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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】水中作業の安全管理システム
(51)【国際特許分類】
   B63C 11/00 20060101AFI20230313BHJP
   B63C 11/02 20060101ALI20230313BHJP
   B63C 11/26 20060101ALI20230313BHJP
   B63B 27/10 20060101ALI20230313BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20230313BHJP
   E02D 15/08 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
B63C11/00 Z
B63C11/02
B63C11/26
B63B27/10 A
B63B49/00 Z
E02D15/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018114731
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019217816
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】今村 一紀
(72)【発明者】
【氏名】藤山 映
(72)【発明者】
【氏名】岡山 健次
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-016292(JP,A)
【文献】特開2007-290702(JP,A)
【文献】米国特許第04276623(US,A)
【文献】特開2011-245887(JP,A)
【文献】特開2009-166752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/00 - 11/02
B63C 11/26
B63C 11/48
B63B 27/10
B63B 49/00
E02D 15/08
E02B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中における潜水士の位置情報を取得する潜水士位置取得手段と、クレーンの吊具の位置情報を取得する吊具位置取得手段と、前記潜水士位置取得手段および前記吊具位置取得手段によるそれぞれの取得データが入力される制御装置と、この制御装置により制御される水中音発生機とを備えて、
それぞれの前記取得データと、前記吊具位置取得手段による取得データに基づいて設定される危険領域の位置データとを用いて、前記制御装置により前記潜水士が前記危険領域に存在しているか否かが判断されて、前記潜水士が前記危険領域に存在していないと判断された場合に、前記水中音発生機によって前記潜水士に対して可聴音を発生させた状態とし、前記潜水士が前記危険領域に存在していると判断された場合に、前記水中音発生機による前記可聴音の発生を停止させる制御を行うことを特徴とした水中作業の安全管理システム。
【請求項2】
前記水中音発生機は前記潜水士が身に着ける装備品とは別の位置に設けられている請求項1に記載の水中作業の安全管理システム。
【請求項3】
前記水中音発生機が作業船に付設されている請求項2に記載の水中作業の安全管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中作業の安全管理システムに関し、さらに詳しくは、潜水士の作業性を低下させることなく、吊具周辺の立入禁止領域に潜水士が入ることを防止して作業の安全性を向上させることができる水中作業の安全管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾工事などの土木工事では、作業船に搭載されたクレーンを利用して吊荷(消波ブロックや捨石等)の据付作業を行っている。水中における据付作業では、クレーンによって吊荷を水底などに据え付けた後に、吊荷からクレーンの吊具を取り外す玉掛け作業を潜水士が行っている。クレーンによって吊荷を水中に降下させている最中に、潜水士と吊荷が接近すると危険である。そのため、トランスポンダや送受波器等を利用して水中における潜水士の位置情報を取得し、その潜水士の位置情報を船上に設置された管理モニタに表示させる潜水士位置管理システムを使用して、船上の管理者が潜水士と吊荷との位置関係を監視している。
