(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】食道カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61B 18/14 20060101AFI20230313BHJP
A61M 25/098 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
A61B18/14
A61M25/098
(21)【出願番号】P 2017210355
(22)【出願日】2017-10-31
【審査請求日】2020-10-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大矢 幸輝
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-529315(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0197245(US,A1)
【文献】実開昭61-106209(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12 - 18/14
A61M 25/00 - 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル本体と、
前記カテーテル本体の異なる長手方向の位置に設けられ、前記カテーテル本体の拡径方向に拡張可能な第1及び第2の拡張部材と、
前記第1の拡張部材と前記第2の拡張部材との間の食道内に
、患者の体温よりも温度が低い冷却水、又は、患者の体温よりも温度が高い加温水を注入する流体注入部と、
食道内の流体を排出する流体排出部と、
を具備し、
前記
流体注入部と前記
流体排出部
はそれぞ
れ、前記第1の拡張部材と前記第2の拡張部材との間における
、互いに独立して設けられた流体注入用流路と流体排出用流路とに設けられ
ており、
前記流体注入部は食道内に流体を注入する注入口を有するとともに、前記流体排出部は食道内の流体を吸入する吸入口を有し、
前記食道カテーテルは、前記注入口と前記吸入口の上下関係が外部から認識可能なX線不透過材からなるマーキングを有する、
食道カテーテル。
【請求項2】
前記流体注入部は、前記第1の拡張部材と前記第2の拡張部材との間における中央位置よりも前記第1の拡張部材の側に設けられ
前記流体排出部は、前記第1の拡張部材と前記第2の拡張部材との間における中央位置よりも前記第2の拡張部材の側に設けられている、
請求項1に記載の食道カテーテル。
【請求項3】
前記第1及び第2の拡張部材は、バルーンである、
請求項1又は請求項2に記載の食道カテーテル。
【請求項4】
前記流体注入部は、前記第1の拡張部材と前記第2の拡張部材とに挟まれた食道内に位置する注入口を有するとともに、前記流体排出部は、前記第1の拡張部材と前記第2の拡張部材とに挟まれた食道内に位置する第1の吸入口を有する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の食道カテーテル。
【請求項5】
前記流体排出部は、前記第1及び第2の拡張部材よりも近位側に位置する第2の吸入口を有する、
請求項4に記載の食道カテーテル。
【請求項6】
さらに、食道温を計測するための温度センサーを有する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の食道カテーテル。
【請求項7】
前記流体注入部は食道内に流体を注入する注入口を有するとともに、前記流体排出部は食道内の流体を吸入する吸入口を有し、
前記第1及び第2の拡張部材は、前記カテーテル本体に偏芯して取り付けられたバルーンであり、当該バルーンには造影剤が注入され、
前記温度センサーは、前記カテーテル本体の所定位置に設けられた、X線不透過材からなる温度計測用電極であり、
X線画像における前記バルーンと前記温度計測用電極との上下関係に基づいて、前記注入口と前記吸入口の上下関係が外部から認識可能とされている、
請求項6に記載の食道カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば心房細動アブレーション時に使用される食道カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
