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特許7242358複合材料およびそれを用いた積層体と防護物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】複合材料およびそれを用いた積層体と防護物品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20230313BHJP
   A41D 13/00 20060101ALI20230313BHJP
   B32B 7/05 20190101ALI20230313BHJP
   D06M 15/507 20060101ALI20230313BHJP
   F41H 1/02 20060101ALI20230313BHJP
   F41H 5/04 20060101ALI20230313BHJP
   D06M 101/36 20060101ALN20230313BHJP
【FI】
B32B27/12
A41D13/00 102
B32B7/05
D06M15/507
F41H1/02
F41H5/04
D06M101:36
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019048365
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2020146985
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000104412
【氏名又は名称】カンボウプラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】武田 彩
(72)【発明者】
【氏名】荒井 軍次
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-531243(JP,A)
【文献】特開2014-034112(JP,A)
【文献】特開2014-164138(JP,A)
【文献】特開2000-212808(JP,A)
【文献】特開2003-130591(JP,A)
【文献】特表2015-500748(JP,A)
【文献】特開2017-119421(JP,A)
【文献】特開2013-099954(JP,A)
【文献】特開昭63-005937(JP,A)
【文献】旭化成アミダス株式会社「プラスチックス」編集部、プラスチック・データブック、2006年、5-9ページ、262ページ,2006年
【文献】伊保内まさる編、エンジニアリングプラスチック事典、1988年、555-556ページ,1988年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/12
A41D 13/00
B32B 7/05
D06M 15/507
F41H 1/02
F41H 5/04
D06M 101/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛と、該布帛の少なくとも片面に塗布された樹脂の層を有する複合材料であって、前記樹脂は、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、フッ素系樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂であり、JISK5600-5-4に準拠する引っかき硬度(鉛筆法)がH以上で、かつJISK7127に準拠する引張伸びが10%以下であり、複合材料の引張強さが30N/mm以上であり、前記樹脂の量が、前記布帛と前記樹脂の合計量に対して5~40重量%の範囲にあり、1枚当たりのガーレ剛軟度が縦横共に13mN以上1100mN以下であることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
合材料1枚当たりの前記布帛の目付が550g/m以下である、請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記布帛を構成する繊維として、引張強度が17cN/dtex以上の高強度繊維が使われている、請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記樹脂が、ョアー硬度(タイプD)60以上の熱可塑性樹脂である、請求項1~3のいずれかに記載の複合材料。
【請求項5】
