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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20230313BHJP
【FI】
H01L21/304 645D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019045516
(22)【出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2020150098
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 佑太
(72)【発明者】
【氏名】田中 孝佳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 弘明
(72)【発明者】
【氏名】岩田 智巳
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-174967(JP,A)
【文献】特開2018-190895(JP,A)
【文献】特開2004-162124(JP,A)
【文献】特開2018-166183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン幅が50[nm]以下かつアスペクト比が3.5以上であるパターンを含む微細構造物が表面に形成された基板を保持する基板保持工程と、
前記基板の前記表面と処理空間を隔てて対向し前記基板の前記表面と平行に配置される紫外線照射器が前記基板の前記表面の全面に紫外線を照射する紫外線照射工程と
を備え、
前記紫外線照射工程の少なくとも一部の期間において、前記処理空間に気体を供給して、前記処理空間内の酸素濃度を、前記基板の接触角が最小値を含む0.6[vol%]以上かつ7.0[vol%]以下の濃度範囲内に調整する、基板処理方法。
【請求項2】
請求項に記載の基板処理方法であって、
前記気体として不活性ガスおよび酸素を前記処理空間に供給する、基板処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の基板処理方法であって、
前記処理空間に対して前記気体の流れの下流側に位置する酸素濃度センサによって検出された濃度値が前記濃度範囲内となるように、前記気体の流量を制御する、基板処理方法。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一つに記載の基板処理方法であって、
前記紫外線照射工程において、ピーク波長の異なる紫外線をそれぞれ複数の紫外線照射器から前記基板の前記表面に照射する、基板処理方法。
【請求項5】
基板を保持する基板保持部と、
前記基板の表面に対して処理空間を隔てて対向し前記基板の前記表面と平行に配置される紫外線照射器と、
前記処理空間に気体を供給する気体供給部と、
前記気体供給部に前記気体を供給させて、前記処理空間の酸素濃度が0.3[vol%]以上8.0[vol%]以下の濃度範囲となるように制御しつつ、前記紫外線照射器から前記基板の前記表面の全面に紫外線を照射させる制御部と
前記処理空間に対して、前記基板の直上の空間を避けて前記気体の流れの下流側に設けられた酸素濃度センサと
を備え
前記気体供給部は、前記気体として、不活性ガスを前記処理空間に供給し、
前記制御部は、前記酸素濃度センサによって検出された濃度値に基づいて、前記処理空間の酸素濃度が前記濃度範囲となるように、前記気体の流量を制御する、基板処理装置。
【請求項6】
請求項に記載の基板処理装置であって、
前記気体供給部は、前記気体として、不活性ガスおよび酸素を前記処理空間に供給する、基板処理装置。
【請求項7】
請求項5に記載の基板処理装置であって、
前記制御部には、前記濃度範囲内の目標値が予め設定されており、
前記制御部は、前記酸素濃度センサによって検出された前記濃度値が前記目標値より下回っているときに、前記気体供給部から前記処理空間に供給される前記気体の流量を低下させることにより、前記処理空間内の酸素濃度を増大させる、基板処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の基板処理装置であって、
前記制御部は、前記酸素濃度センサによって検出された前記濃度値が前記目標値を上回っているときに、前記気体供給部から前記処理空間に供給される前記気体の流量を増大させることにより、前記処理空間内の酸素濃度を低下させる、基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、基板処理方法および基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体基板(以下、単に「基板」という。)の製造工程では、基板処理装置を用いて基板に対して様々な処理が行われる。例えば、表面上にレジストのパターンが形成された基板に薬液を供給することにより、基板の表面に対してエッチング処理(いわゆるウェットエッチング)が行われる。このエッチング処理の後には、基板に純水を供給して表面の薬液を洗い流すリンス処理、および、表面の純水を除去する乾燥処理が行われる。
【0003】
多数の微細なパターン(以下、微細構造物とも呼ぶ)が基板の表面に形成されている場合に、リンス処理および乾燥処理を順に行うと、乾燥途上において、純水の表面張力が微細構造物に作用して、微細構造物が倒壊する可能性がある。この倒壊は微細構造物の幅が狭くアスペクト比が高いほど生じやすい。
【0004】
この倒壊を抑制すべく、微細構造物の表面を撥水化(疎水化)して撥水膜(有機物)を形成する撥水化処理が提案されている。この撥水化処理では、撥水剤としてシリル化剤が多く用いられており、シリル化剤による撥水効果を向上させるために、シリル化剤に活性剤を混合させることも行われている。
【0005】
その一方で、乾燥処理の後にはこの撥水膜は不要となる。よって従来では、有機物を除去する手法も提案されている(例えば特許文献1,2)。特許文献1,2では、有機物の除去装置として紫外線を照射する紫外線照射装置が用いられている。有機物が形成された基板の主面に紫外線を照射することにより、この紫外線が有機物に作用し、この有機物を分解して除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-204944号公報
【文献】特開2018-166183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機物の分解という観点では、光子のエネルギーが高い紫外線、つまり波長の短い紫外線を採用することが好ましい。光子のエネルギーが高いほど、より多くの種類の分子結合を切断することができ、有機物を速やかに分解できるからである。
【0008】
その一方で、基板上のパターンは微細化されている。つまり、微細構造物の幅は狭くなるとともに、微細構造物の相互間の隙間も狭くなっている。このように微細構造物の隙間が狭くなると、波長の短い紫外線ほど、この隙間に入り込みにくくなる。波長の短い紫外線は回折しにくいからである。このように紫外線が当該隙間に入り込みにくい場合には、当該隙間に存在する有機物へと紫外線が作用しにくい。これにより、有機物の除去が不十分になる。
【0009】
そこで本願は、基板の表面に形成される微細構造物の相互間の隙間においても、有機物を除去できる基板処理方法および基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
