(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-10
(45)【発行日】2023-03-20
(54)【発明の名称】内燃機関のクランクギヤ取付構造
(51)【国際特許分類】
F02B 67/04 20060101AFI20230313BHJP
F16D 1/06 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
F02B67/04 C
F16D1/06 242
(21)【出願番号】P 2019049063
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】503116899
【氏名又は名称】株式会社IHI原動機
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 達也
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 忠
(72)【発明者】
【氏名】石井 基紀
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-003700(JP,A)
【文献】特開2008-075856(JP,A)
【文献】特開平07-280148(JP,A)
【文献】実開平02-071119(JP,U)
【文献】実開昭48-067152(JP,U)
【文献】特開2012-117610(JP,A)
【文献】特開2010-203601(JP,A)
【文献】特開2001-200966(JP,A)
【文献】実開平01-098917(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 67/04
F16D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸と、
前記クランク軸に形成されていて外周面に沿って複数の溝部が形成されたギヤフランジと、
前記クランク軸に装着されることでリング状のギヤを形成すると共に周方向に沿って複数のボルト穴が形成された分割式のクランクギヤと、
前記ギヤフランジに対して前記クランクギヤと反対側に配設されていて前記クランクギヤのボルト穴に対応する位置にボルト穴が形成された固定部材と、
前記溝部に配置されて前記ギヤフランジを挟んで前記
クランクギヤと前記固定部材を締結する締結ボルトと、
を備え
、
前記クランク軸は、周方向に配列された複数の挿通孔を有する出力フランジが形成され、
前記ギヤフランジの前記外周面は、前記出力フランジの前記挿通孔のピッチ円直径よりも前記クランク軸の径方向内側に位置する
ことを特徴とする内燃機関のクランクギヤ取付構造。
【請求項2】
前記クランクギヤは前記ギヤフランジとインロー構造に装着されている請求項
1に記載された内燃機関のクランクギヤ取付構造。
【請求項3】
前記ギヤフランジに配列された複数の前記溝部は周方向に不等ピッチ部分を有している請求項
1または
2に記載された内燃機関のクランクギヤ取付構造。
【請求項4】
前記複数のクランクギヤの分割部近傍に締結された前記締結ボルトはリーマボルトである請求項
1から
3のいずれか1項に記載された内燃機関のクランクギヤ取付構造。
【請求項5】
前記クランクギヤの内周面と前記クランク軸の外周面との間に全周に亘って隙間が形成されている請求項
1から
4のいずれか1項に記載された内燃機関のクランクギヤ取付構造。
【請求項6】
前記固定部材は組み合わせることでリング状に形成される分割式の当て板であり、
前記当て板の分割部は前記クランクギヤの分割部と周方向に位置がずれている請求項
1から
5のいずれか1項に記載された内燃機関のクランクギヤ取付構造。
【請求項7】
クランク軸と、
前記クランク軸に形成されていて外周面に沿って複数の溝部が形成されたギヤフランジと、
前記クランク軸に装着されることでリング状のギヤを形成すると共に周方向に沿って複数のボルト穴が形成された分割式のクランクギヤと、
前記ギヤフランジに対して前記クランクギヤと反対側に配設されていて前記クランクギヤのボルト穴に対応する位置にボルト穴が形成された固定部材と、
前記溝部に配置されて前記ギヤフランジを挟んで前記
クランクギヤと前記固定部材を締結する締結ボルトと、
を備え
、
前記ギヤフランジに配列された複数の前記溝部は周方向に不等ピッチ部分を有している
ことを特徴とする内燃機関のクランクギヤ取付構造。
