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特許7242315信号を二重化するための装置、ワイヤレス通信デバイス、および信号を二重化する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】信号を二重化するための装置、ワイヤレス通信デバイス、および信号を二重化する方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/50 20060101AFI20230313BHJP
   H04B 1/52 20150101ALI20230313BHJP
【FI】
H04B1/50
H04B1/52
【請求項の数】 21
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019014296
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2019169938
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】18154556.7
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510145967
【氏名又は名称】ユー-ブロックス、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】u-blox AG
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100096921
【弁理士】
【氏名又は名称】吉元 弘
(72)【発明者】
【氏名】レオ、ラフリン
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-149721(JP,A)
【文献】特表2018-509116(JP,A)
【文献】特表2014-526857(JP,A)
【文献】特表2014-535217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/50
H04B 1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナによってワイヤレスで送受信される信号を二重化するための装置であって、
前記アンテナに結合するためのアンテナノードと、前記アンテナによってワイヤレスで送信される信号を受信するための入力ノードと、前記アンテナによってワイヤレスで受信された信号を出力するための出力ノードと、平衡ノードとを備えるハイブリッド回路と、
前記平衡ノードに動作可能に結合された可変インピーダンスであって、前記可変インピーダンスのインピーダンス設定値を選択するための制御入力を備える可変インピーダンスと、
前記ハイブリッド回路の前記アンテナノードに適用される一定のインピーダンスに関してインピーダンス設定値および対応するキャリブレーション測定値の参照情報を含むデータ記憶装置であって、前記インピーダンス設定値がインピーダンスに対応するデータ記憶装置と、
コントローラであって、
前記可変インピーダンスを第1のインピーダンス設定値に設定し、
第1の周波数帯域内の第1の送信周波数で第1の送信信号を送信し、
前記第1の送信周波数で送信された前記第1の送信信号の結果として、第2の周波数帯域内の第1の受信周波数で前記出力ノードにおいて第1の信号を測定し、
第2のインピーダンス設定値を選択し、
前記第1の周波数帯域内の第2の送信周波数で第2の送信信号を送信し、
前記第2の送信周波数で送信された前記第2の送信信号の結果として、前記第2の周波数帯域内の第2の受信周波数で前記出力ノードにおいて第2の信号を測定し、
前記第1の測定信号、前記第2の測定信号、前記第1のインピーダンス設定値に関する、関連付けの記録からの第1のキャリブレーション測定値、および前記第2のインピーダンス設定値に関する、前記関連付けの記録からの第2のキャリブレーション測定値を関連付ける変数を含む方程式系を用い、
前記方程式系を使用して平衡結果を決定し、
前記平衡結果を参照して前記関連付けの記録から、前記ハイブリッド回路の前記入力ノードと前記出力ノードとの分離をもたらす第3のインピーダンス設定値を検索する
ように構成されたコントローラと
を備える装置。
【請求項2】
前記インピーダンス設定値および前記対応するキャリブレーション測定値の前記参照情報が、前記アンテナノードに適用される前記一定のインピーダンスに関する、複数のインピーダンス設定値と複数のそれぞれのキャリブレーション測定値との関連付けの記録であり、前記複数のインピーダンス設定値が、それぞれ複数のインピーダンスに対応する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記可変インピーダンスの前記制御入力が、連続的に可変である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記参照情報が、前記キャリブレーション測定値と前記インピーダンス設定値との関係を記録した式を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記可変インピーダンスの前記制御入力が、離散的である、請求項1、または2、または4に記載の装置。
【請求項6】
前記コントローラが、
複数の前記インピーダンス設定値を与え、前記複数のインピーダンス設定値と複数のそれぞれのキャリブレーション測定値との関連付けの記録を作成するために、前記制御入力を使用してインピーダンス値を変更する
ようにさらに構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記可変インピーダンスの前記制御入力が、選択可能な設定値のセットを含み、複数の前記インピーダンス設定値が、それぞれ前記可変インピーダンスの前記選択可能な設定値のセットの一部に対応する、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記複数のインピーダンス設定値が、それぞれ前記可変インピーダンスの前記選択可能な設定値のセットに対応する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記可変インピーダンスの前記選択可能な設定値のセットの前記一部が、前記可変インピーダンスの前記選択可能な設定値のセットのサブセットである、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記可変インピーダンスの前記選択可能な設定値のセットの前記サブセットが、前記可変インピーダンスの前記選択可能な設定値のうちの約100から約1000の間の可変インピーダンス設定値を含む、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記コントローラが、
前記第1の信号および前記第2の信号の各測定に関して、第1の測定利得および第2の測定利得を表すそれぞれの量を計算し、
前記データ記憶装置にアクセスし、前記第1のインピーダンス設定値および第2のインピーダンス設定値をそれぞれ参照して前記関連付けの記録から前記第1のキャリブレーション測定値および前記第2のキャリブレーション測定値を検索し、
前記それぞれの量ならびに前記検索された第1のキャリブレーション測定値および前記第2のキャリブレーション測定値に応じて前記可変インピーダンスを制御する
ようにさらに構成されている、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記コントローラが、前記第3のインピーダンス設定値を決定する動作を定期的に実行するように構成されている、請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記コントローラが、前記平衡結果を得るために、
【数1】
の値を求めるように構成されており、Gが第1の測定された送受信利得、Gが第2の測定された送受信利得、Cが前記キャリブレーション測定値、Xが前記第1のインピーダンス設定値、Xが前記第2のインピーダンス設定値、ωが周波数である、請求項1から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
用いられる前記方程式系が、前記第1の測定信号、前記第2の測定信号、前記第1のインピーダンス設定値、前記第2のインピーダンス設定値、前記第1の送信信号、前記第2の送信信号、第1のキャリブレーション測定値、および第2のキャリブレーション測定値を関連付ける変数を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記方程式系が、前記可変インピーダンスの前記インピーダンス設定値に関係し得るキャリブレーション測定変数の関数として送受信利得変数をモデル化する、請求項1から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記第3のインピーダンス設定値が、前記ハイブリッド回路の前記入力ノードと前記出力ノードとを分離するための粗いインピーダンス設定値を構成し、
前記コントローラが、
前記ハイブリッド回路の前記入力ノードと前記出力ノードとの分離を最大にする最適なインピーダンス設定値を探索するために、前記第3のインピーダンス設定値から始めて前記インピーダンス設定値を反復的に変更する
ようにさらに構成されている、請求項7に記載の装置。
【請求項17】
前記インピーダンス設定値の前記反復変更が、前記インピーダンス設定値の反復線形変更である、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