食道は、心臓の背後に位置するため、心房細動アブレーション時の熱により火傷ができるおそれがある。この心房細動アブレーション時の食道の損傷を防止又は抑制(以下「防止又は抑制」のことを単に「防止」と記す)するために食道カテーテルが使用される。食道カテーテルは患者の鼻から食道内に挿入される。このような食道カテーテルは、特許文献1、2などに記載されている。
【0003】
食道カテーテルには温度センサーが設けられており、医療従事者は食道カテーテルによって計測された食道内の温度に応じて、アブレーションカテーテルへの通電を停止することで食道の過熱を防ぐ。また、食道カテーテルによって計測された温度に基づいて、患者に水を飲ませるなどの追加処置も講じられる。
【0004】
また、高周波アブレーションによる心筋の焼灼時だけでなく、クライオアブレーション時によって心筋を冷凍凝固壊死させるときにも同様に食道カテーテルが使用され、計測した温度に基づいて、行き過ぎた冷却による食道の損傷を防止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-067727号公報
【文献】特表2009-504284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アブレーションによる食道の損傷を防止するためには、食道温が危険温度に達する前に、食道温をその温度から一刻も早く低下(高周波アブレーションの場合)あるいは上昇(クライオアブレーションの場合)させることが求められる。
【0007】
通常、食道温が上昇あるいは下降し過ぎた場合には、アブレーションを一時中断することで食道の損傷を防止する方法が採られるが、すぐに温度を低下あるいは上昇させることは困難である。そこで、上述したように患者に水を飲ませるなどの追加処置も採られる。
【0008】
しかしながら、アブレーション治療時に患者は仰向けに寝た状態となっているので、飲んだ水が気管を通じて肺に誤って流れ込むのを防止するために、アブレーションを中止し、患者を起こして水を飲ます必要がある。このため、治療時間が長時間化したり、患者の負担が大きくなる欠点がある。
【0009】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、患者に負担をかけることなく、過熱又は過冷した食道の温度を速やかに低下又は上昇させることができる食道カテーテルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の食道カテーテルの一つの態様は、
カテーテル本体と、
前記カテーテル本体の異なる長手方向の位置に設けられ、前記カテーテル本体の拡径方向に拡張可能な第1及び第2の拡張部材と、
前記第1の拡張部材と前記第2の拡張部材との間の食道内に流体を注入する流体注入部と、
食道内の流体を排出する流体排出部と、
を具備し、
前記液体注入部と前記液体排出部のそれぞれは、前記第1の拡張部材と前記第2の拡張部材との間における異なる位置に設けられ、
前記液体注入部により食道内に注入される前記流体は、患者の体温よりも温度が低い冷却水、又は、患者の体温よりも温度が高い加温水である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、患者に体位を変えさせることなく、冷却水、加温水及び唾液の気管への流入の防止できるとともに、効率的な食道の冷却及び加温を行うことができ、よって、患者に負担をかけることなく、過熱又は過冷した食道の温度を速やかに低下又は上昇させることができる食道カテーテルを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る食道カテーテルが接続される心臓電気刺激システムの構成例を示す図
【
図2】実施の形態による食道カテーテルの構成の説明に供する略線図
【
図3】他の実施の形態による食道カテーテルの構成を示す略線図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
<全体構成>
図1は、実施の形態に係る食道カテーテル100が接続される心臓電気刺激システム10の構成例を示す図である。心臓電気刺激システム10は、心腔内に留置される電極カテーテル50から電気刺激を加えることにより、刺激伝導系の伝導能の評価、洞結節などの自動能の評価や、不整脈の性質や発生機序の検討、カテーテルアブレーション治療の焼灼部位の決定、治療効果の確認を行うことができるようになっている。電極カテーテル50は、患者の足の付け根の大腿静脈又は大腿動脈などから心腔内に挿入される。因みに、アブレーションは、患者の足の付け根の大腿静脈又は大腿動脈などから心腔内に挿入されたアブレーションカテーテル(図示せず)を用いて行われる。