【請求項8】
クランク軸と、
前記クランク軸に形成されていて外周面に沿って複数の溝部が形成されたギヤフランジと、
前記クランク軸に装着されることでリング状のギヤを形成すると共に周方向に沿って複数のボルト穴が形成された分割式のクランクギヤと、
前記ギヤフランジに対して前記クランクギヤと反対側に配設されていて前記クランクギヤのボルト穴に対応する位置にボルト穴が形成された固定部材と、
前記溝部に配置されて前記ギヤフランジを挟んで前記
クランクギヤと前記固定部材を締結する締結ボルトと、
を備え
、
前記複数のクランクギヤの分割部近傍に締結された前記締結ボルトはリーマボルトである
ことを特徴とする内燃機関のクランクギヤ取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関のクランク軸を含む回転軸からカム軸への動力伝達装置に関連して動力伝達を行う、リングギヤ取付構造及び内燃機関のクランクギヤ取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、蒸気タービン発電機として、回転軸に半割りタイプの二分割されたリングギヤを装着してリング状のギヤを形成してリーマボルト等で固定し、リングギヤと回転軸との間にシム部材を介装して焼き嵌めしたリングギヤ取付構造が提案されている。
ところで、内燃機関において、クランク軸に二分割したクランクギヤを取り付けてカムシャフトに設けたカムギヤに動力を伝達する機構として、例えば下記に示すクランクギヤ取付構造が提案されている。
【0003】
図8及び
図9は舶用のエンジン等に用いるコッタ式の第一のクランクギヤ取付構造である。これらの図では記載を省略しているが、クランク軸100は手前方向に伸びており、後述する
図3に示すのと同様にクランク部分と一体をなしている。この取付構造は、クランク軸100に二分割した半割のクランクギヤ101を組み合わせ、クランクギヤ101の分割面同士の連結部に隙間を設けている。半割のクランクギヤ101の連結部にコッタ102を焼嵌めして締結ボルト103で固定することで、クランクギヤ101がクランク軸100に押さえつけられる。
これによりクランクギヤ101はその内周面とクランク軸100の外周面との間の摩擦力により動力を伝達可能となる。なお、クランクギヤ101は不図示のアイドルギヤまたはタイミングベルトを介してカムシャフトに設けられたカムギヤに連結されて動力を伝達している。そして、シリンダ内の爆発によるクランク軸100の回転とカムシャフトによる吸排気弁の開閉のタイミングを合わせている。
【0004】
コッタ102の取付けによりクランクギヤ101の内周面が均等にクランク軸100の外周面に接触するのが好ましいが、実際にはコッタ102の取付け部分が積極的に変形して強当たりとなるため、クランクギヤ101の内周面はクランク軸100の外周面に均等に接触しない。燃料噴射圧力を上昇させる等により高トルクを伝達する必要がある場合には、クランクギヤ101の内周面とクランク軸100の外周面の間でフレッティング摩耗が発生し、損傷が生じる可能性が有る。
【0005】
図10~
図12に示す第二のクランクギヤ取付構造では、二分割のクランクギヤ101においてクランク軸100の長手方向両側に鍔部101aを形成し、両側の鍔部101aを一対のバンド105で締め付けることでクランクギヤ101をクランク軸100に押し付けている。そして、一対のバンド105を当接させてボルトとナットで締め込んでいるため、クランク軸100の外周面とクランクギヤ101の内周面が全周に均一に接触され、第一のクランクギヤ取付構造よりも高トルクの伝達に適している。
この取付構造では半割のクランクギヤ101の分割面にシム106を装着してクランクギヤ101の分割位置のマタギ歯厚を調整している。しかしながら, この取付構造では、シム106とバンド105の装着作業が煩雑でマタギ歯厚の調整作業が困難であり、非常に工数を要するという不具合がある。
【0006】
次に
図13~
図15に示す第三のクランクギヤ取付構造では、クランク軸100から一体に削り出されたリング状のギヤフランジ108に対して二分割された半割のクランクギヤ101を装着して、ギヤフランジ108に形成した挿通孔を通して固定ボルト109でクランクギヤ101に締め付け固定する。これにより、固定ボルト109の締め付け力によってギヤフランジ108とクランクギヤ101との間の摩擦力で動力を不図示のカム軸に伝達可能となる。
