(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニル系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20230313BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20230313BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20230313BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230313BHJP
C09J 7/24 20180101ALI20230313BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L67/00
C08K5/098
C08J5/18 CEV
C09J7/24
(21)【出願番号】P 2018168401
(22)【出願日】2018-09-10
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】田村弘
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-098455(JP,A)
【文献】特開平01-215845(JP,A)
【文献】特開2018-016719(JP,A)
【文献】特開2001-347604(JP,A)
【文献】特開平07-145295(JP,A)
【文献】特開2001-106990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00-27/24
C08L 67/00-67/08
C08K 3/00-13/08
C08J 5/18
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリ塩化ビニル系樹脂 100質量部;
(B)ポリエステル系可塑剤 1~250質量部;及び、
(C)炭素数11以下の脂肪酸金属塩、及び芳香族カルボン酸金属塩からなる群から選択される1種以上の化合物 0.01~10質量部;
を含み、ここで上記(B)ポリエステル系可塑剤の質量平均分子量は1500
~10万であり、
エポキシ基含有可塑剤を含まず、
炭素数12以上の飽和脂肪酸金属塩を含まない
ポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
上記(B)ポリエステル系可塑剤の質量平均分子量が3000~10万である請求項1に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
更に(G)コアシェルゴムを、上記(A)ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1~100質量部含む、請求項1又は2に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
粘着フィルムのフィルム基材用である請求項1~3の何れか1項に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物を含む成形体。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項7】
請求項6に記載のフィルムを含む粘着フィルム。
【請求項8】
請求項6に記載のフィルムを含む化粧シート、又は加飾フィルム。
【請求項9】
請求項6に記載のフィルムを含むガラス飛散防止フィルム、又はガラス装飾フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物に関する。更に詳しくは粘着フィルムのフィルム基材用として好適なポリ塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木材、合板、集成材、パーチクルボード、及びハードボード等の木質系材料;鉄、及びアルミニウム等の金属系材料;及び、石膏等の無機質系材料;などからなる壁の表面に、化粧・装飾された粘着フィルム(所謂、壁紙。)を貼り、化粧・装飾することが行われている。このような粘着フィルムのフィルム基材としては、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物のフィルムが多用されている。ポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、可塑剤の量の多少により広範囲な柔軟性の調整が可能であり、成形加工性、機械的特性、及び難燃性などの諸特性が良好であり、また経済性にも優れるためである。一方、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物のフィルムには、粘着フィルムのフィルム基材として用いたとき可塑剤や安定剤などが粘着剤に経時的に移行し、その結果、粘着力が経時的に低下してしまうという問題があった。
【0003】
また近年は、RoHS指令、REACH規則などの化学物質の使用制限に係る規制に適合することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001‐098087号公報
【文献】特開2001‐106990号公報
【文献】特開2007‐284499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、粘着力の経時的な低下が抑制され、粘着フィルムのフィルム基材用として好適なポリ塩化ビニル系樹脂組成物を提供することにある。本発明の更なる課題は、粘着力の経時的な低下、及び可塑剤の移行によるトラブルが抑制され、印刷性、経時的な色調の安定性、及び透明性に優れ、粘着フィルムのフィルム基材用として好適なポリ塩化ビニル系樹脂組成物、及びそのフィルムを提供することにある。本発明の更なる課題は、RoHS指令、REACH規則などの化学物質の使用制限に係る規制に適合し、粘着力の経時的な低下が抑制され、粘着フィルムのフィルム基材用として好適なポリ塩化ビニル系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の樹脂組成物により、上記課題を達成できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、(A)ポリ塩化ビニル系樹脂 100質量部;
(B)ポリエステル系可塑剤 1~250質量部;及び、
(C)炭素数11以下の脂肪酸金属塩、及び芳香族カルボン酸金属塩からなる群から選択される1種以上の化合物 0.01~10質量部;
を含むポリ塩化ビニル系樹脂組成物である。
【0008】
第2の発明は、
(A)ポリ塩化ビニル系樹脂 100質量部;
(B)ポリエステル系可塑剤 1~250質量部;及び、
(C)炭素数11以下の脂肪酸金属塩、及び芳香族カルボン酸金属塩からなる群から選択される1種以上の化合物 0.01~10質量部;
を含み、炭素数12以上の飽和脂肪酸金属塩を含まない
ポリ塩化ビニル系樹脂組成物である。
【0009】
第3の発明は、上記(B)ポリエステル系可塑剤の質量平均分子量が1500以上である第1の発明又は第2の発明に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物である。
【0010】
第4の発明は、粘着フィルムのフィルム基材用である第1~3の発明の何れか1に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物である。
【0011】
第5の発明は、第1~4の発明の何れか1に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物を含む成形体である。
【0012】
第6の発明は、第1~4の発明の何れか1に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムである。
【0013】
第7の発明は、第6の発明に記載のフィルムを含む粘着フィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、粘着力の経時的な低下が抑制されている。本発明の好ましいポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、粘着力の経時的な低下、及び可塑剤の移行によるトラブルが抑制され、印刷性、経時的な色調の安定性、及び透明性に優れている。本発明の好ましいポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、RoHS指令、REACH規則などの化学物質の使用制限に係る規制に適合し、粘着力の経時的な低下が抑制されている。そのため本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムは、粘着フィルムのフィルム基材用として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において「樹脂」の用語は、2以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。本明細書において「フィルム」の用語は、「シート」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。また本明細書において、ある層と他の層とを順に積層することは、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。本明細書において、「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。「板」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできないものに使用する。