前記布帛が、織物または編物、または繊維を一軸方向に引きそろえた単軸構造体、または引きそろえた繊維が複数の角度で積層されている多軸構造体である、請求項1~4のいずれかに記載の複合材料。
【請求項6】
1枚当たりの厚さが1mm以下である、請求項1~5のいずれかに記載の複合材料。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の複合材料を含む層が複数枚積層されており、積層方向における隣接層が単層面積の90%以上で互いに固着されていない積層体。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の複合材料を含む層が複数枚積層されており、合計重量が11kg/m以下である積層体。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の複合材料または請求項またはに記載の積層体が厚さ5μm以上1mm以下のフィルムでパックされている防護物品。
【請求項10】
NIJ Standard-0115.00に規定の基準において、入射角度0°で衝撃エネルギー(E1)のレベル1を満足する耐刃性を有する、請求項に記載の防護物品。
【請求項11】
NIJ Standard-0101.06に規定の基準において、レベルIIIAを満足する耐弾性を有する、請求項または10に記載の防護物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として飛来する破片や弾丸、さらにはアイスピック、片刃、両刃といった刃物から身体を防護するために使用する複合材料、およびその複合材料の積層体、その複合材料または積層体をパックした防護物品に関する。
【背景技術】
【0002】
警察官、ガードマン、兵士などは、犯罪者、テロリスト、敵兵や不審者などからの銃器による攻撃、爆発物の炸裂により飛来する破片や刃物による攻撃から身の安全を守るため、必要に応じ耐弾性能や防刃性能をもつ防護用部材を着用して職務に従事する。
【0003】
耐弾性能を持つ部材の材料としては、従来から、高強度繊維、例えば、パラ系アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などの織物や編物、またこれら織物や編物に樹脂を塗布あるいは含浸したもの、またこれら繊維を用いて作られたシールド材などが知られている。なお、ここでいうシールド材とは、高強度繊維を0度と90度とに直交配列させて積層し樹脂を含浸させたシートの積層物と合成樹脂フィルムとが積層成形された耐弾材料をいう。これらの材料は耐弾性能に優れるものの、防刃性能を有するものは少ない。
【0004】
防刃性能を持つ部材としては、例えば特許文献1に記載されているようなチタンやジュラルミン板等の金属板が使われている。
【0005】
しかしながら、金属は比重が大きく、刃物を防ぐことができるぐらいの厚みの金属板は曲げ性が低く身体に追従しにくい。
【0006】
従来技術では、上記のような耐弾性能を持つ部材と防刃性能をもつ金属部材を組み合わせて防護部材とすることが多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5664851号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、耐弾性能と防刃性能に共に優れ、軽量でありながら身体に追従しやすい複合材料と、それを含む積層体と防護物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
(1)布帛と、該布帛の少なくとも片面に塗布された樹脂の層を有する複合材料であって、前記樹脂は、JISK5600-5-4に準拠する引っかき硬度(鉛筆法)がH以上で、かつJISK7127に準拠する引張伸びが10%以下であり、複合材料の引張強さが30N/mm以上であることを特徴とする複合材料。
(2)複合材料における前記樹脂の量が、前記布帛と前記樹脂の合計量に対して5~40重量%の範囲にあり、かつ複合材料1枚当たりの前記布帛の目付が550g/m以下である、(1)に記載の複合材料。
(3)前記布帛を構成する繊維として、引張強さが17cN/dtex以上の高強度繊維が使われている、(1)または(2)に記載の複合材料。
(4)前記樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、フッ素系樹脂のうち少なくとも1種以上を含むショアー硬度(タイプD)60以上の熱可塑性樹脂である、(1)~(3)のいずれかに記載の複合材料。