【0015】
さらに、心臓電気刺激システム10は、食道カテーテル100を用いて、アブレーション時における、食道温の計測、及び、食道の冷却又は加温を行う。食道カテーテル100は、カテーテルアブレーション治療中の食道の損傷を防止する。
【0016】
心臓電気刺激システム10では、コントロールパネル部20が操作室に設けられ、制御部30、サブモニター40、電極カテーテル50、食道カテーテル駆動部200及び食道カテーテル100が検査・治療室に設けられる。なお、制御部30は操作室に配置されてもよく、コントロールパネル部20は検査・治療室に配置されてもよい。また、コントロールパネル部20と制御部30は一体に構成されていてもよい。
【0017】
コントロールパネル部20は、操作入力部及び表示部を有し、医療従事者による操作入力を受け付けるとともに、電極カテーテル50及び食道カテーテル100による計測結果を表示する。制御部30は電極カテーテル50に電気刺激パルスを供給する。また制御部30は食道カテーテル駆動部200を制御することで食道カテーテル100に後述する動作を行わせる。サブモニター40には、電極カテーテル50及び食道カテーテル100による計測結果が表示される。
【0018】
食道カテーテル駆動部200は、注入溶液タンク、吸入溶液タンク及びモーターなどから構成されており、制御部30からの制御信号に基づいてモーターが動作することにより、食道カテーテル100への溶液の供給、食道カテーテル100からの溶液の排出などを行うことができるようになっている。さらに、食道カテーテル駆動部200は、食道カテーテル100に供給する溶液の温度調整もできるようになっている。
【0019】
<食道カテーテルの構成>
図2は、本実施の形態による食道カテーテル100の構成の説明に供する略線図である。
図2は、食道内に食道カテーテル100が挿入された状態を示す略線的な断面図である。食道カテーテル100は、アブレーションカテーテル(図示せず)を用いたアブレーション治療時に、患者の鼻から食道内に挿入される。なお、このとき患者は仰向けに寝た状態なので、
図2では、腹側(心臓側)を上側に、背中側を下側にして示してある。
【0020】
食道カテーテル100は、カテーテル本体101を有する。カテーテル本体101は、食道カテーテル100の食道に挿入される細長い可撓性部材であり、例えばエラストマーによって構成されている。なお、カテーテル本体101の根元側(近位側)には、より硬質なシャフトや操作ハンドルなどがカテーテル本体101に繋がるように設けられている。
【0021】
食道カテーテル100は、拡張部材としてのバルーン141、142を有する。バルーン141、142は、カテーテル本体101の異なる長手方向の位置に設けられており、拡張状態においてカテーテル本体101の拡径方向に膨らむことができるようになっている。具体的には、バルーン141、142は、拡張状態において
図2に示したように、食道壁に圧接する位置まで拡張可能となっている。
【0022】
さらに、カテーテル本体101の内部には、バルーン拡縮用流路110、流体注入用流路120及び流体排出用流路130が形成されている。これら流路110、120、130の根元側(近位側)の一端は、食道カテーテル駆動部200に接続されている。
【0023】
バルーン拡縮用流路110のバルーン141、142に対応する位置には、噴射・吸込口111、112が形成されている。バルーン141、142を拡張させる際には噴射・吸込口111、112からバルーン拡張液が噴出され、バルーン141、142を縮小させる際には噴射・吸込口111、112によってバルーン拡張液が吸い込まれる。バルーン拡張液は、例えば生理食塩水に造影剤が混入されたものであり、これにより外部からX線画像によりバルーン141、142の位置を確認できるようになっている。
【0024】
バルーン141、142内に位置するカテーテル本体101には、温度センサーとしての温度計測用電極113、114が設けられている。温度計測用電極113、114は、バルーン141、142の内部の温度を計測する。本実施の形態の例では、温度計測用電極113、114と熱電対とによって温度センサーが構成される。よって、カテーテル本体101には、温度計測用電極113、114に繋がる配線(図示せず)が形成されている。なお、