【0016】
本明細書において「粘着剤」の用語は、JIS K6800‐1985に規定された意味、即ち「常温で粘着性を有し、軽い圧力で被着材に接着する物質」の意味で使用する。
【0017】
数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。更に数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。
【0018】
実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0019】
1.樹脂組成物:
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、(A)ポリ塩化ビニル系樹脂;(B)ポリエステル系可塑剤;及び、(C)炭素数11以下の脂肪酸金属塩、及び芳香族カルボン酸金属塩からなる群から選択される1種以上の化合物;を含む。
【0020】
(A)ポリ塩化ビニル系樹脂:
上記成分(A)はポリ塩化ビニル系樹脂である。上記成分(A)として用い得るポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル(塩化ビニル単独重合体);塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニルと塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーとの塩化ビニル系共重合体;後塩素化ビニル共重合体等のポリ塩化ビニルや塩化ビニル系共重合体を改質(塩素化等)したもの;などをあげることができる。更には塩素化ポリエチレン等の、化学構造がポリ塩化ビニルと類似する塩素化ポリオレフィンを用いてもよい。これらの中で、粘着力の経時的な低下を抑制する観点から、ポリ塩化ビニル(塩化ビニル単独重合体)が好ましい。上記成分(A)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0021】
(B)ポリエステル系可塑剤:
上記成分(B)はポリエステル系可塑剤である。
【0022】
上記成分(B)としては、例えば、多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-へキサンジオール、1,6-へキサンジオール、及びネオペンチルグリコールなどの1種又は2種以上の混合物を用い、多価カルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、ピメリン酸、スベリン酸、マレイン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、及びテレフタル酸などの1種又は2種以上の混合物を用い、所望により一価アルコール、モノカルボン酸などをストッパーに使用したポリエステル系可塑剤をあげることができる。上記成分(B)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0023】
上記成分(B)のゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略すことがある。)により測定した微分分子量分布曲線(以下、「GPC曲線」と略すことがある。)から求めたポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)は、粘着力の経時的な低下、及び可塑剤の移行によるトラブルを抑制する観点から、通常1500以上、好ましくは3000以上、より好ましくは3500以上、より好ましくは4000以上、更に好ましくは4500以上、最も好ましくは5000以上であってよい。粘着力の経時的な低下、及び可塑剤の移行によるトラブルを抑止する観点からは、質量平均分子量は大きいほど好ましい。一方、可塑剤の可塑化効率の観点から、質量平均分子量は通常10万以下、好ましくは5万以下、より好ましくは1万以下であってよい。
【0024】
GPCの測定は、システムとして東ソー株式会社の高速液体クロマトグラフィーシステム「HLC-8320(商品名)」(デガッサー、送液ポンプ、オートサンプラー、カラムオーブン及びRI(示差屈折率)検出器を含むシステム。)を使用し;GPCカラムとしShodex社のGPCカラム「KF-806L(商品名)」を2本、「KF-802(商品名)」及び「KF-801(商品名)」を各1本の合計4本を、上流側からKF-806L、KF-806L、KF-802、及びKF-801の順に連結して使用し;和光純薬工業株式会社の高速液体クロマトグラフ用テトラヒドロフラン(安定剤不含)を移動相として;流速1.0ミリリットル/分、カラム温度40℃、試料濃度1ミリグラム/ミリリットル、及び試料注入量100マイクロリットルの条件で行うことができる。各保持容量における溶出量は、測定試料の屈折率の分子量依存性が無いと見なしてRI検出器の検出量から求めることができる。また保持容量からポリスチレン換算分子量への較正曲線は、アジレントテクノロジー(Agilent Technology)株式会社の標準ポリスチレン「EasiCal PS-1(商品名)」(Plain Aの分子量6375000、573000、117000、31500、3480;Plain Bの分子量2517000、270600、71800、10750、705)を使用して作成することができる。解析プログラムは、東ソー株式会社の「TOSOH HLC-8320GPC EcoSEC(商品名)」を使用することができる。なおGPCの理論及び測定の実際については、共立出版株式会社の「サイズ排除クロマトグラフィー 高分子の高速液体クロマトグラフィー、著者:森定雄、初版第1刷1991年12月10日」などの参考書を参照することができる。
【0025】
図1に実施例で用いた下記成分(B-1)の微分分子量分布曲線を示す。分子量650、860、1100、及び1400にオリゴマー成分のピークトップ、分子量5500に主要成分のピークトップを有し、全体の質量平均分子量は5200、数平均分子量は2300である。
【0026】
上記成分(B)の配合量は、上記成分(A)100質量部に対して、粘着力の経時的な低下、及び可塑剤の移行によるトラブルを抑制する観点、印刷性の観点、及び耐ブロッキング性の観点から、通常250質量部以下、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは60質量部以下、より更に好ましくは45質量部以下、最も好ましくは35質量部以下であってよい。一方、上記成分(B)の配合量の下限は、カレンダーロール圧延製膜性の観点から、通常1質量部以上、好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上であってよい。
【0027】
(C)炭素数11以下の脂肪酸金属塩、芳香族カルボン酸金属塩:
上記成分(C)は、炭素数11以下の脂肪酸金属塩、及び芳香族カルボン酸金属塩からなる群から選択される1種以上の化合物である。上記成分(C)は、好ましくは炭素数11以下の脂肪酸金属塩と芳香族カルボン酸金属塩との混合物である。上記炭素数11以下の脂肪酸金属塩は、炭素数が11以下の脂肪酸と金属との塩(所謂金属石鹸)である。上記芳香族カルボン酸金属塩は、芳香族カルボン酸と金属との塩である。ここで上記芳香族カルボン酸は、ベンゼン環にカルボキシル基が直接結合した構造を有する化合物である。上記成分(C)は、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の安定剤として、典型的には、遊離塩素を補足する働きをする。
【0028】
上記脂肪酸の炭素数は、印刷性の観点から、通常11以下、好ましくは10以下である。一方、経時的な色調の安定性、及び耐熱性の観点から、好ましくは6以上、より好ましくは8以上であってよい。
【0029】
上記炭素数が11以下の脂肪酸としては、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、及びウンデシル酸などの直鎖状飽和脂肪族モノカルボン酸;2‐エチルヘキサン酸、2‐エチルオクタン酸などの分岐状飽和脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸、4‐メチルシクロヘキサンカルボン酸、及び4‐エチルシクロヘキサンカルボン酸などの環状飽和脂肪族モノカルボン酸;及び、クロトン酸などの不飽和脂肪族モノカルボン酸;などの脂肪族モノカルボン酸をあげることができる。
【0030】