基板処理方法の第1の態様は、パターン幅が50[nm]以下かつアスペクト比が3.5以上であるパターンを含む微細構造物が表面に形成された基板を保持する基板保持工程と、前記基板の前記表面と処理空間を隔てて対向し前記基板の前記表面と平行に配置される紫外線照射器が前記基板の前記表面の全面に紫外線を照射する紫外線照射工程とを備え、前記紫外線照射工程の少なくとも一部の期間において、前記処理空間に気体を供給して、前記処理空間内の酸素濃度を、前記基板の接触角が最小値を含む0.6[vol%]以上かつ7.0[vol%]の濃度範囲内に調整する。
【0012】
基板処理方法の第の態様は、第の態様にかかる基板処理方法であって、前記気体として不活性ガスおよび酸素を前記処理空間に供給する。
【0013】
基板処理方法の第の態様は、第1または第2の態様にかかる基板処理方法であって、前記処理空間に対して前記気体の流れの下流側に位置する酸素濃度センサによって検出された濃度値が前記濃度範囲内となるように、前記気体の流量を制御する。
【0014】
基板処理方法の第の態様は、第1から第のいずれか一つの態様にかかる基板処理方法であって、前記紫外線照射工程において、ピーク波長の異なる紫外線をそれぞれ複数の紫外線照射器から前記基板の前記表面に照射する。
【0016】
基板処理装置の第1の態様は、基板を保持する基板保持部と、前記基板の表面に対して処理空間を隔てて対向し前記基板の前記表面と平行に配置される紫外線照射器と、前記処理空間に気体を供給する気体供給部と、前記気体供給部に前記気体を供給させて、前記処理空間の酸素濃度が0.3[vol%]以上8.0[vol%]以下の濃度範囲となるように制御しつつ、前記紫外線照射器から前記基板の前記表面の全面に紫外線を照射させる制御部と、前記処理空間に対して、前記基板の直上の空間を避けて前記気体の流れの下流側に設けられた酸素濃度センサとを備え、前記気体供給部は、前記気体として、不活性ガスを前記処理空間に供給し、前記制御部は、前記酸素濃度センサによって検出された濃度値に基づいて、前記処理空間の酸素濃度が前記濃度範囲となるように、前記気体の流量を制御する
【0017】
基板処理装置の第2の態様は、第1の態様にかかる基板処理装置であって、前記気体供給部は、前記気体として、不活性ガスおよび酸素を前記処理空間に供給する。
【0018】
基板処理装置の第3の態様は、第1の態様にかかる基板処理装置であって、前記制御部には、前記濃度範囲内の目標値が予め設定されており、前記制御部は、前記酸素濃度センサによって検出された前記濃度値が前記目標値より下回っているときに、前記気体供給部から前記処理空間に供給される前記気体の流量を低下させることにより、前記処理空間内の酸素濃度を増大させる
基板処理装置の第4の態様は、第3の態様にかかる基板処理装置であって、前記制御部は、前記酸素濃度センサによって検出された前記濃度値が前記目標値を上回っているときに、前記気体供給部から前記処理空間に供給される前記気体の流量を増大させることにより、前記処理空間内の酸素濃度を低下させる。
【発明の効果】
【0019】
基板処理方法の第1の態様、ならびに、基板処理装置の第1の態様によれば、基板の表面の近傍のオゾンの生成量を増大させることができる。基板の表面の近傍で生成したオゾンは微細構造物の相互間の隙間に進入しやすいので、当該隙間に存在する有機物を除去できる。
【0020】
基板処理方法の第の態様によれば、微細構造物の隙間の有機物をより適切に除去できる。
【0021】
基板処理方法の第の態様および基板処理装置の第2の態様によれば、処理空間の酸素濃度を速やかに変化させることができる。特に、酸素を供給することにより、処理空間の酸素濃度を速やかに増大させることができる。
【0022】
基板処理方法の第の態様および基板処理装置の第の態様によれば、酸素濃度センサが紫外線照射器による紫外線照射を阻害することなく、処理空間の酸素濃度をより確実に濃度範囲内に調整できる。
【0023】
基板処理方法の第の態様によれば、微細構造物の隙間のうちより広い領域で紫外線の強度が高まる。よって、当該隙間におけるオゾンの生成量を増大させることができる。したがって、当該隙間の有機物をより適切に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】基板処理装置の構成の一例を概略的に示す図である。
図2】基板処理装置の構成の一例を概略的に示す図である。
図3】紫外線の強度分布の一例を概略的に示す図である。
図4】接触角と酸素濃度との関係を示すグラフである。
図5】基板処理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図6】基板処理装置の構成の他の一例を概略的に示す図である。
図7】基板処理装置の電気的な構成の一例を概略的に示す図である。
図8】基板処理装置の構成の他の一例を概略的に示す図である。
図9】基板処理装置の構成の他の一例を概略的に示す図である。
図10】紫外線の強度分布の一例を概略的に示す図である。
図11】紫外線の強度の一例を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ実施の形態について詳細に説明する。図面には、各構成の位置関係の説明するために、Z方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系を適宜付している。また理解容易の目的で、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。また以下では、適宜に「+Z軸側」および「-Z軸側」という表現を導入する。「+Z軸側」はZ方向において上側を意味し、「-Z軸側」はZ方向において下側を意味する。
【0026】
第1の実施の形態.
<基板処理装置>
図1および図2は、基板処理装置10の構成の一例を概略的に示す図である。この基板処理装置10には、基板W1が搬入される。基板W1は半導体基板であって、その表面(主面)には複数の微細構造物(不図示)が形成されている。微細構造物とは、金属パターン、半導体パターンおよびレジストパターンなどのパターンである。よって、基板W1の主面は微細構造物による凹凸形状を呈している。
【0027】
この微細構造物は基板W1が基板処理装置10に搬入される前の工程で形成される。例えばレジストパターンが形成された基板W1に対して薬液を供給してエッチング処理を行うことで、基板W1の主面に金属などのパターンが形成される。このエッチング処理の後には、リンス処理、撥水化処理および乾燥処理が行われる。リンス処理は基板W1に対して純水を供給して薬液を洗い流す処理である。乾燥処理は例えば基板W1を水平面で回転させることにより、基板を乾燥させる処理である。この乾燥途上では、純水の表面張力に起因して微細構造物が倒壊し得る。この倒壊は微細構造物のアスペクト比(幅に対する高さの比)が高いほど生じやすく、例えばアスペクト比が3.5以上であると微細構造物は倒壊しやすい。ここでは、基板W1に形成された微細構造物のうち最も大きいアスペクト比は3.5以上であるとする。またここでは、基板W1に形成された微細構造物の相互間の間隔の最小値は例えば50[nm]以下である。以下では、微細構造物をパターンとも呼ぶ。
【0028】
この倒壊を抑制すべく、乾燥処理の前に撥水化処理が行われる。撥水化処理は撥水剤を含む処理液を基板W1の主面に供給してパターンの表面に撥水膜(有機物)を形成する処理である。これにより、パターンに作用する純水の表面張力を低下させることができ、乾燥処理におけるパターンの倒壊を抑制することができる。その一方で、このような撥水膜は半導体製品としては不要である。よって、乾燥処理の後にその除去が望まれる。
【0029】
また撥水化処理以外の処理でも基板W1の主面に有機物が形成または付着することがある。例えばIPA(イソプロピルアルコール)などの有機溶剤を基板W1の主面に供給すると、基板W1の主面上には有機物が残留し得る。有機溶剤を用いた処理後には、この有機物も除去が望まれる。
【0030】
基板処理装置10は、基板W1に対して有機物の除去処理を行う。よって、基板処理装置10は有機物除去装置である、といえる。図1に示すように、基板処理装置10は基板保持部1、紫外線照射器2、気体供給部4および制御部7を含んでいる。