適応型能動的信号除去サブシステムをさらに備え、前記能動的信号除去サブシステムが、前記インピーダンス設定値の前記反復変更と実質的に同時に除去を行うように構成されている、請求項16または17に記載の装置。
【請求項19】
前記第1のキャリブレーション測定値が、第1の送受信利得であり、前記第2のキャリブレーション測定値が、第2の送受信利得である、請求項1から18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項に記載の、信号を二重化するための装置を備えるワイヤレス通信デバイス。
【請求項21】
アンテナによってワイヤレスで送信される信号およびワイヤレスで受信される信号をシステムにおいて二重化する方法であって、前記システムが、前記アンテナに結合するためのアンテナノード、前記アンテナによって送信される信号を受信するための入力ノード、前記アンテナによってワイヤレスで受信された信号を出力するための出力ノード、および平衡ノードを備えるハイブリッド回路と、前記平衡ノードに結合された可変インピーダンスであって、前記可変インピーダンスのインピーダンス設定値を選択するための制御入力を備える可変インピーダンスと、前記ハイブリッド回路の前記アンテナノードに適用される一定のインピーダンスに関してインピーダンス設定値および対応するキャリブレーション測定値の参照情報を含むデータ記憶装置であって、前記インピーダンス設定値が、それぞれインピーダンスに対応するデータ記憶装置とを備え、前記方法が、
前記可変インピーダンスを第1のインピーダンス設定値に設定するステップと、
第1の周波数帯域内の第1の送信周波数で第1の送信信号を送信するステップと、
前記第1の送信周波数で送信された前記第1の送信信号の結果として、第2の周波数帯域内の第1の受信周波数で前記出力ノードにおいて第1の信号を測定ステップと、
第2のインピーダンス設定値を選択ステップと、
前記第1の周波数帯域内の第2の送信周波数で第2の送信信号を送信ステップと、
前記第2の送信周波数で送信された前記第2の送信信号の結果として、前記第2の周波数帯域内の第2の受信周波数で前記出力ノードにおいて第2の信号を測定ステップと、
前記第1の測定信号、前記第2の測定信号、前記第1のインピーダンス設定値に関する、関連付けの記録からの第1のキャリブレーション測定値、および前記第2のインピーダンス設定値に関する、前記関連付けの記録からの第2のキャリブレーション測定値を関連付ける変数を含む方程式系を用いるステップと、
前記方程式系を使用して平衡結果を決定するステップと、
前記平衡結果を参照して前記関連付けの記録から、前記ハイブリッド回路の前記入力ノードと前記出力ノードとの分離をもたらす第3のインピーダンス設定値を検索するステップと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハイブリッドジャンクション(hybrid junction)の平衡インピーダンス設定値を決定するために方程式系を使用するタイプの、信号を二重化するための装置に関する。本発明はまた、例えばハイブリッドジャンクションの平衡インピーダンス設定値を決定するために方程式系を使用するタイプのワイヤレスデバイスに関する。本発明はさらに、例えばハイブリッドジャンクションの平衡インピーダンス設定値を決定するために方程式系を使用するタイプの、信号を二重化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一部のワイヤレス通信システムにおいて、このようなシステムは、ネットワークインフラストラクチャと、例えば携帯型通信デバイスであり得るユーザ機器とを備える。このような通信デバイスは、一般的に、同じアンテナまたはアンテナセットを介して信号を送受信する。これは、入力信号が出力信号によって圧倒されないようにこのデバイスが入力信号と出力信号とを分離することを可能にするために何らかの形態の複信方式が必要とされることを意味する。この点に関して、時分割複信(TDD)および周波数分割複信(FDD)は両方とも周知の複信方式である。
【0003】
通信システムを動作させるための無線スペクトルの利用可能性が制限要因であることが知られている。いわゆる4G、またはロングタームエボリューション(LTE:Long Term Evolution)は、既存の2Gおよび3G通信システムの後継である。実際、LTE準拠ネットワークはすでに多くの国で運用されている。歴史的な理由から、LTE規格の3Gパートナーシッププロジェクト(3GPP:3G Partnership Project)のリリース15(Rel15)に規定されているように、LTE規格には60のLTE動作周波数帯域があり、そのうちの35はFDD動作を必要とする。さらなるモバイルブロードバンドスペクトルが様々な地域の政府によって利用可能にされるとき、さらなる帯域がLTE規格の後のリリースで規定される可能性がある。
【0004】
FDD無線動作では、異なる周波数の2つの別々のキャリアがあり、1つはアップリンク送信用であり、もう1つはダウンリンク送信用である。ダウンリンク送信とアップリンク送信との分離は、通常、ダイプレックスフィルタ(デュプレクサまたはダイプレクサ)と呼ばれる送信/受信フィルタによって達成される。これらのフィルタは、一般的に、2つの高度に選択的なフィルタとして実施され、送信信号と受信信号とを分離するために、一方は受信周波数帯域を中心とし、他方は送信周波数帯域を中心とし、これにより、送信信号と受信信号とが干渉することが防止される。弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタなどの音響共振器フィルタは、一般的に、二重化フィルタに要求される低い挿入損失およびシャープロールオフを実現するために使用される。これらは個々に小さく安価ではあるが、複数の周波数帯域をサポートしなければならない通信デバイスは、サポートされる周波数帯域ごとに1つのダイプレックスフィルタと、さらには、二重化フィルタがアンテナを共有することができるように周波数帯域を選択するための無線周波数(RF:Radio Frequency)スイッチとを必要とする。
【0005】
さらに、これらのフィルタは、SAWフィルタを構築するために使用される高Q共振器のためにCMOS回路に集積することができず、したがって、これらはオフチップで実装しなければならない。これは、通常、単一の周波数帯域で動作する単純な無線トランシーバでは問題にならない。しかしながら、現代の無線トランシーバは通常はマルチバンドである。上で言及したように、LTE規格は、現在35のFDD周波数帯域を指定している。サポートされる周波数帯域ごとに1つのダイプレックスフィルタが必要であることから、指定された周波数帯域のすべてをサポートするために、ユーザ機器の製造業者には、複数のフィルタを使用することが要求される。ディスクリートデュプレクサのバンクは、1つの既知の手法であり、このバンクは、必要な動作周波数帯域に基づいて適切なデュプレクサを選択するマルチウェイRFスイッチを介してアンテナ、送信機、および受信機に接続される。このような手法は、マルチバンドトランシーバの全体的なサイズおよびコストを増大させるだけでなく、ユーザ機器の複雑さも増大させる。この手法はまた、性能を犠牲することにつながり得る。例えば、RFスイッチの導入は、複数の周波数帯域がサポートされるため電力損失をもたらし得る。
【0006】
多くのデバイス製造業者は、異なる動作周波数帯域セットをサポートする異なる構成のデバイスを設計し製造することによってこの問題を単純に回避している。これにより、製造業者は、各々が異なる周波数帯域の組み合わせを有する異なる地域のグループで動作可能である一連のデバイスを提供する。したがって、上で説明したフィルタの必要性を除去することによって「世界電話」の製造にとっての障壁が取り除かれ、この利点は、携帯電話産業に規模の経済性を与え、海外旅行者の不便さを軽減することであることが理解されよう。
【0007】
したがって、固定調整ダイプレクサを、複数の、好ましくはすべての周波数帯域をサポートすることができる柔軟なデバイスに置き換えることができる解決策には市場の大きな需要がある。
【0008】
ダイプレクサを構成するダイプレックスフィルタを調整することは可能であるが、所望の選択性および低い電力損失を達成するために非常に高いQ値の共振器が必要とされることから、このような手法は現在技術的に現実的ではない。現在、必要とされる小さいフィルタサイズを達成するために、このような共振器は音響共振器としてのみ実現可能であるが、これは、その電気的調整を小さい周波数範囲のみに制限する周知の双共振特性を有する。
【0009】
代替の二重化の解決策は、いわゆるハイブリッドジャンクションまたはハイブリッド回路の使用である。これは、伝送線路において順方向および逆方向の波の方向を分離することができる4ポートネットワークである。ハイブリッドジャンクションは、変圧器、導波路(「マジックティー(magic tee)」)、またはマイクロストリップ(「方向性結合器」)の使用を含む多くの方法で作成され得る。ハイブリッドジャンクションはまた、現代の電子アナログ有線電話の場合のように能動回路を使用して作製され得る。
【0010】
ハイブリッドジャンクションは、一般的に、第1の(送信)ポート、第2の(アンテナ)ポート、第3の(受信)ポート、および第4の(平衡)ポートを備える。理想的なハイブリッドジャンクションの動作では、送信ポートに入射する電力のすべては、アンテナポートと平衡ポートとに分配される。同様に、受信ポートに入射する電力のすべては、アンテナポートと平衡ポートとに分配される。したがって、このデバイスは、無損失で相反的であり、それぞれの周りに同様の特性を有する2つの対称面を有する。