上記芳香族カルボン酸としては、例えば、安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸、イソプロピル安息香酸、3‐t‐ブチル安息香酸、4‐t‐ブチル安息香酸、3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸、サリチル酸、5‐t‐ブチルサリチル酸、3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸、及びナフテン酸などの芳香族モノカルボン酸をあげることができる。
【0031】
上記金属は、RoHS指令、REACH規則などの化学物質の使用制限に係る規制に適合させることのできるものが好ましい。上記金属としては、例えば、バリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、及びアルミニウムなどをあげることができる。これらの中で経時的な色調の安定性、及び耐熱性の観点から、バリウム、カルシウム、及び亜鉛が好ましく、更に印刷性の観点から、バリウム、及び亜鉛がより好ましい。
【0032】
上記炭素数11以下の脂肪酸金属塩としては、例えば、ビスカプロン酸バリウム、ビスエナント酸バリウム、ビスカプリル酸バリウム、ビスペラルゴン酸バリウム、ビスカプリン酸バリウム、ビスウンデシル酸バリウム、ビス2‐エチルヘキサン酸バリウム、及びビス2‐エチルオクタン酸バリウムなどの上記炭素数が11以下の脂肪酸1種類とバリウムとの塩;ビスカプロン酸カルシウム、ビスエナント酸カルシウム、ビスカプリル酸カルシウム、ビスペラルゴン酸カルシウム、ビスカプリン酸カルシウム、ビスウンデシル酸カルシウム、ビス2‐エチルヘキサン酸カルシウム、及びビス2‐エチルオクタン酸カルシウムなどの上記炭素数が11以下の脂肪酸1種類とカルシウムとの塩;ビスカプロン酸亜鉛、ビスエナント酸亜鉛、ビスカプリル酸亜鉛、ビスペラルゴン酸亜鉛、ビスカプリン酸亜鉛、ビスウンデシル酸亜鉛、ビス2‐エチルヘキサン酸亜鉛、及びビス2‐エチルオクタン酸亜鉛などの上記炭素数が11以下の脂肪酸1種類と亜鉛との塩;などをあげることができる。
【0033】
上記炭素数11以下の脂肪酸金属塩としては、例えば、カプロン酸エナント酸亜鉛、カプロン酸カプリル酸亜鉛、カプロン酸ペラルゴン酸亜鉛、カプロン酸カプリン酸亜鉛、カプロン酸ウンデシル酸亜鉛、カプロン酸2‐エチルヘキサン酸亜鉛、カプロン酸2‐エチルオクタン酸亜鉛、エナント酸カプリル酸亜鉛、エナント酸ペラルゴン酸亜鉛、エナント酸カプリン酸亜鉛、エナント酸ウンデシル酸亜鉛、エナント酸2‐エチルヘキサン酸亜鉛、エナント酸2‐エチルオクタン酸亜鉛、カプリル酸ペラルゴン酸亜鉛、カプリル酸カプリン酸亜鉛、カプリル酸ウンデシル酸亜鉛、カプリル酸2‐エチルヘキサン酸亜鉛、カプリル酸2‐エチルオクタン酸亜鉛、ペラルゴン酸カプリン酸亜鉛、ペラルゴン酸ウンデシル酸亜鉛、ペラルゴン酸2‐エチルヘキサン酸亜鉛、ペラルゴン酸2‐エチルオクタン酸亜鉛、カプリン酸ウンデシル酸亜鉛、カプリン酸2‐エチルヘキサン酸亜鉛、カプリン酸2‐エチルオクタン酸亜鉛、ウンデシル酸2‐エチルヘキサン酸亜鉛、ウンデシル酸2‐エチルオクタン酸亜鉛、及び2‐エチルヘキサン酸2‐エチルオクタン酸亜鉛などの上記炭素数が11以下の脂肪酸2種類と亜鉛との塩;及び、例示されている上記塩と同様の上記炭素数が11以下の脂肪酸2種類とバリウム又はカルシウムとの塩;などをあげることができる。
【0034】
上記芳香族カルボン酸金属塩としては、例えば、ビス安息香酸バリウム、ビストルイル酸バリウム、ビスエチル安息香酸バリウム、ビスイソプロピル安息香酸バリウム、ビス3‐t‐ブチル安息香酸バリウム、ビス4‐t‐ブチル安息香酸バリウム、ビス3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸バリウム、ビスサリチル酸バリウム、ビス5‐t‐ブチルサリチル酸バリウム、ビス3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸バリウム、及びビスナフテン酸バリウムなどの上記芳香族カルボン酸1種類とバリウムとの塩;ビス安息香酸カルシウム、ビストルイル酸カルシウム、ビスエチル安息香酸カルシウム、ビスイソプロピル安息香酸カルシウム、ビス3‐t‐ブチル安息香酸カルシウム、ビス4‐t‐ブチル安息香酸カルシウム、ビス3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸カルシウム、ビスサリチル酸カルシウム、ビス5‐t‐ブチルサリチル酸カルシウム、ビス3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸カルシウム、及びビスナフテン酸カルシウムなどの上記芳香族カルボン酸1種類とカルシウムとの塩;ビス安息香酸亜鉛、ビストルイル酸亜鉛、ビスエチル安息香酸亜鉛、ビスイソプロピル安息香酸亜鉛、ビス3‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、ビス4‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、ビス3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、ビスサリチル酸亜鉛、ビス5‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、ビス3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、及びビスナフテン酸亜鉛などの上記芳香族カルボン酸1種類と亜鉛との塩;などをあげることができる。
【0035】
上記芳香族カルボン酸金属塩としては、例えば、安息香酸トルイル酸亜鉛、安息香酸エチル安息香酸亜鉛、安息香酸イソプロピル安息香酸亜鉛、安息香酸3‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、安息香酸4‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、安息香酸3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、安息香酸サリチル酸亜鉛、安息香酸5‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、安息香酸3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、安息香酸ナフテン酸亜鉛、トルイル酸エチル安息香酸亜鉛、トルイル酸イソプロピル安息香酸亜鉛、トルイル酸3‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、トルイル酸4‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、トルイル酸3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、トルイル酸サリチル酸亜鉛、トルイル酸5‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、トルイル酸3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、トルイル酸ナフテン酸亜鉛、エチル安息香酸イソプロピル安息香酸亜鉛、エチル安息香酸3‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、エチル安息香酸4‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、エチル安息香酸3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、エチル安息香酸サリチル酸亜鉛、エチル安息香酸5‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、エチル安息香酸3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、エチル安息香酸ナフテン酸亜鉛、イソプロピル安息香酸3‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、イソプロピル安息香酸4‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、イソプロピル安息香酸3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、イソプロピル安息香酸サリチル酸亜鉛、イソプロピル安息香酸5‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、イソプロピル安息香酸3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、イソプロピル安息香酸ナフテン酸亜鉛、3‐t‐ブチル安息香酸4‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、3‐t‐ブチル安息香酸3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、3‐t‐ブチル安息香酸サリチル酸亜鉛、3‐t‐ブチル安息香酸5‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、3‐t‐ブチル安息香酸3