(5)前記布帛が、織物または編物、または繊維を一軸方向に引きそろえた単軸構造体、または引きそろえた繊維が複数の角度で積層されている多軸構造体である、(1)~(4)のいずれかに記載の複合材料。
(6)1枚当たりの厚さが1mm以下である、(1)~(5)のいずれかに記載の複合材料。
(7)1枚当たりのガーレ剛軟度が縦横共に13mN以上1100mN以下である、(1)~(6)のいずれかに記載の複合材料。
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の複合材料を含む層が複数枚積層されており、積層方向における隣接層が単層面積の90%以上で互いに固着されていない積層体。
(9)(1)~(7)のいずれかに記載の複合材料を含む層が複数枚積層されており、合計重量が11kg/m以下である積層体。
(10)(1)~(7)のいずれかに記載の複合材料または(8)または(9)に記載の積層体が厚さ5μm以上1mm以下のフィルムでパックされている防護物品。
(11)NIJ Standard-0115.00に規定の基準において、入射角度0°で衝撃エネルギー(E1)のレベル1を満足する防刃性を有する、(10)に記載の防護物品。
(12)NIJ Standard-0101.06に規定の基準において、レベルIIIAを満足する耐弾性を有する、(10)または(11)に記載の防護物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、耐弾性能と防刃性能に共に優れ、軽量でありながら身体に追従しやすい複合材料、およびそれを含む積層体、防護物品が得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施態様に係る複合材料の斜視図である。
図2】本発明の一実施態様に係る積層体の概略斜視図である。
図3】本発明の一実施態様に係る防護物品の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明について、実施の形態とともに、詳細に説明する。
本発明の複合材料は、布帛と、布帛の少なくとも片面に塗布された樹脂の層を有する複合材料からなる。塗布する樹脂は、JISK5600-5-4に準拠する引っかき硬度(鉛筆法)がH以上の樹脂で、かつ、JISK7127に準拠する引張伸びが10%以下の樹脂である。引っかき硬度がH未満の場合、十分な防刃性能を発揮できないおそれがある。また、引張伸びが10%を超える柔らかい樹脂は防刃性能が十分でない可能性がある。
【0013】
樹脂の塗布方法としては特に限定されるものではないが、ワイヤーバーコート、ナイフコート、ドクターコート、ファウンティング、リバースコート、ディップニップ等を用いることができる。
【0014】
上記樹脂を塗布した布帛からなる本発明の複合材料は、引張強さが30N/mm以上であることが必要である。この引張強さは、JISL1096(2010)に準拠して測定した値を、複合材料の断面積で除して複合材料が破断するときの断面積(mm)当たりの力として求めた。ここでいう断面積は、複合材料の引張方向とは垂直方向の幅と厚みの積を指す値である。この引張強さが30N/mm未満の場合、充分な防刃性、耐弾性を発揮できない可能性がある。
【0015】
複合材料における樹脂の量が、布帛と樹脂の合計量に対して5~40重量%の範囲にあり、かつ複合材料1枚当たりの布帛の目付が550g/m以下であることが好ましい。樹脂量が5重量%未満の場合は十分な防刃性を発揮できない恐れがあり、40重量%を超えると繊維が固められてエネルギー拡散しにくくなり耐弾性能が悪化する可能性や、身体に追従しにくくなる可能性がある。また、布帛の目付が550g/mを超える場合も身体への追従性や防刃性が悪化する可能性がある。
【0016】
上記布帛を構成する繊維としては高強度繊維を使用することが好ましく、使用する高強度繊維としては、引張強さが17cN/dtex以上、さらに好ましくは19~40cN/dtexであることが望ましい。具体的には、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、全芳香族ポリエステル、超高分子量ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ノボロイド、ポリピリドビスイミダゾール、ポリアリレート、ポリケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルケトンなどからなる繊維が挙げられ、耐衝撃性、エネルギー伝搬性、生産性、価格などからパラ系アラミド繊維や超高分子量ポリエチレンの長繊維が特に好ましく使用できる。