【0011】
ブロードバンドハイブリッドは、変圧器および単一変圧器回路(例えば、「A Multiband RF Antenna Duplexer on CMOS:Design and Performance」(M.Mikhemar,H.Darabi,and A.A.Abidi,IEEE Journal of Solid-State Circuits,vol.48,pp.2067-2077,2013)に記載されているような)を使用して作製され得る。
【0012】
理論上のハイブリッドジャンクションでは、デュプレクサとして使用される場合、その送信ポートには送信機チェーンの電力増幅器が結合され、受信ポートには低雑音増幅器が結合される。電力増幅器によって送信ポートに印加される送信電力は、上で説明したように、アンテナポートと平衡ポートとに分配され、アンテナポートおよび平衡ポートの反射係数が平衡する限り、低雑音増幅器は分離される、すなわち、受信機への送信信号の漏洩は生じない。
【0013】
しかしながら、実際には、ハイブリッドジャンクションをデュプレクサとして使用することには多くの欠点がある。第1に、アンテナのインピーダンス、ひいてはアンテナポートにおけるインピーダンスは、一般的に、時間領域および周波数領域の両方において変動を示す。アンテナのインピーダンスは、例えばアンテナの近くを移動する物体のために時間と共に変動する可能性があり、このため、これらの変化に対処するために平衡ポートにおけるインピーダンスをアンテナポートにおけるインピーダンスに動的に適合させる必要がある。アンテナインピーダンスはまた一般的に周波数と共に変動するため、目的の特定の周波数で平衡を得るためには、平衡ポートにおけるインピーダンスをそれに応じて適合させなければならず、十分に広いシステム帯域幅(例えば、LTEチャネルに必要な20 MHz)にわたって良好な平衡を達成することは困難であり得る。さらに、分離帯域幅、すなわち、適切な分離が達成され得る帯域幅を増大させることは、可変平衡インピーダンス回路の複雑さを増大させることを必要とし、これにより、デバイスのサイズおよびコストが増大することになる。
【0014】
第2に、他の結合機構が、ハイブリッドジャンクションの送信ポートから受信ポートへの送信信号の一部の漏洩を引き起こす。したがって、送信ポートと受信ポートとの分離は限定されている。
【0015】
ハイブリッドジャンクションをデュプレクサとして使用することに対するさらなる技術的阻害要因は、インピーダンス平衡を達成するために必要とされる電力の吸収である。この点に関して、ハイブリッドジャンクションは、上で言及したように一般的に対称であり、ハイブリッドジャンクションの各分岐において等しく3dBの損失を伴う。したがって、二重化との関連では、送信電力の半分が「浪費され」、受信電力の浪費が受信信号の信号対雑音比(SNR:signal-to-noise ratio)に影響を及ぼすことから、事実上3dBが雑音指数に加わる。
【0016】
ハイブリッドジャンクションをデュプレクサとして使用することに関連する上で言及した欠点にもかかわらず、これらの欠点を回避するまたは少なくとも軽減する試みがなされてきた。例えば、「Optimum Single Antenna Full Duplex Using Hybrid Junctions」(Laughlin,Beach,Morris and Haine,IEEE Journal of Selected Areas In Communications,Vol.32,No.9,September 2014,pages 1653 to 1661)は、周波数と共におよび(離調近接効果(de-tuning proximity effect)がない限り)最小で10dB程度であり得る反射減衰量と共に大きく変動し得るインピーダンスを有する任意のアンテナについて考えている。これが、広範囲の最終製品に組み込まれ得るトランシーバ回路であって、未知の長さの伝送線路を介して接続される可能性があるトランシーバ回路にとって実際的な現状である。ハイブリッドジャンクションのいわゆる電気的平衡(EB:Electrical Balance)が、上で参照した文献で提案されている。
【0017】
しかしながら、LTEを含むFDDシステムでは、アップリンク帯域およびダウンリンク帯域の両方で同時に分離が必要である。つまり、EBデュプレクサは、100MHzを上回って分離され得るようにこれらの帯域の両方で同時に平衡化されなければならない。これには、両方の帯域をカバーするために非常に広い分離帯域幅が必要であるか、あるいは、EBハイブリッドジャンクションは、「Tunable CMOS Integrated Duplexer with Antenna Impedance Tracking and High Isolation in the Transmit and Receive Bands」(Abdelhalem,Gudem and Larson,IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques,Vol.62,no.9,pp.2092-2104,September 2014)に示されているような「デュアルノッチ(dual notch)」平衡特性を有していなければならない。これらの技術は両方とも、調整可能な平衡インピーダンス回路の複雑さを増大させ得るものであり、これは、適切な平衡を実現するためにいくつかのまたはより多くの調整可能な回路要素を必要とし得る。
【0018】
調整可能な平衡インピーダンス設計の場合、必要な周波数帯域または複数の周波数帯域においてEBデュプレクサを平衡化するために調整可能回路を調節する方法および/または装置が必要である。これは、一般に平衡アルゴリズムと呼ばれている。
【0019】
欧州特許出願公開第EP-A1-2903170号明細書は、平衡アルゴリズムを用いる、信号を二重化するための装置を開示している。平衡アルゴリズムは、EBハイブリッドジャンクションデュプレクサの送信から受信への伝達関数を記述した一次式の特徴付けおよびその解に基づく。2つの未知数を有する一対の連立方程式が開示されており、これらは、平衡反射係数と、それぞれの一対の既知の平衡反射に関して行われる一対の送受信利得測定値とを関係付ける式(平衡式)を得るために代数的に解かれ得る。平衡アルゴリズムは、平衡式に基づく。
【0020】
しかしながら、上で説明した平衡式は、平衡反射係数値の知識に依存する。特に、平衡係数値は、対応する送受信利得を測定するときにハードウェアにおいて正確に設定される必要がある。さらなる説明としては、平衡インピーダンスを構成する可変インピーダンスは、その制御入力によってデジタル的に(または他の方法で)設定される。これに関して、可変インピーダンスの制御入力に適用される所望の設定値(例えば、可変インピーダンスの設計のみから知られる目的のインピーダンス値)と、得られる実際の値(例えば製造プロセスの不完全性のために目的の設計値とは異なり得る)との間には差異が存在することが発見されている。上で説明した平衡アルゴリズムを用いるとき、ハイブリッドジャンクションの送信ポートと受信ポートとの間で達成される分離は、所望のインピーダンスと、デジタル制御を使用して可変インピーダンスを設定するときに得られる実際のインピーダンスとのこの差異のために準最適にとどまる。したがって、同様の平衡アルゴリズムを使用してデュプレクサを平衡化することができるが、製造上の不完全性の影響を受けないシステムが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】欧州特許出願公開第EP-A1-2903170号明細書
【非特許文献】
【0022】
【文献】M.Mikhemar,H.Darabi,and a.a.Abidi,IEEE Journal of Solid-State Circuits,vol.48,pp.2067-2077,2013
【文献】Laughlin,Beach,Morris and Haine,IEEE Journal of Selected Areas In Communications,Vol.32,No.9,September 2014,pages 1653 to 1661
【文献】Abdelhalem,Gudem and Larson,IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques,Vol.62,no.9,pp.2092-2104,September 2014