【0031】
<基板保持部>
基板保持部1は、基板W1を保持する部材である。基板W1が半導体基板(すなわち半導体ウエハ)の場合、基板W1は略円形の平板状である。基板保持部1は、基板W1の厚み方向がZ方向に沿う水平姿勢で、基板W1を保持する。基板W1は、パターンが形成された主面を+Z軸側に向けて保持される。
【0032】
基板保持部1は略円板状のベース11を有しており、上面1aと側面1bと下面1cとを有している。上面1aは、基板W1と対面する面である。図1および図2の例では、上面1aには、一対の溝111が形成されている。一対の溝111には、外部の基板搬送ロボット(不図示)のハンドが挿入される。つまり、基板保持部1と外部の基板搬送ロボット(不図示)との間で基板W1を受け渡す際に、基板搬送ロボットのハンドが一対の溝111に入り込む。これにより、基板搬送ロボットのハンドが基板保持部1と衝突することを回避できる。側面1bは上面1aの周縁および下面1cの周縁を連結する。基板保持部1の上面1aの上には、基板W1が載置される。基板保持部1のベース11は例えばセラミック等で形成され得る。
【0033】
基板保持部1は、基板W1の中央部を通るZ軸に平行な回転軸線Q1の周りで基板W1を回転させてもよい。図1の例では、基板保持部1は回転機構12をさらに含んでいる。回転機構12はモータ(不図示)を含んでおり、回転軸線Q1の周りでベース11を回転させる。これによって、ベース11に保持された基板W1も回転軸線Q1の周りで回転する。
【0034】
<紫外線照射器>
紫外線照射器2は基板保持部1よりも+Z軸側に設けられており、処理空間H1(図2参照)を隔てて基板W1と対向する。紫外線照射器2は、基板保持部1によって保持された基板W1の主面へと紫外線を照射する。紫外線照射器2としては、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプおよびUV(ultraviolet)-LED(Light Emitting Diode)などの光源が採用される。図1および図2の例では、紫外線照射器2として複数の紫外線照射器2が設けられている。なお、紫外線照射器2は必ずしも複数設けられている必要はなく、一つのみ設けられてもよい。
【0035】
紫外線照射器2の形状は任意であるものの、例えば紫外線照射器2は点光源であってもよい。この場合、複数の紫外線照射器2は基板W1の主面に対して略均等に分散配置される。これにより、紫外線照射器2は基板W1の主面の全面へと紫外線をより均一に照射することができる。
【0036】
あるいは、紫外線照射器2は線光源であってもよい。この紫外線照射器2は長手方向に長い棒状の形状を有している。複数の紫外線照射器2はその長手方向がY方向に沿う姿勢で、X方向に沿って並んで配置される。あるいは、紫外線照射器2はリング状の形状を有していてもよい。複数の紫外線照射器2は同心円状に配置される。これらの紫外線照射器2も基板W1の主面の全面へと紫外線を照射する。
【0037】
あるいは、紫外線照射器2は面光源であってもよい。この場合、紫外線照射器2はXY平面に沿って広がっており、基板W1の主面に略平行に配置され得る。紫外線照射器2は平面視において(つまり、+Z軸側から見て)、基板W1を覆っていてもよい。これにより、紫外線照射器2は基板W1の全面に紫外線を照射できる。
【0038】
紫外線照射器2よりも-Z軸側(具体的には紫外線照射器2と基板W1との間)には、紫外線に対する透光性、耐熱性かつ耐食性を有する板状体として石英ガラス21が設けられている。この石英ガラス21は略水平に設けられて、紫外線照射器2とZ方向において対向している。石英ガラス21は基板処理装置10内の雰囲気に対して、紫外線照射器2を保護することができる。紫外線照射器2からの紫外線はこの石英ガラス21を透過して基板W1の主面へと照射される。
【0039】
紫外線照射器2は、回転機構12が基板W1の回転を回転させている状態で、基板W1の主面へと紫外線を照射する。これにより、基板W1の主面により均一に紫外線を照射することができる。
【0040】
<昇降機構>
図1および図2の例では、基板保持部1(より具体的にはベース11)はZ方向に沿って昇降可能に設けられている。具体的には、基板処理装置10には、昇降機構13が設けられている。昇降機構13は基板保持部1をZ方向に沿って移動させることができる。例えば昇降機構13は回転機構12を介してベース11の下面1cに取り付けられている。この昇降機構13は、基板保持部1が紫外線照射器2に近い第1位置(図2参照)と、基板保持部1が紫外線照射器2から遠い第2位置(図1参照)との間で、基板保持部1を往復移動させることができる。後に説明するように、第1位置は、紫外線を用いた処理を基板W1に対して行うときの基板保持部1の位置であり、第2位置は、基板W1の受け渡しを行うときの基板保持部1の位置である。第1位置における基板保持部1と紫外線照射器2との間の距離は、第2位置における基板保持部1と紫外線照射器2との間の距離よりも短い。昇降機構13には、例えばエアシリンダ、ボールねじ機構または一軸ステージなどを採用し得る。昇降機構13はベローズによって周囲が覆われていてもよい。
【0041】
<筒部材>
図1および図2の例では、基板処理装置10には、筒部材3が設けられている。筒部材3は内周面3a、外周面3b、上面3cおよび下面3dを有しており、筒状形状(例えば円筒形状)を有している。上面3cは、内周面3aと外周面3bとを連結する面であって、+Z軸側の面である。下面3dは、内周面3aと外周面3bとを連結する面であって、-Z軸側の面である。筒部材3の内周面3aの径は基板保持部1の側面1bの径よりも大きい。図2を参照して、筒部材3の内周面3aは、基板保持部1が第1位置で停止した状態において、基板保持部1の側面1bを囲んでいる。
【0042】
基板保持部1が第1位置で停止した状態(図2)において、紫外線照射器2が紫外線を照射する。これにより、紫外線を用いた処理が基板W1に対して行われる。その一方で、基板保持部1が第1位置で停止した状態では、基板W1の周囲が石英ガラス21、筒部材3および基板保持部1によって囲まれる。したがって、この状態では基板W1を基板保持部1から容易に取り出すことができない。
【0043】
そこで、昇降機構13は基板保持部1を第2位置に移動させる(図1)。これにより、基板保持部1は筒部材3の内周面3aの内部から、紫外線照射器2に対して遠ざかる方向に退く。この第2位置において、基板W1は筒部材3の下面3dに対して-Z軸側に位置する。よって、基板W1は筒部材3によって阻害されることなく、不図示の基板搬送ロボットによって基板処理装置10から搬出される。逆に、基板保持部1が第2位置で停止した状態で、基板搬送ロボットが基板W1を基板保持部1へ載置する。
【0044】
<有機物の除去>
上述のように、紫外線照射器2は、基板保持部1が第1位置に位置する状態で紫外線を照射する。この紫外線は、基板保持部1に保持された基板W1の主面に照射される。紫外線は光子のエネルギーが大きく、有機物の分子結合を切断できるので、基板W1の主面に形成された有機物(例えば撥水膜)を分解して除去できる。
【0045】
しかしながら、この紫外線は、基板W1の主面上に形成されたパターン間の隙間において-Z軸側には進入しにくい。図3は、基板W1の主面上の一つのパターンP1近傍の紫外線の強度分布を示すシミュレーション結果である。パターンP1は、本体部である矩形状のシリコンP11と、そのシリコンP11の表面に形成された酸化シリコン膜P12とによって形成されていると想定できる。図3の例では、紫外線の波長が172[nm]であり、パターンP1の高さ、幅およびパターンP1間の間隔がそれぞれ200[nm]、20[nm]および10[nm]であるときの、紫外線の強度分布が示されている。図3では、2つのパターンP1の近傍の紫外線の強度を示しているものの、実際のシミュレーションは、3以上のパターンP1が水平方向に同じ間隔(ピッチ)で並んで配置された構造について行われている。