図2の例では、温度計測用電極113、114がバルーン拡縮用流路110に形成されているが、温度計測用電極113、114の位置はこれに限らない。また、温度センサーは必ずしも温度計測用電極113、114を含むものである必要はなく、例えば測温抵抗体、サーミスタ、半導体ICなどによって構成してもよい。
【0025】
流体注入用流路120には、注入口121が形成されている。注入口121は、バルーン141とバルーン142の間の位置に形成されている。注入口121からは流体注入用流路120から送られてきた液体(例えば飲料水)が噴出される。
【0026】
流体排出用流路130には、吸入口131、132が形成されている。吸入口131は、主に注入口121によって食道内に注入された液体を吸入するための吸入口である。吸入口132は、主に唾液を吸入するための吸入口である。吸入口131は、バルーン141とバルーン142の間の位置に形成されている。吸入口132は、近位側のバルーン142よりもさらに近位側に形成されている。
【0027】
ここで、バルーン141とバルーン142との間隔は、心臓の縦の長さ程度とされている。具体的には、バルーン141とバルーン142との間の距離は、10~15cm程度とされている。
【0028】
なお、本実施の形態では、バルーン拡縮用流路110、流体注入用流路120及び流体排出用流路130はカテーテル本体101内に穿設された孔であるが、流体注入用流路120及び流体排出用流路130はカテーテル本体101内に設けられたチューブであってもよい。
【0029】
<実施の形態の動作>
次に、実施の形態の動作について説明する。本実施の形態は、食道カテーテル100の動作に特徴があるので、以下では主に食道カテーテル100の動作について説明する。
【0030】
アブレーション治療時には、心腔内に電極カテーテル50及びアブレーションカテーテル(図示せず)が挿入される。また、食道内に食道カテーテル100が挿入される。
【0031】
食道カテーテル100は、バルーン141、142が収縮された状態で患者の鼻の穴から挿入される。このとき、医療従事者は、X線画像により温度計測用電極113、114の位置を確認しながら、温度計測用電極113、114が心臓の下方に位置するまで食道カテーテル100を挿入する。
【0032】
次に、医療従事者がコントロールパネル部20又は制御部30に設けられた所定の操作部を操作すると、食道カテーテル駆動部200からバルーン拡縮用流路110内にバルーン拡張液が送られ、このバルーン拡張液が噴射・吸込口111、112からバルーン141、142内に噴出することで、バルーン141、142が拡張する。この結果、バルーン141、142は食道壁に圧接する。ここで、バルーン拡張液には造影剤が含まれているので、医療従事者はX線画像によって外部から再度バルーン141、142の位置をより正確に確認できる。これにより、医療従事者は、バルーン141とバルーン142の間が心臓の真下に位置するように挿入位置を再調整できる。
【0033】
この状態で、医療従事者は、アブレーションカテーテルによるアブレーション治療を行う。このときの食道温が温度計測用電極113、114によって測定され、測定結果がサブモニター40及びコントロールパネル部20の表示部に表示される。実際上、本実施の形態では、バルーン141、142内のバルーン拡張液の温度が食道温として測定され表示される。
【0034】
医療従事者は、食道温が上がり過ぎたと判断した場合には、アブレーション治療を中断する。加えて、医療従事者がコントロールパネル部20又は制御部30に設けられた所定の操作部を操作すると、食道カテーテル駆動部200から流体注入用流路120に冷却水が送られ、この冷却水が注入口121から食道内に噴出する。勿論、アブレーション治療を中断することなく、冷却水を噴出させることもできる。
【0035】
注入口121から噴出された冷却水は、バルーン141、142によって堰き止められて、バルーン141、142によって挟まれた食道内に貯まる。この冷却水によって食道が冷やされ、アブレーションに起因する食道の損傷が防止される。
【0036】
本実施の形態では、バルーン141、142によって冷却水を堰き止めているので、冷却水が胃に流れ込んだり、気管の方向に逆流することが防止されるので、患者に負担の少ない冷却を行うことができる。
【0037】
さらに、食道カテーテル100は、冷却水の噴出と同時に、流体排出用流路130による液体の排出も行う。つまり、吸入口131からバルーン141、142の間に貯められた冷却水が吸入されて排出されるとともに、吸入口132から患者の唾液などが吸入されて排出される。