この取付構造では、固定ボルト109でクランクギヤ101を取り付ける構造のため、クランクギヤ101とギヤフランジ108の側面同士の接触面圧が高く且つ均一になり、高い伝達トルクを得られる。クランクギヤ101はギヤフランジ108の外周面に対してインロー構造で取付けられている(
図14参照)。半割のクランクギヤ101同士の分割部近傍の4ヶ所のボルト穴に対して固定ボルト109としてリーマボルト109aを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した第三のクランクギヤ取付構造では、ギヤフランジ108にボルト穴を加工する際、
図16に示すように、クランク軸100の一方側(図中左側)には不図示の連接棒やクランクアームが存在するため、そちら側から加工できない。そのため、クランク軸100の他方側に形成した出力フランジ110のボルト穴110aを通してキリ及びリーマ等の加工工具を挿入してギヤフランジ108にボルト穴108aを加工している。
【0009】
この場合、ギヤフランジ108のボルト穴108aのP.C.D.(ピッチ円直径)は出力フランジ110のボルト穴110aのP.C.D.及びボルト穴径により制約されてしまい、クランクギヤ101の外径も上述した第一及び第二のクランクギヤ取付構造と比較して大径化する。なお,ボルト穴110aのP.C.D.は船級規則により制約を受ける為,ギヤフランジ108のボルト穴108aのP.C.D.も同様に制約を受けて一定以上は小さく出来ない。
これに伴い、カムシャフトに設けたカムギヤも大径化させるか、またはアイドルギヤを2段化する必要があるためコストアップにつながる。また、ギヤフランジ108のリーマボルト用のボルト穴108aは治具による加工を要するため、段取工程が必要になり加工を無人化できず、これもコストアップの要因になる。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、小径化すると共に製造コストを低廉にできるリングギヤ取付構造及び内燃機関のクランクギヤ取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるリングギヤ取付構造は、回転軸と、回転軸に形成されていて外周面に沿って複数の溝部が形成されたフランジと、回転軸に装着されることでリング状のギヤを形成すると共に周方向に沿って複数のボルト穴が形成された分割式のリングギヤと、フランジに対してリングギヤと反対側に配設されていてリングギヤのボルト穴に対応する位置にボルト穴が形成された固定部材と、溝部に配置されてフランジを挟んでリングギヤと前記固定部材を締結する締結ボルトと、を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、回転軸に形成したフランジを分割式のリングギヤと例えば分割式の固定部材で挟んで締結ボルトを挿通孔に挿通してフランジの溝部に装着することで位置決めし、固定部材と締結することでリングギヤを回転軸に固定できる。しかも、フランジに締結ボルトを位置決めする溝部を配設したため、フランジの外径寸法を自由に設計できてリングギヤを含む取付構造をコンパクトにできる等、設計の自由度が高まる。
【0012】
本発明による内燃機関のクランクギヤ取付構造は、クランク軸と、クランク軸に形成されていて外周面に沿って複数の溝部が形成されたギヤフランジと、クランク軸に装着されることでリング状のギヤを形成すると共に周方向に沿って複数のボルト穴が形成された分割式のクランクギヤと、ギヤフランジに対してクランクギヤと反対側に配設されていてクランクギヤのボルト穴に対応する位置にボルト穴が形成された固定部材と、溝部に配置されてギヤフランジを挟んでクランクギヤと固定部材を締結する締結ボルトと、を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、クランク軸に形成したギヤフランジを分割式のクランクギヤと固定部材で挟んで締結ボルトを挿通してギヤフランジの溝部に装着することで位置決めし、固定部材と締結することでクランクギヤをクランク軸に固定できる。しかも、ギヤフランジに締結ボルトを位置決めする溝部を配設したため、ギヤフランジの外径寸法を自由に設計できてクランクギヤを含む取付構造をコンパクトにできる等、設計の自由度が高まる。