【0017】
本発明に係る複合材料において布帛に塗布する樹脂のショアー硬度(タイプD)は60以上であることが好ましく、更には80以上であることがより好ましい。ショアー硬度が60未満の場合防刃性能を得るために塗布量や積層数が多くなり、着用に適した重量に収まらない可能性がある。
【0018】
また、布帛に塗布する樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、フッ素系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂及びポリイミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリアミド、ポリビニルアセテート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン等を用いることができる。中でも塗布性、価格、曲げ性、防刃性、耐衝撃性等の観点から熱可塑性のポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、フッ素系樹脂が好ましく使用できる。更に、水分散型で非晶性の共重合ポリエステル系樹脂は加工時の環境対応、布帛へのダメージ低減、布帛への追従性、曲げ性から特に好ましく用いることができる。
【0019】
また、樹脂を塗布する布帛としては、織物、編物、もしくは単軸または多軸構造体等、特に限定されるものではないが、塗布された樹脂を保持しつつも耐弾性能が良い平織物や単軸または多軸構造体が好適に用いられる。なお、ここでいう単軸構造体とは繊維を一軸方向に引きそろえて並べた繊維構造物を表し、多軸構造体とは引きそろえた繊維が複数の角度で積層されている繊維構造物を指す。
【0020】
本発明の複合材料は、1枚当たりの厚さが1mm以下であることが好ましい。1mmを超える場合、身体への追従性が悪化する可能性がある。
【0021】
また、本発明の複合材料は、1枚当たりのガーレ剛軟度が13mN以上1100mN以下であることが好ましく、更に13mN以上300mN以下であることが好ましい。なかでも縦横ともに13mN以上1100mN以下であることが好ましく、更に13mN以上300mN以下であることが好ましい。なおここでいう縦横とは、通常の織物でいう経糸方向、緯糸方向、編み物ではウェール方向、コース方向、不織布、単軸構造体、多軸構造体では生産時に巻き取ったマシン巻き取り方向、マシン幅方向をいう。ガーレ剛軟度が13mN未満の場合耐弾時に非着弾面の凹みが大きくなり、NIJ0101.06レベルIIIA試験の凹み規格に合格できない可能性がある。1100mNを超える場合、身体に着用しても追従性が悪く、着用感が悪くなることがある。
【0022】
本発明の複合材料の一実施態様を図1に例示する。図1においては、上記のような布帛2の両面に樹脂層3が設けられて複合材料1が構成されている。この場合、布帛2の繊維に自由度を持たせるため、布帛2への樹脂の完全な埋め込みは行わないことが好ましく、布帛2の空隙率のコントロール等も行わない。
【0023】
本発明の複合材料を含む層を複数枚積層して積層体とすることができ、積層体とすることにより、防刃性能、耐弾性能をさらに向上させることができる。積層体における複合材料の積層方法は特に限定しないが、耐弾時に各層が動いたり、空気抵抗を利用してエネルギーを吸収しやすいよう、互いに接着させないよう平積みすることが望ましい。積層時のズレ防止のため端部や点部をステッチやテープで仮止めすることはできるが、その場合、積層方向における複合材料の隣接層が単層面積の90%以上で互いに固着されていないことが望ましい。
【0024】
本発明の複合材料には耐弾材料を組み合わせることができる。耐弾材料の例としては高強度繊維からなる多軸構造体であるDupont社製Kevlar(登録商標)XP、Tensylon(登録商標)、Honeywell社製Spectra Shield(登録商標)、Gold Flex(登録商標)等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の複合材料を含む層が複数枚積層された積層体は、合計重量が11kg/m以下であることが好ましい。合計重量が11kg/mを超えると重くなり、着用性が悪化する可能性がある。
【0026】
本発明の積層体の一実施態様を図2に例示する。図2においては、前述のように構成された複合材料1を含む層が複数枚積層されて積層体4が構成され、隣接層は、接着等により互いに固着されずに、面方向端部がテープ留めされている(テープ留め箇所5)。テープ留めに限らず、例えば、ステッチにより端部を留めるようにしてもよい。