【0003】
そして、管理者が管理モニタを見て、潜水士と吊荷とが接近している状況を認識した場合には、水中電話を利用して、管理者が潜水士に対して注意喚起や退避指示を行っている。しかしながら、この管理方法では、潜水士が吊荷と接近している状況を認識するまでに数秒から数十秒程度のタイムラグが生じてしまうため、安全性を向上させるには改善の余地がある。
【0004】
従来、水中作業の安全性を高める装置として、潜水士に対して警報や退避指示を伝えるべき状況になったときに、潜水士の位置を測定する水中ポジショニングシステムから、潜水士が携帯するバイブレ―ト機能を備えたトランスポンダや信号受信器付バイブレータに直接警報信号を伝送して、トランスポンダや信号受信器付バイブレータを振動させる水中作業管理装置が提案されている(特許文献1参照)。この水中作業管理装置は、管理者が介在しないため、潜水士が警報や退避指示を認識するまでのタイムラグを短くすることができる。しかしながら、潜水士が装備するトランスポンダにバイブレータ機能を組み込む場合にはトランスポンダのサイズが大きくなるため、潜水士の作業性は低下する。また、潜水士に信号受信器付バイブレータを携帯させる場合にも、潜水士が身に着ける装備品や通信ケーブルが増えるため、潜水士の作業性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-35734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、潜水士の作業性を低下させることなく、吊具周辺の立入禁止領域に潜水士が入ることを防止して作業の安全性を向上させることができる水中作業の安全管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の水中作業の安全管理システムは、水中における潜水士の位置情報を取得する潜水士位置取得手段と、クレーンの吊具の位置情報を取得する吊具位置取得手段と、前記潜水士位置取得手段および前記吊具位置取得手段によるそれぞれの取得データが入力される制御装置と、この制御装置により制御される水中音発生機とを備えて、それぞれの前記取得データと、前記吊具位置取得手段による取得データに基づいて設定される危険領域の位置データとを用いて、前記制御装置により前記潜水士が前記危険領域に存在しているか否かが判断されて、前記潜水士が前記危険領域に存在していないと判断された場合に、前記水中音発生機によって前記潜水士に対して可聴音を発生させた状態とし、前記潜水士が前記危険領域に存在していると判断された場合に、前記水中音発生機による前記可聴音の発生を停止させる制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、制御装置により、吊具周辺の危険領域に潜水士が存在しているか否かが判断されて、その判断結果に応じて、水中音発生機の制御が行われることで、潜水士が設定されている危険領域に入ってしまった場合には、可聴音の有無や可聴音の種類の変化により潜水士に対してその状況を迅速に認識させることができる。そのため、潜水士が吊具周辺のより危険性の高い立入禁止領域に入ることを防止することができ、水中作業の安全性を向上させることができる。さらに、潜水士は新たな装備品を身に着ける必要がないので、潜水士の作業性が低下することもない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る実施形態の水中作業の安全管理システムを用いて吊荷の据付工事を行っている状況を側面視で模式的に例示する説明図である。
図2図1の安全管理システムの構成を模式的に例示する説明図である。
図3図2の管理モニタに表示される画像を模式的に例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の水中作業の安全管理システムを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1図2に例示する本発明の水中作業の安全管理システム1は、クレーン21と潜水士Hにより水中における施工を行う土木工事において使用する。この実施形態では、作業船20に搭載されたクレーン21と二人の潜水士Hにより、消波ブロックなどの吊荷Bを水底BWに据え付ける据付工事を行う場合を例示している。
【0012】