なお、クランクギヤのボルト穴はねじ溝を有さない挿通穴とされ、固定部材のボルト穴にはねじ溝が設けられ、締結ボルトはクランクギヤのボルト穴から挿通され溝部を通されて固定部材に締結される構造とすることができる。またこれとは逆に、クランクギヤのボルト穴にはねじ溝が設けられ、固定部材のボルト穴はねじ溝を有さない挿通孔とされ、締結ボルトは固定部材のボルト穴から挿通され溝部を通されてクランクギヤに締結される構造とすることもできる。また、クランクギヤのボルト穴、固定部材のボルト穴は両方ともねじ溝を有さない挿通孔とされて、締結ボルト及びナットにより締結される構造とすることもできる。
【0013】
また、クランクギヤはギヤフランジとインロー構造に装着されていることが好ましい。
クランクギヤをインローでギヤフランジに装着することでクランクギヤのマタギ歯厚は許容値内に納まるため調整が不要であり、組立工数を削減できる。
【0014】
また、ギヤフランジに配列された複数の溝部は周方向に不等ピッチ部分を有していることが好ましい。
ギヤフランジに配列された複数の溝部に不等ピッチ部分を設けることで、クランクギヤの位相を誤って組み付けることがなくなり正しい位置に装着できる。
【0015】
また、複数のクランクギヤの分割部近傍に締結された締結ボルトはリーマボルトであってもよい。
複数のクランクギヤの分割部近傍をリーマボルトで締結固定することで高精度に装着できる。
【0016】
また、クランクギヤの内周面とクランク軸の外周面との間に全周に亘って隙間が形成されていてもよい。
クランク軸の外周面とクランクギヤの内周面が接触しないためフレッティング摩耗を発生させずに駆動力を伝達でき、駆動トルクを上げる必要が有る場合等においても安全性の高い動力伝達を行える。
【0017】
また、固定部材は組み合わせることでリング状に形成される分割式の当て板であり、当て板同士の分割部はクランクギヤの分割部と周方向に位置がずれていることが好ましい。
複数のクランクギヤの連結部と複数の当て板の分割部とを周方向に互いにずらすことで、取付け強度が高くなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるリングギヤ取付構造によれば、回転軸に設けたギヤフランジにリングギヤ固定用のボルトを位置決めするための溝部を形成したため、回転軸に設けた出力フランジ部等に関係なく小径のギヤフランジ及びリングギヤを形成できてコンパクト化できる。しかも、ギヤフランジの加工は治具加工が不要となることで段取り工程が省略でき、NC加工機を用いて外周側から自動加工が可能になるため、製造コストを低廉にできる。
【0019】
本発明による内燃機関のクランクギヤ取付構造によれば、クランク軸に設けたギヤフランジにクランクギヤ固定用の締結ボルトを位置決めするための溝部を外周側から加工可能に形成したため、クランク軸に設けた出力フランジ部等に関係なく小径のギヤフランジ及びクランクギヤを形成できてコンパクト化できる。しかも、製造コストを低廉にできる上にNC加工機を用いて外周側から自動加工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態による内燃機関のクランクギヤ取付構造を示す要部斜視図である。
【
図2】
図1に示すクランクギヤ取付構造の分解斜視図である。
【
図3】
図2とは反対側から見たクランクギヤ取付構造の分解斜視図である。
【
図4】
図1に示すクランク軸のA-A線断面図である。
【
図5】ギヤフランジと出力フランジの正面図である。
【
図6】ギヤフランジにU溝を切削加工する工程の図である。
【
図7】クランクギヤ、アイドルギヤ、カムギヤの配置を説明する図である。
【
図8】従来の第一のクランクギヤ取付構造を示す斜視図である。
【
図9】
図8に示すクランクギヤ取付構造の分解斜視図である。
【
図10】従来の第二のクランクギヤ取付構造を示す斜視図である。
【
図11】
図10に示すクランクギヤ取付構造の分解斜視図である。
【
図12】
図10に示すクランクギヤ取付構造の縦断面図である。
【
図13】従来の第三のクランクギヤ取付構造を示す斜視図である。
【
図14】
図13に示すクランクギヤ取付構造の分解斜視図である。
【
図15】
図13に示すクランクギヤ取付構造の縦断面図である。
【
図16】ギヤフランジにボルト穴加工を施す工程の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態による内燃機関のクランクギヤ取付構造について
図1乃至
図7により説明する。本実施形態では例えば舶用エンジンに用いるクランクギヤ取付構造1について説明する。