【0027】
本発明の複合材料またはそれらを含む積層体は、フィルムでパックされていることが望ましい。パックすることで高温環境下および/または多湿環境下においても複合材料の物性を損なうことなく使用することができる防護物品を構成できる。
【0028】
フィルムの厚さは5μm以上1mm以下であることが望ましい。フィルムの厚さが5μm未満の場合破れやすく、1mmを超えると防護物品の重量が増加したり、身体への追従性が悪化する可能性がある。
【0029】
また、フィルムの原料としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂及びポリイミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアセテート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、熱可塑性ポリウレタン等の樹脂、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリルニトリルスチレンゴム、ネオプレン等の合成ゴム又はエラストマー等を用いることができる。また、ウェルダーで簡単にパックできる塩化ビニルフィルムを用いることも好ましい。
【0030】
本発明の防護物品はNIJ Standard-0115.00基準において、入射角度0°で衝撃エネルギー(E1)のレベル1を満足する防刃性を有することが好ましい。また、本発明の防護物品はNIJ Standard-0101.06基準においてレベルIIIAを満足する耐弾性を有することが望ましい。
【0031】
本発明の防護物品の一実施態様を図3に例示する。図3に示す防護物品6においては、前述のように構成された積層体4または複数枚の複合材料1がフィルム7で包まれ、四方がウェルダー(例えば、真空ウェルダー)で溶着されてパックされている(ウェルド部分8)。
【実施例
【0032】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。先ず、本発明で用いた特性の測定、評価方法について説明する。
【0033】
(耐弾性)
NIJ-Standard0101.06で定めるV0試験により評価した。弾丸には、44Magnum弾(15.6g、弾速436m/s)、357SIG弾(8.1g、弾速448m/s)を用い、弾丸の貫通の有無、サンプル背面の粘土の凹みの深さを確認した。試料である耐弾防護部材の裏側には、油粘土(Roma Plastilina#1)を敷いて、試料をベルトで固定した。試験室の環境は、室温25℃、湿度35%で試験を実施した。
【0034】
1水準に対してサンプルを4つ準備し、前処理として2つを水浸漬、2つをタンブル処理し、それぞれ44Magnum弾と357SIG弾を6発ずつ発射し、4つのサンプルで計24発発射した。24発とも貫通が無いこと、粘土の凹みが44mm未満のものを〇、更に30mm未満のものを◎、1発以上の貫通があるもしくは凹みが44mm以上のものがある水準を×とした。
【0035】
(防刃性)
NIJ-Standard0115.00で定める防刃試験により評価した。刃物は、Spike&Edged Bladeクラスで定義されているSpike、BladeP1、BladeS1を用い、プロテクションレベル1のE1に定義される24Jになるよう刃物突き刺し試験を行った。1サンプルにつき全ての刃物を3回ずつ刺し、試料の裏側への刃物の貫通長が全て10mm以内のものを〇、特に0mm以内のものを◎、10mmを超える結果がある水準を×とした。
【0036】
(ガーレ剛軟度)
ガーレ剛軟度はJISL1096(2010)曲げ反発性A法に準拠して実施した。試験片のサイズは長さ89mm幅25mmで行った。布帛の経糸方向をタテ、緯糸方向をヨコとして各3点ずつ測定し、タテヨコそれぞれで平均値を求めた。
【0037】
(引っかき硬度(鉛筆法))
引っかき硬度(鉛筆法)はJISK5600-5-4(1999)に準じて実施した。サンプル準備は、各樹脂を東レフィルム加工社製セパレーターフィルム、“セラピールMF”の上にRK Print Coat Instruments社の“K HAND COATER”を用いてコーティングを行い、120℃のオーブンで5分間乾燥を行った後、剥離して得た。コーティングする際は、各樹脂の乾燥後の厚みが20~25μmになるようバーの種類を適宜変更した。剥離したサンプルをガラス板の上に載せ、速度1mm/sにて、10mm距離を測定した。鉛筆の硬度を変更して各3本ずつ測定を行い、傷がつかなかった鉛筆の硬度をその樹脂の硬度とした。