【0046】
図3では、紫外線の強度が等高線C1~C6で示されている。等高線C1~C6は、その符号の末尾の数字が小さいほど、紫外線の強度が高いことを示している。つまり、等高線C1が最も強度の高い紫外線を示し、等高線C6が最も強度の低い紫外線を示している。図3の例では、等高線C1~C6によって区画される領域には、砂地のハッチングが付与されている。各領域に付与された砂地のハッチングは紫外線の強度が高いほど密となっている。
【0047】
図3に例示するように、紫外線の強度は-Z軸側に向かうにしたがって強弱を呈しつつも、全体としては-Z軸側に向かうにしたがって低下する傾向を有している。紫外線の強度が-Z軸側に向かうにしたがって低下するのは、紫外線が回折しにくいからである。また、紫外線の強度が強弱を呈するのは、パターン間に進入した紫外線が反射および干渉し合うからである。
【0048】
紫外線の強度が大きい領域では、紫外線は、パターンP1の側壁に形成された有機物に有効に作用して有機物を十分に除去することができる。一方で、紫外線の強度が小さい領域(例えば等高線C5,C6で示される領域)では、紫外線は、パターンP1の側壁に形成された有機物を十分に除去できない。以下では、パターンP1の側壁に形成された有機物をパターンP1間の有機物とも呼ぶ。
【0049】
そこで、本実施の形態では、オゾンによる有機物の分解機能を活用する。このオゾンは、紫外線が処理空間H1内の空気(酸素を含む)に照射されることで生成される。具体的には、紫外線(UV)が処理空間H1内の酸素分子(O)に照射されると、以下の式(1)に示す乖離反応により、酸素原子(O)が生成される。そして、以下の式(2)に示す酸素原子(O)、酸素分子(O)および周囲の気体(M)の三体反応により、オゾン(O)が生成される。
【0050】
+UV→O+O ・・・(1)
+O+M→O+M ・・・(2)
【0051】
このオゾンが基板W1の主面上の有機物に作用すれば、有機物を分解して除去することができる。オゾンを基板W1のパターンP1間の有機物に効果的に作用させるには、基板W1の主面の近傍においてオゾンを生成することが望ましい。なぜなら、基板W1の主面の近傍で生じたオゾンはパターンP1に近いので、パターンP1間に進入する可能性が高く、パターンP1間の有機物に作用しやすいからである。
【0052】
さて、式(1)から理解できるように、オゾンの生成量は酸素分子が多いほど、かつ、紫外線の強度が高いほど、多くなる。そこでまず、処理空間H1内の酸素分子の数を増大させることを考える。つまり、処理空間H1内の酸素濃度を増大させる。なおここでは、処理空間H1のZ方向における幅は数[mm]と狭いので、処理空間H1内の酸素濃度はほぼ均一であるとみなすことができる。
【0053】
一方で、基板W1の主面上の紫外線の強度は、処理空間H1内の酸素濃度が高いほど小さくなる。なぜなら、式(1)の乖離反応により紫外線は酸素分子に吸収されるからである。つまり、処理空間H1内の酸素濃度を増大させると、紫外線の多くは基板W1の主面に到達する前に酸素分子に吸収されてしまう。よって、基板W1の主面における紫外線の強度は低下する。
【0054】
以上のように、処理空間H1内の酸素濃度を増大させると、基板W1の主面の近傍の酸素濃度は増大する一方で、基板W1の主面上の紫外線の強度は低下する。よって、処理空間H1内の酸素濃度の増大により、基板W1の主面の近傍で生じるオゾンの生成量はかえって低下する場合がある。
【0055】
ここで、処理空間H1内の酸素濃度と、紫外線の照度と、オゾンの生成速度との関係について考慮する。式(1)の乖離反応による酸素原子の生成速度は紫外線の照度に比例すると考えられる。また、この酸素原子は反応性が高く、生成した酸素原子は式(2)の三体反応によって速やかに酸素分子と反応してオゾンになると考えられる。よって、紫外線の照射直前の酸素分子の分圧x0および酸素原子の分圧xを用いると、オゾンの生成速度vは以下の式で表すことができる。
【0056】
v=k1・(x-x0)・2x ・・・(3)
【0057】
k1は比例定数である。酸素原子の分圧xは紫外線の照度Iに比例すると考えられ、かつ、x/x0は1よりも十分に小さいので、式(3)を式(4)のように変形することができる。
【0058】
v=k2・x0・I ・・・(4)
【0059】
式(4)より、オゾンの生成速度vは酸素濃度と紫外線の照度との積に比例すると考えられる。
【0060】
下表は、処理空間H1内の酸素濃度を異ならせたときの、基板W1の主面上の紫外線の照度および基板W1の主面上で生じるオゾンの生成速度を示している。
【0061】
【表1】
【0062】
表1における酸素濃度および紫外線の照度は実験により得られた結果である。表1によれば、処理空間H1内の酸素濃度が20.1[vol%]であるときに、基板W1の主面上の紫外線の照度は4.7[mW/cm]である。酸素濃度は処理空間H1において均一であると考えることができるので、基板W1の主面上の酸素濃度も20.1[vol%]である。よって、このときに基板W1の主面上で生成されるオゾンの生成速度は、酸素濃度(20.1[vol%])と照度(4.7[mW/cm])との積に比例する。表1では、このときのオゾンの生成速度を1に規格化して示している。
【0063】
また、表1によれば、酸素濃度が4.4[vol%]であるときに、基板W1の主面上の紫外線の照度は23.1[mW/cm]となっている。つまり、酸素濃度を低下させることで、基板W1の主面上の紫外線の照度が増大することが分かる。しかも、このときに基板W1の主面上で生成されるオゾンの生成速度は1.08である。つまり、基板W1の主面上において生成されるオゾンの量は、処理空間H1内の酸素濃度が20.1[vol%]であるときに比べて、酸素濃度が4.4[vol%]であるときの方が大きいことが分かる。
【0064】
したがって、オゾンによる有機物の分解性能は、処理空間H1内の酸素濃度が20.1[vol%]であるときに比べて、酸素濃度が4.4[vol%]であるときの方が大きい。
【0065】
ただし、酸素濃度を4.4[vol%]よりもさらに低下させると、オゾンの元となる酸素分子の量がさらに低下するので、いずれ、オゾンの生成速度が1を下回ることになる。よって、オゾンによる分解性能は、いずれ、酸素濃度が20.1[vol%]であるときの分解性能よりも低下する。
【0066】
図4は、有機物の除去の程度と酸素濃度との関係を示すグラフである。図4では、有機物の除去の程度を示す指標として、基板W1に液体を塗布したときの当該液体の接触角を採用している。この接触角は、その値が小さいほど、有機物の除去の程度が大きいことを示す。図4は、基板処理装置10が基板W1の主面に対して所定の照射時間にわたって紫外線を照射したときの実験結果を示している。
【0067】
図4に例示するように、接触角の波形は下に凸の形状を有しており、最適な酸素濃度の範囲が存在することが分かる。図4の例では、基準線A1が示されている。この基準線A1は、主面に有機物を形成していない基板W1に対して液体を塗布したときの接触角を示している。よって、接触角がこの基準線A1以下となれば、紫外線の照射処理によって、基板W1の有機物を適切に除去できることとなる。図4のグラフから、処理空間H1内の酸素濃度が0.3[vol%]以上かつ8.0[vol%]以下となる範囲において、接触角は基準線A1以下となるので、酸素濃度がこの範囲内であれば、有機物を適切に除去できる。
【0068】