図1乃至
図3に示すエンジンのクランクギヤ取付構造1において、図示しないシリンダの連接棒の往復運動を回転運動に変換するクランク軸2が設置されている。クランク軸2の一端部にはリング状の出力フランジ3が一体に形成され、出力フランジ3には周方向に所定間隔で挿通孔3aが形成されている。出力フランジ3の挿通孔3aは例えばエンジンから出力を取り出すための弾性継手取付用のボルト穴である。
【0022】
クランク軸2における出力フランジ3の近傍の軸方向位置には、ギヤフランジ5が径方向外側に突出してリング状に一体形成されている。ギヤフランジ5の外周面5aには径方向内側に向けて例えば略U字状の溝部6が所定間隔で周方向に複数個形成されている。この溝部6には後述する締結ボルト11を挿通して位置決めするものである。
【0023】
クランク軸2において、ギヤフランジ5に対して出力フランジ3の反対側には半割状に二分割された略半円の円弧状をなすクランクギヤ7が装着されている。半割のクランクギヤ7をクランク軸2に2個装着することでリング状に形成される。クランクギヤ7はその外周面にギヤ7aが周方向に沿って配列形成され、ギヤ7aを挟む両側面には締結ボルト11を挿通させるための挿通孔7cが所定間隔で複数形成されている。
【0024】
図3及び
図4に示すように、クランクギヤ7の一方の側面には外周側が突出する段付き部7bが全周に形成され、この段付き部7bにギヤフランジ5の外周面5aの肩部が嵌合している。クランクギヤ7の段付き部7bとギヤフランジ5とはインロー構造で接合されている。なお、クランクギヤ7の挿通孔7cは段付き部7bの厚みの小さい領域に形成されている。
【0025】
ギヤフランジ5に対して出力フランジ3側の側面には半割状の二分割された2個の当て板10が固定部材としてクランク軸2に装着されている。当て板10はギヤフランジ5と側面同士が当接されているものとする。この当て板10にはギヤフランジ5側の側面にボルト穴10aが周方向に所定間隔で形成されている。半割の当て板10はクランク軸2に2個装着することでリング状に形成される。しかも、半割の当て板10の連結位置は半割のクランクギヤ7の端部同士の連結位置に対して周方向に所定角度、例えば90度ずれた位置で端部同士を連結するものとする。
この取付位置で、当て板10の側面に形成したボルト穴10aはギヤフランジ5の溝部6に対向する位置にそれぞれ形成されている。また、ギヤフランジ5に形成された溝部6はクランクギヤ7の挿通孔7cに対向する位置にそれぞれ形成されている。しかも、当て板10はギヤフランジ5とは異なる方向で二分割されている。
【0026】
また、クランクギヤ7の挿通孔7cと当て板10のボルト穴10aはギヤフランジ5に形成した溝部6を通して締結ボルト11によって互いに連結されている。換言すると、クランクギヤ7の挿通孔7cと当て板10のボルト穴10aはギヤフランジ5の溝部6によって周方向の位置決めがされている。複数設けられた締結ボルト11のうち、半割のクランクギヤ7の両端部(分割面)同士の連結部に最も近い位置に装着する4本はリーマボルト12とされている。ギヤフランジ5をクランクギヤ7と当て板10で挟んだ状態で締結ボルト11およびリーマボルト12を締め付けることで、ギヤフランジ5とクランクギヤ7との間の面圧が確保され、クランクギヤ7に必要なトルクを伝達することができる。
クランクギヤ7の取り付けに際し、
図4に示すように、二分割のクランクギヤ7の段付き部7bをインローでギヤフランジ5の肩部に乗せて位置決めし、ギヤフランジ5に対してクランクギヤ7と反対側の側面に当て板10を当接させてクランク軸2に設置する。そして、締結ボルト11またはリーマボルト12をクランクギヤ7側の挿通孔7cから挿入してギヤフランジ5の溝部6を通して当て板10のボルト穴10aにねじ込み固定する。
【0027】
また、
図5に示すギヤフランジ5において、各溝部6は周方向において径方向外側に開口して形成され、その周方向の配列はクランク軸2の中心から放射状に例えば角度θ1の等ピッチ間隔で形成されている。しかも、ギヤフランジ5の周方向に配列された溝部6の一部の間隔は角度θ2(≠θ1)に設定された不等ピッチに設定している。クランクギヤ7の挿通孔7cの配列間隔と当て板10のボルト穴10aの配列間隔も溝部6と同様に1か所が角度θ2の不等ピッチに形成されている。
これにより、二分割されたクランクギヤ7と当て板10はそれぞれ不等ピッチの有無により誤組立を防止できる。なお、溝部6、挿通孔7c、ボルト穴10aの不等ピッチは1か所に限定されることなく、複数個所に設定してもよい。