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、3‐t‐ブチル安息香酸ナフテン酸亜鉛、4‐t‐ブチル安息香酸3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸亜鉛、4‐t‐ブチル安息香酸サリチル酸亜鉛、4‐t‐ブチル安息香酸5‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、4‐t‐ブチル安息香酸3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、4‐t‐ブチル安息香酸ナフテン酸亜鉛、3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸サリチル酸亜鉛、3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸5‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、3,5‐ジ‐t‐ブチル安息香酸ナフテン酸亜鉛、サリチル酸5‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、サリチル酸3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、サリチル酸ナフテン酸亜鉛、5‐t‐ブチルサリチル酸3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸亜鉛、5‐t‐ブチルサリチル酸ナフテン酸亜鉛、及び3,5‐ジ‐t‐ブチルサリチル酸ナフテン酸亜鉛などの上記芳香族カルボン酸2種類と亜鉛との塩;及び、例示されている上記塩と同様の上記芳香族カルボン酸2種類とバリウム又はカルシウムとの塩;などをあげることができる。
【0036】
上記成分(C)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0037】
上記成分(C)の配合量は、経時的な色調の安定性、及び耐熱性の観点から、上記成分(A)100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、最も好ましくは1質量部以上である。一方、粘着力の経時的な低下、及び可塑剤の移行によるトラブルを抑制する観点、及び印刷性の観点から、通常10質量部以下、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは4質量部以下、最も好ましくは3質量部以下であってよい。
【0038】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、印刷性の観点から、好ましくは炭素数が12以上の飽和脂肪酸と金属との塩(所謂金属石鹸)を含まないものであってよい。
【0039】
理論に拘束される意図はないが、炭素数が12以上の飽和脂肪酸と金属との塩、例えば、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、及びステアリン酸カルシウムなどの融点は、何れも100℃以上であり、印刷工程における塗工ヘッド周辺の温度(高くてもせいぜい80℃程度)では固体である。またこれらの塩はポリ塩化ビニル系樹脂との相溶性が十分に(ブリードアウトが全く又はほとんど起こらない程度に)高いとはいえない。そのためフィルムの表面にブリードアウトしたとき固体の異物となり、印刷工程においても融解して再吸収されることなくフィルム表面に留まり、印刷性(印刷層とフィルム基材との密着性、印刷の抜け/欠け)を低下させていると考察される。
【0040】
ここで「含まない」とは、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の添加剤として意図的に配合していないことを意味する。ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の添加剤として意図的に配合する場合、上記成分(A)100質量部に対して、通常、少なくとも0.01質量部以上を配合するから、「含まない」とは、通常0.01質量部未満、好ましくは0.005質量部以下、より好ましくは0.001質量部以下、更に好ましくは0.0005質量部以下、最も好ましくは0.0001質量部以下と言い換えることもできる。
【0041】
(D)ハイドロタルサイト:
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、経時的な色調の安定性、及び耐熱性の観点から、更に(D)ハイドロタルサイトを含むことが好ましい。上記成分(D)は、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の安定剤として、典型的には、遊離塩素を補足する働きをする。
【0042】
上記成分(D)ハイドロタルサイトは、正に帯電した層と負に帯電した層とからなる層状の無機化合物であって、典型的には、下記式(1)で表される無機化合物である。
【0043】
[M2+
1-XM3+
X(OH)2]X+[An-
X/n・mH2O]X- ・・・(1)
【0044】
ここで、M2+はMg2+、Zn2+などの2価の金属イオン、M3+はAl3+、Fe3+などの3価の金属イオン、An-はCO3
2-、Cl-、NO3-などのn価のアニオン、Xは0<X≦0.33、典型的には0.20≦X≦0.33の数、mは0≦m≦0.5の数である。
【0045】
上記成分(D)としては、経時的な色調の安定性、及び耐熱性の観点から、炭酸イオン型ハイドロタルサイトが好ましく、炭酸イオンマグネシウムアルミニウム型ハイドロタルサイトがより好ましい。上記炭酸イオン型ハイドロタルサイトは、上記式(1)において、n価のアニオンが炭酸イオン(CO3
2-)である無機化合物である。上記炭酸イオンマグネシウムアルミニウム型ハイドロタルサイトは、上記式(1)において、n価のアニオンが炭酸イオン(CO3
2-)であり、2価の金属イオンがマグネシウムイオン(Mg2+)、3価の金属イオンがアルミニウムイオン(Al3+)である無機化合物である。上記炭酸イオンマグネシウムアルミニウム型ハイドロタルサイトとしては、例えば、下記式(2)で表される化合物をあげることができる。
【0046】
Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O ・・・(2)
【0047】
上記成分(D)としてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0048】
上記成分(D)の配合量は、任意成分であるから特に制限されない。上記成分(D)の配合量は、経時的な色調の安定性、及び耐熱性の観点から、上記成分(A)100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上であってよい。一方、色調のプロセス安定性の観点から、通常3質量部以下、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下であってよい。
【0049】
(E)フェノール系酸化防止剤:
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、経時的な色調の安定性、及び耐熱性の観点から、更に(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含むことが好ましい。上記成分(E)は、フェノール構造、典型的にはヒンダードフェノール構造(フェノール性水酸基のオルト位の少なくとも1つがt‐ブチル基などの嵩高い置換基に置換されている構造)を有する有機化合物であって、酸化防止剤として働く有機化合物である。上記成分(E)は、典型的には、ラジカルを捕捉する機能を有し、所謂一次酸化防止剤として働く有機化合物である。
【0050】
上記成分(E)としては、例えば、1,3,5‐トリス(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐1,3,5‐トリアジン‐2,4,6(1H,3H,5H)‐トリオン、4,4’,4”‐(1‐メチルプロパニル‐3‐イリデン)トリス(6‐t‐ブチル‐m‐クレゾール)、6,6’‐ジ‐t‐ブチル‐4,4’‐ブチリデンジ‐m‐クレゾール)、オクタデシル‐3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトール‐テトラキス[3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9‐ビス{2‐[3‐(3‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシ‐5‐メチルフェニル)プロピオニロキシ]‐1,1‐ジメチルエチル}‐2,4,8,10‐テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3,5‐トリス(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシベンジル)‐2,4,6‐トリメチルベンゼン、トリエチレングリコールビス[3‐(3‐t‐ブチル‐5‐メチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6‐ヘキサンジオールビス[3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4‐ビス‐(n‐オクチルチオ)‐6‐4‐ヒドロキシ‐3,5‐ジ‐t‐ブチルアニリノ)‐1,3,5‐トリアジン、2,2‐チオ‐ジエチレンビス[3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2‐チオビス(4‐メチル‐6‐t‐ブチルフェノール)、N,N’‐ヘキサメチレンビス(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシ‐ヒドロシンナマイド)、及び3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシ‐ベンジルホスホン酸ジエチルエステルなどをあげることができる。上記成分(E)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0051】
