に変速する。
【0045】
次に、フレキシブルマニュアル変速制御部803の詳細を説明する。図4は、マニュアル変速モード選択時にフレキシブルマニュアル変速制御部803にて用いられるマニュアル変速マップM2の一例を示す。マニュアル変速マップM2は、縦軸を目標プライマリ回転数Npri*とし横軸を車速VSPとする二次元座標面に、最ロー変速比線と最ハイ変速比線と最低回転数線とアップシフト上限回転数線とダウンシフト上限回転数線が書き込まれた変速マップである。即ち、マニュアル変速マップであるにもかかわらず、固定変速比線を有さない点を最大の特徴とする。そして、マニュアル変速マップM2での運転点(VSP,APO)のマップ位置とドライバによるシフト要求操作とに基づいて変速比制御を行う。
【0046】
ここで、最低回転数線は、バリエータ4への入力回転数(=プライマリ回転数Npri=エンジン回転数Ne)として、エンジンストールを防止するために維持しておく必要がある最低回転数を規定する回転数線である。このため、マニュアル変速マップM2にて運転点(VSP,APO)が最低回転数線に移行すると、フレキシブルマニュアル変速制御部803は、車速VSPの変化に応じたバリエータ4の無段変速制御により入力回転数の最低回転数を維持する。
【0047】
マニュアル変速マップM2のアップシフト上限回転数線は、ドライバ操作によるシフトアップ要求があったとき、バリエータ4の最大入力回転数を規定する回転数線である。マニュアル変速マップM2のダウンシフト上限回転数線は、ドライバ操作によるシフトダウン要求があったとき、バリエータ4の最大入力回転数を規定する回転数線である。このため、フレキシブルマニュアル変速制御部803によるアップシフト制御での上限回転数は、アップシフト上限回転数により制限され、ダウンシフト制御での上限回転数は、ダウンシフト上限回転数により制限される。そして、アップシフト/ダウンシフトが頻繁に繰り返されるのを防止するビジーシフト対策のため、アップシフト上限回転数線を、ダウンシフト上限回転数線より高い変速機入力回転数域に設定するという回転数ヒステリシスを持たせている。
【0048】
例えば、「マニュアル変速モード」の選択中に図4の運転点Aにてアクセル足離し操作をしたとき、運転点Aにより決まる固定変速比線に沿ってコースト減速し、コースト減速によって図4の運転点Bにて最低回転数線に到達したとする。この場合、運転点Bからは最低回転数を維持するように固定変速比制御からダウンシフト方向の無段変速制御へと移行する。そして、無段変速中の運転点Cにてアクセル踏み込み操作が行われたら、アクセル踏み込み操作時点の変速比(運転点Cにより決まる固定変速比)を維持する制御が実行される。
【0049】
即ち、最低回転数を維持する無段変速中にアクセル踏み込み操作が行われたら、無段変速制御からアクセル踏み込み操作タイミングでの運転点(VSP,APO)により決まる固定変速比制御へ移行する。言い換えると、アクセル踏み込み操作タイミングでの運転点(VSP,APO)がどの位置であろうと、運転点(VSP,APO)とゼロ運転点を通る固定変速比線が描かれることになる。同様に、「マニュアル変速モード」の選択中におけるアップシフト時やダウンシフト時においても、入力回転数低下によるアップシフト終了時点や入力回転数上昇によるダウンシフト終了時点の運転点(VSP,APO)とゼロ運転点を通る固定変速比線が描かれる。
【0050】
フレキシブルマニュアル変速制御部803は、「マニュアル変速モード」の選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある場合、ダウンシフトを実行すると設定された回転段差により入力回転数がダウンシフト上限回転数を超えても、ダウンシフト上限回転数までの回転段差の上昇によるダウンシフトを許可する。つまり、ドライバ操作によるシフトダウン要求がある場合、そのときのバリエータ4の入力回転数(=目標プライマリ回転数Npri*)とダウンシフト上限回転数との間に回転段差があれば、その回転段差をダウンシフト量とするダウンシフトを許可する。
【0051】