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の第1の態様によれば、アンテナによってワイヤレスで送受信される信号を二重化するための装置であって、アンテナに結合するためのアンテナノードと、アンテナによってワイヤレスで送信される信号を受信するための入力ノードと、アンテナによってワイヤレスで受信された信号を出力するための出力ノードと、平衡ノードとを備えるハイブリッド回路と、平衡ノードに動作可能に結合された可変インピーダンスであって、可変インピーダンスのインピーダンス設定値を選択するための制御入力を備える可変インピーダンスと、ハイブリッド回路のアンテナノードに適用される一定のインピーダンスに関してインピーダンス設定値および対応するキャリブレーション測定値の参照情報を含むデータ記憶装置であって、インピーダンス設定値がインピーダンスに対応するデータ記憶装置と、コントローラであって、可変インピーダンスを第1のインピーダンス設定値に設定し、第1の周波数帯域内の第1の送信周波数で第1の送信信号を送信し、第1の送信周波数で送信された第1の信号の結果として、第2の周波数帯域内の第1の受信周波数で出力ノードにおいて第1の信号を測定し、第2のインピーダンス設定値を選択し、第1の周波数帯域内の第2の送信周波数で第2の送信信号を送信し、第2の送信周波数で送信された第2の信号の結果として、第2の周波数帯域内の第2の受信周波数で出力ノードにおいて第2の信号を測定し、第1の測定信号、第2の測定信号、第1のインピーダンス設定値に関する、関連付けの記録からの第1のキャリブレーション測定値、および第2のインピーダンス設定値に関する、関連付けの記録からの第2のキャリブレーション測定値を関連付ける変数を含む方程式系を用い、方程式系を使用して平衡結果を決定し、平衡結果を参照して関連付けの記録から、ハイブリッド回路の入力ノードと出力ノードとの分離をもたらす第3のインピーダンス設定値を検索するように構成されたコントローラとを備える装置が提供される。
【0024】
本装置は、第1のインピーダンス設定値に関する関連付けの記録から第1のキャリブレーション測定値を検索し、第2のインピーダンス設定値に関する関連付けの記録から第2のキャリブレーション測定値を検索するように構成されてもよい。
【0025】
インピーダンス設定値および対応するキャリブレーション測定値の参照情報は、アンテナノードに適用される一定のインピーダンスに関する、複数のインピーダンス設定値と複数のそれぞれのキャリブレーション測定値との関連付けの記録であってもよく、複数のインピーダンス設定値は、それぞれ複数のインピーダンスに対応していてもよい。
【0026】
可変インピーダンスの制御入力は連続的に可変であってもよい。
【0027】
参照情報は、キャリブレーション測定値とインピーダンス設定値との関係を記録した式を含んでもよい。
【0028】
可変インピーダンスの制御入力は離散的であってもよい。
【0029】
コントローラは、複数のインピーダンス設定値を与え、複数のインピーダンス設定値と複数のそれぞれのキャリブレーション測定値との関連付けの記録を作成するために、制御入力を使用してインピーダンス値を変更するようにさらに構成されてもよい。
【0030】
可変インピーダンスの制御入力は、選択可能な設定値のセットを含んでもよく、複数のインピーダンス設定値は、それぞれ可変インピーダンスの可能な設定値のセットの一部に対応していてもよい。
【0031】
複数のインピーダンス設定値は、それぞれ可変インピーダンスの選択可能な設定値のセットに対応していてもよい。
【0032】
可変インピーダンスの選択可能な設定値のセットの一部は、可変インピーダンスの選択可能な設定値のセットのサブセットであってもよい。
【0033】
可変インピーダンスの選択可能な設定値のセットのサブセットは、可変インピーダンスの選択可能な設定値のうちの約100から約1000の間の可変インピーダンス設定値を含んでもよい。
【0034】
第1の周波数帯域と第2の周波数帯域は重ならなくてもよいし、部分的に重なってもよいし、完全に重なってもよい。
【0035】
第1の送信周波数と第1の受信周波数は同じであっても異なってもよい。
【0036】
コントローラは、第1の信号および第2の信号の各測定に関して、第1の測定利得および第2の測定利得を表すそれぞれの量を計算し、データ記憶装置にアクセスし、第1のインピーダンス設定値および第2のインピーダンス設定値をそれぞれ参照して関連付けの記録から第1のキャリブレーション測定値および第2のキャリブレーション測定値を検索し、それぞれの量ならびに検索された第1の送受信利得および第2の送受信利得に応じて可変インピーダンスを制御するようにさらに構成されてもよい。
【0037】
コントローラは、第3のインピーダンス設定値を決定する動作を定期的に実行するように構成されてもよい。
【0038】
コントローラは、第3の平衡結果を得るために、
【数1】
の値を求めるように構成されてもよく、ただし、Gは第1の測定された送受信利得であってもよく、Gは第2の測定された送受信利得であってもよく、Cはキャリブレーション測定値であってもよく、Xは第1のインピーダンス設定値であってもよく、Xは第2のインピーダンス設定値であってもよく、ωは周波数であってもよい。
【0039】
用いられる方程式系は、第1の測定信号、第2の測定信号、第1のインピーダンス設定値、第2のインピーダンス設定値、第1の送信信号、第2の送信信号、第1のキャリブレーション測定値、および第2のキャリブレーション測定値を関連付ける変数を含んでもよい。
【0040】
データ記憶装置は、関連付けの記録をルックアップテーブルとして記憶してもよい。
【0041】
方程式系は、可変インピーダンスのインピーダンス設定値に関係し得るキャリブレーション測定変数の関数として送受信利得変数をモデル化してもよい。
【0042】
第3のインピーダンス設定値は、ハイブリッド回路の入力ノードと出力ノードとを分離するための粗いインピーダンス設定値を構成してもよく、コントローラは、ハイブリッド回路の入力ノードと出力ノードとの分離を最大にする最適なインピーダンス設定値を探索するために、第3のインピーダンス設定値から始めてインピーダンス設定値を反復的に変更するようにさらに構成されてもよい。
【0043】
インピーダンス設定値の反復変更は、インピーダンス設定値の反復線形変更であってもよい。
【0044】
本装置は、適応型能動的信号除去サブシステムをさらに備えてもよく、能動的信号除去サブシステムは、インピーダンス設定値の反復変更と実質的に同時に除去を行うように構成されてもよい。
【0045】
能動的信号除去サブシステムは、反復的に適応するように構成されてもよい。
【0046】
第1のキャリブレーション測定値は、第1の送受信利得であってもよく、第2のキャリブレーション測定値は、第2の送受信利得である。
【0047】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様に関して上述した、信号を二重化するための装置を備えるワイヤレス通信デバイスが提供される。
【0048】
本発明の第3の態様によれば、アンテナによってワイヤレスで送信される信号およびワイヤレスで受信される信号をシステムにおいて二重化する方法であって、システムが、アンテナに結合するためのアンテナノード、アンテナによって送信される信号を受信するための入力ノード、アンテナによってワイヤレスで受信された信号を出力するための出力ノード、および平衡ノードを備えるハイブリッド回路と、平衡ノードに結合された可変インピーダンスであって、可変インピーダンスのインピーダンス設定値を選択するための制御入力を備える可変インピーダンスと、ハイブリッド回路のアンテナノードに適用される一定のインピーダンスに関してインピーダンス設定値および対応するキャリブレーション測定値の参照情報を含むデータ記憶装置であって、インピーダンス設定値が、それぞれインピーダンスに対応するデータ記憶装置とを備え、方法が、可変インピーダンスを第1のインピーダンス設定値に設定するステップと、第1の周波数帯域内の第1の送信周波数で第1の送信信号を送信するステップと、第1の送信周波数で送信された第1の送信信号の結果として、第2の周波数帯域内の第1の受信周波数で出力ノードにおいて第1の信号を測定ステップと、第2のインピーダンス設定値を選択ステップと、第1の周波数帯域内の第2の送信周波数で第2の送信信号を送信ステップと、第2の送信周波数で送信された第2の送信信号の結果として、第2の周波数帯域内の第2の受信周波数で出力ノードにおいて第2の信号を測定ステップと、第1の測定信号、第2の測定信号、第1のインピーダンス設定値に関する、関連付けの記録からの第1のキャリブレーション測定値、および第2のインピーダンス設定値に関する、関連付けの記録からの第2のキャリブレーション測定値を関連付ける変数を含む方程式系を用いるステップと、方程式系を使用して平衡結果を決定するステップと、平衡結果を参照して関連付けの記録から、ハイブリッド回路の入力ノードと出力ノードとの分離をもたらす第3のインピーダンス設定値を検索するステップとを含む方法が提供される。
【0049】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第3の態様に関して上述した方法を実行するように構成されたコンピュータプログラムコード要素が提供される。コンピュータプログラムコード要素は、コンピュータ可読媒体上に具体化されてもよい。
【0050】
したがって、ハイブリッドジャンクションがその入力ノードと出力ノードとの分離を改善することを可能にする、信号を二重化するための装置、ワイヤレス通信デバイス、および信号を二重化する方法を提供することが可能である。可変平衡インピーダンスの制御設定値とキャリブレーション測定値とを関係付けることによって、本装置、本デバイス、および本方法は、可変インピーダンスの制御設定値と、この設定値から帰結する実際のインピーダンス値との不正確なまたは未知の関係を克服することができる。本装置、本デバイス、および本方法のさらなる最適化は、製造中のキャリブレーション速度を改善し、キャリブレーションデータを記憶するためのメモリ要求を低減するだけでなく、ハイブリッドジャンクションの平衡が達成された後でハイブリッドジャンクションの入力ノードと出力ノードとの分離を維持するためにデバイスのアクティブモード中にアンテナインピーダンスの小さな変化を追跡する能力を提供する。
【0051】
次に、添付の図面を参照して、ほんの一例として、本発明の少なくとも1つの実施形態について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】本発明の一実施形態を構成する二重化装置を備えるデバイスの概略図である。