【0038】
このように、食道カテーテル100は、バルーン141、142によって挟まれた冷却領域に冷却水を循環させる。このとき、温度計測用電極113、114に計測された温度に基づいて、制御部30が冷却水の温度や流量を制御するようにすれば、より効率的な冷却を実現できる。
【0039】
なお、ここでは、高周波アブレーション治療によって食道が過熱したときに冷却水により食道の温度を下げる場合について述べたが、クライオアブレーション治療によって食道が過冷したときには注入口121から温水を噴出させるようにすれば、食道の温度を速やかに上昇させることができ、過冷による食道の損傷を防止できる。
【0040】
アブレーション治療が終り、医療従事者がコントロールパネル部20又は制御部30に設けられた所定の操作部を操作すると、食道カテーテル駆動部200によりバルーン拡縮用流路110を介してバルーン141、142内のバルーン拡張液が回収され、この結果、バルーン141、142が縮小する。この状態で、医療従事者は、食道内から食道カテーテル100を引き抜く。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態によれば、カテーテル本体101と、カテーテル本体101の異なる長手方向の位置に設けられ、カテーテル本体101の拡径方向に拡張可能な拡張部材としてのバルーン141、142と、食道温を検出する温度センサーとしての温度計測用電極113、114と、バルーン141、142の間の食道内に流体を注入する流体注入部としての流体注入用流路120、注入口121と、食道内の流体を排出する流体排出部としての流体排出用流路130、吸入口131、132と、を設けたことにより、気管への流体及び唾液の流入の防止しつつ、効率的な食道の冷却及び加温を行うことができ、よって、患者に負担をかけることなく、過熱または過冷した食道の温度を速やかに低下あるいは上昇させることができる食道カテーテル100を実現できる。
【0042】
また、アブレーション治療時に、食道内腔の壁面に対し、常に冷却用又は加温用の流体を噴出し続けるようにすれば、アブレーションによる合併症を生じ得る危険温度までの食道温の上昇あるいは低下を抑制でき、合併症の発症も抑制できる。
【0043】
さらに、患者の体位を変えることなく、食道温が危険温度になった場合に中断をすることなく、アブレーションを行うことができるので、効率的なアブレーション治療が可能となる。
【0044】
<他の実施の形態>
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することの無い範囲で、様々な形で実施することができる。
【0045】
図2との対応部分に同一符号を付して示す
図3の食道カテーテル300は、食道カテーテル100と比較して、バルーン341、342がカテーテル本体101に対して偏芯して取り付けられている。これにより、医療従事者は、X線画像における、造影剤が入れられたバルーン341、342と温度計測用電極113、114の位置関係に基づいて、食道カテーテル300の向きを認識できるようになる。具体的には、医療従事者は、X線画像に映ったバルーン341、342と温度計測用電極113、114の位置関係に基づいて、
図3に示したように、注入口121が吸入口131よりも上となる回転位置に食道カテーテル300をセットできるようになる。このようにすることで、食道のうち心臓により近くアブレーションにより温度が上昇又は下降し易い部分の近くに注入口121を向けることができるとともに、注入された冷却水又は温水、あるいは唾液が溜まる食道の下の部分に吸入口131、132を配置できるようになるので、より効率的な冷却又は加温ができるようになるとともに、より効率的な流体の回収ができるようになる。因みに、
図3では、図を分かり易くするために注入口121が紙面手前側を向いて形成されているように示してあるが、注入口121は心臓側(つまり紙面上方側)に向いて形成されていることが好ましい。このようにすることで、アブレーションによる損傷が生じ易い部分に冷却水又は温水が直接当たるように注入口121から流体を噴出させることができるので、より効率的な冷却又は加温ができるようになる。
【0046】
なお、