フレキシブルマニュアル変速制御部803は、シフトダウン要求に応えてダウンシフトを実行する場合、現時点の入力回転数(=目標プライマリ回転数Npri*)を設定された回転段差、又は、ダウンシフト上限回転数までの回転段差の分だけ一気に上昇させてダウンシフトを終了する。そして、ダウンシフトが終了すると、ダウンシフト終了時点における運転点(VSP,APO)のマップ位置で決まる変速比を維持する。
【0052】
フレキシブルマニュアル変速制御部803は、1回目のシフトダウン要求があるときの回転段差を、複数の固定変速比線を用いたマニュアル変速での変速段間の変速比幅相当のダウンシフト量を確保する第1回転段差ΔN1に設定する。そして、シフトダウン要求が2回目以降のときの回転数段差を、第1回転段差ΔN1より回転段差幅を小さくした第2回転段差ΔN2に設定する。
【0053】
[フレキシブルマニュアル変速制御処理構成]
図5は、変速コントローラ800のフレキシブルマニュアル変速制御部803においてシフトダウン要求があるときに実行されるフレキシブルマニュアル変速制御処理の流れを示す。以下、図5の各ステップについて説明する。なお、図5のフレキシブルマニュアル変速制御処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0054】
ステップS1では、スタートに続いて、「マニュアル変速モード」の選択であるか否かを判断する。YES(「マニュアル変速モード」の選択)の場合はステップS2へ進み、NO(「無段変速モード」の選択)の場合はエンドへ進む。
【0055】
ステップS2では、S1での「マニュアル変速モード」の選択であるとの判断に続き、ドライバ操作によるシフトダウン要求が有りか否かを判断する。YES(ドライバのシフトダウン要求有り)の場合はステップS3へ進み、NO(ドライバのシフトダウン要求無し)の場合はステップS11へ進む。
【0056】
ステップS3では、S2でのドライバ操作によるシフトダウン要求有りとの判断に続き、今回のシフトダウン要求は、前回のシフトダウン要求から経過時間が連続要求閾値を超えた後の1回目であるか否かを判断する。YES(シフトダウン要求の1回目)の場合はステップS4へ進み、NO(シフトダウン要求の2回目以降)の場合はステップS5へ進む。
【0057】
ここで、ドライバ操作によるシフトダウン要求が連続要求閾値以下の時間間隔でなされた場合は、連続シフトダウン要求による2回目、3回目、4回目、…のシフトダウン要求と判断する。
【0058】
ステップS4では、S3でのシフトダウン要求の1回目であるとの判断に続き、第1回転段差ΔN1を設定し、ステップS6へ進む。
【0059】
ここで、「第1回転段差ΔN1」は、例えば、シフトダウン要求時のバリエータ4の変速比がハイ側であり、かつ、車速VSPが高いほど大きなダウンシフト量になるような可変値で与える。なお、「第1回転段差ΔN1」は、予め設定した固定値で与えても良く、この場合、第2回転段差ΔN2より高い値に設定する。
【0060】
ステップS5では、S3でのシフトダウン要求の2回目以降であるとの判断に続き、第2回転段差ΔN2(<第1回転段差ΔN1)を設定し、ステップS6へ進む。
【0061】
ここで、「第2回転段差ΔN2」は、第2回転段差ΔN2<第1回転段差ΔN1という大小関係による予め設定した固定値で与える。なお、「第2回転段差ΔN2」は、第1回転段差ΔN1と同様に、例えば、シフトダウン要求時のバリエータ4の変速比や車速VSPに応じた可変値で与えても良い。
【0062】
ステップS6では、S4又はS5での回転段差の設定に続き、現時点での目標プライマリ回転数Npri*に第1回転段差ΔN1又は第2回転段差ΔN2を加えたとき、ダウンシフト上限回転数を超えるか否かを判断する。YES(ダウンシフト上限回転数を超える)の場合はステップS7へ進み、NO(ダウンシフト上限回転数を超えない)の場合はステップS8へ進む。
【0063】
ステップS7では、S6でのダウンシフト上限回転数を超えるとの判断に続き、ダウンシフト上限回転数まで目標プライマリ回転数Npri*を上昇させる「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御の実行を許可し、ステップS9へ進む。
【0064】