【0038】
(ショアー硬度(タイプD))
ショアー硬度はJISK7215(1986)に準拠して、タイプDのデュロメータを使用して測定を行った。サンプル準備は各樹脂を直径50mmのシャーレに入れて表面を平らにならし、80℃で乾燥して、乾燥後の厚さが5mmになるよう調整を行った。場所を変えて5点測定し、その平均値をショアー硬度とした。
【0039】
(引張伸び)
上記引っかき硬度で作成したのと同様に樹脂膜を作成し、25mm幅150mm長さにカットしJISK7127/2/50(1999)に準拠して各3点測定を行い、その平均値を引張伸びとした。
【0040】
(複合材料中の樹脂の割合)
樹脂を塗布する前の布帛の目付をJIS L1096(2010)に準拠して測定した結果を、布帛の重量とした。その後布帛に樹脂を塗布した複合材の目付を同様に測定し、その値から布帛の重量を引いた値を樹脂の重量とした。それらの結果から布帛重量と樹脂重量の重量割合を計算した。
【0041】
(引張強さ)
各複合材料1枚当たりの引張強さをJISL1096(2010)A法に準拠して測定した。サンプルは経糸方向(タテ)と緯糸方向(ヨコ)に各3点ずつ準備し、複合材料の断面積(mm)で除して複合材料が破断するときの断面積(mm)当たりの力を求めた。タテヨコそれぞれで平均値を求めた。
【0042】
(断面積)
上記引張強さを求めるための複合材料の断面積(mm)は、引張試験に使用するサンプルの引張方向とは垂直方向の複合材料の幅をノギスで測定した値と、サンプルの厚さをシックネスゲージ((株)TECLOCK製、型式:SM112)で測定した値の積を断面積とした。
【0043】
<実施例1>
芳香族ポリアミド繊維Kevlar(登録商標)K29(Dupont社製、強度20.3cN/dtex)1100dtexを使用して密度31×31本/inch(2.54cm)、目付273g/mの平織物を作成した。そこに水分散型の非晶性飽和共重合ポリエステル樹脂(互応化学社製プラスコート「Z-450」、引っかき硬度(鉛筆法):4H、ショアー硬度85、引張伸び2%)をナイフコート方式で塗布し、180℃のオーブンで2min間乾燥して巻き取った。塗布は表面と裏面の2回行い、乾燥後の樹脂量合計が30g/mになるよう調整した。得られた複合材料の目付は303g/m、引張強さはタテ380N/mm、ヨコで482N/mm、ガーレ剛軟度はタテ28mN、ヨコ67mN、厚さは0.45mmであった。複合材料を常温に冷却した後巻き出して40cm×40cmの正方形に裁断したものを圧力や熱等をかけることなくそのまま平積みで35枚積層したものを塩ビフィルム(菱興プラスチック株式会社製プライキャンパス(登録商標)E5515、厚み0.15mm)で挟み込み真空下で端部をウェルダーで溶着してパックし、防護物品を作製した。防刃性および耐弾性を評価した結果、双方◎となった。結果をまとめて表1に示す。
【0044】
<実施例2>
実施例1で作成した平織物に樹脂量46g/mになるよう複合材料を作成した。複合材料の物性は表1に示す。該複合材料16枚とDupont社製耐弾材Kevlar(登録商標)XP103を7枚積層して実施例1と同様にパックして防護物品を作製した。衝撃が加わる面を複合材料積層面にして防刃性および耐弾性を評価した結果、耐弾性は〇、防刃性は◎となった。
【0045】
<実施例3>
実施例1で作成した平織物に水分散型の非晶性飽和共重合ポリエステル樹脂(互応化学社製プラスコート「Z-565」、引っかき硬度(鉛筆法):5H、ショアー硬度90、引張伸び1%)の溶液を乾燥後の樹脂量33g/mになるよう複合材料を作成した。該複合材料16枚とDupont社製耐弾材Kevlar(登録商標)XP103を7枚積層して実施例2と同様にパックして防護物品を作製した。衝撃が加わる面をXP積層面にして防刃性および耐弾性を評価した結果、表1に示すように、耐弾性は◎、防刃性は〇となった。
【0046】
<実施例4>
実施例1で作成した平織物に水分散型の非晶性飽和共重合ポリエステル樹脂(互応化学社製プラスコート「Z-730」、引っかき硬度(鉛筆法):H、ショアー硬度80、引張伸び2%)の溶液を乾燥後の樹脂量35g/mになるよう複合材料を作成した。該複合材料11枚/Dupont社製耐弾材Kevlar(登録商標)XP103が7枚/該複合材料11枚の順番で積層して実施例1と同様にパックして防護物品を作製した。防刃性および耐弾性を評価した結果、表1に示すように、双方◎となった。