上記成分(E)の配合量は、任意成分であるから特に制限されない。上記成分(E)の配合量は、経時的な色調の安定性、及び耐熱性の観点から、上記成分(A)100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上であってよい。一方、粘着力の経時的な低下、及び可塑剤の移行によるトラブルを抑制する観点、及び印刷性の観点から通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下であってよい。
【0052】
(F)ホスファイト系酸化防止剤:
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、経時的な色調の安定性、及び耐熱性の観点から、更に(F)ホスファイト系酸化防止剤を含むことが好ましい。上記成分(F)は、ホスファイト構造を有する有機化合物であって、酸化防止剤として働く有機化合物である。上記成分(F)は、典型的には、過酸化物を分解する機能、及びキノン構造をフェノール構造に還元する機能を有し、所謂二次酸化防止剤として働く有機化合物である。
【0053】
上記成分(F)としては、例えば、3,9‐ビス(オクタデシルオキシ)‐2,4,8,10 ‐テトラオキサ‐3,9‐ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9‐ビス(2,6‐ジ‐t‐ブチル‐4‐メチルフェノキシ)‐2,4,8,10 ‐テトラオキサ‐3,9‐ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,2’‐メチレンビス(4,6‐ジ‐t‐ブチルフェニル)2‐エチルヘキシルホスファイト、テトラ‐ドデシル(プロパン‐2,2‐ジイルビス(4,1‐フェニレン))ビス(ホスファイト)、トリス‐(2,4‐ジ‐t‐ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、2‐エチルヘキシルジフェニルホスファイト、イソデシルジフェニルホスファイト、トリスデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、及びトリス(2‐エチルヘキシル)ホスファイトなどをあげることができる。上記成分(F)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0054】
上記成分(F)の配合量は、任意成分であるから特に制限されない。上記成分(F)の配合量は、経時的な色調の安定性、及び耐熱性の観点から、上記成分(A)100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上であってよい。一方、粘着力の経時的な低下、及び可塑剤の移行によるトラブルを抑制する観点、及び印刷性の観点から通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下であってよい。
【0055】
上記成分(E)と上記成分(F)を併用することは好ましい。上記成分(E)は所謂一次酸化防止剤として、上記成分(F)は所謂二次酸化防止剤として働くため、互いに相補いあって、経時的な色調の安定性、及び耐熱性の向上効果を高めることができる。上記成分(E)と上記成分(F)を併用する場合、両者の配合量の質量比(上記成分(E)/上記成分(F))は、通常1/5~5/1、好ましくは1/3~3/1、より好ましくは1/2~2/1であってよい。
【0056】
(G)コアシェルゴム:
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、好ましい実施形態の1つにおいて、上記成分(G)コアシェルゴムを更に含むものであってよい。カレンダーロール圧延製膜性や耐候性を向上させることができる。
【0057】
上記成分(G)コアシェルゴムとしては、例えば、メタクリル酸エステル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル・スチレン/スチレン・ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/スチレン・ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/エチレン・プロピレンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、及びメタクリル酸エステル・アクリロニトリル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体などをあげることができる。これらの中で、耐候性の観点から、アクリロニトリル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、及びメタクリル酸エステル・アクリロニトリル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体などの、(メタ)アクリル酸エステルゴムに(メタ)アクリル酸、アクリロニトリル、スチレンなどがグラフト共重合されたアクリル系コアシェルゴムが好ましい。本明細書において、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を意味する。上記成分(G)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0058】
上記成分(G)の配合量は、任意成分であるから特に制限されない。上記成分(G)の配合量は、カレンダーロール圧延製膜性の改良効果を確実に得る観点、及び耐候性の観点から、上記成分(A)100質量部に対して、通常1質量部以上、好ましくは4質量部以上、より好ましくは7質量部以上、更に好ましくは10質量部以上であってよい。一方、透明性の観点から、通常100質量部以下、好ましくは60質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは20質量部以下であってよい。
【0059】
(H)紫外線吸収剤:
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、好ましい実施形態の1つにおいて、上記成分(H)紫外線吸収剤を更に含むものであってよい。経時的な色調の安定性、及び耐候性を向上させることができる。
【0060】
上記成分(H)紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、芳香族ベンゾエート系紫外線吸収剤、及び蓚酸アニリド系紫外線吸収剤などをあげることができる。
【0061】
上記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2‐(5‐クロロ‐2H‐ベンゾトリアゾール‐2‐イル)‐4‐メチル‐6‐tert‐ブチルフェノール、2‐(2H‐ベンゾトリアゾール‐2‐イル)‐4,6‐ビス(1‐メチル‐1‐フェニルエチル)フェノール、2‐(2H‐ベンゾトリアゾール‐2‐イル)‐4‐(1,1,3,3‐テトラメチルブチル)フェノール、2,2’‐メチレンビス[6‐(2H‐ベンゾトリアゾール‐2‐イル)‐4‐(1,1,3,3‐テトラメチルブチル)フェノール]、及び2‐(2H‐ベンゾトリアゾール‐2‐イル)‐p‐クレゾールなどをあげることができる。
【0062】
上記トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2‐(4,6‐ジフェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2‐イル)‐5‐[2‐(2‐エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール、及び2,4,6‐トリス(2‐ヒドロキシ‐4‐ヘキシルオキシ‐3‐メチルフェニル)‐1,3,5‐トリアジンなどをあげることができる。
【0063】
上記ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、[2‐ヒドロキシ‐4‐(オクチルオキシ)フェニル](フェニル)メタンオン、2,2’,4,4’‐テトラヒドロキシベンゾフェノン、及び2,2’‐ジヒドロキシ‐4,4’‐ジメトキシベンゾフェノンなどをあげることができる。