ステップS8では、S6でのダウンシフト上限回転数を超えないとの判断に続き、そのときに設定されている回転段差(第1回転段差ΔN1又は第2回転段差ΔN2)まで目標プライマリ回転数Npri*を上昇させる「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御の実行を許可し、ステップS9へ進む。
【0065】
ステップS9では、S7又はS8での「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御の実行に続き、プライマリ回転数Npriが、そのときの目標回転段差までの回転数上昇終点に到達したか否かを判断する。YES(回転数上昇終点に到達)の場合はステップS10へ進み、NO(回転数上昇終点に未到達)の場合はステップS9の判断を繰り返す。
【0066】
ステップS10では、S9での回転数上昇終点に到達との判断に続き、ゼロ運転点と回転数上昇終点の運転点(VSP,APO)とを繋ぐ直線で決まる固定変速比を目標変速比とし、目標変速比を維持するバリエータ4の固定変速比制御を実行し、エンドへ進む。
【0067】
ステップS11では、S2でのドライバのシフトダウン要求無しとの判断に続き、シフトアップ要求が有りか否かを判断する。YES(ドライバのシフトアップ要求有り)の場合はステップS12へ進み、NO(ドライバのシフトアップ要求無し)の場合はそのときの固定変速比を維持するバリエータ4の変速比制御を実行し、エンドへ進む。
【0068】
ステップS12では、S11でのシフトアップ要求有りとの判断に続き、「マニュアル変速モード」でのアップシフト制御を実行し、エンドへ進む。
【0069】
ここで、「マニュアル変速モード」でのアップシフト制御とは、例えば、ドライバ操作によるシフトアップ要求があると、現在の入力回転数(=目標プライマリ回転数Npri*)から予め設定された所定回転数分だけ一気に低下させる。そして、所定回転数分だけ低下すると、低下した時点の運転点(VSP,APO)による変速比を維持する固定変速比制御を実行することをいう。
【0070】
次に、「背景技術と課題解決対策」を説明する。そして、実施例1の作用を、「フレキシブルマニュアル変速制御処理作用」、「コースト状態での減速ダウンシフト作用」を説明する。
【0071】
[背景技術と課題解決対策]
背景技術の「マニュアル変速モード」において用いられるマニュアル有段変速マップは、例えば、図6に示すように、固定変速比線による複数のマニュアル変速段(例えば、M1速段~M5速段)を有する変速マップを用いる。そして、ドライバのシフト操作(レバー操作やスイッチ操作など)によりシフトアップ要求があると、その時に選択されているマニュアル変速段から1つの上のマニュアル変速段を選択する。また、ドライバのシフト操作によりシフトダウン要求があると、その時に選択されているマニュアル変速段から1つの下のマニュアル変速段を選択する。
【0072】
例えば、M2速段が選択されていて運転点がD点であるとき、シフトアップ要求のドライバ操作があると、運転点がD点からE点へと移行してM3速段が選択される。一方、M4速段が選択されていて運転点がF点であるとき、シフトダウン要求のドライバ操作があると、運転点がF点からG点へと移行してM3速段が選択される。
【0073】
この背景技術において、図7に示すように、例えば、コースト状態での減速ダウンシフトを意図し、連続的なシフトダウン要求を出すドライバ操作を行ったとする。この場合、M4速段の選択中にドライバ操作による1回目のシフトダウン要求については、M3速段までのダウンシフト量(=回転段差)があっても上限回転数を超えないため、M4速段からM3速段へのダウンシフトは許可される。しかし、M3段の選択中にドライバ操作による2回目のシフトダウン要求については、M2段までのダウンシフト量(=回転段差)によって上限回転数を超えてしまうため、M3速段からM2速段へのダウンシフトの実行が禁止される。
【0074】
このため、ドライバにとっては、エンブレ減速を狙ってドライバが連続的なシフトダウン要求操作を行っているにもかかわらず、M4速段からM3速段への1回だけのダウンシフトとなり、M3速段からM2速段へのダウンシフトが実行されない。よって、ダウンシフトによりエンジン回転数が上昇し、エンジンでの負荷抵抗を上げることによるエンブレ減速感として、ドライバが期待する減速性能によるエンブレ減速感が得られず、ドライバに違和感を与える、という課題があった。