安全管理システム1は、水中における潜水士Hの位置情報を取得する潜水士位置取得手段2と、クレーン21の吊具23の位置情報を取得する吊具位置取得手段7と、潜水士位置取得手段2および吊具位置取得手段7によるそれぞれの取得データが入力される制御装置10と、制御装置10により制御される水中音発生機9とを備えている。この実施形態の安全管理システム1は、さらに、制御装置10に通信可能に接続された管理モニタ11と入力手段12とを有している。
【0013】
潜水士位置取得手段2は、例えば、潜水士Hが装備するトランスポンダ3と、作業船20の船底に設置された送受波器4と、作業船20に設置された測位機器5と、データ処理を行う演算装置6とを有して構成される。この実施形態では、作業船20の船底に設置された1台のSSBL(Super Short Base Line)方式の送受波器4とトランスポンダ3との間で超音波信号を送受信し、送受波器4に対するトランスポンダ3の位相差を測定することにより、作業船20に対するトランスポンダ3の相対位置を測定する。
【0014】
この実施形態では、作業船20に対する潜水士Hの相対位置を測定する手段として、SSBL方式の音響測位システムを採用した場合を例示しているが、SBL(Short Base Line)方式の音響測位システムなどを採用することもできる。
【0015】
測位機器5は、衛星測位システムから作業船20の3次元の絶対位置情報を逐次取得する。送受波器4と測位機器5はそれぞれ演算装置6に通信可能に接続されていて、送受波器4による測定データと測位機器5による取得データは、それぞれ演算装置6に逐次入力される。この実施形態では、施工管理を行う作業船20の管理室に演算装置6を配置している。
【0016】
演算装置6は、例えば、コンピュータで構成される。演算装置6は、送受波器4から入力される測定データから、作業船20に対する潜水士Hの3次元の相対位置情報を逐次算出する。そして、その算出した作業船20に対する潜水士Hの3次元の相対位置情報と、測位機器5から入力される作業船20の3次元の絶対位置情報とから、潜水士Hの3次元の絶対位置情報を逐次算出する。演算装置6は制御装置10に通信可能に接続されていて、演算装置6によって算出された潜水士Hの3次元の絶対位置情報は制御装置10に逐次入力される。
【0017】
この実施形態では、吊具位置取得手段7として、吊具23の上方に位置するクレーン21のブーム22の先端部に、衛星測位システムから3次元の絶対位置情報を逐次取得する測位機器8が設置されている。この吊具23の真上に設置された測位機器8によって吊具23の水平面上の2次元の絶対位置情報が逐次取得される。測位機器8は制御装置10に通信可能に接続されていて、測位機器8の取得データは制御装置10に逐次入力される。
【0018】
水中音発生機9は、潜水士Hが水中作業を行う水域において、潜水士Hに対して可聴音を発生させる。水中音発生機9は、例えば、音源発生器9aと、音源発生器9aで発生させた電気信号を増幅させるパワーアンプ(増幅器)9bと、電気信号を振動に変えて水中において可聴音を出す水中スピーカー9cとを有して構成される。
【0019】
音源発生器9aとパワーアンプ9bは作業船20に配置されていて、作業船20の下方の水中に水中スピーカー9cが配置されている。水中スピーカー9cは、パワーアンプ9bと水中スピーカー9cとを接続するケーブル9dによって水中に吊るされた状態になっている。水中スピーカー9cは例えば、作業船20の船底に設置することもできる。水中音発生機9は制御装置10に通信可能に接続されている。
【0020】
制御装置10は例えば、コンピュータで構成される。演算装置6および制御装置10は、別々のコンピュータで構成することもできるし、同じコンピュータで構成することもできる。入力手段12は例えば、キーボードやマウスなどで構成される。この実施形態では、制御装置10、管理モニタ11、および入力手段12を作業船20の管理室に配置している。
【0021】
制御装置10は、吊具位置取得手段7による取得データに基づいて、吊具23周辺の危険領域Dの位置データを設定する。図1に示すように、潜水士Hが吊荷Bや吊具23に接触する危険性が高い吊具23に対する水平距離が近い領域は、潜水士Hが立ち入ることが危険な立入禁止領域OLとされている。危険領域Dは立入禁止領域OLを含んで、さらに外側に広がった領域として設定される。例えば、吊具位置取得手段7によって逐次取得される吊具23の位置を中心にして吊具23に対する水平距離が予め設定した所定の水平距離R以下となる円柱形状の領域が、危険領域Dとして設定される。危険領域Dの深さ方向は例えば、無限に設定される。