図2】本発明の別の実施形態を構成する、図1の二重化装置のキャリブレーションのフロー図である。
図3】本発明のさらなる実施形態を構成する、図1の二重化装置における二重化方法のフロー図である。
図4】本発明のさらに別の実施形態を構成する、図1の二重化装置における別の二重化方法のフロー図である。
図5図4の反復アルゴリズムのより詳細なフロー図である。
図6】本発明の別の実施形態を構成する、以下の図7の装置によって修正された、図1の二重化装置におけるさらなる二重化方法のフロー図である。
図7図6のさらなる方法に関して使用される図1の二重化装置の追加部分である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下の説明を通して、同じ部分を識別するために同じ参照番号が使用される。本明細書における「ポート」への言及はまた「ノード」に言及していると理解されるべきであり、その逆もまた同様である。
【0054】
図1を参照すると、二重化装置を用いるワイヤレス通信デバイス100は、伝送路102を備え、伝送路102は、第1のデータバス105を介してデジタルアナログ変換器(DAC:Digital-to-Analogue converter)106に結合されたベースバンドプロセッサ104を備える。DAC106は、同相(I:in-phase)成分出力および直交(Q:quadrature)成分出力を有し、これらは両方とも第1のミキサ108の対応する入力に結合されている。第1のミキサ108の出力は、電力増幅器110の入力に結合されており、電力増幅器110の出力は、ハイブリッド回路114またはハイブリッドジャンクションの送信ポート112に結合されている。ハイブリッド回路114の受信ポート116は、低雑音増幅器118の入力に結合されている。低雑音増幅器118の出力は、受信機チェーンの他の下流の構成要素に結合される。残りの受信機チェーンのこれらの構成要素は、当業者によって容易に理解され、本明細書で述べられる例の理解には関係がないため、これらについて本明細書ではさらに詳細に説明しない。
【0055】
低雑音増幅器118の出力に結合された入力を有する第2のミキサ120を備えるフィードバック経路が設けられている。第2のミキサ120の同相成分出力および直交成分出力は、それぞれ、フィードバック経路の一部である第1のローパスフィルタ122および第2のローパスフィルタ124に結合されており、第1のローパスフィルタ122および第2のローパスフィルタ124は、アナログデジタル変換器(ADC:Analogue-to-Digital converter)126の、それぞれの入力に結合されている。同様にフィードバック経路の一部である、ADC126の出力は、第2のデータバス127を介して、プロセッサ128(例えば、マイクロプロセッサ)の第1の入力に結合されており、プロセッサ128の第1の出力は、ベースバンドプロセッサ104の入力に動作可能に結合されている。プロセッサ128の第2の入力は、第1のデータバス105に結合されている。
【0056】
プロセッサ128の第2の出力は、可変インピーダンス130の制御入力に結合されており、可変インピーダンス130は、ハイブリッド回路114の平衡ポート132に結合されている。プロセッサ128の第3の出力は、局部発振器134の入力に結合されており、局部発振器134の第1の出力は、第1のミキサ108に結合されており、局部発振器134の第2の出力は、第2のミキサ120に結合されている。プロセッサ128は、データ記憶装置を構成するメモリ136にも結合されている。この例では、メモリは、参照情報、例えばルックアップテーブル138を記憶する。
【0057】
アンテナ140は、ハイブリッド回路114のアンテナポート142に結合されている。
【0058】
動作中、プロセッサ128は、デバイス100を全体的に制御する。実際、プロセッサ128は、この例ではコントローラとして機能する処理リソースを構成する。プロセッサ128は、以下でより詳細に説明される方法で二重化動作を特に制御する。
【0059】
ベースバンドプロセッサ104は、プロセッサ128と通信する。プロセッサ128および/またはベースバンドプロセッサは、メモリ136にアクセスすることができ、メモリ136は、ワイヤレスデバイス100によって送信されるべき情報も記憶する。
【0060】
ベースバンドプロセッサ104は、デバイス100によって送信されるべき1つ以上の出力信号を生成する。この例では、上で示唆したように、これらの信号は、デジタルであり、直交(Q)成分および同相(I)成分として表される。当業者は、代替の変調方式が可能であることを理解するであろう。
【0061】
ベースバンドプロセッサ104から出力された信号は、DAC106に入力され、アナログ領域に変換される。ベースバンドプロセッサ104から出力された信号はまた、必要なフィードバックを提供するためにプロセッサ128に入力され得る。アナログ信号は、プロセッサ128の制御下で局部発振器134によって生成された無線周波数信号と混合することによってミキサ108で無線周波数にアップコンバートされ、ハイブリッド回路114およびアンテナ140を介した送信の前に増幅するために電力増幅器110に入力される。
【0062】
低雑音増幅器118が存在する、デバイス100の受信経路144は、アンテナ140によって受信されハイブリッド回路114を経由した信号を処理する。フィードバック経路は、ハイブリッド回路114の二重化動作のキャリブレーションおよびハイブリッド回路114の平衡化を目的として設けられている。この例では、受信信号は、フィードバック経路へタップされ、また後続の処理のために残りの受信経路144へ出力される。フィードバック経路において、受信信号は、低雑音増幅器118から第2のミキサ120に印加され、局部発振器134からの無線周波数信号に印加され、ベースバンドに対してダウンコンバートされる。別の実施形態では、第2のミキサ120は、例えば、低雑音増幅器118の前で出力ポート116に直接結合され、これによりハイブリッド回路114から信号を直接受信してもよい。一方、この例では、受信信号は、第2のミキサ120によってI成分とQ成分に復調されるが、当業者には代替の復調方式は明らかであろう。IおよびQの受信信号が、それぞれローパスフィルタ122、124に入力され、さらにADC126に入力されることで、デジタル出力信号が得られる。次に、デジタル出力信号は、ハイブリッド回路114によって実現される分離を制御するために、以下で説明される方法で処理するためにプロセッサ128に提供される。
【0063】
これに関して、プロセッサ128は、以下の原理に基づいて、ハイブリッド回路114の出力ポート116と入力ポート112との分離を最大にしようとする平衡アルゴリズムを実施する。
【0064】
ハイブリッド回路114の入力ポート112と出力ポート116との間の伝達関数は、以下の式を使用して表すことができる。
【数2】
【0065】
ただし、Gは送受信利得、Γはアンテナ140の反射係数、Γは平衡インピーダンス130の反射係数、ωは周波数、Xは平衡インピーダンス130を調節するための制御パラメータである。一部の実施形態では、Xは、複数の調整可能回路要素に由来する複数の調整次元を表す多次元変数、例えばベクトルである。
【0066】
以前の解決策では、分離の最大化は、以下の線形連立方程式を解くことによって達成されていた。
(ω,X)=P(ω)+Q(ω)Γ(ω,X)(2)
(ω,X)=P(ω)+Q(ω)Γ(ω,X)(3)
【0067】
ただし、G(ω,X)は、制御値Xから得られる、平衡反射係数Γ(ω,X)に関して測定される第1の送受信利得であり、G(ω,X)は、制御値Xから得られる、平衡反射係数Γ(ω,X)に関して測定される第2の送受信利得である。これらの式は、適切な代入を伴う上記の式(1)の以下の書き換えに基づく。
G(ω,X)=P(ω)+Q(ω)Γ(ω,X)(4)
【0068】
ただし、G(ω,X)は送受信利得、Γ(ω,X)は平衡反射係数である。P(ω)は、アンテナ140との不完全な整合のために信号がハイブリッド回路114のアンテナノード142で反射される結合経路を含む部分の送受信利得である。完全に整合したアンテナの場合、アンテナ反射係数はゼロであり、したがってP(ω)もゼロである。Q(ω)Γ(ω,X)は、信号がハイブリッド回路114の平衡ノード132で反射される結合経路を含む部分の送受信利得である。Q(ω)はハイブリッド回路114の特性に依存し、上で定義したように、Γ(ω,X)は、制御値Xを通して可変平衡インピーダンス130によって制御される平衡ポート132における反射係数である。
【0069】
式(2)および(3)を代数的に解いて、ハイブリッド回路114の入力ポート112と出力ポート116との分離を最大にする平衡反射係数の式を得ることができることが知られている。
【数3】
【0070】
ただし、ΓBSは、分離を最大にする反射係数値である。したがって、上記で計算されるような反射係数を得るために平衡インピーダンスを設定することにより、デュプレクサは平衡化される。
【0071】