【0075】
本発明者等は、上記課題を解決するため、「マニュアル変速モード」の選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある場合、設定された回転段差を用いるダウンシフトの禁止判断に代え、回転段差が小さくても積極的にダウンシフトを許可する点に着目した。この着目に基づいて、ベルト式無段変速機CVTの変速制御装置は、エンジン1から駆動輪6までの駆動系にバリエータ4を搭載し、バリエータ4の変速比を制御する変速コントローラ800を備える。変速コントローラ800は、「マニュアル変速モード」を選択すると、ドライバによるシフト要求操作に基づいて変速比制御を行うフレキシブルマニュアル変速制御部803を有する。フレキシブルマニュアル変速制御部803は、「マニュアル変速モード」の選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある場合、ダウンシフトを実行すると設定された回転段差により入力回転数がダウンシフト上限回転数を超えても、ダウンシフト上限回転数までの回転段差の上昇によるダウンシフトを許可する課題解決対策を採用した。
【0076】
即ち、背景技術では、ドライバ操作によるシフトダウン要求に対し、ダウンシフトを実行すると設定された回転段差により入力回転数がダウンシフト上限回転数を超えてしまうと、ダウンシフトの実行が禁止されていた。これに対し、ドライバ操作によるシフトダウン要求に対し、ダウンシフトを実行するとダウンシフト上限回転数を超えても、ダウンシフト上限回転数までの回転段差の上昇によるダウンシフトが許可される。言い換えると、フトダウン要求時点の目標プライマリ回転数Npri*とダウンシフト上限回転数までの回転段差分が、設定された回転段差より小さいときであっても、その回転段差をダウンシフト量とするダウンシフトが許可されことになる。
【0077】
よって、例えば、エンブレ減速を狙ってドライバが連続的なシフトダウン要求操作を行うと、連続的なシフトダウン要求操作のそれぞれに応答して連続的なダウンシフトが実行される。ここで、連続的なシフトダウン要求操作のそれぞれに応答して連続的なダウンシフトを実行できるのは、下記(a),(b)の理由による。
【0078】
(a)シフトダウン要求操作に基づいてダウンシフトが実行される際、バリエータ4の入力回転数がダウンシフト上限回転数を超えないという制約条件が課される。このため、シフトダウン要求操作に基づいてシフトダウンが実行されても、バリエータ4の入力回転数がダウンシフト上限回転数を超えることがない。
【0079】
(b)ドライバによる連続的なシフトダウン要求操作は、個人差があっても所定の時間間隔を介した操作になる。このため、ダウンシフトを実行してバリエータ4の入力回転数がダウンシフト上限回転数に到達しても、所定の時間間隔の間での車速VSPの低下に伴ってバリエータ4の入力回転数が低下する。よって、ドライバによる連続的なシフトダウン要求操作であったとき、各シフトダウン要求操作時点においてバリエータ4の入力回転数からダウンシフト上限回転数までの回転段差の発生を見込むことができる。
【0080】
このように、連続的なシフトダウン要求操作のそれぞれに応答した連続的なダウンシフトの実行が確保されることにより、シフトダウン要求操作毎にエンジン回転数Neが上昇し、エンジン1での負荷抵抗が上げられる。この結果、エンブレ減速感として、ドライバによるシフトダウン要求操作に呼応してドライバが期待する減速性能によるエンブレ減速感が得られることになる。このため、「マニュアル変速モード」の選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある場合、回転段差幅にかかわらずダウンシフトを許可することで、ドライバに違和感を与えるのを低減することができる。
【0081】
[フレキシブルマニュアル変速制御処理作用]
フレキシブルマニュアル変速制御部803においてシフトダウン要求があるときに実行されるフレキシブルマニュアル変速制御処理作用を、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0082】