なお、酸素濃度が8.0[vol%]よりも高い範囲において有機物の除去の程度が低い理由は、次のように考察される。すなわち、酸素濃度が高ければ、紫外線の多くが基板W1の主面に到達する前に処理空間H1内の酸素分子に吸収され、基板W1の主面上の紫外線の強度が低下するからである。この紫外線の不足により、基板W1の主面の近傍で生成されるオゾンの生成速度はかえって低下し、オゾンによる有機物の分解性能が有効に発揮されない。
【0069】
一方で、酸素濃度が0.3[vol%]よりも低い範囲において有機物の除去の程度が低い理由は、次のように考察される。すなわち、酸素濃度が小さければ、処理空間H1内の酸素分子の量が少ないために、たとえ紫外線の強度が高くても、オゾンの生成量が少ないからである。よって、パターンP1間に進入するオゾンの量が少なく、有機物が除去しきれずに残留する。
【0070】
そこで、本実施の形態では、紫外線を照射する紫外線照射期間の少なくとも一部において、処理空間H1内の酸素濃度を所定の濃度範囲(0.3[vol%]以上かつ8.0[vol%]以下)に調整する。
【0071】
<気体供給部>
処理空間H1内の酸素濃度は気体供給部4によって調整される。この気体供給部4は紫外線照射器2と基板W1との間の処理空間H1へと気体を供給して、処理空間H1内の酸素濃度を所定の濃度範囲内に調整する。以下では、気体供給部4が供給する気体を調整用気体と呼ぶ。調整用気体としては、例えば不活性ガス(例えば窒素またはアルゴン)を採用することができる。
【0072】
図1および図2の例では、気体供給部4は、筒部材3に形成された貫通孔321,322を経由して調整用気体を処理空間H1に供給する。以下では、まず、この貫通孔321,322について述べる。貫通孔321,322は筒部材3を貫通して、石英ガラス21と基板W1との間の空間に連通している。図1および図2の例では、貫通孔321,322の一端は筒部材3の上面3cにおいて開口している。以下では、貫通孔321,322の一端を開口部(給気開口部)321a,322aとも呼ぶ。開口部321a,322aが形成された位置において、筒部材3の上面3cは空隙を介して石英ガラス21の周縁部と対向している。開口部321a,322aは処理空間H1に連通している。つまり、貫通孔321,322は処理空間H1と連通する。開口部321a,322aは、平面視において、内周面3aの中心軸を介して互いに向かい合う位置に形成されている。
【0073】
図1および図2の例では、気体供給部4は、配管41と、供給バルブ42と、気体供給源43とを含んでいる。配管41は、共通管411と、分岐管412,413とを含んでいる。分岐管412の一端は貫通孔321の他端321bに連結されており、分岐管412の他端は共通管411の一端に連結されている。共通管411の他端は気体供給源43に連結されている。分岐管413の一端は貫通孔322の他端322bに連結されており、分岐管413の他端は共通管411の一端に連結されている。気体供給源43は共通管411に調整用気体を供給する。この調整用気体は共通管411から分岐管412,413および貫通孔321,322を経由して、処理空間H1に供給される。
【0074】
供給バルブ42は共通管411の途中に設けられており、共通管411内の流路の開閉を切り替える。供給バルブ42は制御部7によって制御される。供給バルブ42は、処理空間H1への調整用気体の流量を調整できるバルブである。
【0075】
<密閉空間>
基板処理装置10は密閉空間を形成してもよい。図1および図2の例においては、天井部材52、筒部材3、隔壁5および床部51が互いに連結して密閉空間を形成している。天井部材52の下面の周縁部分は、+Z軸側(筒部材3側)に突起する突起形状を有している。逆に言えば、天井部材52の下面は、その中央部が-Z軸側に凹む凹形状を有している。この凹形状の内部には複数の紫外線照射器2および石英ガラス21が配置されている。石英ガラス21の側面は天井部材52の突起形状の内面に当接している。筒部材3の上面3cのうち外周側の部分は、天井部材52の突起形状にZ方向において連結されている。貫通孔321,322の開口部321a,322aは上面3cのうち内周側の部分に形成されており、石英ガラス21の下面とZ方向において空隙を介して対面する。隔壁5は筒部材3の下面3dと連結している。隔壁5はZ方向に延在して床部51に連結される。天井部材52、筒部材3、隔壁5および床部51によって形成される密閉空間には、複数の紫外線照射器2、石英ガラス21、基板保持部1および昇降機構13が収容される。
【0076】
<排気>
隔壁5には、排気用の貫通孔53が形成されている。この貫通孔53は排気部61に連結されている。排気部61は、貫通孔53に連結される配管611を含んでいる。基板処理装置10の内部の気体は配管611を経由して外部の排気部61へと排気される。
【0077】
<シャッタ>
隔壁5には、基板W1用の出入り口として機能するシャッタ(不図示)が設けられている。シャッタが開くことにより、基板処理装置10の内部と外部とが連通する。基板搬送ロボットは、この開いたシャッタを介して基板W1を基板処理装置10の内部に搬入したり、また基板W1を搬出することができる。
【0078】
<制御部>
制御部7は基板処理装置10を統括的に制御する。具体的には、制御部7は紫外線照射器2、回転機構12、昇降機構13、気体供給部4の供給バルブ42、シャッタおよび基板搬送ロボットを制御する。
【0079】
制御部7は電子回路であって、例えばデータ処理装置および記憶媒体を有していてもよい。データ処理装置は例えばCPU(Central Processor Unit)などの演算処理装置であってもよい。記憶部は非一時的な記憶媒体(例えばROM(Read Only Memory)またはハードディスク)および一時的な記憶媒体(例えばRAM(Random Access Memory))を有していてもよい。非一時的な記憶媒体には、例えば制御部7が実行する処理を規定するプログラムが記憶されていてもよい。処理装置がこのプログラムを実行することにより、制御部7が、プログラムに規定された処理を実行することができる。もちろん、制御部7が実行する処理の一部または全部がハードウェアによって実行されてもよい。
【0080】
この制御部7は、気体供給部4に調整用気体を供給させて、処理空間H1内の酸素濃度が0.3[vol%]以上8.0[vol%]以下の濃度範囲となるように制御しつつ、紫外線照射器2から基板W1の主面に紫外線を照射させる。以下、基板処理装置10の動作の一例について詳述する。
【0081】
<基板処理装置の動作>
図5は、基板処理装置10の動作の一例を示すフローチャートである。昇降機構13は初期的には、基板保持部1を第2位置で停止させている(図1)。またここでは一例として排気部61による排気は常時行われている。ステップS1(基板保持工程)にて、制御部7はシャッタを開いた上で、基板搬送ロボットを制御して基板W1を基板保持部1の上に配置し、その後シャッタを閉じる。この基板W1の+Z軸側の主面には、微細構造物が形成されており、その微細構造物の表面には有機物(例えば撥水膜)が存在している。基板保持部1はこの基板W1を保持する。
【0082】
次にステップS2にて、制御部7は例えば気体供給部4の供給バルブ42を制御して、調整用気体の供給を開始する。これにより、開口部321a,322aの各々から調整用気体が吐出され、処理空間H1内の空気の少なくとも一部が調整用気体によって処理空間H1の外部に押し出され、排気部61へと排気される。具体的には、処理空間H1の空気は筒部材3の内周面3aとベース11の側面1bとの間の空間を-Z軸側に流れて、貫通孔53から排気部61へと排気される。これにより、処理空間H1内の空気の少なくとも一部が調整用気体に置換される。ここでは一例として、調整用気体として窒素またはアルゴンが採用される。処理空間H1内の空気の一部が調整用気体に置換されるので、処理空間H1内の酸素濃度は低下する。なお、ステップS1,S2の実行順序は逆であってもよく、これらが並行して実行されてもよい。
【0083】