なお,クランクギヤ7の位置がクランク軸2の位置とずれるとシリンダの吸排気弁及び燃料噴射ポンプを作動するためのカムを回転させるタイミングがずれるため、図示しないクランクギヤ,アイドルギヤ,カムギヤには基準となる噛み合い部にアイマークを設けてギヤフランジ5の溝部6と位置決めする。これによって、シリンダ内の爆発による連接棒の往復動と燃料噴射タイミング及び吸排気弁の開閉のタイミングを合わせることができる。
【0028】
しかも、ギヤフランジ5に溝部6を加工する際、
図6に示すように、例えばエンドミル14のような加工工具を用いて外周面5aから径方向中心側に向けて切り込み切削することで切削加工できる。そのため、例えばNC加工機等を用いてギヤフランジ5の外周面5aに所定間隔で溝部6を切削加工できる。従来技術のように出力フランジ3の挿通孔3aを通して穴加工する必要がないため、挿通孔3aのP.C.D.及び挿通孔3aの穴径に制約されない。ギヤフランジ5に形成した溝部6は出力フランジ3の挿通孔3aよりクランク軸2の中心からの距離を小さくでき、ギヤフランジ5の外周面5aを小径化できる。
また、組み立て状態で、
図4に示すように、クランクギヤ7の内周面とクランク軸2の外周面(ジャーナル)は接触しない様に全周に隙間kを設けることで,運転中のフレッティング摩耗による損傷を防止している。隙間kがなく、クランクギヤ7の内周面とクランク軸2の外周面(ジャーナル)が接触するとクランクギヤ7に駆動トルクがかかり、フレッティング摩耗が生じてクランク軸2が損傷するおそれがある。
【0029】
本実施形態によるエンジンのクランクギヤ取付構造1は上述の構成を有しており、次にその組み立て方法を説明する。
クランクギヤ取付構造1の組み立てに先立って、
図6に示すようにクランク軸2のギヤフランジ5の外周面5aに例えばNC加工機を用いてエンドミル14によって溝部6を所定間隔で周方向に切削加工する。その際、溝部6の加工間隔は角度θ1に設定するとし、一部の溝部6の間隔を不等ピッチの角度θ2に設定する。
【0030】
次に、クランク軸2の外周面に二分割された半割のクランクギヤ7を装着する。その際、クランクギヤ7の一方の側面の段付き部7bをギヤフランジ5の一方の肩部に載せてインローで位置決めする。ギヤフランジ5の他方の側面には二分割された半割の当て板10をそれぞれ装着する。このとき、クランクギヤ7の周方向端部と当て板10の周方向端部とを周方向に所定角度、例えば90度位相をずらせてクランク軸2に装着する。しかも、ギヤフランジ5の溝部6に対してクランクギヤ7の挿通孔7cと当て板10のボルト穴10aとが軸方向に一致するように位置決めする。
クランクギヤ7の挿通孔7cとギヤフランジ5の溝部6と当て板10のボルト穴10aとは少なくとも1か所不等ピッチに形成されているため、溝部6に対して二分割のクランクギヤ7の挿通孔7cと二分割の当て板10のボルト穴10aとを一致させることで、クランクギヤ7と当て板10を誤り無く位置決めできる。
【0031】
そして、クランクギヤ7の各挿通孔7cに締結ボルト11を挿入して、ギヤフランジ5の溝部6を通して当て板10のボルト穴10aに順次捻じ込み、固定する。しかも、2個のクランクギヤ7の各連結部近傍では、締結ボルト11に代えて4本のリーマボルト12を挿通して固定することで回転方向の位置決めを行う。こうして、二分割されたクランクギヤ7をクランク軸2の外周面にリング状に位置決め固定する。この状態で、クランクギヤ7の内周面とクランク軸2の外周面(ジャーナル)との間に隙間kが形成されて全周に非接触になる。
エンジンの運転時に、シリンダブロック内のピストンの往復運動を連接棒を介して伝達されて回転するクランク軸2から、クランクギヤ7を介して不図示のアイドルギヤを介してカムギヤ及びカムシャフトに回転を伝達する。その際、クランクギヤ7の内周面とクランク軸2の外周面(ジャーナル)とは隙間kによって非接触であるため、フレッティング摩耗によるクランク軸2の損傷や折損を防止できる。
【0032】
上述したように本実施形態によるクランクギヤ取付構造1は、ギヤフランジ5に貫通孔に代えて溝部6を半径方向内側に形成したため、ギヤフランジ5の外径寸法は出力フランジ3の挿通孔3aのP.C.D.及び穴径に制約されず、クランクギヤ7の外径寸法の設計自由度が広くなる。しかも、ギヤフランジ5を小径化することでクランクギヤ7も小径化できる。これにより、従来技術よりコンパクトなクランクギヤ取付構造1を有するエンジンを設計することが可能になる。