【0047】
<実施例5>
芳香族ポリアミド繊維Kevlar(登録商標)K29(Dupont社製)3300dtexを使用して密度18×18本/inch(2.54cm)、目付515g/mの平織物を作成した。そこに水分散型の共重合ポリエステル樹脂(東洋紡社製バイロナールMD1200、引っかき硬度(鉛筆法):H、ショアー硬度85、引張伸び3%)を乾燥後の樹脂量250g/mになるよう実施例1と同様に複合材料を作製した。該複合材料7枚とDupont社製耐弾材Kevlar(登録商標)XP103を8枚積層して実施例1と同様にパックして防護物品を作製した。衝撃が加わる面を複合材料積層面にして防刃性および耐弾性を評価した結果、表1に示すように、耐弾性は〇、防刃性は◎となった。
【0048】
<実施例6>
芳香族ポリアミド繊維Kevlar(登録商標)K29(Dupont社製)440dtexを使用して密度32×32本/inch(2.54cm)、目付110g/mの平織物を作成した。そこにポリエステル樹脂(東洋紡社製バイロナールMD1200、引っかき硬度(鉛筆法):H、ショアー硬度85、引張伸び3%)を乾燥後の樹脂量42g/mになるよう実施例1と同様に複合材料を作製した。該複合材料25枚とDupont社製耐弾材Kevlar(登録商標)XP103を9枚積層して実施例1と同様にパックして防護物品を作製した。衝撃が加わる面を複合材料積層面にして防刃性および耐弾性を評価した結果、表1に示すように、耐弾性は〇、防刃性は◎となった。
【0049】
<実施例7>
実施例1で作成した平織物に水分散型の共重合ポリエステル樹脂(東洋紡社製バイロナールMD1245、引っかき硬度(鉛筆法):H、ショアー硬度85、引張伸び5%)の溶液を乾燥後の樹脂量41g/mになるよう複合材料を作成した。該複合材料16枚とDupont社製耐弾材Kevlar(登録商標)XP103が9枚順番で積層して実施例1と同様にパックして防護用物品を作製した。衝撃が加わる面を複合材料積層面にして防刃性および耐弾性を評価した結果、表1に示すように、双方〇となった。
【0050】
<比較例1>
実施例5で作成した3300dtexの平織物に水分散型の非晶性飽和共重合ポリエステル樹脂(互応化学社製プラスコート「Z-565」)の溶液を乾燥後の樹脂量24g/mになるよう複合材料を作成した。該複合材料6枚とDupont社製耐弾材Kevlar(登録商標)XP103を7枚積層して実施例1と同様にパックして防護物品を作製した。衝撃が加わる面をXP積層面にして防刃性および耐弾性を評価した結果、表1に示すように、耐弾性は〇だが防刃性が×となった。
【0051】
<比較例2>
実施例1で作成した平織物に非晶性飽和共重合ポリエステル樹脂(互応化学社製プラスコート「Z-565」)の溶液を乾燥後の樹脂量5g/mになるよう複合材料を作成した。該複合材料35枚を積層して実施例1と同様にパックして防護物品を作製した。防刃性および耐弾性を評価した結果、表1に示すように、双方×となった。
【0052】
<比較例3>
実施例1で作成した平織物に非晶性飽和共重合ポリエステル樹脂(互応化学社製プラスコート「Z-880」、引っかき硬度(鉛筆法):B、ショアー硬度50、引張伸び1000%)の溶液を乾燥後の樹脂量45g/mになるよう複合材料を作成した。該複合材料16枚とDupont社製耐弾材Kevlar(登録商標)XP103を7枚積層して実施例1と同様にパックして防護物品を作製した。衝撃が加わる面を複合材料面にして防刃性および耐弾性を評価した結果、表1に示すように、耐弾性は〇だが防刃性が×となった。
【0053】
<比較例4>
実施例1で作成した平織物に非晶性飽和共重合ポリエステル樹脂(互応化学社製プラスコート「Z-880」)の溶液を乾燥後の樹脂量35g/mになるよう複合材料を作成した。該複合材料35枚を積層して実施例1と同様にパックして防護物品を作製した。防刃性および耐弾性を評価した結果、表1に示すように、防刃性は〇だが防弾性が×となった。
【0054】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る複合材料は、上述したような警察官、ガードマン等が着用する耐弾防刃防護衣料に限らず、車両、艦船などの装甲用途においても利用できる。着弾時に装甲が変形しにくくなるため、動力機器や通信機器などを破損から守ることができる。
【符号の説明】
【0056】
1 複合材料
2 布帛
3 樹脂層
4 積層体
5 テープ留め箇所
6 防護物品
7 フィルム
8 ウェルド部分
図1
図2
図3