次にステップS3にて、制御部7は昇降機構13を制御して基板保持部1(ベース11)を紫外線照射器2へと近づけ、第1位置で停止させる。このとき、紫外線照射器2と基板W1との間の距離は例えば2~3[mm]程度に設定される。なおステップS3は必ずしもステップS2の次に実行される必要は無く、ステップS1の後に実行されればよい。
【0084】
制御部7は、ベース11が第1位置に停止した状態での処理空間H1内の酸素濃度が所定の濃度範囲内となるように、供給バルブ42を制御して調整用気体の流量を制御する。調整用気体の流量は例えばシミュレーションまたは実験等により、予め設定されてもよい。
【0085】
次にステップS4にて、制御部7は回転機構12を制御して、基板W1を回転させる。具体的には、制御部7は基板保持部1(ベース11)を回転させる。これにより基板W1が水平面で回転する。なおステップS4は必ずしもステップS3の次に実行される必要は無く、ステップS1の後に実行されればよい。
【0086】
次にステップS5にて、制御部7は、処理空間H1の雰囲気置換が完了したか否かを判断する。言い換えれば、制御部7は、処理空間H1内の酸素濃度が所定の濃度範囲内であるか否かを判断する。この判断は、例えば、ステップS3からの経過時間が、予め設定された第1所定時間以上であるか否かによって行われてもよい。経過時間の計時はタイマ回路などの計時回路によって行われ得る。第1所定時間は、酸素濃度が所定の濃度範囲内となるのに要する時間であり、シミュレーションまたは実験により予め設定され得る。制御部7は、ステップS3からの経過時間が第1所定時間以上であるときに、処理空間H1内の酸素濃度が所定の濃度範囲となったと判断する。
【0087】
処理空間H1内の酸素濃度が所定の濃度範囲外であると制御部7が判断したときには、制御部7は再びステップS5を実行する。その一方で、処理空間H1内の酸素濃度が所定の濃度範囲内であると制御部7が判断したときには、ステップS6にて、制御部7は紫外線照射器2に紫外線を照射させる。
【0088】
紫外線照射器2による紫外線の照射によって、紫外線を用いた有機物の除去処理が基板W1に対して行われる。具体的には、第1に、紫外線が基板W1の主面に存在する有機物(例えば撥水膜)に作用して、有機物を分解して除去する。第2に、紫外線が処理空間H1中の酸素分子に吸収されてオゾンが生成され、当該オゾンが基板W1の主面に存在する有機物を分解して除去する。
【0089】
上述のように、処理空間H1内の酸素濃度が所定の濃度範囲内に調整されているので、基板W1の主面の近傍においてオゾンが多く生成される。当該オゾンはパターンP1間の有機物に作用しやすく、パターンP1間の有機物も分解して除去できる。
【0090】
次にステップS7にて、制御部7は、基板W1に対する処理を終了すべきか否かを判断する。例えば制御部7は、ステップS6からの経過時間が第2所定時間を超えているときに、処理を終了すべきと判断してもよい。処理を終了すべきでないと判断したときには、制御部7は再びステップS7を実行する。その一方で、処理を終了すべきと判断したときには、ステップS8にて、制御部7は紫外線照射器2に紫外線の照射を停止させる。これにより、紫外線を用いた有機物の除去処理が終了する。紫外線照射期間は、ステップS6からステップS8までの期間であり、ステップS6からステップS8までの工程が紫外線照射工程に相当する。
【0091】
その後、制御部7は回転機構12および供給バルブ42をそれぞれ制御して、基板W1の回転および窒素の供給を停止する。そして、制御部7は昇降機構13を制御して、基板保持部1を第2位置まで下降させ、シャッタを開く。基板搬送ロボットは、有機物が除去された基板W1を基板保持部1から搬出する。
【0092】
以上のように、本基板処理装置10によれば、紫外線照射期間において、処理空間H1内の酸素濃度が所定の濃度範囲(0.3[vol%]以上かつ8.0[vol%]以下)内に維持されている。したがって、基板W1の主面のパターンP1間の有機物も適切に除去することができる。これは、酸素濃度が所定の濃度範囲内に維持されているので、基板W1の主面の近傍において十分な量のオゾンを生成できるからである。つまり、パターンP1間に進入しやすい位置で十分なオゾンを生成できるので、当該オゾンはパターンP1間の有機物に作用しやすく、パターンP1間の有機物も適切に除去できるのである。
【0093】
なお、上述の例では、処理空間H1内の酸素濃度が所定の濃度範囲内に維持された状態で、紫外線の照射を開始している(ステップS5,S6)。つまり、紫外線照射期間の全部において酸素濃度を所定の濃度範囲内に調整している。しかしながら、必ずしもこれに限らない。例えば、紫外線の照射を開始した後に、酸素濃度が所定の濃度範囲内に到達してもよい。要するに、制御部7は紫外線照射期間の少なくとも一部において、酸素濃度を所定の濃度範囲内に調整すればよい。紫外線照射期間の少なくとも一部において、パターンP1間の隙間の有機物を除去できるからである。
【0094】
<酸素濃度の範囲>
図4に示すように、接触角の波形は下に凸となっており、当該接触角は酸素濃度が0.6[vol%]以上7.0[vol%]以下の範囲において、ほぼ一定(最小値)となっている。よって、所定の濃度範囲として、0.6[vol%]以上かつ7.0[vol%]以下の範囲を採用してもよい。これによれば、基板W1の主面上の有機物をより適切に除去することができる。
【0095】
第2の実施の形態.
図6は、基板処理装置10Aの構成の一例を概略的に示す図である。図6は、基板保持部1が第1位置に停止した状態での、基板処理装置10Aの構成を示している。基板処理装置10Aは、酸素濃度センサ9の有無を除いて、基板処理装置10と同様の構成を有している。
【0096】
酸素濃度センサ9は処理空間H1内の酸素濃度を検出する。酸素濃度センサ9の検出方式としては、任意の検出方式を採用できる。図6の例では、酸素濃度センサ9は、基板保持部1によって保持される基板W1の直上の空間を避けて設けられている。もし仮に、酸素濃度センサ9が基板W1の直上の空間内に設けられていれば、紫外線照射器2からの紫外線が酸素濃度センサ9に照射され、基板W1の主面への紫外線照射を阻害する。これに対して、基板処理装置10Aにおいては、酸素濃度センサ9が基板W1の直上の空間を避けて設けられているので、紫外線照射器2からの紫外線が適切に基板W1の主面に照射される。
【0097】
酸素濃度センサ9は処理空間H1に対して調整用気体の流れの下流側に設けられてもよい。図6の例では、酸素濃度センサ9は筒部材3の内周面3aと対向する位置に設けられている。より具体的には、酸素濃度センサ9は、基板保持部1のベース11が第1位置に位置する状態において、筒部材3の内周面3aとベース11の側面1bとの間に位置する。
【0098】
処理空間H1内の気体は筒部材3の内周面3aとベース11の側面1bとの間の流路を流れて排気部61から排出される。この流路を流れる気体の酸素濃度は処理空間H1内の酸素濃度とほぼ等しいと考えることができるので、酸素濃度センサ9は処理空間H1内の酸素濃度を検出することができる。
【0099】
酸素濃度センサ9は制御部7と電気的に接続される。酸素濃度センサ9は、検出した酸素濃度値を制御部7へと出力する。制御部7は、酸素濃度センサ9によって検出された酸素濃度値が所定の濃度範囲内となるように、気体供給部4から供給される調整用気体の流量を制御する。制御部7はこの酸素濃度制御を、紫外線照射器2が紫外線を照射する期間の少なくとも一部において実行する。
【0100】
基板処理装置10Aの動作の一例は図5のフローチャートと同様である。ただし、制御部7はステップS6~S8の実行中に上述の酸素濃度制御を実行する。より具体的な一例として、酸素濃度値についての目標値が予め設定されてもよい。この目標値は所定の濃度範囲内の値である。図7は、基板処理装置10Aの電気的な構成の一例を示す機能ブロック図である。制御部7には、酸素濃度センサ9から酸素濃度値が入力され、また目標値も入力される。制御部7は酸素濃度値が目標値に近づくように、供給バルブ42を制御する。