【0022】
危険領域Dの大きさは、吊具23や吊荷Bの大きさ、施工水域の水流の速さ、水の透明度などの施工条件に応じて適宜決定できる。したがって、設定される危険領域Dは、円柱形状に限らず、楕円柱形状や、多角柱形状、円錐形状などの場合もある。この実施形態では、危険領域Dの大きさは、入力手段12によって制御装置10に、吊具23からの水平距離Rの数値を入力することで設定、変更できるようになっている。
【0023】
さらに、この実施形態では、危険領域Dを吊具23に対する水平距離に応じて複数の領域に区分して設定できるようになっている。この実施形態では、吊具23に対する水平方向の距離がR1より長くR以下の領域を、潜水士Hと吊荷Bとの接触が起こる可能性は低いが注意が必要である第1危険領域D1として設定し、吊具23に対する水平方向の距離がR1以下の領域を、潜水士Hと吊荷Bとの接触が起こり得る第2危険領域D2として設定している。危険領域Dはさらに細かく区分して設定することもできる。
【0024】
制御装置10は、さらに、この吊具位置取得手段7による取得データに基づいて設定した危険領域Dの位置データと、潜水士位置取得手段2および吊具位置取得手段7による取得データとを用いて、潜水士Hが危険領域Dに存在しているか否かを逐次判断する。そして、その判断結果に応じて水中音発生機9による潜水士Hに対する可聴音の発生の有無または発生させる可聴音の種類(例えば、音の高さや音色、断続音の時間間隔など)を異ならせる制御を行う。
【0025】
安全管理システム1は、制御装置10による潜水士Hが危険領域Dに存在しているか否かの判断に応じて水中音発生機9を制御する警戒モードと、制御装置10の判断によらず水中音発生機9による可聴音の発生を一時的に停止させた状態とする非警戒モードとを、入力手段12によって切り替えられる構成になっている。
【0026】
図3に示すように、管理モニタ11には、制御装置10に入力された潜水士位置取得手段2および吊具位置取得手段7のそれぞれの取得データと、制御装置10で設定された危険領域Dの位置データが表示される。管理モニタ11には、施工水域を平面視で表示する2次元座標が表示され、その2次元座標上に潜水士Hの現在位置と、吊具23の現在位置と、吊具23の現在位置を中心とした危険領域D(第1危険領域D1、第2危険領域D2)と、吊具23の現在位置を中心とした立入禁止表域OLが表示される。
【0027】
図3では、危険領域Dの外枠を2点鎖線で示し、第1危険領域D1と第2危険領域D2との境界を1点鎖線で示し、立入禁止領域OLの外枠を破線で示している。この実施形態では、管理モニタ11に立入禁止領域OLを表示しているが、立入禁止領域OLを表示しない構成にすることもできる。
【0028】
さらに、この実施形態では、管理モニタ11に、ブーム22の先端位置の3次元座標情報と、それぞれの潜水士Hの3次元座標情報と、吊具23に最も近い潜水士Hから吊具23までの離間距離と、危険領域Dのステータス(水平距離R、R1の数値など)と、安全管理システム1の現在のモード(警戒モードまたは非警戒モード)が表示される構成になっている。また、制御装置10によって危険領域Dに潜水士Hが存在すると判断された場合には、危険領域Dに潜水士Hが存在していることを警告する警告表示が管理モニタ11に表示されるようになっている。なお、管理モニタ11に表示させる情報の種類やレイアウトなどはこの実施形態に限定されず、適宜決定できる。
【0029】
次に、この安全管理システム1を使用して水中作業の安全管理を行う方法を説明する。
【0030】
施工を開始する前に、管理者は、施工条件に応じて危険領域Dの大きさを設定する。この実施形態では、入力手段12によって制御装置10に、危険領域Dとする吊具23からの水平距離Rと、第1危険領域D1と第2危険領域D2との境界となる吊具23からの水平距離R1の数値を入力することで、危険領域D、第1危険領域D1、および第2危険領域D2のそれぞれの大きさを設定できる。
【0031】
図3に示すように、管理モニタ11には、潜水士Hの現在位置と、吊具23の現在位置と、設定した大きさの危険領域D(第1危険領域D1および第2危険領域D2)と、立入禁止領域OLが表示された状態となる。管理者は管理モニタ11を見て、クレーン21のオペレータに接続された通信機器と潜水士Hにつながれた水中電話を利用して、施工管理を行う。
【0032】