しかしながら、実際には、可変インピーダンス130によって提供される実際の平衡インピーダンスと、可変インピーダンス130の制御入力を設定することによって設定される、設計パラメータからしか分からない所望の平衡インピーダンスとの間には差がある。上記の例を参照すると、式(5)は、分離を最大にする値ΓBSを与える。しかしながら、前述の製造上の不完全性のために、平衡反射係数ΓBSを得るための可変インピーダンスの設定値である、XBSと表され得る必要な制御設定値は正確には分からない。したがって、所望の値ΓBSは分かっているものの、装置は、この値を達成するために正しい設定値を適用することができず、この結果、ハイブリッド回路114の最適な平衡化が妨げられている。さらに、Γ(ω,X)およびΓ(ω,X)は、式(5)への入力である。しかしながら、上で言及したのと同じ製造上の不完全性のために、Γ(ω,X)およびΓ(ω,X)に与えられる値は、その所望の値とは異なり得る。これは、ΓBSの計算値に誤差をもたらし、したがって同様に、最適な平衡化を妨げ得る。
【0072】
これらの欠点は、平衡インピーダンスの制御値と、平衡アルゴリズムによって使用されるキャリブレーション測定値とを関連付けるキャリブレーションプロセスによって解決される。これの動作は以下の通りである。数学的な議論のために、Γ(ω,X)の一次関数である関数C(ω,X)が導入され、以下のように定義される。
C(ω,X)=Δ(ω)Γ(ω,X)+δ(ω)(6)
【0073】
式(6)をΓ(ω,X)について整理し、上記の式(2)および(3)に代入することによって、以下の式が得られる。
【数4】
【数5】
【0074】
以下のさらなる置換式を用いることができる。
【数6】
【数7】
【0075】
これらの式を式(7)と(8)に代入して連立方程式を得ることができる。
(ω,X)=P’(ω)+Q’(ω)C(ω,X)(11)
(ω,X)=P’(ω)+Q’(ω)C(ω,X)(12)
【0076】
これは依然として線形方程式系であるため、式(2)および(3)の場合と同様に、ハイブリッド回路114を平衡化するために連立方程式(11)および(12)を解くことができる。一次式(6)は、要素δ(ω)およびΔ(ω)を知る必要なしにハイブリッド回路114を平衡化するために解かれる線形方程式系に有効に組み込まれ、単に値C(ω,X)およびC(ω,X)が分かれば十分であり、これらの値とΓB2(ω,X)およびΓ(ω,X)のそれぞれとの関係を知る必要はない。
【0077】
しかしながら、当業者ならば、式(11)および(12)の系がC(ω,X)の関数であり、したがって、(2)および(3)に関して上で説明したのと同様にこの方程式系を利用することにより、(Γ(ω)に関する式とは対照的に)C(ω)に関する式が得られることを認めるである。したがって、式(5)は、以下のように書き換えることができる。
【数8】
【0078】
式(13)は、明示的または暗黙的に1つ以上の式を含むことができる方程式系を構成する。当業者であれば、この計算が式(5)に示したものと同じ計算であるが、写像が式(6)によって与えられる写像空間において行われることを理解するであろう。この式を使用して可変インピーダンス130の設定値(X値)を決定するためには、可変インピーダンス130の設定値と平衡反射係数の一次関数との対応関係に関する情報を記憶する必要がある。上記の例を参照すると、この対応関係はXとC(ω,X)との間のものである。
【0079】
これは、2つの理由で必要とされる。第1に、制御値XおよびXと、式(13)への入力である値C(ω,X)およびC(ω,X)とを関連付けるためであり、第2に、計算値CBS(ω)と、XBSと表され得る対応する制御値とを関連付けるためである。この制御値は、可変平衡インピーダンス130に適用されたときにハイブリッド回路114の送受信分離を最大にするものである。
【0080】
この例では、図2を参照すると、ワイヤレスデバイス100の生産中に、アンテナインピーダンスは一定の値に維持され、なお、これは、インピーダンスがキャリブレーションプロセスを通して一貫して適用されるならば任意のインピーダンスであってもよく、次に、キャリブレーション値または測定値、例えば送受信利得値が、可変インピーダンス130の制御入力の各設定値に関して測定され得る。したがって、ルックアップテーブル138は、デバイス100の製造プロセスの一部として編集される。これに関して、アンテナインピーダンスは所定のインピーダンスに設定され、所定のインピーダンスはキャリブレーションプロセスを通して維持される。
【0081】
次にプロセッサ128は、可変インピーダンス130を第1の設定値に設定し(ステップ200)、次に試験信号、例えばパイロット信号が、送信され、ハイブリッド回路114の入力ポート112と出力ポート116との間の漏洩の結果としてフィードバック経路を介して受信される。フィードバック経路を介して測定された複素送信信号および複素受信信号は、メモリ136から読み出され、関連する送受信利得が計算される(ステップ202)、すなわち複素自己干渉チャネルが測定される。次に、インピーダンス制御設定値および関連する送受信利得値が、ルックアップテーブル138に記憶される(ステップ204)。次に、プロセッサ128は、可変インピーダンス130の各設定値に関して送受信利得値を決定するために可変インピーダンス130のさらなる設定値を設定する必要があるかどうかを確定する(ステップ206)。この点に関して、可変インピーダンス130は、可変インピーダンスが設定され得るすべての可能なインピーダンスを網羅する複数のインピーダンス設定値を構成する、選択可能な設定値のセットを含む。この例では、可変インピーダンスのすべての設定値が設定されておらず、関連する送受信利得が決定されていない場合、プロセッサ128は、まだ設定されていない、可変インピーダンス130のインピーダンス設定値にわたって繰り返し、対応する測定を行い続ける(ステップ200~206)。すべてのインピーダンス設定値が設定され、それらに関連する送受信利得が決定されたと判定されると(ステップ206)、プロセッサ128は、キャリブレーションプロセスが完了したため、キャリブレーションプロセスを終了する。
【0082】
キャリブレーションプロセスの結果として、ルックアップテーブル138は、可変インピーダンス130のデジタル設定値と、関連する送受信利得値とを含む。ルックアップテーブル138は、ハイブリッド回路114の入力ポート112と出力ポート116との分離を最大にすることになる可変インピーダンスを決定するために、以下のように、上記の式(13)と共に使用される。この式は、第1の測定信号、第2の測定信号、第1のインピーダンス設定値に関するルックアップテーブル138からの第1の送受信利得、および第2のインピーダンス設定値に関するルックアップテーブル138からの第2の送受信利得を関連付ける方程式系を構成する。この方程式系はまた、第1の送受信利得および第2の送受信利得を測定するために送信された信号を有効に関連付ける。
【0083】
この実施形態では、キャリブレーションプロセスによって測定され記憶されるキャリブレーション値は、複素送受信利得値である。しかしながら、他の実施形態では、キャリブレーション値は、処理された送受信利得、または一定の送信信号値に関して受信された受信信号値、または他の方法で処理された受信信号値であってもよい。当業者は、キャリブレーション値は上で示したように平衡反射係数値の一定の一次関数であることだけを必要とするので、この基準を満たす多数のパラメータ、例えば、一定の値で乗算または除算される送受信利得値が存在することを理解するはずである。
【0084】
図3を参照すると、デバイス100のサポート動作の一部として、プロセッサ128は、入力ポート112と出力ポート116とを分離するためにハイブリッド回路114を制御する。
【0085】
プロセッサ128は、特定の第1のインピーダンス設定値Xをとるように可変インピーダンス130を制御する(ステップ300)。Zで表される対応するインピーダンスは、例えば、約50オームとすることができるが、この方法がインピーダンス設定値に関して機能するため、インピーダンスは任意に設定することができ、実際、この値は重要ではないことを理解されたい。プロセッサ128はまた、信号がアンテナ140を介して第1の目的周波数帯域内の第1の送信周波数ωで送信されるような周波数で発振するように局部発振器134を制御する。目的周波数帯域は、例えば送信帯域とすることができる。
【0086】
次に、信号が、電力増幅器110、ハイブリッド回路114、およびアンテナ140を介して周波数ωで送信される。これが行われると、第1の受信周波数で(ハイブリッド回路114による不完全な分離のために)受信ノード116で発生する信号が、上で説明したフィードバック経路を使用して測定される(ステップ302)。第1の測定信号は、例えばメモリ136に記憶される。受信信号の測定は、例えば受信帯域とすることができる第2の目的周波数帯域にわたって行われる。第1の送信周波数と第1の受信周波数は同じであっても異なってもよい。第1の目的周波数帯域および第2の目的周波数帯域は、完全に異なってもよい(つまり、これらはまったく重ならなくてもよい)し、部分的に重なってもよい。一実施形態では、第1の目的周波数帯域および第2の目的周波数帯域は、完全に重なってもよい(つまり、一方の帯域が他方の帯域に完全に含まれてもよい)し、同一であってもよい。後者の場合、デバイス100は、「帯域内全二重」モードで動作すると説明され得る。
【0087】
第1の測定信号が記憶された後、プロセッサ128は、可変インピーダンス130を、第2のインピーダンスZに対応する第2の異なる既知のインピーダンス設定値Xに変更し(ステップ304)、ベースバンドプロセッサ104に別の信号を生成するように命令する。プロセッサ128は、第1の目的周波数帯域内の第2の送信周波数で発振するように局部発振器134を制御する。受信ノード116で発生する第2の信号は、上で説明したフィードバック経路を使用して、第2の目的周波数帯域内の第2の受信周波数で測定される(ステップ306)。第2の測定信号は、例えばメモリ136に記憶される。
【0088】