【0101】
例えば制御部7は、酸素濃度値が目標値よりも下回っているときに、供給バルブ42を制御して調整用気体の流量を低下させる。処理空間H1に流入する調整用気体の流量が低下すると、筒部材3よりも下方側の非処理空間H2(図6参照)の空気が部分的に処理空間H1内に引き込まれ得る。非処理空間H2の酸素濃度は処理空間H1内の酸素濃度に比べて高いので、処理空間H1内の酸素濃度は増大し得る。つまり、処理空間H1内の酸素濃度を目標値に近づけることができる。
【0102】
一方で、制御部7は、酸素濃度値が目標値を上回っているときに、供給バルブ42を制御して調整用気体の流量を増大させる。これにより、より多くの処理空間H1内の空気が調整用気体に置換されるので、処理空間H1内の酸素濃度は低下する。よって、処理空間H1内の酸素濃度を目標値に近づけることができる。
【0103】
以上のように、基板処理装置10Aによれば、制御部7は、酸素濃度センサ9によって検出された酸素濃度値が所定の濃度範囲内となるように、調整用気体の流量を制御するので、より確実に処理空間H1内の酸素濃度を所定の濃度範囲内に調整することができる。
【0104】
しかも上述の例では、酸素濃度センサ9が処理空間H1に対して調整用気体の流れの下流側に位置しているので、紫外線照射器2による基板W1の紫外線照射を阻害しない。
【0105】
図8は、基板処理装置10Bの構成の一例を概略的に示す図である。図8は、基板保持部1が第1位置に停止した状態での、基板処理装置10Bの構成を示している。基板処理装置10Bは、気体供給部4の構成を除いて、基板処理装置10Aと同様の構成を有している。
【0106】
図8に例示する気体供給部4は調整用気体として、不活性ガスおよび酸素を処理空間H1に供給する。具体的な一例として、気体供給部4は、配管41と、供給バルブ42,44と、気体供給源43と、酸素供給源45とを含んでいる。配管41は、共通管411と、分岐管412,413の他、分岐管414も含んでいる。
【0107】
分岐管414の一端は供給バルブ42よりも下流側において共通管411の途中に連結されており、分岐管414の他端は酸素供給源45に連結されている。供給バルブ44は分岐管414の途中に設けられており、分岐管414内の流路の開閉を切り替える。供給バルブ44は制御部7によって制御される。供給バルブ44は、分岐管414内の酸素の流量を調整可能なバルブである。
【0108】
供給バルブ42,44の両方が開くことにより、不活性ガスと酸素との混合ガスが調整用気体として供給開口部321a,322aから処理空間H1へと吐出される。制御部7は供給バルブ42,44を制御して不活性ガスの流量と酸素の流量とを調整することにより、調整用気体の酸素濃度を調整することができる。
【0109】
制御部7は、酸素濃度センサ9によって検出された酸素濃度値に基づいて供給バルブ42,44を制御する。具体的には、制御部7は、酸素濃度センサ9によって検出された酸素濃度値が所定の濃度範囲内に維持されるように、供給バルブ42,44(つまり、不活性ガスおよび酸素の流量)を制御する。制御部7はこの酸素濃度制御を、紫外線照射器2が紫外線を照射する期間の少なくとも一部において実行する。
【0110】
基板処理装置10Aの動作の一例は図5のフローチャートと同様である。ただし、制御部7はステップS6~S8の実行中に上述の酸素濃度制御を実行する。例えば、制御部7は処理空間H1内の酸素濃度を低下させるときに、供給バルブ42,44を制御して調整用気体の酸素濃度を低下させる。具体的な一例として、制御部7は供給バルブ42,44を制御して、不活性ガスの流量を増大させつつ酸素の流量を低下させる。例えば制御部7は酸素の流量を零に制御してもよい。これにより、処理空間H1内の酸素濃度を速やかに低下させることができる。
【0111】
一方で、制御部7は処理空間H1内の酸素濃度を増大させるときに、供給バルブ42,44を制御して、調整用気体の酸素濃度を増大させる。具体的な一例として、制御部7は供給バルブ42,44を制御して、不活性ガスの流量を低下させつつ酸素の流量を増大させる。これにより、処理空間H1内の酸素濃度を速やかに増大させることができる。
【0112】
以上のように、基板処理装置10Bによれば、気体供給部4が酸素をも供給する。これによれば、調整用気体の酸素濃度を上述のように調整することにより、処理空間H1内の酸素濃度の変化速度を向上させることができる。よって、処理のスループットを向上することができる。
【0113】
第3の実施の形態.
図3を参照して説明したように、紫外線の強度はパターンP1の深さ方向において、強弱を呈する。よって、パターンP1間の隙間において、紫外線の強度が高い領域ではオゾンを生成しやすいのに対して、紫外線の強度が低い領域では、オゾンを生成しにくい。そこで、第3の実施の形態では、パターンP1間の隙間のうちより広い領域において、オゾンを生成することを企図する。
【0114】
図9は、基板処理装置10Cの構成の一例を概略的に示す図である。基板処理装置10Cは、紫外線照射器2の構成を除いて、基板処理装置10と同様の構成を有している。
【0115】
基板処理装置10Cにおいては、複数の紫外線照射器2が設けられる。複数の紫外線照射器2には、互いに異なるスペクトル(分光分布)で紫外線を照射する2種の紫外線照射器2a,2bが含まれている。ここで、「異なるスペクトル」の定義について説明する。異なるスペクトルとは、光源から出力される光のスペクトルに含まれるピーク波長が互いに相違することを意味する。ピーク波長とは、そのスペクトルにおいて光の強度がピーク値をとるときの波長である。このピーク波長は一つの光源のスペクトルにおいて複数存在し得る。例えば低圧水銀ランプから照射される紫外線のピーク波長は複数あり、例えば185[nm]および254[nm]である。以下では、ピーク波長を単に波長とも呼ぶ。
【0116】
複数の紫外線照射器2としては、低圧水銀ランプの他、高圧水銀ランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプおよびUV(ultraviolet)-LED(Light Emitting Diode)などの光源が採用され得る。これら各種の光源から照射される光のスペクトルは互いに相違する。
【0117】
また同じ種類の光源であってもスペクトルは相違し得る。例えばエキシマランプは放電ガス(例えば希ガスまたは希ガスハロゲン化合物)を充填した石英管と、一対の電極とを備えている。放電ガスは一対の電極間に存在している。一対の電極間に高周波・高電圧を印加することにより、放電ガスが励起されてエキシマ状態となる。放電ガスはエキシマ状態から基底状態へ戻る際に紫外線を発生する。このエキシマランプから照射される紫外線のスペクトルは、放電ガスの種類等に応じて相違し得る。具体的には、エキシマランプから照射される紫外線のピーク波長は放電ガスの種類等に応じて、126[nm]、146[nm]、172[nm]、222[nm]または308[nm]などの値をとり得る。
【0118】
つまり複数の紫外線照射器2としては、低圧水銀ランプおよびエキシマランプなどの複数種類の光源を採用してもよく、あるいは、スペクトルの異なる同一種の光源を採用してもよい。
【0119】
基板処理装置10Cの動作の一例は図5のフローチャートと同様である。ただし、ステップS6にて、制御部7は紫外線照射器2a,2bの両方に紫外線を照射させる。
【0120】
紫外線照射器2aが照射する第1紫外線のピーク波長は、紫外線照射器2bが照射する第2紫外線のピーク波長と相違するので、第1紫外線がパターンP1間の隙間において呈する強度の強弱の周期は、第2紫外線がパターンP1間の隙間において呈する強度の強弱の周期と相違する。