管理者は、危険領域Dの設定を完了した後、クレーン21のオペレータに対して施工開始の指示をする。クレーン21によって吊具23を水中に降下させる際には、入力手段12により安全管理システム1を警戒モードに設定しておく。管理者は、潜水士Hの安全を確保するために、管理モニタ11の表示を見て、潜水士Hが危険領域Dに入らないように、潜水士Hに対して水中電話により適宜指示するとよい。
【0033】
制御装置10は、潜水士位置取得手段2および吊具位置取得手段7による取得データと、予め設定した危険領域Dの位置データとに基づいて、潜水士Hが危険領域Dに存在しているか否かを逐次判断する。そして、制御装置10は、その判断結果に応じて水中音発生機9による潜水士Hに対する可聴音の発生の有無または発生させる可聴音の種類を異ならせる制御を行う。
【0034】
この実施形態では、制御装置10により、潜水士Hが危険領域Dに存在していないと判断された場合には、可聴音の発生を停止させた状態とする制御が行われる。一方で、何らかの原因で、潜水士Hが危険領域D(第1危険領域D1)に入り、制御装置10により、潜水士Hが第1危険領域D1に存在していると判断された場合には可聴音を発生させる制御が行われる。そして、その発生させている可聴音により、潜水士Hに対して危険領域Dよりも外側に退避することを促す。
【0035】
可聴音を発生させているにもかかわらず、潜水士Hがさらに立入禁止領域OLに近づいて第2危険領域D2に入り、制御装置10により、潜水士Hが第2危険領域D2に存在していると判断された場合には、潜水士Hが第1危険領域D1に存在する場合の可聴音よりも音量が大きい可聴音や周波数の高い可聴音を発生させる制御が行われる。そして、この可聴音の種類の変化により、潜水士Hに対してより立入禁止領域OLに近づいていることを警告し、ただちに立入禁止領域OLから離れる方向に退避することを促す。
【0036】
制御装置10により、潜水士Hが危険領域Dに存在していると判断されている間は可聴音が鳴り続ける。潜水士Hが危険領域Dよりも外側へ離れて、制御装置10により、危険領域Dに潜水士Hが存在しないと判断されると可聴音の発生は停止する。
【0037】
次いで、吊荷Bを所定の据え付け位置まで降下させ、潜水士Hが吊荷Bに近づいて玉掛け作業を行える安全状況になった後に、管理者は入力手段12により、安全管理システム1を警戒モードから非警戒モードに切り替える。非警戒モードに切り替えると、潜水士Hが危険領域Dに存在する場合にも、水中音発生機9による可聴音の発生は停止した状態となる。そして、潜水士Hは吊具23に近づいて、吊荷Bから吊具23を取り外す玉掛け作業を行う。
【0038】
そして、潜水士Hによる玉掛け作業が完了した後、管理者は入力手段12により、安全管理システム1を非警戒モードから警戒モードに切り替える。警戒モードに切り替えると、潜水士Hが危険領域Dの外側に移動するまで、水中音発生機9により可聴音が発生した状態となる。潜水士Hは可聴音の発生が停止する位置まで吊具23から離れる。
【0039】
管理者は管理モニタ11を見て、潜水士Hが危険領域Dの外側に移動したことを確認した後に、クレーン21のオペレータに対して吊具23を上昇させる指示をする。吊具23を上昇させる際にも同様に、制御装置10は、潜水士Hが危険領域Dに存在するか否かを逐次判断し、その判断結果に応じて水中音発生機9の制御を行う。以上により吊荷Bの据え付け作業の1サイクルが完了する。
【0040】
このように、本発明によれば、制御装置10により、吊具23周辺の危険領域Dに潜水士Hが存在しているか否かが判断されて、その判断結果に応じて、水中音発生機9の制御が行われることで、潜水士Hが設定されている危険領域Dに入ってしまった場合には、可聴音の有無や可聴音の種類の変化により潜水士Hに対してその状況を迅速に認識させることができる。そのため、潜水士Hが吊具周辺のより危険性の高い立入禁止領域OLに入ることを防止することができ、水中作業の安全性を向上させることができる。
【0041】
さらに、潜水士Hに接続される通信ケーブルや装備品が増えると潜水士Hの作業の障害となることが多いが、本発明の安全管理システム1では、潜水士Hは新たな装備品を身に着ける必要がないので、潜水士Hの作業性を低下させることなく、水中作業の安全性を高めることができる。また、本発明では、水中において可聴音を発生させることで、潜水士Hが向いている方向や姿勢、潜水士Hの目線の方向によらず、潜水士Hに対して危険領域Dに入っているか否かを確実に伝達することができる。また、可聴音は施工水域の水の透明度によらず潜水士Hに伝わるので、水の透明度が低い濁水の現場においても、潜水士Hに対して危険領域Dに入っているか否かを確実に伝達することができる。