【0033】
ここで、
図7(a)、(b)により、クランクギヤ7の小径化の効果を説明する。4ストロークの内燃機関ではクランクギヤが2回転する間にカムギヤを1回転させるため、クランクギヤとカムギヤの歯数の比率を1:2とする必要がある。
図7(a)で示す例は本願のクランクギヤ取付構造を用いた実施例であり、シリンダブロック120にクランクギヤ121、アイドルギヤ122、カムギヤ123が配置されている。この例では、クランクギヤ121、アイドルギヤ122、カムギヤ123の歯数は、例えばそれぞれ46、85、92である。カムギヤ123はクランクギヤ121の2倍の直径となり、この例ではシリンダブロック120からカムギヤ123がはみ出るものの、カムギヤを覆う為の図示しないギヤケースを必要最小限のサイズとすることができる。なお、アイドルギヤ122はクランクギヤ121からカムギヤ123に回転を伝えるためのものであり、ギヤの配置に応じた適切な歯数とされる。
図7(b)に示す例は従来の第三のクランクギヤ取付構造を用いた比較例である。この比較例では、クランクギヤ131、アイドルギヤ132、カムギヤ133の歯数は、例えばそれぞれ64、57、128である。上述した実施例に比べて比較例ではクランクギヤ131の径が大きくなり、それと同じ比率でカムギヤ133の径も大きくなるため、シリンダブロック130から大きくはみ出す。同様にギヤケースが肥大化して機関側面側に大きく張り出す為,機関室空間をいたずらに圧迫する原因となる。
【0034】
また、ギヤフランジ5の溝部6の加工はNC加工機で加工可能であるため治具の脱着を必要とせず自動加工することができ、人件費を含む製造コストを低廉にすることができる。
しかも、クランク軸2の外周面(ジャーナル)とクランクギヤ7の内周面が隙間kによって非接触に保持されるため駆動力伝達の際にフレッティング摩耗が発生しない。そのため、カム軸の駆動トルクを上げる必要が有る場合等においても安全性の高い製品を提供可能である。
また、クランクギヤ7の伝達トルクについてもギヤフランジ5をクランクギヤ7と当て板10で挟み込む形で固定したため、上述した第三のクランクギヤ取付構造と同等レベルの高い許容伝達トルクが得られる。
しかも、二分割したクランクギヤ7の連結部におけるギヤ7aのマタギ歯厚は、クランクギヤ7の段付き部7bをインローでギヤフランジ5の外周面5aに載置させて連結することで、自ずと許容値内に納まるため調整が不要で組立工数を削減できる。
【0035】
なお、本発明による内燃機関のクランクギヤ取付構造1は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等が可能である。以下に、本発明の変形例等について説明するが、上述した実施形態で説明した部品や部材等と同一または同様なものについては同一の符号を用いて説明を省略する。
【0036】
例えば、上述した実施形態では、クランクギヤ7を固定するために締結ボルト11やリーマボルト12をギヤフランジ5の溝部6に挿通させて当て板10のボルト穴10aに捻じ込み固定したが、本発明はこのような構成に限定されない。例えば、当て板10に代えてナットを用い、締結ボルト11やリーマボルト12をナットに締め込んで固定してもよい。これら当て板10やナットは固定部材に含まれる。
また、上述の実施形態では、クランクギヤ7を段付き部7bでギヤフランジ5の外周面5aにインローで装着したが、インロー構造でなくてもよい。例えば、クランクギヤ7の側面をギヤフランジ5の側面に当接させて、その内周面をクランク軸2の外周面に装着してもよい。
【0037】
なお、上述の実施形態では、クランクギヤ7と当て板10を二分割して各2個設けたが、3個以上の複数に分割してもよい。
上述した実施形態では、舶用のエンジンに用いる内燃機関のクランクギヤ取付構造1について説明したが、これに代えて発電用エンジンやその他の種類のリングギヤ取付機構に用いてもよい。この場合、クランク軸2に代えて回転軸に二分割のリングギヤ(クランクギヤ7)を装着する。その際、ギヤフランジに代えてフランジにリングギヤを装着する。
【符号の説明】
【0038】
1 クランクギヤ取付構造
2 クランク軸
5 ギヤフランジ
6 溝部
7 クランクギヤ
7a ギヤ
7b 段付き部
7c 挿通孔
10 当て板
10a ボルト穴
11 締結ボルト
12 リーマボルト
14 エンドミル