【0064】
上記シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、例えば、エチル‐2‐シアノ‐3,3‐ジフェニルアクリレート、2‐エチルヘキシル‐2‐シアノ‐3,3‐ジフェニルアクリレート、及びペンタエリスリトールテトラキス(3,3‐ジフェニル‐2‐シアノアクリレート)などをあげることができる。
【0065】
上記芳香族ベンゾエート系紫外線吸収剤としては、例えば、4‐tert‐ブチルフェニルサリシレート、4‐オクチルフェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4‐ジtert‐ブチルフェニル‐3,5‐ジtert‐ブチル‐4‐ヒドロキシベンゾエート、及びヘキサデシル‐3,5‐ジtert‐ブチル‐4‐ヒドロキシベンゾエートなどをあげることができる。
【0066】
上記蓚酸アニリド系紫外線吸収剤としては、例えば、2‐エチル‐2’‐エトキシオキザニリド、及び2‐エトキシ‐4’‐ドデシルオキザニリドなどをあげることができる。
【0067】
上記成分(H)としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0068】
上記成分(H)の配合量は、任意成分であるから特に制限されない。上記成分(H)の配合量は、経時的な色調の安定性、及び耐候性の観点から、上記成分(A)100質量部に対して、通常0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上であってよい。一方、上記成分(H)がフィルム表面にブリードアウトするトラブルを抑制する観点から、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下であってよい。
【0069】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物には、所望により、本発明の目的に反しない限度において、上記成分(A)~(H)以外のその他の成分を更に含ませることができる。上記その他の成分としては、例えば、上記成分(A)、(G)以外の熱可塑性樹脂;上記成分(B)以外の可塑剤;上記成分(C)~(F)、(H)以外の添加剤(例えば、上記成分(E)、(F)以外の酸化防止剤、耐候性安定剤、着色剤、滑剤、加工助剤、核剤、離型剤、帯電防止剤、尿素-ホルムアルデヒドワックス、及び界面活性剤など);難燃剤;無機フィラー;及び有機ファイラー;などをあげることができる。
【0070】
上記成分(A)、(G)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体;エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体;及び、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体などをあげることができる。
【0071】
上記成分(B)以外の可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、イタコン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤、エポキシ系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、テトラヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤、イソソルバイドジエステル系可塑剤、ホスフェート系可塑剤系、アゼライン酸系可塑剤、セバチン酸系可塑剤、ステアリン酸系可塑剤、クエン酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ビフェニルテトラカルボン酸エステル系可塑剤、及び塩素系可塑剤などをあげることができる。
【0072】
上記その他の成分としては、これらの1種以上を用いることができる。
【0073】
上記その他の成分の配合量は、任意成分であるから特に制限されない。上記その他の成分の配合量は、上記成分(A)100質量部に対して、通常20質量部程度以下、あるいは0.01~20質量部程度であってよい。
【0074】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、粘着力の経時的な低下を抑制する観点から、好ましくはエポキシ基含有可塑剤を含まないものであってよい。上記エポキシ基含有可塑剤としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などのエポキシ化植物油;エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ(2‐エチルヘキシル)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ビス(9,10‐エポキシステアリル)などのエポキシヘキサヒドロフタル酸エステル;などをあげることができる。
【0075】
理論に拘束される意図はないが、上記エポキシ基含有可塑剤は、粘着剤層に移行したとき、エポキシ基により粘着剤を架橋・硬化させるため、粘着力が低下すると考察される。
【0076】
ここで「含まない」とは、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の可塑剤として意図的に配合していないことを意味する。ポリ塩化ビニル系樹脂組成物の可塑剤として配合する場合、上記成分(A)100質量部に対して、通常、少なくとも1質量部以上を配合するから、「含まない」とは、通常1質量部未満、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下、更に好ましくは0.05質量部以下、最も好ましくは0.01質量部以下と言い換えることもできる。
【0077】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、任意の溶融混練機を使用して、上記成分(A)~(C)及び所望に応じて用いる任意成分を、同時に又は任意の順に上記溶融混練機に投入し、溶融混練することにより得ることができる。
【0078】
上記溶融混練機としては、加圧ニーダーやミキサーなどのバッチ混練機;一軸押出機、同方向回転二軸押出機、及び異方向回転二軸押出機等の押出混練機;カレンダーロール混練機;などをあげることができる。これらを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0079】
得られた組成物は、任意の方法でペレット化した後、任意の方法で任意の成形品に成形することができる。上記ペレット化はホットカット、ストランドカット、及びアンダーウォーターカットなどの方法により行うことができる。
【0080】
2.成形体:
本発明の成形体は、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物を含む成形体である。本発明の成形体は、通常は、成形体の表面の一部又は全部の上に、直接、粘着剤が塗布されること又は粘着フィルムが貼合されることが予定されている成形体(フィルムを含む。)である。本発明の成形体の粘着剤が塗布される箇所又は粘着フィルムが貼合される箇所は、通常は、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物により構成されている。このような成形体としては、例えば、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物と任意の熱可塑性樹脂とを共押出成形して得られる複合成形体;本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムと任意の熱可塑性樹脂からなるフィルム、シート、又は板との積層体;該積層体を、真空成形、圧空成形、及びプレス成形などの熱成形により賦形して得られる複合成形体;及び、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムを表皮材として金型内にインサートした後、任意の熱可塑性樹脂を芯材として射出する方法(フィルムインサート成形)で得られる複合成形体;などをあげることができる。
【0081】
3.フィルム:
本発明のフィルムは、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物からなるフィルムである。本発明のフィルムは、フィルムの片面又は両面の上に、通常は直接、粘着剤層を形成するためのフィルム基材として好適に用いることができる。
【0082】
本発明のフィルムは、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物を用い、任意のフィルム製膜装置を使用して製膜することにより得ることができる。上記フィルム製膜装置としては、例えば、カレンダーロール圧延加工機、及び引巻取装置を備えるカレンダーロール圧延製膜装置;及び、押出機、Tダイ、及び引巻取装置を備えるTダイ製膜装置;などをあげることができる。
【0083】