まず、「マニュアル変速モード」の選択中であって、走行中にドライバのシフト操作によるシフトアップ要求があると、S1→S2→S11→S12→エンドへと進む。S12では、ドライバによるシフトアップ要求に基づいて、現在の入力回転数(=プライマリ回転数Npri)から予め設定された所定回転数分だけ一気に低下させ、有段アップシフト感を演出する「マニュアル変速モード」でのアップシフト制御が実行される。このアップシフト制御でバリエータ4の入力回転数を所定回転数分だけ低下させると、低下したときの運転点(VSP,APO)とゼロ運転点を通る固定変速比線を引き、その後、固定変速比が維持される。
【0083】
次に、「マニュアル変速モード」の選択中であって、走行中にドライバのシフト操作による1回目のシフトダウン要求があると、S1→S2→S3→S4→S6へと進む。S4では、ドライバによる1回目のシフトダウン要求操作に基づいて、第2回転段差ΔN2より高い値による第1回転段差ΔN1が設定される。S6では、現時点での目標プライマリ回転数Npri*に第1回転段差ΔN1を加えたとき、ダウンシフト上限回転数を超えるか否かが判断される。
【0084】
S6にてダウンシフト上限回転数を超えると判断されると、S6からS7→S9へと進む。S7では、目標プライマリ回転数Npri*をダウンシフト上限回転数まで一気に上昇させ、有段ダウンシフト感を演出する「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御が実行される。S9では、プライマリ回転数Npriが、ダウンシフト上限回転数による回転数上昇終点に到達したか否かが判断される。
【0085】
一方、S6にてダウンシフト上限回転数を超えないと判断されると、S6からS8→S9へと進む。S8では、そのときの目標プライマリ回転数Npri*から第1回転段差ΔN1を加えた回転数まで一気に上昇させ、有段ダウンシフト感を演出する「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御が実行される。S9では、プライマリ回転数Npriが、第1回転段差ΔN1を加えた回転数上昇終点に到達したか否かが判断される。
【0086】
S9にて回転数上昇終点に到達したと判断されると、S9からS10→エンドへ進む。S10では、ゼロ運転点と回転数上昇終点の運転点(VSP,APO)とを繋ぐ直線で決まる固定変速比が目標変速比とされ、目標変速比を維持するバリエータ4の固定変速比制御が実行される。
【0087】
次に、「マニュアル変速モード」の選択中であって、走行中にドライバのシフト操作による2回目のシフトダウン要求があると、S1→S2→S3→S5→S6へと進む。S5では、ドライバによる2回目のシフトダウン要求操作に基づいて、第1回転段差ΔN1より低い値による第2回転段差ΔN2が設定される。S6では、現時点での目標プライマリ回転数Npri*に第2回転段差ΔN2を加えたとき、ダウンシフト上限回転数を超えるか否かが判断される。
【0088】
S6にてダウンシフト上限回転数を超えると判断されると、S6からS7→S9へと進む。S7では、目標プライマリ回転数Npri*をダウンシフト上限回転数まで一気に上昇させ、有段ダウンシフト感を演出する「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御が実行される。S9では、プライマリ回転数Npriが、ダウンシフト上限回転数による回転数上昇終点に到達したか否かが判断される。
【0089】
一方、S6にてダウンシフト上限回転数を超えないと判断されると、S6からS8→S9へと進む。S8では、そのときの目標プライマリ回転数Npri*から第2回転段差ΔN2を加えた回転数まで一気に上昇させ、有段ダウンシフト感を演出する「マニュアル変速モード」でのダウンシフト制御が実行される。S9では、プライマリ回転数Npriが、第2回転段差ΔN2を加えた回転数上昇終点に到達したか否かが判断される。
【0090】
S9にて回転数上昇終点に到達したと判断されると、S9からS10→エンドへ進む。S10では、ゼロ運転点と回転数上昇終点の運転点(VSP,APO)とを繋ぐ直線で決まる固定変速比が目標変速比とされ、目標変速比を維持するバリエータ4の固定変速比制御が実行される。