図3に示したように、バルーン341、342をカテーテル本体101に対して偏芯して取り付ける代わりに、カテーテル本体101や流体注入用流路120、流体排出用流路130の所定位置にX線不透過材をマーキングすることで、流体注入用流路120、流体排出用流路130の上下関係を外部から認識できるようにしてもよい。要は、注入口121を吸入口131よりも上に配置させることができるような外部から認識可能なX線不透過材からなるマーキングを設ければよい。
【0047】
また、上述の実施の形態では、拡張部材としてバルーン141、142、341、342を設けた場合について述べたが、拡張部材はこれに限らず、要は、カテーテル本体101から拡径方向に突き出るように拡がって止水領域を作ることができるようなものであればよい。また、拡張部材は止水領域に完全に流体を止めることができる構成であることが望ましいが、必ずしも完全に止水する必要はなく、少量の水が漏れても問題はない。
【0048】
また、上述の実施の形態では、温度センサーとして温度計測用電極113、114をバルーン141、142、341、342の内部に設けた場合について述べたが、温度センサーを設ける位置はこれに限らない。例えば、バルーン141、142、341、342の表面や、バルーン141、341とバルーン142、342との間のカテーテル本体101の位置に設けてもよい。さらには、流体排出用流路130を介して回収された流体の温度を計測することで、目的箇所の食道温を推定するようにしてもよい。
【0049】
また、上述の実施の形態では、吸入口131、132を同一の流体排出用流路130に形成した場合について述べたが、吸入口131、132を別々の流体排出用流路に形成してもよい。
【0050】
また、上述の実施の形態では、流体注入用流路120と流体排出用流路130とを独立に設けた場合について述べたが、例えば流体注入用流路120を流体排出用流路として兼用してもよい。この場合、例えば先ず最初の1秒間は流体注入用流路120から流体を注入し、次の1秒間は流体注入用流路120から流体を排出するといった動作を繰り返し行えばよい。このようにすると、上述の実施の形態よりも冷却や加温効率は下がるが、構成が簡単になるといったメリットがある。
【0051】
さらに、温度センサーを設けずに、アブレーション治療中に注入口121から例えば36°Cの一定温度の液体を常時噴出させるようにしてもよい。このようにすれば、上述したように、アブレーションによる合併症を生じ得る危険温度までの食道温の上昇あるいは低下を抑制でき、合併症の発症も抑制できる。ただし、温度センサーを設けると、温度検出結果に基づいて注入口121から噴出させる流体の温度の調整を行うことができるので、より適切な食道の冷却又は加温を実現できる。
【0052】
また、上述の実施の形態では、第1及び第2の拡張部材(バルーン141、142又は341、342)を設け、この第1及び第2の拡張部材の間に液体を止水しながら食道を冷却又は加温する場合ついて述べたが、遠位側(つまり胃の方向)の拡張部材(バルーン141又は341)を省略するようにしてもよい。これは、肺に液体が流れ込むと呼吸困難や痛みなどが生ずるので必ず防止しなければならないが、胃には多少液体が流れ込んだとしても胃腸によって吸収されるので大きな問題にはならないからである。また、吸入口131によってある程度の液体は吸い込まれて排出されるので、大量の液体が胃腸に流れ込むことは抑制される。吸入口131を設けなかったとしても、積極的に胃の中に流入した液体を排出したい場合には、例えば胃洗浄カテーテルを併用するなどしてもよい。
【0053】
さらに、上述の実施の形態では、注入口121から飲料水などの液体を注入する場合について述べたが、液体に限らずガスを注入してもよく、要は、食道を冷却又は加温できる流体を注入すればよい。
【0054】
さらに、注入口121から注入する流体に薬剤を混入させるようにしてもよい。例えば食道の炎症を抑制するような薬剤を混入させてもよい。このようにすれば、患部に直接薬剤を当てることができるとともに、患部以外の場所には薬剤を触れさせないことができるので、速効効果と副作用低減効果を期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、心臓のアブレーション治療時の食道の過熱又は過冷による食道の損傷を防止するために使用される食道カテーテルに好適である。
【符号の説明】
【0056】
100、300 食道カテーテル
101 カテーテル本体
110 バルーン拡縮用流路
111、112 噴射・吸込口
113、114 温度計測用電極
120 流体注入用流路
121 注入口
130 流体排出用流路
131、132 吸入口
141、142、341、342 バルーン