上記カレンダーロール圧延加工機としては、例えば、直立型3本ロール、直立型4本ロール、L型4本ロール、逆L型4本ロール、及びZ型ロールなどをあげることができる。上記押出機としては、例えば、一軸押出機、同方向回転二軸押出機、及び異方向回転二軸押出機などをあげることができる。上記Tダイとしては、例えば、マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、及びコートハンガーダイなどをあげることができる。
【0084】
本発明のフィルムは、本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物を用い、好ましくはカレンダーロール圧延製膜装置を使用して製膜することにより得ることができる。より好ましくはカレンダーロール圧延製膜装置を使用し、ロール温度160℃~200℃の条件で製膜することにより得ることができる。
【0085】
本発明のフィルムの厚みは、特に制限されないが、取扱性の観点から、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であってよい。一方、本発明のフィルムを含む物品の薄型化の要求に応える観点から、通常1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下であってよい。
【0086】
本発明のフィルムは、透明なものであってもよく、不透明なものであってもよく、着色透明なものであってもよく、着色されて不透明なものであってもよい。
【0087】
本発明のフィルムであって、透明な実施形態のフィルムは、例えば、ガラス飛散防止フィルム、ガラス装飾フィルムなどのガラスに貼着して用いる粘着フィルムのフィルム基材として好適に用いることができる。透明な実施形態の場合、本発明のフィルムの全光線透過率(JIS K7105:2011の5.5.2測定法Aに従い測定。)は、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上、最も好ましくは90%以上であってよい。全光線透過率は高いほど好ましい。全光線透過率は、JIS K7105:2011の5.5.2測定法Aに従い、例えば、日本分光株式会社の分光光度計「V-570(商品名)」を使用して測定することができる。
【0088】
本発明のフィルムであって、不透明な、あるいは隠蔽性を有する実施形態のフィルムは、例えば、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、モバイルフォン、及びパソコンなどの家電製品;飾り棚、収納箪笥、食器戸棚、及び机などの家具;あるいは床、壁、及び浴室などの建築部材;の加飾化粧に用いられる化粧シート、加飾フィルムのフィルム基材として好適に用いることができる。
【0089】
図2は本発明のフィルムを用いた化粧シートの一例を示す断面の概念図である。表面側から順に、2液硬化型ウレタン塗料を用いて形成された塗膜1、透明な熱可塑性樹脂フィルムの層2、印刷層3、着色された本発明のフィルムの層4、粘着剤層5を有している。なお本明細書において、「表面側」とは実使用状態において通常視認される面の側を意味する。「実使用状態」とは、例えば、化粧シートの場合には、化粧シートが各種物品の表面の化粧、加飾に用いられた状態をいう。
図3は本発明のフィルムを用いたガラス装飾フィルムの一例を示す断面の概念図である。ガラスとの貼合側から順に、粘着剤層5、透明な印刷層6、透明な本発明のフィルムの層7を有している。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
測定方法
(イ)粘着力1(初期粘着力1):
藤倉化成株式会社のアクリル系粘着剤「LKN026(商品名」220質量部(固形分換算100質量部)、東ソー株式会社のイソシアネート系硬化剤「L‐55E(商品名)」1.7質量部(固形分換算0.93質量部)、及びメチルエチルケトン 34質量部を混合攪拌し、粘着剤1を得た。次に、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物フィルムの片面の上に、上記で得た粘着剤1を用い、コンマコーティング方式の塗工装置を使用して膜厚20μmの粘着剤層を形成し、粘着フィルム1を得た。続いて、JIS A5759:2008の6.9粘着力試験に従い、試験板として株式会社テストピースのJIS R3202:2011に規定するフロート板ガラス(厚さ3mm)を使用し、上記粘着フィルム1と上記フロート板ガラスとを粘着後、引き剥がし試験前に、温度40℃のギヤオーブン内(湿度制御は行わなかった。)で72時間の養生を行った後、300mm/分の速度で、温度23℃における、上記フロート板ガラス(試験板)に対する上記粘着フィルム1の180度引き剥がし粘着力を測定した。
【0092】
(ロ)熱老化後1(熱老化後粘着力1):
温度40℃で72時間の養生を行った後、引き剥がし試験前に、更に温度80℃のギヤオーブン内(湿度制御は行わなかった。)で240時間の処理を行ったこと以外は上記試験(イ)粘着力1と同様に行った。表には初期粘着力1に対する熱老化後粘着力1の割合(残率)を記載した。該割合(残率)は、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上であってよい。上記割合(残率)は高いほど好ましい。上記粘着剤1は所謂強粘着剤(より高い粘着力が求められるタイプの粘着剤。)であるため、上記割合(残率)は100%超(初期粘着力1よりも熱老化後粘着力1の方が高いことを意味する。)も好ましい。
【0093】
(ハ)湿熱後1(湿熱後粘着力1):
温度40℃で72時間の養生を行った後、引き剥がし試験前に、更に温度60℃、相対湿度98%の恒温恒湿槽内で240時間の処理を行ったこと以外は上記試験(イ)粘着力1と同様に行った。表には初期粘着力1に対する湿熱後粘着力1の割合(残率)を記載した。該割合(残率)は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上であってよい。上記割合(残率)は、高いほど好ましい。上記粘着剤1は所謂強粘着剤であるため、上記割合(残率)は100%超(初期粘着力1よりも湿熱後粘着力1の方が高いことを意味する。)も好ましい。
【0094】
(ニ)粘着力2(初期粘着力2):
藤倉化成株式会社のアクリル系粘着剤「LKG1205(商品名」249質量部(固形分換算100質量部)、東ソー株式会社のイソシアネート系硬化剤「TETRAD‐C(商品名)」0.25質量部、及びメチルエチルケトン 100質量部を混合攪拌し、粘着剤2を得た。次に、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物フィルムの片面の上に、上記で得た粘着剤2を用い、コンマコーティング方式の塗工装置を使用して膜厚20μmの粘着剤層を形成し、粘着フィルム2を得た。続いて、JIS A5759:2008の6.9粘着力試験に従い、試験板として株式会社テストピースのJIS R3202:2011に規定するフロート板ガラス(厚さ3mm)を使用し、上記粘着フィルム2と上記フロート板ガラスとを粘着後、引き剥がし試験前に、温度40℃のギヤオーブン内(湿度制御は行わなかった。)で72時間の養生を行った後、300mm/分の速度で、温度23℃における、上記フロート板ガラス(試験板)に対する上記粘着フィルム2の180度引き剥がし粘着力を測定した。
【0095】
(ホ)熱老化後2(熱老化後粘着力1):
温度40℃で72時間の養生を行った後、引き剥がし試験前に、更に温度80℃のギヤオーブン内(湿度制御は行わなかった。)で240時間の処理を行ったこと以外は上記試験(ニ)粘着力2と同様に行った。表には初期粘着力2に対する熱老化後粘着力2の割合(残率)を記載した。該割合(残率)は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、最も好ましくは75%以上であってよい。一方、上記粘着剤2は所謂弱粘着剤(高過ぎず、低過ぎず、一定の粘着力を保持することが求められるタイプの粘着剤。)であるため、上記割合(残率)は通常110%以下、好ましくは105%以下、より好ましくは100%以下であってよい。
【0096】
(へ)湿熱後2(湿熱後粘着力2):
温度40℃で72時間の養生を行った後、引き剥がし試験前に、更に温度60℃、相対湿度98%の恒温恒湿槽内で240時間の処理を行ったこと以外は上記試験(ニ)粘着力2と同様に行った。表には初期粘着力2に対する湿熱後粘着力2の割合(残率)を記載した。該割合(残率)は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは45%以上、最も好ましくは50%以上であってよい。一方、上記粘着剤2は所謂弱粘着剤であるため、上記割合(残率)は通常110%以下、好ましくは105%以下、より好ましくは100%以下であってよい。
【0097】
(ト)印刷性(有機溶剤系インキ):
ポリ塩化ビニル系樹脂組成物フィルムの片面の上に、株式会社ミマキエンジニアリングのインクジェットプリンタ用インキ「MIMAKI SPC‐0501(商品名)」のMagenta色を、ベーカー式アプリケーターを使用して、硬化後の厚み12μmとなるように塗布し、積算光量200mJ/cm2の条件で紫外線照射して印刷層を形成し、印刷フィルムを得た。次に、JIS K5600-5-6:1999に従い、上記印刷フィルムの印刷面側から碁盤目の切れ込みを100マス(1マス=1mm×1mm)入れた後、密着試験用テープを碁盤目へ貼り付けて指でしごいた後、剥がした。評価基準はJISの上記規格の表1に従った。