第1のインピーダンス設定値Xおよび第2のインピーダンス設定値Xに関して測定が行われて記憶されると(ステップ300~306)、プロセッサ128は、メモリ136にアクセスし、使用された第1のインピーダンス設定値Xおよび第2のインピーダンス設定値Xに関して送受信利得値をルックアップする。その後、測定され記憶された第1の受信信号および第2の受信信号ならびに検索されルックアップされた送受信利得値を使用して、プロセッサ128は、第1の送信信号データおよび第2の送信信号データならびに測定された第1の受信信号および第2の受信信号を使用して第1の送受信利得および第2の送受信利得を計算し、ハイブリッド回路114の入力ポート112および出力ポート116の最大の分離に対応する第3の利得を構成する平衡結果、例えば計算利得値を得るために式(13)の値を求める(ステップ308)。次に、プロセッサ128は、計算利得値を使用して計算利得値を逆ルックアップして(ステップ310)、計算利得値に最も近い対応する送受信利得を有する、ルックアップテーブル138内の第3のインピーダンス設定値を特定する(ステップ312)。次に、特定されたインピーダンス設定値が検索され、プロセッサ128は、可変インピーダンス130の制御入力を検索された設定値に設定し(ステップ314)、これにより、ハイブリッド回路114の入力ノード112と出力ノード116との分離は最大になる。したがって、可変インピーダンス130は、検索された第1の利得および第2の利得ならびに第1の測定された利得および第2の測定された利得に応じて制御される。この第3のインピーダンスの設定は、例えばデバイス100がアクティブ状態/モードにある間に定期的に実行され得る。
【0089】
この実施形態では、上記のG(ω,X)およびG(ω,X)で表される、平衡式(13)で使用される測定値は、送受信利得値である。しかしながら、当業者であれば、使用され得る代替の測定値が存在することを理解するであろう。例えば、測定された利得値が、例えば、一定の量で乗算または除算される場合、式(13)の値は変わらない。したがって、例えば、処理された利得値、または一定の送信信号値に関して受信された受信信号値、または他の方法で処理された受信信号値を使用して、平衡式に他の測定値を使用する他の実施形態が存在する。当業者ならば、式で使用される測定値が送受信利得に線形に比例するだけでよく、この基準を満たし得る多くのパラメータが存在することを認めるであろう。
【0090】
この例では、インピーダンス制御は、離散的であり、有限数のインピーダンス制御状態を有する。別の実施形態では、インピーダンス制御は連続的であってもよい。当業者ならば、連続インピーダンス制御の場合、例えば連続制御領域内の離散インピーダンス制御点のセットでキャリブレーション測定を行うなど、キャリブレーションプロセスに他の可能性が存在することを理解するであろう。
【0091】
この例では、関連付けの記録は、インピーダンス設定値とキャリブレーション値または測定値との関連付けの離散セットである。他の実施形態では、関連付けの記録は、代替的に、インピーダンス設定値とキャリブレーション値とを関係付けるように機能する式、または区分関数(piecewise function)、または他の方法を含んでもよい。
【0092】
別の実施形態(図4)では、可変インピーダンス130は、可能な設定値のセットを有し、可能なインピーダンス設定値のセットの一部、例えば可能な設定値のサブセットが、上で説明したキャリブレーションプロセス(ステップ200~206)の実行のために選択される。可能な設定値のサブセットは、複数の設定値を構成することができる。この例では、可能なインピーダンス設定値のサブセットは、約100のインピーダンス設定値と約1000のインピーダンス設定値との間にある。これに関して、可変インピーダンス130に対して設定され得るすべての可能なインピーダンス設定値にわたって繰り返す代わりに、プロセッサ128は、インピーダンス設定値のサブセットに関して図2の方法を実施する。この結果、メモリ136に記憶されるルックアップテーブル138が含む、一定のアンテナインピーダンスを使用してインピーダンス設定値とそれぞれの測定された送受信利得とを関連付けるエントリの数が減少し、このため、キャリブレーションプロセスは粗いキャリブレーションを構成することになる。
【0093】
したがって、可変インピーダンス130の実質的にすべてのインピーダンス設定値を使用して生成されたルックアップテーブルと比較して粗い品質のルックアップテーブル138の場合、プロセッサ128は、ハイブリッドジャンクション114の入力ノード112と出力ノード116との間の最適な分離を達成するために粗い品質のルックアップテーブル138を補償する必要がある。
【0094】
プロセッサ128は、デバイス100がアイドルモードにあるかどうかを判定する(ステップ400)。デバイスがアイドルモードにない場合、プロセッサ128は、粗い性質のルックアップテーブル138を前提として、第3のインピーダンス設定値を構成する平衡インピーダンス設定値の粗い推定値を得るために、平衡方法(図3:ステップ300~314)を実施する。その後、プロセッサ128は、例えば、式(13)の値を求め、ルックアップテーブル138を使用して逆ルックアップを実行した結果として決定された粗い第3のインピーダンス設定値と比較して改善された平衡インピーダンス設定値を探索するために反復アルゴリズムを開始する(ステップ402)。この例では、反復アルゴリズムは、第3のインピーダンス設定値に関して直線探索、すなわち反復線形変更を実行することを含む。第3のインピーダンス設定値は、第3のインピーダンス設定値を改善するために探索アルゴリズムに従って変更され、これにより、ハイブリッドジャンクション114の入力ノード112と出力ノード116との分離が改善される。
【0095】
この点に関して、図5を参照すると、第3の粗いインピーダンス設定値が上で言及したように決定され(ステップ500)、探索の方向が正に設定される(ステップ502)。次に、プロセッサ128は、粗い第3のインピーダンス設定値を、設定された方向における隣の設定値(neighbouring setting)に修正する(ステップ504)ことによって、決定された粗い第3のインピーダンス設定値を改良するために反復アルゴリズムを実行し続ける。次に、プロセッサ128は送受信利得を測定し(ステップ506)、続いて、使用されたインピーダンス設定値がハイブリッドジャンクション114の入力ノード112と出力ノード116との分離を改善したかどうかが判定される(ステップ508)。結果として分離が改善された場合、アルゴリズムは、選択方向においてインピーダンス設定値を調節し続けるために繰り返される(ステップ504から508)。インピーダンス設定値の変更が結果としてハイブリッドジャンクション114の入力ノード112と出力ノード116との分離を改善しなかった場合、プロセッサ128は、探索の方向を変更し(ステップ510)、次に、新しい方向の2つの連続した隣の設定値によって可変インピーダンス130のインピーダンス設定値を調節する(ステップ512)。その後、プロセッサ128は、可変インピーダンス130の変更されたインピーダンス設定値から帰結する送受信利得を測定して(ステップ506)、分離が改善されたかどうかを判定する(ステップ508)。図4を再び参照すると、上記の反復ループは、インピーダンス設定値の調節がもはや必要なくなる(ステップ406)(例えば、デバイス100がアクティブモードにあることを中止するとき)まで継続される(ステップ404)。
【0096】
上で説明した例を参照すれば、当業者は、説明を簡潔かつ明瞭にするために一次元の探索が説明されているが、探索はより多くの次元(例えば、抵抗および静電容量の設定値などの2つ以上の次元)に関して実行され得ることを理解するはずである。例えば、別の実施形態では、調整可能インピーダンス130は、複数の調整可能回路要素を備える。このような実施形態では、反復最適化は多次元的であってもよい。この多次元最適化は、例えば、各回路要素に順次適用される図5のステップを含むことができるし、例えば、各回路要素に同時に適用される図5のステップを含むことができる。
【0097】
当業者ならば、図5に関して上で説明したステップの代替として用いられ得る多くの周知の反復最適化方法が存在することを理解するであろう。さらに、当業者ならば、反復最適化の代替としてまたはその準備ステップとして、インピーダンス設定値とキャリブレーション測定値との関連付けの粗い記録に関して任意の適切な補間技術を用いることができることも理解するであろう。
【0098】
さらなる実施形態(図6)では、上で説明した粗いルックアップテーブルを使用するときに、反復設定調節アルゴリズムの使用と共に能動的除去技術(active cancellation technique)を実施することができる。言うまでもなく、粗いキャリブレーションの代わりに、反復設定調節アルゴリズムを用いずに、より高い分解能のキャリブレーションを用いることができることを理解されたい。いずれにしても、この例では、生産ラインに基づく粗い自己キャリブレーションが、すでに上で説明した方法で実行される(ステップ200~206)。同様に、すでに上で説明したように、プロセッサ128は、デバイス100がアイドルモードにあるかどうかを判定し(ステップ400)、デバイス100がアイドルモードにない場合、プロセッサ128は、粗い性質のルックアップテーブル138を前提として、第3のインピーダンスを構成する平衡インピーダンスの粗い推定値を得るために、平衡方法(ステップ300~314)を実施する。その後、プロセッサ128は、例えば、式(13)の値を求め、粗いルックアップテーブル138を使用して逆ルックアップを実行した結果として決定された粗い第3のインピーダンス設定値と比較して改善された平衡インピーダンスを探索するために、上で説明した反復アルゴリズムを開始する(ステップ402)。この例では、反復アルゴリズムは、第3のインピーダンス設定値に関して直線探索を実行することを含む。第3のインピーダンス設定値は、第3のインピーダンス設定値を改善するために探索アルゴリズムに従って変更され、これにより、ハイブリッドジャンクション114の入力ノード112と出力ノード116との必要な改善された分離が達成される(ステップ600)。その後、初期等化器推定値を得るために、ゼロフォーシング除去アルゴリズム(zero forcing cancellation algorithm)が実施される(ステップ602)。次に、この詳細について説明する。