【0042】
この実施形態のように、潜水士Hが危険領域Dに存在していないと判断された場合に、可聴音の発生を停止させた状態とし、潜水士Hが危険領域Dに存在していると判断された場合に、可聴音を発生させる制御を行うと、潜水士Hが危険領域Dに入った瞬間に警告音(可聴音)が聞こえ始めるので、潜水士Hは危険領域Dに入ったことを直感的に認識することができる。それ故、潜水士Hが危険領域Dに入ってからその状況に気づくまでのタイムラグを短くするには有利になる。
【0043】
さらに、危険領域Dを吊具23に対する距離に応じて複数の領域に区分して設定し、水中音発生機9によって発生させる可聴音の種類をそれぞれの領域ごとに異ならせる構成にすると、危険領域D内での可聴音の種類の変化によって、潜水士Hに対してより立入禁止領域OLに近づいていることを認識させることができる。それ故、潜水士Hが退避すべき方向を認識しやすくなり、潜水士Hが立入禁止領域OLに入ることを防止するには有利になる。
【0044】
潜水士Hが危険領域Dに存在していると判断された場合に発生させる可聴音は、危険領域Dに入った潜水士Hによらず同じ種類の可聴音にすることもできるが、例えば、複数の潜水士Hが水中作業を行う場合には、それぞれの潜水士H毎に異なる種類の可聴音を発生させる構成にすることもできる。潜水士H毎に異なる種類の可聴音を発生させると、潜水士Hが危険領域Dに存在しているのが自分であるのか他の潜水士Hであるのかを認識しやすくなる。
【0045】
本発明の安全管理システム1では、制御装置10により、潜水士Hが危険領域Dに存在していないと判断された場合に、可聴音を発生させた状態とし、潜水士Hが危険領域Dに存在していると判断された場合に、可聴音の発生を停止させる構成にすることもできる。この構成にすると、潜水士Hが危険領域Dに存在するときに可聴音が鳴っていない状態になるので、潜水士Hは危険領域Dにいる際に水中電話による管理者からの指示をより聞き取りやすくなる。また、この構成にすると、可聴音を発生させることができないトラブルが生じた場合にも、危険領域Dに存在する潜水士Hが、危険領域Dに入っていないと誤認してしまうリスクを排除できる。
【0046】
なお、上述した実施形態では、吊荷Bの据付工事を行う場合を例示したが、本発明の安全管理システム1は、吊具23としてグラブバケットを取付ける浚渫工事や基礎捨石工事等に使用する場合にも同様の効果を奏することができる。即ち、グラブバケット周辺の危険性の高い立入禁止領域に潜水士Hが入ることを防止することができる。
【0047】
潜水士位置取得手段2は、水中における潜水士Hの位置情報を取得できる構成であれば、上記の実施形態で例示した構成に限定されず、他の構成にすることもできる。例えば、送受波器4と測位機器5を支援船30に設置して、支援船30に対する潜水士Hの3次元の相対位置情報と、支援船30の3次元の絶対位置情報とから、潜水士Hの3次元の絶対位置情報を取得する構成にすることもできる。また、潜水士位置取得手段2は例えば、3次元ソナーなどで構成することもできる。
【0048】
また、吊具位置取得手段7は、少なくとも吊具23の水平面上の2次元の位置情報を取得できる構成であれば、上記の実施形態で例示した構成に限定されず、他の構成にすることもできる。例えば、吊具位置取得手段7は、吊具23に測位機器やトランスポンダを設置して吊具23の3次元の位置情報を取得する構成にすることもできる。吊具23の3次元の位置情報を取得する場合には、例えば、管理モニタ11に施工水域を3次元座標で表示し、その3次元座標上に潜水士Hの現在位置、吊具23の現在位置、危険領域D、および立入禁止領域OLを立体的に表示する構成にすることもできる。
【符号の説明】
【0049】
1 安全管理システム
2 潜水士位置取得手段
3 トランスポンダ
4 送受波器
5 (作業船に設置された)測位機器
6 演算装置
7 吊具位置取得手段
8 (ブームの先端部に設置された)測位機器
9 水中音発生機
9a 音源発生器
9b パワーアンプ
9c 水中スピーカー
9d ケーブル
10 制御装置
11 管理モニタ
12 入力手段
20 作業船
21 クレーン
22 ブーム
23 吊具
30 支援船
B 吊荷
H 潜水士
D 危険領域
D1 第1危険領域
D2 第2危険領域
OL 立入禁止領域
BW 水底
図1
図2
図3