【0091】
さらに、「マニュアル変速モード」の選択中であって、走行中にドライバのシフト操作による3回目以降のシフトダウン要求があると、2回目のシフトダウン要求がある場合と同様の流れにより、ダウンシフト制御が繰り返し実行される。
【0092】
このように、「マニュアル変速モード」の選択であって、減速走行中にドライバによる1回目~n回目までの連続的なシフトダウン要求操作がある場合、下記に記載する特徴を有する。
・ドライバによる1回目~n回目による連続的なシフトダウン要求操作があると、それぞれの要求操作に呼応してダウンシフト制御が実行される。
・ドライバによるシフトダウン要求操作があったとき、ダウンシフト上限回転数までの回転段差が第1回転段差ΔN1又は第2回転段差ΔN2を許容する場合、設定された第1回転段差ΔN1又は第2回転段差ΔN2がダウンシフト量とされる。
・ドライバによるシフトダウン要求操作があったとき、ダウンシフト上限回転数までの回転段差が第1回転段差ΔN1又は第2回転段差ΔN2を許容しない場合、ダウンシフト上限回転数までの回転段差がダウンシフト量とされる。
・ドライバによる1回目シフトダウン要求操作によるダウンシフト量(=回転段差)は、2回目以降のシフトダウン要求操作によるダウンシフト量(=回転段差)よりも大きくしたダウンシフト制御が実行される。
・入力回転数を上昇させるダウンシフト制御が終了すると、ダウンシフト終了時の運転点(VSP,APO)とゼロ運転点を結ぶ固定変速比線が引かれ、固定変速比が維持される。
【0093】
[コースト状態での減速ダウンシフト作用]
「マニュアル変速モード」の選択によるコースト減速走行中にシフトダウン要求操作を複数回連続したときのコースト状態での減速ダウンシフト作用を、図8及び図9に基づいて説明する。
【0094】
図8の時刻0から時刻t1までの区間は、図9の固定変速比線α1に沿って運転点H0から運転点H1まで移動し、車速目標VSPの低下に伴ってプライマリ回転数Npri*が低下するコースト減速走行区間である。なお、固定変速比線α1は、図9のコースト減速開始時の運転点H0とゼロ運転点を結ぶ線である。
【0095】
図8の1回目シフトダウン要求操作時刻t1は、図9の運転点H1から運転点H2まで移動し、そのときの目標プライマリ回転数Npri*から第1回転段差ΔN1を加えた回転数まで一気に上昇させて有段ダウンシフト感を演出する第1ダウンシフト時刻である。
【0096】
図8の時刻t1から時刻t2までの区間は、図9の固定変速比線α2に沿って運転点H2から運転点H3まで移動し、車速VSPの低下に伴って目標プライマリ回転数Npri*が低下する第1ダウンシフト減速走行区間である。なお、固定変速比線α2は、図9の第1ダウンシフト終了時の運転点H2とゼロ運転点を結ぶ線である。
【0097】
図8の2回目シフトダウン要求操作時刻t2は、図9の運転点H3から運転点H4まで移動し、そのときの目標プライマリ回転数Npri*から第2回転段差ΔN2を加えた回転数まで一気に上昇させて有段ダウンシフト感を演出する第2ダウンシフト時刻である。
【0098】
図8の時刻t2から時刻t3までの区間は、図9の固定変速比線α3に沿って運転点H4から運転点H5まで移動し、車速VSPの低下に伴って目標プライマリ回転数Npri*が低下する第2ダウンシフト減速走行区間である。なお、固定変速比線α3は、図9の第2ダウンシフト終了時の運転点H4とゼロ運転点を結ぶ線である。
【0099】
図8の3回目シフトダウン要求操作時刻t3は、図9の運転点H5から運転点H6まで移動し、そのときの目標プライマリ回転数Npri*から第2回転段差ΔN2を加えた回転数まで一気に上昇させて有段ダウンシフト感を演出する第3ダウンシフト時刻である。
【0100】
図8の時刻t3から時刻t4までの区間は、図9の固定変速比線α4に沿って運転点H6から運転点H7点まで移動し、車速VSPの低下に伴って目標プライマリ回転数Npri*が低下する第3ダウンシフト減速走行区間である。なお、固定変速比線α4は、図9の第3ダウンシフト終了時の運転点H6とゼロ運転点を結ぶ線である。
【0101】