【0121】
図10および図11は、基板W1のパターンP1の近傍の紫外線の強度の一例を波長ごとに示す図である。図10および図11はシミュレーション結果を示している。図10の紙面左側には波長λa(=126[nm])の紫外線を用いたときの結果が示され、紙面右側には波長λb(=172[nm])の紫外線を用いたときの結果が示されている。図10の例では、紫外線の強度が等高線C1~C4で示されている。等高線C1~C4で示される紫外線の強度はその符号の数字が小さいほど高い。つまり等高線C1で示される強度が最も高く、等高線C4で示される強度が最も低く、等高線C2で示される強度は等高線C3で示される強度よりも高い。
【0122】
図10および図11の例では、パターンP1の高さおよび幅はそれぞれ200[nm]および10[nm]に設定されている。図10では、一つのパターンP1の近傍の紫外線の強度を示しているものの、実際のシミュレーションは、複数のパターンP1が水平方向に同じ間隔(ピッチ)で並んで配置された構造について行われている。このシミュレーションにおいて、パターンP1のピッチは50[nm]に設定されている。よって、パターンP1間の隙間の幅は40[nm]である。
【0123】
図11では、パターンP1の側面における紫外線の強度が当該隙間の深さ方向(Z方向)に対して示されている。以下では、当該隙間の深さ方向における位置を深さ位置と呼ぶ。またパターンP1の上端(+Z軸側の端)の深さ位置を0[nm]と定義する。パターンP1の高さは200[nm]なので、パターンP1の下端(-Z軸側の端)の深さ位置は200[nm]となる。図11では、紫外線照射器2aからの波長λaの紫外線の強度が実線で示され、紫外線照射器2bからの波長λbの紫外線の強度が破線で示されている。
【0124】
図10および図11に示されるように、波長λaの紫外線の強度は、その深さ位置がパターンP1の上端から下端へと向かうにしたがって、増減を繰り返しながらもそのピーク値(極大値)が徐々に低下する傾向を示す。一方で、波長λbの紫外線の強度はその深さ位置がパターンP1の上端から下端へ向かうにしたがって増減を繰り返すものの、そのピーク値はさほど低下しない。これは、波長λbが波長λaよりも長いので、波長λbの紫外線は波長λaの紫外線に比べて、パターンP1間の隙間に進入しやすいからである。
【0125】
深さ方向での紫外線の増減周期は波長λa,λbごとに相違する。よって、紫外線の強度が各ピーク値をとるときの深さ位置は波長λa,λbごとに相違し、紫外線の強度が各ボトム値(極小値)をとるときの深さ位置も波長λa,λbごとに相違する。例えば深さ位置140[nm]近傍において、波長λaの紫外線の強度はボトム値B3をとるのに対して、波長λbの紫外線の強度はピーク値をとる。つまり、深さ位置140[nm]近傍の領域では、波長λaの紫外線の強度不足を、波長λbの紫外線の強度によって補うことができる。
【0126】
つまり、複数の紫外線照射器2a,2bの両方が基板W1の主面に紫外線を照射することにより、波長λaの紫外線の強度が低い領域であっても、波長λbの紫外線によって式(1)の乖離反応を生じさせることができる。これにより、当該領域でもオゾンを生成できる。よって、パターンP1間の隙間のうちより広い領域においてオゾンを生成することができる。
【0127】
さて、基板処理装置10Cによれば、パターンP1間の隙間のうちより広い領域において紫外線の強度が高くなる。よって、紫外線自体による有機物の分解機能によって、パターンP1間の有機物もより広い領域で除去することができる。しかしながら、長い波長λbの紫外線の光子エネルギーは短い波長λaの紫外線の光子エネルギーよりも小さいので、波長λbの紫外線は波長λaの紫外線に比べて少ない種類の分子結合しか切断することができない。つまり、波長λbの紫外線の強度が増大する領域であっても、波長λaの紫外線の強度が低ければ、紫外線自体の分解機能による有機物の分解は十分ではない。
【0128】
基板処理装置10Cにおいても、処理空間H1内の酸素濃度は基板処理装置10と同様に、所定の濃度範囲内に調整される。よって、オゾンを活用した有機物の除去機能を有効に活用できる。つまり、波長λbの紫外線も波長λaの紫外線と同様に乖離反応を生じさせることができるので、パターンP1間の隙間のうち波長λaの紫外線の強度が低い領域であっても、波長λbの紫外線の強度が高ければ、当該領域においてもオゾンを生成することができる。したがって、当該オゾンが当該領域の有機物を分解して除去することができる。これにより、当該領域の有機物もより適切に除去することができる。
【0129】
以上のように、基板処理装置10Cによれば、パターンP1間の隙間におけるオゾンの生成量を増大することができ、パターンP1間の有機物を適切に除去することができる。
【0130】
次にピーク波長の選定の考え方の一例について説明する。波長λaの紫外線の強度が小さい領域R1~R4内の少なくともいずれか一つにおいて、波長λbの紫外線の強度がピーク値をとるように、波長λa,λbを選定する。これにより、その領域における波長λaの紫外線の強度不足を、波長λbの紫外線が補うことができる。
【0131】
次に領域R1~R4の定義の一例についてより詳細に説明する。ここでは領域Rn(nは1~4)を、領域Rnの深さ方向の中心と領域Rnの深さ方向の幅とで定義する。具体的には、領域Rnの中心は波長λaの紫外線の強度がボトム値Bn(nは1~4)をとるときの深さ位置と等しく、領域Rnの幅は波長λaの紫外線の強度の増減周期Wt1の半周期と等しい。つまり、領域Rnは、紫外線の強度がボトム値Bnをとるときの深さ位置を中心とし、増減周期Wt1の半周期を幅とした領域である。
【0132】
このような領域Rnにおいては波長λaの紫外線の強度は低い。よって、領域Rn内のいずれかにおいて、波長λbの紫外線の強度がピーク値をとれば、その領域での波長λaの紫外線の強度不足を波長λbの紫外線が効果的に補うことができる。
【0133】
また図11に示すように、ボトム値Bnは深さ位置が深いほど小さくなる傾向を示している。したがって、比較的深い位置にある領域R3または領域R4において、波長λaの紫外線の強度不足がより顕著になる。よって、領域R3内または領域R4内において波長λbの紫外線の強度がピーク値をとることが望ましい。図11の例では、波長λbの紫外線の強度は領域R3内においてピーク値をとる。これにより、領域R3における波長λaの紫外線の顕著な強度不足を波長λbの紫外線によって補うことができる。
【0134】
より一般的に説明すると、パターンP1の高さ方向における中点(図11では深さ位置100[nm])よりもパターンP1の下端側にある領域R3,R4内のいずれかにおいて、波長λbの紫外線の強度がピーク値をとるように、波長λbを選定すればよい。
【0135】
また上述の例では、2種の紫外線照射器2a,2bが設けられているものの、ピーク波長が互いに異なる3種以上の紫外線照射器2が設けられてもよい。これによれば、パターンP1間の隙間において、より広い領域で紫外線が互いの強度不足を補い合うので、より広い領域で多くのオゾンを生成することができる。
【0136】
基板処理装置は詳細に示され記述されたが、上記の記述は全ての態様において例示であって限定的ではない。したがって、基板処理装置は、その開示の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。また上述の実施の形態は適宜に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0137】
1 基板保持部
2,2a,2b 紫外線照射器
4 気体供給部
7 制御部
10,10A~10C 基板処理装置
W1 基板
P1 微細構造物(パターン)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11