【0099】
この例では、図7を参照すると、伝送路102に加えて、デバイス100は、補助伝送路700を備える能動的除去サブシステムを備える。LTE通信システムに対して指定されたシングルキャリア周波数分割多元接続波形に関して、図1のベースバンドプロセッサ104は、波形発生器704に動作可能に結合されたデータマッパ702(図7)をサポートする。波形発生器704は、デジタルフーリエ変換ユニット706に動作可能に結合されており、デジタルフーリエ変換ユニット706は、M点デジタル変換ユニットである。サブキャリアマッピングユニット708は、デジタルフーリエ変換ユニット706およびN点逆高速フーリエ変換ユニット710に動作可能に結合されており、なお、NはMよりも大きい。逆フーリエ変換ユニット710は、アップコンバータ712に動作可能に結合されており、アップコンバータ712は、電力増幅器110の入力に動作可能に結合された出力を有する。アップコンバータ712は、図1のDAC106およびミキサ108を備える。
【0100】
この例では、伝送路102の信号は、使用時にコピーによってタップされる。この点に関して、タップ点714は、デジタルフーリエ変換ユニット706の出力に配置されており、デバイス100の補助伝送路700に結合されており、補助伝送路700は、送信機チェーン処理段ユニット、例えば、タップ点714に結合された入力と補助サブキャリアマッピングユニット718の入力に動作可能に結合された出力とを有する周波数領域等化器(FDE:Frequency Domain Equaliser)716(これに関して初期等化器推定値が上で言及されている)を備える。本明細書に述べられている例では、周波数領域等化器716の入力は、送信されるシンボル信号を表すM個のフーリエ成分のセットである。ハイブリッドジャンクション114の入力ノード112と出力ノード116との間の「漏洩チャネル」および平衡ノード132と出力ノード116との間の「除去チャネル」は、適応信号プロセッサ720によって推定される。これらのチャネル推定値は、FDE716に対する係数を決定するために使用される。FDE716は、周波数領域伝達関数を表す複素係数ベクトルとして、例えば、タップされた信号のフーリエ成分のM個の周波数の各々における周波数領域伝達関数の振幅および位相を符号化するM個の複素係数のセットとして実施され得る。周波数領域等化器716は、補助サブキャリアマッピングユニット718に入力され得るM個の修正フーリエ成分を生成するために、使用時に、タップされた信号の各フーリエ成分と上で言及した対応する複素FDE係数との逐次乗算(point-by-point multiplication)を実行するように機能する。
【0101】
補助サブキャリアマッピングユニット718の出力は、補助N点逆高速フーリエ変換ユニット722の入力に動作可能に結合されており、その出力は、補助アップコンバータ724の入力に動作可能に結合されている。補助アップコンバータ724の出力は、補助電力増幅器726の入力に動作可能に結合されている。補助電力増幅器726の出力は、可変インピーダンス整合ネットワーク130を介してハイブリッドジャンクション114の平衡ノード132に結合されている。この例では、係数プロセッサを構成する適応信号プロセッサ720は、周波数領域等化器716に動作可能に結合されており、これらは一緒に適応フィルタユニットとして機能する。適応信号プロセッサ720はまた、信号監視ユニット728の監視出力に動作可能に結合されている。局部発振器134は、アップコンバータ712、補助アップコンバータ724、および信号監視ユニット728に動作可能に結合されている。このアーキテクチャは、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる国際出願PCT/EP2015/052800号明細書に記載されているような能動的除去アーキテクチャである。能動的除去を実現するために他のアーキテクチャを実施することもでき、そのうちのいくつかも、国際出願PCT/EP2015/052800号明細書に記載されている。
【0102】
別の実施形態では、チャネル推定および等化信号処理は、代替的に、任意の適切な技術を使用して時間領域で実行されてもよい。
【0103】
動作中、補助伝送路700は、ハイブリッドジャンクション114の入力ノード112と出力ノード116との間でハイブリッドジャンクション114が漏洩した送信信号を除去するために分離信号を生成するように機能する。分離信号の生成の詳細は、この実施形態の理解にとって重要ではないので、説明を簡潔かつ明瞭にするために、国際出願PCT/EP2015/052800号明細書に見出すことができる詳細について本明細書では再現しない。
【0104】
図6を再び参照すると、上で言及したように初期等化器推定値(ステップ602)を得た後、適応信号プロセッサ720は、補助伝送路700と協働して、適応信号プロセッサ720が実施する能動的除去アルゴリズムを初期化し(ステップ604)、能動的除去アルゴリズムが、平衡ノード132に印加される分離信号を生成するために実行される(ステップ606)。デバイス100がアクティブモードにあると判定されている(ステップ608)間は、断続的に適応させるものではあるが、分離信号が生成される。
【0105】
実質的に同時に、例えば並行して、プロセッサ128は、デバイス100がアクティブモードにあると判定されている(ステップ612)間は、上で説明した反復平衡アルゴリズム(ステップ402、404、600)を実施する(ステップ610)。反復探索アルゴリズムと能動的除去アルゴリズムの二重実行は、ハイブリッドジャンクション114の入力ノード112と出力ノード116との最大の分離を維持するように機能する。
【0106】
上で述べた本発明の例示的な実施形態は例示であり、限定的ではないと考えられる。説明されている実施形態への様々な変更は、本発明の精神および範囲から逸脱することなくなされ得る。
【0107】
当業者は、上で説明した実施態様が、添付の特許請求の範囲内で考えられ得る様々な実施形態の単なる例であることを理解すべきである。実際、上記の説明を通して、ルックアップテーブル138および可変インピーダンス130の離散デジタル設定値を参照した。これに関して、当業者は、可変インピーダンスを、連続的に可変とすることができる、例えばアナログ可変インピーダンスとすることができることを理解すべきである。ルックアップテーブル138の代わりに、メモリ136は、代わりの種類の参照情報、例えば、可変インピーダンス130のインピーダンス設定値と、それぞれのインピーダンス設定値に関連する送受信利得との関係を表す式を含むことができる。代替的に、メモリ136は、送受信利得と可変インピーダンス130のそれぞれの連続制御入力とを関連付ける区分近似を記憶することができる。さらなる代替として、メモリ136は、送受信利得と可変インピーダンス130のそれぞれの連続制御設定値との離散的な複数の関連付けのルックアップテーブルまたは他の記録を実装することができる。
【0108】
本明細書で説明されているハイブリッドジャンクション114に関して、当業者は、任意の適切な構成を用いることできることを理解されたい。例えば、上記の実施形態では、変圧器ハイブリッドジャンクションについて説明した。別の実施形態では、直交ハイブリッドジャンクションが用いられているが、他の変形形態、例えば180°変圧器ハイブリッドジャンクションを使用することもできる。他の適切な種類のハイブリッドジャンクション、例えば導波路ハイブリッドジャンクションを用いることもできる。
【0109】
上記の実施形態のシステムおよび方法は、説明されている構造的構成要素およびユーザとのインタラクションに加えて、コンピュータシステム(特に、コンピュータハードウェアもしくはコンピュータソフトウェア)または専用に製造もしくは適合された集積回路で実施され得る。上記の実施形態の方法は、コンピュータプログラムとして、または、コンピュータもしくは他のプロセッサ上で実行されたときに上で説明した方法を実行するように構成されたコンピュータプログラムを保持するコンピュータプログラム製品もしくはコンピュータ可読媒体として提供され得る。
【0110】
「コンピュータ可読媒体」という用語は、コンピュータまたはコンピュータシステムによって直接読み取られ、アクセスされ得る媒体または複数の媒体を含むが、これに限定されない。媒体としては、フロッピーディスク、ハードディスク記憶媒体、および磁気テープなどの磁気記憶媒体と、光ディスクまたはCD-ROMなどの光記憶媒体と、RAM、ROM、およびフラッシュメモリを含むメモリなどの電気記憶媒体と、磁気/光記憶媒体などの上記のものの混合および組み合わせとを挙げることができるが、これらに限定されない。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7