図8の4回目シフトダウン要求操作時刻t4は、図9の運転点H7から運転点H8まで移動し、そのときの目標プライマリ回転数Npri*からダウンシフト上限回転数まで一気に上昇させて有段ダウンシフト感を演出する第4ダウンシフト時刻である。
【0102】
図8の時刻t4から時刻t5までの区間は、図9の固定変速比線α5に沿って運転点H8から運転点H9点まで移動し、車速VSPの低下に伴って目標プライマリ回転数Npri*が低下する第4ダウンシフト減速走行区間である。なお、固定変速比線α5は、図9の第4ダウンシフト終了時におけるダウンシフト上限回転数線上の運転点H8とゼロ運転点を結ぶ線である。
【0103】
図8の5回目シフトダウン要求操作時刻t5は、図9の運転点H9から運転点H10まで移動し、そのときの目標プライマリ回転数Npri*からダウンシフト上限回転数まで一気に上昇させて有段ダウンシフト感を演出する第5ダウンシフト時刻である。
【0104】
図8の時刻t5から時刻t6までの区間は、図9の固定変速比線α6に沿って運転点H10から運転点H11点まで移動し、車速VSPの低下に伴って目標プライマリ回転数Npri*が低下する第5ダウンシフト減速走行区間である。なお、固定変速比線α6は、図9の第5ダウンシフト終了時におけるダウンシフト上限回転数線上の運転点H10とゼロ運転点を結ぶ線である。
【0105】
図8の6回目シフトダウン要求操作時刻t6は、図9の運転点H11から運転点H12まで移動し、そのときの目標プライマリ回転数Npri*からダウンシフト上限回転数まで一気に上昇させて有段ダウンシフト感を演出する第6ダウンシフト時刻である。
【0106】
図8の時刻t6以降の区間は、図9の固定変速比線α7に沿って運転点H12から移動し、車速VSPの低下に伴って目標プライマリ回転数Npri*が低下する第6ダウンシフト減速走行区間である。なお、固定変速比線α7は、図9の第6ダウンシフト終了時におけるダウンシフト上限回転数線上の運転点H12とゼロ運転点を結ぶ線である。
【0107】
このように、図8の矢印Iで囲まれる目標プライマリ回転数特性や図9の矢印Jで囲まれる運転点特性に示すように、設定される第2回転段差ΔN2に満たなくても、ダウンシフト上限回転数までの入力回転数の上昇によるダウンシフトを許容している。このため、ドライバによるシフトダウン要求操作に対するダウンシフトの実行により、確かなアクションが得られるし、エンブレ減速要求に対しても確かな反応が得られる。この結果、ドライバによるシフトダウン要求操作によりドライバが意図する減速コントロールができ、運転の楽しみが増すというドライブ感覚をも享受できる。
【0108】
以上説明してきたように、実施例1のベルト式無段変速機CVTの変速制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0109】
(1) 走行用駆動源(エンジン1)から駆動輪6までの駆動系にバリエータ4を搭載し、バリエータ4の変速比を制御する変速コントローラ800を備える無段変速機(ベルト式無段変速機CVT)の変速制御装置において、
変速コントローラ800は、マニュアル変速モードを選択すると、ドライバによるシフト要求操作に基づいて変速比制御を行うマニュアル変速制御部(フレキシブルマニュアル変速制御部803)を有し、
マニュアル変速制御部(フレキシブルマニュアル変速制御部803)は、マニュアル変速モードの選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある場合、設定された回転段差(第1回転段差ΔN1、第2回転段差ΔN2)をダウンシフト量としてダウンシフトを実行し、
ダウンシフトを実行すると設定された回転段差(第1回転段差ΔN1、第2回転段差ΔN2)によりバリエータ4の入力回転数が、バリエータ4の最大入力回転数を規定するダウンシフト上限回転数を超えてしまう場合、ダウンシフト上限回転数までの回転段差の上昇によるダウンシフトを許可する。
このため、マニュアル変速モードの選択中にドライバ操作によるシフトダウン要求がある走行シーンにおいて、回転段差幅にかかわらずダウンシフトを許可することで、ドライバに違和感を与えるのを低減することができる。
【0110】