分類0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥れがない。
分類1:カットの交差点における塗膜の小さな剥れ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
分類2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点において剥れている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
分類3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大剥れを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的に剥れている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
分類4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大剥れを生じており、及び/又は数箇所の目が、部分的又は全面的に剥れている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に35%を超えるが65%を上回ることはない。
分類5:剥れの程度が分類4を超える場合。
【0098】
(チ)移行性:
デンカ株式会社のABS樹脂「デンカABS GR‐2000(商品名)」100質量部とカーボンブラックのマスターバッチ(ABS樹脂ベース。カーボン50質量%)2質量部との混合物を用い、射出成型法により、1辺15cmの正方形、厚み2mmの樹脂板を得た。次に該樹脂板の面の中央にサンプル(フィルムをマシン方向8cm、横方向6cmの長方形に裁断したもの)を、更にサンプルの面の上にステンレス板(縦8cm、横6cmの長方形、厚み2mm)を、上から見たときサンプルとステンレス板とが略一致するように重ねた。続いて、ステンレス板の面の中央に1Kgの錘を載せ、温度70℃(湿度制御は行わなかった。)のギヤオーブン内で7日間処理を行った。処理後の上記樹脂板のサンプルとの接触箇所等を目視観察し、以下の基準で評価した。
図4に処理後樹脂板(D評価)の写真を示す。
A:接触箇所に変化は全く認められない。
B:接触箇所と非接触箇所を比較すると僅かな変色が認められる。しかし光沢感を失った部分はない。
C:接触箇所は変色し、かつ光沢感を失った部分を生じた。
D:接触箇所は著しく変色し、かつ広範囲に光沢感を失った。霜降り状になった。
【0099】
(リ)全光線透過率:
JIS K7105:2011の5.5.2測定法Aに従い、日本分光株式会社の分光光度計「V-570(商品名)」を使用して測定した。なお例15は、白色顔料を配合し、隠蔽性を持たせた例であるため、全光線透過率の測定は省略した。
【0100】
(ヌ)耐候性:
JIS Z8722:2009に従い、コニタミノルタジャパン株式会社の分光測色計「CM600d」を使用し、幾何条件c、鏡面反射となる成分含む条件で、XYZ座標を測定し、これを換算することにより、耐候処理前のL*a*b*座標を求めた。続いて、JIS B7753:2007に規定されるスガ試験機株式会社のサンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機(SWOM)「サンシャインウェザーメーターS300(商品名)」を使用し、放射照度225W/m2(ガラス製フィルタの仕様は上記規格表2の種類A、放射照度の区分は上記規格表3の通常形)、120分毎に18分間の水噴霧、雰囲気温度43℃、ブラックパネル温度63℃、及び相対湿度50±5%の条件で500時間処理し、更に恒温恒湿の条件下(温度23℃、50%相対湿度)で3日間静置した後、上述の方法に従い、耐候処理後のL*a*b*座標を求めた。耐候処理前のL*a*b*座標と耐候処理後のL*a*b*座標から、上記分光測色計内蔵の計算方法(ΔE*ab(CIE1976))を使用して色差(ΔE)を算出した。なおL*a*b*座標の測定等については、コニタミノルタジャパン株式会社のホームページ(下記アドレス)などを参照することができる。
http://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/part1/07.html
【0101】
使用した原材料
(A)ポリ塩化ビニル系樹脂:
(A-1)重合度800のポリ塩化ビニル単独重合体。
【0102】
(B)ポリエステル系可塑剤:
(B-1)株式会社ADEKAのポリエステル系可塑剤「アデカサイザーPN‐280(商品名)」。質量平均分子量(Mw)5200、数平均分子量(Mn)2300。
(B-2)株式会社ADEKAのポリエステル系可塑剤「アデカサイザーPN‐446(商品名)」。質量平均分子量(Mw)5300、数平均分子量(Mn)2300。
(B-3)DIC株式会社のポリエステル系可塑剤「ポリサイザーW‐4010(商品名)」。質量平均分子量(Mw)10000、数平均分子量(Mn)3300。
【0103】
(B’-1)株式会社ADEKAのポリエステル系可塑剤「アデカサイザーPN‐7160(商品名)」。質量平均分子量(Mw)1200、数平均分子量(Mn)830。
(B’-2)フタル酸ビス(2‐エチルヘキシル)。
(B’-3)株式会社ADEKAのエポキシ化大豆油「O‐130P(商品名)」。
【0104】
(C)炭素数11以下の脂肪酸金属塩、芳香族カルボン酸金属塩:
(C-1)カプリン酸バリウム。
(C-2)カプリン酸亜鉛。
(C-3)カプリル酸バリウム。
(C-4)ビス4‐t‐ブチル安息香酸亜鉛とビスp‐トルイル酸亜鉛との1:1(質量比)混合物。
【0105】
(C’-1)ステアリン酸バリウム。
(C’-2)ステアリン酸亜鉛。
【0106】
(D)ハイドロタルサイト:
(D-1)昭島化学工業株式会社の炭酸イオンマグネシウムアルミニウム型ハイドロタルサイト「FD‐200(商品名)」。
【0107】
(E)フェノール系酸化防止剤:
(E-1)株式会社ADEKAの「アデカスタブAO‐60(商品名)」。ペンタエリスリトール‐テトラキス[3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]。
【0108】
(F)ホスファイト系酸化防止剤:
(F-1)株式会社ADEKAの「アデカスタブ135A(商品名)」。イソデシルジフェニルホスファイト。
【0109】
(G)コアシェルゴム:
(G-1)三菱ケミカル株式会社のコアシェルゴム(メタクリル酸メチル・スチレン/アクリル酸エチルゴムグラフト共重合体)「メタブレンW-300A(商品名)」。
【0110】
(H)紫外線吸収剤:
(H-1)株式会社ADEKAのベンゾフェノン系紫外線吸収剤「アデカスタブ1413(商品名)」。[2‐ヒドロキシ‐4‐(オクチルオキシ)フェニル](フェニル)メタンオン。
【0111】
(J)その他の成分:
(J-1)三菱ケミカル株式会社のアクリル系加工助剤「P‐530A(商品名)」。
(J-2)石原産業株式会社の酸化チタン(白色顔料)「CR‐90(商品名)」
【0112】
例1~15
表1~3の何れか1に示す配合(質量部)の樹脂組成物を、ミキサー混練機を使用し、排出時樹脂温度140℃の条件で溶融混練し、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物を得た。次に日本ロール製造株式会社の逆L型4本カレンダーロール圧延加工機と引巻取装置を備える製膜装置を使用し、第1ロール温度180℃、第2ロール温度180℃、第3ロール185℃、第4ロール180℃、及び引巻取速度60m/分の条件で、厚み80μmのフィルムを製膜した。上記試験(イ)~(ヌ)を行った。なお例15は白色に着色した例なので、全光線透過率は測定しなかった。結果を表1~3の何れか1に示す。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、粘着力の経時的な低下が抑制されていた。本発明の好ましいポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、粘着力の経時的な低下、及び可塑剤の移行によるトラブルが抑制され、印刷性、耐候性(経時的な色調の安定性)、及び透明性に優れていた。またこれらはRoHS指令、REACH規則などの化学物質の使用制限に係る規制に適合する。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【
図1】実施例で用いた上記成分(C-1)の微分分子量分布曲線である。
【
図2】本発明のフィルムを用いた化粧シートの一例を示す断面の概念図である。
【
図3】本発明のフィルムを用いたガラス装飾フィルムの一例を示す断面の概念図である。
【
図4】上記試験(チ)移行性の結果がD評価のもの(処理後樹脂板)の写真である。
【符号の説明】
【0118】
1:2液硬化型ウレタン塗料を用いて形成された塗膜
2:透明な熱可塑性樹脂フィルムの層
3:印刷層
4:着色された本発明のフィルムの層
5:ガラスに貼合するための粘着剤層
6:透明な印刷層
7:透明な本発明のフィルムの層