(2) マニュアル変速制御部は、予め設定された複数の固定変速比線ではなく、ドライバによるシフト要求操作に基づいて、シフト要求操作時のバリエータ4の入力回転数に対し所定の回転段差を有する目標入力回転数に、バリエータ4の変速比を変速させる変速比制御を行うフレキシブルマニュアル変速制御部803であり、
ドライバによるシフト要求操作に基づくダウンシフトが終了すると、ダウンシフト終了時点における運転点(VSP,APO)のマップ位置で決まる変速比を維持する。
このため、マニュアルダウンシフトが終了すると、終了時の運転点(VSP,APO)を通る固定変速比線がマニュアル変速マップM2に引かれ、直ちに固定変速比を維持する制御へ移行することができる。
【0111】
(3) フレキシブルマニュアル変速制御部803は、連続的なシフトダウン要求がある場合、シフトダウン要求が1回目のときの回転段差を、マニュアル変速での変速比幅相当のダウンシフト量を確保する第1回転段差ΔN1に設定し、
シフトダウン要求が2回目以降のときの回転数段差を、第1回転段差より回転段差幅を小さくした第2回転段差に設定する。
このため、連続的なシフトダウン要求がある場合、シフトダウン要求の回数にかかわらず一定の回転段差に設定する場合に比べ、初回のバリエータ4の入力回転数の上昇による有段ダウンシフト感を演出することができる。
【0112】
(4) マニュアル変速マップM2は、ドライバ操作によるシフトアップ要求があったときの入力回転数の上限回転数を規定するアップシフト上限回転数線と、ドライバ操作によるシフトダウン要求があったときの入力回転数の上限回転数を規定するダウンシフト上限回転数線と、を有し、
アップシフト上限回転数線を、ダウンシフト上限回転数線より高い変速機入力回転数域に設定する。
このため、アップシフト上限回転数線とダウンシフト上限回転数線に回転数ヒステリシスを設定することにより、ダウンシフト即アップシフトのように頻繁なシフトとなるビジーシフト感を抑制することができる。
【0113】
以上、本発明の無段変速機の変速制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加などは許容される。
【0114】
実施例1では、マニュアル変速制御部として、固定変速比線を有しないマニュアル変速マップM2を用い、運転点のマップ位置とドライバによるシフト要求操作とに基づいて変速比制御を行うフレキシブルマニュアル変速制御部803とする例を示した。しかし、マニュアル変速制御部としては、固定変速比線を有するマニュアル有段変速マップを用い、ドライバによるシフト要求操作に基づいて変速比制御を行うマニュアル有段変速制御部とする例としても良い。
【0115】
実施例1では、変速モードとして、「無段変速モード」と「マニュアル変速モード」を有する例を示した。しかし、変速モードとしては、少なくとも「マニュアル変速モード」が含まれていれば、他の変速モードとして、「無段変速モード」をエコ変速モードとスポーツ変速モードなどに分けた例などであっても良い。
【0116】
実施例1では、本発明の変速制御装置を、トルクコンバータと前後進切替機構とバリエータと終減速機構により構成されるベルト式無段変速機を搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明の変速制御装置は、バリエータのみによるベルト式無段変速機に限らず、バリエータと副変速機が直列に連結される副変速機付きベルト式無段変速機を搭載した車両に適用しても良い。
【符号の説明】
【0117】
1 エンジン(走行用駆動源)
CVT ベルト式無段変速機(無段変速機)
2 トルクコンバータ
3 前後進切替機構
4 バリエータ
5 終減速機構
6 駆動輪
8 CVTコントロールユニット
800 変速コントローラ
801 変速モード選択部
802 無段変速制御部
803 フレキシブルマニュアル変速制御部(マニュアル変速制御部)
804 ソレノイド指令出力部
80 プライマリ回転センサ
81 車速センサ
84 インヒビタスイッチ
87 変速モード選択スイッチ
88 シフト操作スイッチ
9 エンジンコントロールユニット
90 アクセル開度センサ
91 エンジン回転センサ
M2 マニュアル変速マップ
図1
図2
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